球状弾性表面波素子
【課題】生産性に優れる球状弾性表面波素子を提供すること。
【解決手段】本発明の第1の態様に係る球状弾性表面波素子100は、球状の基体111と、基体111の表面を周回する弾性表面波を励起するとともに周回した当該弾性表面波を受信する一対の櫛形電極112と、基体111の中心を通る光学軸の両極点近傍に形成され、一対の櫛形電極112の各々に接続された第1及び第2の入出力用電極114と、第1の入出力電極114上に形成された外部端子115と、第2の入出力電極114に対向して非接触で形成された外部電極116とを備えるものである。
【解決手段】本発明の第1の態様に係る球状弾性表面波素子100は、球状の基体111と、基体111の表面を周回する弾性表面波を励起するとともに周回した当該弾性表面波を受信する一対の櫛形電極112と、基体111の中心を通る光学軸の両極点近傍に形成され、一対の櫛形電極112の各々に接続された第1及び第2の入出力用電極114と、第1の入出力電極114上に形成された外部端子115と、第2の入出力電極114に対向して非接触で形成された外部電極116とを備えるものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状弾性表面波素子に関し、特にセンサに用いる球状弾性表面波素子する。
【背景技術】
【0002】
弾性表面波(SAW:surface acoustic wave)が、水晶、ランガサイト、LiNbO3、LiTaO3等の圧電性材料の単結晶からなる球の表面を伝播する場合、周囲の水素濃度によりその伝播速度が変化することを利用した水素センサ(ボールSAWセンサ)が知られている(特許文献1及び2参照)。上記球の表面に弾性表面波を励起すると、弾性表面波は、通常の波のように拡がらず、所定の光学軸回りの球の大円に沿った有限幅の円環状領域を、ほとんど減衰することなく、多数回周回する。この弾性表面波が球を周回する回数に比例して、上記伝播速度の変化が増幅されるため、ボールSAWセンサは非常に高感度な水素センサである。
【0003】
図3に弾性表面波素子の構成を簡単に示す。圧電性材料の単結晶からなる球形状の基体11上に櫛形電極12、感応膜13、入出力用電極14及び外部端子15が形成されている。感応膜13は、水素を吸蔵するPd、Ni、Pd−Ni合金等からなる。水素を吸収した感応膜13は硬くなり、感応膜13上では、弾性表面波の伝播速度が速くなるため、水素センサとして利用できる。
【0004】
ここで、櫛形電極12、感応膜13、入出力用電極14及び外部端子15は各々、基体11上の所定の位置に形成される必要がある。具体的には、図8に示すように、基体11の中心を通る光学軸16を地軸とした場合、赤道上に櫛形電極12及び感応膜13が形成されている。また、光学軸16の両極点には、入出力用電極14が形成されている。そして、入出力用電極14上であって、まさに光学軸16の両極点の位置に外部端子15が形成されている。なお、光学軸については、圧電結晶の種類によって称呼が異なる。例えば、水晶及びランガサイドではZ軸と呼ばれ、一つである(一軸結晶)。またLiNbO3では光学軸が複数あることが分かっている(二軸結晶)。上記各構成要素の形成位置がずれるとボールSAWセンサの感度が急激に低下するため、高い精度で形成することが要求される。
【特許文献1】特開2003−115743号公報
【特許文献2】特開2005−291955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、直径0.3mmのピン状の外部端子15を、直径1mmの球状の基体11の2つの極点に正確に接着する必要がある。この接着作業は、観察しながら位置合わせせざるを得ず、長時間を要していた。特に、2本目の外部端子15の接着は、片側の外部端子15が接着された状態で行うため、極めて困難な作業であった。すなわち、従来の球状弾性表面波素子は、生産性に劣っていた。
【0006】
本発明は、生産性に優れる球状弾性表面波素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に係る球状弾性表面波素子は、球状の基体と、前記基体の表面を周回する弾性表面波を励起するとともに周回した当該弾性表面波を受信する一対の櫛形電極と、前記基体の中心を通る光学軸の両極点近傍に形成され、前記一対の櫛形電極の各々に接続された第1及び第2の入出力用電極と、前記第1の入出力電極上に形成された外部端子と、前記第2の入出力電極に対向して非接触で形成された外部電極とを備えるものである。
【0008】
