説明

現像装置およびそれを備えた画像形成装置

【課題】現像ローラに内蔵される磁極間の角度が大きくなる場合であってもトナー漏出のシール性能を確保することが可能な現像装置およびそれを備えた画像形成装置を提供することを目的とする。
【解決手段】現像装置20は、複数の磁極27,29,37,29を内蔵する現像ローラ22と、隙間G2において複数の磁極27,29,37との間で磁界を形成し、磁界において磁性トナーを磁気的に拘束することにより、磁性トナーの外部への漏出を抑制するシール部材38とを含む。現像ローラ22は、所定の像担持体10に対向する第1領域A1と、シール部材38に対向する第2領域A2とを含み、第2領域A2は、磁性トナーを磁気的に拘束する磁気的拘束力を備えており、第1領域A1は、第2領域A2の磁気的拘束力よりも低い磁気的拘束力を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性トナーを含有する現像剤を所定の像担持体に供給してトナー像を形成する現像装置、およびそれを備えた画像形成装置を提供することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンタ等の電子写真方式を利用する画像形成装置の現像装置は、現像剤を感光体ドラム等の像担持体上に搬送してトナー像を該像担持体上に形成する現像ローラと、現像剤の外部への漏出を抑制するシール部材とを含む(特許文献1)。現像ローラは、周方向に沿って配列された複数の磁極を内蔵しており、磁性トナーを、複数の磁極の磁力を利用して像担持体に搬送する。シール部材は、現像ローラの軸方向両端部のそれぞれに対して対向配置されていると共に、現像ローラが内蔵する複数の磁極との間で磁界を形成し、磁界において磁性トナーを磁気的に拘束することにより、磁性トナーの外部への漏出を抑制する。
【0003】
特許文献1の現像装置では、現像ローラの軸方向に延びる各磁極の長手方向端部が、シール部材の内側端部と外側端部との間に位置するように複数の磁極およびシール部材を構成している。この構成により、シール部材と磁極との間の磁界の強度が上がるので、磁性トナーに対する磁気的拘束力が大きくなる。これにより、磁性トナーの外部への漏出を抑制するシール性能が確保される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−39629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の現像装置は、現像ローラに内蔵された複数の磁極とシール部材との間で形成される磁界を利用して磁性トナーの漏出を抑制する構成を採用している。そのため、磁極間の角度は、磁極とシール部材との間で所望の磁界強度が得られるように調整されている。しかしながら、感光体ドラムの配置等の装置全体のレイアウト的な制限により、磁極間の角度を、シール性能の観点からは適切に調整できない場合がある。
【0006】
特に、感光体ドラムの配置に制限がある場合、現像ローラ上で磁性トナーの層厚を調整するための磁極と、磁性トナーを現像ローラ上に担持させるための磁極との間の角度が大きくなる場合がある。その場合、一方の磁極の磁束分布と他方の磁極の磁束分布との間の境界において磁束密度が低下する。そのため、磁界の強度が低下し、シール性能が低下する。その結果、磁性トナーの漏出が起こり得る。
【0007】
そのような磁束密度の低下を補うために、追加の磁極を設けることが考えられるが、その構成の場合、コストアップが避けられない。特にローコストのプリンタ等の画像形成装置では、磁極の数を必要最低限に抑えることが要求されている。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、現像ローラに内蔵される磁極間の角度が大きくなる場合であってもトナー漏出のシール性能を確保することが可能な現像装置、およびそれを備えた画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る現像装置は、ハウジングと、前記ハウジング内に回転可能に配置された現像ローラであって、周方向に沿って配列された複数の磁極を内蔵し、回転に伴い、磁性トナーを含有する現像剤を、前記複数の磁極の磁力を利用して所定の像担持体に搬送することにより、前記所定の像担持体上にトナー像を形成する現像ローラと、前記ハウジング内で前記現像ローラとの間に隙間が形成された状態で前記現像ローラに対向配置されていると共に、前記隙間において前記複数の磁極との間で磁界を形成し、前記磁界において前記磁性トナーを磁気的に拘束することにより、前記磁性トナーの外部への漏出を抑制するシール部材とを含み、前記現像ローラは、前記所定の像担持体に対向する第1領域と、前記シール部材に対向する第2領域とを含み、前記第2領域は、前記磁性トナーを磁気的に拘束する磁気的拘束力を備えており、前記第1領域は、前記第2領域の前記磁気的拘束力よりも低い磁気的拘束力を備えている。
