説明

環境配慮型プリント配線板用銅箔

【課題】 絶縁基板との接着性及びエッチング性の両方に優れ、ファインピッチ化に適した、環境負荷が小さい環境配慮型プリント配線板用銅箔を提供する。
【解決手段】 プリント配線板用銅箔は、銅箔基材と、該銅箔基材表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とを備え、被覆層には、Coが25〜900μg/dm2の被覆量で存在し、XPSによる表面からの深さ方向分析から得られた深さ方向(x:単位nm)のコバルトの原子濃度(%)をf(x)とし、銅の原子濃度(%)をg(x)とし、酸素の原子濃度(%)をh(x)とし、炭素の原子濃度(%)をi(x)とし、その他の金属の原子濃度の総和をj(x)とすると、区間[0、1.0]において、∫g(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx)が10%以下で、∫f(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx)が20%以上を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板用の銅箔に関し、特にフレキシブルプリント配線板用の銅箔に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板はここ半世紀に亘って大きな進展を遂げ、今日ではほぼすべての電子機器に使用されるまでに至っている。近年の電子機器の小型化、高性能化ニーズの増大に伴い搭載部品の高密度実装化や信号の高周波化が進展し、プリント配線板に対して導体パターンの微細化(ファインピッチ化)や高周波対応等が求められている。
【0003】
プリント配線板は銅箔に絶縁基板を接着させて銅張積層板とした後に、エッチングにより銅箔面に導体パターンを形成するという工程を経て製造されるのが一般的である。そのため、プリント配線板用の銅箔には絶縁基板との接着性やエッチング性が要求される。
【0004】
絶縁基板との接着性を向上させる技術として、粗化処理と呼ばれる銅箔表面に凹凸を形成する表面処理を施すことが一般に行われている。例えば電解銅箔のM面(粗面)に硫酸銅酸性めっき浴を用いて、樹枝状又は小球状に銅を多数電着せしめて微細な凹凸を形成し、投錨効果によって接着性を改善させる方法がある。粗化処理後には接着特性を更に向上させるためにクロメート処理やシランカップリング剤による処理等が一般的に行われている。
【0005】
また、粗化処理が施されていない平滑な銅箔表面に錫、クロム、銅、鉄、コバルト、亜鉛、ニッケル等の金属層又は合金層を形成する方法も知られている。
【0006】
銅箔に接着させる絶縁基板にはポリイミドが使用されることが多いので、ポリイミドとの接着強度が高いクロムを銅箔表面に被覆する方法が一般的である。これは湿式処理(クロメート処理)、乾式処理(スパッタリング等)で行われる。
【0007】
クロム以外の金属を銅箔表面を被覆する方法も知られている。特許文献1ではニッケルまたはチタンを物理蒸着法で被覆する方法が記載されている。特許文献2ではコバルトで銅箔表面を被覆する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−297569号公報
【特許文献2】特開2008−132757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した種々の従来技術において、ファインピッチの回路形成の観点からは、粗化処理により接着性を向上させる方法は不利である。すなわち、ファインピッチ化により導体間隔が狭くなると、粗化処理部がエッチングによる回路形成後に絶縁基板に残留し、絶縁劣化を起こすおそれがある。これを防止するために粗化表面すべてをエッチングしようとすると長いエッチング時間を必要とし、所定の配線幅が維持できなくなる。
【0010】
接着強度の観点からは、平滑な銅箔表面にポリイミドを積層させた方法は、粗化処理面にポリイミドを積層させる方法に比べて不利である。これは、粗化処理面ではアンカー効果によって接着強度が得られるのに対し、粗化処理を行わない場合ではアンカー効果が得られず、さらに、Cu原子がポリイミド中に拡散することで、界面近傍のポリイミド層が脆弱になり、当該部分が剥離の起点になるからである。
【0011】
また、ポリイミドとの接着強度が良好なクロムを使用する表面処理は、回路形成時にクロムがエッチング液に溶出するため、環境負荷が大きい。また、近年、環境規制の影響は電子部品にも波及し、IECにおける環境関係標準化では、6価クロムなどが規制され、電子部品メーカーもクロム等の有害元素を含有しないか、若しくは含有量の少ない原料素材を使用する傾向がある。
【0012】
また、特許文献1に記載された乾式処理でTi層を設ける方法は、室温では比較的高い接着強度が得られるが、この積層体が熱履歴を受けた場合、層厚みが薄いと銅箔由来のCu原子がTi層を拡散してポリイミド層内に侵入し、接着強度が劣化する。一方、Cu原子の拡散防止に十分なほどTi層が厚いと、表面処理層のエッチング性が劣る。これは回路パターン形成のためにエッチング処理を行った後に、Tiが絶縁基板上に残存する「エッチング残り」と呼ばれる現象である。
【0013】
また、特許文献2に記載された表面処理層は、Tiよりもエッチング性が良好なCoを使用している。特許文献2では湿式めっきでも乾式めっきでも良いとの記述はあるが、特許文献2で実施された表面処理方法は電気めっき(湿式めっき)であり、Co密度から換算すると、Coの被膜厚は約10nm相当である。湿式めっきは銅箔自体が電気化学反応の電極として作用するため、表面近傍の介在物や表面の凹凸の影響を受けやすい。これらは1μm程度の大きさであるため、nmオーダーの被膜を均一に形成することは困難である。
【0014】
そこで、本発明は、環境負荷が小さく、絶縁基板との接着性及びエッチング性の両方に優れ、ファインピッチ化に適した環境配慮型プリント配線板用銅箔を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
