説明

燃料電池セパレータの成形金型、燃料電池セパレータの製造方法および燃料電池セパレータ

【課題】セパレータ表面のガス流路溝部領域と囲繞部領域との密度バランスを均一にし、金型からの製品取り出しにおいても変形・反り・クラックの発生が少なく高品質かつ生産性の高い燃料電池セパレータを得る。
【解決手段】流路溝部2に対応する上下のインナー金型42,22と、囲繞部4に対応する上下のアウター金型45,25とに分割された上下の金型41,21の間に形成されるキャビティ50に粉体状材料を充填するとき、流路溝部2の圧縮比と囲繞部4の圧縮比とが均一になるように、(上)下のアウター金型(45,)25に対して(上)下のインナー金型(42,)22を所定高さ(下方または)上方に位置決めする。圧縮成形後、成形品取り出しのための型開き時に、表裏各面の囲繞部4に先行して流路溝部2が離型するように、上下のインナー金型42,22に対して、上下のアウター金型45,25を突出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般には、燃料電池セパレータの製造方法に係り、さらに詳しくは、流動性に乏しい炭素質系粉末を主成分とする材料を用いて圧縮成形により燃料電池セパレータを得る成形金型、製造方法および燃料電池セパレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池による発電システムは、近年のエネルギー消費量増加に伴う二酸化炭素排出量の増加や、石油をはじめとする化石資源の枯渇問題を解決するべく、クリーンかつ高効率の新しい技術として広く実用化検討が推進されている。
【0003】
特に、電解質にイオン交換膜を用いた固体高分子型燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)システムは、作動温度が80℃以下と比較的低温であることから、容易に運転・停止が可能である。また、エネルギー効率が高いことから、家庭用コージェネレーション、自動車、携帯機器等への導入が期待されている。
【0004】
固体高分子型燃料電池に用いられる基本セルは、イオン交換膜からなる電解質膜がアノード(燃料極)とカソード(空気極)で挟まれて膜/電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)を構成し、このMEAを両側から2枚のセパレータで挟み込む構成である。
【0005】
セパレータ表面には、MEAのアノード(燃料極)に水素等の燃料ガスを、またカソード(空気極)に酸素・空気等の酸化ガスを供給するための流路溝がそれぞれ形成される。また、冷媒を流すための冷媒流路も形成される場合がある。さらに、セパレータは、燃料ガスと酸化ガスを分離するための遮蔽板としての機能をもつ。
【0006】
そして、燃料電池システムに必要な電気出力に応じて、このような基本セルが数十〜数百枚直列に積層されてスタックとして構成される。
【0007】
以上のような機能をもつセパレータに必要な代表的特性としては、アメリカ・エネルギー省(DOE:Department of Energy)の目標値を基準にした場合、電気抵抗値が20mΩ・cm以下であること、ガス透過性が2×10−6cc/cm・sec・atm以下であること、薄肉、軽量であること、そして、市場への普及には製造コストの大幅な低減が必要不可欠である。
【0008】
このような諸性質・コストを兼ね備えたセパレータは、当初、炭素質系材料に熱硬化型樹脂バインダを混合・成形し、加熱硬化後に非酸化性雰囲気中にて1000℃以上の高温で長時間処理により焼成炭化されていた。
【0009】
この方法で得られる成形品は板状であるため、ガス流路溝、ガス導入孔、スタック用孔等の切削加工を必要とし、非常にコスト高になるという問題があった。
【0010】
これに対し、導電性に優れた黒鉛粉末材料に樹脂系バインダを混合し、あらかじめ流路溝形状・孔形状を形成可能な金型で圧縮成形する方法は、セパレータに必要な諸特性を満足し、かつ切削加工が不要であることから、低コストが実現可能な製造方法として注目されている。
【特許文献1】特開2004−235137号公報
【特許文献2】特開2004−22207号公報
【特許文献3】特開2004−235069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、高い導電性を得るためには黒鉛配合率を75wt%以上とする必要があるため、著しく材料の流動性が低下する。その結果、セパレータに必要な諸形状に形成する圧縮成形の場合、以下のような課題がある。
【0012】
セパレータは表面に、ガス流路溝部とその周囲の囲繞部とを有しているが、ガス流路溝部と囲繞部の密度が均一でない。すなわち、ガス流路溝部は材料の圧縮比が高く、囲繞部は材料の圧縮比が低い。そのため、囲繞部はガス流路溝部に比べて黒鉛の密度が低いので、導電性が低下するとともにガス透過性も大きくなる。
【0013】
図1に一般的なセパレータの一例を示し、図2にその断面図を示す。なお、図1、図2は、この発明による燃料電池セパレータの一実施形態を示すものであるが、セパレータの形状としては一般的なものであるので、図示の形状を用いてここでは一般的なセパレータについて説明する。
【0014】
セパレータに要求される高い導電性を向上させるには、100%黒鉛の密度2.1g/cmにできるだけ近づけることが重要である。仮に黒鉛80wt%、フェノール樹脂20wt%の配合率である粉末材料の嵩密度を0.65g/cm、製品目標密度を1.95g/cmとすると、圧縮成形時の圧縮比は3となる。金型に充填するべき粉末材料は、製品厚2mmであれば、圧縮比は3であるから6mmとなる。
【0015】
このとき、図18に一例を示すように囲繞部領域を圧縮比3に設定した場合、ガス流路溝部を形成する領域は、充填時の断面積86.4mmから前記の圧縮比3によるプレスストローク4mm圧縮したときの断面積は22.2mmとなり、断面積を基準としたときのガス流路溝部の圧縮比は3.9となり、囲繞部領域に対して30%過剰な圧縮比となる。この現象はガス流路溝部の断面積が大きいほど、また製品厚さが薄くなるほど顕著になる。
【0016】
前記の製品断面形状に起因する圧縮比の差は、粉末材料の流動性の悪さにより圧縮方向に対して横方向への材料流動がほとんどないことが根本的な原因である。
【0017】
一方、圧縮成形による製品形状形成後の離型においても、以下のような課題がある。
【0018】
黒鉛の密度を上げるために、プレス圧力はおよそ30MPa以上で成形される。そのため金型内の成形品には高い圧縮応力が残留しており、金型から離型した後は応力が開放されるために膨張する。この現象はスプリングバックと呼ばれるもので、製品の反り・変形の発生、ガス流路溝部の離型抵抗の増加によるクラック・欠けなどの不良を発生させる。特に製品形状が薄肉でガス流路溝が深い場合は顕著となる。
【0019】
このように、セパレータに要求される高い導電性を維持しながら、製品形状の薄肉化・ガス流路溝の狭ピッチ、さらには溝深さの増加などにより、ますます難成形性となる傾向にあるのが現状であり、更なる圧縮成形による製造技術の構築が望まれている。
【0020】
この発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、黒鉛含有率が高く、流動性に乏しい粉末材料を用いた圧縮成形によるセパレータ製造方法において、適切な金型・成形プロセスを採用することにより、セパレータ表面のガス流路溝部領域と囲繞部領域との密度バランスを均一にし、金型からの製品取り出しにおいても変形・反り・クラックの発生が少なく高品質かつ生産性の高い燃料電池セパレータの成形金型、燃料電池セパレータの製造方法および燃料電池セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この発明の請求項1に係る燃料電池セパレータの成形金型は、粉体状材料を用いて、少なくとも片面に流路溝部および囲繞部を有する燃料電池セパレータを圧縮成形する金型であって、前記片面が対向する下金型を、前記流路溝部に対応するインナー金型と、前記囲繞部に対応するアウター金型とに分割して構成し、前記インナー金型および/または前記アウター金型を進退させる作動部材を備えていることを特徴とするものである。
【0022】
この発明の請求項2に係る燃料電池セパレータの成形金型は、粉体状材料を用いて、表裏各面に流路溝部および囲繞部を有する燃料電池セパレータを圧縮成形する金型であって、いずれか一方がラム圧力で作動される上金型および下金型と、前記上下両金型間に形成されるキャビティの外周を担う枠体とを備え、前記上金型および下金型を、前記流路溝部に対応する上インナー金型および下インナー金型と、前記囲繞部に対応する上アウター金型および下アウター金型とに分割して構成し、前記上インナー金型に対して前記上アウター金型を進退させる作動部材と、前記下インナー金型および前記下アウター金型を相互に進退させる作動部材とを備えていることを特徴とするものである。
【0023】
この発明の請求項3に係る燃料電池セパレータの成形金型は、請求項2記載の燃料電池セパレータの成形金型において、前記上アウター金型に対して前記上インナー金型を進退させる作動部材をさらに備えていることを特徴とするものである。
【0024】
この発明の請求項4に係る燃料電池セパレータの成形金型は、請求項2記載の燃料電池セパレータの成形金型において、前記下インナー金型を進退させる前記作動部材による、前記下アウター金型に対して前記下インナー金型を突出させる作動力は、前記ラム圧力による圧縮工程終了時に前記下インナー金型の突出が実質的に解消される大きさに設定されることを特徴とするものである。
