説明

環状マルトシルマルトースの糖質誘導体とその製造方法並びに用途

【課題】 環状マルトシルマルトースの糖質誘導体とその製造方法並びに用途を提供する。
【解決手段】 分子内に化学式1で示される環状マルトシルマルトース構造を有する環状マルトシルマルトースの糖質誘導体とその製造方法並びに用途を提供することにより上記課題を解決する。
化学式1:
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規環状マルトシルマルトースの糖質誘導体とその製造方法並びに用途、詳細には、分子内に化学式1で示される環状マルトシルマルトース構造を有する環状マルトシルマルトースの糖質誘導体とその製造方法並びに用途に関する。
【0002】
化学式1:
【化1】

【背景技術】
【0003】
グルコースを構成糖とする環状糖質としては、6乃至8分子のグルコースがα−1,4結合で結合して環状構造を形成したα−、β−及びγ−サイクロデキストリンが従来からよく知られている。これらサイクロデキストリンは、還元力を示さない、呈味を示さない、疎水性物質を包接するなどの特性を有し、これらの特性を生かして、現在、諸種の分野で利用が進んでいる。また、サイクロデキストリンの物性の改善や、サイクロデキストリンへの新規な機能の付与などを目指した研究も盛んに進められており、例えば、特許文献1乃至5などにはサイクロデキストリンにグルコシル基、ガラクトシル基、マンノシル基、グルコサミニル基、N−アセチルグルコサミニル基などのグリコシル基を結合させて分岐構造をもたせたサイクロデキストリンの糖質誘導体とその製造方法や用途が種々提案されている。
【0004】
比較的近年報告されたグルコースを構成糖とする環状糖質としては、6乃至8分子のグルコースがα−1,6結合で結合して環状構造を形成したサイクロイソマルトデキストリン(特許文献6を参照)や、4分子のグルコースがα−1,3及びα−1,6結合で交互に結合して環状構造を形成した環状四糖(非特許文献1を参照)がある。これらの報告を契機として、サイクロデキストリン以外の環状糖質に対してもサイクロデキストリンと同様に、多方面での利用が期待されつつある。
【0005】
一方、本出願人は、4分子のグルコースがα−1,4及びα−1,6結合で交互に結合した、すなわち化学式1で示される構造を有する新規な環状の四糖を見出し、環状マルトシルマルトースと命名するとともに環状マルトシルマルトースを生成する新規酵素である環状マルトシルマルトース生成酵素及び当該酵素を用いた環状マルトシルマルトースの製造方法を特許文献7に開示した。
【0006】
化学式1:
【化1】

【0007】
本発明者らは、さらに、環状マルトシルマルトースの誘導体に着目した。すなわち、環状マルトシルマルトースの糖質誘導体が多種に亙って提供されれば、それぞれについての特性の解析をとおして、環状マルトシルマルトースの用途開発に有用な知見がもたらされるとともに、環状マルトシルマルトースの物性・機能を改良もしくは改変した新規糖質の用途開発にも大きく貢献できるものと考えられる。しかしながら、環状マルトシルマルトースに他の糖質が結合した構造を有する環状マルトシルマルトースの糖質誘導体はこれまで全く知られていなかった。
【0008】
【特許文献1】特開平6−9708号公報
【特許文献2】特開平6−14789号公報
【特許文献3】特開平6−16705号公報
【特許文献4】特開平6−298806号公報
【特許文献5】特開平10−25305号公報
【特許文献6】特開平6−197783号公報
【特許文献7】特開2005−95148号公報
【非特許文献1】グレゴリー・エル・コテら、『ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・バイオケミストリー』、第226巻、641乃至648頁(1994年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、新規糖質環状マルトシルマルトースの糖質誘導体(以下、単に「環状マルトシルマルトースの糖質誘導体」と略称する。)とその製造方法を確立し、その用途を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決するため環状マルトシルマルトースの糖質誘導体とその製造方法について鋭意研究した。その結果、糖転移酵素を用い、当該糖転移酵素が作用する糖質から糖受容体としての化学式1で示される環状マルトシルマルトースに糖転移させることにより、分子内に環状マルトシルマルトース構造を有する新規な環状マルトシルマルトースの糖質誘導体を調製できることを見出し、また、環状マルトシルマルトースの糖質誘導体を含む糖質組成物及びその製造方法を確立して本発明を完成した。さらに、これら糖質誘導体を含む糖質組成物を含有せしめた飲食物、化粧品、医薬品などの組成物を確立して本発明を完成した。
【0011】
化学式1:
【化1】

【発明の効果】
【0012】
本発明の環状マルトシルマルトースの糖質誘導体は従来未知の新規糖質であり、分子内に環状マルトシルマルトース構造を有する非還元性糖質であることから種々の機能が期待できる糖質である。加えて、環状マルトシルマルトースの糖質誘導体とその製造方法並びに用途を提供する本発明は斯界に大いに貢献する有用な発明である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明でいう環状マルトシルマルトースの糖質誘導体とは、化学式1で示される構造を有する環状マルトシルマルトースに他の糖質が結合した構造を有する糖質でさえあればよく、分子内に化学式1で示される環状マルトシルマルトース構造を有する糖質誘導体である限り、結合する糖質の種類やその重合度、糖質が結合する環状マルトシルマルトースにおけるグルコース残基の水酸基の位置、さらには結合箇所の数によって限定されるものではない。換言すれば、環状マルトシルマルトースには種々の糖質、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノースなどの単糖、マルトース、コージビオース、イソマルトース、マルトトリオースなどのオリゴ糖などを結合させることが可能であり、また、糖質の環状マルトシルマルトースへの結合様式は、環状マルトシルマルトースを構成するグルコース残基の遊離水酸基のいずれに結合したものでもよく、α−結合、β−結合の別を問わない。さらには、環状マルトシルマルトースの糖質誘導体は、環状マルトシルマルトースを構成する4つのグルコース残基の内、1つのグルコース残基だけでなく、複数のグルコース残基に糖質が結合したものであってもよい。
【0014】
本発明において後記する化学式2又は化学式4で示されるグルコシル環状マルトシルマルトース、化学式3又は化学式6で示されるジグルコシル環状マルトシルマルトース、及び化学式5で示されるコージビオシル環状マルトシルマルトースは、いずれも環状マルトシルマルトース1分子と、1又は複数個のグルコース分子とからなる環状マルトシルマルトースの糖質誘導体の具体例であり、本発明の環状マルトシルマルトースの糖質誘導体はこれらに限定されるものではない。
【0015】
化学式2:
【化2】

