説明

画像レーダ装置

【課題】PRFの倍増を防ぎ、クロストラック方向の観測幅の減少を防ぐことのできる画像レーダ装置を得る。
【解決手段】送信方向を制御可能な互いに異なる第1および第2の偏波面を有する2つの送受信用のアンテナサブアレイ8a、9aと、送受信アンテナサブアレイに給電する送信手段1、3a、3bと、送受信アンテナサブアレイについて2本以上の受信ビームを形成しながら、送受信アンテナサブアレイで同時に受信する受信手段2、3a、3b、6a、7aと、受信手段で得られた受信信号に対してそれぞれ合成開口レーダ画像を再生する合成開口レーダ画像再生手段11a、11bとを備えている。送信手段は、送信開始から所定時間にわたって連続的に第1の偏波によるパルスを繰り返し送信し、所定時間を越えた後は、連続的に第2の偏波によるパルスを繰り返し送信し、受信手段は、常に第1および第2の両方の偏波でパルス信号を受信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ターゲットの偏波特性を観測するポラリメトリック画像レーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、画像レーダ装置として、ターゲットの偏波特性を観測するポラリメトリックレーダが提案されている(たとえば、非特許文献1参照)。
非特許文献1に記載のポラリメトリックレーダを用いると、ターゲットの電波散乱の偏波特性を観測することが可能になるので、ターゲット識別などに有効であることが知られている。
【0003】
また、航空機や衛星搭載に、この種のポラリメトリックレーダを搭載して合成開口レーダ(SAR:Synthetic Aperture Radar)の観測を行うと、地表面の偏波特性を計測することが可能になるので、土地被覆や地勢の観測に極めて有用であることが知られている。
【0004】
しかしながら、従来のポラリメトリックレーダの観測においては、水平偏波(以下、「H偏波」ともいう)と、垂直偏波(以下、「V偏波」ともいう)とを、交互に送信する必要があるので、単偏波のレーダ観測と比較すると、パルス送信周波数(PRF:Pulse Repetition Frequency)が2倍になるという問題がある。
【0005】
特に、合成開口レーダにおいては、PRFが2倍になることによって、プラットフォーム軌道に対して垂直なクロストラック方向の観測幅が半減してしまうので、アジマス分解能の同等条件で比較した場合に、一度に観測できる領域が狭くなるという問題がある。たとえば、衛星にフルポラリメトリック合成開口レーダを搭載すると、観測幅が狭くなってしまう。
【0006】
そこで、送信偏波を1つに限定して、PRFの倍増を防ぎ、かつ、できるだけポラリメトリ情報を失わないことを目的としたポラリメトリ方式も提案されている(たとえば、非特許文献2参照)。
【0007】
非特許文献2に記載の方式は、コンパクトポラリメトリ方式と命名されている(以下、同方式を「コンパクトポラリメトリ方式」という)。
コンパクトポラリメトリ方式は、1偏波送信・2偏波受信の2チャネル分の信号から、従来のポラリメトリ方式(「コンパクトポラリメトリ方式」と区別するために、以下、「フルポラリメトリ方式」という)の2偏波送信・2偏波受信で得られる信号を推定する方式である。
【0008】
コンパクトポラリメトリ方式においては、まず、送信偏波がH偏波成分と、V偏波成分とを、同時に含むこと(円偏波、または45゜直線偏波など、を選択すること)が原則である。
【0009】
また、1偏波送信・2偏波受信の2チャネル分の信号からフルポラリメトリの信号を推定するためには、非線型な連立方程式を反復的な手法で解く必要がある。
また、コンパクトポラリメトリ方式の成立条件の1つに、観測対象が或る種の対称性を示す必要がある。
【0010】
観測対象の対称性は、自然ターゲット(森林、植生、雪面、海氷、地面、水面など)については一般に成立することが多いが、人口構造物の多い領域(市街地など)では成立しないことが多い。
【0011】
さらに、コンパクトポラリメトリ方式においては、「Polarization Extrapolation Model」なるモデル式を当てはめる必要があるので、成立条件はさらに厳しくなる。したがって、コンパクトポラリメトリ方式によって推定されたフルポラリメトリの信号の推定精度は、地表面の種類によって異なることになる。
【0012】
このように、コンパクトポラリメトリ方式によれば、一偏波のみの送信により、従来のフルポラリメトリックレーダで得られる情報を或る程度復元することが可能になるが、成立条件に厳しい制約が課されてしまう。
【0013】
【非特許文献1】山口芳雄、「レーダポラリメトリの基礎と応用、偏波を用いたレーダリモートセンシング」電子情報通信学会、2007
【非特許文献2】J.C Souyris,P.Imbo,R. Fjortoft,S.Mingot and J.S.Lee,“Compact Polarimetry based on symmetry properties of geophysical media:the π/4 mode,”IEEE Transactions on Geoscience and Remote Sensing,Vol.43,No.3,pp.634−646,Mar.2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来のフルポラリメトリ方式の画像レーダ装置では、PRFが倍増するので、特に合成開口レーダにおいては、クロストラック方向の観測幅が半減するという課題があった。
また、コンパクトポラリメトリ方式は、PRFの倍増を防ぐ1つの手段ではあるが、その成立条件として観測対象がある種の対称性を示すことが要求されるうえ、「Polarization Extrapolation Model」なるモデル式を当てはめる必要があるので、観測対象の性質が同モデルに合致しない場合には、フルポラリメトリの信号の推定精度が著しく劣化するという課題があった。
