説明

環状リン系難燃剤含有プリプレグ、及びそのプリプレグを用いた積層体

【課題】 Q値の高いポリブタジエン若しくはポリイソプレン等の共役ジエンポリマーを用いてノンハロ難燃が可能な積層体を製造することができるプリプレグ、このプリプレグを用いた積層体を提供する。
【解決手段】 共役ジエンポリマー、硬化剤、充填剤、及び環構造を有し該環構造内にリン原子を有する環状リン系難燃剤を含む硬化性樹脂組成物が強化繊維に含浸されてなるプリプレグを用い、該プリプレグを、該プリプレグ同士で、または他材料と積層した後に硬化して積層体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子回路配線基板を含む多層配線基板等に好適なプリプレグ及びそのプリプレグを用いた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
回路基板は、一般に誘電体層と導体層とから構成される。近年、高度情報化時代を迎え、情報伝送は高速化・高周波に動き出し、マイクロ波通信やミリ波通信が現実になってきている。これらの高周波化時代の回路基板は、高周波におけるノイズや伝送ロスを極限まで軽減する必要があり、Q値の高い誘電体材料の選定と平滑な導体層形成が重要な課題となってきている。
【0003】
誘電体材料については、従来の低周波(K〜MHz領域)の回路基板ではQ値が通常10〜30程度のエポキシ樹脂が用いられていた。しかしながら、GHz領域の高周波回路基板においては、Q値が小さいと回路基板の性能や信頼性が十分でなく、従来Q値に対して数倍〜10倍以上、具体的にはQ値が100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上の材料が求められ、且つハロゲンを含まずに難燃性を有する、いわゆるノンハロ難燃化が求められている。
【0004】
Q値の高い誘電材料としては、ポリブタジエンやポリイソプレン等の共役ジエンポリマーが注目されている。たとえば、特許文献1には、室温で液状の分子量5,000未満である1,2−ポリブタジエン、固体ポリマーであるスチレン−ブタジエン−スチレントリブロックポリマー等の熱可塑性ブロックコポリマー、ジクミルペルオキシドやt−ブチルペルオキシヘキシン−3などの有機過酸化物(硬化剤)、ジビニルベンゼンや多官能アクリレート等の架橋剤、エチレンビステトラブロモフタルイミド、テトラデカブロモジフェノキシベンゼンやデカブロモジフェノキシルオキシドなどの臭素含有難燃剤、シリカやチタニア等の充填材及びシランカップリング剤などを混合してスラリーとして繊維強化材に含浸させた後に溶媒除去してプリプレグを作製し、次いで2枚の銅箔間に複数枚のプリプレグを積層し、硬化してなる積層体が開示されている。
【0005】
特許文献2には、ポリブタジエン若しくはポリイソプレンがその全体の25〜50体積%の割合で含まれる熱硬化性組成物と、その全体当たりの10〜40体積%の割合で含まれる織布と、その全体当たりの5〜60体積%の割合で含まれる粒状フィラーと、フリーラジカル硬化イニシエーターと、難燃剤とを含み構成される配線基板材料が開示され、難燃剤としては臭素含有難燃剤が記載されている。
【0006】
特許文献3には、ポリブタジエンとポリイソプレン、重量平均分子量が50,000未満のエチレン−プロピレンゴム、引火遅延剤、編織物、粒状充填剤、過酸化物硬化剤とを含む電気回路材料が開示され、引火遅延剤としてエチレンビステトラブロモフタルイミド、テトラデカブロモジフェノキシベンゼン、デカブロモジフェノキシルオキシド等の臭素化物を例示している。しかしながら、これらの難燃化技術は臭素化物によるもので、民生用途ではノンハロ難燃化が望まれていた。
【0007】
一方、特許文献4には、ポリフェニレンエーテル樹脂、トリアリルイソシアヌレートなどの架橋(助)剤、難燃剤として機能するリン化合物、及びシリコーン化合物を必須成分とする難燃性樹脂組成物が開示されている。さらに、ポリフェニレンエーテルとトリアリルイソシアヌレート等の架橋を促進させるパーブチルP、ペロキシモンF−40(商品名)などのラジカル発生剤を使用してもよいこと、難燃剤として機能するリン化合物として環状リン化合物が好ましいこと、該難燃性樹脂組成物を多孔質基材に含浸させてから加熱してプリプレグが製造できること、及び具体例としてポリフェニレンエーテル60質量部、架橋(助)剤としてのトリアリルイソシアヌレート46質量部、ホスフィン酸エステル18質量部、シリコーン化合物15質量部及び反応促進剤4質量部を含んでなる難燃性組成物が記載されている。しかしながら、本公報は、ポリフェニレンエーテル系樹脂というエーテル結合等の極性基を基本構成単位に含み且つ芳香環からなるもともと難燃性に優れる樹脂の難燃技術であり、炭素と水素からなり且つ共役ジエンポリマーというゴムに近い重合体の難燃とは技術分野が異なる。
【0008】
【特許文献1】特開平8−208856号公報
