説明

球面軸受

【課題】 ロボットや多自由度ステージ等に用いられる球面軸受に要求される、広い揺動角度と高い軸受剛性とを有し、回転揺動方向の平滑な動作と微小な角度の位置決めとを可能にし、且つ、長期間にわたって高精度を維持できる高い耐久性の全てを満足する球面軸受を提供する。
【解決手段】 軸部と球体部とを有する回転揺動体と、この回転揺動体の球体部に外嵌する凹面部を有する軸受体とから構成される球面軸受において、前記軸受体の凹面部を半球若しくはそれより浅い球面状に形成し、且つ、前記回転揺動体の球体部と前記軸受体の半球状の凹面部との少なくとも一方を磁石として、この磁石の吸引力によって前記揺動回転体と前記軸受体とを一体に保持すると共に、前記回転揺動体の球体部と前記軸受体の半球状の凹面部との少なくとも一方に静圧ポケットを刻設して、該静圧ポケットに圧油を供給して静圧軸受とすることを特徴とする球面軸受によって達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸部と球体部とを有する回転揺動体と、この回転揺動体の球体部に外嵌する凹面部を有する軸受体とから構成される球面軸受に関するものであり、特に、広い揺動角度と高い軸受剛性とを有し、回転揺動方向の平滑な動作と微小な角度の位置決めとを可能にし、且つ、長期間にわたって高精度を維持できる高い耐久性が求められる球面軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軸部と球体部とを有する回転揺動体と、この回転揺動体の球体部に外嵌する凹面部を有する軸受体とから構成され、回転揺動体を回転、揺動させる球面軸受は公知となっており、特許文献1の図1、特許文献2の図7に示されているように、回転揺動体(特許文献1では内輪1、特許文献2ではボールシャンク1)の球体部を軸受体(特許文献2では外輪3、特許文献2では樹脂ライナ3)の凹面部で包み込んで保持するように構成されている。
【0003】
このように、回転揺動体の球体部を軸受体の凹面部で包み込んで一体に保持するためには、軸受体の凹面部は、回転揺動体の球体部の最大径を挟む両側を同時に包み込んで保持することが必要であり、組み付ける際には、軸受体の凹面部を回転揺動体の球体部の最大径よりわずかに超えた深さにして、軸受体の凹面部に回転揺動体の球体部を無理に押し込むことによって組み付けるか、軸受体の凹面部を2個以上に分割して、これを組み合わせて回転揺動体の球体部を包み込まなければならない。
【0004】
尚、引用文献2に記載されている発明は、前者の構造の球面軸受の変形例であって、回転揺動体に相当するボールシャンク1の球体部(ボール部10)に樹脂ライナ3を射出成型し、更にその外側にホルダ2をダイカスト鋳造して一体とするもので、特殊な製造方法を採用することによって、回転揺動体の球体部のより広い面積を軸受体の凹面部で包み込んで保持しようとするものである。
【0005】
前者の構造の球面軸受は、分解することは不可能であって、組み立てた後は、回転揺動体の球体部と軸受体の凹面部との接触面を見ることは全く出来ず、接触面の仕上り状況や片当たりの有無などを確認することは出来ない。
【0006】
このため、従来技術では、軸受体の凹面部を軟質の金属やプラスチックで形成して、回転揺動体の球体部と軸受体の凹面部との接触部に片当たりが生じても焼付きなどが生じないように構成されていた。このことは、逆にいうと、磨耗が生じやすいことであり、このため、長期間にわたって高精度を維持することは困難であった。
【0007】
また、後者の構造の球面軸受では、分解して接触面の仕上り状況や片当たりの有無などを確認することは可能であるが、分解して再組立するたびに微妙に組み立て位置が変動するので、分解前の状態に完全に復旧することは不可能であり、どうしても片当たりなどが生じやすくなることは避けられない。
【0008】
このため、特許文献3に記載されている発明では、酸化物超電導体と永久磁石とを組み合わせることによって、軸受面が相互に接触しない非接触の球面軸受を構成し、片当たりや磨耗が発生することを防止しようとしているが、マイスナー効果で磁気浮上させるためには、通常ではあまり取り扱わない程度の低温環境が必要であり、このような冷却環境にするためには、高価な液体ヘリウムなどの冷媒が必要となって、実際にこのような球面軸受を使用することは、非常に限定的な用途のみとならざるを得ない。
【0009】
また、このように、回転揺動体の球体部を軸受体の凹面部で包み込んで保持する球面軸受は、例えば特許文献2の図7に示すように、軸受体の開口部を回転揺動体の軸部が貫通する構造となっているので、軸受体の開口部の大きさにもよるが、回転揺動体の軸部の揺動角度は、大きいもので60度〜30度、一般には15度以下の微小な揺動角度が限度となっているものが普通である。
