説明

熱電変換材料およびそれを用いた熱電変換モジュール並びに熱電変換材料の製造方法

【課題】 熱電変換特性の優れた熱電変換材料およびそれを使った熱電変換モジュール並
びにその製造方法を提供する。
【解決手段】 所定の組成式を有するMgAgAs型結晶構造を有する熱電変換材料にお
いて、Tiモル濃度が異なる2相以上のMgAgAs型結晶構造を有すると共にTiモル
濃度が最小のMgAgAs型結晶相のTiモル濃度をN0、Ti濃度が最大のMgAgA
s型結晶相のTiモル濃度をNとしたとき、N/N0の値が2以上であることを特徴
とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換材料およびそれを用いた熱電変換モジュール並びに熱電変換材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境問題に対する意識の高揚から、フロンレス冷却機器であるペルチェ効果
を利用した熱電冷却素子に関する関心が高まっている。また、二酸化炭素排出量を削減す
るために、未利用廃熱エネルギーを使った発電システムを提供する、ゼーベック効果を利
用した熱電発電素子に関する関心が高まっている。
【0003】
熱電変換材料の性能指数Zは、下記式(1)で表される。 Z=α2/(ρκ) …(1
)ここで、αは熱電変換材料のゼーベック係数、ρは熱電変換材料の電気抵抗率、κは熱
電変換材料の熱伝導率である。Zは温度の逆数の次元を有し、この性能指数Zに絶対温度
Tを乗ずると無次元の値となる。このZT値は無次元性能指数と呼ばれ、高いZT値を持
つ熱電変換材料ほど熱電変換効率が大きくなる。上記式(1)からわかるように、熱電変
換材料には、より高いゼーベック係数、より低い電気抵抗率、より低い熱伝導率が求めら
れる。
【0004】
従来の熱電材変換料はPbTe合金が使われていたがPb(鉛)は人体に有害であった
。一方、高温まで使用可能であり、有害物質を全く含まないか極力低減した熱電変換材料
の一つとして、MgAgAs型結晶相を有するハーフホイスラー化合物が注目されている
。ハーフホイスラー化合物は、例えばJ.Phys.:Condens.Matter,
11,1697−1709(1999)(非特許文献1)に示されている。しかし、従来
知られているハーフホイスラー化合物のZT値は十分とはいえず、ZT値の向上が要望さ
れていた。また、特開2007−173799号公報(特許文献1)では所定の組成を具
備させることによりZT値の一定の向上はみられるものの、さらに高いZT値が求められ
ていた。
【特許文献1】特開2007−173799号公報
【非特許文献1】J.Phys.:Condens.Matter,11,1697−1709(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように従来のハーフホイスラー化合物系の熱電変換材料は一定の性能は示すもの
の、更なる性能向上が求められていた。
【0006】
本発明は、毒性が低く高性能なハーフホイスラー化合物系の熱電変換材料およびその製
造法王を提供すると共に、この熱電変換材料を用いてより優れた性能を有する熱電変換モ
ジュールを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の熱電変換材料は、下記組成式(1)で表わされ、Tiモル濃度が異なる2相以
上のMgAgAs型結晶構造を有する熱電変換材料において、Tiモル濃度が最小のMg
AgAs型結晶相のTiモル濃度をN0、Ti濃度が最大のMgAgAs型結晶相のTi
モル濃度をNとしたとき、N/N0の値が2以上であることを特徴とするものである

【0008】
一般式:(Aa1Tib1xy100-x-y 組成式(1)
(上記組成式(1)中、0.3<a1<0.7、0.3≦b1≦0.7、a1+b1=1
、30≦x≦35、30≦y≦35である。AはZr、Hfの少なくとも1種以上の元素
、DはNi、CoおよびFeから選ばれる少なくとも1種以上の元素、XはSnおよびS
bの少なくとも一種以上の元素である。)。
【0009】
また、EPMAによりTi元素でカラーマッピングした500×500μmの画像領域
において、半定量分析でTiモル濃度が最大となるMgAgAs型結晶相の領域のカラー
マッピングのTi濃度レベルを100としたとき、Ti濃度レベルが22以下となるMg
