説明

燃料電池用金属セパレータの加工方法

【課題】 導電性のある硬質粒子のMEAに対する接触面積を増やし、導電性に優れた燃料電池用金属セパレータの加工方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 ST01:ステンレス母材に、粒状の導電性のある硬質粒子を含有させたステンレス鋼材を準備する。ST02:ステンレス鋼材を所定の厚さに圧延する。ST03:圧延したステンレス鋼材をセパレータ半完成品にプレス成形を施す工程である。ST04:セパレータ半完成品をベルト研削し、表面の変質層を除去し、硬質粒子の露出面を平坦化する。ST05:ベルト研削後のセパレータ半完成品を砥石研削し、ステンレス母材のみを削って仕上げる。
【効果】 導電性のある硬質粒子の被接触部材に対する接触面積を増やし、導電性のある硬質粒子の突出表面を被接触部材に確実に接触させることで、導電性のある硬質粒子の被接触部材に対する接触抵抗を下げることができるという利点がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性の硬質粒子を含有させた燃料電池用金属セパレータの加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池用セパレータは、固体高分子形燃料電池の1個の膜/電極接合体(以後、MEAと記す。)の両側に配置して1単位の発電装置(スタック)を形成するためのものである。この燃料電池用セパレータとしては、固体高分子形燃料電池の発電装置を積層化する際に、積層時の加圧力に対する強度や積層後の小型化が有利な金属材料が有力視されている。
【0003】
従来、このような燃料電池用金属セパレータとして、ステンレス製のものが知られており、その材料となるステンレス鋼材の圧延変質層の除去方法について検討されている。(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−160472公報(第7頁、図4)
【0004】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図9は従来の技術の基本原理を説明する図であり、(a)は工程図、(b)は工程補足説明図、(c)〜(e)は各工程のステンレス鋼材断面図である。
【0005】
まず、(b)を参照しつつ、(a)の工程を説明する。ST×××はステップ番号を示す。
ST101:素材として、導電物(CrB)を含有するステンレス鋼材100を準備する。
ST102:ステンレス鋼材100を圧延する。
【0006】
ST103:ステンレス鋼材100の圧延後の圧延材101をプレス型102、103でプレス成形し、圧延材101に複数の溝を形成する。
【0007】
ST104:ロールブラシ104、105間に溝成形後のプレス材106を通し、アルミナ砥粒107を使用しながら、圧延工程で圧延材101の表層部にできた変質層を除去するとともに、プレス材106の表面を所定の表面粗さに加工する。
以上で、変質層が無く、所定の表面粗さとしたステンレス鋼材製のセパレータ108ができる。
【0008】
(c)で、圧延材101の母材109に圧延時の影響で変質層110ができた状態を示す。111・・・(・・・は複数を示す。以下同じ。)は硬質粒子からなる導電物である。
【0009】
(d)で、(a)に示したST104においてプレス材106の変質層110{(c)参照}のみを除去した中間部材112の状態を示す。
(e)で、(a)に示したST104において表面粗さ調整を終えた状態、すなわちセパレータ108の表面を所定の表面粗さに加工した状態を示す。
【0010】
しかし、特許文献1のステンレス鋼材の圧延変質層の除去方法では、アルミナ砥粒107を使いロールブラシ104、105の間をプレス材106を通すことで、変質層を除去するとともに、プレス材106の表面を所定の表面粗さに加工したセパレータ108を造ることはできるが、硬質粒子からなる導電物111の表面を平坦化することが困難であった。
【0011】