本発明の態様2に係る球状弾性表面波素子は、上記第1の態様において、前記第2の入出力電極と前記外部電極との間に、柔軟性を有する導電性物質が充填されたことを特徴とするものである。
【0009】
本発明の態様3に係る球状弾性表面波素子は、上記発明の態様において、前記基体が水晶よりも大きな電気機械結合係数を有する圧電性材料からなることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の態様4に係る環境差異検出装置は、上記発明の態様の球状弾性表面波素子を備えるものである。
【0011】
本発明の態様5に係る環境差異検出装置は、上記第4の態様において、前記球状弾性表面波素子を複数備え、当該複数の球状弾性表面波素子の外部電極が共通であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、生産性に優れる球状弾性表面波素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。ただし、本発明が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、省略及び簡略化されている。
【0014】
実施の形態1
図1を用いて、本発明の実施の形態に係る水素センサについて説明する。図1は実施の形態に係る水素センサの構成を模式的に示す図である。実施の形態に係る水素センサ100は、図1に示すように、球状弾性表面波素子110、発信機120、インピーダンスマッチング回路130、高周波アンプ140、デジタルオシロスコープ150、濃度信号生成部160を備える。また、球状弾性表面波素子110は、基体111、櫛形電極112、感応膜113、入出力用電極114、外部端子115、外部電極116を備える。
【0015】
基体111は、水晶、LiNbO3、LiTaO3等の圧電性材料の単結晶からなり、球形状に形成されている。球の直径は1mm程度が好ましい。基体111の表面に弾性表面波を励起すると、この弾性表面波は、所定の光学軸回りの球の大円に沿って伝播する。球の弾性表面波は、通常の波のように拡がらず、上記大円に沿った有限幅の円環状領域を、ほとんど減衰することなく、多数回周回する。ここで、基体111を構成する材料としては、電気機械結合係数の大きいものほど、発信する弾性表面波が高強度となるため、好ましい。
【0016】
櫛形電極112は、基体111上に形成されており、例えば、Au、Al、Cu、Cr等の金属からなる。櫛歯が向き合い、かつ、互い違いになるように形成された一対の電極である。櫛形電極112は、例えば、真空蒸着、スパッタリング等により基体111上に金属膜を形成した後、フォトリソグラフィーによりパターニングすることにより形成することができる。櫛形電極112に電気信号を入力すると、弾性表面波が励起される。また、櫛形電極112は、基体111の表面を周回した弾性表面波を受信し、信号を発生する。すなわち、櫛形電極112は、本発明に係る水素センサにおける弾性表面波励起部兼受信部に該当する。
【0017】
感応膜113は、基体111上における弾性表面波の周回経路の少なくとも一部に形成されている。感応膜113は、水素を吸蔵するPd、Ni又はPd−Ni合金層からなる。感応膜113は、例えば、感応膜113形成部分以外をマスクした状態で真空蒸着、スパッタリング等を行うことにより基体111上に形成することができる。感応膜113上において水蒸気が酸素と水素に分解し、この水素が感応膜113中に吸収される。水素を吸収した感応膜113は硬くなるため、感応膜113上では、弾性表面波の伝播速度が速くなる。従って、水素濃度が高いほど弾性表面波の伝播速度が速くなり、一方、水素濃度が低いほど弾性表面波の伝播速度が遅くなる。感応膜113は、水素濃度に応じて、可逆的に水素を吸収、放出する。そのため、弾性表面波の伝播速度を測定することにより、水素濃度を測定することができる。
【0018】
入出力用電極114も、櫛形電極112と同様に、基体111上に形成されており、例えば、Au、Al、Cu、Cr等の金属からなる。入出力用電極114も、例えば、真空蒸着、スパッタリング等により基体111上に金属膜を形成した後、フォトリソグラフィーによりパターニングすることにより形成することができる。入出力用電極114は2つ形成されており、各々一対の電極からなる櫛形電極112の片方に接続されている。また、一方の入出力用電極114上には、外部端子115が形成されている。他方の入出力用電極114上には、外部端子は形成されておらず、代わりに非接触の外部電極116が形成されている。
【0019】
