説明

生体有益性コーティング組成物及びその製造方法及びその使用

薬剤溶出用ステントのような埋め込み型用具をコートするための生体有益性コーティング組成物及び該組成物で用具をコートする方法及び該組成物でコートされた埋め込み型用具が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的に、ステントのような埋め込み型用具をコートするためのポリマーのコーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ステントをコートするのにポリマーのコーティングが使用されている。ポリマーをコートした市販の製品の1つは、ボストンサイエンティフィックにより製造されているステントである。たとえば、ボストンサイエンティフィック社に譲渡された米国特許第5,869,127号、同第6,009,563号、同第6,179,817号及び同第6,197,051号は、医療用具をコートするための種々の組成物を記載している。これらの組成物は、その中に記載されているステントに高い生体適合性を提供し、適宜、生体活性剤を包含してもよい。サイメドライフシステム社への米国特許第6,231,590号は、生体活性剤、コラーゲン様物質、又は適宜、そのほかの生体活性剤を含有する若しくは生体活性剤でコートされたコラーゲン様コーティングを含むコーティング組成物を記載している。
【0003】
コーティングポリマーの性質は、コーティングの表面特性を規定する上で重要な役割を担う。たとえば、極めて低いTgの非晶性のコーティング材には、圧着、バルーンの拡張などのような機械的動揺に際して許容しがたい流体力学的挙動を誘発する。他方、高いTgの又は結晶性の高いコーティング材は、ステントのパターンの歪みの大きい領域でもろい割れを導入する。
【0004】
生体材料における現在のパラダイムは、インプラント表面のタンパク質吸着の制御である。部分的に変性したタンパク質の混合層を招く、制御されていないタンパク質の吸着は、埋め込まれた場合の現在の生体材料の顕著な特徴である。そのような表面は、たとえば、フィブロゲンや免疫グロブリンGのような吸着された血漿タンパク質とは異なる細胞結合部位を提示する。血小板及び単球/マクロファージや好中球のような炎症性細胞は、この表面に接着する。非付着性の表面によって不都合な事象を制御することができる。これらは、主としてその親水性の表面特性によってタンパク質をほとんど又はまったく吸着しない材料である。
【0005】
現在の薬剤溶出用ステントの別の限界性は、ステントが異物であるという事実に由来する。再狭窄を制御する増殖抑制剤の制御放出の使用によって、薬剤溶出用ステントの使用は、上手く行くことが判明している。しかしながら、薬剤溶出用ステントは、小さいが、無視できない亜急性血栓症の発生を未だ有する。さらに、特に、糖尿病のようなさらに難題の患者亜集団、又は血管が細い、及び/又は長く、びまん性の病変を持つ患者において、薬剤溶出用ステントは再狭窄をゼロレベルにはしてこなかった。薬剤溶出用ステントの成績をさらに改善するための生体材料に基づく戦略は、ステントコーティングにおける生体有益性の材料又は表面の使用による。生体有益性の材料は、すべて医薬活性剤に依存することなく、非付着性であること、血液適合性であること、積極的に非血栓形成性であること又は抗炎症性であることによって用具の生体適合性を向上させるものである。
【0006】
Pinchukらへの米国特許出願第2002/0107330号は、種々の比率でのポリスチレン−ポリイソブチレン−ポリスチレンコポリマーとパクリタキセルの混合物を含有する組成物を記載している。埋め込み型用具にコートされた場合、組成物は、ポリエチレンオキシド又はヒアルロン酸のようなポリマー又は物質のバリア層で覆われてもよく、又はそのようなものと混合されてもよい(Pinchukら、「超長期間のインプラント適用のためのポリイソブチレン系熱可塑性エラストマー」、生体材料学会、第6回世界生体材料会議報告書、2000、#1452;Drachman DE et al., J. Amer. Coll. Cardiology, 36(7):2325-2332(2000);Pinchuk, J., Biomaster. Sci. Polymer edn., 6(3):225-267(1994)も参照のこと)。しかしながら、当該技術では、ポリエチレンオキシド又はヒアルロン酸のような多数の生体有益性材料は水溶性であり、コーティングが生体有益性を失ってもよいように組成物の外に浸出できることが周知である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、埋め込み型用具をコートするためのコーティング組成物を提供することによってそのような課題に対処する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
埋め込み型用具をコートするための又は生体活性剤の送達のための生体有益性組成物を提供する。生体有益性組成物は、第1のブロックコポリマー及び生体有益性ポリマーを含む。或いは、生体有益性ポリマーは、第1のブロックコポリマー及び第2のブロックコポリマーを構成してもよく、第2のブロックコポリマーは生体有益性成分及びもう1つの成分を含み、それは水溶性又は第1のブロックコポリマーと混和性のいずれかである。第1のブロックコポリマーはおよその体温より低いTgを持つブロックを有し、もう1つのブロックはおよその体温より高いTgを有するか、又はおよその体温より高いTmと共に相当の結晶性を有する。本明細書で使用されるとき、用語「体温」は、約37℃、たとえば、約36.5℃〜37.5℃であるヒトの正常な体温を言う。およその体温より低いTgを持つブロックは非晶性構造を有し、ゴム状弾性である。本明細書で記載される組成物はゴム状弾性であるが、酸化耐性が高い。高いTgのブロックは、反応性酸化種に対して第1のブロックコポリマーを緩やかな透過性又は接近可能にする。ゴム状弾性の低いTgのブロックは、酸化耐性であることができる。本明細書で記載される組成物はさらに生体活性剤を含んでもよい。
【0009】
本明細書で記載される組成物は、ステントのような埋め込み型用具をコートするために、又は生体活性剤の制御された送達のために使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
埋め込み型用具をコートするための、又は生体活性剤の送達のための生体有益性組成物が提供される。生体有益性組成物は、第1のブロックコポリマー及び生体有益性ポリマーを含む。或いは、生体有益性ポリマーは、第1のブロックコポリマー及び第2のブロックコポリマーを含んでもよく、第2のブロックコポリマーは生体有益性成分及びもう1つの成分を含み、それは、水不溶性又は第1のブロックコポリマーと混和性のいずれかである。第1のブロックコポリマーはおよその体温より低いTgを持つブロックを有し、およその体温より高いTgを持つもう1つのブロック又はそれは、およその体温より高いTmと共に相当の結晶性を有する。およその体温より低いTgを持つブロックは非晶性構造を有し、ゴム状弾性である。機能的には、ゴム状弾性で低いTgのブロックは、柔軟性を提供し、およその体温より高いTg又はTmを持つブロックは、事実上の架橋として作用する。本明細書で記載される組成物はさらに生体活性剤を含んでもよい。