【特許文献2】特開平10−117052号公報
【特許文献3】特表2003−528450号公報
【特許文献4】特開2005−225913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、Q値の高いポリブタジエン若しくはポリイソプレン等の共役ジエンポリマーを用いてノンハロ難燃が可能な積層体を製造することができるプリプレグ、このプリプレグを用いた積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討の結果、1,2−ポリブタジエンなどの共役ジエンポリマーやスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合ポリマーなどの共役ジエンポリマー、架橋剤及び充填剤とを含む硬化性組成物に特定の環状リン系難燃剤を配合して強化繊維に含浸してプリプレグを製造し、次いで該プリプレグを同じプリプレグ同士で、または他材料と積層して熱プレスで硬化させることにより積層性や難燃性に優れた積層体が得られることを見出した。また、硬化性樹脂組成物における充填剤と環状リン系難燃剤の比率を特定範囲にすることでQ値とノンハロ難燃性との特性を高度にバランスさせることができること、及び、硬化性樹脂組成物にシロキサン化合物をさらに配合するとノンハロ難燃性が高度に高められること見出した。本発明者は、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至ったものである。
【0011】
かくして本発明によれば、共役ジエンポリマー、硬化剤、充填剤、及び環構造を有し該環構造内にリン原子を有する環状リン系難燃剤を含む硬化性樹脂組成物を強化繊維に含浸してなるプリプレグが提供される。
本発明によれば、また、上記記載のプリプレグを、該プリプレグ同士で、または他材料と積層した後に硬化してなる積層体が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、Q値の高いポリブタジエンあるいはポリイソプレンを用いて、積層性やノンハロ難燃性に優れる積層体及びそれを与えるプリプレグを容易に製造することができる。また、本発明の積層体は、積層性やノンハロ難燃性に優れるので、通信機器用途等のマイクロ波またはミリ波等の高周波回路基板に好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(共役ジエンポリマー)
本発明に使用される共役ジエンポリマーは、少なくとも共役ジエン単位を含むポリマーであれば格別に限定はされないが、共役ジエンホモポリマーと共役ジエン共重合ポリマーとからなる群から選ばれる少なくとも1種が好適に用いられる。これらの重合様式は、使用目的に応じて適宜選択され、常法に従って行なうことができる。
【0014】
共役ジエンとしては、例えば、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、ペンタジエンなどが挙げられ、好ましくはブタジエンやイソプレンで、より好ましくはブタジエンである。
【0015】
共役ジエンホモポリマーとしては、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、ポリシアノブタジエン、ポリペンタジエンなどが挙げられ、好ましくはポリブタジエン、ポリイソプレン、より好ましくはポリブタジエンである。
【0016】
共役ジエン系共重合ポリマーとしては、少なくとも共役ジエン単位を含む共重合ポリマーであれば格別な限定はなく、例えば、ランダム共重合ポリマーやブロック共重合ポリマーを用いることができる。
【0017】
共役ジエン共重合ポリマーにおいて、共役ジエンと共重合可能なモノマーとしては、例えば、シアノ基含有ビニル、アミノ基含有ビニル、ピリジル基含有ビニル、アルコキシル基含有ビニル、芳香族ビニルなどが挙げられ、これらの中でもシアノ基含有ビニルや芳香族ビニルが好ましく、特に芳香族ビニルが好ましい。
【0018】
芳香族ビニルとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、5−t−ブチル−2−メチルスチレン、N,N−ジメチルアミノエチルスチレン、N,N−ジエチルアミノエチルスチレンなどを挙げることができ、これらの中でも、スチレン、α−メチルスチレンが特に好ましい。
【0019】
共役ジエン共重合ポリマーの共役ジエン単位と共重合可能なモノマー単位との割合は、使用目的に応じて適宜選択され、共役ジエン単位/共重合可能なモノマー単位の重量比で、通常95/5〜5/95、好ましくは90/10〜10/90、より好ましくは80/20〜20/80の範囲であり、この範囲の時に、プリプレグ及び積層体の操作性、機械的強度及び靭性等の特性が高度にバランスされ好適である。
【0020】
