説明

燃料電池用接着性シール部材

【課題】 低温かつ短時間で架橋することができ、所望の強度や伸びを有する燃料電池用接着性シール部材を提供する。
【解決手段】 燃料電池用接着性シール部材は、以下の(A)〜(E)を含むゴム組成物の架橋物からなる。(A)エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素添加アクリロニトリル−ブタジエンゴムから選ばれる一種以上のゴム成分、(B)エチレン・α−オレフィン共重合体、(C)1時間半減期温度が130℃以下の有機過酸化物から選ばれる架橋剤、(D)架橋助剤、(E)レゾルシノール系化合物およびメラミン系化合物と、アルミネート系カップリング剤と、シランカップリング剤と、から選ばれる一種以上の接着成分。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池を構成する部材間をシールする接着性シール部材に関し、詳しくは、接着シールと応力シールとの両方が可能な接着性シール部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスの電気化学反応により電気を発生させる燃料電池は、発電効率が高く、排出されるガスがクリーンで環境に対する影響が極めて少ない。なかでも固体高分子型燃料電池は、比較的低温で作動させることができ、大きな出力密度を有する。このため、発電用、自動車用電源等、種々の用途が期待されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池では、膜電極接合体(MEA)等をセパレータで挟持したセルが発電単位となる。MEAは、電解質となる高分子膜(電解質膜)と、電解質膜の厚さ方向両面に配置された一対の電極触媒層(燃料極(アノード)触媒層、酸素極(カソード)触媒層)と、からなる。一対の電極触媒層の表面には、さらにガスを拡散させるための多孔質層が配置されている。燃料極側には水素等の燃料ガスが、酸素極側には酸素や空気等の酸化剤ガスがそれぞれ供給される。供給されたガスと電解質と電極触媒層との三相界面における電気化学反応により、発電が行われる。固体高分子型燃料電池は、上記セルを多数積層したセル積層体を、セル積層方向の両端に配置したエンドプレート等により締め付けて構成される。
【0004】
セパレータには、各々の電極に供給されるガスの流路や、発電の際の発熱を緩和するための冷媒の流路が形成されている。例えば、各々の電極に供給されるガスが混合すると、発電効率が低下する等の問題が生じる。また、電解質膜は、水を含んだ状態でプロトン導電性を有する。このため、作動時には、電解質膜を湿潤状態に保つ必要がある。したがって、ガスの混合、ガスおよび冷媒の漏れを防止すると共に、セル内を湿潤状態に保持するためには、電解質膜とセパレータとの間や、隣り合うセパレータ同士の間等のシール性を確保することが重要となる。これら構成部材間をシールするシール部材としては、例えば、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)を用いたゴム材料等が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−371161号公報
【特許文献2】特開2009−94056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のゴム材料は、数平均分子量が10〜10オーダーのEPDMと、数平均分子量が10〜10オーダーのエチレン・α−オレフィン共重合ゴムと、を架橋して製造される。当該ゴム材料は、接着性を有さない。このため、部材との接着において、別途接着剤が必要になる。
【0007】
また、固体高分子型燃料電池の電解質膜には、全フッ素系スルホン酸膜等の高分子膜が用いられる。よって、シール部材の材料を電解質膜の近くに配置して架橋、接着する場合には、架橋時の加熱により、電解質膜が劣化しないよう配慮する必要がある。つまり、シール部材の接着工程を、より低温で、かつ短時間で行うことが望ましい。
【0008】
この点、特許文献2に記載の接着性シール部材によると、低温で架橋することができる。つまり、低温で部材との接着を行うことができる。しかし、より短時間で架橋させようとすると、接着性シール部材の強度や伸びが低下してしまう、という問題があった。
【0009】
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであり、低温かつ短時間で架橋することができ、所望の強度や伸びを有する燃料電池用接着性シール部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の燃料電池用接着性シール部材(以下、適宜「本発明の接着性シール部材」と称す)は、以下の(A)〜(E)を含むゴム組成物の架橋物からなり、燃料電池の構成部材間をシールすることを特徴とする。
(A)エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素添加アクリロニトリル−ブタジエンゴムから選ばれる一種以上のゴム成分。
(B)エチレン・α−オレフィン共重合体
(C)1時間半減期温度が130℃以下の有機過酸化物から選ばれる架橋剤。
(D)架橋助剤。
(E)レゾルシノール系化合物およびメラミン系化合物と、アルミネート系カップリング剤と、シランカップリング剤と、から選ばれる一種以上の接着成分。