【0015】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、PRFの倍増を防ぎ、クロストラック方向の観測幅の減少を防ぐことのできる画像レーダ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この発明による画像レーダ装置は、送信方向を制御可能な互いに異なる第1および第2の偏波面を有する2つの送受信アンテナと、2つの送受信アンテナに給電する送信手段と、2つの送受信アンテナについて2本以上の受信ビームを形成しながら、2つの送受信アンテナで同時に受信する受信手段と、受信手段で得られた受信信号に対してそれぞれ合成開口レーダ画像を再生する合成開口レーダ画像再生手段とを備え、送信手段は、送信開始から所定時間にわたって連続的に第1の偏波によるパルスを繰り返し送信し、所定時間を越えた後は、連続的に第2の偏波によるパルスを繰り返し送信し、受信手段は、常に第1および第2の両方の偏波でパルス信号を受信するものである。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、PRFの倍増を防ぎ、クロストラック方向の観測幅の減少を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
実施の形態1.
図1および図2は、この発明に係る画像レーダ装置の動作および原理を説明するための一般的な画像レーダ装置を示すブロック構成図および説明図であり、図1はフルポラリメトリ方式の送受信部の基本構成を示している。また、図2は図1の画像レーダ装置による動作原理を示す説明図であり、水平偏波アンテナ4および垂直偏波アンテナ5の各時刻における動作モードを示している。
【0019】
図3はこの発明の実施の形態1に係る画像レーダ装置を示すブロック構成図であり、送受信部の基本構成を示している。図4および図5は、それぞれ図3の装置による動作を示す説明図であり、図4は水平偏波アンテナサブアレイ8a、8bおよび垂直偏波アンテナサブアレイ9a、9bの各時刻の動作モードについて示している。
【0020】
まず、図1において、一般的な画像レーダ装置は、送信機1と、送信機1に接続された偏波切換器2と、偏波切換器2に接続された送受切換器3a、3bと、送受切換器3aに接続された水平偏波アンテナ4と、送受切換器3bに接続された垂直偏波アンテナ5と、送受切換器3aに接続された水平偏波受信機6と、送受切換器3bに接続された垂直偏波受信機7とを備えている。
なお、図1では図示しないが、水平偏波受信機6および垂直偏波受信機7の後段には、合成開口レーダ画像を再生するための合成開口レーダ画像再生手段が接続されている。
【0021】
水平偏波アンテナ4および垂直偏波アンテナ5は、互いに異なる第1および第2の偏波面を有する2つの送受信アンテナを構成している。
送信機1、偏波切換器2および送受切換器3a、3bは、2つの送受信アンテナに給電するための送信手段を構成している。
送信手段は、送信開始から所定時間にわたって連続的に第1の偏波によるパルスを繰り返し送信し、所定時間を越えた後は、連続的に第2の偏波によるパルスを繰り返し送信する。
【0022】
また、偏波切換器2、送受切換器3a、3b、および水平偏波受信機6、垂直偏波受信機7は、2つの送受信アンテナで同時に受信する受信手段を構成している。
受信手段は、常に第1および第2の両方の偏波でパルス信号(受信信号)を受信する。
合成開口レーダ画像再生手段(図示せず)は、受信手段で得られた受信信号に対してそれぞれ合成開口レーダ画像を再生する。
【0023】
一方、図3に示したこの発明の実施の形態1に係る画像レーダ装置において、図1と同様のものには、前述と同一符号が付されている。
この場合、2つの水平偏波受信機6a、6bのうちの一方の水平偏波受信機6aは、送受切換器3aに接続され、2つの垂直偏波受信機7a、7bのうちの一方の垂直偏波受信機7aは、送受切換器3bに接続されている。
【0024】
2つの水平偏波受信機6a、6bと、2つの垂直偏波受信機7a、7bとは、それぞれ並列配置されており、水平偏波受信機6a、6bの出力端子は、受信ビーム形成手段10aを介して合成開口レーダ画像再生手段11aに接続されている。
同様に、垂直偏波受信機7a、7bの出力端子は、受信ビーム形成手段10bを介して合成開口レーダ画像再生手段11bに接続されている。
【0025】
送受切換器3aに接続された水平偏波アンテナサブアレイ8aは、素子アンテナとして複数の水平偏波アンテナ4aを有し、水平偏波アンテナサブアレイ8bは、素子アンテナとして複数の水平偏波アンテナ4bを有している。
同様に、垂直偏波アンテナサブアレイ9aは、素子アンテナとして複数の垂直偏波アンテナ5aを有し、垂直偏波アンテナサブアレイ9bは、素子アンテナとして複数の垂直偏波アンテナ5bを有している。
【0026】
図3においては、水平偏波アンテナサブアレイ8bおよび垂直偏波アンテナサブアレイ9bは、受信アンテナとして機能する。
なお、送受信アンテナ・受信アンテナとして水平偏波と垂直偏波のアンテナを用いたが、水平偏波と垂直偏波の組み合わせに限る必要は無く、異なる2つの偏波のアンテナを用いればよい。
【0027】
各偏波アンテナサブアレイ8a、8b、9a、9bの各指向特性は、複数の第1素子アンテナ(水平偏波アンテナ4a、4b)および複数の第2素子アンテナ(垂直偏波アンテナ5a、5b)への給電位相が制御されることによって制御される。
【0028】
送信手段は、水平偏波アンテナサブアレイ8a、8b(2つ以上の第1偏波アンテナサブアレイ)のうちの一方の水平偏波アンテナサブアレイ8a(1つ以上の第1偏波アンテナサブアレイ)と、垂直偏波アンテナサブアレイ9a、9b(2つ以上の第2偏波アンテナサブアレイ)のうちの一方の垂直偏波アンテナサブアレイ9a(1つ以上の第2偏波アンテナサブアレイ)とに、それぞれ給電する。
【0029】
受信手段は、各偏波アンテナサブアレイ8a、8b、9a、9bにそれぞれ接続された各受信機6a、6b、7a、7bと、各受信機6a、6b、7a、7bの位相検波処理およびA/D変換処理により得られたデジタル受信信号に対して、デジタル信号処理を施すことにより受信ビームを形成する受信ビーム形成手段10a、10bとを備えている。
【0030】
ここで、図1および図2を参照しながら、まず、フルポラリメトリ方式の原理と、フルポラリメトリ方式による観測量の性質について説明する。
前述の通り、フルポラリメトリ方式によれば、ターゲットの偏波特性を観測することができるが、或るターゲットの偏波特性は、以下の式(1)のように、散乱行列(scattering matrix)Sで表される。
【0031】
【数1】

