説明

燃料電池用セパレータ及びその製造方法

【課題】導電性と成形加工性とに優れるものとなるよう、膨張黒鉛を主原料とする予備成形体のプレス成形によって作成される燃料電池用セパレータを、その予備成形体を抄造法を用いて作成する工夫により、自動車用等に好適な軽量、コンパクト化が図れるよう、機械的強度、可撓性、ガス不透過性の各特性が改善され、成形性も優れるように改善する。
【解決手段】板状に形成された予備成形体14を、成形型を用いてプレス成形することによって作成される燃料電池用セパレータにおいて、予備成形体14が、膨張黒鉛に繊維質充填材が加えられて成る原料を用いての抄造によって得られるシート状体にフェノール樹脂を含浸させて成る第1シート14Aを、黒鉛にフェノール樹脂を塗して成る第2シート14Bの一対の間に介装するサンドイッチ構造に構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状に形成された予備成形体を、成形型を用いてプレス成形することによって作成される燃料電池用セパレータ、並びにその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池用セパレータとは、MEA(膜・電極接合体)を適切に燃料電池セル(燃料電池用セパレータの間にMEAを挟み込んだ単位体)内に保持するとともに前記電気化学反応に必要な燃料(水素)及び空気(酸素)を供給する役割、さらには燃料電池として機能するための電気化学反応により得られた電子を損失なく集電する役割等を担っている。これらの役割を担うために燃料電池用セパレータには、1.機械的強度、2.可撓性、3.導電性、4.成形加工性、5.ガス不透過性という特性が要求される。
【0003】
従来、この種の燃料電池用セパレータの材料としては、耐食性に優れたものとする点から黒鉛を主原料とするものが一般的であり、開発の初期段階では、焼結カーボンを切削することによって燃料電池用セパレータを製作していた。しかしながら、コスト的な問題から近年ではフェノール樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂と黒鉛とのコンパウンドを成形材料として作成し、そのコンパウンドを圧縮成形することによって燃料電池用セパレータとする手段が採られていた。成形材料のコンパウンドは、通常、粉末の状態で供給されるので、一旦樹脂の反応しない低温で予備成形体を作成する一次成形を行ってから、二次成形であるプレス成形型に送られるようになる。このように、一次成形によって一旦予備成形体を作ってから二次成形を行うことで、前記成形加工性に優れる燃料電池用セパレータやその製造方法としては特許文献1において開示されたものが知られている。
【0004】
一方、燃料電池用セパレータの主原料である黒鉛として膨張黒鉛を用いるものがあり、例えば特許文献2において開示されたものが知られている。膨張黒鉛を用いた燃料電池用セパレータでは、膨張黒鉛が本来有する耐熱性、耐食性、電気特性(導電性)、熱伝導特性等を有効に利用して所定の電池性能を発揮させることができる手段として望ましいものである。つまり、前記導電性に優れるものとすることができる。そして、数百枚〜千枚といった多量のセパレータを用いる自動車用等として求められる軽量でコンパクトな燃料電池とするには、セパレータ単体での厚さを、必要な機能を損なうことなく極力薄くすることが必要になる。
【0005】
しかしながら、膨張黒鉛を主原料とする従来の燃料電池用セパレータでは、薄くすると割れ易くなるとともに、ガスを透過し易くなるので、前述の機械的強度、ガス不透過性の各点で難点がある。
【特許文献1】特開2004−216756号公報
【特許文献2】特開2000−231926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明の目的は、導電性と成形加工性とに優れるものとなるよう、膨張黒鉛を主原料とする予備成形体のプレス成形によって作成される燃料電池用セパレータを、その予備成形体を抄造法を用いて作成するように工夫することにより、機械的強度、可撓性、ガス不透過性の各特性が改善され、自動車用等に好適となる軽量、コンパクト化が可能となるようにする点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、板状に形成された予備成形体14を、成形型を用いてプレス成形することによって作成される燃料電池用セパレータにおいて、
