燃料電池の膜破損検知方法
【課題】判定精度が高く、商品性や燃費に悪影響を及ぼさない燃料電池の膜破損検知方法を提供する。
【解決手段】燃料電池1の発電停止時に、燃料電池1のアノード極3に供給された水素の圧力を、予め定めた膜破損検知用圧力とした後、ガス供給弁17、遮断弁18、排水弁25、パージ弁27、掃気排出弁29を閉じて、アノード極3に連なる燃料ガス流路を封止し、この封止後に封止した燃料ガス流路内の水素の圧力を初期圧力値として取得し、前記封止から所定時間が経過したときに封止した燃料ガス流路内の水素の圧力を経過後圧力値として取得し、初期圧力値と経過後圧力値との差が前記所定時間に応じて予め定められた閾値以上の場合に、燃料電池1の固体高分子電解質膜2が破損していると判定する。
【解決手段】燃料電池1の発電停止時に、燃料電池1のアノード極3に供給された水素の圧力を、予め定めた膜破損検知用圧力とした後、ガス供給弁17、遮断弁18、排水弁25、パージ弁27、掃気排出弁29を閉じて、アノード極3に連なる燃料ガス流路を封止し、この封止後に封止した燃料ガス流路内の水素の圧力を初期圧力値として取得し、前記封止から所定時間が経過したときに封止した燃料ガス流路内の水素の圧力を経過後圧力値として取得し、初期圧力値と経過後圧力値との差が前記所定時間に応じて予め定められた閾値以上の場合に、燃料電池1の固体高分子電解質膜2が破損していると判定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池の膜の破損を検知する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子電解質膜を有し、アノード極に水素(燃料)が供給され、カソード極に酸素(酸化剤)を含む空気が供給されて発電をする燃料電池では、固体高分子電解質膜が破損してピンホール等が生じると、前記水素や空気がこうした破損箇所を通って固体高分子電解質膜を透過し(以下、膜破損によるリークをクロスリークという)、燃料電池の発電性能を低下させるので好ましくない。よって、固体高分子電解質膜の破損を検知することは、燃料電池の管理上、極めて重要である。
【0003】
燃料電池の膜破損検知方法に関しては、従来から種々案出されている。
例えば、特許文献1には、セル電圧の低下速度に基づいてクロスリークの有無を検出し、これから固体高分子電解質膜が破損しているか否かを判定することが開示されている。燃料電池の発電を停止すると反応ガスの供給が停止されるが、燃料電池の内部(ガス流路)には反応ガスが残存しているため、燃料電池の停止後もしばらくの間はセル電圧が保持される。異常なセルがなければ停止後の各セル電圧の低下速度はほぼ同じになるはずであり、異常なセルがある場合には、異常なセルの電圧低下速度は正常なセルの電圧低下速度よりも早くなる。これによりクロスリークの有無を判定する。
【0004】
また、特許文献2には、燃料電池に接続された燃料系配管内に燃料ガスを供給し、この燃料系配管を密閉して燃料系配管内の圧力変化に基づいて燃料ガスの漏れ検出を行うことが可能な燃料電池システムであって、システム起動時に燃料電池の一方の電極から他方の電極へのガスリークの有無を判定するとともに、その判定結果に基づいて漏れ検出条件(漏れ検出時の燃料系配管内への燃料ガスの供給時間、供給量、判定閾値、判定時間等)を変更すること、および、前記ガスリークの有無は燃料電池の開放端電圧に基づいて判定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−45467号公報
【特許文献2】特開2007−5266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、セル電圧の低下速度は、固体高分子電解質膜上における水のフラッディングにも影響されて速くなることもあるため、特許文献1に開示された方法では、セル電圧の低下速度の変化がクロスリークに起因するものとフラッディングに起因するものとの区別がつかず、フラッディングに起因してセル電圧の低下速度が速くなったときに、クロスリークであると誤判定する虞がある。
【0007】
一方、特許文献2に開示された方法は、システム起動時に(すなわち発電運転に入る前に)、ガスリークの有無判定、および燃料ガスの漏れ検出を行うので、起動開始から発電運転に至るまでの起動時間が大幅に長くなり、商品性を損なうという課題がある。
【0008】
また、固体高分子電解質膜は、破損していない正常な状態においても、微量ながらガスが透過することが知られている。(以下、正常な固体高分子電解質膜におけるガスの透過をクロスオーバーと称し、膜破損に起因するクロスリークと区別する。)
システム停止中にはカソード極側の空気中の窒素が固体高分子電解質膜をクロスオーバーしてアノード極側に進入する。そのため、システム起動時には、アノード極側に窒素が存在している状態であり、この状態で漏れ検出を行うこととなる。システム起動時にアノード極近傍に残存する窒素は、漏れ検出条件を変更しても、アノード極近傍に残存する。ここで、固体高分子電解質膜にピンホールが存在している場合、窒素は水素に比してピンホールを透過し難く(換言すると、水素の方が窒素よりもピンホールを透過し易く)、アノード極側に窒素が残存していると、アノード極側の圧力が低下し難くなる。その結果、固体高分子電解質膜が破損していてもアノード極側の圧力低下が小さく、破損が検知されない可能性がある。
【0009】
さらに、システム停止中にカソード極側の空気中の酸素も固体高分子電解質膜をクロスオーバーしてアノード極側に進入する。このアノード極側に存在する酸素は、システム起動時に漏れ検出のためにアノード極側に水素を供給したときに、該水素の一部と反応し、水素を消費してしまう。そのため、酸素との反応により消費される分だけ余分な水素を供給する必要があり、燃費が低下するという課題もある。
【0010】
そこで、この発明は、判定精度が高く、商品性や燃費に悪影響を及ぼさない燃料電池の膜破損検知方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係る燃料電池の膜破損検知方法では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
請求項1に係る発明は、アノード極(例えば、後述する実施例におけるアノード極3)とカソード極(例えば、後述する実施例におけるカソード極4)を有する膜(例えば、後述する実施例における固体高分子電解質膜2)を備え前記両極にそれぞれ異なる反応ガスが供給されて発電を行う燃料電池(例えば、後述する実施例における燃料電池1)と、
前記燃料電池のアノード極とカソード極にそれぞれ対応する前記反応ガスを供給する反応ガス供給手段(例えば、後述する実施例におけるコンプレッサ7、圧力制御弁10、水素タンク15、ガス供給弁17、遮断弁18)と、
前記燃料電池のアノード極とカソード極のいずれか一方の極に連なるガス流路の前記燃料電池よりも上流および下流を遮断して該ガス流路を封止するガス流路封止手段(例えば、後述する実施例におけるガス供給弁17、遮断弁18、排水弁25、パージ弁27、掃気排出弁29、カソード封止弁34,35)と、
前記燃料電池の前記一方の極に供給された反応ガスの圧力を測定する圧力センサ(例えば、後述する実施例におけるカソード入口圧センサ61、アノード入口圧センサ62)と、
前記反応ガス供給手段を制御する制御手段(例えば、後述する実施例における(例えば、後述する実施例における制御装置50)と、
を備える燃料電池システムにおける前記燃料電池の膜破損検知方法であって、
前記燃料電池の停止時に、前記燃料電池の前記一方の極に供給された反応ガスの圧力を、予め定めた膜破損検知用圧力とした後、前記ガス流路封止手段によって前記一方の極に連なるガス流路を封止し、この封止から膜破損検知用時間が経過したときに封止したガス流路内の反応ガスの圧力を経過後圧力値として取得し、該経過後圧力値が閾値以下の場合に、前記燃料電池の前記膜が破損していると判定することを特徴とする燃料電池の膜破損検知方法である。
【0012】
請求項2に係る発明は、アノード極(例えば、後述する実施例におけるアノード極3)とカソード極(例えば、後述する実施例におけるカソード極4)を有する膜(例えば、後述する実施例における固体高分子電解質膜2)を備え前記両極にそれぞれ異なる反応ガスが供給されて発電を行う燃料電池(例えば、後述する実施例における燃料電池1)と、
前記燃料電池のアノード極とカソード極にそれぞれ対応する前記反応ガスを供給する反応ガス供給手段(例えば、後述する実施例におけるコンプレッサ7、圧力制御弁10、水素タンク15、ガス供給弁17、遮断弁18)と、
前記燃料電池のアノード極とカソード極のいずれか一方の極に連なるガス流路の前記燃料電池よりも上流および下流を遮断して該ガス流路を封止するガス流路封止手段(例えば、後述する実施例におけるガス供給弁17、遮断弁18、排水弁25、パージ弁27、掃気排出弁29、カソード封止弁34,35)と、
前記燃料電池の前記一方の極に供給された反応ガスの圧力を測定する圧力センサ(例えば、後述する実施例におけるカソード入口圧センサ61、アノード入口圧センサ62)と、
前記反応ガス供給手段を制御する制御手段(例えば、後述する実施例における制御装置50)と、
を備える燃料電池システムにおける前記燃料電池の膜破損検知方法であって、
前記燃料電池の停止時に、前記燃料電池の前記一方の極に供給された反応ガスの圧力を、予め定めた膜破損検知用圧力とした後、前記ガス流路封止手段によって前記一方の極に連なるガス流路を封止し、この封止後に封止したガス流路内の反応ガスの圧力を初期圧力値として取得し、前記封止から膜破損検知用時間が経過したときに封止したガス流路内の反応ガスの圧力を経過後圧力値として取得し、前記初期圧力値と前記経過後圧力値との差が前記膜破損検知用時間に応じて予め定められた閾値以上の場合に、前記燃料電池の前記膜が破損していると判定することを特徴とする燃料電池の膜破損検知方法である。
【0013】
請求項3に係る発明は、アノード極(例えば、後述する実施例におけるアノード極3)とカソード極(例えば、後述する実施例におけるカソード極4)を有する膜(例えば、後述する実施例における固体高分子電解質膜2)を備え前記両極にそれぞれ異なる反応ガスが供給されて発電を行う燃料電池(例えば、後述する実施例における燃料電池1)と、
前記燃料電池のアノード極とカソード極にそれぞれ対応する前記反応ガスを供給する反応ガス供給手段(例えば、後述する実施例におけるコンプレッサ7、圧力制御弁10、水素タンク15、ガス供給弁17、遮断弁18)と、
前記燃料電池のアノード極とカソード極のいずれか一方の極に連なるガス流路の前記燃料電池よりも上流および下流を遮断して該ガス流路を封止するガス流路封止手段(例えば、後述する実施例におけるガス供給弁17、遮断弁18、排水弁25、パージ弁27、掃気排出弁29、カソード封止弁34,35)と、
前記燃料電池の前記一方の極に供給された反応ガスの圧力を測定する圧力センサ(例えば、後述する実施例におけるカソード入口圧センサ61、アノード入口圧センサ62)と、
前記反応ガス供給手段を制御する制御手段(例えば、後述する実施例における制御装置50)と、
を備える燃料電池システムにおける前記燃料電池の膜破損検知方法であって、
前記燃料電池の停止時に、前記燃料電池の前記一方の極に供給された反応ガスの圧力を、予め定めた膜破損検知用圧力とした後、前記ガス流路封止手段によって前記一方の極に連なるガス流路を封止し、この封止後に封止したガス流路内の反応ガスの圧力を初期圧力値として取得し、前記封止から膜破損検知用時間が経過したときに封止したガス流路内の反応ガスの圧力を経過後圧力値として取得し、前記初期圧力値と前記経過後圧力値との差を前記膜破損検知用時間で除した値が閾値以上の場合に、前記燃料電池の前記膜が破損していると判定することを特徴とする燃料電池の膜破損検知方法である。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の発明において、前記燃料電池の前記一方の極に供給された反応ガスは水素を主成分とする燃料ガス(例えば、後述する実施例における水素)であり、前記燃料電池のアノード極側での燃料ガス圧力を用いて前記燃料電池の前記膜が破損しているか否かを判定することを特徴とする。
【0015】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の発明において、燃料ガス除去手段を備え、前記制御手段は、前記燃料電池の前記膜が破損しているか否かを判定した後、前記燃料電池のアノード極に連なるガス通路内の燃料ガスを、前記燃料ガス除去手段により除去することを特徴とする。
【0016】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の発明において、前記燃料ガス除去手段は、前記燃料電池における発電により燃料ガスを消費することで除去し、発生した電力を蓄電装置(例えば、後述する実施例における高圧バッテリ41)とシステム用補機(例えば、後述する実施例における補機42)のうち少なくとも一方に送ることを特徴とする。
【0017】
請求項7に係る発明は、請求項5に記載の発明において、前記燃料ガス除去手段は、希釈装置(例えば、後述する実施例における希釈ボックス11)に燃料ガスを送り込み、前記希釈装置に送り込まれた希釈ガス(例えば、後述する実施例における空気)で希釈することで除去することを特徴とする。
【0018】