【0032】
式(1)において、h、vは、それぞれ、水平偏波(H偏波)、垂直偏波(V偏波)を意味している。
また、たとえば、hvは垂直偏波送信、水平偏波受信を示している。なお、hvは、HV偏波成分・HV偏波チャネルなどと称されることもある(このとき、受信偏波・送信偏波の順となる)。
【0033】
水平偏波アンテナ4および垂直偏波アンテナ5(送受信アンテナ)の偏波状態を、それぞれ複素ベクトルEt、Erで表すと、散乱行列Sで与えられる散乱体による散乱波を受信した場合の受信電圧Vおよび受信電力Poは、それぞれ以下の式(2)で表される。
【0034】
【数2】

【0035】
ただし、式(2)において、Kは偏波状態以外のアンテナ特性や距離などで決まる定数、Raは受信アンテナに付加された整合負荷であり、Tは転置を表す。
また、ベクトルノルムを「|| ||」で表せば、||Et||=||Er||=1、を満たすものとする。
【0036】
なお、以下では、送受信の偏波状態に着目して議論を進めるために、式(2)中の偏波状態に関係のない係数K、Raの項を無視して(K=1、8Ra=1として)、以下の式(3)の表現を用いる。
【0037】
【数3】

【0038】
式(1)〜式(3)より、ターゲットの散乱行列Sが観測できれば、任意の送受信偏波の組み合わせにより、観測した場合の受信電圧Vおよび受信電力Poを計算によって求めることが可能なことが分かる。
散乱行列Sを列ベクトルk(「散乱ベクトル」と称される)で表現すると、以下の式(4)のよう表される。
【0039】
【数4】

【0040】
式(4)においては、モノスタティック構成のレーダを考えて、Shv=Svhとして、散乱ベクトルkを表現している。
なお、後の式展開を見易くするために、h、x、v(HH偏波、HVまたはVH偏波、VV偏波)に関して、それぞれ以下の表記をあわせて導入しておく。
【0041】
【数5】

【0042】
図1において、送信機1は、偏波切換器2および送受切換器3aを介して、水平偏波アンテナ4に接続されるとともに、偏波切換器2および送受切換器3bを介して、垂直偏波アンテナ5に接続されている。
また、水平偏波アンテナ4には、送受切換器3aを介して、水平偏波受信機6が接続され、垂直偏波アンテナ5には、送受切換器3bを介して、垂直偏波受信機7が接続されている。
【0043】
まず、送信機1からパルス信号が生成されると、このパルス信号は、偏波切換器2を介して送受切換器3aに送られ、さらに送受切換器3aを介して水平偏波アンテナ4に送られ、水平偏波アンテナ4から空間に放射される。その後、空間に放射されたパルス信号は観測対象によって散乱される。
【0044】
続いて、観測対象によって散乱された散乱波は、水平偏波アンテナ4および垂直偏波アンテナ5の各々により受信される。水平偏波アンテナ4および垂直偏波アンテナ5で受信された各受信信号は、送受切換器3a、3bを介して、水平偏波受信機6および垂直偏波受信機7に送られる。
【0045】
水平偏波受信機6および垂直偏波受信機7は、水平偏波アンテナ4および垂直偏波アンテナ5が受信した散乱波の受信信号のそれぞれに対して、個別に位相検波処理およびA/D変換処理を施し、各受信信号の振幅および位相を示すデジタル受信信号を出力する。
【0046】
続いて、送信機1がパルス信号を再び生成すると、偏波切換器2は、今回のパルス信号を、前回とは異なる送受切換器3bに送る。
したがって、今回のパルス信号は、送受切換器3bを介して垂直偏波アンテナ5から空間に放射される。
【0047】
以下、前述と同様に、観測対象によって散乱された散乱波は、水平偏波アンテナ4および垂直偏波アンテナ5により受信され、散乱波の受信信号は、水平偏波受信機6および垂直偏波受信機7において前回と同様の処理が施されることにより、デジタル受信信号となって出力される。
【0048】
図2において、第1、第2インターバルτ[秒]は、4つの偏波チャネルにおける受信信号のセット(1組)を取得するために要する動作期間であり、図式的にひとまとめで示している。
【0049】
図1の画像レーダ装置は、図2に示す観測動作を複数回反復してデータを蓄積した後、合成開口処理などにより、高分解能のレーダ画像を再生する。なお、合成開口処理については、たとえば、大内和夫著「リモートセンシングのための合成開口レーダの基礎」などに記載されているように公知技術なので、ここでは詳述を省略する。
【0050】
図2のようにして観測されるポラリメトリック合成開口レーダ画像の各画素の値は、シングルルック画像の場合、前述の式(4)に示す散乱ベクトルkで表現される。なお、シングルルック画像とは、合成開口処理によって得られた合成開口レーダ画像の原画像である。
【0051】
一方、ポラリメトリック合成開口レーダ画像の場合、マルチルック処理は、以下の式(5)で定義される共分散行列Cの次元で成立する。
【0052】
【数6】

【0053】
式(5)のように、マルチルック後の各画素の値は、3×3行列で表現される。
ただし、式(5)において、〈 〉は空間平均、上付きの*は複素共役、上付きのHは共役転置をそれぞれ表す。
なお、マルチルック処理とは、合成開口レーダ画像に特有なスペックル雑音を低減するための、パワーの次元での空間平均処理である。
ここでも、表記を簡易にするために、各要素H、X、V、Pを、それぞれ以下のように定義する。
【0054】
【数7】

【0055】
なお、H、X、Vは、それぞれ、HH偏波成分の強度、HV(またはVH)偏波成分の強度、VV偏波成分の強度であり、Pは、HH偏波成分とVV偏波成分との相関である。また、HH偏波成分とVV偏波成分との相関係数ρhvは、以下の式(6)のように定義される。
【0056】
【数8】

【0057】
一般に、観測対象となる地表面には、或る「対称性」が存在しており、フルポラリメトリの観測量、特に共分散行列Cは、この対称性に起因するいくつかの性質を示すことがある。
たとえば、地表面が、電波の入射面について左右対称である場合には、以下の式(7)の関係が成立することが知られている。
【0058】
【数9】

【0059】
このような性質は、「Reflection Symmetry」と呼ばれ、大抵の自然な地表面(植生、森林、水面、土壌面など)において、「Reflection Symmetry」が成立することが知られている。
式(7)より、「Reflection Symmetry」が成立する領域において、共分散行列Cは、以下の式(8)のような形で表される。
【0060】
【数10】