【0016】
化学式4:
【化4】

【0017】
化学式3:
【化3】

【0018】
化学式6:
【化6】

【0019】
化学式5:
【化5】

【0020】
本発明の環状マルトシルマルトースの糖質誘導体は、その製造方法によって限定されず、有機合成したものであっても、また酵素的に合成したものであってもよい。しかしながら、適宜の糖供与体と、受容体としての環状マルトシルマルトースとを含有する水溶液に、糖転移酵素を作用させて環状マルトシルマルトースの糖質誘導体を生成させる酵素的合成法を用いるのが好適である。
【0021】
本発明において、受容体として用いる環状マルトシルマルトースとしては、有機合成したものであっても、酵素的に合成したものであってもよいものの、公知の方法、例えば、本出願人が特許文献7に開示したように、グルコース重合度が3以上のα−1,4グルカンを含有する水溶液に環状マルトシルマルトース生成酵素を作用させ、反応液中に生成した環状マルトシルマルトースを常法により精製する方法によって得られる環状マルトシルマルトースを利用するのが好適である。
【0022】
本発明で用いる糖転移酵素は、その基質を糖供与体として利用でき、環状マルトシルマルトースを受容体とした糖転移反応を触媒する限り、どのような酵素であってもよく、各種アミラーゼやグリコシダーゼ、ホスホリラーゼなどを、目的とする環状マルトシルマルトースの糖質誘導体に合わせて適宜選択することができる。また、酵素を用いるに際し、その由来は問わず、天然の微生物、植物由来の酵素でも組換え酵素であってもよい。また、当該糖転移酵素の粗酵素、部分精製酵素及び精製酵素の別は問わない。グルコースを環状マルトシルマルトースに転移させるには、α−グルコシダーゼ、β−グルコシダーゼなどのグルコシダーゼや、コージビオースホスホリラーゼ、マルトースホスホリラーゼ、セロビオースホスホリラーゼなど二糖ホスホリラーゼを用いるのが好適である。マルトオリゴ糖を環状マルトシルマルトースに転移させるには、α−アミラーゼ、サイクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼ(以下、本明細書では「CGTase」と略称する)などを用いるのが好適である。
【0023】
受容体として環状マルトシルマルトースを含有する水溶液に、適宜の糖質とこれを糖供与体として糖転移反応を触媒する酵素、例えば、澱粉質とα−アミラーゼ、澱粉質又はサイクロデキストリン(以下、本明細書では「CD」と略称する)とCGTase、コージビオース又はβ−グルコース1−リン酸(以下、本明細書では「β−G1P」と略称する)とコージビオースホスホリラーゼ;乳糖とβ−ガラクトシダーゼ;などを共存させ、糖転移反応させることにより、環状マルトシルマルトースに他の糖質が結合した構造を有する種々の糖質誘導体、すなわち,環状マルトシルマルトースの糖質誘導体を酵素合成することができる。澱粉質とα−アミラーゼ、又は、澱粉質又はCDとCGTaseを共存させて反応させた場合には、環状マルトシルマルトースを構成するグルコース残基の4位にマルトオリゴ糖がα−グルコシド結合で結合した環状マルトシルマルトースの糖質誘導体を合成することができる。また、β−G1Pとコージビオースホスホリラーゼを共存させて反応させた場合には、環状マルトシルマルトースを構成するグルコース残基の2位水酸基にグルコースがα−グルコシド結合で結合したグルコシル環状マルトシルマルトースやコージビオシル環状マルトシルマルトース、さらには、ジグルコシル環状マルトシルマルトースなどを合成することができる。乳糖とβ−ガラクトシダーゼを共存させて反応させた場合には、環状マルトシルマルトースのグルコース残基にガラクトースがβ−結合で結合した、構成糖としてグルコース以外にガラクトースを有するヘテロな環状マルトシルマルトースの糖質誘導体、β−ガラクトシル環状マルトシルマルトースを酵素合成することもできる。
【0024】
また、必要に応じて、上記のような糖転移反応によって得られた環状マルトシルマルトースの糖質誘導体、とりわけマルトオリゴ糖が環状マルトシルマルトースに結合した構造を有する糖質誘導体を、グルコアミラーゼやβ−アミラーゼなどにより分解処理して、低分子化することも有利に実施できる。グルコアミラーゼ処理を行うことにより、マルトオリゴ糖が環状マルトシルマルトースに結合した構造を有する糖質誘導体をグルコシル環状マルトシルマルトースに、β−アミラーゼ処理を行うことによってはマルトシル環状マルトシルマルトースに変換することができる。
【0025】
環状マルトシルマルトースの糖質誘導体を生成させるための酵素反応の条件は、目的とする環状マルトシルマルトースの糖質誘導体が生成する条件であればよく、使用する糖転移酵素の種類に応じて、反応におけるpH、温度、時間、基質濃度、酵素作用量などの反応条件を適宜調整すればよい。
【0026】
以上述べたような酵素反応によって生成される環状マルトシルマルトースの糖質誘導体含有糖組成物は、通常、固形物当たり、環状マルトシルマルトースの糖質誘導体を5乃至50質量%(以下、本明細書では、特にことわらない限り、「質量%」を「%」と略称する。)程度含有しており、これを濾過、精製して液状又はシラップ状で使用することも、更に、乾燥して固状で利用することも随意である。
【0027】
必要ならば、環状マルトシルマルトースの糖質誘導体の特徴を生かすために、上記含有糖組成物を、更に、分離・精製して環状マルトシルマルトースの糖質誘導体高含有物にして利用することもできる。分離・精製の方法としては、例えば、酵母発酵法、膜濾過法、分別沈殿法、アルカリ処理法、カラムクロマトグラフィーなどにより夾雑糖類を分離除去する方法が適宜採用できる。とりわけ、特公昭62−50477号公報、特公平4−50319号公報などに開示されている塩型強酸性カチオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーにより、夾雑糖類を除去して、高含有画分を採取する方法を有利に実施できる。この際、固定床方式、移動床方式、擬似移動床方式のいずれの方式を採用することも随意である。
【0028】
また、必要ならば、環状マルトシルマルトースの糖質誘導体含有糖質組成物を、常法に従って水素添加し、それらに含まれるグルコース、マルト−スなどの還元性糖質を糖アルコールに変換して還元力を消失させ、実質的に還元性を示さない環状マルトシルマルトースの糖質誘導体含有糖質組成物を製造することも有利に実施できる。
【0029】
本発明の環状マルトシルマルトースの糖質誘導体は、それ自身が非還元性で、極めて安定であり、低甘味ではあるが良質で温和な甘味を有し、また、化学的に安定であり、糖類と褐変反応を起こし易いアミノ酸、オリゴペプチド、更には、有効成分、活性の失われやすい生理活性物質などを安定化し得ると共に、浸透圧調節性、賦形性、照り付与性、保湿性、粘性、他の糖質の晶出防止性、難発酵性、澱粉老化防止性などの性質を具備している。
【0030】
環状マルトシルマルトースの糖質誘導体の持つこれらの諸性質は、飲食物、嗜好物、飼料、餌料などの飲食物、更には、化粧品、医薬品などの各種組成物に有利に使用できる。環状マルトシルマルトースの糖質誘導体を、他の非還元性オリゴ糖、還元性オリゴ糖、糖アルコール及びミネラルから選ばれる1種以上の成分とともに含有せしめて各種組成物を製造することも有利に実施できる。
【0031】