AgAs型結晶相の領域の面積割合が全体の画像領域の5%以上を占めることが好ましい
。また、EPMAによりTi元素でカラーマッピングした500×500μmの画像領域
において、カラーマッピングのTi濃度レベルが22以下となるMgAgAs型結晶相の
領域のうち、面積が最大となる領域の面積が10000μm2以下であることが好ましい
。また、熱伝導率が3.0W/m・K以下であること、焼結体であることが好ましい。
【0010】
このような熱電変換材料は熱電変換モジュールに好適である。また、本発明の熱電変換
材料をP型素子およびN型素子のどちらか一方または両方に用いることが好ましい。
【0011】
また、本発明の熱電変換材料の製造方法は、下記の組成式(2)で示される第1原料粉
末と組成式(3)で示される第2原料粉末とを混合する混合原料粉末調製工程と、混合原
料粉末を成形する成形体調製工程と、成形体を焼結する焼結体調製工程を具備することを
特徴とするものである。
【0012】
一般式:(Aa1Tib2xy100-x-y 組成式(2)
(上記組成式(2)中、0.3<a1≦1、0≦b2<0.3、a1+b2=1、30≦
x≦35、30≦y≦35である。AはZr、Hfの少なくとも1種以上の元素、DはN
i、CoおよびFeから選ばれる少なくとも1種以上の元素、XはSnおよびSbの少な
くとも一種以上の元素である。)
一般式:(Aa1Tib3xy100-x-y 組成式(3)
(上記組成式(2)中、0.3<a1<0.7、0.3≦b3、a1+b3=1、30≦
x≦35、30≦y≦35である。AはZr、Hfの少なくとも1種以上の元素、DはN
i、CoおよびFeから選ばれる少なくとも1種以上の元素、XはSnおよびSbの少な
くとも一種以上の元素である。)。
【0013】
また、得られた焼結体が下記組成式(1)で表わされ、Tiモル濃度が異なる2相以上
のMgAgAs型結晶構造を有する熱電変換材料において、Tiモル濃度が最小のMgA
gAs型結晶相のTiモル濃度をN0、Ti濃度が最大のMgAgAs型結晶相のTiモ
ル濃度をNとしたとき、N/N0の値が2以上であることを特徴とする請求項8記載
の熱電変換材料の製造方法。
【0014】
一般式:(Aa1Tib1xy100-x-y 組成式(1)
(上記組成式(1)中、0.3<a1<0.7、0.3≦b1≦0.7、a1+b1=1
、30≦x≦35、30≦y≦35である。AはZr、Hfの少なくとも1種以上の元素
、DはNi、CoおよびFeから選ばれる少なくとも1種以上の元素、XはSnおよびS
bの少なくとも一種以上の元素である。)。
【0015】
また、第1原料粉末と第2原料粉末の少なくとも一方が2種以上の原料粉末を用いても
よい。また、第1原料粉末および第2原料粉末の平均粒径が5μm以上100μm以下で
あることが好ましい。また、焼結体調製工程の焼結温度が950℃以上1350℃以下、
焼結時間が0.5h以上50h以下、焼結圧力が10MPa以上200MPa以下である
ことが好ましい。また、第1原料粉末および第2原料粉末がアトマイズ法によって作製さ
れたアトマイズ粉であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば有害な物質を含まず、高温での熱電変換性能の優れた熱電変換材料を提
供するものである。さらに無次元性能指数ZT値の優れた熱電モジュールを提供すること
ができる。また、本発明の熱電変換材料の製造方法によれば、熱電変換性能の優れた熱電
変換材料を効率よく得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の熱電変換材料は、下記組成式(1)で表わされ、Tiモル濃度が異なる2相以
上のMgAgAs型結晶構造を有する熱電変換材料において、Tiモル濃度が最小のMg
AgAs型結晶相のTiモル濃度をN0、Ti濃度が最大のMgAgAs型結晶相のTi
モル濃度をNとしたとき、N/N0の値が2以上であることを特徴とするものである

【0018】
一般式:(Aa1Tib1xy100-x-y 組成式(1)
(上記組成式(1)中、0.3<a1<0.7、0.3≦b1≦0.7、a1+b1=1
、30≦x≦35、30≦y≦35である。AはZr、Hfの少なくとも1種以上の元素
、DはNi、CoおよびFeから選ばれる少なくとも1種以上の元素、XはSnおよびS
bの少なくとも一種以上の元素である。)。
【0019】
