説明

画像加熱装置

【課題】少なくとも誘導発熱体で構成され、画像tを担持した記録材Pに接する回転可能な画像加熱部材15、15Aと、画像加熱部材の外部または内部に配設された磁束発生手段10であって、画像加熱部材の表面における記録材の最大通紙幅領域に対向して配置され交番電流が流される励磁コイル11及び励磁コイルに沿って画像加熱部材の周方向および長手方向に対向する磁性材料からなるコア12とを有する磁束発生手段と、を有する画像加熱装置Fについて、簡単な構成でコアと発熱部材間の漏洩磁束を小さくし、磁束密度を向上させ発熱効率を向上させ、省エネに対応した装置を提供すること。
【解決手段】コア12は画像加熱部材に向けて凸形状の部位12aを有し、凸形状の部位を基軸として励磁コイル11が捲線されており、凸形状の部位の先端側に凸形状の部位の根元部12bの周方向の幅より小さい幅の突起部12dを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は誘導加熱方式の画像加熱装置に関する。画像加熱装置としては、記録材上に形成した未定着画像を固着画像として加熱定着する定着装置や、記録材に定着された画像を再加熱することで画像の光沢度を増大させる光沢度増大装置(画像改質装置)などを挙げることができる。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式、静電記録方式などの複写機、プリンタ、ファックス、それらの複合機能機に代表される画像形成装置においては、シート状の記録材にトナー画像を形成し、これを定着装置により加熱、加圧して定着させることにより画像を形成している。このような定着装置として、内部にヒータを有する定着ローラに加圧ローラを圧接して定着ニップを形成し、定着を行うローラ定着方式が従来採用されている。
【0003】
近年の省エネルギ化に応える手段として、加熱源として高周波誘導を利用した誘導加熱方式の定着装置が提案されている(特許文献1乃至4)。この誘導加熱装置は、金属導体(誘導発熱体)からなる中空の定着ローラの内部又は外部に励磁コイル及び磁性体コアとを有する磁束発生手段が配置されている。そして、励磁コイルに高周波電流を流して生じた高周波磁界により定着ローラに誘導渦電流を発生させ、定着ローラ自体の表皮抵抗によって定着ローラそのものをジュール発熱させるようになっている。
【0004】
この誘導加熱方式の定着装置によれば、電気−熱変換効率がきわめて向上するため、ウォームアップタイムの短縮化が可能となる。
【0005】
また、省エネルギ推進の観点から、熱伝達効率が高く、装置の立ち上がりが速いオンデマンド方式として、熱容量の小さい定着ベルトを介して加熱するベルト加熱方式の誘導加熱装置も採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−084587号公報
【特許文献2】特開2004−198866号公報
【特許文献3】特開平09−306651号公報
【特許文献4】特公平5−9027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような誘導加熱定着において、コイルから生ずる磁束がコアから漏洩することを低減するため、コアの厚みを所定量の厚さにする必要がある。しかし、コアの厚みが大きいと、誘導発熱体の回転方向においてコアの端部の厚みを中央部の厚みと同じ厚みとすると、その端部における磁束は拡散しやすくなる。そのため、発熱効率を高めるには、コアの端部からの磁束密度を高めるような構成が望ましい。
【0008】
そこで、本発明は簡単な構成でコアと発熱部材間の漏洩磁束を小さくし、磁束密度を大きくすることで発熱効率を向上させ、省エネルギに対応した誘導加熱方式の画像加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための本発明に係る画像加熱装置の代表的な構成は、磁束を生ずるコイルと、前記コイルから生ずる磁束により発熱し、記録材の画像を加熱する画像加熱部材と、前記画像加熱部材の回転方向に前記画像加熱部材に沿って配置されたコアと、を有する画像加熱装置において、前記回転方向において前記コアの端部の厚みは中央部の厚みよりも細くなっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、漏洩磁場を抑制し、発熱効率を向上させた誘導加熱方式の画像加熱装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施の形態1における画像形成装置の概略構成模式図である。
【図2】定着装置の要部の横断模式図である。
【図3】磁束発生手段の励磁コイルとメインコア(第1のコア)の斜視図である。
【図4】図2の部分的拡大図である。
【図5】実施の形態1の原理を説明するための磁束密度分布の図である。
【図6】凸形状部位の磁気回路の模式図である。
【図7】定着ローラ上の磁束密度分布の図である。
【図8】発熱効率を確認する方法を示した図である。
【図9】図8に示した励磁ユニットの電気回路を示したものである。
【図10】図8に示した発熱効率確認実験の結果のグラフである。
【図11】凸形状部位の先端部に3つの突起部を具備させた例の模式図である。
【図12】メインコア(第1のコア)の変形例の模式図である。
【図13】実施の形態2のメインコアの凸形状部位部分の拡大横断面図である。
【図14】実施の形態2の定着ローラ上の磁束密度分布の図である。
【図15】実施の形態3における定着装置の要部の横断面模式図である。
【図16】図15の部分的拡大図である。
【図17】実施の形態3の定着ベルト上の磁束密度分布の図である。