共役ジエンブロック共重合ポリマーの結合様式は、2ブロック共重合体、3ブロック共重合体、4ブロック共重合体、5ブロック共重合体等、使用目的に応じて適宜選択されるが、3ブロック共重合体がプリプレグ及び積層体の積層性と機械的強度のバランスを高度に保つことができ好適である。具体的には、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックポリマー、スチレン−イソプレン−スチレンブロックポリマー、α−メチルスチレン−ブタジエン−α−メチルスチレンブロックポリマーなどが挙げられ、好ましくはスチレン−ブタジン−スチレンブロックポリマーである
【0021】
本発明に使用される共役ジエンポリマーの共役ジエン部のビニル結合量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、赤外分光光度計を用いてハンプトン法(R.Hampton,Anal.Chem.,21,923(1949))により測定される値で、通常5モル%、好ましくは40モル%以上、より好ましくは60モル%以上、最も好ましくは80モル%以上である。1,2−ビニル結合量がこの範囲である時に、積層体の機械強度や耐熱性を高度に向上させることができ好適である。
【0022】
本発明に使用される共役ジエンポリマーの分子量は、使用目的に応じて適宜選択できるが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(ポリスチレン換算 トルエン溶離液)で測定される重量平均分子量で、通常500〜5,000,000、好ましくは1,000〜1,000,000の範囲である。
【0023】
本発明においては、上記共役ジエンポリマーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができるが、共役ジエンホモポリマーと共役ジエン共重合ポリマーを組み合わせることでプリプレグの操作性や積層体の機械的特性や靭性等の特性を高度にバランスさせることができ好適である。共役ジエンホモポリマーと共役ジエン共重合ポリマーを組み合わせる場合の、共役ジエンホモポリマーの分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(ポリスチレン換算 トルエン溶離液)で測定される重量平均分子量で、通常500〜500,000、好ましくは1,000〜10,000、より好ましくは1,000〜5,000の範囲である。組み合わせる場合の、共役ジエン共重合ポリマーの分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(ポリスチレン換算 トルエン溶離液)で測定される重量平均分子量で、通常1,000〜1,000,000、好ましくは5,000〜500,000、より好ましくは10,000〜300,000の範囲である。共役ジエンホモポリマーと共役ジエン共重合ポリマーの分子量がこの範囲である時に、積層体の積層性と機械強度の関係を高度にバランスさせ好適である。
【0024】
共役ジエンホモポリマーと共役ジエン共重合ポリマーを組み合わせる場合の割合は、使用目的に応じて適宜選択されるが、共役ジエンホモポリマー/共役ジエン共重合ポリマーの重量比で、通常90/10〜5/95、好ましくは50/50〜10/90、より好ましくは30/70〜15/85の範囲である。両者の割合がこの範囲にあるときに、積層体の機械的特性、靭性及び誘電特性等の特性が高度にバランスされ好適である。
【0025】
(硬化剤)
本発明に使用される硬化剤としては、上記共役ジエンポリマーを架橋できるものであれば格別な制限はないが、通常ラジカル発生剤が用いられる。ラジカル発生剤としては、有機過酸化物、ジアゾ化合物および非極性ラジカル発生剤などが挙げられ、好ましくは有機過酸化物や非極性ラジカル発生剤である。特にQ値を高度に高める上では、非極性ラジカル発生剤が好適である。
【0026】
有機過酸化物としては、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド類;ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンなどのジアルキルペルオキシド類;ジプロピオニルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドなどのジアシルペルオキシド類;2,2−ジ(t−ブチルペルオキシ)ブタン、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサンなどのペルオキシケタール類;t−ブチルペルオキシアセテート、t−ブチルペルオキシベンゾエートなどのペルオキシエステル類;t−ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート、ジ(イソプロピルペルオキシ)ジカルボナートなどのペルオキシカルボナート類;t−ブチルトリメチルシリルペルオキシドなどのアルキルシリルペルオキシド類;などが挙げられる。中でも、ジアルキルペルオキシドおよびペルオキシケタール類が好ましい。