組成式(1)中、A元素はZr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)の少なくとも1
種以上である。A元素は後述するTi、X元素と共にMgAgAs型結晶構造を有する相
を主相とするために必要な元素である。また、熱電変換特性を向上させるためにはZrと
Hf両方含有していることが好ましい。ZrとHfの両方を含有させる場合はZrとHf
の原子比をZr/Hf原子比=0.3〜0.7の範囲が好ましい。
【0020】
また、Ti(チタン)はZrやHfと比べて価格的に安価であることからA元素の一部
をTiで置き換えると熱変換材料のコストダウンを図ることができる。また、Tiの含有
により熱伝導率低減の効果が得られる。
【0021】
X元素は、Sn(錫)またはSb(アンチモン)の少なくとも一種以上の元素である。
【0022】
また、熱電変換特性を向上させるためにはSnとSb両方含有していることが好ましい。
【0023】
D元素は、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)、Fe(鉄)から選ばれる少なくとも
1種以上の元素である。D元素はMgAgAs型結晶構造の相安定化のために有効な元素
である。これらの元素の中ではNiやCoが好ましく、さらに耐食性も向上する。
【0024】
各元素の原子比は、0.3<a1<0.7、0.3≦B1≦0.7、a1+B1=1、
30≦x≦35、30≦y≦35である。この範囲を外れるとMgAgAs型結晶構造の
相安定化が図れず、十分な熱電特性が得られない。なお、組成式(1)は熱電変換材料の
試料片0.1g以上の組成を調べた時の平均値である。
【0025】
また、N型熱電変換材料とする場合はD元素をNiリッチかつX元素としてSnリッチ
組成とし、P型熱電変換材料とする場合はD元素をCoリッチかつX元素をSbリッチと
することが好ましい。
【0026】
本発明の熱電変換材料は上記組成式(1)を満たし、MgAgAs型結晶相を有するハ
ーフホイスラー化合物において、Tiモル濃度が異なる2相以上のMgAgAs型結晶相
を有すと高いZT値を示すことを見出した。
【0027】
より具体的には、Tiモル濃度が最小のMgAgAs型結晶相のTiモル濃度をN0
Ti濃度が最大のMgAgAs型結晶相のTiモル濃度をNとしたとき、N/N0
値と熱電材料のZT値との間に相関があり、N/N0の値が2.0以上の範囲である場
合に特に優れた性能を発揮することを見出した。より好ましいN/N0の値の範囲は5
.0以上100以下である。
【0028】
また、Ti以外の元素について後述するEPMAを用いてモル濃度の差を測定した時、
個々の元素の最大モル濃度/個々の元素の最小モル濃度が2.0未満となることが好まし
い。例えば、Hfに着目した場合、Hfの最大モル濃度/Hfの最小モル濃度が2.0未
満であることが好ましい。他の元素についても、個々に比較し場合に、それぞれ最大モル
濃度/最小モル濃度が2.0未満になることが好ましい。つまり、Tiのモル濃度のみN
/N0値が2.0以上であることが好ましい。
【0029】
Tiモル濃度はMgAgAs型結晶相を構成する元素の総和を100としたときのTi
のモル濃度のことであり、EPMA(electron prode microana
lyser)の半定量分析によって求めることができる。またTiモル濃度の最小と最大
の値はEPMAで観察した任意の500×500μmの画像領域から求めた値であり、E
PMAのカラーマッピングによりTi濃度が最小や最大となるMgAgAs型結晶相を見
つけることが可能である。
【0030】
また、EPMAによりTi元素でカラーマッピングした500×500μmの画像領域
において、カラーマッピングのTi濃度レベルが22以下となるMgAgAs型結晶相の
領域のうち、面積が最大となる領域の面積が10000μm2以下であることが好ましい
。カラーマッピングのTi濃度レベルが22以下となるMgAgAs型結晶相の領域の存
在により熱電変換材料の熱伝導率を低くすることができる。その面積が小さすぎるとZT
値が低下する傾向があり、その面積は1μm以上が好ましい。また、さらに好ましくは
100〜3000μmである。
【0031】
また、500×500μmの画像領域においてカラーマッピングのTi濃度レベルが2
2以下となるMgAgAs型結晶相の領域の面積割合が全体の画像領域の5%以上占める