【0025】
この発明の請求項5に係る燃料電池セパレータの成形金型は、請求項3記載の燃料電池セパレータの成形金型において、前記上インナー金型を進退させる前記作動部材による、前記上アウター金型に対して前記上インナー金型を突出させる作動力は、前記ラム圧力による圧縮工程終了時に前記上インナー金型の突出が実質的に解消される大きさに設定されることを特徴とするものである。
【0026】
この発明の請求項6に係る燃料電池セパレータの成形金型は、請求項2〜5のいずれか1項記載の燃料電池セパレータの成形金型において、前記上アウター金型を進退させる作動部材による、前記上インナー金型に対して前記上アウター金型を突出させるストローク、および、前記下アウター金型を進退させる作動部材による、前記下インナー金型に対して前記下アウター金型を突出させるストロークは、表裏各面の前記流路溝部の深さと実質的に同寸法以上に設定されることを特徴とするものである。
【0027】
この発明の請求項7に係る燃料電池セパレータの製造方法は、金型を用いて粉体状材料を圧縮成形することで、少なくとも片面に流路溝部および囲繞部を有する燃料電池セパレータを製造する製造方法であって、上金型と、前記流路溝部に対応するインナー金型と前記囲繞部に対応するアウター金型とに分割された下金型との間に形成されるキャビティに粉体状材料を充填するとき、前記流路溝部の圧縮比と前記囲繞部の圧縮比とが均一になるように、前記アウター金型に対して前記インナー金型を所定高さ上方に位置決めすることを特徴とするものである。
【0028】
この発明の請求項8に係る燃料電池セパレータの製造方法は、請求項7記載の燃料電池セパレータの製造方法において、前記位置決めによる前記アウター金型に対する前記インナー金型の高さの差を、圧縮のための金型作動期間中に漸減させて金型作動終了と実質的に同時に解消させることを特徴とするものである。
【0029】
この発明の請求項9に係る燃料電池セパレータの製造方法は、金型を用いて粉体状材料を圧縮成形することで、少なくとも片面に流路溝部および囲繞部を有する燃料電池セパレータを製造する製造方法であって、一方の金型と、前記片面側に位置し、かつ、前記流路溝部に対応するインナー金型と前記囲繞部に対応するアウター金型とに分割された他方の金型とによる圧縮成形後、成形品取り出しのための型開き時に、前記囲繞部に先行して前記流路溝部が離型するように、前記インナー金型に対して前記アウター金型を突出させることを特徴とするものである。
【0030】
この発明の請求項10に係る燃料電池セパレータの製造方法は、金型を用いて粉体状材料を圧縮成形することで、少なくとも片面に流路溝部および囲繞部を有する燃料電池セパレータを製造する製造方法であって、一方の金型と、前記片面側に位置し、かつ、前記流路溝部に対応するインナー金型と前記囲繞部に対応するアウター金型とに分割された他方の金型と、前記両金型間に形成されるキャビティの外周を担う枠体とによる圧縮成形後、成形品取り出しのための型開き時に、前記囲繞部に先行して前記流路溝部が離型するように、前記インナー金型に対して前記アウター金型を突出させ、前記流路溝部が離型し、かつ、前記囲繞部が離型しない状態で、前記枠体を移動させて成形品の外周を当該枠体から解放させることを特徴とするものである。
【0031】
この発明の請求項11に係る燃料電池セパレータの製造方法は、請求項9または請求項10記載の燃料電池セパレータの製造方法において、前記型開き時に、前記囲繞部に先行して前記流路溝部が離型するように前記インナー金型に対して前記アウター金型を突出させる際、前記流路溝部が容易に離型するように、前記インナー金型と前記アウター金型との分割面から圧縮空気を噴出させることを特徴とするものである。
【0032】
この発明の請求項12に係る燃料電池セパレータの製造方法は、金型を用いて粉体状材料を圧縮成形することで、表裏各面に流路溝部および囲繞部を有する燃料電池セパレータを製造する製造方法であって、前記流路溝部に対応する上インナー金型および下インナー金型と、前記囲繞部に対応する上アウター金型および下アウター金型とに分割された上金型および下金型の間に形成されるキャビティに粉体状材料を充填するとき、前記流路溝部の圧縮比と前記囲繞部の圧縮比とが均一になるように、前記下アウター金型に対して前記下インナー金型を所定高さ上方に位置決めし、前記位置決めによる前記下アウター金型に対する前記下インナー金型の高さの差を、圧縮のための金型作動期間中に漸減させて金型作動終了と実質的に同時に解消させることを特徴とするものである。
【0033】
この発明の請求項13に係る燃料電池セパレータの製造方法は、金型を用いて粉体状材料を圧縮成形することで、表裏各面に流路溝部および囲繞部を有する燃料電池セパレータを製造する製造方法であって、前記流路溝部に対応する上インナー金型および下インナー金型と、前記囲繞部に対応する上アウター金型および下アウター金型とに分割された上金型および下金型の間に形成されるキャビティに粉体状材料を充填するとき、前記流路溝部の圧縮比と前記囲繞部の圧縮比とが均一になるように、まず、前記下アウター金型に対して前記下インナー金型を所定高さ上方へ突出させて位置決めし、つぎに、前記位置決めした状態でキャビティに充填した粉体状材料の上面に、前記上アウター金型に対して前記上インナー金型を所定量下方へ突出させた前記上金型を、前記上アウター金型の下面が前記粉体状材料の上面に接触する高さまで下降させるとき、前記上インナー金型が前記粉体状材料に進入するのに追従して前記下インナー金型を下降させて、前記下アウター金型に対する前記下インナー金型の上方への突出量を、前記上アウター金型に対する前記上インナー金型の下方への突出量と同等に位置決めすることを特徴とするものである。
【0034】
この発明の請求項14に係る燃料電池セパレータの製造方法は、請求項13記載の燃料電池セパレータの製造方法において、前記位置決めによる前記上アウター金型に対する前記上インナー金型の下方への突出量、および、前記下アウター金型に対する前記下インナー金型の上方への突出量を、圧縮のための金型作動期間中に漸減させて金型作動終了と実質的に同時に解消させることを特徴とするものである。
【0035】
この発明の請求項15に係る燃料電池セパレータの製造方法は、金型を用いて粉体状材料を圧縮成形することで、表裏各面に流路溝部および囲繞部を有する燃料電池セパレータを製造する製造方法であって、前記流路溝部に対応する上インナー金型および下インナー金型と、前記囲繞部に対応する上アウター金型および下アウター金型とに分割された上金型および下金型による圧縮成形後、成形品取り出しのための型開き時に、表裏各面の前記囲繞部に先行して前記流路溝部が離型するように、前記上インナー金型および前記下インナー金型に対して、前記上アウター金型および前記下アウター金型を突出させることを特徴とするものである。
【0036】
この発明の請求項16に係る燃料電池セパレータの製造方法は、請求項15記載の燃料電池セパレータの製造方法において、前記上金型および前記下金型と、前記両金型間に形成されるキャビティの外周を担う枠体とによる圧縮成形後、成形品取り出しのための型開き時に、前記上インナー金型および前記下インナー金型に対して、前記上アウター金型および前記下アウター金型を突出させ、表裏各面の前記流路溝部が離型し、かつ、表裏各面の前記囲繞部が離型しない状態で、前記枠体を移動させて成形品の外周を当該枠体から解放させることを特徴とするものである。
【0037】
この発明の請求項17に係る燃料電池セパレータの製造方法は、請求項15または請求項16記載の燃料電池セパレータの製造方法において、前記型開き時に、前記上インナー金型および前記下インナー金型に対して前記上アウター金型および前記下アウター金型を突出させる際、表裏各面の前記流路溝部が容易に離型するように、前記上インナー金型および前記下インナー金型と前記上アウター金型および前記下アウター金型との分割面から圧縮空気を噴出させることを特徴とするものである。
【0038】
この発明の請求項18に係る燃料電池セパレータは、少なくとも片面に流路溝部および囲繞部を有する燃料電池セパレータであって、前記流路溝部の材料密度と前記囲繞部の材料密度とが実質的に均一に形成されたことを特徴とするものである。
【0039】
この発明の請求項19に係る燃料電池セパレータは、少なくとも片面に流路溝部および囲繞部を有する燃料電池セパレータであって、下金型が分割されて前記囲繞部に対応するアウター金型に対して前記流路溝部に対応するインナー金型を所定高さ上方に位置決めして形成されるキャビティに粉体状材料を充填し、圧縮工程にともない前記アウター金型と前記インナー金型との高さの差を解消させることで前記流路溝部の圧縮比と前記囲繞部の圧縮比とを均一に圧縮成形したことを特徴とするものである。
【0040】
この発明の請求項20に係る燃料電池セパレータは、表裏各面に両面流路溝部、片面流路溝部および囲繞部を有する燃料電池セパレータであって、前記両面流路溝部の材料密度と、前記片面流路溝部の材料密度と、前記囲繞部の材料密度とが実質的に均一に形成されたことを特徴とするものである。
【0041】
