説明

燃料電位用セパレータ及びその製造方法

【課題】機械的特性や電気抵抗率、寸法精度にばらつきがなく、高い寸法精度を併せ持つ燃料電池用セパレータを効率良く製造する。
【解決手段】導電性材料(膨張黒鉛を除く)と、樹脂とを、重量比で樹脂:導電性材料=20:80〜60:40の割合で含む成形材料を、ゲート面積が、得られる燃料電池用セパレータ10の最も肉厚の部分のゲートと平行な断面の面積の20〜100%である成形金型を用いて射出成形することを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池用セパレータ、並びに射出成形により燃料電池用セパレータを作製する方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば図1に上面図で示すように、燃料電池用セパレータ10は、所定間隔で複数の隔壁11を立設して形成されている。燃料電池とするには、多数の燃料電池用セパレータ10を、隔壁11の突出方向に積層する。そして、この積層により、隣接する一対の隔壁11で形成されるチャネル12が水路またはガス路となり、反応ガス(水素や酸素)を流通させる構成となっている。この水路またはガス路が設けられている部分を集電部と呼ぶ。この外縁部にマニホールド13と呼ばれる穴が設けられており、ここからチャンネルにガスまたは水が供給される。
【0003】
燃料電池用セパレータは、樹脂材料と、黒鉛等の導電性材料を含む成形材料を上記したような形状に成形して製造されるが、その際、ガスや冷却水の流路を設けた成形金型に成形材料を充填し、熱間でプレスする熱圧縮成形による方法が一般的である。しかし、熱圧縮成形は生産性が低いため、生産性の向上を目的として、近年は射出成形により燃料電池用セパレータを成形することが試みられている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-338294号公報
【特許文献2】特開2003-297386号公報
【特許文献3】特開2003-242994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の射出成形による燃料電池用セパレータの製造では、成形金型のゲート面積が、得られる燃料電池用セパレートの最も肉厚の部分のゲートと平行な断面積の5%未満であり、射出成形に際して大きな成形圧力を必要とし、また、成形材料も一般に粘性が高く流動性に劣ることから、複雑なチャネル形状の燃料電池用セパレータでは寸法精度が低くなったり、機械的特性や電気抵抗率にバラツキが生じる等のおそれがある。
【0006】
本発明は上記の状況に鑑みてなされたものであり、機械的特性や電気抵抗率、寸法精度にばらつきがなく、高い寸法精度を併せ持つ燃料電池用セパレータを効率良く製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の燃料電池用セパレータ及びその製造方法を提供する。
(1)導電性材料(膨張黒鉛を除く)と、樹脂とを、重量比で樹脂:導電性材料=20:80〜60:40の割合で含む成形材料を、ゲート面積が、得られる燃料電池用セパレータの最も肉厚の部分のゲートと平行な断面の面積の20〜100%である成形金型を用いて射出成形することを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
(2)ゲートがフィルムゲートまたはファンゲートであることを特徴とする上記(1)記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
(3)上記(1)または(2)に記載の製造方法により得られ、導電性材料(膨張黒鉛を除く)と、樹脂とを、重量比で、樹脂:導電性材料=20:80〜60:40の割合で含み、かつ、曲げ強度が30MPa以上で電気抵抗率が30mΩ・cm2以下であることを特徴とする燃料電池用セパレータ。
(4)樹脂がフェノール樹脂またはエポキシ樹脂であることを特徴とする上記(3)記載の燃料電池用セパレータ。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、特定の成形金型を用いて射出成形することにより、生産性の高い方法である射出成形により成形することが可能で、機械的特性や電気抵抗率、寸法精度にばらつきがなく、高い寸法精度を兼ね備える高性能の燃料電池用セパレータが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明及び従来の燃料電池用セパレータの一例を示す上面図である。
【図2】実施例の試験体及び物性測定部位を示す上面図である。
【図3】電気抵抗率の測定方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
【0011】
本発明は、樹脂と導電性材料とを含む成形材料を、後述する特定の成形金型を用いて射出成形により燃料電池用セパレータを製造するものである。先ず、成形材料について説明する。
【0012】