【0011】
本発明の接着性シール部材によると、架橋剤として、1時間半減期温度が130℃以下の有機過酸化物を用いる(上記(C))。ここで「半減期」とは、有機過酸化物の濃度が初期値の半分になるまでの時間である。よって、「半減期温度」は、有機過酸化物の分解温度を示す指標となる。上記「1時間半減期温度」は、半減期が1時間となる温度である。つまり、1時間半減期温度が低いほど、低温で分解しやすい。1時間半減期温度が130℃以下の有機過酸化物を用いることにより、架橋をより低温(具体的には130℃以下)で、かつ短時間で行うことができる。したがって、例えば、固体高分子型燃料電池の電解質膜の近傍においても、本発明の接着性シール部材を使用することができる。
【0012】
例えば、上記(A)のゴム成分を、(C)の架橋剤を用いて短時間で架橋しようとすると、架橋密度が急速に大きくなる。このため、得られるゴム材料の引張り強さや伸びが、小さくなると考えられる。この点、本発明の接着性シール部材は、上記(A)のゴム成分に加えて、エチレン・α−オレフィン共重合体を含む(上記(B))。エチレン・α−オレフィン共重合体を配合することにより、ゴム成分の架橋サイトが分散されると考えられる。これにより、架橋密度の急速な上昇が抑制される。したがって、得られる接着性シール部材において、引張り強さや伸びが低下しにくい。また、エチレン・α−オレフィン共重合体は、樹脂成分である。ゴム成分に樹脂成分を加えることにより、ゴム成分のみの場合と比較して、接着性シール部材の強度を向上させることができる。さらに、接着性シール部材の絶縁性も向上することができる。なお、樹脂成分を加えると、接着性シール部材がへたりやすくなるおそれがある。しかし、本発明の接着性シール部材は、適度な架橋密度を有する。このため、ゴム成分のみの場合と比較して、へたり性は低下しにくい。
【0013】
また、本発明の接着性シール部材は、接着成分を含む(上記(E))。よって、本発明の接着性シール部材は、他の接着剤を使用することなく、部材と接着することができる。例えば、接着成分としてレゾルシノール系化合物およびメラミン系化合物を含む場合には、メラミン系化合物がメチレン供与体となり、レゾルシノール系化合物がメチレン授与体となる。架橋時に、メチレン基の供与により、レゾルシノール系化合物とゴム成分、およびレゾルシノール系化合物と接着対象の部材の間に、各々、化学結合が形成される。これにより、ゴム成分(接着性シール部材)と部材とが接着される。また、接着成分としてアルミネート系カップリング剤を含む場合には、アルミネート系カップリング剤を介して、接着性シール部材と部材とが接着される。同様に、接着成分としてシランカップリング剤を含む場合には、シランカップリング剤を介して、接着性シール部材と部材とが接着される。
【0014】
これらの接着成分の接着力は大きい。加えて、燃料電池の作動環境においても、接着力は低下しにくい。したがって、本発明の接着性シール部材を燃料電池に使用すると、燃料電池を長期間作動させた場合でも、良好なシール性が確保される。すなわち、燃料電池の作動信頼性を向上させることができる。
【0015】
また、本発明の接着性シール部材は、ゴム弾性を有する。このため、本発明の接着性シール部材によると、応力によるシールが可能となる。したがって、例えば、本発明の接着性シール部材を、対向する部材間に配置する場合には、本発明の接着性シール部材を一方の部材にのみ接着して、他方の部材との間は応力によりシールする態様を採用することができる。勿論、本発明の接着性シール部材を両方の部材に各々接着して、部材間を接着シールする態様を採用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の接着性シール部材を使用した固体高分子型燃料電池の斜視図である。
【図2】積層されたセルの斜視図である。
【図3】単一のセルの分解斜視図である。
【図4】図2のIV−IV断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の燃料電池用接着性シール部材の実施形態を説明する。なお、本発明の燃料電池用接着性シール部材は、下記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0018】
<燃料電池用接着性シール部材>
上述したように、本発明の接着性シール部材は、上記(A)〜(E)を含むゴム組成物の架橋物からなる。まず、(A)のゴム成分について説明する。ゴム成分は、エチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、水素添加アクリロニトリル−ブタジエンゴム(H−NBR)から選ばれる一種以上である。これらの一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。また、後述するムーニー粘度が異なる二つ以上の同種のゴムを、混合して用いてもよい。
【0019】
ゴム成分のムーニー粘度は、90[ML(1+4)100℃]以下であることが望ましい。ムーニー粘度が90[ML(1+4)100℃]以下の場合には、架橋前のゴム組成物の流動性が高くなる。このため、燃料電池用のシール部材の製造に好適な射出成形、トランスファー成形時の成形性が、良好になる。より好適なムーニー粘度は、60[ML(1+4)100℃]以下である。本明細書中、ムーニー粘度は、JIS K6300−1(2001)に準じて測定された値を採用する。