【0011】
本明細書で使用されるとき、Tgは、ポリマーの非晶性領域が、大気圧にて、もろいガラス質の状態から可塑性の状態に変化する温度を言う。言い換えれば、Tgは、ポリマー鎖の部分運動が開始し、ポリマーについての熱容量対温度のグラフでそれが認識できる温度に相当する。非晶性又は半結晶性のポリマーが加熱されると、温度が上昇するにつれて、その膨張係数及び熱容量の双方が増加し、それは分子運動の増加を示す。温度が上昇するとき、試料の実際の分子体積は一定のままである。従って、膨張係数が高いほど、系の空いた体積が増え、分子にとっての運動の自由度が増える傾向を示す。熱容量の増加は、運動を介した熱の損失の増加に相当する。
【0012】
所定のポリマーのTgは、加熱速度に依存し、ポリマーの熱履歴に影響されうる。さらに、ポリマーの運動性に影響を与えることによって、ポリマーの化学構造はTgに強く影響する。一般に、柔軟な主鎖成分がTgを下げ、大半の側鎖基がTgを上げる。同様に、柔軟性を増した側鎖基の長さがTgを下げ、極性の高い主鎖がTgを上げる。さらに、架橋の存在は、所定のポリマーで観察されるTgを高め、薬剤又は治療剤の存在は、可塑化効果によってポリマーのTgを変化させる。これら可塑化効果の程度は、薬剤及びポリマーの混和性及び相溶性並びにポリマーにおける薬剤の負荷に依存する。
【0013】
本明細書で使用されるとき、用語「生体有益性」は、埋め込み型用具上のコーティングの生体適合性及び/又は生体反応性を高める物質の特質を言う。
【0014】
本明細書で使用されるとき、用語「水不溶性」は、当業者によって理解されるような不溶性である品質を有する物質の特質を言う。不溶性である物質の例の1つは、37℃及び1気圧にて1%(w/w)以下又は10mg/gm以下の水における溶解性を有する物質である。
【0015】
本明細書で記載される組成物は、ゴム状弾性であるが、酸化耐性が高い。Tgの高いブロックは、反応性酸化種に対して、第1のブロックコポリマーを緩やかな透過性又は接近可能にする。ゴム状弾性のTgの低いブロックは、酸化耐性でありうる。たとえば、ゴム状弾性のTgの低いブロックは、ポリイソブチルブロックであることができ、それは1つおきの炭素が三級炭素なので、酸化耐性である。遊離のラジカル及び酸化剤が、ヒドロキシル基及びカルボニル基を形成するポリイソブチルブロックのCH2部分を攻撃し、酸化することができる。しかしながら、二級及び三級の炭素を変化させることにより、二級炭素が隣接しなくなり、ポリマーの主鎖において炭素−炭素二重結合を形成することを不可能にする。その結果、ポリイソブチルブロックの主鎖はもとのままである。
【0016】
本明細書で記載される組成物は、ステントのような埋め込み型用具をコートするために、又は生体活性剤の制御された放出のために使用することができる。組成物はまた、埋め込み型医療用具を作製するのに使用することができる。
【0017】
本発明の側面の1つによれば、本明細書で開示される組成物は、およその体温より低いTgを有する少なくとも1つのゴム状弾性のブロック及びおよその体温より高いTg又はTmっを有する別のブロックを含む第1のブロックコポリマーの生物有益性ポリマーとの抱合体(conjugate)を含む。およその体温より高いTgを有するブロックは式Iの構造を有し、およその体温より低いTgを有するゴム状弾性のブロックは式IIの構造を有する:
【化1】

【化2】

式中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ、水素、フェニル、メチル、エチル、カルボキシレート、アクリレート又はメタクリレートであって、ただしR1、R2、R3及びR4のすべてが水素の場合は除き;R5及びR7又はR6及びR8はそれぞれ、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ベンジル又はフェニルであり;並びにR6及びR8又はR5及びR7はそれぞれ、水素、メチル、エチル、プロピル、ベンジル又はフェニルである。Tgの高いブロックは、ポリスチレン、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(エチルメタクリレート)、ポリ(プロピルメタクリレート)、ポリ(イソブチルメタクリレート)、ポリ(4−メチルスチレン)、ポリ(アルファ−メチルスチレン)、ポリ(ベンジルメタクリレート)、ポリ(tert−ブチルメタクリレート)、ポリ(クロロスチレン)、又はポリ(ブロモスチレン)であることができる。有用なゴム状弾性のTgが低いブロックには、ポリ(イソブチレン)、ポリ(n−ブチルメタクリレート)、ポリ(n−ヘキシルメタクリレート)、ポリ(n−オクチルメタクリレート)、ポリ(n−ラウリルメタクリレート)、ポリ(2−エチルヘキシルメタクリレート)、及びポリ(オクタデシルメタクリレート)が挙げられる。第1のブロックコポリマーは、A−Bジブロックコポリマー又はA−B−A若しくはB−A−Bトリブロックコポリマーであることができる。
【0018】
実施態様の1つでは、第1のブロックコポリマーは、式IIIの以下の構造を有し:
【化3】

式中、m及びnは正の整数である。
【0019】
さらなる実施態様では、抱合体は以下の構造:
【化4】

(式中、m及びnは正の整数である)、又は以下の構造:
【化5】

(式中、m及びnは正の整数である)を有することができる。
【0020】
代表的な生体有益性ポリマーには、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(プロピレングリコール)、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドに基づいたブロックコポリマーであるプルロニック(商標)界面活性剤、ポリ(テトラメチレングリコール)、ヒドロキシ官能性ポリ(ビニルピロリドン)、ポリアルキレンオキシド、デキストラン、デキストリン、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸、スルホン化ポリ(スチレン)、ヘパリン、エラスチン、キトサン、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(3−ヒドロキシプロピルメタクリルアミド)、4−アミノ−2,2’,6,6’−テトラピペリジンオキシド、安定ニトロキシド、スーパーオキシドジスムターゼ模倣体、フリーラジカルスカベンジャー及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。直接的な共有結合、水素結合、イオン性境界キレートであることができる結合を介してブロックコポリマーのTgが高いブロックに生体有益性を抱合(conjugate)することができる。好ましくは、結合は、たとえば、アミノ結合、エステル結合、エーテル結合、ペプチド結合、アミド結合、ウレタン結合、炭酸結合を介するような共有性のもの、炭素−炭素結合、ヒドラジド結合、スルホネート結合、スルホン結合又はチオールエーテル結合を介するものである。当該技術におけるいかなる方法を介しても生体有益性ポリマーをブロックポリマーのTgが高いブロックに結合することができる(たとえば、Michael Smith, 有機合成、第2版、McGraw-Hill、2001年を参照のこと)。