請求項8に係る発明は、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の発明において、前記燃料電池システムは燃料電池車両に搭載されており、前記燃料電池の前記膜が破損しているか否かの判定は、前記燃料電池車両の一時的な停止に伴って前記燃料電池を停止したときに行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に係る発明によれば、封止したガス流路内の反応ガスの圧力の変化に基づいて燃料電池の膜が破損しているか否かを判定するので、誤判定のない確実な判定が可能となる。
また、燃料電池の停止時に前記膜破損の判定を行うので、燃料電池の起動時間に影響を及ぼすことがなく、商品性を損なうことがない。
また、燃料電池の発電時は、燃料電池のアノード極側およびカソード極側ともにそれぞれの反応ガスのみが存在する状態であるので、前記膜破損の判定を行う環境として極めて好適であり、反応ガスを無駄に消費することもないので、燃費悪化をもたらすことがない。
【0020】
請求項2に係る発明によれば、封止後のガス流路内の反応ガスの初期圧力値と経過後圧力値との差に基づいて、燃料電池の膜が破損しているか否かを判定するので、誤判定のない確実な判定が可能となる。
また、燃料電池の停止時に前記膜破損の判定を行うので、燃料電池の起動時間に影響を及ぼすことがなく、商品性を損なうことがない。
また、燃料電池の発電時は、燃料電池のアノード極側およびカソード極側ともにそれぞれの反応ガスのみが存在する状態であるので、前記膜破損の判定を行う環境として極めて好適であり、反応ガスを無駄に消費することもないので、燃費悪化をもたらすことがない。
【0021】
請求項3に係る発明によれば、封止後のガス流路内の反応ガスの初期圧力値と経過後圧力値との差を膜破損検知用時間で除した値、すなわち圧力低下速度に基づいて、燃料電池の膜が破損しているか否かを判定するので、誤判定のない確実な判定が可能となる。
また、燃料電池の停止時に前記膜破損の判定を行うので、燃料電池の起動時間に影響を及ぼすことがなく、商品性を損なうことがない。
また、燃料電池の発電時は、燃料電池のアノード極側およびカソード極側ともにそれぞれの反応ガスのみが存在する状態であるので、前記膜破損の判定を行う環境として極めて好適であり、反応ガスを無駄に消費することもないので、燃費悪化をもたらすことがない。
【0022】
請求項4に係る発明によれば、透過性の高い水素を主成分とする燃料ガスの圧力を用いるので、膜破損の判定精度が高い。
請求項5、請求項6、請求項7に係る発明によれば、封止したガス流路内の燃料ガスを除去してから燃料電池システムを停止することができる。
請求項8に係る発明によれば、燃料電池内の反応ガスの圧力が高く保持された状態から、膜破損の判定を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明に係る燃料電池の膜破損検知方法の実施に好適な燃料電池システムの構成図である。
【図2】ガス流路封止後のアノード極側の圧力挙動の一例を示す図である。
【図3】ガス流路封止後のアノード差圧の挙動の一例を示す図である。
【図4】アノード極側の圧力に関わる変化に基づく膜破損判定処理を示すフローチャートである。
【図5】アノード差圧に基づくクロスリーク判定処理を示すフローチャートである。
【図6】封じ込めから所定時間後のアノード極側の圧力値に基づくクロスリーク判定処理を示すフローチャートである。
【図7】アノード極側の圧力の低下速度に基づくクロスリーク判定処理を示すフローチャートである。
【図8】発電により水素を除去する水素除去処理を示すフローチャートである。
【図9】希釈ボックスを用いて水素を除去する水素除去処理を示すフローチャートである。
【図10】この発明に係る燃料電池の膜破損検知方法の実施に好適な別の燃料電池システムの構成図である。
【図11】カソード極側の圧力に関わる変化に基づく膜破損判定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、この発明に係る燃料電池の膜破損検知方法の実施例を図1から図11の図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施例における燃料電池システムは、燃料電池車両に搭載された態様である。
図1は、実施例における燃料電池システムの概略構成図である。
燃料電池1は、例えば固体ポリマーイオン交換膜等からなる固体高分子電解質膜2をアノード極3とカソード極4とで両側から挟み込んで形成されたセルを複数積層して構成されており(図示の都合上、図1では単セルのみ示す)、アノード極3に燃料ガス(反応ガス)として水素を供給し、カソード極4に酸化剤ガス(反応ガス)として酸素を含む空気を供給すると、アノード極3で触媒反応により発生した水素イオンが、固体高分子電解質膜2を通過してカソード極4まで移動して、カソード極4で酸素と電気化学反応を起こして発電し、水が生成される。カソード極4側で生じた生成水の一部は固体高分子電解質膜2を透過してアノード極3側に逆拡散するため、アノード極3側にも生成水が存在する。
【0025】
空気はスーパーチャージャーなどのコンプレッサ7により所定圧力に加圧され、空気供給流路8を通って燃料電池1内の酸化剤流通路6に導入され、各セルのカソード極4に供給される。燃料電池1に供給された空気は発電に供された後、燃料電池1からカソード極4側の生成水と共に空気排出流路9に排出され、圧力制御弁10を介して希釈ボックス11へ排出される。この実施例において、コンプレッサ7および圧力制御弁10は、カソード極4に反応ガスを供給する反応ガス供給手段を構成する。
空気供給流路8には、酸化剤流通路6に供給される空気の圧力を検出するためのカソード入口圧センサ61が設けられており、カソード入口圧センサ61は検出した圧力値に応じた電気信号を制御装置50に出力する。
【0026】
一方、水素タンク15から供給される水素は燃料供給流路16を介して燃料電池1内の燃料流通路5に導入され、各セルのアノード極3に供給される。燃料供給流路16には、上流側から順に、ガス供給弁17、遮断弁18、レギュレータ19、エゼクタ20が設けられており、水素タンク15から供給された水素はレギュレータ19によって所定圧力に減圧されて燃料電池1の燃料流通路5に供給される。そして、消費されなかった未反応の水素は、燃料電池1からアノードオフガスとして排出され、アノードオフガス流路21を通ってエゼクタ20に吸引され、水素タンク15から供給される新鮮な水素と合流し再び燃料電池1の燃料流通路5に供給される。すなわち、燃料電池1から排出されるアノードオフガスは、アノードオフガス流路21、およびエゼクタ20よりも下流の燃料供給流路16を通って、燃料電池1を循環する。この実施例において、水素タンク15、ガス供給弁17、遮断弁18は、アノード極3に反応ガスを供給する反応ガス供給手段を構成する。
【0027】
エゼクタ20よりも下流の燃料供給流路16には、燃料供給流路16に供給される水素の圧力を検出するためのアノード入口圧センサ62が設けられており、アノード入口圧センサ62は検出した圧力値に応じた電気信号を制御装置50に出力する。
エゼクタ20よりも下流の燃料供給流路16と空気供給流路8は、掃気弁22を備えたアノード掃気流路23によって接続されており、アノード掃気流路23を介して燃料供給流路16に空気を導入可能となっている。
【0028】
アノードオフガス流路21には、アノードオフガスに含まれる凝縮水を捕集するキャッチタンク24が設けられており、エゼクタ20には凝縮水を除去された水素が供給されるようになっている。キャッチタンク24は、排水弁25を備えた排水流路26を介して希釈ボックス11に接続されており、キャッチタンク24に所定量の水が溜まると排水弁25が開き、希釈ボックスに排水するようになっている。
【0029】
また、キャッチタンク24よりも下流のアノードオフガス流路21からは、パージ弁27を備えたパージ流路28と、掃気排出弁29を備えた掃気排出流路30とが分岐し、パージ流路28と掃気排出流路30は希釈ボックス11に接続されている。
パージ弁27は、燃料電池1の発電時において、通常は閉じており、所定の条件が満たされたときに開いて、アノードガス中に含まれる不純物をアノードオフガスとともに希釈ボックス11へ排出する。
掃気排出弁29は通常は閉じており、燃料電池システムの停止時に所定条件が満たされたときに開かれて、燃料電池1の燃料流通路5を空気で掃気する、いわゆるアノード掃気を行い、掃気ガスを希釈ボックス11へ排出する。
また、希釈ボックス11には空気供給流路8から分岐した希釈ガス流路31が接続されている。希釈ガス流路31に設けられた開閉弁32は、燃料電池1を通さずに希釈ガス(空気)を希釈ボックス11に供給する場合に開かれる。
【0030】
そして、排水流路26、パージ流路28、掃気排出流路30を介して希釈ボックス11に排出されたアノードオフガスは、空気排出流路9または希釈ガス流路31を介して希釈ボックス11に流入する空気によって希釈され、希釈されたガスが希釈ボックス11から排気管33を介して大気に排出される。
燃料電池1は、高圧バッテリ(蓄電装置)41や燃料電池システムの補機42に接続されており、燃料電池1で発電した電気を高圧バッテリ41に充電したり、補機42に電力を供給可能となっている。なお、補機42は、例えば、ランプ、車内空調用の電機機器等のほか、コンプレッサ7を含ませることができる。
【0031】
制御装置50は、イグニッションスイッチ51から入力したオン・オフ信号に基づいて燃料電池システムの起動・停止を制御し、燃料電池1の出力制御等、制御内容に応じて、コンプレッサ7、圧力制御弁10、ガス供給弁17、遮断弁18、掃気弁22、排水弁25、パージ弁27、掃気排出弁29、開閉弁32等を制御する。なお、図1ではこれらの制御信号線を省略している。
また、この実施例における燃料電池システムでは、制御装置50が、燃料電池1の発電停止時に自動的に、燃料電池1の固体高分子電解質膜2が破損しているか否かの判定処理(以下、膜破損判定処理と称す)を行うようになっている。
【0032】
燃料電池1の固体高分子電解質膜2が破損しているか否かは、燃料電池1の停止時に、燃料電池1のアノード極3側に所定圧力の水素を封じ込めた状態にし、所定時間後のアノード極3側の圧力値、あるいは所定時間経過前後のアノード極3側の圧力差、あるいは所定時間でのアノード極3側の圧力低下速度に基づいて、クロスリークの有無を検知し、この検知結果から判定することができる。
【0033】
図2は、燃料電池1のアノード極3側に所定圧力の水素を封じ込めた後のアノード極3側の圧力低下の状態を示したものである。前述したように、破損していない正常な固体高分子電解質膜2であってもクロスオーバーの現象があるので、燃料電池1のアノード極3側の水素は徐々にカソード極4側へ透過し、図2において破線で示すように時間経過にしたがってアノード極3側の圧力が徐々に低下していき、最終的にカソード極4側の圧力である大気圧と平衡となる。一方、破損した固体高分子電解質膜2の場合には、アノード極3側の水素が破損箇所を通してカソード極4側へクロスリークするため、図2において実線で示すようにアノード極3側の圧力は正常な固体高分子電解質膜2の場合に比して急激に低下していき、大気圧と平衡となる。このことから、クロスリーク有りの判定閾値となるアノード極3側の圧力値を所定に設定することで、所定時間経過後に実測したアノード極3側の圧力が前記判定閾値を下回った場合にクロスリーク有りと判定し、前記判定閾値を上回っている場合にはクロスリーク無しと判定することができる。
【0034】
また、図3は、水素封じ込め直後のアノード極3側の圧力と封じ込めから所定時間経過した後のアノード極3側の圧力との差(以下、アノード差圧と言う)の変化の状態を示したものである。破損していない正常な固体高分子電解質膜2の場合には、図3において破線で示すように時間経過にしたがってアノード差圧が徐々に増加していくのに対して、破損した固体高分子電解質膜2の場合には、図3において実線で示すようにアノード差圧は正常な固体高分子電解質膜2の場合に比して急激に増加し、平衡点に達する。このことから、水素を封じ込めてからの経過時間に応じてクロスリーク有りの判定閾値となるアノード差圧値を設定することができ(図3において一点鎖線)、前記経過時間後に実測したアノード差圧値が前記判定閾値を上回った場合にクロスリーク有りと判定し、前記判定閾値を下回っている場合にはクロスリーク無しと判定することができる。
【0035】
また、図示を省略するが、水素封じ込めから所定時間でのアノード極3側の圧力の低下速度は、破損のない正常な固体高分子電解質膜2よりも、破損した固体高分子電解質膜2の方が速い。したがって、クロスリーク有りの判定閾値となるアノード極3側の圧力の低下速度を設定しておき、実測したアノード極3側の圧力低下速度が前記判定閾値を上回った場合にクロスリーク有りと判定し、前記判定閾値を下回っている場合にはクロスリーク無しと判定することができる。
【0036】
燃料電池1のアノード極3側の圧力に関わる変化に基づく膜破損判定処理を図4から図9の図面を参照して説明する。
図4は、燃料電池1のアノード極3側の圧力に関わる変化に基づく膜破損判定処理のメインルーチンを示すフローチャートであり、このメインルーチンは、イグニッションスイッチ51のオフ信号をトリガーとして制御装置50によって実行される。
【0037】
