説明

画像形成装置、及び中間転写ベルトの製造方法

【課題】弾性層を有する中間転写ベルトに対して、クリーニングブレードによるクリーニング性能を確保しつつ、転写部においては弾性層に十分な柔らかさを発揮させて転写性能を高められる画像形成装置を提供する。
【解決手段】ウレタンゴムの弾性層の表面からイソシアネート分子を浸透させて加熱処理を行うことにより表面層を硬化処理する。硬化処理によって弾性層の粘弾性が高まる結果、クリーニングブレード通過時の時定数の高い加圧に対しては弾性層の硬さが著しく高まる一方、二次転写部通過時の時定数の低い加圧に対しては柔らかい性質が維持される。これにより、トナー像の転写性を損なうことなくクリーニングブレードによるクリーニング性能が著しく高まる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は弾性層を設けた中間転写ベルトにクリーニングブレードを摺擦させる画像形成装置、詳しくはクリーニングブレードによるクリーニング性能を高めるための弾性層の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性層を設けた中間転写ベルトにトナー像を一次転写して担持させ、中間転写ベルトによって二次転写部へトナー像を搬送させて記録材へ二次転写する画像形成装置が広く用いられている。
【0003】
中間転写ベルトに弾性層を設けると、トナー像と記録材との密着性が改善されるため、トナー像の転写効率が高まり、転写圧力分布の不均一に起因する中抜け等の画像不良も減る。また、表面に凹凸のある記録材に対しても中間転写ベルトの表面が十分に追従できるので、幅広い種類の記録材で転写不良の少ない画像形成が可能になる(特許文献1)。
【0004】
しかし、ゴム材料の弾性層は、表面の安定性や摩擦係数に関してクリーニングブレードとの相性が悪く、クリーニングブレードの摩擦振動やトナーすり抜け、トナーの熱凝着による樹脂皮膜(いわゆるフィルミング)が発生し易くなる(特許文献2)。
【0005】
そのため、クリーニングブレードを組み合わせる中間転写ベルトに形成されたゴム材料の弾性層は、表面がフッ素樹脂コートの離型層で覆われていた(特許文献3)。
【0006】
また、ゴム材料の弾性層を表面に配置した中間転写ベルトに対しては、通常は、クリーニングブレードを採用せず、代わりにウエブクリーニング装置や静電ブラシクリーニング装置が採用されていた(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−097146号公報
【特許文献2】特開2007−114392号公報
【特許文献3】特開2003−29541号公報
【特許文献4】特開2008−122625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
弾性層は、柔らかいほど、転写部におけるトナー像と記録材の密着度が高まって転写効率が高まり、転写時の画像不良も発生しにくくなるが、クリーニングブレードによるクリーニングは著しく困難になる。図3の(b)に示すように、クリーニングブレードのエッジ(19a)が柔らかい弾性層(4b)にめりこんだ状態で摺擦すると、大きな摩擦力が発生して中間転写ベルト(4)の回転を不安定にしてしまう。
【0009】
しかし、クリーニングブレードを用いるクリーニング装置は、構造が簡単で小型化でき、寿命が長くて寿命末期までクリーニング性能が安定している等の利点があるため、弾性層を設けた中間転写ベルトでも採用することが望まれる。このため、クリーニングブレードを使用する際は、弾性層を比較的に硬く形成する必要があり、転写に好ましい十分な柔らかさを利用できなかった。
【0010】
本発明は、弾性層を有する中間転写ベルトに対して、クリーニングブレードによるクリーニング性能を確保しつつ、転写部においては弾性層に十分な柔らかさを発揮させて転写性能を高められる画像形成装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の画像形成装置は、中間転写ベルトと、前記中間転写ベルトに当接して記録材に対するトナー像の転写部を形成する転写ローラと、前記転写部を通過した前記中間転写ベルトの表面にクリーニングブレードを摺擦させて転写残トナーを除去するクリーニング装置とを備えたものである。