説明

燃料製造システム及び燃料の製造方法

【課題】ランニングコスト及び設備コストを低減し、かつ、効率的にバイオマス燃料を得られる燃料製造システム及び燃料の製造方法。
【解決手段】多糖類系バイオマスを亜臨界水又は超臨界水で加水分解する第一の分解装置20と、前記多糖類系バイオマスを前記第一の分解装置20で加水分解した分解液を断熱膨張する第一の断熱膨張装置30と、前記第一の断熱膨張装置30で断熱膨張した分解液を発酵する第一の発酵装置40とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料製造システム及び燃料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策やエネルギーセキュリティの観点から、バイオエタノール等のバイオマス燃料に関する関心が高まっている。世界的には、例えば、サトウキビのような糖質や、トウモロコシのようなデンプン質原料から、バイオエタノールの商業生産が既に行われている。また、例えば、サトウキビやトウモロコシ等の食料、飼料と競合しない非可食部のエタノール原料の確保を目指し、デンプンやセルロース等の多糖類系バイオマスの中で、地球上に最も多量に存在するリグノセルロースから製造されるバイオマス燃料が注目され、その研究開発がなされている。
【0003】
バイオマス燃料の製造は、多糖類系バイオマスを単糖又はオリゴ糖に加水分解した後、酵母等の微生物発酵により、エタノール、ブタノール、メタン等の燃料とするのが一般的である。
多糖類系バイオマスを加水分解するには、酵素加水分解法、酸加水分解法、亜臨界水又は超臨界水による加水分解方法(以下、臨界水分解法ということがある)等が知られている。
【0004】
酵素加水分解法は、セルラーゼ等の酵素を用いて、多糖類系バイオマスを単糖に変換する方法である。酵素加水分解法は、加水分解物の過分解がなく、環境負荷が少ないという利点がある。その一方で、加水分解の反応速度が遅く、反応速度を上げるには多量の酵素を使用することとなる。加えて、酵素加水分解法では、原料の構造を加水分解しやすいものに変えるため、アルカリ蒸解、爆砕、微粉砕、亜臨界水処理、超臨界水処理等の前処理が必要となる。このため、経済面、製造効率の面から工業的な製造方法としては課題がある。
酸加水分解法には、希硫酸法、濃硫酸法がある。希硫酸法は、加水分解時の反応温度及び圧力が高いこと、硫酸による製造装置の腐食、加水分解後の硫酸除去等の問題がある。濃硫酸法では、希硫酸法に比べ反応温度及び圧力を低くできるものの、反応時間が速く、制御が難しいこと、加水分解後の硫酸回収コストが大きい等の問題がある。
臨界水分解法は、亜臨界水又は超臨界水を溶媒とし、亜臨界水又は超臨界水の加圧熱水自体が持つ高い加水分解能を利用し、多糖類を単糖又はオリゴ糖に分解するものである。臨界水分解法は、硫酸等の触媒を用いないため環境負荷が小さいという利点を有する。加えて、反応時間が数秒〜数分と短いため、装置コストが低く、経済的な加水分解方法として注目されている。
【0005】
臨界水分解法は、経済的かつ生産性の高い加水分解法であるが、加水分解速度が速いために、多糖類系バイオマスを分解する場合、できるだけ速やかに加水分解反応を停止する必要がある。加水分解反応を速やかに停止できないと、加水分解反応により生成した単糖又はオリゴ糖はさらに加水分解が進み、過分解物となり、目的とする糖類の収率が低下する。加えて、単糖又はオリゴ糖の過分解物、例えば、フルフラール、5−ヒドロキシメチルフラール(5−HMF)等は、その後の微生物発酵を阻害するという問題がある。このため、過分解の進行は、バイオマス燃料の収率低下を引き起こす。このような問題は、リグノセルロースを原料とするバイオマス燃料の製造において顕著である。
【0006】
リグノセルロースは、グルコースで構成される結晶質のセルロースと、キシロース、アラビノース、マンノース、グルコース等で構成される非晶質のヘミセルロースと、フェノール性の高分子化合物で構成されるリグニンとの複合体である。リグノセルロースを加水分解するにあたっては、結晶質と非晶質との違いに由来する多糖類の過分解の問題がある。
この点について、図5を用いて説明する。図5は、横軸に加水分解温度をとり、縦軸に全糖の収率(糖収率)をとったグラフである。
まず、試料である木粉(平均粒径25μm)と水とを反応容器に入れてスラリーとし、空気をアルゴンで置換した後、該スラリーを20MPaに加圧した。次いで、前記スラリーが入った前記反応容器を恒温バス中で5分間加熱し、分解液とした。その後、分解液中の全糖量(単糖とオリゴ糖の合計量)をHPLCで測定した。図5中、全糖量は、試料の質量を100質量%とし、測定した全糖量を糖収率(質量%)として算出した。同様の操作を180〜360℃の範囲で、加水分解温度を変えて行った。
図5に示すように、ヘミセルロース由来のキシロースやマンノース等の単糖類及びキシロオリゴ糖等のオリゴ糖類は、加水分解温度180℃を中心に糖収率が高い。一方、セルロース由来のグルコース及びセロオリゴ糖は、加水分解温度270℃を中心に糖収率が高い。このようにヘミセルロースとセルロースとは、その加水分解温度が大きく異なる。
【0007】
このため、非晶質のヘミセルロースは比較的温和な条件(低い温度)で容易に加水分解され、単糖又はオリゴ糖に分解するのに対し、結晶質のセルロースはヘミセルロースよりも高い圧力、高い温度又は長い反応時間で加水分解する。従って、リグノセルロースに含まれるセルロースとヘミセルロースを同じ条件下で加水分解しようとすると、次のような問題がある。加水分解条件をヘミセルロースに適する条件とすると、セルロースを加水分解するために反応時間を長くする必要がある。反応時間を長くすると、加水分解されやすいヘミセルロースはさらに加水分解が進み、過分解物を生じやすくなる。また、セルロースに適する加水分解条件とすると、加水分解されやすいヘミセルロースは過分解物になりやすい。
