説明

燃料噴射制御装置

【課題】噴射弁側メモリに要求される記憶容量の低減、および噴射率パラメータの送信時間短縮を可能にした、燃料噴射制御装置を提供する。
【解決手段】検出した燃圧波形に基づき噴射率パラメータを算出するとともに、算出した噴射率パラメータに基づき燃料噴射弁の作動を制御するECU(制御装置)と、制御装置に搭載された制御側メモリと、記燃料噴射弁に搭載された噴射弁側メモリと、を備える。そして、算出した噴射率パラメータを、噴射量および燃圧(環境値)と関連付けてECU側メモリ(制御側メモリ)の学習マップに記憶更新させていき、更新量や更新頻度等に基づき、環境値の全範囲よりも小さい範囲である更新範囲Wを設定する(S13)。そして、更新範囲Wに対応する噴射率パラメータを、エンジン運転終了時にINJ側メモリへ送信する(S14)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射に伴い生じた燃圧変化に基づき燃料噴射弁の作動を制御する燃料噴射システムに適用された、燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1〜4等には、燃料噴射弁へ供給される燃料の圧力を燃圧センサで検出することで、燃料噴射に伴い生じた圧力変化(燃圧波形)を検出し、その燃圧波形に対応する噴射率波形を特定するのに要する噴射率パラメータを算出する発明が開示されている。例えば、噴射開始に伴い生じた燃圧波形の降下開始時期と噴射開始時期とは相関が高いことに着目し、噴射開始を指令してから噴射開始時期までの応答遅れ時間te(噴射率パラメータ)を、燃圧波形に現れる前記降下開始時期に基づき算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−57926号公報
【特許文献2】特開2009−74535号公報
【特許文献3】特開2009−74536号公報
【特許文献4】特開2010−285888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1〜4には、燃料噴射弁の作動を制御するECU(制御装置)に搭載された制御側メモリとは別に、燃料噴射弁に噴射弁側メモリを搭載する旨が記載されているが、本発明者はこのような噴射弁側メモリを用いて次のように構成することを検討した。
【0005】
すなわち、内燃機関の運転期間中には、燃圧波形から算出した噴射率パラメータを制御側メモリに逐次記憶更新させて学習し、その学習値に基づき燃料噴射弁の作動を制御(噴射制御)する。そして、内燃機関の運転終了時には、制御側メモリに記憶されている噴射率パラメータを噴射弁側メモリへ送信して記憶させる。そして、内燃機関を次回運転開始させる時には、噴射弁側メモリに記憶されている噴射率パラメータを制御側メモリへ送信する。
【0006】
この構成によれば、燃料噴射弁を別の燃料噴射弁に交換した場合であっても、交換後の噴射弁側メモリに記憶されている噴射率パラメータが、内燃機関の運転開始時には制御側メモリへ送信されるので、交換後の燃料噴射弁にかかる噴射率パラメータに基づき噴射制御できるようになる。
【0007】
しかしながら、噴射時の環境値(例えば燃料噴射開始時点における燃料圧力や噴射量等)に応じて、同じ噴射指令信号であっても異なる噴射状態となる。そのため、都度の環境値と関連付けて噴射率パラメータを学習する必要がある。すると、噴射率パラメータのデータ点数が膨大になるため、噴射弁側メモリに要求される記憶容量が増大する問題、およびECUから噴射弁側メモリへ噴射率パラメータを送信する際の送信時間が長くなるといった問題が生じる。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、噴射弁側メモリに要求される記憶容量の低減、および噴射率パラメータの送信時間短縮を可能にした、燃料噴射制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0010】
請求項1記載の発明では、内燃機関の燃焼に用いる燃料を噴射する燃料噴射弁と、前記燃料噴射弁からの燃料噴射に伴い生じた燃料の圧力変化を表した、燃圧波形を検出する燃圧センサと、検出した前記燃圧波形に基づき、その燃圧波形に対応する噴射率波形を特定するのに要する噴射率パラメータを算出するとともに、算出した前記噴射率パラメータに基づき前記燃料噴射弁の作動を制御する制御装置と、前記制御装置に搭載された制御側メモリと、前記燃料噴射弁に搭載された噴射弁側メモリと、を備えた燃料噴射システムに適用されることを前提とする。
【0011】
そして、前記制御装置は、算出した前記噴射率パラメータを、燃料の噴射状態に影響を与える環境値と関連付けて前記制御側メモリに記憶更新させていく学習手段と、前記環境値の全範囲よりも小さい範囲である所定の更新範囲を設定する更新範囲設定手段と、前記内燃機関の運転終了時に、前記制御側メモリに記憶された前記噴射率パラメータのうち、前記更新範囲の環境値と関連付けられている噴射率パラメータを前記噴射弁側メモリへ送信する送信手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
上記発明によれば、内燃機関の運転終了時に、制御側メモリの噴射率パラメータを噴射弁側メモリへ送信するので、燃料噴射弁を別の燃料噴射弁に交換した場合であっても、交換後の噴射弁側メモリに記憶されている噴射率パラメータを制御側メモリへ送信すれば、交換後の燃料噴射弁にかかる噴射率パラメータに基づき燃料噴射弁の作動を制御(噴射制御)できるようになる。
【0013】
そして、環境値の全範囲よりも小さい範囲である所定の更新範囲を設定し、その更新範囲に対応する噴射率パラメータ(つまり、全ての噴射率パラメータの一部)を、制御装置から噴射弁側メモリへ送信するので、制御側メモリに記憶されている全ての噴射率パラメータを送信する場合に比べて、噴射弁側メモリに要求される記憶容量を低減でき、かつ、制御装置から噴射弁側メモリへの噴射率パラメータの送信時間を短縮できる。
【0014】
なお、上記発明によれば、燃料噴射弁が交換されなかった場合には、前回運転終了時に噴射弁側メモリへ送信しておいた噴射率パラメータを初期値として、次回、内燃機関を始動させることとなる。この場合、全ての噴射率パラメータを噴射弁側メモリへ送信して前記初期値とさせる方が、噴射制御の精度向上の点で有利である。しかしながら、噴射率パラメータの中には、次回運転の初期値として更新させても噴射制御の精度向上に大きくは寄与しない噴射率パラメータも存在する。したがって、上記発明において、そのような噴射率パラメータを除外するように前記更新範囲を設定すれば、噴射制御の精度悪化を最小限にできる。
【0015】
請求項2記載の発明では、前記更新範囲設定手段は、前記環境値に対応する各々の前記噴射率パラメータのうち、前記学習手段による記憶更新量が大きかった噴射率パラメータであるほど、その噴射率パラメータに対応する前記環境値の範囲を優先して前記更新範囲に含ませることを特徴とする。
【0016】
記憶更新量が少なかった(または記憶更新されなかった)噴射率パラメータは、先述した「次回運転の初期値として更新させても噴射制御の精度向上に大きくは寄与しない」パラメータであると言える。この点を鑑みた上記発明によれば、記憶更新量が大きかった噴射率パラメータであるほど、優先して噴射弁側メモリへ送信されることとなり、次回運転の初期値として更新させることになる。よって、全ての噴射率パラメータを噴射弁側メモリへ送信しないことによる噴射制御の精度悪化を最小限にできる。
【0017】