従来、被覆層を薄くすると接着強度が低下するということが一般的な理解であった。しかしながら、本発明者らは、鋭意検討の結果、それ自体がCu原子の拡散防止機能を有するCo層をナノメートルオーダーの極薄の厚みで均一に設けると、優れた絶縁基板との密着性を得ることができた。厚みが極薄であり、また、被覆層が均一であることから、エッチング性に優れている。また、Coはエッチング性が良好である反面、エッチング液に容易に溶出してしまうため、エッチング液の酸化能力が高く、Co層が厚いとエッチングで銅箔と絶縁基板との間のCo層のみが腐食し、回路が基板から容易に剥離してしまう可能性がある。このような問題に対し、Cu原子の拡散を防止する層を前述のCo層直下に設けることで、過酷な製造条件及び使用環境に耐えうる銅張積層基板を提供することが可能になる。
【0016】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、銅箔基材と、該銅箔基材表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とを備えたプリント配線板用銅箔であって、被覆層には、Coが25〜900μg/dm2の被覆量で存在し、XPSによる表面からの深さ方向分析から得られた深さ方向(x:単位nm)のコバルトの原子濃度(%)をf(x)とし、銅の原子濃度(%)をg(x)とし、酸素の原子濃度(%)をh(x)とし、炭素の原子濃度(%)をi(x)とし、その他の金属の原子濃度の総和をj(x)とすると、区間[0、1.0]において、∫g(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx)が10%以下で、∫f(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx)が20%以上を満たすプリント配線板用銅箔である。
【0017】
本発明に係るプリント配線板用銅箔の一実施形態においては、Coが40〜500μg/dm2の被覆量で存在する。
【0018】
本発明に係るプリント配線板用銅箔の別の一実施形態においては、Coが80〜360μg/dm2の被覆量で存在する。
【0019】
本発明に係るプリント配線板用銅箔の更に別の一実施形態においては、被覆層が、銅箔基材表面から順に積層した、金属の単体又は合金からなる中間層及びCo層で構成され、該中間層が、Ni、Mo、Zn、Ti、V、Sn、Mn及びCrの少なくともいずれか1種を含む。
【0020】
本発明に係るプリント配線板用銅箔の更に別の一実施形態においては、被覆層が、銅箔基材表面から順に積層した、Ni、Mo、Zn及びTiのいずれか1種で構成された中間層、及び、Co層で構成され、該中間層には、Ni、Mo、Zn及びTiのいずれか1種が15〜1030μg/dm2の被覆量で存在する。
【0021】
本発明に係るプリント配線板用銅箔の更に別の一実施形態においては、中間層にはNiが15〜440μg/dm2、Moが25〜1030μg/dm2、Znが15〜750μg/dm2、又は、Tiが15〜140μg/dm2の被覆量で存在する。
【0022】
本発明に係るプリント配線板用銅箔の更に別の一実施形態においては、被覆層が、銅箔基材表面から順に積層した、Ni、Zn、V、Sn、Cr、Mn及びCuの少なくともいずれか2種の合金で構成された中間層、及び、Co層で構成され、該中間層には、Ni、Zn、V、Sn、Cr及びMnのいずれか2種が20〜1700μg/dm2の被覆量で存在する。
【0023】
本発明に係るプリント配線板用銅箔の更に別の一実施形態においては、中間層が、Niと、Zn、V、Sn、Mn及びCrのいずれか1種とからなるNi合金で構成されている。
【0024】
本発明に係るプリント配線板用銅箔の更に別の一実施形態においては、中間層が、被覆量が15〜1000μg/dm2のNi及び5〜750μg/dm2のZnからなるNi−Zn合金、合計被覆量が20〜600μg/dm2のNi及びVからなるNi−V合金、合計被覆量が18〜450μg/dm2のNi及びSnからなるNi−Sn合金、被覆量が20〜440μg/dm2のNi及び5〜200μg/dm2のMnからなるNi−Mn合金、被覆量が15〜440μg/dm2のNi及び5〜110μg/dm2のCrからなるNi−Cr合金で構成されている。
【0025】
本発明に係るプリント配線板用銅箔の更に別の一実施形態においては、中間層が、Cuと、Zn及びNiのいずれか1種又は2種とからなるCu合金で構成されている。
【0026】
本発明に係るプリント配線板用銅箔の更に別の一実施形態においては、中間層が、Znの被覆量が15〜750μg/dm2であるCu−Zn合金、Ni被覆量が15〜440μg/dm2であるCu−Ni合金、又は、Ni被覆量が15〜1000μg/dm2且つZn被覆量が5〜750μg/dm2であるCu−Ni−Zn合金で構成されている。
【0027】
本発明に係るプリント配線板用銅箔の更に別の一実施形態においては、被覆層の断面を透過型電子顕微鏡によって観察すると最大厚さが0.5〜12nmであり、最小厚さが最大厚さの80%以上である。
【0028】
本発明に係るプリント配線板用銅箔の更に別の一実施形態においては、ポリイミド硬化相当の熱処理を行ったとき、XPSによる表面からの深さ方向分析から得られた深さ方向(x:単位nm)のコバルトの原子濃度(%)をf(x)とし、銅の原子濃度(%)をg(x)とし、酸素の原子濃度(%)をh(x)とし、炭素の原子濃度(%)をi(x)とし、その他の金属の原子濃度の総和をj(x)とすると、区間[0、1.0]において、∫g(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx)が10%以下で、∫f(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx)が20%以上を満たす。
【0029】