従って、ヘミセルロースの加水分解に適切な条件と、セルロースの加水分解に適切な条件下での二段階で加水分解を行い、かつ、それぞれの加水分解反応を過分解物が生じる前に速やかに停止する必要がある。
【0008】
こうした問題に対し、リグノセルロースから有用な単糖又はオリゴ糖を効率的に製造するための臨界水分解法が提案されている。
例えば、特許文献1〜3では、亜臨界水又は超臨界水で多糖類を加水分解した後、冷却水と接触させて加水分解反応を停止する方法が提案されている。また、例えば、特許文献4では、キノン類化合物の存在下で、多糖類物質を臨界水分解法により加水分解する方法が提案されている。また、例えば、特許文献5には、多糖類系バイオマスをセルロース溶剤中でセルロースを非晶化した後、加水分解を行うことで、セルロースとヘミセルロースとを同じ条件下で加水分解する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3042076号公報
【特許文献2】特開2001−262162号公報
【特許文献3】特許第3041380号公報
【特許文献4】特開2005−40025号公報
【特許文献5】特開2006−223152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1〜3の技術では、冷却に必要な冷却水が多量に必要であることに加え、高温高圧用の熱交換器等の設備コストが増大するという問題がある。また、特許文献4の技術では、薬剤使用によるランニングコストがかかることに加え、多量の冷却水を用いて冷却することから高温高圧用の熱交換器等の設備コストが増大するという問題がある。また、特許文献5の技術では、セルロースとヘミセルロースとを同一条件で加水分解できるものの、溶剤使用によるランニングコストがかかる。加えて、バイオマス燃料の製造には、さらなる製造効率の向上が求められている。
そこで、本発明は、ランニングコスト及び設備コストを低減し、かつ、効率的にバイオマス燃料を得られる燃料製造システム及び燃料の製造方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の燃料製造システムは、多糖類系バイオマスを亜臨界水又は超臨界水で加水分解する第一の分解装置と、前記多糖類系バイオマスを前記第一の分解装置で加水分解した分解液を断熱膨張する第一の断熱膨張装置と、前記第一の断熱膨張装置で断熱膨張した分解液を発酵する第一の発酵装置とを有することを特徴とする。
さらに、前記第一の分解装置で加水分解した分解液を固液分離し、分離した液体を前記第一の断熱膨張装置に送る第一の固液分離装置と、前記第一の固液分離装置で分離した固体を亜臨界水又は超臨界水で加水分解する第二の分解装置と、前記固体を前記第二の分解装置で加水分解した再分解液を断熱膨張する第二の断熱膨張装置と、前記第二の断熱膨張装置で断熱膨張した再分解液を発酵する第二の発酵装置とを有してもよく、前記第一の断熱膨張装置で断熱膨張した分解液を固液分離し、分離した液体を前記第一の発酵装置に送る第二の固液分離装置と、前記第二の固液分離装置で分離した固体を亜臨界水又は超臨界水で加水分解する第二の分解装置と、前記固体を前記第二の分解装置で加水分解した再分解液を断熱膨張する第二の断熱膨張装置と、前記第二の断熱膨張装置で断熱膨張した再分解液を発酵する第二の発酵装置とを有してもよい。
前記第一の断熱膨張装置での発生蒸気及び断熱膨張した分解液の熱エネルギーを前記第一の分解装置の熱源とすることが好ましく、前記第二の断熱膨張装置での発生蒸気及び分解液の熱エネルギーを前記第一の分解装置又は第二の分解装置の熱源とすることが好ましい。
【0012】
本発明の燃料の製造方法は、多糖類系バイオマスを亜臨界水又は超臨界水で加水分解し分解液を得る第一の分解工程と、前記分解液を断熱膨張する第一の断熱膨張工程と、前記第一の断熱膨張工程で断熱膨張した分解液を発酵する第一の発酵工程とを有することを特徴とする。
前記第一の分解工程で得られた分解液を固液分離する第一の分離工程と、前記第一の分離工程で分離した固体を亜臨界水又は超臨界水で加水分解して再分解液を得る第二の分解工程と、前記再分解液を断熱膨張する第二の断熱膨張工程と、前記第二の断熱膨張工程で断熱膨張した前記再分解液を発酵する第二の発酵工程とを有し、前記第一の断熱膨張工程は、前記第一の分離工程で分離した液体を断熱膨張してもよく、前記第一の断熱膨張工程で断熱膨張した分解液を固液分離する第二の分離工程と、前記第二の分離工程で分離した固体を亜臨界水又は超臨界水で加水分解して再分解液を得る第二の分解工程と、前記再分解液を断熱膨張する第二の断熱膨張工程と、前記第二の断熱膨張工程で断熱膨張した前記再分解液を発酵する第二の発酵工程とを有し、前記第一の発酵工程は、前記第二の分離工程で分離した液体を発酵してもよい。
前記多糖類系バイオマスは、セルロース及びヘミセルロースを含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ランニングコスト及び設備コストを低減し、かつ、バイオマス燃料の製造効率の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第一の実施形態にかかる燃料製造システムを示す模式図である。
【図2】本発明の第二の実施形態にかかる燃料製造システムを示す模式図である。
【図3】本発明の第三の実施形態にかかる燃料製造システムを示す模式図である。
【図4】本発明の第四の実施形態にかかる燃料製造システムを示す模式図である。
【図5】ヘミセルロース及びセルロースの加水分解温度と糖収率との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第一の実施形態)