セパレータ108に含まれた導電物111の表面を平担化することができない場合は、セパレータ108をMEAに接触させても接触面積が小さくなり、セパレータ108の接触抵抗が大きくなり、発電装置の導電性が劣り、性能が低下するという問題が発生する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、導電性のある硬質粒子のMEAに対する接触面積を増やし、導電性に優れた燃料電池用金属セパレータの加工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に係る発明は、金属母材に硬質粒子を含有させてなる金属板に塑性加工を施して形状を整え、得られた塑性加工物の表面を研削加工により削って平坦化すると共に硬質粒子を露出させ、得られた研削加工物の表面を砥石により仕上げて硬質粒子を突出させる燃料電池用金属セパレータの加工方法において、
砥石は、金属母材より硬くて且つ硬質粒子より軟らかい砥粒と、ビトリファイドボンドからなる結合剤とを主構成要素にし、砥石の乾燥工程では砥石を圧縮させないで製造し、得られた多孔質砥石を用いることを特徴とする。
【0014】
砥粒が金属母材より硬くて且つ硬質粒子より軟らかい性質の砥石でセパレータを仕上げる。金属母材のみを削り、硬質粒子を突出させることができる。一部が突出する硬質粒子は先端が、前工程の研削加工で平坦化している。この平坦面は砥石で丸くなることはない。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明によれば、先端が平坦な硬質粒子を、傷めずに金属簿材から一部を突出させることができる。突出した硬質粒子の平坦面がMEAに良好に接触し、電気的な接触抵抗を下げる役割を果たす。
すなわち、導電性のある硬質粒子のMEAに対する接触面積を増やし、導電性に優れた燃料電池用金属セパレータの加工方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
図1は本発明に係る燃料電池用金属セパレータの加工方法を説明するフローチャートであり、図中ST××はステップ番号を示す。また、各ステップの右に参照図を付記した。
【0017】
ST01:ステンレス母材に、粒状の導電性のある硬質粒子を含有させたステンレス鋼材を準備する。
ST02:ステンレス鋼材を所定の厚さに圧延する。
【0018】
ST03:圧延したステンレス鋼材をセパレータ半完成品にプレス成形する。
ST04:セパレータ半完成品をベルト研削し、表面の変質層を除去し、硬質粒子の露出面を平坦化する。
【0019】
ST05:ベルト研削後のセパレータ半完成品を砥石研削し、ステンレス母材のみを削って仕上げる。
以上のステップ(工程)により、セパレータの完成品を得ることができる。
【0020】
図2はステンレス鋼材を圧延する工程を説明する図である。
(a)で、準備したステンレス鋼材10は、ステンレス母材11に粒状の導電性のある硬質粒子12・・・を含有させたものである。
【0021】
(b)で、ステンレス鋼材10に接触させた上下のロール15、16を矢印A、矢印Aの如く回転させ、ステンレス鋼材10を矢印Bの如く所定の厚さt1に冷間圧延することで圧延材を得る。
この圧延の際に、圧延の影響で、ステンレス鋼材10の表層17、17の導電性のある硬質粒子12・・・が砕かれることが考えられる。
このため、圧延材19の表層18、18(以後、変質層とする)には、砕かれて小さくなった導電性のある硬質粒子12・・・が存在する。
【0022】
図3は圧延材をセパレータ半完成品にプレス成形を施す工程を説明する図である。
(a)で、圧延材19をプレス成形機20の下型22に載せ、上型21を矢印Cの如く下げて、プレス成形する。
【0023】
(b)で、圧延材19のプレス成形により得られたステンレス鋼製のセパレータ半完成品30を示す。5a部は後述の図5で詳しく説明する。
このセパレータ半完成品30を凹凸状に形成することで、凹状の部位を、ガスや水を導くための溝31・・・とし、凸状の部位を図示しないMEAの両面に接触する凸部32・・・(すなわち、接触部)とする。
ここで、セパレータ半完成品30の凸部32・・・のみの接触抵抗を小さくすればよいので、セパレータ半完成品30の両面全域の接触抵抗を小さくする必要はない。
【0024】
したがって、図1に示したST04のセパレータ半完成品をベルト研削して表面の変質層を除去し、硬質粒子の露出面を平坦化する工程と、ST05のベルト研削後のセパレータ半完成品を砥石研削し、ステンレス母材のみを削って仕上げる工程において、セパレータ30の凸部32のみを処理すればよい。
これにより、処理時間の短縮化と、研削砥石の摩耗などによる損耗を低減することが可能となる。