本発明の環状マルトシルマルトースの糖質誘導体含有糖質組成物及びこれから分離し得られる環状マルトシルマルトースの糖質誘導体高含有物は、必要ならば、例えば、粉飴、ブドウ糖、マルトース、α,α−トレハロース、蔗糖、ラクトスクロース、異性化糖、蜂蜜、メイプルシュガー、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、ジヒドロカルコン、ステビオシド、α−グリコシルステビオシド、レバウディオシド、グリチルリチン、L−アスパルチル−L−フェニルアラニンメチルエステル、サッカリン、グリシン、アラニンなどのような他の甘味料の1種又は2種以上の適量と混合して、甘味料として使用してもよく、また必要ならば、デキストリン、澱粉、乳糖などのような増量剤と混合して使用することもできる。
【0032】
また、本発明の環状マルトシルマルトースの糖質誘導体含有糖質及びこれから分離し得られる環状マルトシルマルトースの糖質誘導体高含有物の粉末状製品は、そのままで、又は必要に応じて、増量剤、賦形剤、結合剤などと混合して、顆粒、球状、短棒状、板状、立方体、錠剤など各種形状に成型して使用することも随意である。
【0033】
また、本発明の環状マルトシルマルトースの糖質誘導体含有糖質及びこれから分離し得られる環状マルトシルマルトースの糖質誘導体高含有物の甘味は、酸味、塩から味、渋味、旨味、苦味などの他の呈味を有する各種物質とよく調和し、耐酸性、耐熱性も大きいので、一般の飲食物の甘味付け、呈味改良に、また品質改良などに有利に利用できる。
【0034】
例えば、醤油、粉末醤油、味噌、粉末味噌、もろみ、ひしお、マヨネーズ、ドレッシング、食酢、三杯酢、粉末すし酢、中華の素、天つゆ、麺つゆ、ソース、ケチャップ、カレールウ、シチューの素、スープの素、ダシの素、複合調味料、みりん、新みりん、テーブルシュガー、コーヒーシュガーなど各種調味料として有利に使用できる。
【0035】
また、例えば、せんべい、あられ、おこし、餅類、まんじゅう、ういろう、あん類、羊羮、水羊羮、ゼリー、カステラなどの各種和菓子、パン、ビスケット、クラッカー、クッキー、パイ、プリン、バタークリーム、カスタードクリーム、シュークリーム、ワッフル、スポンジケーキ、ドーナツ、チョコレート、チューインガム、キャラメル、キャンデーなどの洋菓子、アイスクリーム、シャーベットなどの氷菓、果実のシロップ漬、氷蜜などのシロップ類、フラワーペースト、ピーナッツペースト、フルーツペースト、スプレッドなどのペースト類、ジャム、マーマレード、シロップ漬、糖果などの果実、野菜の加工食品類、福神漬、べったら漬、らっきょう漬などの漬物類、ハム、ソーセージなどの畜肉製品類、魚肉ハム、魚肉ソーセージ、かまぼこ、ちくわ、天ぷらなどの魚肉製品、ウニ、イカの塩辛、酢こんぶ、ふぐみりん干しなどの各種珍味類、のり、山菜、するめ、小魚、貝などで製造されるつくだ煮類、煮豆、ポテトサラダなどの惣菜食品、乳製品、魚肉、畜肉、果実、野菜のビン詰、缶詰類、清酒、合成酒、リキュール、洋酒などの酒類、紅茶、コーヒー、ココア、ジュース、炭酸飲料、乳酸飲料、乳酸菌飲料などの清涼飲料水、プリンミックス、ホットケーキミックス、即席しるこ、即席スープなどの即席食品、更には、離乳食、治療食、ドリンク剤などの各種飲食物への甘味付に呈味改良に、また、品質改良などに有利に利用できる。
【0036】
また、家畜、家禽、その他蜜蜂、蚕、魚などの飼育動物のために飼料、餌料などの嗜好性を向上させる目的で使用することもできる。その他、タバコ、練歯磨、口紅、リップクリーム、内服液、錠剤、トローチ、肝油ドロップ、口中清涼剤、口中香剤、うがい剤など各種固形物、ペースト状、液状などで嗜好物、化粧品、医薬品などの各種組成物への甘味剤として、又は呈味改良剤、矯味剤として、更には、品質改良剤として有利に利用できる。
【0037】
品質改良剤、安定剤としては、有効成分、活性などを失い易い各種生理活性物質又はこれを含む健康食品、医薬品などに有利に適応できる。例えば、インターフェロン−α、インターフェロン−β、インターフェロン−γ、ツモア・ネクロシス・ファクター−α、ツモア・ネクロシス・ファクター−β、マクロファージ遊走阻止因子、コロニー刺激因子、トランスファーファクター、インターロイキン2などのリンホカイン含有液、インシュリン、成長ホルモン、プロラクチン、エリトロポエチン、卵細胞刺激ホルモン、胎盤ホルモンなどのホルモン含有液、BCGワクチン、日本脳炎ワクチン、はしかワクチン、ポリオ生ワクチン、痘苗、破傷風トキソイド、ハブ抗毒素、ヒト免疫グロブリンなどの生物製剤含有液、ペニシリン、エリスロマイシン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、ストレプトマイシン、硫酸カナマイシンなどの抗生物質含有液、チアミン、リボフラビン、L−アスコルビン酸、肝油、カロチノイド、エルゴステロール、トコフェロールなどのビタミン含有液、リパーゼ、エラスターゼ、ウロキナーゼ、プロテアーゼ、β−アミラーゼ、イソアミラーゼ、グルカナーゼ、ラクターゼなどの酵素含有液、薬用人参エキス、スッポンエキス、クロレラエキス、アロエエキス、プロポリスエキスなどのエキス類、ウイルス、乳酸菌、酵母などの生菌、ローヤルゼリーなどの各種生理活性物質も、その有効成分、活性を失うことなく、安定で高品質の健康食品や医薬品などを容易に製造できる。
【0038】
以上述べたような各種組成物に環状マルトシルマルトースの糖質誘導体含有糖組成物、又はこれから分離し得られる環状マルトシルマルトースの糖質誘導体高含有物を含有せしめる方法は、その製品が完成するまでの工程で含有せしめればよく、例えば、混和、溶解、融解、浸漬、浸透、散布、塗布、被覆、噴霧、注入、固化など公知の方法が適宜選ばれる。その量は、通常、0.1%以上、望ましくは、0.5%以上含有せしめるのが好適である。
【0039】
次に実験により本発明をさらに具体的に説明する。
【0040】
<実験1:CGTaseの糖転移反応による環状マルトシルマルトースの糖質誘導体の調製>
糖供与体としてα−CDを、受容体として環状マルトシルマルトースを用い、CGTaseを作用させて環状マルトシルマルトースへの糖転移を行うことにより環状マルトシルマルトースの糖質誘導体を調製した。
【0041】
<実験1−1:CGTaseによる環状マルトシルマルトースへの糖転移>
環状マルトシルマルトース及びα−CDそれぞれ固形物として2グラムを水に溶解し、塩化カルシウム及び酢酸緩衝液(pH5.5)をそれぞれ終濃度1mM及び50mMになるように添加することにより基質水溶液10mlを調製した後、バチルス・ステアロサーモフィラス由来CGTase(株式会社林原生物化学研究所販売)をα−CD1グラム当たり40単位加え、50℃で24時間反応させることにより、環状マルトシルマルトースへの糖転移を行った。反応終了後、得られた反応液を脱イオン水にて8倍に希釈し、100℃で10分間加熱することによりCGTaseを失活させた後、室温まで冷却した。次いで、pHを4.5に調整し、市販のグルコアミラーゼ剤(商品名『グルコチーム#12000』、ナガセ生化学工業株式会社販売)を、当初のα−CD1グラム当たり100単位加え、50℃で24時間反応させた。得られた反応液の糖組成はHPLCにて分析した。HPLC分析におけるクロマトグラムを図1に、糖組成を表1に示す。
【0042】
なお、HPLCは、『MCI GEL CK04SSカラム』(三菱化学株式会社販売)を2本直列につないだものを用い、溶離液として水を用いて、カラム温度80℃、流速0.4ml/分の条件で行い、検出は示差屈折計『RI−8012』(東ソー株式会社製造)を用いて行なった。
【0043】
【表1】