本発明に係るプリント配線板用銅箔の更に別の一実施形態においては、ポリイミド硬化相当の熱処理が行われたプリント配線板用銅箔であって、XPSによる表面からの深さ方向分析から得られた深さ方向(x:単位nm)のコバルトの原子濃度(%)をf(x)とし、銅の原子濃度(%)をg(x)とし、酸素の原子濃度(%)をh(x)とし、炭素の原子濃度(%)をi(x)とし、その他の金属の原子濃度の総和をj(x)とすると、区間[0、1.0]において、∫g(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx)が10%以下で、∫f(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx)が20%以上を満たす。
【0030】
本発明に係るプリント配線板用銅箔の更に別の一実施形態においては、被覆層を介して絶縁基板が形成されたプリント配線板用銅箔に対し、絶縁基板を被覆層から剥離した後の被覆層の表面を分析したとき、XPSによる表面からの深さ方向分析から得られた深さ方向(x:単位nm)のコバルトの原子濃度(%)をf(x)とし、銅の原子濃度(%)をg(x)とし、酸素の原子濃度(%)をh(x)とし、炭素の原子濃度(%)をi(x)とし、その他の金属の原子濃度の総和をj(x)とし、コバルトの濃度が最大となる表層からの距離をFとすると、区間[0、F]において、∫g(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx)が10%以下を満たす。
【0031】
本発明に係るプリント配線板用銅箔の更に別の一実施形態においては、銅箔基材は圧延銅箔である。
【0032】
本発明に係るプリント配線板用銅箔の更に別の一実施形態においては、プリント配線板はフレキシブルプリント配線板である。
【0033】
本発明は別の一側面において、本発明に係る銅箔を備えた銅張積層板である。
【0034】
本発明に係る銅張積層板の一実施形態においては、銅箔がポリイミドに接着している構造を有する。
【0035】
本発明は更に別の一側面において、本発明に係る銅張積層板を材料としたプリント配線板である。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、絶縁基板との接着性及びエッチング性の両方に優れ、ファインピッチ化に適したプリント配線板用銅箔が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施例1の銅箔(成膜後)のTEM写真(断面)である。
【図2】実施例3の銅箔(成膜後)のXPSによるデプスプロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
(銅箔基材)
本発明に用いることのできる銅箔基材の形態に特に制限はないが、典型的には圧延銅箔や電解銅箔の形態で用いることができる。一般的には、電解銅箔は硫酸銅めっき浴からチタンやステンレスのドラム上に銅を電解析出して製造され、圧延銅箔は圧延ロールによる塑性加工と熱処理を繰り返して製造される。屈曲性が要求される用途には圧延銅箔を適用することが多い。
銅箔基材の材料としてはプリント配線板の導体パターンとして通常使用されるタフピッチ銅や無酸素銅といった高純度の銅の他、例えばSn入り銅、Ag入り銅、Cr、Zr又はMg等を添加した銅合金、Ni及びSi等を添加したコルソン系銅合金のような銅合金も使用可能である。なお、本明細書において用語「銅箔」を単独で用いたときには銅合金箔も含むものとする。
【0039】
本発明に用いることのできる銅箔基材の厚さについても特に制限はなく、プリント配線板用に適した厚さに適宜調節すればよい。例えば、5〜100μm程度とすることができる。但し、ファインパターン形成を目的とする場合には30μm以下、好ましくは20μm以下であり、典型的には5〜20μm程度である。
【0040】
本発明に使用する銅箔基材には粗化処理をしないのが好ましい。従来は特殊めっきで表面にμmオーダーの凹凸を付けて表面粗化処理を施し、物理的なアンカー効果によって樹脂との接着性を持たせるケースが一般的であった。しかしながら一方でファインピッチや高周波電気特性は平滑な箔が良いとされ、粗化箔では不利な方向に働くからである。また、粗化処理工程が省略されるので、経済性・生産性向上の効果もある。従って、本発明で使用される箔は、特別に粗化処理をしない箔である。
【0041】
(被覆層)
銅箔基材の表面の少なくとも一部には被覆層が形成されている。被覆する箇所には特に制限は無いが、絶縁基板との接着が予定される箇所とするのが一般的である。被覆層の存在によって絶縁基板との接着性が向上する。被覆層は、Co単層又は銅箔基材表面から順に積層した中間層及びCo層で構成されている。中間層は、Ni、Mo、Zn、Ti、V、Sn、Mn及びCrの少なくともいずれか1種を含むのが好ましい。中間層は、金属の単体で構成されていてもよく、例えば、Ni、Mo、Zn及びTiのいずれか1種で構成されるのが好ましい。中間層は、合金で構成されていてもよく、例えば、Ni、Zn、V、Sn、Cr、Mn及びCuの少なくともいずれか2種の合金で構成されるのが好ましい。また、中間層は、Niと、Zn、V、Sn、Mn及びCrのいずれか1種とからなるNi合金で構成されていてもよく、Cuと、Zn及びNiのいずれか1種又は2種とからなるCu合金で構成されていてもよい。一般に、銅箔と絶縁基板の間の接着力は高温環境下に置かれると低下する傾向にあるが、これは銅が表面に熱拡散し、絶縁基板と反応することにより引き起こされると考えられる。本発明では、予め銅の拡散防止に優れる上記中間層を銅箔基材の上に設けたことで、銅の熱拡散が防止できる。ここで、銅の拡散防止のために設ける種々の中間層の中で、Cu合金層には、表面へ拡散させたくない銅が含まれているが、銅を合金化しているため、表面への拡散は無く、良好な接着性を有すると共に、エッチング性にも悪影響を及ぼさない。
