説明

生物観察容器並びにこれを用いる生物顕微鏡及び生物観察装置

【課題】 オートフォーカス動作を容易にして、画像を確実に取得することのできるウェルプレート、生物顕微鏡及び生物観察装置を提供する
【解決手段】 容器内部に載置された試料が底面62を介して生物顕微鏡により観察される生物観察容器60において、前記底面62の表面63に反射防止膜65が形成されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェルプレート等の生物観察容器並びに生物観察容器内の試料からの蛍光信号に基づいて観察を行う生物顕微鏡及び生物観察装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図3は創薬装置等で用いられる従来のウェルプレートを示す、(A)は平面図、(B)は一部切欠き断面側面図である。ウェルプレート6はそれぞれに試料(観測対象)が注入される複数のウェル61及び、光学ガラスからなる底面62から構成される。
【0003】
創薬のハイコンテンツ・スクリーニング(HCS)装置では、予め培養した細胞を培養液と共にウェルプレート6にあるウェル61に適切な数で分注し、ウェル61毎に異なる濃度、量又は種類の試薬を滴下して、テスト試料を用意しておく。次に、これらの試料に光を照射して励起し、励起された試料から出る蛍光像を、顕微鏡システムを介してカメラで取り込む。その際、全てのウェル61から蛍光画像を取得するため、XYステージでウェルプレートを移動する。カメラで取得した画像に対して画像処理を行い、その結果に基づいて薬の候補になる試料を見出す。画像の画質を高めるため、顕微鏡とカメラの間に共焦点スキャナが設置される。
【0004】
顕微鏡の対物レンズは、試料のカバーガラスの厚さ0.17mmを考慮して、収差をなくすように設計しているため、高画質の画像を得るには、ウェルプレート6の底面にt0.17mmのガラスを使用したものが最もよい。
【0005】
一般的に、ウェルプレート6の底面62は完全な平面ではなく、歪みを持つ。また、底面62の材料(ガラス)の厚さにもばらつきが存在する。このような底面厚の不均一さによって、個々のウェル61にある試料と顕微鏡の対物レンズとの距離が同じでなくなり、ウェルによっては画像を取得できないものがでてくる。画像を確実に取得するため、創薬装置では、顕微鏡の対物レンズにオートフォーカス機能を持たせ、ウェルプレート底面の歪みに合わせて対物レンズの焦点位置を調整する。
【0006】
図4は上記のような創薬スクリーニング装置において使用される生物顕微鏡の従来例を示すブロック図である。図4に示すように、本実施形態の生物顕微鏡は、観察光学系10および焦点誤差検出光学系20を含んで構成される光学系1と、対物レンズ11の位置を制御するための制御回路3と、観察光学系の焦点位置を調整する焦点調整手段としての焦点調整部4と、を備える。
【0007】
光学系1は、試料5の近傍に配置される対物レンズ11と、試料5側からの光を観察光および焦点誤差検出光に分離する分離手段としてのダイクロイックミラー12と、ダイクロイックミラー12を透過した観察光を受け付ける観察部13と、観察部13への焦点誤差検出光の入射を防止するためのフィルタ14と、焦点誤差検出用光源としてのレーザダイオード21と、レーザダイオード21から照射された焦点誤差検出光を試料5に向けて通過させるレンズ群22と、焦点誤差検出光の一部を折り曲げるハーフミラー23と、試料5で反射されハーフミラー23で折り曲げられた焦点誤差検出光を反射させるミラー24と、焦点誤差検出光を受光する焦点誤差信号生成手段としての4分割フォトダイオード25と、4分割フォトダイオード25に入射する焦点誤差検出光のビーム形状を所定形状に成形するコリメータレンズ26およびシリンドリカルレンズ27と、ダイクロイックミラー12で折り曲げられた観察光を遮断するためのフィルタ28と、を備える。
【0008】
図4に示すように、対物レンズ11は、アクチュエータ16によりZ方向(光軸方向)に移動可能とされている。アクチュエータ16は制御回路3により制御される。
【0009】
次に、本実施形態の生物顕微鏡の動作について説明する。
【0010】
試料5からの観察光は、対物レンズ11、ダイクロイックミラー12、フィルタ14を介して観察部13に入射し、観察部13において試料5の観察像が得られる。これら、対物レンズ11、ダイクロイックミラー12、フィルタ14および観察部13は、観察光学系10を構成する。
【0011】
一方、レーザダイオード21から照射された焦点誤差検出光は、レンズ群22、ハーフミラー23、フィルタ28を通ってダイクロイックミラー12により折り曲げられ、対物レンズ11を介して試料5に照射される。試料5で反射された焦点誤差検出光は、対物レンズ11を介してダイクロイックミラー12に戻り、ここで折り曲げられてフィルタ28に入射する。フィルタ28を通過した焦点誤差検出光は、ハーフミラー23、ミラー24で折り返され、コリメータレンズ26およびシリンドリカルレンズ27を通過する。コリメータレンズ26およびシリンドリカルレンズ27を通過した焦点誤差検出光は、4分割フォトダイオード25で受光される。