本発明における導電性材料は、主成分を炭素原子とするもので、膨張黒鉛を除く炭素材料であり、具体的には鱗片状人造黒鉛、球状人造黒鉛、天然の鱗片状黒鉛、カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、ダイヤモンドライクカーボン、フラーレン、カーボンナノホーン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0013】
一方、樹脂としてはフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂等の熱硬化性樹脂、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、塩素化ポリエチレンといったポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート、液晶性ポリエステル、ポリヒドロキシブチレート、ポリカプロラクトン、ポリエチレンアジペート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチルアジペート、ポリエチレンサクシネートといったといったポリエステル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン(四フッ化エチレン樹脂)、テトラフルオロエチレン‐パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂)、テトラフルオロエチレン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合樹脂)、テトラフルオロエチレン‐エチレン共重合体(四フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂)、ポリビニリデンフルオライド(フッ化ビニリデン樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン(三フッ化塩化エチレン樹脂)、クロロトリフルオロエチレン‐エチレン共重合体(三フッ化塩化エチレン・エチレン共重合樹脂)、ポリビニルフルオライド(フッ化ビニル樹脂)等のフッ素樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、半芳香族ナイロン6T、ナイロンMXD、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12といったポリアミド、アタクチックポリプロピレン、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタックチックポリプロピレン、エチレン‐プロピレン共重合体といったポリプロピレン、ポリアセタール、ポリフタルアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリイミドといったポリイミド、ポリエーテルスルフォン、アタックチックポリスチレン、アイソタクチックポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルニトリル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキサイド、アイオノマー、シンジオタクチック‐1,2‐ポリブタジエン、トランス‐1,4‐ポリイソプレン、ポリメチルペンテン、ポリケトン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニリデン、ポリヒドロキシブチレート、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォン、ポリサルフォン、ポリアリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル等の熱可塑性樹脂が挙げられるがこれらに限定されない。これらを混合して使用することも出来る。特に熱硬化性樹脂、その中で特にフェノール樹脂またはエポキシ樹脂は耐熱性と強度の高い燃料電池用セパレータが得られるため好ましい。
【0014】
フェノール樹脂としては、従来公知のものとしてレゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂等が挙げられるが、これらに限定されず、何れのフェノール樹脂を用いても良い。ヘキサメチレンテトラミン等の硬化剤を用いることも可能である。
【0015】
エポキシ樹脂としては、従来公知のものとしてビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0016】