【0025】
図4は本発明に係るベルト研削機を説明する図であり、ベルト研削機40は、縦に配置した2つのロール41、42と、これらロール41、42に掛渡したベルト43と、下方側のロール42の下方に一定の隙間を空けて備えた複数のロール44・・・とからなる装置である。
【0026】
このベルト研削機40を使ってセパレータ半完成品30の凸部32・・・を研削する場合は、ロール42及びこのロール42に掛けたベルト43とロール44・・・との隙間にセパレータ半完成品30を挿入し、ロール41、42を矢印Dの如く回転させると、セパレータ半完成品30の凸部32・・・の一部をベルト43で研削しながら、セパレータ半完成品30の下部に接触したロール44・・・を矢印Eの如く回転させ、セパレータ半完成品30を矢印Fの如くゆっくり送り進め、セパレータ半完成品30のすべての凸部32・・・を研削することができる。
【0027】
図5はプレス成形及びベルト研削後のセパレータ半完成品の凸部断面図である。
(a)は図3の5a部拡大図を示す。
プレス成形後のセパレータ半完成品30の凸部32は、ステンレス母材11に導電性のある硬質粒子12・・・を含有したもので、プレス成形によりできた厚さt2の変質層18に、圧延の際に砕かれた小さな導電物51・・・を含む。
【0028】
(b)で、ベルト研削で変質層18を除去した後の凸部32は、研削面52に小さな導電物51を残し、ステンレス母材11の内部に導電性のある硬質粒子12・・・を含む。
小さな導電物51が研削面52に残ると、図示しないMEAに接触する導電性のある部分の接触面積が小さくなり、完成したセパレータの導電性を良好に保つことが難しい。
そこで、ベルト研削をさらに進め、厚さt3だけ研削し、ステンレス母材11の内部に含む導電性のある硬質粒子12・・・の表面を出し、セパレータの導電性を良好に保つことを試みた。
【0029】
(c)で、ベルト研削を進めた凸部32は、ステンレス母材11の表面53に出た導電性のある硬質粒子12・・・の露出面54が平坦化された。
以上のように、図4に示すベルト研削機40を用いることによって、セパレータ半完成品30の凸部32の表面53及び導電性のある硬質粒子12の露出面54を容易に平坦化することができる。
【0030】
図6は本発明に係る砥石研削機を説明する図である。
(a)で、砥石研削機60は、定盤61と、この定盤61に載せたワーク載置台62と、多孔質砥石63と、この多孔質砥石63を矢印Gのごとく回転させる回転軸64と、砥石63の下面65とセパレータ半完成品30との間に研磨液67を噴射するクーラントノズル66とからなる平面研削装置である。
【0031】
(b)は(a)のb部拡大図を示す。
多孔質砥石63は、図示しないステンレス母材11より硬くて且つ導電性のある硬質粒子12・・・より軟らかい砥粒71・・・と、ビトリファイドボンド72からなる結合剤とを主構成要素にし、砥石の乾燥工程では砥石を圧縮させないで製造し、多数の気孔73・・・を含有させたものである。
【0032】
砥粒71・・・をステンレス母材11より硬くて且つ導電性のある硬質粒子12・・・より軟らかくすることで、ステンレス母材11から突出した導電性のある硬質粒子12・・・の脱落が防止する。
また、砥粒71・・・をステンレス母材11より硬くて且つ導電性のある硬質粒子12・・・より軟らかくすることで、ステンレス母材11のみを削り、表面を平坦化した導電性のある硬質粒子12・・・を突出させることで、被接触部材に対する導電性のある硬質粒子12・・・の接触面積を増す。
【0033】
多孔質砥石63は、気孔73・・・が有るために、研削時の研削カスをこの気孔73・・・内に吸収し、砥石の研削性を向上させる。
また、砥粒71が硬質粒子12を脱落させる位の力が加わった場合、砥粒71の保持力が弱いので砥粒71が脱落する。この結果、硬質粒子12の脱落を防止することができる。
【0034】
図7は砥石研削前後のセパレータの凸部断面図であり、得られたセパレータ80の凸部81では、ステンレス母材11の砥石研削面82から露出した導電性のある硬質粒子12・・・の露出面54が平坦化された状態である。
表面仕上げを砥石で行う場合は、図示しない砥粒71・・・をステンレス母材11より硬くて且つ導電性のある硬質粒子12・・・より軟らかくすることで、ステンレス母材11から突出した導電性のある硬質粒子12・・・の脱落を防止する。
