説明

生理活性薬剤コーティング及び生分解性鞘を含む複合血管移植片

複合血管移植片(10)は、移植片を血管系の植込み部位に導入する間及びその後に治療的物質を送達し、及び/又は細菌の増殖を阻害又は低減するために生理活性薬剤を組み込んでいる。複合血管移植片は、多孔性管状移植片部材(12)を含む。少なくとも1つの生理活性薬剤(16)を含む1以上の生分解性の生理活性薬剤コーティング層(14)が、移植片部材の上に置かれる。コーティング層の上には、生分解性鞘(18)が置かれる。鞘は、可撓性管状移植片部材よりも大きい剛性を有し、コーティング層を露出するために生分解性であり、それによって管状移植片部材の可撓性を回復する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(技術分野)
本発明は、生体内でのその使用中に細菌の増殖を阻害又は低減する植込み可能な医療装置に関する。より詳細には、本発明は、移植片を体内の植込み部位に導入する間及びその後に治療的物質を送達し、及び/又は細菌の増殖を阻害又は低減する生理活性薬剤を組み込んだ複合血管移植片に関する。
【0002】
(背景技術)
病変又は損傷血管を修復又は置換するために、医療技術では、植込み可能な血管移植片を用いることが公知である。これらの血管移植片は、一般的にポリマー管状構造であり、外科的処置の間に植え込むことができ、又は経皮的処置で内腔を通して植え込むことができる。
このような血管移植片を用いる医学的処置では、異物を患者の血管系に導入する。従って、このような処置では、常に感染の危険性に対処すべきである。
【0003】
血管移植片感染は、処置の約1%〜6%に起こると報告されている。更に重要なことには、血管移植片感染症は、25%〜75%の高死亡率を伴う。更に、血管移植片感染の罹患率は、40%〜75%の範囲である。更に、血管移植片により引き起こされる感染症により、入院期間が延び、従って、医療ケアの費用が大幅に増大することも公知である。
血管移植片感染症の危険率には多くの因子が寄与している。このような因子には、外科医及び手術室スタッフの熟練度が含まれる。患者の年齢及び患者の免疫が損なわれている程度も、血管移植片挿入に関する大きな危険因子である。血管移植片感染症の危険率に関連する他のよく見られる因子には、患者の皮膚の無菌性、並びに埋め込まれる材料が含まれる。
【0004】
多くの植込み装置に対する感染の機構は、手術中の局所的な細菌の汚染が原因であることが見出されている。装置上の細菌は、コロニー形成中に細胞外粘液マトリックス/バイオフィルムを生成し、これがポリマー表面を被覆する。このバイオフィルムは、患者の防御機構に対して細菌を保護するものである。バイオフィルム層はまた、抗生物質の浸透も低減させる。
最も良く見られる感染病原体は、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、及び表皮ブドウ球菌である。これらの病原体は、全ての報告された血管感染症の75%を超える割合で同定されている。黄色ブドウ球菌及び緑膿菌の両方は、高い病原性を示し、術後早期(4ヶ月未満)に感染の臨床的徴候を引き起こす可能性がある。この病原性は、敗血症を引き起こし、高死亡率の主要因子の1つになる。表皮ブドウ球菌は、細菌の低病原性型として説明される。それは、遅発性であり、これは、術後5年まで感染の臨床徴候が存在する可能性があることを意味する。この種類の細菌は、全ての血管移植片感染症の60%までの原因であることが示されている。この種類の感染症は、総移植片切除、周囲組織の病巣清掃、及び非感染性経路を通る血管再生を必要とすることが多い。
【0005】
このような高病原性生物体は、通常は、植込み時に導入される。例えば、ブドウ球菌株(黄色ブドウ球菌を含む)の一部は、移植片の植込み後に見られる最初の堆積物中のフィブリノーゲン分子のような組織リガンドのための受容器を有する。この組織リガンド結合により、細菌が宿主の免疫防御、並びに全身性抗生物質から遮蔽される方法がもたらされる。次に、細菌は多糖類の形態のポリマーを生成し、前記ポリマーが移植片の外面上で上述のような粘液層となり得る。この保護環境では、細菌の繁殖が起こり、バイオフィルム内に周囲組織に細胞を脱落させる可能性があるコロニーを形成する(Calligaro,K.及びVeith,Frank、「手術」、1991年、第110巻、第5号、805〜811頁)。感染はまた、切除リンパ管から生じることも、動脈内血栓から生じることもあり、又は動脈壁内に存在することもある。
【0006】
血管移植片感染症の結果、重篤な合併症が存在する。例えば、病原性の高い生物体が生成するタンパク質分解酵素による吻合分裂により、吻合に隣接する動脈壁の変性をもたらす可能性がある。それにより、偽動脈瘤が引き起こされる可能性があり、これが破裂して血行動態が不安定になる可能性がある。血管移植片感染症の更に別の合併症は、末梢止血塞栓症とすることができ、それにより、四肢の喪失、又は大動脈消化管瘻が起こる可能性があり、これは、感染して消化管出血を引き起こす移植片からの漏出の結果である(Greisler,H.著「感染血管移植片」、イリノイ州メイウッド、33〜36頁)。
【0007】
望ましくは、植込み時にどの細菌も移植片又は移植片を囲む近接する領域に付着しないようにすることが有益であろう。更に、正常組織がトンネル内に内殖するように助長し、植込み片自体がバイオフィルムを形成しないように保護することにより、上述の初期細菌バイオフィルム形成を防ぐことが望ましいであろう。
抗菌剤を医療装置に組み込むことは公知である。例えば、従来技術は、ePTFE血管移植片を開示しており、その細隙の相当な割合には、生物医学的ポリウレタン、生分解性ポリマーであるポリ(乳酸)、及び抗菌剤、酢酸クロルヘキシジン、及びピプラシルを含むコーティング組成物を含有している。従来技術は、更に、スルファジアジン銀及び酢酸クロルヘキシジン及びポリ(乳酸)を含む組成物を含浸させたePTFEヘルニアパッチを説明している。
【0008】
更に、薬物を含有して上に重なる生分解性コーティング層を有するステント又は人工血管を開示する従来技術が公知である。コーティング層は、抗凝固剤、並びに任意的に抗生物質のような他の添加物を含むように開示されている。
更に別の従来技術は、抗菌剤が植込み片の露出表面を透過し、植込み片の材料中に含浸される医療用植込み片を説明している。医療用植込み片は、血管移植片とすることができ、植込み片の材料は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とすることができる。抗菌剤は、抗生物質、消毒剤、及び殺菌剤から選択される。