まず、ステップS01において、アノード入口圧センサ62により検出される圧力が第1の所定圧Px1以上か否かを判定する。ここで、アノード入口圧センサ62により検出される圧力は、燃料電池1のアノード極3におけるガス圧力とほぼ同圧とみなすことができるので、以下の説明では、アノード入口圧センサ62により検出される圧力をアノード圧Paと称す。
【0038】
ステップS01における判定結果が「NO」(Pa<Px1)である場合には、ステップS02に進み、ガス供給弁17、遮断弁18を開き、水素タンク15から水素を供給してアノード極3側の圧力を昇圧する。この実施例において、第1の所定圧Px1は、予め定めた膜破損検知用圧力である。その後、ステップS03に進み、ガス供給弁17、遮断弁18を閉じる。なお、制御装置50は、水素の供給側の弁(ガス供給弁17、遮断弁18)を閉じたときに、水素系の排出側の弁(排水弁25、パージ弁27、掃気排出弁29)を同時に閉じる。
この実施例において、ガス供給弁17、遮断弁18、排水弁25、パージ弁27、掃気排出弁29は、アノード極3に連なるガス流路を封止するガス流路封止手段を構成する。
【0039】
一方、ステップS01における判定結果が「YES」(Pa≧Px1)である場合には、ステップS02の処理を行わずにステップS03に進み、ガス供給弁17、遮断弁18を閉じる。これにより、燃料電池1の燃料流通路5に連なる燃料系のガス流路(換言すると、アノード極3に連なるガス流路)が封止され、水素の封じ込めが完了する。
次に、ステップS04に進み、コンプレッサ7を停止して、燃料電池1への空気の供給を停止する。これにより、燃料電池1のカソード極4側は大気開放の状態となり、カソード極4側の圧力はほぼ大気圧となる。
【0040】
次に、ステップS05に進み、クロスリーク判定処理を実施して、燃料系ガス流路封止状態でのアノード圧Paに関わる変化に基づいてクロスリークの有無を検知する。クロスリーク判定処理については後で詳述する。
クロスリーク判定処理が終了した後、ステップS06に進み、燃料系ガス流路に封じ込めた水素を除去する水素除去処理を実施する。水素除去処理については後で詳述する。この実施例では、制御装置50がステップS06の水素除去処理を実行することにより、燃料ガス除去手段が実現される。
次に、ステップS07に進み、ステップS05において実施したクロスリーク判定処理の判定結果を、制御装置50の記憶部(図示略)に記憶して、このメインルーチンの実行を終了する。これにより、燃料系ガス流路に封じ込めた水素を除去してから燃料電池システムを停止することができる。
【0041】
次に、ステップS05において実施されるクロスリーク判定処理を、図5から図7のフローチャートに従って説明する。
初めに、前述したアノード差圧に基づいてクロスリークの有無を判定するクロスリーク判定処理を、図5に示されるサブルーチンのフローチャートに従って説明する。
まず、ステップS101において、水素封じ込め完了時にアノード入口圧センサ62により検出されるアノード圧Paが、前述した第1の所定圧Px1以上で且つ第2の所定圧Px2以下であるか否かを判定する。これは、アノード圧Paの初期値を所定範囲に収めることにより、クロスリーク判定精度を高めるためである。
ステップS101における判定結果が「NO」(Pa>Px2、または、Pa<Px1)である場合には、クロスリーク判定の実施条件を満たしていないので、ステップS102に進みクロスリーク判定を行わず、このサブルーチンの実行を終了する。
【0042】
ステップS101における判定結果が「YES」(Px2≧Pa≧Px1)である場合には、ステップS103に進み、水素封じ込め完了時に検知されたアノード圧Paを初期アノード圧(初期圧力値)P0にセットする(P0=Pa)。
次に、ステップS104に進み、水素封じ込め完了から所定時間(膜破損検知用時間)が経過したか否かを判定する。ここでの所定時間は、例えば数分程度である。
ステップS104における判定結果が「NO」である場合には、ステップS104に戻り、前記所定時間が経過するまで待機する。
【0043】
ステップS104における判定結果が「YES」(所定時間経過)である場合には、ステップS105に進み、アノード入口圧センサ62によりアノード圧を検出し、検出された圧力を経過後アノード圧(経過後圧力値)P1とする。
次に、ステップS106に進み、初期アノード圧P0と経過後アノード圧P1との差圧(アノード差圧)ΔPを算出し(ΔP=P0ーP1)、さらに、ステップS107に進んで、アノード差圧ΔPが、前記所定時間に応じて設定された閾値以上か否かを判定する。なお、閾値は、予め実際の燃料電池システムと同等の燃料電池システムを用いてデータを取得し、図3に示されるようなマップを作成し、このマップを参照して前記所定時間に応じた閾値を決定する。
【0044】
ステップS107における判定結果が「YES」(ΔP≧閾値)である場合には、ステップS108に進み、クロスリーク有りと判定し、このサブルーチンの実行を終了する。すなわち、クロスリーク有りの判定により、燃料電池1の固体高分子電解質膜2が破損していると判定されることとなる。
ステップS107における判定結果が「NO」(ΔP<閾値)である場合には、ステップS109に進み、クロスリーク無しと判定し、このサブルーチンの実行を終了する。すなわち、クロスリーク無しの判定により、燃料電池1の固体高分子電解質膜2は破損していないと判定されることとなる。
【0045】
次に、前述した水素封じ込めから所定時間後のアノード極3側の圧力値に基づいてクロスリークの有無を判定するクロスリーク判定処理を、図6に示されるサブルーチンのフローチャートに従って説明する。
まず、ステップS201において、水素封じ込め完了時にアノード入口圧センサ62により検出されるアノード圧Paが、前述した第1の所定圧Px1以上で且つ第2の所定圧Px2以下であるか否かを判定する。これは、アノード圧Paの初期値を所定範囲に収めることにより、クロスリーク判定精度を高めるためである。
ステップS201における判定結果が「NO」(Pa>Px2、または、Pa<Px1)である場合には、クロスリーク判定の実施条件を満たしていないので、ステップS202に進みクロスリーク判定を行わず、このサブルーチンの実行を終了する。
【0046】
ステップS201における判定結果が「YES」(Px2≧Pa≧Px1)である場合には、ステップS203に進み、水素封じ込め完了から所定時間(膜破損検知用時間)が経過したか否かを判定する。ここでの所定時間は、例えば数分程度である。
ステップS203における判定結果が「NO」である場合には、ステップS203に戻り、前記所定時間が経過するまで待機する。
ステップS203における判定結果が「YES」(所定時間経過)である場合には、ステップS204に進み、アノード入口圧センサ62によりアノード圧を検出し、検出された圧力を経過後アノード圧(経過後圧力値)P1とする。
【0047】
次に、ステップS205に進み、経過後アノード圧P1が閾値以下か否かを判定する。なお、この閾値は、予め実際の燃料電池システムと同等の燃料電池システムを用いてデータを取得し、図2に示されるようなマップを作成し、閾値(一定値)を決定する。また、前記所定時間は、正常な固体高分子電解質膜2でのアノード圧Paが閾値に達するより短い時間(図2においてt1以下)とする。
【0048】
ステップS205における判定結果が「YES」(P1≦閾値)である場合には、ステップS206に進み、クロスリーク有りと判定し、このサブルーチンの実行を終了する。すなわち、クロスリーク有りの判定により、燃料電池1の固体高分子電解質膜2が破損していると判定されることとなる。
ステップS205における判定結果が「NO」(P1>閾値)である場合には、ステップS207に進み、クロスリーク無しと判定し、このサブルーチンの実行を終了する。すなわち、クロスリーク無しの判定により、燃料電池1の固体高分子電解質膜2は破損していないと判定されることとなる。
【0049】
次に、前述した水素封じ込めから所定時間でのアノード極3側の圧力の低下速度に基づいてクロスリークの有無を判定するクロスリーク判定処理を、図7に示されるサブルーチンのフローチャートに従って説明する。
まず、ステップS301において、水素封じ込め完了時にアノード入口圧センサ62により検出されるアノード圧Paが、前述した第1の所定圧Px1以上で且つ第2の所定圧Px2以下であるか否かを判定する。これは、アノード圧Paの初期値を所定範囲に収めることにより、クロスリーク判定精度を高めるためである。
ステップS301における判定結果が「NO」(Pa>Px2、または、Pa<Px1)である場合には、クロスリーク判定の実施条件を満たしていないので、ステップS302に進みクロスリーク判定を行わず、このサブルーチンの実行を終了する。
【0050】
ステップS301における判定結果が「YES」(Px2≧Pa≧Px1)である場合には、ステップS303に進み、水素封じ込め完了時に検知されたアノード圧Paを初期アノード圧(初期圧力値)P0にセットする(P0=Pa)。
次に、ステップS304に進み、水素封じ込め完了から所定時間(膜破損検知用時間)が経過したか否かを判定する。ここでの所定時間は、例えば数分程度である。
ステップS304における判定結果が「NO」である場合には、ステップS304に戻り、前記所定時間が経過するまで待機する。
【0051】
ステップS304における判定結果が「YES」(所定時間経過)である場合には、ステップS305に進み、アノード入口圧センサ62によりアノード圧を検出し、検出された圧力を経過後アノード圧(経過後圧力値)P1とする。
次に、ステップS306に進み、初期アノード圧P0と経過後アノード圧P1との差圧(アノード差圧)ΔPを算出し(ΔP=P0ーP1)、これを前記所定時間で除した値、すなわちアノード圧力の低下速度Vpを算出する。
次に、ステップS307に進んで、算出されたアノード圧力の低下速度Vpが、前記所定時間に応じて設定された閾値以上か否かを判定する。なお、閾値は、予め実際の燃料電池システムと同等の燃料電池システムを用いてデータを取得し決定する。
【0052】
ステップS307における判定結果が「YES」(Vp≧閾値)である場合には、ステップS308に進み、クロスリーク有りと判定し、このサブルーチンの実行を終了する。すなわち、クロスリーク有りの判定により、燃料電池1の固体高分子電解質膜2が破損していると判定されることとなる。
ステップS307における判定結果が「NO」(Vp<閾値)である場合には、ステップS309に進み、クロスリーク無しと判定し、このサブルーチンの実行を終了する。すなわち、クロスリーク無しの判定により、燃料電池1の固体高分子電解質膜2は破損していないと判定されることとなる。
【0053】
次に、図4のメインルーチンのステップS06において実施される水素除去処理を、図8および図9のフローチャートに従って説明する。
前述したように、水素除去処理は、クロスリーク判定処理を実施するために燃料系のガス流路に封じ込めた水素を、クロスリーク判定処理の実施終了後に除去する処理であり、ここでは2つの方法による水素除去処理を説明する。いずれの水素除去処理を用いてもよく、燃料電池システムの停止時の状況に応じて使い分けることも可能である。この水素除去処理は、ガス供給弁17および遮断弁18の閉状態を保持して実施する。
【0054】
初めに、燃料電池1の発電により水素を消費することで水素を除去する水素除去処理を、図8に示されるサブルーチンのフローチャートに従って説明する。
まず、ステップS401において、コンプレッサ7を起動して燃料電池1のカソード極4に空気を供給する。
次に、ステップS402に進み、燃料電池1から所定電流値で電流を引くことにより、燃料電池1のアノード極3側に残留する水素を発電に使用し、発電した電気を高圧バッテリ41に充電したり、あるいは、補機42に供給して駆動することで、電気を消費する。
次に、ステップS403に進み、アノード入口圧センサ62により検出されるアノード圧Paが所定圧以下か否かを判定する。
ステップS403における判定結果が「NO」(Pa>所定圧)である場合には、水素が除去しきれていないので、ステップS402に戻る。
ステップS403における判定結果が「YES」(Pa≦所定圧)である場合には、ステップS404に進み、高圧バッテリ41への充電や補機42の駆動を停止するとともに、コンプレッサ7を停止し、本サブルーチンの実行を終了する。
【0055】
次に、燃料系のガス流路に封じ込めた水素を希釈ボックス11に排出し、希釈ボックス11にて空気で希釈して排出することで水素を除去する水素除去処理を、図9に示されるサブルーチンのフローチャートに従って説明する。
まず、ステップS501において、コンプレッサ7を起動し、空気排出流路9を介して希釈ボックス11に空気を供給する。
次に、ステップS502に進み、パージ弁27を開き、燃料系のガス流路に封じ込められた水素を、パージ流路28を介して希釈ボックス11に排出する。希釈ボックス11に排出された水素は、空気排出流路9から希釈ボックス11に流入する空気により希釈され、排気管33を介して排出される。
次に、ステップS503に進み、アノード入口圧センサ62により検出されるアノード圧が所定圧以下で、且つ、パージ弁27を開いてから所定時間が経過したか否かを判定する。
ステップS503における判定結果が「NO」である場合、すなわち、アノード圧が所定圧より大きいか、あるいは、所定時間が経過していない場合には、水素が除去しきれていないとみなし、ステップS502に戻る。
