説明

現像剤担持体、その製造方法及び現像装置

【課題】長期にわたる使用においても、現像剤担持体表面が不均一に磨耗することを抑制し、さらにトナーのチャージアップを抑制することが可能である現像剤担持体、それを用いた現像装置及び現像剤担持体の製造方法を提供する。
【解決手段】基体と該基体表面に形成された樹脂層を有する現像剤担持体において、該樹脂層が少なくとも以下の(A)成分乃至(D)成分を含む塗料組成物を熱硬化して得られることを特徴とする現像剤担持体。(A)−NH2基、=NH基、もしくは−NH−結合のいずれかを有するフェノール樹脂、(B)黒鉛化カーボンブラック、(C)特定の構造をした第4級ホスホニウム塩化合物、(D)モース硬度が6以上9以下である粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は現像剤担持体、その製造方法及び現像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真画像の形成に用いられるトナーは、電子写真画像のより一層の高画質化の要求に応えるために球形化、小粒径化および微粒子化が進められてきている。しかし、粒径の小さいトナーは単位質量当たりの表面積が大きくなるため、現像工程時に表面電荷が大きくなりやすい。また、球形化トナーは、従来の粉砕トナーに比べて表面が平滑化されており、また、磁性体が内包されやすいため、帯電量が高くなる傾向がある。特に、現像剤担持体の繰り返しの回転に伴って、現像剤担持体に担持されているトナーが過剰に帯電されることがある。このようなトナーは、現像剤担持体の表面に強く引き付けられて、当該表面に滞留することがある。この場合、現像剤担持体からトナーが感光体ドラム上の潜像に移動しなくなる、所謂、チャージアップ現象が生じる。特許文献1は、第4級アンモニウム塩とフェノール樹脂とを含む塗料を用いて形成した樹脂層を有している現像剤担持体によって、かかるチャージアップ現象を抑制し得ることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−040797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らの検討によれば、特許文献1に係る現像剤担持体を用いることで、トナーのチャージアップを抑制し、安定して適切な電荷をトナーに付与することができた。その一方で、特許文献1に係る発明は、以下のような課題を有していることを本発明者らは見出した。すなわち、帯電されやすいトナーの過剰帯電のより一層の抑制のために、フェノール樹脂への第4級アンモニウム塩の添加量を増やした塗料を調製したところ、当該塗料の保存安定性が低下する傾向が見られた。これは、第4級アンモニウム塩の添加により、フェノール樹脂が常温で架橋されやすくなり、長期保存によりその分子量が増大し溶液粘度が上昇するためである。また、該塗料を、溶剤で希釈した場合にゲル化が起こりやすくなることがあった。ゲル化が生じた塗料を用いて形成した樹脂層には導電剤など顔料の凝集物が観察されることがある。長期にわたる使用では、導電剤を樹脂層中に均一に存在させて樹脂層の耐磨耗性や潤滑性を均一にし、樹脂層の選択的な削れを更に抑制する必要があった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、長期にわたる使用においても、現像剤担持体表面が不均一に磨耗することを抑制し、さらにトナーのチャージアップを抑制することが可能である現像剤担持体とその製造方法、及び現像装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる現像剤担持体は、基体と該基体表面に形成された樹脂層を有する現像剤担持体において、該樹脂層が少なくとも以下の(A)成分乃至(D)成分を含む塗料組成物を熱硬化して得られることを特徴とする。
(A)−NH2基、=NH基、もしくは−NH−結合のいずれかを有するフェノール樹脂、
(B)X線回折で測定される黒鉛(002)面の面間隔が0.3370nm以上0.3450nm以下である黒鉛化カーボンブラック、
(C)下式(1)に示される第4級ホスホニウム塩化合物、
【0007】
【化1】

【0008】
(式(1)中、R1〜R4は各々独立にフェニル基、ベンジル基、炭素数2〜3のアルケニル基、および炭素数1〜7のアルキル基からなる群から選ばれるいずれかの基であり、但し、R1〜R4から選ばれる1つまたは2つ以上の基は、フェニル基またはベンジル基である。A-はアニオンを示す。)、
(D)モース硬度が6以上9以下である粒子。
【0009】
また、本発明に係る現像剤担持体の製造方法は、基体と該基体の表面に形成された樹脂層を有する現像剤担持体の製造方法であって、少なくとも上記(A)成分乃至(D)成分を含有する塗料の塗膜を該基体の表面に形成し、次いで該塗膜を硬化させて該樹脂層を形成する工程を有することを特徴とする現像剤担持体の製造方法に関する。
【0010】
更に本発明は、負帯電性現像剤、該負帯電性現像剤が収容されている現像剤容器、該現像剤容器から供給された該負帯電性現像剤を表面に担持し且つ搬送する回転自在に保持された現像剤担持体、及び該現像剤担持体上に形成される該負帯電性現像剤層の層厚を規制するための現像剤層厚規制部材を備えた現像装置において、該現像剤担持体として前記の現像剤担持体が使用される現像装置に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、長期にわたる使用によっても樹脂層の不均一な削れが生じにくく、また、表面へのトナーの滞留を抑制できる現像剤担持体を得ることができる。また、本発明によれば、長期にわたり、安定して高品位な電子写真画像を形成することのできる現像装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の現像剤担持体を用いた、現像装置の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の現像剤担持体を用いた、第二の現像装置の一例を示す模式図である。
【図3】本発明の現像剤担持体を用いた、第三の現像装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、好ましい実施の形態を挙げて本発明について詳述する。本発明に係る現像剤担持体は、基体と該基体表面に形成された樹脂層を有する。そして、該樹脂層は、以下の(A)乃至(D)の成分を含む塗料組成物の塗膜の熱硬化物からなる。
(A)−NH2基、=NH基、もしくは−NH−結合のいずれかを有するフェノール樹脂、
(B)X線回折で測定される黒鉛(002)面の面間隔が0.3370nm以上0.3450nm以下である黒鉛化カーボンブラック、
(C)下式(1)に示される第4級ホスホニウム塩化合物、
【0014】
【化2】