この発明の請求項21に係る燃料電池セパレータは、表裏各面に両面流路溝部、片面流路溝部および囲繞部を有する燃料電池セパレータであって、前記囲繞部に対応する下アウター金型に対して、前記両面流路溝部および前記片面流路溝部に対応する下インナー金型を所定量上方へ突出させた下金型と、前記囲繞部に対応する上アウター金型に対して、前記両面流路溝部および前記片面流路溝部に対応する上インナー金型を所定量下方へ突出させた上金型とで形成されるキャビティに粉体状材料を充填し、圧縮工程にともない前記下インナー金型および前記上インナー金型の突出を解消させることで前記流路溝部の圧縮比と前記囲繞部の圧縮比とを均一に圧縮成形したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0042】
この発明は以上のように、金型を用いて粉体状材料を圧縮成形することで、少なくとも片面に流路溝部および囲繞部を有する燃料電池セパレータを製造する製造方法であって、上金型と、前記流路溝部に対応するインナー金型と前記囲繞部に対応するアウター金型とに分割された下金型との間に形成されるキャビティに粉体状材料を充填するとき、前記流路溝部の圧縮比と前記囲繞部の圧縮比とが均一になるように、前記アウター金型に対して前記インナー金型を所定高さ上方に位置決めする構成としたので、セパレータの囲繞部領域と流路溝部領域の圧縮比を均等に設定することができ、そのため均一な密度のセパレータが製造可能となる。
【0043】
また、この発明は、金型を用いて粉体状材料を圧縮成形することで、少なくとも片面に流路溝部および囲繞部を有する燃料電池セパレータを製造する製造方法であって、一方の金型と、前記片面側に位置し、かつ、前記流路溝部に対応するインナー金型と前記囲繞部に対応するアウター金型とに分割された他方の金型とによる圧縮成形後、成形品取り出しのための型開き時に、前記囲繞部に先行して前記流路溝部が離型するように、前記インナー金型に対して前記アウター金型を突出させる構成としたので、セパレータ取り出しにおいてスプリングバックが発生する前に流路溝部領域を先行して離型することができ、そのため形状欠損のないセパレータが製造可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
この発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0045】
図1は、この発明による燃料電池セパレータの一実施形態を示す(a)正面図および(b)背面図、図2は、図1のII−II線に沿ってとられた(a)断面図および(b)A部の拡大図である。
【0046】
この燃料電池セパレータ1は、固体高分子型燃料電池システムに適用されるセパレータであり、両面(少なくとも片面)には、流路溝部2および、流路溝部2の周囲を囲む囲繞部4を有している。
【0047】
セパレータ1の寸法は、燃料電池システムの発電能力により異なるが、外形が50〜400mm、例えば縦150mm×横100mmで、厚さが0.5〜5mm、例えば2.0mmの平板形状である。
【0048】
セパレータ1の流路溝部2には、燃料ガス、酸化ガスまたは冷却水の流路となる溝(流路溝)3が形成されている。流路溝3の深さは、一般にセパレータ1の板厚の約1/2以下であり、例えば0.5mmである。流路溝3の溝幅は0.5〜5mm、例えば1mmである。隣り合う流路溝3どうしのピッチは、例えば2mmである。そして、流路溝3は、セパレータ1表面の囲繞部4に囲まれた所定領域内に細密な配置で形成されて、流路溝部2を構成している。
【0049】
このような流路溝3は、セパレータ1の囲繞部4に形成されたマニホルド5に連結していて、マニホルド5を通して、燃料ガス、酸化ガスまたは冷却水が流路溝3に導入・排出されるようになっている。なお、図1では、流路溝3およびマニホルド5を2系統だけ図示し、第3の流路溝および第3のマニホルドは図示を省略してある。
【0050】
また、囲繞部4にも溝が形成されているが、この溝は適宜のシール材を封入するための溝であり、流体の流路となる溝すなわち流路溝3ではない。この明細書では、このような溝を含めて囲繞部4と定義する。
【0051】
この発明による燃料電池セパレータ1に用いられる成形材料は、炭素質粉末を主成分とし、樹脂系材料をバインダとして混合したものである。
【0052】
セパレータ1は高い導電性を必要とするため、炭素質材料としては、高い結晶性の黒鉛構造を有することが望ましく、人造黒鉛、天然黒鉛、膨潤黒鉛などが適しており、またこれらを適正な割合で混合してもよい。黒鉛粉末の平均粒子径は、導電性、材料流動性の面からφ5〜100μmが用いられ、さらに好ましくはφ10〜60μmである。黒鉛粉末中の灰分は、セパレータ1に隣接する触媒の電気化学的反応を阻害し、耐久性を低下させるため、0.5%以下が好ましい。
【0053】
一方、炭素質粉末のバインダとして用いる樹脂系材料は、熱可塑性または熱硬化性のいずれでも構わない。好ましくは、機械的強度、耐久性の面から、3次元分子構造を形成する熱硬化性樹脂が用いられる。熱硬化性樹脂は、例えばフェノール系、エポキシ系、ジアリルフタレート系、不飽和ポリエステル系等が使用できるが、生産性・耐久性の面からフェノール系樹脂が好ましい。
【0054】
上記の黒鉛粉末と樹脂系バインダとの配合割合は、高い導電性と高い非ガス透過性および機械的強度のバランスから、黒鉛75〜95wt%、樹脂系バインダ25〜5wt%、さらに好ましくは、黒鉛82〜93wt%、樹脂系バインダ18〜7wt%の配合割合の成形材料が用いられる。
【0055】
以上の混合材料を用いて、以下に説明する成形金型および成形プロセス(製造方法)により、この発明による燃料電池セパレータ1を成形することができる。
【0056】
図3は、この発明による燃料電池セパレータ1の製造方法に用いる成形金型の第1の実施形態を示す縦断面図であり、説明のため、実際の型開き状態よりも大きく開いて図示してある。また、囲繞部4に形成されるマニホルド5およびセパレータ1のスタック用貫通孔を形成する金型であるコアは省略してある。
【0057】
この成形金型10は、固定側ブロック20に設けられる下金型(下パンチ)21と、移動側ブロック40に設けられる上金型(上パンチ)41と、上下両金型41,21間に形成されるキャビティ50の外周を担う金型である枠体(ダイ)30とを備えている。枠体(ダイ)30も固定側ブロック20に設けられ、また、上金型(上パンチ)41は移動側ブロック40とともに、ラム圧力で作動されるようになっている。
【0058】
下金型(下パンチ)21は、セパレータ1下面の流路溝部2領域の形状を形成する金型である下インナー金型(下インナーパンチ)22と、セパレータ1下面の囲繞部4領域の形状を形成する金型である下アウター金型(下アウターパンチ)25とに分割して構成してある。
【0059】
また、下パンチ21は、下アウターパンチ25に対して下インナーパンチ22を、ストッパブロック23に当接するまで突出可能に進退させる作動部材(アクチュエータ)24と、下インナーパンチ22に対して下アウターパンチ25を、ストッパブロック26に当接するまで突出可能に進退させる作動部材(アクチュエータ)27とを備えている。
【0060】
そして、アクチュエータ24による、下アウターパンチ25に対して下インナーパンチ22を突出させる作動力は、ラム圧力による圧縮工程終了時に下インナーパンチ22の突出が実質的に解消される程度の大きさに設定されるものである。
【0061】
さらに、下パンチ21は、型開き時に下インナーパンチ22に対して下アウターパンチ25を突出させる際、セパレータ1下面の流路溝部2が容易に離型するように、下インナーパンチ22と下アウターパンチ25との分割面から圧縮空気を噴出させる下パンチエアブロー用ライン28を備えている。
【0062】
上金型(上パンチ)41は、セパレータ1上面の流路溝部2領域の形状を形成する金型である上インナー金型(上インナーパンチ)42と、セパレータ1上面の囲繞部4領域の形状を形成する金型である上アウター金型(上アウターパンチ)45とに分割して構成してある。
【0063】
また、上パンチ41は、上インナーパンチ42に対して上アウターパンチ45を、ストッパブロック46に当接するまで突出可能に進退させる作動部材(アクチュエータ)47を備えている。
【0064】
そして、アクチュエータ47による、上インナーパンチ42に対して上アウターパンチ45を突出させるストローク、および、アクチュエータ27による、下インナーパンチ22に対して下アウターパンチ25を突出させるストロークは、セパレータ1表裏各面の流路溝部2の深さと実質的に同寸法よりやや大きく設定されるものである。
【0065】
さらに、上パンチ41は、型開き時に上インナーパンチ42に対して上アウターパンチ45を突出させる際、セパレータ1上面の流路溝部2が容易に離型するように、上インナーパンチ42と上アウターパンチ45との分割面から圧縮空気を噴出させる上パンチエアブロー用ライン48を備えている。
【0066】
枠体(ダイ)30は、その上面が下パンチ21の上面より低くなる位置から、ストッパブロック31に当接するまで突出可能に進退させる作動部材(アクチュエータ)32を備えている。
【0067】
この成形金型10は、図示しないプレス装置の機能および金型を保持するためのダイセット機能により、ダイ30および、下インナーパンチ22、下アウターパンチ25、上インナーパンチ42、上アウターパンチ45の各金型が圧縮成形方向に作動可能に保持される。そして、図3に矢印Pで示すように、セパレータ1の最大面積を有する平面部に対して垂直方向からの単軸成形により圧縮成形されるものである。
【0068】
なお、図3に示す金型構成は一例であり、セパレータ1の形状により、任意の金型分割位置、任意の金型構成数で対応することができる。
【0069】
この発明による成形金型10は、上記のように、セパレータ1の流路溝部2領域と囲繞部4領域とにパンチが分割された構造を有しているため、以下のような成形プロセスが可能である。