【0061】
以上で、フルポラリメトリ方式の原理と、フルポラリメトリ方式による観測量の性質とについての説明を終了する。
次に、図3〜図5を参照しながら、この発明の実施の形態1の処理動作について説明する。
【0062】
まず、この発明の実施の形態1の要点について述べる。
フルポラリメトリ方式においては、H偏波とV偏波とを交互に送信するが、この発明の実施の形態1においては、合成開口処理に用いるパルス数分だけH偏波を連続で送信した後、V偏波のパルスを同じ数だけ送信する。
【0063】
これにより、PRFの倍増を防ぎ、クロストラック方向の観測幅の減少を防ぐことができる。また、アロングトラック方向(プラットフォームの軌道に平行な方向)に観測のギャップが生じないように、マルチビームによる観測に加えて、スポットライト合成開口レーダ方式に類する形で、このマルチビームの指向性を適切に制御する。
【0064】
図3において、送信機1は、偏波切換器2および送受切換器3aを介して、水平偏波アンテナサブアレイ8aに接続されるとともに、偏波切換器2および送受切換器3bを介して、垂直偏波アンテナサブアレイ9aに接続されている。
水平偏波サブアレイ8aには、送受切換器3aを介して、水平偏波受信機6aが接続され、垂直偏波アンテナサブアレイ9aには、送受切換器3bを介して、垂直偏波受信機7aが接続されている。
【0065】
また、水平偏波サブアレイ8bには、水平偏波受信機6bが接続され、垂直偏波アンテナサブアレイ9bには、垂直偏波受信機7bが接続されている。
さらに、水平偏波受信機6a、6bには、それぞれ、受信ビーム形成手段10aを介して合成開口レーダ画像再生手段11aに接続され、垂直偏波受信機7a、7bには、それぞれ受信ビーム形成手段10bを介して合成開口レーダ画像再生手段11bに接続されている。
【0066】
図5において、プラットフォームは、直線軌道を移動しているものと仮定し、プラットフォームの速度をvとして、軌道上の位置x0から観測を開始するものとする。
まず、画像レーダ装置の送信機1から生成されたパルス信号は、偏波切換器2を介して送受切換器3aに送られ、送受切換器3aを介して水平偏波アンテナサブアレイ8aから空間に放射される。
【0067】
水平偏波アンテナサブアレイ8aは、各素子アンテナ(水平偏波アンテナ4a)への給電に際して、位相が調整(制御)されることによりビームの指向方向が制御され、放射電波を所望の領域に照射する。なお、ここでのビーム指向方向については後述する。
以下、空間に放射されたパルス信号は、観測対象によって散乱される。
【0068】
観測対象によって散乱された散乱波は、水平偏波アンテナサブアレイ8a、8bおよび垂直偏波アンテナサブアレイ9a、9bにより受信され、これら受信信号のうち、水平偏波アンテナサブアレイ8aからの受信信号は、送受切換器3aを介して水平偏波受信機6aに送られ、垂直偏波アンテナサブアレイ9aからの受信信号は、送受切換器3bを介して垂直偏波受信機7aに送られる。
また、水平偏波アンテナサブアレイ8bからの受信信号は、水平偏波受信機6bに送られ、垂直偏波アンテナサブアレイ9bからの受信信号は、垂直偏波受信機7bに送られる。
【0069】
水平偏波受信機6a、6bおよび垂直偏波受信機7a、7bは、水平偏波アンテナサブアレイ8a、8bおよび垂直偏波アンテナサブアレイ9a、9bが受信した散乱波の各受信信号に対して、位相検波処理およびA/D変換処理を施し、各受信信号の振幅および位相を示すデジタル受信信号を出力する。
【0070】
続いて、水平偏波受信機6a、6bからの各デジタル受信信号は、受信ビーム形成手段10aに送られ、垂直偏波受信機7a、7bからの各デジタル受信信号は、受信ビーム形成手段10bに送られる。
受信ビーム形成手段10a、10bは、送信ビームの照射範囲内をそれぞれ2つに分割するように、2本の受信ビームを形成する。
【0071】
プラットフォームが、図5内の軌道範囲x0〜x1に存在している期間にわたって、上記観測処理をパルス繰り返し周期τ[秒]で反復実行する。
続いて、プラットフォームが移動して、軌道位置x1を越えると、送信機1で生成されたパルス信号は、偏波切換器2を介して送受切換器3bに送られ、垂直偏波アンテナサブアレイ9aから空間に放射される。以下、プラットフォームが軌道範囲x1〜x2に存在している期間にわたって、垂直偏波アンテナサブアレイ9aから送信する形で、パルス繰り返し周期τ[秒]で観測を反復する。
【0072】
図4において、合成開口時間では、同じ偏波のパルスが繰り返し送信される。この点が、前述(図2)のフルポラリメトリ方式の観測と比較して最も大きな相違点である。
また、τ[秒]間のパルス繰返し周期の間に、フルポラリメトリ方式の場合は、H偏波およびV偏波のパルスを送信する必要があるが、図4の観測処理においては、τ[秒]間に送信するパルスは1つのみである。つまり、単偏波の観測と比較しても、PRFが倍増することはない。
【0073】
次に、送信ビームおよび受信ビームの指向方向について説明する。
図5においては、簡単化のために、2次元のジオメトリで描画しているが、3次元空間内での観測であっても、ここで説明する内容と本質的に変わりはない。
【0074】
図5に示すプラットフォームの軌道において、プラットフォームが軌道範囲x0〜x1内に存在する期間では、地表面の領域X0〜X2を照射するように、水平偏波アンテナサブアレイ8aの送信ビームを制御する。
また、受信ビーム形成手段10a、10bは、進行方向に対して後ろ側および前側の各受信ビームが、それぞれ、地表面の領域X0〜X1およびX1〜X2を指向するように、受信ビームを形成する。
【0075】
以下、プラットフォームが軌道上を移動するのにともなって、上記観測のシーケンスが反復実行されるので、送信偏波および送信ビームの指向方向を、まとめて一般化して表現すると、以下のようになる。
【0076】
まず、プラットフォームが、各軌道範囲x{2n}〜x{2n+1}(n=0,1,2,・・・)の間に存在する場合には、送信手段は、水平偏波アンテナサブアレイ8aから水平偏波のパルスを送信する。
このとき、送信ビームは、各軌道範囲x{2n}〜x{2n+2}を照射するように制御され、受信ビーム形成手段10a、10bは、進行方向の後ろ側および前側の各受信ビームが、それぞれ、地表面の領域X{2n}〜X{2n+1}と領域X{2n+1}〜X{2n+2}とを指向するように、受信ビームを形成する。
【0077】
一方、プラットフォームが、各軌道範囲x{2n+1}〜x{2n+2}(n=0,1,2,・・・)に存在する場合には、送信手段は、垂直偏波アンテナサブアレイ9aから垂直偏波のパルスを送信する。