ステップS503における判定結果が「YES」である場合、すなわち、アノード圧が所定圧以下で、且つ所定時間が経過している場合には、ステップS504に進み、コンプレッサ7を停止し、パージ弁27を閉じて、本サブルーチンの実行を終了する。
【0056】
以上説明するように、この実施例における燃料電池の膜破損検知方法によれば、アノード極3側の圧力に関わる変化に基づいてクロスリークの有無を判定し、固体高分子電解質膜2が破損しているか否かを判定するので、誤判定のない確実な判定が可能となる。
また、水素は透過性が高く、この水素の圧力に関わる変化に基づいてクロスリークの有無を判定し、固体高分子電解質膜2が破損しているか否かを判定するので、判定精度が高い。
また、イグニッションスイッチ51がオフされて燃料電池1が発電を停止した直後に膜破損判定処理を行うので、燃料電池1の起動時間に影響を及ぼすことがない。よって、商品性を損なうことがない。
また、燃料電池1の発電停止直後は、燃料電池1のアノード極3側には水素のみが存在する状態であるので、クロスリーク判定を行う環境として極めて好適であり、水素を無駄に消費することもないので、燃費悪化をもたらすことがない。
【0057】
前述した実施例における膜破損判定処理では、燃料電池1のアノード極3側に所定圧力の水素を封じ込めた状態にして、アノード極3側の圧力に関わる変化に基づいて、燃料電池1の固体高分子電解質膜2の破損を判定したが、燃料電池1のカソード極4に連なるガス流路を封止することができる燃料電池システムである場合には、カソード極4側に所定圧力の空気を封じ込めた状態にして、カソード極4側の圧力に関わる変化に基づいて、固体高分子電解質膜2が破損しているか否かを判定することができる。
【0058】
図10は、燃料電池1のカソード極4に連なるガス流路を封止することができる燃料電池システムの概略構成図である。この燃料電池システムでは、空気供給流路8においてアノード掃気流路23および希釈ガス流路31の分岐点よりも下流と、空気排出流路9において圧力制御弁10よりも上流に、カソード封止弁(ガス流路封止手段)34,35が設けられている。カソード封止弁34,35の開閉は制御装置50によって制御され、通常は開状態に制御されて空気の流通を可能とし、膜破損判定処理を実施するときに閉状態に制御されて、燃料電池1のカソード極4に連なるガス流路を封止する。カソード入口圧センサ61は、カソード封止弁34よりも下流の空気供給流路8に設けられている。
その他の構成は、前述した図1に示される態様の燃料電池システムと同じであるので、同一態様部分に同一符号を付して説明を省略する。
【0059】
次に、燃料電池1のカソード極4側の圧力に関わる変化に基づく膜破損判定処理を図11に示すフローチャートに従って説明する。
図11は、燃料電池1のカソード極4側の圧力に関わる変化に基づく膜破損判定処理のメインルーチンを示すフローチャートであり、このメインルーチンは、イグニッションスイッチ51のオフ信号をトリガーとして制御装置50によって実行される。
まず、ステップS601において、ガス供給弁17、遮断弁18を閉じ、燃料電池1への水素供給を停止する。なお、制御装置50は、水素の供給側の弁(ガス供給弁17、遮断弁18)を閉じたときに、水素系の排出側の弁(排水弁25、パージ弁27、掃気排出弁29)を同時に閉じる。
【0060】
次に、ステップS602に進み、カソード入口圧センサ61により検出される圧力が所定圧Px3以上か否かを判定する。ここで、カソード入口圧センサ61により検出される圧力は、燃料電池1のカソード極4におけるガス圧力とほぼ同圧とみなすことができるので、以下の説明では、カソード入口圧センサ61により検出される圧力をカソード圧Pcと称す。なお、所定圧Px3は、燃料電池1への水素供給を停止した直後に検出されたアノード圧Paよりも若干高い圧力とする。
【0061】
ステップS602における判定結果が「NO」(Pc<Px3)である場合には、ステップS603に進み、コンプレッサ7の出力制御あるいは圧力制御弁10の開度制御により、カソード極4側の圧力を昇圧して、ステップS602に戻る。
ステップS602における判定結果が「YES」(Pc≧Px3)である場合には、ステップS604に進み、カソード封止弁34,35を閉じる。これにより、燃料電池1の酸化剤流通路6に連なる空気系のガス流路(換言すると、カソード極4に連なるガス流路)が封止され、空気の封じ込めが完了する。そして、封じ込め完了時のカソード圧Pcはほぼ所定圧Px3となる。この実施例において、所定圧Px3は、予め定めた膜破損検知用圧力である。
次に、ステップS605に進み、コンプレッサ7を停止する。
【0062】
次に、ステップS606に進み、クロスリーク判定処理を実施して、空気系ガス流路封止状態でのカソード圧Pcに関わる変化に基づいてクロスリークの有無を検知する。すなわち、空気封じ込めから所定時間後のカソード圧Pc、あるいは所定時間経過前後のカソード圧Pcの圧力差、あるいは所定時間でのカソード圧Pcの低下速度に基づいて、クロスリークの有無を検知する。クロスリーク判定処理は、アノード圧Paとカソード圧Pcの違いはあるが、基本的には、アノード圧Paに関わる変化に基づくクロスリーク判定処理と同じであるので、詳細説明は省略する。
【0063】
クロスリーク判定処理が終了した後、ステップS607に進み、ステップS606において実施したクロスリーク判定処理の判定結果を、制御装置50の記憶部(図示略)に記憶する。
次に、ステップS608に進み、カソード封止弁34,35のいずれか一方または両方を開いてカソード極4側の圧力を減圧し、カソード圧Pcを、燃料電池1のアノード極3とカソード極4の間での反応ガスのクロスオーバーを抑制可能な所定圧にする。
次に、ステップS609に進み、カソード封止弁34,35を閉じて、このメインルーチンの実行を終了する。
【0064】
以上説明するように、この実施例における燃料電池の膜破損検知方法によれば、カソード極4側の圧力に関わる変化に基づいてクロスリークの有無を判定し、固体高分子電解質膜2が破損しているか否かを判定するので、誤判定のない確実な判定が可能となる。
また、イグニッションスイッチ51がオフされて燃料電池1が発電を停止した直後に膜破損判定処理を行うので、燃料電池1の起動時間に影響を及ぼすことがない。よって、商品性を損なうことがない。
また、燃料電池1の発電停止直後は、燃料電池1のカソード極4側には空気のみが存在する状態であるので、クロスリーク判定を行う環境として極めて好適である。
また、燃料電池1のカソード極4側の圧力に関わる変化に基づいて膜破損判定処理を行うので、水素除去処理を行う必要がなく、膜破損判定に費やす時間を短縮することができる。
【0065】
なお、前述した各実施例では、イグニッションスイッチ51のオフによる発電停止時に膜破損判定処理を実施したが、イグニッションスイッチ51がオン状態での一時的な発電停止時に膜破損判定処理を実施することも可能である。
例えば、燃料電池車両では、イグニッションスイッチ51がオンの状態であって、車速がゼロであり、ブレーキペダルが踏まれており、アクセルペダルが踏まれていない等の一定条件を満たしたとき(例えば、赤信号による停止中の状態で成立する条件を満たしたときなど)には、燃料電池の発電を一時的に停止する所謂アイドル停止を行う場合がある。このアイドル停止時に膜破損判定処理を実施してもよい。発電停止後に燃料電池を再び発電状態に戻すことを前提とするアイドル停止では、アノード極3側およびカソード極4側の反応ガス圧力を高めた状態に保持して発電を停止するので、クロスリーク判定処理を実施するのに好適であり、クロスリーク判定処理に素早く移行することができる。また、アイドル停止後は燃料電池を再び速やかに発電状態に戻せるようにしてあり、水素除去処理が不要となる。
また、エゼクタ20よりも下流の燃料供給流路16に、水素ポンプを設けることも可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 燃料電池
2 固体高分子電解質膜(膜)
3 アノード極
4 カソード極
7 コンプレッサ(反応ガス供給手段)
10 圧力制御弁(反応ガス供給手段)
11 希釈ボックス(希釈装置)
15 水素タンク(反応ガス供給手段)
17 ガス供給弁(反応ガス供給手段、ガス流路封止手段)
18 遮断弁(反応ガス供給手段、ガス流路封止手段)
25 排水弁(ガス流路封止手段)
27 パージ弁(ガス流路封止手段)
29 掃気排出弁(ガス流路封止手段)
34,35 カソード封止弁(ガス流路封止手段)
41 高圧バッテリ(蓄電装置)
42 補機
50 制御装置(制御手段)
61 カソード入口圧センサ
62 アノード入口圧センサ
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池の膜の破損を検知する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子電解質膜を有し、アノード極に水素(燃料)が供給され、カソード極に酸素(酸化剤)を含む空気が供給されて発電をする燃料電池では、固体高分子電解質膜が破損してピンホール等が生じると、前記水素や空気がこうした破損箇所を通って固体高分子電解質膜を透過し(以下、膜破損によるリークをクロスリークという)、燃料電池の発電性能を低下させるので好ましくない。よって、固体高分子電解質膜の破損を検知することは、燃料電池の管理上、極めて重要である。
【0003】
燃料電池の膜破損検知方法に関しては、従来から種々案出されている。
例えば、特許文献1には、セル電圧の低下速度に基づいてクロスリークの有無を検出し、これから固体高分子電解質膜が破損しているか否かを判定することが開示されている。燃料電池の発電を停止すると反応ガスの供給が停止されるが、燃料電池の内部(ガス流路)には反応ガスが残存しているため、燃料電池の停止後もしばらくの間はセル電圧が保持される。異常なセルがなければ停止後の各セル電圧の低下速度はほぼ同じになるはずであり、異常なセルがある場合には、異常なセルの電圧低下速度は正常なセルの電圧低下速度よりも早くなる。これによりクロスリークの有無を判定する。
【0004】
また、特許文献2には、燃料電池に接続された燃料系配管内に燃料ガスを供給し、この燃料系配管を密閉して燃料系配管内の圧力変化に基づいて燃料ガスの漏れ検出を行うことが可能な燃料電池システムであって、システム起動時に燃料電池の一方の電極から他方の電極へのガスリークの有無を判定するとともに、その判定結果に基づいて漏れ検出条件(漏れ検出時の燃料系配管内への燃料ガスの供給時間、供給量、判定閾値、判定時間等)を変更すること、および、前記ガスリークの有無は燃料電池の開放端電圧に基づいて判定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−45467号公報
【特許文献2】特開2007−5266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、セル電圧の低下速度は、固体高分子電解質膜上における水のフラッディングにも影響されて速くなることもあるため、特許文献1に開示された方法では、セル電圧の低下速度の変化がクロスリークに起因するものとフラッディングに起因するものとの区別がつかず、フラッディングに起因してセル電圧の低下速度が速くなったときに、クロスリークであると誤判定する虞がある。
【0007】
一方、特許文献2に開示された方法は、システム起動時に(すなわち発電運転に入る前に)、ガスリークの有無判定、および燃料ガスの漏れ検出を行うので、起動開始から発電運転に至るまでの起動時間が大幅に長くなり、商品性を損なうという課題がある。
【0008】
また、固体高分子電解質膜は、破損していない正常な状態においても、微量ながらガスが透過することが知られている。(以下、正常な固体高分子電解質膜におけるガスの透過をクロスオーバーと称し、膜破損に起因するクロスリークと区別する。)
システム停止中にはカソード極側の空気中の窒素が固体高分子電解質膜をクロスオーバーしてアノード極側に進入する。そのため、システム起動時には、アノード極側に窒素が存在している状態であり、この状態で漏れ検出を行うこととなる。システム起動時にアノード極近傍に残存する窒素は、漏れ検出条件を変更しても、アノード極近傍に残存する。ここで、固体高分子電解質膜にピンホールが存在している場合、窒素は水素に比してピンホールを透過し難く(換言すると、水素の方が窒素よりもピンホールを透過し易く)、アノード極側に窒素が残存していると、アノード極側の圧力が低下し難くなる。その結果、固体高分子電解質膜が破損していてもアノード極側の圧力低下が小さく、破損が検知されない可能性がある。
【0009】
さらに、システム停止中にカソード極側の空気中の酸素も固体高分子電解質膜をクロスオーバーしてアノード極側に進入する。このアノード極側に存在する酸素は、システム起動時に漏れ検出のためにアノード極側に水素を供給したときに、該水素の一部と反応し、水素を消費してしまう。そのため、酸素との反応により消費される分だけ余分な水素を供給する必要があり、燃費が低下するという課題もある。
【0010】
そこで、この発明は、判定精度が高く、商品性や燃費に悪影響を及ぼさない燃料電池の膜破損検知方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係る燃料電池の膜破損検知方法では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