【0021】
例として、図1に示すように、還元性アミノ化を介してPEGをポリスチレン−ポリイソブチレン−ポリスチレン(SIS)トリブロックコポリマーに結合する。先ず、SISトリブロックコポリマーをAlCl3のようなルイス酸触媒の存在下でアシル化に供する。次いで、図1に示すように、シアノ水素化ホウ素ナトリウムのような還元剤の存在下で、市販のmPEG−NH2(ネクターのような業者から入手可能)との還元性アミノ化に、アシル化されたSISトリブロックコポリマーを供する。
【0022】
さらなる例として、図2に示すように、4−アミノ−2,2’,6,6’−テトラピペリジンオキシド(4−アミノ−TEMPO)のような小分子をSISトリブロックコポリマーに結合することができる。先ず、SISトリブロックコポリマーをAlCl3のようなルイス酸触媒の存在下でアシル化に供する。次いで、シアノ水素化ホウ素ナトリウムの存在下で、SISトリブロックコポリマーを還元性アミノ化に供して4−アミノ−TEMPO誘導体化SISトリブロックコポリマーを形成する(図2)。
【0023】
本発明の別の側面によれば、本明細書で開示される組成物は、およその体温より高いTgを持つブロック及びおよその体温より低いTgを持つゴム状弾性のブロックを含む第1のブロックコポリマー並びに生体有益性の成分及び水不溶性又は第1のブロックコポリマーと混和性である別の成分を含む第2のブロックコポリマーを含み、それは、上記で記載されている。第1のブロックコポリマーと混和性である成分は、疎水性である。代表例には、ポリスチレン−ポリイソブチレン−ポリスチレンブロックコポリマー(SIS)、ポリスチレン、ポリイソブチレン、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(L−ラクチド)、ポリ(D,L−ラクチド)、ポリ(ラクチド)、ポリ乳酸(PLA),ポリ(ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(グリコリド)、ポリアルキレン、ポリフルオロアルキレン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(4−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシバレレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシバレレート)、ポリ(3−ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(4−ヒドロキシヘキサノエート)、中鎖ポリヒドロキシアルカノエート、ポリ(炭酸トリメチレン)、ポリ(オルソエステル)、ポリホスファゼン、ポリ(ホスホエステル)、ポリ(チロシン由来のアリレート)、ポリ(チロシン由来のカーボネート)を挙げることができる。第2のコポリマーの水不溶性成分には、たとえば、ポリジメチルオキサノン(PDMS)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ポリジメチルシロキサン、ポリ(フッ化ビニリデン−co−ヘキサフルオロプロピレン)(PVDF−HFP)、ポリ(フッ化ビニリデン−co−クロロトリフルオロエチレン)(PVDF−CTFE)、ポリ(ブチルメタクリレート)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(メタクリレート)、ポリ(酢酸ビニル)、ポリ(エチレン−co−酢酸ビニル)、ポリ(エチレン−co−ビニルアルコール)、ポリ(エステルウレタン)、ポリ(エーテルウレタン)、ポリ(カーボネートウレタン)、ポリ(シリコーンウレタン)、ポリ(尿素ウレタン)、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0024】
実施態様の1つでは、生体有益性成分を含む第2のブロックコポリマーは、SIS−PEG、ポリスチレン−PEG、ポリイソブチレン−PEG、PCL−PEG、PLA−PEG、PMMA−PEG、PDMS−PEG、PVDF−PEG、SIS−ヒアルロン酸(HA)、ポリスチレン−HA、ポリイソブチレン−HA、PCL−HA、PLA−HA、PMMA−HA、PVDF−HA、SIS−ヘパリン、ポリスチレン−ヘパリン、ポリイソブチレン−ヘパリン、PCL−ヘパリン、PLA−ヘパリン、PMMA−ヘパリン、又はPVDF−ヘパリンである。
【0025】
本明細書で使用されるとき、抱合体は、イオン性相互作用、水素結合又は共有結合によって、1つの物質、たとえば、あるポリマーを1以上のほかの物質、たとえば、異なった性質のポリマーと組み合わせることによって形成される。抱合体は、たとえば、ブロックコポリマー、付加体、イオン対、ポリ電解質錯体又はキレートであることができる。
【0026】
活性剤
本発明のさらなる実施態様によれば、本明細書で記載される組成物は、適宜、1以上の活性剤を含んでもよい。活性剤は、血管平滑筋細胞の活性を抑制するためのものであることができる。さらに具体的には、活性剤は、再狭窄を抑制するために、平滑筋細胞の異常な又は不適当な移動及び/又は増殖を抑制することを目的とすることができる。
【0027】
活性剤には、治療効果、予防効果又は診断効果を発揮することが可能であるいかなる物質も挙げることができる。たとえば、活性剤は、血管部位における創傷治癒を向上させる又は血管部位の構造的及び弾性的な特性を改善するためであることができる。活性剤の例には、アクチノマイシンD又はその誘導体及び類縁体(ウィスコンシン州、53233、ミルウォーキー、ウエストセントポール通り1001番地のシグマ−アルドリッチにより製造される;又はメルクから入手可能なコスメゲン)のような増殖抑制物質が挙げられる。アクチノマイシンDの同義語には、ダクチノマイシン、アクチノマイシンIV、アクチノマイシンI1、アクチノマイシンX1、及びアクチノマイシンC1が挙げられる。活性剤は、抗腫瘍物質、抗炎症性物質、抗血小板物質、抗凝固性物質、抗フィブリン性物質、抗血栓性物質、細胞分裂抑制性物質、抗生物質、抗アレルギー性物質、及び抗酸化物質の種類に分類される。