前記予備成形体14が、膨張黒鉛に繊維質充填材が加えられて成る原料を用いての抄造によって得られる第1シート14Aが、黒鉛に熱硬化性樹脂を塗して成る第2シート14Bの一対の間に介装されて成るサンドイッチ構造に構成されていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の燃料電池用セパレータにおいて、前記第1シート14Aは、前記抄造後において含浸される熱硬化性樹脂を有していることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3に係る発明は、燃料電池用セパレータにおいて、請求項1に記載の前記第2シート及び/又は請求項2に記載の前記第1シートに用いられる前記熱硬化性樹脂がフェノール樹脂であることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4に係る発明は、板状に形成された予備成形体14を、成形型15を用いてプレス成形する二次成形工程を有する燃料電池用セパレータの製造方法において、前記予備成形体14を、膨張黒鉛に繊維質充填材が加えられて成る原料を用いて抄造する抄造工程aと、前記抄造工程aによって得られる第1シート14Aを、黒鉛に熱硬化性樹脂を塗して成る第2シート14Bの一対の間に介装して積層する積層工程cと、を有する一次工程S1によって作成することを特徴とするものである。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の燃料電池用セパレータの製造方法において、前記一次工程S1は、前記抄造工程aによって抄造されたシート状体に熱硬化性樹脂を含浸させて前記第1シート14Aを作成する後含浸工程bを有していることを特徴とするものである。
【0012】
請求項6に係る発明は、燃料電池用セパレータの製造方法において、請求項4に記載の前記第2シート14B及び/又は請求項5に記載の前記第1シート14Aを作成するための前記熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂を用いることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、詳しくは実施形態の項において説明するが、予備成形体が、抄造による第1シートが黒鉛と熱硬化性樹脂とを主原料とする第2シートの二枚の間に挟まれる計三層のサンドイッチ構造のもの、即ち、機械的、電気的特性に優れ、薄肉で、かつ、固有抵抗値等の特性のばらつきが少なく、大量生産が容易で製造コストも有利となる第1シートを、成形性に優れる第2シートの一対の間に挟む構成となっている。その結果、導電性と成形加工性とに優れるものとなるよう、膨張黒鉛を主原料とする予備成形体のプレス成形によって作成される燃料電池用セパレータを、その予備成形体を抄造法を用いて作成する抄造シートを間に挟んで成形性に優れる第2シートが表面に位置するサンドイッチ構造に工夫することにより、機械的強度、可撓性、ガス不透過性の各特性が改善されながら成形性に優れ、自動車用等に好適となる軽量、コンパクト化が可能となる燃料電池用セパレータを提供することができる。
【0014】
請求項2の発明によれば、膨張黒鉛を主原料とする抄造によって成る第1シートに熱硬化性樹脂を後から含浸させてあるので、熱硬化性樹脂が配合されることによる一般的な作用、効果に加えて、抄造されたシート状体における隙間に熱硬化性樹脂が入り込んで隙間を埋めるようになり、ガス透過性やかさ密度に好影響を与えてさらなる性能向上が可能となる利点がある。この場合、請求項3のように、第1シートに用いられる熱硬化性樹脂を、フェノール類とアルデヒド類との縮重合により合成されるフェノール樹脂とすれば、絶縁性・耐水性・耐薬品性等に優れるというより好ましい作用、効果が追加されるとか、第2シートに用いられる熱硬化性樹脂をフェノール樹脂として、ガス透過係数の向上と優れた成形性との双方をより効果的に得ることができるといったサンドイッチ構造の燃料電池用セパレータを提供可能である。また、次の1.〜5.のような手段を採用しても良い。