<燃料製造システム>
本発明の第一の実施形態について、図1を用いて説明する。図1は、本発明の第一の実施形態にかかる燃料製造システム1の模式図である。図1に示すように、燃料製造システム1は、第一の分解装置20と第一の断熱膨張装置30と第一の発酵装置40とを有する。
第一の分解装置20は、混合装置12と接続されている。混合装置12は、粉砕装置10及び水供給源14と接続されている。第一の分解装置20は、圧力調整バルブ32を介して第一の断熱膨張タンク34と接続されている。第一の断熱膨張タンク34は圧力調整バルブ36を介して第一の発酵装置40と接続されている。第一の断熱膨張装置30は、圧力調整バルブ32、第一の断熱膨張タンク34とで構成されている。
【0016】
粉砕装置10は、多糖類系バイオマスを粉砕する装置であり、多糖類系バイオマスの種類に応じて決定できる。例えば、粉砕装置10としては、公知の粉砕機、ボールミル等が挙げられ、これらを組み合わせてもよい。
【0017】
混合装置12は、粉砕装置10で粉砕された多糖類系バイオマスと水供給源14から供給された水とを混合し、多糖類系バイオマス由来の多糖類を含むスラリー液(以下、原料スラリーということがある)を調製する装置である。混合装置12は、多糖類系バイオマスの粉砕物と水とを混合できるものであれば特に限定されず、攪拌機付きタンクやニーダー等の公知の混合装置を用いることができる。
【0018】
第一の分解装置20は、混合装置12で調製した原料スラリーを加圧及び加熱して原料スラリー中の水を亜臨界状態又は超臨界状態とし、原料スラリー中の多糖類を加水分解するものである。第一の分解装置20としては、公知の装置を用いることができ、例えば、耐熱性と耐圧性を備える容器と、その外周部に設けられた加熱用のヒーター等と、前記容器内の原料スラリーを加圧するポンプとを備えたもの(バッチ型)が挙げられる。あるいは、原料スラリーを加圧するポンプと、円筒状の配管やコイル状のチューブの外周部に加熱用のヒーター等が設けられた反応器とを備えたもの(連続型)が挙げられる。第一の分解装置20は、バッチ式、連続式等のいずれの装置を用いることができる。
【0019】
第一の断熱膨張装置30は、原料スラリーを第一の分解装置20で処理して得られた分解液を断熱膨張(フラッシュ蒸発)する装置である。
圧力調整バルブ32は、特に限定されず、公知の圧力調整バルブを用いることができる。第一の断熱膨張タンク34は、特に限定されず、公知の断熱膨張タンクを用いることができる。
圧力調整バルブ36は、特に限定されず、公知の圧力調整バルブを用いることができる。
【0020】
第一の発酵装置40は、分解液を酵母等により微生物発酵できるものであれば特に限定されず、公知の恒温槽等を用いることができる。
【0021】
<燃料の製造方法>
本実施形態における燃料の製造方法について、図1を用いて説明する。
まず、多糖類系バイオマスを粉砕装置10にて粉砕する。粉砕した多糖類系バイオマスを混合装置12に投入する。水供給源14から混合装置12に任意の量の水を供給し、水と粉砕した多糖類系バイオマスとを混合して原料スラリーを調製する。原料スラリーを第一の分解装置20に供給し、原料スラリー中の水が亜臨界状態又は超臨界状態となるように、加圧及び加熱を行う。この間、原料スラリー中の多糖類が亜臨界水又は超臨界水の加水分解作用により加水分解され、単糖及び/又はオリゴ糖となる。こうして、単糖及び/又はオリゴ糖を含む分解液が得られる(第一の分解工程)。
【0022】
次いで、分解液を圧力調整バルブ32で任意の圧力まで減圧し、第一の断熱膨張タンク34に流入させる。この際、亜臨界状態又は超臨界状態であった分解液は、断熱膨張することで圧力及び温度が低下し、亜臨界状態及び超臨界状態を維持できなくなる。こうして、分解液中の水の亜臨界状態及び超臨界状態を解除することで、多糖類の加水分解反応を停止する。加水分解反応が停止した分解液は、圧力調整バルブ36に送られる間に、大気への熱放出等により、例えば30〜60℃程度に冷却される。冷却された分解液は、圧力調整バルブ36により任意の圧力まで減圧される(第一の断熱膨張工程)。
【0023】
第一の断熱膨張工程で断熱膨張した分解液を第一の発酵装置40に送り、酵母等の微生物を用い発酵する(第一の発酵工程)。その後、常法に従い精製し、燃料(バイオマス燃料)を得ることができる。
【0024】
多糖類系バイオマスは、セルロース、ヘミセルロース、デンプン等の多糖類を含むものであれば特に限定されない。多糖類系バイオマスとしては、例えば、主にセルロース、ヘミセルロース、リグニンを含む材料である針葉樹、広葉樹等の木質系資源や、笹、竹、バガス、稲わら、籾殻、麦わら等の農林産物資源、木材、木材チップ、パルプ類、古紙等の加工品、及びこれらの廃棄物、主にデンプンを含む材料である米、小麦、大麦、サツマイモ、トウモロコシ等の澱粉質原料及びこれらの廃棄物等が挙げられる。
【0025】
多糖類系バイオマスの粉砕の程度は、その種類に応じて決定することが好ましい。例えば、多糖類系バイオマスとして木材チップを用いる場合には、粉砕機で数ミリ程度に粉砕した後、ボールミルで1mm以下に微粉砕することが好ましい。このような微粉とすることで、加水分解の対象である多糖類と亜臨界水又は超臨界水とが容易に接触でき、効率的に加水分解できるためである。
【0026】
第一の分解工程における加水分解の温度条件は、原料スラリー中の水を亜臨界状態又は超臨界状態(374℃以上)とする温度である。加水分解の温度条件は、加水分解の対象とする多糖類に応じて適宜決定することができ、例えば、ヘミセルロースを加水分解の対象とする場合には、140〜180℃の範囲で決定することが好ましい。また、例えば、セルロースを加水分解の対象とする場合には、160〜350℃の範囲で決定することが好ましい。温度条件を上記範囲内とすることで、多糖類を単糖又はオリゴ糖に加水分解し、かつ過分解を防止できる。