そのような抗腫瘍物質及び/又は細胞分裂抑制性物質の例には、パクリタキセル(たとえば、コネチカット州、スタムフォードのブリストル・マイヤーズ・スクイブによるタキソール(登録商標))、ドセタキセル(たとえば、ドイツ、フランクフルトのアベンティスのタキソテレ(登録商標))、メソトレキセート、アザチオプリン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、フルオロウラシル、ドキソルビシン塩酸塩(たとえば、ニュージャージー州、ピーパックのファルマシア&アップジョンのアドリアマイシン(登録商標))、及びマイトマイシン(たとえば、コネチカット州、スタムフォードのブリストル・マイヤーズ・スクイブのムタマイシン(登録商標))が挙げられる。そのような抗血小板物質、抗凝固性物質、抗フィブリン性物質、及び抗血栓性物質の例には、ヘパリンナトリウム、低分子量ヘパリン、ヘパリン様物質、ヒルジン、アルガトロバン、フォルスコリン、バピプロスト、プロスタサイクリン及びプロスタサイクリン類縁体、デキストラン、D−phe−pro−arg−クロロメチルケトン(合成抗血栓剤)、ジピリダモール、糖タンパク質IIb/IIIa血小板膜受容体拮抗剤抗体、組換えヒルジン及びアンギオマックス(マサチューセッツ州、ケンブリッジ、バイオゲン社)のようなトロンビン阻害剤が挙げられる。そのような細胞増殖抑制剤又は抗増殖剤の例には、アンギオペプチン、アンギオテンシン変換酵素阻害剤、たとえば、カプトプリル(たとえば、コネチカット州、スタムフォードのブリストル・マイヤーズ・スクイブのカポテン(登録商標)及びカポジド(登録商標))、シラザプリル又はリシノプリル(たとえば、ニュージャージー州、ホワイトハウスステーションのメルク社のプリニビル(登録商標)及びプリンジド(登録商標));カルシウムチャンネル遮断剤(たとえば、ニフェジピン)、コルヒチン、線維芽細胞増殖因子(FGF)拮抗剤、魚油(オメガ3−脂肪酸)、ヒスタミン拮抗剤、ロバスタチン(HMG−CoA還元酵素の阻害剤、コレステロール低下剤、ニュージャージー州、ホワイトハウスステーションのメルク社の商品名、メバコール(登録商標))、モノクローナル抗体(たとえば、血小板由来増殖因子(PDGF)受容体に特異的なもの)、ニトロプルシド、ホスホジエステラーゼ阻害剤、プロスタグランジン阻害剤、スラミン、セロトニン遮断剤、ステロイド、チオプロテアーゼ阻害剤、トリアゾロピリミジン(PDGF拮抗剤)及び酸化窒素が挙げられる。抗アレルギー剤の例には、ペミロラストカリウムである。適当であってもよいそのほかの治療物質又は治療作用剤には、α−インターフェロン、遺伝子操作を施した上皮細胞が挙げられる。前述の物質は例示の目的で列記されるものであり、限定を意味するものではない。現在利用できる又は将来開発されてもよいそのほかの活性剤も同等に適用可能である。そのようなそのほかの活性剤には、たとえば、抗癌剤、新生抑制剤、抗生剤、抗真菌剤及び抗体、タンパク質、ペプチド、抗炎症剤、ステロイド性抗炎症剤、抗ウイルス剤、抗癌作用剤、フリーラジカルスカベンジャー、エベロリムス、シロリムス、シロリムス誘導体、パクリタキセル、エストラジオール、一酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ模倣体、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノ−TEMPO)、タクロリムス、デキサメタゾン、ラパマイシン、40−O−(3−ヒドロキシ)−プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシン及び40−O−テトラゾール−ラパマイシン、ABT−578、クロベタゾール、細胞分裂抑制剤並びにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0028】
好都合の治療効果を生じるのに必要とされる活性剤の投与量又は濃度は、活性剤が毒性効果を生じるレベルよりも低く、且つ、治療結果が得られる最低レベルよりも高くすべきである。血管領域の所望の細胞性活性を抑制するのに必要とされる活性剤の投与量又は濃度は、たとえば、患者の特定の状況、傷の性質、所望される治療の性質、投与される成分が血管部位に留まる時間、並びにほかの活性剤が採用されるのであれば、それら作用剤及びそれら作用剤の組み合わせの性質及び種類のような因子に依存することができる。治療上有効な投与量は、経験的に、生体内で、たとえば、好適な動物モデル系の血管に注入し、免疫組織学的方法、蛍光法又は電子顕微鏡法を用いて作用剤及びその効果を検出することによって、又は好適な試験管内試験を行うことによって決定することができる。投与量を決定するための標準的な薬学試験の手順は当業者に理解されている。
【0029】
放射線不透過性の元素の例には、金、タンタル、及び白金が挙げられるが、これらに限定されない。放射線同位元素の例は32Pである。十分量のそのような物質を、その物質が凝集物又は綿状沈殿物として組成物に存在しないように、組成物に分散してもよい。
【0030】
用具をコートする方法
スプレーコートすることによって又は当該技術で利用可能な任意のコート法によってステントのような埋め込み型用具に、本明細書で記載される組成物をコートすることができる。一般に、コートには、溶媒又は溶媒の混合物に組成物又は1以上のその成分を溶解又は懸濁して組成物又は1以上のその成分の溶液、懸濁液又は分散液を形成すること、溶液又は懸濁液を埋め込み型用具に塗布すること、及び溶媒又は溶媒の混合物を除いて、コーティング又はコーティングの層を形成することが含まれる。本明細書で記載される組成物の懸濁液又は分散液は、1ナノメータ〜100ミクロンの間、好ましくは1ナノメータ〜10ミクロンの間のサイズを有する微粒子のラテックス又はエマルションの形態であることができる。本明細書に含まれるいかなる工程にも熱処理及び/又は圧力処理を適用することができる。さらに、望ましいなら、ここで記載されるコーティングをさらなる熱処理及び/又は圧力処理に供することができる。本明細書で記載される組成物を用いて埋め込み型用具の上にコーティングを形成するのに使用されてもよい埋め込み型用具をコートする、いくつかの追加の例示となる方法は、たとえば、Lambert TL, et al., Circulation 90:1003-1011, 1994; Hwang CW et al., Circulation, 104:600-605, 2001; Van der Giessen et al., Circulation, 94:1690-1697, 1996; Lincoff AM et al., J. Am. Coll. Cardiol., 29:808-816, 1997; Grube E. et al., J. American College Cardiology Meeting, March 6, 2002, ACCIS2002, poster 1174-15; Grube E. et al., Circulation, 107:38-42, 2003; Bullesfeld L. et al., ZKadiol, 92:10, 825-832, 2003; 及びTanabe K. et al., Circulation 107:4, 559-64, 2003に記載されている。