【0070】
粉末材料を用いた圧縮成形においては、圧縮成形品の目標密度と材料の嵩密度との比率を圧縮比として、キャビティ50への材料充填量を決定する。特に、流動性の悪い材料の場合は、成形品の部分的な圧縮比のバラツキはそのまま密度のバラツキとなり、大きな品質の低下となる。粉末材料の圧縮プレス成形法における充填方法は、ダイ上面を基準として余剰に投入した材料を排除し、充填量のバラツキを抑えるのが一般的である。
【0071】
図4は、成形金型10のキャビティ50に粉末材料を充填した状態を示す要部の縦断面図である。
【0072】
図5は、圧縮成形品であるセパレータ1の縦断面図を示す。なお、図4と図5の断面位置は同一位置である。
【0073】
この発明による成形金型10を用いた製造プロセスにおいて、目標密度と粉末材料の嵩密度との比率つまり圧縮比を3と仮定したとき、セパレータ1の囲繞部4領域の断面積Soutは、製品厚さがTmmであるから、ダイ30を下パンチ21上面から3×Tmm上昇させることにより3×Soutの断面積をもつ空間を設ければ、適性な材料が充填される。
【0074】
このとき下アウターパンチ25上面は平坦であるため、理想的な材料の充填が可能である。
【0075】
これに対し、セパレータ1の流路溝部2領域の断面積Sinは、ダイ30を3×Tmm上昇させると、流路溝3を形成するための金型凸部の断面積の形成に相当する材料が余剰となり、流路溝部2領域に充填される材料は3×Sinを超えてしまう。
【0076】
そこで、この発明による成形金型10を用いた製造プロセスでは、その余剰な材料充填を防止するため、流路溝3を形成する下インナーパンチ22を所定のh寸法分だけ上昇させ、つまり材料が充填される空間をh寸法分減少させることで、3×Sinの断面積に調整することが可能である。
【0077】
しかも、このh寸法は任意に調整可能であるから、囲繞部4であるSout部の密度に対して、流路溝部2であるSin部の密度を相対的にコントロール可能である。双方の密度を均一にすることができるし、もし必要であるなら、流路溝部2の密度を囲繞部4の密度に対して増減することもできる。
【0078】
図6〜図9は、この発明による成形金型10を用いた燃料電池セパレータの製造方法において圧縮成形の過程を示し、図6は充填調整前の状態、図7は充填調整後の圧縮直前の状態、図8は圧縮工程中間の状態、図9は圧縮完了の状態を示す縦断面図である。
【0079】
セパレータ1全体の密度バラツキを低減するには、圧縮工程中に、材料充填量の少ない流路溝部2領域の圧縮速度と、囲繞部4領域の圧縮速度とを均等に、つまり圧縮開始から圧縮完了までの工程をほぼ同時に終了させることで、双方の領域2,4の品質バラツキをなくすことができる。
【0080】
具体的には、下インナーパンチ22は空圧、油圧、バネ、電動モータ等のアクチュエータ24の駆動力によって、上パンチ41側の圧縮力よりも小さな保持力でフロートされて、上パンチ41側の圧縮力に応じて下降できる状態、または上パンチ41側よりやや遅い速度で下降させることが好ましい。その結果、充填量が少ない領域つまり圧縮ストロークが短い領域でも、圧縮速度を遅らせることができる。
【0081】
図8は圧縮比2、粉末材料が圧縮されている中間の状態を示す。下インナーパンチ22は下降しているものの圧縮完了位置には達しておらず、目標密度に到達していない中間の状態である。
【0082】
図9は圧縮完了状態を示す。下インナーパンチ22はアクチュエータ24による保持上昇力よりも大きなプレス圧縮力によって下降限の位置にあり、下アウターパンチ25と面一状態または所定の位置にてセパレータ1が成形される。
【0083】
図10〜図13は、この発明による成形金型10を用いた燃料電池セパレータの製造方法において成形後の製品取り出しの過程を示し、図10は取り出し直前の状態、図11は流路溝部を抜き出す状態、図12はダイが下降した状態、図13は型開き完了の状態を示す縦断面図である。
【0084】
図10は、セパレータ取り出し直前の状態である。このとき、下アウターパンチ25および上アウターパンチ45には、空圧、油圧、バネ、電動モータ等のアクチュエータ27,47の駆動力により、セパレータ1を突き出す方向に力を与えておく。
【0085】
この突き出す力は、プレス装置の上部ラム(図示省略)がセパレータ1を押す力よりも小さいことが条件になる。上インナーパンチ42で形成される流路溝3の深さをdとすると、上アウターパンチ45のストロークはdと同寸法以上に設定する。同様に、下インナーパンチ22で形成される流路溝3の深さをdとすると、下アウターパンチ25のストロークもdと同寸法以上に設定する。
【0086】
図11は、離型性の悪い流路溝部2の金型がセパレータ1から抜き出された状態を示す。上アウターパンチ45、下アウターパンチ25がセパレータ1に向かって突き出す力が働いている状態で上部ラムが上昇すると、上インナーパンチ42は上アウターパンチ45を支持点として、同様に下インナーパンチ22は下アウターパンチ25を支持点として、セパレータ1から離型する力が働く。上部ラムがセパレータ1上下両面の流路溝3段差の合計(d+d)を上昇したとき、セパレータ1上下両面の流路溝3は金型から離型される。
【0087】
この過程の開始時すなわち離型開始直後には、密閉された状態でセパレータ1の流路溝部2を離型するため、セパレータ1と金型表面および金型分割ラインからの外気導入はほとんど期待できず、減圧状態となる。そこで各インナーパンチ22,42と各アウターパンチ25,45の分割面から圧縮エアーを噴出すことにより、スムーズな離型が可能である。
【0088】
図12は、セパレータ1の外周形状を形成するダイ30が下降した状態を示す。圧縮成形によって形成された直後のセパレータ1の内部には大きな圧縮応力が発生している。セパレータ1取り出しの際、金型が離れると同時に内部応力が開放され、スプリングバックが発生し、セパレータ1は膨張する。スプリングバック量は、材料・成形温度・圧縮力等により異なるが約0.2〜0.8%発生し、縦150mm×横100mmのセパレータでは1mm以上の膨張量になる。
【0089】
図12に示すように、上アウターパンチ45と下アウターパンチ25とでセパレータ1を押さえた状態でダイ30を抜き出すことにより、内部応力はセパレータ1の平面方向(図で横方向)に開放される。仮に、ダイ30を抜き出す前にすべての上パンチ41を上昇させてしまうと、外周側に開放できない内部応力は逃げ場を失い、セパレータ1の中央部は凸状に変形が生じる。
【0090】
図13は、上パンチ41がセパレータ1から完全に抜け、容易に取り出しが可能となった状態を示す。上パンチ41とセパレータ1を確実に離型する方法としては、上パンチ41側のエアーブローを下パンチ21側よりもやや長く作動させればよい。
【実施例1】
【0091】
以下、この発明による成形金型を用いて、この発明による製造方法により圧縮成形される燃料電池セパレータの成形プロセスについて具体的に説明する。但し、この発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0092】
(1)セパレータ1の形状は、縦150mm、横100mm、厚さ2mm(または2.5mm)、ガス流路溝3は幅1mm、深さ0.5mm、ピッチは2mmで12列、表裏各面の中央に配置される。
【0093】
(2)粉末材料は灰分0.15%、平均粒子径φ30μmの球状天然黒鉛(または同様の人造黒鉛)80wt%、樹脂系バインダはレゾール型フェノール20wt%の混合物を使用した。嵩密度は0.65g/cmである。
【0094】
(3)圧縮成形装置は上ラム下降型150トン油圧プレスを用いた。上インナーパンチ42はプレスの上側プラテンに直結、その他のダイ30、上アウターパンチ45、下アウターパンチ25、下インナーパンチ22はダイセット内に設けられた油圧を駆動源とするシリンダによって作動し、作動ストロークはダイセット内に設けられたストロークエンドブロックにより決定される。
【0095】
また、各金型の作動タイミングは、上ラムストロークにおける位置をリニアゲージで検出し、その電圧信号をトリガとしたシーケンス制御により油圧バルブを切り替え、各作動をコントロールした。
【0096】
(4)セパレータ1としての性能が得られる密度1.95g/cmを目標として、粉末材料の嵩密度0.65g/cmであるから基準圧縮比は3とした。よって、セパレータ1の囲繞部4領域の材料充填量は2mm×3より6mmに設定した。流路溝部2領域はセパレータ1の断面積とキャビティ50の空間断面積との比率が1:3となるように1.8mmを減ずる必要があるので、流路溝部2領域を形成する金型の下インナーパンチ22は1.8mm上昇つまり充填量は6mm−1.8mmより4.2mmに設定した。
【0097】
(5)金型温度は流動性を向上させるため60℃に加熱し、前記の油圧プレス装置により125トンで15秒間、圧縮した。
【0098】
(6)圧縮成形完了後、上アウターパンチ45、下アウターパンチ25がセパレータ1を押し出す方向に作動するように油圧バルブを開く。同時に離型用エアーブローを各アウターパンチ45,25と各インナーパンチ42,22の分割部より噴出する。
【0099】
この状態を保持したままプレス上部ラムを1mm上昇させると、それぞれ0.5mmの作動ストロークを設定している上アウターパンチ45、下アウターパンチ24はセパレータ1を挟んだ状態のまま、上インナーパンチ42、下インナーパンチ22はセパレータ1の流路溝部2から抜き出される。
【0100】
その後直ちにダイ30を油圧駆動により下降させ、セパレータ1外周部を抜き出す。その後、上部ラムを上昇させることによりセパレータ1の取り出しが完了となる。