請求項3記載の発明では、前記制御側メモリは、前記環境値の各々に対応して前記噴射率パラメータの基準値を記憶しており、前記記憶更新量は、前記運転終了時における前記噴射率パラメータの値と前記基準値との差分であることを特徴とする。
【0018】
ここで、燃料噴射弁の経年劣化や機差ばらつきにより噴射率パラメータが基準値に対して大きくずれた値になる事象は、全ての噴射率パラメータに同程度で生じている訳ではなく、環境値の範囲によってムラがある。この点に着目した上記発明によれば、運転終了時における噴射率パラメータと基準値との差分が大きくなっている噴射率パラメータの範囲を優先して更新範囲に含ませるよう設定して、当該噴射率パラメータを噴射弁側メモリへ送信させるので、先述した噴射制御の精度悪化を最小限にできる。
【0019】
請求項4記載の発明では、前記環境値の各々に対応する前記噴射率パラメータの値であって、前記内燃機関の前回の運転終了時での値を前回値、今回の運転終了時での値を今回値とした場合において、前記制御側メモリは前記前回値を記憶しており、前記記憶更新量は、前記今回値と前記前回値との差分であることを特徴とする。
【0020】
ここで、燃料噴射弁の経年劣化等により噴射率パラメータの今回値が前回値に対して大きくずれた値になる事象は、全ての噴射率パラメータに同程度で生じている訳ではなく、環境値の範囲によってムラがある。この点に着目した上記発明によれば、運転終了時での噴射率パラメータの今回値と前回値との差分が大きくなっている噴射率パラメータの範囲を優先して更新範囲に含ませるよう設定して、当該噴射率パラメータを噴射弁側メモリへ送信させるので、先述した噴射制御の精度悪化を最小限にできる。
【0021】
請求項5記載の発明では、前記更新範囲設定手段は、前記環境値に対応する各々の前記噴射率パラメータの、前記学習手段による記憶更新が為された頻度(学習頻度)に基づき、前記更新範囲を設定することを特徴とする。
【0022】
上記発明において、学習頻度の高い噴射率パラメータを優先して噴射弁側メモリへ送信させるように更新範囲を設定すれば、次の効果が発揮される。すなわち、学習頻度が高かった噴射率パラメータは、次回運転時にも噴射制御に用いられる可能性が高いので、このように学習頻度が高く噴射制御への利用可能性の高い噴射率パラメータを優先して噴射弁側メモリへ送信させれば、噴射制御の精度を向上できる。
【0023】
また、上記発明において、学習頻度の低い噴射率パラメータを優先して噴射弁側メモリへ送信させるように更新範囲を設定すれば、次の効果が発揮される。すなわち、学習頻度が低かった噴射率パラメータは、次回運転時にも学習機会が少なくなる可能性が高いので、このように学習頻度が低く学習機会が少ない噴射率パラメータを優先して噴射弁側メモリへ送信させれば、噴射制御の精度を向上できる。
【0024】
請求項6記載の発明では、前記制御装置は、検出した1つの前記燃圧波形に基づき複数種類の前記噴射率パラメータを算出しており、前記学習手段は、複数種類の前記噴射率パラメータを前記環境値と関連付けて前記制御側メモリに記憶更新させており、前記更新範囲設定手段は、複数種類の前記噴射率パラメータの各々に対して前記更新範囲を設定するにあたり、各々の前記更新範囲を共通した範囲に設定することを特徴とする。
【0025】
環境値の範囲によって生じる記憶更新量のムラや学習頻度のムラは、噴射率パラメータの種類が異なっても殆ど共通する、といった知見を本発明者は得た。換言すれば、記憶更新量が大きい環境値の範囲や学習頻度の赤い環境値の範囲は、噴射率パラメータの種類が異なっても殆ど共通する。この点を鑑みた上記発明では、複数種類の噴射率パラメータの各々に対して共通した更新範囲を設定するので、次の効果が発揮される。
【0026】
すなわち、1種類の噴射率パラメータの学習状態に基づき更新範囲を設定すると、その噴射率パラメータが誤学習している場合には、噴射制御の精度悪化を最小限にするような更新範囲を適切に設定できなくなる。これに対し、複数種類の噴射率パラメータの各々に対して共通した更新範囲を設定する上記発明によれば、複数種類の噴射率パラメータの学習状態に基づき更新範囲を設定できるので、適切な更新範囲に設定することを高精度で実現できる。
【0027】
請求項7記載の発明では、前記環境値の1つは、前記燃料噴射弁からの燃料噴射開始に伴い前記燃圧波形が降下を開始する直前の圧力、もう1つは前記燃料噴射弁からの燃料の噴射量であり、前記学習手段は、前記直前の圧力および前記噴射量と関連付けて前記噴射率パラメータを記憶更新させていくことを特徴とする。
【0028】
環境値の具体例としては、上記直前の圧力や噴射量の他にも、燃料の温度、前段噴射終了から今回噴射開始までのインターバル時間等が挙げられるが、直前圧力および噴射量が噴射状態に与える影響は、他の環境値に比べて大きい。そのため、直前圧力および噴射量と関連付けて噴射率パラメータを記憶更新させていく上記発明によれば、学習した噴射率パラメータに基づき噴射制御するにあたり、その制御の精度を向上できる。
【0029】
また、上記発明では2つの環境値と関連付けて噴射率パラメータを学習しているため、噴射率パラメータの学習点数が膨大になる。そのため、上記発明に反して全ての噴射率パラメータを噴射弁側メモリへ送信しようとすると、噴射弁側メモリに要求される記憶容量、および噴射率パラメータの送信時間が膨大になる。よって、噴射率パラメータの一部を噴射弁側メモリへ送信することによる上記発明の効果が好適に発揮される。
【0030】
ところで、本発明者は、上述した発明の他にも、噴射弁側メモリに要求される記憶容量の低減、および噴射率パラメータの送信時間短縮を可能にした燃料噴射制御装置を「他発明」として想起しており、以下、他発明の構成および作用効果について説明する。
【0031】
〔他発明1〕では、内燃機関の燃焼に用いる燃料を噴射する燃料噴射弁と、前記燃料噴射弁からの燃料噴射に伴い生じた燃料の圧力変化を表した、燃圧波形を検出する燃圧センサと、検出した前記燃圧波形に基づき、その燃圧波形に対応する噴射率波形を特定するのに要する噴射率パラメータを算出するとともに、算出した前記噴射率パラメータに基づき前記燃料噴射弁の作動を制御する制御装置と、前記制御装置に搭載された制御側メモリと、前記燃料噴射弁に搭載された噴射弁側メモリと、を備えた燃料噴射システムに適用されることを前提とする。
【0032】
そして、前記制御装置は、以下に説明する学習手段、変化パターン判別手段、変化量算出手段および送信手段を備えることを特徴とする。前記学習手段は、算出した前記噴射率パラメータを、燃料の噴射状態に影響を与える環境値と関連付けて前記制御側メモリに記憶更新させていく。前記変化パターン判別手段は、環境値の全範囲において、噴射率パラメータの学習値が予め想定した複数の変化パターンのいずれのパターンで変化しているかを判別する。前記変化量算出手段は、所定の環境値に対応する噴射率パラメータの記憶更新量を算出する。前記送信手段は、前記変化パターン判別手段による判別結果を示す変化パターン情報と、前記変化量算出手段による算出結果を示す変化量情報と、を前記噴射弁側メモリへ送信する。
【0033】
ここで、噴射率パラメータは、環境値の全範囲において全体的に増加または減少し続ける傾向がある(図8(b)〜(e)参照)。つまり、噴射率パラメータの変化パターンはある程度決まっており、内燃機関が運転終了する毎に、いずれのパターンで変化しているか、およびその変化量を把握すれば、環境値の全範囲における噴射率パラメータの値を推定できる。
【0034】