【0010】
本発明に係る現像装置によれば、現像ローラにおけるシール部材に対向する第2領域は、磁性トナーを磁気的に拘束する磁気的拘束力を備えている。そのため、現像装置のレイアウト的な制限により、現像ローラに内蔵されている複数の磁極間の角度が大きくなり、磁極とシール部材との間の磁界の強度が低下しても、つまり、シール部材の磁気的拘束力が低下しても、第2領域の磁気的拘束力により、磁性トナーを、第2領域とシール部材との間で磁気的に拘束することができる。これにより、現像装置のシール性能が確保される。
【0011】
しかも、トナー像が形成される所定の像担持体に対向する第1領域は、第2領域の磁気的拘束力よりも低い磁気的拘束力を備えているので、第1領域上に担持されている磁性トナーは、第1領域の磁気的拘束力によって大きく阻害されることなく、所定の像担持体に移動することができる。これにより、所定の像担持体上に良好なトナー像を形成することが確保できる。
【0012】
このように、本発明に係る現像装置は、第2領域に強い磁気的拘束力を持たせることで、現像装置のレイアウト的な制限に影響されずにシール性能を確保することができると共に、第1領域の磁気的拘束力を低いレベルに抑えることで、良好なトナー像の形成を確保する。
【0013】
本発明の好ましい実施形態では、前記第2領域には、前記磁気的拘束力を発揮することが可能な程度の磁性を備えた強磁性金属層が形成されており、前記第1領域には、前記強磁性金属層の前記磁性よりも弱い磁性を備えた弱磁性金属層が形成されている。
【0014】
この構成によれば、第2領域には、強磁性金属層が形成されているので、磁性トナーに対する磁気的拘束力を容易に確保することができる。一方、第1領域には、弱磁性金属層が形成されているので、磁性トナーの所定の像担持体への円滑な移動を容易に確保することができる。
【0015】
本発明の他の好ましい実施形態では、前記強磁性金属層および前記弱磁性金属層は共に、リンを含有するニッケルめっき層であり、前記強磁性金属層は、前記弱磁性金属層よりも低いリン含有率を有する。
【0016】
この構成によれば、強磁性金属層および弱磁性金属層は共に、ニッケルめっき層であり、リンを含有している。リンの含有率は両金属層の磁性の度合いに影響する要素である。リンの含有率が低くなるにつれ、磁性が強くなり、リンの含有率が高くなるにつれ、磁性が弱くなる。上記構成では、強磁性金属層は、弱磁性金属層よりも低いリン含有率を有する。このように、リン含有率を適宜設定することで、強磁性金属層に強い磁気的拘束力を付与することが容易となり、かつ、磁性トナーの所定の像担持体への搬送性を確保することが容易となる。
【0017】
本発明のさらに他の好ましい実施形態では、前記強磁性金属層の前記リン含有率は、5%以下である。
【0018】
この構成によれば、強磁性金属層に強い磁気的拘束力を確実に付与することができ、現像ローラの磁極間の角度が大きくなった場合であっても、現像装置のシール性能の信頼性を確保できる。
【0019】
本発明に係る画像形成装置は、トナー像が形成される像担持体と、磁性トナーを含有する現像剤を前記像担持体に搬送して、前記像担持体上に前記トナー像を形成する現像装置とを含み、前記現像装置として、上記構成の現像装置が用いられている。
【0020】
本発明に係る画像形成装置は、構成のレイアウト的な制限に影響されずにシール性能を確保することができる現像装置を有している。これにより、画像形成装置の設計の自由度が高くなると共に、磁性トナーが漏出することによって起こり得る装置内汚染が抑制される。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る現像装置および画像形成装置によれば、現像ローラに内蔵される磁極間の距離が大きくなる場合であってもトナー漏出のシール性能を確保することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】画像形成装置の内部構造を概略的に示す図である。
【図2】画像形成装置に用いられる現像装置の内部構成を示す図である。
【図3】現像スリーブ24を感光体ドラム10側から見た図である。
【図4】図3のIII−III線に沿って切断した断面図である。
【図5】現像装置の現像スリーブを断面で示す模式図である。
【図6】図5においてサークルで囲った部分の拡大図であり、現像スリーブの3層構造を示す。
【図7】現像スリーブの斜視図である。
【図8】図7のVII−VII線に沿って切断した断面図である。
【図9】リン含有率と飽和磁束密度との間の関係を示す図である。
【図10】現像スリーブに内蔵されている複数の磁極の磁束分布を示す模式図である。