【0009】
更に、多孔性ポリマー材料の孔隙を不溶性で生体適合性の生分解性材料で充填する前に、消毒剤として公知の銀を銀イオン補助ビーム蒸着により多孔性ポリマー基体の表面上に堆積させることができることを開示する従来技術がある。この従来技術は、抗菌剤をポリマー基体の孔隙に組み込むことができることを更に開示している。基体は、ePTFEの多孔性血管移植片とすることができる。
また、塩化銀原末が分配された親水性ポリマーを含む抗感染性医療用物品が提供されることも公知である。親水性ポリマーは、ベースポリマーを覆う積層体とすることができる。好ましい親水性ポリマーは、溶融加工可能ポリウレタンであると開示されている。医療用物品は、血管移植片とすることができる。この移植片の不利な点は、天然抗血栓性を有することが公知であるePTFEで形成されていないことである。更に別の不利な点は、銀塩が分配された親水性ポリウレタンマトリックスが、それ自体では移植片の植込み部位で周囲の体液及び組織内への銀の放出を制御しないことである。
【0010】
更に、ステント構造、ステント構造の1つの表面上に置かれた生理活性物質の層、及び生理活性物質層の上に置かれた生理活性物質を制御放出するための多孔性ポリマー層を含むことができる植込み可能な医療装置を説明する従来技術がある。多孔性ポリマー層の厚みは、この制御放出をもたらすようなものであると説明されている。この医療装置は、更に、ステント構造と生理活性物質層の間に別のポリマーコーティング層を含むことができる。このポリマーコーティング層は、好ましくは、多孔性ポリマー層と同じポリマーで形成されるように開示されている。銀は、ステントベース金属として又はステントベース金属上のコーティングとして含めることができる。あるいは、銀は、生理活性層内に存在することができ、又は多孔性ポリマー層の表面マトリックス上に置かれるか又は含浸することができる。ポリテトラフルオロエチレンのポリマー及び生体吸収性ポリマーを用いることができる。この装置の不利な点は、それがトンネル内の急速な組織内殖を達成して初期細菌バイオフィルム形成を阻止するように設計されていないことである。
【0011】
更に別の従来技術は、互いに横切って置かれて繊維間の孔隙を形成する繊維で形成された多孔性抗菌性布で作られた抗菌性血管移植片を説明している。この繊維は、ePTFEとすることができる。セラミック粒子は、布材料に結合され、粒子は、銀イオンとすることができる抗菌性金属陽イオンを含む。セラミック粒子は、外部に露出し、生分解性ポリマーとすることができるポリマーコーティング材料により移植片に結合することができる。この装置の不利な点は、生分解性コーティング層が、植込み中に外側移植片層に対して充分な剛性をもたらさないことである。
【0012】
付加的な抗菌性血管移植片が必要とされている。特に、植込み時に移植片の生分解性材料から制御可能に放出され、感染を抑制してバイオフィルムの形成を防ぐことができる抗菌剤及び任意的に他の治療的又は診断薬を組み込んだ多層血管移植片が必要とされている。また、このような移植に対して片組織に接触する外側層に充分な剛性を提供し、血液と内腔層の移植片周囲組織との間に良好な細胞性情報交換を提供することも望ましいと考えられる。
【0013】
(発明の概要)
本発明は、生理活性薬剤を組み込んだ複合血管移植片を提供する。複合血管移植片は、可撓性且つ多孔性の管状移植片部材を含み、前記管状移植片部材はePTFE管及び/又は織物(textile)であってもよい。多孔性管状移植片部材は、1以上の生分解性の生理活性薬剤コーティング層で覆うことができる。望ましくは、生理活性薬剤コーティング層は、抗菌剤を含む。複合血管移植片は、更に、1以上の生理活性薬剤コーティング層の上に置かれた生分解性鞘を含む。鞘の剛性は、可撓性管状移植片部材よりも大きく、管状移植片部材の可撓性を回復するために、生理活性薬剤コーティング層を露出するように生分解性である。生分解性鞘は、任意に、抗菌剤のような生理活性薬剤を含んでいてもよい。
【0014】
本発明はまた、生理活性薬剤を組み込んだ複合血管移植片を形成する方法を提供する。その方法は、多孔性且つ可撓性の管状移植片部材を準備する工程と、少なくとも1つの生理活性薬剤を組み込んだ生分解性コーティング材料を前記管状移植片部材に施し、1以上の、被って位置する(overlying)生分解性の生理活性薬剤コーティング層を形成する工程とを含むことができる。生分解性鞘は、任意で生理活性薬剤を含んでいてもよく、次に、管状移植片部材を被って位置する1以上の生理活性薬剤コーティング層の上に置かれる。
【0015】
(本発明の詳細な説明)
本発明の好ましい態様では、植込み可能な複合装置は、多層管状構造であり、これは、血管移植片として用いるのに特に適している。この人工器官は、織物及び/又はePTFEで作られる少なくとも1つの多孔性且つ可撓性の管状移植片部材を含むことが好ましい。更に、前記人工器官は、移植片部材の上に置かれ、それに付随する抗菌剤の植込み部位への送達を調節するように設計された1以上の生分解性コーティング層を含むことが好ましい。更に、前記人工器官は、移植片部材を被って位置する1以上のコーティング層の上に置かれた生分解性鞘も含む。
【0016】
図1Aは、本発明の血管移植片10を示している。上述のように、本発明は、複合構造を有する管状移植片の好ましい態様を取り上げている。図1に示す層は、複合構造を形成する管状部材を表している。しかし、本発明では、他の植込み可能な多層人工器官構造、例えば、血管パッチ、血液フィルタ、ステントのような植込み可能な装置のフィルムラップ、ヘルニア修復布及びプラグ、並びに、このような構造を用いることができる他の装置も意図していると理解することができる。図1Aに示すように、本発明の複合装置10は、管状で可撓性の血管移植片部材12を含み、これは、多孔性であって織物及び/又はePTFEで作られる。生分解性の生理活性薬剤コーティング層14は、前記移植片部材12を覆っている。生分解性コーティング層14は、それを通じてコーティング層14に付随する生理活性薬剤16の制御送達を可能にする。これらの生理活性薬剤16は、以下でより詳細に説明するように、生理活性薬剤コーティング層14のバルク全体に実質的に均一に分布することが好ましい。生理活性薬剤16は、抗菌剤を含むことが望ましい。本発明の装置10は、可撓性の移植片部材12よりも大きな剛性を有する生分解性鞘18を更に含む。植込み後、鞘18は、血液及び/又は他の生理的流体に露出されて生分解する。この鞘18の生分解により、移植片の剛性が減少し、よって管状移植片部材12の可撓性が回復される。一度鞘が分解すると、生理活性薬剤コーティング層14が露出する。望ましくは、抗菌剤が、コーティング層14の上に置かれるか又はその中に組み込まれ、植込み後の感染を低減する。鞘18は、以下でより詳細に説明するように、管状形態として移植片部材12の上に配置することができ、又はシート状形態として管状移植片部材12の周りを包むことができる。生分解性鞘18の性質は、可撓性があって僅かに弾性があり、血管移植片12の上に置かれるか又はその周りを包むことができるのが望ましい。
