説明

球状タンパク質の機能的特性を改良する方法、このようにして調製されたタンパク質、該タンパク質の使用及び該タンパク質を含有する製品

本発明は、1又は複数の球状タンパク質の溶液であって、該溶液中において前記タンパク質が少なくとも部分的に凝集して原繊維を形成している溶液を与える工程と、以下の工程:pHを増加させる工程;塩濃度を増加させる工程;前記溶液を濃縮する工程;前記溶液の溶媒の質を変化させる工程、のうち1又は複数の工程を無作為の順序で実施する工程と、を含む、球状タンパク質の機能的特性を改良する方法に関する。好ましくは、前記1又は複数の球状タンパク質の溶液は、低pHでの加熱又は変性剤の添加によって与えられる。本発明は、このようにして得られたタンパク質添加物、食品及び非食品用途へのその使用、並びに前記タンパク質添加物を含有する食品及び非食品にも関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本発明は、球状タンパク質の機能的特性を改良する方法に関する。本発明は、さらに、このようにして調製されたタンパク質、タンパク質添加物としての、特に濃縮剤、発泡剤、増粘剤及び/又はゲル化剤としての、様々な製品における前記タンパク質の使用、並びにこのような添加物を含む製品に関する。
【0002】
食品及び非食品添加物は、とりわけ、製品の品質の向上及び維持に関わっている。それらは、例えば、質感、一貫性及び安定性を与えるために使用されている。このために、それらは、発泡特性、ゲル化特性、乳化特性、濃縮特性などの機能的特性を有している。
【0003】
食品に使用される場合、添加物は、多糖及びタンパク質という概ね2つのグループに分けることができる。濃縮特性を有する第一のグループの例は、例えば、グアールガム、キサンタンガム、イナゴマメガムである。第二のグループの例は、例えば、乳タンパク質である。乳タンパク質のなかでは、ゲルを形成することができるので、乳清タンパク質が食品中の成分として広く使用されている。
【0004】
β−ラクトグロブリンは、乳から得られる乳清タンパク質の主要なタンパク質成分である。β−ラクトグロブリンは、18.3kDaの分子量と約2nmの直径を有する球状タンパク質である。一定の臨界濃度を超えて、該タンパク質を水溶液中に溶かし、変性温度(約78℃)を超えて加熱すると、該タンパク質はゲルを形成する。球状構造は少なくとも部分的に折り畳まれていない状態となり、凝集物が形成される。タンパク質の濃度が臨界値(Cp)を超えており、適切なイオン強度が与えられれば、熱処理によってゲルが形成される。
【0005】
多糖は、少量であっても、食品中の有効な濃縮剤であるという利点を有している。しかしながら、これらの親水コロイドの値段は、通常高価である。さらに、濃度が上昇すると、多糖は、味を損なうことが多い。デザートのような酪農製品に使用される場合には、多糖は自然的でないと考えられる。
【0006】
タンパク質は、親水コロイドに比べて、(w/wベースで)濃縮する効果が劣るのが通常である。このため、タンパク質の価格は親水コロイドに比べてかなり安い場合があり得るとしても、より多くの用量が必要とされるため、価格面での優位性はなくなる。
【0007】
上記説明のように、中性pH(7付近)で加熱されると、球状タンパク質はゲルを形成する。しかしながら、ゲルを形成するために必要とされる濃度は比較的高く、例えば、5%(w/w)を超える。さらに、このようにして得られたゲルは不可逆的に形成され、従って、幅広い製品で濃縮剤として使用するのに適していない。ゲルは、乾燥され及び/又は粉砕されなければならないことがあり、このため、その濃縮能が失われる。これに対して、望ましくないゲルの形成を避けるために、乳清タンパク質を中性pHと低濃度で熱的に修飾すると、濃縮能が極めて乏しいか、又は全く存在しない。
【0008】
一般に、食品産業には、非天然的な添加物を避けたいという要望が存在する。タンパク質は、添加物を調製するための天然原料となり得るが、タンパク質の機能的特性は、現在使用されている添加物と同等でないことが多い。
【0009】
このため、優れた機能的特性、特に濃縮、ゲル化、発泡及び乳化特性を有し、好ましくは低濃度でも有効性が高いタンパク質が必要とされている。
【0010】
本発明をもたらした研究において、低pHで得られた構造は、β−ラクトグロブリンをpH7で加熱することによって形成された構造に比べて、低pHで得られた構造を含有する溶液にずっと高い粘度を与え、このため、さらに高いゲル化能を有することが、β−ラクトグロブリンについて明らかとなった。しかしながら、このような低pHのゲル化剤は、実用的には有用でない。
【0011】
β−ラクトグロブリンの溶液を約2のpHで加熱すると、中性pHで加熱した場合に比べて、変性が異なる種類の凝集をもたらす。この低pH変性は、物理的な力によって連結されているタンパク質凝集物をもたらすのに対して、7付近又はこれより高いpHでの変性は、ジスルフィド結合を介して共有結合された凝集物をもたらすであろう。
【0012】
2付近のpHで、β−ラクトグロブリンの溶液を加熱すると、繊維状タンパク質構造を形成させることが明らかとなった。上述したように、これらの原繊維は、物理的な力によって相互に保持された凝集物によって構成されることが、一般に受け入れられている。当業者であれば、このようにして形成された原繊維は、pHが増加すると、再び分解するであろうと予想するであろう。
【0013】
本発明をもたらした研究において、驚くべきことに、変性温度以上での加熱時間が10分より長くなると、これらの原繊維が不可逆的に形成されることが明らかとなった。同じ観察は、乳清タンパク質単離物についても為されているので、本発明の教示は、球状タンパク質全般に対して当てはまり、特に、β−ラクトグロブリン並びに乳清タンパク質の単離物及び濃縮物に対して当てはまる。
【0014】
さらに、球状タンパク質を含む溶液に、変性剤を添加すると、類似の繊維状タンパク質構造が得られることも明らかとなった。
【0015】
このように、本発明は、
a)1又は複数の球状タンパク質の溶液であって、該溶液中で前記タンパク質が少なくとも部分的に凝集して原繊維を形成している溶液を与える工程と、
b)以下の工程:
i)前記溶液のpHを略中性に調整する工程、
ii)前記溶液中の塩濃度を増加させる工程、
ii)前記溶液を濃縮する工程、
iii)前記溶液の溶媒の質を変化させる工程、
のうち1又は複数の工程を無作為の順序で実施する工程と、
を含む、方法に関する。
【0016】
このようにして、改善された機能的特性を有するタンパク質添加物が得られる。方法の工程a)は、タンパク質溶液中に繊維状構造を与えるのに対して、方法の工程b)は、タンパク質を最終産物に添加したときに、発泡剤、濃縮剤、ゲル化剤又は乳化剤としてその機能を直ちに発揮できるように、タンパク質を誘導する。
【0017】