【0027】
ジアゾ化合物としては、例えば、4,4’−ビスアジドベンザル(4−メチル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)シクロヘキサノンなどが挙げられる。
【0028】
非極性ラジカル発生剤としては、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、1,1,2−トリフェニルエタン、1,1,1−トリフェニル−2−フェニルエタンなどが挙げられる。
【0029】
本発明に使用される硬化剤がラジカル発生剤の場合の1分半減期温度は、ラジカル発生剤の種類及び使用条件により適宜選択されるが、通常、50〜350℃、好ましくは100〜250℃、より好ましくは150〜230℃の範囲である。ここで1分間半減期温度は、ラジカル発生剤の半量が1分間で分解する温度である。例えば、ジ−t−ブチルペルオキシドでは186℃、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシンでは194℃である。
【0030】
これらの硬化剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。硬化剤の使用量は、共役ジエンポリマー100重量部に対して、通常0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部の範囲である。
【0031】
(環状リン系難燃剤)
本発明で使用される環状リン系難燃剤は、環構造を有し該環構造内にリン原子を有する化合物である。例えば、環状リン酸化合物、環状ホスホン酸化合物、環状ホスフィン酸化合物などが挙げられ、好ましくは環状ホスフィン酸化合物である。
【0032】
環状ホスフィン酸化合物としては、例えば、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、8−t−ブチル−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10オキサイド、10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド、10−(2,3−ジヒドロキシフェニル)−10H−9−オキサー10−ホスファフェナントレン−10−オキシド、10−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−10H−9−オキサ−10−オキシドなどが挙げられる。
【0033】
これらの環状リン系難燃剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。その配合量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、共役ジエンポリマー100重量部に対して、通常10〜500重量部、好ましくは20〜200重量部、より好ましくは50〜100重量部の範囲である。
【0034】
(充填剤)
本発明に使用される充填剤は、工業的に一般に使用されるものであれば格別な限定はなく、無機充填剤や有機充填剤のいずれも用いることができが、好適には無機充填剤である。
【0035】
無機充填剤としては、例えば、鉄、銅、ニッケル、金、銀、アルミニウム、鉛、タングステン等の金属粒子;カーボンブラック、グラファイト、活性炭、炭素バルーン等の炭素粒子;シリカ、シリカバルーン、アルミナ、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化すず、酸化ベリリウム、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト等の無機酸化物粒子;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム等の無機炭酸塩粒子;硫酸カルシウム等の無機硫酸塩粒子;タルク、クレー、マイカ、カオリン、フライアッシュ、モンモリロナイト、ケイ酸カルシウム、ガラス、ガラスバルーン等の無機ケイ酸塩粒子;チタン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛等のチタン酸塩粒子、窒化アルミニウム、炭化ケイ素粒子やウィスカー等が挙げられる。これらの中でも、積層体の誘電正接と積層性を高度にバランスさせるためには、金属粒子、無機酸化物粒子、無機水酸化物粒子、無機ケイ酸塩粒子及びチタン酸塩粒子などが好ましく、無機酸化物粒子やチタン酸塩などがより好ましい。
【0036】
有機充填剤としては、例えば、木粉、デンプン、有機顔料、ポリスチレン、ナイロン、ポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィン、塩化ビニル、各種エラストマー、廃プラスチック等の粒子化合物が挙げられる。
