燃料電池システムおよび電気自動車
【課題】燃料電池にかかる負荷が過剰となり、燃料電池において電圧降下や過度の発熱等の不都合が生じてしまうのを防止する。
【解決手段】燃料電池20と2次電池30とを備える燃料電池装置10は、残存容量モニタ46によって2次電池30の残存容量を検出する。2次電池30の残存容量が所定の基準値よりも少ないときには、制御部50はインバータ80に対して駆動信号を出力し、モータ32での消費電力を制限する。このとき、電流センサ90が検出する2次電池30の出力電流値から、2次電池30の出力状態が放電であると判断されると、制御部50はモータ32の消費電力をさらに制限する。このような動作を繰り返すことによって2次電池30を充電し、残存容量の回復を図る。
【解決手段】燃料電池20と2次電池30とを備える燃料電池装置10は、残存容量モニタ46によって2次電池30の残存容量を検出する。2次電池30の残存容量が所定の基準値よりも少ないときには、制御部50はインバータ80に対して駆動信号を出力し、モータ32での消費電力を制限する。このとき、電流センサ90が検出する2次電池30の出力電流値から、2次電池30の出力状態が放電であると判断されると、制御部50はモータ32の消費電力をさらに制限する。このような動作を繰り返すことによって2次電池30を充電し、残存容量の回復を図る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムおよび電気自動車に関し、詳しくは燃料電池と2次電池とを電源として備えた燃料電池システムと、この燃料電池システムを搭載した電気自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の燃料電池装置として、燃料電池と2次電池とを電源として備え、両者を併用して負荷に対して電力を供給する燃料電池装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この燃料電池装置では、燃料電池装置を構成する回路に設けられた所定の接点を開閉することによって、負荷が小さな時には燃料電池が単独で負荷に対して電力を供給し、負荷が大きくなると燃料電池と2次電池との両方が放電して負荷に対して電力を供給するように切り替える。また、2次電池の充電状態が低下したときには、燃料電池は負荷に電力を供給すると共に2次電池を充電するよう回路の接続を切り替える。燃料電池は出力電流が大きくなるに従って電圧が降下してしまうという性質があるが、燃料電池と2次電池とを併設する上記構成を採ることによって、負荷の消費電力が大きいときにも充分な出力を得ることができる。
【0003】
【特許文献1】特開昭47−32321号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した燃料電池装置においては、2次電池の充電状態が低下したときの対応として、燃料電池装置を構成する回路に設けた所定の接点を開閉することによって、2次電池が放電している状態から充電される状態に切り替える構成となっている。そのため、負荷に供給する電力量が大きいと2次電池の残存容量の低下に伴って上記接点が切り替わるが、引き続き負荷が大きい状態が継続すると、2次電池からの電力の供給がないため燃料電池にかかる負荷が増大して出力電圧が降下し、充分な出力が得られなくなるという問題があった。
【0005】
上記したように、2次電池の残存容量に応じて所定の接点を開閉して2次電池の充放電の状態を制御する代わりに、2次電池と燃料電池とを並列に接続する構成とし、負荷の大きさの変動に従って2次電池と燃料電池との出力電圧差が変動することによって2次電池の充放電状態を切り替える構成とすることもできる。このような場合にも、負荷が大きい状態が続けば2次電池の残存容量は低下し続けるため、燃料電池に過剰な負荷がかかってしまうことになる。
【0006】
これらの構成において、2次電池の残存容量が低下して2次電池から供給される電力量が不足すると、燃料電池の負荷が増大することに起因して種々の問題が生じることがある。すなわち、燃料電池の負荷が増大して燃料電池からの出力電流が所定量を上回ると、燃料電池へ供給するガス量を増加させてもガス量の増加に見合った発電量の増加が得られなくなり、さらに、電圧が不安定となって電圧の急激な降下などの不都合が生じるおそれがある。
【0007】
また、このように燃料電池の出力電流が所定量を上回って電圧が不安定になるときには、燃料電池を構成する単セルにおいては、電極の正負が逆転する転極と呼ばれる現象がみられることがある。転極が起きると、電圧が不安定になるばかりでなく、電気化学反応によって電気エネルギに変換されるべきエネルギが熱エネルギとして放出され、燃料電池が部分的に過度の発熱を起こしてしまい、そのため燃料電池の短寿命化が引き起こされる。
【0008】
本発明の燃料電池システムおよび電気自動車は、こうした問題を解決し、2次電池の残存容量が低下して2次電池から供給される電力が不十分となって燃料電池にかかる負荷が過剰となり、燃料電池において電圧降下や過度の発熱等の不都合が生じてしまうのを防止することを目的としてなされ、次の構成を採った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の燃料電池システムは、燃料電池と2次電池とを備え、前記燃料電池と2次電池から負荷に対して電力の供給を行なう燃料電池システムであって、
前記2次電池の残存容量を検出する残存容量検出手段と、
前記残存容量検出手段によって検出された前記2次電池の残存容量に応じて、前記負荷への電力の供給を制限する出力制御手段と、
前記出力制御手段によって前記負荷への電力供給が制限されるときに、前記負荷への電力供給が制限されていることを報知する報知部と
を備えることを要旨とする。
【0010】
本発明の燃料電池システムは、
並列に接続された燃料電池と2次電池とを備え、負荷に対して電力の供給を行なう燃料電池システムであって、
前記2次電池の残存容量を検出する残存容量検出手段と、
前記残存容量検出手段によって検出された前記2次電池の残存容量に応じて、前記負荷への電力の供給を制限する出力制御手段と
を備えたことを要旨とする。
【0011】
以上のように構成された本発明の第1の燃料電池システムは、並列に接続された燃料電池と2次電池とを備えて負荷に対して電力の供給を行ない、2次電池の残存容量を検出し、この残存容量に応じて前記電源から前記負荷への電力の供給を制限する。
【0012】
このような燃料電池システムによれば、2次電池の残存容量に応じて負荷への電力の供給を制限するため、2次電池の充電状態が低下したときに、2次電池の残存容量の状態のさらなる悪化を抑えることができ、また、燃料電池に過剰の負荷がかかってしまうことがない。従って、燃料電池から取り出そうとする電流値が過剰であることに起因して、燃料電池が電圧降下を起こしたり部分的に過度の発熱が起こる等の不都合が生じてしまうことがない。
【0013】
ここで、本発明の燃料電池システムにおいて、
前記出力制御手段は、前記残存容量検出手段によって検出された前記2次電池の残存容量が所定量以下の場合に、前記負荷への電力の供給を制限または遮断する構成としてもよい。
【0014】
このような構成の燃料電池システムでは、2次電池の残存容量が所定量以下の場合には、前記負荷への電力の供給を制限または遮断する。したがって、2次電池の残存容量が所定量以下になってしまった場合に、燃料電池に過剰の負荷がかかって燃料電池の電圧降下や過度の発熱などの不都合が生じてしまうことがない。負荷への電力の供給を遮断する場合には、燃料電池による2次電池の充電を速やかに行なうことができる。
【0015】
また、本発明の燃料電池システムにおいて、
前記出力制御手段は、前記負荷への出力を所定の制限値以下に抑えて、前記燃料電池によって前記2次電池を充電可能にすることにより、前記負荷への電力の供給を制限することとしてもよい。
【0016】
このような構成の燃料電池システムは、2次電池の残存容量に応じて前記負荷への電力の供給を制限する際に、前記負荷への出力を所定の制限値以下に抑えることで前記燃料電池によって前記2次電池を充電可能にする。したがって、2次電池の充電状態が低下した場合には燃料電池による充電が行なわれ、2次電池の充電状態を回復することができる。
【0017】
さらに、本発明の燃料電池システムにおいて、
前記残存容量検出手段は、
前記燃料電池が出力する燃料電池電流値と、前記2次電池が出力する2次電池電流値と、前記燃料電池電流値と前記2次電池電流値との和である総電流値との内、少なくとも2種類の電流値を検出する電流値検出手段と、
前記電流値検出手段による検出結果に基づく各電流値間の関係から、前記2次電池の残存容量を判定する残存容量判定手段と
からなることとしてもよい。
【0018】
このような構成の燃料電池システムでは、前記燃料電池が出力する燃料電池電流値と、前記2次電池が出力する2次電池電流値と、前記燃料電池電流値と前記2次電池電流値との和である総電流値との内、少なくとも2種類の電流値を検出し、この検出結果に基づく各電流値間の関係から、前記2次電池の残存容量を判定する。したがって、2次電池の残存容量を検出するために特別な残存容量モニタを備える必要がなく、構成を簡素化することができる。残存容量モニタを備える代わりに、電流値を検出して所定の演算処理を行なうという簡便な方法によって、前記2次電池の残存容量を判定することができる。
【0019】
あるいは、本発明の燃料電池システムにおいて、
前記残存容量検出手段は、
前記2次電池が出力する電流値を検出する2次電池電流値検出手段と、
前記燃料電池システムにおける電圧値を検出する電圧値検出手段と、
前記2次電池電流値検出手段が検出した前記2次電池電流値と、前記電圧値検出手段が検出した前記電圧値とを基に、前記2次電池の残存容量を判定する残存容量判定手段と
からなることとしてもよい。
【0020】
このような構成の燃料電池システムでは、前記2次電池が出力する電流値と、前記燃料電池システムにおける電圧値とを測定し、これらの検出結果を基に前記2次電池の残存容量を判定する。したがって、2次電池の残存容量を検出するために特別に残存容量モニタを備える必要がなく、構成を簡素化することができる。残存容量モニタを備える代わりに、電流値および電圧値を検出して所定の演算処理を行なうという簡便な方法によって、前記2次電池の残存容量を判定することができる。
【0021】
また、本発明の電気自動車は、
電気エネルギによってモータを回転させ、該モータの回転力を車軸に伝えることによって車両としての駆動力を得る電気自動車であって、
本発明の燃料電池システムを搭載し、
前記モータは、該燃料電池システムから電力の供給を受けることを要旨とする。
【0022】
以上のように構成された電気自動車によれば、電気自動車を駆動するための電気エネルギを供給する2次電池の残存容量に応じて、電気自動車を駆動するモータへの電力の供給を制限する。従って、2次電池の充電状態が低下しすぎてしまうことがなく、そのため、燃料電池にかかる負荷が過剰となり、燃料電池において電圧降下や過度の発熱等の不都合が生じてしまうことがない。ここで、モータへの電力の供給を制限する際に、モータへの出力を所定の制限値以下にすることによって燃料電池による2次電池の充電を可能にする構成とすれば、電気自動車を走行させながら2次電池の充電状態を回復させることが可能となる。
【0023】
さらに、本発明の電気自動車において、
前記出力制御手段は、前記モータの回転数の制限および/またはトルクの制限を行なう制御によって前記負荷への電力の供給を制限する構成とすることも好ましい。
【0024】
このような構成とすれば、電気自動車が備える所定の制御回路を介することによって、モータの回転数の制限および/またはトルクの制限を行ないモータでの消費電力を減らすことができる。したがって、モータへの電力の供給を制限するために、所定の抵抗を備えた回路などの特別な構成を備える必要がない。
【0025】
本発明の燃料電池システムを搭載した電気自動車は、以下のような他の態様をとることも可能である。すなわち、
請求項6または7記載の電気自動車において、
前記出力制御手段によって前記負荷への電力の供給が制限されるときに、電力の供給が制限されていることを運転者に知らせる警告手段を備えることとしてもよい。ここで警告手段としては、所定の警告灯を点灯する、あるいは出力制限中であることを知らせる音声や所定の警告音を発する等の方法を挙げることができる。
【0026】
このような構成とすれば、負荷への電力の供給が制限されたときに、運転者が電気自動車のアクセルペダルを踏み込んでも車両の速度が上がらなくなる、あるいは低下してしまう、さらには車両が停止してしまうという状態となっても、車両故障と誤認してしまうことがない。また、負荷への電力の供給を制限することは運転者による車両の操作性を低下させるが、電力の供給が制限されていることを運転者に知らせることによって、出力制限条件下での安全な走行を促すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以上説明した本発明の構成・作用を一層明らかにするために、以下本発明の実施の形態を実施例に基づき説明する。図1は、本発明の好適な一実施例である燃料電池システム10を搭載した電気自動車の構成の概略を表すブロック図である。本実施例の燃料電池システム10は、車両に搭載されて車両駆動用の電源として働く。燃料電池システム10は、燃料電池20、2次電池30、車両駆動用のモータ32、補機類34、DC/DCコンバータ36、切り替えスイッチ38、残存容量モニタ46、制御部50、インバータ80、電流センサ90を主な構成要素とする。以下、燃料電池システム10の各構成要素について説明する。
【0028】
燃料電池20は、固体高分子電解質型の燃料電池であり、構成単位である単セル28を複数積層したスタック構造を有している。燃料電池20は、陰極側に水素を含有する燃料ガスの供給を受け、陽極側には酸素を含有する酸化ガスの供給を受けて以下に示す電気化学反応によって起電力を得る。
【0029】
H2 → 2H++2e- …(1)
(1/2)O2+2H++2e- → H2O …(2)
H2+(1/2)O2 → H2O …(3)
【0030】
(1)式は陰極側における反応、(2)式は陽極側における反応を示し、(3)式は電池全体で起こる反応を表わす。図2は、この燃料電池20を構成する単セル28の構成を例示する断面図である。単セル28は、電解質膜21と、アノード22およびカソード23と、セパレータ24,25とから構成されている。
【0031】
アノード22およびカソード23は、電解質膜21を両側から挟んでサンドイッチ構造を成すガス拡散電極である。セパレータ24,25は、このサンドイッチ構造をさらに両側から挟みつつ、アノード22およびカソード23との間に、燃料ガスおよび酸化ガスの流路を形成する。アノード22とセパレータ24との間には燃料ガス流路24Pが形成されており、カソード23とセパレータ25との間には酸化ガス流路25Pが形成されている。セパレータ24,25は、図2ではそれぞれ片面にのみ流路を形成しているが、実際にはその両面にリブが形成されており、片面はアノード22との間で燃料ガス流路24Pを形成し、他面は隣接する単セルが備えるカソード23との間で酸化ガス流路25Pを形成する。このように、セパレータ24,25は、ガス拡散電極との間でガス流路を形成するとともに、隣接する単セル間で燃料ガスと酸化ガスの流れを分離する役割を果たしている。もとより、単セル28を積層してスタック構造を形成する際、スタック構造の両端に位置する2枚のセパレータは、ガス拡散電極と接する片面にだけリブを形成することとしてもよい。
【0032】
ここで、電解質膜21は、固体高分子材料、例えばフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。本実施例では、ナフィオン膜(デュポン社製)を使用した。電解質膜21の表面には、触媒としての白金または白金と他の金属からなる合金が塗布されている。触媒を塗布する方法としては、白金または白金と他の金属からなる合金を担持したカーボン粉を作製し、この触媒を担持したカーボン粉を適当な有機溶剤に分散させ、電解質溶液(例えば、Aldrich Chemical社、Nafion Solution)を適量添加してペースト化し、電解質膜21上にスクリーン印刷するという方法をとった。あるいは、上記触媒を担持したカーボン粉を含有するペーストを膜成形してシートを作製し、このシートを電解質膜21上にプレスする構成も好適である。また、白金などの触媒は、電解質膜21ではなく、電解質膜21を接するアノード22およびカソード23側に塗布することとしてもよい。