エポキシ樹脂は、硬化剤と反応することによって、エポキシ硬化物を生成する。硬化剤も各種公知の化合物を使用することができる。例えばジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、メンセンジアミン、イソホロンジアミン、N-アミノエチルピペラジン、m-キシレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等の脂肪族、脂環式、芳香族のポリアミンまたはその炭酸塩;無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ドデシル無水コハク酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、無水トリメリット酸、ポリアゼライン酸無水物等の酸無水物;フェノールノボラック、クレゾールノボラックのようなポリフェノール;ポリメルカプタン;トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、イミダゾール、エチルメチルイミダゾール等のアニオン重合触媒;BF3やその錯体のようなカチオン重合触媒;さらには熱分解や光分解によって上記化合物を生成する潜在性硬化剤等が挙げられるが、これらに限定されない。複数の硬化剤を併用することもできる。上記の内、ポリアミンやその炭酸塩、酸無水物、ポリフェノール、ポリメルカプタン等の硬化剤は、自身がエポキシ化合物と重付加反応してエポキシ硬化物を構成するので、重付加型硬化剤と呼ばれる。重付加型硬化剤の過不足は未反応官能基の残存につながる故、添加量には適正域が存在する。一般に、エポキシ樹脂前駆体のエポキシ基1個当たり0.7〜1.2当量の、特に0.8〜1.1当量の重付加型硬化剤を使用するのが好ましい。一方、アニオン重合触媒及びカチオン重合触媒は、エポキシ基の付加重合触媒として作用するものであり、それ故、適正添加域は存在せず、添加量は反応速度に応じて決定することができる。これら触媒は、触媒型硬化剤あるいは付加型硬化剤と呼ばれる。また、これら触媒を重付加型硬化剤と併用して用いる場合は、重合付加型硬化剤による硬化反応を促進させるため、硬化促進剤とも呼ばれる。
【0017】
尚、熱硬化性樹脂量は、使用した熱硬化性樹脂と硬化剤及び硬化促進剤との合計質量に等しい。これら硬化剤の種類、量と熱硬化性樹脂の種類、硬化促進剤の種類、量を種々に選択することにより、熱硬化性樹脂の硬化速度を任意に変化させることができる。当業者であれば、所望の硬化条件に合わせ、熱硬化性樹脂や硬化剤や硬化促進剤の種類及び使用量を決定することは容易であろう。
【0018】
上記の樹脂と導電性材料との比率は、重量比で、20:80〜60:40である。樹脂の比率が高すぎる場合は導電性が低下する。一方で、導電性材料の比率が高すぎる場合は強度が低くなり、また、成形材料の流動性が低くなるため、成形金型内に射出した際に成形金型内で成形材料の圧力分布が大きくなり、得られる燃料電池用セパレータの寸法精度が悪くなる。
【0019】
成形材料には、カルナバワックス等の滑剤を添加して、成形加工時に成形金型や混練機への貼りつきを防止することも可能である。滑剤としてはステアリン酸やモンタン酸ワックスやこれらの金属塩等の使用も可能である。また、導電性を低下させない範囲で、ガラス繊維、シリカ、タルク、クレー、炭酸カルシウム等の無機充填材や、木粉等の有機充填材、可塑剤を添加することも可能である。
【0020】
上記の成形材料は、種々の慣用の方法によって製造することができる。例えば、樹脂と導電性材料等をドライミックスしてもよい。また、樹脂を加熱溶融または溶剤に溶解させて、導電性材料等を添加してもよい。また、ドライミックスによって予備混合を行った材料を加熱溶融させる等、複数の混合方法を併用しても良い。混合に使用する装置としては各種の混合装置を使用することができる。例えば、ヘンシェルミキサー、リボンミキサー、プラネタリーミキサー、モルタルミキサー、コーンミキサー、Vミキサー、加圧ニーダー、パドルミキサー、二軸押出機、単軸押出機、バンバリーミキサー、二本ロールミル、三本ロールミル等が挙げられるがこれらに限定されない。さらに必要に応じて、混合した材料を粉砕又は造粒化さらに分級することもできる。
【0021】
こうして得られた成形材料は、射出成形によって所望の形状(例えば、図1に示したもの)に成形される。射出成形は公知の技術であり、射出成形条件は使用する成形材料の粘度や溶融温度、硬化特性等から適宜設定すればよい。以下、熱硬化性樹脂を例に射出成形条件を述べる。
【0022】
一般的にはシリンダー温度はホッパ下からノズルに向かって段階的に温度を高く設定する。ホッパ下の設定温度は好ましくは30℃〜80℃、さらに好ましくは40〜60℃である。ホッパ下の温度が高すぎる場合は、射出成形時にシリンダー内で樹脂が逆流し、成形金型のキャビティに材料が充填できない場合がある。また、ホッパ下の温度が低すぎる場合は、スクリューでシリンダーの先端に移送された成形材料が十分に溶融せず、成形材料の流動性が不足して成形金型のキャビティの隅々まで成形材料が充填できない場合がある。ノズル部の温度は好ましくは50〜120℃、さらに好ましくは70〜100℃である。ノズル部の温度が高すぎる場合は、シリンダー内で樹脂が硬化し、シリンダーから成形材料が射出できなくなる場合がある。また、ノズル部の温度が低すぎる場合は、成形材料が十分に溶融せず、成形材料の流動性が不足して成形金型のキャビティの隅々まで成形材料が充填できない場合がある。
【0023】
金型温度は好ましくは150〜200℃、さらに好ましくは160〜190℃である。金型温度が低すぎる場合は、成形材料の流動性が不足して成形金型のキャビティの隅々まで成形材料が充填できない場合が発生したり、硬化に長時間要する。また、金型温度が高すぎる場合は成形金型への射出開始から硬化による流動停止までの時間が短くなるため、成形金型のキャビティの隅々まで成形材料が充填できなくなる場合がある。