【0101】
(7)図14は、上インナーパンチ42、上アウターパンチ45にキャビティ30内圧力センサを設置し、圧縮成形工程中に生じている材料の圧力推移を示したグラフである。囲繞部4領域と流路溝部2領域の圧力状態はほぼ均等となっている。それぞれの領域での密度も囲繞部1.97g/cm、流路溝部1.95g/cmであり均等な品質といえる。
【0102】
また、図15は、セパレータ1の流路溝部2コーナーの拡大図である。金型形状は精度良く転写され、無理のない製品取り出しであることがわかる。
【0103】
(8)一方、図16は、従来技術による圧縮成形した場合の圧力推移を示す。流路溝部領域の圧力上昇は大きいが、囲繞部領域の圧力上昇は約1/2〜1/3と非常にバラツキが大きい。結果、それぞれの領域での密度も囲繞部1.79g/cm、流路溝部1.98g/cmであり囲繞部の密度低下が顕著になっている。
【0104】
また、図17は、セパレータの流路溝部コーナーの拡大図である。セパレータ取り出し時に大きな離型抵抗が発生し、コーナー部は欠損していることがわかる。
【0105】
図19は、図1に示す燃料電池セパレータ1の各部を詳細に見たときの(a)正面図および(b)背面図、図20は、図19のXX−XX線に沿ってとられた断面図、図21は、図20の(a)A部の拡大図、(b)B部の拡大図および(c)C部の拡大図である。
【0106】
燃料電池セパレータ1を断面で見ると、その大部分は図2(a)に示すように、流路溝部2と、囲繞部4とで構成される。そして、流路溝部2は図2(b)に示すように、表裏両面に流路溝3を備えている。
【0107】
ところが、各流路溝3がマニホルド5に連なる部分には、図20、図21に示すように、片面だけに流路溝3が形成され、反対側の面は流路溝3のない領域6が存在する。すなわち、燃料電池セパレータ1を断面で詳しく見ると、両面に流路溝3を備えた両面流路溝部2と、片面にのみ流路溝3を備えた片面流路溝部6と、流路溝部2,6の周囲を囲む囲繞部4とを有している。片面流路溝部6の反対面は囲繞部4で構成される。
【0108】
しかも、片面流路溝部6には、図20のB部を拡大して図21(b)示すように、下面にのみ流路溝3を備えた片面流路溝部6と、図20のC部を拡大して図21(c)示すように、上面にのみ流路溝3を備えた片面流路溝部6とがある。
【0109】
このような片面流路溝部6は、図3に示す成形金型10では、両面流路溝部2とともに当然、下インナーパンチ22および上インナーパンチ42の領域に割り当てられる。図3に示す成形金型10の場合、下パンチ21は、下アウターパンチ25に対して下インナーパンチ22を、ストッパブロック23に当接するまで突出可能に進退させる作動部材(アクチュエータ)24を備えているのに対し、上パンチ41は、そのような作動部材(アクチュエータ)を備えていない。そのため、図6に示す充填調整前から、図7に示す充填調整後・圧縮直前、図8に示す圧縮工程中間、図9に示す圧縮完了後まで、上インナーパンチ42と上アウターパンチ45との位置関係は変わらない。
【0110】
それでも、図4に示すように、下アウターパンチ25に対して下インナーパンチ22を所定のh寸法分だけ上昇させ、材料が充填される空間をh寸法分減少させることで、セパレータ1の囲繞部4領域の断面積Soutと、流路溝部2領域の断面積Sinとの調整を果たし、図14に示すように、圧力状態がほぼ均等になることで密度の均一性を実現している。
【0111】
しかし、上記したように、燃料電池セパレータ1には、両面流路溝部2と囲繞部4の他に、下面にのみ流路溝3を備えた片面流路溝部6と、上面にのみ流路溝3を備えた片面流路溝部6とがある。このうち、下面にのみ流路溝3を備えた片面流路溝部6は、その周囲の囲繞部4との間であらかじめh寸法分だけ断面積の調整が行われている。これに対し、上面にのみ流路溝3を備えた片面流路溝部6は、その周囲の囲繞部4との間でこのような断面積の調整が行われておらず、また、圧縮工程を通じて行われることはない。
【0112】
ところで、図18を参照して上述したように、囲繞部4の領域を圧縮比3に設定した場合、流路溝部(両面流路溝部)2の領域は、充填時の断面積86.4mmから圧縮比3によるプレスストローク4mm圧縮したときの断面積は22.2mmとなり、断面積を基準としたときの流路溝部2の圧縮比は3.9となり、囲繞部4の領域に対して30%過剰な圧縮比となる。同様に、片面流路溝部6の領域は、囲繞部4の領域に対して10%過剰な圧縮比となる。
【0113】
つまり、図3に示す成形金型10の場合、セパレータ1の下面側では、囲繞部4の領域に対して、これと圧縮比が異なる片面流路溝部6の領域も両面流路溝部2の領域もともに、あらかじめh寸法分だけ断面積の調整が行われているのに対し、セパレータ1の上面側では、片面流路溝部6の領域のみならず両面流路溝部2の領域もともに、断面積の調整が行われない。
【0114】
そこで、圧縮初期(圧縮開始時)に、必要な断面積の調整を、セパレータ1の下面側および上面側の両方で均等に行うことで、セパレータ1の密度の均一性を向上させることのできる成形金型について以下に説明する。
【0115】
図22は、この発明による燃料電池セパレータ1の製造方法に用いる成形金型の第2の実施形態を示す縦断面図であり、説明のため、実際の型開き状態よりも大きく開いて図示してある。また、囲繞部4に形成されるマニホルド5およびセパレータ1のスタック用貫通孔を形成する金型であるコアは省略してある。
【0116】
この成形金型110は、固定側ブロック120に設けられる下金型(下パンチ)121と、移動側ブロック140に設けられる上金型(上パンチ)141と、上下両金型141,121間に形成されるキャビティ150の外周を担う金型である枠体(ダイ)130とを備えている。枠体(ダイ)130も固定側ブロック120に設けられ、また、上金型(上パンチ)141は移動側ブロック140とともに、ラム圧力で作動されるようになっている。
【0117】
下金型(下パンチ)121は、セパレータ1の両面流路溝部2および片面流路溝部6のうち下面の流路溝部2,6領域の形状を形成する金型である下インナー金型(下インナーパンチ)122と、セパレータ1下面の囲繞部4領域の形状を形成する金型である下アウター金型(下アウターパンチ)125とに分割して構成してある。
【0118】
また、下パンチ121は、下アウターパンチ125に対して下インナーパンチ122を、ストッパブロック123に当接するまで突出可能に進退させる作動部材(アクチュエータ)124と、下インナーパンチ122に対して下アウターパンチ125を、ストッパブロック126に当接するまで突出可能に進退させる作動部材(アクチュエータ)127とを備えている。
【0119】
そして、アクチュエータ124による、下アウターパンチ125に対して下インナーパンチ122を突出させる作動力は、ラム圧力による圧縮工程終了時に下インナーパンチ122の突出が実質的に解消される程度の大きさに設定されるものである。
【0120】
さらに、下パンチ121は、型開き時に下インナーパンチ122に対して下アウターパンチ125を突出させる際、セパレータ1下面の流路溝部2,6が容易に離型するように、下インナーパンチ122と下アウターパンチ125との分割面から圧縮空気を噴出させる下パンチエアブロー用ライン128を備えている。
【0121】
上金型(上パンチ)141は、セパレータ1の両面流路溝部2および片面流路溝部6のうち上面の流路溝部2,6領域の形状を形成する金型である上インナー金型(上インナーパンチ)142と、セパレータ1上面の囲繞部4領域の形状を形成する金型である上アウター金型(上アウターパンチ)145とに分割して構成してある。
【0122】
また、上パンチ141は、上アウターパンチ145に対して上インナーパンチ142を、ストッパブロック143に当接するまで突出可能に進退させる作動部材(アクチュエータ)144と、上インナーパンチ142に対して上アウターパンチ145を、ストッパブロック146に当接するまで突出可能に進退させる作動部材(アクチュエータ)147とを備えている。
【0123】
そして、アクチュエータ144による、上アウターパンチ145に対して上インナーパンチ142を突出させる作動力は、ラム圧力による圧縮行程終了時に上インナーパンチ142を突出が実質的に解消される程度の大きさに設定されるものである。
【0124】
また、アクチュエータ147による、上インナーパンチ142に対して上アウターパンチ145を突出させるストローク、および、アクチュエータ127による、下インナーパンチ122に対して下アウターパンチ125を突出させるストロークは、セパレータ1表裏各面の流路溝部2,6の深さと実質的に同寸法よりやや大きく設定されるものである。
【0125】
さらに、上パンチ141は、型開き時に上インナーパンチ142に対して上アウターパンチ145を突出させる際、セパレータ1上面の流路溝部2,6が容易に離型するように、上インナーパンチ142と上アウターパンチ145との分割面から圧縮空気を噴出させる上パンチエアブロー用ライン148を備えている。
【0126】
枠体(ダイ)130は、その上面が下パンチ121の上面より低くなる位置から、ストッパブロック131に当接するまで突出可能に進退させる作動部材(アクチュエータ)132を備えている。
【0127】
この成形金型110は、図示しないプレス装置の機能および金型を保持するためのダイセット機能により、ダイ130および、下インナーパンチ122、下アウターパンチ125、上インナーパンチ142、上アウターパンチ145の各金型が圧縮成形方向に作動可能に保持される。そして、図22に矢印Pで示すように、セパレータ1の最大面積を有する平面部に対して垂直方向からの単軸成形により圧縮成形されるものである。