請求項1に係る発明は、アノード極(例えば、後述する実施例におけるアノード極3)とカソード極(例えば、後述する実施例におけるカソード極4)を有する膜(例えば、後述する実施例における固体高分子電解質膜2)を備え前記両極にそれぞれ異なる反応ガスが供給されて発電を行う燃料電池(例えば、後述する実施例における燃料電池1)と、
前記燃料電池のアノード極とカソード極にそれぞれ対応する前記反応ガスを供給する反応ガス供給手段(例えば、後述する実施例におけるコンプレッサ7、圧力制御弁10、水素タンク15、ガス供給弁17、遮断弁18)と、
前記燃料電池のアノード極とカソード極のいずれか一方の極に連なるガス流路の前記燃料電池よりも上流および下流を遮断して該ガス流路を封止するガス流路封止手段(例えば、後述する実施例におけるガス供給弁17、遮断弁18、排水弁25、パージ弁27、掃気排出弁29、カソード封止弁34,35)と、
前記燃料電池の前記一方の極に供給された反応ガスの圧力を測定する圧力センサ(例えば、後述する実施例におけるカソード入口圧センサ61、アノード入口圧センサ62)と、
前記反応ガス供給手段を制御する制御手段(例えば、後述する実施例における(例えば、後述する実施例における制御装置50)と、
を備える燃料電池システムにおける前記燃料電池の膜破損検知方法であって、
前記燃料電池の停止時に、前記燃料電池の前記一方の極に供給された反応ガスの圧力を、予め定めた膜破損検知用圧力とした後、前記ガス流路封止手段によって前記一方の極に連なるガス流路を封止し、この封止から膜破損検知用時間が経過したときに封止したガス流路内の反応ガスの圧力を経過後圧力値として取得し、該経過後圧力値が閾値以下の場合に、前記燃料電池の前記膜が破損していると判定することを特徴とする燃料電池の膜破損検知方法である。
【0012】
請求項2に係る発明は、アノード極(例えば、後述する実施例におけるアノード極3)とカソード極(例えば、後述する実施例におけるカソード極4)を有する膜(例えば、後述する実施例における固体高分子電解質膜2)を備え前記両極にそれぞれ異なる反応ガスが供給されて発電を行う燃料電池(例えば、後述する実施例における燃料電池1)と、
前記燃料電池のアノード極とカソード極にそれぞれ対応する前記反応ガスを供給する反応ガス供給手段(例えば、後述する実施例におけるコンプレッサ7、圧力制御弁10、水素タンク15、ガス供給弁17、遮断弁18)と、
前記燃料電池のアノード極とカソード極のいずれか一方の極に連なるガス流路の前記燃料電池よりも上流および下流を遮断して該ガス流路を封止するガス流路封止手段(例えば、後述する実施例におけるガス供給弁17、遮断弁18、排水弁25、パージ弁27、掃気排出弁29、カソード封止弁34,35)と、
前記燃料電池の前記一方の極に供給された反応ガスの圧力を測定する圧力センサ(例えば、後述する実施例におけるカソード入口圧センサ61、アノード入口圧センサ62)と、
前記反応ガス供給手段を制御する制御手段(例えば、後述する実施例における制御装置50)と、
を備える燃料電池システムにおける前記燃料電池の膜破損検知方法であって、
前記燃料電池の停止時に、前記燃料電池の前記一方の極に供給された反応ガスの圧力を、予め定めた膜破損検知用圧力とした後、前記ガス流路封止手段によって前記一方の極に連なるガス流路を封止し、この封止後に封止したガス流路内の反応ガスの圧力を初期圧力値として取得し、前記封止から膜破損検知用時間が経過したときに封止したガス流路内の反応ガスの圧力を経過後圧力値として取得し、前記初期圧力値と前記経過後圧力値との差が前記膜破損検知用時間に応じて予め定められた閾値以上の場合に、前記燃料電池の前記膜が破損していると判定することを特徴とする燃料電池の膜破損検知方法である。
【0013】
請求項3に係る発明は、アノード極(例えば、後述する実施例におけるアノード極3)とカソード極(例えば、後述する実施例におけるカソード極4)を有する膜(例えば、後述する実施例における固体高分子電解質膜2)を備え前記両極にそれぞれ異なる反応ガスが供給されて発電を行う燃料電池(例えば、後述する実施例における燃料電池1)と、
前記燃料電池のアノード極とカソード極にそれぞれ対応する前記反応ガスを供給する反応ガス供給手段(例えば、後述する実施例におけるコンプレッサ7、圧力制御弁10、水素タンク15、ガス供給弁17、遮断弁18)と、
前記燃料電池のアノード極とカソード極のいずれか一方の極に連なるガス流路の前記燃料電池よりも上流および下流を遮断して該ガス流路を封止するガス流路封止手段(例えば、後述する実施例におけるガス供給弁17、遮断弁18、排水弁25、パージ弁27、掃気排出弁29、カソード封止弁34,35)と、
前記燃料電池の前記一方の極に供給された反応ガスの圧力を測定する圧力センサ(例えば、後述する実施例におけるカソード入口圧センサ61、アノード入口圧センサ62)と、
前記反応ガス供給手段を制御する制御手段(例えば、後述する実施例における制御装置50)と、
を備える燃料電池システムにおける前記燃料電池の膜破損検知方法であって、
前記燃料電池の停止時に、前記燃料電池の前記一方の極に供給された反応ガスの圧力を、予め定めた膜破損検知用圧力とした後、前記ガス流路封止手段によって前記一方の極に連なるガス流路を封止し、この封止後に封止したガス流路内の反応ガスの圧力を初期圧力値として取得し、前記封止から膜破損検知用時間が経過したときに封止したガス流路内の反応ガスの圧力を経過後圧力値として取得し、前記初期圧力値と前記経過後圧力値との差を前記膜破損検知用時間で除した値が閾値以上の場合に、前記燃料電池の前記膜が破損していると判定することを特徴とする燃料電池の膜破損検知方法である。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の発明において、前記燃料電池の前記一方の極に供給された反応ガスは水素を主成分とする燃料ガス(例えば、後述する実施例における水素)であり、前記燃料電池のアノード極側での燃料ガス圧力を用いて前記燃料電池の前記膜が破損しているか否かを判定することを特徴とする。
【0015】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の発明において、燃料ガス除去手段を備え、前記制御手段は、前記燃料電池の前記膜が破損しているか否かを判定した後、前記燃料電池のアノード極に連なるガス通路内の燃料ガスを、前記燃料ガス除去手段により除去することを特徴とする。
【0016】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の発明において、前記燃料ガス除去手段は、前記燃料電池における発電により燃料ガスを消費することで除去し、発生した電力を蓄電装置(例えば、後述する実施例における高圧バッテリ41)とシステム用補機(例えば、後述する実施例における補機42)のうち少なくとも一方に送ることを特徴とする。
【0017】
請求項7に係る発明は、請求項5に記載の発明において、前記燃料ガス除去手段は、希釈装置(例えば、後述する実施例における希釈ボックス11)に燃料ガスを送り込み、前記希釈装置に送り込まれた希釈ガス(例えば、後述する実施例における空気)で希釈することで除去することを特徴とする。
【0018】
請求項8に係る発明は、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の発明において、前記燃料電池システムは燃料電池車両に搭載されており、前記燃料電池の前記膜が破損しているか否かの判定は、前記燃料電池車両の一時的な停止に伴って前記燃料電池を停止したときに行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に係る発明によれば、封止したガス流路内の反応ガスの圧力の変化に基づいて燃料電池の膜が破損しているか否かを判定するので、誤判定のない確実な判定が可能となる。
また、燃料電池の停止時に前記膜破損の判定を行うので、燃料電池の起動時間に影響を及ぼすことがなく、商品性を損なうことがない。
また、燃料電池の発電時は、燃料電池のアノード極側およびカソード極側ともにそれぞれの反応ガスのみが存在する状態であるので、前記膜破損の判定を行う環境として極めて好適であり、反応ガスを無駄に消費することもないので、燃費悪化をもたらすことがない。
【0020】
請求項2に係る発明によれば、封止後のガス流路内の反応ガスの初期圧力値と経過後圧力値との差に基づいて、燃料電池の膜が破損しているか否かを判定するので、誤判定のない確実な判定が可能となる。
また、燃料電池の停止時に前記膜破損の判定を行うので、燃料電池の起動時間に影響を及ぼすことがなく、商品性を損なうことがない。
また、燃料電池の発電時は、燃料電池のアノード極側およびカソード極側ともにそれぞれの反応ガスのみが存在する状態であるので、前記膜破損の判定を行う環境として極めて好適であり、反応ガスを無駄に消費することもないので、燃費悪化をもたらすことがない。
【0021】
請求項3に係る発明によれば、封止後のガス流路内の反応ガスの初期圧力値と経過後圧力値との差を膜破損検知用時間で除した値、すなわち圧力低下速度に基づいて、燃料電池の膜が破損しているか否かを判定するので、誤判定のない確実な判定が可能となる。
また、燃料電池の停止時に前記膜破損の判定を行うので、燃料電池の起動時間に影響を及ぼすことがなく、商品性を損なうことがない。
また、燃料電池の発電時は、燃料電池のアノード極側およびカソード極側ともにそれぞれの反応ガスのみが存在する状態であるので、前記膜破損の判定を行う環境として極めて好適であり、反応ガスを無駄に消費することもないので、燃費悪化をもたらすことがない。
【0022】
請求項4に係る発明によれば、透過性の高い水素を主成分とする燃料ガスの圧力を用いるので、膜破損の判定精度が高い。
請求項5、請求項6、請求項7に係る発明によれば、封止したガス流路内の燃料ガスを除去してから燃料電池システムを停止することができる。
請求項8に係る発明によれば、燃料電池内の反応ガスの圧力が高く保持された状態から、膜破損の判定を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明に係る燃料電池の膜破損検知方法の実施に好適な燃料電池システムの構成図である。
【図2】ガス流路封止後のアノード極側の圧力挙動の一例を示す図である。
【図3】ガス流路封止後のアノード差圧の挙動の一例を示す図である。
【図4】アノード極側の圧力に関わる変化に基づく膜破損判定処理を示すフローチャートである。
【図5】アノード差圧に基づくクロスリーク判定処理を示すフローチャートである。
【図6】封じ込めから所定時間後のアノード極側の圧力値に基づくクロスリーク判定処理を示すフローチャートである。
【図7】アノード極側の圧力の低下速度に基づくクロスリーク判定処理を示すフローチャートである。
【図8】発電により水素を除去する水素除去処理を示すフローチャートである。
【図9】希釈ボックスを用いて水素を除去する水素除去処理を示すフローチャートである。
【図10】この発明に係る燃料電池の膜破損検知方法の実施に好適な別の燃料電池システムの構成図である。
【図11】カソード極側の圧力に関わる変化に基づく膜破損判定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、この発明に係る燃料電池の膜破損検知方法の実施例を図1から図11の図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施例における燃料電池システムは、燃料電池車両に搭載された態様である。
図1は、実施例における燃料電池システムの概略構成図である。
燃料電池1は、例えば固体ポリマーイオン交換膜等からなる固体高分子電解質膜2をアノード極3とカソード極4とで両側から挟み込んで形成されたセルを複数積層して構成されており(図示の都合上、図1では単セルのみ示す)、アノード極3に燃料ガス(反応ガス)として水素を供給し、カソード極4に酸化剤ガス(反応ガス)として酸素を含む空気を供給すると、アノード極3で触媒反応により発生した水素イオンが、固体高分子電解質膜2を通過してカソード極4まで移動して、カソード極4で酸素と電気化学反応を起こして発電し、水が生成される。カソード極4側で生じた生成水の一部は固体高分子電解質膜2を透過してアノード極3側に逆拡散するため、アノード極3側にも生成水が存在する。
【0025】
空気はスーパーチャージャーなどのコンプレッサ7により所定圧力に加圧され、空気供給流路8を通って燃料電池1内の酸化剤流通路6に導入され、各セルのカソード極4に供給される。燃料電池1に供給された空気は発電に供された後、燃料電池1からカソード極4側の生成水と共に空気排出流路9に排出され、圧力制御弁10を介して希釈ボックス11へ排出される。この実施例において、コンプレッサ7および圧力制御弁10は、カソード極4に反応ガスを供給する反応ガス供給手段を構成する。
空気供給流路8には、酸化剤流通路6に供給される空気の圧力を検出するためのカソード入口圧センサ61が設けられており、カソード入口圧センサ61は検出した圧力値に応じた電気信号を制御装置50に出力する。
【0026】