【0015】
式(1)中、R1〜R4は各々独立にフェニル基、ベンジル基、炭素数2〜3のアルケニル基、および炭素数1〜7のアルキル基からなる群から選ばれるいずれかの基であり、但し、R1〜R4から選ばれる1つまたは2つ以上の基は、フェニル基またはベンジル基である。A-はアニオンを示す。
(D)モース硬度が6以上9以下である粒子。
〔(D)成分の粒子〕
モース硬度が6以上9以下である粒子を含有させることの意義は、樹脂層に十分な耐磨耗性を付与することにある。ここで、モース硬度は、旧モース硬度を示し、標準となる鉱物と試料を相互に引き合わせ、傷の付く方が軟らかく、硬度が小であるとする定性的な方法により決められた値である。標準となる鉱物のモース硬度は、滑石を1、石膏を2、方解石を3、蛍石を4、燐灰石を5、正長石を6、水晶を7、黄玉を8、鋼玉を9、ダイヤモンドを10としている。モース硬度が6以上9以下の粒子は、粒子自身の硬度が高くて耐磨耗性が非常に優れていることから、樹脂層全体の耐磨耗性を向上させることができる。
【0016】
(D)成分に用い得る粒子としては、例えば以下の粒子群から選ばれる1つまたは2つ以上を用いることができる。酸化セリウム粒子、酸化クロム粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化ケイ素粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化チタン粒子等;窒化ホウ素粒子、窒化アルミニウム粒子、窒化チタン粒子等;炭化ケイ素粒子、炭化チタン粒子、炭化ホウ素粒子、炭化タングステン粒子、炭化バナジウム粒子、炭化ジルコニウム粒子など;ホウ化ジルコニウム粒子、ホウ化チタン粒子、ホウ化ケイ素粒子、ホウ化タングステン粒子、ホウ化カルシウム粒子等;ケイ化チタン粒子、ケイ化ジルコニウム粒子、ケイ化クロム粒子、ケイ化タングステン粒子等。中でも、真比重と体積抵抗の観点から以下の粒子が特に好ましく用い得る。炭化ホウ素粒子、炭化ケイ素粒子、炭化チタン粒子、ホウ化チタン粒子、ホウ化カルシウム粒子、ケイ化チタン粒子、ケイ化ジルコニウム粒子およびケイ化クロム粒子。
【0017】
(D)成分の粒子は、個数平均粒径が0.1μm以上2μm以下であるものが好ましい。個数平均粒径がこの範囲にあることで、樹脂層表面に均一且つ十分な耐磨耗性を付与できる。またこの粒子は、真比重が1.0g/cm3以上5.2g/cm3以下であることが好ましい。比重がこの範囲にあることで、樹脂層を形成する際の塗料中における粒子の分散性が良好となり、樹脂層中に均一に存在することができる。更にこの粒子は、体積抵抗値が10Ω・cm以下であることが好ましい。体積抵抗がこの範囲にあることで、樹脂層の体積抵抗を小さく抑えることができ、トナーのチャージアップを抑制することができる。
【0018】
またこの粒子の樹脂層中における含有量としては、後述する結着樹脂の100質量部に対して5質量部〜100質量部が好ましい。粒子の添加量をこの範囲にすることで、樹脂層に均一な耐磨耗性を付与することができる。
【0019】
また更にこの粒子は、表面にカップリング処理を施されていてもよい。粒子の表面にカップリング処理が施されることで、該粒子が樹脂層中で均一に存在することができ、現像担持体に均一な耐磨耗性を付与することができる。このようなカップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤がある。
〔(B)成分の黒鉛化カーボンブラック〕
樹脂層に黒鉛化カーボンブラックと特定の構造の第4級ホスホニウム塩化合物及び特定のフェノール樹脂を含有させることの意義は、樹脂層に対してより一層の耐磨耗性と均一な潤滑性を付与することにある。黒鉛化カーボンブラックは、良好な潤滑性を得るために、従来のカーボンブラックを黒鉛化処理して得られるものである。すなわち、黒鉛化カーボンブラックは、従来のカーボンブラックと比較すると、表面が黒鉛化されており、炭素層面が平行に並んだ殻のような構造をとっており、摩擦が低くて良好な潤滑性を有する。そのため、樹脂層に潤滑性を付与することでトナーの滞留を抑制できる。また、このような黒鉛化カーボンブラックは従来のカーボンブラックと同様に粒径がナノオーダーのものを用いることが可能となるので、モース硬度6以上9以下の粒子の周辺にも黒鉛化カーボンブラックを均一に存在させることができる。
【0020】
黒鉛化カーボンブラックの原料であるカーボンブラックとしては、従来知られているファーネス法、チャンネル法、サーマル法で製造されたカーボンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、種々の副生カーボンブラックを使用できる。黒鉛化カーボンブラックは、1次平均粒子径が10nm以上100nm以下であることが好ましい。黒鉛化カーボンブラックの1次平均粒子径がこの範囲にあることで、樹脂層中に黒鉛化カーボンブラックが均一に存在でき、現像剤担持体に均一な耐磨耗性と均一な潤滑性を付与できる。
【0021】
また、黒鉛化カーボンブラックはX線回折から得られる黒鉛(002)面の面間隔が0.3370nm〜0.3450nmである。面間隔が小さいほど黒鉛化(結晶化)が進む方向となるが、カーボンブラックは一般的に結晶化させ難いため、この面間隔を0.3370nm未満とすることが困難である。一方、面間隔が0.3450nmを超える場合には黒鉛化(結晶化)の程度が低くなり、樹脂層に対して十分な潤滑性与えることが困難となる。本発明では、黒鉛化カーボンブラックの表面に有機基を共有結合させて、その表面を改質処理したものを使用してもよい。
【0022】
黒鉛化カーボンブラックの表面の改質処理方法として、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、ケイ素の中から選ばれる少なくとも一つ以上の元素を有する有機金属化合物によって行う方法、ラジカル重合開始剤の存在下、加熱する方法が挙げられる。黒鉛化カーボンブラックの配合量は、結着樹脂100質量部に対して1質量部〜100質量部が好ましい。この範囲とすることで樹脂層の強度を損なうことなく、所望の抵抗値や潤滑性をもった現像剤担持体を得ることができる。また、本発明の現像剤担持体は、樹脂中に黒鉛化カーボンブラック以外の導電剤を併用し含有させてもよい。
〔(C)成分の第4級ホスホニウム塩化合物〕
本発明は、樹脂層に−NH2基、=NH基、もしくは−NH−結合のいずれかを有するフェノール樹脂と特定構造の第4級ホスホニウム塩化合物を含有させることを特徴とする。特定の基を構造中に含むフェノール樹脂と第4級ホスホニウム塩化合物を含む樹脂層を形成することが、トナーに対して良好な摩擦帯電付与が可能となる。また、第4級ホスホニウム塩化合物の構造を特定の構造に限定することで、黒鉛化カーボンブラックの分散性を向上させることが可能となる。一般に、第4級ホスホニウム塩化合物はトナーへ負の摩擦帯電付与性を高める効果がある。しかし、本発明では、−NH2基、=NH基、もしくは−NH−結合のいずれかを有するフェノール樹脂中に第4級ホスホニウム塩化合物を添加することで、第4級ホスホニウム塩化合物がトナーに対する負の摩擦帯電付与性を抑制する効果を見出したものである。
【0023】
本発明に用いられる第4級ホスホニウム塩化合物は、下記一般式(1)で表される化合物である。
【0024】
【化3】