【0015】
1.フェノール樹脂の含浸率を5〜30%の範囲に設定したり、2.膨張黒鉛の材料比率を60〜90%に設定することにより、接触抵抗30mΩ・cm2 以下 、曲げ強度25MPa以上、曲げ歪0.6〜2.1%、ガス透過係数1×10−8mol・m/m・s・MPa以下の各特性の目標値をクリヤすることができて好都合である(図7,8参照)。3.黒鉛が含有されているフェノール樹脂を後含浸したものや、4.フェノール樹脂の含浸後において塗される黒鉛を有するものでは、前述の各特性値がより高レベルなものとなる(図7参照)燃料電池用セパレータを提供することができる。5.繊維質充填材を、機械的強度の改善に有効な炭素繊維或いはアクリル繊維を有するものとすることができる。
【0016】
請求項4の発明は請求項1の発明を、請求項5の発明は請求項2の発明を、そして請求項6の発明は請求項3の発明を夫々方法化したものであり、対応する請求項の作用、効果と同等の作用、効果を発揮することができる燃料電池用セパレータの製造方法を提供することができる。
【0017】
以下に、本発明による燃料電池用セパレータ及びその製造方法の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1〜図3は、スタック構造の分解斜視図、セパレータの外観正面図、セル構造を示す要部の拡大断面図、図4は別構造の単セルを示す要部の拡大図、図5は抄造の原理を示す概略図、図6はセパレータの製造原理を示す工程図、図7,8は各種実施例や比較例のデータを示す図表である。尚、以下においては「燃料電池用セパレータ」を、単に「セパレータ」と略称するものとする。
【0018】
〔実施例1〕
まず最初に、本発明のセパレータを備えた固体高分子電解質型燃料電池の構成及び動作について、図1〜図3を参照して簡単に説明する。固体高分子電解質型燃料電池Eは、例えばフッ素系樹脂より形成されたイオン交換膜である電解質膜1と、炭素繊維糸で織成したカーボンクロスやカーボンペーパーあるいはカーボンフェルトにより形成され、上記電解質膜1を両側から挟みサンドイッチ構造をなすガス拡散電極となるアノード2及びカソード3と、そのサンドイッチ構造をさらに両側から挟むセパレータ4,4とから構成される単セル5の複数組を積層し、その両端に図示省略した集電板を配置したスタック構造に構成されている。
【0019】
両セパレータ4は、図2に示すように、その周辺部に、水素を含有する燃料ガス孔6,7と酸素を含有する酸化ガス孔8,9と冷却水孔10とが形成されており、前記単セル5の複数組を積層した時、各セパレータ4の各孔6,7、8,9、10がそれぞれ燃料電池E内部をその長手方向に貫通して燃料ガス供給マニホールド、燃料ガス排出マニホールド、酸化ガス供給マニホールド、酸化ガス排出マニホールド、冷却水路を形成するようになされている。各セパレータ4は、基本の断面形状が角波型となるように表裏に凸条(リブ)11が形成されており、アノード2と各凸条11とが当接することによる燃料ガス流路12、及びカソード3と各凸条11とが当接することによる酸化ガス流路13が形成されている。また、電解質膜1の存在側を内とした場合において、各セパレータ4,4における外向き凸条11の裏側(内側)部分が隣合わされることにより、独立した冷却水通路10に形成することができる。
【0020】
前記構成の固体高分子電解質型燃料電池Eにおいては、外部に設けられた燃料ガス供給装置から燃料電池Eに対して供給された水素を含有する燃料ガスが上記燃料ガス供給マニホールドを経由して各単セル5の燃料ガス流路12に供給されて各単セル5のアノード2側において電気化学反応を呈し、その反応後の燃料ガスは各単セル5の燃料ガス流路12から燃料ガス排出マニホールドを経由して外部に排出される。同時に、外部に設けられた酸化ガス供給装置から燃料電池Eに対して供給された酸素を含有する酸化ガス(空気)が上記酸化ガス供給マニホールドを経由して各単セル5の酸化ガス流路13に供給されて各単セル5のカソード3側において電気化学反応を呈し、その反応後の酸化ガスは各単セル5の酸化ガス流路13から上記酸化ガス排出マニホールドを経由して外部に排出される。