【0037】
これらの充填剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は、共役ジエンポリマー100重量部に対して、通常10〜1,000重量部、好ましくは50〜750重量部、より好ましくは100〜500重量部の範囲である。
【0038】
充填剤と環状リン系難燃剤の比率は、使用目的に応じて適宜選択されるが、環状リン系難燃剤/充填剤の重量比で、通常1/9〜9/1、好ましくは1/9〜7/3、より好ましくは1/9〜5/5、最も好ましくは2/8〜4/6の範囲であるときに誘電損失と難燃性との特性が高度にバランスされ好適である。
【0039】
(硬化性樹脂組成物)
本発明に使用される硬化性樹脂組成物は、上記共役ジエンポリマー、硬化剤、環状リン系難燃剤及び充填剤とを必須成分として、必要に応じて、シロキサン化合物、老化防止剤、硬化助剤及びその他の配合剤などを添加することができる。
【0040】
本発明においては、硬化性樹脂組成物にシロキサン化合物を配合することでノンハロ難燃性を高度に高められ好適である。シロキサン化合物は、シロキサン骨格を有する化合物である。具体的には低分子シリコーン、シリコーンオリゴマー、シリコーンポリマー等を用いることが出来るが、特に、芳香環含有のシロキサン骨格を有するシロキサン化合物(低分子シリコーン、シリコーンオイル、シリコーンポリマー等)が好ましい。
【0041】
これらのシロキサン化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その使用量は、共役ジエンポリマー100重量部に対して、通常1〜100重量部、好ましくは5〜50重量部、より好ましくは10〜40重量部の範囲である。
【0042】
本発明において、硬化性樹脂組成物にシロキサン化合物を配合する場合は、シロキサン化合物、環状リン系難燃剤および充填剤の合計量が、共役ジエンポリマー100重量部に好ましくは対して50重量部以上、より好ましくは50〜1,500重量部、さらに好ましくは100〜1,000重量部、特に好ましくは200〜600重量部の範囲であるときに積層性とノンハロ難燃性の特性が高度にバランス化され好適である。また、環状リン系難燃剤、充填剤およびシロキサン化合物の割合は、使用目的に応じて適宜選択されるが、(シロキサン化合物+環状リン酸難燃剤)/充填剤の重量比で、通常1/9〜9/1、好ましくは1/9〜7/3、より好ましくは1/9〜5/5、最も好ましくは2/8〜4/6の範囲であるときに誘電損失と難燃性との特性が高度にバランスされ好適である。
【0043】
老化防止剤としては、フェノール系老化防止剤、アミン系老化防止剤、リン系老化防止剤及びイオウ系老化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の老化防止剤を添加することにより、硬化反応を阻害しないで、得られる繊維強化複合材料の耐酸化劣化性を高度に向上させることができ好適である。これらの中でも、フェノール系老化防止剤とアミン系老化防止剤が好ましく、フェノール系老化防止剤が特に好ましい。これらの老化防止剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。老化防止剤の使用量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、共役ジエンポリマー100重量部に対して、通常0.0001〜10重量部、好ましくは0.001〜5重量部、より好ましくは0.01〜1重量部の範囲である。
【0044】
その他の配合剤としては、その他の難燃剤、着色剤、染料、顔料などが挙げられる。その他の難燃剤としては、前記環状リン系難燃剤以外の含リン難燃剤、含窒素難燃剤、含ハロゲン難燃剤、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物難燃剤、三酸化アンチモンなどのアンチモン化合物などが挙げられる。着色剤としては、染料、顔料などが用いられる。染料の種類は多様であり、公知のものを適宜選択して使用すればよい。これらのその他の添加剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その使用量は、本発明の効果を損ねない範囲で適宜選択される。
【0045】
本発明に使用される硬化性組成物は、上記成分を混合して得ることができる。混合方法としては、常法に従って行なうことができる。
【0046】
(強化繊維)