【図11】従来の構成の現像装置においてシール部材のシール性能をテストするために行った実験の結果を示す図である。
【図12】本実施形態に係る現像装置におけるトナー漏出の抑制動作を模式的に説明するための図である。
【図13】本実施形態に係る現像装置においてシール部材のシール性能をテストするために行った実験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態を詳しく説明する。尚、本発明の一実施形態として、以下の説明では、画像形成装置としてモノクロタイプのプリンタを示すが、本発明は、これに限定されるものではなく、複写機、ファクシミリ装置、これらの機能を併せ持つ複合機などの他の画像形成装置にも適用可能である。
【0024】
図1は、画像形成装置1の内部構造を概略的に示す図である。画像形成装置1は、外部(例えばパーソナルコンピュータ)からの画像データに基づいてシートP上にトナー像を形成する画像形成部4と、シートP上に形成されたトナー像を加熱してシートP上に定着させる定着部5と、シートPを収容する給紙カセット7と、シートPが排出される排紙トレイ12と、給紙カセット7から画像形成部4および定着部5を経由して排紙トレイ12に向けてシートPを搬送する搬送路6と、画像形成装置1の図1における右側面に設けられた手差しトレイ3と、各種のメニューを設定する複数のメニュー設定キー等が配置された操作部(図示せず)とを含む。
【0025】
画像形成部4は、感光体ドラム10(像担持体)と、感光体ドラム10に帯電処理を実行する帯電器42と、帯電された感光体ドラム10にレーザ光Lを照射して、静電潜像を形成する露光器43と、感光体ドラム10に形成された静電潜像にトナーを静電付着させ、トナー像を顕像化する現像装置20と、内部に充填されたトナーを現像装置20へ供給するトナーカートリッジ45と、現像されたトナー像をシートPに転写する転写ローラ46(転写部材)と、感光体ドラム10のドラム表面上に残留するトナーを除去並びに回収するトナー除去器47とを含む。なお、感光体ドラム10の回転方向(図1では時計回りの方向)から見て、帯電器42、現像装置20、転写ローラ46、トナー除去器47の順に、感光体ドラム10の周方向に沿って配置されている。また、露光器43は、帯電器42の上方に配置されている。
【0026】
感光体ドラム10は、例えば、アルミニウム製シリンダの表面に正帯電性光導電体であるアモルファスシリコン層が蒸着された感光体を有するドラムである。
【0027】
帯電器42は、例えば帯電ローラ50を含む。帯電ローラ50は、直流電圧と交流電圧が重畳された所定の基準帯電電圧(基準帯電バイアス)をドラム表面に印加することにより、ドラム表面の表面電位を均一に帯電させる。
【0028】
露光器43は、外部PC(パーソナルコンピュータ)等から入力された画像データに基づくレーザ光Lを感光体ドラム10のドラム表面に導くポリゴンミラー(図示せず)を有している。ポリゴンミラーは、所定の駆動源によって回転しつつ、感光体ドラム10のドラム表面上にレーザ光Lを走査して、ドラム表面に静電潜像を形成する。現像装置20は、静電潜像にトナーを供給してドラム表面上にトナー像を形成する現像動作を行う。
【0029】
転写ローラ46は、搬送路6において感光体ドラム10のドラム表面に圧接されており、転写ローラ46とドラム表面との間には、ニップ部Nが形成されている。転写ローラ46には、ドラム表面の表面電位とは逆極性の電圧が印加されるので、ドラム表面上のトナー像は、シートPがニップ部Nを通過する際にシートP上に転写される。ニップ部Nを通過したシートPは搬送路6を通って定着部5に搬送される。
【0030】
定着部5において、シートP上のトナー像が該シートP上に加熱定着された後、シートPは搬送路6を通って排紙トレイ12に搬送される。
【0031】
以下、現像装置20について、図1に加え、図2を参照しながら詳述する。図2は、現像装置20の内部構成を示す図である。現像装置20は、帯電性を備えた磁性のトナーを含む1成分現像剤を使用するものであって、図1および図2に示すように、該現像装置20の内部空間を画定する現像容器21と、現像剤を貯留する現像剤貯留部11と、感光体ドラム10のドラム表面に対向する現像ローラ22と、規制ブレード30と、シール部材38とを、基本的な構成要素として含む。なお、現像装置20は、非磁性体のトナーと磁性体のキャリアとを含む2成分現像剤を用いることもできる。
【0032】
現像容器21(ハウジング)は、底フレーム21bと、底フレーム21bを上方から覆う本体フレーム21aとを含み、これらの両フレーム21a,21b間において内部空間が画定されている。
【0033】
