説明

燃料電池の高分子電解質膜(PEM)内の水和水の原位置測定

【課題】高分子電解質膜(PEM)内の水和水を測定するための方法及び装置を提供する。
【解決手段】本方法及び装置は、PEM上の入力部位に向けられた入力放射線源と、入力部位に相対して出力部位に応答可能に配置されてPEM内の水の水和レベルを示す入力放射線における検知可能な変化を測定する検出器とを使用する。本方法は、PEM内に入力部位を形成する段階と、放射線源(34)を入力部位内に発射してPEM材料と相互作用させる段階と、PEM材料との入力放射線の相互作用(40)を検出する段階と、PEM(50)内の水の水和レベルを示す相互作用の結果として入力放射線内の検知可能な変化を測定する段階とによってPEMの水和を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池スタックの高分子電解質膜(PEM)内の水和水の原位置測定のための方法及び装置に関する。具体的には、本発明は、PEM内に存在する水和水の濃度における変化に応答する光源又は他の放射線源を使用する方法及び装置に関する。IR放射線の場合では、吸収放射線の周波数におけるシフトによって、水の状態、すなわちそれによってPEMに対して水が結合しているエネルギーに関して、二次情報を取得することができる。加えて、それぞれ本来のPEM及び反応生成物の特性吸収スペクトルの消失及び出現によって、化学反応によるPEM自体の状態の変化を監視することができる。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、それを通る水素イオンの輸送又は拡散に応じて電気出力を生成する高分子電解質膜を使用する。水和水は、該水和水が活性化エネルギーを低下させる、すなわち膜を横断して水素イオンが拡散するときにそれによって水素イオンの移動度が低下するので、燃料電池の効率に影響を与える。
【0003】
このパラメータを直接的に測定することは困難である。現在の方法には、PEMの周囲環境内の平衡水蒸気濃度によって水和水を間接的に測定する湿度センサの使用がある。
【0004】
別の方法は、膜の電気抵抗又は電気容量を測定することによって、PEMの水和の度合を測定する。この方法は、膜と接触電極との間の接触抵抗が燃料電池の経年と共に劣化し、それによって測定の精度に悪影響を与えるという点で大きな欠点を有する。さらに、この方法は、時間の経過と共に発生するPEM自体の劣化を考慮していない。
【特許文献1】欧州特許出願公開EP1065742A
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、高分子電解質膜内の水和水を直接的に測定することである。本発明の目的はまた、時間の経過と共に変化するPEM又はあらゆる加水分解過程の化学的健全性を監視し、また適切な制御プロセスによって最適な水和を保証することである。本発明のさらに別の目的は、非侵襲的な方法を使用して水和水の測定を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、高分子電解質膜内の水和水が、光エネルギーがPEM内の水と相互作用するときのその光エネルギーの透過又は吸収の変化を検知することによって測定することができるという発見に基づいている。具体的な実施形態では、本発明は、高分子電解質膜(PEM)内の水和水を測定するための装置を含み、本装置は、PEM上の入力部位に向けられた入力放射線源と、入力部位に相対して出力部位に応答可能に配置されてPEM内の水の水和レベルを示す入力放射線における検知可能な変化を測定する検出器とを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、図1に示しており、燃料電池エレメント10は、その中に配置された高分子電解質膜(PEM)12を有する。公知の原理により、PEMは、図示するようにPEMを横断して水素イオンH+を輸送して酸素イオンと反応させるようにするのを可能にして、電流を生成しかつ廃水を生じる。
【0008】
PEM12(図2)は、Nafionの名称で市販されているDupontによって製造された材料のようなペルフルオロポリマーで形成されたフィルム又はコア層14を含む。コアは、対向する表面20及び22上に形成されたカーボン電極16及び18を有する。カーボン電極16及び18は、フィルムのカーボン含浸外側層とすることができる。例示的な実施形態では、電極16及び18は、その中に形成されたそれぞれの開口部又は窓24及び26を有する。それらの窓は、図示するように整列している。
【0009】
図1はさらに、検出したエネルギーを解析するためのプロセッサ50を使用した構成を示す。検出器40は、制御出力52を生成する。プロセッサ50は、この出力を解釈して、水和H+レベルのみならず燃料電池10の温度Tもまた測定することができる。水の熱力学的ポテンシャルは、10kcal/mole以上であり、電池の温度は、水和測定値から求めることができる。この温度は、閉回路フィードバック回路において燃料電池の作動を調整するための制御信号として使用することができる。