ことが好ましく、またその占有面積が大きすぎる場合にはZT値が低下する傾向があるた
め、50%以下であることが好ましい。さらに好ましくは10〜40%である。
【0032】
/N0値が2.0以上であるということは、熱電変換材料中の結晶組織にTi濃度
の不均一な領域を含むことを意味している。このような不均一な領域の存在は、熱的な抵
抗体領域となり、熱電変換材料の熱伝導率を小さくすることができる。この結果、性能指
数Z値を大きくすることができるのである。
【0033】
また、EPMAカラーマッピングのTi濃度レベルが22以下(ゼロ含む)となるMg
AgAs型結晶相の領域の単位面積あたりの面積割合や最大面積を上記ように制御するこ
とにより熱伝導率を3.0W/m・K以下にすることができる。
【0034】
本発明の熱電変換材料の製造方法は特に限定されるものではないが、効率よく得る方法
として次の製造方法が挙げられる。その方法としては、Ti濃度の異なる2種類以上の原
料粉末を混合、成形、焼結する方法が挙げられる。Ti濃度の異なる2種類以上の原料粉
末としては、Ti濃度の少ない原料粉末とTi濃度の多い原料粉末を用いることである。
【0035】
Ti濃度の少ない原料粉末(便宜上、「第1原料粉末」と呼ぶ)としては下記の組成式
(2)で示されるものが好ましい。
【0036】
一般式:(Aa1Tib2)xDyX100-x-y 組成式(2)
(上記組成式(2)中、0.3<a1≦1、0≦b2<0.3、a1+b2=1、30≦
x≦35、30≦y≦35である。AはZr、Hfの少なくとも1種以上の元素、DはN
i、CoおよびFeから選ばれる少なくとも1種以上の元素、XはSnおよびSbの少な
くとも一種以上の元素である。)。
【0037】
また、Ti濃度の多い原料粉末(便宜上、「第2原料粉末」と呼ぶ)としては下記組成
式(3)で示されるものが好ましい。
【0038】
一般式:(Aa1Tib3xy100-x-y 組成式(3)
(上記組成式(2)中、0.3<a1<0.7、0.3≦b3、a1+b3=1、30≦
x≦35、30≦y≦35である。AはZr、Hfの少なくとも1種以上の元素、DはN
i、CoおよびFeから選ばれる少なくとも1種以上の元素、XはSnおよびSbの少な
くとも一種以上の元素である。)。
【0039】
b2値が0.3未満とTi濃度の少ない原料粉末(第1原料粉末)と、b3値が0.3
以上とTi濃度の多い原料粉末(第2原料粉末)を混合して焼結することにより、N
0の値を制御する方法である。
【0040】
また、第1原料粉末を2種以上または第2原料粉末を2種以上とそれぞれ複数種の原料
粉末を用いることも可能である。2種以上の第1原料粉末を用いる場合であっても、個々
の原料粉末は組成式(2)を満たすものとする。同様に、2種以上の第2原料粉末を用い
る場合は個々の原料粉末は組成式(3)を満たすものとする。
【0041】
また、原料粉末(第1、第2)の平均粒径は5μm以上100μm以下であることが好
ましい。平均粒径がこの範囲であると、EPMAのカラーマッピングのTi濃度レベルが
22以下となるMgAgAs型結晶相の領域の面積を制御し易くなる。
【0042】
また、原料粉末の調製は、組成式(2)または組成式(3)を満たすように混合したも
のを溶解、焼結またはメカニカルアロイング(例えば、固相反応を利用したメカニカルア
ロイング)などによりインゴットにしたものを粉砕して調製する方法や、溶湯をアトマイ
ズ法(液体急冷法)により調製する方法が挙げられる。アトマイズ法は、偏析等の少ない
MgAgAs型結晶相を持つ原料粉末を作製することが可能であるため好ましい。
【0043】
また、原料粉末の溶湯を作製する場合は、アーク溶解や高周波溶解などによって作製す
る方法が挙げられる。アトマイズ法としては、単ロール法、双ロール法、回転ディスク法
、ガスアトマイズ法などが挙げられる。溶湯の投入量、ロールやディスクの回転速度、ガ
スの噴射量を調整することにより、得られる原料粉末の粒径を制御できるので好ましい。
【0044】
また、原料粉末の作製は酸化防止という観点から、例えばAr(アルゴン)などの不活
性雰囲気中で行うことが好ましい。
【0045】
次に、原料粉末を必要に応じブラウンミル、スタンプミルなどにより粉砕して合金粉末
を得た後、第1原料粉末と第2原料粉末を目標組成となる重量比で秤量し、ボールミルな
どを用いて混合する混合原料粉末調整工程を行う。