現像剤貯留部11は、内部空間の大部分を占めて現像剤を貯留する現像剤貯留空間Sと、現像剤貯留空間Sにおいて底フレーム21bに形成され、現像装置20の長手方向に延びる2つの隣り合う現像剤循環路14,15とを含む。
【0034】
現像剤循環路14,15は、例えばアルミニウム等の金属からなる仕切り板17によって長手方向において互いに仕切られているが、長手方向における両端部において互いに連通されている。各現像剤循環路14,15には、回転により現像剤を攪拌しつつ搬送するスクリューフィーダ18,19が回転可能に装着されている。スクリューフィーダ18,19は、搬送方向が互いに逆方向に設定されているので、現像剤は、現像剤循環路14および現像剤循環路15間を攪拌されつつ搬送される。現像剤貯留部11は、トナーカートリッジ45から図略の補給口を介してトナーを現像剤貯留空間S内に受け入れる。
【0035】
現像ローラ22は、感光体ドラム10に現像剤を搬送して感光体ドラム10上にトナー像を形成するローラ部材であって、感光体ドラム10のドラム表面との間に0.2mm〜0.4mmの隙間が形成された状態で感光体ドラム10に対向配置されている。現像ローラ22は、現像装置20の長手方向(つまり、感光体ドラム10の軸方向)に延びる筒状の現像スリーブ24と、現像スリーブ24を図2では反時計回りの方向に回転させる図略の回転軸とを含むローラ部材である。現像スリーブ24は、現像剤循環路14から現像剤を受け取って外周面36上に担持し、回転に伴い、現像剤を後述する規制ブレード30、感光体ドラム10の順に搬送する。
【0036】
現像スリーブ24の内部には、磁石ロール25が内蔵されている。磁石ロール25は、現像スリーブ24の長手方向に延び、現像スリーブ24の内周面との間で微小隙間が形成された状態で支持軸28に固定的に支持されている。
【0037】
磁石ロール25には、汲上極27が形成されている。汲上極27は、現像スリーブ24を介して現像剤循環路14に対向配置された磁極、例えばN極である。汲上極27は、現像剤循環路14内のトナーを、回転している現像スリーブ24の外周面36上に磁気的に付着させ、現像剤層として外周面36上に担持させる。トナーは、現像スリーブ24の回転に伴って規制部Rに向けて搬送される。
【0038】
規制部Rは、外周面36上の現像剤層の層厚を薄層化かつ均一化するために設けられている。規制部Rは、規制ブレード30、規制極29および磁石部材35から構成されている。
【0039】
規制ブレード30は、現像スリーブ24の上方位置で現像スリーブ24に対向した状態で配設され、現像スリーブ24の長手方向に延びる薄板状のSUS部材である。規制ブレード30は、現像スリーブ24に向かって延びる先端部31を有しており、先端部31の先端面と現像スリーブ24の外周面36との間に0.3mm程度の規制ギャップG1が形成されている。
【0040】
規制極29は、規制ブレード30の先端面に対向するように磁石ロール25に形成された磁極、例えばS極である。磁石部材35は、現像スリーブ24の回転方向から見た規制ブレード30の上流面に接合され、現像スリーブ24の長手方向に延びる板状の磁石である。磁石部材35は、現像スリーブ24に向かって延びる先端部を有しており、先端部には、規制極29と同極性の磁極、例えばS極が形成されている。
【0041】
規制ブレード30の先端部31には、規制極29の磁界および磁石部材35の磁界により、規制極29および磁石部材35の先端部とは逆の磁極、例えばN極が誘起されており、規制ブレード30、規制極29および磁石部材35間には、磁路、いわゆる磁気シールドが形成されている。現像剤層は、現像スリーブ24の回転に伴って規制部Rに到達すると、磁気シールドの磁界によって規制ギャップG1において磁気的に拘束されつつ、規制ブレード30によって穂切りされる。これにより、現像剤層の層厚が適正に調整される。
【0042】
現像剤層中のトナーは、現像スリーブ24の外周面36上に担持されるときに外周面36と摩擦接触するので、例えばプラスに帯電する。また、トナーは、規制部Rによって規制されるときにも規制ブレード30と摩擦接触することで帯電する。規制された現像剤層中のトナーは、そのように帯電された状態で現像スリーブ24の回転に伴って感光体ドラム10に向けて搬送される。
【0043】
磁石ロール25には、汲上極27および規制極29に加え、搬送極39が形成されている。搬送極39は、現像スリーブ24を介して感光体ドラム10に対向する磁極、例えばN極である。搬送極39は、その磁力線が感光体ドラム10に集中するように配置されている。規制部Rを通過したトナーは、搬送極39の磁力によって、かつ、現像スリーブ24に印加される現像バイアスと感光体ドラム10に印加されるドラムバイアスとの電位差によって感光体ドラム10のドラム表面の静電潜像に付着する。これにより、ドラム表面上にトナー像が形成される。
【0044】