【0021】
前述の電気化学反応に伴い、燃料電池E全体としての電気化学反応が進行して、燃料が有する化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換することで、所定の電池性能が発揮される。なお、この燃料電池Eは、電解質膜1の性質から約80〜100℃の温度範囲で運転されるために発熱を伴う。そこで、燃料電池Eの運転中は、外部に設けられた冷却水供給装置から燃料電池Eに対して冷却水を供給し、これを前記冷却水路に循環させることによって、燃料電池E内部の温度上昇を抑制している。
【0022】
尚、セルの構造としては、図4に示す構造のものでも良い。即ち、図4のセルは、各セパレータ4を、その表面が縦横に点状のリブ(所定形状のリブ)11の多数が均等間隔毎に並べられて成るものとして、それらリブ11とアノード2の表面との間に縦横の燃料ガス流路12が形成されるとともに、リブ11とカソード3の表面との間に縦横の酸化ガス流路13が形成される構造のものに構成してある。二次成形S2において、中間層で成形性の良い第2シート14Bが厚みの大きい部分に流れて密度不均一状態に容易に変化できることから、機械的、電気的特性を向上させるべく両端に厚み変化が不得意な第1シート14Aを設ける構成としながらも、従来では困難であったリブ11等の凹凸を有する(厚み分布のある)タイプのセパレータ4の実現を可能としている。
【0023】
次に、セパレータ4の作り方(製造方法)について説明する。セパレータ4の製造方法は、板状に形成された予備成形体を、成形型を用いてプレス成形することによって作成するものであり、図6に示すように、セパレータの形に近似した板状の予備成形体14を作成する一次成形工程S1と、その予備成形体14を成形金型15で加圧して最終形状のセパレータ4を形成する二次成形工程S2とから成る。ここで、セパレータ4の目標とする特性は、接触抵抗が30mΩ・cm以下、曲げ強度が25MPa以上、曲げ歪が0.6〜2.1%、ガス透過係数が1×10−8mol・m/m・s・MPa以下である。
【0024】
一次成形工程S1は、図6に示すように、膨張黒鉛に繊維質充填材が加えられて成る原料を用いての抄造によって得られる第1シート14Aを、熱硬化性樹脂に黒鉛粉末を塗して成る第2シート14Bの一対の間に介装して成るサンドイッチ構造の予備成形体14を作成する工程であり、抄造工程aと後含浸工程bと積層工程cとを有している。
【0025】
抄造工程aは、膨張黒鉛に繊維質充填材が加えられて成る原料を用いての抄造によって第1シート14Aを作成する工程であり、図6に示すように、主原料である膨張黒鉛(導電材)と繊維質充填材とを所定の配合比率で有する原料を用いて抄造し、それによって予備成形体14用の第1シート14Aを形成する。抄造の本来の意味は「紙の原料をすいて紙を作ること」であるが、ここで言う抄造は『第1シート用の上記材料をすいて第1シートを作ること』である。次に、抄造について簡単に説明しておく。
【0026】
図5に、第1シート14Aを作成する概略の抄造工程aが示されている。即ち、黒鉛(膨張黒鉛)、繊維質充填材、軟質硬化樹脂、及び水の分散液をホッパー20に入れておき、ホッパー20下端の出口20aから、ローラ21,22に巻回されている無端回動帯状の金網23の搬送始端側の上面に前記分散液を垂らし供給させる。金網23上で矢印イ方向に搬送される間に分散液が漉かされて(抄かされて)概略のシート状体に形成され、金網23の搬送終端からは大径の持上げドラム24に沿って持上げ搬送されてから、複数の上下の仕上げローラ25,26の間を通ることにより、第1シート14A(抄造シート)が形成される。
【0027】
