説明

燃料性状推定装置及び燃料性状推定方法

【課題】燃料内の各成分の比率を推定する。
【解決手段】燃料センサ1は、i−パラフィンを吸着もしくは脱離可能な吸着脱離反応部7と、吸着脱離反応部7の下流側に位置して燃料の脱水素反応を行う脱水素反応部8と、を有し、吸着脱離反応部7上流側の燃料の誘電率と、吸着脱離反応部7における燃料温度をi−パラフィンの吸着が促進される温度条件と吸着が促進されにくい温度条件とに制御した際の吸着脱離反応部7出口側のそれぞれの誘電率と、脱水素反応部8における燃料温度を脱水素反応が異なる複数の温度条件に制御した際の脱水素反応部8出口側のそれぞれの誘電率と、を用いて燃料性状を推定する。これによって、吸着脱離反応部7及び脱水素反応部8の反応が変化し、誘電率が変化するので、燃料内の各成分の比率を推定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料性状推定装置及び燃料性状推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料の性状を計測し、構成する燃料成分を特定する方法としては、例えば特許文献1のように、燃料の炭素数が大きくなるに従い誘電率が大きくなるという性質を用いて、燃料が重質油であるか軽質油であるかを判定するようにしたものが従来から知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平4−8956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ガソリンや軽油といった多成分燃料では、大きく分けてパラフィン系、ナフテン系、オレフィン系、アロマ系と分かれており、それぞれの成分毎に誘電率が違うため、ガソリンと軽油といった大きな差を計測はできても燃料内の各成分の比率を推定することができないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明の燃料性状推定装置は、燃料内の特定成分を吸着もしくは脱離可能な吸着・脱離手段及び燃料改質を行う燃料改質手段の上流側における燃料の誘電率と、吸着・脱離手段における燃料温度を燃料内の特定成分の吸着が促進される温度条件と吸着が促進されにくい温度条件とに制御した際の吸着・脱離手段出口側におけるそれぞれの誘電率と、燃料改質手段における燃料温度を燃料改質反応が異なる複数の温度条件に制御した際の燃料改質手段出口側におけるそれぞれの誘電率と、を用いて燃料性状を推定することを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、吸着・脱離手段及び燃料改質手段における燃料温度を個別に変化させることで、吸着・脱離手段及び燃料改質手段における反応が個別に変化し、燃料の誘電率が変化するので、燃料性状、すなわち燃料内の各成分の比率を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】燃料性状推定装置としての燃料センサを模式的に示した説明図。
【図2】燃料センサを用いた軽油の燃料性状推定の手順を模式的に示した説明図。
【図3】n−パラフィン、iso−パラフィン、ナフテン及びアロマにおける比誘電率と炭素数との相関を示した特性図。
【図4】燃料センサを用いたガソリンの燃料性状推定の手順を模式的に示した説明図。
【図5】水、エタノール及びガソリンにおける比誘電率の温度依存性を示した特性線図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0009】
図1は、燃料性状推定装置としての燃料センサ1を模式的に示した説明図である。
【0010】
燃料センサ1は、マイクロマシニング技術によって例えば1cm四方の微小な矩形チップに作製されたものであって、一方向に燃料が流れる流路としての燃料通路2と、燃料通路2の上流端の周囲に設けられ、燃料通路2に導入された燃料を気化させるために加熱する気化手段としての加熱ヒータ3と、燃料通路2内の誘電率を検知する誘電率測定手段としての第1電極4、第2電極5、第3電極5と、を有している。尚、この燃料センサ1は、炭化水素系燃料の燃料性状の推定に用いるものである。
【0011】