また、上記中間層よりも絶縁基板との接着性に優れたCo層を該中間層の上に設けることで更に絶縁基板との接着性を向上することができる。Co層の厚さは中間層の存在のおかげで薄くできるので、エッチング性への悪影響を軽減することができる。なお、本発明でいう接着性とは常態での接着性の他、高温下に置かれた後の接着性(耐熱性)及び高湿度下に置かれた後の接着性(耐湿性)も指す。
【0042】
本発明に係るプリント配線板用銅箔においては、被覆層は極薄で厚さが均一である。このような構成にしたことで絶縁基板との接着性が向上した理由は明らかではないが、中間層の上に最表面として樹脂との接着性に非常に優れているCo単層被膜を形成したことで、イミド化時の高温熱処理後(約350℃にて30分〜数時間程度)も高接着性を有する単層被膜構造を保持しているためと推測される。
【0043】
具体的には、本発明に係る被覆層は以下の構成を有する。
【0044】
(1)被覆層の同定
本発明においては、銅箔素材の表面の少なくとも一部は中間層及びCo層の順に被覆される。これら被覆層の同定はXPS、若しくはAES等表面分析装置にて表層からアルゴンスパッタし、深さ方向の化学分析を行い、夫々の検出ピークの存在によって中間層及びCo層を同定することができる。また、夫々の検出ピークの位置から被覆された順番を確認することができる。
【0045】
(2)付着量
一方、これら中間層及びCo層は非常に薄いため、XPS、AESでは正確な厚さの評価が困難である。そのため、本願発明においては、中間層及びCo層の厚さは単位面積当たりの被覆金属の重量で評価することとした。本発明に係る被覆層には、Co層が25〜900μg/dm2の被覆量で存在する。Coが25μg/dm2未満だと十分なピール強度が得られず、Coが900μg/dm2を超えるとエッチング性が有意に低下する傾向にある。Coの被覆量は好ましくは40〜500μg/dm2、より好ましくは80〜360μg/dm2である。
また、中間層が、Ni、Mo、Zn及びTiのいずれか1種で構成されているとき、該中間層には、Ni、Mo、Zn及びTiのいずれか1種が15〜1030μg/dm2の被覆量で存在することが好ましい。このとき、被覆量が15μg/dm2未満だと十分なピール強度が得られず、1030μg/dm2を超えるとエッチング性が有意に低下する傾向にある。さらに、この場合、中間層にはNiが15〜440μg/dm2、Moが25〜1030μg/dm2、Znが15〜750μg/dm2、又は、Tiが15〜140μg/dm2の被覆量で存在するのがより好ましい。
また、中間層が、Ni、Zn、V、Sn、Cr、Mn及びCuの少なくともいずれか2種の合金で構成されているとき、該中間層には、Ni、Zn、V、Sn、Cr及びMnのいずれか2種が20〜1700μg/dm2の被覆量で存在するのが好ましい。このとき、被覆量が20μg/dm2未満だと十分なピール強度が得られず、1700μg/dm2を超えるとエッチング性が有意に低下する傾向にある。
また、中間層が、Niと、Zn、V、Sn、Mn及びCrのいずれか1種とからなるNi合金で構成されているとき、該中間層が、被覆量が15〜1000μg/dm2のNi及び5〜750μg/dm2のZnからなるNi−Zn合金、合計被覆量が20〜600μg/dm2のNi及びVからなるNi−V合金、合計被覆量が18〜450μg/dm2のNi及びSnからなるNi−Sn合金、被覆量が20〜440μg/dm2のNi及び5〜200μg/dm2のMnからなるNi−Mn合金、被覆量が15〜440μg/dm2のNi及び5〜110μg/dm2のCrからなるNi−Cr合金で構成されているのが好ましい。
また、中間層が、Cuと、Zn及びNiのいずれか1種又は2種とからなるCu合金で構成されているとき、該中間層が、Znの被覆量が15〜750μg/dm2であるCu−Zn合金、Ni被覆量が15〜440μg/dm2であるCu−Ni合金、又は、Ni被覆量が15〜1000μg/dm2且つZn被覆量が5〜750μg/dm2であるCu−Ni−Zn合金で構成されているのが好ましい。
【0046】
(3)透過型電子顕微鏡(TEM)による観察
本発明に係る被覆層の断面を透過型電子顕微鏡によって観察したとき、最大厚さは0.5nm〜12nm、好ましくは1.0〜2.5nmであり、最小厚さが最大厚さの80%以上、好ましくは85%以上で、非常にばらつきの少ない被覆層である。被覆層厚さが0.5nm未満だと耐熱試験、耐湿試験において、ピール強度の劣化が大きく、厚さが12nmを超えると、エッチング性が低下するためである。厚さの最小値が最大値の80%以上である場合、この被覆層の厚さは、非常に安定しており、耐熱試験後も殆ど変化がない。TEMによる観察では被覆層中の中間層及びCo層の明確な境界は見出しにくく、単層のように見える(図1参照)。本発明者の検討結果によればTEM観察で見出される被覆層はCoを主体とする層と考えられ、中間層はその銅箔基材側に存在するとも考えられる。そこで、本発明においては、TEM観察した場合の被覆層の厚さは単層のように見える被覆層の厚さと定義する。ただし、観察箇所によっては被覆層の境界が不明瞭なところも存在し得るが、そのような箇所は厚さの測定箇所から除外する。
【0047】
本発明の構成により、Cuの拡散が抑制されるため、安定した厚さを有すると考えられる。本発明の銅箔は、ポリイミドフィルムと接着し、耐熱試験(温度150℃で空気雰囲気下の高温環境下に168時間放置)を経た後に樹脂を剥離した後においても、被覆層の厚さは殆ど変化なく、最大厚さが0.5〜12nmであり、最小厚さにおいても最大厚さの80%維持されることが可能である。
【0048】
(4)被覆層表面の酸化状態
まず、被覆層最表面(表面から0〜1.0nmの範囲)には内部の銅が拡散していないことが、接着強度を高める上では望ましい。従って、本発明に係るプリント配線板用銅箔では、XPSによる表面からの深さ方向分析から得られた深さ方向(x:単位nm)のコバルトの原子濃度(%)をf(x)とし、銅の原子濃度(%)をg(x)とし、酸素の原子濃度(%)をh(x)とし、炭素の原子濃度(%)をi(x)とし、その他の金属の原子濃度の総和をj(x)とすると、区間[0、1.0]において、∫g(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx)が10%以下とするのが好ましい。