溶液中の1又は複数のタンパク質が少なくとも部分的に凝集して原繊維を形成している、1又は複数の球状タンパク質の溶液を与えることは、様々な方法で達成することができる。第一の実施形態では、1又は複数の球状タンパク質の原繊維含有溶液は、室温を超える温度、好ましくは50ないし100℃の温度で、0.5ないし4のpH、好ましくは0.5ないし3のpHにおいて、前記タンパク質の溶液を加熱することによって与えられる。別の実施形態では、1又は複数の球状タンパク質の原繊維含有溶液は、溶液に変性剤を添加することによって与えられる。
【0018】
前記変性剤は、向水剤又はカオトロピック剤とすることができ、例えば、尿素、塩化グアニジニウム、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、トリフルオロエタノールなどのアルコールからなる群から選択される。変性剤による処理は、0.5ないし14、好ましくは3ないし11、より好ましくは5ないし9のpHで行うことができる。
【0019】
このようにして処理される球状タンパク質を含有する溶液では、予想外に高いゲル化及び/又は濃縮及び/又は発泡及び/又は乳化能を有する原繊維が形成される。原繊維は不可逆的に形成され、あらゆる所望のpH又はイオン強度で使用することができる。
【0020】
工程a)の第一の実施形態における溶液の加熱は、好ましくは、少なくとも10分、好ましくは少なくとも1時間、より好ましくは少なくとも6時間、最も好ましくは少なくとも8時間の間、行われる。
【0021】
工程a)の第一の実施形態の前記処理のpHは、好ましくは2.8未満、好ましくは2.5未満、より好ましくは2.2未満である。pHをこの値まで調節するための適切な酸は、塩化水素酸、リン酸、硝酸又は硫酸などの、食品用の酸である。
【0022】
この効果を得るために必要とされる合計加熱時間は、バッチ式加熱、連続フロー式加熱、又は、例えば、加熱系を通した溶液の循環を用いた後続の加熱工程の組み合わせによって達し得る。
【0023】
必要に応じて、前記溶液は、工程i)ないしiii)の1又は複数を実施する前に、冷却される。
【0024】
変性温度と20℃の間、好ましくは変性温度と5℃の間の温度まで、溶液を冷却することが好ましい。
【0025】
pHを増加させるときには、これは、3.9ないし9の値、好ましくは略中性のpHまで増加させることが好ましい。多くの食品用途は、中性、中性付近又は弱酸性のpHを有する。
【0026】
有利には、塩濃度は、最大0.2M、好ましくは0.1Mまで増加される。塩濃度を増加させるために使用される塩は、好ましくは二価イオン、好ましくはカルシウムの塩である。カルシウムを添加することによって、機能的特性がさらに改善されることが明らかとなった。
【0027】
好ましい実施形態によれば、希釈系でのpH調整が実行しやすいので、工程i)は、工程ii)の前に実施される。
【0028】
前記溶液の溶媒の質を変化させることは、例えば希釈又は透析によって、変性剤を除去することによって行うことができる。
【0029】
本発明のさらなる実施形態において、前記方法は、既に形成された原繊維を、加熱工程の前に、球状タンパク質の溶液に添加することをさらに含む。いわゆるこのシーディングによって、加熱時間を短縮できることが明らかとなった。さらに、シーディングが行われなかった試料に比べて、シーディングが行われた試料中では、さらに低い臨界ゲル化濃度(Cp)が得られることが明らかとなった。溶液に添加するためのシードは、本発明のタンパク質と同じ方法で調製することができる。
【0030】
保存時の安定性が向上した乾燥生成物を得るために、前記方法は、乾燥生成物を得るために、溶液を乾燥させる工程をさらに含む。本発明のタンパク質添加物を乾燥後に得られた粉末から元に戻すと、同一又は類似の機能的特性が得られることが明らかとなった。乾燥が噴霧乾燥を含むと、実用的である。乾燥生成物は、好ましくは粉末である。あるいは、造粒を想定することもできる。
【0031】
さらに、pH2の溶液の添加によって、前記方法の工程b)iii)に係る加熱された溶液を粘度が低下した生成物になるまで濃縮した後に得られたゲルを希釈することが可能である。再度塩濃度を下げることによって、工程b)ii)に従って処理された溶液についても、同じことが当てはまる。
【0032】
前記球状タンパク質が、実質的に未変性であり且つ該タンパク質の変性温度以上の温度で熱的に変性されることができ又は化学的に変性されることができるタンパク質であることが、有利である。
【0033】
本発明の方法は、乳清タンパク質、卵アルブミン、血液グロブリン、大豆タンパク質、麦タンパク質、特にプロラミン、芋タンパク質又は豆タンパク質などの、幅広い球状タンパク質を用いて行うことができる。好ましい実施形態において、前記球状タンパク質は、乳清タンパク質単離物又は乳清タンパク質濃縮物、好ましくはβ−ラクトグロブリンが濃縮された(例えば、>40%)乳清タンパク質濃縮物である。さらに好ましい実施形態では、前記球状タンパク質は、β−ラクトグロブリンである。
【0034】
さらなる実施形態において、前記球状タンパク質は、Biproという名称で市販されており、約70%のβ−ラクトグロブリン、約18%のα−ラクトアルブミン、約6%のウシ血清アルブミン及び約6%のイムノグロブリンから構成される乳清タンパク質単離物粉末(95%タンパク質、w/w)である。本発明の方法に供された後の本生成物の機能的特性は、低pHでの加熱前に製品を精製することによって、さらに改善させることができる。このような精製は、pH4.75への酸性化、遠心及び上清の使用を含む。この処理は、約10%の(凝集した)タンパク質(主にBSA)を喪失させる。
【0035】
さらに、本発明は、凝集して原繊維を形成している1又は複数のタンパク質の系を基礎とした食品及び非食品用途のタンパク質添加物であって、該タンパク質添加物が、タンパク質が凝集して原繊維を形成していない同一濃度の前記1又は複数の同一タンパク質の系を基礎とした類似のタンパク質添加物に比べて、向上した機能的特性を有することを特徴とする、タンパク質添加物に関する。この点に関して、原繊維は、タンパク質からなり且つ5以上の縦横比を有する原繊維であることが好ましい。縦横比とは、長さと幅又は長さと高さ又は長さと直径の比である。原繊維の長さは、好ましくは、100Å以上であり、且つ1mm以下、好ましくは100μm以下である。これらの原繊維は、顕微鏡によって見ることができる。
【0036】
上記タンパク質添加物は、本発明の方法によって、又は上記構造的特性をもたらす他の任意の手段によって得ることができる。
【0037】
本発明のタンパク質添加物は、フォーム、分散液及びエマルジョンの安定化剤として使用することができる。フォームとは、液体中に存在する気体の系である。エマルジョンは液体中の液体であり、分散液は液体中の固体である。通常、これらの系は、連続相中に均一に分布された分散相を維持するのに役立つ安定化剤の助けを得ずに存在することができない。本発明のタンパク質添加物は、この目的に極めて適していることが明らかとされた。
【0038】