【0035】
また、表面仕上げを砥石で行う場合は、図示しない砥粒71・・・をステンレス母材11より硬くて且つ導電性のある硬質粒子12・・・より軟らかくすることで、ステンレス母材11のみを削り、表面を平坦化した導電性のある硬質粒子12・・・を突出させることで、被接触部材に対する導電性のある硬質粒子12・・・の接触面積を増す。
【0036】
図8は本発明に係るセパレータの凸部を被接触部材に接触させた状態を説明する図であり、セパレータ80の凸部81は、導電性のある硬質粒子12・・・の露出面54・・・がステンレス母材11の砥石研削面82からt5だけ頭出しすることで、導電性のある硬質粒子12・・・の露出面54・・・をMEA85の一方の面86に確実に接触させる。
【0037】
ここで、導電性のある硬質粒子12・・・の露出面54・・・を確実に露出させることで、露出面54・・・のMEA85との接触面積S・・・を大きく確保できる。
また、導電性のある硬質粒子12・・・は、セパレータ80の導電性を高めるための物質である。導電性のある硬質粒子12・・・のMEA85に対する接触面積S・・・を増やし、導電性のある硬質粒子12・・・の突出表面をMEA85に確実に接触させることで、導電性のある硬質粒子12・・・のMEA85に対する接触抵抗を下げることができる。
したがって、セパレータ80のMEA85に対する接触抵抗を小さく抑えることができる。
【0038】
尚、本発明における燃料電池用金属セパレータ80の加工方法で用いる砥石は、金属母材より硬くて且つ導電性のある硬質粒子12より軟らかい砥粒71と、ビトリファイドボンド72からなる結合剤とを主構成要素にし、砥石の乾燥工程では砥石を圧縮させないで製造し、得られた多孔質砥石63を用いればよく、砥粒71の種類を特に問わない。
また、ビトリファイドボンド72からなる結合剤の原料や種類は特に問わない。
さらに、導電性のある硬質粒子12はその種類を特に問わない。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の燃料電池用金属セパレータの加工方法は、四輪車の燃料電池に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る燃料電池用金属セパレータの加工方法を説明するフローチャートである。
【図2】ステンレス鋼材を圧延する工程を説明する図である。
【図3】圧延材をセパレータ半完成品にプレス成形を施す工程を説明する図である。
【図4】本発明に係るベルト研削機を説明する図である。
【図5】プレス成形及びベルト研削後のセパレータ半完成品の凸部断面図である。
【図6】本発明に係る砥石研削機を説明する図である。
【図7】砥石研削前後のセパレータの凸部断面図である。
【図8】本発明に係るセパレータの凸部を被接触部材に接触させた状態を説明する図である。
【図9】従来の技術の基本原理を説明する図である。
【符号の説明】
【0041】
11…ステンレス母材 、12…導電性のある硬質粒子 、19…圧延材 、30…セパレータ半完成品 、32…凸部 、60…砥石研削機 、63…多孔質砥石 、67…研磨液 、71…砥粒 、72…ビトリファイドボンド 、73…気孔 、80…セパレータ 、82…砥石研削面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属母材に硬質粒子を含有させてなる金属板に塑性加工を施して形状を整え、得られた塑性加工物の表面を研削加工により削って平坦化すると共に前記硬質粒子を露出させ、得られた研削加工物の表面を砥石により仕上げて前記硬質粒子を突出させる燃料電池用金属セパレータの加工方法において、
前記砥石は、前記金属母材より硬くて且つ前記硬質粒子より軟らかい砥粒と、ビトリファイドボンドからなる結合剤とを主構成要素にし、砥石の乾燥工程では砥石を圧縮させないで製造し、得られた多孔質砥石を用いることを特徴とする燃料電池用金属セパレータの加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−134667(P2006−134667A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−321193(P2004−321193)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】