【0049】
また、ポリイミド硬化相当の熱処理を行ったとき、XPSによる表面からの深さ方向分析から得られた深さ方向(x:単位nm)のコバルトの原子濃度(%)をf(x)とし、銅の原子濃度(%)をg(x)とし、酸素の原子濃度(%)をh(x)とし、炭素の原子濃度(%)をi(x)とし、その他の金属の原子濃度の総和をj(x)とすると、区間[0、1.0]において、∫g(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx)が10%以下であるのが好ましい。
【0050】
また、被覆層を介して絶縁基板が形成されたプリント配線板用銅箔に対し、絶縁基板を被覆層から剥離した後の被覆層の表面を分析したとき、XPSによる表面からの深さ方向分析から得られた深さ方向(x:単位nm)のコバルトの原子濃度(%)をf(x)とし、銅の原子濃度(%)をg(x)とし、酸素の原子濃度(%)をh(x)とし、炭素の原子濃度(%)をi(x)とし、その他の金属の原子濃度の総和をj(x)とし、コバルトの濃度が最大となる表層からの距離をFとすると、区間[0、F]において、∫g(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx)が10%以下であることが望ましい。
【0051】
また、被覆層最表面(表面から0〜1.0nmの範囲)においては、絶縁基板との良好な接着性を確保すべく、一定量以上のCoが存在していることが望ましい。従って、本発明に係るプリント配線板用銅箔では、XPSによる表面からの深さ方向分析から得られた深さ方向(x:単位nm)のコバルトの原子濃度(%)をf(x)とし、銅の原子濃度(%)をg(x)とし、酸素の原子濃度(%)をh(x)とし、炭素の原子濃度(%)をi(x)とし、その他の金属の原子濃度の総和をj(x)とすると、区間[0、1.0]において、∫f(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx)が20%以上であることが望ましい。
【0052】
また、ポリイミド硬化相当の熱処理を行ったとき、XPSによる表面からの深さ方向分析から得られた深さ方向(x:単位nm)のコバルトの原子濃度(%)をf(x)とし、銅の原子濃度(%)をg(x)とし、酸素の原子濃度(%)をh(x)とし、炭素の原子濃度(%)をi(x)とし、その他の金属の原子濃度の総和をj(x)とすると、区間[0、1.0]において、∫f(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx)が20%以上であることが望ましい。
【0053】
コバルト濃度及び酸素濃度はそれぞれ、XPSによる表面からの深さ方向分析から得られたCo2p軌道及びO1s軌道のピーク強度から算出する。また、深さ方向(x:単位nm)の距離は、SiO2換算のスパッタレートから算出した距離とする。
【0054】
(本発明に係る銅箔の製法)
本発明に係るプリント配線板用銅箔は、スパッタリング法により形成することができる。すなわち、スパッタリング法によって銅箔基材表面の少なくとも一部を、0.5〜5.8nmのCo層で被覆することでも製造することができる。または、厚さ0.25〜5.0nm、好ましくは0.3〜4.0nm、より好ましくは0.5〜3.0nmの中間層及び厚さ0.25〜2.5nm、好ましくは0.4〜2.0nm、より好ましくは0.5〜1.0nmのCo層で順に被覆することにより製造することができる。電気めっきでこのような極薄の被膜を積層すると、厚さにばらつきが生じ、耐熱・耐湿試験後にピール強度が低下しやすい。
ここでいう厚さとは上述したXPSやTEMによって決定される厚さではなく、スパッタリングの成膜速度から導き出される厚さである。あるスパッタリング条件下での成膜速度は、0.1μm(100nm)以上スパッタを行い、スパッタ時間とスパッタ厚さの関係から計測することができる。当該スパッタリング条件下での成膜速度が計測できたら、所望の厚さに応じてスパッタ時間を設定する。なおスパッタは、連続又はバッチ何れで行っても良く、被覆層を本発明で規定するような厚さで均一に積層することができる。スパッタリング法としては直流マグネトロンスパッタリング法が挙げられる。
【0055】
(プリント配線板の製造)
本発明に係る銅箔を用いてプリント配線板(PWB)を常法に従って製造することができる。以下に、プリント配線板の製造例を示す。
【0056】
まず、銅箔と絶縁基板を貼り合わせて銅張積層板を製造する。銅箔が積層される絶縁基板はプリント配線板に適用可能な特性を有するものであれば特に制限を受けないが、例えば、リジッドPWB用に紙基材フェノール樹脂、紙基材エポキシ樹脂、合成繊維布基材エポキシ樹脂、ガラス布・紙複合基材エポキシ樹脂、ガラス布・ガラス不織布複合基材エポキシ樹脂及びガラス布基材エポキシ樹脂等を使用し、FPC用にポリエステルフィルムやポリイミドフィルム等を使用する事ができる。
【0057】
貼り合わせの方法は、リジッドPWB用の場合、ガラス布などの基材に樹脂を含浸させ、樹脂を半硬化状態まで硬化させたプリプレグを用意する。プリプレグと銅箔の被覆層を有する面を重ね合わせて加熱加圧させることにより行うことができる。
【0058】
フレキシブルプリント配線板(FPC)用の場合、ポリイミドフィルム又はポリエステルフィルムと銅箔の被覆層を有する面をエポキシ系やアクリル系の接着剤を使って接着することができる(3層構造)。また、接着剤を使用しない方法(2層構造)としては、ポリイミドの前駆体であるポリイミドワニス(ポリアミック酸ワニス)を銅箔の被覆層を有する面に塗布し、加熱することでイミド化するキャスティング法や、ポリイミドフィルム上に熱可塑性のポリイミドを塗布し、その上に銅箔の被覆層を有する面を重ね合わせ、加熱加圧するラミネート法が挙げられる。ラミネート法によりCCL(銅張積層板)を製造する場合、ラミネートの熱履歴によるCuの拡散は軽微であるので、銅箔の表面処理は単層でもよい。ただし、キャスティング法によりCCLを製造する場合は、一般的にキャストの熱履歴はラミネートのそれよりも過酷であるため、CCLの使用環境による熱履歴と合わせると、Cuが表面まで拡散する可能性がある。よって、キャスティング法でCCLを製造する場合は、Co層の下地層を設けることが望ましい。また、キャスティング法においては、ポリイミドワニスを塗布する前に熱可塑性ポリイミド等のアンカーコート材を予め塗布しておくことも有効である。