【0027】
第一の分解工程における加水分解の圧力条件は、原料スラリー中の水を亜臨界状態又は超臨界状態(22MPa以上)とする圧力である。加水分解の圧力条件は、加水分解の対象とする多糖類に応じて適宜決定することができ、例えば、ヘミセルロースを加水分解の対象とする場合には、10〜25MPaの範囲で決定することが好ましい。また、例えば、セルロースを加水分解の対象とする場合には、10〜30MPaの範囲で決定することが好ましい。圧力条件を上記範囲内とすることで、多糖類を単糖又はオリゴ糖に加水分解し、かつ過分解を防止できる。
【0028】
第一の分解工程における加水分解の時間(第一の分解装置20への原料スラリーの滞留時間)は、加水分解の圧力条件、温度条件及び原料スラリー中の多糖類の種類を勘案して決定でき、例えば、1秒間〜10分間の範囲で決定することが好ましい。加水分解の時間が短いと、多糖類の加水分解が不十分となる。加水分解の時間が長いと、単糖又はオリゴ糖の過分解物(フルフラール、5−HMF等)の生成量が増大するためである。
【0029】
第一の断熱膨張工程における断熱膨張の条件は、分解液中の単糖及びオリゴ糖の加水分解を停止できるものであればよく、多糖類系バイオマスに含まれる多糖類の種類に応じて決定できる。また、断熱膨張時の分解液の温度は、断熱膨張時の圧力の飽和温度まで低下する。このため、断熱膨張の条件、即ち、圧力調整バルブ32における減圧の程度は、所望する断熱膨張後の分解液の温度に応じ決定することができ、例えば、分解液を0.1〜25MPaの範囲とすることが好ましく、0.1〜20MPaがより好ましい。上記範囲内とすることで、分解液の加水分解反応を停止し、所望の温度とすることができる。
ここで、断熱膨張における水の蒸発量は、下記(1)式により算出できる。(1)式中、「加水分解後」とは、加水分解後、断熱膨張前の分解液を意味する。
【0030】
【数1】

【0031】
例えば、25MPa、180℃の分解液を0.1MPa、100℃で断熱膨張させた場合の蒸発率は15.8質量%である。また、例えば、15MPa、180℃の分解液を0.1MPa、100℃で断熱膨張させた場合の蒸発率は15.6質量%である。このように、亜臨界状態又は超臨界状態となっている分解液は、断熱膨張で発生する蒸気量が少ないため、急速に断熱膨張しても分解液が飛散せず、水が安定して蒸発して、温度が低下する。
【0032】
圧力調整バルブ36における減圧の程度は、第一の発酵工程を勘案して決定することができ、例えば、大気圧(0.1MPa)程度とすることが好ましい。
【0033】
第一の発酵工程における発酵方法は、分解液中の単糖又はオリゴ糖の種類を勘案し、目的とする燃料に応じ、公知の方法を用いることができる。本発明において製造する燃料は特に限定されず、例えば、エタノール、ブタノール等のアルコール類、メタン等の合成ガスが挙げられる。
【0034】
上述したとおり、本実施形態によれば、第一の分解工程を経た分解液中の水の亜臨界状態及び超臨界状態を第一の断熱膨張工程により解除できる。断熱膨張は、瞬時にして分解液の亜臨界状態及び超臨界状態を解除できるため、水冷等よりも速やかに加水分解反応を停止できる。このため、単糖又はオリゴ糖の過分解を防止できると共に、目的とする単糖又はオリゴ糖まで十分に加水分解できる。そして、得られた分解液には、過分解物であるフルフラール等が含まれていないため、その後の微生物発酵は円滑に進行する。さらに、得られた分解液は目的とする単糖及び/又はオリゴ糖の含有率が高いため、燃料の収率向上が図れる。この結果、効率的にバイオマス燃料を製造できる。
【0035】
本実施形態によれば、加水分解反応及び加水分解反応停止には、多量の冷却水や特段の薬剤を使用しないため、ランニングコストの低減が図れる。加えて、冷却水を用いる場合のように高温高圧用の熱交換器が不要であるため、設備コストを低減できる。
さらに、断熱膨張後の分解液には、酸加水分解法の硫酸等のように除去処理を要する薬剤が含まれず、その後の精製処理等が容易である。
【0036】
(第二の実施形態)
<燃料製造システム>
本発明の第二の実施形態について、図2を用いて説明する。図2は、本発明の第二の実施形態にかかる燃料製造システム100の模式図である。なお、第一の実施形態の燃料製造システム1と同一構成要素には同一符号を付して、その説明を省略し、異なる点について主に説明する。即ち、燃料製造システム100において、燃料製造システム1と異なる点は、第一の発酵装置40を第一の発酵装置50とした点である。
【0037】
第一の発酵装置50は、酵素分解槽52と発酵槽54とで構成されている。第一の断熱膨張タンク34は、圧力調整バルブ36を介して酵素分解槽52と接続されている。酵素分解槽52は発酵槽54と接続されている。
【0038】
酵素分解槽52は、断熱膨張後の分解液中のオリゴ糖を酵素分解により単糖にできるものであればよく、公知の恒温槽等を用いることができる。
発酵槽54は、オリゴ糖を単糖とした分解液を酵母等により微生物発酵できるものであれば特に限定されず、公知の恒温槽等を用いることができる。
【0039】
<燃料の製造方法>
燃料製造システム100では、第一の断熱膨張工程で断熱膨張した分解液を酵素分解槽52に送り、酵素反応により分解液中のオリゴ糖を単糖とする(第一の単糖化操作)。次いで、オリゴ糖を単糖化処理した分解液を発酵槽54に送り、酵母等の微生物を用い発酵する(第一の発酵操作)(以上、第一の発酵工程)。その後、常法に従い精製し、燃料を得ることができる。
【0040】