【0017】
ここで、図1Bを参照すると、本発明の1つの観点では、生理活性薬剤コーティングが、14a及び14bのような複数のコーティング層で移植片部材12に施される。コーティング層14a及び14bが、同じか又は異なる生理活性薬剤16を含み得ることは本発明の意図に完全に含まれる。例えば、図1Bの態様に示すように、コーティング層14a内の生理活性薬剤16aは抗生物質であり、一方コーティング層14b内の生理活性薬剤16bは消毒剤である。長期間の抗感染効果を得るために、これらの複数のコーティング層を移植片部材12に施すことができるのを理解することができる。生理活性薬剤コーティング層14aは、生理活性薬剤コーティング層14bが生分解された後に露出する。望ましくは、生理活性薬剤コーティング層は、生分解性であって生体再吸収可能である。
【0018】
今度は図2を参照すると、本発明の別の観点では、生分解性鞘18は、1以上の生理活性薬剤も含む。望ましい態様では、生分解性鞘内の生理活性薬剤は、少なくとも1つの抗菌剤を含み、植込みすると直ぐに生分解性鞘から抗菌剤が制御可能に放出され、植込み後の感染を低減させる。一度鞘が生分解し、望ましくは再吸収されると、長期間の抗感染効果が得られるように、1以上の生理活性薬剤コーティング層14が露出される。
【0019】
今度は図3を参照すると、本発明の複合管状移植片の好ましい態様が示され、この場合、図1Aに示す層は、複合構造を形成する図3の管状部材を表している。装置20には、内側の可撓性且つ多孔性の管状移植片部材22と、前記管状移植片部材の上に同軸に置かれた中間コーティング層24とが含まれる。中間層24には、生理活性薬剤26が含まれ、前記薬剤は、層24の生分解性マトリックスのバルク全体に実質的に均一に分布することが好ましい。外側の管状生分解性鞘部材28は、生分解性の生理活性コーティング層24の上に同軸に置かれる。以下でより詳細に説明するように、多孔性且つ可撓性の管状移植片部材22は、ePTFE管及び/又は織物とすることができる。中心内腔29は、内腔管22の内壁22aにより更に規定される管状複合移植片20を貫通して延び、一度移植片が血管系に適切に移植されると、移植片20を通って血液の通過が可能になる。
【0020】
本発明の移植片の管状部材の間にステントを配置できることは、本発明の意図に充分に含まれる。図4を参照すると、本発明のステント/移植片複合装置30が示されている。装置30は、この図ではePTFE管状部材として描かれている、内側の多孔性管状移植片部材22を含む。更に、装置30は、移植片部材22の上に同軸に置かれる中間の生分解性の生理活性薬剤コーティング層24を少なくとも1つ含む。上述のように、コーティング層24は、コーティング層24の生分解性マトリックスから制御可能に放出することができる少なくとも1つの生理活性薬剤を含む。複合装置30は、管状部材24の上に同軸に置かれた管状生分解性鞘部材28を更に含む。上述し且つ図2に示すように、鞘部材28は、生理活性薬剤を含むこともできる。望ましい態様では、コーティング層24に付随し、任意に生分解性鞘28に付随してもよい生理活性薬剤には、これら生分解性部材内部の結合の加水分解率に応じてコーティング層24及び鞘28から制御可能に放出することができる抗菌剤を含む。中心内腔29は、管状複合移植片30を貫通して延びている。伸張可能なステント32は、内側のePTFE管状部材22と生分解性コーティング層24との間に置くことができる。ステント32は、本発明の移植片に付随していてもよく、血管の支持を増大させると共に、植込み域を通る血流を増大させるために用いられる。外側鞘部材28で半径方向引張強度が増大すると、移植片は、例えば、ステント32が存在する場合ステント32の半径方向拡張を支持できることに注意されたい。血液透析治療を容易にするために、高血圧又は糖尿病で血糖コントロール不良を患う相当な数の患者は、静脈系と動脈系との間に合成血管移植片を外科的に埋め込まれることになり得る。典型的に、これらの移植片は、時間と共に閉塞する。このような場合、深刻な狭窄症患者の静脈吻合部位にわたりコーティングしたステントを用いることは、これらの移植片を長く開存させるのに役立つことができ、痛みを伴い、典型的には費用のかかる外科的修正が避けられ得ることになる。このような理由で、本発明の血管移植片で被覆されるか又はその内部に組み込まれたステントがAVアクセスに対して有用であり得ることは、本発明の意図に充分に含まれる。
【0021】
生理活性薬剤には、抗菌剤を含むことができる。一態様では、抗菌剤は、抗生物質製剤又は消毒剤、又はそれらの組合せである。抗生物質製剤は、以下に限定されるものではないが、シプロフロキサシン、バンコマイシン、ミノサイクリン、リファンピン、及び他の類似の薬剤、並びにそれらの組合せを含むものとすることができる。
適切な消毒剤には、以下に限定されるものではないが、銀剤、クロルヘキシジン、トリクロサン、ヨード、塩化ベンザルコニウム及び他の類似の薬剤、並びにそれらの組合せが含まれる。
【0022】
例えば、銀は、いくつかの方法で、in vitroで細菌の増殖を阻害することが示されている消毒剤である。例えば、銀は、微生物のDNAに結合して、また、スルフヒドリル基に結合することにより非常に重要な微生物代謝酵素の変性を引き起こして不活性化するプロセスを介して、細菌の複製を妨害することによって細菌の増殖を妨げることができることが公知である(Tweten,K.,「J.of Heart Valve Disease」、1997年、第6巻、第5号、554〜561頁)。更に、銀は、血小板の細胞膜の破壊を引き起こすことも公知である。このように血小板の破壊が増大すると、血小板細胞骨格残留物による植込み片の表面被覆の増加がもたらされる。このプロセスは、植込み片の周りにより構造化した(成熟状態の)パンヌスの形成を促進することが示されている。これは、組織内殖時間が速いために、感染性細菌により生成されるバイオフィルムの付着及び形成を妨げる傾向がある(Goodman,S.他、第24回バイオマテリアル学会年次集会、1998年4月、カリフォルニア州サンディエゴ、207頁)。