そして、前記中間転写ベルトは、回転方向の強度を担う基層と、前記基層上に配置されて前記中間転写ベルトの表面に柔軟性を付与する弾性層と、前記弾性層上に配置されて前記弾性層よりも粘弾性の高い高粘弾性層とを有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の画像形成装置は、回転方向の当接長さが短いために厚み方向の圧縮変形速度が大きくなるクリーニングブレード通過時は、高粘弾性層が大きな粘性抵抗を発揮して反力が大きくて固い性質が現れる。しかし、クリーニングブレードに比較して桁違いに当接長さが長いために厚み方向の圧縮変形速度が小さくなる転写部通過時は、高粘弾性層に、反力が小さくて柔らかい性質が現れ、下層の弾性層の厚み方向の柔軟性が表面にまで出てくる。
【0013】
言い換えれば、クリーニングブレード当接部と転写部とにおける当接長さの違いが高粘弾性層の厚み方向の変形抵抗差を形成して、クリーニングブレード当接部における弾性層の圧縮方向の固さを桁違いに高める。これにより、中間転写ベルトの高粘弾性層及び弾性層は、厚み方向の圧縮変形量が少なくなって、クリーニングブレードのエッジのめりこみを少なく保ってクリーニングブレードを通過させる。その結果、クリーニングブレードの摺擦抵抗が安定して、摩擦抵抗も軽減され、中間転写ベルトの速度変動が減少して走行状態が安定する。
【0014】
従って、クリーニングブレードによる実用的なクリーニング性能を確保しつつ、転写部においては弾性層に十分な柔らかさを付与して転写性能を高められる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態の画像形成装置の構成の説明図である。
【図2】ベルトクリーニング装置の構成の説明図である。
【図3】二次転写部通過時とクリーニングブレード通過時の中間転写ベルトの挙動の説明図である。
【図4】実施例1の中間転写ベルトの断面構成の説明図である。
【図5】各種の中間転写ベルトにおける圧縮緩和弾性係数の比較の説明図である。
【図6】中間転写ベルトの圧縮緩和弾性係数の適正範囲の説明図である。
【図7】マスキングを用いたイソシアネート分子の浸透工程の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。本発明は、弾性層を有する中間転写ベルトをクリーニングブレードが摺擦する限りにおいて、実施形態の構成の一部又は全部を、その代替的な構成で置き換えた別の実施形態でも実施できる。
【0017】
従って、クリーニングブレードを用いて中間転写ベルトをクリーニングする画像形成装置であれば、1ドラム型、タンデム型、フルカラー/モノクロの区別無く実施できる。また、本実施形態では、トナー像の形成/転写に係る主要部のみを説明するが、本発明は、必要な機器、装備、筐体構造を加えて、プリンタ、各種印刷機、複写機、FAX、複合機等、種々の用途で実施できる。
【0018】
なお、特許文献1〜4に示される画像形成装置の一般的な事項については、図示を省略して重複する説明を省略する。
【0019】
<画像形成装置>
図1は実施形態の画像形成装置の構成の説明図である。図1に示すように、画像形成装置100は、電子写真方式のフルカラープリンタであって、図示しないコンピュータ等から送られた画像信号に従って記録材Pにフルカラー画像を形成する。
【0020】
画像形成は、ベルトクリーニング装置17及び二次転写ローラ10を中間転写ベルト4から離間させて開始される。最初に、感光ドラム1にイエロートナー像が形成されて中間転写ベルト4へ一次転写される。続いて、感光ドラム1にマゼンタトナー像が形成されて中間転写ベルト4のイエロートナー像に重ねて一次転写される。同様にして、感光ドラム1に順次シアントナー像、ブラックトナー像が形成されて中間転写ベルト4に一次転写される。
【0021】
ブラックトナー像の一次転写中、中間転写ベルト4上のトナー像が対向ローラ15を通過すると、対向ローラ15によって内側面を支持された中間転写ベルト4に二次転写ローラ10が当接して二次転写部T2を形成する。
【0022】
一方、記録材カセット5から引き出された記録材Pは、分離ローラ6によって1枚ずつに分離されてレジストローラ6Rで待機する。レジストローラ6Rは、中間転写ベルト4上の4色のトナー像にタイミングを合わせて二次転写部T2へ記録材Pを送り込む。
【0023】