【0025】
式(1)中、R1〜R4は各々独立にフェニル基、ベンジル基、炭素数2〜3のアルケニル基および炭素数1〜7のアルキル基からなる群から選ばれる何れかの基であり、かつ、R1〜R4から選ばれる1つまたは2つ以上が、フェニル基またはベンジル基である。より好ましい第4級ホスホニウム塩は、R1〜R4から選ばれる1以上3以下の基がフェニル基またはベンジル基であり、残りの1以上3以下の基が炭素数1〜7のアルキル基であるものである。
【0026】
黒鉛化カーボンブラックを極性の高いフェノール樹脂溶液に良好に分散させる場合、表面に官能基を有さない黒鉛化カーボンブラックとフェノール樹脂溶液を湿潤させる必要がある。本発明者らは、黒鉛化カーボンブラックが豊富に持っているπ電子に着目し、特定構造の第4級ホスホニウム塩化合物をフェノール樹脂用溶液中に添加することで、黒鉛化カーボンブラックがフェノール樹脂溶液により良好に湿潤されることを見出した。すなわち、第4級ホスホニウム塩化合物のR1〜R4から選ばれる1以上3以下の基がフェニル基またはベンジル基である場合、第4級ホスホニウム塩化合物と黒鉛化カーボンブラックのπ−π結合により両者が吸着され、良好に湿潤される。
【0027】
また、R1〜R4のうちの、フェニル基またはベンジル基でない基が、炭素数2〜3のアルケニル基や炭素数1〜7のアルキル基であると、第4級ホスホニウム塩化合物とフェノール樹脂溶液の相溶性が良好となる。その結果、フェノール樹脂溶液中に黒鉛化カーボンブラックが良好に分散させることが可能となる。式(1)におけるA-は、ハロゲンイオン、OH-、有機酸イオン及び無機酸イオンの中から選ばれる陰イオンを示す。また、フェノール樹脂に添加して塗料とした場合の保存安定性がより優れる傾向にあることから、A-はハロゲンイオン又はOH-であることが好ましい。表1に、上記式(1)で示される第4級ホスホニウム塩化合物の具体例を示す。
【0028】
【表1】

【0029】
一般的に、第4級ホスホニウム塩化合物は、前記したように、正帯電トナーの摩擦帯電量を高めるための正帯電性の荷電制御剤として用いられる。しかし、第4級ホスホニウム塩化合物を、特定構造のフェノール樹脂と混合して調製してなる塗料を用いて形成した樹脂層は、第4級ホスホニウム塩化合物自身の正帯電性を緩和する方向に働き、負帯電トナーの過剰な摩擦帯電を抑制することが可能となる。これにより、現像剤担持体上でのトナーのチャージアップを防ぎ、トナーの滞留を抑制することでスジ状の画像不良を抑制した高精細画像を提供することが可能となる。
【0030】
本来は正帯電性の荷電制御剤である第4級ホスホニウム塩化合物を、特定のフェノール樹脂と組み合わせることによって、上記したような効果が奏される理由を、次に記載する。本発明に係る第4級ホスホニウム塩化合物は、構造中に−NH2基、=NH基及び−NH−結合の少なくとも1つを含むフェノール樹脂中に添加され均一に分散される。次いで、この樹脂組成物を加熱硬化させると、フェノール樹脂の架橋が進む際に、第4級ホスホニウム塩化合物と、−NH2基、=NH基又は−NH−結合との間での何らかの相互作用によって第4級ホスホニウム塩化合物がフェノール樹脂骨格中に入り込まれる。そして、第4級ホスホニウム塩化合物が取り込まれた樹脂組成物は、第4級ホスホニウムイオンのカウンターイオンの帯電極性が発現するようになり、その結果、このような樹脂組成物は負帯電性を持つようになると考えられる。これら第4級ホスホニウム塩化合物の存在は、例えば、現像剤担持体表面からの研削やクロロホルムの如き溶媒による抽出で採取したサンプルを、GC−MS等で測定することにより可能である。
【0031】
また、第4級ホスホニウム塩化合物及び黒鉛化カーボンブラックを、構造中に−NH2基、=NH基及び−NH−結合のいずれかを有するフェノール樹脂に添加した塗料の保存安定性は非常に優れている。例えば、アゾ系の鉄錯体化合物をフェノール樹脂中に分散した塗料は、保存によって塗料粘度の下降、塗料中の黒鉛化カーボンブラックの凝集、樹脂層とした際の体積抵抗の上昇など物性変化が顕著となる。また、第4級アンモニウム塩をフェノール樹脂に添加した塗料は、フェノール樹脂の架橋反応が常温でも促進されることがある。その場合、長期保存によって樹脂の分子量が増大し塗料粘度の上昇を招き、溶剤で希釈した場合にゲル化が起こりそれを起点とした黒鉛化カーボンブラックの凝集物の発生が見られることがある。本発明に係る塗料は、フェノール樹脂溶液に対する第4級ホスホニウム塩化合物の相溶性が高く、樹脂中に均一に存在し易く、また比較的気温の高い環境下でフェノール樹脂との反応性が殆どない。そのため、当該塗料を長期保存した場合においても、塗料の粘度変化や塗料中での粒子の凝集が起こり難く、保存安定性が良好となる。また、比較的気温の高い環境下で保存された塗料であっても、黒鉛化カーボンブラックが均一に存在する樹脂層を形成することができる。
〔(A)成分のフェノール樹脂〕
樹脂層の結着樹脂としては、構造中に−NH2基、=NH基又は−NH−結合を有するフェノール樹脂が用いられる。このようなフェノール樹脂としては、当該フェノール樹脂の製造工程において、触媒としてアンモニアの如く含窒素化合物を用いて製造されたフェノール樹脂が挙げられる。触媒である含窒素化合物は、重合反応に直接関与し反応終了後においてもフェノール樹脂中に存在する。例えば、アンモニア触媒の存在下にて重合された場合は、アンモニアレゾールと呼ばれる中間体が生成されることが一般的に確認されており、反応終了後においても式(2)のような構造としてフェノール樹脂中に存在する。
【0032】
【化4】