銀剤は、ヨウ素酸銀、ヨウ化銀、硝酸銀及び酸化銀のような銀金属イオンとすることができる。これらの銀イオンは、細菌又は真菌細胞に吸収されると、呼吸及び電子運搬系を破壊することによってその作用を及ぼすと考えられている。抗菌性銀イオンは、身体に実質的に吸収されず、典型的には、身体に害を与えないために生体内での利用に有用である。
【0023】
再び図1Aを参照すると、上述の消毒剤又は抗生物質生理活性薬剤16は、単独で用いることができ、又はそれらの2以上を組み合わせて用いることもできる。これらの薬剤16は、コーティング層14の上に配置することができ、又はコーティング層14全体に分散させることができる。コーティング層14上に配置するか又はコーティング層14を含浸させるのに用いる各抗菌剤又は抗生物質生理活性薬剤16の量は、ある程度変動するが、少なくとも細菌生物体及び真菌生物体の増殖を阻害するのに有効な濃度である。
【0024】
上述のように、本発明の1つの態様では、複合装置10は、図1Aに描かれる多孔性移植片部材12としてePTFE移植片部材を含む。PTFEは、優れた生体適合性及び低血栓形成性を示し、それによって、血管移植片材料として特に有用となる。望ましくは、ePTFE移植片部材は、図4に示すように管状構造22である。ePTFE材料は繊維状態を有し、前記状態は、細長い微小繊維で相互連結され、離間して置かれた節によって規定される。微小繊維で橋渡しされた節表面の間の間隔は、節間の距離であると定められる。本発明では、内腔ePTFE移植片部材の節間の距離は、トンネル内で急速に組織内殖させ、初期に細菌のバイオフィルム形成を阻止するために、約70〜約90ミクロンであることが望ましい。「拡張した」という用語がPTFEを説明するのに用いられる場合、すなわち、ePTFEは、節間距離を増大させ、同時に多孔性を増大させる技術に従って延伸されたPTFEを説明することが意図されている。延伸は、一軸、二軸又は多軸で行うことができる。節は、延伸微小繊維により拡張の方向に延伸される。従来の長軸方向に拡張されたePTFEを製造する方法は、本技術分野で公知である。
【0025】
更に、ePTFEは、軸線方向伸長及び半径方向拡張性が直線寸法で600%まで増大させた物理的改良ePTFE管状構造物であり得ることが企図される。物理的改良ePTFE管状構造物は、伸長又は拡張し、その後、内部に弾性力を存在させることなく元の状態に戻ることができる。物理的改良ePTFE及びそれを製造する方法の付加的な詳細は、「軸線方向伸長性を有するePTFE移植片」という本出願人に譲渡された出願名称を有する米国特許出願公開第2003−0009210号A1として2003年1月9日に公開されて譲渡された2001年7月3日出願の米国特許出願第09/898,418号に見ることができ、この内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0026】
上述のように、本発明の別の態様では、複合装置10は、図1Aの多孔性移植片部材12として織物移植片部材を含む。以下でより詳細に説明するように、移植片12には、ウィーブ、編物、ブレード、フィラメント・ワインディング(filament winding)、スパン繊維などを含む実質的にあらゆる織物構造物を用いることができる。単純織り、バスケット織、綾織、ベロア織などを含む本技術分野におけるあらゆる織パターンを用いることもできる。図5及び図6を参照すると、図5に示す織物管状移植片部材40の織パターンは、移植片の縦方向長さ(L)に沿って延びる縦糸40a及び移植片の周囲(C)の周りに延びる横糸40bを含み、横糸は、縦糸方向に機械から流れてくる布と互いにほぼ90度である。中心内腔29は、管状移植片部材40を貫通して延びており、それにより、本発明の複合血管移植片が組み立てられて血管系に適切に埋め込まれると、血液がこれを通って流れることができる。
【0027】
織物移植片部材の編糸としては、あらゆる種類の織物製品を用いることができる。本発明の複合装置のための織物移植片部材を形成する時に有用なのは、合成ポリマーのような合成材料である。織物移植片部材に用いるのに適する合成編糸には、以下に限定されるものではないが、PETポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタン、及びポリテトラフルオロエチレンを含むポリエステルが含まれる。編糸は、モノフィラメント、マルチフィラメント、スパン型、又はそれらの組合せとすることができる。更に、編糸は、平坦、撚ったもの、又はきめ付きとすることができ、高度、低度、又は中程度の収縮性又はそれらの組合せを有することができる。更に、編糸の種類及び編糸のデニールは、多孔性及び可撓性のような人工器官に望ましい特定の特性に合うように選択することができる。編糸デニールは、編糸の線形密度(長さ9,000メートルで割った質量のグラム数)を表している。従って、小さなデニールの編糸は、非常に細い編糸に対応することになり、大きなデニール、例えば、1,000の編糸は、太い編糸に対応することになる。本発明の装置の織物移植片部材に用いられる編糸のデニールは、約20〜約200、好ましくは、約30〜約100とすることができる。編糸は、ポリエチレンテレフタレート(PET)のようなポリエステルであることが望ましい。ポリエステルは、熱硬化工程中に収縮することができ、このために、マンドレル上に熱硬化し、ほぼ円形の形状を形成することができる。
【0028】
本発明の織物層は、形成された後、任意的に温水の塩基性溶液中で清浄にされるか又は精錬される。織物は、次に、残った洗剤を全て除去するためにすすいで、それから圧縮するか又は収縮させ、織物層の多孔性を部分的に低減して制御する。織物材料の多孔性は、WesolowskiスケールでWesolowskiの手順により測定する。この試験では、織物試験片は、貫層方向にクランプで留め、圧力頭約120mm水銀を掛ける。布の各平方センチメートルを通る水透過のmm数/分を表す読取値を得る。ゼロの読取値は、絶対水不透過性を表し、約20,000の値は、ほぼ流体の自由流れを表している。
【0029】
織物層の多孔性は、Wesolowskiスケールで約5,000〜約17,000であることが多い。織物層は、縦目方向に圧縮又は収縮させ、望ましい多孔性を得ることができる。ヘキサフルオロイソプロパノール又はトリクロロ酢酸のような有機成分、及び塩化メチレンのようなハロゲン化脂肪族炭化水素の溶液を用いて、約15℃〜約160℃の温度で30分間まで溶液に浸漬することによって織物移植片を圧縮することができる。
織物層の編糸は、1層又は多層編糸とすることができる。織物層に対して、延伸編糸に高引張強度のような特定の特性を与えるには、多層編糸が望ましい場合がある。