燃料通路2は、燃料内の特性成分としてn−パラフィンを吸着もしくは脱離可能な触媒が塗布された吸着・脱離手段として吸着脱離反応部7と、脱水素反応による燃料改質を行う触媒が塗布された燃料改質手段としての脱水素反応部8と、有している。脱水素反応部8は、吸着脱離反応部7の下流側に位置している。
【0012】
第1電極4は、加熱ヒータ3と吸着脱離反応部7との間に配置され、吸着脱離反応部7の入口側の誘電率を測定する。第2電極5は、吸着脱離反応部7と脱水素反応部8との間に配置され、吸着脱離反応部7の出口側の誘電率を測定する。換言すれば、第2電極5は、脱水素反応部8の入口側の誘電率を測定する。第3電極6は、脱水素反応部8の下流側に配置され、脱水素反応部8の出口側の誘電率を測定する。
【0013】
そして、吸着脱離反応部7に隣接して、吸着脱離反応部7における燃料の温度を制御する第1温度制御手段としての第1温度ヒータ9、9が配置されている。
【0014】
また、脱水素反応部8に隣接して、脱水素反応部8における燃料の温度を制御する第2温度制御手段としての第2温度ヒータ10が配置されている。
【0015】
このような燃料センサ1は、例えば、燃料タンク(図示せず)の中または燃料配管(図示せず)の中に設置され、ポンプ(図示せず)はまたポンプによる流れ場の中に設置される。
【0016】
そして、吸着脱離反応部7及び脱水素反応部8における触媒の作用を第1温度ヒータ9、9及び第2温度ヒータ10によって制御し、着脱離反応部7及び脱水素反応部8の入口側及び出口側の誘電率を用いて、後述するように燃料に含まれる成分を推定する。
【0017】
尚、加熱ヒータ3、第1温度ヒータ9、9及び第2温度ヒータ10の温度制御は、図示せぬコントロールユニットによって行なわれる。また、燃料に含まれる成分の推定結果は、具体的には、測定された誘電率が入力された前記コントロールユニット内の演算処理(後述)により得られものである。
【0018】
吸着脱離反応部7において、燃料温度が低温域では燃料内のn−パラフィンが吸着され、燃料温度が高温域では吸着されたn−パラフィンが脱離する。脱水素反応部8において、燃料温度が低温域では主として燃料内のナフテンが脱水素反応を起こし、燃料温度が中温域では燃料内のn−パラフィンやオレフィンも脱水素反応を起こし、燃料温度が高温域では燃料内のiso−パラフィンも脱水素反応を起こす。以上のプロセスを経て各温度条件での反応の進行を誘電率で見ることで、燃料内のおおよその成分と炭素の数を推定することができる。
【0019】
すなわち、吸着脱離反応部7の入口側から脱水素反応部8の出口側に至る燃料温度変化プロセスを複数設定し、各燃料温度変化プロセス毎に各電極4、5、6における誘電率を測定することで、燃料内のおおよその成分と各成分の炭素の数を推定することができる。
【0020】
図2は、上述した燃料センサ1を用いた軽油の燃料性状推定の手順を模式的に示した説明図である。燃料が軽油の場合には、軽油のおおよその成分であるn−パラフィン(n−パラフィン系)、iso−パラフィン(iso−パラフィン系)、ナフテン(ナフテン系)及びアロマ(芳香族系)の比率と、炭素数(カーボンナンバー)を推定する。ここで、図2の縦軸は燃料の誘電率、図2の横軸は誘電率の測定位置であり、図2おけるXは第1電極4の位置、Yは第2電極5の位置、Zは第3電極6の位置を示すものである。
【0021】
図3は、n−パラフィン、iso−パラフィン、ナフテン及びアロマにおける比誘電率と、炭素数(Carbon Number)との相関を示したものである。図3から明らかなように、n−パラフィンとiso−パラフィンとは特性が類似しているため両者を判別することは難しいが、n−パラフィンは非常に吸着されやすい性質をもっている。そこで、n−パラフィンの吸着されやすい性質と、脱水素反応による燃料改質を組み合わせることで、燃料内の成分比率と炭素数を推定する。
【0022】
図2に示すように、吸着脱離反応部7での燃料温度が低い場合(例えば200℃)、吸着脱離反応部7に燃料内のn−パラフィンが吸着されるため、燃料内のn−パラフィンの比率が大きくなるほど第2電極5により測定される誘電率は高くなる。
【0023】
吸着脱離反応部7での燃料温度が高い場合(例えば600℃)、吸着脱離反応部7に吸着されていたn−パラフィンが脱離することにより、燃料内のn−パラフィンが大きくなり、第2電極5により測定される誘電率は低くなる。
【0024】