【0012】
これら、レンズ群22、ハーフミラー23、フィルタ28、ダイクロイックミラー12、対物レンズ11、ミラー24、4分割フォトダイオード25、コリメータレンズ26およびシリンドリカルレンズ27は、焦点誤差検出光学系20を構成する。
【0013】
焦点誤差検出光学系20に設けられたフィルタ28は、ダイクロイックミラー12により除去されきれなかった試料5の側からの観察光を遮断する。本実施形態では、フィルタ28において観察光を遮断し、フィルタ28を経由した焦点誤差検出光のみが4分割フォトダイオード25に入射する。このため、4分割フォトダイオード25において、観察光の影響を受けない正確な焦点誤差検出信号を生成することができる。また、観察光の影響を排除することで、焦点誤差検出の感度を向上させることができるので、試料5に照射する焦点誤差検出光の光量を低下させることができ、試料5が生細胞である場合などに、試料5への悪影響を防止できる。
【0014】
コリメータレンズ26及びシリンドリカルレンズ27は、光軸(z軸)と直交し、かつ互いに直交する2方向(x方向、y方向)について焦点距離を異ならせ、4分割フォトダイオード25の受光量に基づく、非点収差法を用いた焦点誤差検出が可能となる。後述のように、焦点誤差検出光学系20および制御回路3等は合焦手段として機能する。
【0015】
図5は、4分割フォトダイオード25に照射される焦点誤差検出光の投影形状を示しており、図5(A)は合焦時の形状、図5(B)は焦点が遠い場合の形状、図5(C)は焦点が近い場合の形状を、それぞれ示している。フォトダイオード25の領域25aの出力レベルを「A」、領域25bの出力レベルを「B」、領域25cの出力レベルを「C」、領域25dの出力レベルを「D」とすると、「(A+C)−(B+D)」を演算することで、焦点誤差(フォーカスエラー)検出信号を得ることができる。いわゆる焦点誤差検出信号のS字カーブにおいて、信号強度が「0」の点で合焦状態が得られる。4分割フォトダイオード25から出力された焦点誤差検出信号は、焦点調整部4を介して制御回路3に与えられる。なお、非点収差法による焦点誤差検出は周知の技術であるため、詳細説明は省略する。
【0016】
顕微鏡のオートフォーカス技術に関連する先行技術文献としては次のようなものがある。
【0017】
【特許文献1】特開平5−88072号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
図6に示すように、上記の装置では、ウェル61の底面ガラス62の裏面64と培養液51(ほぼ水である)との境界面での屈折率の差による光の反射を利用して、ウェルの底(裏面64)を検出し、これを基準として対物レンズ11の焦点位置を一定に制御する。
【0019】
しかしながら、従来のウェルプレート6では、ウェル61の底面ガラス62の表面63からも、オートフォーカス用の焦点誤差検出光101が反射され(表面反射光102)、しかもその強度が裏面の反射光103より10倍強い。このため、図7の焦点誤差検出信号チャートに示すように、表面反射信号201により、必要な信号である裏面反射信号202のSN比が悪くなり、結果としてオートフォーカス動作が困難になるという問題がある。
【0020】
これは、光は屈折率の差によって反射の度合いが異なり、ガラスと空気の境界では入射光に対して約4%、ガラスと水の境界では約0.4%の反射が発生し、図7のオートフォーカス動作では、後者である0.4%の反射光を検出してウェルの底、即ちガラスの裏面を検出することになるためである。
【0021】
本発明はこのような課題を解決しようとするもので、顕微鏡によるオートフォーカス動作を容易にして、画像を確実に取得することのできるウェルプレート、生物顕微鏡及び生物観察装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
容器内の試料が底面を介して観察される生物観察容器において、
前記底面の表面に反射防止膜が形成されたことを特徴とする。
【0023】
請求項2記載の発明に係る生物顕微鏡は、
焦点誤差信号に基づいて請求項1記載の生物観察容器底面の裏面を基準とする合焦位置に対物レンズの焦点位置を調節することを特徴とする。
【0024】
請求項3記載の発明に係る生物観察装置は、
前記生物観察容器内の前記試料から出る蛍光像を、請求項2記載の生物顕微鏡を介してカメラで撮像した画像に基づいて画像処理を行うことを特徴とする。
【0025】
請求項4記載の発明は、
請求項1記載の生物観察容器において、