第一の単糖化操作は、特に限定されず、公知の酵素分解方法の中から、分解液中のオリゴ糖の種類に応じて選択することができる。例えば、オリゴ糖がセロオリゴ糖(セルロースの分解物)である場合、β−グルコシダーゼ等を用いた酵素分解方法が挙げられる。
【0041】
第一の発酵操作は、分解液中の単糖の種類を勘案し、目的とする燃料に応じ、公知の方法を用いることができる。
【0042】
本実施形態によれば、第一の単糖化操作により分解液中の単糖の含有率が向上する。このため、その後の第一の発酵操作において、効率的に微生物発酵が進み、燃料のさらなる収率向上が図れる。
【0043】
(第三の実施形態)
<燃料製造システム>
本発明の第三の実施形態について、図3を用いて説明する。図3は、本発明の第三の実施形態にかかる燃料製造システム200の模式図である。なお、第一の実施形態の燃料製造システム1と同一構成要素には同一符号を付して、その説明を省略し、異なる点について主に説明する。即ち、燃料製造システム200において、燃料製造システム1と異なる点は、熱再利用ライン210が設けられている点である。
【0044】
混合装置12は熱交換器212と接続され、熱交換器212は第一の加水分解装置20と接続されている。第一の断熱膨張タンク34は熱交換器214と接続され、熱交換器214は圧力調整バルブ36と接続されている。熱交換器212と熱交換器214とは、循環配管216により接続されている。循環配管216には、熱媒が流通されている。こうして、熱交換器212、214と循環配管216とで、熱再利用ライン210が構成されている。
【0045】
熱交換器212は、循環配管216内を流通する熱媒と、混合装置12で調製された原料スラリーとの熱交換により、原料スラリーを加熱できるものであれば特に限定されず、公知の熱交換器を用いることができる。
熱交換器214は、第一の断熱膨張装置30での断熱膨張で生じた蒸気及び断熱膨張後の分解液と、循環配管216内を流通する熱媒との熱交換により、熱媒を加熱できるものであれば特に限定されない。例えば、1つの熱交換器に蒸気と断熱膨張後の分解液とが流通するものであってもよいし、蒸気が流通する熱交換器と断熱膨張後の分解液が流通する熱交換器とを組み合わせたものであってもよいし、熱交換器と凝縮器を組み合わせたものであってもよい。
【0046】
<燃料の製造方法>
燃料製造システム200では、混合装置12で調製された原料スラリーを熱交換器212内に流通させる。原料スラリーは熱交換器212内を流通する間、任意の温度に加熱される。加熱された原料スラリーは、分解装置20に流入し加圧され、必要に応じさらに加熱され、亜臨界状態又は超臨界状態となる。こうして、原料スラリー中の多糖類は、単糖及び/又はオリゴ糖に分解され、分解液となる(第一の分解工程)。分解液は、第一の断熱膨張装置30により任意の圧力及び温度となり、加水分解反応が停止する(第一の断熱膨張工程)。断熱膨張により発生した蒸気及び加水分解反応が停止した分解液は、熱交換器214に流通され、循環配管216内の熱媒と熱交換され、任意の温度に冷却される。この間、断熱膨張により発生した蒸気は凝縮水となって分解液に取り込まれる。分解液は、圧力調整バルブ36に送られる間に、大気への熱放出等により、30〜60℃程度に冷却される。冷却された分解液は、圧力調整バルブ36により大気圧程度の圧力に調整された後、第一の発酵装置40に送られ、微生物発酵がなされる(第一の発酵工程)。一方、熱交換器214で熱を回収した熱媒は、循環配管216内を循環流通し、熱交換器212に送られる。こうして、熱媒は、断熱膨張により生じた熱を熱交換器214で回収し、熱交換器212で原料スラリーを加熱することで、第一の分解装置20の熱源として利用される。
【0047】
循環配管216内の熱媒は特に限定されず、例えば、水等を用いることができる。
熱交換器212の入口における熱媒の温度は、原料スラリーに含まれる多糖類の種類に応じて決定することができる。熱媒の温度が低いと、第一の分解装置20において原料スラリーを亜臨界状態又は超臨界状態にするための多くのエネルギーが必要となり、熱媒の温度が高すぎると原料スラリーの温度が高くなりすぎ、過分解物が生じるおそれがある。
【0048】
本実施形態において、第一の断熱膨張工程では蒸気の発生量が少ない。このため、第一の断熱膨張装置の後段に熱交換器を設けた場合であっても、分解液の飛散による伝熱面の汚れや、蒸気の流れの乱れによる伝熱障害を防止できる。そして、第一の熱再利用ラインを設けることで、第一の断熱膨張工程で発生した水蒸気及び分解液が保有する熱エネルギーを多糖類の加水分解に有効利用できる。この結果、燃料製造システム全体におけるエネルギー効率の向上が図れる。
【0049】
(第四の実施形態)
<燃料製造システム>
本発明の第四の実施形態について、図4を用いて説明する。図4は、本発明の第四の実施形態にかかる燃料製造システム300の模式図である。なお、第一の実施形態の燃料製造システム1、第二の実施形態の燃料製造システム100及び第三の実施形態の燃料製造システム200と同一構成要素には同一符号を付して、その説明を省略し、異なる点について主に説明する。
【0050】
燃料製造システム300は、第一の分解装置20、第一の固液分離装置360、第一の断熱膨張装置30及び第一の発酵装置50を有するシステム前段部302と、第二の分解装置320、第二の断熱膨張装置330及び第二の発酵装置350を有するシステム後段部304とで概略構成されている。
【0051】