【0030】
本発明の複合装置の別の態様は、図1Aの層14として示される生分解性の生理活性薬剤コーティング層に関するものである。一態様では、生理活性薬剤コーティングは、1以上のコーティング層として多孔性管状移植片部材に付加される。例えば、コーティング材料は、浸し塗り、スプレー、又は塗装のような手段により、(重合前に)液体としてePTFE及び/又は織物移植片部材の外面に施すことができる。
【0031】
コーティング層は、天然、改質天然、又は合成ポリマー、コポリマー、ブロックポリマー、並びにそれらの組合せを含むことができる。ポリマーは、一般的に、それが合成されるモノマーに基づいて呼ばれることに注意されたい。適切な生分解性ポリマー又はポリマーの部類の例には、フィブリン、コラーゲン、エラスチン、セルロース、ゼラチン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ラミニン、再構成基底膜マトリックス、デンプン、デキストラン、アルギナート、ヒアルロン酸、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリペプチド、グリコサミノグリカン、その誘導体、及びその混合物が含まれる。グリコール酸及び乳酸の両方に対しては、一般的に、重合する前に中間環状二量体を調製して精製する。これらの中間二量体は、それぞれグリコリド及びラクチドと呼ばれる。
【0032】
生理活性薬剤コーティング層のための他の有用な生分解性ポリマー又はポリマーの部類には、ポリジオキサン、ポリオキサレート、ポリ(α−エステル)、ポリ無水物、ポリアセテート、ポリカプロラクトン、ポリ(オルトエステル)、ポリアミノ酸、ポリアミド、及びその混合物及びコポリマーが含まれる。
生理活性薬剤コーティング層のための付加的な有用な生分解性ポリマーには、L及びD乳酸の立体ポリマー、ビス(p−カルボキシフェノキシ)プロパン酸及びセバシン酸のコポリマー、セバシン酸コポリマー、カプロラクトンのコポリマー、ポリ(乳酸)/ポリ(グリコール酸)/ポリエチレングリコールコポリマー、ポリウレタン及びポリ(乳酸)のコポリマー、ポリウレタン及びポリ(乳酸)のコポリマー、α−アミノ酸のコポリマー、α−アミノ酸及びカプロン酸のコポリマー、α−グルタミン酸ベンジル及びポリエチレングリコールのコポリマー、コハク酸塩及びポリ(グリコール)のコポリマー、ポリホスファゼン、ポリヒドロキシアルカノエート、及びその混合物が含まれる。二元及び三元システムも考えられている。
【0033】
生体内生分解性ポリマーの機械的性能に影響を及ぼす因子は、ポリマー科学者には公知であり、これには、モノマー選択、初期処理条件、及び添加物の存在が含まれる。生分解は、バックボーンに不安定なリンク機構、又は体内で安全に酸化又は加水分解することができるリンク機構を有するポリマーを合成することによって達成される。この特性を有する最も良く用いられる化学官能基は、エーテル、エステル、無水物、オルトエステル、及びアミドである。
【0034】
上述のように、生分解性コーティング層には、生理活性薬剤が含まれる。望ましい一態様では、生理活性薬剤は抗菌剤である。例えば、抗菌剤は、抗生物質又は消毒剤とすることができる。本発明で用いるのに適切な抗生物質及び消毒剤の例は、上に挙げたものである。
生理活性薬剤は、生分解性コーティング層のバルク全体に均一に分布することが望ましく、生分解性ポリマーの化学結合の加水分解により移植片の植込み部位に生分解性コーティング層から制御可能に放出される。更に、生理活性薬剤は、コーティング層上に配置することができることも意図している。
【0035】
生分解性ポリマーのベースであるモノマー(又は中間環状二量体)を含む生分解性材料の溶液は、ePTFE及び/又は織物移植片部材の外側にコーティングとして施すことができる。これは、浸し塗り、スプレー、塗装などのような手段により達成することができる。生理活性薬剤は、湿潤又は流体生分解性材料に配合してコーティング混合物を形成し、次に、例えば、スプレー工程により多孔性管状移植片部材に施すことができる。あるいは、生理活性薬剤は、生分解性材料が塗膜として多孔性管状移植片部材に付加された後であるが重合する前に、湿潤又は流体生分解性材料に粉末の形で施すことができる。
【0036】
生分解性の生理活性薬剤コーティング層を調製する時、生体適合性のある生分解性材料の溶液又は流体を形成することができる。例えば、流体/溶液に用いられる細胞外マトリックスタンパク質は、可溶性とすることができる。しかし、材料によっては、水に溶解することが困難である場合がある。例えば、コラーゲンは、周囲温度でゼラチンであり、水に不溶性であると考えられている。このような困難を克服するために、コラーゲン又はゼラチンは、好ましくは、酸性pH、すなわち、pH7未満、好ましくは、pH約2〜約4で形成することができる。このような流体/溶液が形成される温度範囲は、約4℃〜約40℃、好ましくは、約30℃〜35℃である。
生理活性薬剤が湿潤又は流体生分解性コーティング材料中で不溶性である場合には、この薬剤は、乳鉢及び乳棒ですり砕くことなどにより、細かく細分することができる。細かく細分された生理活性薬剤は、次に、コーティング層を架橋又は硬化して固化する前に、湿潤又は流体生分解性コーティング材料のバルク全体に実質的に均一に分布させることができることが望ましい。
【0037】
コーティング層を様々な担体、薬物、予後判定薬、又は治療的物質と組み合わせることができることは本発明の意図に完全に含まれる。例えば、コーティング層は、以下の治療薬剤のいずれとも組み合わせることができ、すなわち、それらは、上に挙げた抗生物質製剤及び消毒剤のような抗菌剤、ヘパリン、ヘパリン誘導体、ウロキナーゼ、及びPパック(デキストロフェニルアラニンプロリン、アルギニン、クロロメチルケトン)のような抗血栓剤、(エノキサプリン、アンギオペプチン、又は平滑筋細胞増殖を遮断することができるモノクローナル抗体、ヒルジン、及びアセチルサリチル酸のような)増殖抑制剤、デキサメタゾン、プレドニゾロン、コルチコステロン、ブデソニド、エストロゲン、スルファサラジン、及びメサラミンのような)抗炎症剤、(パクリタキセル、5−フルオロウラシル、シスプラチン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、エポチロン、エンドスタチン、アンギオスタチン及びチミジンキナーゼ阻害剤のような)抗新生物薬/抗増殖性物質/抗縮瞳剤、(リドカイン、ブピバカイン、及びロピバカインのような)麻酔剤、(D−Phe−Pro−Argクロロメチルケトン、RGDペプチド含有化合物、ヘパリン、抗トロンビン化合物、血小板受容体拮抗剤、抗トロンビン抗体、抗血小板受容体抗体、アスピリン、プロスタグランジン阻害剤、血小板阻害剤、及びダニ抗血小板ペプチドのような)抗凝血剤、(増殖因子阻害剤、増殖因子受容体拮抗剤、転写活性剤、及び翻訳促進剤のような)血管細胞増殖促進剤、(増殖因子阻害剤、増殖因子受容体拮抗剤、転写抑制剤、翻訳抑制剤、複製阻害剤、阻害的抗体、増殖因子に対する抗体、増殖因子及び細胞毒から成る二機能性分子、抗体及び細胞毒から成る二機能性分子のような)血管細胞増殖阻害剤、コレステロール低化剤、血管拡張剤、及び内因性(andogenous)又は血管活性(vascoactive)機序に干渉する薬剤である。更に、体内で生存することができ、コーティング層内に分散する細胞は、治療的に有用であり得る。これらの細胞は、それ自体が治療的に有用とすることができ、又は細胞を選択又は操作して治療的に有用な組成物を生成して放出することができる。