4色のフルカラートナー像を担持した中間転写ベルト4に重ね合わせて二次転写部T2を記録材Pが挟持搬送される際に、二次転写ローラ10には、トナーの帯電極性と逆極性(正極性)の直流電圧が印加される。これにより、中間転写ベルト4のフルカラートナー像が記録材Pへ二次転写される。
【0024】
フルカラートナー像を二次転写された記録材Pは、定着装置18で一対の加熱ローラに挟持搬送されることにより加熱加圧を受けて表面にフルカラー画像を定着される。フルカラー画像を定着された記録材Pは排出ローラ102を通じて上部トレイ101へ排出される。
【0025】
ブラックトナー像の一次転写中、中間転写ベルト4上のトナー像がテンションローラ13を通過すると、ベルトクリーニング装置17が矢印R3方向に回動して中間転写ベルト4上の転写残トナーを回収可能となる。
【0026】
ベルトクリーニング装置17は、テンションローラ13によって内側面を支持された中間転写ベルト4にクリーニングブレード19を摺擦させて、二次転写を逃れて中間転写ベルト4に残留した転写残トナーを回収する。
【0027】
感光ドラム1の周囲には、コロナ帯電器2、露光装置7、現像装置8、一次転写ローラ12、ドラムクリーニング装置3が配置される。感光ドラム1は、アルミニウムの円筒基材の外周面に帯電極性が負極性のOPC感光層を形成され、100mm/secのプロセススピードで矢印R1方向に回転する。OPC感光層は、チタニルフタロシアニン顔料を用いた電荷発生層とビスフェノールZ型ポリカーボネートをバインダーとする電荷輸送層とを塗布して形成される。ただし、感光ドラム1の感光層は、アモルファスシリコン(a−Si)感光体やSe感光体でも構わない。
【0028】
コロナ帯電器2は、コロナ放電に伴う荷電粒子を感光ドラム1に照射して感光ドラム1の表面を所定の暗部電位VDに帯電させる。露光装置7は、画像データを展開した走査線画像データをON−OFF変調したレーザービームを不図示の回転ミラーで走査して、帯電した感光ドラム1の表面に静電像を書き込む。白地部は露光を受けないで暗部電位VDのまま残り、トナーを付着させる部分が露光により放電されて明部電位VLに電位を低下させる。
【0029】
現像装置8は、現像ロータリー16を回転させて、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの現像器8a、8b、8c、8dを感光ドラム1に対向する現像位置へ位置決め可能である。
【0030】
現像器8aは、トナー(非磁性)とキャリア(磁性)を含む二成分現像剤を帯電させて、固定マグネットロール9aの周囲で回転する現像スリーブ9bに担持させて感光ドラム1を摺擦する。負極性の直流電圧Vdcに交流電圧を重畳した振動電圧が現像スリーブ9bに印加されることにより、現像スリーブ9bから感光ドラム1の明部電位VLの部分へトナーが移転して静電像が反転現像される。
【0031】
トナーは、コアにエステル系ワックスを内包し、樹脂層にスチレン−ブチルアクリレート、表層にスチレンポリエステルの構成からなる重合トナーである。トナーは、懸濁重合法によってトナーの形状係数がSF−1の値が100≦SF−1≦140となり、かつSF−2の値が100≦SF−2≦120となるように作成した。キャリアは、重合法により作成した樹脂磁性キャリアである。
【0032】
一次転写ローラ12は、中間転写ベルト4の内側面を押圧して感光ドラム1と中間転写ベルト4との間に一次転写部T1を形成する。一次転写ローラ12に正極性の直流電圧を印加することにより、負極性に帯電して感光ドラム1に担持されたトナー像が一次転写部T1を通過する中間転写ベルト4に一次転写される。
【0033】
中間転写ベルト4は、駆動ローラ14、テンションローラ13、及び対向ローラ15に掛け渡して支持され、駆動ローラ14に駆動されて、100mm/secのプロセススピードで矢印R2方向に回転する。テンションローラ13は、両端を外側へ向かって総加圧力4kgf〜5kgfでばね付勢されて中間転写ベルト4に張力を付与している。
【0034】
ドラムクリーニング装置3は、感光ドラム1にクリーニングブレード19を摺擦させて、一次転写を逃れて一次転写部T1を通過した感光ドラム1表面の転写残トナーを回収する。
【0035】
電子写真プロセスを用いた画像形成装置には、TCO(ユーザーからみた全体の必要費用)を画期的に下げることが可能な技術が望まれている。近年では、電子写真プロセスを用いた画像形成装置では、フルカラー機が主流となっており、フルカラー機でも本体価格ならびにランニングコストを従来のモノクロ機並みに抑制することが課題となってきている。