外部端子115は、一方の入出力用電極114上であって、基体111の光学軸の極点に接触して形成されている。外部端子115は、例えば、直径0.3mmのピン状の端子である。外部端子115は、例えば、Au、Al、Cu、Cr等の金属からなる。外部端子115は、導電性接着剤を用いて、基体111の光学軸の極点近傍に正確に接着される。
【0020】
(本発明のポイントです。記載内容につき、特にご精査ください。)
外部電極116は、外部端子115が形成された一方の入出力用電極114ではなく、もう一方の入出力用電極114に対向して非接触で形成された電極である。外部電極116は、例えば、Au、Al、Cu、Cr等からなる金属板である。すなわち、外部電極116と入出力用電極114とがコンデンサを形成している。例えば、直径1mmの水晶球を基体111とした場合、外部電極116と入出力用電極114との間隔を約10μmとすることにより、両極点に外部端子115を形成した従来の素子の30%程度の強度の弾性表面波を励起することができる。30%程度の強度が得られれば、センサとして十分使用することができる。
【0021】
ここで、平行板コンデンサの場合、コンデンサの容量CはC=ε0・εr・S/dで表され(ただし、ε0は真空の誘電率、εrは物質の比誘電率、Sは電極面積、dは電極間距離)で表される。空気の比誘電率は約1.0であるため、入出力電極114と外部電極116が非接触であっても空気を媒介として弾性波を励起することができる。
【0022】
また、上述の通り、圧電材料の種類により電極間に加えた電気エネルギーを機械的エネルギーに変換する効率を表す定数(電気機械結合係数)が異なる。そのため、電気機械結合係数が水晶よりも大きな材料を選択すれば、少ない電位差でも弾性表面波を発生させることが可能である。すなわち、水晶と同程度の弾性表面波の強度を得ることを条件とすれば、水晶の場合に比べてさらに電極間距離dを大きくとることができる。
【0023】
さらに、外部電極116と入出力用電極114との間に柔軟性を有する導電性物質を充填してもよい。コンデンサの容量Cは前述の式より電極間物質の比誘電率εrに比例するため、空気よりも比誘電率の大きな物質を充填することでより高強度の弾性波を励起することができる。導電性物質として、プロピレンカーボネート、シリコーンゴム、ウレタンゴム等を用いることができる。
【0024】
上述のように、本発明に係る球状弾性表面波素子では、一方の入出力用電極114上に外部端子115を形成する必要がない。そのため、製造工程が簡略化され、生産性に優れた球状弾性表面波素子を提供することができる。従来の球状弾性表面波素子では、2本目の外部端子115の形成が極めて困難であった。そのため、生産性に劣っていた。
【0025】
次に、図1を用いて、本発明の実施の形態に係る水素センサの動作について説明する。まず、発信機120から出力された信号は、インピーダンスマッチング回路130、外部端子115、外部電極116及び入出力用電極114を介し、櫛形電極112に入力される。櫛形電極112に入力された信号により、弾性表面波が基体111の表面に励起される。この弾性表面波は、上述の通り、所定の光学軸回りの球の大円に沿った周回経路上を、ほとんど減衰することなく多数回周回する。
【0026】
周回する弾性表面波は、櫛形電極112により受信され、これにより発生した信号が、入出力用電極114、インピーダンスマッチング回路130を介し、高周波アンプ140に入力される。高周波アンプ140において増幅された信号がデジタルオシロスコープ150に入力される。弾性表面波の周回経路上には感応膜114が形成されており、上述の通り、感応膜114は周囲の水素濃度により硬さが変化する。そのため、弾性表面波の伝播速度が変化する。この伝播速度の変化を、デジタルオシロスコープ150において出力される信号の位相のずれすなわち遅延時間として知ることができる。デジタルオシロスコープ150から出力された信号は、その信号に基づいて水素濃度信号を生成する濃度信号生成部160に入力される。最終的に、濃度信号生成部160から水素濃度信号が出力される。
【0027】
実施の形態2
次に、本発明の他の実施の形態について説明する。本実施の形態では、図2(a)に示すように、複数の基体111が同一平面上に配置されている。そして、図2(b)に示すように、外部電極116が共通となっている。また、各素子の外部端子115は互いに平行になるように配置されている。それ以外の構成は実施の形態1と同じであるため、説明を省略する。
【0028】