【0033】
アノード22およびカソード23は、共に炭素繊維からなる糸で織成したカーボンクロスにより形成されている。なお、本実施例では、アノード22およびカソード23をカーボンクロスにより形成したが、炭素繊維からなるカーボンペーパまたはカーボンフエルトにより形成する構成も好適である。
【0034】
セパレータ24,25は、ガス不透過の導電性部材、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボンにより形成されている。セパレータ24,25はその両面に、平行に配置された複数のリブを形成しており、既述したように、アノード22の表面とで燃料ガス流路24Pを形成し、隣接する単セルのカソード23の表面とで酸化ガス流路25Pを形成する。ここで、各セパレータの表面に形成されたリブは、両面ともに平行に形成する必要はなく、面毎に直行するなど所定の角度をなすこととしてもよい。また、リブの形状は平行な溝状である必要はなく、ガス拡散電極に対して燃料ガスまたは酸化ガスを供給可能であればよい。
【0035】
以上、燃料電池20の基本構造である単セル28の構成について説明した。実際に燃料電池20として組み立てるときには、セパレータ24、アノード22、電解質膜21、カソード23、セパレータ25の順序で構成される単セル28を複数組積層し(本実施例では100組)、その両端に緻密質カーボンや銅板などにより形成される集電板26,27を配置することによって、スタック構造を構成する。
【0036】
図1のブロック図では図示しなかったが、実際に燃料電池を用いて発電を行なうには、上記スタック構造を有する燃料電池本体の他に所定の周辺装置を必要とする。図3は、燃料電池20とその周辺装置とからなる燃料電池部60の構成を例示するブロック図である。燃料電池部60は、上記燃料電池20と、メタノールタンク61および水タンク62と、改質器64と、エアコンプレッサ66とを主な構成要素とする。
【0037】
改質器64は、メタノールタンク61および水タンク62から、メタノールおよび水の供給を受ける。改質器64では、供給されたメタノールを原燃料として水蒸気改質法による改質を行ない、水素リッチな燃料ガスを生成する。以下に、改質器64で行なわれる改質反応を示す。
【0038】
CH3OH → CO+2H2 …(4)
CO+H2O → CO2+H2 …(5)
CH3OH+H2O → CO2+3H2 …(6)
【0039】
改質器64で行なわれるメタノールの改質反応は、(4)式で表わされるメタノールの分解反応と(5)式で表わされる一酸化炭素の変成反応とが同時に進行し、全体として(6)式の反応が起きる。このような改質反応は全体として吸熱反応である。改質器64で生成された水素リッチな燃料ガスは燃料供給路68を介して燃料電池20に供給され、燃料電池20内では各単セル28において、前記燃料ガス流路24Pに導かれてアノード22における電池反応に供される。アノード22で行なわれる反応は記述した(1)式で表わされるが、この反応で必要な水を補って電解質膜21の乾燥を防ぐために、燃料供給路68に加湿器を設け、燃料ガスを加湿した後に燃料電池20に供給することとしてもよい。
【0040】
また、エアコンプレッサ66は、外部から取り込んだ空気を燃料電池20に加圧供給する。エアコンプレッサ66に取り込まれて加圧された空気は、空気供給路69を介して燃料電池20に供給され、燃料電池20内では各単セル28において、前記酸化ガス流路25Pに導かれてカソード23における電池反応に供される。一般に燃料電池では、両極に供給されるガスの圧力が増大するほど反応速度が上昇するため電池性能が向上する。そこで、カソード23に供給する空気は、このようにエアコンプレッサ66によって加圧を行なっている。なお、アノード22に供給する燃料ガスの圧力は、記述した燃料供給路68に設けたマスフロコントローラの電磁バルブ67の開閉状態を制御することによって容易に調節可能である。
【0041】
燃料電池20内のアノード22で電池反応に使用された後の燃料排ガスと、エアコンプレッサ66によって圧縮された空気の一部とは改質器64に供給される。既述したように、改質器64における改質反応は吸熱反応であって外部から熱の供給が必要であるため、改質器64内部には図示しないバーナが加熱用に備えられている。上記燃料ガスと圧縮空気とは、このバーナの燃焼のために用いられる。燃料電池20の陽極側から排出された燃料排ガスは燃料排出路71によって改質器64に導かれ、圧縮空気は空気供給路69から分岐する分岐空気路70によって改質器64に導かれる。燃料排ガスに残存する水素と圧縮空気中の酸素とはバーナの燃焼に用いられ、改質反応に必要な熱量を供給する。
【0042】
このような燃料電池20は、接続される負荷の大きさに応じて燃料ガス量および酸化ガス量を調節することによって出力を制御することができる。この出力の制御は制御部50によって行なわれる。すなわち、既述したエアコンプレッサ66や燃料供給路68に設けた電磁バルブ67に対して制御部50からの駆動信号を出力し、その駆動量や開閉状態を調節することで供給ガス量を制御して燃料電池20の出力を調節している。
【0043】
以上説明した燃料電池20は、2次電池30、モータ32および補機類34と接続している。この燃料電池20は、モータ32および補機類34に対して電力の供給を行なうと共に、これら負荷の状態に応じて2次電池30の充電を行なう。このような2次電池30の充放電状態に関わる制御については後に詳しく説明する。
【0044】
2次電池30は、上記燃料電池20とともにモータ32および補機類34に電力を供給する電源装置である。本実施例では鉛蓄電池を用いたが、ニッケル−カドミウム蓄電池、ニッケル−水素蓄電池、リチウム2次電池など他種の2次電池を用いることもできる。この2次電池30の容量は、燃料電池システム10を搭載する車両の大きさやこの車両の想定される走行条件、あるいは要求される車両の性能(最高速度や走行距離など)などによって決定される。
【0045】
モータ32は、三相同期モータである。燃料電池20や2次電池30が出力する直流電流は、後述するインバータ80によって三相交流に変換されてモータ32に供給される。このような電力の供給を受けてモータ32は回転駆動力を発生し、この回転駆動力は、燃料電池システム10を搭載する車両における車軸を介して、車両の前輪および/または後輪に伝えられ、車両を走行させる動力となる。このモータ32は、制御装置33の制御を受ける。制御装置33は、アクセルペダル33aの操作量を検出するアクセルペダルポジションセンサ33bなどとも接続されている。また、制御装置33は、制御部50とも接続されており、この制御部50との間でモータ32の駆動などに関する種々の情報をやり取りしている。
【0046】
補機類34は、燃料電池システム10の稼働中に所定範囲内の電力を消費する負荷である。例えば、エアコンプレッサ66やウオータポンプやマスフロコントローラなどがこれに相当する。エアコンプレッサ66は、既述したように、燃料電池20に供給する酸化ガス圧を調節するものである。また、ウオータポンプは、冷却水を加圧して燃料電池20内を循環させるものであり、このように冷却水を循環させて燃料電池20内で熱交換を行なわせることによって、燃料電池20の内部温度を所定の温度以下に制御する。マスフロコントローラは、既述したように燃料電池20に供給する燃料ガスの圧力と流量を調節する。従って、図1のブロック図では燃料電池20と補機類34とは独立して表わされているが、これら燃料電池20の運転状態の制御に関わる機器については燃料電池20の周辺機器ということもできる。このような補機類34の電力消費量は最大5kwであり、モータ32の消費電力に比べて少なく、電力消費量の変動も小さい。
【0047】
DC/DCコンバータ36は、燃料電池20および2次電池30が出力する電気エネルギの電圧を変換して補機類34に供給する。モータ32を駆動するのに必要な電圧は、通常200V〜300V程度であり、燃料電池20および2次電池30からはこれに見合った電圧が出力されている。しかしながら、既述したウオータポンプなどの補機類34を駆動するときの電圧は12V程度であり、燃料電池20および2次電池30から出力される電圧をそのままの状態で供給することはできない。したがって、DC/DCコンバータ36によって電圧を降下させている。
【0048】
切り替えスイッチ38は、燃料電池20および2次電池30に対してモータ32と補機類34とを並列に接続する回路中に設けられており、この切り替えスイッチ38を切り替えることによって、燃料電池20および2次電池30とモータ32とを接続したり切り離したりすることができる。切り替えスイッチ38における接続状態は、制御部50によって制御されている。
【0049】
残存容量モニタ46は、2次電池30の残存容量を検出するものであり、ここではSOCメータによって構成されている。SOCメータは2次電池30における充電・放電の電流値と時間とを積算するものであり、この値を基に制御部50は2次電池30の残存容量を演算する。ここで残存容量モニタ46は、SOCメータの代わりに電圧センサによって構成することとしてもよい。2次電池30は、その残存容量が少なくなるにつれて電圧値が低下するため、この性質を利用して電圧を測定することによって2次電池30の残存容量を検出することができる。このような電圧センサは制御部50に接続させるものであり、制御部50に予め電圧センサにおける電圧値と残存容量との関係を記憶しておくことによって、電圧センサから入力される測定値を基に制御部50は2次電池30の残存容量を求めることができる。あるいは、残存容量モニタ46は、2次電池30の電解液の比重を測定して残存容量を検出する構成としてもよい。
【0050】
制御部50は、マイクロコンピュータを中心とした論理回路として構成され、CPU52、ROM54、RAM56および入出力ポート58からなる。CPU52は、予め設定された制御プログラムに従って所定の演算などを実行する。ROM54には、CPU52で各種演算処理を実行するのに必要な制御プログラムや制御データなどが予め格納されており、RAM56には、同じくCPU52で各種演算処理を実行するのに必要な各種データが一時的に読み書きされる。入出力ポート58は、残存容量モニタ46など各種センサからの検出信号などを入力すると共に、CPU52での演算結果に応じて、切り替えスイッチ38やインバータ80などに駆動信号を出力して燃料電池システムの各部の駆動状態を制御する。
【0051】
図1では、制御部50に関しては、残存容量モニタ46からの検出信号および電流センサ90からの信号の入力と、インバータ80および切り替えスイッチ38への駆動信号の出力と、制御装置33との間の信号のやり取りのみを示したが、制御部50はこの他にも燃料電池システムにおける種々の制御を行なっている。制御部50による図示しない制御の中で主要なものとしては、燃料電池20の運転状態の制御を挙げることができる。既述したように、エアコンプレッサ66やマスフロコントローラに駆動信号を出力して酸化ガス量や燃料ガス量を制御したり、改質器64に供給するメタノールおよび水の量を制御したり、燃料電池20の温度管理や改質器64の温度管理も制御部50が行なっている。
【0052】
インバータ80は、燃料電池20や2次電池30から供給される直流電流を、3相交流電流に変換してモータ32に供給する。ここでは、制御部50からの指示に基づいて、モータ32に供給する3相交流の振幅(実際にはパルス幅)および周波数を調節することによって、モータ32で発生する駆動力を制御可能となっている。このインバータ80は、6個のスイッチング素子(例えば、バイポーラ形MOSFET(IGBT))を主回路素子として構成されており、これらのスイッチング素子のスイッチング動作により燃料電池20および2次電池30から供給される直流電流を任意の振幅および周波数の三相交流に変換する。インバータ80が備える各スイッチング素子は、導電ラインにより制御部50に接続されており、制御部50からの駆動信号によりそのスイッチングのタイミングの制御を受ける。
【0053】
電流センサ90は、2次電池30からの出力電流を検出する。2次電池30の出力状態は放電の場合も充電の場合もあるが、以後、充放電両方の場合について出力電流という。この電流センサ90は制御部50と接続しており、電流センサ90によって検出された電流値は制御部50に入力される。入力された電流値は、2次電池30における充放電状態を判断する際に用いられる。
【0054】
以上燃料電池システム10の構成について説明したが、次に、この燃料電池システム10の動作について説明する。まず最初に、燃料電池システム10における燃料電池20および2次電池30からの出力の様子について説明する。燃料電池20と2次電池30とは並列に接続されているため、負荷の大きさや2次電池30の充電状態などに応じて、両者が共に電力を供給する側となることもあれば、燃料電池20による2次電池30の充電が行なわれることもある。
【0055】
図4は、燃料電池20および2次電池30の出力特性を表わす説明図である。燃料電池20は、負荷が小さいとき、すなわち出力する電流値が小さいときには大きな電圧値を得ることができ、電流値が大きくなるに従って電圧値は低下する。また、2次電池30は、広い電流値にわたって所定範囲の電圧値を維持することができるが、その充電状態によって電圧値は昇降する。図4に示した2次電池30の出力特性は、2次電池30が充分に充電されているときのものである。
【0056】
例えば、燃料電池システムを搭載する車両が加速中でモータ32が要する電力が大きいときに、モータ32および補機類34を駆動するのに要する全電流をIt1とする。この時、燃料電池20および2次電池30から電流が取り出されると、この電流値に応じて燃料電池20および2次電池30の出力端子間電圧は低下する。しかし、燃料電池20、2次電池30およびモータ32は並列に接続されているからそれらの両端電圧は等しくなる。この電圧をVt1とすると、図4から燃料電池20の出力電流IF1、2次電池30の出力電流IB1は、It1=IF1+IB1が成り立つ値となる。このときIF1<IB1となっている。
【0057】
前記負荷を駆動するのに要する全電流値がIt2に低下したときには、この電流値の減少分に応じて燃料電池20および2次電池30の出力端子間電圧電圧は上昇する。この場合にも上述したように、燃料電池20、2次電池30およびモータ32の両端電圧は等しくなる。このときの電圧をVt2とすると、図4から、燃料電池20の出力電流IF2、2次電池30の出力電流IB2は、It2=IF2+IB2が成り立つ値となる。このときIF2>IB2となっている。このように、負荷の大きさによって燃料電池20と2次電池30とのそれぞれが出力する割合は変化する。
【0058】
図5は、燃料電池20の出力特性と、充電状態の低下した2次電池30の出力特性とを表わす説明図である。モータ32が所定の大きさの電力を要するときに前記負荷を駆動するための全電流値をIt3とする。この時、燃料電池20および2次電池30から電流が取り出されると、この電流値に応じて燃料電池20および2次電池30の出力端子間電圧は低下する。上述したように、燃料電池20、2次電池30およびモータ32の両端電圧は等しくなるため、この時の電圧をVt3とすると、図5から、燃料電池20の出力電流IF3、2次電池30の出力電流IB3は、It3=IF3+IB3が成り立つ値となる。このときIF3>IB3となっている。このように、2次電池30の充電状態が低下したときには、負荷に対する出力の大部分を燃料電池20に頼ることになる。
【0059】
ここで、モータ32が要する電力の大きさが所定量よりも小さくなり、前記負荷を駆動するのに要する全電流がIt4に低下すると、この電流値の減少分に応じて燃料電池20および2次電池30の出力端子間電圧電圧は上昇する。この場合にも上述したように、燃料電池20、2次電池30およびモータ32の両端電圧は等しくなる。このときの電圧をVt4とすると、図5から、燃料電池20の出力電流IF4、2次電池30の充電電流IB4は、It4=IF4+IB4が成り立つ値となる。ただし、このときIB4<0であり、2次電池30は燃料電池20によって充電される状態となる。このように、2次電池30の充電状態が充分でないときには、負荷の大きさが所定量以下となると、燃料電池20は負荷を駆動すると共に2次電池30の充電を行なうようになる。
【0060】