【0046】
第1原料粉末と第2原料粉末の重量比は任意であるが、EPMAカラーマッピングのT
i濃度レベルが22以下(ゼロ含む)となるMgAgAs型結晶相の領域の単位面積あた
りの面積割合や最大面積を調製するためには、第1原料粉末が60〜80質量%、残部が
第2原料粉末の割合が好ましい。Ti濃度の少ない第1原料粉末が多い方がN/N0
値2.0以上のものを得やすい。
【0047】
次に、混合原料粉末を成形する成形体調製工程を行う。成形方法は金型成形が好ましい
。さらに成形体を焼結する焼結体調製工程を行う。焼結方法は、雰囲気加圧焼結法、ホッ
トプレス法、SPS(放電プラズマ焼結)法、HIP(熱間静水圧プレス)法などが挙げ
られる。ホットプレス法では成形と焼結を同じ金型で行う方法あってもよい。また、焼結
工程は焼結体の酸化防止という観点から、例えばArなどの不活性雰囲気中で行うことが
好ましい。
【0048】
また、焼結条件は、焼結温度が950℃以上1350℃以下、焼結時間0.5h以上5
0h以下、焼結圧力10MPa以上200MPa以下とすることが好ましい。このような
条件で焼結することにより、目的とするN/N0の値を2.0以上やEPMAカラーマ
ッピングのTi濃度レベルが22以下(ゼロ含む)となるMgAgAs型結晶相の領域を
得やすい。また、加圧焼結法を用いることにより、焼結体密度を向上した熱電変換材料が
得られる。
【0049】
また、Ti濃度レベルが30以下のMgAgAs相の領域が分散された組織になる。こ
れらの条件によりMgAgAs相以外の結晶相の析出が低減されると共に焼結体密度98
%以上を確保することができる。なお、焼結体密度は(アルキメデス法による実測値/理
論密度)×100%により求めることができる。
【0050】
また、焼結体形状は、円柱形状、直方体形状など様々な形状が適用できる。また、焼結
体は必要に応じ、表面研磨加工を施してもよい。また、焼結体を切断加工して複数の熱電
変換材料を切り出す多数個取りを行ってもよい。
【0051】
また、後述する熱電モジュールに搭載する際の熱電変換材料の寸法としては、例えば、
外径0.5〜10mm、厚み1〜30mmの円柱状や、0.5〜10mm角で厚み1〜3
0mmの直方体状などが挙げられる。
【0052】
以上のような方法を用いて得られた熱電変換材料を用いて、本発明の実施形態に係る熱
電変換モジュールを製造することができる。
【0053】
図1に熱電変換モジュールの一例の断面図を示す。図1において、1はP型熱電変換材
料、2はN型熱電変換材料である。P型熱電変換材料1およびN型熱電変換材料2の下面
は、下側の絶縁基板4aに支持された電極3aによって接続されている。P型熱電変換材
料1およびN型熱電変換材料2のそれぞれの上面には、電極3b、3bが配置され、その
外側に上側の絶縁基板4bが設けられている。P型熱電変換材料1とN型熱電変換材料2
はペアで配置され、P型とN型の熱電変換材料が交互に複数個配置された構造となってい
る。
【0054】
熱電モジュールの熱電変換材料のうちN型もしくはP型のいずれか一方または両方に本
発明の熱電変換材料を用いるものとする。N型またはP型のいずれか一方のみに本発明の
熱電変換材料を用いる場合、他方には、N/N0の値を2.0未満のハーフホイスラー
系、Di−Te系、PD−Te系などの材料を用いてもよい。なお、熱電モジュールの特
性やPD有害性を考慮するとP型、N型の両方に本発明の熱電変換材料を用いることが好
ましい。
【0055】
また、絶縁基板(4a、4b)には、セラミックス基板、例えば3点曲げ強度700M
Pa以上の窒化珪素基板が好ましい。窒化珪素基板を用いることにより熱電モジュールの
耐熱性を向上させることができる。また、電極(3a,3b)は、銅板、アルミニウム板
など導電性の良いものが好ましい。また、セラミックス基板と電極の接合は、Ti、Zr
、Hfの少なくとも1種を0.5〜10質量%、残部Ag−Cu共晶合金からなる活性金
属ろう材や、Al−Si共晶合金などを用いることが好ましい。また、電極と熱電変換材
料の接合においても、同様の活性金属ろう材や、Al−Si共晶合金などを用いることが
好ましい。これらろう材は接合温度が600〜900℃と高いので熱電モジュールの耐熱
温度を上げることができる。
【0056】
熱電変換モジュールの原理を説明する。下側の絶縁基板4aを高温に、上側の絶縁基板