【0128】
なお、図22に示す金型構成は一例であり、セパレータ1の両面流路溝部2および片面流路溝部6に形成されている流路溝3の深さ、幅、ピッチにより、下パンチ121、上パンチ141の一部の作動を省略することも可能である。また、セパレータ1の形状により、任意の金型分割位置、任意の金型構成数で対応することができる。
【0129】
この発明による成形金型110は、上記のように、セパレータ1の両面流路溝部2領域および片面流路溝部6領域と囲繞部4領域とにパンチが分割された構造を有しているため、以下のような成形プロセスが可能である。
【0130】
粉末材料を用いた圧縮成形においては、圧縮成形品の目標密度と材料の嵩密度との比率を圧縮比として、キャビティ150への材料充填量を決定する。特に、流動性の悪い材料の場合は、成形品の部分的な圧縮比のバラツキはそのまま密度のバラツキとなり、大きな品質の低下となる。粉末材料の圧縮プレス成形法における充填方法は、ダイ上面を基準として余剰に投入した材料を排除し、充填量のバラツキを抑えるのが一般的である。
【0131】
図23は、成形金型110のキャビティ150に粉末材料を充填した状態を示す要部の縦断面図である。
【0132】
図24は、圧縮成形品であるセパレータ1の縦断面図を示す。なお、図23と図24の断面位置は同一位置である。
【0133】
この発明による成形金型110を用いた製造プロセスにおいて、目標密度と粉末材料の嵩密度との比率つまり圧縮比を3と仮定したとき、セパレータ1の囲繞部4領域の断面積Soutは、製品厚さがTmmであるから、ダイ130を下パンチ121上面から3×Tmm上昇させることにより3×Soutの断面積をもつ空間を設ければ、適性な材料が充填される。
【0134】
このとき下アウターパンチ125上面は平坦であるため、理想的な材料の充填が可能である。
【0135】
これに対し、セパレータ1の両面流路溝部2領域および片面流路溝部6領域の断面積Sinは、ダイ130を3×Tmm上昇させると、流路溝3を形成するための金型凸部の断面積の形成に相当する材料が余剰となり、両面流路溝部2領域および片面流路溝部6領域に充填される材料は3×Sinを超えてしまう。
【0136】
そこで、この発明による成形金型110を用いた製造プロセスでは、その余剰な材料充填を防止するため、上パンチ141側および下パンチ121側の流路溝3が形成される空間をつぎのようにして減少させることができるので、3×Sinの断面積に調整することが可能である。
【0137】
すなわち、セパレータ1の上パンチ側流路溝3を形成する上インナーパンチ142を、上パンチ側囲繞部4を形成する上アウターパンチ145に対して、所定のHu寸法分だけ突出(下降)させ、上パンチ側流路溝3に相当する材料充填量を減少させる。
【0138】
同様に、セパレータ1の下パンチ側流路溝3を形成する下インナーパンチ122を、下パンチ側囲繞部4を形成する下アウターパンチ125に対して、所定のHl寸法分だけ突出(上昇)させ、下パンチ側流路溝3に相当する材料充填量を減少させる。
【0139】
さらに、上パンチ側流路溝3を形成する上インナーパンチ142を突出(下降)させたHu寸法分を、下インナーパンチ122の突出(上昇)分に加算することによって、上パンチ141側および下パンチ121側の流路溝3が形成される空間を(Hu+Hl)寸法分だけ減少させる。
【0140】
しかも、この(Hu+Hl)寸法は任意に調整可能であるから、囲繞部4であるSout部の密度に対して、流路溝部2,6であるSin部の密度を相対的にコントロール可能である。双方の密度を均一にすることができるし、もし必要であるなら、流路溝部2,6の密度を囲繞部4の密度に対して増減することもできる。
【0141】
図25〜図28は、この発明による成形金型110を用いた燃料電池セパレータの製造方法において圧縮成形の過程を示し、図25は充填調整前の状態、図26は充填調整後の圧縮直前の状態、図27は圧縮初期の状態、図28は圧縮完了の状態を示す縦断面図である。
【0142】
セパレータ1全体の密度バラツキを低減するには、圧縮工程中に、材料充填量の少ない流路溝部2,6領域の圧縮速度と、囲繞部4領域の圧縮速度とを均等に、つまり圧縮開始から圧縮完了までの工程をほぼ同時に終了させることで、領域2,6と領域4の双方の品質バラツキをなくすことができる。
【0143】
具体的には、下インナーパンチ122は空圧、油圧、バネ、電動モータ等のアクチュエータ124の駆動力によって、上ラムの圧縮力よりも小さな保持力でフロートされて、上パンチ141側の圧縮力に応じて下降できる状態、または上パンチ141側よりやや遅い速度で下降させることが好ましい。
【0144】
同様に、上インナーパンチ142は空圧、油圧、バネ、電動モータ等のアクチュエータ144の駆動力によって、上ラムの圧縮力よりも小さな保持力で圧縮方向にフロートされて、上パンチ141側の圧縮力に応じて相対的に上昇できる状態、または、下インナーパンチ122の下降速度とほぼ同じ速度で相対的に上昇させることが好ましい。
【0145】
その結果、充填量が少ない領域つまり圧縮ストロークが短い領域でも、圧縮速度を遅らせることができる。
【0146】
図26は、セパレータ1の断面形状にかかわらず、均等な圧縮比を可能とするための充填量を、キャビティ150に確保した充填調整後・圧縮直前の状態を示す。このとき、下インナーパンチ122は、下アウターパンチ125に対して(Hu+Hl)寸法分だけ突出(上昇)させた位置にある。一方、上インナーパンチ142は、上アウターパンチ145に対してHu寸法分だけ突出(下降)させた位置にある。そして、上パンチ141は、圧縮直前に、上インナーパンチ142の下端が、キャビティ150に充填された粉末材料の上面に接する高さにある。
【0147】
図27は、圧縮初期の状態を示す。ここで、図26に示す状態から図27に示す状態への移行について説明する。すなわち、この移行時、上パンチ141側(上ラム)の圧縮力により、上アウターパンチ145の下面が、キャビティ150に充填された粉末材料の上面に接する高さまで下降させる。このとき、アクチュエータ144の駆動力は維持したまま、アクチュエータ124の駆動力を低減させて、上インナーパンチ142が、キャビティ150に充填された粉末材料を下方へ押圧する押圧力に追従して、下インナーパンチ122を下降させる。
【0148】
これにより、図27に示すように、上インナーパンチ142が、キャビティ150に充填された粉末材料の上面からHu寸法分だけ突出(下降)した位置にあり、一方、下インナーパンチ122が、キャビティ150に充填された粉末材料の底面からHl寸法分だけ突出(上昇)した位置にある状態となる。
【0149】
すなわち、キャビティ150に充填された粉末材料の上面側における上パンチ141の状態(上アウターパンチ145に対する上インナーパンチ142の突出量:Hu)と、キャビティ150に充填された粉末材料の下面側における下パンチ121の状態(下アウターパンチ125に対する下インナーパンチ122の突出量:Hl)とが、互いに一致する。
【0150】
そして、この状態から、上パンチ141側(上ラム)の圧縮力による粉末材料の圧縮工程が実質的に開始される。この圧縮工程において、囲繞部4領域は、上ラムの圧縮力を直接受けて圧縮成形される一方、流路溝部2,6領域の下インナーパンチ122は下降(後退)しながら、上インナーパンチ142は相対的に上昇しながら、圧縮成形される。
【0151】
図28は、圧縮完了状態を示す。下インナーパンチ122は、アクチュエータ124による保持力よりも大きな上ラムのプレス圧縮力によって、下降限位置、すなわち下アウターパンチ125と面一状態(または所定の位置)にある。また、上インナーパンチ142は、アクチュエータ144による保持力よりも大きな上ラムのプレス圧縮力によって、上昇限位置、すなわち上アウターパンチ145と面一状態(または所定の位置)にある。そして、セパレータ1が成形される。
【0152】
この発明による成形金型110を用いた製造プロセスにおいて、成形後の製品取り出しの過程については、第1の実施形態の場合と同様であるので、図示およびその説明は省略する。すなわち、成形後の製品取り出しの過程において、取り出し直前の状態は図10を参照し、流路溝部を抜き出す状態は図11を参照し、ダイが下降した状態は図12を参照し、型開き完了の状態は図13を参照することで理解される。これらの図10〜図13を、各符号に100を加えた符号を用いて参照すれば、一層容易に理解される。
【0153】
この第2の実施形態の成形金型110を用いて燃料電池セパレータ1を製造した場合は、第1の実施形態の成形金型10を用いて燃料電池セパレータ1を製造した場合に比べて、セパレータ1の密度の均一性を一層向上させることができる。
【実施例2】
【0154】
以下、この第2の実施形態の成形金型110を用いて、この発明による製造方法により圧縮成形される燃料電池セパレータの成形プロセスについて具体的に説明する。但し、この発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0155】
(1)セパレータ1の形状は、縦150mm、横100mm、厚さ2mm(または2.5mm)、ガス流路溝3は幅1mm、深さ0.5mm、ピッチは2mmで12列、表裏各面の中央に配置される。
【0156】
(2)粉末材料は灰分0.15%、平均粒子径φ30μmの球状天然黒鉛(または同様の人造黒鉛)80wt%、樹脂系バインダはレゾール型フェノール20wt%の混合物を使用した。嵩密度は0.65g/cmである。