シール部材38は、現像容器21の内部から、特に、トナーを担持する現像スリーブ24からトナーが外部に漏出することを抑制するための部材である。シール部材38について、図2に加え、図3および図4を参照しながら説明する。図3は、現像スリーブ24を感光体ドラム10側から見た図であり、図4は、図3のIII−III線に沿って切断した断面図である。
【0045】
シール部材38は、現像容器21の内部空間に向かって、かつ現像スリーブ24の外周面36に沿って湾曲した形状を有し、現像スリーブ24の軸方向端部に対向配置されている。図示は省略するが、現像スリーブ24の他方の軸方向端部にもシール部材38が対向配置されている。シール部材38の内周面と現像スリーブ24の外周面36との間には、外周面36に沿って約0.5mmの隙間G2が形成されている。シール部材38における現像スリーブ24の周方向から見た一方の端部381は、現像容器21の内部空間側から規制ブレード30に対向している。シール部材38における他方の端部382は、現像容器21の内部空間側から感光体ドラム10に対向している。
【0046】
磁石ロール25には、汲上極27、規制極29および搬送極39に加え、トナー飛散防止用の飛散防止極37が形成されている。飛散防止極37は、支持軸28を挟んで規制極29とは反対側に位置する磁極、例えばS極である。このように、磁石ロール25には、4つの磁極27,29,37,39が現像スリーブ24の内周面に沿って配列されている。
【0047】
シール部材38は、SECC(電気亜鉛めっき鋼板)等の磁性材料から形成されている。シール部材38は、現像スリーブ24を介して磁石ロール25の汲上極27、規制極29および飛散防止極37と対向しているため、汲上極27、規制極29および飛散防止極37の磁力によって磁化され、それらの磁極27,29,37との間で磁界を形成する。シール部材38は、その磁界の作用により、トナーを、現像スリーブ24の軸方向端部における外周面36とシール部材38との間の隙間G2において磁気的に拘束する。そのため、現像スリーブ24の外周面36上に担持されているトナーが、現像スリーブ24の軸方向端部から外部に漏出することが抑制される。
【0048】
次に、図5を参照して現像スリーブ24について参照する。図5は、現像スリーブ24を断面で示す模式図である。同図に示すように、現像スリーブ24は、筒状のスリーブ基材32と、スリーブ基材32の外周面36上に積層されたニッケルめっき層33と、ニッケルめっき層33上に積層されたクロムめっき層34とを含む3層構造を有する。
【0049】
スリーブ基材32は、アルミニウム等の非磁性金属から形成された素管である。ニッケルめっき層33は、無電解めっき加工によって外周面36上に形成されている。ニッケルめっきの種類は、ニッケル(Ni)−リン(P)である。ニッケルめっき層33の層厚は、0.3μm〜10μmの範囲におけるいずれかの値に設定されている。
【0050】
クロムめっき層34は、電解めっき加工によって形成されている。クロムめっき層34は、ニッケルめっき層33よりも高い硬度(ビッカース硬度)を有する。また、クロムめっき層34の層厚は、0.06μm〜0.2μmの範囲におけるいずれかの値に設定されている。クロムとしては、3価のクロムであることが好ましい。
【0051】
図6は、図5においてサークルで囲った部分CAの拡大図である。同図に示すように、スリーブ基材32の外周面36には、ブラスト処理等によって凹凸が形成されている。外周面36の表面粗さRzは、トナーの平均粒子径に応じて設定されている。具体的には、外周面36の表面粗さRzは、トナーの平均粒子径よりも若干大きく設定されている。平均粒子径が7.1μmのトナーを用いる場合、外周面36の表面粗さRzは、十点平均粗さで7.5μm程度に設定される。
【0052】
ニッケルめっき層33は、スリーブ基材32の外周面36の凹凸に沿って形成されている。また、上層34は、ニッケルめっき層33を介してスリーブ基材32の外周面36の凹凸に沿うように形成されている。ニッケルめっき層33および上層34の外周面36上への形成に起因する凹凸の度合い(表面粗さRz)の低下は極力抑制されている。
【0053】
図7は、現像スリーブ24の斜視図である。現像スリーブ24は、回転に伴い、感光体ドラム10のドラム表面に対向する第1領域A1と、シール部材38に対向する第2領域A2とを有する。第2領域A2は、現像スリーブ24の軸方向両端部のそれぞれに設定されている。第1領域A1は、一対の第2領域A2間に設定されている。
【0054】
図8は、図7のVII−VII線に沿って切断した断面図である。現像スリーブ24の外周面36上に積層されたニッケルめっき層33は、第1領域A1から第2領域A2にわたって延在している。そして、本実施形態では、ニッケルめっき層33は、第1領域A1に対応する第1部分331と第2領域A2に対応する第2部分332とではリンの含有率を異ならせている。