球状弾性表面波素子を匂いセンサやエレクトリックノーズなどに応用する場合、多数の球状弾性表面波素子を実装する必要がある。ここで、両側に複数の外部電極を接続すると配線の取り回しの影響で構造の自由度が阻害されるだけでなく、複数の電極の傾きや長さ等を厳密に調整する必要があった。本発明に係る球状弾性表面波素子を用いることにより、このような問題点を解決することができる。そして、多数の球状弾性表面波素子を高密度で実装することができる。また水素センサや匂いセンサを含め、圧力センサや露点センサ等の環境差異検出装置としても利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施の形態1に係る水素センサの構成を示す模式図である。
【図2】実施の形態2に係る水素センサの構成を示す模式図である。
【図3】従来の水素センサの構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0030】
100 水素センサ
110 弾性表面波素子
111 基体
112 櫛形電極
113 感応膜
114 入出力用電極
115 外部端子
116 外部電極
120 発信機
130 インピーダンスマッチング回路
140 高周波アンプ
150 デジタルオシロスコープ
160 濃度信号生成部
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状弾性表面波素子に関し、特にセンサに用いる球状弾性表面波素子する。
【背景技術】
【0002】
弾性表面波(SAW:surface acoustic wave)が、水晶、ランガサイト、LiNbO3、LiTaO3等の圧電性材料の単結晶からなる球の表面を伝播する場合、周囲の水素濃度によりその伝播速度が変化することを利用した水素センサ(ボールSAWセンサ)が知られている(特許文献1及び2参照)。上記球の表面に弾性表面波を励起すると、弾性表面波は、通常の波のように拡がらず、所定の光学軸回りの球の大円に沿った有限幅の円環状領域を、ほとんど減衰することなく、多数回周回する。この弾性表面波が球を周回する回数に比例して、上記伝播速度の変化が増幅されるため、ボールSAWセンサは非常に高感度な水素センサである。
【0003】
図3に弾性表面波素子の構成を簡単に示す。圧電性材料の単結晶からなる球形状の基体11上に櫛形電極12、感応膜13、入出力用電極14及び外部端子15が形成されている。感応膜13は、水素を吸蔵するPd、Ni、Pd−Ni合金等からなる。水素を吸収した感応膜13は硬くなり、感応膜13上では、弾性表面波の伝播速度が速くなるため、水素センサとして利用できる。
【0004】
ここで、櫛形電極12、感応膜13、入出力用電極14及び外部端子15は各々、基体11上の所定の位置に形成される必要がある。具体的には、図8に示すように、基体11の中心を通る光学軸16を地軸とした場合、赤道上に櫛形電極12及び感応膜13が形成されている。また、光学軸16の両極点には、入出力用電極14が形成されている。そして、入出力用電極14上であって、まさに光学軸16の両極点の位置に外部端子15が形成されている。なお、光学軸については、圧電結晶の種類によって称呼が異なる。例えば、水晶及びランガサイドではZ軸と呼ばれ、一つである(一軸結晶)。またLiNbO3では光学軸が複数あることが分かっている(二軸結晶)。上記各構成要素の形成位置がずれるとボールSAWセンサの感度が急激に低下するため、高い精度で形成することが要求される。
【特許文献1】特開2003−115743号公報
【特許文献2】特開2005−291955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、直径0.3mmのピン状の外部端子15を、直径1mmの球状の基体11の2つの極点に正確に接着する必要がある。この接着作業は、観察しながら位置合わせせざるを得ず、長時間を要していた。特に、2本目の外部端子15の接着は、片側の外部端子15が接着された状態で行うため、極めて困難な作業であった。すなわち、従来の球状弾性表面波素子は、生産性に劣っていた。
【0006】
本発明は、生産性に優れる球状弾性表面波素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に係る球状弾性表面波素子は、球状の基体と、前記基体の表面を周回する弾性表面波を励起するとともに周回した当該弾性表面波を受信する一対の櫛形電極と、前記基体の中心を通る光学軸の両極点近傍に形成され、前記一対の櫛形電極の各々に接続された第1及び第2の入出力用電極と、前記第1の入出力電極上に形成された外部端子と、前記第2の入出力電極に対向して非接触で形成された外部電極とを備えるものである。