このとき、送信ビームは、軌道範囲x{2n+1}〜x{2n+3}を照射するように制御され、受信ビーム形成手段10a、10bは、進行方向の後ろ側および前側の各受信ビームが、それぞれ、地表面の領域X{2n+1}〜X{2n+2}と領域X{2n+2}〜X{2n+3}とを指向するように、受信ビームを形成する。
【0078】
ここで、図5に示すように、各軌道範囲x{2n}〜x{2n+1}の間の距離は、合成開口長Lと一致しており、地表面の領域X{2n}〜X{2n+1}の間の距離も、合成開口長Lと一致している。
以上のように観測することにより、得られる観測量は、次のようになる。
【0079】
まず、地表面の領域X{2n}〜X{2n+1}(n=1,2,・・・)に関する観測量が得られる。
すなわち、プラットフォームが、軌道範囲x{2n}〜x{2n+1}の間に存在している間に、進行方向後ろ側の受信ビームで観測した信号を用いて、HH偏波チャネルおよびVH偏波チャネルの信号が観測される。
また、プラットフォームが、軌道範囲x{2n−1}〜x{2n}の間に存在している間に、進行方向の前側の受信ビームで観測した信号を用いて、HV偏波チャネルおよびVV偏波チャネルの信号が観測される。
【0080】
一方、地表面の領域X{2n+1}〜X{2n+2}(n=0,1,2,・・・)に関する観測量が得られる。
すなわち、プラットフォームが、軌道範囲x{2n}〜x{2n+1}に存在している間に、進行方向の前側の受信ビームで観測した信号を用いて、HH偏波チャネルおよびVH偏波チャネルの信号が観測される。
また、プラットフォームが、軌道範囲x{2n+1}〜x{2n+2}に存在している間に、進行方向の後ろ側の受信ビームで観測した信号を用いて、HV偏波チャネル、VV偏波チャネルの信号が観測される。
【0081】
このように観測することにより、地表面において、アロングトラック方向にデータが欠落する領域も発生せず、すべての領域について、HH、HV、VH、VVの4偏波チャネルに相当する信号を観測することができる。
【0082】
合成開口レーダ画像再生手段11a、11bは、以上で述べた方法で観測された信号を用いて、合成開口レーダ画像再生処理を施す。
具体的には、たとえば、スポットライトモード合成開口レーダ方式により、画像を再生することが可能である。
【0083】
なお、スポットライトモード合成開口レーダ方式については、『W.Carrara他著「Spotlight Synthetic Aperture Radar Signal Processing Algorithms,」Artech House,1995』などに記載されているように公知技術なので、ここでは詳述を省略する。
【0084】
ただし、この場合、参照関数の位相中心の位置に注意する必要がある。
具体的には、プラットフォームが軌道範囲x{2n}〜x{2n+1}に存在する間に観測した信号のうち、進行方向の前側の受信ビームで観測した信号から合成開口処理を施す場合には、その位相中心を軌道位置x{2n+1}に一致させ、進行方向の後ろ側の受信ビームで観測した信号から合成開口処理を施す場合には、その位相中心を軌道位置x{2n}に一致させる。
【0085】
以上のように、この発明の実施の形態1(図3)においては、従来のフルポラリメトリ方式とは異なり、2偏波をパルス毎に交互に送信することがないので、従来のフルポラリメトリ方式と比較して、PRFが半分になり、したがって、アクロストラック方向の観測幅を2倍にすることができる。
【0086】
換言すると、従来のフルポラリメトリ方式の合成開口レーダは、単偏波の合成開口レーダと比較して、観測幅が半減してしまう問題があったが、この発明の実施の形態1によれば、観測幅を、単偏波の合成開口レーダの場合と同等にすることが可能となる。
また、これにより、分解能が低下するなどの副作用が発生することもない。
【0087】
したがって、この発明の実施の形態によれば、合成開口処理に用いるパルス数分だけH偏波を連続で送信した後、V偏波のパルスを同じ数だけ送信することにより、PRFの倍増を防ぎ、クロストラック方向の観測幅の減少を防ぐことができる。
また、マルチビームによる観測に加えて、マルチビームの指向性を適切に制御することにより、アロングトラック方向(プラットフォームの軌道に平行な方向)に観測のギャップが生じないようにすることができる。
【0088】
なお、上記説明では、水平偏波アンテナ4(水平偏波アンテナサブアレイ8a、8b)と垂直偏波アンテナ5(垂直偏波アンテナサブアレイ9a、9b)とを用いたが、直交する2つの偏波の組み合わせであれば、他の任意のアンテナが適用可能なことは言うまでもない。
たとえば、2つの送受信アンテナは、左旋偏波アンテナと、右旋偏波アンテナとにより構成されてもよい。
【0089】
また、特に直交する2つの偏波の組み合わせに限らず、いかなる偏波の組み合わせであっても、同様な観測が成立することは言うまでもない。
さらに、受信ビームの数を2本として説明したが、受信ビームの数を3本以上としても同様の観測が成立することは言うまでもない。
【0090】
実施の形態2.
なお、上記実施の形態1(図1〜図5)では、特に言及しなかったが、図6に示すように、分波器12、移相器13および2次統計量推定手段14を追加挿入してもよい。
以下、図6のブロック構成図を参照しながら、この発明の実施の形態2について説明する。
図6において、前述(図3)と同様のものについては、前述と同一符号を付して詳述を省略する。
【0091】
分波器12は、送信機1と送受切換器3a、3bとの間に挿入され、移相器13は、送受切換器3aと水平偏波アンテナサブアレイ8aとの間に挿入されている。
また、2次統計量推定手段14は、合成開口レーダ画像再生手段11a、11bの後段に接続されている。
【0092】
前述の実施の形態1においては、或る領域に関して、水平偏波送信のチャネル(HH偏波、VH偏波)と、垂直偏波送信のチャネル(HV偏波、VV偏波)とでは、アジマス方向の入射角が異なっているので、観測された特性には、ターゲットの偏波特性に加えて、アジマス方向の角度の特性が含まれてしまう。
【0093】
したがって、前述の実施の形態1で得られた4つの偏波チャネルの信号を用いて、散乱行列S(式(1)参照)と見なしてしまうのは適当ではない場合があると考えられる。
しかし、マルチルック処理によって得られる局所平均の値に対するアジマス方向の入射角の相違の影響は、小さいものと考えられるので、前述の実施の形態1で観測された4つの偏波チャネルのデータ解析には、マルチルック処理で得られる共分散行列C(式(5)参照)を用いるのが適当である。
【0094】
前述の実施の形態1のように水平偏波と垂直偏波とを用いる構成とした場合、前述の式(5)で表される共分散行列Cの各要素(変数)のうち、以下については、マルチルック処理によって直接算出することが可能である。
【0095】
【数11】