【0010】
回転揺動体の揺動角度を大きくするために、特許文献4の図2に示すように、軸受体の凹面部を半球より浅い球面状に形成し、軸受体の半球状の凹面部を永久磁石として、この磁石の吸引力によって回転揺動体と軸受体とを一体に保持するものが知られている。しかしながら、この構造では、磁石の吸引力によって吸引され、回転揺動体と軸受体とが相互に接触して一体に保持されるので、回転揺動体を回転、揺動することは困難となり、特許文献4の実施例のように、回転揺動体と軸受体とを一体に固定する用途以外には用いることが困難であった。
【0011】
以上に述べたように、従来技術の球面軸受では、ロボットや多自由度ステージ等に用いられる球面軸受に要求される、広い揺動角度と高い軸受剛性とを有し、回転揺動方向の平滑な動作と微小な角度の位置決めとを可能にし、且つ、長期間にわたって高精度を維持できる高い耐久性の全てを満足することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平10−213135号公報 図1
【特許文献2】特開2005−265135号公報 図7
【特許文献3】特開平1−242820号公報 第2図
【特許文献4】特開平11−182529号公報 図2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記の従来技術の問題点を解消して、ロボットや多自由度ステージ等に用いられる球面軸受に要求される、広い揺動角度と高い軸受剛性とを有し、回転揺動方向の平滑な動作と微小な角度の位置決めとを可能にし、且つ、長期間にわたって高精度を維持できる高い耐久性の全てを満足する球面軸受を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、本発明は、軸部と球体部とを有する回転揺動体と、この回転揺動体の球体部に外嵌する凹面部を有する軸受体とから構成される球面軸受において、前記軸受体の凹面部を半球若しくはそれより浅い球面状に形成し、且つ、前記回転揺動体の球体部と前記軸受体の半球状の凹面部との少なくとも一方を磁石として、この磁石の吸引力によって前記揺動回転体と前記軸受体とを一体に保持すると共に、前記回転揺動体の球体部と前記軸受体の半球状の凹面部との少なくとも一方に静圧ポケットを刻設して、該静圧ポケットに圧油を供給して静圧軸受とすることを特徴とする球面軸受を提供するものである。
【0015】
そして、前記磁石が永久磁石であって、前記軸受体の半球状の凹面部が磁化され、前記回転体の球体部が強磁性体で形成されていることが望ましい。或いは、前記静圧ポケットが、前記軸受体の半球状の凹面部に刻設されていることが望ましく、更に、前記静圧軸受は、アルミナ又はジルコニア製の絞りを有することが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、このように構成されているので、ロボットや多自由度ステージ等に用いられる球面軸受に要求される、広い揺動角度と高い軸受剛性とを有し、回転揺動方向の平滑な動作と微小な角度の位置決めとを可能にし、且つ、長期間にわたって高精度を維持できる高い耐久性の全てを満足する球面軸受を提供することできるという効果を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の球面軸受をジョイント装置に採用した例を示す断面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を示す図面に基づいて説明する。図1は、本発明の球面軸受をジョイント装置に採用した例を示す断面図であり、図2は、図1のA−A線断面図である。
【0019】
図に示すように、この実施例のジョイント装置1の球面軸受2は、軸部3aと球体部3bとを有する回転揺動体3と、この回転揺動体3の球体部3bに外嵌する凹面部4aを有する軸受体4とから構成されている。この軸受体4の凹面部4aは、半球状若しくはそれより浅い球面状(図1では半球状)に形成されている。
【0020】
そして、回転揺動体3の球体部3bと軸受体4の半球状の凹面部4aとの少なくとも一方(本実施例では軸受体4の凹面部4a)を磁石として、回転揺動体3の球体部3bと軸受体4の半球状の凹面部4aとがこの磁石の作用によって吸引され、回転揺動体3の球体部3bが軸受体4の凹面部4aに吸着された状態で保持されている。
【0021】
この磁石は、球面軸受に加えられる負荷や後述する静圧軸受の支持力に対応するように吸引力を制御するために電磁石とすることもできるが、通常は、取扱いを容易にするために永久磁石とすることが望ましく、回転揺動体3が大きく揺動しても磁石の作用が変動しないように、軸受体4の半球状の凹面部4aが磁化され、回転体3の球体部3bが強磁性体で形成されていることが望ましい。
