説明

産業用ロボットのハンド装置

【課題】各指毎に各1個のモータを必要とせず、さらに、システムが異常を検出した非常停止時など、ハンド装置への電源を遮断せざるを得ないときも、ハンド装置は把持力を維持することができ、把持しているワークを落下させることがないられない産業用ロボットのハンド装置を提供。
【解決手段】ボールねじ 2の軸方向にフレーム内周にスライド可能に案内されたブロック 4と、ナット16の小径切り込み部15下面とブロックの小径部17下面との間に配置されたスプリング 9(弾性体でもよい)と、スプリング 9の変形を検出するセンサ12と、を有し、サーボモータ 3を作動させることにより各フィンガー 5の他端が開閉動作するようにし、各フィンガー 5の他端がワーク10に当たった後、さらにスプリング 9を変形してセンサ12が作動するまでサーボモータ 3を作動させた後、サーボモータ 3のブレーキ13を作動させた状態でワーク10を把持させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多品種のワークを把持可能な産業用ロボットのハンド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の製造ラインで作業を行う産業用ロボットシステムのハンド装置には、ワークをハンドリングする用途で使用されるものが多く存在する。製造ラインへの素材の投入、加工機械へのワークの着脱、箱詰めなど、産業用ロボットを活用した自動化システムは非常に多様な分野で使われている。ハンドリングロボットの先端には、通常、ロボットハンド又はハンド装置と呼ばれるワークを把持するハンド装置が搭載される。かかるハンド装置は、多くの場合、エアシリンダで駆動される。
【特許文献1】特許第3245095号公報
【特許文献2】US2004/0103740A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、同一のロボットシステムが異種形状や寸法違いを含む多数のワークをハンドリングする場合、同一のハンド装置では把持することができないことが多い。そこで、ワークの形状や寸法に適合した仕様の複数のハンド装置を準備し、これらをオートツールチェンジャを介してロボットに取り付け、生産品種変更時に、ロボットに搭載するハンド装置を取り替えることで対応する方法がある。しかしながら、オートツールチェンジャを介して取り付けられたハンド装置を取り替えるためには、交換動作のための時間が必要であり、頻繁に生産品種を変更する製造ラインの場合は、生産効率が落ちるという問題があった。さらに、多種の形状、寸法のワークに対応するためには、これに対応した多数のハンド装置を準備する必要があり、加えて、オートツールチェンジャも準備する必要があるなど、設備コストが高くなるというデメリットがあった。また、例えば特許文献1又は特許文献2に記載するように、同一のハンド装置で、異種形状や寸法違いを含む多数のワークを把持する方法として、複数の指(フィンガー)からなり、複数のモータにより各々の指を駆動する方式のハンド装置が知られている。
【0004】
しかしながら、これらの特許文献1又は特許文献2に記載する発明によれば、同一のハンド装置で、異種形状や寸法違いを含む多数のワークを把持することができる複数の指(フィンガー)を駆動する方式のハンド装置で、各指に1個のモータが必要であり、さらに、電源ダウン時や制御システムが異常を検出した非常停止時など、ハンド装置への電源を遮断せざるを得ないときは、ハンド装置は把持力を維持することができず、把持しているワークを落下させることが避けられないという重大な欠点があった。さらにまた、ワークを把持していることを確認するためには、追加的な装置が必要であった。
【0005】
本発明の課題はかかる従来の課題を解決した、同一のハンド装置で、異種形状や寸法違いを含む多数のワークを把持することができる複数の指(フィンガー)を駆動する方式のハンド装置を、各指毎に各1個のモータを必要とせず、さらに、システムが異常を検出した非常停止時など、ハンド装置への電源を遮断せざるを得ないときも、ハンド装置は把持力を維持することができ、把持しているワークを落下させることがない産業用ロボットのハンド装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため本発明の第1発明では、フレームと、前記フレームに縦方向に回転可能に支持されたボールねじ又は台形ねじと、前記フレームに固定され、前記ボールねじ又は台形ねじを回転駆動するサーボモータと、前記フレームに1端を第1の水平軸の回りに回転可能に支持されかつ前記1端に延長かぎ形部を有する少なくとも2個のL字状フィンガーと、 各前記フィンガーの前記延長かぎ形部端部に前記第1の水平軸と平行な第2の水平軸の回りに回転可能に支持されたカムフォロア、ローラ又はピンと、