一方、水素タンク15から供給される水素は燃料供給流路16を介して燃料電池1内の燃料流通路5に導入され、各セルのアノード極3に供給される。燃料供給流路16には、上流側から順に、ガス供給弁17、遮断弁18、レギュレータ19、エゼクタ20が設けられており、水素タンク15から供給された水素はレギュレータ19によって所定圧力に減圧されて燃料電池1の燃料流通路5に供給される。そして、消費されなかった未反応の水素は、燃料電池1からアノードオフガスとして排出され、アノードオフガス流路21を通ってエゼクタ20に吸引され、水素タンク15から供給される新鮮な水素と合流し再び燃料電池1の燃料流通路5に供給される。すなわち、燃料電池1から排出されるアノードオフガスは、アノードオフガス流路21、およびエゼクタ20よりも下流の燃料供給流路16を通って、燃料電池1を循環する。この実施例において、水素タンク15、ガス供給弁17、遮断弁18は、アノード極3に反応ガスを供給する反応ガス供給手段を構成する。
【0027】
エゼクタ20よりも下流の燃料供給流路16には、燃料供給流路16に供給される水素の圧力を検出するためのアノード入口圧センサ62が設けられており、アノード入口圧センサ62は検出した圧力値に応じた電気信号を制御装置50に出力する。
エゼクタ20よりも下流の燃料供給流路16と空気供給流路8は、掃気弁22を備えたアノード掃気流路23によって接続されており、アノード掃気流路23を介して燃料供給流路16に空気を導入可能となっている。
【0028】
アノードオフガス流路21には、アノードオフガスに含まれる凝縮水を捕集するキャッチタンク24が設けられており、エゼクタ20には凝縮水を除去された水素が供給されるようになっている。キャッチタンク24は、排水弁25を備えた排水流路26を介して希釈ボックス11に接続されており、キャッチタンク24に所定量の水が溜まると排水弁25が開き、希釈ボックスに排水するようになっている。
【0029】
また、キャッチタンク24よりも下流のアノードオフガス流路21からは、パージ弁27を備えたパージ流路28と、掃気排出弁29を備えた掃気排出流路30とが分岐し、パージ流路28と掃気排出流路30は希釈ボックス11に接続されている。
パージ弁27は、燃料電池1の発電時において、通常は閉じており、所定の条件が満たされたときに開いて、アノードガス中に含まれる不純物をアノードオフガスとともに希釈ボックス11へ排出する。
掃気排出弁29は通常は閉じており、燃料電池システムの停止時に所定条件が満たされたときに開かれて、燃料電池1の燃料流通路5を空気で掃気する、いわゆるアノード掃気を行い、掃気ガスを希釈ボックス11へ排出する。
また、希釈ボックス11には空気供給流路8から分岐した希釈ガス流路31が接続されている。希釈ガス流路31に設けられた開閉弁32は、燃料電池1を通さずに希釈ガス(空気)を希釈ボックス11に供給する場合に開かれる。
【0030】
そして、排水流路26、パージ流路28、掃気排出流路30を介して希釈ボックス11に排出されたアノードオフガスは、空気排出流路9または希釈ガス流路31を介して希釈ボックス11に流入する空気によって希釈され、希釈されたガスが希釈ボックス11から排気管33を介して大気に排出される。
燃料電池1は、高圧バッテリ(蓄電装置)41や燃料電池システムの補機42に接続されており、燃料電池1で発電した電気を高圧バッテリ41に充電したり、補機42に電力を供給可能となっている。なお、補機42は、例えば、ランプ、車内空調用の電機機器等のほか、コンプレッサ7を含ませることができる。
【0031】
制御装置50は、イグニッションスイッチ51から入力したオン・オフ信号に基づいて燃料電池システムの起動・停止を制御し、燃料電池1の出力制御等、制御内容に応じて、コンプレッサ7、圧力制御弁10、ガス供給弁17、遮断弁18、掃気弁22、排水弁25、パージ弁27、掃気排出弁29、開閉弁32等を制御する。なお、図1ではこれらの制御信号線を省略している。
また、この実施例における燃料電池システムでは、制御装置50が、燃料電池1の発電停止時に自動的に、燃料電池1の固体高分子電解質膜2が破損しているか否かの判定処理(以下、膜破損判定処理と称す)を行うようになっている。
【0032】
燃料電池1の固体高分子電解質膜2が破損しているか否かは、燃料電池1の停止時に、燃料電池1のアノード極3側に所定圧力の水素を封じ込めた状態にし、所定時間後のアノード極3側の圧力値、あるいは所定時間経過前後のアノード極3側の圧力差、あるいは所定時間でのアノード極3側の圧力低下速度に基づいて、クロスリークの有無を検知し、この検知結果から判定することができる。
【0033】
図2は、燃料電池1のアノード極3側に所定圧力の水素を封じ込めた後のアノード極3側の圧力低下の状態を示したものである。前述したように、破損していない正常な固体高分子電解質膜2であってもクロスオーバーの現象があるので、燃料電池1のアノード極3側の水素は徐々にカソード極4側へ透過し、図2において破線で示すように時間経過にしたがってアノード極3側の圧力が徐々に低下していき、最終的にカソード極4側の圧力である大気圧と平衡となる。一方、破損した固体高分子電解質膜2の場合には、アノード極3側の水素が破損箇所を通してカソード極4側へクロスリークするため、図2において実線で示すようにアノード極3側の圧力は正常な固体高分子電解質膜2の場合に比して急激に低下していき、大気圧と平衡となる。このことから、クロスリーク有りの判定閾値となるアノード極3側の圧力値を所定に設定することで、所定時間経過後に実測したアノード極3側の圧力が前記判定閾値を下回った場合にクロスリーク有りと判定し、前記判定閾値を上回っている場合にはクロスリーク無しと判定することができる。
【0034】
また、図3は、水素封じ込め直後のアノード極3側の圧力と封じ込めから所定時間経過した後のアノード極3側の圧力との差(以下、アノード差圧と言う)の変化の状態を示したものである。破損していない正常な固体高分子電解質膜2の場合には、図3において破線で示すように時間経過にしたがってアノード差圧が徐々に増加していくのに対して、破損した固体高分子電解質膜2の場合には、図3において実線で示すようにアノード差圧は正常な固体高分子電解質膜2の場合に比して急激に増加し、平衡点に達する。このことから、水素を封じ込めてからの経過時間に応じてクロスリーク有りの判定閾値となるアノード差圧値を設定することができ(図3において一点鎖線)、前記経過時間後に実測したアノード差圧値が前記判定閾値を上回った場合にクロスリーク有りと判定し、前記判定閾値を下回っている場合にはクロスリーク無しと判定することができる。
【0035】
また、図示を省略するが、水素封じ込めから所定時間でのアノード極3側の圧力の低下速度は、破損のない正常な固体高分子電解質膜2よりも、破損した固体高分子電解質膜2の方が速い。したがって、クロスリーク有りの判定閾値となるアノード極3側の圧力の低下速度を設定しておき、実測したアノード極3側の圧力低下速度が前記判定閾値を上回った場合にクロスリーク有りと判定し、前記判定閾値を下回っている場合にはクロスリーク無しと判定することができる。
【0036】
燃料電池1のアノード極3側の圧力に関わる変化に基づく膜破損判定処理を図4から図9の図面を参照して説明する。
図4は、燃料電池1のアノード極3側の圧力に関わる変化に基づく膜破損判定処理のメインルーチンを示すフローチャートであり、このメインルーチンは、イグニッションスイッチ51のオフ信号をトリガーとして制御装置50によって実行される。
【0037】
まず、ステップS01において、アノード入口圧センサ62により検出される圧力が第1の所定圧Px1以上か否かを判定する。ここで、アノード入口圧センサ62により検出される圧力は、燃料電池1のアノード極3におけるガス圧力とほぼ同圧とみなすことができるので、以下の説明では、アノード入口圧センサ62により検出される圧力をアノード圧Paと称す。
【0038】
ステップS01における判定結果が「NO」(Pa<Px1)である場合には、ステップS02に進み、ガス供給弁17、遮断弁18を開き、水素タンク15から水素を供給してアノード極3側の圧力を昇圧する。この実施例において、第1の所定圧Px1は、予め定めた膜破損検知用圧力である。その後、ステップS03に進み、ガス供給弁17、遮断弁18を閉じる。なお、制御装置50は、水素の供給側の弁(ガス供給弁17、遮断弁18)を閉じたときに、水素系の排出側の弁(排水弁25、パージ弁27、掃気排出弁29)を同時に閉じる。
この実施例において、ガス供給弁17、遮断弁18、排水弁25、パージ弁27、掃気排出弁29は、アノード極3に連なるガス流路を封止するガス流路封止手段を構成する。
【0039】
一方、ステップS01における判定結果が「YES」(Pa≧Px1)である場合には、ステップS02の処理を行わずにステップS03に進み、ガス供給弁17、遮断弁18を閉じる。これにより、燃料電池1の燃料流通路5に連なる燃料系のガス流路(換言すると、アノード極3に連なるガス流路)が封止され、水素の封じ込めが完了する。
次に、ステップS04に進み、コンプレッサ7を停止して、燃料電池1への空気の供給を停止する。これにより、燃料電池1のカソード極4側は大気開放の状態となり、カソード極4側の圧力はほぼ大気圧となる。
【0040】
次に、ステップS05に進み、クロスリーク判定処理を実施して、燃料系ガス流路封止状態でのアノード圧Paに関わる変化に基づいてクロスリークの有無を検知する。クロスリーク判定処理については後で詳述する。
クロスリーク判定処理が終了した後、ステップS06に進み、燃料系ガス流路に封じ込めた水素を除去する水素除去処理を実施する。水素除去処理については後で詳述する。この実施例では、制御装置50がステップS06の水素除去処理を実行することにより、燃料ガス除去手段が実現される。
次に、ステップS07に進み、ステップS05において実施したクロスリーク判定処理の判定結果を、制御装置50の記憶部(図示略)に記憶して、このメインルーチンの実行を終了する。これにより、燃料系ガス流路に封じ込めた水素を除去してから燃料電池システムを停止することができる。
【0041】
次に、ステップS05において実施されるクロスリーク判定処理を、図5から図7のフローチャートに従って説明する。
初めに、前述したアノード差圧に基づいてクロスリークの有無を判定するクロスリーク判定処理を、図5に示されるサブルーチンのフローチャートに従って説明する。
まず、ステップS101において、水素封じ込め完了時にアノード入口圧センサ62により検出されるアノード圧Paが、前述した第1の所定圧Px1以上で且つ第2の所定圧Px2以下であるか否かを判定する。これは、アノード圧Paの初期値を所定範囲に収めることにより、クロスリーク判定精度を高めるためである。
ステップS101における判定結果が「NO」(Pa>Px2、または、Pa<Px1)である場合には、クロスリーク判定の実施条件を満たしていないので、ステップS102に進みクロスリーク判定を行わず、このサブルーチンの実行を終了する。
【0042】
ステップS101における判定結果が「YES」(Px2≧Pa≧Px1)である場合には、ステップS103に進み、水素封じ込め完了時に検知されたアノード圧Paを初期アノード圧(初期圧力値)P0にセットする(P0=Pa)。
次に、ステップS104に進み、水素封じ込め完了から所定時間(膜破損検知用時間)が経過したか否かを判定する。ここでの所定時間は、例えば数分程度である。
ステップS104における判定結果が「NO」である場合には、ステップS104に戻り、前記所定時間が経過するまで待機する。
【0043】
ステップS104における判定結果が「YES」(所定時間経過)である場合には、ステップS105に進み、アノード入口圧センサ62によりアノード圧を検出し、検出された圧力を経過後アノード圧(経過後圧力値)P1とする。
次に、ステップS106に進み、初期アノード圧P0と経過後アノード圧P1との差圧(アノード差圧)ΔPを算出し(ΔP=P0ーP1)、さらに、ステップS107に進んで、アノード差圧ΔPが、前記所定時間に応じて設定された閾値以上か否かを判定する。なお、閾値は、予め実際の燃料電池システムと同等の燃料電池システムを用いてデータを取得し、図3に示されるようなマップを作成し、このマップを参照して前記所定時間に応じた閾値を決定する。
【0044】
ステップS107における判定結果が「YES」(ΔP≧閾値)である場合には、ステップS108に進み、クロスリーク有りと判定し、このサブルーチンの実行を終了する。すなわち、クロスリーク有りの判定により、燃料電池1の固体高分子電解質膜2が破損していると判定されることとなる。
ステップS107における判定結果が「NO」(ΔP<閾値)である場合には、ステップS109に進み、クロスリーク無しと判定し、このサブルーチンの実行を終了する。すなわち、クロスリーク無しの判定により、燃料電池1の固体高分子電解質膜2は破損していないと判定されることとなる。
【0045】
次に、前述した水素封じ込めから所定時間後のアノード極3側の圧力値に基づいてクロスリークの有無を判定するクロスリーク判定処理を、図6に示されるサブルーチンのフローチャートに従って説明する。
まず、ステップS201において、水素封じ込め完了時にアノード入口圧センサ62により検出されるアノード圧Paが、前述した第1の所定圧Px1以上で且つ第2の所定圧Px2以下であるか否かを判定する。これは、アノード圧Paの初期値を所定範囲に収めることにより、クロスリーク判定精度を高めるためである。
ステップS201における判定結果が「NO」(Pa>Px2、または、Pa<Px1)である場合には、クロスリーク判定の実施条件を満たしていないので、ステップS202に進みクロスリーク判定を行わず、このサブルーチンの実行を終了する。