ウェルプレートを生物観察容器とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したことから明らかなように、本発明によれば、容器内の試料が底面を介して観察される生物観察容器において、前記底面の表面に反射防止膜が形成されたことにより、オートフォーカス動作を容易にして、画像を確実に取得することのできる生物観察容器、生物顕微鏡及び生物観察装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下本発明について図面を用いて詳細に説明する。
図1は本発明に係るウェルプレートの第1の実施例を示す(A)は平面図、(B)は一部切欠き断面側面図である。図3と同一の箇所は同じ記号を付して重複した説明は省略する。ウェルプレート60は容器内の試料が底面を介して観察される生物観察容器を構成する。図1のウェルプレート60が図3と異なるのは、反射防止膜65を、ウェルプレート60の底面62を構成する光学ガラスの表面63にコーティングした点である。
【0028】
図1のウェルプレートの作用を以下に示す。図1において、底面ガラス62の表面63に反射防止膜65をコーディングすることによって、表面63の反射率は、従来の4%に対し1%以下に抑えられる。その結果、図2の焦点誤差検出信号チャートに示すように、表面63の反射(信号203)が裏面64の反射(信号204)に影響を与えないようにすることができる。
【0029】
上記のような構成のウェルプレートによれば、ウェルプレートの底面ガラスの表面に反射防止膜をコーティングすることにより、オートフォーカス用の焦点誤差検出光の表面反射を抑えるので、ウェルの底(底面ガラスの裏面)を精度よく検出することができ、試料の画像を確実に取得することができる。
【0030】
なお、反射防止膜の形成は、塗布、蒸着、吹きつけその他任意の方法を用いることができる。
【0031】
また、反射防止膜を形成する対象はウェルプレートに限られず、カバーガラスやガラスボトムディッシュなど、生物顕微鏡により底面を介して観察が行われる生物観察用容器のすべてに適用することができる。
【0032】
また、図4に例示したような生物顕微鏡のウェルプレート6の代わりに図1のウェルプレート60を用いることにより、オートフォーカス動作が容易で、試料の画像を確実に取得することができる生物顕微鏡を提供することができる。
【0033】
さらに、そのような生物顕微鏡によって得られた蛍光像を共焦点スキャナによってSN比の高い画質の画像に高め、これをカメラで撮像した後、画像処理装置で画像処理を行うことにより、オートフォーカス動作が容易で、画像を確実に取得することができる生物観察装置を提供することができる。画像処理の結果に基づいて薬の候補になる試料を見出すこと(創薬スクリーニングという)により同様の長所を持つ創薬スクリーニング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係るウェルプレートの第1の実施例を示す(A)は平面図、(B)は一部切欠き断面側面図である。
【図2】図1のウェルプレートの焦点誤差検出信号を示すチャートである。
【図3】従来のウェルプレートを示す、(A)は平面図、(B)は一部切欠き断面側面図である。
【図4】従来の生物顕微鏡の例を示すブロック図である。
【図5】従来装置における焦点誤差検出光の投影形状を示す図である。
【図6】従来装置におけるウェルプレート底面ガラス62の反射光を示す説明図である。
【図7】従来装置における焦点誤差検出信号を示すチャートである。
【符号の説明】
【0035】
60 生物観察容器
65 反射防止膜
62 底面
63 表面
64 裏面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内の試料が底面を介して観察される生物観察容器において、
前記底面の表面に反射防止膜が形成された
ことを特徴とする生物観察容器。
【請求項2】
焦点誤差信号に基づいて請求項3記載の生物観察容器底面の裏面を基準とする合焦位置に対物レンズの焦点位置を調節する
ことを特徴とする生物顕微鏡。
【請求項3】
前記生物観察容器内の前記試料から出る蛍光像を、請求項2記載の生物顕微鏡を介してカメラで撮像した画像に基づいて画像処理を行う
ことを特徴とする生物観察装置。
【請求項4】
ウェルプレートを生物観察容器とすることを特徴とする請求項1記載の生物観察容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−267842(P2008−267842A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−107679(P2007−107679)
【出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】