次に、本実施例の燃料電池システム10において、2次電池30の残存容量に応じて行なわれる制御について説明する。本実施例では、2次電池30の残存容量が所定の値以下の場合には、燃料電池システム10における出力、すなわち燃料電池システム10を搭載する電気自動車で消費される電力量を規制し、残存容量が所定量以上に回復するまでは出力を所定値に抑えるという制御を行なう。燃料電池システム10を搭載する電気自動車で消費される電力とは、モータ32で消費される電力の他に補機類34で消費される電力も含まれるが、補機類34で消費される電力の多くは、既述したように、燃料電池システム10を稼働状態に維持するために必要なものであり、規制する電力としてはモータ32で消費する電力が対象となる。
【0061】
本実施例の燃料電池システム10において上記制御を行なう際の動作について、図6に例示する残存容量低下時検出処理ルーチンに基づいて説明する。本ルーチンは、燃料電池システム10を搭載する車両において、この燃料電池システムを始動させる所定のスタートスイッチがオン状態になったときから、CPU52によって所定時間ごと、例えば10secごとに実行される。
【0062】
本ルーチンが実行されると、まず、残存容量モニタ46が2次電池30の残存容量Qを検出して検出値をCPU52に入力する(ステップS100)。次に、この検出した残存容量の値Qを、予め設定した基準値Q0 と比較する(ステップS110)。検出値Qが基準値Q0 よりも大きいときは、2次電池30の残存容量が充分であると判断して本ルーチンを終了する。
【0063】
ステップS110において、検出した残存容量の値Qが基準値Q0 よりも小さいときには、2次電池30の残存容量が不十分であると判断し、インバータ80を制御することによってモータ32の消費電力を所定の制限値以下に制限する(ステップS120)。具体的には、インバータ80において既述したスイッチング素子のスイッチングのタイミングを制御し、直流電流を変換してモータ32に供給する三相交流の振幅または周波数を所定の値以下に抑えることによってモータ32における消費電力を上記所定の制限値以下に抑える。モータ32の消費電力を所定の制限値以下に制限すると、それまでのモータ32における消費電力がこの制限値よりも大きかった場合には、電気自動車全体で消費する電力量の減少によって燃料電池20および2次電池30の出力電圧が上昇し、その出力状態が変化する。ここで、電流センサ90によって2次電池30からの出力電流Iを検出し(ステップS130)、この出力電流Iの正負を判断する(ステップS140)。
【0064】
ステップS140において2次電池30の出力電流Iが正であると判断されると、2次電池30からは引き続き電力が出力されていることになるため、ステップS120に戻ってモータ32における消費電力の制限値を設定し直して消費電力の低減を図る。その後再びステップS130に移行して2次電池30からの出力電流Iを検出し、ステップS140でその正負を判断する。ステップS140において2次電池30の出力電流Iが負であると判断されると、モータ32で消費する電力を低減することによって2次電池30の出力状態が放電から充電に転じたと判断される。ここでは、2次電池30からの出力電流Iの正負の判断と、モータ32での消費電力の制限値の再設定による消費電力の低減とを必要に応じて繰り返すことによって、2次電池30の出力状態を充電に転じさせる。
【0065】
ステップS140で2次電池30の出力電流Iが負であると判断されると、次に、再び残存容量モニタ46が2次電池30の残存容量を検出してその検出値QをCPU52に入力する(ステップS150)。次に、この残存容量の値Qと予め設定しておいた基準値Q1 との比較を行ない(ステップS160)、2次電池30の残存容量が充分に回復したかどうかを判断する。ステップS160において、2次電池30の残存容量Qが基準値Q1 を上回った時には、2次電池30の残存容量は充分に回復したと判断される。この場合には、ステップS120で行ったモータ32の出力制限を解除して(ステップS170)本ルーチンを終了する。なお、このときに基準値Q1 は、ステップS110における基準値Q0 と同じ値を設定することとしても良いが、制御の安定性を考えて基準値Q0 よりも大きな値を設定することが望ましい。
【0066】
ステップS160において、2次電池30の残存容量の値Qが基準値Q1 に達していないときには、2次電池30の残存容量の回復状態が不十分であると判断される。この場合には、まず、ステップS130に戻って2次電池30からの出力電流Iを測定し、ステップS140において2次電池30の出力状態が充電であることを確認する。2次電池30の出力状態が充電であることが確認されると、前回行ったステップS140における処理と同じく、再び残存容量モニタ46によって2次電池30の残存容量Qを検出し(ステップS150)、検出した残存容量の値Qを既述した基準値Q1 と比較する(ステップS160)。必要に応じてこれらの処理を繰り返し、ステップS160で2次電池30の残存容量Qが基準値Q1 を上回ると、ステップS170に移行してモータ32への出力制限を解除して本ルーチンを終了する。
【0067】
ステップS160からステップS130に戻って2次電池30からの出力電流を検出し、ステップS140でその正負を調べたときに、後述するように、2次電池30の出力状態が放電となっていることがある。このような場合には、ステップS140からさらにステップS120に戻り、モータ32の消費電力がさらに減少するように消費電力の制限値を再設定して消費電力の低減を図り、2次電池30の出力状態を充電に変える。このような場合にも、2次電池30の出力状態が充電に変われば、やがて2次電池30の残存容量Qが上記基準値Q1 を上回るようになる(ステップS160)。2次電池30の残存容量Qが上記基準値Q1 を上回ると、ステップS170においてモータ32への出力制限を解除して本ルーチンを終了する。
【0068】
ここで、モータ32における消費電力とその制限についてさらに説明する。モータ32の駆動状態は、アクセルペダルポジションセンサ33bから出力される信号などに基づいて制御部50からインバータ80に出力される駆動信号によって制御される。アクセルペダル33aが踏み込まれて車両の速度を増すように指示が入力されると、インバータ80では直流電流から変換される三相交流の振幅および周波数を増大させる制御が行なわれ、これによってモータ32のトルクおよび回転数が上昇して車両の速度が増すと共にモータ32での消費電力も増大する。モータ32における消費電力の制限は、インバータ80からモータ32に供給される三相交流の振幅および周波数に制限を設けることによって実行される。三相交流の振幅および周波数に制限が設けられると、アクセルペダル33aを踏み込んでも、モータ32において上記制限された振幅に対応したトルク以上が得られない、あるいは回転数以上には回転しなくなるため、モータ32での消費電力を制限することができる。
【0069】
なお、ステップS120においてモータ32の消費電力を所定の設定値以下に制限したときに、モータ32の駆動状況によっては、実際にモータ32が消費している電力はこの設定値以下であることも考えられる。ここで、モータ32における実際の消費電力が上記設定値以下であっても2次電池30の出力状態が放電である場合には、ステップS140からステップS120に戻ってモータ32の消費電力の制限値を設定し直す処理が行なわれるため、最終的には2次電池30の出力状態が充電となるように制御される。
【0070】
また、モータ32における実際の消費電力が上記設定値以下であって、2次電池30の出力状態が充電である場合には、上述したようにそのままステップS150に移行し、2次電池30の残存容量の値Qが所定の基準値Q1 を上回るまで監視する。ここで、2次電池30の残存容量が基準値Q1 に達する前にモータ32における消費電力が変動し、ステップS120で設定した制限値まで上昇したときに、2次電池30の出力状態が放電になってしまった場合には、2次電池の残存容量Qは基準値Q1 に達しないためステップS160からステップS130に戻ることになる。ステップS140において2次電池30の出力状態が放電と判断されると、ステップS120に戻って消費電力がさらに減少するよう消費電力の制限値を再設定する。この場合にも、最終的に2次電池30の出力状態が充電となるまで、モータ32での消費電力を減らすように消費電力の制限値の再設定を繰り返す制御が行なわれて、2次電池30の残存容量の回復が図られる。もとより、モータ32における消費電力が変動して上記制限値まで上昇したときに、2次電池30の出力状態が充電のままであれば、2次電池30の残存容量は回復を続け、やがて上記基準値Q1 に達する。
【0071】
以上説明した燃料電池システム10によれば、2次電池30の残存容量が低下したときにはモータ32での消費電力を制限するため、2次電池30の残存容量の状態が悪化してしまうのを抑えることができる。また、燃料電池20に過大な負荷がかかってしまうのを防止することもできる。さらに、モータ32での消費電力を制限する際、2次電池30の出力状態が充電になるまでこの制限値を再設定するので、2次電池30の残存容量が低下したときには速やかにその回復を図ることができる。従って、2次電池30の残存容量が低下した状態で負荷量が増大することによって燃料電池20で生じる問題を回避することができる。すなわち、燃料電池20からの出力が過剰となって、燃料電池20の出力電圧が低下してしまったり、燃料電池20内部が部分的に過熱して損傷を受けてしまうことがない。
【0072】
上記第1実施例では、2次電池30の残存容量が不十分であると判断されたときに、モータ32の消費電力を2次電池30の出力状態が充電となるまで抑えることとしたが、2次電池30の消費電力を所定の制限値以下に抑える制御を行なうだけでも、2次電池30の残存容量の状態が悪化するのを抑えたり、燃料電池20に過剰の負荷がかかったりするのを防ぐことができる。ここで、2次電池30の残存容量が不十分であると判断されたときに、モータ32からの出力に対して設ける制限値は、2次電池30の残存容量にかかわらず一定値を設定することとしても良いし、2次電池30の残存容量が少ないほど低く設定することとしても良い。図7は制限値として一定値を設定する場合を示す説明図である。この場合には、2次電池30の残存容量が基準値Q0 以下の間は、2次電池30からの出力は所定の制限値以下に制限される。実際の制御は、モータ32におけるトルクあるいは回転数がこの制限値に見合った値以下となるように、インバータ80からモータ32に供給される三相交流の振幅および周波数が制限されることによって行なわれる。2次電池30の残存容量が基準値Q0 を上回るときは、このような制限は解除され、アクセルペダル33aを操作することによって、モータ32の回転数を任意に制御することが可能となる。
【0073】
このような構成とすれば、2次電池30の残存容量が基準値Q0 を下回ったときにはモータ32での消費電力が制限されるため、2次電池30の残存容量が減少したことに起因して燃料電池20に負荷がかかりすぎるのを防ぐことができる。このモータ32での消費電力の制限値として、2次電池30の残存容量が基準値Q0 となったときに2次電池30の出力状態が充電に転じる値を設定しておけば、モータ32での消費電力を制限することによって2次電池30の充電を開始し、その残存容量の回復を図ることができる。また、モータ32での消費電力を制限値に抑えても2次電池30の出力状態が放電となる値を制限値として設定する場合には、2次電池30の残存容量がさらに低下して所定量以下となったときに、2次電池30の出力状態が充電に転じることになる。すなわち、モータ32での消費電力を上記制限値以下に制限した場合に、2次電池30の残存容量が上記所定量以下にまで減少した時には2次電池30の充電が行なわれ、同じく残存容量が上記所定値以上基準値Q0 以下にまで回復した時には、2次電池30は出力可能であるが放電量が抑えられた状態となる。
【0074】
図8は、モータ32の消費電力を抑えるために設ける制限値を、2次電池30の残存容量に応じて設定する場合を示す説明図である。この場合にも2次電池30の残存容量が基準値Q0 以下となるとモータ32の消費電力に制限値を設けるが、その際、2次電池30の残存容量が少ないほどモータ32の消費電力の制限値が小さくなるようにこの制限値を設定する。もとより2次電池30の残存容量が基準値Q0 を上回るときは、このような制限は解除される。
【0075】
このような構成とすれば、2次電池30の残存容量が基準値Q0 を下回ったときには消費電力が制限されるため、燃料電池20に負荷がかかりすぎるのを抑えることができる。また、2次電池30の残存容量がある程度減少すると、2次電池30の出力状態が放電から充電に転じるため、2次電池30の残存容量が低下しすぎてしまう前に残存容量を回復させることができる。さらに、既述した図7に示した制御のように、残存容量がある程度低下するとモータへの出力が所定値にまで急激に低下して、車両の速度が突然落ちてしまうことがなく、徐々に速度がでない状態に移行していくため、車両の運転者にとってより違和感の少ない制御とすることができる。
【0076】
図9は、モータ32の消費電力を抑えるために設ける制限値を、2次電池30の残存容量に応じて複数の段階に分けて設定する場合を示す説明図である。この場合にも2次電池30の残存容量が基準値Q0 以下となるとモータ32の消費電力に制限値を設けるが、その際、2次電池30の残存容量を基準値Q0 以下において複数の段階に分け(図9では4段階)、それぞれの段階で異なった制限値を設定する。このような構成とすれば、2次電池30の残存容量の低下状態に応じて、モータ32での消費電力の制限値を調節することができる。
【0077】
図7ないし図9に基づいて説明した上記制御では、2次電池30の残存容量が基準値Q0 を下回ってモータ32における消費電力を制限する場合に、2次電池30の出力に関して設定した制限値と2次電池30の残存容量との関係によって、2次電池の出力状態が放電可能状態であるか充電状態となるかが決まる。ここで、上記第1実施例で示した構成と同様に、モータ32における消費電力の制限値の設定後、2次電池30の放電状態が充電となるように制限値を再設定することとしても良い。すなわち、モータ32における消費電力の制限値の設定後、2次電池30の出力電流を電流センサ90によって検出し、この電流値が負の値となるまで上記制限値を低くする再設定を繰り返す。このような構成とすれば、2次電池30の残存容量が基準値Q0 以下となったときには、速やかに2次電池30の残存容量の回復を図ることができる。
【0078】
もとより、2次電池30の残存容量が基準値Q0 を下回ったときには図7ないし図9に示した出力制限を行ってモータ32における消費電力を制限し、2次電池30の残存容量がさらに第2の所定の基準値を下回った時には、第1実施例と同様に2次電池30の出力状態が充電に転じるまで上記制限値の再設定を行なうこととしても良い。上記いずれの構成を採用しても、ある程度残存容量が低下した場合には2次電池30の出力状態を充電とすることによって、2次電池30の残存容量の回復を図ることができる。
【0079】
上記の説明では、2次電池30における消費電力を制限する方法として、その消費電力に制限値を設けることとしたが、その他に、モータ32を停止させてしまうことによって消費電力を制限する方法もある。モータ32を停止させるには、図1に示した切り替えスイッチ38に制御部50から駆動信号を入力してこの切り替えスイッチ38において回路を切断することによってモータ32への電力の供給を絶てばよい。このような切り替えスイッチ38は、インバータ80内を構成する回路内に設けることとしても良い。
【0080】
このように、モータ32への電力の供給を絶ってモータ32を停止させる制御を含め、モータ32における消費電力の制御を行なうことができる。単にモータ32での消費電力量に制限値を設ける制御、2次電池30の出力状態が充電となるようにモータ32からの出力の制限値を設定する制御、あるいはモータ32を完全に停止させてしまう制御などの中から、2次電池30の残存容量の低下状態や車両の走行条件などに応じて、適宜適当な制御を選択する構成としてもよい。
【0081】