前記タンパク質添加物は、酪農製品(例えば、(通気された)デザート、ヨーグルト、フラン)などの食料品に、フラッペ、メレンゲ、マシュマロなどパン若しくは菓子用に、クリームリキュールに、又はカプチーノフォーマーなどの飲料フォーマーに使用することができる。タンパク質添加物を構成する球状タンパク質として、β−ラクトグロブリン、乳清タンパク質濃縮物又は乳清タンパク質単離物を使用するときには、得られる製品は、あらゆる乳製品であり得る。
【0039】
乳清タンパク質濃縮物は、通常、25ないし90%(w/w)の乳清タンパク質を含む。乳清タンパク質単離物は、通常、90%を超える乳清タンパク質を含む。
【0040】
本発明のタンパク質添加物は、製品の水結合及び/又は質感を増大させるために、肉製品、例えば、ひき肉製品(フランクフルトソーセージ)、ハンバーガー、ランチ用肉製品、パテ、家禽、魚肉製品又は植物を基礎とした肉代用物にも使用することができる。
【0041】
本発明のタンパク質添加物の別の用途は、塗料、化粧品、歯磨き粉、消臭剤などの非食品にも見出すことができる。
【0042】
本発明は、さらに、食料品、特に酪農製品又は肉製品などの、本発明のタンパク質添加物を含む製品のみならず、非食品、例えば、塗料、化粧品、歯磨き粉、消臭剤にも関する。
【0043】
そのさらなる側面によれば、本発明は、質感付与特性を有する1又は複数の粒子を含むタンパク質組成物であって、前記タンパク質分子が凝集して原繊維を形成している、タンパク質組成物に関する。質感付与特性は、前記組成物を含有する製品の粘度又はゲル化能を促進又は改変する能力を備える。好ましくは、前記原繊維は5以上の縦横比を有し、縦横比は、長さと幅又は長さと高さ又は長さと直径の比として定義される。原繊維の長さは、好ましくは、約100Å以上であり、且つ1mm以下、好ましくは100μm以下である。
【0044】
本発明のタンパク質添加物は、改善された機能的特性を有する。機能的特性には、濃縮能、ゲル化能、発泡能及び乳化能が含まれ、何れも、前記添加物を含有する製品の構造及び質感と関連する。添加物の機能的特性が改善されるという事実は、タンパク質添加物を含有する製品にゲル化、発泡、濃縮又は乳化を誘導する能力が、同じ濃度であるが本発明の方法に供されていない同一のタンパク質の誘導能に比べて、改善されていることを意味する。
【0045】
本発明を限定することを意図しない以下の実施例において、本発明をさらに説明する。実施例では、以下の図面を参照する。
【実施例1】
【0046】
本発明のβ−ラクトグロブリンゲルの調製、及び臨界ゲル化濃度の測定
β−ラクトグロブリン(β−lg)は、Sigmaから取得したものであり(L−0130)、遺伝的変種A及びBの混合物である。pH2のHCl溶液中に、このタンパク質を溶解させた(3% w/w)。β−lgから微量のカルシウムイオンを除去し、溶媒と同じpH及びイオン強度のタンパク質溶液を得るために、このタンパク質をHCl溶媒で繰り返し希釈し、Omegacell(登録商標) membrane cell(Filtron)中の3Kフィルターに、4℃及び3バールの最大圧で通過させてろ過した。希釈された溶液と溶媒のpH及び伝導率が同じになった時点で、操作を停止した。
【0047】
22600gで30分間、β−lg溶液を遠心した。溶解していない微量のタンパク質を取り除くために、タンパク質フィルター(FP 030/2、0.45mm、Schleicher & Schuell)を通して、上清をろ過した。278nmの波長で、β−lg濃度を測定するために、UV分光光度計を使用した。
【0048】
上述のように調製され、2%の濃度まで希釈されたβ−ラクトグロブリン(w/w)を、水槽中にて、80℃で10時間加熱した。冷却後、0.1及び1M NaOHを用いて、pHをpH7又は8に調整した。様々なCaCl濃度(0.005、0.0075、0.01、0.05及び0.1M)を、氷上で、極めて注意深く加え、この溶液をよく混合した。この操作の後、臨界ゲル化濃度を測定するために、VORレオメータ(Bohlin同心配置シリンダーC14)中にこの溶液を注いだ。VOR中の試料を、3℃か25℃まで加熱した。3時間静置した後、ひずみ掃引を行った(周波数1Hz、温度25℃、ひずみ0.000206から0.206まで)。
【0049】
様々なタンパク質濃度に対して、この操作を繰り返した。臨界ゲル化濃度Cpを測定するために、(曲線の線形領域中の)様々なタンパク質濃度に対して、まず、G’(「弾性率」、ある系の弾性成分に対する特性)を測定した。1.7ないし4.5の範囲にわたるtに対して、(G’)1/t対濃度cのプロットを行った。tは、スケーリング因子である。フィッティング操作において、本発明者らは、(G’)1/tをゼロまで外挿すると、全てのt>0について、同じCpを与えるはずであるという物理的事実を利用する。このスケーリングの仮定は、tが正しい値に近づくと、データ点は直線上に存在することを示唆する。tが正しい値より大きい場合には、前記点を通じたフィッティングは、直線から外れて曲がり、直線の下に位置するようになるであろう。tが正しい値より小さい場合には、同じく、前記点を通じたフィッティングは、直線から外れて曲がるが、今度は、直線の上に位置するようになるであろう。このケースでは、横軸との切片におけるフィッティングの勾配はゼロになるであろう。従って、フィッティングの操作では、本発明者らは、tに対して異なる値が選択されれば、フィッティングの屈曲が変化するが、切片Cpは同じ状態で保持されなければならないという事実を使用する。
【0050】
平均切片、Cpを求める際に、直線に最も近いデータ点を用いたフィッティングからCpを求めた。本発明のタンパク質系に対するCp値は、基準(非修飾)タンパク質系に比べてかなり低かった(実施例を参照)。
【0051】
本実験の結果は、表1に示されている。
【実施例2】
【0052】
従来の(中性pHによる)ゲル化法に従ったβ―lgゲルの調製、及び臨界ゲル化濃度の測定
β−ラクトグロブリン(β−lg)は、Sigmaから取得したものであり(L−0130)、遺伝的変種A及びBの混合物である。pH2のHCl溶液中に、このタンパク質を溶解させた(3% w/w)。β−lgから微量のカルシウムイオンを除去し、溶媒と同じpH及びイオン強度のタンパク質溶液を得るために、このタンパク質をHCl溶媒で繰り返し希釈し、Omegacell(登録商標) membrane cell(Filtron)中の3Kフィルターに、4℃及び3バールの最大圧で通過させてろ過した。希釈された溶液と溶媒のpH及び伝導率が同じになった時点で、操作を停止した。
【0053】
22600gで30分間、β−lg溶液を遠心した。溶解していない微量のタンパク質を取り除くために、タンパク質フィルター(FP 030/2、0.45mm、Schleicher & Schuell)を通して、上清をろ過した。278nmの波長で、β−lg濃度を測定するために、UV分光光度計を使用した。
【0054】