【0033】
触媒としての含窒素化合物は、酸性触媒、塩基性触媒のいずれでもよい。例えば、酸性触媒としては、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等が挙げられる。塩基性触媒の例としては以下のものが例示される。アンモニア;アミノ化合物(ジメチルアミン、ジエチルアミン等);ピリジンおよびその誘導体(α〜γ−ピコリン、2,4−ルチジン、2,6−ルチジン等);含窒素複素環式化合物(キノリン、イミダゾール等)。
【0034】
フェノール樹脂に関しては、IR(赤外吸収分光法)やNMR(核磁気共鳴分光法)等で測定することにより、その構造中に−NH2基、=NH基及び−NH−結合のいずれかを有していることを分析することが可能である。
【0035】
本発明における現像剤担持体の樹脂層の体積抵抗値は、10-1Ω・cm以上104Ω・cm以下であることが好ましい。
〔粗し粒子〕
また、本発明においては、樹脂層中に表面粗さを均一にし、且つ適切な表面粗さを維持するために、凹凸形成の為の粗し粒子を添加することができる。粗し粒子としては、ゴム粒子、エラストマー粒子、樹脂粒子、金属酸化物(アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化錫等)の粒子、炭素粒子、導電処理を施した樹脂粒子等が挙げられる。
〔基体〕
現像剤担持体の基体には、アルミニウム、ステンレス鋼、真鍮等の非磁性の金属または合金を円筒状あるいは円柱状に成型し、研磨、研削の如き処理を施したものが好適に用いられる。磁性トナーを用いる現像方法においては、トナーを現像剤担持体上に磁気的に吸引かつ保持するために、磁石が内設されているマグネットローラを現像剤担持体内に配置する。その場合、基体を円筒状としその内部にマグネットローラを配置すればよい。
〔樹脂層の形成〕
樹脂層は、少なくとも(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分を含有する塗料組成物を用いて塗料を調製し、この塗料を基体の表面に塗布して塗膜を形成し、次いでこの塗膜を熱硬化させた熱硬化物として得ることができる。樹脂層は、例えば、塗料組成物を有機溶剤中に分散混合して塗料化し、基体上に塗工し、乾燥固化あるいは硬化することにより形成可能である。樹脂層の厚さの目安としては、4〜20μm程度である。また、現像剤担持体表面の粗さとして、算術平均粗さRa(JIS B0601−2001)としては、現像剤担持体上のトナーの搬送量およびトナーへの安定した摩擦帯電付与性能を考慮して、0.4〜2.0μm程度とすることが好ましい。
〔現像装置〕
本発明に係る現像装置は、負帯電性の現像剤、該現像剤が収容している現像剤容器、該現像剤容器から供給された該現像剤を表面に担持し且つ搬送する現像剤担持体、及び該現像剤担持体上に形成される該現像剤の層の層厚を規制する現像剤層厚規制部材を具備する。そして、現像剤担持体が、上記した本発明に係る現像剤担持体である。
【0036】
図1は本発明に係る現像装置の一態様を示す断面図である。トナー504として磁性トナーからなる一成分系現像剤(負帯電性現像剤)を用いている。図1において、静電潜像を保持する静電潜像担持体(感光体ドラム)501は矢印B方向に回転される。現像剤担持体(現像スリーブ)508は、現像剤を収容している現像剤容器としてのホッパー503によって供給されたトナー504を担持しつつ、矢印A方向に回転する。それによって、現像スリーブ508と感光体ドラム501とが対向している現像領域Dにトナー504を搬送する。現像スリーブ508内には、トナー504を現像スリーブ508上に磁気的に吸引且つ保持するために、磁石が内接されているマグネットローラ505が配置されている。
【0037】
本発明に係る現像剤担持体である現像スリーブ508は、基体である金属製円筒管506上に、本発明に係る樹脂層507を有する。ホッパー503中には、トナー504を攪拌するための攪拌翼510が設けられている。513は、現像スリーブ508とマゲネットローラ505とが非接触状態にあることを示す間隙である。トナー504は、現像剤を構成する磁性トナー相互間及び現像スリーブ508上の樹脂層507との摩擦により、感光体ドラム501上の静電潜像を現像することが可能な摩擦帯電電荷を得る。
【0038】
図1では、現像領域Dに搬送されるトナー504の層厚を規制するために、現像剤層厚規制部材として強磁性金属製の磁性規制ブレード502を使用している。マグネットローラ505の磁極N1からの磁力線が磁性規制ブレード502に集中することにより、現像スリーブ508上にトナー504の薄層が形成される。現像領域Dにおいて、トナー層の厚みが現像スリーブ508と感光体ドラム501との間の最小間隙以上の厚みである現像装置、即ち、接触型現像装置にも本発明の現像剤担持体を適用することができる。
【0039】
説明の煩雑を避けるため、以下の説明では、上記したような非接触型現像装置を例に採って行う。上記現像スリーブ508に担持されたトナー504を飛翔させるため、上記現像スリーブ508には、バイアス手段としての現像バイアス電源509により現像バイアス電圧が印加される。この現像バイアス電圧として直流電圧を使用するときに、静電潜像の画像部(トナー504が付着して可視化される領域)の電位と背景部の電位との間の値の電圧を現像スリーブ508に印加するのが好ましい。また、高電位部と低電位部を有する静電潜像の高電位部にトナーを付着させて可視化する、所謂、正規現像の場合には、静電潜像の極性と逆極性に帯電するトナーを使用する。高電位部と低電位部を有する静電潜像の低電位部にトナーを付着させて可視化する、所謂、反転現像の場合には、静電潜像の極性と同極性に帯電するトナーを使用する。ここで、高電位、低電位というのは、絶対値による表現である。これらいずれの場合にも、トナー504は少なくとも現像スリーブ508との摩擦により帯電する。
【0040】
図2は、本発明に係る現像装置の他の実施態様を示す断面図である。図2では、現像剤層厚規制部材に弾性規制ブレード511を用いている。弾性規制ブレード511は、ゴム弾性または金属弾性を有しており、また現像スリーブ508の回転方向と逆方向の向きで圧接させている。図3はトナー504として非磁性一成分現像剤を用いている、本発明に係る現像装置の更に他の実施態様を示す断面図である。現像スリーブ内に磁石は存在せず、基体として金属の円筒管が用いられており、非磁性トナーは現像剤層厚規制ブレード511、或いは樹脂層507との摩擦により摩擦帯電され、現像スリーブ508の表面上に担持され搬送される。更に図3においては剥ぎ取り部材512が設置されている。
〔負帯電性現像剤〕
次に、本発明の現像剤担持体を組み込んだ現像装置に用いられるトナー粒子を有する負帯電性現像剤(トナー)について説明する。本発明のトナー粒子は、粉砕法、或いは重合法によって製造することができる。粉砕法を用いたトナーでは、種々の方法で球形化処理、表面平滑化処理を施すと、磁性体を内包しやすくなる。その結果、トナーの転写性が向上し、トナーの消費量を抑制することが可能である。球形化度を高めたトナー粒子は、一般的に高帯電量であり使用状況によっては摩擦帯電量が高くなり過ぎてチャージアップを生じる場合がある。
【0041】
特に、本発明で用いられる現像剤担持体は、このような球形化度を高めたトナー粒子に対して、使用初期から耐久が進んだ場合でもチャージアップを生じる事無く適切な摩擦帯電付与能力を維持することができる。よって、このような高球形化度を有するトナーとの組合せでは、本発明の現像剤担持体はさらに好適に用いることができる。トナーの重量平均粒径としては、より微小な潜像ドットを忠実に現像できるように、3μm以上10μm以下とすることが好ましい。