【図18】実施の形態4における定着装置の要部の横断面模式図である。
【図19】実施の形態4における他の定着装置の要部の横断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例(実施例)を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0013】
[実施の形態1]
(1)画像形成装置例
図1は本発明に従う誘導加熱方式の画像加熱装置を定着装置Fとして備えた画像形成装置の一例の概略構成模式図である。この画像形成装置は電子写真プロセスを用いたレーザー走査露光方式のデジタル画像形成装置(複写機、プリンタ、ファクシミリ、それらの複合機能機等)である。
【0014】
1は像担持体としての回転ドラム型の感光体(以下、ドラムと記す)であり、矢印R1の時計方向に所定の周速度をもって回転駆動される。2は一次帯電器であり、回転するドラム1の周面をマイナスの所定の暗電位Vdに一様に帯電する。3は像露光手段としてのレーザービームスキャナである。このスキャナ3は、画像読取装置・コンピュータ等のホスト装置Aから制御回路部Bに入力されるデジタル画像信号に対応して変調されたレーザービーム3aを出力してドラム1の一様帯電処理面を走査露光する。
【0015】
この走査露光により、ドラム1の露光部分は電位絶対値が小さくなって明電位Vlとなり、ドラム1の面に画像信号に対応した静電潜像が形成される。静電潜像は現像器4により、ドラム面の露光明電位Vl部にマイナスに帯電したトナーが付着することで、トナー画像tとして顕像化される。
【0016】
一方、不図示の給紙部から給紙されたシート状の記録材Pは、転写バイアスが印加された転写部材としての転写ローラ5とドラム1とが圧接している転写部へ適切なタイミングをもって搬送される。そして、記録材Pの面にドラム1面のトナー画像tが順次に転写される。
【0017】
トナー画像tが形成された記録材Pはドラム1面から分離されて記録材上の未定着画像を加熱して定着させる定着手段としての定着装置(IH定着装置)Fに導入される。そして、定着ニップ部Nで挟持搬送される過程において熱と圧によってトナー画像tが記録材P上に固着画像として定着され、画像形成物として機外に排出される。記録材Pを分離した後のドラム1はクリーニング装置6でドラム面に残った転写残トナーがクリーニングされ、繰り返して作像に供される。
【0018】
(2)定着装置Fの全体的な説明
図2は定着装置Fの要部の横断面模式図である。この定着装置Fは、少なくとも誘導発熱体で構成され、画像tを担持した記録材Pに接する回転可能な画像加熱部材としての定着ローラ15の外部に磁束(磁界)発生手段としての加熱アセンブリ10を配設した外部加熱型の誘導加熱方式の画像加熱装置である。
【0019】
ここで、定着装置Fに関して、正面とは装置Fを記録材入口側から見た面、背面とはその反対側の面(記録材出口側)、左右とは装置Fを正面から見て左または右である。上下とは重力方向において上または下である。上流側とは記録材搬送方向aに関して上流側と下流側である。定着装置Fまたはその構成部材の長手方向とは、回転体の軸線方向(スラスト方向)、または記録材搬送路面内において記録材搬送方向aに直交する方向またはその方向に並行な方向である。短手方向とは記録材搬送方向aに並行な方向である。
【0020】
本例において、定着ローラ15は、誘導発熱体(発熱部材)である鉄等の強磁性体(透磁率の高い金属:磁性部材)製の円筒状(パイプ状)の剛性部材を基体(金属基体)15aとしている。そして、その外周面をトナーとの離型性向上のためにフッ素樹脂等の耐熱性の離型層15bで被覆している。必要に応じて、金属基体15aと離型層15bとの間に弾性層など他の機能層を介在させた構成にすることもできる。
【0021】
定着ローラ15の誘導発熱体である基体15aに強磁性の金属を使うことで、加熱アセンブリ10から発生する磁束を金属内部により多く拘束させることができる。即ち、磁束密度を高くすることができることにより、金属表面に渦電流を発生し、効率的に定着ローラ15を発熱させることができる。
【0022】
定着ローラ15は、左右の両端部が、それぞれ、定着装置の筐体Fa(図1)の左右の側板(不図示)間に軸受部材を介して回転可能に支持されて配設されている。定着ローラ15は制御回路部Bで制御される駆動源である定着モータMにより矢印R15の時計方向に所定の周速度で回転駆動される。
【0023】
定着ローラ15の下側には定着ローラ15に並行に回転可能な画像加圧部材としての加圧ローラ16が配設されている。加圧ローラ16は芯金16aの外周面に耐熱性の弾性層16bと離型層16cを順に積層した弾性ローラである。加圧ローラ16は、左右の両端部が、それぞれ、筐体Faの左右の側板間に軸受部材を介して回転可能に支持されて配設されている。左右の軸受部材はそれぞれ側板に対して上下方向にスライド移動可能に配設されており、加圧手段(不図示)により上方に移動付勢されている。
【0024】
これにより、加圧ローラ16は定着ローラ15に対して弾性層16bの弾性に抗して所定の押圧力で圧接する。この圧接により定着ローラ15と加圧ローラ16との間にローラ周方向(記録材搬送方向a)において所定幅のニップ部(定着ニップ部)Nが形成される。加圧ローラ16は定着ローラ15に圧接している状態において、定着ローラ15の回転駆動に従動して矢印R16の反時計方向に回転する。加圧ローラ16を回転駆動し定着ローラ15を従動回転させる、或いは定着ローラ15と加圧ローラ16との両方を回転駆動する装置構成にすることもできる。
【0025】