pH7又は8の3% β−lg試料を、80℃で30分間加熱した。冷却後、0.01MのCaClを氷上で極めて注意深く添加し、溶液をよく混合した。この操作の後、VORレオメータ(Bohlin同心配置シリンダーC14)中にこの溶液を注いだ。VOR中の試料を、3℃か25℃まで加熱した。3時間静置した後、ひずみ掃引を行った(周波数1Hz、温度25℃、ひずみ0.000206から0.206まで)。続いて、従来の方法で形成されたβ−ラクトグロブリンゲルの臨界ゲル化濃度を測定した。結果を表1に示す。
【表1】

【0055】
酸で前処理することによって修飾されたβ−ラクトグロブリンは、酸で修飾されていないβ−ラクトグロブリンに比べて、ゲル化能力が高いことが、結果から明らかである。
【実施例3】
【0056】
Bipro(登録商標)の修飾
Bipro(登録商標)(乳清タンパク質単離物粉末(95%タンパク質、w/w)をDavisco、USAから取得した。β−ラクトグロブリン以外に、Bipro(登録商標)は、α−ラクトアルブミン、ウシ血清アルブミン及び免疫グロブリンも含有する。
【0057】
Bpiro(登録商標)の修飾は、以下のように行った。3、4、5及び6%w/wの濃度で、4つのBpiro(登録商標)溶液を脱塩された水の中に調製した。HClを用いて、pHを2に調整した。この溶液を80℃で10時間加熱した。冷却後、NaOHで試料を中和してpH7とし、さらに3℃まで冷却し、その後、試料の半分までCaCl(5mM)を添加した。3時間後に、全ての試料を視覚的に評価した。結果を表2に示す。
【0058】
対照実験は、以下のように行った。脱塩水中にpH7のBipro(登録商標)溶液を作製した(3、4、5、6% w/w)。この溶液を80℃で10時間加熱した後、3℃まで冷却し、試料の半分までCaClを添加した。3時間後に、試料を視覚的に評価した。結果を表2に示す。
【表2】

【0059】
この表から、様々な種類のタンパク質を含む乳清タンパク質製品を本発明に従って処理することによって、ゲル化能も大幅に増大され、粘度も大きく増加することが明らかである。
【実施例4】
【0060】
シーディングの効果
序論
本実施例の目的は、pH2での加熱の前に、新鮮なタンパク質材料にシーズを添加する効果を調べることであった。総タンパク質濃度、新鮮なタンパク質材料とシーズとの比率(フレッシュ/シーズ)、並びにシーズ及びフレッシュとシーズとの混合物の加熱時間を変化させた。異なる実験中で同じシーズを有するようにするために、シーズを作製する際の総タンパク質濃度は一定に保った。タンパク質材料は、Bipro(登録商標)(乳清タンパク質単離物粉末(95%タンパク質、w/w))であった。
【0061】
材料と方法
Bipro(登録商標)は、Daviscoから取得し、約70%のβ−ラクトグロブリン、約1約8%のα−ラクトアルブミン、約6%のウシ血清アルブミン及び約6%のイムノグロブリンから構成される。タンパク質粉末をNANOpure(登録商標)水に溶かし、室温で3時間、攪拌をさせた。次に、6MのHClを用いて、pHをpH4.75に調整した。Sorvall RC−5B冷却超高速遠心器中で、SLA−1500スーパーライトアルミニウムローターを用いて、前記タンパク質溶液を、12000rpmで30分間、室温で遠心した。等電点に近いpH4.75で、溶解していないタンパク質は沈殿される。Bipro(登録商標)中に存在するBSAの約50%がこの遠心工程において除去されることがHPLC分析によって示され、BSAが凝集したことが示唆される。沈渣にならなかった微量の非溶解タンパク質を除去するために、タンパク質フィルター(FD 30/0.45mm Ca−S、Schleicher & Schuell製)を通して、上清をろ過した。pH4.75での遠心工程は、さらに「精製」と称され、凝集した物質及び溶解していない物質の除去を意味し、その材料は「精製Bipro(登録商標)」と称される。
【0062】
遠心及びろ過の後、6MのHClを用いて、Bipro(登録商標)溶液のpHをpH2に設定した。UV分光光度計とタンパク質濃度が既知の波長278nmでの検量線とを用いて、タンパク質濃度を測定した。
【0063】
上述した方法に従って、pH2の1.2%(w/w) Bipro(登録商標)原液を調製した。異なる試料を採取し、80℃で、2、5又は10時間加熱した。加熱後、試料を冷却し、冷蔵器に保存した。0.8%及び0.4%のBipro(登録商標)になるように、各試料の一部を希釈した。0.8%及び0.4%のBipro(登録商標)になるように、非加熱Bipro(登録商標)溶液も希釈した。様々な加熱時間後の非加熱(フレッシュ)材料及び加熱材料(シーズ)のこれらの「原」液を様々な比率で混合し、pH2及び80℃で様々な時間にわたって加熱した。
【0064】
1.2%のBpiro(登録商標)で作製されたシーズを用いた低温ゲル化実験は、以下のように行った。6MのHClでpH2になるように調整されたNANOpure(登録商標)を用いて、必要とされる総濃度まで希釈した後に、1.2%の原液から得たBipro(登録商標)を加熱することによって作製したシーズを使用した。このバッチについて調べた総Bipro(登録商標)濃度は、0.4%、0.8%、1.0%及び1.2%のBipro(登録商標)であった。様々な比率(0%シーズ、10%シーズ、20%シーズ、70%シーズ及び90%シーズ)で、非加熱及び加熱材料を混合し、pH2及び80℃で10時間、これらの混合物を加熱した。加熱後、この試料を冷却し、1.0M及び0.1M NaOHを用いて、pH7に設定した。
【0065】
別の組の低温ゲル化実験を行ったが、ここでは、使用したシーズは、2.0%のBpiro(登録商標)濃度で調製した。シーズとフレッシュを混合するときに、及び異なる総タンパク質濃度に対して同じシーズを使用するときに、より高い総タンパク質濃度に到達できるようにするために、シーズを調製するための濃度をさらに高くすることが必要であった。このセットについて調べた総Bipro(登録商標)濃度は、0.8%、1.0%、1.2%、1.4%及び1.6%のBipro(登録商標)であった。ここでも、様々な比率で、フレッシュとシーズを混合し、pH2及び80℃で10時間加熱した。加熱後、この試料を冷却し、1.0M及び0.1M NaOHを用いて、pH7に設定した。
【0066】
透析されていない精製Bipro(登録商標)のシーズを添加した効果を見るために、一連の試験管を充填した。(pH2の)この混合物を、80℃で2、5又は10時間加熱した。試料を室温まで冷却し、一晩保存した後、試験管を視覚的に調べた。全てのゲル化実験は、10mMのCaClで行われた。
【0067】
カルシウム添加時の低温ゲル形成の反応速度を遅くするために、シーズの存在下で加熱され、続いて冷却され、pH7に設定された試料を、CaClを添加する前に氷上で冷却した。同心配置シリンダー(CC10)を有する、Paar Physica MCR 300応力制御レオメータを使用した。試料を前記配置に置く前に、レオメータを3℃まで冷却した。レオメータを25℃まで加熱した。25℃で3時間静置した後、ひずみ掃引を行った(周波数1Hz、温度25℃、ひずみ0.001から1まで)。
【0068】
結果