次に、脱水素反応部8での燃料温度を低い場合(例えば300℃)、脱水素反応部8では燃料内のナフテンがアロマ(芳香族)に変化するため、燃料内のナフテンの比率が大きいほど第3電極6により測定される誘電率が高くなる。
【0025】
脱水素反応部8での燃料温度を高い場合(例えば600℃)、吸着脱離反応部7での燃料温度が低いと(例えば200℃)、脱水素反応部8では燃料内のナフテンやiso−パラフィンがアロマ(芳香族)に変化するため、燃料内のナフテンやiso−パラフィンの比率が大きいほど第3電極6により測定される誘電率が高くなる。
【0026】
脱水素反応部8での燃料温度を高い場合(例えば600℃)、吸着脱離反応部7での燃料温度が高いと(例えば600℃)、脱水素反応部8では燃料内のナフテン、n−パラフィン及びiso−パラフィンがアロマ(芳香族)に変化するため、燃料内のナフテン、n−パラフィン及びiso−パラフィンの比率が大きいほど第3電極6により測定される誘電率が高くなる。
【0027】
脱水素反応部8での燃料温度を中間温度の場合(例えば400℃)、吸着脱離反応部7での燃料温度が高いと(例えば600℃)、脱水素反応部8では燃料内のナフテンやn−パラフィンがアロマ(芳香族)に変化するため、燃料内のナフテンやn−パラフィンの比率が大きいほど第3電極6により測定される誘電率が高くなる。
【0028】
そこで、吸着脱離反応部7における燃料温度を200℃(Txy1=200℃)とするy1プロセスと、y1プロセス後に脱水素反応部8における燃料温度を600℃(Ty1z1=600℃)とするy1z1プロセスとからなる第1温度変化プロセスと、吸着脱離反応部7における燃料温度を200℃(Txy1=200℃)とするy1プロセスと、y1プロセス後に脱水素反応部8における燃料温度を300℃(Ty1z3=300℃)とするy1z3プロセスとからなる第2温度変化プロセスと、吸着脱離反応部7における燃料温度を600℃(Txy2=600℃)とするy2プロセスと、y2プロセス後に脱水素反応部8における燃料温度を600℃(Ty2z1=600℃)とするy2z1プロセスとからなる第3温度変化プロセスと、吸着脱離反応部7における燃料温度を600℃(Txy2=600℃)とするy2プロセスと、y2プロセス後に脱水素反応部8における燃料温度を400℃(Ty2z2=400℃)とするy2z2プロセスとからなる第4温度変化プロセスと、吸着脱離反応部7における燃料温度を600℃(Txy2=600℃)とy2プロセスと、y2プロセス後に脱水素反応部8における燃料温度を300℃(Ty2z3=600℃)とするy2z3プロセスとからなる第5温度変化プロセスの、計5通りの温度変化プロセスを設定し、各温度変化プロセス毎に、第1〜第3電極4、5、6における誘電率を測定することで、燃料内の成分の比率と各成分の炭素の数を推定する。
【0029】
尚、上記の第1温度変化プロセスと第2温度変化プロセスのみでも、n−パラフィン、iso−パラフィン、ナフテン及びアロマの比率をある程度推定することは可能である。
【0030】
以下に、導出式を示す。
【0031】
第1電極で測定される誘電率εxは、次式(1)のように表せる。
【0032】
(数1)
εx=Σ(Cnp×εnp(CN))+Σ(Cip×εip(CN))+Σ(Cna×εna(CN))+Σ(Car×εar(CN)) …(1)
ここで、(1)式におけるCnpは燃料内のn−パラフィンの濃度、εnp(CN)はn−パラフィンの誘電率、Cipは燃料内のiso−パラフィンの濃度、εip(CN)はiso−パラフィンの誘電率、Cnaは燃料内のナフテンの濃度、εna(CN)はナフテンの誘電率、Carは燃料内のアロマの濃度、εar(CN)はアロマの誘電率である。
【0033】
y1プロセス(吸着)により、n−パラフィンが吸着する。y1プロセスを経て第2電極5で測定される誘電率εy1は、次式(2)のように表せる。
【0034】
(数2)
εy1=Σ(Cip/(1+Cnp)×εip(CN))+Σ(Cna/(1+Cnp)×εna(CN))+Σ(Car/(1+Cnp)×εar(CN)) …(2)
y2プロセス(脱離)により、n−パラフィンが脱離する。y2プロセスを経て第2電極5で測定される誘電率εy2は、次式(3)のように表せる。
【0035】
(数3)