【0022】
この磁石の磁極の位置と数は、回転揺動体3の球体部3bと軸受体4の半球状の凹面部4aとが相互に吸引して保持するに適した任意の位置に任意の数だけ配置すれば良く、軸受体4の軸方向に沿ってN極とS極を配置しても良く、或いは、円周方向に沿って配置しても良い。
【0023】
本発明では、このように、回転揺動体3の球体部3bと軸受体4の半球状の凹面部4aとの少なくとも一方を磁石として、この磁石の吸引力によって回転揺動体3と軸受体4とが吸着されて一体に保持されているので、回転揺動体3と軸受体4とが分離することはなく、回転揺動体3の球体部3bと軸受体4の凹面部4aとの間に異物が混入するようなことは生じない。そして、この磁石は、所要の吸引力を得るためには高い磁力を有することが好ましいので、この点を勘案すると、加工が難しくなるが、NdFeB系焼結磁石を採用することが望ましい。
【0024】
回転揺動体3の球体部3bと軸受体4の凹面部4aとの間には、静圧軸受が形成されている。即ち、回転揺動体3の球体部3bと軸受体4の半球状の凹面部4aとの少なくとも一方(本実施例では軸受体4の半球状の凹面部4a)に静圧ポケット4b、4cが刻設されており、この静圧ポケット4b、4cに圧油を供給して静圧軸受が構成されている。静圧ポケット4b、4cは、圧油を供給する配管等を考慮すると、回転、揺動しない軸受体4の側に設けることが望ましい。
【0025】
静圧軸受のための圧油は、軸受体4に外嵌するケース5に配置された給油口5a(端子を取り付ける管用ねじのみを示す)に接続するリング状の給油溝6aから、静圧ポケット4b、4cに連通する給油孔6b、6cを穿設し、この給油孔6b、6cに絞り7a、7bを挿入して配置し、この給油路を通して圧油が供給される。
【0026】
この絞り7a、7bは、アルミナ又はジルコニア製とすることが望ましい。絞り7a、7bをアルミナ又はジルコニア製とすることによって、絞りの寸法を高精度に仕上げることができるので静圧軸受の理論値と実際の軸受の特性の差異を小さくすることができる共に、絞り7a、7bの内面を鏡面加工とすることが容易で、圧油として使用される潤滑油の中の不純物等による目詰まりを防止することができる。
【0027】
本実施例では、図2に示すように、静圧ポケット4bはリング状の溝として、静圧ポケット4cは4個に分割された円弧状の溝として形成されている。しかし、静圧ポケット4b、4cの形状はこれに限定されるものではなく、必要に応じて、任意の形状とすることができることは勿論である。また、溝の断面形状は、明瞭に図示するために、拡大した形状で図示したものであって、静圧ポケットとして必要な任意の形状にすることができることは当然である。
【0028】
静圧ポケット4b、4cは、絞り7a、7bによって所定の圧力に制御された圧油によって回転揺動体3の球体部3bを支持する。一方、回転揺動体3と軸受体4とは、前述したように、磁石の吸引力によって吸引されているので、静圧軸受としては、球面軸受2に掛かる負荷と磁石の吸引力との双方を支持することになる。
【0029】
静圧ポケット4b、4cからランド4d、4e、4fに溢流した油は、軸受体4の凹面部4aと回転揺動体3の球体部3bの間を潤滑しながら流れて、ランド部の潤滑油として作用し、軸受体4の上面に位置する上面カバー8に設けられた回収溝9と、この回収溝9に回収孔10で連通する軸受体4の最奥部に位置する凹部11とによって還流し、回収溝9に連通する回収口5b(端子を取り付ける管用ねじのみを示す)から回収される。
【0030】
回収孔10は、回収溝9から穿孔された縦孔10aと、この縦穴10aに連通し、口元部が端栓10cで閉塞され、軸受体4の最奥部に位置する凹部11に連通する横孔10bとからなっている。
【0031】
上面カバー8は、前述したように、リング状の回収溝9を有しており、この回収溝9から回転揺動体3の球体部3bに沿って使用済みの油が外部に漏洩しないように、球体部3bに密着して配置されたUパッキング12が設けられている。そして、軸受体4の給油溝6aの上部にも、圧油として作用する潤滑油が外部に漏洩しないようにOリング13が配置されており、上面カバー8は、2個の固定ボルト14でケース5に固定されている。更に、上面カバー8からケース5を貫通して、このジョイント装置1を固定するための取付ボルト15が4個配置されている。
【0032】
以上に述べた実施例の回転揺動体3では、軸部3aと球体部3bとが一体に構成されているが、球体部3bに軸部3aを通す孔を設け、この孔に軸を通して固定し、軸部3aとしても良いことは明らかであり、更に、この軸が球面軸受を貫通する構造としても良い。