【0046】
ステップS201における判定結果が「YES」(Px2≧Pa≧Px1)である場合には、ステップS203に進み、水素封じ込め完了から所定時間(膜破損検知用時間)が経過したか否かを判定する。ここでの所定時間は、例えば数分程度である。
ステップS203における判定結果が「NO」である場合には、ステップS203に戻り、前記所定時間が経過するまで待機する。
ステップS203における判定結果が「YES」(所定時間経過)である場合には、ステップS204に進み、アノード入口圧センサ62によりアノード圧を検出し、検出された圧力を経過後アノード圧(経過後圧力値)P1とする。
【0047】
次に、ステップS205に進み、経過後アノード圧P1が閾値以下か否かを判定する。なお、この閾値は、予め実際の燃料電池システムと同等の燃料電池システムを用いてデータを取得し、図2に示されるようなマップを作成し、閾値(一定値)を決定する。また、前記所定時間は、正常な固体高分子電解質膜2でのアノード圧Paが閾値に達するより短い時間(図2においてt1以下)とする。
【0048】
ステップS205における判定結果が「YES」(P1≦閾値)である場合には、ステップS206に進み、クロスリーク有りと判定し、このサブルーチンの実行を終了する。すなわち、クロスリーク有りの判定により、燃料電池1の固体高分子電解質膜2が破損していると判定されることとなる。
ステップS205における判定結果が「NO」(P1>閾値)である場合には、ステップS207に進み、クロスリーク無しと判定し、このサブルーチンの実行を終了する。すなわち、クロスリーク無しの判定により、燃料電池1の固体高分子電解質膜2は破損していないと判定されることとなる。
【0049】
次に、前述した水素封じ込めから所定時間でのアノード極3側の圧力の低下速度に基づいてクロスリークの有無を判定するクロスリーク判定処理を、図7に示されるサブルーチンのフローチャートに従って説明する。
まず、ステップS301において、水素封じ込め完了時にアノード入口圧センサ62により検出されるアノード圧Paが、前述した第1の所定圧Px1以上で且つ第2の所定圧Px2以下であるか否かを判定する。これは、アノード圧Paの初期値を所定範囲に収めることにより、クロスリーク判定精度を高めるためである。
ステップS301における判定結果が「NO」(Pa>Px2、または、Pa<Px1)である場合には、クロスリーク判定の実施条件を満たしていないので、ステップS302に進みクロスリーク判定を行わず、このサブルーチンの実行を終了する。
【0050】
ステップS301における判定結果が「YES」(Px2≧Pa≧Px1)である場合には、ステップS303に進み、水素封じ込め完了時に検知されたアノード圧Paを初期アノード圧(初期圧力値)P0にセットする(P0=Pa)。
次に、ステップS304に進み、水素封じ込め完了から所定時間(膜破損検知用時間)が経過したか否かを判定する。ここでの所定時間は、例えば数分程度である。
ステップS304における判定結果が「NO」である場合には、ステップS304に戻り、前記所定時間が経過するまで待機する。
【0051】
ステップS304における判定結果が「YES」(所定時間経過)である場合には、ステップS305に進み、アノード入口圧センサ62によりアノード圧を検出し、検出された圧力を経過後アノード圧(経過後圧力値)P1とする。
次に、ステップS306に進み、初期アノード圧P0と経過後アノード圧P1との差圧(アノード差圧)ΔPを算出し(ΔP=P0ーP1)、これを前記所定時間で除した値、すなわちアノード圧力の低下速度Vpを算出する。
次に、ステップS307に進んで、算出されたアノード圧力の低下速度Vpが、前記所定時間に応じて設定された閾値以上か否かを判定する。なお、閾値は、予め実際の燃料電池システムと同等の燃料電池システムを用いてデータを取得し決定する。
【0052】
ステップS307における判定結果が「YES」(Vp≧閾値)である場合には、ステップS308に進み、クロスリーク有りと判定し、このサブルーチンの実行を終了する。すなわち、クロスリーク有りの判定により、燃料電池1の固体高分子電解質膜2が破損していると判定されることとなる。
ステップS307における判定結果が「NO」(Vp<閾値)である場合には、ステップS309に進み、クロスリーク無しと判定し、このサブルーチンの実行を終了する。すなわち、クロスリーク無しの判定により、燃料電池1の固体高分子電解質膜2は破損していないと判定されることとなる。
【0053】
次に、図4のメインルーチンのステップS06において実施される水素除去処理を、図8および図9のフローチャートに従って説明する。
前述したように、水素除去処理は、クロスリーク判定処理を実施するために燃料系のガス流路に封じ込めた水素を、クロスリーク判定処理の実施終了後に除去する処理であり、ここでは2つの方法による水素除去処理を説明する。いずれの水素除去処理を用いてもよく、燃料電池システムの停止時の状況に応じて使い分けることも可能である。この水素除去処理は、ガス供給弁17および遮断弁18の閉状態を保持して実施する。
【0054】
初めに、燃料電池1の発電により水素を消費することで水素を除去する水素除去処理を、図8に示されるサブルーチンのフローチャートに従って説明する。
まず、ステップS401において、コンプレッサ7を起動して燃料電池1のカソード極4に空気を供給する。
次に、ステップS402に進み、燃料電池1から所定電流値で電流を引くことにより、燃料電池1のアノード極3側に残留する水素を発電に使用し、発電した電気を高圧バッテリ41に充電したり、あるいは、補機42に供給して駆動することで、電気を消費する。
次に、ステップS403に進み、アノード入口圧センサ62により検出されるアノード圧Paが所定圧以下か否かを判定する。
ステップS403における判定結果が「NO」(Pa>所定圧)である場合には、水素が除去しきれていないので、ステップS402に戻る。
ステップS403における判定結果が「YES」(Pa≦所定圧)である場合には、ステップS404に進み、高圧バッテリ41への充電や補機42の駆動を停止するとともに、コンプレッサ7を停止し、本サブルーチンの実行を終了する。
【0055】
次に、燃料系のガス流路に封じ込めた水素を希釈ボックス11に排出し、希釈ボックス11にて空気で希釈して排出することで水素を除去する水素除去処理を、図9に示されるサブルーチンのフローチャートに従って説明する。
まず、ステップS501において、コンプレッサ7を起動し、空気排出流路9を介して希釈ボックス11に空気を供給する。
次に、ステップS502に進み、パージ弁27を開き、燃料系のガス流路に封じ込められた水素を、パージ流路28を介して希釈ボックス11に排出する。希釈ボックス11に排出された水素は、空気排出流路9から希釈ボックス11に流入する空気により希釈され、排気管33を介して排出される。
次に、ステップS503に進み、アノード入口圧センサ62により検出されるアノード圧が所定圧以下で、且つ、パージ弁27を開いてから所定時間が経過したか否かを判定する。
ステップS503における判定結果が「NO」である場合、すなわち、アノード圧が所定圧より大きいか、あるいは、所定時間が経過していない場合には、水素が除去しきれていないとみなし、ステップS502に戻る。
ステップS503における判定結果が「YES」である場合、すなわち、アノード圧が所定圧以下で、且つ所定時間が経過している場合には、ステップS504に進み、コンプレッサ7を停止し、パージ弁27を閉じて、本サブルーチンの実行を終了する。
【0056】
以上説明するように、この実施例における燃料電池の膜破損検知方法によれば、アノード極3側の圧力に関わる変化に基づいてクロスリークの有無を判定し、固体高分子電解質膜2が破損しているか否かを判定するので、誤判定のない確実な判定が可能となる。
また、水素は透過性が高く、この水素の圧力に関わる変化に基づいてクロスリークの有無を判定し、固体高分子電解質膜2が破損しているか否かを判定するので、判定精度が高い。
また、イグニッションスイッチ51がオフされて燃料電池1が発電を停止した直後に膜破損判定処理を行うので、燃料電池1の起動時間に影響を及ぼすことがない。よって、商品性を損なうことがない。
また、燃料電池1の発電停止直後は、燃料電池1のアノード極3側には水素のみが存在する状態であるので、クロスリーク判定を行う環境として極めて好適であり、水素を無駄に消費することもないので、燃費悪化をもたらすことがない。
【0057】
前述した実施例における膜破損判定処理では、燃料電池1のアノード極3側に所定圧力の水素を封じ込めた状態にして、アノード極3側の圧力に関わる変化に基づいて、燃料電池1の固体高分子電解質膜2の破損を判定したが、燃料電池1のカソード極4に連なるガス流路を封止することができる燃料電池システムである場合には、カソード極4側に所定圧力の空気を封じ込めた状態にして、カソード極4側の圧力に関わる変化に基づいて、固体高分子電解質膜2が破損しているか否かを判定することができる。
【0058】
図10は、燃料電池1のカソード極4に連なるガス流路を封止することができる燃料電池システムの概略構成図である。この燃料電池システムでは、空気供給流路8においてアノード掃気流路23および希釈ガス流路31の分岐点よりも下流と、空気排出流路9において圧力制御弁10よりも上流に、カソード封止弁(ガス流路封止手段)34,35が設けられている。カソード封止弁34,35の開閉は制御装置50によって制御され、通常は開状態に制御されて空気の流通を可能とし、膜破損判定処理を実施するときに閉状態に制御されて、燃料電池1のカソード極4に連なるガス流路を封止する。カソード入口圧センサ61は、カソード封止弁34よりも下流の空気供給流路8に設けられている。
その他の構成は、前述した図1に示される態様の燃料電池システムと同じであるので、同一態様部分に同一符号を付して説明を省略する。
【0059】
次に、燃料電池1のカソード極4側の圧力に関わる変化に基づく膜破損判定処理を図11に示すフローチャートに従って説明する。
図11は、燃料電池1のカソード極4側の圧力に関わる変化に基づく膜破損判定処理のメインルーチンを示すフローチャートであり、このメインルーチンは、イグニッションスイッチ51のオフ信号をトリガーとして制御装置50によって実行される。
まず、ステップS601において、ガス供給弁17、遮断弁18を閉じ、燃料電池1への水素供給を停止する。なお、制御装置50は、水素の供給側の弁(ガス供給弁17、遮断弁18)を閉じたときに、水素系の排出側の弁(排水弁25、パージ弁27、掃気排出弁29)を同時に閉じる。
【0060】
次に、ステップS602に進み、カソード入口圧センサ61により検出される圧力が所定圧Px3以上か否かを判定する。ここで、カソード入口圧センサ61により検出される圧力は、燃料電池1のカソード極4におけるガス圧力とほぼ同圧とみなすことができるので、以下の説明では、カソード入口圧センサ61により検出される圧力をカソード圧Pcと称す。なお、所定圧Px3は、燃料電池1への水素供給を停止した直後に検出されたアノード圧Paよりも若干高い圧力とする。
【0061】
ステップS602における判定結果が「NO」(Pc<Px3)である場合には、ステップS603に進み、コンプレッサ7の出力制御あるいは圧力制御弁10の開度制御により、カソード極4側の圧力を昇圧して、ステップS602に戻る。
ステップS602における判定結果が「YES」(Pc≧Px3)である場合には、ステップS604に進み、カソード封止弁34,35を閉じる。これにより、燃料電池1の酸化剤流通路6に連なる空気系のガス流路(換言すると、カソード極4に連なるガス流路)が封止され、空気の封じ込めが完了する。そして、封じ込め完了時のカソード圧Pcはほぼ所定圧Px3となる。この実施例において、所定圧Px3は、予め定めた膜破損検知用圧力である。
次に、ステップS605に進み、コンプレッサ7を停止する。
【0062】
次に、ステップS606に進み、クロスリーク判定処理を実施して、空気系ガス流路封止状態でのカソード圧Pcに関わる変化に基づいてクロスリークの有無を検知する。すなわち、空気封じ込めから所定時間後のカソード圧Pc、あるいは所定時間経過前後のカソード圧Pcの圧力差、あるいは所定時間でのカソード圧Pcの低下速度に基づいて、クロスリークの有無を検知する。クロスリーク判定処理は、アノード圧Paとカソード圧Pcの違いはあるが、基本的には、アノード圧Paに関わる変化に基づくクロスリーク判定処理と同じであるので、詳細説明は省略する。
【0063】
クロスリーク判定処理が終了した後、ステップS607に進み、ステップS606において実施したクロスリーク判定処理の判定結果を、制御装置50の記憶部(図示略)に記憶する。
次に、ステップS608に進み、カソード封止弁34,35のいずれか一方または両方を開いてカソード極4側の圧力を減圧し、カソード圧Pcを、燃料電池1のアノード極3とカソード極4の間での反応ガスのクロスオーバーを抑制可能な所定圧にする。
次に、ステップS609に進み、カソード封止弁34,35を閉じて、このメインルーチンの実行を終了する。
【0064】
以上説明するように、この実施例における燃料電池の膜破損検知方法によれば、カソード極4側の圧力に関わる変化に基づいてクロスリークの有無を判定し、固体高分子電解質膜2が破損しているか否かを判定するので、誤判定のない確実な判定が可能となる。