後含浸工程bは、抄造工程aによって抄造された第1シート14Aにフェノール樹脂を含浸する工程であり、それによって予備成形体14の構成部品となる状態の第1シート14Aが作成される。積層工程cは、抄造工程a及び後含浸工程bで作成された第1シート14Aを、黒鉛(黒鉛粉末等)にフェノール樹脂(熱硬化性樹脂の一例)を塗して成る第2シート14Bの一対の間に介装して一体化することにより、図6に示すように、中間のの第1シート14Aと表裏(上下)第2シート14B,14Bとの三層によるサンドイッチ構造の予備成形体14を作成する工程である。
【0028】
二次成形工程S2は、例えば、上金型15aと下金型15bから成る成形金型15を用いて三層構造の予備成形体14をプレスによって加圧することにより、所定の最終形状を呈するセパレータ4を作成する工程である。以下に、具体的な作り方とその実施例等について説明する。
【0029】
まず、一次成形工程S1における抄造工程aに関しては、次のようである。炭素繊維3%、アクリル繊維7%、PET繊維1%、アラミド繊維1%を配合して成る繊維質充填材を、家庭用ミキサーを用いて離解し、所定のパルプ濃度(例:1%)に調整する。調整後のパルプスラリーに、例えば40μmの膨張黒鉛を83%添加し、さらに水を追加して固形分濃度0.1%に再調整してから、若干のその他の配合材[硫酸バンド、歩留り向上材〔ハイモロックNR11−LH(商品名)〕]を添加して抄紙用原料(図7の実施例1を参照)として抄造(図5参照)する。抄造工程aによってできたシート状体を、標準角型シートマシンを用いて加工することにより、坪量100g/mで25cm角シート形状の第1シート14Aを得る。
【0030】
一次成形工程S1における後含浸工程bに関しては、フェノール樹脂液を用いて含浸を行い、予備成形体14用の第1シート14Aを得る。実施例1におけるフェノール樹脂の含浸量は、含浸後における配合率が5%になるように定められる。抄造による第1シート14Aは、曲げ難い等、成形性にはやや劣る面があるが、優れた機械的及び電気的特性を持っている。
【0031】
一次成形工程S1における第2シート形成工程は、図示は省略するが、黒鉛粉末(粒径1〜200μm程度が好ましい)にフェノール樹脂をコーティングして樹脂カーボンである第2シート14Bを作成する工程である。樹脂カーボンである第2シート14Bは、機械的特性の点では劣るが成形性には優れている。
【0032】
第2シート14Bとしては、次のようにして作成されたものでも良い。即ち、フェノール類とアルデヒド類とカーボンとを触媒の存在下で混合及び反応させて調製されたカーボン・フェノール樹脂成形材料を成形した薄板状成形体からなるものであり、フェノール類とアルデヒド類とを触媒の存在下でカーボンと混合しつつ反応させることによって、カーボン・フェノール樹脂成形材料はカーボンがフェノール樹脂で薄く均一に被覆されたものとして得られている。この場合、カーボン量を増加させた場合でも、カーボン粒子間が確実に結着されていると共にカーボン粒子間の間隙がフェノール樹脂で充填された薄板状成形体を得ることができるものであり、機械的強度及び電気伝導性に優れ、ガス透過率の小さな燃料電池用セパレータを容易に得ることができる。
【0033】
二次成形工程S2に関しては、一次成形工程S1によって作成された三層構造の予備成形体14を、170℃の金型を用いて20MPaの面圧で5分間加熱加圧成形し(図6参照)、セパレータ4を得る。この場合(実施例1)のセパレータ4の各種特性は、接触抵抗10mΩ・cm、ガス透過係数4×10−11mol・m/m・s・MPa、曲げ強さ50MPa、曲げ歪2%、厚さ0.15mmであった。
【0034】
図7,8に、本発明によるセパレータ4の実施例1〜10及び比較例1〜3の物性及び特性表(図7)と、実施例11〜17の物性及び特性(図8)とを示す。各実施例は第1シート14Aの諸元が異なるものであり、第2シート14Bについては全て互いに同じものを用いている。ここで、各特性のテスト条件を述べておく。接触抵抗に関しては次のようである。まず、試験片2枚を2枚のフラットな銅板に挟み込み、1MPaの圧力下での電圧を、電圧Aとして測定する。次いで、試験片4枚を前記と同様にして電圧Bとして測定し、電圧Aと電圧Bとの差を2で割り、さらに試験片の面積で割ることにより、接触抵抗(単位:mΩ・cm)とする。