【0036】
また、エコロジーの観点から、電子写真プロセスを用いた画像形成装置でも、廃棄物をなくす、すなわち消耗品を減らすこと、消耗品の寿命を延ばすこと、信頼性を上げることが課題となっている。
【0037】
その具体的な課題の1つとして、サービスマンによるメンテナンスサイクルを引き伸ばすことが求められている。メンテナンスサイクルは、部品交換等をしないで画像品質を保てる限界枚数として規定されているが、中間転写ベルトを用いたフルカラープリンタに関して言えば、中間転写ベルトの交換寿命で規定されているのが現状である。
【0038】
フルカラープリンタでは、モノクロプリンタよりも厚いトナー像を転写効率高く記録材へ転写できることが望まれるため、弾性層を有する中間転写ベルトを採用することが望ましい。中間転写ベルトを用いることで、プリンタ本体内部のレイアウトの自由度が向上するためプリンタの小型化にも有利である。
【0039】
中間転写ベルトの表層に弾性層を形成することで、一旦、トナー像が形成される中間転写ベルト上において、トナー像が圧接したときに生じるずり力によって乱れることを防止できる。また、弾性層を有することによって、凹凸を持つ記録材に対して弾性層が追従変形することにより、記録材の凹凸によらずトナー像を均一に転写することが可能である。
【0040】
中間転写ベルトは、画像形成された後に繰り返し使用するために、残留したトナーをクリーニングする必要があり、そのための手段として、ウレタンゴム等のクリーニングブレードを摺擦させてトナーを掻き落とす方法が使用されている。
【0041】
<ベルトクリーニング装置>
図2はベルトクリーニング装置の構成の説明図である。図3は二次転写部通過時とクリーニングブレード通過時の中間転写ベルトの挙動の説明図である。
【0042】
図2に示すように、ベルトクリーニング装置17は、中間転写ベルト4側に開口部21を有するケーシング20を備えている。開口部21には、ウレタンゴム等からなるクリーニングブレード19を支持部材22によって取り付けている。クリーニングブレード19は、ウレタンゴムで構成され、先端外側のエッジ19aを中間転写ベルト4に対してその回転方向に対してカウンター方向に当接させている。
【0043】
ケーシング20の開口部21の下部にはすくいシート23を取り付けており、クリーニングブレード19によって掻き落とされたトナーをケーシング20内に落下させるとともに、中間転写ベルト4側へトナーが逆流することを防止している。
【0044】
ケーシング20内には、回収したトナーを長手方向に排出するための搬送スクリュー24が配置される。クリーニングブレード19によって掻き落とされたトナーは、搬送スクリュー24によってケーシング20の奥側へ向かって長手方向に搬送され、ケーシング20の端部に接続した不図示の回収容器に落下する。このように構成していることで、回収した転写残トナーが停滞してケーシング20内を閉塞させることがない。
【0045】
ベルトクリーニング装置17は、回動軸25を中心にして回動可能に支持されており、圧縮ばね26によって中間転写ベルト4へ向かう方向に付勢されている。揺動カム28は、モータ27に駆動されて、圧縮ばね26の付勢力に逆らってベルトクリーニング装置17を離間方向(矢印R3の逆方向)へ回転させる。
【0046】
揺動カム28を逆方向に回転させることで、圧縮ばね26の付勢力によって中間転写ベルト4にクリーニングブレード19が当接するようになる。このとき、中間転写ベルト4に対するクリーニングブレード19の当接条件は、クリーニングブレード19の単位長さあたりの押し圧が250mN/cmとなるように設定されている。
【0047】
図2を参照して図1に示すように、二次転写部T2において発生した転写残トナーがクリーニングブレード19のエッジ19aに達すると、エッジ19aによって掻き落とされる。そして、クリーニングブレード19で掻き落とされてエッジ19aの近傍に滞留している転写残トナーが中間転写ベルト4の回転によって少量ずつエッジ19aに供給される。これにより、粉体を介在することによる摩擦力の低下が起こり、クリーニングブレード19の振動やめくれ等がない安定した良好なクリーニング性能が得られる。特開平09−218625号公報において、そのようなクリーニング性能を発揮させるためのクリーニングブレードの設計手法が示され、ゴム材料の粘弾性挙動を活用してクリーニング性能を向上させる提案もされている。