【0010】
それぞれの入力及び出力光ファイバ又は導波管30及び32は、図示するように、それぞれの窓24及び26に固定される。適切な放射線源34が入力光36−Iを入力導波管30内に発射し、この光は窓24を通してPEMに伝送される。光36は、窓24を通ってPEMに入り、光は、水和レベルに応じて選択的に減弱され、出力光36−Oとして窓26を通して出力導波管32に伝送される。光は、水素結合によって波形シフトされることになる。また、PEMの特性吸収周波数における変化は、化学反応によって発生することになる。出力光36−Oは、出力導波管32によって検出器40に伝送され、検出器は、光の減弱を測定し、PEMの水和レベルの測定値を得る。
【0011】
図3に示すように、水は、赤外線(IR)領域の放射線に対して一定の既知の吸収帯域44及び46を有する。この吸収帯域44及び46は、6及び3ミクロンの領域として存在する。IRのこれらの領域は、主吸収モードを表し、近赤外線領域内におけるよりも大きい消光率を示す。
【0012】
例示的な実施形態では、光源34は、IR又は近赤外線源とすることができる。図3は、異なる相対湿度における3つの周囲環境内でのNafionの赤外線吸収を示す。Nafion膜の水和の度合は、周囲の相対湿度に直接関連する。水和が増大すると、その特性波長においてより多くの光が吸収される。
【0013】
別の実施形態では、PEMの内部屈折率は、水和と共に変化して、屈折光線における対応する変位を生じることになる。検出器40は、この変化を測定し、対応する水和測定値を生成する。
【0014】
図4に示すさらに別の実施形態では、光源34は、選択した波長L−Iを有し、入力光36−IとしてPEM12内に発射される光とすることができる。PEMを形成する材料は、PEMマトリクス14に結合した蛍光色素分子の形態で蛍光体35を含有することができる。色素35は、入力光34−Iを吸収し、より長い波長L‐Oの34−Oとして出力光を再放射する。出力光34−Oは、検出器40への出力導波管32に伝送され、この例示的な実施形態では、検出器40は、出力波長L−Oに応答する。水分子は、蛍光の消滅を引き起こす。適切な色素は、100℃付近での温度安定性の特質を有し、PEMマトリクスに共有結合することができる。色素35には、官能化ペリレン及びビナフチル並びにジヒドロキシビピジリジルが含まれる。
【0015】
類似の要素には同じ参照符号を使用した図5の実例では、入力窓及び出力窓は、PEMの同じ側内に形成された単一の開口部38を含む。この実例では、入力光36−Iは、開口部38を通してファイバ44内に発射されることができる。入力光36−Iは、開口部又は窓38を通りかつPEMを通過する。光は、図示するように、窓38に対向して配置された反射器47によって反射される。反射光36−Rは、図示するように、窓38に向かって導かれ、該窓38を通して出力ファイバ46に入射して、検出器に連結される出力光36−Oを形成する。PEMが全方向に発光する蛍光色素を含有する構成では、入力光の見通しの利く地点から蛍光発光を検出することできるので、反射器47は排除することができる。
【0016】
本発明は、湿度又は水分含量を直接的に測定する必要のあるようなあらゆる環境内で使用することができることを理解されたい。これらの環境は、他の水検出方法が実施できないような過酷な環境であってもよい。また、本発明では、PEMの水含量に対して検知可能な応答を生成することができるような他の放射線源も使用することができることを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】高分子電解質膜(PEM)を使用する単純化した燃料電池の概略図。
【図2】PEM内の水和水の原位置測定のための装置の概略図。
【図3】25℃における相対湿度の関数としてのNafion系PEMの赤外線吸収スペクトルの実例を示す図。
【図4】放射線供給源と検出器とを使用する、PEMマトリクスに結合した蛍光色素を有する本発明の別の実施形態の概略図。
【図5】PEMの一側上に配置された入力及び出力ファイバを示すさらに別の実施形態の概略図。
【符号の説明】
【0018】
10 燃料電池
12 高分子電解質膜(PEM)
14 フィルム又はコア層
16、18 カーボン電極
20、22 コアの表面
24、26 開口部又は窓
30 入力導波管
32 出力導波管
34 放射線源
36−I 入力光
36−O 出力光
40 検出器
50 プロセッサ
52 制御出力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜(PEM)内の水和水を測定するための装置であって、
前記PEM上の入力部位に向けられた入力放射線源と、
前記入力部位に相対して出力部位に応答可能に配置されて、前記PEM内の水の水和レベルを示す前記入力放射線における検知可能な変化を測定する検出器と、