【0042】
トナーには摩擦帯電特性を向上させる目的で、荷電制御剤をトナー粒子に包含させ(内添)、或いはトナー粒子と混合して用いる(外添)ことができる。トナーが磁性トナーである場合、磁性材料を配合する。トナー粒子の結着樹脂としては、ポリスチレン、スチレン−イソプレン共重合体等のスチレン系共重合体、(メタ)アクリル樹脂等が挙げられる。結着樹脂のガラス転移温度(Tg)は、定着性、保存性の観点から40℃以上70℃以下であることが好ましく、47℃以上60℃以下の範囲がさらに好ましい。
【0043】
本発明で用いられる現像剤担持体は樹脂層の耐磨耗性や潤滑性が均一であるため、ガラス転移温度の低いトナーに対してもトナー融着を抑制する。そのため、結着樹脂のガラス転移温度が低いトナーにも本発明の現像剤担持体は好適に用いることができる。さらに、トナーには、環境安定性、摩擦帯電安定性、現像性、流動性、保存性向上及びクリーニング性向上のために、シリカ、酸化チタン、アルミナの如き無機微粉体を外添し、トナー表面近傍に存在させることが好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を製造例及び実施例により具体的に説明するが、まず、本発明に関わる物性の測定方法について述べる。
<1μm以上の粒子の粒径測定>
1μm以上の粒子の粒径はレーザー回折型粒度分布計:「コールターLS−230型粒度分布計」(商品名、ベックマン・コールター社製)を用いて測定した。測定方法としては、少量モジュールを用い、測定溶媒としてはイソプロピルアルコール(IPA)を使用する。IPAにて粒度分布計の測定系内を約5分間洗浄し、洗浄後バックグラウンドファンクションを実行する。次にIPA50ml中に、測定試料を1mg加える。試料を懸濁した溶液は超音波分散機で約1分間分散処理を行い、試料液を得る。そして、前記測定装置の測定系内に試料液を徐々に加えて、装置の画面上のPIDSが45%〜55%になるように測定系内の試料濃度を調整して測定を行い、体積分布から算術した体積平均粒径を求める。
<1μm未満の粒子の粒径測定>
電子顕微鏡を用い粒子の粒径を測定する。撮影倍率は5万倍とするが、難しい場合は低倍率で撮影した後に5万倍となるように写真を拡大プリントする。写真上で1次粒子の粒径を測る。この際、長軸と短軸を測り、平均した値を粒径とする。これを、100サンプルについて測定し、50%値をもって平均粒径とする。
<粒子の真比重測定>
粒子の真比重は、乾式密度計:「アキュピック1330」(商品名、島津製作所社製)を用いて測定した。
<粒子の体積抵抗測定>
試料を40mmのアルミリングに入れ、2500Nで加圧成形し、抵抗率計:「ロレスタAP」(商品名、三菱油化社製)、又は「ハイレスタIP」(商品名、三菱油化社製)にて体積抵抗値を測定した。尚、測定環境は温度20℃〜25℃,湿度50〜60%RHとした。
<黒鉛化カーボンブラックのX線回折による黒鉛(002)面の面間隔の測定>
黒鉛化カーボンブラック粉末を測定試料とし、試料水平型強力X線回折装置(商品名「RINT/TTR−IIリガク社製)を用いて、X線回折スペクトルから求めた。先ず測定試料を無反射試料板に充填し、モノクロメーターにより単色化したCuKα線を線源とし、X線回折チャートを得た。これより黒鉛(002)回折線のピーク位置を求め、ブラッグの公式(下記数式(1))より面間隔を計算した。CuKα線の波長λは、0.15418nmとした。
【0045】
面間隔(002)=λ/2sinθ 数式(1)
以下に主な測定条件を記す。
【0046】
光学系:平行ビーム光学系;ゴニオメータ:ローター水平型ゴニオメータ(TTR−2);管電圧/電流:50kV/300mA;測定法:連続法;スキャン軸:2θ/θ;測定角度:10°〜50°;サンプリング間隔:0.02°;スキャン速度:4°/min;発散スリット:開放;発散縦スリット:10mm;散乱スリット:開放;受光スリット:1.00mm。
<トナー結着樹脂のガラス転移温度の測定>
結着樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量分析装置:「Q1000」(商品名、TA Instruments社製)を用いてASTM D3418−82に準じて測定する。装置検出部の温度補正はインジウムと亜鉛の融点を用い、熱量の補正についてはインジウムの融解熱を用いる。具体的には、結着樹脂約10mgを精秤し、アルミニウム製のパンの中に入れ、リファレンスとして空のアルミニウム製のパンを用い、測定温度範囲30℃〜200℃の間で、昇温速度10℃/minで測定を行う。この昇温過程で、温度40℃〜100℃の範囲において比熱変化が得られる。このときの比熱変化の前後のベースラインの中間点の線と示差熱曲線との交点を、結着樹脂のガラス転移温度(Tg)とする
<現像剤の重量平均粒径D4の測定>
粒径測定装置:「コールターマルチサイザーIII」(商品名、ベックマン・コールター社製)を用いて測定した。電解液としては、1級塩化ナトリウムを用いて調製した約1%NaCl水溶液を使用した。電解液約100ml中に、分散剤としてアルキルベンゼンスルホン酸塩約0.5mlを加え、さらに測定試料約5mgを加え試料を懸濁する。試料を懸濁した電解液は、超音波分散器で約1分間分散処理を行い、前記測定装置により、100μmアパーチャーを用いて、測定試料の体積、個数を測定して体積分布と個数分布とを算出した。この結果より、体積分布から求めた重量基準の重量平均粒径(D4)を求めた。
<現像剤の平均円形度の測定>
フロー式粒子像測定装置:「FPIA−2100」(商品名、シスメックス社製)を用いて温度23℃、湿度60%RHの環境下で行った。円相当径0.60μm乃至400μmの範囲内の現像剤を測定し、そこで測定された粒子の個々の円形度を下記(数式2)により求めた。平均円形度は、円相当径3μm以上400μm以下の粒子の円形度の総和を、積算した粒子の総数で除した値である。
【0047】
円形度a=L0/L (数式2)
〔式中、L0は粉体像と同じ投影面積を持つ円の周囲長を示し、Lは512×512の画像処理解像度(0.3μm×0.3μmの画素)で画像処理時の粉体像の周囲長を示す。〕
<1.(A)成分またはその代替物:結着樹脂>
結着樹脂1:レゾール型フェノール樹脂:「J325」(商品名、大日本インキ化学工業社製;アンモニア触媒使用、固形分60%)、(A)成分
結着樹脂2:レゾール型フェノール樹脂:「GF9000」(商品名、大日本インキ化学工業社製;NaOH触媒使用、固形分64%)、非(A)成分。
<2−1.(B)成分:黒鉛化カーボンブラックG−1の製造例>
カーボンブラック:「トーカブラック#5500」(商品名、東海カーボン社製)を黒鉛坩堝に入れ、窒素ガス雰囲気中、温度2500℃で熱処理して黒鉛化を行い、黒鉛化カーボンブラックG−1を得た。
<2−2.(B)成分またはその代替物:黒鉛化カーボンブラックG−2〜G−4および導電剤g−2の製造例>
黒鉛化カーボンブラックG−1の製造例と同様の方法で、粒径の異なるカーボンブラックを黒鉛化処理して、本発明にて使用することのできる黒鉛化カーボンブラックを製造した。黒鉛化処理は、カーボンブラックを黒鉛坩堝に充填し、窒素ガス雰囲気中で、温度1000℃〜3000℃で、熱処理することで黒鉛化処理をした。得られた黒鉛化カーボンブラック及び導電剤g−2の物性値を表2に記載した。なお、g−1及びg−3は特別な処理を施していない。尚、g−1〜g−3は非(B)成分である。
【0048】
【表2】