【0024】
その他、射出圧力10〜250MPa、硬化時間20秒〜10分の条件で成形し得るが、シリンダー温度や金型温度と同様に使用する樹脂の種類、硬化剤、硬化促進剤、目的とする燃料電池用セパレータの形状により適宜条件を設定すればよい。
【0025】
以上は、熱硬化性樹脂の射出成形条件であるが、熱可塑性樹脂であっても同様に、射出成形自体は従来公知の技術であるため、材料の特性に合わせて適宜射出成形条件を設定することは容易であろう。
【0026】
本発明では成形金型を閉じた状態で成形材料を射出する通常の射出成形以外に、成形金型を開いた状態で成形材料を射出し、射出中または射出完了後の型締めを行う射出圧縮成形を行っても良い。通常の射出成形を行うか射出圧縮成形を行うかは、目的とする燃料電池用セパレータの形状や使用する射出成形機の構造から適宜選択すればよい。また、射出成形後、必要に応じて二次架橋や切削加工等の処理を施しても良い。
【0027】
上記の射出成形は、得られる燃料電池用セパレータの最も肉厚の部分のゲートと平行な断面の面積の20〜100%、好ましくは25〜75%のゲート面積を有する成形金型を用いて行う。ここで、ゲート面積とは、成形金型において成形材料が流入する開口部(ゲート)の開口面積である。上述したように、従来はこのゲート面積が、得られる燃料電池用セパレータの最も肉厚の部分のゲートと平行な断面の面積に対して5%未満であり、成形金型のキャビティの隅々まで満遍なく成形材料が行き渡らず、寸法精度や機械的特性、導電性にばらつきを生じる原因となっていたが、本発明ではこのゲート面積を大きくすることで、成形材料を成形金型のキャビティの隅々まで満遍なく行き渡らせ、このような問題を解消する。
【0028】
上記のゲート面積を満足すれば、ゲートの種類には制限がないが、成形体の全幅にわたり成形材料を射出できることから、フィルムゲートやファンゲートが好ましい。尚、フィルムゲートは、フラッシュゲートまたはスリットゲートと呼ばれる場合があり、本発明ではこれらを包含する。
【0029】
シリンダーから成形材料が成形金型内に射出され、キャビティに成形材料が充填される際、スプルーブッシュ、ゲート、キャビティ内でそれぞれ流動抵抗が発生する。流動抵抗は、成形金型内部の壁面と成形材料との間に発生する摩擦抵抗、材料流路の湾曲や流路断面積の急激な拡大や収縮等の成形金型内部の形状に起因する圧損、成形材料の粘性等により発生する。この流動抵抗に抗してキャビティに成形材料を充填する必要があるために、シリンダー内のスクリューの背圧を高くし、成形材料を高圧で射出することになる。ここで、ゲートの断面積が小さい場合は、上記のように材料通路断面積の急激な拡大や収縮となり、ゲート部分で圧損が発生し、流動抵抗が増大する。よって、シリンダー内のスクリューの背圧を高く設定する必要があり、成形金型内に充填する成形材料の圧力も高くなる。また、ゲート部分で流路断面積が急激に絞られたり拡大するため、成形材料の流速が増加する。よって、材料内圧の増加と材料流速の増加により、成形材料には高い剪断力が負荷される。キャビティへの成形材料の充填が進むにつれて、上記の成形金型内部の壁面と材料の接触面積が増大し、成形金型内部の壁面と充填中の成形材料との間に発生する摩擦抵抗も増大する。よって、充填後半では充填初期より高圧で成形する必要がある。このとき、ゲート断面積が小さいと、ゲートの圧損のため、成形金型のゲート近辺の材料内圧が、キャビティ内のゲートより最も遠い部分の内圧と比較して高くなる。よって、キャビティのゲート付近は成形材料の内圧のためにキャビティの高さが高くなる方向すなわち、成形金型が開く方向に変形し、ゲート付近の厚さが厚くなり、成形体の寸法精度が悪化する。そこで、本発明では、ゲートによる圧損を極力低減し、ゲート断面積を上述した範囲とする。これにより、充填後期の材料内圧の増加による寸法精度悪化を防止する。
【実施例】
【0030】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0031】
(実施例1、比較例1〜2、参考例1〜5)
表1に示す配合に従い、材料合計500gを10Lのヘンシェルミキサーで予備混合した後、1Lの加圧ニーダーで、チャンバー温度100℃で5分間混練した。これを粉砕機で粒径約2mmの粒子状に粉砕して成形材料とし、下記に示す射出成形または熱圧縮成形を行った。
【0032】
射出成形には型締め力80tの熱硬化性樹脂用成形機(菱屋精工製)を用い、成形条件は、シリンダー温度はホッパ下50℃、ノズル90℃、金型温度170℃、射出速度20mm/sec、硬化時間180秒とし、1辺100mm、厚さ2mmの正方形薄板状の形状に射出成形した。即ち、この成形体の断面積は2cm2である。射出成形に際し、ゲート形状(開口面積)が変えられる構造の成形金型を用い、表1に示すように、実施例1及び比較例2ではゲート部分の幅100mmで厚さ1.5mmのフィルムゲート(即ち、ゲート断面積1.5cm2で成形体との断面積比75%)の各ゲートを用いて射出成形を行った。尚、各ゲートにおける射出成形時の最低圧力は表1に示す通りである。
【0033】