【0048】
図3の(a)に示すように、ウレタンゴムの弾性層4bを持つ中間転写ベルト4は、二次転写部T2において厚み方向に容易に圧縮変形するように弾性層4bの固さが設定されている。拡大して示すように、弾性層4bを持つ中間転写ベルト4は、トナー像の輪郭に合わせて弾性層4b自身が変形して密着性を高め、圧力を分散させて画像不良を防止する。
【0049】
図3の(b)に示すように、ベルトクリーニング装置17でクリーニングブレード19を通過する際にも、弾性層4bには、エッジ19aとの接触部で同様な厚み方向の変形が生じる。クリーニングブレード19によるトナーのクリーニングは、エッジ19aでの被クリーニング表面の接線方向に対してトナーをせき止めることでクリーニングする。
【0050】
このため、弾性層4bを持つ中間転写ベルト4をクリーニングブレード19でクリーニングする場合、弾性層4bが変形することで、エッジ19aの当接部をトナーが潜り込んで通過することでクリーニング不良が発生し易くなる。また、摩擦抵抗が大きいためエッジ19aが発熱してトナーを一部融解させ、中間転写ベルト4にトナーを薄層状に固着させてしまういわゆるフィルミング現象が生じ易くなる。
【0051】
このため、柔らかい性質の弾性層4bを使用する場合、クリーニングブレードの代わりに静電ブラシクリーニング装置が採用されていた。しかし、フルカラー画像形成装置の中間転写ベルトのように転写残トナーが4色分で多量に発生する場合は、静電ブラシクリーニング装置では除去が追い付かなくなる。静電ブラシクリーニング装置は、電源を必要とし、構成も複雑である。
【0052】
以下の実施例では、弾性層4bに粘弾性を高めた硬化層4dを形成することで、二次転写部T2では十分に柔らかい性質を持たせつつ、クリーニングブレード19では桁違いに固い性質を発揮させて良好なクリーニング性能を実現している。
【0053】
<実験1>
図4は実施例1の中間転写ベルトの断面構成の説明図である。図5は各種の中間転写ベルトにおける圧縮緩和弾性係数の比較の説明図である。
【0054】
図4の(a)に示すように、実施例1の中間転写ベルト4は、ポリイミドの基層4cの表面にウレタンゴムの弾性層4bを形成し、弾性層4bの表面をフッ素樹脂コートの離型層4aで覆って構成される。基層4cの厚さ80μm、弾性層4bの厚さ300μm、離型層4aの厚さ3μmである。
【0055】
中間転写ベルト4は、回転方向の強度を担う基層4cと、基層上に配置されて中間転写ベルト4の表面に柔軟性を付与する弾性層4bと、弾性層上に配置されて弾性層4bよりも粘弾性の高い高粘弾性層(硬化層4d)とを有する。
【0056】
硬化層4dは、弾性層4bの分子密度を高めて組織を硬化処理することにより形成され、硬化層4dと弾性層4bの境界は組織が連続的である。また、硬化層4dは、深さ方向へ連続的に密度が低くなっている。このような中間転写ベルト4は以下の手順で製作されている。
【0057】
まず、基層4cの製造方法は、熱可塑性樹脂によるシームレスベルトの連続成形を用いる。基層4cは、押出し又はインフレーション成形により、必要な材料を溶融混練した混合物を厚さ80μmのチューブ状に連続的に成形し、適宜、必要な長さの筒状にカットして無端ベルトを製造する。この方法によれば、連続的に成形されるために無端ベルトの製造コストの低減が可能であり、必要な導電性を確保するための比重及び粒径の大きい充填剤を厚み方向に均一に分散することも可能である。
【0058】
次に、第1の工程では、樹脂材料で無端状に形成された基層の表面でイソシアネート分子とアルコールをウレタン反応させて弾性層を形成する。
【0059】
具体的には、エチレンブチレンアジペート系ポリエステルポリオールと4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートより製造したプレポリマーに、1,4−ブタンジオールとトリメチロールプロパンを混合する。さらに、トリエチレンジアミン触媒を含む架橋剤を混合して基層4cの表面に塗布し、一様な300μm厚さに保ってウレタン反応させる。特開2005−156696号公報に示されるように、回転状態で塗布と反応を行わせることで、平坦な塗布層を形成することができる。
【0060】
ここで、架橋剤の混合量を増減させれば、ウレタンの弾性率は変化できるので、混合量を制御して所望の弾性率に調整されたポリウレタンの弾性層4bが得られる。なお、弾性層4bの膜厚は、表面からの圧縮に対して基層4cの影響が出ない十分な膜厚であればよく、300μmには限定されない。