【0044】
図1及び表1に示すように、CGTaseによるα−CDから環状マルトシルマルトースへの糖転移反応、及びグルコアミラーゼ処理を経て生成したと考えられる糖質A(溶出時間40.8分)及び糖質B(溶出時間36.6分)(以下、単に「糖質A」及び「糖質B」と略称する。)が認められ、反応液における糖組成はそれぞれ26.3%及び28.4%であった。また、未反応の環状マルトシルマルトース(溶出時間45.9分)やグルコアミラーゼ処理により生成するグルコース(溶出時間58.9分)も認められた。なお、未反応のα−CDは認められなかった。
【0045】
<実験1−2:糖質A及び糖質Bの単離・精製>
実験1−1の方法で得られた反応液(約10ml)に水酸化ナトリウムを添加しpHを12に調整した後、98℃で2時間保持して、還元糖であるグルコースを分解した。続いて、カチオン交換樹脂(商品名『ダイヤイオンSK−1B』、三菱化学株式会社販売)とアニオン交換樹脂(商品名『IRA411』、オルガノ株式会社販売)を用いて脱塩し、常法に従って濾過し、エバポレーターで濃縮したところ、固形物として約2.3グラムを含む濃縮液が得られた。この濃縮液をHPLCで分析したところ、糖組成として、糖質Aを41.0%、糖質Bを44.5%、環状マルトシルマルトースを14.5%含有していた。
【0046】
次いで、得られた濃縮液を分取HPLCに供し、糖質A及び糖質Bを含有する画分をそれぞれ分取した。得られた画分を回収し、糖質A及び糖質Bの精製標品を固形物として、それぞれ0.75グラム及び0.81グラムを得た。実験1−1で用いたHPLCで分析したところ、糖質A及び糖質Bのいずれの精製標品とも糖組成として、99.9%以上であり、極めて高純度であることがわかった。なお、分取HPLCは、『YMC−Pack ODS−A R355−15 S−15カラム』(株式会社ワイエムシー販売)を用い、溶離液として水を用いて、カラム温度35℃、流速30ml/分の条件で行なった。
【0047】
<実験2:コージビオースホスホリラーゼの糖転移反応による環状マルトシルマルトースの糖質誘導体の調製>
糖供与体としてβ−G1Pを、受容体として環状マルトシルマルトースを用い、コージビオースホスホリラーゼを作用させて環状マルトシルマルトースへの糖転移を行い、環状マルトシルマルトースの糖質誘導体を調製した。
【0048】
<実験2−1:コージビオースホスホリラーゼによる環状マルトシルマルトースへの糖転移>
固形物として、環状マルトシルマルトース2グラム、β−G1P1.25グラムを水に溶解し、酢酸緩衝液(pH3.0)を終濃度50mMになるように添加した後、pHを5.5に調整することにより基質水溶液20mlを調製した後、特開平10−304882号公報に開示された方法で調製したサーモアナエロビウム・ブロッキィ由来コージビオースホスホリラーゼをβ−G1P1グラム当たり100単位加え、55℃で24時間反応させることにより、環状マルトシルマルトースへの糖転移を行った。反応終了後、反応液を100℃で10分間加熱することによりコージビオースホスホリラーゼを失活させた後、室温まで冷却した。反応液を常法により脱塩処理した後、得られた処理液の糖組成をHPLCにて分析した。HPLC分析におけるクロマトグラムを図2に、糖組成を表2に示す。
【0049】
なお、HPLCは、『YMC−Pack ODS−AQ AQ−313−15カラム』(株式会社ワイエムシー販売)を用い、溶離液として水を用いて、カラム温度32℃、流速0.5ml/分の条件で行い、検出は示差屈折計『RI−8012』(東ソー株式会社製造)を用いて行なった。
【0050】
【表2】