上記第1実施例の燃料電池システム10では、残存容量モニタ46と電流センサ90との両方を設け、残存容量モニタ46によって2次電池30の残存容量を監視すると共に、電流センサ90によって2次電池30からの出力電流の正負を判断する構成とした。ここで、SOCモニタなどで構成される残存容量モニタ46を特に設けることなく、電流センサのみによって残存容量の検出を行なう構成とすることができる。このような構成を第2実施例として以下に説明する。図10は、第2実施例の燃料電池システム10Aの構成を例示するブロック図である。燃料電池システム10Aは、残存容量モニタ46を備える代わりに電流センサ92を備えること以外は第1実施例の燃料電池システム10と共通であるため、構成に関する詳しい説明は省略する。
【0082】
燃料電池システム10Aは、第1実施例の燃料電池システム10と同様の電流センサ90の他に、電流センサ92を備える。電流センサ90は、2次電池30からの出力電流I1 を測定するものであるが、電流センサ92は、2次電池30からの出力電流と燃料電池20からの出力電流とを合わせた総電流値I0 を測定するものである。これら電流センサ90,92は制御部50に接続しており、制御部50に測定された電流値が入力される。制御部50は、これらの電流値を基に2次電池30の残存容量を検出する。
【0083】
ここで、電流値から2次電池30の残存容量を検出する原理について説明する。燃料電池システムAを構成する回路を流れる総電流値I0 は、燃料電池20からの出力電流をI2 とすると、I1 +I2 =I0 が成り立つ。ここで、2次電池30の充電状態が充分であって、その出力が制限されていないときには、2次電池30からも出力される状態となるため、I1 >0となる。従ってI2 /I0 <1が成り立つ。このとき、接続された負荷の大きさが大きいほどI2 /I0 の値は小さくなる(図4参照)。
【0084】
一方、2次電池30の残存容量が所定量以下であって、接続される負荷(モータ32の所要電力)が所定量よりも小さいときには、燃料電池20によって2次電池30が充電される状態となるため、I1 <0となる。従ってI2 /I0 >1が成り立つ。ここで、燃料電池20による2次電池30の充電が進むと、上記I2 /I0 の値は次第に小さくなって1に近づいていく。
【0085】
このI2 /I0 の値は、2次電池30の残存容量と接続された負荷の大きさとによって決定される値である。従って、負荷の大きさが決まれば、2次電池30の残存容量が既述した基準値Q0 であるときのI2 /I0 の値を求めることができる。本実施例の燃料電池システム10Aでは、2次電池30および燃料電池20の出力電流の状態から2次電池30の充電状態を判断するために、予想される負荷の大きさ(モータ32と補機類34との所要電力の合計)の範囲にわたって、2次電池30の残存容量が基準値Q0 であるときのI2 /I0 の値が、予め制御部50に記憶されている。
【0086】
また、このI2 /I0 の値は、2次電池30の温度によっても変わってくるため、2次電池30の予想される運転温度の範囲にわたって、2次電池30の残存容量が基準値Q0 であるときのI2 /I0 の値が、マップとして制御部50に記憶されている。図11は、2次電池30の残存容量を検出するときにCPU52によって実行される残存容量判定処理ルーチンを例示するフローチャートである。この残存容量判定処理ルーチンは、第1実施例の燃料電池システム10で実行される残存容量低下時検出処理ルーチンにおけるステップS100およびステップS110に代わる処理として実行される。
【0087】
本ルーチンが起動されると、CPU52は、まず、電流センサ90,92が検出する電流値I1 ,I0 を読み込む処理を行なう(ステップS200)。次に、総負荷量の読み込みを行なう(ステップS210)。この総負荷量の読み込みは、モータ32および補機類34の駆動状態を読み込むことによって実行する。さらに、図示しない温度センサによって2次電池30の温度を検出する(ステップS220)。
【0088】
ここで、検出した総負荷量と2次電池30の温度とを基に、このような条件下において2次電池30の残存容量が基準値QO であるときのI2 /I0 の値xを求める。また、ステップS200で読み込んだ電流値I1 ,IO の値を基にI2 /I0 の実測値を求め、このI2 /I0 の値と基準値Q0 に基づくxとの比較を行なう(ステップS240)。実測値に基づくI2 /I0 の値が上記xよりも大きいときには、2次電池30の残存容量は基準値QO よりも少ないと判断して(ステップS250)本ルーチンを終了し、引き続き残存容量低下時検出処理ルーチンのステップS120に移行してモータ32における消費電力の低減を行なう。実測値に基づくI2 /I0 の値が上記xよりも小さいときには、2次電池30の残存容量は基準値QO よりも多いと判断し(ステップS260)、本ルーチンを終了すると共に残存容量低下時検出処理ルーチンを終了する。
【0089】
測定した電流値から2次電池30の残存容量を判定する構成である第2実施例の燃料電池システム10Aでは、図6に示す第1実施例の残存容量低下時検出処理ルーチンにおけるステップS150およびステップS160も、同様の処理に置き換えられる。ここでは、制御部50において、検出した総負荷量および2次電池30の温度を基に、基準値Q0 の代わりにQ1 に対応するI2 /I0 の値を所定のマップを参照して求め、実測した電流値に基づくI2 /I0 の値と比較する。
【0090】
上述した第2実施例では、電流センサ46,90によって、2次電池30の出力電流I1 と総電流値I0 とを検出する構成としたが、I1 ,I0 ,I2 のそれぞれは他の2つの値が分かれば求めることができるため、上記I1 あるいはI0 の代わりに燃料電池20の出力電流I2 を求めることとしても良く、I1 ,I0 ,I2 のうち少なくとも2つの値を検出することとすればよい。
【0091】
以上説明した第2実施例の燃料電池システム10Aによれば、2次電池30の残存容量を検出するために残存容量モニタを2次電池30に取り付ける必要がないため、装置の構成を簡素化することができる。すなわち、簡単な構成の電流センサを設けるだけで、2次電池30の残存容量を検出すると共に2次電池30の充放電状態を監視することができる。
【0092】
第2実施例の燃料電池システム10Aでは、2次電池30からの出力電流値I1 と、燃料電池20からの出力電流値I2 と、これらを合わせた総電流値I0 との内、少なくとも2種類の電流値を測定してこれらの値を基に2次電池30の残存容量を判定する構成としたが、2次電池30からの出力電流値I1 と燃料電池システム10Aを構成する回路における電圧値とから2次電池30の残存容量を判定することもできる。このような構成を以下に第3実施例として説明する。
【0093】
図12は、第3実施例の燃料電池システム10Bの構成を例示するブロック図である。燃料電池システム10Bは、残存容量モニタ46および電流センサ92を備える代わりに電圧センサ94を備えること以外は第1実施例の燃料電池システム10および第2次実施例の燃料電池システム10Aと共通であるため、構成に関する詳しい説明は省略する。
【0094】
燃料電池システム10Bは、既述した実施例のの燃料電池システム10,10Aと同様の電流センサ90の他に、電圧センサ94を備える。燃料電池20および2次電池30は並列に接続されているため、この電圧センサ94が検出する電圧は、燃料電池20の出力電圧および2次電池30の出力電圧に等しい。電圧センサ94は制御部50に接続しており、制御部50に測定された電圧値が入力される。制御部50は、電圧センサ94から入力された電圧値および電流センサ90から入力された電流値を基に2次電池30の残存容量を検出する。
【0095】
以下に、上記電圧値および電流値から2次電池30の残存容量を判定する原理について説明する。図13は、燃料電池20と、充電状態が充分(例えば90%)である2次電池30と、充電状態が不十分(例えば20%)である2次電池30と、残存容量の値がQ0 である2次電池30の出力特性を模式的に表す説明図である。電圧センサ94によって電圧値を測定すると、2次電池30はその残存容量に応じて出力電流値が一義的に定まる。すなわち、測定された電圧値がVt5であるとき、2次電池30の残存容量が90%であれば2次電池30の出力電流値はI F5、同じく残存容量が20%であれば出力電流値はIB6 、同じく残存容量がQ0 であれば出力電流値はIB7となる。
【0096】
本実施例の燃料電池システム10Bの制御部50には、2次電池30の残存容量が基準値Q0 である時の2次電池30における出力特性が記憶されている。2次電池30の出力電流値I1 および電圧値Vが入力されると、2次電池30の残存容量がQ0 であって電圧値がVであるときの2次電池30の出力電流値の値IBQと、入力した電流値I1 とを比較する。I1 >IBQであれば2次電池30の残存容量はQ0 よりも大であると判断し、I1 <IBQであれば2次電池30の残存容量はQ0 よりも小であると判断する。
【0097】
また、2次電池30の残存容量がQ0 であるときの2次電池30における出力特性は、2次電池30の温度によっても変わってくるため、2次電池30の予想される運転温度の範囲にわたって、2次電池30の残存容量が基準値Q0 であるときの出力特性が制御部50に記憶されている。図14は、燃料電池システム10Bにおいて2次電池30の残存容量を判定するときにCPU52によって実行される残存容量判定処理ルーチンを例示するフローチャートである。この残存容量判定処理ルーチンは、第1実施例の燃料電池システム10で実行される残存容量低下時検出処理ルーチンにおけるステップS100およびステップS110に代わる処理として実行される。
【0098】
本ルーチンが起動されると、CPU52は、まず、電流センサ90が検出する電流値I1 を読み込むと共に(ステップS300)、電圧センサ94が検出する電圧値Vを読み込む処理を行なう(ステップS310)。次に、図示しない温度センサによって2次電池30の温度を検出する(ステップS320)。ここで、検出した2次電池30の温度において、2次電池30の残存容量が基準値QO であって電圧値がVである時の2次電池30の出力電流値IBQを求める(ステップS330)。 このIBQの値と、ステップS300で読み込んだ電流値I1 の値とを比較し(ステップS340)、2次電池30の残存容量がQ0 である時の電流値IBQが実測値I1 よりも大きいときには、2次電池30の残存容量は基準値QO よりも少ないと判断して(ステップS350)本ルーチンを終了し、引き続き残存容量低下時検出処理ルーチンのステップS120に移行してモータ32における消費電力の低減を行なう。2次電池30の残存容量がQ0 である時の電流値IBQが実測値I1 よりも小さいときには、2次電池30の残存容量は基準値QO よりも多いと判断し(ステップS360)、本ルーチンを終了すると共に残存容量低下時検出処理ルーチンを終了する。
【0099】
測定した電流値および電圧値から2次電池30の残存容量を判定する構成である第3実施例の燃料電池システム10Bでは、図6に示す第1実施例の残存容量低下時検出処理ルーチンにおけるステップS150およびステップS160も、同様の処理に置き換えられる。ここでは、制御部50において、検出した電圧値および2次電池30の温度を基に、基準値Q0 の代わりにQ1 に対応する2次電池30の電流値値を求め、実測した電流値であるI1 と比較する。
【0100】
以上説明した第3実施例の燃料電池システム10Bによれば、第2実施例と同様に2次電池30の残存容量を検出するために残存容量モニタを2次電池30に取り付ける必要がないため、装置の構成を簡素化することができる。すなわち、簡単な構成の電流センサおよび電圧センサを設けるだけで、2次電池30の残存容量を判定すると共に2次電池30の充放電状態を監視することができる。
【0101】
既述した第1ないし第3実施例では、2次電池30からの出力を制限する際に、制御部50からインバータ80に対して駆動信号を出力し、インバータ80からモータ32に供給する三相交流の振幅および周波数を制御することによってモータ32での消費電力を削減していた。そのため、特別に回路を設けることなく電気的な信号のやり取りを行なうだけで、モータ32での消費電力を容易に削減することができる。もとより、モータ32に至る回路の所定の位置に、接点の切り替えにより接続可能な状態で所定の大きさの抵抗を設けることとしてもよい。このような構成とすれば、モータ32での消費電力を制限するときには、接点を切り替えることによって回路全体の抵抗値を上昇させて消費電力を低減することができる。
【0102】
第1実施例ないし第3実施例に基づいて2次電池30の残存容量が低下したときに行なわれるモータ32への出力の制御について説明したが、このような制御が行なわれるときには、実際の電気自動車では、アクセルペダル33aを踏み込んでも速度が上がらなくなる、あるいは速度が低下してしまう、さらには車両が停止してしまうという状態となってしまう。従って、2次電池30の残存容量が低下してモータ32への出力を制限するときには、車両の運転席の近傍に設けた所定の警告灯を点灯させたり音声や警告音を発するなどして出力制限中であることを運転者に知らせ、車両故障との誤認を防ぎ、出力制限条件下での安全な走行を促す構成とすることが望ましい。
【0103】
以上本発明の実施例について説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる様態で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の好適な一実施例である燃料電池システム10の構成を例示するブロック図である。
【図2】単セル28の構成を表す断面模式図である。
【図3】燃料電池部60の構成を表すブロック図である。
【図4】燃料電池20と、充分に充電された2次電池30との出力特性を表す説明図である。
【図5】燃料電池20と、充電状態が不十分な2次電池30との出力特性を表す説明図である。
【図6】第1実施例の燃料電池システム10の稼働時に実行される残存容量低下時検出処理ルーチンを表すフローチャートである。
【図7】2次電池30の残存容量の低下時に出力規制を行なう様子を表す説明図である。
【図8】2次電池30の残存容量に応じて出力規制を行なう様子を表す説明図である。
【図9】2次電池30の残存容量に応じて出力規制を段階的に行なう様子を表す説明図である。
【図10】第2実施例の燃料電池システム10Aの構成を例示するブロック図である。
【図11】第2実施例の燃料電池システム10Aにおいて2次電池30の残存容量を検出する際に実行される残存容量判定処理ルーチンを表すフローチャートである。
【図12】第3実施例の燃料電池システム10Bの構成を例示するブロック図である。
【図13】燃料電池20と、種々の充電状態にある2次電池30との出力特性を表す説明図である。
【図14】第3実施例の燃料電池システム10Bにおいて2次電池30の残存容量を検出する際に実行される残存容量判定処理ルーチンを表すフローチャートである。
【符号の説明】
【0105】
10,10A,10B…燃料電池システム
20…燃料電池
21…電解質膜
22…アノード
23…カソード
24,25…セパレータ
24P…燃料ガス流路
25P…酸化ガス流路
26,27…集電板
28…単セル
32…モータ
33…制御装置
33a…アクセルペダル
33b…アクセルペダルポジションセンサ
34…補機類
36…DC/DCコンバータ
38…切り替えスイッチ
46,90、92…電流センサ
46…残存容量モニタ
50…制御部
52…CPU
54…ROM
56…RAM
58…入出力ポート
60…燃料電池部
61…メタノールタンク
62…水タンク
64…改質器
66…エアコンプレッサ
67…電磁バルブ
68…燃料供給路
69…空気供給路
70…分岐空気路
71…燃料排出路
80…インバータ
94…電圧センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムおよび電気自動車に関し、詳しくは燃料電池と2次電池とを電源として備えた燃料電池システムと、この燃料電池システムを搭載した電気自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の燃料電池装置として、燃料電池と2次電池とを電源として備え、両者を併用して負荷に対して電力を供給する燃料電池装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この燃料電池装置では、燃料電池装置を構成する回路に設けられた所定の接点を開閉することによって、負荷が小さな時には燃料電池が単独で負荷に対して電力を供給し、負荷が大きくなると燃料電池と2次電池との両方が放電して負荷に対して電力を供給するように切り替える。また、2次電池の充電状態が低下したときには、燃料電池は負荷に電力を供給すると共に2次電池を充電するよう回路の接続を切り替える。燃料電池は出力電流が大きくなるに従って電圧が降下してしまうという性質があるが、燃料電池と2次電池とを併設する上記構成を採ることによって、負荷の消費電力が大きいときにも充分な出力を得ることができる。