【0035】
曲げ試験(曲げ強度、曲げ歪)に関しては、3点曲げ試験により曲げ強度、及び曲げ歪の測定を行う。支点間距離は7.8mmとし、クロスヘッドスピードを10mm/min、試験片の幅を15mmとして測定した。ガス透過係数に関しては、JIS,K7126A法(差圧法)に従い、ガス透過測定器(東洋精機製作所製BT−1)を用いて測定を行った。
【0036】
さて、図7において、実施例1〜6は、後含浸工程bにおけるフェノール樹脂の配合率を5〜30%の範囲において5%刻みで変化させた場合のデータであり、実施例7は、フェノール樹脂の後含浸に代えて、フェノール樹脂と天然黒鉛とを後含浸させた場合のデータである。実施例8は、フェノール樹脂の後含浸に代えて、フェノール樹脂で被覆された黒鉛を後含浸させた場合のデータであり、実施例9は、フェノール樹脂の後含浸を13%に、かつ、フェノール樹脂の内填(内填とは、「抄造工程aの原料として、フェノール樹脂が7%配合されている」の意である)を7%とした場合のデータである。
【0037】
また、実施例10は、予備成形体14の表面、即ち第2シート体14B,14Bの表面側に黒鉛を塗した場合のデータである。つまり、実施例10のものは、カーボン・フェノール樹脂成形材料から成る第2シート体14Bの表面に黒鉛を塗す塗し工程が追加されたものである。これら実施例1〜10のものでは、繊維質充填材を構成する炭素繊維、アクリル繊維、PET繊維、アラミド繊維の配合率(配合量)は全て同じとしてある。
【0038】
図8において、実施例11〜17は、第1シートの膨張黒鉛の配合率を60〜90%の範囲において5%刻みで変化させた場合のデータである。後含浸されるフェノール樹脂の配合率は、実施例10〜13では実施例4の場合と同様に20%に設定するものであるが、膨張黒鉛の配合率が80%以上となる実施例15〜17においては無理なので、繊維質充填材とのバランスを考慮した値として定めてある。
【0039】
図7において、比較例1,2は、実施例4と5による第1シート14Aを三枚積層して成る第2シート14Bを有さない全抄造型のセパレータ4に設定された場合のデータであり、比較例3は、第2シート14Bを三枚積層して成る第1シート14Aを有さない全樹脂カーボン型のセパレータ4に設定された場合のデータである。
【0040】
図7から分るように、全抄造型の比較例1,2のものでは、特性は優れるものの、接触抵抗とガス透過係数に関しては規定値を大きく逸脱しているとともに、角の欠けが多く成形性も劣り、不合格である。また、全樹脂カーボン型の比較例3のものでは、曲げ歪が範囲外であるとともに角の欠けも認められており、やはり不合格である。また、曲げ強さが50MPa以上となる高強度なセパレータ(第1シート14A)を得るには、膨張黒鉛の配合比率(材料比率)が60〜80%の範囲に設定すれば良く、フェノール樹脂の含浸率を20〜30%の範囲とすれば、曲げ強さを80MPa以上の超高強度なものとすることが可能である。そして、フェノール樹脂の含浸率が20〜30%の範囲で、かつ、膨張黒鉛の配合比率(材料比率)が60〜70%の範囲のものでは、曲げ強さが105MPa以上の超々高強度な燃料電池用セパレータが実現できる利点がある。
【0041】
以上説明したように、本発明は、板状に形成された予備成形体を、成形型を用いてプレス成形することによって作成されるセパレータにおいて、予備成形体が、膨張黒鉛に繊維質充填材が加えられて成る原料を用いての抄造によって得られる第1シートの一対の間に、黒鉛に熱硬化性樹脂を塗して成る第2シートが介装されて成るサンドイッチ構造に構成されていることにより、厚さを0.15mmとした場合において、接触抵抗が30mΩ・cm以下 、曲げ強度25MPa以上、曲げ歪0.6〜2.1%、ガス透過係数1×10−8mol・m/m・s・MPa以下の各特性値目標をクリヤすることができる。その結果、導電性と成形加工性とに優れるものとなるよう、膨張黒鉛を主原料とする予備成形体のプレス成形によって作成される燃料電池用セパレータを、抄造法による二枚の第1シートの間に、樹脂カーボン製の第2シートを挟むサンドイッチ構造のものとする工夫により、機械的強度、可撓性、ガス不透過性の各特性が改善され、自動車用等に好適となる軽量、コンパクト化が可能となるセパレータを提供することができる。