【0051】
図2及び表2に示すように、コージビオースホスホリラーゼによるβ−G1Pから環状マルトシルマルトースへの糖転移反応により生成したと考えられる糖質C(溶出時間20.1分)、糖質D(溶出時間16.5分)及び糖質E(溶出時間48.3分)、が認められ、反応液における糖組成はそれぞれ35.4%、8.0%及び7.1%であった。また、未反応の環状マルトシルマルトース(溶出時間14.4分)やその他複数の糖転移生成物(溶出時間15.7分、17.8分、23.2分など)もわずかに認められた。
【0052】
<実験2−2:糖質C、糖質D及び糖質Eの単離・精製>
実験2−1の方法で得た脱塩処理液を分取HPLCに供し、糖質C、糖質D、及び糖質Eをそれぞれ含有する画分を分取した。分取HPLCは、『YMC−Pack ODS−A R355−15 S−15カラム』(株式会社ワイエムシー販売)を用い、溶離液として水を用いて、カラム温度35℃、流速30ml/分の条件で行なった。糖質Dの精製に関しては、さらに『MCI GEL CK04SSカラム』(三菱化学株式会社販売)を用いた分取HPLCも行った。得られた画分を回収し、糖質C、糖質D及び糖質Eの精製標品を固形物として、それぞれ0.63グラム、0.12グラム及び0.15グラムを得た。実験2−1で用いたHPLCで分析したところ、糖質Cの精製標品は糖組成として、99.9%以上であり、極めて高純度であることがわかった。同様に分析したところ、糖質D及び糖質Eの精製標品の純度はそれぞれ96.5%及び98.7%であった。
【0053】
<実験3:糖質A及び糖質Bの構造解析>
【0054】
<実験3−1:質量分析>
実験1の方法で得た糖質A及び糖質Bの精製標品を、それぞれサーモエレクトロン社製質量分析装置『LCQ Advantage』を用いてエレクトロスプレーイオン化法により質量分析したところ、糖質Aからは質量数833の、糖質Bからは質量数995のいずれもナトリウム付加分子イオンが顕著に検出され、糖質Aの質量は810であり、糖質Bの質量は972であることが判明した。
【0055】
<実験3−2:構成糖の分析>
実験1の方法で得た糖質A及び糖質Bの精製標品を、それぞれ常法に従い硫酸で加水分解し、加水分解物をトリメチルシリル化(TMS化)した後、ガスクロマトグラフィー法で構成糖を調べたところ、D−グルコースのみが検出され、糖質A及び糖質Bは、いずれもD−グルコースのみを構成糖とする糖質であることが判明した。上述の質量を考慮すると、糖質A及び糖質Bはそれぞれグルコース5分子及び6分子からなる環状糖質であることが分かった。
【0056】
<実験3−3:α−グルコシダーゼ分解>
実験1の方法で得た糖質A及び糖質Bの精製標品を、それぞれ終濃度1質量%になるように50mM酢酸緩衝液(pH5.0)に溶解し、市販のα−グルコシダーゼ(商品名『トランスグルコシダーゼL「アマノ」』、天野エンザイム株式会社販売)を固形物1グラム当たり4,000単位添加し、50℃で24時間分解し、実験2−1で用いたHPLC法にて生成糖を調べたところ、糖質Aからは環状マルトシルマルトースとD−グルコースがモル比1:1で生成し、糖質Bからは環状マルトシルマルトースとD−グルコースがモル比1:2で生成した。この結果から糖質Aは環状マルトシルマルトース1分子とD−グルコース1分子からなる糖質であり、また、糖質Bは、環状マルトシルマルトース1分子とD−グルコース2分子からなる糖質であることが判明した。
【0057】
<実験3−4:メチル化分析>
実験1の方法で得た糖質A及び糖質Bの精製標品を、それぞれ常法に従ってメチル化した後、酸により加水分解し、続いて還元、アセチル化し、得られた部分メチルヘキシトールアセテート(以下、部分メチル化物と略称する)をガスクロマトグラフィー法で調べた。なお、対照として環状マルトシルマルトースを用い、同様にメチル化分析を行った。結果を表3に示す。
【0058】
【表3】

【0059】
表3の結果から明らかなように、糖質Aからは2,3,4,6−テトラメチル化物、2,3,4−トリメチル化物、2,3,6−トリメチル化物、及び2,3−ジメチル化物が、ほぼ1:1:2:1の比率で検出され、糖質Aは、1位のみが結合に関与したグルコース残基1分子、1位と6位が結合に関与したグルコース残基1分子、1位と4位が結合に関与したグルコース残基2分子、及び、1位、4位及び6位が結合に関与したグルコース残基1分子から構成される五糖であることが判明した。また、糖質Bからは2,3,4,6−テトラメチル化物、2,3,6−トリメチル化物、及び2,3−ジメチル化物が、ほぼ2:2:2の比率で検出され、2,3,4−トリメチル化物は認められなかった。糖質Bは、1位のみが結合に関与したグルコース残基2分子、1位と4位が結合に関与したグルコース残基2分子、及び、1位、4位及び6位が結合に関与したグルコース残基2分子から構成される六糖であることが判明した。
【0060】
<実験3−4:核磁気共鳴法(NMR)>
実験1の方法で得られた糖質A及び糖質Bの精製標品を用い、それぞれをJEOL社製NMR装置『JNM−AL300』を用いてH−NMR分析したところ、図3及び図4に示すH−NMRスペクトルが得られた。図3において、5.18ppm、5.15ppm及び4.81ppmのシグナルはD−グルコース残基の1位プロトンに帰属され、スピン−スピン結合定数がそれぞれ3.68Hz、1.84Hz及び2.94Hzであること、また、図4において、5.23ppm、5.10ppm及び4.77ppmのシグナルはD−グルコース残基の1位プロトンに帰属され、スピン−スピン結合定数がそれぞれ3.86Hz、3.86Hz及び3.49Hzであることから、糖質A及び糖質BのD−グルコース残基の1位のアノマー型はいずれもすべてα−型であることが判明した。
【0061】
以上の構造解析データから、糖質Aは化学式2で示されるグルコシル環状マルトシルマルトースであり、糖質Bは化学式3で示されるジグルコシル環状マルトシルマルトースであることが判明した。糖質A及び糖質Bはいずれも従来未知の新規な糖質であった。
【0062】
化学式2:
【化2】