4bを低温にするように温度差を与える。この場合、P型熱電変換材料1の内部では正の
電荷を持ったホール5が低温側(上側)に移動する。一方、N型熱電変換材料2の内部で
は負の電荷を持った電子6が低温側(上側)に移動する。その結果、P型熱電変換材料1
上部の電極3aとN型熱電変換材料2上部の電極3bとの間に電位差が生じる。この現象
を利用して、熱を電気に変換したり、電気を熱に変換したりすることができる。
【0057】
また、前述のろう材や窒化珪素基板を使うことにより、耐熱特性が上がり、500℃近
い高温環境や、低温側と高温側の温度差が100℃以上あるような負荷の高い環境でも優
れた特性を示すことができる。
【0058】
[実施例]
(実施例1〜6、比較例1〜4)
実施例1では原料としてTi,Zr,Hf,Ni,Sn,Sbを用意し、アーク溶解法
により溶湯とした後、アトマイズ法を用いて、(Zr0.5Hf0.534Ni33(Sn0.994
Sb0.00633で表される第1原料粉末(合金A)と、Ti34Ni33(Sn0.994Sb0.00
633で表される第2原料粉末(合金B)を作製した。第1原料粉末は平均粒径34μm
、第2原料粉末は平均粒径37μmとした。
【0059】
第1原料粉末と第2原料粉末の重量比を68:32となるように秤量し、ボールミルを
用いて混合した。混合した粉末をAr雰囲気中で1200℃、40MPaの圧力で3hホ
ットプレスすることにより外径20mm、厚み3mmの焼結体を得た。得られた焼結体の
組成は(Zr0.3Hf0.3Ti0.434Ni33(Sn0.994Sb0.00633であった。
【0060】
得られた焼結体の組成はICP発光分析により確認した。また、XRDによりMgAg
As型結晶相が形成されていることを確認した。焼結体から所望の形状の試料(熱伝導率
は10φ×2.0mm、電気抵抗率とゼーベック係数は2×2×16mm)を切り出して
熱電特性の評価に供した。
【0061】
また、実施例2〜6として、表1に示した第1原料粉末と第2原料粉末を混合し、実施
例2は1200℃×3h×40MPa、実施例3は1050℃×1h×80MPa、実施
例4は1050℃×10h×100MPa、実施例5は1300℃×1h×20MPa、
実施例6は1300℃×1h×40MPaで焼結した(いずれもAr雰囲気)。なお、い
ずれの第1原料粉末、第2原料粉末とも平均粒径20〜50μmのものを用いた。また、
実施例1〜5はN型、実施例6はP型に好適な熱電変換材料である。
【0062】
実施例1と同様の方法で焼結体の組成を確認し、XRDによりMgAgAs型結晶相が
形成されていることを確認した。また、焼結体から所望の形状の試料(外径15mm×厚
さ1mm)を切り出して熱電特性の評価に供した。
【0063】
比較例1は実施例1の焼結体の組成に相当する(Zr0.3Hf0.3Ti0.434Ni33
Sn0.994Sb0.00633の合金になるように各原料を秤量し、合金粉末を直接アトマイズ
により作製した後、実施例1と同様の焼結条件で焼結体を作製し、熱電特性の評価を行っ
た。
【0064】
図2に実施例1と図3に比較例1の焼結体についてそれぞれEPMAのカラーマッピン
グ観察(単位面積500μm×500μm)を行った結果を示す。実施例1の焼結体はT
iのカラーマッピングの画像では領域によって濃度のばらつきが大きく、半定量分析でT
iモル濃度が最大となるMgAgAs型結晶相の領域のTi濃度カラーレベルを100と
したとき、Ti濃度カラーレベルが22以下のMgAgAs型結晶相の領域が存在する(
図2中、○で囲った領域)。またTiモル濃度が最小のMgAgAs型結晶相のTiモル
濃度をN0、Ti濃度が最大のMgAgAs型結晶相のTiモル濃度をNとしたとき、
/N0の値は16である。このような組織の焼結体の熱伝導率は2.1W/mKと低
い値となり高いZT値が得られる。
【0065】
一方、比較例1の焼結体では、実施例1と比較してTi濃度ばらつきが小さく、Ti濃
度カラーレベルが22以下のMgAgAs型結晶相の領域が存在せず、N/N0の値は
1.4であった。このような焼結体の熱伝導率は実施例1の焼結体より高く、3.5W/
mKである。
【0066】
また、半定量分析でTiモル濃度が最大となるMgAgAs型結晶相の領域のTi濃度
カラーレベルを100としたときカラーマッピングから、Ti濃度カラーレベルが22以
下のMgAgAs型結晶相の領域の面積率、最大面積を求めた。