システム前段部302は、粉砕装置10が混合装置12と接続され、混合装置12は水供給源14と接続されている。混合装置12は熱交換器212と接続され、熱交換器212は第一の分解装置20と接続されている。第一の分解装置20は第一の固液分離装置360と接続されている。第一の固液分離装置360は、圧力調整バルブ32を介して第一の断熱膨張タンク34と接続されていると共に、分岐配管361により混合装置306と接続されている。第一の断熱膨張タンク34は熱交換器214と接続され、熱交換器214は圧力調整バルブ36を介して酵素分解槽52と接続されている。酵素分解槽52は発酵槽54と接続されている。熱交換器212と熱交換器214とは、循環配管216により接続され、熱交換器212、熱交換器214及び循環配管216により第一の熱再利用ライン210が構成されている。圧力調整バルブ32と第一の断熱膨張タンク34とで第一の断熱膨張装置30が構成され、酵素分解槽52と発酵槽54とで第一の発酵装置50が構成されている。
【0052】
システム後段部304は、混合装置306が水供給源308及び熱交換器312と接続されている。熱交換器312は第二の分解装置320と接続されている。第二の分解装置320は異物除去装置362と接続され、異物除去装置362は圧力調整バルブ332を介して第二の断熱膨張タンク334と接続されている。また、異物除去装置362は、図示されない排出口と接続されている。第二の断熱膨張タンク334は熱交換器314と接続され、熱交換器314は圧力調整バルブ336を介して酵素分解槽352と接続されている。酵素分解槽352は発酵槽354と接続されている。熱交換器312と熱交換器314とは、循環配管316により接続され、熱交換器312、熱交換器314及び循環配管316により第二の熱再利用ライン310が構成されている。圧力調整バルブ332と第二の断熱膨張タンク334とで第二の断熱膨張装置330が構成され、酵素分解槽352と発酵槽354とで第二の発酵装置350が構成されている。
【0053】
第一の固液分離装置360は、第一の分解装置20で得られた分解液を固液分離し、液体を第一の断熱膨張装置30へ送り、固体を分岐配管361から混合装置306へ送るものであれば特に限定されず、例えば、任意の目開きのメッシュを配置した固液分離装置や遠心分離機等が挙げられる。また、例えば、第一の分解装置20の反応容器の下部に設けられ、間欠的に開閉できる排出バルブであってもよい。
異物除去装置362は、第二の分解装置320で得られた再分解液を固液分離し、再分解液中に含まれる不溶物(リグニン等)を除去する装置である。異物除去装置362としては、例えば、任意の目開きのメッシュを配置した固液分離装置や遠心分離機等が挙げられる。
【0054】
混合装置306は、混合装置12と同じである。
熱交換器312は熱交換器212と同じであり、熱交換器314は熱交換器214と同じである。循環配管316は循環配管216と同じである。
【0055】
第二の分解装置320は第一の分解装置20と同じである。
第二の断熱膨張装置330は第一の断熱膨張装置30と同じである。
圧力調整バルブ336は圧力調整バルブ36と同じである。
第二の発酵装置350を構成する酵素分解槽352は酵素分解槽52と同じであり、発酵槽354は発酵槽54と同じである。
【0056】
<燃料の製造方法>
燃料製造システム300における燃料の製造方法について、多糖類系バイオマスがセルロース及びヘミセルロースを含むリグノセルロースである場合を例にして説明する。
まず、粉砕装置10で多糖類系バイオマスを粉砕した後、混合装置12で水と混合し原料スラリーを調製する。原料スラリーは、熱交換器212で任意の温度まで加熱された後、第一の分解装置20に供給する。第一の分解装置20では、原料スラリーを加圧及び加熱し、例えば、140〜180℃、10〜25MPaとする。この間、ヘミセルロースは加水分解され、キシロース、マンノース等の単糖及び/又はキシロオリゴ糖等のオリゴ糖となる。一方、セルロースはその大部分が加水分解されずに固形分として残存する。こうして、ヘミセルロースが加水分解されて生じた単糖及び/又はオリゴ糖と、水に不溶のセルロースとが分散した分解液を得る(第一の分解工程)。
【0057】
次いで、第一の分解工程で得られた分解液を固液分離装置360で固液分離する(第一の分離工程)。固液分離した後、固体(主にセルロースを含む)を分岐配管361によりシステム後段部304の混合装置306に送る。一方、固液分離で得られた液体(主にヘミセルロースの加水分解物である単糖及び/又はオリゴ糖を含む)を第一の断熱膨張装置30で断熱膨張し、加水分解反応を停止する(第一の断熱膨張工程)。
【0058】
第一の断熱膨張工程により加水分解反応が停止した液体及び断熱膨張により発生した蒸気は、熱交換器214を流通し冷却される。この間、断熱膨張で発生した蒸気は、凝縮水となって液体に取り込まれる。熱交換器214を流通した液体は、圧力調整バルブ36に送られる間に、大気への熱放出等により30〜60℃程度に冷却される。冷却された液体は、圧力調整バルブ36により大気圧程度まで減圧された後、酵素分解槽52に送られる。酵素分解槽52では、液体中のキシロオリゴ糖等のヘミセルロース由来のオリゴ糖を酵素分解により単糖化する(第一の単糖化操作)。発酵槽54では、オリゴ糖が単糖化された液体を微生物発酵する(第一の発酵操作)(以上、第一の発酵工程)。その後、常法に従い精製し、アルコール等の燃料を得ることができる。
【0059】
混合装置306に送られた固体に、水供給源308から任意の量の水を添加し、混合して二次原料スラリーを調製する。二次原料スラリーを熱交換器312で任意の温度に加熱した後、第二の分解装置320に供給する。第二の分解装置320では、二次原料スラリーを加圧及び加熱し、例えば、160〜350℃、10〜30MPaとする。この間、二次原料スラリー中のセルロースは加水分解され、セロオリゴ糖及び/又はグルコースとなる。こうして、セルロースが加水分解されて生じた単糖及び/又はオリゴ糖を含む再分解液を得る(第二の分解工程)。
【0060】