εy2=Σ(2・Cnp×εnp(CN))+Σ(Cip(1/(1+Cnp)−1/(1−Cnp))×εip(CN))+Σ(Cna(1/(1+Cnp)−1/(1−Cnp))×εna(CN))+Σ(Car(1/(1+Cnp)−1/(1−Cnp))×εar(CN)) …(3)
ここで、(3)式から(2)式を減じて(1)式を代入すると、次式(4)となる。
【0036】
(数4)
εy2−εy1=−2Cnp^3/(1−Cnp^2)×εx …(4)
これより、Cnpが求まる。
【0037】
ここでCnp、Cip、Cna及びCarは濃度なので、次式(5)が成立する。
【0038】
(数5)
Cnp+Cip+Cna+Car=1 …(5)
y1z3プロセスでは、吸着脱離反応部7で燃料内のn−パラフィンを吸着させながら、脱水素反応部8における燃料温度を低温としてナフテンだけが脱水素してアロマに変換している。y1z3プロセスを経て第3電極6で測定される誘電率εy1z3は、次式(6)により表される。
【0039】
(数6)
εy1z3=Σ(Cip/(1+Cnp+Cna)×εip(CN))+Σ(Car/(1+Cnp+Cna)×εar(CN)) …(6)
ここで(6)式から(2)式を減じることでCnaが求まる。
【0040】
y1z1プロセスでは、吸着脱離反応部7で燃料内のn−パラフィンを吸着させながら、脱水素反応部8における燃料温度を高温としてiso−パラフィンも脱水素する。y1z1プロセスを経て第3電極6で測定される誘電率εy1z1は、次式(7)により表される。
【0041】
(数7)
εy1z1=Σ(Car/(1+Cnp+Cna+Cip)×εar(CN)) …(7)
ここで(6)式から(7)式を減じることでCipが求まる。
【0042】
そして、最後に(5)式よりよりCarが算出される。
【0043】
得られたCnp、Cip、Cna、Carを(7)式に代入すると、Σεar(CN)が求まり、同様にして(6)よりΣεip(CN)、(2)式よりΣεna(CN)、(1)式よりΣεnp(CN)が求まる。
【0044】
n−パラフィン、iso−パラフィン、ナフテン、アロマの炭素数は、上述した図3のようなマップを参照することにより推定することができる。
【0045】
このように、燃料センサ1は、燃料の燃料性状、すなわち燃料内の各成分の比率を推定することができる。また、燃料内の各成分の比率と各成分の炭素数から燃料の着火特性を推定することも可能となる。
【0046】
尚、y2z1プロセスからy2z2、y2z3プロセスのデータを用いて、上記算出結果の検証を行っても良いし、各プロセスに転換効率が不明として、それを解く式として、それぞれのプロセスにて2つずつ式を用いて、各プロセスの転換効率を未知のパラメータとして算出することで、さらに精度良く算出することができる。また、得られた平均CNと成分比よりRON(オクタン価)の予測を行うことも可能である。
【0047】
図4は、上述した燃料センサ1を用いたガソリンの燃料性状推定の手順を模式的に示した説明図である。燃料がガソリンの場合には、ガソリンのおおよその成分であるn−パラフィン(n−パラフィン系)、iso−パラフィン(iso−パラフィン系)、ナフテン(ナフテン系)、アロマ(芳香族系)及びオレフィン(オレフィン系)の比率と、炭素数(カーボンナンバー)を推定する。
【0048】
前述した軽油の場合との差異は、燃料内にオレフィンが存在していることだが、上述した燃料が軽油の場合のときと同様のロジックでn−パラフィン、iso−パラフィン、ナフテン、アロマ及びオレフィンの比率(Cnp、Cip、Cna、Car、Cor)を推定することができる。具体的には、燃料ガソリンの場合、吸着脱離反応部7での燃料温度の設定は燃料が軽油の場合と同じであるが、脱水素反応部8での燃料温度を4段階(300℃、400℃、500℃、600℃)に設定する。
【0049】
すなわち、脱水素反応部8での燃料温度を低い場合(例えば300℃)、脱水素反応部8では燃料内のナフテンがアロマ(芳香族)に変化するため、燃料内のナフテンの比率が大きいほど第3電極6により測定される誘電率が高くなる。
【0050】
脱水素反応部8での燃料温度をやや低い場合(例えば400℃)、脱水素反応部8では燃料内のナフテンやオレフィンがアロマ(芳香族)に変化するため、燃料内のナフテンやオレフィンの比率が大きいほど第3電極6により測定される誘電率が高くなる。
【0051】