を含む装置。
【請求項2】
前記放射線が、赤外線、近赤外線、可視光線及び紫外線の少なくとも1つである、請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記検知可能な変化が、吸収、蛍光及び屈折率の少なくとも1つにおける変化である、請求項1記載の装置。
【請求項4】
前記入力放射線を前記入力部位に伝送するための手段と、
前記検知可能に変化した入力放射線を前記検出器に伝送する手段と、
を含む、請求項1記載の装置。
【請求項5】
前記入力放射線及び出力放射線を伝送する手段が光導波管を含む、請求項4記載の装置。
【請求項6】
前記入力及び出力部位と光学的に結合するための前記PEM内の窓をさらに含む、請求項1記載の装置。
【請求項7】
前記窓が、電極保護被膜がない状態で形成された前記PEMの一部分を含む、請求項6記載の装置。
【請求項8】
前記PEMが、前記入力放射線に対応して蛍光を生成するように作用する蛍光体を含む、請求項1記載の装置。
【請求項9】
前記PEM内に存在する水和水が、前記PEM内のその濃度に応じて前記蛍光を選択的に消滅させる、請求項8記載の装置。
【請求項10】
前記PEMが、燃料電池内にあり、前記PEM内に存在する水和水の関数として前記燃料電池の温度を測定するための手段をさらに含む、請求項1記載の装置。
【請求項11】
前記出力信号に応答して制御信号を生成するためのプロセッサ手段をさらに含む、請求項1記載の装置。
【請求項12】
前記PEMが、ペルフルオロポリマーからなる群から選択された材料を含む、請求項1記載の装置。
【請求項13】
前記PEMが、官能化ペリレン及びビナフチル並びにジヒドロキシビピリジルからなる群から選択された色素を含む、請求項1記載の装置。
【請求項14】
前記PEMが、対向する表面を有し、前記対向する表面の各々上に配置された電極材料を含み、前記入力部位が前記電極材料内に形成された開口部を含む、請求項1記載の装置。
【請求項15】
前記PEMが、対向する表面を有し、前記対向する表面の各々上に配置された電極材料を含み、前記出力部位が前記電極材料内に形成された開口部を含む、請求項1記載の装置。
【請求項16】
前記PEMが、対向する表面を有し、前記対向する表面上に配置された電極材料を含み、前記入力及び出力部位が、前記接触層のそれぞれの接触層内に形成された開口部の少なくとも1つを含み、前記開口部において、入力光が発射されまた出力光が受光される、請求項1記載の装置。
【請求項17】
前記入力及び出力窓が、前記PEMの両側で光学的に整列している、請求項16記載の装置。
【請求項18】
前記PEMが、対向する表面を有し、前記対向する表面の各々上に配置された電極材料を含み、前記入力及び出力部位が、前記接触層の選択した接触層内に形成された少なくとも1つの開口部を含み、前記接触層の選択した接触層内の開口部を通して入力光が発射されまた出力光が受光される、請求項1記載の装置。
【請求項19】
前記入力及び出力窓が、前記PEMの同じ側に配置される、請求項16記載の装置
【請求項20】
反射器が、前記開口部に向けて入力光を反射させるように該開口部に対向する前記PEMの表面上に配置される、請求項1記載の装置。
【請求項21】
選択した材料で形成された高分子電解質膜(PEM)の水和を測定する方法であって、
前記PEM内に入力部位を形成する段階と、
放射線源を前記入力部位内に発射して前記PEM材料と相互作用させる段階と、
前記PEM材料との前記入力放射線の相互作用を検出する段階と、
前記PEM内の水の水和レベルを示す前記相互作用の結果として前記入力放射線内の検知可能な変化を測定する段階と、
を含む方法。
【請求項22】
前記放射線が、赤外線、近赤外線、可視光線、及び紫外線の少なくとも1つを含むエネルギーを含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記検知可能な変化が、前記入力放射線の吸収及び蛍光の少なくとも1つにおける変化である、請求項21記載の方法。
【請求項24】
前記PEMがその対向する表面上に導電性被膜を有し、前記入力部位を形成する段階が、前記PEM上の少なくとも1つの電極内に窓を形成する段階を含む、請求項21記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−521497(P2007−521497A)
【公表日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−549319(P2006−549319)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【国際出願番号】PCT/US2004/043657
【国際公開番号】WO2005/069421
【国際公開日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】