【0055】
具体的には、ニッケルめっき層33の第2部分332は、第1部分331よりも、リン含有率が小さく設定されている。リン含有率は、第1部分331および第2部分332の磁性の度合いに影響する要素である。リン含有率が小さくなるにつれ(つまり、ニッケルの純度が高くなるにつれ)、ニッケルめっきの磁性が強くなる。一方、リン含有率が大きくなるにつれ、ニッケルめっきはアモルファスとなって結晶性が低下するため、その磁性は弱くなる。飽和磁化の観点から言えば、リン含有率が大きくなると、ニッケルめっきの飽和磁化が低下し、リン含有率が小さくなると、ニッケルめっきの飽和磁化が高くなる。
【0056】
本実施形態では、第2部分332では、リン含有率を5%以下に設定している(つまり、ニッケルの純度を95%以上に設定している)。これに対し、第1部分331では、5%を超えて設定されている。そのため、第2部分332は、強い磁性を備えた強磁性金属層として構成され、第1部分331は、第2部分の磁性よりも弱い磁性を備えた弱磁性金属層として構成されている。
【0057】
したがって、弱磁性金属層331と強磁性金属層332とでは、飽和磁化が異なる。図9は、リン含有率と飽和磁束密度との間の関係を示す図である。図9に示すように、リン含有率が大きくなるにつれ、ニッケルめっきの飽和磁束密度が低下し、一方、リン含有率が小さくなるにつれ、ニッケルめっきの飽和磁束密度が増加する。
【0058】
本実施形態では、強磁性金属層332は弱磁性金属層331よりも高い飽和磁束密度を備える。したがって、強磁性金属層332は、現像スリーブ24に内蔵されている汲上極27、規制極29および飛散防止極37の各磁力により、弱磁性金属層331よりも磁化されやすい。そのため、強磁性金属層332は、現像スリーブ24の外周面36に担持されるトナーに対して作用させる磁力が、弱磁性金属層331の磁力よりも大きい。これにより、強磁性金属層332は、外周面36に担持されているトナーを該外周面36に磁気的に拘束する(付着させる)磁気的拘束力が、弱磁性金属層331の磁気的拘束力よりも高い。
【0059】
ところで、上記構成の現像装置20では、汲上極27、規制極29、搬送極39および飛散防止極37は、現像スリーブ24から感光体ドラム10へのトナーの搬送性や、シール部材38のシール性能等を考慮して、各磁極27,29,37,39の磁力、磁極27,29,37,39間の角度等が適宜設定されている。ところが、汲上極27、規制極29、搬送極39および飛散防止極37は、現像装置20のレイアウトや画像形成装置1全体のレイアウトの制限により、例えば感光体ドラム10の配置の制限により、磁極27,29,37,39間の角度、例えば汲上極27と規制極29との間の角度α(図4)が大きくなる場合がある。汲上極27および規制極29間の角度αとは、現像スリーブ24(すなわち磁石ロール25)の回転中心から見て現像スリーブ24の周方向に離間している角度である。
【0060】
図10は、現像スリーブ24の磁極27,29,37,39の磁束分布を示す模式図である。図10では、磁束分布は一点鎖線で示している。汲上極27および規制極29間の角度αが大きくなると、図10に示すように、汲上極27の磁束分布と規制極29の磁束分布との間の境界MBにおいて磁束密度が大きく低下する。そのため、境界MBでは磁界の強度が低下する。これにより、シール部材38における境界MBに対応する部分の磁気的拘束力(シール性能)が低下する。その結果、前記対応部分からトナーの外部への漏出が起こり得る。
【0061】
図11は、従来の構成の現像装置においてシール部材のシール性能をテストするために行った実験の結果を示す図である。実験では、汲上極および規制極間の角度(図10における角度α)の変化に対するシール部材のシール性能が評価された。以下に実験の条件を箇条書きにて示す。
現像スリーブの外径:20mm
現像スリーブの回転速度:496mm/s
トナー:磁性トナー
トナーの平均粒子径:7.1μm
規制ブレード:SUS430
現像スリーブの表面粗さ:7.5μm
汲上極の磁力:85mT
規制極の磁力:90mT
搬送極の磁力:89mT
剥離極の磁力:80mT
実験では、現像装置を30分間トナー無消費で連続駆動させた後、シール部材のシール性能が評価された。また、汲上極と規制極との間の角度は50度〜160度の間で変化させた。評価は1〜5の5段階で行われた。
1:完全にシールできている(シール部材のエッジ部分でトナーを遮断している)。
2:シールはできているが、トナーが若干シール部材の内部に入り込んでいる。
3:現像スリーブの軸方向端部はトナーで汚れるが、トナーの漏出は無い。
4:若干のトナー漏出がある。
5:シール部材がシール性能を果たしていない。
【0062】