【0096】
しかし、HH偏波チャネルとVV偏波チャネルとの相関Pについては、厳密には直接算出することはできない。なぜなら、HH偏波チャネルおよびVV偏波チャネルは、アジマス方向の入射角が違うからである。特に、HH偏波チャネルとVV偏波チャネルとの位相差の情報については、入射角の相違による影響が大きい可能性がある。
【0097】
ところが、HH偏波チャネルとVV偏波チャネルとの相関Pの方が、以下の要素よりも地表面に関する情報を多く含む場合が多い。
【0098】
【数12】

【0099】
よって、これらの要素〈hx〉、〈xv〉よりも、相関Pの情報への要求の方が高い場合がある。
このような場合に対処するために、この発明の実施の形態2においては、送信偏波の組み合わせを、左旋円偏波(L偏波)および45°直線偏波(π/4偏波)とする方式を提案する。
【0100】
図6において、移相器13は、送信手段による給電に際して、水平偏波アンテナサブアレイ8aへの給電位相を制御する。
ここでは、水平偏波アンテナサブアレイ8a、8b(2つの送受信アンテナのうちの一方の送受信アンテナ)のうち、水平偏波アンテナサブアレイ8aのみに移相器13が設けられた例を示している。
【0101】
水平偏波アンテナサブアレイ8a、8bおよび垂直偏波アンテナサブアレイ9a、9bの各指向特性は、複数の第1素子アンテナおよび複数の第2素子アンテナへの給電位相が制御されることによって制御される。
【0102】
送信手段は、水平偏波アンテナサブアレイ8a、8b(2つ以上の水平偏波アンテナサブアレイ)のうちの水平偏波アンテナサブアレイ8a(1つ以上の水平偏波アンテナサブアレイ)と、垂直偏波アンテナサブアレイ9a、9b(2つ以上の垂直偏波アンテナサブアレイ)のうちの垂直偏波アンテナサブアレイ9a(1つ以上の垂直偏波アンテナサブアレイ)とに、それぞれ同時に給電する。
【0103】
これにより、合成された偏波を送信し、送信開始から所定時間にわたって移相器13の値を保持して、水平偏波および垂直偏波の合成によって生成される偏波面を維持するようにパルスを繰り返し送信し、所定時間を越えた後は、移相器13の値を変更して、別の偏波状態で連続的にパルスを繰り返し送信する。
【0104】
また、送信手段は、移相器13により、水平偏波アンテナサブアレイ8aへの給電と、垂直偏波アンテナサブアレイ9aへの給電との位相差が0°となるようにして、45°直線偏波送信を繰り返した後、移相器13により、位相差が90°となるようにして、円偏波送信を繰り返す。
【0105】
受信手段は、水平偏波アンテナサブアレイ8a、8bと、垂直偏波アンテナサブアレイ9a、9bとに、それぞれ接続された各受信機6a、6b、7a、7bと、各受信機6a、6b、7a、7bの位相検波処理およびA/D変換処理により得られたデジタル受信信号に対してデジタル信号処理を施すことにより受信ビームを形成する受信ビーム形成手段10a、10bとを備えている。
【0106】
2次統計量推定手段14は、合成開口レーダ画像再生手段11a、11bにより得られた合成開口レーダ画像から、フルポラリメトリ方式の合成開口レーダ画像において得られる共分散行列を推定する。
【0107】
次に、図6に示したこの発明の実施の形態2による処理動作について説明する。
画像レーダ装置の送信機1からパルス信号が生成されると、パルス信号は、分波器12を介して送受切換器3a、3bに送られ、送受切換器3aと3bを介して水平偏波アンテナサブアレイ8aおよび垂直偏波アンテナサブアレイ9aに送られ、水平偏波アンテナサブアレイ8aおよび垂直偏波アンテナサブアレイ9aから、同時に空間に放射される。
【0108】
このとき、移相器13を制御することにより、水平偏波アンテナサブアレイ8aから放射されるパルスと、垂直偏波アンテナサブアレイ9aから放射されるパルスとの位相差を調整する。
たとえば、位相差は、プラットフォームが軌道範囲x0〜x1に存在する間は0°に調整され、続いて、プラットフォームが軌道範囲x1〜x2に存在する間は90°に調整される。
【0109】
これにより、プラットフォームが軌道範囲x0〜x1に存在する間は、π/4偏波を送信し、プラットフォームが軌道範囲x1〜x2に存在する間は、L偏波を送信することができる。
【0110】
また、水平偏波アンテナサブアレイ8aおよび垂直偏波アンテナサブアレイ9aは、各素子アンテナ(水平偏波アンテナ4aおよび垂直偏波アンテナ5a)への給電に際して、位相調整によりビーム指向方向が制御され、放射電波を所望の領域に照射する。なお、ビーム指向方向については、前述の実施の形態1の場合と同様である。
【0111】
空間に放射されたパルス信号は、前述と同様に、観測対象によって散乱されて散乱波となり、この散乱波は、水平偏波アンテナサブアレイ8a、8bおよび垂直偏波アンテナサブアレイ9a、9bにより受信される。このうち、水平偏波アンテナサブアレイ8aおよび垂直偏波アンテナサブアレイ9aで受信された各受信信号は、送受切換器3a、3bを介して、それぞれ水平偏波受信機6aおよび垂直偏波受信機7aに送られる。
また、水平偏波アンテナサブアレイ8bおよび垂直偏波アンテナサブアレイ9bで受信された各受信信号は、水平偏波受信機6bおよび垂直偏波受信機7bに送られる。
【0112】
水平偏波受信機6a、6bおよび垂直偏波受信機7a、7bは、水平偏波アンテナサブアレイ8a、8bおよび垂直偏波アンテナサブアレイ9a、9bが受信した散乱波の受信信号のそれぞれに対して、位相検波処理およびA/D変換処理を施し、それぞれの受信信号の振幅および位相を示すデジタル受信信号を出力する。
水平偏波受信機6a、6bおよび垂直偏波受信機7a、7bを介したデジタル受信信号は、受信ビーム形成手段10a、10bに送られる。
【0113】
以上の順でパルスを送受信することにより、前述と同様に、アロングトラック方向のすべての領域について、π/4偏波送信、H偏波・V偏波受信の組み合わせと、L偏波送信、H偏波・V偏波受信の組み合わせの計4つの偏波チャネルの信号が観測される。
また、前述と同様に、π/4偏波送信のチャネルとL偏波送信のチャネルとでは、アジマス方向の入射角が異なるが、いずれのチャネルについても、HH偏波成分およびVV偏波成分を同時に含んでいる。これにより、後述の処理を用いて、HH偏波成分とVV偏波成分との相関を求めることが可能となる。
【0114】
以下、送信偏波をL偏波およびπ/4偏波とした場合の観測量と、フルポラリメトリ方式の観測量との関係をまとめて説明する。ここでは、この発明の実施の形態2による観測量での共分散行列と、フルポラリメトリの共分散行列の各要素との関係が重要である。
円偏波(L偏波)送信の場合、H偏波アンテナおよびV偏波アンテナで受信される各受信信号は、それぞれ以下の式(9)のように表される。
【0115】
【数13】