この点を鑑みた上記他発明1では、変化パターン情報および変化量情報を噴射弁側メモリへ送信するので、内燃機関の次回運転開始時に、噴射弁側メモリに記憶されている噴射率パラメータを制御側メモリへ送信すれば、上記推定を実現できる。よって、燃料噴射弁を別の燃料噴射弁に交換した場合であっても、交換後の噴射弁側メモリに記憶されている変化パターン情報および変化量情報を制御側メモリへ送信すれば、交換後の燃料噴射弁にかかる、環境値の全範囲における噴射率パラメータの値を推定でき、その推定値に基づき燃料噴射弁の作動を制御(噴射制御)できるようになる。
【0035】
そして、上記他発明1によれば、変化パターン情報および変化量情報を噴射弁側メモリへ送信するので、制御側メモリに記憶されている全ての噴射率パラメータを送信する場合に比べて、噴射弁側メモリに要求される記憶容量を低減でき、かつ、制御装置から噴射弁側メモリへの噴射率パラメータの送信時間を短縮できる。
【0036】
〔他発明2〕は、「前記制御側メモリは、前記環境値の各々に対応して前記噴射率パラメータの基準値を記憶しており、
前記変化パターン判別手段は、前記運転終了時における前記噴射率パラメータの前記基準値に対する変化に基づき前記判別を行うことを特徴とする他発明1に記載の燃料噴射制御装置」である。
【0037】
燃料噴射弁の経年劣化や機差ばらつきによる噴射率パラメータの基準値に対する変化の傾向(パターン)はある程度決まっているため、運転終了時における噴射率パラメータの基準値に対する変化に基づき変化パターンを判別する上記発明によれば、変化パターンを高精度で判別でき、先述した噴射制御の精度悪化を最小限にできる。
【0038】
〔他発明3〕は、「前記環境値の各々に対応する前記噴射率パラメータの値であって、前記内燃機関の前回の運転終了時での値を前回値、今回の運転終了時での値を今回値とした場合において、
前記制御側メモリは前記前回値を記憶しており、前記変化パターン判別手段は、前記今回値の前記前回値に対する変化に基づき前記判別を行うことを特徴とする他発明1に記載の燃料噴射制御装置」である。
【0039】
燃料噴射弁の経年劣化等による噴射率パラメータの前回値に対する変化の傾向(パターン)はある程度決まっているため、今回の噴射率パラメータの前回値に対する変化に基づき変化パターンを判別する上記発明によれば、変化パターンを高精度で判別でき、先述した噴射制御の精度悪化を最小限にできる。
【0040】
〔他発明4〕は、「前記環境値の1つは、前記燃料噴射弁からの燃料噴射開始に伴い前記燃圧波形が降下を開始する直前の圧力、もう1つは前記燃料噴射弁からの燃料の噴射量であり、
前記学習手段は、前記直前の圧力および前記噴射量と関連付けて前記噴射率パラメータを記憶更新させていくことを特徴とする他発明1〜3のいずれか1つに記載の燃料噴射制御装置」である。これによれば、上記請求項7記載の発明と同様の効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる燃料噴射制御装置が適用される、燃料噴射システムの概略を示す図である。
【図2】噴射指令信号に対応する噴射率および燃圧の変化を示す図である。
【図3】第1実施形態において、噴射率パラメータの学習及び噴射指令信号の設定等の概要を示すブロック図である。
【図4】図1に示す燃料噴射システムのブロック図である。
【図5】第1実施形態および第2実施形態において、ECUのデータをINJ側メモリへ送信する手順を示すフローチャートである。
【図6】第1実施形態において、INJ側メモリのデータをECUへ送信する手順を示すフローチャートである。
【図7】本発明の第3実施形態において、ECUのデータをINJ側メモリへ送信する手順を示すフローチャートである。
【図8】本発明の第4実施形態において、マスターTq−Q特性線から実Tq−Q特性線がずれている様子を示す図である。
【図9】第4実施形態において、ECUのデータをINJ側メモリへ送信する手順を示すフローチャートである。
【図10】第4実施形態において、INJ側メモリのデータをECUへ送信する手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明を具体化した各実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する燃料噴射制御装置は、車両用のエンジン(内燃機関)に搭載されたものであり、当該エンジンには、複数の気筒#1〜#4について高圧燃料を噴射して圧縮自着火燃焼させるディーゼルエンジンを想定している。
【0043】
(第1実施形態)
図1は、上記エンジンの各気筒に搭載された燃料噴射弁10、各々の燃料噴射弁10に搭載された燃圧センサ20、及び車両に搭載された電子制御装置であるECU30等を備える燃料噴射システムの模式図である。
【0044】
先ず、燃料噴射弁10を含むエンジンの燃料噴射系について説明する。燃料タンク40内の燃料は、高圧ポンプ41によりコモンレール42(蓄圧容器)に圧送されて蓄圧され、各気筒の燃料噴射弁10へ分配供給される。
【0045】
燃料噴射弁10は、以下に説明するボデー11、ニードル12(弁体)及びアクチュエータ13等を備えて構成されている。ボデー11は、内部に高圧通路11aを形成するとともに、燃料を噴射する噴孔11bを形成する。ニードル12は、ボデー11内に収容されて噴孔11bを開閉する。アクチュエータ13は、ニードル12を開閉作動させる。
【0046】
そして、ECU30がアクチュエータ13の駆動を制御することで、ニードル12の開閉作動が制御される。これにより、コモンレール42から高圧通路11aへ供給された高圧燃料は、ニードル12の開閉作動に応じて噴孔11bから噴射される。例えばECU30は、エンジン出力軸の回転速度及びエンジン負荷等に基づき、噴射開始時期、噴射終了時期及び噴射量等の目標噴射状態を算出し、算出した目標噴射状態となるようアクチュエータ13へ噴射指令信号を出力して、燃料噴射弁10の作動を制御する。
【0047】
燃圧センサ20は、各々の燃料噴射弁10に搭載されており、以下に説明するステム21(起歪体)、圧力センサ素子22及びモールドIC23等を備えて構成されている。ステム21はボデー11に取り付けられており、ステム21に形成されたダイヤフラム部21aが高圧通路11aを流通する高圧燃料の圧力を受けて弾性変形する。圧力センサ素子22はダイヤフラム部21aに取り付けられており、ダイヤフラム部21aで生じた弾性変形量に応じて圧力検出信号を出力する。
【0048】
モールドIC23は、圧力センサ素子22から出力された圧力検出信号を増幅する増幅回路、書き換え可能な不揮発性メモリであるINJ側メモリ23a(噴射弁側メモリ)等の電子部品を樹脂モールドして形成されており、ステム21とともに燃料噴射弁10に搭載されている。ボデー11上部にはコネクタ14が設けられており、コネクタ14に接続されたハーネス15により、モールドIC23及びアクチュエータ13とECU30とはそれぞれ電気接続される。
【0049】
ECU30は、アクセルペダルの操作量やエンジン負荷、エンジン回転速度NE等に基づき目標噴射状態(例えば噴射段数、噴射開始時期、噴射終了時期、噴射量等)を算出する。例えば、エンジン負荷及びエンジン回転速度に対応する最適噴射状態を噴射状態マップにして記憶させておく。そして、現状のエンジン負荷及びエンジン回転速度に基づき、噴射状態マップを参照して目標噴射状態を算出する。そして、算出した目標噴射状態に対応する噴射指令信号t1,Tq(図2(a)参照)を、後に詳述する噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxに基づき設定し、燃料噴射弁10へ出力することで燃料噴射弁10の作動を制御する。
【0050】