【0038】
他の態様では、本発明の複合装置に組み合わせた生理活性薬剤は、遺伝子薬剤とすることができる。遺伝子薬剤の例には、DNA、アンチセンスDNA、及びアンチセンスRNAが含まれる。以下の1つ、すなわち、(a)欠陥又は欠損のある内因性分子と置換するためのtRNA又はRRNA、(b)酸性及び塩基性繊維芽細胞増殖因子、血管内皮増殖因子、表皮増殖因子、形質転換増殖因子α及びβ、血小板由来内皮増殖因子、血小板由来増殖因子、腫瘍壊死因子α、肝細胞増殖因子及びインシュリン様増殖因子のような増殖因子を含む血管形成因子、(c)細胞周期阻害剤、(d)チミジンキナーゼ及び細胞増殖に干渉するのに有用な他の薬剤、及び(e)骨形成タンパク質群の1つをコードするDNAは、本発明による植込み可能装置と組み合わせる場合に特に有用とすることができる。更に、骨形成タンパク質の上流又は下流効果を誘導することができるDNAコード分子が有用であろう。
【0039】
本発明の更に別の態様は、図1Aの層18として示される生分解性鞘に関するものである。一態様では、生分解性鞘は、以下に限定されるものではないが、ポリラクチド、ポリ酸無水物、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリグリコール、ゼラチン誘導体、及びそれらの組合せから選択される材料から成る。生分解性鞘は、生理活性コーティング層の上に配置するための管状又はシート状形態とすることができる。例えば、本発明の図7を参照すると、本発明の管状複合血管移植片と組み合わせて用いられる管様形態の生分解性鞘50が示されている。詳細には、管50は、多孔性の可撓性管状移植片部材を被って位置する生理活性コーティング層の上に配置することができる。
【0040】
あるいは、生分解性鞘は、図8に示すようなシート状形態とすることができる。図8に示す鞘60は、本発明の管状複合血管移植片と組み合わせて用いられる。詳細には、鞘60は、多孔性の可撓性管状移植片部材を被って位置する生理活性コーティング層の周りを包むことができる。シート60は、縦方向軸線に沿って継ぎ合わせる。
鞘により、可撓性管状織物及び/又はePTFE移植片部材に植込む間に望ましい程度の初期剛性が生じる。植込み後、鞘は、血液及び/又は他の生理的流体に露出されると生分解する。鞘が生分解すると、移植片の剛性が減少し、移植片部材の可撓性が復旧する。鞘が分解した後、望ましくは抗菌剤を組み込んで植込み後の感染を低減したその下の生理活性薬剤コーティング層が露出する。複数の生理活性薬剤コーティング層が存在する態様では、各コーティング層は、それを被って位置するコーティング層が再吸収された後、それに組み合わされた生理活性薬剤を制御可能に放出する。それにより、長期間の抗感染作用が生じる。
【0041】
本発明の複合移植片の生分解性鞘は、生理活性薬剤を含むことができる。例えば、生分解性鞘には抗菌剤を組込み、植込むと直ぐに抗菌剤を制御可能に放出するようにすることができる。
本発明の一態様では、乾燥して細かく細分した抗菌剤を湿潤又は流体材料と配合して混合物を形成し、これを用いて多孔性生分解性鞘の孔に含浸させることができるように想定されている。あるいは、次に、空気圧又は他の適切な手段を用いて、充填孔内に実質的に均一に抗菌剤を分布させることができるようにも想定されている。
【0042】
一例では、生理活性薬剤又は薬物は、以下のように鞘に組み込むことができ、すなわち、鞘を製造するのに用いられる流体材料内に、鞘を形成するのに用いられる溶媒に可溶性ではない塩又は糖のような結晶質の粒子状材料を混合し、微粒子材料を含む溶液をフィルム又はシートに成形し、次に、水のような第2の溶媒を加え、粒子状材料を溶解して除去することにより、多孔性鞘を残す。次に、鞘は、孔を充填するために、生理活性薬剤を含む溶液に入れることができる。鞘には真空を引き、それに付加された生理活性薬剤が、孔に確実に受け取られるようにすることが好ましい。
【0043】
また、生理活性薬剤又は薬物は、ミクロスフェア、マイクロファイバー、又はマイクロフィブリルのような微粒子に封入することができ、これを次に鞘内又は鞘上に組み込むことができることも意図している。生理活性薬剤又は薬物を微粒子又はマイクロファイバー内に封入するための様々な方法が公知である(Patrick B.Deasy著「マイクロ封入及び関連薬物加工」、Marcel Dekker,Inc.、ニューヨーク、1984年を参照)。一例では、組み込むのに適切なミクロスフェアの直径は、約10マイクロメートル(10ミクロン)以下とすることができる。ミクロスフェアは、鞘の生分解性ポリマーマトリックス内に含むことができる。生理活性薬剤を含む微粒子は、鞘材料上に付着的に配置することによるか、又は微粒子を流体又はゲルと混合して鞘層内に流し込むことによって鞘に組み込むことができる。微粒子と混合した流体又はゲルは、例えば、鞘に組み込まれた生理活性薬剤の細胞取り込みを改善するように設計された担体薬剤とすることができる。更に、担体薬剤には、ヒアルロン酸を含むことができ、これを本発明の各態様に組込み、装置と組み合わせた生理活性薬剤の細胞への取り込みを改善することができることは本発明の意図に完全に含まれる。
【0044】
微粒子は、生理活性薬剤を囲むポリマー壁又は生理活性薬剤及び任意的に担体薬剤を含むマトリックスを有することができ、それにより、ポリマー壁の厚みが変動する可能性及び生理活性薬剤を含むのに適する空隙率及び透過率が変動する可能性があるために、治療薬剤の放出を制御するための付加的な機構の可能性がもたらされる。
更に、マイクロファイバー又はマイクロフィブリルには、押出しにより生理活性薬剤を装填することができ、薬物を送達するためにこれを鞘材料に付着的に積層するか又は織り込むことができる。