【0031】
成分のコーティングの単一層の形態で組成物を埋め込み型用具の上にコートすることができ、又はコーティングの分離層の形態で組成物の成分を用具にコートすることができる。
【0032】
本明細書で使用されるとき、用語「溶媒」は、ポリマーと相溶性であり、ポリマー組成物又は1以上のその成分を所望の濃度で溶解する又は懸濁することが可能である液状物質又は液状組成物を言う。溶媒の代表例には、クロロホルム、アセトン、水(緩衝化生理食塩水)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PM)、イソプロピルアルコール(PA)、n−プロピルアルコール、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、デカリン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、ブタノール、ジアセトンアルコール、ベンジルアルコール、2−ブタノン、シクロヘキサノン、ジオキサン、塩化メチレン、四塩化炭素、テトラクロロエチレン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、ホルムアミド、ヘキサフルオロイソプロパノール、1,1,1−トリフルオロエタノール及びヘキサメチルホスホルアミド、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0033】
そのような埋め込み型用具の例には、自己拡張可能なステント、バルーン拡張可能なステント、ステント移植片、移植片(たとえば、大動脈移植片)、人工心臓弁、脳脊髄液シャント、ペースメーカーの電極、及び心内膜のリード(たとえば、カリフォルニア州、サンタクララのガイダント社より入手可能なフィネリン及びエンドタック)が挙げられる。用具の下に置く構造は、事実上、いかなる設計のものでもよい。用具は、たとえば、コバルトクロム合金(エルギロイ)、ステンレス鋼(316L)、高窒素ステンレス鋼、たとえば、バイオドゥール108、コバルトクロム合金、L−605、「MP35N」、「MP20N」、エラスチナイト(ニチノール)、タンタル、ニッケルチタン合金、白金イリジウム合金、金、マグネシウム又はそれらの組み合わせのような、しかし、これらに限定されない金属材料又は合金から作製することができる。「MP35N」及び「MP20N」は、ペンシルベニア州、ジェンキンタウンのスタンダードプレススチール社から入手可能なコバルト、ニッケル、クロム及びモリブデンの合金の商標名であり、「MP35N」は、35%のコバルト、35%のニッケル、20%のクロム及び10%のモリブデンから成り、「MP20N」は、50%のコバルト、20%のニッケル、20%のクロム及び10%のモリブデンから成る。生体吸収性又は生体安定性のポリマーから作製される用具も本発明の実施態様と共に使用すればよい。実施態様の1つでは、埋め込み型用具はステントである。
【0034】
本明細書で記載される組成物を、未処理の金属又はポリマーの埋め込み型用具の上に、又は埋め込み型用具上の薬剤溶出用コーティングの一番上にコートすることができる。
【0035】
使用方法
本発明の実施態様によれば、上述のような種々の実施態様における組成物を埋め込み型用具又は人工装具、たとえば、ステントに適用することができる。1以上の活性剤を含む組成物については、活性剤は、用具の送達及び拡張の間、ステントのような医療用具上に残り、埋め込み部位にて所望の割合で、所定の持続時間の間放出される。好ましくは、医療用具はステントである。上述のコーティングを有するステントは、例示として、胆管、食道、気管/気管支及びそのほかの生体通路における腫瘍による障害の治療を含む、種々の医療処置に有用である。上述のコーティングを有するステントは、アテローム性硬化症、又は平滑筋細胞の異常な若しくは不適当な移動及び増殖、血栓症並びに再狭窄によって起こされる血管の閉塞領域を治療するのに特に有用である。多種多様な血管、動脈及び静脈の双方にステントを留置することができる。部位の代表例には、腸骨動脈、腎動脈及び冠状動脈が挙げられる。
【0036】
本明細書に記載されるコーティングを含む埋め込み型用具を用いて、治療を必要とする状態又は障害を有する動物を治療することができる。たとえば、本明細書に記載される用具を動物に埋め込むことによってそのような動物を治療することができる。好ましくは、動物はヒトである。本明細書で開示される方法によって治療することができる例示となる障害又は状態には、冠状脈管構造における閉塞性アテローム性硬化症病変、冠状動脈における内膜新生肥厚、冠状動脈における再狭窄、冠状動脈の不安定プラーク、腎動脈におけるアテローム性硬化症、頚動脈におけるアテローム性硬化症、神経脈管構造におけるアテローム性硬化症、腸骨動脈におけるアテローム性硬化症、大腿動脈におけるアテローム性硬化症、膝窩動脈におけるアテローム性硬化症、アテローム性血栓症、及び前立腺、肝臓又は消化管の閉塞性腫瘍が挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0037】
以下の述べられる机上の実施例によって本発明の実施態様を説明する。パラメータ及びデータはすべて本発明の実施態様の範囲を過度に限定するようには解釈されないものとする。
【0038】
(実施例1)ステントからのパクリタキセルの制御された放出のための薬剤溶出用ステントコーティングにおける上塗りとしての式IVのポリマー
以下の成分
(a)2.0質量%のポリ(n−ブチルメタクリレート)(PBMA)及び
(b)残り、重量比50/50のアセトンとシクロヘキサノンの混合物
を混合することによって第1の組成物を調製する。
【0039】
未処理の12mmの小型ビジョン(商標)ステント(ガイダント社から入手可能)の表面に第1の組成物を塗布する。コーティングをスプレーし、乾燥して下塗り層を形成する。およその体温に維持され、2.5psi(0.17気圧)のフィード圧及び15psi(1.02気圧)の噴霧圧を持つ0.014の丸型ノズルを有するスプレーコーターを使用する。パス当たり20μgのコーティングを塗布し、その間で50℃にて蒸気流中でステントを10秒間乾燥する。およそ110μgの湿ったコーティングを塗布する。ステントを50℃にて1時間焼き、およそ100μgのPBMAから成る下塗り層を得る。
【0040】
下塗りを塗布するのに使用したのと同様のスプレー技法、器具及び処方を用いて、下塗り層の上にリザーバ層を塗布する。以下の成分
(a)2.0質量%の式IIIのポリマー、
(b)0.67質量%のパクリタキセル、及び
(c)残り、50/50のクロロホルムと1,1,2−トリクロロエタンの混合物
を混合することによって第2の組成物を調製する。
【0041】
この場合、およそ220μgの湿ったコーティングを塗布し、その後、乾燥して、たとえば、50℃にて約1時間、焼いて、約200μgの薬剤−ポリマーリザーバ層を得る。本発明のポリマーを上塗り層として使用する。薬剤リザーバで使用される式IIIの同一ポリマーによって開始して、3400ダルトンの分子量のアミノ末端化mPEGを用いてPEGのグラフトを実施する。最終組成物が20重量%のPEGであるように十分なPEG誘導体を抱合させる。この組成物、すなわち、