【0061】
次に、第2の工程では、出来上がった弾性層のウレタンゴム組織に表面からイソシアネート分子を含浸させる。ポリウレタンからなる弾性層4bに硬化層4dを形成する処理は、クリーニングブレードに硬化層を設ける方法を転用している。特開2005−156696号公報の段落0071に示されるように、弾性層4bのウレタンゴム組織に、最初のウレタン反応に用いたプレポリマーを浸透させる。
【0062】
具体的には、50℃〜80℃のMDI浴に30秒から5分間の間に定めた所定時間だけ浸漬することで、300μmの弾性層4cに対して種々の厚みの表面層を形成して所望の弾性率(後述する圧縮緩和弾性係数)を設定できる。中間転写ベルト4の外側面のみをMDI浴(イソシアネート浴)させる方法としては、特開2004−290853号公報で提案されているリングコート法を採用した。
【0063】
最終的な表層の硬さは、MDI浴に浸漬している時間に依存しており、時間が長いほど硬化が進み、硬化層の厚さは大きくなる。また、MDI浴の温度に対して浸透速度が変化することから、浸漬時の温度が高い方が弾性率が高くなる。表面から浸透を行うことで、表面から深くなるほど分子密度が連続的に低下して下層の分子密度になめらかに接続する分布が形成される。浸透前後の重量比較から表面近傍では20%程度の密度上昇が推定され、浸透前後で体積比5%程度の膨潤が確認された。
【0064】
次に、第4の工程では、第3の工程に先立たせて、スクレーパーで表面の液体を除去した後に不織布で余分なイソシアネートを拭き取る。余分なイソシアネートは、硬化後に表面突起となって画像品質を低下させたりクリーニングブレードを振動させたりするからである。
【0065】
次に、第3の工程では、イソシアネート分子を含浸させた前記弾性層を加熱処理して表面層の組織に重合させる。具体的には、130℃の窒素雰囲気のオーブンで60分キュアして製造される。特開2005−156696号公報に示されるように、硬化反応は、弾性層4bの元々の分子鎖に浸透させた分子の側鎖が形成されて三次元的にからみあう現象である。
【0066】
次に、硬化処理を行った弾性層4bの表面全体にフッ素樹脂の離型層4aを形成する。離型層4aとして、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)の層を層厚10μm形成する。
【0067】
実施例1では、中間転写ベルト4の基層4cに使用される材料として熱可塑性ポリイミドを用いたが、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリアリレート等でもかまわない。
【0068】
実施例1では、中間転写ベルト4の弾性層4bにウレタンゴムを用いたが、表層に硬化層を設けることのできる他のエラストマー等を用いても良い。
【0069】
弾性層4bの別の成形方法としては、上記各成分を、一度に混合して金型又は遠心成形円筒金型に注型して成形するワンショット法を採用してもよい。
【0070】
弾性層4bの別の成形方法としては、イソシアネートとポリオールをあらかじめ反応させてプレポリマーとし、その後、架橋剤を混合して金型又は遠心成形円筒金型に注型して成形するプレポリマー法を採用してもよい。
【0071】
弾性層4bの別の成形方法としては、イソシアネートにポリオールを反応させたセミプレポリマーと、架橋剤にポリオールを添加した硬化剤を反応させて金型又は遠心成形円筒金型に注型して成形するセミワンショット法を採用してもよい。
【0072】
図4の(b)に示すように、実施例2の中間転写ベルト4は、実施例1の中間転写ベルト4と同様に弾性層4bの硬化処理を行ったままで、離型層4aを形成していない。後述するように、この場合も実施例1と同程度に良好なクリーニング性能が確認された。
【0073】
図4の(c)に示すように、比較例2の中間転写ベルト4は、実施例1、2と同様に基層4c上に弾性層4bを形成しているが、その後、弾性層4bの硬化処理を行っていない。
【0074】
これらの中間転写ベルトでクリーニングブレード19に対する摩擦係数を測定し、画像形成装置100に実装してクリーニング性能を評価した。
【0075】
【表1】

【0076】