【0045】
生理活性薬剤は、任意的に本発明の複合移植片の生分解性鞘と組み合わせることができ、これは、薬物、予後判定剤、治療薬剤、及び遺伝子薬剤から選択することができる。適切な生理活性薬剤には、以下に限定されるものではないが、増殖因子、抗凝血剤物質、狭窄阻害剤、抗血栓性薬剤、抗生物質製剤、抗腫瘍剤、抗増殖性薬剤、成長ホルモン、抗ウイルス剤、抗血管形成性薬剤、血管形成性薬剤、抗分裂剤、抗炎症剤、細胞周期調整剤、遺伝子薬剤、コレステロール低化剤、血管拡張剤、内因性血管作用機構に干渉する薬剤、ホルモン、その相同体、誘導体、断片、薬学的塩、及びそれらの組合せが含まれる。このような薬剤の特定の例は、上記において提供されている。
【0046】
上述のように、本発明の更に別の態様は、本発明の複合血管移植片を製造する方法に関する。本方法は、ePTFE及び/又は織物移植片部材のような可撓性で多孔性の管状移植片部材を準備する工程と、少なくとも1つの生理活性薬剤を組み込んだ生分解性コーティング材料を多孔性管状移植片部材に付加し、1以上の、被って位置するコーティング層を形成する工程とを含む。本方法は、ePTFE及び/又は織物移植片部材を被って位置する1以上のコーティング層の上に生分解性鞘を配置する工程を更に含む。
【0047】
一般的に、管状織物層は、単一の長い管に製造され、所定の長さに切断される。織物層を切断するために、切断して同時に端部を溶融するレーザを用いることが望まれ得る。織物層は、一般的に、望ましくはドデシル硫酸ナトリウムで清浄にし、その後、脱イオン水ですすぐ。織物層は、次に、円筒形マンドレルの上に配置して熱硬化し、直径を正確に設定すると共にあらゆる折れ目又はしわを除去することができる。一般的に、熱硬化は、対流オーブンを用いて約125℃〜約225℃の温度で20分間行われる。加熱には、あらゆる公知の手段を用いることができる。
【0048】
あるいは、本発明の複合装置は、薄壁のPTFE内部(inner)内腔管をほぼ400%〜2,000%の伸長、好ましくは約700%〜900%の程度の比較的高度の伸長で拡張することによって形成することができる。内部内腔管は、室温〜337.78℃(640°F)、好ましくは約200℃(500°F)の温度でステンレス鋼マンドレルのような円筒形マンドレルの上に拡張することが望ましい。内部内腔管は、拡張後に完全に焼結されることが好ましいが、必ずしもそうでなくてもよい。焼結は、一般的に、337.78℃(640°F)〜426.67℃(800°F)、好ましくは約348.89℃(660°F)の温度で約5分〜30分、好ましくは約15分間の時間にわたって行われる。本方法によって形成されて得られる内腔管は、中位の数の微小繊維により橋渡しされ、望ましくは40マイクロメートル(40ミクロン)、特に40〜100マイクロメートル(40〜100ミクロン)、最も望ましくは70〜約90マイクロメートル(70〜約90ミクロン)のINDを示している。このような微孔性構造は、移植片を通る血流が確立されると細胞の内皮化の改善を促進するのに充分な大きさである。このような細胞の内皮化により移植片の長期の開存性が改善する。
【0049】
次に、生分解性の生理活性コーティング層をその上に配置することができる基体として、マンドレルを覆う内腔ePTFE及び/又は織物管の組合せを用いる。特に、生分解性の生理活性コーティング層は、浸し塗り、スプレー、又は塗装のような手段により内腔管の外部表面上に流体コーティング材料として施すことができる。生理活性薬剤コーティングは、単層又は多層で施すことができる。生理活性薬剤コーティング材料内には、乾燥粉末の形態とすることができる生理活性薬剤が、実質的に均等に分布することが好ましい。
【0050】
生分解性鞘は、管又はシートの形態とすることができ、これを次に生理活性薬剤コーティング層の上に配置する。例えば、管又はシートは、多孔性の生分解性ポリマーマトリックスに対応することができ、この場合、孔隙は、任意的に生理活性薬剤で充填することができる。生分解性管状鞘部材の内径は、コーティングされた移植片部材の外径の上に容易ではあるが緊密に配置することができるように選択される。一態様では、鞘は、その下の生理活性薬剤コーティング層に架橋して結合する。更に、生分解性鞘は、コーティング層内の生理活性薬剤を分解又は損傷することにならない技術を用いてコーティングされた移植片部材に固定できることが企図される。例えば、銀金属イオンが生理活性薬剤である場合には、上述したものと同様のパラメータを用いてコーティングされた管状移植片部材と管状鞘の間に形成された複合構造を焼結することが適切であろう。
【0051】
あるいは、生分解性鞘は、結合剤によりコーティングされた移植片部材に確実に固定することができる。結合剤には、ウレタン、スチレン/イソブチレン/スチレンブロックコポリマー(SIBS)、シリコーン、及びそれらの組合せのような様々な生体適合性のあるエラストマー性の結合剤を含むことができる。複合人工器官が形成されると、次に、この複合構造の上に弾性管材料、好ましくはシリコーンの1以上の層を配置することができる。それにより、複合構造が互いに保持され、結合のための完全な接触及び適切な圧力が確実に維持されるようになる。
本発明をいくつかの例と共に好ましい態様に関して説明したが、特許請求の範囲に規定された本発明の精神及び範囲から逸脱することなく様々な変更を行うことができることは当業者には理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1A】移植片が単一の生理活性薬剤コーティング層を含む、本発明の血管移植片の態様の概略縦方向断面図を示す。
【図1B】移植片が複数の生理活性薬剤コーティング層を含む、本発明の血管移植片の更に別の態様の概略縦方向断面図を示す。
【図2】複合移植片の生分解性鞘が内部に生理活性薬剤を含む、本発明の血管移植片の更に別の態様の概略縦方向断面図を示す。
【図3】本発明による管状血管移植片の斜視図を示す。
【図4】内側多孔性管状移植片部材がePTFE管である、本発明のステント/移植片複合体の態様を示す断面図を示す。
【図5】本発明の複合移植片に有用な織物管状移植片部材を示す斜視図を示す。
【図6】図5の織物管状移植片部材に有用な従来の織パターンを示す概略図を示す。
【図7】本発明の複合移植片に有用な管状形態の生分解性鞘を示す斜視図を示す。
【図8】本発明の複合移植片に有用なシート状形態の生分解性鞘を示す斜視図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性且つ可撓性の管状移植片部材、