【0003】
【特許文献1】特開昭47−32321号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した燃料電池装置においては、2次電池の充電状態が低下したときの対応として、燃料電池装置を構成する回路に設けた所定の接点を開閉することによって、2次電池が放電している状態から充電される状態に切り替える構成となっている。そのため、負荷に供給する電力量が大きいと2次電池の残存容量の低下に伴って上記接点が切り替わるが、引き続き負荷が大きい状態が継続すると、2次電池からの電力の供給がないため燃料電池にかかる負荷が増大して出力電圧が降下し、充分な出力が得られなくなるという問題があった。
【0005】
上記したように、2次電池の残存容量に応じて所定の接点を開閉して2次電池の充放電の状態を制御する代わりに、2次電池と燃料電池とを並列に接続する構成とし、負荷の大きさの変動に従って2次電池と燃料電池との出力電圧差が変動することによって2次電池の充放電状態を切り替える構成とすることもできる。このような場合にも、負荷が大きい状態が続けば2次電池の残存容量は低下し続けるため、燃料電池に過剰な負荷がかかってしまうことになる。
【0006】
これらの構成において、2次電池の残存容量が低下して2次電池から供給される電力量が不足すると、燃料電池の負荷が増大することに起因して種々の問題が生じることがある。すなわち、燃料電池の負荷が増大して燃料電池からの出力電流が所定量を上回ると、燃料電池へ供給するガス量を増加させてもガス量の増加に見合った発電量の増加が得られなくなり、さらに、電圧が不安定となって電圧の急激な降下などの不都合が生じるおそれがある。
【0007】
また、このように燃料電池の出力電流が所定量を上回って電圧が不安定になるときには、燃料電池を構成する単セルにおいては、電極の正負が逆転する転極と呼ばれる現象がみられることがある。転極が起きると、電圧が不安定になるばかりでなく、電気化学反応によって電気エネルギに変換されるべきエネルギが熱エネルギとして放出され、燃料電池が部分的に過度の発熱を起こしてしまい、そのため燃料電池の短寿命化が引き起こされる。
【0008】
本発明の燃料電池システムおよび電気自動車は、こうした問題を解決し、2次電池の残存容量が低下して2次電池から供給される電力が不十分となって燃料電池にかかる負荷が過剰となり、燃料電池において電圧降下や過度の発熱等の不都合が生じてしまうのを防止することを目的としてなされ、次の構成を採った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の燃料電池システムは、燃料電池と2次電池とを備え、前記燃料電池と2次電池から負荷に対して電力の供給を行なう燃料電池システムであって、
前記2次電池の残存容量を検出する残存容量検出手段と、
前記残存容量検出手段によって検出された前記2次電池の残存容量に応じて、前記負荷への電力の供給を制限する出力制御手段と、
前記出力制御手段によって前記負荷への電力供給が制限されるときに、前記負荷への電力供給が制限されていることを報知する報知部と
を備えることを要旨とする。
【0010】
本発明の燃料電池システムは、
並列に接続された燃料電池と2次電池とを備え、負荷に対して電力の供給を行なう燃料電池システムであって、
前記2次電池の残存容量を検出する残存容量検出手段と、
前記残存容量検出手段によって検出された前記2次電池の残存容量に応じて、前記負荷への電力の供給を制限する出力制御手段と
を備えたことを要旨とする。
【0011】
以上のように構成された本発明の第1の燃料電池システムは、並列に接続された燃料電池と2次電池とを備えて負荷に対して電力の供給を行ない、2次電池の残存容量を検出し、この残存容量に応じて前記電源から前記負荷への電力の供給を制限する。
【0012】
このような燃料電池システムによれば、2次電池の残存容量に応じて負荷への電力の供給を制限するため、2次電池の充電状態が低下したときに、2次電池の残存容量の状態のさらなる悪化を抑えることができ、また、燃料電池に過剰の負荷がかかってしまうことがない。従って、燃料電池から取り出そうとする電流値が過剰であることに起因して、燃料電池が電圧降下を起こしたり部分的に過度の発熱が起こる等の不都合が生じてしまうことがない。
【0013】
ここで、本発明の燃料電池システムにおいて、
前記出力制御手段は、前記残存容量検出手段によって検出された前記2次電池の残存容量が所定量以下の場合に、前記負荷への電力の供給を制限または遮断する構成としてもよい。
【0014】
このような構成の燃料電池システムでは、2次電池の残存容量が所定量以下の場合には、前記負荷への電力の供給を制限または遮断する。したがって、2次電池の残存容量が所定量以下になってしまった場合に、燃料電池に過剰の負荷がかかって燃料電池の電圧降下や過度の発熱などの不都合が生じてしまうことがない。負荷への電力の供給を遮断する場合には、燃料電池による2次電池の充電を速やかに行なうことができる。
【0015】
また、本発明の燃料電池システムにおいて、
前記出力制御手段は、前記負荷への出力を所定の制限値以下に抑えて、前記燃料電池によって前記2次電池を充電可能にすることにより、前記負荷への電力の供給を制限することとしてもよい。
【0016】
このような構成の燃料電池システムは、2次電池の残存容量に応じて前記負荷への電力の供給を制限する際に、前記負荷への出力を所定の制限値以下に抑えることで前記燃料電池によって前記2次電池を充電可能にする。したがって、2次電池の充電状態が低下した場合には燃料電池による充電が行なわれ、2次電池の充電状態を回復することができる。
【0017】
さらに、本発明の燃料電池システムにおいて、
前記残存容量検出手段は、
前記燃料電池が出力する燃料電池電流値と、前記2次電池が出力する2次電池電流値と、前記燃料電池電流値と前記2次電池電流値との和である総電流値との内、少なくとも2種類の電流値を検出する電流値検出手段と、
前記電流値検出手段による検出結果に基づく各電流値間の関係から、前記2次電池の残存容量を判定する残存容量判定手段と
からなることとしてもよい。
【0018】
このような構成の燃料電池システムでは、前記燃料電池が出力する燃料電池電流値と、前記2次電池が出力する2次電池電流値と、前記燃料電池電流値と前記2次電池電流値との和である総電流値との内、少なくとも2種類の電流値を検出し、この検出結果に基づく各電流値間の関係から、前記2次電池の残存容量を判定する。したがって、2次電池の残存容量を検出するために特別な残存容量モニタを備える必要がなく、構成を簡素化することができる。残存容量モニタを備える代わりに、電流値を検出して所定の演算処理を行なうという簡便な方法によって、前記2次電池の残存容量を判定することができる。
【0019】
あるいは、本発明の燃料電池システムにおいて、
前記残存容量検出手段は、
前記2次電池が出力する電流値を検出する2次電池電流値検出手段と、
前記燃料電池システムにおける電圧値を検出する電圧値検出手段と、
前記2次電池電流値検出手段が検出した前記2次電池電流値と、前記電圧値検出手段が検出した前記電圧値とを基に、前記2次電池の残存容量を判定する残存容量判定手段と
からなることとしてもよい。
【0020】
このような構成の燃料電池システムでは、前記2次電池が出力する電流値と、前記燃料電池システムにおける電圧値とを測定し、これらの検出結果を基に前記2次電池の残存容量を判定する。したがって、2次電池の残存容量を検出するために特別に残存容量モニタを備える必要がなく、構成を簡素化することができる。残存容量モニタを備える代わりに、電流値および電圧値を検出して所定の演算処理を行なうという簡便な方法によって、前記2次電池の残存容量を判定することができる。
【0021】
また、本発明の電気自動車は、
電気エネルギによってモータを回転させ、該モータの回転力を車軸に伝えることによって車両としての駆動力を得る電気自動車であって、
本発明の燃料電池システムを搭載し、
前記モータは、該燃料電池システムから電力の供給を受けることを要旨とする。
【0022】
以上のように構成された電気自動車によれば、電気自動車を駆動するための電気エネルギを供給する2次電池の残存容量に応じて、電気自動車を駆動するモータへの電力の供給を制限する。従って、2次電池の充電状態が低下しすぎてしまうことがなく、そのため、燃料電池にかかる負荷が過剰となり、燃料電池において電圧降下や過度の発熱等の不都合が生じてしまうことがない。ここで、モータへの電力の供給を制限する際に、モータへの出力を所定の制限値以下にすることによって燃料電池による2次電池の充電を可能にする構成とすれば、電気自動車を走行させながら2次電池の充電状態を回復させることが可能となる。
【0023】
さらに、本発明の電気自動車において、
前記出力制御手段は、前記モータの回転数の制限および/またはトルクの制限を行なう制御によって前記負荷への電力の供給を制限する構成とすることも好ましい。
【0024】
このような構成とすれば、電気自動車が備える所定の制御回路を介することによって、モータの回転数の制限および/またはトルクの制限を行ないモータでの消費電力を減らすことができる。したがって、モータへの電力の供給を制限するために、所定の抵抗を備えた回路などの特別な構成を備える必要がない。
【0025】
本発明の燃料電池システムを搭載した電気自動車は、以下のような他の態様をとることも可能である。すなわち、
請求項6または7記載の電気自動車において、
前記出力制御手段によって前記負荷への電力の供給が制限されるときに、電力の供給が制限されていることを運転者に知らせる警告手段を備えることとしてもよい。ここで警告手段としては、所定の警告灯を点灯する、あるいは出力制限中であることを知らせる音声や所定の警告音を発する等の方法を挙げることができる。
【0026】
このような構成とすれば、負荷への電力の供給が制限されたときに、運転者が電気自動車のアクセルペダルを踏み込んでも車両の速度が上がらなくなる、あるいは低下してしまう、さらには車両が停止してしまうという状態となっても、車両故障と誤認してしまうことがない。また、負荷への電力の供給を制限することは運転者による車両の操作性を低下させるが、電力の供給が制限されていることを運転者に知らせることによって、出力制限条件下での安全な走行を促すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以上説明した本発明の構成・作用を一層明らかにするために、以下本発明の実施の形態を実施例に基づき説明する。図1は、本発明の好適な一実施例である燃料電池システム10を搭載した電気自動車の構成の概略を表すブロック図である。本実施例の燃料電池システム10は、車両に搭載されて車両駆動用の電源として働く。燃料電池システム10は、燃料電池20、2次電池30、車両駆動用のモータ32、補機類34、DC/DCコンバータ36、切り替えスイッチ38、残存容量モニタ46、制御部50、インバータ80、電流センサ90を主な構成要素とする。以下、燃料電池システム10の各構成要素について説明する。
【0028】
燃料電池20は、固体高分子電解質型の燃料電池であり、構成単位である単セル28を複数積層したスタック構造を有している。燃料電池20は、陰極側に水素を含有する燃料ガスの供給を受け、陽極側には酸素を含有する酸化ガスの供給を受けて以下に示す電気化学反応によって起電力を得る。
【0029】
H2 → 2H++2e- …(1)
(1/2)O2+2H++2e- → H2O …(2)
H2+(1/2)O2 → H2O …(3)
【0030】
(1)式は陰極側における反応、(2)式は陽極側における反応を示し、(3)式は電池全体で起こる反応を表わす。図2は、この燃料電池20を構成する単セル28の構成を例示する断面図である。単セル28は、電解質膜21と、アノード22およびカソード23と、セパレータ24,25とから構成されている。
【0031】
アノード22およびカソード23は、電解質膜21を両側から挟んでサンドイッチ構造を成すガス拡散電極である。セパレータ24,25は、このサンドイッチ構造をさらに両側から挟みつつ、アノード22およびカソード23との間に、燃料ガスおよび酸化ガスの流路を形成する。アノード22とセパレータ24との間には燃料ガス流路24Pが形成されており、カソード23とセパレータ25との間には酸化ガス流路25Pが形成されている。セパレータ24,25は、図2ではそれぞれ片面にのみ流路を形成しているが、実際にはその両面にリブが形成されており、片面はアノード22との間で燃料ガス流路24Pを形成し、他面は隣接する単セルが備えるカソード23との間で酸化ガス流路25Pを形成する。このように、セパレータ24,25は、ガス拡散電極との間でガス流路を形成するとともに、隣接する単セル間で燃料ガスと酸化ガスの流れを分離する役割を果たしている。もとより、単セル28を積層してスタック構造を形成する際、スタック構造の両端に位置する2枚のセパレータは、ガス拡散電極と接する片面にだけリブを形成することとしてもよい。
【0032】
ここで、電解質膜21は、固体高分子材料、例えばフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。本実施例では、ナフィオン膜(デュポン社製)を使用した。電解質膜21の表面には、触媒としての白金または白金と他の金属からなる合金が塗布されている。触媒を塗布する方法としては、白金または白金と他の金属からなる合金を担持したカーボン粉を作製し、この触媒を担持したカーボン粉を適当な有機溶剤に分散させ、電解質溶液(例えば、Aldrich Chemical社、Nafion Solution)を適量添加してペースト化し、電解質膜21上にスクリーン印刷するという方法をとった。あるいは、上記触媒を担持したカーボン粉を含有するペーストを膜成形してシートを作製し、このシートを電解質膜21上にプレスする構成も好適である。また、白金などの触媒は、電解質膜21ではなく、電解質膜21を接するアノード22およびカソード23側に塗布することとしてもよい。
【0033】
アノード22およびカソード23は、共に炭素繊維からなる糸で織成したカーボンクロスにより形成されている。なお、本実施例では、アノード22およびカソード23をカーボンクロスにより形成したが、炭素繊維からなるカーボンペーパまたはカーボンフエルトにより形成する構成も好適である。
【0034】
セパレータ24,25は、ガス不透過の導電性部材、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボンにより形成されている。セパレータ24,25はその両面に、平行に配置された複数のリブを形成しており、既述したように、アノード22の表面とで燃料ガス流路24Pを形成し、隣接する単セルのカソード23の表面とで酸化ガス流路25Pを形成する。ここで、各セパレータの表面に形成されたリブは、両面ともに平行に形成する必要はなく、面毎に直行するなど所定の角度をなすこととしてもよい。また、リブの形状は平行な溝状である必要はなく、ガス拡散電極に対して燃料ガスまたは酸化ガスを供給可能であればよい。
【0035】
以上、燃料電池20の基本構造である単セル28の構成について説明した。実際に燃料電池20として組み立てるときには、セパレータ24、アノード22、電解質膜21、カソード23、セパレータ25の順序で構成される単セル28を複数組積層し(本実施例では100組)、その両端に緻密質カーボンや銅板などにより形成される集電板26,27を配置することによって、スタック構造を構成する。
【0036】
図1のブロック図では図示しなかったが、実際に燃料電池を用いて発電を行なうには、上記スタック構造を有する燃料電池本体の他に所定の周辺装置を必要とする。図3は、燃料電池20とその周辺装置とからなる燃料電池部60の構成を例示するブロック図である。燃料電池部60は、上記燃料電池20と、メタノールタンク61および水タンク62と、改質器64と、エアコンプレッサ66とを主な構成要素とする。
【0037】