【0008】
本発明の態様2に係る球状弾性表面波素子は、上記第1の態様において、前記第2の入出力電極と前記外部電極との間に、柔軟性を有する導電性物質が充填されたことを特徴とするものである。
【0009】
本発明の態様3に係る球状弾性表面波素子は、上記発明の態様において、前記基体が水晶よりも大きな電気機械結合係数を有する圧電性材料からなることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の態様4に係る環境差異検出装置は、上記発明の態様の球状弾性表面波素子を備えるものである。
【0011】
本発明の態様5に係る環境差異検出装置は、上記第4の態様において、前記球状弾性表面波素子を複数備え、当該複数の球状弾性表面波素子の外部電極が共通であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、生産性に優れる球状弾性表面波素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。ただし、本発明が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、省略及び簡略化されている。
【0014】
実施の形態1
図1を用いて、本発明の実施の形態に係る水素センサについて説明する。図1は実施の形態に係る水素センサの構成を模式的に示す図である。実施の形態に係る水素センサ100は、図1に示すように、球状弾性表面波素子110、発信機120、インピーダンスマッチング回路130、高周波アンプ140、デジタルオシロスコープ150、濃度信号生成部160を備える。また、球状弾性表面波素子110は、基体111、櫛形電極112、感応膜113、入出力用電極114、外部端子115、外部電極116を備える。
【0015】
基体111は、水晶、LiNbO3、LiTaO3等の圧電性材料の単結晶からなり、球形状に形成されている。球の直径は1mm程度が好ましい。基体111の表面に弾性表面波を励起すると、この弾性表面波は、所定の光学軸回りの球の大円に沿って伝播する。球の弾性表面波は、通常の波のように拡がらず、上記大円に沿った有限幅の円環状領域を、ほとんど減衰することなく、多数回周回する。ここで、基体111を構成する材料としては、電気機械結合係数の大きいものほど、発信する弾性表面波が高強度となるため、好ましい。
【0016】
櫛形電極112は、基体111上に形成されており、例えば、Au、Al、Cu、Cr等の金属からなる。櫛歯が向き合い、かつ、互い違いになるように形成された一対の電極である。櫛形電極112は、例えば、真空蒸着、スパッタリング等により基体111上に金属膜を形成した後、フォトリソグラフィーによりパターニングすることにより形成することができる。櫛形電極112に電気信号を入力すると、弾性表面波が励起される。また、櫛形電極112は、基体111の表面を周回した弾性表面波を受信し、信号を発生する。すなわち、櫛形電極112は、本発明に係る水素センサにおける弾性表面波励起部兼受信部に該当する。
【0017】
感応膜113は、基体111上における弾性表面波の周回経路の少なくとも一部に形成されている。感応膜113は、水素を吸蔵するPd、Ni又はPd−Ni合金層からなる。感応膜113は、例えば、感応膜113形成部分以外をマスクした状態で真空蒸着、スパッタリング等を行うことにより基体111上に形成することができる。感応膜113上において水蒸気が酸素と水素に分解し、この水素が感応膜113中に吸収される。水素を吸収した感応膜113は硬くなるため、感応膜113上では、弾性表面波の伝播速度が速くなる。従って、水素濃度が高いほど弾性表面波の伝播速度が速くなり、一方、水素濃度が低いほど弾性表面波の伝播速度が遅くなる。感応膜113は、水素濃度に応じて、可逆的に水素を吸収、放出する。そのため、弾性表面波の伝播速度を測定することにより、水素濃度を測定することができる。
【0018】
入出力用電極114も、櫛形電極112と同様に、基体111上に形成されており、例えば、Au、Al、Cu、Cr等の金属からなる。入出力用電極114も、例えば、真空蒸着、スパッタリング等により基体111上に金属膜を形成した後、フォトリソグラフィーによりパターニングすることにより形成することができる。入出力用電極114は2つ形成されており、各々一対の電極からなる櫛形電極112の片方に接続されている。また、一方の入出力用電極114上には、外部端子115が形成されている。他方の入出力用電極114上には、外部端子は形成されておらず、代わりに非接触の外部電極116が形成されている。