また、燃圧センサ20の検出値に基づき、噴射に伴い生じた燃料圧力の変化を燃圧波形(図2(c)参照)として検出し、検出した燃圧波形に基づき燃料の噴射率変化を表した噴射率波形(図2(b)参照)を演算して噴射状態を検出する。そして、検出した噴射率波形(噴射状態)を特定する噴射率パラメータRα,Rβ,Rmaxを学習するとともに、噴射指令信号(パルスオン時期t1及びパルスオン期間Tq)と噴射状態との相関関係を特定する噴射率パラメータtd,teを学習する。
【0051】
具体的には、燃圧波形のうち、噴射開始に伴い燃圧降下を開始する変曲点P1から降下が終了する変曲点P2までの降下波形を、最小二乗法等により直線に近似した降下近似直線Lαを算出する。そして、降下近似直線Lαのうち基準値Bαとなる時期(LαとBαの交点時期LBα)を算出する。この交点時期LBαと噴射開始時期R1とは相関が高いことに着目し、交点時期LBαに基づき噴射開始時期R1を算出する。例えば、交点時期LBαよりも所定の遅れ時間Cαだけ前の時期を噴射開始時期R1として算出すればよい。
【0052】
また、燃圧波形のうち、噴射終了に伴い燃圧上昇を開始する変曲点P3から降下が終了する変曲点P5までの上昇波形を、最小二乗法等により直線に近似した上昇近似直線Lβを算出する。そして、上昇近似直線Lβのうち基準値Bβとなる時期(LβとBβの交点時期LBβ)を算出する。この交点時期LBβと噴射終了時期R4とは相関が高いことに着目し、交点時期LBβに基づき噴射終了時期R4を算出する。例えば、交点時期LBβよりも所定の遅れ時間Cβだけ前の時期を噴射終了時期R4として算出すればよい。
【0053】
次に、降下近似直線Lαの傾きと噴射率増加の傾きとは相関が高いことに着目し、図2(b)に示す噴射率波形のうち噴射増加を示す直線Rαの傾きを、降下近似直線Lαの傾きに基づき算出する。例えば、Lαの傾きに所定の係数を掛けてRαの傾きを算出すればよい。同様にして、上昇近似直線Lβの傾きと噴射率減少の傾きとは相関が高いので、噴射率波形のうち噴射減少を示す直線Rβの傾きを、上昇近似直線Lβの傾きに基づき算出する。
【0054】
次に、噴射率波形の直線Rα,Rβに基づき、噴射終了を指令したことに伴い弁体12がリフトダウンを開始する時期(閉弁作動開始時期R23)を算出する。具体的には、両直線Rα,Rβの交点を算出し、その交点時期を閉弁作動開始時期R23として算出する。また、噴射開始時期R1の噴射開始指令時期t1に対する遅れ時間(噴射開始遅れ時間td)を算出する。また、閉弁作動開始時期R23の噴射終了指令時期t2に対する遅れ時間(噴射終了遅れ時間te)を算出する。
【0055】
また、降下近似直線Lα及び上昇近似直線Lβの交点に対応した圧力を交点圧力Pαβとして算出し、後に詳述する基準圧力Pbaseと交点圧力Pαβとの圧力差ΔPγを算出し、この圧力差ΔPγと最大噴射率Rmaxとは相関が高いことに着目し、圧力差ΔPγに基づき最大噴射率Rmaxを算出する。具体的には、圧力差ΔPγに相関係数Cγを掛けることで最大噴射率Rmaxを算出する。但し、圧力差ΔPγが所定値ΔPγth未満である小噴射の場合には、上述の如くRmax=ΔPγ×Cγとする一方で、ΔPγ≧ΔPγthである大噴射の場合には、予め設定しておいた値(設定値Rγ)を最大噴射率Rmaxとして算出する。
【0056】
基準圧力Pbaseは、燃圧波形のうち、噴射開始に伴い燃圧が降下を開始するまでの期間に対応する部分の波形である基準波形に基づき、その基準波形の平均圧力とすればよい。例えば、噴射開始指令時期t1から所定時間が経過するまでの期間TAに対応する部分を基準波形として設定すればよい。或いは、降下波形の微分値に基づき変曲点P1を算出し、噴射開始指令時期t1から変曲点P1より所定時間前までの期間に相当する部分を基準波形として設定すればよい。
【0057】
なお、上記「小噴射」とは、噴射率がRγに達する前に弁体12がリフトダウンを開始する態様の噴射を想定しており、シート面11e,12aで燃料が絞られて噴射量が制限されている時の噴射率が最大噴射率Rmaxとなる。一方、上記「大噴射」とは、噴射率がRγに達した後に弁体12がリフトダウンを開始する態様の噴射を想定しており、噴孔11bで燃料が絞られて噴射量が制限されている時の噴射率が最大噴射率Rmaxとなる。要するに、噴射指令期間Tqが十分に長く、最大噴射率に達した以降も開弁状態を継続させる場合においては、図2(b)に示す噴射率波形は台形となる。一方、最大噴射率に達する前に閉弁作動を開始させるような小噴射の場合には、噴射率波形は三角形となる。
【0058】
大噴射時の最大噴射率Rmaxである上記設定値Rγは、燃料噴射弁10の経年変化に伴い変化していく。例えば、噴孔11bにデポジット等の異物が堆積して噴射量が減少するといった経年劣化が進行すると、図2(c)に示す圧力降下量ΔPは小さくなっていく。また、シート面11e,12aが磨耗して噴射量が増大するといった経年劣化が進行すると、圧力降下量ΔPは大きくなっていく。なお、圧力降下量ΔPとは、噴射率上昇に伴い生じた検出圧力の降下量のことであり、例えば、基準圧力Pbaseから変曲点P2までの圧力降下量、又は、変曲点P1から変曲点P2までの圧力降下量のことである。
【0059】
そこで本実施形態では、大噴射時の最大噴射率Rmax(設定値Rγ)と圧力降下量ΔPとは相関が高いことに着目し、圧力降下量ΔPの検出結果から設定値Rγを算出して学習する。つまり、大噴射時における最大噴射率Rmaxの学習値は、圧力降下量ΔPに基づく設定値Rγの学習値に相当する。
【0060】
以上により、燃圧波形から噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxを算出することができる。そして、これらの噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxの学習値に基づき、噴射指令信号(図2(a)参照)に対応する噴射率波形(図2(b)参照)を算出することができる。
【0061】
なお、このように算出した噴射率波形の面積(図2(b)中の網点ハッチ参照)は噴射量に相当するので、噴射率パラメータに基づき噴射量を算出することもできる。そして、噴射指令期間Tqに対する噴射量の割合を噴射率パラメータとして学習させてもよい。
【0062】
図3は、これら噴射率パラメータの学習及び噴射指令信号の設定等の概要を示すブロック図であり、ECU30により機能する各手段31,32,33について以下に説明する。噴射率パラメータ算出手段31は、燃圧センサ20により検出された燃圧波形に基づき噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxを算出する。
【0063】
学習手段32は、算出した噴射率パラメータをECU30のRAM34c(図4参照)に記憶更新して学習する。なお、噴射率パラメータは、噴射する都度の供給燃圧(コモンレール42内の圧力)に応じて異なる値となるため、供給燃圧又は後述する基準圧力Pbase(図2(c)参照)と関連付けて学習させることが望ましい。また、噴射率パラメータは、噴射する都度の噴射量Q(図2(b)中の網点ハッチ面積)に応じて異なる値となるため、噴射量Qと関連付けて学習させることが望ましい。
【0064】
図3の例では、基準圧力Pbase等の燃圧および噴射量Qの2つを環境値として設定しており、これらの環境値Pbase,Qと関連付けて噴射率パラメータの値を噴射率パラメータマップM1〜M5に記憶させている。マップM1〜M5の各々は5つの噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxに対応して作成されている。
【0065】