前記ボールねじ又は台形ねじにかみ合いかつ下方に小径切り込み部を有するナットと、 前記ナットの小径切り込み部に隙間をもって嵌まり合う小径部と前記カムフォロア、ローラ又はピンを回転可能に支持する溝とを有しかつ前記ボールねじ又は台形ねじの軸方向に前記フレーム内周にスライド可能に案内されたブロックと、
前記ナットの小径切り込み部下面と前記ブロックの小径部下面との間に配置されたスプリング又は弾性体と、前記スプリング又は弾性体の変形を検出するセンサと、を有し、
前記サーボモータを作動させることにより各前記フィンガーの他端が開閉動作するようにし、各前記フィンガーの他端がワークに当たった後、さらに前記スプリング又は弾性体を変形して前記センサが作動するまで前記サーボモータを作動させた状態で前記ワークを把持させるようにしたことを特徴とする産業用ロボットのハンド装置によって上述した本発明の課題を解決した。
本発明の第2発明では、フレームと、前記フレームに縦方向に回転可能に支持されたボールねじ又は台形ねじと、前記フレームに固定され、前記ボールねじ又は台形ねじを回転駆動するサーボモータと、前記フレームに1端を第1の水平軸の回りに回転可能に支持されかつ前記1端に延長かぎ形部を有する少なくとも2個のL字状フィンガーと、
前記ボールねじ又は台形ねじにかみ合いかつ下方に小径切り込み部を有するナットと、 前記ナットの小径切り込み部に隙間をもって嵌まり合う小径部を有しかつ前記ボールねじ又は台形ねじの軸方向に前記フレーム内周にスライド可能に案内されたブロックと、
各前記フィンガーの前記延長かぎ形部端部に1端は前記第1の水平軸と平行な第2の水平軸の回りに回転可能に支持されかつ他端は前記ブロックに前記第1の水平軸と平行な第3の水平軸の回りに回転可能に支持されたリンクとからなり、
前記ナットの小径切り込み部下面と前記ブロックの小径部下面との間に配置されたスプリング又は弾性体と、前記スプリング又は弾性体の変形を検出するセンサと、を有し、
前記サーボモータを作動させることにより各前記フィンガーの他端が開閉動作するようにし、各前記フィンガーの他端がワークに当たった後、さらに前記スプリング又は弾性体を変形して前記センサが作動するまで前記サーボモータを作動させた状態で前記ワークを把持させるようにしたことを特徴とする産業用ロボットのハンド装置によって上述した本発明の課題を解決した。
【発明の効果】
【0007】
本発明の第1発明又は第2発明では、クランプ動作は、最終的にスプリング又は弾性体が駆動源となるため、ワークの把持を継続する際に新たなエネルギーの供給が不要であり、ワークの長時間把持を少ないエネルギーで設備を稼働することができ、電源ダウン時や制御システムが異常を検出した非常停止時など、ハンド装置への電源を遮断せざるを得ないときも、ハンド装置は把持力を維持することができ、把持しているワークを落下させることがなく、かつ複数のフィンガーの開閉動作を1個のモータで駆動しエヤシリンダを使用しないため、クランプの動作制御が容易でコストを安くすることができ、関節部に歯車などの減速機構を使用せず、ボールねじ又は台形ねじによる大きなトルクを伝達することが可能となり大把持力のハンドを作ることができ、さらに、ワークを把持しているかどうかをセンサの作動/非作動で確認でき、ワークを把持し搬送中している途中で、ワークを取り落とした場合、確実にこれを検出できる産業用ロボットのハンド装置を提供するものとなった。
【0008】
好ましくは、センサが作動中であることを示す信号を、各フィンガーの他端がワークを把持中であることを示す信号として検出するようにすることにより、ワークを把持していることを確認するための追加的な装置を必要としない、産業用ロボットのハンド装置となった。さらに好ましくは、サーボモータにはブレーキが付設されており、センサが作動中であるときにブレーキを作動させ、その後に、前記サーボモータへの動力供給を遮断するようにしたことにより、電源ダウン時や制御システムが異常を検出した非常停止時など、ハンド装置への電源を遮断せざるを得ないときも、ハンド装置は把持力を維持することができ、把持しているワークを落下させることを二重に保証する産業用ロボットのハンド装置を提供するものとなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施形態を、図1、図2を参照して説明する。図1は本発明の第1発明の実施形態の産業用ロボットのハンド装置を示す一部を切り欠いた概略側面ブロック図、図2は本発明の第2発明の実施形態の産業用ロボットのハンド装置を示す一部を切り欠いた概略側面ブロック図である。
【0010】