【0020】
燃料電池の作動環境における耐酸性および耐水性の観点から、ゴム成分は、EPDMを含むことが望ましい。この場合、EPDMのジエン量は、4質量%以上9質量%以下であることが望ましい。ここで、ジエン量は、EPDM中のジエン成分の質量割合である。ジエン量が4質量%未満の場合には、架橋密度が小さくなるため、架橋物(接着性シール部材)において、所望の引張り強さが得られないおそれがある。一方、ジエン量が9質量%を超えると、架橋密度が大きくなるため、架橋物において所望の伸びが得られないおそれがある。
【0021】
EPDMのジエン成分は、特に限定されるものではないが、例えば、炭素数5〜20のジエン系モノマーが望ましい。具体的には、1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、2,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエン、1,4−オクタジエン、1,4−シクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、ジシクロペンタジエン(DCP)、5−エチリデン−2−ノルボルネン(ENB)、5−ブチリデン−2−ノルボルネン、2−メタリル−5−ノルボルネン、2−イソプロペニル−5−ノルボルネン等が挙げられる。
【0022】
次に、(B)のエチレン・α−オレフィン共重合体について説明する。エチレン・α−オレフィン共重合体の種類は、特に限定されるものではない。例えば、エチレンと、炭素数3〜10のα−オレフィンと、の共重合体が好適である。炭素数3〜10のα−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、ヘプテン−1、オクテン−1、ノネン−1、デセン−1等が挙げられる。これらの一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0023】
エチレン・α−オレフィン共重合体の配合量は、ゴム成分(A)の100質量部に対して5質量部以上30質量部以下であることが望ましい。エチレン・α−オレフィン共重合体が5質量部未満の場合には、架橋に対する影響が小さく、補強効果が充分に得られない。よって、架橋物(接着性シール部材)において、所望の引張り強さや伸びが得られないおそれがある。一方、エチレン・α−オレフィン共重合体が30質量部を超えると、架橋物が硬くなり、ゴム弾性が低下する。このため、架橋物において所望の引張り強さや伸びが得られないおそれがある。
【0024】
次に、(C)の架橋剤について説明する。架橋剤は、1時間半減期温度が130℃以下の有機過酸化物から選ばれる。このような有機過酸化物としては、パーオキシケタール、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート等が挙げられる。なかでも、130℃程度の温度で架橋しやすく、架橋剤を加えて混練したゴム組成物の取扱性にも優れるという理由から、1時間半減期温度が100℃以上のパーオキシケタールおよびパーオキシエステルの少なくとも一種を採用することが望ましい。特に、1時間半減期温度が110℃以上のものが好適である。また、パーオキシエステルを用いると、より短時間で架橋を行うことができる。
【0025】
パーオキシケタールとしては、例えば、n−ブチル4,4−ジ(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブタン、2,2−ジ(4,4−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキシル)プロパン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン等が挙げられる。
【0026】
また、パーオキシエステルとしては、例えば、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート等が挙げられる。
【0027】
これらのうち、ゴム成分との反応が比較的速いという理由から、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートが好適である。なかでも、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートを用いると、より短時間で架橋を行うことができる。
【0028】
架橋反応を充分に進行させるため、架橋剤の配合量は、ゴム成分(A)の100質量部に対して1質量部以上であることが望ましい。一方、架橋剤の配合量が多いと、架橋反応時に架橋密度が急激に上昇して、接着力の低下を招く。このような観点から、架橋剤の配合量は、ゴム成分(A)の100質量部に対して10質量部以下であることが望ましい。
【0029】
次に、(D)の架橋助剤について説明する。架橋助剤は、上記架橋剤(C)の種類に応じて適宜選択すればよい。架橋助剤としては、例えば、マレイミド化合物、トリアリルシアヌレート(TAC)、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)等が挙げられる。なかでも、架橋密度や強度の向上効果が大きいという理由から、マレイミド化合物を用いることが望ましい。この場合、架橋反応を充分に進行させるため、架橋助剤の配合量は、ゴム成分(A)の100質量部に対して0.1質量部以上とすることが望ましい。一方、架橋助剤の配合量が多いと、架橋密度が大きくなり過ぎて、接着力の低下を招く。このため、架橋助剤の配合量は、3質量部以下とすることが望ましい。