異なる濃度(%)(w/w)のシーズとフレッシュBipro(登録商標)の混合物を、pH2、80℃で、2、5又は10時間加熱した。試料を冷却した後、試料を視覚的に調べた。シーズを添加すると、シーズが存在しない場合に比べて、さらに低い総タンパク質濃度で、ゲル化が起こることが明らかとなった。さらに、総タンパク質濃度が高くなるほど、さらに高いG’が観察されることが明らかとなった。加熱中に存在するシーズの量が多いほど、より高いG’が観察され、添加されたシーズの加熱時間が長くなるほど、フレッシュとの混合及び再加熱後に得られるG’は、これより短いシーズの加熱時間に比べて高くなる。さらに、フレッシュとシーズの混合物の加熱時間が長いほど、G’は高くなる。
【0069】
加熱時に存在する一定量のシーズに対して、異なる総Bipro(登録商標)濃度のグラフをプロットすると、シーズ濃度当りのCp値が求められた。ひずみ掃引曲線の線形部分(すなわち、G’がひずみに依存していない場所)から、G’を求めた。Cp及びtを求める方法は、「Van der Linden and Sagis, Lagmuir 17, 5821(2001)」によって記載されており、実施例1の方法と同じである。
【0070】
試料の加熱中に存在する様々な量のシーズに対して得られたCp及びt値が、表3に記されている。
【表3】

【0071】
表3から、シーズの存在のために、臨界浸出濃度(臨界ゲル化濃度とも呼ばれる。)が減少すると結論付けることができる。これは、同じ結果を得るために必要なタンパク質が少なくてよいことを意味している。
【実施例5】
【0072】
透過型電子顕微鏡
Bipro(登録商標)
様々な加熱時間でBipro(登録商標)試料を加熱した際に形成される構造についての知見を得るために、及び試料間に差異が存在するかどうかを調べるために、TEM電子顕微鏡写真を作製した。試料(1.2%のBipro(登録商標)、pH2で加熱)を0.05%になるように希釈した。ネガティブ染色によって、TEM試料を調製した。銅格子上の炭素支持フィルム上に、希釈された溶液を1滴戴置した。ろ紙を用いて、15秒後に、過剰の溶液を除去した。2%のPTA(pH5.5)の液滴を15秒間加え、過剰分は全て、ろ紙で除去した。格子を大気に対して乾燥させた。80kVで作動するPhilips CM 12透過型電子顕微鏡を用いて、電子顕微鏡写真を作製した。2時間加熱された試料は、原繊維を示さなかった。5又は10時間加熱された試料中では、長い原繊維が認められた(図1A参照)。
【0073】
β−ラクトグロブリン
pH2で加熱処理した後の試料並びにpH7及び8で中和された試料から、透過型電子顕微鏡(TEM)写真を作製した(図1B参照)。このことから、中和した際に、原繊維は分解しないことが明らかである。
【0074】
TEM用の試料調製についての説明:
以下の試料
a)2%のβ−ラクトグロブリン、pH2、10時間、80℃
b) a)と同様であるが、1.0及び0.1MのNaOHを用いて、pH7に中性化した
c) a)と同様であるが、1.0及び0.1MのNaOHを用いて、pH8に中性化した
を0.04%のβ−ラクトグロブリンになるように希釈した。ネガティブ染色によって、TEM試料を調製した。銅格子上の炭素支持フィルム上に、1滴の希釈された溶液を置いた。ろ紙を用いて、30秒後に、過剰分を除去した。2%の酢酸ウラニルpH3.8の液滴を15秒間加え、過剰分は全て、前述のように除去した。80kVで作動するPhilips CM 12透過型電子顕微鏡を用いて、電子顕微鏡写真を作製した。
【実施例6】
【0075】
フォームのオーバーラン及び安定性に対するpH、乾燥及び濃度の影響
序論
形成された原繊維の発泡特性を決定する様々な実験を行った。この中で、原繊維が形成されるpH、乾燥及び濃度の発泡特性に対する効果を調べる。
【0076】
材料と方法
以下のように、Bipro(登録商標)溶液を調製し、精製する。10、12.5及び15%の濃度で、Bipro(登録商標)を水に可溶化する。常に攪拌しながら、HCl溶液を一滴ずつ添加することによって、6M HClでこれらの溶液をpH4.75まで酸性にする。ゆっくりと沈降する大きな破片を伴いながら、Bipro(登録商標)溶液は、pH4.75で白変する。Sorvall超高速RC2−B遠心器、GSAローター中、10分、9000rpm(13,200g)で、この溶液を遠心する。透明な上清を集め、pH4.75で噴霧乾燥する。沈渣を棄てる。
【0077】
精製Bipro(登録商標)溶液を、pH2(6M HClで酸性化する。)で10時間加熱することによって、原繊維が形成される。80℃から20℃まで、水槽を徐々に(0.5−1時間)冷却することによって、この溶液を冷却する。攪拌しながら、NaOH(2M)を添加することによって、pHを増加させる。この溶液は、pH4と5.5の間で白変し、pHをさらに上げると、徐々に透明になる。
【0078】
精製Bipro(登録商標)から形成された原繊維を2段階原繊維と呼び、未精製Bipro(登録商標)を使用する場合には、1段階原繊維と呼ぶ。
【0079】
標準的なボウルと金属線の泡立て器が備え付けられたHobartミキサー(モデルN−50)中にて、3の速度で、標準的な条件下において、3%のタンパク質溶液を5分間泡立てることによって、フォームを得る。直径10cm、高さ5.4cm、270mLの用量、52.1gの重量を有するステンレス鋼の丸底ボウルに、このフォームを移す。
【0080】
オーバーランと安定性を、以下のようにして測定する。オーバーランについては、丸底ボウルを秤量し(A)、フォームで満たす。表面をまっすぐにするために、へらを使用し、このボウルを再度秤量する(B)。安定性については、秤量した粉末漏斗(D)中にフォームを入れ、満たされた漏斗(C0)を秤量する。漏斗をシリンダーの上まで移動させ、15、30、45及び60分後に、シリンダー(Wt)と漏斗(Et)を秤量する。
【0081】
オーバーランと安定性(排水)を、以下のようにして算出する。
【0082】
オーバーラン(%)=(V*S/(B−A)*100)−100
V=丸底ボウルの容積
S=タンパク質溶液の単位重量
B=ボウルとフォームの重量
A=ボウルの重量
安定性(%)=(((C−D)−(C−E))/(C−D))*100
C=充填後の漏斗+フォーム
D=空の漏斗の重量
Et=15、30、45又は60分の排液を行った後の漏斗の重量
排液(%)=Wt/(C−D)*100
Wt=15、30、45又は60分の排液を行った後のシリンダーの重量
C=充填後の漏斗とフォームの重量
D=空の漏斗の重量
結果と考察
pHの影響
表4には、元のBipro(登録商標)及び2段階原繊維のフォーム試験の結果が示されている。pH7で泡立てると、60分の間に高いオーバーランと76%の排液が生じることが、結果から明らかである。同じ原繊維をpH5で泡立てると、60分の間に、オーバーランが50%低くなるが、32%の排液にとどまる。比較として、精製Bipro(登録商標)を泡立てると、低いオーバーランと高い排液が得られる。
【表4】

【0083】
原繊維が形成される濃度の影響