【0157】
(3)圧縮成形装置は上ラム下降型400トン油圧プレスを用いた。ダイ130、上アウターパンチ145、上インナーパンチ142、下アウターパンチ125、下インナーパンチ122はダイセット内に設けられた油圧を駆動源とするシリンダによって作動し、作動ストロークはダイセット内に設けられたストロークエンドブロックにより決定される。
【0158】
また、各金型の作動タイミングは、上ラムストロークにおける位置をリニアゲージで検出し、その電圧信号をトリガとしたシーケンス制御により油圧バルブを切り替え、各作動をコントロールした。
【0159】
(4)セパレータ1としての性能が得られる密度1.95g/cmを目標として、粉末材料の嵩密度0.65g/cmであるから基準圧縮比は3とした。よって、セパレータ1の囲繞部4領域の材料充填量は2mm×3より6mmに設定した。
【0160】
流路溝部2,6領域はセパレータ1の断面積とキャビティ150の空間断面積との比率が1:3となるように、上面側流路溝部2は0.9mm、下面側流路溝部2も0.9mmを減ずる必要があるので、上アウターパンチ145に対する上インナーパンチ142の突出量(下降量)は0.9mmに設定し、一方、下アウターパンチ125に対する下インナーパンチ122の突出量(上昇量)も0.9mmに設定した。
【0161】
そして、前記上インナーパンチ142の突出量0.9mmを加算して、下インナーパンチ122を合計1.8mm突出させることにより、流路溝部2領域の材料充填量は6mm−1.8mmより4.2mmに設定した。
【0162】
(5)金型温度は流動性を向上させるため60℃に加熱し、前記の油圧プレス装置により125トンで15秒間、圧縮した。
【0163】
(6)圧縮成形完了後、上アウターパンチ145、下アウターパンチ125がセパレータ1を押し出す方向に作動するように油圧バルブを開く。同時に離型用エアーブローを各アウターパンチ145,125と各インナーパンチ142,122の分割部より噴出する。
【0164】
この状態を保持したままプレス上部ラムを1mm上昇させると、それぞれ0.5mmの作動ストロークを設定している上アウターパンチ145、下アウターパンチ124はセパレータ1を挟んだ状態のまま、上インナーパンチ142、下インナーパンチ122はセパレータ1の流路溝部2から抜き出される。
【0165】
その後直ちにダイ130を油圧駆動により下降させ、セパレータ1外周部を抜き出す。その後、上部ラムを上昇させることによりセパレータ1の取り出しが完了となる。
【0166】
(7)この実施例の場合も、実施例1と同様に、図14に示すようなキャビティ圧力推移が得られ、囲繞部4領域と流路溝部2,6領域の圧力状態はほぼ均等となっている。それぞれの領域での密度も囲繞部1.97g/cm、流路溝部1.95g/cmであり均等な品質といえる。
【0167】
また、図15に示すような製品形状が得られ、金型形状は精度良く転写され、無理のない製品取り出しであることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0168】
【図1】この発明による燃料電池セパレータの一実施形態を示す(a)正面図および(b)背面図である。
【図2】図1のII−II線に沿ってとられた(a)断面図および(b)A部の拡大図である。
【図3】この発明による燃料電池セパレータの成形金型の第1の実施形態を示す縦断面図である。
【図4】成形金型のキャビティに粉末材料を充填した状態を示す要部の縦断面図である。
【図5】圧縮成形品であるセパレータの縦断面図を示す。
【図6】この発明による燃料電池セパレータの製造方法において圧縮成形の過程における充填調整前の状態を示す縦断面図である。
【図7】圧縮成形の過程における充填調整後の圧縮直前の状態を示す縦断面図である。
【図8】圧縮成形の過程における圧縮工程中間の状態を示す縦断面図である。
【図9】圧縮成形の過程における圧縮完了の状態を示す縦断面図である。
【図10】成形後の製品取り出しの過程における取り出し直前の状態を示す縦断面図である。
【図11】成形後の製品取り出しの過程における流路溝部を抜き出す状態を示す縦断面図である。
【図12】成形後の製品取り出しの過程におけるダイが下降した状態を示す縦断面図である。
【図13】成形後の製品取り出しの過程における型開き完了の状態を示す縦断面図である。
【図14】この発明により製造された燃料電池セパレータの品質を示すグラフである。
【図15】図14の燃料電池セパレータの状態図である。
【図16】従来技術により製造された燃料電池セパレータの品質を示すグラフである。
【図17】図16の燃料電池セパレータの状態図である。
【図18】従来の圧縮成形における充填時の断面積と圧縮後の断面積を示した模式図ある。
【図19】この発明による燃料電池セパレータの他の実施形態を示す(a)正面図および(b)背面図である。
【図20】図19のXX−XX線に沿ってとられた断面図である。
【図21】図20の(a)A部の拡大図、(b)B部の拡大図および(c)C部の拡大図である。
【図22】この発明による燃料電池セパレータの成形金型の第2の実施形態を示す縦断面図である。
【図23】成形金型のキャビティに粉末材料を充填した状態を示す要部の縦断面図である。
【図24】圧縮成形品であるセパレータの縦断面図を示す。
【図25】この発明による燃料電池セパレータの製造方法において圧縮成形の過程における充填調整前の状態を示す縦断面図である。
【図26】圧縮成形の過程における充填調整後の圧縮直前の状態を示す縦断面図である。
【図27】圧縮成形の過程における圧縮初期の状態を示す縦断面図である。
【図28】圧縮成形の過程における圧縮完了の状態を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0169】
1 燃料電池セパレータ
2 流路溝部(両面流路溝部)
3 流路溝
4 囲繞部
5 マニホルド
6 片面流路溝部
10,110 成形金型
20,120 固定側ブロック
21,121 下パンチ(下金型)
22,122 下インナーパンチ(下インナー金型)
23,123 ストッパブロック
24,124 アクチュエータ(作動部材)
25,125 下アウターパンチ(下アウター金型)
26,126 ストッパブロック
27,127 アクチュエータ(作動部材)
28,128 下パンチエアブロー用ライン
30,130 ダイ(枠体)
31,131 ストッパブロック
32,132 アクチュエータ(作動部材)
40,140 移動側ブロック
41,141 上パンチ(上金型)
42,142 上インナーパンチ(上インナー金型)
43,143 ストッパブロック
144 アクチュエータ(作動部材)
45,145 上アウターパンチ(上アウター金型)
46,146 ストッパブロック
47,147 アクチュエータ(作動部材)
48,148 上パンチエアブロー用ライン
50,150 キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体状材料を用いて、少なくとも片面に流路溝部および囲繞部を有する燃料電池セパレータを圧縮成形する金型であって、
前記片面が対向する下金型を、前記流路溝部に対応するインナー金型と、前記囲繞部に対応するアウター金型とに分割して構成し、
前記インナー金型および/または前記アウター金型を進退させる作動部材を備えていることを特徴とする燃料電池セパレータの成形金型。
【請求項2】
粉体状材料を用いて、表裏各面に流路溝部および囲繞部を有する燃料電池セパレータを圧縮成形する金型であって、
いずれか一方がラム圧力で作動される上金型および下金型と、前記上下両金型間に形成されるキャビティの外周を担う枠体とを備え、
前記上金型および下金型を、前記流路溝部に対応する上インナー金型および下インナー金型と、前記囲繞部に対応する上アウター金型および下アウター金型とに分割して構成し、
前記上インナー金型に対して前記上アウター金型を進退させる作動部材と、前記下インナー金型および前記下アウター金型を相互に進退させる作動部材とを備えていることを特徴とする燃料電池セパレータの成形金型。
【請求項3】
前記上アウター金型に対して前記上インナー金型を進退させる作動部材をさらに備えていることを特徴とする請求項2記載の燃料電池セパレータの成形金型。
【請求項4】
前記下インナー金型を進退させる前記作動部材による、前記下アウター金型に対して前記下インナー金型を突出させる作動力は、前記ラム圧力による圧縮工程終了時に前記下インナー金型の突出が実質的に解消される大きさに設定されることを特徴とする請求項2記載の燃料電池セパレータの成形金型。
【請求項5】
前記上インナー金型を進退させる前記作動部材による、前記上アウター金型に対して前記上インナー金型を突出させる作動力は、前記ラム圧力による圧縮工程終了時に前記上インナー金型の突出が実質的に解消される大きさに設定されることを特徴とする請求項3記載の燃料電池セパレータの成形金型。
【請求項6】
前記上アウター金型を進退させる作動部材による、前記上インナー金型に対して前記上アウター金型を突出させるストローク、および、前記下アウター金型を進退させる作動部材による、前記下インナー金型に対して前記下アウター金型を突出させるストロークは、表裏各面の前記流路溝部の深さと実質的に同寸法以上に設定されることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項記載の燃料電池セパレータの成形金型。
【請求項7】