【0030】
次に、(E)の接着成分について説明する。接着成分(E)は、レゾルシノール系化合物およびメラミン系化合物と、アルミネート系カップリング剤と、シランカップリング剤と、から選ばれる一種以上である。すなわち、レゾルシノール系化合物およびメラミン系化合物、アルミネート系カップリング剤、シランカップリング剤、を各々単独で用いてもよい。また、レゾルシノール系化合物およびメラミン系化合物とアルミネート系カップリング剤、レゾルシノール系化合物およびメラミン系化合物とシランカップリング剤、アルミネート系カップリング剤とシランカップリング剤、を各々組み合わせて使用してもよい。さらには、レゾルシノール系化合物およびメラミン系化合物と、アルミネート系カップリング剤と、シランカップリング剤と、を全て使用してもよい。
【0031】
レゾルシノール系化合物としては、例えば、レゾルシン、変性レゾルシン・ホルムアルデヒド樹脂、レゾルシン・ホルムアルデヒド(RF)樹脂等が挙げられる。これらの一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。なかでも、低揮発性、低吸湿性、ゴムとの相溶性が優れるという点で、変性レゾルシン・ホルムアルデヒド樹脂が好適である。変性レゾルシン・ホルムアルデヒド樹脂としては、例えば、次の一般式(1)〜(3)で表されるものが挙げられる。特に、一般式(1)で表されるものが好適である。
【化1】

【化2】

【化3】

【0032】
所望の接着力を得るため、レゾルシノール系化合物の配合量は、ゴム成分(A)の100質量部に対して、0.1質量部以上であることが望ましい。0.5質量部以上であるとより好適である。また、過剰な配合はゴムの物性低下を招くため、レゾルシノール系化合物の配合量は10質量部以下であることが望ましい。5質量部以下であるとより好適である。
【0033】
メラミン系化合物としては、例えば、ホルムアルデヒド・メラミン重合物のメチル化物、ヘキサメチレンテトラミン等が挙げられる。これらの一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。これらは、架橋の際の加熱下で分解し、ホルムアルデヒドを系に供給する。なかでも、低揮発性、低吸湿性、ゴムとの相溶性が優れるという点で、ホルムアルデヒド・メラミン重合物のメチル化物が好適である。ホルムアルデヒド・メラミン重合物のメチル化物としては、例えば、以下の一般式(4)で表されるものが好適である。特に、一般式(4)中、n=1の化合物が43〜44質量%、n=2の化合物が27〜30質量%、n=3の化合物が26〜30質量%の混合物が好適である。
【化4】

【0034】
上記レゾルシノール系化合物とメラミン系化合物との配合比は、質量比で、1:0.5〜1:2の範囲が望ましい。1:0.77〜1:1.5の範囲がより好適である。レゾルシノール系化合物に対するメラミン系化合物の配合比が0.5未満の場合、ゴムの引張り強さ、伸び等が若干低下する傾向がみられる。反対に、メラミン系化合物の配合比が2を超えると、接着力が飽和する。このため、それ以上の配合は、コストアップにつながる。
【0035】
アルミネート系カップリング剤は、加水分解可能なアルコキシ基と、ゴム成分と親和性がある部分と、を有するアルミニウム有機化合物の中から、接着性等を考慮して適宜選択すればよい。例えば、アルミニウムアルキルアセトアセテート・ジイソプロピレート、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムジイソプロピレートモノセカンダリーブチレート、アルミニウムセカンダリーブチレート、アルミニウムエチレート、アルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノアセチルアセトネート、アルミニウムトリスアセチルアセトネート、アルミニウムモノイソプロポキシモノオレキシエチルアセトアセテート等が挙げられる。これらの一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。なかでも、アルミニウムアルキルアセトアセテート・ジイソプロピレート、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテートが好適である。
【0036】
所望の接着力を得るため、アルミネート系カップリング剤の配合量は、ゴム成分(A)の100質量部に対して、0.5質量部以上であることが望ましい。2質量部以上であるとより好適である。また、過剰な配合はゴムの物性低下を招き、加工性も低下するおそれがある。このため、アルミネート系カップリング剤の配合量は10質量部以下であることが望ましい。6質量部以下であるとより好適である。
【0037】