2段階Bipro(登録商標)原繊維が3−6%のBipro(登録商標)濃度で形成される。これらの溶液を3%に希釈して、泡立てる。原繊維が作られる濃度は、オーバーランにほとんど影響を与えないが、さらに高い濃度で原繊維が作られる場合には、排液が幾分少ないように見受けられる(表5)。
【表5】

【0084】
乾燥の影響
1段階原繊維を用いて、泡立て実験を行う。さらに、熱処理前に添加された塩が存在し、泡立ての間にも塩が存在する。一般に、塩の添加によって、加熱の間に、より大きな構造が形成され、オーバーランとフォームの安定性が向上する。
【0085】
表6の結果は、凍結乾燥が、オーバーランと排液にほとんど影響を与えないことを示している。表6は、元のBipro(登録商標)のフォーム特性が不良であることも示している。
【表6】

【実施例7】
【0086】
フォーム試験
精製Bipro(登録商標)と本発明に従って処理された精製Bipro(登録商標)の3%溶液75gを、速度3で、5分間、Hobart N 50ミキサー中で泡立てた。Bipro(登録商標)のオーバーランは1600%であったのに対して、Bipro(登録商標)原繊維(すなわち、本発明に従って処理されたBipro(登録商標))のオーバーランは3400%であった。原繊維のない非精製Bipro(登録商標)を出発製品として使用すると、オーバーランは450%にすぎなかった。図4から7は、その結果を示している。Bipro(登録商標)原繊維は極めて高いオーバーランを示すことになる。時が経つと、フォームは液体を排出するが、非処理Bipro(登録商標)は、排液がずっと早い。
【実施例8】
【0087】
カスタード様のクリームデザート中での、濃縮剤としての本発明のタンパク質添加物の使用
実施例3に記載されている中和された5%溶液の十分量を凍結乾燥させることによって、修飾されたBipro(登録商標)を得た。このようにして得られた粉末は、以下の用途に直接使用することが可能であり、又は、以下の用途に使用する前に、塩化カルシウムと混合することが可能である。
【0088】
組成:
A.従来 B.本発明
(グラム) (グラム)
スキムミルク 355 355
クリーム(40%脂肪) 65 65
水 444 444
タンパク質:
Esprion 300U 10 −
(DMV International)
修飾されたBipro(登録商標) − 0.8
サッカロース 60 60
ラクトース 28 37
修飾されたデンプン 38 38
(CerestarのC*tex 06201)
カラギーナン 0.3 0.3
(CL 360, Danisco)
香味料 適量 適量
(例えば、バニラ)
着色料 適量 適量
Esprion(登録商標) 300Uは、30%のタンパク質(w/w)を有する乳清タンパク質濃縮物である。
【0089】
全ての成分を冷たいミルク(約7℃)中で混合し、水和させるために、20分間、10℃未満に放置した。固定管を装着したUHT低温殺菌装置(APV、デンマーク)を用いて、140℃で、10ないし20秒間、この混合物を加熱し、続いて、10℃未満まで冷却し、包装した。保存は、10℃未満の温度で行った。
【0090】
得られた製品をパネルによって調べ、ディスクプローブが装着されたStevens Texture Analyser(登録商標)(Stevens Instruments, UK)を用いて、質感の測定を実施した。所定の時間内に、前記プローブを規定の距離にわたって試料に貫通させたときの、プローブの抵抗を測定した。
【0091】
この検査の結果は、修飾されたBipro(登録商標)の用量が少ないにもかかわらず、試料Bの質感は、試料Aの質感に比べてずっと優れている(舌触りが優れており、粘度が高い。)ことを示している。
【実施例9】
【0092】
飲むヨーグルト中での、濃縮剤としての本発明のタンパク質添加物の使用
ヨーグルトA(対照)は、以下のようにして調製した。117グラムのEsprion(登録商標) 300Uを1リットルの水に溶かした。280グラムのこの溶液を、720グラムのスキムミルクと混合した。この溶液の最終タンパク質濃度は、3.5%(w/w)であった。この溶液を65℃まで加熱し、この温度でホモゲナイズし、その後、92℃で6分間、低温殺菌した。低温殺菌されたミルクを32℃まで冷まし、ヨーグルト培養液(0.02%のYoflex(登録商標) 380、Chr. Hansen)を植菌した。pHが4.2から4.3に達するまで、約14ないし16時間、発酵を続けた。
【0093】
調製した直後のヨーグルトを、80%ヨーグルト/20%フルーツ調製物の比率で、フルーツ調製物(25%の水、25%の果汁、ドイツのWildから入手できる50%の糖)と混和することによって、飲むヨーグルトを調製した。ヨーグルトに添加する前に、85℃で5分間、フルーツ調製物を低温殺菌し、20℃まで冷やした。
【0094】
ヨーグルトとフルーツ調製物の混合物を、1から3MPaの低圧ホモゲナイゼーションに供した。次いで、飲むヨーグルトを10℃未満まで冷やし、包装し、10℃未満で保存した。
【0095】
本発明のタンパク質調製物を含むヨーグルトBは、Aと同様の方法で調製されたが、最初のミルクは、修飾されたBipro(登録商標)の0.8%(w/w)溶液280g(実施例4と同じ入手源;タンパク質含量=90%w/w)から構成されており、10.9%のラクトースを720gのスキムミルクと混合した。この溶液の最終タンパク質濃度は、2.7%であった。
【0096】
(飲む)ヨーグルトAについて記載したのと同様の方法で、飲むヨーグルトを調製した。
【0097】
飲むヨーグルトBのタンパク質濃度の方が低いにもかかわらず、得られた生成物は、対照の飲むヨーグルトAより粘度が高かった。テストパネルによる評価によると、舌触りが心地よいために、飲むヨーグルトBが好まれるという結果が得られた。
【実施例10】
【0098】
メレンゲ中での、発泡剤としての本発明のタンパク質添加物の使用
メレンゲの調製において、本発明の組成物の発泡能を調べた。組成物は、以下の表に従って調製した。
【0099】
組成(%)
対照 本発明
粉末白砂糖 98.2 98.2
Bipro(登録商標) 1.8
Bipro(登録商標)原繊維 1.8
計 100 100
Bipro(登録商標)タンパク質を前記糖と混合する。次いで、これを、無グリースの混合ボウル(Hobart N50)に300g加える。続いて、150gの冷水を加え、このようにして得られた組成物を1分間混合し(速度1)、6分間泡立てる(速度3)。
【0100】
6分の泡立てた後、対照組成物のフォームの量は、本発明の組成物と実質的に等しい(図2A)。本発明の組成物は、対照に比べて固いフォームを与える。
【0101】
続いて、各200gの組成物に対して130gの糖を加えることによって、2つの異なるフォームをメレンゲ中に作製した。無グリース紙上に、このようにして得られたフォームを少量注ぎ、オーブンの中で、30分間125℃で乾燥させた。図2Bは、非処理Bipro(登録商標)を使用したときに比べて、本発明のタンパク質添加物を加えることによって、泡立ちが優れたメレンゲが得られることを示している。