図3に示すマップM1〜M5では基準圧力をm個、噴射量Qをn個に分割しており、マップM1〜M5はm×n個の領域に分割されている(m,nは2以上の自然数)。そして、各々の領域に対応する噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxの学習値または初期値が記憶されている。また、複数のマップM1〜M5の全てのマップで、各領域は基準圧力がm個、噴射量Qがn個にて同一の分割数で分割される。また、各領域の基準圧力および噴射量Qの値は、マップM1〜M5の各々で同一の値に設定されている。
【0066】
設定手段33(制御手段)は、現状の燃圧(例えば基準圧力Pbaseの前回値)および目標噴射量に対応する噴射率パラメータ(学習値)を、噴射率パラメータマップM1〜M5から取得する。そして、取得した噴射率パラメータに基づき、目標噴射状態に対応する噴射指令信号t1,Tqを設定する。そして、このように設定した噴射指令信号にしたがって燃料噴射弁10を作動させた時の燃圧波形を燃圧センサ20で検出し、検出した燃圧波形に基づき噴射率パラメータ算出手段31は噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxを算出する。
【0067】
要するに、噴射指令信号に対する実際の噴射状態(つまり噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmax)を検出して学習し、その学習値に基づき、目標噴射状態に対応する噴射指令信号を設定する。そのため、実際の噴射状態に基づき噴射指令信号がフィードバック制御されることとなり、先述した経年劣化が進行しても、実噴射状態が目標噴射状態に一致するよう燃料噴射状態を高精度で制御できる。特に、実噴射量が目標噴射量となるように、噴射率パラメータに基づき噴射指令期間Tqを設定するようフィードバック制御することで、実噴射量が目標噴射量となるように補償している。
【0068】
図4に示すように、ECU30は、マイクロコンピュータ(マイコン34)、書込可能不揮発性メモリであるECU側メモリ35、及び通信用インターフェイスとして機能する通信回路36を備えて構成されている。そしてマイコン34は、CPU34a、書込不可の不揮発性メモリ(ROM34b)、及び書込可能の揮発性メモリ(RAM34c)等を有して構成されている。ECU側メモリ35およびRAM34cは制御側メモリに相当する。
【0069】
先述した学習手段32による学習の初期値は、燃料噴射弁10を市場へ出荷する前に予め試験により取得されており、その取得した初期値は、燃料噴射弁10の市場出荷時における燃料噴射弁10のINJ側メモリ23a、およびECU側メモリ35に書き込まれている。なお、ECU側メモリ35およびINJ側メモリ23aの具体例としてEEPROM(登録商標)が挙げられる。
【0070】
上記初期値は、複数の異なる燃料噴射弁10毎の機差ばらつきを加味した値であり、該当する燃料噴射弁10固有の値である。これに対し、基準となるマスター燃料噴射弁の固有値であって、機差ばらつき判断の基準となるマスター値(基準値)が、前記初期値とは別にECU側メモリ35に書き込まれている。
【0071】
エンジン運転中においては、上述の如く学習手段32により学習した噴射率パラメータの値(マップM1〜M5の学習値)は、マイコン34のRAM34cに一時的に記憶させておき、エンジンの運転終了時点(例えばイグニッションスイッチをオフ操作した時点)でECU側メモリ35に書き込んで記憶させておく。そして、エンジンの運転開始時点(例えばイグニッションスイッチをオン操作した時点)には、ECU側メモリ35に記憶されているマップM1〜M5の学習値をRAM34cに読み込む。
【0072】
通信回路36は、INJ側メモリ23aと双方向に通信可能に接続されており、エンジンの運転終了時点には、ECU側メモリ35またはRAM34cに記憶されているマップM1〜M5中の学習値の一部(後に詳述)を、INJ側メモリ23aへ送信して書き込む。また、エンジンの運転開始時点には、INJ側メモリ23aに記憶されている学習値の一部をECU側メモリ35へ読み込む。つまり、エンジンの運転開始時点では、ECU側メモリ35に記憶されているマップM1〜M5の一部がINJ側メモリ23aの値に書き換えられる。
【0073】
図5は、ECU30のマイコン34により実行される処理であり、ECU30のデータをINJ側メモリ23aへ送信する手順を示すフローチャートである。
【0074】
先ず、ステップS10において、運転者がイグニッションスイッチをオフ操作したか否かに基づいて、エンジンの運転終了時点であるか否かを判定する。エンジン運転終了時点と判定されれば(S10:YES)、続くステップS11において、マップM1〜M5のm×n個の領域毎に対応するマスター値(基準値)と、マップM1〜M5中の学習値との差分(記憶更新量)を、マップM1〜M5毎かつ領域毎に算出する。
【0075】
続くステップS12では、各マップM1〜M5の全領域のうち、上記差分の大きい領域が複数選択され、その選択された範囲(以下、差分大範囲W1〜W5と記載)をマップM1〜M5毎に算出する。これによって、環境値の全範囲であるマップ全領域から、それよりも小さい範囲である範囲が選択されることとなる。その選択された範囲の設定方法は、例えば、m×n個よりも少ない所定の個数を予め設定しておき、前記差分が大きい順に前記所定の個数の領域を含む範囲を、差分大範囲W1〜W5として設定する。図4の例では、網点に示す範囲がマップM1に対する差分大範囲W1を示しており、差分大範囲W1〜W5は、図4の如く隣接する複数の領域の集合になる場合もあるし、離れた領域の集合になる場合もある。
【0076】
そして、上記選択された範囲を、所定の更新範囲として設定する。具体的には、続くステップS13(更新範囲設定手段)で、マップM1〜M5毎の差分大範囲W1〜W5に基づき、全マップM1〜M5に共通した範囲である更新範囲Wを設定する。例えば、差分大範囲W1〜W5を平均化して更新範囲W(図4中の斜線範囲参照)を設定する。より具体的には、各マップM1〜M5の差分大範囲W1〜W5の中心位置を算出し、各マップM1〜M5の中心位置の平均を中心とした所定の個数(図4の例では9個)を更新範囲Wとして設定する。
【0077】
ちなみに、このように算出した差分大範囲W1〜W5は、各マップM1〜M5において殆ど共通した範囲になる傾向にある。すなわち、エンジン運転開始時点と終了時点とで学習値の差が大きくなる領域の範囲は、複数種類の噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxで共通した範囲になる傾向にある。
【0078】
続くステップS14(送信手段)では、マップM1〜M5毎の更新範囲Wに対応する複数個(図4の例では9個×マップ5つ分)の噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmax(学習値)を、INJ側メモリ23aへ送信して記憶させる。更新範囲W以外の領域に対応する噴射率パラメータについては、INJ側メモリ23aへは送信させない。
【0079】
したがって、INJ側メモリ23aに記憶されている噴射率パラメータマップM1a〜M5aには、更新範囲Wに対応する噴射率パラメータが記憶されており、他の範囲に対応する噴射率パラメータは記憶されていない。なお、INJ側メモリ23aに記憶されていた前回値は全て削除した上で、今回の噴射率パラメータをINJ側メモリ23aへ記憶させる。
【0080】
以上により、図5の処理を実施することで、エンジン運転終了時点での学習値の一部、つまり全領域の学習値のうち更新範囲Wに対応する学習値が、INJ側メモリ23aへ送信されて記憶される。