シランカップリング剤は、官能基としてエポキシ基、アミノ基、ビニル基等を有する化合物群の中から、接着性等を考慮して適宜選択すればよい。例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニル−トリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランおよびN−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらの一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。なかでも、エポキシ基を有する化合物群から選ばれる一種以上を用いると、接着力が向上すると共に、燃料電池の作動環境においても、接着力が低下しにくい。具体的には、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が好適である。
【0038】
所望の接着力を得るため、シランカップリング剤の配合量は、ゴム成分(A)の100質量部に対して、0.5質量部以上であることが望ましい。2質量部以上であるとより好適である。また、過剰な配合はゴムの物性低下を招き、加工性も低下するおそれがある。このため、シランカップリング剤の配合量は10質量部以下であることが望ましい。6質量部以下であるとより好適である。
【0039】
本発明の接着性シール部材を構成するゴム組成物は、上記(A)〜(E)の他、通常ゴム用の添加剤として用いられる各種添加剤を含んでいてもよい。例えば、補強剤としてカーボンブラックを含むことが望ましい。カーボンブラックのグレードは、特に限定されるものではなく、SAF級、ISAF級、HAF級、MAF級、FEF級、GPF級、SRF級、FT級、MT級等から適宜選択すればよい。カーボンブラックの配合量を多くすると、接着性シール部材が硬くなる。これにより、引張り強さや伸びが低下するおそれがある。したがって、カーボンブラックの配合量は、エチレン・α−オレフィン共重合体(B)の配合量をも考慮して、適宜決定すればよい。例えば、カーボンブラックの配合量は、ゴム成分(A)の100質量部に対して10質量部以上70質量部以下であることが望ましい。
【0040】
また、他の添加剤としては、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、粘着付与剤、加工助剤等が挙げられる。軟化剤としては、プロセスオイル、潤滑油、パラフィン、流動パラフィン、ワセリン等の石油系軟化剤、ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、ヤシ油等の脂肪油系軟化剤、トール油、サブ、蜜ロウ、カルナバロウ、ラノリン等のワックス類、リノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸等が挙げられる。軟化剤の配合量は、ゴム成分(A)の100質量部に対して40質量部程度までとするとよい。また、可塑剤としては、ジオクチルフタレート(DOP)等の有機酸誘導体、リン酸トリクレジル等のリン酸誘導体が挙げられる。可塑剤の配合量は、軟化剤と同様、ゴム成分(A)の100質量部に対して40質量部程度までとするとよい。また、老化防止剤としては、フェノール系、イミダゾール系、ワックス等が挙げられる。老化防止剤は、ゴム成分(A)の100質量部に対して0.5〜10質量部程度配合するとよい。
【0041】
<燃料電池用接着性シール部材の製造方法>
本発明の接着性シール部材は、上記(A)〜(E)および必要に応じて各種添加剤を含むゴム組成物を架橋して製造される。ゴム組成物は、例えば、次のようにして調製すればよい。まず、架橋剤(C)、架橋助剤(D)、接着成分(E)以外の材料を予備混合して、80〜140℃で数分間混練する。次に、得られた混練物を冷却して、架橋剤(C)、架橋助剤(D)、および接着成分(E)を加える。そして、オープンロール等のロール類を用い、ロール温度40〜70℃で5〜30分間混練する。なお、接着成分(E)は、予備混合の段階で配合しても構わない。
【0042】
調製されたゴム組成物を、接着対象の部材と接触させながら架橋する。架橋することにより、ゴム組成物は、本発明の接着性シール部材となる。ここで、架橋温度は130℃以下とすることが望ましい。低温かつ短時間で架橋を行うことにより、例えば、固体高分子型燃料電池の電解質膜の近傍においても、本発明の接着性シール部材を使用することができる。
【0043】
また、調製されたゴム組成物は、所定の形状に成形しておくことが望ましい。例えば、フィルム状に成形すると、接着対象の部材に接着性シール部材を貼り付けて、容易に接着させることができる。この場合、燃料電池の構成部材同士の煩雑な位置合わせが不要になるため、連続加工がしやすくなる。また、部材に予め接着性シール部材をラミネートしておけば、さらに接着作業が容易になる。このように、本発明の接着性シール部材をフィルム状にすることで、例えば、燃料電池の生産性をより向上させることができる。また、燃料電池のMEA、セパレータ等の構成部材と、本発明の接着性シール部材と、を金型に入れて加熱することにより、一体成形することも可能である。
【0044】
<燃料電池への適用>
本発明の接着性シール部材は、燃料電池の構成部材間をシールするのに好適である。適用対象となる燃料電池は、本発明の接着性シール部材の有機成分(ゴム成分、エチレン・α−オレフィン共重合体)が使用可能な温度で作動するものであればよい。例えば、固体高分子型燃料電池(PEFC)(ダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)を含む)が好適である。
【0045】