【0063】
化学式3:
【化3】

【0064】
<実験4:糖質C、糖質D及び糖質Eの構造解析>
【0065】
<実験4−1:質量分析>
実験2の方法で得た糖質C、糖質D及び糖質Eの精製標品を、実験3−1に記載した方法により質量分析したところ、糖質Cからは質量数833の、糖質D及び糖質Eからは質量数995のいずれもナトリウム付加分子イオンが顕著に検出され、糖質Cの質量は810であり、糖質D及び糖質Eの質量はいずれも972であることが判明した。
【0066】
<実験4−2:構成糖の分析>
実験2の方法で得た糖質C、糖質D及び糖質Eの精製標品を、実験3−2に記載した方法により加水分解し、ガスクロマトグラフィー法で構成糖を調べたところ、いずれの糖質からもD−グルコースのみが検出され、糖質C、糖質D及び糖質EはいずれもD−グルコースのみを構成糖とする糖質であることが判明した。
【0067】
<実験4−3:コージビオースホスホリラーゼ分解>
実験2の方法で得た糖質C、糖質D及び糖質Eの精製標品を、それぞれ終濃度0.25w/v%になるように100mM亜ヒ酸−クエン酸緩衝液(pH5.5)に溶解し、実験2で用いたコージビオースホスホリラーゼを固形物1グラム当たり200単位添加し、55℃で24時間作用させ、HPLC法にて生成糖を調べたところ、糖質Cからは環状マルトシルマルトースとD−グルコースがモル比1:1で生成し、糖質D及び糖質Eからは環状マルトシルマルトースとD−グルコースがモル比1:2で生成した。この結果から糖質Cは環状マルトシルマルトース1分子とD−グルコース1分子からなる糖質であり、また、糖質D及び糖質Eはいずれも環状マルトシルマルトース1分子とD−グルコース2分子からなる糖質であることが判明した。
【0068】
<実験4−4:メチル化分析>
実験2の方法で得た糖質C、糖質D及び糖質Eの精製標品を、実験3−4に記載した方法によりメチル化分析した。結果を表4に示す。
【0069】
【表4】

【0070】
表4の結果から明らかなように、糖質Cからは2,3,4,6−テトラメチル化物、2,3,4−トリメチル化物、2,3,6−トリメチル化物、及び3,4−ジメチル化物が、ほぼ1:1:2:1の比率で検出され、糖質Cは、1位のみが結合に関与したグルコース残基1分子、1位と6位が結合に関与したグルコース残基1分子、1位と4位が結合に関与したグルコース残基2分子、及び、1位、2位及び6位が結合に関与したグルコース残基1分子から構成される五糖であることが判明した。また、糖質Dからは2,3,4,6−テトラメチル化物、2,3,4−トリメチル化物、2,3,6−トリメチル化物、3,4,6−トリメチル化物及び3,4−ジメチル化物が、ほぼ1:1:2:1:1の比率で検出され、糖質Dは、1位のみが結合に関与したグルコース残基1分子、1位と6位が結合に関与したグルコース残基1分子、1位と4位が結合に関与したグルコース残基2分子、1位と2位が結合に関与したグルコース残基1分子、及び、1位、2位及び6位が結合に関与したグルコース残基1分子から構成される六糖であることが判明した。また、糖質Eからは2,3,4,6−テトラメチル化物、2,3,6−トリメチル化物及び3,4−ジメチル化物が、ほぼ2:2:2の比率で検出され、糖質Dは、1位のみが結合に関与したグルコース残基2分子、1位と4位が結合に関与したグルコース残基2分子、1位、2位及び6位が結合に関与したグルコース残基2分子から構成される六糖であることが判明した。
【0071】
<実験4−4:核磁気共鳴法(NMR)>
実験2の方法で得られた糖質C、糖質D及び糖質Eの精製標品を用い、実験3−4に記載した方法によりH−NMR分析したところ、図5、図6及び図7に示すH−NMRスペクトルが得られた。図5において、5.34ppm、5.14ppm、4.96ppm、及び4.82ppmのシグナルはD−グルコース残基の1位プロトンに帰属され、スピン−スピン結合定数がそれぞれ3.49Hz、3.86Hz、3.68Hz及び3.68Hzであること、また、図6において、5.41ppm、5.15ppm、4.96ppm、4.83ppm及び4.82ppmのシグナルはD−グルコース残基の1位プロトンに帰属され、スピン−スピン結合定数がそれぞれ3.68Hz、3.49Hz、3.68Hz、1.84Hz及び1.84Hzであること、さらに、図7において、5.31ppm、4.96ppm及び4.81ppmのシグナルはD−グルコース残基の1位プロトンに帰属され、スピン−スピン結合定数がそれぞれ2.94Hz、3.68Hz及び3.49Hzであることから、糖質C、糖質D及び糖質EのD−グルコース残基の1位のアノマー型はいずれもすべてα−型であることが判明した。
【0072】
以上の構造解析データから、糖質Cは化学式4で示されるグルコシル環状マルトシルマルトースであり、糖質Dは化学式5で示されるコージビオシル環状マルトシルマルトースであり、糖質Eは化学式6で表されるジグルコシル環状マルトシルマルトースであることが判明した。糖質C、糖質D及び糖質Eはいずれも従来未知の新規な糖質であった。
【0073】
化学式4:
【化4】