磁束発生手段としての加熱アセンブリ10は定着ローラ15を誘導加熱する加熱源(誘導加熱手段)であり、定着ローラ15の上側において、筐体Faの左右の側板間に位置決め固定されて配設されている。アセンブリ10は定着ローラ15の長手に沿って長いホルダーとしてのハウジング(ケーシング)17を有する。そして、このハウジング17の内部に、励磁コイル11(以下、コイルと記す)、磁性材料からなる第1〜第3の磁性体コア(以下、コアと記す)12・13・14等が組み込まれている。
【0026】
ハウジング17は左右方向を長手とする横長箱型の耐熱性樹脂成形品であり、底板17a側が定着ローラ15に対する対向面である。底板17aは横断面において定着ローラ15の外周面の略半周面に沿うようにハウジング内側に湾曲している。ハウジング17は底板17a側を定着ローラ15の上面側に対して所定の隙間を存して対向させて、左右側をそれぞれ筐体Faの左右の側板に対して固着手段で固定して配設されている。
【0027】
コイル11は、図3の斜視図のように、左右方向に長い略楕円形状(横長船形)をしており、定着ローラ15の略上半部側の外周面に沿うように、ハウジング内側に湾曲しているハウジング底板17aの内面にあてがわれてハウシング内部に納められている。即ち、コイル11は、定着ローラ15の長手に沿って長く定着ローラ15の表面における記録材Pの最大通紙幅領域に対向して配置されている。コイル11は芯線として、φ0.1〜0.3mmの細線を略80〜160本程度束ねたリッツ線を用いている。細線には絶縁被覆電線を用いている。このリッツ線を8〜12回巻回してコイル11を構成している。
【0028】
コア12・13・14は磁気回路の効率を上げるためと磁気遮蔽のために用いている。即ち、コア12・13・14は、コイル11の定着ローラ対向面側とは反対側のコイル外側を覆って、コイル11より発生した交流磁束を効率よく定着ローラ15の誘導発熱体である金属基体15a以外に実質漏れないように基体15aに導く役目をしている。コア12・13・14は材質としてフェライト等の高透磁率残留磁束密度の低いものを用いるとよい。
【0029】
第1のコア12はコイル11の外面に沿って定着ローラ15の周方向および長手方向に対向するメインコアであり、コイル11の長さ寸法と略同じ長さ寸法で横断面略半円弧状の部材である。このコア12は、画像加熱部材である定着ローラ15の回転方向に定着ローラ15に沿って配置されたコアであり、左右方向に長い横長船形のコイル11の外面側を覆うことができる。
【0030】
また、このコア12の内面側の短手方向中央部にはコア長手に沿って、定着ローラ15に向けて凸形状の部位12aが設けられている。この凸形状部位12aはコイル11の巻き中心部(横長スリット状孔部)11aに嵌入して定着ローラ15に対向する。即ち、コイル11はこの凸形状部位12aを基軸として捲線された形態となっており、コア12はコイル11の巻き中心部11aとコイル11の外側周囲を囲むように構成されている。
【0031】
第2のコア13はコイル11及び第1のコア12の前側縁部の近傍に縁部長手に沿って配設されているサブコアであり、第1のコア12の長さ寸法と略同じ長さ寸法で横断面略長四角形状の部材である。第3のコア14はコイル11及び第1のコア12の後側縁部の近傍に縁部長手に沿って配設されているサブコアであり、第1のコア12の長さ寸法と略同じ長さ寸法で横断面略長四角形状の部材である。
【0032】
コイル11は制御回路部Bで制御される励磁回路(電磁誘導加熱駆動回路、高周波コンバータ)Cに電気的に接続されている。また定着ローラ15の長手方向の略中央部には定着ローラ15の表面温度を検知する接触式または非接触式のサーミスタ(温度検知手段)THが定着ローラ15の外面に対向して配設されている。このサーミスタTHで検知される温度に関する電気的信号が制御回路部Bに入力される。
【0033】
本例において定着装置Fに対する大小各種幅サイズの記録材Pの導入は記録材幅の中央を基線とする中央基準搬送でなされる。そこで定着ローラ15の表面温度を検知するサーミスタTHは定着ローラ15の少なくとも装置Fに通紙可能な最小幅サイズ記録材の通紙幅領域内に配置される。
【0034】
制御回路部Bは、画像形成スタート信号の入力に基づく所定の制御タイミングにおいて、定着モータMを駆動させる。これにより定着ローラ15が駆動され、加圧ローラ16が従動回転する。また、制御回路部Bは励磁回路Cをオンする。これによりコイル11に高周波電流が流される。そして、コイル11によって発生した交番磁束により定着ローラ15の誘導発熱体である金属基体15aが誘導発熱して定着ローラ15が昇温する。
【0035】
即ち、コイル11は励磁回路Cから供給される交流電流によって交番磁束を発生する。交番磁束はコア12〜14に導かれて定着ローラ15に作用して金属基体15aに渦電流を発生させる。この渦電流は誘導発熱体である金属基体15aの固有抵抗によってジュール熱を発生させる。このように、コイル11に対して交流電流を供給することで発生磁束の作用により定着ローラ15が電磁誘導発熱する。
【0036】
そして、定着ローラ15の表面温度がサーミスタTHで検知される。サーミスタTHから出力される検知温度に関する電気的な情報がA/Dコンバータ(不図示)を介して制御回路部Bへ入力する。制御回路部Bは、サーミスタTHからの温度検知情報に基づいて定着ローラ15が目標温度(定着温度)に昇温して維持されるように励磁回路Cを制御する。即ち励磁回路Cからコイル11に対する供給電力を制御する。
【0037】