図1に示すように、本発明の第1発明の実施形態の産業用ロボットのハンド装置は、フレーム 1と、フレーム 1に縦方向に回転可能に支持されたボールねじ 2(台形ねじでもよい)と、フレーム 1に固定され、ボールねじ 2を回転駆動するサーボモータ 3と、フレーム 1に1端を第1の水平軸20の回りに回転可能に支持されかつ1端に延長かぎ形部21を有する少なくとも2個のL字状フィンガー 5と、各フィンガー 5の延長かぎ形部21端部に第1の水平軸20と平行な第2の水平軸22の回りに回転可能に支持されたカムフォロア 6(ローラ又はピンでもよい)と、ボールねじ 2にかみ合いかつ下方に小径切り込み部15を有するナット16と、ナット16の小径切り込み部15に隙間をもって嵌まり合う小径部17とカムフォロア 6を回転可能に支持する溝18とを有しかつ図示しない装置により、ボールねじ 2の軸方向にフレーム内周にスライド可能に案内されたブロック 4と、ナット16の小径切り込み部15下面とブロックの小径部17下面との間に配置されたスプリング 9(弾性体でもよい)と、スプリング 9の変形を検出するセンサ12と、を有し、
サーボモータ 3を作動させることにより各フィンガー 5の他端が開閉動作するようにし、各フィンガー 5の他端がワーク10に当たった後、さらにスプリング 9を変形してセンサ12が作動するまでサーボモータ 3を作動させた状態でワーク10を把持させるようにしたものである。
【0011】
図2に示すように、本発明の第2発明の実施形態の産業用ロボットのハンド装置では、フレーム 1と、フレーム 1に縦方向に回転可能に支持されたボールねじ 2(台形ねじでもよい)と、フレーム 1に固定され、ボールねじ 2を回転駆動するサーボモータ 3と、フレーム 1に1端を第1の水平軸20の回りに回転可能に支持されかつ1端に延長かぎ形部21を有する少なくとも2個のL字状フィンガー 5と、ボールねじ 2にかみ合いかつ下方に小径切り込み部15を有するナット16と、ナット16の小径切り込み部15に隙間をもって嵌まり合う小径部17を有し、カムフォロア 6を回転可能に支持する溝18を有し、かつ図示しない装置により、ボールねじ 2の軸方向にフレーム内周にスライド可能に案内されたブロック 4と、各フィンガー 5の延長かぎ形部21端部に第1の水平軸20と平行な第2の水平軸25の回りに回転可能に支持されかつ他端はブロック 4に第1の水平軸20と平行な第3の水平軸26の回りに回転可能に支持されたリンク19と、ナット16の小径切り込み部15下面とブロックの小径部17下面との間に配置されたスプリング 9(弾性体でもよい)と、スプリング 9の変形を検出するセンサ12と、を有し、サーボモータ 3を作動させることにより各フィンガー 5の他端が開閉動作するようにし、各フィンガー 5の他端がワーク10に当たった後、さらにスプリング 9を変形してセンサ12が作動するまでサーボモータ 3を作動させた状態でワーク10を把持させるようにしたものである。
【0012】
本発明の第1発明又は第2発明の実施形態の産業用ロボットのハンド装置では、クランプ動作は、最終的にスプリング又は弾性体が駆動源となるため、ワークの把持を継続する際に新たなエネルギーの供給が不要であり、ワークの長時間把持を少ないエネルギーで設備を稼働することができ、電源ダウン時や制御システムが異常を検出した非常停止時など、ハンド装置への電源を遮断せざるを得ないときも、ハンド装置は把持力を維持することができ、把持しているワークを落下させることがなく、かつ複数のフィンガーの開閉動作を1個のモータで駆動しエヤシリンダを使用しないため、クランプの動作制御が容易でコストを安くすることができ、関節部に歯車などの減速機構を使用せず、ボールねじ又は台形ねじによる大きなトルクを伝達することが可能となり大把持力のハンドを作ることができ、さらに、ワークを把持しているかどうかをセンサの作動/非作動で確認でき、ワークを把持し搬送中している途中で、ワークを取り落とした場合、確実にこれを検出できる産業用ロボットのハンド装置を提供するものとなった。
【0013】
好ましくは、図1、図2において、センサ12が作動中であることを示す信号を、各フィンガー 5の他端がワーク10を把持中であることを示す信号として検出するようにすることにより、ワークを把持していることを確認するための追加的な装置を必要としない、産業用ロボットのハンド装置となった。さらに好ましくは、サーボモータ 3にはブレーキ13が付設されており、センサ12が作動中であるときにブレーキ13を作動させ、その後に、サーボモータ 3への動力供給を遮断するようにしたことにより、電源ダウン時や制御システムが異常を検出した非常停止時など、ハンド装置への電源を遮断せざるを得ないときも、ハンド装置は把持力を維持することができ、把持しているワークを落下させることを二重に保証する産業用ロボットのハンド装置を提供するものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1発明の実施形態の産業用ロボットのハンド装置を示す一部を切り欠いた概略側面ブロック図である。