改質器64は、メタノールタンク61および水タンク62から、メタノールおよび水の供給を受ける。改質器64では、供給されたメタノールを原燃料として水蒸気改質法による改質を行ない、水素リッチな燃料ガスを生成する。以下に、改質器64で行なわれる改質反応を示す。
【0038】
CH3OH → CO+2H2 …(4)
CO+H2O → CO2+H2 …(5)
CH3OH+H2O → CO2+3H2 …(6)
【0039】
改質器64で行なわれるメタノールの改質反応は、(4)式で表わされるメタノールの分解反応と(5)式で表わされる一酸化炭素の変成反応とが同時に進行し、全体として(6)式の反応が起きる。このような改質反応は全体として吸熱反応である。改質器64で生成された水素リッチな燃料ガスは燃料供給路68を介して燃料電池20に供給され、燃料電池20内では各単セル28において、前記燃料ガス流路24Pに導かれてアノード22における電池反応に供される。アノード22で行なわれる反応は記述した(1)式で表わされるが、この反応で必要な水を補って電解質膜21の乾燥を防ぐために、燃料供給路68に加湿器を設け、燃料ガスを加湿した後に燃料電池20に供給することとしてもよい。
【0040】
また、エアコンプレッサ66は、外部から取り込んだ空気を燃料電池20に加圧供給する。エアコンプレッサ66に取り込まれて加圧された空気は、空気供給路69を介して燃料電池20に供給され、燃料電池20内では各単セル28において、前記酸化ガス流路25Pに導かれてカソード23における電池反応に供される。一般に燃料電池では、両極に供給されるガスの圧力が増大するほど反応速度が上昇するため電池性能が向上する。そこで、カソード23に供給する空気は、このようにエアコンプレッサ66によって加圧を行なっている。なお、アノード22に供給する燃料ガスの圧力は、記述した燃料供給路68に設けたマスフロコントローラの電磁バルブ67の開閉状態を制御することによって容易に調節可能である。
【0041】
燃料電池20内のアノード22で電池反応に使用された後の燃料排ガスと、エアコンプレッサ66によって圧縮された空気の一部とは改質器64に供給される。既述したように、改質器64における改質反応は吸熱反応であって外部から熱の供給が必要であるため、改質器64内部には図示しないバーナが加熱用に備えられている。上記燃料ガスと圧縮空気とは、このバーナの燃焼のために用いられる。燃料電池20の陽極側から排出された燃料排ガスは燃料排出路71によって改質器64に導かれ、圧縮空気は空気供給路69から分岐する分岐空気路70によって改質器64に導かれる。燃料排ガスに残存する水素と圧縮空気中の酸素とはバーナの燃焼に用いられ、改質反応に必要な熱量を供給する。
【0042】
このような燃料電池20は、接続される負荷の大きさに応じて燃料ガス量および酸化ガス量を調節することによって出力を制御することができる。この出力の制御は制御部50によって行なわれる。すなわち、既述したエアコンプレッサ66や燃料供給路68に設けた電磁バルブ67に対して制御部50からの駆動信号を出力し、その駆動量や開閉状態を調節することで供給ガス量を制御して燃料電池20の出力を調節している。
【0043】
以上説明した燃料電池20は、2次電池30、モータ32および補機類34と接続している。この燃料電池20は、モータ32および補機類34に対して電力の供給を行なうと共に、これら負荷の状態に応じて2次電池30の充電を行なう。このような2次電池30の充放電状態に関わる制御については後に詳しく説明する。
【0044】
2次電池30は、上記燃料電池20とともにモータ32および補機類34に電力を供給する電源装置である。本実施例では鉛蓄電池を用いたが、ニッケル−カドミウム蓄電池、ニッケル−水素蓄電池、リチウム2次電池など他種の2次電池を用いることもできる。この2次電池30の容量は、燃料電池システム10を搭載する車両の大きさやこの車両の想定される走行条件、あるいは要求される車両の性能(最高速度や走行距離など)などによって決定される。
【0045】
モータ32は、三相同期モータである。燃料電池20や2次電池30が出力する直流電流は、後述するインバータ80によって三相交流に変換されてモータ32に供給される。このような電力の供給を受けてモータ32は回転駆動力を発生し、この回転駆動力は、燃料電池システム10を搭載する車両における車軸を介して、車両の前輪および/または後輪に伝えられ、車両を走行させる動力となる。このモータ32は、制御装置33の制御を受ける。制御装置33は、アクセルペダル33aの操作量を検出するアクセルペダルポジションセンサ33bなどとも接続されている。また、制御装置33は、制御部50とも接続されており、この制御部50との間でモータ32の駆動などに関する種々の情報をやり取りしている。
【0046】
補機類34は、燃料電池システム10の稼働中に所定範囲内の電力を消費する負荷である。例えば、エアコンプレッサ66やウオータポンプやマスフロコントローラなどがこれに相当する。エアコンプレッサ66は、既述したように、燃料電池20に供給する酸化ガス圧を調節するものである。また、ウオータポンプは、冷却水を加圧して燃料電池20内を循環させるものであり、このように冷却水を循環させて燃料電池20内で熱交換を行なわせることによって、燃料電池20の内部温度を所定の温度以下に制御する。マスフロコントローラは、既述したように燃料電池20に供給する燃料ガスの圧力と流量を調節する。従って、図1のブロック図では燃料電池20と補機類34とは独立して表わされているが、これら燃料電池20の運転状態の制御に関わる機器については燃料電池20の周辺機器ということもできる。このような補機類34の電力消費量は最大5kwであり、モータ32の消費電力に比べて少なく、電力消費量の変動も小さい。
【0047】
DC/DCコンバータ36は、燃料電池20および2次電池30が出力する電気エネルギの電圧を変換して補機類34に供給する。モータ32を駆動するのに必要な電圧は、通常200V〜300V程度であり、燃料電池20および2次電池30からはこれに見合った電圧が出力されている。しかしながら、既述したウオータポンプなどの補機類34を駆動するときの電圧は12V程度であり、燃料電池20および2次電池30から出力される電圧をそのままの状態で供給することはできない。したがって、DC/DCコンバータ36によって電圧を降下させている。
【0048】
切り替えスイッチ38は、燃料電池20および2次電池30に対してモータ32と補機類34とを並列に接続する回路中に設けられており、この切り替えスイッチ38を切り替えることによって、燃料電池20および2次電池30とモータ32とを接続したり切り離したりすることができる。切り替えスイッチ38における接続状態は、制御部50によって制御されている。
【0049】
残存容量モニタ46は、2次電池30の残存容量を検出するものであり、ここではSOCメータによって構成されている。SOCメータは2次電池30における充電・放電の電流値と時間とを積算するものであり、この値を基に制御部50は2次電池30の残存容量を演算する。ここで残存容量モニタ46は、SOCメータの代わりに電圧センサによって構成することとしてもよい。2次電池30は、その残存容量が少なくなるにつれて電圧値が低下するため、この性質を利用して電圧を測定することによって2次電池30の残存容量を検出することができる。このような電圧センサは制御部50に接続させるものであり、制御部50に予め電圧センサにおける電圧値と残存容量との関係を記憶しておくことによって、電圧センサから入力される測定値を基に制御部50は2次電池30の残存容量を求めることができる。あるいは、残存容量モニタ46は、2次電池30の電解液の比重を測定して残存容量を検出する構成としてもよい。
【0050】
制御部50は、マイクロコンピュータを中心とした論理回路として構成され、CPU52、ROM54、RAM56および入出力ポート58からなる。CPU52は、予め設定された制御プログラムに従って所定の演算などを実行する。ROM54には、CPU52で各種演算処理を実行するのに必要な制御プログラムや制御データなどが予め格納されており、RAM56には、同じくCPU52で各種演算処理を実行するのに必要な各種データが一時的に読み書きされる。入出力ポート58は、残存容量モニタ46など各種センサからの検出信号などを入力すると共に、CPU52での演算結果に応じて、切り替えスイッチ38やインバータ80などに駆動信号を出力して燃料電池システムの各部の駆動状態を制御する。
【0051】
図1では、制御部50に関しては、残存容量モニタ46からの検出信号および電流センサ90からの信号の入力と、インバータ80および切り替えスイッチ38への駆動信号の出力と、制御装置33との間の信号のやり取りのみを示したが、制御部50はこの他にも燃料電池システムにおける種々の制御を行なっている。制御部50による図示しない制御の中で主要なものとしては、燃料電池20の運転状態の制御を挙げることができる。既述したように、エアコンプレッサ66やマスフロコントローラに駆動信号を出力して酸化ガス量や燃料ガス量を制御したり、改質器64に供給するメタノールおよび水の量を制御したり、燃料電池20の温度管理や改質器64の温度管理も制御部50が行なっている。
【0052】
インバータ80は、燃料電池20や2次電池30から供給される直流電流を、3相交流電流に変換してモータ32に供給する。ここでは、制御部50からの指示に基づいて、モータ32に供給する3相交流の振幅(実際にはパルス幅)および周波数を調節することによって、モータ32で発生する駆動力を制御可能となっている。このインバータ80は、6個のスイッチング素子(例えば、バイポーラ形MOSFET(IGBT))を主回路素子として構成されており、これらのスイッチング素子のスイッチング動作により燃料電池20および2次電池30から供給される直流電流を任意の振幅および周波数の三相交流に変換する。インバータ80が備える各スイッチング素子は、導電ラインにより制御部50に接続されており、制御部50からの駆動信号によりそのスイッチングのタイミングの制御を受ける。
【0053】
電流センサ90は、2次電池30からの出力電流を検出する。2次電池30の出力状態は放電の場合も充電の場合もあるが、以後、充放電両方の場合について出力電流という。この電流センサ90は制御部50と接続しており、電流センサ90によって検出された電流値は制御部50に入力される。入力された電流値は、2次電池30における充放電状態を判断する際に用いられる。
【0054】
以上燃料電池システム10の構成について説明したが、次に、この燃料電池システム10の動作について説明する。まず最初に、燃料電池システム10における燃料電池20および2次電池30からの出力の様子について説明する。燃料電池20と2次電池30とは並列に接続されているため、負荷の大きさや2次電池30の充電状態などに応じて、両者が共に電力を供給する側となることもあれば、燃料電池20による2次電池30の充電が行なわれることもある。
【0055】
図4は、燃料電池20および2次電池30の出力特性を表わす説明図である。燃料電池20は、負荷が小さいとき、すなわち出力する電流値が小さいときには大きな電圧値を得ることができ、電流値が大きくなるに従って電圧値は低下する。また、2次電池30は、広い電流値にわたって所定範囲の電圧値を維持することができるが、その充電状態によって電圧値は昇降する。図4に示した2次電池30の出力特性は、2次電池30が充分に充電されているときのものである。
【0056】
例えば、燃料電池システムを搭載する車両が加速中でモータ32が要する電力が大きいときに、モータ32および補機類34を駆動するのに要する全電流をIt1とする。この時、燃料電池20および2次電池30から電流が取り出されると、この電流値に応じて燃料電池20および2次電池30の出力端子間電圧は低下する。しかし、燃料電池20、2次電池30およびモータ32は並列に接続されているからそれらの両端電圧は等しくなる。この電圧をVt1とすると、図4から燃料電池20の出力電流IF1、2次電池30の出力電流IB1は、It1=IF1+IB1が成り立つ値となる。このときIF1<IB1となっている。
【0057】
前記負荷を駆動するのに要する全電流値がIt2に低下したときには、この電流値の減少分に応じて燃料電池20および2次電池30の出力端子間電圧電圧は上昇する。この場合にも上述したように、燃料電池20、2次電池30およびモータ32の両端電圧は等しくなる。このときの電圧をVt2とすると、図4から、燃料電池20の出力電流IF2、2次電池30の出力電流IB2は、It2=IF2+IB2が成り立つ値となる。このときIF2>IB2となっている。このように、負荷の大きさによって燃料電池20と2次電池30とのそれぞれが出力する割合は変化する。
【0058】
図5は、燃料電池20の出力特性と、充電状態の低下した2次電池30の出力特性とを表わす説明図である。モータ32が所定の大きさの電力を要するときに前記負荷を駆動するための全電流値をIt3とする。この時、燃料電池20および2次電池30から電流が取り出されると、この電流値に応じて燃料電池20および2次電池30の出力端子間電圧は低下する。上述したように、燃料電池20、2次電池30およびモータ32の両端電圧は等しくなるため、この時の電圧をVt3とすると、図5から、燃料電池20の出力電流IF3、2次電池30の出力電流IB3は、It3=IF3+IB3が成り立つ値となる。このときIF3>IB3となっている。このように、2次電池30の充電状態が低下したときには、負荷に対する出力の大部分を燃料電池20に頼ることになる。
【0059】
ここで、モータ32が要する電力の大きさが所定量よりも小さくなり、前記負荷を駆動するのに要する全電流がIt4に低下すると、この電流値の減少分に応じて燃料電池20および2次電池30の出力端子間電圧電圧は上昇する。この場合にも上述したように、燃料電池20、2次電池30およびモータ32の両端電圧は等しくなる。このときの電圧をVt4とすると、図5から、燃料電池20の出力電流IF4、2次電池30の充電電流IB4は、It4=IF4+IB4が成り立つ値となる。ただし、このときIB4<0であり、2次電池30は燃料電池20によって充電される状態となる。このように、2次電池30の充電状態が充分でないときには、負荷の大きさが所定量以下となると、燃料電池20は負荷を駆動すると共に2次電池30の充電を行なうようになる。
【0060】
次に、本実施例の燃料電池システム10において、2次電池30の残存容量に応じて行なわれる制御について説明する。本実施例では、2次電池30の残存容量が所定の値以下の場合には、燃料電池システム10における出力、すなわち燃料電池システム10を搭載する電気自動車で消費される電力量を規制し、残存容量が所定量以上に回復するまでは出力を所定値に抑えるという制御を行なう。燃料電池システム10を搭載する電気自動車で消費される電力とは、モータ32で消費される電力の他に補機類34で消費される電力も含まれるが、補機類34で消費される電力の多くは、既述したように、燃料電池システム10を稼働状態に維持するために必要なものであり、規制する電力としてはモータ32で消費する電力が対象となる。
【0061】
本実施例の燃料電池システム10において上記制御を行なう際の動作について、図6に例示する残存容量低下時検出処理ルーチンに基づいて説明する。本ルーチンは、燃料電池システム10を搭載する車両において、この燃料電池システムを始動させる所定のスタートスイッチがオン状態になったときから、CPU52によって所定時間ごと、例えば10secごとに実行される。
【0062】
本ルーチンが実行されると、まず、残存容量モニタ46が2次電池30の残存容量Qを検出して検出値をCPU52に入力する(ステップS100)。次に、この検出した残存容量の値Qを、予め設定した基準値Q0 と比較する(ステップS110)。検出値Qが基準値Q0 よりも大きいときは、2次電池30の残存容量が充分であると判断して本ルーチンを終了する。
【0063】
ステップS110において、検出した残存容量の値Qが基準値Q0 よりも小さいときには、2次電池30の残存容量が不十分であると判断し、インバータ80を制御することによってモータ32の消費電力を所定の制限値以下に制限する(ステップS120)。具体的には、インバータ80において既述したスイッチング素子のスイッチングのタイミングを制御し、直流電流を変換してモータ32に供給する三相交流の振幅または周波数を所定の値以下に抑えることによってモータ32における消費電力を上記所定の制限値以下に抑える。モータ32の消費電力を所定の制限値以下に制限すると、それまでのモータ32における消費電力がこの制限値よりも大きかった場合には、電気自動車全体で消費する電力量の減少によって燃料電池20および2次電池30の出力電圧が上昇し、その出力状態が変化する。ここで、電流センサ90によって2次電池30からの出力電流Iを検出し(ステップS130)、この出力電流Iの正負を判断する(ステップS140)。