上記のようにして、定着ローラ15と加圧ローラ16が回転され、定着ローラ15が所定の定着温度に立ち上がって温調された状態において、ニップ部Nに、未定着トナー画像tを担持した記録材Pが画像面側を定着ローラ15側にして導入される。記録材Pはニップ部Nにおいて定着ローラ15の外面に密着して定着ローラ15と一緒にニップ部Nを挟持搬送されていく。これにより、記録材Pに定着ローラ15の熱が付与され、またニップ圧を受けて未定着トナー画像tが記録材Pの表面に固着画像として熱圧定着される。ニップ部Nを出た記録材Pは定着ローラ15の表面から順次に分離されて排出搬送される。
【0038】
(3)コア12の凸形状の部位12aについて
図4は図2・図3のコア12において、コイル11の巻き中心部11aに嵌入して定着ローラ15に対向している凸形状部位12aの部分の拡大横断面図である。ここで、凸形状部位12aにおいて、コア12の側である基部側を根元部12bとし、定着ローラ15に対向する側である自由端部側を先端部12cとする。また、幅とは定着ローラ15の周方向における寸法である。図5は図4において凸形状部位12aの先端部12cから発振され定着ローラ15の誘導発熱体15a上に作るある瞬間の磁束密度を示したグラフである。
【0039】
凸形状部位12aは先端側(先端部12c)に根元部12bの幅より小さい幅の突起部12dを有することを特徴とする。後述するように、凸形状部位12aの先端部12cの定着ローラ15と対向している面積は、根元部12bの断面積よりも小さくなっているとよい。本例においては、凸形状部位12aの先端部12cは定着ローラ15の周方向に関して2つに分岐して2つの突起部12dを具備している。
【0040】
各突起部12dの定着ローラ15と対向している面積をそれぞれSfとし、根元部12bの断面積をSrとすると、面積Sfは断面積Srと以下の関係式になっている。下記式(1)、式(2)を満たすような範囲で先端部12cのサイズを決めると良い。
【0041】
Bf=Sr・Br/nSf・・・式(1)
nSf<Sr
Bf<Bmax<Bst・・・式(2)
Br:凸形状部位12aの根元部12bの磁束密度
Bf:凸形状部位12aの先端部12cにおける磁束密度
Bmax:最大磁束密度
Bst:飽和磁束密度
n:先端部12cの分岐の数(本例では2個)
先端部12cと対向している定着ローラ15の誘導発熱体15aとの距離hは設計上可能な限り小さくすると良い。距離hが小さいほど誘導発熱体15aが凸形状部位12aの先端部12cから受け取る磁束の漏れは小さくなり、磁束密度が大きくなる。後で説明する発熱のメカニズムに示した式(6)および(7)からもわかるように磁束密度が大きいと定着動作時における誘導発熱体15aの磁束の時間変化は大きくなるため発熱効率が向上する。
【0042】
凸形状部位12aの先端部12cが定着ローラ15の周方向に関して複数に分岐して複数の突起部12dを有している場合において、それらの突起部12dは次のように配置されていることが望ましい。即ち、それぞれの突起部12dの先端から発した磁束が誘導発熱体15aにおいて互いの磁束を干渉しない間隔を保って配置されていることが望ましい。
【0043】
つまり、図4において各突起部12dを含んで形成されるコア先端部同士の幅wは図5のグラフにおける磁束密度の山と山の間の磁束が丁度ゼロになるような距離にするのが望ましい。このとき、定着ローラ15の誘導発熱体15aにおける磁束は互いに干渉することなく、最大になるため、発熱効率を向上させることができる。図5のグラフは電磁界シミュレーションおよび、実験等で得ることができる。
【0044】
突起部12dの高さLは後記の磁束分岐のメカニズムで式(3)および(5)を用いて説明するように、先端部12cの空気層を通る磁束が突起部12dの中を通る磁束に比べて無視できるほど小さくなるような長さとするとよい。
【0045】
実質的には、プリンタ、複写機、ファクシミリ等の画像形成装置で使用される定着装置Fとして、式(1)および(2)を満たすように凸形状部位12aの先端部12cの構造を決めた場合、Lを数mmの長さで設定すればよい。即ち、そのよう設定で、空気層の磁気抵抗は突起部12dの内部の磁気抵抗と比べて非常に大きく、空気層を通る磁束は無視できるほど小さくなる。
【0046】
(磁束分岐のメカニズム)
図6を用いて、凸形状部位12aの根元部12b内を通る磁束が突起部12dを有する先端部12cで分岐、集中する原理を説明する。磁束は、磁気抵抗R、起磁力V、磁束Φの間に、
V=φR
という関係があり、これは電気回路のオームの法則に対応する。従って、電気回路と同等の磁気回路を考えることができる。図6の(a)と(b)は凸形状部位12aの磁気回路の模式図と等価回路である。凸形状部位12aの先端部12cに起磁力Vmが加えられたとき、先端部12cの起磁力をVG、磁気抵抗をRG、磁気抵抗Rm3を流れる磁束をφ3、磁気抵抗Rm3を流れる磁束をφ4とすると、各磁気抵抗、起磁力、磁束の関係は
Vm=φ(Rm1+Rm2+RG
G=Rm3・Rm4/(Rm3+2Rm4)
G=φRG
φ3=VG/Rm3=φRm4/(Rm3+2Rm4)
φ4=VG/Rm4=φRm3/(Rm3+2Rm4)
となる。
【0047】
磁気抵抗Rm3の経路は2つ経路があるので、凸形状部位12aの根元部12bの磁束φとの関係は
2φ34
であるから、磁気抵抗Rm3の経路と磁気抵抗Rm4の経路を通る磁束の比は
φ4/2φ3=Rm3/2Rm4・・・式(3)
となる。このとき磁気抵抗Rm3、Rm4と先端部12cの形状との関係は以下のようになる。
【0048】
Rm3=L/Sf・μm・・・式(4)
Rm4=L/(Sr−2Sf)μ0・・・式(5)
μ0:空気(真空)の透磁率
μm:コアの透磁率
例えば、Sf=10[mm2]、Sm=50[mm2]、μ0=4π×10-7、μm=1000、とすると、先端部12cを通る磁束2φ3と空気層を通る磁束φ4の比は以下のようになる。
【0049】
φ4/2φ3=(Sr−2Sf)/2Sf・μ0・μm=1.9×10-9