また、参考例1〜5は、ゲート断面積と成形体との断面積比を検証するための試験例であり、参考例1及び参考例4ではゲート部分の幅100mmで厚さ1.5mmのフィルムゲート(即ち、ゲート断面積1.5cm2で成形体との断面積比75%)、参考例2ではゲート部分の幅100mmで厚さ0.5mmのフィルムゲート(即ち、ゲート断面積0.5cm2で成形体との断面積比25%)、参考例3ではゲート部分の幅100mmで厚さ1.5mmのファンゲート(即ち、ゲート断面積1.5cm2で成形体との断面積比75%)、参考例5ではゲート部分の幅5mmで厚さ2mmの断面矩形のサイドゲート(即ち、ゲート断面積0.1cm2で成形体との断面積比5%)の各ゲートを用いて射出成形を行った。尚、各ゲートにおける射出成形時の最低圧力は表1に示す通りである。また、参考例4では、射出成形した後、オーブン中190℃で60分間の二次架橋を行った。
【0034】
また、比較例1では、成形材料約35gを、予め170℃に予熱した100×100×2mmの形状の成形金型に充填し、熱プレスにて170℃で10分間圧縮成形した。
【0035】
図2は、ゲート22と、得られた試験体31との位置関係を示す上面図であるが、図示されるように、試験体31を9分割し、その部分A〜Cについて厚さ、厚さ方向の電気抵抗率、曲げ強度及び厚さを測定し、それぞれの偏差を求めた。尚、曲げ強度はJIS K7171プラスチック−曲げ特性の試験方法に準じて求め、その際、恒温槽付きのインストロン型万能試験機を使用し、試験雰囲気100℃で行った。また、電気抵抗率は、図3に示すように、試験体31を、カーボンペーパー82を介して電極83にセットし、電極間に流した電流とカーボンペーパー間の電圧から、電気抵抗を計算し、さらにこれに試料面積を掛けて厚さ方向の電気抵抗率とした。結果を表1に示す。尚、比較例2の熱プレス成形品は、部位による厚さ、厚さ方向の電気抵抗率及び曲げ強度の差異は小さかったため、測定した代表的な値を部分Aの欄に記した。
【0036】
【表1】

【0037】
エポキシ樹脂:多官能エポキシ樹脂と硬化剤と硬化促進剤の混合物
フェノール樹脂:ノボラック型フェノール樹脂
膨張黒鉛:嵩密度10kg/m3の膨張黒鉛を粉砕して嵩密度100kg/m3としたもの
カーボンブラック:平均粒径5〜10μmのアセチレンブラック
人造黒鉛:嵩密度600kg/m3
滑剤:ステアリン酸
硬化剤:ヘキサメチレンテトラミン
【0038】
比較例1は実施例1と同一配合を熱圧縮成形したものである。また、比較例2では人造黒鉛の量を増やした組成となっている。
【0039】
本発明に従う実施例1は、部位による厚さ、強度の差異(偏差)が小さく、安定した物性が発現し、かつ寸法精度が高い。また、同一配合で熱圧縮成形した比較例1と比較して強度と導電性が優れたものとなっている。熱圧縮成形したものよりも射出成形したものの方が優れた特性を示すことは、予想外の結果となった。
【0040】
また、導電性を高くするために人造黒鉛の配合量を多くした比較例2は、流動性が悪く成形機の射出圧力を限界まで高くしても射出成形することができなかった。
【符号の説明】
【0041】
10 燃料電池用セパレータ
11 隔壁
12 チャネル
13 マニホールド
21 試験体
22 ゲート
31 試験体
32 カーボンペーパー
33 電極
34 電流発生器
35 電圧計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性材料(膨張黒鉛を除く)と、樹脂とを、重量比で樹脂:導電性材料=20:80〜60:40の割合で含む成形材料を、ゲート面積が、得られる燃料電池用セパレータの最も肉厚の部分のゲートと平行な断面の面積の20〜100%である成形金型を用いて射出成形することを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項2】
ゲートがフィルムゲートまたはファンゲートであることを特徴とする請求項1記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法により得られ、導電性材料(膨張黒鉛を除く)と、樹脂とを、重量比で、樹脂:導電性材料=20:80〜60:40の割合で含み、かつ、曲げ強度が30MPa以上で電気抵抗率が30mΩ・cm2以下であることを特徴とする燃料電池用セパレータ。
【請求項4】
樹脂がフェノール樹脂またはエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項3記載の燃料電池用セパレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−29190(P2011−29190A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185973(P2010−185973)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【分割の表示】特願2004−118754(P2004−118754)の分割
【原出願日】平成16年4月14日(2004.4.14)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】