異物除去装置362では、得られた再分解液を固液分離し、固体(リグニン等)を図示されない排出口へ排出する。固体を除去した再分解液を第二の断熱膨張装置330で断熱膨張し加水分解を停止する(第二の断熱膨張工程)。
【0061】
第二の断熱膨張工程で加水分解反応が停止された再分解液及び断熱膨張により発生した蒸気は、熱交換器314に流通され、循環配管316内の熱媒と熱交換され、任意の温度に冷却される。この間、断熱膨張により発生した蒸気は凝縮水となって、再分解液に取り込まれる。熱交換器314を流通した再分解液は、圧力調整バルブ336に送られる間に、大気への熱放出等により30〜60℃程度に冷却される。冷却された再分解液は、圧力調整バルブ336により大気圧程度まで減圧された後、酵素分解槽352に送られる。酵素分解槽352では、再分解液中のセロオリゴ糖を酵素分解により単糖化する(第二の単糖化操作)。発酵槽354では、セロオリゴ糖が単糖化された再分解液を微生物発酵する(第二の発酵操作)(以上、第二の発酵工程)。その後、常法に従い精製し、アルコール等の燃料を得ることができる。
一方、熱交換器314で熱エネルギーを回収した熱媒は、循環配管316内を循環流通し、熱交換器312に送られる。熱交換器312に送られた熱媒は、二次原料スラリーの加熱に利用される。こうして、断熱膨張により発生した蒸気及び断熱膨張後の再分解液の保有する熱エネルギーは、第二の分解装置320の熱源として利用される。
【0062】
第二の分解工程における加水分解の時間(第二の分解装置320への二次原料スラリーの滞留時間)は、加水分解の圧力条件及び温度条件を勘案して決定でき、例えば、1秒間〜10分間の範囲で決定することが好ましい。加水分解の時間が短いと、セルロースの加水分解が不十分となる。加水分解の時間が長いと、単糖又はオリゴ糖の過分解物(フルフラール、5−HMF等)の生成量が増大するためである。
【0063】
第一の断熱膨張工程における断熱膨張の条件は、分解液中のヘミセルロースならびにヘミセルロース由来の単糖及びオリゴ糖の加水分解を停止できるものであればよく、例えば、0.1〜20MPaの範囲で決定することができる。
【0064】
第二の断熱膨張工程における断熱膨張の条件は、再分解液中のセルロースならびにセルロース由来の単糖及びオリゴ糖の加水分解を停止できるものであればよく、例えば、0.1〜25MPaの範囲で決定することができる。
【0065】
第一の単糖化操作は、ヘミセルロース由来のオリゴ糖を単糖とする酵素分解方法であれば特に限定されず、例えば、ヘミセルラーゼ、キシラナーゼ等を1種単独又は2種以上を適宜選択して用いる酵素分解方法が挙げられる。
【0066】
第二の単糖化操作は、セルロース由来のオリゴ糖(セロオリゴ糖)を単糖(グルコース)とするものであり、セルラーゼやβ−グルコシダーゼを用いた酵素分解方法が挙げられる。
【0067】
第一の発酵操作は、第一の単糖化操作で得られた単糖の種類と目的とする燃料とに応じ、公知の方法を用いることができる。
第二の発酵操作は、目的とする燃料に応じ、公知の方法を用いることができる。
【0068】
圧力調整バルブ336における減圧の程度は、第二の発酵工程を勘案して決定することができ、例えば、大気圧とすることが好ましい。
【0069】
循環配管316内の熱媒は特に限定されず、例えば、水等を用いることができる。
熱交換器312の入口における熱媒の温度は、特に限定されないが、熱媒の温度が低いと第二の分解装置320において二次原料スラリーを亜臨界状態又は超臨界状態にするための多くのエネルギーが必要となり、熱媒の温度が高すぎると二次原料スラリーの温度が高くなりすぎ、過分解物が生じるおそれがある。
【0070】
上述のとおり、第一の分解工程では、ヘミセルロースを単糖又はオリゴ糖に分解し、かつ過分解を防止できる温度条件及び圧力条件で加水分解するため、ヘミセルロース由来の過分解物の発生を防止できる。第二の分解工程では、セルロースを単糖又はオリゴ糖に分解し、かつ過分解を防止できる温度条件及び圧力条件で加水分解するため、セルロース由来の過分解物の発生を防止できる。加えて、第二の分解工程で加水分解の対象となる二次原料スラリーには、ヘミセルロース及びその分解物(単糖又はオリゴ糖)が含まれていない。このため、二次原料スラリーに対しセルロースに適した加水分解条件を適用しても、ヘミセルロース由来の過分解物が生じない。この結果、第一の発酵工程では、フルフラールや5−HMF等の過分解物を含まない分解液を発酵すると共に、第二の発酵工程では過分解物を含まない再分解液を発酵する。
このように、本実施形態の燃料製造システムは、原料がリグノセルロースであっても、システム前段部ではヘミセルロースに適した条件で燃料を製造し、システム後段部ではセルロースに適した条件で燃料を製造するため、効率的に燃料を製造できる。
【0071】
(その他の実施形態)
第一〜第四の実施形態では、1台の第一の断熱膨張装置により分解液を断熱膨張しているが、2台以上の断熱膨張装置を設け、段階的に断熱膨張させてもよい。
第四の実施形態では、1台の第二の断熱膨張装置により再分解液を断熱膨張しているが、2台以上の断熱膨張装置を設け、段階的に断熱膨張させてもよい。
【0072】
第四の実施形態では、第一の分解装置と第一の断熱膨張装置との間に第一の固液分離装置を設けている。しかしながら、第一の固液分離装置に換えて、第一の断熱膨張装置の後段に第二の固液分離装置を設け、断熱膨張した分解液を固液分離し(第二の分離工程)、得られた固体をシステム後段部で処理してもよい。ただし、第一の断熱膨張装置への固体の付着を防止し、セルロースの回収率を上げる観点から、第一の断熱膨張装置の前段に第一の固液分離装置を設け、得られた固体をシステム後段部で処理することが好ましい。
【0073】