【0059】
本発明に係る銅箔の効果はキャスティング法を採用してFPCを製造したときに顕著に表れる。すなわち、接着剤を使用せずに銅箔と樹脂とを貼り合わせようとするときには銅箔の樹脂への接着性が特に要求されるが、本発明に係る銅箔は樹脂、とりわけポリイミドとの接着性に優れているので、キャスティング法による銅張積層板の製造に適しているといえる。
【0060】
本発明に係る銅張積層板は各種のプリント配線板(PWB)に使用可能であり、特に制限されるものではないが、例えば、導体パターンの層数の観点からは片面PWB、両面PWB、多層PWB(3層以上)に適用可能であり、絶縁基板材料の種類の観点からはリジッドPWB、フレキシブルPWB(FPC)、リジッド・フレックスPWBに適用可能である。
【0061】
銅張積層板からプリント配線板を製造する工程は当業者に周知の方法を用いればよく、例えばエッチングレジストを銅張積層板の銅箔面に導体パターンとしての必要部分だけに塗布し、エッチング液を銅箔面に噴射することで不要銅箔を除去して導体パターンを形成し、次いでエッチングレジストを剥離・除去して導体パターンを露出することができる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の実施例を示すが、これらは本発明をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0063】
(例1:実施例1〜44)
実施例1〜6及び8〜44の銅箔基材として、厚さ18μmの圧延銅箔(日鉱金属製C1100)を用意した。圧延銅箔の表面粗さ(Rz)は0.7μmであった。また、実施例7の銅箔基材として、厚さ18μmの無粗化処理の電解銅箔を用意した。電解銅箔の表面粗さ(Rz)は1.5μmであった。
【0064】
スパッタリングに使用した各種単体(a〜e)は純度が3Nのものを用いた。また、
各種合金(f〜l)を以下の手順で作製した。まず、電気銅またはニッケルに表1(スパッタリングターゲットの合金成分〔質量%〕)に示す組成の元素をそれぞれ添加して高周波溶解炉でインゴットを鋳造し、これに600〜900℃で熱間圧延を施した。さらに500〜850℃で3時間均質化焼鈍した後、表層の酸化層を取り除き、スパッタリング用のターゲットとして使用した。
【0065】
【表1】

【0066】
この銅箔の片面に対して、以下の条件であらかじめ銅箔基材表面に付着している薄い酸化膜を逆スパッタにより取り除き、Co単層、又は、a〜d、f〜l及びCo単層のターゲットをスパッタリングすることにより、Co単層、又は、中間層及びCo層を順に成膜した。被覆層の厚さは成膜時間を調整することにより変化させた。
・装置:バッチ式スパッタリング装置(アルバック社、型式MNS−6000)
・到達真空度:1.0×10-5Pa
・スパッタリング圧:0.2Pa
・逆スパッタ電力:100W
・ターゲット:
中間層=a〜d、f〜l
Co層用=Co(純度3N)
・スパッタリング電力:50W
・成膜速度:各ターゲットについて一定時間約0.2μm成膜し、3次元測定器で厚さを測定し、単位時間当たりのスパッタレートを算出した。
【0067】
CCL(銅張積層板)の製造については、キャスティング法及びラミネート法の2種類の方法を用いた。
キャスティング法としては、被覆層を設けた銅箔に対して、以下の手順により、ポリイミドフィルムを接着した。
(1)7cm×7cmの銅箔に対しアプリケーターを用い、宇部興産製Uワニス−A(ポリイミドワニス)を乾燥体で25μmになるよう塗布。
(2)(1)で得られた樹脂付き銅箔を空気下乾燥機で130℃30分で乾燥。
(3)窒素流量を10L/minに設定した高温加熱炉において、350℃30分でイミド化。
ラミネート法は、Co単層を被覆層として有する銅箔に対して行った。具体的には、Co単層(被覆層)側に接着剤付ポリイミドシート、ニッカン工業(株)製ニカフレックスCISVを、160℃、40分間、3MPaの条件で貼り合わせた。
【0068】
また、上記ポリイミドフィルムの接着試験とは別に、「耐熱試験」として、被覆層を設けた銅箔にポリイミドフィルムを接着させずにそのまま窒素雰囲気下で350℃、2時間加熱した。
【0069】
<付着量の測定>
50mm×50mmの銅箔表面の被膜をHNO3(2重量%)とHCl(5重量%)を混合した溶液に溶解し、その溶液中の金属濃度をICP発光分光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SFC−3100)にて定量し、単位面積当たりの金属量(μg/dm2)を算出した。なお、本発明において、Cu合金をターゲットとした場合のCuとその他の金属の付着量は同条件でCo箔上に成膜した場合の分析値を用いた。
【0070】
<XPSによる測定>
被覆層のデプスプロファイルを作成した際のXPSの稼働条件を以下に示す。
・装置:XPS測定装置(アルバックファイ社、型式5600MC)
・到達真空度:3.8×10-7Pa
・X線:単色AlKαまたは非単色MgKα、エックス線出力300W、検出面積800μmφ、試料と検出器のなす角度45°
・イオン線:イオン種Ar+、加速電圧3kV、掃引面積3mm×3mm、スパッタリングレート2.0nm/min(SiO2換算)
・接着強度測定時のポリイミド硬化条件(350℃×30分)よりも過酷な条件の熱履歴(350℃×120分)を施した被膜を分析した。
【0071】
<TEMによる測定>