前記管状移植片部材の上に置かれ、少なくとも1つの生理活性薬剤を含む、生分解性の生理活性薬剤コーティング層、及び
前記管状移植片部材よりも大きい剛性を有し、前記コーティング層を露出するように生分解性であり、よって該管状移植片部材の可撓性を回復する、該コーティング層の上に置かれた生分解性鞘、
を含むことを特徴とする複合血管移植片。
【請求項2】
生理活性薬剤が抗菌剤である、請求項1に記載の血管移植片。
【請求項3】
抗菌剤が抗生物質製剤又は消毒剤である、請求項2に記載の血管移植片。
【請求項4】
抗生物質製剤がシプロフロキサシン、バンコマイシン、ミノサイクリン、リファンピン及びそれらの組合せから成る群から選択される、請求項3に記載の血管移植片。
【請求項5】
消毒剤が銀剤、クロルヘキシジン、トリクロサン、ヨード、塩化ベンザルコニウム及びそれらの組合せから成る群から選択される、請求項3に記載の血管移植片。
【請求項6】
多孔性且つ可撓性の管状移植片部材が、ePTFE材料を含む、請求項1に記載の血管移植片。
【請求項7】
多孔性且つ可撓性の管状移植片部材が、織物材料を含む、請求項1に記載の血管移植片。
【請求項8】
織物材料が、ウィーブ、ブレード、フィラメント・ワインディング、スパン繊維及びそれらの組合せから成る群から選択される構造物を含む、請求項7に記載の血管移植片。
【請求項9】
織物材料が、ポリエステル、PETポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン及びそれらの組合せから成る群から選択された合成編糸から形成される、請求項7に記載の血管移植片。
【請求項10】
生分解性の生理活性薬剤コーティング層が、天然ポリマー、改質天然ポリマー又は合成ポリマーを含む、請求項1に記載の血管移植片。
【請求項11】
ポリマーが、フィブリン、コラーゲン、セルロース、ゼラチン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ラミニン、再構成基底膜マトリックス、デンプン、デキストラン、アルギナート、ヒアルロン酸、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリペプチド、グリコサミノグリカン、それらの誘導体、及びそれらの混合物から成る群から選択される、請求項10に記載の血管移植片。
【請求項12】
ポリマーが、ポリジオキサン、ポリオキサレート、ポリ(α−エステル)、ポリ無水物、ポリアセテート、ポリカプロラクトン、ポリ(オルトエステル)、ポリアミノ酸、ポリアミド並びにそれらの混合物及びコポリマーから成る群から選択される、請求項10に記載の血管移植片。
【請求項13】
ポリマーが、L及びD乳酸の立体ポリマー、ビス(p−カルボキシフェノキシ)プロパン酸及びセバシン酸のコポリマー、セバシン酸コポリマー、カプロラクトンのコポリマー、ポリ(乳酸)/ポリ(グリコール酸)/ポリエチレングリコールコポリマー、ポリウレタン及びポリ(乳酸)のコポリマー、ポリウレタン及びポリ(乳酸)のコポリマー、α−アミノ酸のコポリマー、α−アミノ酸及びカプロン酸のコポリマー、α−グルタミン酸ベンジル及びポリエチレングリコールのコポリマー、コハク酸塩及びポリ(グリコール)のコポリマー、ポリホスファゼン、ポリヒドロキシ−アルカノエート、及びそれらの混合物から成る群から選択される、請求項10に記載の血管移植片。
【請求項14】
生理活性薬剤コーティングが、管状移植片部材に施されている、請求項1に記載の血管移植片。
【請求項15】
生理活性薬剤コーティングが、複数の層内に施されている、請求項1に記載の血管移植片。
【請求項16】
生分解性鞘が、生理活性薬剤コーティング層の上に配置するための管状又はシート状形態を有する、請求項1に記載の血管移植片。
【請求項17】
生分解性鞘が、ポリラクチド、ポリ無水物、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリグリコール、ゼラチン誘導体、及びそれらの組合せから成る群から選択された材料から成る、請求項1に記載の血管移植片。
【請求項18】
生分解性鞘が、少なくとも1つの抗菌剤を含む、請求項1に記載の血管移植片。
【請求項19】
血管移植片の植込み部位へ血管移植片に付随する抗菌剤を送達するための血管移植片を製造する方法であって、
多孔性且つ可撓性の管状移植片部材を準備する工程、
少なくとも1つの生理活性薬剤を組み込んだ生分解性コーティング材料を前記管状移植片部材に施して、被って位置する生分解性の生理活性薬剤コーティング層を1以上形成する工程、及び
前記1以上の被って位置する生理活性薬剤コーティング層の上に生分解性鞘を配置する工程、
を含むことを特徴とする前記方法。
【請求項20】
配置する工程が、生分解性鞘を管状形態に準備すること、及び、管状移植片部材を被って位置する1以上の生理活性薬剤コーティング層の上に前記生分解性鞘を置くことを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
配置する工程が、生分解性鞘をシート状形態に準備すること、及び、管状移植片部材を被って位置する1以上の生理活性薬剤コーティング層の上に該シートを重ねることを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
管状移植片部材と生理活性薬剤コーティング層との間に人工ステントを入れる工程を更に含む、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
生分解性コーティング材料に生理活性薬剤を組み込む工程を更に含む、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
生理活性薬剤が、消毒剤、抗生物質製剤及びそれらの組合せから成る群から選択される抗菌剤である、請求項19に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−505728(P2008−505728A)
【公表日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−521525(P2007−521525)
【出願日】平成17年7月11日(2005.7.11)
【国際出願番号】PCT/US2005/024418
【国際公開番号】WO2006/017204
【国際公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(505424055)ボストン サイエンティフィック リミテッド (17)
【Fターム(参考)】