図11に示すように、汲上極および規制極間の角度が大きくなるにつれ、シール部材のシール性能が悪化していることが確認された。これは、上述したように、汲上極および規制極間の角度が大きくなるにつれ、汲上極の磁束分布と規制極の磁束分布との境界において磁束密度が低下するためである。このように、シール部材のシール性能は、磁極間の角度に依存していることが確認された。
【0063】
しかしながら、本実施形態に係る現像装置20では、磁極間の角度に影響されず、つまり、現像装置20や画像形成装置1全体のレイアウトに影響されず、トナーの漏出を抑制することが可能である。図12を用いて、現像装置20におけるトナー漏出の抑制動作について説明する。
【0064】
すなわち、上述したように、現像スリーブ24におけるシール部材38に対向する第2領域A2には、リン含有率が5%以下のニッケルめっきからなる強磁性金属層332が形成されている。強磁性金属層332は、トナーを磁気的に拘束する磁気的拘束力が強い。現像装置20や画像形成装置1全体のレイアウト的な制限により、例えば汲上極27および規制極29間の角度α(図10)が大きくなり、汲上極27および規制極29とシール部材38との間の磁界の強度が低下すると、シール部材38のトナーに対する磁気的拘束力が低下する。そのため、現像スリーブ24の軸方向端部からトナーT2が外部に漏出しようとする。
【0065】
しかしながら、強磁性金属層332の作用により、トナーT2は現像スリーブ24の外周面36上に磁気的に拘束される。特に、汲上極27の磁束分布と規制極29の磁束分布との間の境界MB(図10)に対応する、外周面36の部分上のトナーT2が、強磁性金属層332によって磁気的に拘束される。これにより、トナーT2は、外周面36とシール部材38との間に磁気的に拘束され、トナーT2の外部への漏出が抑制される。その結果、現像装置20のシール性能が確保される。このように、現像ローラ22の強磁性金属層332は、シール部材38の磁気的拘束力を補ってトナーT2の漏出を抑制する。
【0066】
しかも、現像スリーブ24における感光体ドラム10に対向する第1領域A1には、弱磁性金属層331が形成されている。弱磁性金属層331は、リン含有率が5%を超えているので、図9に示すように、磁性の度合いが強磁性金属層332よりも大きく低下している。そのため、弱磁性金属層331のトナーの磁気的拘束力は、強磁性金属層332の磁気的拘束力よりもかなり弱い。したがって、第1領域A1において外周面36上に担持されているトナーT1は、弱磁性金属層331の磁気的拘束力によって大きく阻害されることなく、感光体ドラム10に円滑に移動することができる。これにより、感光体ドラム10上に良好なトナー像を形成することが確保できる。
【0067】
このように、本実施形態に係る現像装置20は、現像スリーブ24の第2領域A2において、強い磁気的拘束力を備えた強磁性金属層332を形成することで、現像装置20や画像形成装置1全体のレイアウト的な制限に影響されずにシール性能を確保することができると共に、現像スリーブ24の第1領域A1において低いレベルの磁気的拘束力を備えた弱磁性金属層331を形成することで、良好なトナー像の形成を確保する。
【0068】
また、本実施形態に係る現像装置20では、強磁性金属層332および弱磁性金属層331を形成するためにニッケルめっきを用い、かつ、ニッケルめっき中のリン含有率を適宜設定しているので、強磁性金属層332および弱磁性金属層331の磁性の度合いを調整することが容易である。
【0069】
さらに、強磁性金属層332は5%以下のリン含有率に設定されているので、磁極間の角度(例えば汲上極27および規制極29間の角度α)が大きくなった場合であっても、強磁性金属層332に、強い磁気的拘束力を容易かつ確実に付与することができる。一方、弱磁性金属層331のリン含有率を、5%を超える範囲で適宜設定することにより、トナーの感光体ドラム10への円滑な搬送性を容易に確保することができる。
【0070】
次に、本実施形態に係る現像装置20を用いて行った実験について図13を参照しながら説明する。実験は、現像装置20全体のシール性能をテストするために行われた。実験では、実施例1、実施例2および比較例1が用いられた。実施例1では、強磁性金属層332のリン含有率が2%に設定され、実施例2では、リン含有率が4%に設定され、一方、比較例1では、リン含有率が6%に設定された。また、実験では、実施例1、実施例2および比較例1のそれぞれにつき、汲上極27および規制極29間の角度α(図10)を50度〜160度の範囲で変化させた場合のシール性能が評価された。
【0071】
以下に実験の条件を箇条書きにて示す。
現像スリーブの外径:20mm
現像スリーブの回転速度:496mm/s
トナー:磁性トナー
トナーの平均粒子径:7.1μm
規制ブレード:SUS430