【0019】
外部端子115は、一方の入出力用電極114上であって、基体111の光学軸の極点に接触して形成されている。外部端子115は、例えば、直径0.3mmのピン状の端子である。外部端子115は、例えば、Au、Al、Cu、Cr等の金属からなる。外部端子115は、導電性接着剤を用いて、基体111の光学軸の極点近傍に正確に接着される。
【0020】
(本発明のポイントです。記載内容につき、特にご精査ください。)
外部電極116は、外部端子115が形成された一方の入出力用電極114ではなく、もう一方の入出力用電極114に対向して非接触で形成された電極である。外部電極116は、例えば、Au、Al、Cu、Cr等からなる金属板である。すなわち、外部電極116と入出力用電極114とがコンデンサを形成している。例えば、直径1mmの水晶球を基体111とした場合、外部電極116と入出力用電極114との間隔を約10μmとすることにより、両極点に外部端子115を形成した従来の素子の30%程度の強度の弾性表面波を励起することができる。30%程度の強度が得られれば、センサとして十分使用することができる。
【0021】
ここで、平行板コンデンサの場合、コンデンサの容量CはC=ε0・εr・S/dで表され(ただし、ε0は真空の誘電率、εrは物質の比誘電率、Sは電極面積、dは電極間距離)で表される。空気の比誘電率は約1.0であるため、入出力電極114と外部電極116が非接触であっても空気を媒介として弾性波を励起することができる。
【0022】
また、上述の通り、圧電材料の種類により電極間に加えた電気エネルギーを機械的エネルギーに変換する効率を表す定数(電気機械結合係数)が異なる。そのため、電気機械結合係数が水晶よりも大きな材料を選択すれば、少ない電位差でも弾性表面波を発生させることが可能である。すなわち、水晶と同程度の弾性表面波の強度を得ることを条件とすれば、水晶の場合に比べてさらに電極間距離dを大きくとることができる。
【0023】
さらに、外部電極116と入出力用電極114との間に柔軟性を有する導電性物質を充填してもよい。コンデンサの容量Cは前述の式より電極間物質の比誘電率εrに比例するため、空気よりも比誘電率の大きな物質を充填することでより高強度の弾性波を励起することができる。導電性物質として、プロピレンカーボネート、シリコーンゴム、ウレタンゴム等を用いることができる。
【0024】
上述のように、本発明に係る球状弾性表面波素子では、一方の入出力用電極114上に外部端子115を形成する必要がない。そのため、製造工程が簡略化され、生産性に優れた球状弾性表面波素子を提供することができる。従来の球状弾性表面波素子では、2本目の外部端子115の形成が極めて困難であった。そのため、生産性に劣っていた。
【0025】
次に、図1を用いて、本発明の実施の形態に係る水素センサの動作について説明する。まず、発信機120から出力された信号は、インピーダンスマッチング回路130、外部端子115、外部電極116及び入出力用電極114を介し、櫛形電極112に入力される。櫛形電極112に入力された信号により、弾性表面波が基体111の表面に励起される。この弾性表面波は、上述の通り、所定の光学軸回りの球の大円に沿った周回経路上を、ほとんど減衰することなく多数回周回する。
【0026】
周回する弾性表面波は、櫛形電極112により受信され、これにより発生した信号が、入出力用電極114、インピーダンスマッチング回路130を介し、高周波アンプ140に入力される。高周波アンプ140において増幅された信号がデジタルオシロスコープ150に入力される。弾性表面波の周回経路上には感応膜114が形成されており、上述の通り、感応膜114は周囲の水素濃度により硬さが変化する。そのため、弾性表面波の伝播速度が変化する。この伝播速度の変化を、デジタルオシロスコープ150において出力される信号の位相のずれすなわち遅延時間として知ることができる。デジタルオシロスコープ150から出力された信号は、その信号に基づいて水素濃度信号を生成する濃度信号生成部160に入力される。最終的に、濃度信号生成部160から水素濃度信号が出力される。
【0027】
実施の形態2
次に、本発明の他の実施の形態について説明する。本実施の形態では、図2(a)に示すように、複数の基体111が同一平面上に配置されている。そして、図2(b)に示すように、外部電極116が共通となっている。また、各素子の外部端子115は互いに平行になるように配置されている。それ以外の構成は実施の形態1と同じであるため、説明を省略する。
【0028】