脱水素反応部8での燃料温度を高い場合(例えば600℃)、吸着脱離反応部7での燃料温度が低いと(例えば200℃)、脱水素反応部8では燃料内のナフテン、オレフィン及びiso−パラフィンがアロマ(芳香族)に変化するため、燃料内のナフテン、オレフィン及びiso−パラフィンの比率が大きいほど第3電極6により測定される誘電率が高くなる。
【0052】
脱水素反応部8での燃料温度を高い場合(例えば600℃)、吸着脱離反応部7での燃料温度が高いと(例えば600℃)、脱水素反応部8では燃料内のナフテン、オレフィン、n−パラフィン及びiso−パラフィンがアロマ(芳香族)に変化するため、燃料内のナフテン、オレフィン、n−パラフィン及びiso−パラフィンの比率が大きいほど第3電極6により測定される誘電率が高くなる。
【0053】
脱水素反応部8での燃料温度がやや高い場合(例えば500℃)、吸着脱離反応部7での燃料温度が高いと(例えば600℃)、脱水素反応部8では燃料内のナフテン、オレフィン及びn−パラフィンがアロマ(芳香族)に変化するため、燃料内のナフテン、オレフィン及びn−パラフィンの比率が大きいほど第3電極6により測定される誘電率が高くなる。
【0054】
尚、燃料がガソリンの場合、C4、C5等の超低CNが存在するため、RONの傾向が軽油の場合とは異なるので、RONの推定用に低級用のテーブルを持つ必要がある。
【0055】
また、燃料がGTLの場合は、軽油の中の部分的な成分がない場合なので燃料センサ1を用いて問題なく燃料の成分比率を推定可能である。
【0056】
ただし、エタノール混入ガソリンのような誘電率の大きな燃料が混入した場合には、特別な措置が必要である。すなわち、エタノールは炭化水素系燃料に対して誘電率が大きいため、他への与える影響が大きくなり、燃料推定精度が悪化する。そこで、この場合にはエタノールの濃度をあらかじめ推定しておき、計測を行うか、エタノールをエタノール分離膜などで分離してから測定する必要がある。
【0057】
また、燃料センサ1は、誘電率の温度依存性を利用して、第1電極4の測定値を用いて燃料内の炭化水素以外の成分の割合を推定することも可能である。
【0058】
すなわち、図5に示すような、水、エタノール及びガソリンの特性から、燃料内の炭化水素以外の高い誘電率の組成の成分として水やエタノールの割合を推定することも可能である。この場合には、加熱ヒータ3によって、第1電極4位置における燃料温度を変化させ、第1電極4位置における燃料温度と第1電極4で測定された誘電率との相関から燃料内の炭化水素以外の高い誘電率の組成の成分の割合を推定する。
【0059】
また、燃料内の成分の比率が判れば、燃料の種類を推定ことも可能となるので、燃料センサ1により、燃料の種類を推定することが可能であることが判る。すなわち、燃料センサ1により燃料がガソリンなのか軽油であるかといった燃料の種類の判定を行うことも可能である。
【0060】
上述した実施形態から把握し得る本発明の技術的思想について、その効果とともに列記する。
【0061】
(1) 燃料性状推定装置は、一方向に燃料が流れる流路と、前記流路内に設けられ燃料内の特定成分を吸着もしくは脱離可能な吸着・脱離手段と、前記流路内に前記吸着・脱離手段と直列に設けられ燃料改質を行う燃料改質手段と、前記吸着・脱離手段及び前記燃料改質手段の入口側及び出口側において燃料の誘電率を測定する誘電率測定手段と、前記吸着・脱離手段における燃料の温度を制御する第1温度制御手段と、前記燃料改質手段における燃料の温度を制御する第2温度制御手段と、を有し、前記吸着・脱離手段及び前記燃料改質手段の上流側における燃料の誘電率と、前記吸着・脱離手段における燃料温度を燃料内の特定成分の吸着が促進される温度条件と吸着が促進されにくい温度条件とに制御した際の前記吸着・脱離手段出口側におけるそれぞれの誘電率と、前記燃料改質手段における燃料温度を燃料改質反応が異なる複数の温度条件に制御した際の前記燃料改質手段出口側におけるそれぞれの誘電率と、を用いて燃料性状を推定する。吸着・脱離手段及び燃料改質手段における燃料温度を変化させることで、吸着・脱離手段及び燃料改質手段における反応が変化し、燃料の誘電率が変化する。これによって、燃料性状、すなわち燃料内の各成分の比率を推定することができる。
【0062】
(2) 前記(1)に記載の燃料性状推定装置は、推定された燃料性状から燃料の種類を推定する。燃料性状を推定することで、燃料がガソリンなのか軽油であるのかといった燃料の種類を推定することが可能となる。