【0081】
図6は、ECU30のマイコン34により実行される処理であり、INJ側メモリ23aのデータをECU30へ送信する手順を示すフローチャートである。
【0082】
先ず、ステップS20において、運転者がイグニッションスイッチをオン操作したか否かに基づいて、エンジンの運転開始時点であるか否かを判定する。エンジン運転開始時点と判定されれば(S20:YES)、続くステップS21において、INJ側メモリ23aに記憶されているマップM1a〜M5a中の全ての噴射率パラメータ、つまり、前回エンジン運転終了時点で記憶させた、更新範囲Wに対応する噴射率パラメータの値を全て読み込む。
【0083】
続くステップS22では、ECU側メモリ35に記憶されているマップM1〜M5中の噴射率パラメータ(学習値)のうち、INJ側メモリ23aから読み込んだ更新範囲Wに対応する噴射率パラメータについて、INJ側メモリ23aから読み込んだ値に書き換える。
【0084】
以上により、図6の処理を実施することで、前回エンジン運転終了時点でINJ側メモリ23aへ記憶させておいた学習値の一部が、今回エンジン運転開始時点で読み込まれ、ECU側メモリ35のマップM1〜M5のデータが書き換えられる。
【0085】
ところで、エンジンを市場に出荷した後に燃料噴射弁10が交換された場合には、ECU側メモリ35のマップM1〜M5のデータ(噴射率パラメータ)を、交換後の燃料噴射弁10に適合したデータに書き換える必要がある。同様にして、市場出荷後にECU30が交換された場合には、交換後のECU側メモリ35を、実際に搭載されている燃料噴射弁10に適合したデータに書き換える必要がある。
【0086】
本実施形態ではこのような交換が為された場合であっても、エンジン運転開始時点において、INJ側メモリ23aのデータを読み込んでECU側メモリ35のマップM1〜M5のデータを書き換える。そのため、上述した交換が為された場合であっても、実際に搭載されている燃料噴射弁10に適合した噴射率パラメータに基づいたマップM1〜M5を、エンジン運転開始時点で作成することができる。よって、エンジン運転開始直後の学習手段32による学習が初期の段階であっても、高精度な噴射率パラメータに基づき設定手段33は噴射指令信号を設定でき、噴射制御の精度向上を図ることができる。
【0087】
そして、マップM1〜M5のデータの一部をINJ側メモリ23aへ送信して記憶させるので、全データを送信する場合に比べて、INJ側メモリ23aに要求される記憶容量を低減でき、かつ、ECU30からINJ側メモリ23aへのデータ送信時間を短縮できる。
【0088】
ここで、本実施形態に反して全データをINJ側メモリ23aへ送信して記憶させておいた方が、上述した学習初期段階での噴射精度向上の点で有利である。しかしながら、噴射率パラメータの中には、次回運転の初期値として更新させても噴射制御の精度向上に大きくは寄与しない噴射率パラメータ(非重要データ)も存在する。
【0089】
この点を鑑みた本実施形態では、マスター値と学習値との差分が大きい領域に対応する噴射率パラメータを重要データとして捉え、当該重要データ(つまり更新範囲Wに対応する噴射率パラメータ)をINJ側メモリ23aへ送信して記憶させておくので、全データをINJ側メモリ23aへ送信した場合と比較した噴射制御の精度悪化を、最小限にできる。
【0090】
(第2実施形態)
本実施形態では、上記第1実施形態にかかる図5のステップS11を、図5中の一点鎖線に示すステップS11aに変更している。上記第1実施形態では、学習値とマスター値との差分を領域毎に算出し(S11)、その差分が大きい領域の範囲(差分大範囲W1)に基づき更新範囲Wを設定している(S12,S13)。
【0091】
これに対し本実施形態では、エンジンの前回の運転終了時での学習値を前回値、今回の運転終了時での学習値を今回値とした場合において、ECU側メモリ35に全領域に対する前回値を記憶させておき、ステップS11aでは、ECU側メモリ35に記憶されている前回値と今回値との差分(記憶更新量)を領域毎に算出する。そして、その差分が大きい領域の範囲(差分大範囲W1)に基づき、上記第1実施形態と同様にして更新範囲Wを設定する(S12,S13)。
【0092】
以上により、本実施形態によっても、上記第1実施形態と同様の効果が発揮される。すなわち、マップM1〜M5のデータの一部をINJ側メモリ23aへ送信して記憶させることになるので、INJ側メモリ23aに要求される記憶容量を低減でき、かつ、ECU30からINJ側メモリ23aへのデータ送信時間を短縮できる。
【0093】
また、前回値と今回値との差分が大きい領域に対応する噴射率パラメータを重要データとして捉え、当該重要データ(つまり更新範囲Wに対応する噴射率パラメータ)をINJ側メモリ23aへ送信して記憶させておくので、全データをINJ側メモリ23aへ送信した場合と比較した噴射制御の精度悪化を、最小限にできる。
【0094】
(第3実施形態)
本実施形態では、上記第1実施形態にかかる図5のステップS11,S12,S13を、図7に示すステップS11b,S12b,S13bに変更している。上記第1実施形態では、学習値とマスター値との差分を領域毎に算出し(S11)、その差分が大きい領域の範囲(差分大範囲W1)に基づき更新範囲Wを設定している(S12,S13)。
【0095】
これに対し本実施形態では、ステップS11bにおいて、エンジン運転開始から終了までに学習が為された頻度、或いは、エンジンを市場に出荷してから現時点までに学習した頻度を領域毎に算出する。続くステップS12bでは、全領域のうち頻度が大きい領域の範囲(以下、頻度大範囲と記載)をマップM1〜M5毎に算出する。例えば、m×n個よりも少ない所定の個数を予め設定しておき、前記頻度が大きい順に前記所定の個数の領域を含む範囲を、頻度大範囲として設定すればよい。例えば、図4の網点に示す範囲がマップM1に対する頻度大範囲であり、頻度大範囲は、図4の如く隣接する複数の領域の集合になる場合もあるし、離れた領域の集合になる場合もある。
【0096】
続くステップS13b(更新範囲設定手段)では、マップM1〜M5毎の頻度大範囲に基づき、全マップM1〜M5に共通した範囲である更新範囲Wを設定する。例えば、頻度大範囲を平均化して更新範囲W(図4中の斜線範囲参照)を設定すればよい。より具体的には、各マップM1〜M5の頻度大範囲の中心位置を算出し、各マップM1〜M5の中心位置の平均を中心とした所定の個数(図4の例では9個)を更新範囲Wとして設定する。
【0097】
ちなみに、このように算出した頻度大範囲W1〜W5は、各マップM1〜M5において殆ど共通した範囲になる傾向にある。すなわち、エンジン運転開始時点と終了時点とで学習頻度が大きくなる領域の範囲、或いは学習頻度が小さくなる領域の範囲は、複数種類の噴射率パラメータtd,te,Rα,Rβ,Rmaxで共通した範囲になる傾向にある。
【0098】
以上により、本実施形態によっても、上記第1実施形態と同様の効果が発揮される。すなわち、マップM1〜M5のデータの一部をINJ側メモリ23aへ送信して記憶させることになるので、INJ側メモリ23aに要求される記憶容量を低減でき、かつ、ECU30からINJ側メモリ23aへのデータ送信時間を短縮できる。
【0099】
また、学習頻度が高かった噴射率パラメータは、次回運転時にも噴射制御に用いられる可能性が高いので、このように学習頻度が高く噴射制御への利用可能性の高い噴射率パラメータを重要データとして捉え、当該重要データ(つまり更新範囲Wに対応する噴射率パラメータ)をINJ側メモリ23aへ送信して記憶させておくので、全データをINJ側メモリ23aへ送信した場合と比較した噴射制御の精度悪化を、最小限にできる。