【0102】
対照メレンゲのオーバーランは98%であり、軽量測定プローブ(43g)による貫通は15mmである。本発明のメレンゲは、これよりしっかりしており、80%のオーバーランであり、同一の測定プローブによる貫通は10mmである。
【実施例11】
【0103】
デザート用途における、発泡剤としての本発明のタンパク質添加物の使用
本発明に従って処理されたBipro(登録商標)の3%(w/v)水溶液を、Hobartミキサー中において、速度3で1分間泡立てた。このようにして得られたフォームは、1100%の容積と優れた安定性を有する。
【0104】
本発明のタンパク質の3%(w/v)の溶液に、追加のカルシウム(0.13%)を乳酸カルシウムとして加え、上記のように処理した。フォームの安定性は、カルシウムを加えない場合と同じである。
【0105】
第三の実験では、第二の実験のカルシウム含有溶液に10%の糖を加える。このようにして得られた混合物を同様に泡立てると、900%のオーバーランが得られる。このフォームは、糖を加えない場合より安定である。
【0106】
本発明に従って処理されないBipro(登録商標)を用いて、同じ系列の実験を行った。相当量のフォームを得るために、Hobart中において、溶液を速度3で5分間泡立てなければならず、700%のオーバーランが達成された。
【0107】
このように、本発明の処理は発泡能を高めるといえる。
【0108】
デザート中の発泡添加物として、本発明の処理されたBipro(登録商標)を使用できるかどうかを調べるために、本発明のタンパク質の3%(w/v)溶液と追加のカルシウム(0.13%)を、10%の糖及び5%のインスタントスターチ(Cerestar 12170)と混合し、3分間泡立てた。すでに1分後には、フォームが得られたが、3分後に、フォームが強固で短くなり、オーバーランは400%であった。1%のクエン酸を添加すると、フォームの形成を約600%向上させる。
【0109】
非処理Bipro(登録商標)と比べると、発泡能は目覚しい。
【実施例12】
【0110】
カプチーノフォーマー
レシピ:
A:DP 387 5g B:DP 387 5g
粉末砂糖 3g 粉末砂糖 3g
Bipro(登録商標) 0.5g 本発明のタンパク質 0.5g
カプチーノフォーマー(DP387、DMV International、Netherlandから購入)を糖及び基準タンパク質Bipro(登録商標)(例A)、又は本発明の(噴霧乾燥された)製品(例B)と混合することによって、カプチーノを作製した。続いて、このパウダーミックスに100mLの沸騰水を注ぎ、5分後に、カプチーノフォームの評価を行った。
【0111】
フォームの高さ フォームの外観、味
A: 7mm 良好なフォーム、優れた構造
B: 10mm Aよりも固い本体を有するフォーム
Aに比べて、より安定なフォーム
乳状、泡立ちが目立つ
本発明のタンパク質が、カプチーノフォーマーの発泡特性を向上させることは明らかである(図3)。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1A】図1Aは、異なる加熱時間後に、本発明に従って処理されたBipro(登録商標)のTEM写真を示している。
【図1B】図1Bは、異なるpHへの中和後に、本発明に従って処理されたβ−ラクトグロブリンのTEM写真を示している。
【図2】図2Aは、乾燥前の処理及び非処理Bipro(登録商標)のメレンゲフォームを示す。
【0113】
図2Bは、乾燥後の処理及び非処理Bipro(登録商標)のメレンゲフォームを示す。
【図3】図3は、処理及び非処理Bipro(登録商標)を用いて調製されたカプチーノフォームを示す。
【図4】図4は、処理及び非処理Bipro(登録商標)を用いて調製されたフォームのオーバーランを示す。
【図5】図5は、処理及び非処理Bipro(登録商標)を用いて調製された製品のフォームの経時的安定性を示す。
【図6】図6は、処理及び非処理Bipro(登録商標)を用いて調製されたフォームの経時的排水を示す。
【図7】図7は、処理及び非処理Bipro(登録商標)を用いて調製されたフォームの経時的排水を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)1又は複数の球状タンパク質の溶液であって、該溶液中において前記タンパク質が少なくとも部分的に凝集して原繊維を形成している溶液を与える工程と、
b)以下の工程:
i)前記溶液のpHを略中性に調整する工程、
ii)前記溶液中の塩濃度を増加させる工程、
iii)前記溶液を濃縮する工程、
iv)前記溶液の溶媒の質を変化させる工程、
のうち1又は複数の工程を無作為の順序で実施する工程と、
を含む、球状タンパク質の機能的特性を改良する方法。
【請求項2】
前記1又は複数の球状タンパク質の原繊維含有溶液が、室温を超える温度、好ましくは50ないし100℃の温度で、0.5ないし4のpH、好ましくは0.5ないし3のpHで、前記1又は複数のタンパク質の溶液を加熱することによって準備される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶液が、少なくとも10分、好ましくは少なくとも1時間、より好ましくは少なくとも6時間、さらに好ましくは少なくとも8時間の期間、加熱される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程i)ないしiv)のうち1又は複数の工程を実施する前に、前記溶液が冷却される、請求項2及び3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記溶液が、変性温度と20℃の間の温度まで、好ましくは変性温度と5℃の間の温度まで冷却される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記加熱が、pH2.8未満、好ましくは2.5未満、より好ましくは2.2未満で行われる、請求項2から5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記1又は複数の球状タンパク質の原繊維含有溶液が、前記溶液に変性剤を添加することによって準備される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記変性剤が向水剤又はカオトロピック剤である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記変性剤が、尿素、塩化グアニジニウム、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、トリフルオロエタノールなどのアルコールからなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記溶液が0.5ないし14のpHを有する、請求項3から5の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記球状タンパク質が、実質的に未変性であり且つ該タンパク質の変性温度以上の温度で熱的に変性されることができ又は化学的に変性されることができるタンパク質である、請求項2から10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記原繊維含有溶液の製造の前に、既に形成された原繊維を前記溶液に添加する工程をさらに含む、請求項2から11の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記既に形成された原繊維が、請求項2から11の何れか1項に記載の方法によって取得できる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