【0049】
<3・(C)成分またはその代替物:第4級ホスホニウム塩化合物H−1〜H−6及びh−1〜h−3、第4級アンモニウム塩h−4>
実施例で用いた第4級ホスホニウム塩(H−1〜H−6)を以下に示す。また、比較例に用いた第4級アンモニウム塩化合物(h−1〜h−4)を表3に示す。h−1〜h−4は、本発明に係る(C)成分でない。
【0050】
H−1:前記表1のNo.1(東京化成工業株式会社製、商品名:B0970)、
H−2:前記表1のNo.5(東京化成工業株式会社製、商品名:T1069)、
H−3:前記表1のNo.4(東京化成工業株式会社製、商品名:B2025)、
H−4:前記表1のNo.6(東京化成工業株式会社製、商品名:M0779)、
H−5:前記表1のNo.2(東京化成工業株式会社製、商品名:A1007)、
H−6:前記表1のNo.8(東京化成工業株式会社製、商品名:H0545)、
【0051】
【表3】

【0052】
<4.(D)成分またはその代替物:粒子M−1〜M−13及びm−1>
本実施例、比較例で用いた粒子およびその物性を表4〜表5に示した。各粒子は、多分割分級装置:「エルボ−ジェット分級機EJ−LABO」(商品名、日鉄鉱業社製)を用いて分級して各々の粒径とした。尚、m−1は、本発明に係る(D)成分でない。
【0053】
【表4】