現像スリーブの表面粗さ:7.5μm
汲上極の磁力:85mT
規制極の磁力:90mT
搬送極の磁力:89mT
剥離極の磁力:80mT
【0072】
実験では、現像装置を30分間トナー無消費で連続駆動させた後、シール性能が評価された。また、汲上極27および規制極間の角度αは50度〜160度の間で変化させた。評価は1〜5の5段階で行われた。
1:完全にシールできている(シール部材のエッジ部分でトナーを遮断している)。
2:シールはできているが、トナーが若干シール部材の内部に入り込んでいる。
3:現像スリーブの軸方向端部はトナーで汚れるが、トナーの漏出は無い。
4:若干のトナー漏出がある。
5:シール部材がシール性能を果たしていない。
【0073】
図13に示すように、実施例1では、角度αが160度まで大きくなった場合であっても、シール性能が良好であったことが確認された。また、実施例2では、角度αが140度〜160度の範囲において現像スリーブの外周面が若干汚れたものの、トナーの漏出は発生せず、シール性能が良好であったことが確認された。これは、強磁性金属層332のリン含有率が5%以下に設定されていたため、角度αが大きくなってシール部材のシール性能が低下しても、その低下分が、強磁性金属層332の磁気的拘束力によって補われたためと考えられる。
【0074】
一方、比較例1では、角度αが160度に設定されたときにトナーの漏出が確認された。これは、強磁性金属層のリン含有率が6%であったため、シール部材のシール性能の低下分が、強磁性金属層の磁気的拘束力によって補われなかったためと考えられる。
【0075】
以上の結果から、強磁性金属層332のリン含有率を5%以下に設定することで、汲上極27および規制極29間の角度αが160度に大きく設定された場合であっても、現像装置全体のシール性能を確保できることが確認された。
【符号の説明】
【0076】
1 画像形成装置
10 感光体ドラム
20 現像装置
22 現像ローラ
24 現像スリーブ
32 スリーブ基材
33 ニッケルめっき層
331 弱磁性金属層
332 強磁性金属層
34 クロムめっき層
36 外周面
38 シール部材
A1 第1領域
A2 第2領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジング内に回転可能に配置された現像ローラであって、周方向に沿って配列された複数の磁極を内蔵し、回転に伴い、磁性トナーを含有する現像剤を、前記複数の磁極の磁力を利用して所定の像担持体に搬送することにより、前記所定の像担持体上にトナー像を形成する現像ローラと、
前記ハウジング内で前記現像ローラとの間に隙間が形成された状態で前記現像ローラに対向配置されていると共に、前記隙間において前記複数の磁極との間で磁界を形成し、前記磁界において前記磁性トナーを磁気的に拘束することにより、前記磁性トナーの外部への漏出を抑制するシール部材と、
を備え、
前記現像ローラは、前記所定の像担持体に対向する第1領域と、前記シール部材に対向する第2領域とを含み、
前記第2領域は、前記磁性トナーを磁気的に拘束する磁気的拘束力を備えており、
前記第1領域は、前記第2領域の前記磁気的拘束力よりも低い磁気的拘束力を備えている現像装置。
【請求項2】
請求項1に記載の現像装置において、
前記第2領域には、前記磁気的拘束力を発揮することが可能な程度の磁性を備えた強磁性金属層が形成されており、
前記第1領域には、前記強磁性金属層の前記磁性よりも弱い磁性を備えた弱磁性金属層が形成されている現像装置。
【請求項3】
請求項2に記載の現像装置において、
前記強磁性金属層および前記弱磁性金属層は共に、リンを含有するニッケルめっき層であり、
前記強磁性金属層は、前記弱磁性金属層よりも低いリン含有率を有する現像装置。
【請求項4】
請求項3に記載の現像装置において、
前記強磁性金属層の前記リン含有率は、5%以下である現像装置。
【請求項5】
トナー像が形成される像担持体と、
磁性トナーを含有する現像剤を前記像担持体に搬送して、前記像担持体上に前記トナー像を形成する現像装置と、
を備え、
前記現像装置として、請求項1〜4のいずれか一項に記載の現像装置が用いられている画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−155111(P2012−155111A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13542(P2011−13542)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000006150)京セラドキュメントソリューションズ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】