表1に示すように、通常、ウレタンゴムのクリーニングブレードにウレタンゴムの弾性層を直接摺擦させると、大きな摩擦抵抗が発生して、クリーニングブレードのエッジが反転するいわゆるめくれが発生する。しかし、実施例2では、弾性層4bに硬化処理を施すことで、クリーニングブレードに対する摩擦係数が大きく低下するため、中間転写ベルト4の安定した走行性能と良好なクリーニング性能を確認できた。
【0077】
<圧縮緩和弾性係数>
一般に、樹脂、ゴムは粘弾性特性をもっており、時間応答の速い荷重では硬く、遅い荷重では柔らかい性質をもっている。本発明では、粘弾性特性の異なる材質を積層することで、時間応答に対する弾性率を変化させている。
【0078】
図5に示すように、中間転写ベルト4の表面を厚み方向に圧縮変形させた直後から時間経過とともに低下する厚み方向の反力を測定して硬化層4dの効果を評価する。図4の(a)に示す硬化層4dを形成した中間転写ベルト4は、図4の(c)に示す硬化層4dの無い比較例2よりも厚み方向の反力が大きく減少する。
【0079】
ここで、中間転写ベルト4がクリーニングブレード19を通過するために必要な時間に対応させた圧縮後経過時間で測定した中間転写ベルトの表面の圧縮緩和弾性係数をE1とする。また、中間転写ベルト4が転写部(T2)を通過するために必要な時間に対応させた圧縮後経過時間で測定した中間転写ベルト4の表面の圧縮緩和弾性係数をE2とする。このとき、実施例1、2は、E1/E2>50である。
【0080】
実施例1では、中間転写ベルト4の弾性層4bの厚み方向の変形し易さを評価するために圧縮緩和弾性係数による評価を行っている。特開2007−25456号公報に示すように、圧縮緩和弾性係数は、圧縮変形後の時間経過とともに変化する反力を測定してみかけ上の弾性係数を演算するもので、材料の粘弾性的な硬さを評価するために用いられる。
【0081】
圧縮緩和弾性係数は、微小硬さ測定装置フィッシャースコープH100V(Fischer社製)を用いて測定した。圧縮緩和弾性係数を測定する方法は、特開2007−25456号公報に示されている方法を用いる。フィッシャースコープは、対面角136°のビッカース四角錘ダイヤモンド圧子を使用した圧子に連続的に荷重をかけ、荷重下での押し込み深さを直読することにより連続的硬さを求める。
【0082】
図5に示すように、フィッシャースコープによる上記測定法において、圧縮緩和弾性係数を規定する所望の時間(t秒)の10分の1の時間で押し込みを深さ0.1μmまで行う。その後、t秒後の荷重から計算される弾性率を圧縮緩和弾性係数E(t)(単位MPa)と定義した。
【0083】
中間転写ベルト4の周速度、すなわちプロセススピードを100mm/secとすれば、二次転写部T2における中間転写ベルト4の通過時間は、二次転写部T2でのニップ幅が数mmであることから約0.1秒である。このため、圧縮緩和弾性係数E(0.1)は、二次転写部T2での中間転写ベルト4の変形し易さとして挙動する。
【0084】
また、クリーニングブレード19当接部での中間転写ベルト4の通過時間は、クリーニングブレード19のニップ幅が一般的に数100μmであることから約0.01秒である。このため、圧縮緩和弾性係数E(0.01)は、クリーニングブレード19当接部での中間転写ベルト4の硬さとして挙動する。
【0085】
すなわち、クリーニングブレード19通過時の弾性層4bの硬さは、t=0.01秒として、圧縮緩和弾性係数E(0.01)を評価した。図3の(b)に示すように、クリーニングブレード19当接部における中間転写ベルト4の回転方向の変形長さは実測1mmであった。プロセススピード100mm/secで回転する中間転写ベルト4は、この変形長さ部分を0.01秒で通過するため、t=0.01秒とした。
【0086】
また、二次転写部T2通過時の弾性層4bの硬さは、t=0.1秒として圧縮緩和弾性係数E(0.1)を評価した。図3の(a)に示すように、プロセススピード100mm/secで回転する中間転写ベルト4は、回転方向のニップ長さが実測10mmの二次転写部T2を0.1秒で通過するため、t=0.1秒とした。
【0087】
図5に示すように、基層4cのみで弾性層4bを持たない中間転写ベルトの場合、圧縮緩和弾性係数Eは時間経過と無関係にほぼ一定である。
【0088】
これに対して、基層4c上に弾性層4bを形成した比較例2(弾性層4bのみ)では、基層4cに比較して弾性層4bの弾性が低いため、圧縮緩和弾性係数Eが比較例1に比較して大きく低下する。
【0089】