【0067】
各試料の特性は以下のようにして測定した。各焼結体について、10φ×2.0mmの
評価片を切り出しアルキメデス法により密度をもとめ、レーザーフラッシュ(アルバック
理工製)を用いて熱伝導率を求めた。また、各焼結体から2×2×16の寸法の試料を切
り出してゼーベック係数αと電気抵抗率ρをZEM―3(アルバック理工製)により測定
した。
【0068】
表1および表2に、700K(427℃)における熱伝導率、電気抵抗率、ゼーベック
係数の測定結果とそれらの測定結果から算出された性能指数ZT(Z=α2T/ρκ)を
示す。表1および表2には、N/N0の値も併記した。
【表1】

【表2】

【0069】
表1から分かるように、Ti組成比が異なるAとBの2種類の原料粉末を用いて混合焼
結により作製した場合(実施例1〜6)にはN/N0の値は2以上となり、1.0を超
える高いZT値が得られている。
【0070】
これに対して、目標組成の合金粉(原料粉末)1種類を用いて焼結した場合(比較例1
、2)や焼結条件が950℃未満(比較例3)、1400℃以上(比較例4)と本実施例
の好ましい範囲を外れている場合にはN/N0の値の値は2以下または100以上とな
る。その結果として、これらの比較例ではZT値は0.9以下にとどまり、1.0を超え
るような高いZT値は得られないことが明らかになった。
【0071】
(実施例7〜8、比較例5)
<モジュール特性>
N型熱電素子として実施例1の焼結体、P型熱電素子として実施例6の焼結体からそれ
ぞれ2.7×2.7×3.3mmの直方体を切り出し、P型熱電素子72本とN型熱電素
子72本を交互に直列接続した熱電モジュール(実施例7)を作製し、発電試験を行った

【0072】
発電試験は、高温側500℃、低温側100℃の測定条件で、24Wのモジュール出力
が得られた。
【0073】
またN型熱電素子として実施例2の焼結体、P型熱電素子として比較例2の焼結体を用
いて上記と同様に熱電モジュール(実施例8)を作製し、高温側500℃、低温側100
℃でモジュール出力を測定した結果、20Wのモジュール出力が得られた。
【0074】
これに対し、N型熱電素子として比較例1の焼結体、P型熱電素子として比較例2の焼
結体から2.7×2.7×3.3mmの直方体を切り出し、P型熱電素子72本とN型熱
電素子72本を交互に直列接続した熱電モジュール(比較例5)を作製し、発電試験を行
った結果、高温側500℃、低温側100℃の測定条件で15Wのモジュール出力しか得
られず、N/N0の値が2以上であることを特徴とする熱電変換材料を用いて作製した
モジュールの方が高い出力が得られることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の一実施形態に係る熱電変換素子の断面図。
【図2】実施例1の焼結体のEPMAカラーマッピング図の一例。
【図3】比較例1の焼結体のEPMAカラーマッピング図の一例。
【符号の説明】
【0076】
1…P型熱電変換材料
2…N型熱電変換材料
3a、3D…電極
4a、4D…絶縁基板
5…ホール
6…電子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記組成式(1)で表わされ、Tiモル濃度が異なる2相以上のMgAgAs型結晶構造
を有する熱電変換材料において、Tiモル濃度が最小のMgAgAs型結晶相のTiモル
濃度をN0、Ti濃度が最大のMgAgAs型結晶相のTiモル濃度をNとしたとき、
/N0の値が2以上であることを特徴とする熱電変換材料。
一般式:(Aa1Tib1xy100-x-y 組成式(1)
(上記組成式(1)中、0.3<a1<0.7、0.3≦b1≦0.7、a1+b1=1
、30≦x≦35、30≦y≦35である。AはZr、Hfの少なくとも1種以上の元素
、DはNi、CoおよびFeから選ばれる少なくとも1種以上の元素、XはSnおよびS
bの少なくとも一種以上の元素である。)。
【請求項2】
EPMAによりTi元素でカラーマッピングした500×500μmの画像領域において
、半定量分析でTiモル濃度が最大となるMgAgAs型結晶相の領域のカラーマッピン
グのTi濃度レベルを100としたとき、Ti濃度レベルが22以下となるMgAgAs
型結晶相の領域の面積割合が全体の画像領域の5%以上を占めることを特徴とする請求項
1記載の熱電変換材料。
【請求項3】