また、イグニッションスイッチ51がオフされて燃料電池1が発電を停止した直後に膜破損判定処理を行うので、燃料電池1の起動時間に影響を及ぼすことがない。よって、商品性を損なうことがない。
また、燃料電池1の発電停止直後は、燃料電池1のカソード極4側には空気のみが存在する状態であるので、クロスリーク判定を行う環境として極めて好適である。
また、燃料電池1のカソード極4側の圧力に関わる変化に基づいて膜破損判定処理を行うので、水素除去処理を行う必要がなく、膜破損判定に費やす時間を短縮することができる。
【0065】
なお、前述した各実施例では、イグニッションスイッチ51のオフによる発電停止時に膜破損判定処理を実施したが、イグニッションスイッチ51がオン状態での一時的な発電停止時に膜破損判定処理を実施することも可能である。
例えば、燃料電池車両では、イグニッションスイッチ51がオンの状態であって、車速がゼロであり、ブレーキペダルが踏まれており、アクセルペダルが踏まれていない等の一定条件を満たしたとき(例えば、赤信号による停止中の状態で成立する条件を満たしたときなど)には、燃料電池の発電を一時的に停止する所謂アイドル停止を行う場合がある。このアイドル停止時に膜破損判定処理を実施してもよい。発電停止後に燃料電池を再び発電状態に戻すことを前提とするアイドル停止では、アノード極3側およびカソード極4側の反応ガス圧力を高めた状態に保持して発電を停止するので、クロスリーク判定処理を実施するのに好適であり、クロスリーク判定処理に素早く移行することができる。また、アイドル停止後は燃料電池を再び速やかに発電状態に戻せるようにしてあり、水素除去処理が不要となる。
また、エゼクタ20よりも下流の燃料供給流路16に、水素ポンプを設けることも可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 燃料電池
2 固体高分子電解質膜(膜)
3 アノード極
4 カソード極
7 コンプレッサ(反応ガス供給手段)
10 圧力制御弁(反応ガス供給手段)
11 希釈ボックス(希釈装置)
15 水素タンク(反応ガス供給手段)
17 ガス供給弁(反応ガス供給手段、ガス流路封止手段)
18 遮断弁(反応ガス供給手段、ガス流路封止手段)
25 排水弁(ガス流路封止手段)
27 パージ弁(ガス流路封止手段)
29 掃気排出弁(ガス流路封止手段)
34,35 カソード封止弁(ガス流路封止手段)
41 高圧バッテリ(蓄電装置)
42 補機
50 制御装置(制御手段)
61 カソード入口圧センサ
62 アノード入口圧センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード極とカソード極を有する膜を備え前記両極にそれぞれ異なる反応ガスが供給されて発電を行う燃料電池と、
前記燃料電池のアノード極とカソード極にそれぞれ対応する前記反応ガスを供給する反応ガス供給手段と、
前記燃料電池のアノード極とカソード極のいずれか一方の極に連なるガス流路の前記燃料電池よりも上流および下流を遮断して該ガス流路を封止するガス流路封止手段と、
前記燃料電池の前記一方の極に供給された反応ガスの圧力を測定する圧力センサと、
前記反応ガス供給手段を制御する制御手段と、
を備える燃料電池システムにおける前記燃料電池の膜破損検知方法であって、
前記燃料電池の停止時に、前記燃料電池の前記一方の極に供給された反応ガスの圧力を、予め定めた膜破損検知用圧力とした後、前記ガス流路封止手段によって前記一方の極に連なるガス流路を封止し、この封止から膜破損検知用時間が経過したときに封止したガス流路内の反応ガスの圧力を経過後圧力値として取得し、該経過後圧力値が閾値以下の場合に、前記燃料電池の前記膜が破損していると判定することを特徴とする燃料電池の膜破損検知方法。
【請求項2】
アノード極とカソード極を有する膜を備え前記両極にそれぞれ異なる反応ガスが供給されて発電を行う燃料電池と、
前記燃料電池のアノード極とカソード極にそれぞれ対応する前記反応ガスを供給する反応ガス供給手段と、
前記燃料電池のアノード極とカソード極のいずれか一方の極に連なるガス流路の前記燃料電池よりも上流および下流を遮断して該ガス流路を封止するガス流路封止手段と、
前記燃料電池の前記一方の極に供給された反応ガスの圧力を測定する圧力センサと、
前記反応ガス供給手段を制御する制御手段と、
を備える燃料電池システムにおける前記燃料電池の膜破損検知方法であって、
前記燃料電池の停止時に、前記燃料電池の前記一方の極に供給された反応ガスの圧力を、予め定めた膜破損検知用圧力とした後、前記ガス流路封止手段によって前記一方の極に連なるガス流路を封止し、この封止後に封止したガス流路内の反応ガスの圧力を初期圧力値として取得し、前記封止から膜破損検知用時間が経過したときに封止したガス流路内の反応ガスの圧力を経過後圧力値として取得し、前記初期圧力値と前記経過後圧力値との差が前記膜破損検知用時間に応じて予め定められた閾値以上の場合に、前記燃料電池の前記膜が破損していると判定することを特徴とする燃料電池の膜破損検知方法。
【請求項3】
アノード極とカソード極を有する膜を備え前記両極にそれぞれ異なる反応ガスが供給されて発電を行う燃料電池と、
前記燃料電池のアノード極とカソード極にそれぞれ対応する前記反応ガスを供給する反応ガス供給手段と、
前記燃料電池のアノード極とカソード極のいずれか一方の極に連なるガス流路の前記燃料電池よりも上流および下流を遮断して該ガス流路を封止するガス流路封止手段と、
前記燃料電池の前記一方の極に供給された反応ガスの圧力を測定する圧力センサと、
前記反応ガス供給手段を制御する制御手段と、
を備える燃料電池システムにおける前記燃料電池の膜破損検知方法であって、
前記燃料電池の停止時に、前記燃料電池の前記一方の極に供給された反応ガスの圧力を、予め定めた膜破損検知用圧力とした後、前記ガス流路封止手段によって前記一方の極に連なるガス流路を封止し、この封止後に封止したガス流路内の反応ガスの圧力を初期圧力値として取得し、前記封止から膜破損検知用時間が経過したときに封止したガス流路内の反応ガスの圧力を経過後圧力値として取得し、前記初期圧力値と前記経過後圧力値との差を前記膜破損検知用時間で除した値が閾値以上の場合に、前記燃料電池の前記膜が破損していると判定することを特徴とする燃料電池の膜破損検知方法。
【請求項4】
前記燃料電池の前記一方の極に供給された反応ガスは水素を主成分とする燃料ガスであり、前記燃料電池のアノード極側での燃料ガス圧力を用いて前記燃料電池の前記膜が破損しているか否かを判定することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の燃料電池の膜破損検知方法。
【請求項5】
燃料ガス除去手段を備え、
前記制御手段は、前記燃料電池の前記膜が破損しているか否かを判定した後、前記燃料電池のアノード極に連なるガス通路内の燃料ガスを、前記燃料ガス除去手段により除去することを特徴とする請求項4に記載の燃料電池の膜破損検知方法。
【請求項6】
前記燃料ガス除去手段は、前記燃料電池における発電により燃料ガスを消費することで除去し、発生した電力を蓄電装置とシステム用補機のうち少なくとも一方に送ることを特徴とする請求項5に記載の燃料電池の膜破損検知方法。
【請求項7】
前記燃料ガス除去手段は、希釈装置に燃料ガスを送り込み、前記希釈装置に送り込まれた希釈ガスで希釈することで除去することを特徴とする請求項5に記載の燃料電池の膜破損検知方法。
【請求項8】
前記燃料電池システムは燃料電池車両に搭載されており、前記燃料電池の前記膜が破損しているか否かの判定は、前記燃料電池車両の一時的な停止に伴って前記燃料電池を停止したときに行うことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の燃料電池の膜破損検知方法。
【請求項1】
アノード極とカソード極を有する膜を備え前記両極にそれぞれ異なる反応ガスが供給されて発電を行う燃料電池と、
前記燃料電池のアノード極とカソード極にそれぞれ対応する前記反応ガスを供給する反応ガス供給手段と、
前記燃料電池のアノード極とカソード極のいずれか一方の極に連なるガス流路の前記燃料電池よりも上流および下流を遮断して該ガス流路を封止するガス流路封止手段と、
前記燃料電池の前記一方の極に供給された反応ガスの圧力を測定する圧力センサと、
前記反応ガス供給手段を制御する制御手段と、
を備える燃料電池システムにおける前記燃料電池の膜破損検知方法であって、
前記燃料電池の停止時に、前記燃料電池の前記一方の極に供給された反応ガスの圧力を、予め定めた膜破損検知用圧力とした後、前記ガス流路封止手段によって前記一方の極に連なるガス流路を封止し、この封止から膜破損検知用時間が経過したときに封止したガス流路内の反応ガスの圧力を経過後圧力値として取得し、該経過後圧力値が閾値以下の場合に、前記燃料電池の前記膜が破損していると判定することを特徴とする燃料電池の膜破損検知方法。
【請求項2】
アノード極とカソード極を有する膜を備え前記両極にそれぞれ異なる反応ガスが供給されて発電を行う燃料電池と、
前記燃料電池のアノード極とカソード極にそれぞれ対応する前記反応ガスを供給する反応ガス供給手段と、
前記燃料電池のアノード極とカソード極のいずれか一方の極に連なるガス流路の前記燃料電池よりも上流および下流を遮断して該ガス流路を封止するガス流路封止手段と、
前記燃料電池の前記一方の極に供給された反応ガスの圧力を測定する圧力センサと、
前記反応ガス供給手段を制御する制御手段と、
を備える燃料電池システムにおける前記燃料電池の膜破損検知方法であって、
前記燃料電池の停止時に、前記燃料電池の前記一方の極に供給された反応ガスの圧力を、予め定めた膜破損検知用圧力とした後、前記ガス流路封止手段によって前記一方の極に連なるガス流路を封止し、この封止後に封止したガス流路内の反応ガスの圧力を初期圧力値として取得し、前記封止から膜破損検知用時間が経過したときに封止したガス流路内の反応ガスの圧力を経過後圧力値として取得し、前記初期圧力値と前記経過後圧力値との差が前記膜破損検知用時間に応じて予め定められた閾値以上の場合に、前記燃料電池の前記膜が破損していると判定することを特徴とする燃料電池の膜破損検知方法。
【請求項3】
アノード極とカソード極を有する膜を備え前記両極にそれぞれ異なる反応ガスが供給されて発電を行う燃料電池と、
前記燃料電池のアノード極とカソード極にそれぞれ対応する前記反応ガスを供給する反応ガス供給手段と、
前記燃料電池のアノード極とカソード極のいずれか一方の極に連なるガス流路の前記燃料電池よりも上流および下流を遮断して該ガス流路を封止するガス流路封止手段と、
前記燃料電池の前記一方の極に供給された反応ガスの圧力を測定する圧力センサと、
前記反応ガス供給手段を制御する制御手段と、
を備える燃料電池システムにおける前記燃料電池の膜破損検知方法であって、
前記燃料電池の停止時に、前記燃料電池の前記一方の極に供給された反応ガスの圧力を、予め定めた膜破損検知用圧力とした後、前記ガス流路封止手段によって前記一方の極に連なるガス流路を封止し、この封止後に封止したガス流路内の反応ガスの圧力を初期圧力値として取得し、前記封止から膜破損検知用時間が経過したときに封止したガス流路内の反応ガスの圧力を経過後圧力値として取得し、前記初期圧力値と前記経過後圧力値との差を前記膜破損検知用時間で除した値が閾値以上の場合に、前記燃料電池の前記膜が破損していると判定することを特徴とする燃料電池の膜破損検知方法。
【請求項4】
前記燃料電池の前記一方の極に供給された反応ガスは水素を主成分とする燃料ガスであり、前記燃料電池のアノード極側での燃料ガス圧力を用いて前記燃料電池の前記膜が破損しているか否かを判定することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の燃料電池の膜破損検知方法。
【請求項5】
燃料ガス除去手段を備え、
前記制御手段は、前記燃料電池の前記膜が破損しているか否かを判定した後、前記燃料電池のアノード極に連なるガス通路内の燃料ガスを、前記燃料ガス除去手段により除去することを特徴とする請求項4に記載の燃料電池の膜破損検知方法。
【請求項6】
前記燃料ガス除去手段は、前記燃料電池における発電により燃料ガスを消費することで除去し、発生した電力を蓄電装置とシステム用補機のうち少なくとも一方に送ることを特徴とする請求項5に記載の燃料電池の膜破損検知方法。
【請求項7】
前記燃料ガス除去手段は、希釈装置に燃料ガスを送り込み、前記希釈装置に送り込まれた希釈ガスで希釈することで除去することを特徴とする請求項5に記載の燃料電池の膜破損検知方法。
【請求項8】
前記燃料電池システムは燃料電池車両に搭載されており、前記燃料電池の前記膜が破損しているか否かの判定は、前記燃料電池車両の一時的な停止に伴って前記燃料電池を停止したときに行うことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の燃料電池の膜破損検知方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−54148(P2012−54148A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196770(P2010−196770)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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