説明

熱電変換材料

【課題】室温より低い温度域において高いゼーベック係数を有する材料を提供すること。
【解決手段】ホウ素をドープしたルチル型酸化チタンを含む熱電変換材料である。特に、300K以下の温度域におけるゼーベック係数が500μV/K以上である、ホウ素をドープしたルチル型酸化チタンである。これらの熱電変換素子材料は、たとえば、チタニアと酸化ホウ素の粉末をプラズマ焼結させることによりドープできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換材料に関し、特に低温域におけるゼーベック係数が著しく高い熱電変換材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりから熱電変換に関する研究も脚光を浴びてきており、廃熱として見過ごされていた熱を、電気として回収ないし再利用する研究が注目されている。具体的には、たとえば、産業用のコンプレッサーや抵抗器などで発生する熱を電気として回収する方法や、人工衛星の電源としての利用が挙げられる。
【0003】
熱電変換材料としては、BiTe系が有名であり、この他、PbTe系、SiGe系材料が知られている。熱電変換材料の評価の一つとしてゼーベック係数があり、これが高いことが熱電変換に重要な役割を果たす。上記の熱電変換材料は、主として室温(300K)から500K、SiGe系にあっては1000K程度までにおける特性を利用するものである。実際、BiTeは室温付近では高い熱電性能を有する。
【0004】
【特許文献1】特開2006−176360号
【特許文献2】特開平11−279605号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術では以下の問題点があった。まず、BiTe系などの従来の熱電変換材料(熱電変換素子材料)は、重金属やレアメタルを用いるものであるので、環境負荷が懸念され、また、原料枯渇といった本質的な問題があり、代替素材が求められている。
【0006】
また、従来の熱電変換材料は、高温域における使用が想定されており、室温以下の環境における素材は少なかった。実際、BiTeは室温以下ではゼーベック係数が速やかに減衰し、200K以下では有用な熱電材料とはいえない。BiSb合金のゼーベック係数は、70K〜120Kでは高い値であるが、それ以上の温度では性能が悪くなる。即ち、たとえば、100K〜300Kの広い温度域で高いゼーベック係数を示す素材は知られていなかった。
【0007】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、室温より低い温度域において高いゼーベック係数を有する材料を提供することを目的とする。また、室温より低い温度域において用いることのできる熱電変換材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、ホウ素(B)をドープしたルチル型酸化チタンを含む熱電変換材料である。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の熱電変換材料において、300K以下の温度域におけるゼーベック係数が500μV/K以上である熱電変換材料である。
【0010】
なお、ドープ方法は特に限定されず、たとえば、プラズマ焼結法、蒸着法、スパッタ法などが挙げられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低温域における有効な熱電変換材料を提供可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
ホウ素をドープしたルチル型酸化チタンは、放電プラズマ焼結法により得られる。具体的には、TiOにB粉末を添加した原料粉末を、5Paの真空度において、1200℃に加熱して焼結することにより直径10mmのペレット状の焼結体を得た。図示は省略するが、得られた焼結体の結晶構造をX線回折により測定したところ、ルチル型であることを確認した。また、室温において導電性があることも確認した。
【0013】
また、単結晶のTiO基板を用いて真空蒸着法によってもホウ素ドープをおこなった。具体的には、TiO単結晶基板に900°でホウ素を蒸着し、熱拡散によりドープをおこなった。ドープ量は種々調整できるが、5×1018cm−3〜5×1019cm−3とすることができる。なお、同様に図示は省略するが、得られた焼結体の結晶構造をX線回折により測定したところ、ルチル型であることを確認した。また、室温において導電性があることも確認した。
【0014】
図1は、プラズマ焼結体と単結晶体のホウ素添加ルチル型TiOのゼーベック係数を測定した結果である。図では、熱電変換材料として知られているBiSb系材料とBiTeSe系材料のゼーベック係数を併せてプロットしている。図から明らかな様に、単結晶の場合では、100Kの温度域で800μV/Kの値であり、焼結体であっても300K以下の雰囲気で500μV/K以上という極めて高い値を示している。なお、焼結体については秤量時の割合をTiO−5mol%Bとしてのホウ素をドープしたものであり、単結晶体についてはホウ素のドープ量は5x1018cm−3である。
【0015】
ゼーベック係数の測定結果は、本発明品は、たとえば、100K〜300Kといった広い温度範囲で安定した性能を発揮できる素子開発が可能であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明によれば、低温廃熱の有効利用や特殊用途のペルチェ冷却が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】ゼーベック係数の温度依存性を測定した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素をドープしたルチル型酸化チタンを含む熱電変換材料。
【請求項2】
300K以下の温度域におけるゼーベック係数が500μV/K以上である請求項1に記載の熱電変換材料。




【図1】
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【公開番号】特開2010−40724(P2010−40724A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−201312(P2008−201312)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【出願人】(504155293)国立大学法人島根大学 (113)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】