(a)2.0質量%の上述のような(IV)、及び
(b)残り、50/50のクロロホルムと1,1,2−トリクロロエタンの混合物を使用すること。
【0042】
この組成物を薬剤リザーバ上に塗布して上塗り層を形成することができる。薬剤リザーバ層を塗布するのに使用したのと同様のスプレー技法及び器具を使用すること。およそ120μgの湿った上塗りを塗布し、その後、50℃にて約1時間、焼いて、100μgの式IVの上塗り層を得、それは、生体有益性の上塗りとして作用する。
【0043】
(実施例2)式(IV)のポリマーは、ステントからのパクリタキセルの制御された放出のための薬剤溶出用ステントコーティングにおけるマトリクスとして使用される。
以下の成分
(a)2.0質量%のポリ(n−ブチルメタクリレート)(PBMA)及び
(b)残り、重量比50/50のアセトンとシクロヘキサノンの混合物
を混合することによって第1の組成物を調製する。
【0044】
未処理の12mmの小型ビジョン(商標)ステント(ガイダント社から入手可能)の表面に第1の組成物を塗布する。コーティングをスプレーし、乾燥して下塗り層を形成する。およその体温に維持され、2.5psi(0.17気圧)のフィード圧及び15psi(1.02気圧)の噴霧圧を持つ0.014の丸型ノズルを有するスプレーコーターを使用する。パス当たり20μgのコーティングを塗布し、その間で50℃にて蒸気流中でステントを10秒間乾燥する。およそ110μgの湿ったコーティングを塗布する。ステントを50℃にて1時間焼き、およそ100μgのPBMAから成る下塗り層を得る。
【0045】
下塗りを塗布するのに使用したのと同様のスプレー技法、器具及び処方を用いて、下塗り層の上に薬剤リザーバ層を塗布する。式IIIの同一ポリマーによって開始して、550ダルトンの分子量のアミノ末端化mPEGを用いてPEGのグラフトを実施する。最終組成物が5重量%のPEGであるように十分なPEG誘導体を抱合させる。この組成物、すなわち、
(a)2.0質量%の上述のような(IV)、
(b)0.5質量%のパクリタキセル及び
(c)残り、50/50のクロロホルムと1,1,2−トリクロロエタンの混合物を使用すること。
【0046】
この組成物を下塗り層上に塗布して薬剤リザーバ層を形成することができる。薬剤リザーバ層を塗布するのに使用したのと同様のスプレー技法及び器具を使用すること。およそ280μgの湿ったものを塗布し、その後、50℃にて約1時間、焼いて、250μgの式IVのポリマーのリザーバ層を得、これは、式IIIのポリマーより高い薬剤透過性を持つリザーバポリマーとして作用する。
【0047】
(実施例3)ステントからのエベロリムスの制御された放出のための薬剤溶出用ステントコーティングにおける上塗りとしての式IVのポリマー
以下の成分
(a)2.0質量%のポリ(エチレン−co−ビニルアルコール)(EVAL E−151A)及び
(b)残り、重量比70/30のジメチルアセトアミドとテトラヒドロフランの混合物
を混合することによって第1の組成物を調製する。
【0048】
未処理の12mmの小型ビジョン(商標)ステント(ガイダント社から入手可能)の表面に第1の組成物を塗布する。コーティングをスプレーし、乾燥して下塗り層を形成する。およその体温に維持され、2.5psi(0.17気圧)のフィード圧及び15psi(1.02気圧)の噴霧圧を持つ0.014の丸型ノズルを有するスプレーコーターを使用する。パス当たり10μgのコーティングを塗布し、その間で50℃にて蒸気流中でステントを10秒間乾燥する。およそ120μgの湿ったコーティングを塗布する。ステントを140℃にて1時間焼き、およそ100μgのEVALから成る下塗り層を得る。下塗りを塗布するのに使用したのと同様のスプレー技法、器具及びポリマーを用いて、下塗り層の上に薬剤リザーバ層を塗布する。
(a)上述のような2.0質量%のEVAL E−151A、
(b)0.67質量%のエベロリムス、及び
(c)残り、重量比70/30のジメチルアセトアミドとテトラヒドロフランの混合物
【0049】
この組成物を下塗り層の上に塗布して薬剤リザーバ層を形成することができる。薬剤リザーバ層を塗布するのに使用したのと同様のスプレー技法及び器具を使用すること。およそ240μgの湿ったものを塗布し、その後、80℃にて30分間、焼いて、223μgのリザーバ層を得る。本発明のポリマーを上塗り層として使用する。薬剤リザーバで使用される式IIIの同一ポリマーによって開始して、500ダルトンの分子量のアミノ末端化mPEGを用いてPEGのグラフトを実施する。最終組成物が20重量%のPEGであるように十分なPEG誘導体を抱合させる。この組成物、すなわち、
(a)2.0質量%の上述のような(IV)、及び
(b)残り、50/50のクロロホルムと1,1,2−トリクロロエタンの混合物を使用すること。
【0050】
この組成物を薬剤リザーバ上に塗布して上塗り層を形成することができる。薬剤リザーバ層を塗布するのに使用したのと同様のスプレー技法及び器具を使用すること。およそ120μgの湿った上塗りを塗布し、その後、50℃にて約1時間、焼いて、100μgの式IVの上塗り層を得、これは、生体有益性の上塗りとして作用する。
【0051】
本発明の特定の実施態様を示し、説明してきたが、さらに広い側面において本発明から逸脱することなく、変更及び修正を行うことができることは当業者に明らかであろう。従って、添付のクレームは、本発明の真の精神及び範囲に入るものとしてそのような変更及び修正すべてをその範囲内に包含するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】ポリスチレン−ポリイソブチレン−ポリスチレンブロックコポリマーとポリ(エチレングリコール)(PEG)との抱合体を形成するスキームである。
【図2】ポリスチレン−ポリイソブチレン−ポリスチレンブロックコポリマーと4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシド(4−アミノ−TEMPO)との抱合体を形成するスキームである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
埋め込み型用具をコートするための組成物であって、
(1)およその体温より低いガラス転移温度(Tg)を有するブロック及びおよその体温より高いTg又は融解温度(Tm)を有する第2のブロックを含む第1のブロックコポリマー、並びに
(2)前記第1のブロックコポリマーと抱合体を形成することが可能である生体有益性ポリマー、第2のブロックコポリマー及びこれらの組み合わせから成る群から選択される材料を含み、その際、前記第2のブロックコポリマーが
(i)生体有益性の成分、及び
(ii)前記第1のブロックコポリマーと混和性を有する成分及び水に不溶性の成分から成る群から選択される成分を含む組成物。