【0042】
また、機械的、電気的特性に優れる一対の第1シート14Aの間に、成形性に優れる第2シート14Bを挟むサンドイッチ構造としてあるので、上述の各特性を満たすに加えて、シール性(ガス透過係数)のさらなる向上を図りながら成形性も良好なものとなっており、トータル性能により優れる燃料電池用セパレータ、及び燃料電池用セパレータの製造方法が実現できている。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】固体高分子電解質型燃料電池のスタック構造を示す分解斜視図
【図2】固体高分子電解質型燃料電池のセパレータを示す正面図
【図3】単セルの構成を示す要部の拡大断面図
【図4】別構造によるセルの構成を示す要部の拡大断面図
【図5】第1シートの抄造工程を示す原理図
【図6】セパレータの製造方法を示す原理図
【図7】実施例1〜10及び比較例1〜3のセパレータの各種データを示す図表
【図8】実施例11〜17のセパレータの各種データを示す図表
【符号の説明】
【0044】
4 燃料電池用セパレータ
14 予備成形体
14A 第1シート(抄造シート)
14B 第2シート(樹脂カーボン)
15 成形型
a 抄造工程
b 後含浸工程
c 積層工程
S1 一次工程


【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状に形成された予備成形体を、成形型を用いてプレス成形することによって作成される燃料電池用セパレータであって、
前記予備成形体が、膨張黒鉛に繊維質充填材が加えられて成る原料を用いての抄造によって得られる第1シートが、黒鉛に熱硬化性樹脂を塗して成る第2シートの一対の間に介装されて成るサンドイッチ構造に構成されている燃料電池用セパレータ。
【請求項2】
前記第1シートは、前記抄造後において含浸される熱硬化性樹脂を有している請求項1に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項3】
請求項1に記載の前記第2シート及び/又は請求項2に記載の前記第1シートに用いられる前記熱硬化性樹脂がフェノール樹脂である燃料電池用セパレータ。
【請求項4】
板状に形成された予備成形体を、成形型を用いてプレス成形する二次成形工程を有する燃料電池用セパレータの製造方法であって、
前記予備成形体を、膨張黒鉛に繊維質充填材が加えられて成る原料を用いて抄造する抄造工程と、前記抄造工程によって得られる第1シートを、黒鉛に熱硬化性樹脂を塗して成る第2シートの一対の間に介装して積層する積層工程と、を有する一次工程によって作成する燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項5】
前記一次工程は、前記抄造工程によって抄造されたシート状体に熱硬化性樹脂を含浸させて前記第1シートを作成する後含浸工程を有している請求項4に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載の前記第2シート及び/又は請求項5に記載の前記第1シートを作成するための前記熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂を用いる燃料電池用セパレータの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−311061(P2007−311061A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−136449(P2006−136449)
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【出願人】(000229737)日本ピラー工業株式会社 (337)
【Fターム(参考)】