【0116】
ここで、フルポラリメトリ方式の散乱ベクトルk(式(4)参照)と同様に、ベクトル表記すると、シングルルックの観測量kは、以下の式(10)のように表される。
【0117】
【数14】

【0118】
よって、マルチルックによって得られる共分散行列Gは、以下の式(11)で表される。
【0119】
【数15】

【0120】
また、π/4偏波送信の場合、H偏波アンテナおよびV偏波アンテナによる受信信号は、式(9)においてj=1とした、以下の式(12)のように表される。
【0121】
【数16】

【0122】
したがって、シングルルックの観測量kπ/4をベクトル表記すると、以下の式(13)のように表される。
【0123】
【数17】

【0124】
マルチルックによって得られる共分散行列Gπ/4は、以下の式(14)で表される。
【0125】
【数18】

【0126】
前述の式(11)および式(14)のマルチルックに関しては、それぞれの中ではアジマス方向の入射角も一致しているので、全く問題ないが、式(11)と式(14)との関係は、送信偏波が異なるのみでなく、アジマス方向の入射角も異なるので、若干複雑になる。
しかし、このアジマス方向の入射角差は、2次統計量の次元で大きな差異が生じるほどの差ではないと考えられる。なお、この考え方は、マルチルック処理の考え方そのものと言える。
【0127】
以下、2次統計量推定手段14の動作について説明する。
まず、前段の合成開口レーダ画像再生手段11a、11bは、観測された信号に対して合成開口処理を施し、合成開口レーダ画像を得る。
2次統計量推定手段14は、合成開口レーダ画像再生手段11a、11bから得られた合成開口レーダ画像に対して、さらに処理を施す。したがって、衛星搭載合成開口レーダシステムなどにおいては、一般的には、地上局側の処理として実装されることが現実的である。
【0128】
2次統計量推定手段14は、まず、合成開口レーダ画像再生手段11a、11bから出力されたシングルルックの合成開口レーダ画像に対して、式(11)および式(14)で表されるマルチルック処理を施し、観測値の共分散行列G、Gπ/4を得る。
【0129】
続いて、共分散行列G、Gπ/4の情報を用いて、フルポラリメトリ方式で得られる共分散行列を推定する。
この発明の実施の形態2による観測量の共分散行列と、フルポラリメトリの共分散行列の各要素との関係は、前述の式(11)および式(14)に示すように、8つの独立の方程式で表される。
【0130】
ところが、6つの要素H、X、V、P、〈hx〉、〈xv〉のうちの、3つの要素P、〈hx〉、〈xv〉は、それぞれ変数を2つ含む複素数であることから、推定したい未知数は、9つ存在することになる。したがって、このままでは、これらの未知数の値を推定することは不可能である。
【0131】
そこで、観測対象は、「Reflection Symmetry」の条件を満たすことを前提とする。前述の通り、観測対象の地表面が、自然な領域(森林や植生など)であれば、多くの場合に「Reflection Symmetry」が成立する。
したがって、この条件を前提としても、地表面上の広範に渡る領域で問題はないものと予想される。よって、前述の式(7)と同様に、以下の関係が成立する。
【0132】
【数19】

【0133】
これにより、推定すべき共分散行列は、前述の式(8)の形で表され、変数はH、X、V、P(P)の5つに絞られる。なお、このとき、式(11)、式(14)においては、それぞれ、以下の式(15)および式(16)の近似が成立する。
【0134】
【数20】

【0135】
式(15)および式(16)は、H、X、V、Pについて解くことができるが、未知数に対して方程式の数が多い冗長な連立方程式となっているので、解は1つではない。
ここでは、一例として、最小2乗法によって解いた結果を示す。式(15)、式(16)を最小2乗法で解くと、以下の式(17)のような解が得られる。
【0136】
【数21】