従って、空気層を通る部分は無視できる。ただし、先端部12cの形状は式(1)、(2)を満たし、最大磁束密度が飽和磁束密度を超えない範囲使用しなければならない。
【0050】
(発熱のメカニズム)
コイル11は励磁回路Cから供給される交流電流によって交番磁束を発生し、交番磁束はコア12・13・14に導かれて定着ローラ15の誘導発熱体である基体15aに渦電流を発生させる。その渦電流は誘導発熱体の固有抵抗によってジュール熱を発生させる。即ち、コイル11に交流電流を供給することで定着ローラ15が電磁誘導発熱状態になる。
電磁誘導における発熱とは渦電流のジュール損失である。渦電流損失Pは次の式(6)で表される。
【0051】
P=k(t・f・Bmax)2/ρ・・・式(6)
P:渦電流ジュール損失
k:比例定数
t:誘導発熱体の厚み
f:周波数
Bmax:最大磁束密度
ρ:誘導発熱体の抵抗率
また、渦電流を発生させる起電力Eは以下の式(7)に従う。
【0052】
E=−∂Φ/∂t=−S∂B/∂t∝i・・・式(7)
E:渦電流の起電力
Φ:渦電流を発生させている領域の磁束
B:磁束密度
t:時間
i:渦電流
上記の式(7)に従えば、誘導発熱体15aの発熱部に与える最大磁束密度を大きくすることで発熱量を大きくすることができる。
【0053】
以上が基本構成と原理である。次に具体的な装置に対して前述のコア構造(コア12の凸形状部位12aの構造)を用いた例を示す。周波数20kHz以上で動作し総電力1400Wを使用する従来のIH定着装置では総電力1400Wの90%がコイルに投入され、コイルに投入される電力のうち90%から95%が発熱に利用されることが分かっている。従って、総電力の81%から85.5%が発熱に利用されている。
【0054】
従来の定着装置に以下のような条件で上記のコア構造を採用することを考える。飽和磁束密度500mT以上のコア12を使用し、磁界の発振周波数が20kHz以上であり、φ30の定着ローラ15を310rpmで駆動させる定着装置である。この定着装置において、凸形状部位12aの先端部12cと定着ローラ15の距離hを4mmとする。また、先端部12cの総面積Sfを従来の半分(Sf/Sr=1/2)とする。また、コア先端部同士の距離(突起部間距離)wを7.5mmとする。
【0055】
このような装置において、凸形状部位12aの先端部直下の定着ローラ表面上のある瞬間の磁束密度は図7のグラフのようになる。
【0056】
磁界の発振周波数は20kHzであり、定着ローラ15の表面の移動速度は500mm/sであるから、定着ローラ15の表面の移動速度の時間間隔に対して1周期が非常に短く、定着ローラ15の移動速度に対してはほぼ定常的に磁束が存在しているとみなせる。そのため、定着ローラ15のある一点に注目すると図7の磁界の勾配と定着ローラ移動速度に比例した渦電流が発生する。式(8)はこの関係を示している。
【0057】
dB/dt≒ΔB・v/Δx・・・式(8)
定着ローラ15は図7のグラフのx方向に動いていき、磁束密度の山が2つあるため、渦電流の発生量は
2(ΔB1/Δx+ΔB2/Δx)v・・・式(9)
式(9)と図7のグラフから前記構成のコアを従来の定着装置に適用すると6.4%の発熱効率改善が見込まれる。
【0058】
また、発熱効率の改善は図8および図9に示した、発熱効率の確認実験によって確認することができる。図8の(a)は定着ローラ15を外した状態のコイル11とコア12〜14だけの状態を示している。(b)はコイル11、コア12〜14、定着ローラ15によって磁気回路を形成している状態を示している。図8の(a)を表す電気回路が図9の(a)であり、図8の(b)を表す電気回路が図9の(b)である。図9の(c)は(b)の等価回路となっている。
【0059】
図8の(a)に示した構成でコイル11に一定電圧Vcを印加し、流れる電流Icから抵抗Rcを求めることがきる。次に、図8の(b)に示した構成で定着ローラ15を速度v=500mm/sで回転させた状態でコイル11に一定電圧Vzを印加し、流れる電流Izから抵抗を求める。これにより、コイル11の抵抗Rcと先端部12cと定着ローラ15を含んだ抵抗Rzの和で表される合成抵抗(Rc+Rz)を求めることができる。このとき、定着ローラ15の発熱効率は
(1−Rc/(Rc+Rz))×100・・・式(10)
と求めることができる。
【0060】
以上のようにして求めた発熱効率を従来装置と実施の形態1で比較したグラフが図10である。このグラフからは1.8%の改善になっている。従って、定着装置全体の総電力に対する発熱効率は実施の形態1のコア構成を従来機に用いると、81%〜85.5%であったものが、82.6%〜87.1%まで改善することができる。
【0061】
なお、本実施例では、コア12の周方向における端部の厚みを中央部の厚みよりも小さくしている。即ち、図2の12eの部分である。このように、端部の先端の厚みを小さくすることで、先端部における磁束密度を高めることでき、磁束の発散を低減することができる。
【0062】
上記例においては、凸形状部位12aの先端部12cを定着ローラ15の周方向に関して2つに分岐して2つの突起部12dを具備させているが、これに限られない。先端部12cを定着ローラ15の周方向に関して2つ以上の複数に分岐して2つ以上の複数の突起部12dを具備させた構成にすることもできる。図11は3つの突起部12dを具備させて例を示すものである。
【0063】
コア12は、コイル11の外側周囲を囲む部分とコイル11の巻き中心部11aに嵌入する凸形状部位12aの部分とが一体に形成されていなくてもよい。図12のように、コイル11の外側周囲を囲む部分とコイル11の巻き中心部11aに嵌入する凸形状部位12aの部分とが分割されて構成されていてもよい。