本発明に使用される強化繊維としては、格別な制限はないが、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)繊維、アラミド繊維、超高分子ポリエチレン繊維、ポリアミド(ナイロン)繊維、液晶ポリエステル繊維などの有機繊維;ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、タングステン繊維、モリブデン繊維、ブデン繊維、チタン繊維、スチール繊維、ボロン繊維、シリコンカーバイド繊維、シリカ繊維などの無機繊維;などを挙げることができる。これらの中でも、有機繊維やガラス繊維が好ましく、特にアラミド繊維、液晶ポリエステル繊維、ガラス繊維が好ましい。ガラス繊維としては、Eガラス、NEガラス、Sガラス、Dガラス、Hガラス等の繊維が好適に用いることができる。
【0047】
これらの強化繊維は、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。強化繊維の使用量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、プリプレグあるいは積層体中の、通常10〜90重量%、好ましくは20〜80重量%、より好ましくは30〜70重量%の範囲であり、この範囲にあるときに積層体の誘電正接と機械的強度が高度にバランスされ好適である。
【0048】
(プリプレグ)
本発明のプリプレグは、前記硬化性樹脂組成物を上記強化繊維に含浸して製造することができる。
【0049】
含浸方法としては、常法に従えばよく、例えば、共役ジエン系ポリマー、架橋剤、環状リン系化合物、充填剤、硬化剤及び必要に応じてその他の配合剤を溶媒に溶解して低粘度化し強化繊維に含浸させた後に脱溶媒させるウェット法、リリースペーパー上に硬化性樹脂組成物をコーティングし、その上に強化繊維を引き揃え、加熱溶解した樹脂をロールあるいはドクターブレード等で加圧含浸させ、その後、放冷するホットメルト法(ドライ法)などが挙げられるが、通常はウェット法で行なわれる。
【0050】
ウェット法で含浸した後の乾燥温度は、通常50〜250℃、好ましくは100〜200℃、より好ましくは120〜170℃の範囲であり、特に、前記架橋剤がラジカル発生剤である場合は、通常ラジカル発生剤の1分半減期温度以下、好ましくは1分半減期温度の10℃以下の温度、より好ましくは1分半減期温度以下の20℃以下の温度である。乾燥時間は適宜選択すればよいが、通常0.1〜120分間、好ましくは0.5〜60分間、より好ましくは1〜20分間の範囲である。硬化性樹脂組成物をこの範囲温度及び時間加熱することにより未反応モノマーの少ないプリプレグが得られるので好適である。
【0051】
本発明のプリプレグの厚みは、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常0.001〜10mm、好ましくは0.01〜1mm、より好ましくは0.05〜0.5mmの範囲である。この範囲であるときに、プリプレグの操作性、及び硬化して得られる積層体の機械強度や靭性の特性が充分に発揮され好適である。
【0052】
本発明のプリプレグの揮発成分量は、200℃で1時間加熱したときに揮発する量で、通常30重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、もっとも好ましくは1重量%以下である。プリプレグの揮発成分量が過度に多いと、プリプレグのベタ付きが発生し操作性及び保存安定性が悪くなり、また、硬化後の積層体にボイドが発生し外観や機械強度を低下させたり、ブリードや耐熱性、耐薬品性等の問題が生じ好ましくない。
【0053】
(積層体)
本発明の積層体は、上記プリプレグを、同じプリプレグ同士で、または他材料と積層して、必要に応じて賦形した後に、硬化してなるものである。積層してもよい他材料としては、使用目的に応じて適宜選択されるが、例えば、熱可塑性樹脂材料、金属材料などが挙げられ、特に金属材料が好適に用いられる。金属材料としては、回路基板で一般に用いられるものを格別な制限なく用いることができ、通常金属箔、好ましくは銅箔が用いられる。金属材料の厚みは、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常1〜50μm、好ましくは3〜30μm、より好ましくは5〜20μm、最も好ましくは5〜15μmの範囲である。
【0054】
積層及び硬化させる方法は、常法に従えばよく、例えば、平板成形用のプレス枠型を有する公知のプレス機、シートモールドコンパウンド(SMC)やバルクモールドコンパウンド(BMC)などのプレス成形機を用いて熱プレスを行なうことができる。加熱温度は、硬化剤による架橋の起こる温度であり、通常その1分半減期温度以上、好ましくは1分半減期温度より5℃以上高い温度、より好ましくは1分半減期温度より10℃以上高い温度である。通常は、100〜300℃、好ましくは150〜250℃の範囲である。加熱時間は、0.1〜180分、好ましくは1〜120分、より好ましくは2〜20分の範囲である。プレス圧力としては、通常0.1〜20MPa、好ましくは0.1〜10MPa、より好ましくは1〜5MPaである。また、熱プレスは、真空または減圧雰囲気下で行ってもよい。
【0055】