【0033】
以上のように構成されている球面軸受2では、軸受部が静圧軸受となっているので、軸受体4の凹面部4aと回転揺動体3の球体部3bとの間の静圧ポケット4b、4cに常に圧油が存在し、軸受体4の凹面部4aと回転揺動体3の球体部3bとが接触することはなく、回転揺動体3と軸受体4とが滑らかに回転、揺動することのでき、且つ、軸受体4が硬質の金属であっても、焼付きや磨耗が生じることなく、長期間にわたって高い精度を維持することが可能な球面軸受を提供することができる。
【0034】
また、図から明らかなように、本実施例では、回転揺動体3の軸部3aの揺動角度が90度であり、従来技術の軸受体の開口部に回転揺動体の軸部が貫通する構造のものの揺動角度が最大でも30度〜60度程度であることに比較すれば、非常に大きい揺動角度を得ることができる。そして、この揺動角度は、上面カバー8の形状を工夫することによって更に大きくすることができることは明らかである。
【0035】
この構成の球面軸受は、回転揺動体3の球体部3bの直径を25.4mmとし、軸受体3にNdFeB系焼結磁石を使用したときに、磁石の吸引力を計算すると、静圧軸受の隙間(圧油の厚さ)が0.01mmのときに16.4kgfであり、静圧軸受のためのポケットや凹部に磁石を設けたときには、その深さが0.5mmのときに14.0kgf、1mmのときに11.7kgfの吸引力を生じることになる。この数値は、主として、一方向の軸方向の力を支持する場合には、球面軸受が分離しないために吸着させる吸引力としては十分なものであるが、限られたスペースのなかでより効果的な吸引力を得るためには、凹部又はポケット深さは0.5mm程度が好ましい。
【0036】
また、静圧軸受の剛性は、供給油の圧力を1MPaとしたとき、約1kgf/ミクロンであり、回転揺動体3の球体部3bの直径を25.4mmとしたときの負荷容量は、約10kgf程度となる。尚、これは供給油の圧力を上げることで初期条件に合った適正隙間を維持するとともに負荷容量を上げることも可能である。
【0037】
本発明は、以上のように構成されているので、回転揺動体の軸部の揺動角度を大きくすることが可能であり、回転体と軸受体とが滑らかに回転、揺動することのでき、且つ、長期間にわたって高い精度を維持することが可能な球面軸受を提供することができるという効果を有するものである。
【符号の説明】
【0038】
1 ジョイント装置
2 球面軸受
3 回転揺動体
3a 軸部
3b 球体部
4 軸受体
4a 凹面部
4b,4c 静圧ポケット
4d,4e,4f ランド
5 ケース
5a 給油口
5b 回収口
6a 給油溝
6b,6c 給油孔
7a,7b 絞り
8 上面カバー
9 回収溝
10 回収孔
10a 縦孔
10b 横孔
10c 端栓
11 凹部
12 Uパッキング
13 Oリング
14 固定ボルト
15 取付ボルト


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部と球体部とを有する回転揺動体と、この回転揺動体の球体部に外嵌する凹面部を有する軸受体とから構成される球面軸受において、前記軸受体の凹面部を半球若しくはそれより浅い球面状に形成し、且つ、前記回転揺動体の球体部と前記軸受体の半球状の凹面部との少なくとも一方を磁石として、この磁石の吸引力によって前記揺動回転体と前記軸受体とを一体に保持すると共に、前記回転揺動体の球体部と前記軸受体の半球状の凹面部との少なくとも一方に静圧ポケットを刻設して、該静圧ポケットに圧油を供給して静圧軸受とすることを特徴とする球面軸受。
【請求項2】
前記磁石が永久磁石であって、前記軸受体の半球状の凹面部が磁化され、前記回転体の球体部が強磁性体で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の球面軸受。
【請求項3】
前記静圧ポケットが、前記軸受体の半球状の凹面部に刻設されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の球面軸受。
【請求項4】
前記静圧軸受は、アルミナ又はジルコニア製の絞りを有することを特徴とする請求項3に記載の球面軸受。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−270828(P2010−270828A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123161(P2009−123161)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(309016463)株式会社 メカセル (1)
【Fターム(参考)】