【0137】
これにより、2次統計量推定手段14は、式(17)を用いて、フルポラリメトリの共分散行列の各要素H、X、V、Pを推定する。
【0138】
以上のように、この発明の実施の形態2に係る画像レーダ装置(図6)は、送信パルスが常に水平偏波成分と垂直偏波成分とを含むように構成されるとともに、合成開口レーダ画像再生手段11a、11bから得られた合成開口レーダ画像から、フルポラリメトリの共分散行列を推定するための2次統計量推定手段14を備えているので、水平偏波成分と垂直偏波成分との相関を推定することができる効果を奏する。
【0139】
なお、上記実施の形態1、2(図3、図6)では、2つの送受信アンテナとして、各アンテナサブアレイ8a、9aを用いたが、たとえば図1に示した単一の水平偏波アンテナ4および垂直偏波アンテナ5を用いて、それぞれの走査方向を機械的に移動させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】この発明の実施の形態1に係る画像レーダ装置の動作および原理を説明するための一般的な画像レーダ装置を示すブロック構成図である。
【図2】図1の画像レーダ装置による動作原理を示す説明図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る画像レーダ装置を示すブロック構成図である。
【図4】図3の画像レーダ装置による動作を示す説明図である。
【図5】図3の画像レーダ装置による動作を示す説明図である。
【図6】この発明の実施の形態2に係る画像レーダ装置を示すブロック構成図である。
【符号の説明】
【0141】
1 送信機、2 偏波切換器、3a、3b 送受切換器、4、4a、4b 水平偏波アンテナ、5、5a、5b 垂直偏波アンテナ、6、6a、6b 水平偏波受信機、7、7a、7b 垂直偏波受信機、8a、8b 水平偏波アンテナサブアレイ、9a、9b 垂直偏波アンテナサブアレイ、10a、10b 受信ビーム形成手段、11a、11b 合成開口レーダ画像再生手段、12 分波器、13 移相器、14 2次統計量推定手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信方向を制御可能な互いに異なる第1および第2の偏波面を有する2つの送受信アンテナと、
前記2つの送受信アンテナに給電する送信手段と、
前記2つの送受信アンテナについて2本以上の受信ビームを形成しながら、前記2つの送受信アンテナで同時に受信する受信手段と、
前記受信手段で得られた受信信号に対してそれぞれ合成開口レーダ画像を再生する合成開口レーダ画像再生手段とを備え、
前記送信手段は、送信開始から所定時間にわたって連続的に第1の偏波によるパルスを繰り返し送信し、前記所定時間を越えた後は、連続的に第2の偏波によるパルスを繰り返し送信し、
前記受信手段は、常に第1および第2の両方の偏波でパルス信号を受信することを特徴とする画像レーダ装置。
【請求項2】
前記2つの送受信アンテナは、水平偏波アンテナと、垂直偏波アンテナとにより構成されたことを特徴とする請求項1に記載の画像レーダ装置。
【請求項3】
前記2つの送受信アンテナは、左旋偏波アンテナと、右旋偏波アンテナとにより構成されたことを特徴とする請求項1に記載の画像レーダ装置。
【請求項4】
前記2つの送受信アンテナは、各々が複数の第1素子アンテナを有する2つ以上の第1偏波アンテナサブアレイと、各々が複数の第2素子アンテナを有する2つ以上の第2偏波アンテナサブアレイとにより構成され、
前記第1偏波アンテナサブアレイおよび前記第2偏波アンテナサブアレイの各指向特性は、前記複数の第1素子アンテナおよび前記複数の第2素子アンテナへの給電位相が制御されることによって制御され、
前記送信手段は、前記2つ以上の第1偏波アンテナサブアレイのうちの1つ以上の第1偏波アンテナサブアレイと、前記2つ以上の第2偏波アンテナサブアレイのうちの1つ以上の第2偏波アンテナサブアレイとに、それぞれ給電し、
前記受信手段は、
前記2つ以上の第1偏波アンテナサブアレイと、前記2つ以上の第2偏波アンテナサブアレイとに、それぞれ接続された受信機と、
前記受信機の位相検波処理およびA/D変換処理により得られたデジタル受信信号に対してデジタル信号処理を施すことにより前記受信ビームを形成する受信ビーム形成手段と
を備えたことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の画像レーダ装置。
【請求項5】
前記送信手段による給電に際して、前記2つの送受信アンテナのうちの一方の送受信アンテナへの給電位相を制御するための移相器を備え、
前記2つの送受信アンテナは、各々が複数の第1素子アンテナを有する2つ以上の水平偏波アンテナサブアレイと、各々が複数の第2素子アンテナを有する2つ以上の垂直偏波アンテナサブアレイとにより構成され、
前記水平偏波アンテナサブアレイおよび前記垂直偏波アンテナサブアレイの各指向特性は、前記複数の第1素子アンテナおよび前記複数の第2素子アンテナへの給電位相が制御されることによって制御され、
前記送信手段は、
前記2つ以上の水平偏波アンテナサブアレイのうちの1つ以上の水平偏波アンテナサブアレイと、2つ以上の垂直偏波アンテナサブアレイのうちの1つ以上の垂直偏波アンテナサブアレイとに、それぞれ同時に給電することにより、合成された偏波を送信し、
送信開始から前記所定時間にわたって前記移相器の値を保持して水平偏波および垂直偏波の合成によって生成される偏波面を維持するようにパルスを繰り返し送信し、
前記所定時間を越えた後は、前記移相器の値を変更して、別の偏波状態で連続的にパルスを繰り返し送信し、
前記受信手段は、
前記2つ以上の水平偏波アンテナサブアレイと、前記2つ以上の垂直偏波アンテナサブアレイとに、それぞれ接続された受信機と、
前記受信機の位相検波処理およびA/D変換処理により得られたデジタル受信信号に対してデジタル信号処理を施すことにより前記受信ビームを形成する受信ビーム形成手段と
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の画像レーダ装置。
【請求項6】
前記送信手段は、
前記移相器により、前記水平偏波アンテナサブアレイへの給電と、前記垂直偏波アンテナサブアレイへの給電との位相差が0°となるようにして、45°直線偏波送信を繰り返した後、
前記移相器により、前記位相差が90°となるようにして、円偏波送信を繰り返すことを特徴とする請求項5に記載の画像レーダ装置。
【請求項7】
前記合成開口レーダ画像再生手段に接続された2次統計量推定手段を備え、
前記2次統計量推定手段は、前記合成開口レーダ画像再生手段により得られた合成開口レーダ画像から、フルポラリメトリ方式の合成開口レーダ画像において得られる共分散行列を推定することを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の画像レーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−85167(P2010−85167A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252838(P2008−252838)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】