かくして得られる本発明の積層体は、高周波領域での伝送ロスが少なく且つノンハロ難燃性が付与されるため、広範囲での高周波基板材料として好適に用いることができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例における部および%は、特に断りのない限り重量基準である。
【0057】
実施例および比較例における各特性は、下記の方法に従い測定、評価した。
(1)積層性:得られた繊維強化複合材料積層体の外観を観察し下記基準で評価した。
◎:積層間の剥離、形状崩れなどが認められない
○:積層間の剥離、形状崩れなどが認められるがわずか。
×:積層間の剥離、形状崩れなどが激しく見られる
(2) 難燃性:厚さ0.9mmの積層体を125mm×15mmの試験片として切り出し、炎を10cm下まで近づけ10秒間静置してから離炎し、その後の燃えあがり方を観察し、以下の基準で評価した。
◎:離炎後の有炎はない。
○:離炎後の有炎があるが、間もなく消える。
×:離炎後の有炎が上部まで達し、激しく燃えた。
【0058】
実施例1
ポリブタジエン樹脂B3000(日本曹達社製;分子量3000、1,2−ビニル結合量95モル%)100部、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックポリマー(旭化成社製タフプレン)20部、難燃剤として9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド80部、シリカ(アドマファイン製、平均粒径0.5μm)35部、ジ−t−ブチルペルオキシド1.2部をキシレン中で混合し、硬化性組成物を得た。次いで、得られた重合性組成物をガラスクロス(Eガラス)に含浸させ、加熱により溶媒を除去してプリプレグを作製した。プリプレグの強化繊維含有量は41%であった。
【0059】
次に、作製したプリプレグシート5枚を重ね、200℃で10分間、3MPaにて加熱プレスを行い積層体を得た。得られた積層体の積層性と難燃性を評価し、その結果を表1に示した。
【0060】
【表1】

【0061】
実施例2
難燃剤9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドの配合量を60部に、且つ充填剤シリカの配合量を100部に変える以外は実施例1と同様にして積層体を得た。得られた積層体の積層性と難燃性を評価し、その結果を表1に示した。また、得られた積層体の誘電正接を測定すると、実施例1で得られた積層体の誘電正接より小さく好ましいことが判った。
【0062】
実施例3
難燃剤9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドの配合量を40部に変え、新たにシリコーン化合物としてDC4−7081(東レ・ダウコーニング社製)20部を加えること以外は実施例1と同様に行い積層体を得た。得られた積層体の積層性と難燃性を評価し、その結果を表1に示した。また、得られた積層体の誘電正接を測定すると、実施例2で得られた積層体の誘電正接より更に小さく好ましいことが判った。
【0063】
比較例1
難燃剤としてポリリン酸アンモニウムを使用する以外は実施例1と同様に行い積層体を得た。得られた積層体の各特性を評価してその結果を表1に示した。
【0064】
比較例2
難燃剤を無くして、シリカ150部に変える以外は実施例1と同様に行い積層体を得、各特性を評価して、その結果を表1にまとめた。
【0065】
比較例3
シリカの代わりにシリコーン化合物100部を用いる以外は比較例1と同様に行い積層体を得、各特性を評価して、その結果を表1にまとめた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共役ジエンポリマー、硬化剤、充填剤、及び環構造を有し該環構造内にリン原子を有する環状リン系難燃剤を含む硬化性樹脂組成物が強化繊維に含浸されてなるプリプレグ。
【請求項2】
環状リン系難燃剤と充填剤との比率が、環状リン系難燃剤/充填剤の重量比で1/9〜9/1の範囲である請求項1記載のプリプレグ。
【請求項3】
前記硬化性樹脂組成物が、さらにシロキサン化合物を含むものである請求項1または2記載のプリプレグ。
【請求項4】
充填剤、環状リン系難燃剤及びシロキサン化合物の合計量が、共役ジエンポリマー100重量部に対して50重量部以上である請求項3記載のプリプレグ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のプリプレグを、該プリプレグ同士で、または他材料と積層した後に硬化してなる積層体。

【公開番号】特開2009−209211(P2009−209211A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−51270(P2008−51270)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】