シールする部位(構成部材間)は、燃料電池の種類、構造等により様々である。すなわち、本発明の接着性シール部材は、気密性、液密性が要求され、従来よりシール部材が配置されていたいずれの部位に対しても使用することができる。また、本発明の接着性シール部材を、燃料電池においてシールが必要な全ての部位に使用してもよいし、シールが必要な部位の一部に使用してもよい。シール部位としては、例えば、MEAを挟んで対向するセパレータとセパレータとの間、MEAを支持するフレームとセパレータとの間、隣り合うセルを各々構成するセパレータとセパレータとの間等が挙げられる。
【0046】
以下に、本発明の接着性シール部材を使用した固体高分子型燃料電池の一実施形態を示す。図1に、本発明の接着性シール部材を使用した固体高分子型燃料電池の斜視図を示す。図1に示すように、固体高分子型燃料電池1は、セルCが多数積層されて構成されている。図2に、積層されたセルC(三枚分のみ)の斜視図を示す。図3に、単一のセルCの分解斜視図を示す。図4に、図2のIV−IV断面図を示す。図2〜図4に示すように、セルCは、MEA2と、セパレータ3と、接着性シール部材4a、4bと、を備えている。
【0047】
MEA2は、電解質膜20と、一対の電極21a、21bと、からなる。電解質膜20は、矩形薄板状を呈している。一対の電極21a、21bは、矩形薄板状を呈している。一対の電極21a、21bは、電解質膜20を挟んで積層方向両側に配置されている。
【0048】
セパレータ3は、金属製であり、矩形薄板状を呈している。セパレータ3には、長手方向に延在する溝が合計六つ凹設されている。当該溝により、セパレータ3の断面は、凹凸形状を呈している(図4参照)。セパレータ3は、MEA2の積層方向両側に、対向して配置されている。MEA2とセパレータ3との間には、凹凸形状を利用して、電極21a、21bにガスを供給するためのガス流路30が区画されている。また、積層方向に隣接するセルCの、背向するセパレータ3同士の間には、凹凸形状を利用して、冷媒を流すための冷媒流路31が区画されている。
【0049】
接着性シール部材4aは、積層方向肉厚が厚い、矩形枠状を呈している。接着性シール部材4aは、MEA2の周縁部およびセパレータ3に接着されている。また、接着性シール部材4aは、MEA2の周縁部を封止している。
【0050】
接着性シール部材4bは、積層方向肉厚が薄い、矩形枠状を呈している。接着性シール部材4bは、積層方向に隣接するセルCの、背向するセパレータ3に接着されている。接着性シール部材4bにより、背向するセパレータ3間に、冷媒流路31が封止されている。
【0051】
固体高分子型燃料電池1の作動時には、燃料ガスおよび酸化剤ガスが、各々ガス流路30を通じて供給される。また、発電の際の発熱を緩和するために、冷媒が冷媒流路31を流れる。ここで、MEA2の周縁部は、接着性シール部材4aにより接着シールされている。このため、ガスの混合や漏れは生じない。また、電解質膜20の湿潤状態も保持される。さらに、接着性シール部材4aは、130℃程度の低温、かつ短時間で接着可能である。よって、接着加工時に電解質膜20が劣化するおそれは小さい。また、積層方向に隣接するセルCの、背向するセパレータ3同士の間も、接着性シール部材4bにより接着シールされている。このため、冷媒流路31から外部に冷媒が漏出しにくい。また、接着性シール部材4a、4bの引張り強さ、伸びは大きい。さらに、接着性シール部材4a、4bの接着性は、固体高分子型燃料電池1の作動環境においても低下しにくい。したがって、固体高分子型燃料電池1は耐久性に優れる。すなわち、長期間に亘り、固体高分子型燃料電池1を安定して作動させることができる。
【実施例】
【0052】
次に、実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。
【0053】
(1)ゴム組成物の調製
下記表1に示す原料を配合して、実施例および比較例の各々のゴム組成物を調製した。表1中、各原料については以下のものを使用した。
(A)ゴム成分
EPDM(1):JSR(株)製「JSR EP27」(ムーニー粘度=105[ML(1+4)100℃]、ジエン量=4.5質量%)。
EPDM(2):JSR(株)製「JSR EP51」(ムーニー粘度=38[ML(1+4)100℃]、ジエン量=5.8質量%)。
EPDM(3):住友化学(株)製「エスプレン(登録商標)501A」(ムーニー粘度=44[ML(1+4)100℃]、ジエン量=4.0質量%)。
EPDM(4):JSR(株)製「JSR EP33」(ムーニー粘度=45[ML(1+4)100℃]、ジエン量=8.1質量%)。
(B)エチレン・α−オレフィン共重合体
エチレン・α−オクテン共重合体:DEX PLASTOMERS製「EXACT(登録商標)0210」
(C)架橋剤
パーオキシエステル:日油(株)製「パーブチル(登録商標)I」(t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、1時間半減期温度=118℃)。架橋剤の配合量は、希釈された状態における値ではなく、有機過酸化物を100%とした時の値である。
(D)架橋助剤
マレイミド化合物:大内新興化学工業(株)製「バルノック(登録商標)PM」。
(E)接着成分
レゾルシノール系化合物:田岡化学工業(株)製「タッキロール(登録商標)620」。メラミン系化合物:住友化学(株)製「スミカノール(登録商標)507AP」。
シランカップリング剤:信越化学工業(株)製「KBM303」(2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン)。