【0064】
ステップS140において2次電池30の出力電流Iが正であると判断されると、2次電池30からは引き続き電力が出力されていることになるため、ステップS120に戻ってモータ32における消費電力の制限値を設定し直して消費電力の低減を図る。その後再びステップS130に移行して2次電池30からの出力電流Iを検出し、ステップS140でその正負を判断する。ステップS140において2次電池30の出力電流Iが負であると判断されると、モータ32で消費する電力を低減することによって2次電池30の出力状態が放電から充電に転じたと判断される。ここでは、2次電池30からの出力電流Iの正負の判断と、モータ32での消費電力の制限値の再設定による消費電力の低減とを必要に応じて繰り返すことによって、2次電池30の出力状態を充電に転じさせる。
【0065】
ステップS140で2次電池30の出力電流Iが負であると判断されると、次に、再び残存容量モニタ46が2次電池30の残存容量を検出してその検出値QをCPU52に入力する(ステップS150)。次に、この残存容量の値Qと予め設定しておいた基準値Q1 との比較を行ない(ステップS160)、2次電池30の残存容量が充分に回復したかどうかを判断する。ステップS160において、2次電池30の残存容量Qが基準値Q1 を上回った時には、2次電池30の残存容量は充分に回復したと判断される。この場合には、ステップS120で行ったモータ32の出力制限を解除して(ステップS170)本ルーチンを終了する。なお、このときに基準値Q1 は、ステップS110における基準値Q0 と同じ値を設定することとしても良いが、制御の安定性を考えて基準値Q0 よりも大きな値を設定することが望ましい。
【0066】
ステップS160において、2次電池30の残存容量の値Qが基準値Q1 に達していないときには、2次電池30の残存容量の回復状態が不十分であると判断される。この場合には、まず、ステップS130に戻って2次電池30からの出力電流Iを測定し、ステップS140において2次電池30の出力状態が充電であることを確認する。2次電池30の出力状態が充電であることが確認されると、前回行ったステップS140における処理と同じく、再び残存容量モニタ46によって2次電池30の残存容量Qを検出し(ステップS150)、検出した残存容量の値Qを既述した基準値Q1 と比較する(ステップS160)。必要に応じてこれらの処理を繰り返し、ステップS160で2次電池30の残存容量Qが基準値Q1 を上回ると、ステップS170に移行してモータ32への出力制限を解除して本ルーチンを終了する。
【0067】
ステップS160からステップS130に戻って2次電池30からの出力電流を検出し、ステップS140でその正負を調べたときに、後述するように、2次電池30の出力状態が放電となっていることがある。このような場合には、ステップS140からさらにステップS120に戻り、モータ32の消費電力がさらに減少するように消費電力の制限値を再設定して消費電力の低減を図り、2次電池30の出力状態を充電に変える。このような場合にも、2次電池30の出力状態が充電に変われば、やがて2次電池30の残存容量Qが上記基準値Q1 を上回るようになる(ステップS160)。2次電池30の残存容量Qが上記基準値Q1 を上回ると、ステップS170においてモータ32への出力制限を解除して本ルーチンを終了する。
【0068】
ここで、モータ32における消費電力とその制限についてさらに説明する。モータ32の駆動状態は、アクセルペダルポジションセンサ33bから出力される信号などに基づいて制御部50からインバータ80に出力される駆動信号によって制御される。アクセルペダル33aが踏み込まれて車両の速度を増すように指示が入力されると、インバータ80では直流電流から変換される三相交流の振幅および周波数を増大させる制御が行なわれ、これによってモータ32のトルクおよび回転数が上昇して車両の速度が増すと共にモータ32での消費電力も増大する。モータ32における消費電力の制限は、インバータ80からモータ32に供給される三相交流の振幅および周波数に制限を設けることによって実行される。三相交流の振幅および周波数に制限が設けられると、アクセルペダル33aを踏み込んでも、モータ32において上記制限された振幅に対応したトルク以上が得られない、あるいは回転数以上には回転しなくなるため、モータ32での消費電力を制限することができる。
【0069】
なお、ステップS120においてモータ32の消費電力を所定の設定値以下に制限したときに、モータ32の駆動状況によっては、実際にモータ32が消費している電力はこの設定値以下であることも考えられる。ここで、モータ32における実際の消費電力が上記設定値以下であっても2次電池30の出力状態が放電である場合には、ステップS140からステップS120に戻ってモータ32の消費電力の制限値を設定し直す処理が行なわれるため、最終的には2次電池30の出力状態が充電となるように制御される。
【0070】
また、モータ32における実際の消費電力が上記設定値以下であって、2次電池30の出力状態が充電である場合には、上述したようにそのままステップS150に移行し、2次電池30の残存容量の値Qが所定の基準値Q1 を上回るまで監視する。ここで、2次電池30の残存容量が基準値Q1 に達する前にモータ32における消費電力が変動し、ステップS120で設定した制限値まで上昇したときに、2次電池30の出力状態が放電になってしまった場合には、2次電池の残存容量Qは基準値Q1 に達しないためステップS160からステップS130に戻ることになる。ステップS140において2次電池30の出力状態が放電と判断されると、ステップS120に戻って消費電力がさらに減少するよう消費電力の制限値を再設定する。この場合にも、最終的に2次電池30の出力状態が充電となるまで、モータ32での消費電力を減らすように消費電力の制限値の再設定を繰り返す制御が行なわれて、2次電池30の残存容量の回復が図られる。もとより、モータ32における消費電力が変動して上記制限値まで上昇したときに、2次電池30の出力状態が充電のままであれば、2次電池30の残存容量は回復を続け、やがて上記基準値Q1 に達する。
【0071】
以上説明した燃料電池システム10によれば、2次電池30の残存容量が低下したときにはモータ32での消費電力を制限するため、2次電池30の残存容量の状態が悪化してしまうのを抑えることができる。また、燃料電池20に過大な負荷がかかってしまうのを防止することもできる。さらに、モータ32での消費電力を制限する際、2次電池30の出力状態が充電になるまでこの制限値を再設定するので、2次電池30の残存容量が低下したときには速やかにその回復を図ることができる。従って、2次電池30の残存容量が低下した状態で負荷量が増大することによって燃料電池20で生じる問題を回避することができる。すなわち、燃料電池20からの出力が過剰となって、燃料電池20の出力電圧が低下してしまったり、燃料電池20内部が部分的に過熱して損傷を受けてしまうことがない。
【0072】
上記第1実施例では、2次電池30の残存容量が不十分であると判断されたときに、モータ32の消費電力を2次電池30の出力状態が充電となるまで抑えることとしたが、2次電池30の消費電力を所定の制限値以下に抑える制御を行なうだけでも、2次電池30の残存容量の状態が悪化するのを抑えたり、燃料電池20に過剰の負荷がかかったりするのを防ぐことができる。ここで、2次電池30の残存容量が不十分であると判断されたときに、モータ32からの出力に対して設ける制限値は、2次電池30の残存容量にかかわらず一定値を設定することとしても良いし、2次電池30の残存容量が少ないほど低く設定することとしても良い。図7は制限値として一定値を設定する場合を示す説明図である。この場合には、2次電池30の残存容量が基準値Q0 以下の間は、2次電池30からの出力は所定の制限値以下に制限される。実際の制御は、モータ32におけるトルクあるいは回転数がこの制限値に見合った値以下となるように、インバータ80からモータ32に供給される三相交流の振幅および周波数が制限されることによって行なわれる。2次電池30の残存容量が基準値Q0 を上回るときは、このような制限は解除され、アクセルペダル33aを操作することによって、モータ32の回転数を任意に制御することが可能となる。
【0073】
このような構成とすれば、2次電池30の残存容量が基準値Q0 を下回ったときにはモータ32での消費電力が制限されるため、2次電池30の残存容量が減少したことに起因して燃料電池20に負荷がかかりすぎるのを防ぐことができる。このモータ32での消費電力の制限値として、2次電池30の残存容量が基準値Q0 となったときに2次電池30の出力状態が充電に転じる値を設定しておけば、モータ32での消費電力を制限することによって2次電池30の充電を開始し、その残存容量の回復を図ることができる。また、モータ32での消費電力を制限値に抑えても2次電池30の出力状態が放電となる値を制限値として設定する場合には、2次電池30の残存容量がさらに低下して所定量以下となったときに、2次電池30の出力状態が充電に転じることになる。すなわち、モータ32での消費電力を上記制限値以下に制限した場合に、2次電池30の残存容量が上記所定量以下にまで減少した時には2次電池30の充電が行なわれ、同じく残存容量が上記所定値以上基準値Q0 以下にまで回復した時には、2次電池30は出力可能であるが放電量が抑えられた状態となる。
【0074】
図8は、モータ32の消費電力を抑えるために設ける制限値を、2次電池30の残存容量に応じて設定する場合を示す説明図である。この場合にも2次電池30の残存容量が基準値Q0 以下となるとモータ32の消費電力に制限値を設けるが、その際、2次電池30の残存容量が少ないほどモータ32の消費電力の制限値が小さくなるようにこの制限値を設定する。もとより2次電池30の残存容量が基準値Q0 を上回るときは、このような制限は解除される。
【0075】
このような構成とすれば、2次電池30の残存容量が基準値Q0 を下回ったときには消費電力が制限されるため、燃料電池20に負荷がかかりすぎるのを抑えることができる。また、2次電池30の残存容量がある程度減少すると、2次電池30の出力状態が放電から充電に転じるため、2次電池30の残存容量が低下しすぎてしまう前に残存容量を回復させることができる。さらに、既述した図7に示した制御のように、残存容量がある程度低下するとモータへの出力が所定値にまで急激に低下して、車両の速度が突然落ちてしまうことがなく、徐々に速度がでない状態に移行していくため、車両の運転者にとってより違和感の少ない制御とすることができる。
【0076】
図9は、モータ32の消費電力を抑えるために設ける制限値を、2次電池30の残存容量に応じて複数の段階に分けて設定する場合を示す説明図である。この場合にも2次電池30の残存容量が基準値Q0 以下となるとモータ32の消費電力に制限値を設けるが、その際、2次電池30の残存容量を基準値Q0 以下において複数の段階に分け(図9では4段階)、それぞれの段階で異なった制限値を設定する。このような構成とすれば、2次電池30の残存容量の低下状態に応じて、モータ32での消費電力の制限値を調節することができる。
【0077】
図7ないし図9に基づいて説明した上記制御では、2次電池30の残存容量が基準値Q0 を下回ってモータ32における消費電力を制限する場合に、2次電池30の出力に関して設定した制限値と2次電池30の残存容量との関係によって、2次電池の出力状態が放電可能状態であるか充電状態となるかが決まる。ここで、上記第1実施例で示した構成と同様に、モータ32における消費電力の制限値の設定後、2次電池30の放電状態が充電となるように制限値を再設定することとしても良い。すなわち、モータ32における消費電力の制限値の設定後、2次電池30の出力電流を電流センサ90によって検出し、この電流値が負の値となるまで上記制限値を低くする再設定を繰り返す。このような構成とすれば、2次電池30の残存容量が基準値Q0 以下となったときには、速やかに2次電池30の残存容量の回復を図ることができる。
【0078】
もとより、2次電池30の残存容量が基準値Q0 を下回ったときには図7ないし図9に示した出力制限を行ってモータ32における消費電力を制限し、2次電池30の残存容量がさらに第2の所定の基準値を下回った時には、第1実施例と同様に2次電池30の出力状態が充電に転じるまで上記制限値の再設定を行なうこととしても良い。上記いずれの構成を採用しても、ある程度残存容量が低下した場合には2次電池30の出力状態を充電とすることによって、2次電池30の残存容量の回復を図ることができる。
【0079】
上記の説明では、2次電池30における消費電力を制限する方法として、その消費電力に制限値を設けることとしたが、その他に、モータ32を停止させてしまうことによって消費電力を制限する方法もある。モータ32を停止させるには、図1に示した切り替えスイッチ38に制御部50から駆動信号を入力してこの切り替えスイッチ38において回路を切断することによってモータ32への電力の供給を絶てばよい。このような切り替えスイッチ38は、インバータ80内を構成する回路内に設けることとしても良い。
【0080】
このように、モータ32への電力の供給を絶ってモータ32を停止させる制御を含め、モータ32における消費電力の制御を行なうことができる。単にモータ32での消費電力量に制限値を設ける制御、2次電池30の出力状態が充電となるようにモータ32からの出力の制限値を設定する制御、あるいはモータ32を完全に停止させてしまう制御などの中から、2次電池30の残存容量の低下状態や車両の走行条件などに応じて、適宜適当な制御を選択する構成としてもよい。
【0081】
上記第1実施例の燃料電池システム10では、残存容量モニタ46と電流センサ90との両方を設け、残存容量モニタ46によって2次電池30の残存容量を監視すると共に、電流センサ90によって2次電池30からの出力電流の正負を判断する構成とした。ここで、SOCモニタなどで構成される残存容量モニタ46を特に設けることなく、電流センサのみによって残存容量の検出を行なう構成とすることができる。このような構成を第2実施例として以下に説明する。図10は、第2実施例の燃料電池システム10Aの構成を例示するブロック図である。燃料電池システム10Aは、残存容量モニタ46を備える代わりに電流センサ92を備えること以外は第1実施例の燃料電池システム10と共通であるため、構成に関する詳しい説明は省略する。
【0082】
燃料電池システム10Aは、第1実施例の燃料電池システム10と同様の電流センサ90の他に、電流センサ92を備える。電流センサ90は、2次電池30からの出力電流I1 を測定するものであるが、電流センサ92は、2次電池30からの出力電流と燃料電池20からの出力電流とを合わせた総電流値I0 を測定するものである。これら電流センサ90,92は制御部50に接続しており、制御部50に測定された電流値が入力される。制御部50は、これらの電流値を基に2次電池30の残存容量を検出する。
【0083】
ここで、電流値から2次電池30の残存容量を検出する原理について説明する。燃料電池システムAを構成する回路を流れる総電流値I0 は、燃料電池20からの出力電流をI2 とすると、I1 +I2 =I0 が成り立つ。ここで、2次電池30の充電状態が充分であって、その出力が制限されていないときには、2次電池30からも出力される状態となるため、I1 >0となる。従ってI2 /I0 <1が成り立つ。このとき、接続された負荷の大きさが大きいほどI2 /I0 の値は小さくなる(図4参照)。
【0084】
一方、2次電池30の残存容量が所定量以下であって、接続される負荷(モータ32の所要電力)が所定量よりも小さいときには、燃料電池20によって2次電池30が充電される状態となるため、I1 <0となる。従ってI2 /I0 >1が成り立つ。ここで、燃料電池20による2次電池30の充電が進むと、上記I2 /I0 の値は次第に小さくなって1に近づいていく。
【0085】