【0064】
サブコアであるコア13・14についても、コア12の凸形状部位12aと同様の構造にすることができる。サブコアであるコア13・14は省略した装置構成にすることもできる。
【0065】
[実施の形態2]
図13・図14を用いて実施の形態2について説明する。実施の形態2ではコア12の構成以外の構成、原理は実施の形態1と同様である。
【0066】
(磁性体コア)
図13はコア12において凸形状部位12aの部分の拡大横断面図である。本例においては、コア12の凸形状部位12aの先端部12cを横断面において定着ローラ15に向って山形(テーパ状)に絞り込んだ形状にしている。これにより、凸形状部位12aの先端側に、凸形状部位12aの根元部12bの定着ローラ周方向の幅より小さい幅の1つの突起部12dを具備させている。突起部12dの定着ローラ15と対向している面積Sfと凸形状部位12aの根元部12bの断面積Srは実施の形態1と同様に式(1)および(2)を満たすように決めるとよい。
【0067】
先端部12c(突起部12d)と定着ローラ15との距離hは設計上可能な限り小さくすると良い。距離hが小さいほど定着ローラ15の発熱部が先端部12cから受け取る磁束の漏れは小さくなり、磁束密度が大きくなる。実施の形態1で示した式(6)および(7)からもわかるように磁束密度が大きいと定着動作時における発熱部の磁束の時間変化は大きくなるため発熱効率が向上する。
【0068】
先端部12cが分岐せずに先端部の面積が小さい場合でも凸形状部位12aの根元の磁束が先端部12cに集中するため発熱効率を向上させる効果を得られる。また、実施の形態1と異なり、先端部12cが2つに分岐していないため凸形状部位12aを小型化することができる。
【0069】
ただし、実施の形態1と比べて、発熱体上の渦電流発生量が小さくなるため発熱効率は実施の形態1よりも落ちる。そのため、実施の形態1を適用できず、定着ローラ15を小型化する場合に向いている。
【0070】
以下に周波数20kHz以上で動作し総電力1400Wがであり、総電力の81%から85.5%が発熱に利用されている従来定着装置に実施の形態2のコア12を適用した例を以下に示す。
【0071】
飽和磁束密度500mT以上のコア12を使用し、磁界の発振周波数が20kHz以上であり、φ30の定着ローラ15を310rpmで駆動させる定着装置とする。そして、凸形状部位12aの先端部12cと定着ローラ15の距離hを4mmとし、先端部12cの総面積Sfを従来の半分(Sf/Sr=1/2)とする。このような装置において、先端部12cの直下の定着ローラ表面上のある瞬間の磁束密度は図14のグラフのようになる。
【0072】
磁界の発振周波数は20kHzであり、定着ローラ15の表面の移動速度は500mm/sであるから、定着ローラ15の表面の移動速度の時間間隔に対して1周期が非常に短く、定着ローラ15の移動速度に対してはほぼ定常的に磁束が存在しているとみなせる。そのため定着ローラ15のある一点に注目すると図11の磁界の勾配と定着ローラ移動速度に比例した渦電流が発生する。このとき渦電流は実施の形態1と同様に式(8)に従う。
【0073】
実施の形態2では凸形状部位12aの先端部12cは分岐していないため、図14のように磁束密度の山は1つだけである。従って、定着ローラ15がこの磁束の山を通過する間に発生させる渦電流量は次式に比例する。
【0074】
2ΔB・v/Δx・・・式(11)
式(11)と図11のグラフから実施の形態2のコア12を従来の定着装置に適用すると1.6%の発熱効率改善が見込まれる。また、発熱効率は図7、図8の凸形状部位12aの先端部12cの形状を図10の形状に変更した装置で実施の形態1と同様の方法で求めることができる。
【0075】
[実施の形態3]
図15乃至図17を用いて実施の形態3について説明する。図15は本実施の形態3のIH−ODF定着装置Fの要部の横断右側面の拡大模式図である。IH−ODF定着装置では回転可能な画像加熱部材として、実施の形態1や2における定着ローラ15ではなく、可撓性を有する肉薄の定着ベルト15Aを用いて発熱部材の熱容量を小さくし、温度上昇の立ち上がり性能を向上させている。
【0076】
図15において、20は定着ベルトユニットである。このユニット20の下側と上側に加圧ローラ16と磁束発生手段としての加熱アセンブリ10が配設されている。加圧ローラ16と加熱アセンブリ10は実施の形態1の定着装置のものと同様である。
【0077】
ユニット20は、電磁誘導発熱する磁性部材(金属層、導電部材)で構成される回転可能な画像加熱部材としての円筒状の定着ベルト15Aを有する。また、このベルト15Aの内部に挿入した金属製のステー21を有する。ステー21の下面にはステー長手に沿って圧力付与部材としての加圧パッド22が取り付けられている。また、ステー21の上面側には磁性体コア(以下、内部コアと記す)23がステー21の長手にわたって配設されている。
【0078】
ステー21はニップ部Nに圧力を加えるために剛性が必要であるため、本実施例では鉄製である。パッド22は、ベルト15Aと加圧ローラ16との間に押圧力を作用させて定着ニップ部Nを形成する部材であり、耐熱性樹脂製である。ベルト15Aは上記のステー21・パッド22・内部コア23のアセンブリに対してルーズに外嵌されている。パッド22の長手中央部にはベルト15Aの温度検知手段としてのサーミスタTHが弾性支持部材24を介して配設されている。サーミスタTHはベルト15Aの内面に対して部材24の弾性により弾性的に当接している。
【0079】