【0100】
(第3実施形態の変形例)
図7のステップS12b,S13bでは、学習頻度が大きい領域の範囲(頻度大範囲)に基づき更新範囲Wを設定しているが、ステップS12bにて学習頻度が小さい領域の範囲(頻度小範囲)をマップM1〜M5毎に算出し、ステップS13bにて頻度小範囲に基づき更新範囲Wを設定してもよい。
【0101】
学習頻度が低かった噴射率パラメータは、次回運転時にも学習機会が少なくなる可能性が高いので、このように学習頻度が低く学習機会が少ない噴射率パラメータを重要データとして捉えてINJ側メモリ23aに記憶させておく本実施形態によれば、全データをINJ側メモリ23aへ送信した場合と比較した噴射制御の精度悪化を、最小限にできる。
【0102】
(第4実施形態)
本実施形態は、先に説明した「他発明」を具体化したものである。なお、上記第1実施形態にかかる図1〜図4の内容については、本実施形態においても同じである。
【0103】
図8は、図4のマップM1〜M5の一つをグラフに表したものである。すなわち、噴射量Q(環境値)に対する噴射指令期間Tq(噴射率パラメータ)の値(Tq−Q特性線)を、基準圧力Pbase等の燃圧(環境値)毎に示したグラフであり、燃圧がPA,PB,PCである時のTq−Q特性線をそれぞれ示している。
【0104】
そして、図8(a)は、基準となるマスター燃料噴射弁のTq−Q特性線(マスターTq−Q特性線)であって、機差ばらつき判断の基準となるマスター値(基準値)を示す。図8(b)〜(e)は、実際にエンジンに搭載されている燃料噴射弁10にかかるTq−Q特性線(実Tq−Q特性線)を示しており、マスターTq−Q特性線からずれている様子を示す。また、当該ずれは、機差ばらつきとは別に経年劣化等により変化していくものである。そして、そのずれ方には複数のパターン(変化パターンCACE1〜4)があり、図8(b)〜(e)はその変化パターンを示している。
【0105】
CACE1は、いずれの燃圧PA,PB,PCにおいてもTq−Q特性線が全体的に低下する変化パターンを示す。CACE2は、いずれの燃圧PA,PB,PCにおいてもTq−Q特性線が全体的に上昇する変化パターンを示す。CACE3は、燃圧PAのTq−Q特性線が全体的に上昇し、燃圧PCのTq−Q特性線が全体的に低下する変化パターンを示す。CACE4は、燃圧PAのTq−Q特性線が全体的に低下し、燃圧PCのTq−Q特性線が全体的に上昇する変化パターンを示す。
【0106】
本実施形態では、マスターTq−Q特性線をECU側メモリ35に予め記憶させており、エンジン運転終了時点で取得される実Tq−Q特性線と、マスターTq−Q特性線とを比較する。そして、複数の変化パターンCACE1〜4のいずれに該当するかを判別する。
【0107】
また、エンジン運転終了時点で、マスターTq−Q特性線に対する実Tq−Q特性線のずれ量を算出する。このずれ量は、特定の燃圧かつ特定の噴射量Q(定点値)に対する噴射指令期間Tqについて算出する。例えば、マスターTq−Q特性線の定点値A1m,A2mに対する、実Tq−Q特性線の定点値A1,A2の値のずれを、前記ずれ量として算出すればよい。
【0108】
図9は、ECU30のマイコン34により実行される処理であり、先ず、ステップS30において、運転者がイグニッションスイッチをオフ操作したか否かに基づいて、エンジンの運転終了時点であるか否かを判定する。エンジン運転終了時点と判定されれば(S30:YES)、続くステップS31(変化パターン判別手段)において、全領域の学習値(実Tq−Q特性線)のマスターTq−Q特性線に対する変化が、複数の変化パターンCACE1〜4のいずれに該当するかを判別する。
【0109】
続くステップS32(変化量算出手段)では、マスターTq−Qの定点値A1m,A2mと実Tq−Qの定点値A1,A2とのずれ量を算出する。続くステップS33(送信手段)では、ステップS31で判別した該当パターン(変化パターン情報)、およびステップS32で算出したずれ量(変化量情報)を、INJ側メモリ23aへ送信して記憶させる。
【0110】
以上により、図9の処理を実施することで、エンジン運転終了時点での学習値の変化パターン情報および変化量情報がINJ側メモリ23aへ送信されて記憶される。
【0111】
図10は、ECU30のマイコン34により実行される処理であり、先ず、ステップS40において、運転者がイグニッションスイッチをオン操作したか否かに基づいて、エンジンの運転開始時点であるか否かを判定する。エンジン運転開始時点と判定されれば(S40:YES)、続くステップS41において、INJ側メモリ23aに記憶されている変化パターン情報および変化量情報、つまり、前回エンジン運転終了時点で記憶させた該当パターンおよびずれ量を読み込む。
【0112】
続くステップS42では、ステップS41で読み込んだ該当パターンおよびずれ量に基づき、前回エンジン運転終了時点での各燃圧PA,PB,PCに対する実Tq−Qを推定する。換言すれば、前回エンジン運転終了時点での学習マップM1〜M5に記憶されている、全領域に対する噴射率パラメータを推定する。
【0113】
続くステップS43では、ECU側メモリ35に記憶されているマップM1〜M5中の噴射率パラメータを、ステップS42で推定した噴射率パラメータに書き換える。
【0114】
以上により、図10の処理を実施することで、前回エンジン運転終了時点でINJ側メモリ23aへ記憶させておいた該当パターンおよびずれ量が、今回エンジン運転開始時点で読み込まれ、これらの情報に基づき推定した前回エンジン運転終了時点での学習値に、ECU側メモリ35のマップM1〜M5のデータが書き換えられる。
【0115】
以上により、本実施形態によれば、学習値の変化パターン情報および変化量情報をINJ側メモリ23aへ送信して記憶させるので、全データを送信する場合に比べて、INJ側メモリ23aに要求される記憶容量を低減でき、かつ、ECU30からINJ側メモリ23aへのデータ送信時間を短縮できる。
【0116】
ここで、上述した、図8(a)に示す、各燃圧に対する実Tq−Q特性線(噴射率パラメータ)は、エンジンを所定の運転状態とするよう燃料噴射弁10に予め設定され、エンジンが運転される際に指令値とされる噴射量および燃圧(環境値)の全範囲において、図8(b)〜(e)に示すような噴射率パラメータが変化する傾向にある。
【0117】
つまり、図8(b)、(c)に示すように、各燃圧での噴射指令値Tqに対する噴射量Qが、全体的に増加(図8(b))または減少(図8(c))するように変化する場合がある。また、図8(d)、(e)に示すように、噴射指令値Tqに対する噴射量Qが、ある燃圧では減少するが別の燃圧では増大するように変化する場合もある。
【0118】
いずれにせよ、各燃圧に対する実Tq−Q特性線(噴射率パラメータ)は、噴射指令値Tqに対する噴射量Qが、全体として増大するか、あるいは減少するといったように、噴射率パラメータの変化パターンはある程度決まっている。そのため、エンジン運転終了毎に、いずれのパターンで変化しているか、およびそのずれ量(変化量)を把握すれば、環境値の全範囲における噴射率パラメータの値を推定できる。
【0119】
この点を鑑みた本実施形態では、該当パターンおよびずれ量をINJ側メモリ23aへ送信し、エンジンの次回運転開始時に、INJ側メモリ23aに記憶されている該当パターンおよびずれ量をECU側メモリ35へ送信するので、上記推定を実現できる。よって、燃料噴射弁10を別の燃料噴射弁に交換した場合であっても、交換後のINJ側メモリ23aに記憶されている変化パターン情報および変化量情報を制御側メモリへ送信すれば、交換後の燃料噴射弁にかかる、環境値の全範囲における噴射率パラメータの値を推定でき、その推定値に基づき燃料噴射弁10の作動を制御(噴射制御)できるようになる。