このI2 /I0 の値は、2次電池30の残存容量と接続された負荷の大きさとによって決定される値である。従って、負荷の大きさが決まれば、2次電池30の残存容量が既述した基準値Q0 であるときのI2 /I0 の値を求めることができる。本実施例の燃料電池システム10Aでは、2次電池30および燃料電池20の出力電流の状態から2次電池30の充電状態を判断するために、予想される負荷の大きさ(モータ32と補機類34との所要電力の合計)の範囲にわたって、2次電池30の残存容量が基準値Q0 であるときのI2 /I0 の値が、予め制御部50に記憶されている。
【0086】
また、このI2 /I0 の値は、2次電池30の温度によっても変わってくるため、2次電池30の予想される運転温度の範囲にわたって、2次電池30の残存容量が基準値Q0 であるときのI2 /I0 の値が、マップとして制御部50に記憶されている。図11は、2次電池30の残存容量を検出するときにCPU52によって実行される残存容量判定処理ルーチンを例示するフローチャートである。この残存容量判定処理ルーチンは、第1実施例の燃料電池システム10で実行される残存容量低下時検出処理ルーチンにおけるステップS100およびステップS110に代わる処理として実行される。
【0087】
本ルーチンが起動されると、CPU52は、まず、電流センサ90,92が検出する電流値I1 ,I0 を読み込む処理を行なう(ステップS200)。次に、総負荷量の読み込みを行なう(ステップS210)。この総負荷量の読み込みは、モータ32および補機類34の駆動状態を読み込むことによって実行する。さらに、図示しない温度センサによって2次電池30の温度を検出する(ステップS220)。
【0088】
ここで、検出した総負荷量と2次電池30の温度とを基に、このような条件下において2次電池30の残存容量が基準値QO であるときのI2 /I0 の値xを求める。また、ステップS200で読み込んだ電流値I1 ,IO の値を基にI2 /I0 の実測値を求め、このI2 /I0 の値と基準値Q0 に基づくxとの比較を行なう(ステップS240)。実測値に基づくI2 /I0 の値が上記xよりも大きいときには、2次電池30の残存容量は基準値QO よりも少ないと判断して(ステップS250)本ルーチンを終了し、引き続き残存容量低下時検出処理ルーチンのステップS120に移行してモータ32における消費電力の低減を行なう。実測値に基づくI2 /I0 の値が上記xよりも小さいときには、2次電池30の残存容量は基準値QO よりも多いと判断し(ステップS260)、本ルーチンを終了すると共に残存容量低下時検出処理ルーチンを終了する。
【0089】
測定した電流値から2次電池30の残存容量を判定する構成である第2実施例の燃料電池システム10Aでは、図6に示す第1実施例の残存容量低下時検出処理ルーチンにおけるステップS150およびステップS160も、同様の処理に置き換えられる。ここでは、制御部50において、検出した総負荷量および2次電池30の温度を基に、基準値Q0 の代わりにQ1 に対応するI2 /I0 の値を所定のマップを参照して求め、実測した電流値に基づくI2 /I0 の値と比較する。
【0090】
上述した第2実施例では、電流センサ46,90によって、2次電池30の出力電流I1 と総電流値I0 とを検出する構成としたが、I1 ,I0 ,I2 のそれぞれは他の2つの値が分かれば求めることができるため、上記I1 あるいはI0 の代わりに燃料電池20の出力電流I2 を求めることとしても良く、I1 ,I0 ,I2 のうち少なくとも2つの値を検出することとすればよい。
【0091】
以上説明した第2実施例の燃料電池システム10Aによれば、2次電池30の残存容量を検出するために残存容量モニタを2次電池30に取り付ける必要がないため、装置の構成を簡素化することができる。すなわち、簡単な構成の電流センサを設けるだけで、2次電池30の残存容量を検出すると共に2次電池30の充放電状態を監視することができる。
【0092】
第2実施例の燃料電池システム10Aでは、2次電池30からの出力電流値I1 と、燃料電池20からの出力電流値I2 と、これらを合わせた総電流値I0 との内、少なくとも2種類の電流値を測定してこれらの値を基に2次電池30の残存容量を判定する構成としたが、2次電池30からの出力電流値I1 と燃料電池システム10Aを構成する回路における電圧値とから2次電池30の残存容量を判定することもできる。このような構成を以下に第3実施例として説明する。
【0093】
図12は、第3実施例の燃料電池システム10Bの構成を例示するブロック図である。燃料電池システム10Bは、残存容量モニタ46および電流センサ92を備える代わりに電圧センサ94を備えること以外は第1実施例の燃料電池システム10および第2次実施例の燃料電池システム10Aと共通であるため、構成に関する詳しい説明は省略する。
【0094】
燃料電池システム10Bは、既述した実施例のの燃料電池システム10,10Aと同様の電流センサ90の他に、電圧センサ94を備える。燃料電池20および2次電池30は並列に接続されているため、この電圧センサ94が検出する電圧は、燃料電池20の出力電圧および2次電池30の出力電圧に等しい。電圧センサ94は制御部50に接続しており、制御部50に測定された電圧値が入力される。制御部50は、電圧センサ94から入力された電圧値および電流センサ90から入力された電流値を基に2次電池30の残存容量を検出する。
【0095】
以下に、上記電圧値および電流値から2次電池30の残存容量を判定する原理について説明する。図13は、燃料電池20と、充電状態が充分(例えば90%)である2次電池30と、充電状態が不十分(例えば20%)である2次電池30と、残存容量の値がQ0 である2次電池30の出力特性を模式的に表す説明図である。電圧センサ94によって電圧値を測定すると、2次電池30はその残存容量に応じて出力電流値が一義的に定まる。すなわち、測定された電圧値がVt5であるとき、2次電池30の残存容量が90%であれば2次電池30の出力電流値はI F5、同じく残存容量が20%であれば出力電流値はIB6 、同じく残存容量がQ0 であれば出力電流値はIB7となる。
【0096】
本実施例の燃料電池システム10Bの制御部50には、2次電池30の残存容量が基準値Q0 である時の2次電池30における出力特性が記憶されている。2次電池30の出力電流値I1 および電圧値Vが入力されると、2次電池30の残存容量がQ0 であって電圧値がVであるときの2次電池30の出力電流値の値IBQと、入力した電流値I1 とを比較する。I1 >IBQであれば2次電池30の残存容量はQ0 よりも大であると判断し、I1 <IBQであれば2次電池30の残存容量はQ0 よりも小であると判断する。
【0097】
また、2次電池30の残存容量がQ0 であるときの2次電池30における出力特性は、2次電池30の温度によっても変わってくるため、2次電池30の予想される運転温度の範囲にわたって、2次電池30の残存容量が基準値Q0 であるときの出力特性が制御部50に記憶されている。図14は、燃料電池システム10Bにおいて2次電池30の残存容量を判定するときにCPU52によって実行される残存容量判定処理ルーチンを例示するフローチャートである。この残存容量判定処理ルーチンは、第1実施例の燃料電池システム10で実行される残存容量低下時検出処理ルーチンにおけるステップS100およびステップS110に代わる処理として実行される。
【0098】
本ルーチンが起動されると、CPU52は、まず、電流センサ90が検出する電流値I1 を読み込むと共に(ステップS300)、電圧センサ94が検出する電圧値Vを読み込む処理を行なう(ステップS310)。次に、図示しない温度センサによって2次電池30の温度を検出する(ステップS320)。ここで、検出した2次電池30の温度において、2次電池30の残存容量が基準値QO であって電圧値がVである時の2次電池30の出力電流値IBQを求める(ステップS330)。 このIBQの値と、ステップS300で読み込んだ電流値I1 の値とを比較し(ステップS340)、2次電池30の残存容量がQ0 である時の電流値IBQが実測値I1 よりも大きいときには、2次電池30の残存容量は基準値QO よりも少ないと判断して(ステップS350)本ルーチンを終了し、引き続き残存容量低下時検出処理ルーチンのステップS120に移行してモータ32における消費電力の低減を行なう。2次電池30の残存容量がQ0 である時の電流値IBQが実測値I1 よりも小さいときには、2次電池30の残存容量は基準値QO よりも多いと判断し(ステップS360)、本ルーチンを終了すると共に残存容量低下時検出処理ルーチンを終了する。
【0099】
測定した電流値および電圧値から2次電池30の残存容量を判定する構成である第3実施例の燃料電池システム10Bでは、図6に示す第1実施例の残存容量低下時検出処理ルーチンにおけるステップS150およびステップS160も、同様の処理に置き換えられる。ここでは、制御部50において、検出した電圧値および2次電池30の温度を基に、基準値Q0 の代わりにQ1 に対応する2次電池30の電流値値を求め、実測した電流値であるI1 と比較する。
【0100】
以上説明した第3実施例の燃料電池システム10Bによれば、第2実施例と同様に2次電池30の残存容量を検出するために残存容量モニタを2次電池30に取り付ける必要がないため、装置の構成を簡素化することができる。すなわち、簡単な構成の電流センサおよび電圧センサを設けるだけで、2次電池30の残存容量を判定すると共に2次電池30の充放電状態を監視することができる。
【0101】
既述した第1ないし第3実施例では、2次電池30からの出力を制限する際に、制御部50からインバータ80に対して駆動信号を出力し、インバータ80からモータ32に供給する三相交流の振幅および周波数を制御することによってモータ32での消費電力を削減していた。そのため、特別に回路を設けることなく電気的な信号のやり取りを行なうだけで、モータ32での消費電力を容易に削減することができる。もとより、モータ32に至る回路の所定の位置に、接点の切り替えにより接続可能な状態で所定の大きさの抵抗を設けることとしてもよい。このような構成とすれば、モータ32での消費電力を制限するときには、接点を切り替えることによって回路全体の抵抗値を上昇させて消費電力を低減することができる。
【0102】
第1実施例ないし第3実施例に基づいて2次電池30の残存容量が低下したときに行なわれるモータ32への出力の制御について説明したが、このような制御が行なわれるときには、実際の電気自動車では、アクセルペダル33aを踏み込んでも速度が上がらなくなる、あるいは速度が低下してしまう、さらには車両が停止してしまうという状態となってしまう。従って、2次電池30の残存容量が低下してモータ32への出力を制限するときには、車両の運転席の近傍に設けた所定の警告灯を点灯させたり音声や警告音を発するなどして出力制限中であることを運転者に知らせ、車両故障との誤認を防ぎ、出力制限条件下での安全な走行を促す構成とすることが望ましい。
【0103】
以上本発明の実施例について説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる様態で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の好適な一実施例である燃料電池システム10の構成を例示するブロック図である。
【図2】単セル28の構成を表す断面模式図である。
【図3】燃料電池部60の構成を表すブロック図である。
【図4】燃料電池20と、充分に充電された2次電池30との出力特性を表す説明図である。
【図5】燃料電池20と、充電状態が不十分な2次電池30との出力特性を表す説明図である。
【図6】第1実施例の燃料電池システム10の稼働時に実行される残存容量低下時検出処理ルーチンを表すフローチャートである。
【図7】2次電池30の残存容量の低下時に出力規制を行なう様子を表す説明図である。
【図8】2次電池30の残存容量に応じて出力規制を行なう様子を表す説明図である。
【図9】2次電池30の残存容量に応じて出力規制を段階的に行なう様子を表す説明図である。
【図10】第2実施例の燃料電池システム10Aの構成を例示するブロック図である。
【図11】第2実施例の燃料電池システム10Aにおいて2次電池30の残存容量を検出する際に実行される残存容量判定処理ルーチンを表すフローチャートである。
【図12】第3実施例の燃料電池システム10Bの構成を例示するブロック図である。
【図13】燃料電池20と、種々の充電状態にある2次電池30との出力特性を表す説明図である。
【図14】第3実施例の燃料電池システム10Bにおいて2次電池30の残存容量を検出する際に実行される残存容量判定処理ルーチンを表すフローチャートである。
【符号の説明】
【0105】
10,10A,10B…燃料電池システム
20…燃料電池
21…電解質膜
22…アノード
23…カソード
24,25…セパレータ
24P…燃料ガス流路
25P…酸化ガス流路
26,27…集電板
28…単セル
32…モータ
33…制御装置
33a…アクセルペダル
33b…アクセルペダルポジションセンサ
34…補機類
36…DC/DCコンバータ
38…切り替えスイッチ
46,90、92…電流センサ
46…残存容量モニタ
50…制御部
52…CPU
54…ROM
56…RAM
58…入出力ポート
60…燃料電池部
61…メタノールタンク
62…水タンク
64…改質器
66…エアコンプレッサ
67…電磁バルブ
68…燃料供給路
69…空気供給路
70…分岐空気路
71…燃料排出路
80…インバータ
94…電圧センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池と2次電池とを備え、前記燃料電池と2次電池から負荷に対して電力の供給を行なう燃料電池システムであって、
前記2次電池の残存容量を検出する残存容量検出手段と、
前記残存容量検出手段によって検出された前記2次電池の残存容量に応じて、前記負荷への電力の供給を制限する出力制御手段と、
前記出力制御手段によって前記負荷への電力供給が制限されるときに、前記負荷への電力供給が制限されていることを報知する報知部と
を備えた燃料電池システム。
【請求項2】
電気エネルギによってモータを回転させ、該モータの回転力を車軸に伝えることによって車両としての駆動力を得る電気自動車であって、
請求項1記載の燃料電池システムを搭載し、
前記モータは、前記負荷として前記燃料電池システムから電力の供給を受け、
前記報知部は、前記負荷への電力供給が制限されていることを、前記電気自動車の運転者に対して報知する
電気自動車。
【請求項1】
燃料電池と2次電池とを備え、前記燃料電池と2次電池から負荷に対して電力の供給を行なう燃料電池システムであって、
前記2次電池の残存容量を検出する残存容量検出手段と、
前記残存容量検出手段によって検出された前記2次電池の残存容量に応じて、前記負荷への電力の供給を制限する出力制御手段と、
前記出力制御手段によって前記負荷への電力供給が制限されるときに、前記負荷への電力供給が制限されていることを報知する報知部と
を備えた燃料電池システム。
【請求項2】
電気エネルギによってモータを回転させ、該モータの回転力を車軸に伝えることによって車両としての駆動力を得る電気自動車であって、
請求項1記載の燃料電池システムを搭載し、
前記モータは、前記負荷として前記燃料電池システムから電力の供給を受け、
前記報知部は、前記負荷への電力供給が制限されていることを、前記電気自動車の運転者に対して報知する
電気自動車。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−335411(P2007−335411A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−201452(P2007−201452)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【分割の表示】特願平8−249307の分割
【原出願日】平成8年8月29日(1996.8.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【分割の表示】特願平8−249307の分割
【原出願日】平成8年8月29日(1996.8.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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