アルミネート系カップリング剤:味の素ファインテクノ(株)製「プレンアクト(登録商標)AL−M」(アルミニウムアルキルアセトアセテート・ジイソプロピレート)。
(F)添加剤
カーボンブラック(GPF級):キャボットジャパン(株)製「ショウブラック(登録商標)IP200」。
パラフィン系プロセスオイル:出光興産(株)製「ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW380」。
【表1】

【0054】
まず、表1中、ゴム成分(A)、エチレン・α−オレフィン共重合体(B)、カーボンブラック、およびパラフィン系プロセスオイルを、バンバリーミキサーを用いて120℃で5分間混練した。混練物を冷却した後、架橋剤(C)、架橋助剤(D)、および接着成分(E)を適宜追加して、オープンロールを用いて50℃で10分間混練し、ゴム組成物を得た。得られたゴム組成物を、プレスにより所定の厚さの平板状に成形した。
【0055】
(2)流動性の評価
上記ゴム組成物の調製過程において、ゴム成分(A)、エチレン・α−オレフィン共重合体(B)、カーボンブラック、およびパラフィン系プロセスオイルを混練した混練物のムーニー粘度を測定した。ムーニー粘度の測定は、JIS K6300−1(2001)に準じ、試験温度80℃にて行った。測定結果を、上記表1にまとめて示す。なお、表1には、測定結果として、比較例1の混練物のムーニー粘度を基準(100)とした時のムーニー粘度指数を示す。ムーニー粘度指数については、次式(I)により算出した。ムーニー粘度指数が大きいほど、流動性が高いことを示す。
ムーニー粘度指数=(比較例1の混練物のムーニー粘度)/(各混練物のムーニー粘度)×100・・・(I)
比較例1以外の混練物には、ムーニー粘度が小さいEPDM(2)〜(4)を使用した。このため、表1に示すように、比較例1以外の混練物については、いずれも比較例1よりムーニー粘度指数が大きくなった。つまり、流動性が高くなった。したがって、比較例1以外のゴム組成物によると、射出成形、トランスファー成形時の成形性が向上する。
【0056】
(3)シール部材の製造、および機械的強度の評価
実施例1〜10および比較例2、3のゴム組成物を、130℃で10分間保持することにより架橋して、シール部材を製造した。また、比較例1のゴム組成物を、130℃で20分間保持することにより架橋して、シール部材を製造した。実施例1〜10のシール部材は、本発明の接着性シール部材に含まれる(以下同じ)。
【0057】
実施例および比較例のシール部材について、引張り強さおよび切断時伸びを測定した。引張り強さおよび切断時伸びの測定は、JIS K6251(2004)に準拠して行った。試験片には、ダンベル状5号形を用いた。測定結果を、上記表1にまとめて示す。なお、表1には、比較例1のシール部材の引張り強さ、切断時伸びを各々基準(100)とした時の、各シール部材の引張り強さ、切断時伸びの比を指数として示す。引張り強さ、切断時伸びの指数については、各々、次式(II)、(III)により算出した。
引張り強さ指数=(各シール部材の引張り強さ)/(比較例1のシール部材の引張り強さ)×100・・・(II)
切断時伸び指数=(各シール部材の切断時伸び)/(比較例1のシール部材の切断時伸び)×100・・・(III)
表1に示すように、実施例のシール部材の引張り強さは、比較例1のシール部材の引張り強さと比較して、大きくなった。同様に、実施例のシール部材の切断時伸びも、比較例1のシール部材の切断時伸びと比較して、大きくなった。一方、比較例2、3のシール部材については、エチレン・α−オレフィン共重合体(B)が配合されていない。このため、実施例と同じ条件で架橋すると、引張強さおよび切断時伸びのいずれも小さくなった。以上より、本発明の接着性シール部材は、低温かつ短時間で架橋した場合においても、引張り強さや伸びが低下しにくいことが確認された。
【0058】
ここで、実施例7のシール部材のエチレン・α−オレフィン共重合体(B)の配合量は、5質量部である。すなわち、実施例7のシール部材においては、実施例1のシール部材((B)=10質量部)と比較して、エチレン・α−オレフィン共重合体(B)の配合量が少ない。このため、引張り強さおよび切断時伸びが、若干小さくなった。反対に、実施例8のシール部材のエチレン・α−オレフィン共重合体(B)の配合量は、30質量部である。エチレン・α−オレフィン共重合体(B)の配合量が多い分、切断時伸びは大きくなった。なお、引張り強さは若干小さくなった。
【0059】
(4)絶縁性の評価
実施例および比較例のシール部材の体積抵抗率を、JIS K6271(2008)に準じて測定した。測定は、直流電圧100Vを印加して行った。測定結果を、上記表1にまとめて示す。表1に示すように、実施例のシール部材の体積抵抗率は、1×1013Ωcmであった。これに対して、比較例のシール部材の体積抵抗率は、1×1012Ωcmであった。つまり、実施例のシール部材の方が、絶縁性が高くなった。これは、樹脂成分であるエチレン・α−オレフィン共重合体の配合効果と考えられる。
【0060】
(5)シール部材の製造、および接着性の評価