【0063】
(3) 前記(1)または(2)に記載の燃料性状推定装置おいて、前記吸着・脱離手段及び前記燃料改質手段は、具体的には、前記流路に触媒を塗布することによってそれぞれ構成され、前記第1及び第2温度制御手段は、具体的には、前記流路の触媒が塗布された部分を加熱することが可能なものであって、触媒反応によって燃料の組成が変化する少なくとも2つ以上の温度条件で前記吸着・脱離手段及び前記燃料改質手段における燃料温度をそれぞれ制御している。
【0064】
(4) 前記(1)〜(3)のいずれかに記載の燃料性状推定装置おいて、前記燃料は、炭化水素系燃料であって、前記燃料改質手段は前記吸着・脱離手段の下流側に位置し、前記吸着・脱離手段の上流側に燃料を気化させるために加熱する気化手段を有する。これによって、前記吸着・脱離手段及び前記燃料改質手段には気化した状態の燃料が導入される。
【0065】
(5) 前記(1)〜(4)のいずれかに記載の燃料性状推定装置おいて、前記燃料改質手段における燃料改質反応は、具体的には、脱水素反応である。
【0066】
(6) 前記(1)〜(5)のいずれかに記載の燃料性状推定装置は、具体的には、マイクロマシニング技術を用いて作製されている。これによって、非常にコンパクトにかつ低コストで燃料性状推定装置を作製することができる。
【0067】
(7) 前記(1)〜(6)のいずれかに記載の燃料性状推定装置において、前記燃料は、具体的には、ガソリンや軽油を主たる成分とするものであって、前記誘電率測定手段により検知された誘電率を用い、燃料の主たる成分であるn−パラフィン、iso−パラフィン、ナフテン、オレフィン、アロマ等を推定し、かつ平均の炭素数を推定することで燃料の成分と燃料の着火特性を推定する。
【0068】
(8) 前記(1)〜(7)のいずれかに記載の燃料性状推定装置において、前記吸着・脱離手段の上流側に、誘電率の温度依存性から炭化水素以外の高い誘電率の組成の成分の割合を推定する性状割合推定手段を有する。これによって、燃料内に水やエタノール等の誘電率の高い成分が混入している場合であっても、精度良く燃料の性状を推定することができる。
【0069】
(9) 前記(1)〜(7)のいずれかに記載の燃料性状推定装置において、前記吸着・脱離手段の上流側に、誘電率の温度依存性から炭化水素以外の高い誘電率の組成の成分としてエタノールの割合を推定すると共に、前記燃料からエタノール成分を分離するエタノール検知分離手段を有する。これによって、エタノール混入ガソリンのような誘電率の大きな燃料が混入した場合でも、燃料推定精度が悪化してしまうことを防止することができる。
【0070】
(10) 燃料性状推定方法は、燃料が一方向に流れる流路内に、燃料の特定成分を吸着もしくは脱離可能な吸着・脱離手段と、前記吸着・脱離手段と直列に設けられ燃料改質を行う燃料改質手段とが設けられ、第1温度制御手段により前記吸着・脱離手段における燃料の温度を制御し、第2温度制御手段により前記燃料改質手段における燃料の温度を制御し、前記吸着・脱離手段及び前記燃料改質手段の上流側における燃料の誘電率と、前記吸着・脱離手段における燃料温度を燃料内の特定成分の吸着が促進される温度条件と吸着が促進されにくい温度条件とに制御した際の前記吸着・脱離手段出口側におけるそれぞれの誘電率と、前記燃料改質手段における燃料温度を燃料改質反応が異なる複数の温度条件に制御した際の前記燃料改質手段出口側におけるそれぞれの誘電率と、を用いて燃料性状を推定する。
【符号の説明】
【0071】
1…燃料センサ
2…燃料通路
3…加熱ヒータ
4…第1電極
5…第2電極
6…第3電極
7…吸着脱離反応部
8…脱水素反応部
9…第1温度ヒータ
10…第2温度ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に燃料が流れる流路と、前記流路内に設けられ燃料内の特定成分を吸着もしくは脱離可能な吸着・脱離手段と、前記流路内に前記吸着・脱離手段と直列に設けられ燃料改質を行う燃料改質手段と、前記吸着・脱離手段及び前記燃料改質手段の入口側及び出口側において燃料の誘電率を測定する誘電率測定手段と、前記吸着・脱離手段における燃料の温度を制御する第1温度制御手段と、前記燃料改質手段における燃料の温度を制御する第2温度制御手段と、を有し、
前記吸着・脱離手段及び前記燃料改質手段の上流側における燃料の誘電率と、