タンパク質の総量を基礎とした既形成原繊維の量が、0%超且つ90%未満、10ないし80%、より好ましくは20ないし70%、さらに好ましくは30ないし60%である、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記pHが、3.9ないし9の値まで、好ましくは略中性pHまで増加される、請求項1から14の何れか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記塩濃度が、最大0.2Mまで、好ましくは0.1Mまで増加される、請求項1から14の何れか1項に記載の方法。
【請求項17】
塩濃度を増加させるために使用される前記塩が、二価イオン、好ましくはカルシウムの塩である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
工程i)が工程ii)の前に行われる、請求項1から17の何れか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記溶液の溶媒の質が、変性剤を除去することによって改変される、請求項1から18の何れか1項に記載の方法。
【請求項20】
乾燥生成物を得るために前記溶液を乾燥させる工程をさらに含む、請求項1ないし19の何れか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記乾燥が噴霧乾燥を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記乾燥生成物が粉末である、請求項20から21の何れか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記球状タンパク質が、乳清タンパク質、卵アルブミン、血液グロブリン、大豆タンパク質、麦タンパク質、特にプロラミン、芋タンパク質、豆タンパク質からなる群から選択される、請求項1から22に記載の方法。
【請求項24】
前記球状タンパク質が、乳清タンパク質単離物、乳清タンパク質濃縮物、好ましくはβ−ラクトグロブリンが濃縮された乳清タンパク質濃縮物である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記球状タンパク質が乳清タンパク質単離物Bipro(登録商標)である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記球状タンパク質がβ−ラクトグロブリンである、請求項24から25の何れか1項に記載の方法。
【請求項27】
少なくとも部分的に凝集して原繊維を形成している1又は複数のタンパク質の系を基礎としたタンパク質添加物であって、該タンパク質添加物が、タンパク質が凝集して原繊維を形成していない同一濃度の前記1又は複数の同一タンパク質の系を基礎とした類似のタンパク質添加物に比べて、向上した機能的特性を有することを特徴とする、タンパク質添加物。
【請求項28】
前記機能的特性が、以下の特性:発泡特性、濃縮特性、ゲル化特性及び乳化特性のうちの1又は複数である、請求項27に記載のタンパク質添加物。
【請求項29】
請求項1ないし26の何れか1項に記載の方法によって取得できるタンパク質添加物。
【請求項30】
請求項1ないし26の何れか1項に記載の方法によって取得できる、請求項27又は28に記載のタンパク質添加物。
【請求項31】
請求項20ないし26の何れか1項に記載の方法によって取得できる、乾燥形態の請求項27又は28に記載のタンパク質添加物。
【請求項32】
フォーム、分散液及びエマルジョンの安定化剤として使用するための、請求項27から31の何れか1項に記載のタンパク質添加物。
【請求項33】
酪農製品に使用するための、請求項27から31の何れか1項に記載のタンパク質添加物。
【請求項34】
肉製品に使用するための、請求項27から31の何れか1項に記載のタンパク質添加物。
【請求項35】
塗料中に使用するための、請求項27から31の何れか1項に記載のタンパク質添加物。
【請求項36】
歯磨き粉、化粧品、消臭剤に使用するための、請求項27から31の何れか1項に記載のタンパク質添加物。
【請求項37】
請求項27ないし31の何れか1項に記載のタンパク質添加物を含む酪農製品。
【請求項38】
請求項27ないし31の何れか1項に記載のタンパク質添加物を含む肉製品。
【請求項39】
請求項27ないし31の何れか1項に記載のタンパク質添加物を含む塗料。
【請求項40】
請求項27ないし31の何れか1項に記載のタンパク質添加物を含む歯磨き粉。
【請求項41】
請求項27ないし31の何れか1項に記載のタンパク質添加物を含む化粧品。
【請求項42】
請求項27ないし31の何れか1項に記載のタンパク質添加物を含む消臭剤。
【請求項43】
質感付与特性を有する1又は複数の粒子を含むタンパク質組成物であって、前記タンパク質分子が凝集して原繊維を形成している、タンパク質組成物。
【請求項44】
前記質感付与特性が、前記組成物を含有する製品の粘度又はゲル化能を促進又は改変する能力を備える、請求項43に記載のタンパク質組成物。
【請求項45】
前記原繊維が、長さと幅又は長さと高さ又は長さと直径の比として定義される、5以上の縦横比を有する、請求項43及び44の何れか1項に記載のタンパク質組成物。
【請求項46】
前記原繊維の長さが、好ましくは100Å以上且つ1mm以下、好ましくは100μm以下である、請求項43から45の何れか1項に記載のタンパク質組成物。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2006−508160(P2006−508160A)
【公表日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−556286(P2004−556286)
【出願日】平成15年11月28日(2003.11.28)
【国際出願番号】PCT/EP2003/013678
【国際公開番号】WO2004/049819
【国際公開日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(503437761)キャンピナ・ビーブイ (4)
【Fターム(参考)】