【0054】
【表5】

【0055】
<5.トナー1の製造>
【0056】
【表6】

【0057】
表6の組成の混合物を温度130℃に加熱した2軸混練押し出し機にて混練した。得られた混練物を冷却した後、ハンマーミルで粗粉砕し得られた粗粉砕物を、機械式粉砕機:「ターボミルT250」(商品名、ターボ工業社製)を用いて微粉砕を行った後、熱球形化処理を行った。熱球形化処理を行った微粉砕粉を、コアンダ効果を利用した多分割分級装置:「エルボジェット分級機」(商品名、日鉄鉱業社製)で、超微粉および粗粉を同時に分級除去して、重量平均粒径(D4)5.7μm、円形度が0.963であるトナー粒子を得た。このトナー粒子100質量部に疎水性コロイダルシリカ1.0質量部を添加し、ヘンシェルミキサー:「FM−75」(商品名、三井三池化工機社製)にて混合分散させることで、磁性一成分トナー1を得た。
<6.トナー2〜5の製造>
スチレン/アクリル酸n−ブチル/ジビニルベンゼン共重合体のMnとMw/Mnを以下のように変更し、それ以外の条件はトナー1と同様にして、トナー2〜5を製造した。
【0058】
トナー2:Mn=2.0万、Mw/Mn=4.3、Tg=47
トナー3:Mn=3.6万、Mw/Mn=3.8、Tg=62
トナー4:Mn=1.6万、Mw/Mn=4.9、Tg=45
トナー5:Mn=4.1万、Mw/Mn=4.1、Tg=70
【0059】
〔実施例1〕
<塗料中間体の作製>
以下の材料を混合し、直径0.8mmのジルコニアビーズをメディア粒子として用いたサンドミル:「スターミル」(商品名、アシザワファインテック社製)にて1時間分散して、本発明の塗料組成物とエタノールの混合物で構成される塗料中間体を得た。
・結着樹脂1 固形分として70質量部
・黒鉛化カーボンブラックG−3 50質量部
・第4級ホスホニウム塩化合物H−1 10質量部
・粒子M−1 15質量部
・エタノール 150質量部
<樹脂層用塗料の作製>
次に、上記塗料中間体に、以下の材料を添加して、乳化分散機:「キャビトロン」(商品名、太平洋機工社製)で3回循環させて樹脂層用塗料を得た。尚、カーボンビーズは粗し粒子である。
・結着樹脂1 固形分として30質量部
・カーボンビーズ:「ニカビーズICB−0520」(商品名、日本カーボン社製) 5質量部
【0060】
<樹脂層用塗料の保管および粘度測定>
上記で得た樹脂層用塗料を1リットルの密閉容器に入れ、当該密閉容器を温度40℃の環境下に20日間静置し、引き続いて、温度23℃の環境に1日間静置した。そして、当該密閉容器内の樹脂層用塗料の粘度をB型粘度計:「ビスコスタープラス」(商品名、ビスコテック社製、使用ロータNo.3番、回転数60rpm)を用いて、測定温度23℃にて測定した。その結果、樹脂層用塗料の粘度は、600cpsであった。
<樹脂層の形成>
上記保管に係る樹脂層用塗料に、エタノールを添加することで固形分濃度を質量37%に調整した。外径24.5mmのアルミニウム製の円筒管を回転台に立てて回転させ、両端部にマスキングを施し、エアスプレーガンを一定速度で下降させながら、樹脂層用塗料を円筒管表面に塗工した。この工程により塗料層を形成させた。なお、塗工条件は温度30℃/湿度35%RHの環境下にて、樹脂層用塗料は恒温槽で温度28℃に制御した状態で塗工を実施した。続いて熱風乾燥炉により温度150℃で30分間加熱して塗料層を硬化させて樹脂層とし、Ra=0.96μmである現像剤担持体D−1を作製した。表5に該現像剤担持体(現像スリーブ)D−1の樹脂層の処方を挙げた。
【0061】
<画像評価>
現像剤担持体D−1にマグネットローラーを挿入した後フランジを取り付けて、デジタル複合機:「iR5075N」(商品名、キヤノン社製)改造機(ギア比を変更して、プロセススピードを1.3倍に改造)の現像器に組み込み、現像装置とした。前記トナー1を用い連続モードで印字比率が1%の文字パターンにて温度30℃/湿度80%RHの環境で200万枚の画像出力を行った後、トナー融着によるスジとトナーのチャージアプによるゴーストについて評価した。結果は表5に示したように、終始良好な現像性を得ることができた。なお、トナー融着によるスジとトナーのチャージアプによるゴーストについては下記基準にて評価した。
(1)スジ
A:スリーブ上と画像上ともに確認できない。
B:スリーブ上には確認されるが、画像上では確認できない。
C:ベタ黒画像上では確認できない。
D:ベタ黒画像上で軽微に確認できる。
E:ベタ黒画像上ではっきりと確認できる。
(2)ゴースト
出力用画像として、先端の現像剤担持体一周分に相当する領域を白地にベタ黒の正方形および円形を等間隔に配置したパターンと、ハーフトーンとを含む画像を用いた。そして、ハーフトーン上への上記パターンのゴーストの発現の程度を下記の基準で評価した。
A:濃淡差が全く見られない。
B:見る角度によってわずかな濃淡差が確認できる程度。
C:ゴーストが目視で明確に確認される。
D:ゴーストがはっきり濃淡として現れ、現像剤担持体二周分以上の濃淡差が確認される。
【0062】
[比較例1]
実施例1において、H−1をh−4に変えた以外は実施例1と同様にして樹脂層用塗料を調製した。この樹脂層用塗料を、実施例1と同様に保管し、保管後の粘度を測定した。その結果、本比較例に係る樹脂層用塗料の粘度は、900cpsであった。このことから、第四級アンモニウム塩を含む本比較例に係る樹脂層用塗料は、実施例1の樹脂層用塗料と比較して保存安定性において劣ることが分かった。次に、保管後の本比較例に係る樹脂層用塗料を用いた以外は、実施例1と同様にして現像剤担持体d−1を形成した。そして、現像剤担持体d−1について、実施例1と同様に評価した。
〔実施例2〜25〕
表7に挙げた処方にて実施例1と同様に現像剤担持体D−2〜D−25を作成し、実施例1と同様に評価した。
【0063】
【表7】