被覆層をTEMによって観察したときのTEMの測定条件を以下に示す。後述の表中に示した厚さは、観察視野中に写っている被覆層全体の厚さを1視野について50nm間の厚さの最大値、最小値を測定し、任意に選択した3視野の最大値と最小値を求め、最大値、及び、最大値に対する最小値の割合を百分率で求めた。また、表中の「耐熱試験後」のTEM観察結果とは、試験片の被覆層上に上記手順によりポリイミドフィルムを接着させた後、試験片を下記の高温環境下に置き、得られた試験片からポリイミドフィルムを90°剥離法(JIS C 6471 8.1)に従って剥離した後のTEM像である。図1に、実施例1のTEMによる成膜後の観察写真を例示的に示す。中間層は図1からは確認できない。これは該当部が銅合金層になっていて母材の銅箔と区別がつかなくなっているためである。図1で確認されるのはCo層であると推定される。本発明では母材との境界が明瞭である層のみの厚みを計測した。
・装置:TEM(日立製作所社、型式H9000NAR)
・加速電圧:300kV
・倍率:300000倍
・観察視野:60nm×60nm
【0072】
<接着性評価>
上記のようにしてポリイミドを積層した銅箔について、ピール強度を積層直後(常態)、温度150℃で空気雰囲気下の高温環境下に168時間放置した後(耐熱性)、及び温度40℃°相対湿度95%空気雰囲気下の高湿環境下に96時間放置した後(耐湿性)の三つの条件で測定した。ピール強度は90°剥離法(JIS C 6471 8.1)に準拠して測定した。
【0073】
<エッチング性評価>
上記のようにして作製した銅箔の該被覆層に白いテープを貼り付け、エッチング液(塩化銅二水和物、塩化アンモニウム、アンモニア水、液温50℃)に7分間浸漬させた。その後、テープに付着したエッチング残渣の金属成分をICP発光分光分析装置により定量し、以下の基準で評価した。
×:エッチング残渣が180μg/dm2以上
△:エッチング残渣が90μg/dm2以上180μg/dm2未満
〇:エッチング残渣が90μg/dm2未満
【0074】
(例2:比較例1〜28)
例1で使用した圧延銅箔基材の片面にスパッタ時間を変化させ、後述の表の厚さの被膜を形成した。被覆層を設けた銅箔に対して、例1と同様の手順により、ポリイミドフィルムを接着した。
【0075】
(例3:比較例29)
例1で使用した圧延銅箔基材の片面に、特開2008−132757号公報に教示された方法をもとにCoめっきを施した。例1と同様の手順により、この処理面にポリイミドフィルムを接着した。
・硫酸コバルト 2g/l(Co換算)
・りん酸カリウム 80g/l
・pH 10
・浴温 40℃
・電流密度 8A/dm2
【0076】
例1〜3の各測定結果を表2〜7に示す。
【0077】
【表2】

【0078】
【表3】

【0079】
【表4】

【0080】
【表5】

【0081】
【表6】

【0082】
【表7】

【0083】
実施例1〜2、5〜44は、いずれも良好なピール強度及びエッチング性を有している。また、実施例3及び4はエッチング性が前述実施例に比べてやや劣ったものの、ピール強度は良好であった。
Co単層を被覆層とした場合、熱履歴が比較的軽度であるラミネート法によりCCLを製造すると、常態ピール強度からの耐熱ピール強度及び耐湿ピール強度の低下は小さかった(実施例2)。一方、ラミネート法に比べると熱履歴が過酷であるキャスティング法によりCCLを製造すると、常態ピール強度からの耐熱ピール強度及び耐湿ピール強度の低下は大きかった(実施例3)。なお、樹脂によっては本実施例で採用した熱履歴よりも過酷な条件でポリイミドの硬化が行われるので、耐熱ピール強度及び耐湿ピール強度がさらに低下することも有りうる。
図2に実施例3の銅箔(Co層成膜後)のXPSによるデプスプロファイルを示す。表層はCoで覆われており、接着界面にはCuが存在せず、表層から1nmの範囲内では、電気めっきとは異なり、Coの原子濃度比は60%を超えていた。ポリイミド加熱相当の熱処理後でも接着界面へのCuの拡散は認められなかった。
【0084】
比較例1は、Coの被覆量が25μg/dm2未満であり、ピール強度が不良であった。
比較例2は、Coの被覆量が900μg/dm2超であり、エッチング性が不良であった。
比較例3〜28は、Coの被覆量が25〜900μg/dm2の範囲内であったが、中間層に用いた各種元素に係る被覆量に起因して、各種ピール強度又はエッチング性が不良であった。
比較例29は、Coの付着量が25〜900μg/dm2の範囲内であったにもかかわらず、耐熱及び耐湿ピール強度が不良であった。これは、電気めっきで形成されたCo層は接着界面のCo原子濃度が低く、また、被覆層が欠陥を含むため、銅箔からのCu原子の拡散が起こったためであると推定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅箔基材と、該銅箔基材表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とを備えたプリント配線板用銅箔であって、
被覆層には、Coが25〜900μg/dm2の被覆量で存在し、
XPSによる表面からの深さ方向分析から得られた深さ方向(x:単位nm)のコバルトの原子濃度(%)をf(x)とし、銅の原子濃度(%)をg(x)とし、酸素の原子濃度(%)をh(x)とし、炭素の原子濃度(%)をi(x)とし、その他の金属の原子濃度の総和をj(x)とすると、区間[0、1.0]において、∫g(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx)が10%以下で、∫f(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx)が20%以上を満たすプリント配線板用銅箔。
【請求項2】
Coが40〜500μg/dm2の被覆量で存在する請求項1に記載のプリント配線板用銅箔。
【請求項3】
Coが80〜360μg/dm2の被覆量で存在する請求項2に記載のプリント配線板用銅箔。