金型を用いて粉体状材料を圧縮成形することで、少なくとも片面に流路溝部および囲繞部を有する燃料電池セパレータを製造する製造方法であって、
上金型と、前記流路溝部に対応するインナー金型と前記囲繞部に対応するアウター金型とに分割された下金型との間に形成されるキャビティに粉体状材料を充填するとき、前記流路溝部の圧縮比と前記囲繞部の圧縮比とが均一になるように、前記アウター金型に対して前記インナー金型を所定高さ上方に位置決めすることを特徴とする燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項8】
前記位置決めによる前記アウター金型に対する前記インナー金型の高さの差を、圧縮のための金型作動期間中に漸減させて金型作動終了と実質的に同時に解消させることを特徴とする請求項7記載の燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項9】
金型を用いて粉体状材料を圧縮成形することで、少なくとも片面に流路溝部および囲繞部を有する燃料電池セパレータを製造する製造方法であって、
一方の金型と、前記片面側に位置し、かつ、前記流路溝部に対応するインナー金型と前記囲繞部に対応するアウター金型とに分割された他方の金型とによる圧縮成形後、成形品取り出しのための型開き時に、前記囲繞部に先行して前記流路溝部が離型するように、前記インナー金型に対して前記アウター金型を突出させることを特徴とする燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項10】
金型を用いて粉体状材料を圧縮成形することで、少なくとも片面に流路溝部および囲繞部を有する燃料電池セパレータを製造する製造方法であって、
一方の金型と、前記片面側に位置し、かつ、前記流路溝部に対応するインナー金型と前記囲繞部に対応するアウター金型とに分割された他方の金型と、前記両金型間に形成されるキャビティの外周を担う枠体とによる圧縮成形後、成形品取り出しのための型開き時に、前記囲繞部に先行して前記流路溝部が離型するように、前記インナー金型に対して前記アウター金型を突出させ、
前記流路溝部が離型し、かつ、前記囲繞部が離型しない状態で、前記枠体を移動させて成形品の外周を当該枠体から解放させることを特徴とする燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項11】
前記型開き時に、前記囲繞部に先行して前記流路溝部が離型するように前記インナー金型に対して前記アウター金型を突出させる際、前記流路溝部が容易に離型するように、前記インナー金型と前記アウター金型との分割面から圧縮空気を噴出させることを特徴とする請求項9または請求項10記載の燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項12】
金型を用いて粉体状材料を圧縮成形することで、表裏各面に流路溝部および囲繞部を有する燃料電池セパレータを製造する製造方法であって、
前記流路溝部に対応する上インナー金型および下インナー金型と、前記囲繞部に対応する上アウター金型および下アウター金型とに分割された上金型および下金型の間に形成されるキャビティに粉体状材料を充填するとき、前記流路溝部の圧縮比と前記囲繞部の圧縮比とが均一になるように、前記下アウター金型に対して前記下インナー金型を所定高さ上方に位置決めし、
前記位置決めによる前記下アウター金型に対する前記下インナー金型の高さの差を、圧縮のための金型作動期間中に漸減させて金型作動終了と実質的に同時に解消させることを特徴とする燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項13】
金型を用いて粉体状材料を圧縮成形することで、表裏各面に流路溝部および囲繞部を有する燃料電池セパレータを製造する製造方法であって、
前記流路溝部に対応する上インナー金型および下インナー金型と、前記囲繞部に対応する上アウター金型および下アウター金型とに分割された上金型および下金型の間に形成されるキャビティに粉体状材料を充填するとき、前記流路溝部の圧縮比と前記囲繞部の圧縮比とが均一になるように、まず、前記下アウター金型に対して前記下インナー金型を所定高さ上方へ突出させて位置決めし、
つぎに、前記位置決めした状態でキャビティに充填した粉体状材料の上面に、前記上アウター金型に対して前記上インナー金型を所定量下方へ突出させた前記上金型を、前記上アウター金型の下面が前記粉体状材料の上面に接触する高さまで下降させるとき、前記上インナー金型が前記粉体状材料に進入するのに追従して前記下インナー金型を下降させて、前記下アウター金型に対する前記下インナー金型の上方への突出量を、前記上アウター金型に対する前記上インナー金型の下方への突出量と同等に位置決めすることを特徴とする燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項14】
前記位置決めによる前記上アウター金型に対する前記上インナー金型の下方への突出量、および、前記下アウター金型に対する前記下インナー金型の上方への突出量を、圧縮のための金型作動期間中に漸減させて金型作動終了と実質的に同時に解消させることを特徴とする請求項13記載の燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項15】
金型を用いて粉体状材料を圧縮成形することで、表裏各面に流路溝部および囲繞部を有する燃料電池セパレータを製造する製造方法であって、
前記流路溝部に対応する上インナー金型および下インナー金型と、前記囲繞部に対応する上アウター金型および下アウター金型とに分割された上金型および下金型による圧縮成形後、成形品取り出しのための型開き時に、表裏各面の前記囲繞部に先行して前記流路溝部が離型するように、前記上インナー金型および前記下インナー金型に対して、前記上アウター金型および前記下アウター金型を突出させることを特徴とする燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項16】
前記上金型および前記下金型と、前記両金型間に形成されるキャビティの外周を担う枠体とによる圧縮成形後、成形品取り出しのための型開き時に、前記上インナー金型および前記下インナー金型に対して、前記上アウター金型および前記下アウター金型を突出させ、
表裏各面の前記流路溝部が離型し、かつ、表裏各面の前記囲繞部が離型しない状態で、前記枠体を移動させて成形品の外周を当該枠体から解放させることを特徴とする請求項15記載の燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項17】
前記型開き時に、前記上インナー金型および前記下インナー金型に対して前記上アウター金型および前記下アウター金型を突出させる際、表裏各面の前記流路溝部が容易に離型するように、前記上インナー金型および前記下インナー金型と前記上アウター金型および前記下アウター金型との分割面から圧縮空気を噴出させることを特徴とする請求項15または請求項16記載の燃料電池セパレータの製造方法。
【請求項18】
少なくとも片面に流路溝部および囲繞部を有する燃料電池セパレータであって、
前記流路溝部の材料密度と前記囲繞部の材料密度とが実質的に均一に形成されたことを特徴とする燃料電池セパレータ。
【請求項19】
少なくとも片面に流路溝部および囲繞部を有する燃料電池セパレータであって、
下金型が分割されて前記囲繞部に対応するアウター金型に対して前記流路溝部に対応するインナー金型を所定高さ上方に位置決めして形成されるキャビティに粉体状材料を充填し、圧縮工程にともない前記アウター金型と前記インナー金型との高さの差を解消させることで前記流路溝部の圧縮比と前記囲繞部の圧縮比とを均一に圧縮成形したことを特徴とする燃料電池セパレータ。
【請求項20】
表裏各面に両面流路溝部、片面流路溝部および囲繞部を有する燃料電池セパレータであって、
前記両面流路溝部の材料密度と、前記片面流路溝部の材料密度と、前記囲繞部の材料密度とが実質的に均一に形成されたことを特徴とする燃料電池セパレータ。
【請求項21】
表裏各面に両面流路溝部、片面流路溝部および囲繞部を有する燃料電池セパレータであって、
前記囲繞部に対応する下アウター金型に対して、前記両面流路溝部および前記片面流路溝部に対応する下インナー金型を所定量上方へ突出させた下金型と、
前記囲繞部に対応する上アウター金型に対して、前記両面流路溝部および前記片面流路溝部に対応する上インナー金型を所定量下方へ突出させた上金型とで形成されるキャビティに粉体状材料を充填し、圧縮工程にともない前記下インナー金型および前記上インナー金型の突出を解消させることで前記流路溝部の圧縮比と前記囲繞部の圧縮比とを均一に圧縮成形したことを特徴とする燃料電池セパレータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate


【公開番号】特開2008−171826(P2008−171826A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−58739(P2008−58739)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【分割の表示】特願2007−135806(P2007−135806)の分割
【原出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【出願人】(000147350)株式会社精工技研 (154)
【Fターム(参考)】