【請求項2】
およその体温より高いTgを有する前記ブロックが式Iの構造を有し、およその体温より低いTgを有する前記ブロックが式IIの構造を有し:
【化1】

【化2】

式中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ、水素、フェニル、メチル、エチル、アクリレート又はメタクリレートであり、但しR1、R2、R3及びR4のすべてが水素の場合は除き;R5及びR7はそれぞれ、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ベンジル又はフェニルであり;並びにR6及びR8はそれぞれ、水素、メチル、エチル、プロピル、ベンジル又はフェニルである、請求項1の組成物。
【請求項3】
前記第1のブロックコポリマーが以下の構造を有する請求項1の組成物。
【化3】

【請求項4】
前記生体有益性ポリマーが、化学結合を介して前記第1のブロックコポリマーに共有結合する請求項1の組成物。
【請求項5】
前記生体有益性ポリマーが、式IIIの構造のフェニル環に共有結合する請求項3の組成物。
【請求項6】
前記生体有益性ポリマーが、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)、プルロニック(商標)界面活性剤、ポリ(テトラメチレングリコール)、ヒドロキシ官能性ポリ(ビニルピロリドン)、デキストラン、デキストリン、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸、ヘパリン、エラスチン、キトサン、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、スルホン化ポリ(スチレン)、ポリ(3−ヒドロキシプロピルメタクリルアミド)、4−アミノ−2,2’,6,6’−テトラピペリジンオキシド、安定ニトロキシド、スーパーオキシドジスムターゼ模倣体、フリーラジカルスカベンジャー及びこれらの組み合わせから成る群から選択される請求項5の組成物。
【請求項7】
前記抱合体が式IVの構造を有する請求項6の組成物。
【化4】

【請求項8】
前記抱合体が式Vの構造を有する請求項6の組成物。
【化5】

【請求項9】
前記第1のブロックコポリマーと混和性の前記第2のブロックコポリマーの前記成分が疎水性の材料である請求項1の組成物。
【請求項10】
前記第2のブロックコポリマーが、ポリスチレン−ポリイソブチレン−ポリスチレンブロックコポリマー(SIS)、ポリスチレン、ポリイソブチレン、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(L−ラクチド)、ポリ(D,L−ラクチド)、ポリ(ラクチド)、ポリ(ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(グリコリド)、ポリ乳酸(PLA)、ポリアルキレン、ポリフルオロアルキレン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(4−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシバレレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシバレレート)、ポリ(3−ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(4−ヒドロキシヘキサノエート)、中鎖ポリヒドロキシアルカノエート、ポリ(炭酸トリメチレン)、ポリ(オルソエステル)、ポリホスファゼン、ポリ(ホスホエステル)、ポリ(チロシン由来のアリレート)、ポリ(チロシン由来のカーボネート)及びこれらの組み合わせから成る群から選択される請求項1の組成物。
【請求項11】
前記水不溶性の成分が、ポリジメチルオキサノン(PDMS)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ポリジメチルシロキサン、ポリ(フッ化ビニリデン−co−ヘキサフルオロプロピレン)(PVDF−HFP)、ポリ(フッ化ビニリデン−co−クロロトリフルオロエチレン)(PVDF−CTFE)、ポリ(ブチルメタクリレート)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(メタクリレート)、ポリ(酢酸ビニル)、ポリ(エチレン−co−酢酸ビニル)、ポリ(エチレン−co−ビニルアルコール)、ポリ(エステルウレタン)、ポリ(エーテルウレタン)、ポリ(カーボネートウレタン)、ポリ(シリコーンウレタン)、ポリ(尿素ウレタン)、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される請求項1の組成物。
【請求項12】
前記第2のブロックコポリマーの前記生体有益性成分が、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)、プルロニック(商標)界面活性剤、ポリ(テトラメチレングリコール)、ヒドロキシ官能性ポリ(ビニルピロリドン)、デキストラン、デキストリン、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸、ヘパリン、エラスチン、キトサン、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、スルホン化ポリ(スチレン)、ポリ(3−ヒドロキシプロピルメタクリルアミド)、4−アミノ−2,2’,6,6’−テトラピペリジンオキシド、安定ニトロキシド、スーパーオキシドジスムターゼ模倣体、フリーラジカルスカベンジャー及びこれらの組み合わせから成る群から選択される請求項1の組成物。
【請求項13】
前記第2のブロックコポリマーが、SIS−PEG、ポリスチレン−PEG、ポリイソブチレン−PEG、PCL−PEG、PLA−PEG、PDMS−PEG、PVDF−PEG、SIS−ヒアルロン酸(HA)、ポリスチレン−HA、ポリイソブチレン−HA、PCL−HA、PLA−HA、PMMA−HA、PVDF−HA、SIS−ヘパリン、ポリスチレン−ヘパリン、ポリイソブチレン−ヘパリン、PCL−ヘパリン、PLA−ヘパリン、PMMA−ヘパリン、及びPVDF−ヘパリンから成る群から選択される請求項1の組成物。
【請求項14】
さらに生体活性剤を含む請求項1〜13のいずれかの組成物。
【請求項15】
前記生体活性剤が、タンパク質、ペプチド、抗炎症剤、抗ウイルス剤、抗癌剤、抗凝固剤、フリーラジカルスカベンジャー、エベロリムス、シロリムス、シロリムス誘導体、パクリタキセル、エストラジオール、ステロイド性抗炎症剤、抗生剤、一酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ模倣体、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノ−TEMPO)、タクロリムス、デキサメタゾン、ラパマイシン、40−O−(3−ヒドロキシ)−プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシン及び40−O−テトラゾール−ラパマイシン、ABT−578、クロベタゾール、細胞分裂抑制剤並びにこれらの組み合わせから成る群から選択される請求項14の組成物。