【0120】
そのため、エンジンを市場に出荷した後に燃料噴射弁10の交換が為された場合であっても、実際に搭載されている燃料噴射弁10に適合した噴射率パラメータに基づいたマップM1〜M5を、エンジン運転開始時点で作成することができる。よって、エンジン運転開始直後の学習手段32による学習が初期の段階であっても、高精度な噴射率パラメータに基づき設定手段33は噴射指令信号を設定でき、噴射制御の精度向上を図ることができる。
【0121】
(第4実施形態の変形例1)
図9の処理では、マスター燃料噴射弁による噴射率パラメータ分布(マスターTq−Q特性線)とエンジン搭載燃料噴射弁による噴射率パラメータ分布(実Tq−Q特性線)とのずれ量をINJ側メモリ23aへ送信している。これに対し本変形例では、エンジンの前回の運転終了時での学習値を前回値、今回の運転終了時での学習値を今回値とした場合において、ECU側メモリ35に全領域に対する前回値を記憶させておき、前回値の噴射率パラメータ分布(実Tq−Q特性線)と今回値の噴射率パラメータ分布(実Tq−Q特性線)とのずれ量を算出して、INJ側メモリ23aへ送信する。
【0122】
このようにずれ量を算出しても、図9および図10の処理と同様にして、環境値の全範囲における噴射率パラメータの値を推定できるので、その推定値に基づき燃料噴射弁10の作動を制御(噴射制御)できるようになり、上記第4実施形態と同様の効果が発揮される。
【0123】
(第4実施形態の変形例2)
複数種類の噴射率パラメータの各マップM1〜M5について、該当パターンを共通化するようにしてもよい。例えば、マップM1〜M5毎の該当パターンを算出し、多数決で共通の該当パターンを決定すればよい。
【0124】
また、複数種類の噴射率パラメータの各マップM1〜M5について、ずれ量を共通化するようにしてもよい。例えば、図5のステップS13と同様にして、マップM1〜M5毎に算出したずれ量の平均を共通のずれ量とすればよい。
【0125】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、以下のように変更して実施してもよい。また、各実施形態の特徴的構成をそれぞれ任意に組み合わせるようにしてもよい。
【0126】
・上記各実施形態では、噴射量および燃圧の2つを環境値として噴射率パラメータと関連付けて学習させているが、噴射量および燃圧のいずれか一方のみを環境値として関連付けて学習させてもよい。また、他の環境値(例えば噴射インターバルや燃料温度等)とも関連付けて学習させてもよい。
【0127】
・図1に示す上記実施形態では、燃圧センサ20を燃料噴射弁10に搭載しているが、本発明にかかる燃圧センサはコモンレール42の吐出口42aから噴孔11bに至るまでの燃料供給経路内の燃圧を検出するよう配置された燃圧センサであればよい。よって、例えばコモンレール42と燃料噴射弁10とを接続する高圧配管42bに燃圧センサを搭載してもよい。
【符号の説明】
【0128】
10…第1燃料噴射弁、20…燃圧センサ、23a…INJ側メモリ(噴射弁側メモリ)、30…ECU(制御装置)、32…学習手段、35…ECU側メモリ(制御側メモリ)、S13,S13b…更新範囲設定手段、S14…送信手段、W…更新範囲。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼に用いる燃料を噴射する燃料噴射弁と、
前記燃料噴射弁からの燃料噴射に伴い生じた燃料の圧力変化を表した、燃圧波形を検出する燃圧センサと、
検出した前記燃圧波形に基づき、その燃圧波形に対応する噴射率波形を特定するのに要する噴射率パラメータを算出するとともに、算出した前記噴射率パラメータに基づき前記燃料噴射弁の作動を制御する制御装置と、
前記制御装置に搭載された制御側メモリと、
前記燃料噴射弁に搭載された噴射弁側メモリと、
を備えた燃料噴射システムに適用され、
前記制御装置は、
算出した前記噴射率パラメータを、燃料の噴射状態に影響を与える環境値と関連付けて前記制御側メモリに記憶更新させていく学習手段と、
前記環境値の全範囲よりも小さい範囲である所定の更新範囲を設定する更新範囲設定手段と、
前記内燃機関の運転終了時に、前記制御側メモリに記憶された前記噴射率パラメータのうち、前記更新範囲の環境値と関連付けられている噴射率パラメータを前記噴射弁側メモリへ送信する送信手段と、
を備えることを特徴とする燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記更新範囲設定手段は、前記環境値に対応する各々の前記噴射率パラメータのうち、前記学習手段による記憶更新量が大きかった噴射率パラメータであるほど、その噴射率パラメータに対応する前記環境値の範囲を優先して前記更新範囲に含ませることを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記制御側メモリは、前記環境値の各々に対応して前記噴射率パラメータの基準値を記憶しており、
前記記憶更新量は、前記運転終了時における前記噴射率パラメータの値と前記基準値との差分であることを特徴とする請求項2に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記環境値の各々に対応する前記噴射率パラメータの値であって、前記内燃機関の前回の運転終了時での値を前回値、今回の運転終了時での値を今回値とした場合において、
前記制御側メモリは前記前回値を記憶しており、
前記記憶更新量は、前記今回値と前記前回値との差分であることを特徴とする請求項2に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項5】
前記更新範囲設定手段は、前記環境値に対応する各々の前記噴射率パラメータの、前記学習手段による記憶更新が為された頻度に基づき、前記更新範囲を設定することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の燃料噴射制御装置。
【請求項6】
前記制御装置は、検出した1つの前記燃圧波形に基づき複数種類の前記噴射率パラメータを算出しており、
前記学習手段は、複数種類の前記噴射率パラメータを前記環境値と関連付けて前記制御側メモリに記憶更新させており、
前記更新範囲設定手段は、複数種類の前記噴射率パラメータの各々に対して前記更新範囲を設定するにあたり、各々の前記更新範囲を共通した範囲に設定することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の燃料噴射制御装置。
【請求項7】
前記環境値の1つは、前記燃料噴射弁からの燃料噴射開始に伴い前記燃圧波形が降下を開始する直前の圧力、もう1つは前記燃料噴射弁からの燃料の噴射量であり、
前記学習手段は、前記直前の圧力および前記噴射量と関連付けて前記噴射率パラメータを記憶更新させていくことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の燃料噴射制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−172517(P2012−172517A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31809(P2011−31809)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】