球状弾性表面波素子を匂いセンサやエレクトリックノーズなどに応用する場合、多数の球状弾性表面波素子を実装する必要がある。ここで、両側に複数の外部電極を接続すると配線の取り回しの影響で構造の自由度が阻害されるだけでなく、複数の電極の傾きや長さ等を厳密に調整する必要があった。本発明に係る球状弾性表面波素子を用いることにより、このような問題点を解決することができる。そして、多数の球状弾性表面波素子を高密度で実装することができる。また水素センサや匂いセンサを含め、圧力センサや露点センサ等の環境差異検出装置としても利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施の形態1に係る水素センサの構成を示す模式図である。
【図2】実施の形態2に係る水素センサの構成を示す模式図である。
【図3】従来の水素センサの構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0030】
100 水素センサ
110 弾性表面波素子
111 基体
112 櫛形電極
113 感応膜
114 入出力用電極
115 外部端子
116 外部電極
120 発信機
130 インピーダンスマッチング回路
140 高周波アンプ
150 デジタルオシロスコープ
160 濃度信号生成部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状の基体と、
前記基体の表面を周回する弾性表面波を励起するとともに周回した当該弾性表面波を受信する一対の櫛形電極と、
前記基体の中心を通る光学軸の両極点近傍に形成され、前記一対の櫛形電極の各々に接続された第1及び第2の入出力用電極と、
前記第1の入出力電極上に形成された外部端子と、
前記第2の入出力電極に対向して非接触で形成された外部電極とを備える球状弾性表面波素子。
【請求項2】
前記第2の入出力電極と前記外部電極との間に、柔軟性を有する導電性物質が充填されたことを特徴とする請求項1に記載の球状弾性表面波素子。
【請求項3】
前記基体が水晶よりも大きな電気機械結合係数を有する圧電性材料からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の球状弾性表面波素子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の球状弾性表面波素子を備える環境差異検出装置。
【請求項5】
前記球状弾性表面波素子を複数備え、当該複数の球状弾性表面波素子の外部電極が共通であることを特徴とする請求項4に記載の環境差異検出装置。
【請求項1】
球状の基体と、
前記基体の表面を周回する弾性表面波を励起するとともに周回した当該弾性表面波を受信する一対の櫛形電極と、
前記基体の中心を通る光学軸の両極点近傍に形成され、前記一対の櫛形電極の各々に接続された第1及び第2の入出力用電極と、
前記第1の入出力電極上に形成された外部端子と、
前記第2の入出力電極に対向して非接触で形成された外部電極とを備える球状弾性表面波素子。
【請求項2】
前記第2の入出力電極と前記外部電極との間に、柔軟性を有する導電性物質が充填されたことを特徴とする請求項1に記載の球状弾性表面波素子。
【請求項3】
前記基体が水晶よりも大きな電気機械結合係数を有する圧電性材料からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の球状弾性表面波素子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の球状弾性表面波素子を備える環境差異検出装置。
【請求項5】
前記球状弾性表面波素子を複数備え、当該複数の球状弾性表面波素子の外部電極が共通であることを特徴とする請求項4に記載の環境差異検出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図2】
【図3】
【公開番号】特開2009−147645(P2009−147645A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322427(P2007−322427)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000006666)株式会社山武 (1,808)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000006666)株式会社山武 (1,808)
【Fターム(参考)】
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