【請求項16】
前記フリーラジカルスカベンジャーがスーパーオキシドジスムターゼである請求項15の組成物。
【請求項17】
前記生体活性剤が、再狭窄の治療のための治療剤である請求項15の組成物。
【請求項18】
請求項1〜13のいずれかに従って定義されるような組成物を含むコーティングを有する埋め込み型用具。
【請求項19】
さらに生体活性剤を含む請求項18の埋め込み型用具。
【請求項20】
前記生体活性剤が、タンパク質、ペプチド、抗炎症剤、抗ウイルス剤、抗癌作用剤、抗凝固剤、フリーラジカルスカベンジャー、エベロリムス、シロリムス、シロリムス誘導体、パクリタキセル、エストラジオール、ステロイド性抗炎症剤、抗生剤、一酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ模倣体、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノ−TEMPO)、タクロリムス、デキサメタゾン、ラパマイシン、40−O−(3−ヒドロキシ)−プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシン及び40−O−テトラゾール−ラパマイシン、ABT−578、クロベタゾール、細胞分裂抑制剤並びにこれらの組み合わせから成る群から選択される請求項18の埋め込み型用具。
【請求項21】
前記フリーラジカルスカベンジャーがスーパーオキシドジスムターゼである請求項19の埋め込み型用具。
【請求項22】
前記生体活性剤が、治療剤である請求項19の埋め込み型用具。
【請求項23】
ステントである請求項18の埋め込み型用具。
【請求項24】
DESである請求項19の埋め込み型用具。
【請求項25】
DESである請求項20の埋め込み型用具。
【請求項26】
DESである請求項21の埋め込み型用具。
【請求項27】
DESである請求項22の埋め込み型用具。
【請求項28】
請求項1で定義される組成物でコートすることを含む埋め込み型用具をコートする方法。
【請求項29】
前記組成物がさらに生体活性剤を含む請求項28の方法。
【請求項30】
請求項18の埋め込み型用具を動物に埋め込むことによって動物における障害を治療する方法。
【請求項31】
前記埋め込み型用具がステントである請求項30の方法。
【請求項32】
前記組成物がさらに生体活性剤を含む請求項30の方法。
【請求項33】
前記生体活性剤が、タンパク質、ペプチド、抗炎症剤、抗ウイルス剤、抗癌作用剤、抗凝固剤、フリーラジカルスカベンジャー、エベロリムス、シロリムス、シロリムス誘導体、パクリタキセル、エストラジオール、ステロイド性抗炎症剤、抗生剤、一酸化窒素供与体、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ模倣体、4−アミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(4−アミノ−TEMPO)、タクロリムス、デキサメタゾン、ラパマイシン、40−O−(3−ヒドロキシ)−プロピル−ラパマイシン、40−O−[2−(2−ヒドロキシ)エトキシ]エチル−ラパマイシン及び40−O−テトラゾール−ラパマイシン、ABT−578、クロベタゾール、細胞分裂抑制剤並びにこれらの組み合わせから成る群から選択される請求項32の方法。
【請求項34】
前記フリーラジカルスカベンジャーがスーパーオキシドジスムターゼである請求項33の方法。
【請求項35】
前記生体活性剤が、治療剤である請求項32の方法。
【請求項36】
前記埋め込み型用具がステントである請求項28の方法。
【請求項37】
DESである請求項32の方法。
【請求項38】
DESである請求項33の方法。
【請求項39】
DESである請求項34の方法。
【請求項40】
DESである請求項35の方法。
【請求項41】
前記動物がヒトであり、障害が、動脈脈管構造の狭窄、閉塞、及び不安定プラークから成る群から選択される請求項28の方法。
【請求項42】
前記動物がヒトであり、障害が、動脈脈管構造の狭窄、閉塞、及び不安定プラークから成る群から選択される請求項29の方法。
【請求項43】
前記動物がヒトであり、障害が、動脈脈管構造の狭窄、閉塞、及び不安定プラークから成る群から選択される請求項30の方法。
【請求項44】
前記動物がヒトであり、障害が、動脈脈管構造の狭窄、閉塞、及び不安定プラークから成る群から選択される請求項31の方法。
【請求項45】
前記動物がヒトであり、障害が、動脈脈管構造の狭窄、閉塞、及び不安定プラークから成る群から選択される請求項32の方法。
【請求項46】
前記動物がヒトであり、障害が、動脈脈管構造の狭窄、閉塞、及び不安定プラークから成る群から選択される請求項33の方法。
【請求項47】
前記動物がヒトであり、障害が、動脈脈管構造の狭窄、閉塞、及び不安定プラークから成る群から選択される請求項34の方法。
【請求項48】
前記動物がヒトであり、障害が、動脈脈管構造の狭窄、閉塞、及び不安定プラークから成る群から選択される請求項36の方法。
【請求項49】
前記動物がヒトであり、障害が、動脈脈管構造の狭窄、閉塞、及び不安定プラークから成る群から選択される請求項37の方法。
【請求項50】
前記動物がヒトであり、障害が、動脈脈管構造の狭窄、閉塞、及び不安定プラークから成る群から選択される請求項38の方法。
【請求項51】
前記動物がヒトであり、障害が、動脈脈管構造の狭窄、閉塞、及び不安定プラークから成る群から選択される請求項39の方法。
【請求項52】
前記動物がヒトであり、障害が、動脈脈管構造の狭窄、閉塞、及び不安定プラークから成る群から選択される請求項40の方法。
【請求項53】
前記動物がヒトであり、障害が、動脈脈管構造の狭窄、閉塞、及び不安定プラークから成る群から選択される請求項41の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−520260(P2007−520260A)
【公表日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−541610(P2006−541610)
【出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【国際出願番号】PCT/US2004/039163
【国際公開番号】WO2005/053571
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【出願人】(504183388)アドヴァンスド カーディオヴァスキュラー システムズ, インコーポレイテッド (40)
【Fターム(参考)】