【0074】
化学式5:
【化5】

【0075】
化学式6:
【化6】

【0076】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0077】
<環状マルトシルマルトースの糖質誘導体含有シラップ>
特許文献7記載の方法で得た環状マルトシルマルトース1質量部とα−CD(株式会社林原生物化学研究所販売)1質量部を1mMの塩化カルシウムを含む50mM酢酸緩衝液(pH5.5)3質量部に溶解し、バチラス・ステアロサーモフィルス由来のCGTase(株式会社林原生物化学研究所販売)をα−CD1グラム当たり20単位加えて50℃で24時間反応させ、反応液を10分間煮沸して酵素を失活させた。反応液を冷却した後、pHを4.5に調整し、さらにグルコアミラーゼ(商品名『グルコチーム#12000』、ナガセ生化学工業株式会社販売)をα−CD1グラム当たり100単位加え、50℃で24時間反応させ、反応液を10分間煮沸して酵素を失活させた。
【0078】
上記の酵素失活後の反応液を膜濾過した後、常法に従って、活性炭で脱色し、H型及びOH型イオン交換樹脂により脱塩して精製し、更に、濃縮して濃度60%に調整した後、強酸性カチオン交換樹脂(商品名『アンバーライトCR−1310』、Na型、オルガノ株式会社販売)を用いたカラム分画を行なった。樹脂を内径5.4cmのジャケット付きステンレス製カラム4本に充填し、直列につなぎ樹脂層全長20mとした。カラム内温度60℃に維持しつつ、糖液を樹脂に対して5v/v%加え、これに60℃の温水をSV0.13で流して分画し、溶出液の糖組成をHPLC法でモニターし、共存するグルコースが除去された環状マルトシルマルトースの糖質誘導体含有画分を採取し、脱塩し、濃縮して、濃度50%の環状マルトシルマルトースの糖質誘導体含有シラップを得た。
【0079】
本品は、固形物当たり、化学式2で示されるグルコシル環状マルトシルマルトースを46.2%、化学式3で示されるジグルコシル環状マルトシルマルトースを41.5.%、及び環状マルトシルマルトースを12.3%含有しており、還元性をほとんど示さず、アミノカルボニル反応を起こしにくく、適度の粘度、保湿性、包接性を有し、呈味改良剤、品質改良剤、離水防止剤、安定剤、賦形剤、包接剤、粉末化基材などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【実施例2】
【0080】
<環状マルトシルマルトースの糖質誘導体含有粉末>
特許文献7記載の方法で得た環状マルトシルマルトース2質量部とβ−G1P1質量部を50mM酢酸緩衝液(pH5.5)7質量部に溶解し、特開平10−304882号公報に記載の方法により調製したサーモアナエロビウム・ブロッキィ由来のコージビオースホスホリラーゼをβ−G1P1グラム当たり100単位加えて55℃で8時間反応させ、反応液を10分間煮沸して酵素を失活させた。反応液を冷却した後、常法に従って、活性炭で脱色し、H型及びOH型イオン交換樹脂により脱塩して精製し、さらに濃縮して、濃度50%の環状マルトシルマルトースの糖質誘導体含有シラップを得た。
【0081】
本品は、固形物当たり、化学式4で示されるグルコシル環状マルトシルマルトースを40.3%、化学式5で示されるコージビオシル環状マルトシルマルトースを12.8%、化学式6で示されるジグルコシル環状マルトシルマルトースを3.0%、環状マルトシルマルトースを34.4%、及びその他の環状マルトシルマルトースの糖質誘導体を9.5%含有しており、還元性をほとんど示さず、アミノカルボニル反応を起こしにくく、適度の粘度、保湿性、包接性を有し、呈味改良剤、品質改良剤、離水防止剤、安定剤、賦形剤、包接剤、粉末化基材などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【実施例3】
【0082】
<環状マルトシルマルトースの糖質誘導体含有シラップ>
特許文献7記載の方法で得た環状マルトシルマルトース1質量部と乳糖1質量部を20mM酢酸緩衝液(pH6.0)8質量部に溶解し、バチルス・サーキュランス由来のβ−ガラクトシダーゼ(商品名『ビオラクタン5』、大和化成株式会社販売)を乳糖1グラム当たり5単位加えて40℃で24時間反応させ、反応液を10分間煮沸して酵素を失活させた。この酵素失活後の反応液に水酸化ナトリウム0.2質量部を加え、100℃で1時間保持して還元糖を分解した。この処理液を常法に従って、活性炭で脱色し、H型及びOH型イオン交換樹脂により脱塩して精製し、さらに濃縮して、濃度40%の環状マルトシルマルトースの糖質誘導体含有シラップを得た。
【0083】
本品は、固形物当たり、複数のガラクトシル環状マルトシルマルトースを含有しており、還元性をほとんど示さず、アミノカルボニル反応を起こしにくく、適度の粘度、保湿性、包接性を有し、呈味改良剤、品質改良剤、離水防止剤、安定剤、賦形剤、包接剤、粉末化基材などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【実施例4】
【0084】
<甘味料>
実施例1の方法で得た環状マルトシルマルトースの糖質誘導体含有シラップ1質量部に、α−グリコシルステビオシド(商品名『αGスイート』、東洋精糖株式会社販売)0.01質量部、及びL−アスパルチル−L−フェニルアラニンメチルエステル(商品名『アスパルテーム』、味の素株式会社販売)0.01質量部を均一に混合、溶解し、シラップ状甘味料を得た。本品は、環状マルトシルマルトースの糖質誘導体を含有し、甘味の質に優れた、蔗糖の約2倍の甘味度を有する甘味料組成物である。又、本品は、室温保存下、変質劣化の懸念が無く、安定である。
【実施例5】
【0085】
<粉末ペプチド>
40%食品用大豆ペプチド溶液(商品名『ハイニュートS』、不二製油株式会社販売)1質量部に、実施例2の方法で得たシラップ状の環状マルトシルマルトースの糖質誘導体含有糖組成物2質量部を混合し、プラスチック製バットに入れ、50℃で減圧乾燥し、粉砕して粉末ペプチドを得た。本品は風味良好で、プレミックス、冷菓などの低カロリー製菓材料として有用であるのみならず、経口流動食、経管流動食のための難消化性の食物繊維、整腸材料、健康食品材料としても有用である。
【実施例6】
【0086】
<乳酸菌飲料>
実施例3の方法で得たβ−ガラクトシル環状マルトシルマルトース含有シラップ50質量部、脱脂粉乳175質量部、及びラクトスクロース高含有粉末(商品名『乳果オリゴ』株式会社林原商事販売)50質量部を水1,150質量部に溶解し、65℃で30分間殺菌し、40℃に冷却後、常法に従って、乳酸菌のスターターを30質量部植菌し、37℃で8時間培養して乳酸菌飲料を得た。本品は、風味良好で、オリゴ糖、環状マルトシルマルトース及び環状マルトシルマルトースの糖質誘導体を含有し、乳酸菌を安定に保つだけでなく、ビフィズス菌増殖促進作用、整腸作用を有する乳酸菌飲料として好適である。
【実施例7】
【0087】
<浴用剤>
ユズの皮ジュース1質量部に対して、実施例1の方法で得たシラップ状の環状マルトシルマルトースの糖質誘導体含有糖組成物10質量部の割合で混合し、噴霧乾燥して粉末化して、ユズの皮エキス及び環状マルトシルマルトースの糖質誘導体含有粉末を得た。本粉末5質量部に、焼塩90質量部、α,α−トレハロース含水結晶2質量部、無水ケイ酸1質量部及びα−グルコシルヘスペリジン(商品名『アルファグルコシルヘスペリジン』、株式会社林原生物化学研究所販売)0.5質量部を混合して浴用剤を製造した。本品は、ユズの香りも豊かで、入浴用の湯に100乃至10、000倍に希釈して利用すればよく、入浴後は、肌がしっとりしなめらかで、湯冷めしない高品質の浴用剤である。
【実施例8】
【0088】
<化粧用クリーム>
モノステアリン酸ポリオキシエチレングリコール2質量部、自己乳化型モノステアリン酸グリセリン5質量部、実施例1の方法で得たシラップ状の環状マルトシルマルトースの糖質誘導体含有糖組成物2質量部、α−グルコシルルチン(商品名『アルファグルコシルルチン』、株式会社林原生物化学研究所販売)1質量部、流動パラフィン1質量部、トリオクタン酸グリセリン10質量部及び防腐剤の適量を常法に従って加熱溶解し、これにL−乳酸2質量部、1,3−ブチレングリコール5質量部及び精製水66質量部を加え、ホモゲナイザーにかけ乳化し、更に香料の適量を加えて撹拌混合し、化粧用クリームを製造した。本品は、抗酸化性を有し、安定性が高く、高品質の日焼け止め、美肌剤、色白剤などとして有利に利用できる。
【実施例9】
【0089】
<流動食用固体製剤>
実施例2の方法で得たシラップ状の環状マルトシルマルトースの糖質誘導体含有糖組成物200質量部、α,α−トレハロース含水結晶100質量部、マルトテトラオース高含有粉末200質量部、粉末卵黄270質量部、脱脂粉乳209質量部、塩化ナトリウム4.4質量部、塩化カリウム1.8質量部、硫酸マグネシウム4質量部、チアミン0.01質量部、アスコルビン酸ナトリウム0.1質量部、ビタミンEアセテート0.6質量部及びニコチン酸アミド0.04質量部からなる配合物を調製し、この配合物25グラムずつ防湿性ラミネート小袋に充填し、ヒートシールして製品を得た。
【0090】
本品は、安定性に優れた流動食用固体製剤である。本品1袋分を約150乃至300mlの水に溶解して流動食とし、経口的、又は鼻腔、胃、腸などへ経管的使用方法により利用され、生体へのエネルギー補給用に有利に利用できる。
【実施例10】
【0091】
<錠剤>
アスピリン50質量部に実施例2の方法で調製し、噴霧乾燥して得た粉末状の環状マルトシルマルトースの糖質誘導体含有糖組成物14質量部、コーンスターチ4質量部を充分に混合した後、常法に従って打錠機により打錠して厚さ5.25mm、1錠680mgの錠剤を製造した。
【0092】
本品は、化学式4乃至6で示される環状マルトシルマルトースの糖質誘導体の賦形性を利用したもので、吸湿性がなく、物理的強度も充分にあり、しかも水中での崩壊はきわめて良好である。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の新規環状マルトシルマルトースの糖質誘導体とその製造方法並びに用途の確立は、飲食物、化粧品、医薬品分野における工業的意義が極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】α−CDと環状マルトシルマルトースにCGTaseを作用させ、次いで、グルコアミラーゼ処理して得られた反応液のHPLCクロマトグラムを示す図である。
【図2】β−G1Pと環状マルトシルマルトースにコージビオースホスホリラーゼを作用させ得られた反応液のHPLCクロマトグラムを示す図である。
【図3】糖質A精製標品のH−NMRスペクトルを示す図である。
【図4】糖質B精製標品のH−NMRスペクトルを示す図である。
【図5】糖質C精製標品のH−NMRスペクトルを示す図である。
【図6】糖質D精製標品のH−NMRスペクトルを示す図である。
【図7】糖質E精製標品のH−NMRスペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に化学式1で示される環状マルトシルマルトース構造を有する環状マルトシルマルトースの糖質誘導体。
化学式1:
【化1】