【請求項4】
被覆層が、銅箔基材表面から順に積層した、金属の単体又は合金からなる中間層及びCo層で構成され、該中間層が、Ni、Mo、Zn、Ti、V、Sn、Mn及びCrの少なくともいずれか1種を含む請求項1〜3のいずれかに記載のプリント配線板用銅箔。
【請求項5】
被覆層が、銅箔基材表面から順に積層した、Ni、Mo、Zn及びTiのいずれか1種で構成された中間層、及び、Co層で構成され、該中間層には、Ni、Mo、Zn及びTiのいずれか1種が15〜1030μg/dm2の被覆量で存在する請求項4に記載のプリント配線板用銅箔。
【請求項6】
中間層にはNiが15〜440μg/dm2、Moが25〜1030μg/dm2、Znが15〜750μg/dm2、又は、Tiが15〜140μg/dm2の被覆量で存在する請求項5に記載のプリント配線板用銅箔。
【請求項7】
被覆層が、銅箔基材表面から順に積層した、Ni、Zn、V、Sn、Cr、Mn及びCuの少なくともいずれか2種の合金で構成された中間層、及び、Co層で構成され、該中間層には、Ni、Zn、V、Sn、Cr及びMnのいずれか2種が20〜1700μg/dm2の被覆量で存在する請求項4に記載のプリント配線板用銅箔。
【請求項8】
中間層が、Niと、Zn、V、Sn、Mn及びCrのいずれか1種とからなるNi合金で構成された請求項7に記載のプリント配線板用銅箔。
【請求項9】
中間層が、被覆量が15〜1000μg/dm2のNi及び5〜750μg/dm2のZnからなるNi−Zn合金、合計被覆量が20〜600μg/dm2のNi及びVからなるNi−V合金、合計被覆量が18〜450μg/dm2のNi及びSnからなるNi−Sn合金、被覆量が20〜440μg/dm2のNi及び5〜200μg/dm2のMnからなるNi−Mn合金、被覆量が15〜440μg/dm2のNi及び5〜110μg/dm2のCrからなるNi−Cr合金で構成された請求項8に記載のプリント配線板用銅箔。
【請求項10】
中間層が、Cuと、Zn及びNiのいずれか1種又は2種とからなるCu合金で構成された請求項7に記載のプリント配線板用銅箔。
【請求項11】
中間層が、Znの被覆量が15〜750μg/dm2であるCu−Zn合金、Ni被覆量が15〜440μg/dm2であるCu−Ni合金、又は、Ni被覆量が15〜1000μg/dm2且つZn被覆量が5〜750μg/dm2であるCu−Ni−Zn合金で構成された請求項10に記載のプリント配線板用銅箔。
【請求項12】
被覆層の断面を透過型電子顕微鏡によって観察すると最大厚さが0.5〜12nmであり、最小厚さが最大厚さの80%以上である請求項1〜11のいずれかに記載のプリント配線板用銅箔。
【請求項13】
ポリイミド硬化相当の熱処理を行ったとき、XPSによる表面からの深さ方向分析から得られた深さ方向(x:単位nm)のコバルトの原子濃度(%)をf(x)とし、銅の原子濃度(%)をg(x)とし、酸素の原子濃度(%)をh(x)とし、炭素の原子濃度(%)をi(x)とし、その他の金属の原子濃度の総和をj(x)とすると、区間[0、1.0]において、∫g(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx)が10%以下で、∫f(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx)が20%以上を満たす請求項1〜12のいずれかに記載のプリント配線板用銅箔。
【請求項14】
ポリイミド硬化相当の熱処理が行われたプリント配線板用銅箔であって、XPSによる表面からの深さ方向分析から得られた深さ方向(x:単位nm)のコバルトの原子濃度(%)をf(x)とし、銅の原子濃度(%)をg(x)とし、酸素の原子濃度(%)をh(x)とし、炭素の原子濃度(%)をi(x)とし、その他の金属の原子濃度の総和をj(x)とすると、区間[0、1.0]において、∫g(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx)が10%以下で、∫f(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx)が20%以上を満たす請求項1〜13のいずれかに記載のプリント配線板用銅箔。
【請求項15】
被覆層を介して絶縁基板が形成されたプリント配線板用銅箔に対し、絶縁基板を被覆層から剥離した後の被覆層の表面を分析したとき、XPSによる表面からの深さ方向分析から得られた深さ方向(x:単位nm)のコバルトの原子濃度(%)をf(x)とし、銅の原子濃度(%)をg(x)とし、酸素の原子濃度(%)をh(x)とし、炭素の原子濃度(%)をi(x)とし、その他の金属の原子濃度の総和をj(x)とし、コバルトの濃度が最大となる表層からの距離をFとすると、区間[0、F]において、∫g(x)dx/(∫f(x)dx + ∫g(x)dx + ∫h(x)dx + ∫i(x)dx + ∫j(x)dx)が10%以下を満たす請求項1〜14のいずれかに記載のプリント配線板用銅箔。
【請求項16】
銅箔基材は圧延銅箔である請求項1〜15のいずれかに記載のプリント配線板用銅箔。
【請求項17】
プリント配線板はフレキシブルプリント配線板である請求項1〜16のいずれかに記載のプリント配線板用銅箔。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれかに記載の銅箔を備えた銅張積層板。
【請求項19】
銅箔がポリイミドに接着している構造を有する請求項18に記載の銅張積層板。
【請求項20】
請求項18又は19に記載の銅張積層板を材料としたプリント配線板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−129685(P2011−129685A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286352(P2009−286352)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】