【図2】本発明の第2発明の実施形態の産業用ロボットのハンド装置を示す一部を切り欠いた概略側面ブロック図である。
【符号の説明】
【0015】
1 :ハンド装置のフレーム、2 :ボールねじ、3 :サーボモータ、4 :ブロック、5 :フィンガー、6 :カムフォロア、9 :スプリング、10:ワーク、12:センサ、13:ブレーキ、15:小径切り込み部、16:ボールねじのナット、17:小径部、18:溝、19:リンク、20:第1の水平軸、21:延長かぎ形部、22、25:第2の水平軸、26:溝第3の水平軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームと、前記フレームに縦方向に回転可能に支持されたボールねじ又は台形ねじと、前記フレームに固定され、前記ボールねじ又は台形ねじを回転駆動するサーボモータと、前記フレームに1端を第1の水平軸の回りに回転可能に支持されかつ前記1端に延長かぎ形部を有する少なくとも2個のL字状フィンガーと、
各前記フィンガーの前記延長かぎ形部端部に前記第1の水平軸と平行な第2の水平軸の回りに回転可能に支持されたカムフォロア、ローラ又はピンと、
前記ボールねじ又は台形ねじにかみ合いかつ下方に小径切り込み部を有するナットと、 前記ナットの小径切り込み部に隙間をもって嵌まり合う小径部と前記カムフォロア、ローラ又はピンを回転可能に支持する溝とを有しかつ前記ボールねじ又は台形ねじの軸方向に前記フレーム内周にスライド可能に案内されたブロックと、
前記ナットの小径切り込み部下面と前記ブロックの小径部下面との間に配置されたスプリング又は弾性体と、前記スプリング又は弾性体の変形を検出するセンサと、を有し、
前記サーボモータを作動させることにより各前記フィンガーの他端が開閉動作するようにし、各前記フィンガーの他端がワークに当たった後、さらに前記スプリング又は弾性体を変形して前記センサが作動するまで前記サーボモータを作動させた状態で前記ワークを把持させるようにしたことを特徴とする産業用ロボットのハンド装置。
【請求項2】
フレームと、前記フレームに縦方向に回転可能に支持されたボールねじ又は台形ねじと、前記フレームに固定され、前記ボールねじ又は台形ねじを回転駆動するサーボモータと、前記フレームに1端を第1の水平軸の回りに回転可能に支持されかつ前記1端に延長かぎ形部を有する少なくとも2個のL字状フィンガーと、
前記ボールねじ又は台形ねじにかみ合いかつ下方に小径切り込み部を有するナットと、 前記ナットの小径切り込み部に隙間をもって嵌まり合う小径部を有しかつ前記ボールねじ又は台形ねじの軸方向に前記フレーム内周にスライド可能に案内されたブロックと、
各前記フィンガーの前記延長かぎ形部端部に1端は前記第1の水平軸と平行な第2の水平軸の回りに回転可能に支持されかつ他端は前記ブロックに前記第1の水平軸と平行な第3の水平軸の回りに回転可能に支持されたリンクとからなり、
前記ナットの小径切り込み部下面と前記ブロックの小径部下面との間に配置されたスプリング又は弾性体と、前記スプリング又は弾性体の変形を検出するセンサと、を有し、
前記サーボモータを作動させることにより各前記フィンガーの他端が開閉動作するようにし、各前記フィンガーの他端がワークに当たった後、さらに前記スプリング又は弾性体を変形して前記センサが作動するまで前記サーボモータを作動させた状態で前記ワークを把持させるようにしたことを特徴とする産業用ロボットのハンド装置。
【請求項3】
前記センサが作動中であることを示す信号を、各前記フィンガーの他端が前記ワークを把持中であることを示す信号として検出するようにしたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の産業用ロボットのハンド装置。
【請求項4】
前記サーボモータにはブレーキが付設されており、前記センサが作動中であるときに前記ブレーキを作動させ、その後に、前記サーボモータへの動力供給を遮断するようにしたことを特徴とする請求項3記載の産業用ロボットのハンド装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−172735(P2009−172735A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−16004(P2008−16004)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(000005197)株式会社不二越 (625)
【Fターム(参考)】