EPMAによりTi元素でカラーマッピングした500×500μmの画像領域において
、カラーマッピングのTi濃度レベルが22以下となるMgAgAs型結晶相の領域のう
ち、面積が最大となる領域の面積が10000μm2以下であることを特徴とする請求項
1または請求項2に記載の熱電変換材料。
【請求項4】
熱伝導率が3.0W/m・K以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいず
れか1項に記載の熱電変換材料。
【請求項5】
焼結体であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の熱電変換
材料。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の熱電変換材料を用いたことを特徴とする
熱電変換モジュール。
【請求項7】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の熱電変換材料をP型素子およびN型素子
に用いたことを特徴とする請求項6記載の熱電変換モジュール。
【請求項8】
下記の組成式(2)で示される第1原料粉末と組成式(3)で示される第2原料粉末とを
混合する混合原料粉末調製工程と、混合原料粉末を成形する成形体調製工程と、成形体を
焼結する焼結体調製工程を具備することを特徴とする熱電変換材料の製造方法。
一般式:(Aa1Tib2xy100-x-y 組成式(2)
(上記組成式(2)中、0.3<a1≦1、0≦b2<0.3、a1+b2=1、30≦
x≦35、30≦y≦35である。AはZr、Hfの少なくとも1種以上の元素、DはN
i、CoおよびFeから選ばれる少なくとも1種以上の元素、XはSnおよびSbの少な
くとも一種以上の元素である。)。
一般式:(Aa1Tib3xy100-x-y 組成式(3)
(上記組成式(2)中、0.3<a1<0.7、0.3≦b3、a1+b3=1、30≦
x≦35、30≦y≦35である。AはZr、Hfの少なくとも1種以上の元素、DはN
i、CoおよびFeから選ばれる少なくとも1種以上の元素、XはSnおよびSbの少な
くとも一種以上の元素である。)
【請求項9】
得られた焼結体が下記組成式(1)で表わされ、Tiモル濃度が異なる2相以上のMgA
gAs型結晶構造を有する熱電変換材料において、Tiモル濃度が最小のMgAgAs型
結晶相のTiモル濃度をN0、Ti濃度が最大のMgAgAs型結晶相のTiモル濃度を
としたとき、N/N0の値が2以上であることを特徴とする請求項8記載の熱電変
換材料の製造方法。
一般式:(Aa1Tib1xy100-x-y 組成式(1)
(上記組成式(1)中、0.3<a1<0.7、0.3≦b1≦0.7、a1+b1=1
、30≦x≦35、30≦y≦35である。AはZr、Hfの少なくとも1種以上の元素
、DはNi、CoおよびFeから選ばれる少なくとも1種以上の元素、XはSnおよびS
bの少なくとも一種以上の元素である。)
【請求項10】
第1原料粉末と第2原料粉末の少なくとも一方が2種以上の原料粉末を用いることを特徴
とする請求項8または請求項9に記載の熱電変換材料の製造方法。
【請求項11】
第1原料粉末および第2原料粉末の平均粒径が5μm以上100μm以下であることを特
徴とする請求項8ないし請求項10のいずれか1項に記載の熱電変換材料の製造方法。
【請求項12】
焼結体調製工程の焼結温度が950℃以上1350℃以下、焼結時間が0.5h以上50
h以下、焼結圧力が10MPa以上200MPa以下であることを特徴とする請求項8な
いし請求項11のいずれか1項に記載の熱電変換材料の製造方法。
【請求項13】
第1原料粉末および第2原料粉末がアトマイズ法によって作製されたアトマイズ粉である
ことを特徴とする請求項8ないし請求項12のいずれか1項に記載の熱電変換材料の製造
方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−129636(P2010−129636A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−300684(P2008−300684)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(303058328)東芝マテリアル株式会社 (252)
【Fターム(参考)】