前記吸着・脱離手段における燃料温度を燃料内の特定成分の吸着が促進される温度条件と吸着が促進されにくい温度条件とに制御した際の前記吸着・脱離手段出口側におけるそれぞれの誘電率と、
前記燃料改質手段における燃料温度を燃料改質反応が異なる複数の温度条件に制御した際の前記燃料改質手段出口側におけるそれぞれの誘電率と、を用いて燃料性状を推定することを特徴とする燃料性状推定装置。
【請求項2】
推定された燃料性状から燃料の種類を推定することを特徴とする請求項1に記載の燃料性状推定装置。
【請求項3】
前記吸着・脱離手段及び前記燃料改質手段は、前記流路に触媒を塗布することによってそれぞれ構成され、
前記第1及び第2温度制御手段は、前記流路の触媒が塗布された部分を加熱することが可能なものであって、触媒反応によって燃料の組成が変化する少なくとも2つ以上の温度条件で前記吸着・脱離手段及び前記燃料改質手段における燃料温度をそれぞれ制御していることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料性状推定装置。
【請求項4】
前記燃料は、炭化水素系燃料であって、前記燃料改質手段は前記吸着・脱離手段の下流側に位置し、
前記吸着・脱離手段の上流側に燃料を気化させるために加熱する気化手段を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の燃料性状推定装置。
【請求項5】
前記燃料改質手段における燃料改質反応は脱水素反応であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の燃料性状推定装置。
【請求項6】
マイクロマシニング技術を用いて作製されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の燃料性状推定装置。
【請求項7】
前記燃料は、ガソリンや軽油を主たる成分とするものであって、前記誘電率測定手段により検知された誘電率を用い、燃料の主たる成分であるn−パラフィン、iso−パラフィン、ナフテン、オレフィン、アロマ等を推定し、かつ平均の炭素数を推定することで燃料の成分と燃料の着火特性を推定することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の燃料性状推定装置。
【請求項8】
前記吸着・脱離手段の上流側に、誘電率の温度依存性から炭化水素以外の高い誘電率の組成の成分の割合を推定する性状割合推定手段を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の燃料性状推定装置。
【請求項9】
前記吸着・脱離手段の上流側に、誘電率の温度依存性から炭化水素以外の高い誘電率の組成の成分としてエタノールの割合を推定すると共に、前記燃料からエタノール成分を分離するエタノール検知分離手段を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の燃料性状推定装置。
【請求項10】
燃料が一方向に流れる流路内に、燃料の特定成分を吸着もしくは脱離可能な吸着・脱離手段と、前記吸着・脱離手段と直列に設けられ燃料改質を行う燃料改質手段とが設けられ、第1温度制御手段により前記吸着・脱離手段における燃料の温度を制御し、第2温度制御手段により前記燃料改質手段における燃料の温度を制御し、前記吸着・脱離手段及び前記燃料改質手段の上流側における燃料の誘電率と、前記吸着・脱離手段における燃料温度を燃料内の特定成分の吸着が促進される温度条件と吸着が促進されにくい温度条件とに制御した際の前記吸着・脱離手段出口側におけるそれぞれの誘電率と、前記燃料改質手段における燃料温度を燃料改質反応が異なる複数の温度条件に制御した際の前記燃料改質手段出口側におけるそれぞれの誘電率と、を用いて燃料性状を推定することを特徴とする燃料性状推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−169549(P2010−169549A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−12670(P2009−12670)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】