第四の実施形態では、第二の断熱膨張装置で発生した蒸気及び断熱膨張した分解液の熱エネルギーを第二の分解装置の熱源として利用しているが、第二の断熱膨張装置で発生した蒸気及び断熱膨張した分解液の熱エネルギーを第一の分解装置の熱源として利用してもよい。
【0074】
第四の実施形態では、第一の発酵装置及び第二の発酵装置が酵素分解槽と発酵槽とで構成されているが、第一の実施形態のように、酵素分解槽を設けなくてもよい。
【0075】
第一〜第四の実施形態では、混合装置で原料スラリーを調製しているが、本発明はこれに限定されず、例えば、粉砕した多糖類系バイオマスと水とを別個に第一の分解装置に供給し、第一の分解装置で多糖類系バイオマスと水を混合しながら、加圧及び加熱をしてもよい。
第四の実施形態では、第一の固液分離装置で分離した固体を水と混合して二次原料スラリーを調製しているが、本発明は前記固体と水とを別個に第二の分解装置に供給し、第二の分解装置で多糖類と水を混合しながら、加圧及び加熱をしてもよい。
【0076】
第一〜第四の実施形態では、第一の分解装置に原料スラリーを供給し、第一の分解装置で原料スラリーを加圧及び加熱することで、原料スラリー中の水を亜臨界状態又は超臨界状態としている。しかし、第一の分解装置はこれに限定されず、例えば、多糖類系バイオマスを充填した固定床を設け、該固定床に亜臨界水又は超臨界水を流通することで、多糖類を加水分解する固定床式の分解装置を用いてもよい。
第四の実施形態における第二の分解装置も第一の分解装置と同様に、固定床式の分解装置を用いてもよい。
【0077】
第一〜第四の実施形態の燃料製造システムには、分解装置と圧力調整バルブとの間に冷却器が設けられていてもよい。冷却器を設けることで、分解液又は再分解液を速やかに酵素分解又は微生物発酵に適した温度(30〜60℃)とすることができる。
【符号の説明】
【0078】
1、100、200、300 燃料製造システム
20 第一の分解装置
30 第一の断熱膨張装置
40、50 第一の発酵装置
210 第一の熱再利用ライン
310 第二の熱再利用ライン
320 第二の分解装置
330 第二の断熱膨張装置
350 第二の発酵装置
360 第一の固液分離装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖類系バイオマスを亜臨界水又は超臨界水で加水分解する第一の分解装置と、
前記多糖類系バイオマスを前記第一の分解装置で加水分解した分解液を断熱膨張する第一の断熱膨張装置と、
前記第一の断熱膨張装置で断熱膨張した分解液を発酵する第一の発酵装置とを有する、燃料製造システム。
【請求項2】
前記第一の分解装置で加水分解した分解液を固液分離し、分離した液体を前記第一の断熱膨張装置に送る第一の固液分離装置と、
前記第一の固液分離装置で分離した固体を亜臨界水又は超臨界水で加水分解する第二の分解装置と、
前記固体を前記第二の分解装置で加水分解した再分解液を断熱膨張する第二の断熱膨張装置と、
前記第二の断熱膨張装置で断熱膨張した再分解液を発酵する第二の発酵装置とを有する、請求項1に記載の燃料製造システム。
【請求項3】
前記第一の断熱膨張装置で断熱膨張した分解液を固液分離し、分離した液体を前記第一の発酵装置に送る第二の固液分離装置と、
前記第二の固液分離装置で分離した固体を亜臨界水又は超臨界水で加水分解する第二の分解装置と、
前記固体を前記第二の分解装置で加水分解した再分解液を断熱膨張する第二の断熱膨張装置と、
前記第二の断熱膨張装置で断熱膨張した再分解液を発酵する第二の発酵装置とを有する、請求項1に記載の燃料製造システム。
【請求項4】
前記第一の断熱膨張装置で発生した蒸気及び断熱膨張した分解液の熱エネルギーを前記第一の分解装置の熱源とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料製造システム。
【請求項5】
前記第二の断熱膨張装置で発生した蒸気及び断熱膨張した再分解液の熱エネルギーを前記第一の分解装置又は第二の分解装置の熱源とする、請求項2〜4のいずれか1項に記載の燃料製造システム。
【請求項6】
多糖類系バイオマスを亜臨界水又は超臨界水で加水分解し分解液を得る第一の分解工程と、
前記分解液を断熱膨張する第一の断熱膨張工程と、
前記第一の断熱膨張工程で断熱膨張した分解液を発酵する第一の発酵工程とを有する、燃料の製造方法。
【請求項7】
前記第一の分解工程で得られた分解液を固液分離する第一の分離工程と、
前記第一の分離工程で分離した固体を亜臨界水又は超臨界水で加水分解して再分解液を得る第二の分解工程と、
前記再分解液を断熱膨張する第二の断熱膨張工程と、
前記第二の断熱膨張工程で断熱膨張した前記再分解液を発酵する第二の発酵工程とを有し、
前記第一の断熱膨張工程は、前記第一の分離工程で分離した液体を断熱膨張する、請求項6に記載の燃料の製造方法。
【請求項8】
前記第一の断熱膨張工程で断熱膨張した分解液を固液分離する第二の分離工程と、
前記第二の分離工程で分離した固体を亜臨界水又は超臨界水で加水分解して再分解液を得る第二の分解工程と、
前記再分解液を断熱膨張する第二の断熱膨張工程と、
前記第二の断熱膨張工程で断熱膨張した前記再分解液を発酵する第二の発酵工程とを有し、
前記第一の発酵工程は、前記第二の分離工程で分離した液体を発酵する、請求項6に記載の燃料の製造方法。
【請求項9】
前記多糖類系バイオマスは、セルロース及びヘミセルロースを含む、請求項7又は8に記載の燃料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−32388(P2011−32388A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−180823(P2009−180823)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】