ベルト15Aは誘導発熱体である強磁性体製の肉薄の円筒状の金属層を基体とし、全体的に低熱容量で可撓性(弾性)を有し、自由状態においては円筒形状を保持している。鉄、ニッケル、鉄合金や銅、銀などの金属を適宜選択可能である。この金属層に更に離型層や弾性層などの他の適宜の機能層を付加した構成にすることもできる。
【0080】
ユニット20のパッド22と加圧ローラ16とはベルト15Aを挟んで所定の押圧力で圧接していて、ベルト15Aと加圧ローラ16との間に記録材搬送方向aにおいて所定幅のニップ部(定着ニップ部)Nが形成されている。
【0081】
この装置においては、加圧ローラ16が矢印R16の反時計方向に回転駆動される。これにより、ニップ部Nにおける加圧ローラ16の表面とベルト15Aの表面との摩擦力でベルト15Aに回転力が作用する。ベルト15Aはその内面がパッド22の下面に密着して摺動しながらステー21・パッド22・内部コア23の外周りを矢印R15Aの時計方向に加圧ローラ16の回転速度と同じ速度で従動回転する。
【0082】
加熱アセンブリ10のコイル11は交番電流の供給により交番磁束を発生する。その交番磁束が回転しているベルト15Aの上面側においてベルト15Aの金属層に導かれる。そうすると、金属層に渦電流が発生して、その渦電流によるジュール熱によりベルト15Aが昇温していく。ベルト15Aの温度がサーミスタTHにより検知されて制御回路部Bにフィードバックされる。制御回路部BはサーミスタTHから入力する検知温度が所定の目標温度(定着温度)に維持されるように励磁回路Cからコイル11に対する供給電力を制御している。
【0083】
この状態において、ニップ部Nに対して未定着トナー画像tを担持した記録材Pが導入される。記録材Pはニップ部Nにおいてベルト15Aの外周面に密着し、ベルト15Aと一緒にニップ部Nを挟持搬送されていく。これにより、未定着トナー画像tが記録材Pの表面に熱圧定着される。ニップ部Nを通った記録材Pはベルト41の外周面からベルト15Aの表面がニップ部Nの出口部分の変形によって自己分離(曲率分離)して定着装置外へ搬送される。
【0084】
加熱アセンブリ10において、第1のコア12(第一コア:以下、外部コアと記す)の凸形状部位12aは実施の形態1と同様に、図16のように、先端部12cに定着ローラ15の周方向に関して2つに分岐して2つの突起部12dを具備している。
【0085】
内部コア23(第二コア)は、左右方向を長手とする横断面略半円弧状の部材であり、ベルト15Aの内側に配設されてステー21をホルダーとして支持されている。内部コア23はベルト15Aの略上半部を中にして外部配設の加熱アセンブリ10に対向しており、ベルト15Aの略上半部の周方向および長手方向に対向している。
【0086】
内部コア23は加熱アセンブリ10側である外部コア12の凸形状部位12aに対向する位置においてベルト15Aに向けて凸形状の部位23aを有する。ここで、内部コア23の凸形状部位23aにおいて、コア23の側である基部側を根元部23bとし、ベルト15Aに対向する側である自由端部側を先端部23cとする。また、幅とはベルト15の周方向における寸法である。
【0087】
内部コア23の凸形状部位23aも外部コア12の凸形状部位12aと同様に、先端側(先端部23c)に根元部23bの幅より小さい幅の突起部23dを有することを特徴とする。本例においては、凸形状部位23aの先端部23cはベルト15Aの周方向に関して2つに分岐して2つの突起部23dを具備している。外部コア12と内部コア23のそれぞれの突起部12dと23dは同軸で対向していることが望ましい。
【0088】
内部コア23の先端部23cと対向しているベルト15Aとの距離h’は設計上可能な限り小さくすると良い。距離h’が小さいほどベルト15Aの発熱部が内部コア23の先端部23cから受け取る磁束の漏れは小さくなり、磁束密度が大きくなる。
【0089】
実施の形態1で説明した発熱のメカニズムに示した式(6)および(7)からもわかるように磁束密度が大きいと定着動作時における発熱部の磁束の時間変化は大きくなるため発熱効率が向上する。
【0090】
内部コア23の凸形状部位23aの根元部23bの断面積Sr’と内部コア23の突起部23dのベルト15Aに対向した面の面積Sf’の関係は実施の形態1の式(1)および(2)と同様の関係にするとよい。すなわち次式(8)、(9)を満たすような設計にすることよい。
【0091】
Bf’=Sr’Br’/nSf’・・・式(8)
nSf’<Sr’
nSf<Sr
Bf’<Bmax<Bst・・・式(9)
Br’:内部コア23の凸形状部位23aの根元部23bの磁束密度
Bf’:内部コア23の凸形状部位23aの先端部23cにおける磁束密度
Bmax:最大磁束密度
Bst:飽和磁束密度
n:先端部23cの分岐の数(本例では2個)
内部コア23の突起部23dの高さL’は実施の形態1で磁束分岐のメカニズムついて説明した式(3)および(5)を用いて示されているようにするとよい。即ち、先端部23cの空気層を通る磁束が突起部23dの中を通る磁束に比べて無視できるほど小さくなるような長さとするとよい。
【0092】
実質的にはプリンタ、複写機、ファクシミリ等の画像形成装置で使用される加熱方式の定着装置として、式(8)および(9)を満たすように内部コア23の先端部23cの構造を決めた場合つぎのようになる。L’を数mmの長さで設定すれば先端部23cの空気層の磁気抵抗は突起部23dの内部の磁気抵抗と比べて非常に大きく、空気層を通る磁束は無視できるほど小さくなる。また、上記の理由から内部コア23の突起部23d・23dの間の空気層を非磁性体で満たしてもよい。
【0093】
上記の構成を採用することでIH−ODF定着装置Fにおいても磁束の集中による発熱効率の向上が見込まれる。以下に周波数20kHz以上で動作し総電力1400Wがであり、総電力の81%から85.5%が発熱に利用されている従来定着装置に実施の形態3を適用した例を以下に示す。