【0064】
[比較例2〜10]
表8に挙げた処方にて実施例1と同様にして、現像剤担持体d−2〜d−10を作成し、評価した。
【0065】
【表8】

【0066】
実施例26〜29
実施例1に係る現像剤担持体D−1の評価において用いたトナー1をトナー2〜トナー5に変えた以外は実施例1と同様にして現像剤担持体D−1を評価した。
【0067】
上記実施例1〜29の評価結果を表9に示す。また、比較例1〜10の評価結果を表10に示す。
【0068】
【表9】

【0069】
【表10】

【0070】
比較例1に係る現像スリーブは、前記した通り、第4級アンモニウム塩(h−4)を含むために高温での保管によって増粘した樹脂層形成用塗布液を用いて樹脂層を形成したものである。そのため、樹脂層中に黒鉛化カーボンブラックが不均一に存在し、現像剤担持体の表面潤滑性が一様でなかった。その結果、200万枚の画像形成により、現像剤担持体の表面の一部にトナーのフィルミングが生じ、ベタ黒画像上に目視にてはっきりと確認できるスジが確認された。比較例2ではフェノール樹脂が−NH2基、=NH基、もしくは−NH−結合のいずれも有していないため、第4級ホスホニウム塩化合物によるトナーのチャージアップ抑制効果が得られなかった。カーボンブラックを使用した比較例3及び黒鉛(002)面の面間隔が大きい(0.3460)黒鉛化カーボンブラック(g−2)を使用した比較例4では、現像剤担持体に十分な潤滑性を付与することができなかった。本発明に用いる第4級ホスホニウム塩化合物の構造とは異なる第4級ホスホニウム塩化合物を用いている比較例5乃至比較例7(h−1〜h−3)においてはトナーのチャージアップ抑制には効果があった。しかしながら、溶液中での黒鉛化カーボンブラックの分散性を向上させることができず、現像剤担持体に均一な潤滑性を付与できなかった。比較例8では第4級ホスホニウム塩化合物を用いなかったために、トナーのチャージアップを抑制できず、また、現像剤担持体に均一な耐磨耗性を付与することができなかった。比較例9ではモース硬度が5の粒子(m−1)を用いたために、樹脂層が十分な耐磨耗性を付与できなかった。比較例10では粒径が10μmの黒鉛(g−3)を用いたために、現像剤担持体に均一な潤滑性を付与できなかった。
【符号の説明】
【0071】
501・・・・像担持体(感光体ドラム)
502・・・・現像剤層厚規制部材(磁性規制ブレード)
503・・・・ホッパー
504・・・・トナー
505・・・・マグネットローラ
506・・・・金属製円筒管(基体)
507・・・・樹脂層
508・・・・現像剤担持体(現像スリーブ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と該基体表面に形成された樹脂層とを有する現像剤担持体であって、
該樹脂層は、以下の(A)乃至(D)の成分を含む塗料組成物の塗膜の熱硬化物であることを特徴とする現像剤担持体:
(A)−NH2基、=NH基または−NH−結合を有するフェノール樹脂、
(B)X線回折で測定される黒鉛(002)面の面間隔が0.3370nm以上0.3450nm以下である黒鉛化カーボンブラック、
(C)下式(1)で示される第4級ホスホニウム塩化合物:
【化1】

(式(1)中、R1〜R4は各々独立にフェニル基、ベンジル基、炭素数2〜3のアルケニル基および炭素数1〜7のアルキル基からなる群から選ばれるいずれかであり、かつ、R1〜R4から選ばれる1つまたは2つ以上の基がフェニル基またはベンジル基である。A-はアニオンを示す。)、
(D)モース硬度が6以上9以下である粒子。
【請求項2】
前記(D)成分は、炭化ホウ素粒子、炭化ケイ素粒子、炭化チタン粒子、ホウ化チタン粒子、ホウ化カルシウム粒子、ケイ化チタン粒子、ケイ化ジルコニウム粒子およびケイ化クロム粒子からなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項1に記載の現像剤担持体。
【請求項3】
負帯電性現像剤、該負帯電性現像剤が収容されている現像剤容器、該現像剤容器から供給された該負帯電性現像剤を表面に担持し且つ搬送する現像剤担持体、及び該現像剤担持体上に形成される該負帯電性現像剤の層の厚さを規制する現像剤層厚規制部材を備えた現像装置であって、該現像剤担持体が、請求項1または2に記載の現像剤担持体であることを特徴とする現像装置。
【請求項4】
請求項1に記載の現像剤担持体の製造方法であって、下記(A)乃至(D)の成分を含有する塗料の塗膜を該基体の表面に形成し、次いで該塗膜を硬化させて樹脂層を形成する工程を有することを特徴とする現像剤担持体の製造方法:
(A)−NH2基、=NH基、もしくは−NH−結合のいずれかを有するフェノール樹脂、
(B)X線回折で測定される黒鉛(002)面の面間隔が0.3370nm以上0.3450nm以下である黒鉛化カーボンブラック、
(C)下式(1)に示される第4級ホスホニウム塩化合物:
【化2】

(式(1)中、R1〜R4は各々独立にフェニル基、ベンジル基、アルケニル基および炭素数1〜7のアルキル基からなる群から選ばれるいずれかであり、かつ、R1〜R4から選ばれる1つまたは2つ以上の基がフェニル基またはベンジル基である。A-はアニオンを示す。)、
(D)モース硬度が6以上9以下である粒子。
【請求項5】
前記(D)成分が、炭化ホウ素粒子、炭化ケイ素粒子、炭化チタン粒子、ホウ化チタン粒子、ホウ化カルシウム粒子、ケイ化チタン粒子、ケイ化ジルコニウム粒子およびケイ化クロム粒子からなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項4に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−154333(P2011−154333A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17490(P2010−17490)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】