JIS K6256−2(2006)に準拠した90°剥離試験を行い、実施例および比較例のシール部材の接着性を評価した。まず、幅25mm、長さ60mm、厚さ5mmの平板状のゴム組成物を、幅25mm、長さ60mm、厚さ2mmのステンレス板の表面に配置した。続いて、ゴム組成物側から押圧しながら130℃で10分間保持して架橋、接着させることより、試験片を作製した。次に、作製した試験片を所定の試験ジグに取り付けて、90°剥離試験を行った。上記表1に、90°剥離試験における各試験片の剥離強さをまとめて示す。なお、表1には、比較例1のシール部材の剥離強さを基準(100)とした時の、各シール部材の剥離強さの比を指数として示す。剥離強さの指数については、次式(IV)により算出した。
剥離強さ指数=(各シール部材の剥離強さ)/(比較例1のシール部材の剥離強さ)×100・・・(IV)
表1に示すように、実施例のシール部材の剥離強さは、いずれも、比較例1のシール部材の剥離強さと同等以上になった。このように、実施例のシール部材によると、低温かつ短時間という架橋条件であっても、充分に架橋反応が進行し、大きな接着力が発現されていることがわかる。一方、比較例2、3のシール部材については、比較例1のシール部材よりも剥離強さが小さくなった。比較例2、3のシール部材については、エチレン・α−オレフィン共重合体(B)が配合されていない。このため、低温かつ短時間で架橋した場合には、引張り強さや伸びが小さくなると共に、所望の接着力も発現しないと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の接着性シール部材によると、他の接着剤を使用することなく、低温かつ短時間で、部材との接着が可能である。また、本発明の接着性シール部材は、エチレン・α−オレフィン共重合体を含むことにより、低温かつ短時間で架橋しても、引張り強さや伸びが低下しにくい。また、本発明の接着性シール部材は、ゴム弾性を有する。このため、本発明の接着性シール部材によると、接着シールと応力シールとの両方が可能である。したがって、本発明の接着性シール部材は、燃料電池の構成部材間をシールするのに好適である。
【符号の説明】
【0062】
1:固体高分子型燃料電池 2:MEA 20:電解質膜 21a、21b:電極
3:セパレータ 30:ガス流路 31:冷媒流路 4a、4b:接着性シール部材
C:セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)〜(E)を含むゴム組成物の架橋物からなり、燃料電池の構成部材間をシールする燃料電池用接着性シール部材。
(A)エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素添加アクリロニトリル−ブタジエンゴムから選ばれる一種以上のゴム成分。
(B)エチレン・α−オレフィン共重合体
(C)1時間半減期温度が130℃以下の有機過酸化物から選ばれる架橋剤。
(D)架橋助剤。
(E)レゾルシノール系化合物およびメラミン系化合物と、アルミネート系カップリング剤と、シランカップリング剤と、から選ばれる一種以上の接着成分。
【請求項2】
前記(A)のゴム成分のムーニー粘度は、90[ML(1+4)100℃]以下である請求項1に記載の燃料電池用接着性シール部材。
【請求項3】
前記(A)のゴム成分は、エチレン−プロピレン−ジエンゴムを含み、
該エチレン−プロピレン−ジエンゴムのジエン量は、4質量%以上9質量%以下である請求項1または請求項2に記載の燃料電池用接着性シール部材。
【請求項4】
前記(B)のエチレン・α−オレフィン共重合体の配合量は、前記(A)のゴム成分100質量部に対して5質量部以上30質量部以下である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の燃料電池用接着性シール部材。
【請求項5】
前記(C)の有機過酸化物は、パーオキシケタールおよびパーオキシエステルを含む請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の燃料電池用接着性シール部材。
【請求項6】
前記(C)の架橋剤の配合量は、前記(A)のゴム成分100質量部に対して1質量部以上10質量部以下である請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の燃料電池用接着性シール部材。
【請求項7】
前記(D)の架橋助剤は、マレイミド化合物を含み、
該架橋助剤の配合量は、前記(A)のゴム成分100質量部に対して0.1質量部以上3質量部以下である請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の燃料電池用接着性シール部材。
【請求項8】
前記ゴム組成物は、さらに、カーボンブラックを含む請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の燃料電池用接着性シール部材。
【請求項9】
前記ゴム組成物は、さらに、軟化剤を含む請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の燃料電池用接着性シール部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−249283(P2011−249283A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124258(P2010−124258)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】