【0094】
飽和磁束密度500mT以上のコアを図15の装置の外部コア12、内部コア23に使用する。磁界の発振周波数が20kHz以上であり、φ30の定着ベルト15Aを310rpmで駆動させる定着装置である。外部コア12と定着ベルト15Aの距離hを4mmとし、先端部12cの総面積Sfを従来の半分(Sf/Sr=1/2)とする。そして、外部コア12の凸形状部位12aと内部コア23の凸形状部位23aの先端部同士の距離を7.5mmとしたとき、先端部直下の定着ベルト表面上のある瞬間の磁束密度は図17のグラフのようになる。
【0095】
磁界の発振周波数は20kHzであり、定着ベルト15Aの表面の移動速度は500mm/sである。したがって、定着ベルト15Aの表面の移動速度の時間間隔に対して1周期が非常に短く、定着ベルト15Aの移動速度に対してはほぼ定常的に磁束が存在しているとみなせる。そのため定着ベルト15Aのある一点に注目すると図17の磁界の勾配と定着ベルト移動速度に比例した渦電流が発生する。発生する渦電流は実施の形態1と同様に式(8)に従う。
【0096】
定着ベルト15Aは図17のグラフのx方向に動いていき、磁束密度の山が2つあり、それぞれの山は外部コア12側の突起部12dに対応した位置に内部コア23側の突起部23dがあるため実施の形態1よりも磁束が集中しやすく、磁束密度の勾配が大きくなる。図17のグラフを見ると実施の形態1と比べて磁束の山は裾が狭く、独立して存在するため、渦電流の発生量は
4ΔB・v/Δx・・・式(14)
となる。
【0097】
式(14)と図17のグラフから前記構成のコア12・23を従来の定着装置に適用すると5.4%の発熱効率改善が見込まれる。また、発熱効率は図8の定着ローラ15を定着ベルト15Aに置き換えて実施の形態1と同様の方法で求めることができる。
【0098】
[実施の形態4]
実施の形態1や2の定着装置Fにおいて、磁束発生手段としての加熱アセンブリ10を図18のように画像加熱部材である定着ローラ15の内部に配設した内部加熱型の誘導加熱方式の画像加熱装置にすることもできる。
【0099】
また、実施の形態3のIH−ODF定着装置Fにおいても、磁束発生手段としての加熱アセンブリ10を図19のように画像加熱部材である定着ベルト15Aの内部に配設した内部加熱型の誘導加熱方式の画像加熱装置にすることもできる。この場合、加熱アセンブリ10側のコア12は内部コアであり、ベルト15Aを中にして加熱アセンブリ10に対向してベルト15Aの外部に配設されるコア23が外部コアである。
【0100】
[その他の装置構成]
1)回転可能な画像加熱部材は、複数のベルト支持部材に懸回張設されて循環移動するエンドレスベルト状の形態にすることもできる。
【0101】
2)画像加圧部材も加熱手段で加熱する構成にすることもできる。また画像加圧部材は表面を滑性化した加圧パッド等の非回転部材の形態にすることもできる。
【0102】
3)本発明に係る画像加熱装置は、実施形態の定着装置Fとしての使用に限られない。記録材に定着された画像を加熱することにより画像の光沢を増大させる光沢増大装置(画像改質装置)としても有効に使用することができる。
【符号の説明】
【0103】
F・・画像加熱装置、15、15A・・画像加熱部材、10・・磁束発生手段、11・・励磁コイル、12・・コア、12a・・凸形状の部位、12b・・根元部、12c・・突起部、P・・記録材、t・・画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁束を生ずるコイルと、前記コイルから生ずる磁束により発熱し、記録材の画像を加熱する画像加熱部材と、前記画像加熱部材の回転方向に前記画像加熱部材に沿って配置されたコアと、を有する画像加熱装置において、
前記回転方向において前記コアの端部の厚みは中央部の厚みよりも細くなっていることを特徴とする画像加熱装置。
【請求項2】
磁束を生ずるコイルと、前記コイルから生ずる磁束により発熱し、記録材の画像を加熱する画像加熱部材と、前記画像加熱部材に対応して配置されたコアと、を有する画像加熱装置において、
前記コアの前記画像加熱部材の側の端部は、中央部の厚みよりも細くなっていることを特徴とする画像加熱装置。
【請求項3】
前記コアは、巻き回されているコイルの中央部に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の画像加熱装置。
【請求項4】
前記コアの端部に突起部が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の画像加熱装置。
【請求項5】
前記突起部が前記画像加熱部材の周方向において複数あり、それらの突起部は、それぞれの突起部の先端から発した磁束が前記画像加熱部材において互いの磁束を干渉しない間隔を保って配置されていることを特徴とする請求項4に記載の画像加熱装置。
【請求項6】
前記コアは第一コアであり、前記画像加熱部材を介して前記第一コアと対向する位置に配置された第二コアとを有し、前記第一コアと前記第二コアのそれぞれの前記突起部が互いに対向していることを特徴とする請求項5に記載の画像加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−92662(P2013−92662A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234895(P2011−234895)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】