【請求項2】
環状マルトシルマルトースの糖質誘導体が、環状マルトシルマルトース1分子と1又は複数のグルコース分子とからなる請求項1記載の環状マルトシルマルトースの糖質誘導体。
【請求項3】
環状マルトシルマルトースの糖質誘導体が、化学式2で示されるグルコシル環状マルトシルマルトースである請求項1又は2記載の環状マルトシルマルトースの糖質誘導体。
化学式2:
【化2】

【請求項4】
環状マルトシルマルトースの糖質誘導体が、化学式3で示されるジグルコシル環状マルトシルマルトースである請求項1又は2記載の環状マルトシルマルトースの糖質誘導体。
化学式3:
【化3】

【請求項5】
環状マルトシルマルトースの糖質誘導体が、化学式4で示されるグルコシル環状マルトシルマルトースである請求項1又は2記載の環状マルトシルマルトースの糖質誘導体。
化学式4:
【化4】

【請求項6】
環状マルトシルマルトースの糖質誘導体が、化学式5で示されるコージビオシル環状マルトシルマルトースである請求項1又は2記載の環状マルトシルマルトースの糖質誘導体。
化学式5:
【化5】

【請求項7】
環状マルトシルマルトースの糖質誘導体が、化学式6で示されるジグルコシル環状マルトシルマルトースである請求項1又は2記載の環状マルトシルマルトースの糖質誘導体。
化学式6:
【化6】

【請求項8】
適宜の糖供与体と受容体としての環状マルトシルマルトースとを含有する水溶液に、糖転移酵素を作用させて請求項1乃至7のいずれかに記載の環状マルトシルマルトースの糖質誘導体を生成せしめる工程と、生成した環状マルトシルマルトースの糖質誘導体又はこれを含む糖質組成物を採取する工程とを含んでなる環状マルトシルマルトースの糖質誘導体又はこれを含む糖質組成物の製造方法。
【請求項9】
糖転移酵素が、サイクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼである請求項8記載の環状マルトシルマルトースの糖質誘導体又はこれを含む糖質組成物の製造方法。
【請求項10】
糖転移酵素が、コージビオースホスホリラーゼである請求項8記載の環状マルトシルマルトースの糖質誘導体又はこれを含む糖質組成物の製造方法。
【請求項11】
環状マルトシルマルトースの糖質誘導体を生成せしめる工程において、さらにグルコアミラーゼにより消化する工程を含んでなる請求項8乃至10のいずれかに記載の環状マルトシルマルトースの糖質誘導体又はこれを含む糖質組成物の製造方法。
【請求項12】
採取する方法が、塩型強酸性カチオン交換樹脂を充填したカラムクロマトグラフィーを用いることを特徴とする請求項8乃至11のいずれかに記載の環状マルトシルマルトースの糖質誘導体又はこれを含む糖質組成物の製造方法。
【請求項13】
請求項1乃至7のいずれかに記載の環状マルトシルマルトースの糖質誘導体又はこれを含む糖質組成物を含有せしめた飲食物、化粧品又は医薬品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−84462(P2007−84462A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−273107(P2005−273107)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年7月20日 日本応用糖質科学会発行の「日本応用糖質科学会2005年度大会(第54回)、第13回糖質関連酵素化学シンポジウム セルラーゼ研究会 講演要旨集『JOURNAL OF APPLIED GLYCOSCIENCE 第52巻 講演要旨集 通巻202号』」に発表
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】