また、比較例2(弾性層4bのみ)に離型層4aを形成した比較例3では、比較例2に離型層4aの弾性が単純加算された傾向となる。
【0090】
そして、弾性層4bに対して硬化処理を施した実施例1、2では、弾性層4bの硬さに粘弾性的な性質が強化される。このため、比較例2、3に比較して圧縮緩和弾性係数E(0.01)が著しく高まって、クリーニングブレード19通過時の圧縮に対して大きく抵抗してあまり変形しない性質が現れる。一方、比較例2、3に比較して圧縮緩和弾性係数E(0.1)は同程度であるため、二次転写部T2通過時の圧縮に対しては、抵抗少なく大きく変形してトナー像及び記録材に密着する性質が現れる。なお、実際には、硬化層4dの粘性抵抗によってニップ幅はさらに短くなり、その結果、クリーニングブレード19に対しては、中間転写ベルト4の表面は圧縮緩和弾性係数E(0.01)よりも硬い性質を発揮していると考えられる。
【0091】
これらの中間転写ベルトを画像形成装置100に実装してクリーニング性能を評価した結果を表2に示す。具体的には、これらの構成を持つように改造した複写機「商品名:iRC3100(キヤノン社製)」を用いて、50000枚連続画像形成後の出力画像とクリーニング性能で評価した。
【0092】
【表2】

実施例1:基層+弾性層+硬化処理+離型層
実施例2:基層+弾性層+硬化処理
比較例1:基層
比較例2:基層+弾性層
比較例3:基層+弾性層+離型層
【0093】
表2に示すように、比較例1は、基層4cのみで弾性層4bが無いため、クリーニング性能は良好だが、二次転写部T2で転写圧力分布が偏って転写不良を引き起したと考えられる。比較例2、比較例3は、弾性層4bを設けたために転写性能は改善されたが、硬化処理を施していないため、クリーニング性能が不十分である。実施例1、2は、弾性層4bに硬化処理を施しているため、転写性能を損なうことなく、クリーニング性能が改善されている。
【0094】
実施例1、2は、二次転写部T2では中間転写ベルト4が柔らかく挙動することで、中間転写ベルト4が弾性層4bを持つことによる良好な画像が得られる。そして、クリーニングブレード19当接部では中間転写ベルト4が硬く挙動することで、良好なクリーニング性能を発揮できる。
【0095】
<実験2>
図6は中間転写ベルトの圧縮緩和弾性係数の適正範囲の説明図である。実験1で、離型層4aが無くても十分なクリーニング性能が得られることが確認されたので、ここからは離型層4aを形成しないで(より厳しい条件で)、硬化層4dの最適条件を調べた。
【0096】
弾性層の組成密度及び硬化処理条件を異ならせて、圧縮緩和弾性係数E(0.01)及び圧縮緩和弾性係数E(0.1)の異なる中間転写ベルトを試作してトナー像の転写性能とクリーニング性能を比較した。中間転写ベルト4は、導電性ポリウレタンの弾性層4bの表層にイソシアネートによる硬化層4dを設けたもので、弾性層4bの元々の弾性率、層厚さ、硬化処理条件を変更することで、所望の圧縮緩和弾性係数が得られる。圧縮緩和弾性係数は、画像形成装置100の実使用温度である25℃で測定する。
【0097】
【表3】

実施例3:中密度弾性層+浸透2分
実施例4:低密度弾性層+浸透5分
実施例5:中密度弾性層+浸透5分
比較例4:低密度弾性層+浸透10分
比較例5:低密度弾性層+浸透20分
比較例6:低密度弾性層+浸透10分
比較例7:低密度弾性層+浸透5分
比較例8:高密度弾性層+浸透2分
比較例9:高密度弾性層+浸透5分
比較例10:高密度弾性層+浸透10分
【0098】
図6に示すように、表3の実験結果から、0.1秒後の圧縮緩和弾性係数が0.95MPaより小さければ、転写部位におけるトナー像が押圧により乱されることなく、中抜け画像が発生しない良好な画像を得ることができる。これは、転写部での実効的な面圧は約0.1MPaでありトナー像転写時に変形させるのに必要な弾性率以下の柔らかさであればよいからである。
【0099】
また、0.1秒後の圧縮緩和弾性係数E(0.1)が0.15MPaより大きければ、基層4cと弾性層4bとの回転方向のずれが生じずに、色ずれ等の生じない良好な画像を得ることができる。これは、中間転写ベルト4が無端ベルトであり、テンションをかけて回転駆動しているときに二次転写部T2における面圧が約0.01MPaであることから、それ以上で充分に大きなの弾性率であれば良好な回転状態を維持できるからである。
【0100】
さらに、0.01秒後の圧縮緩和弾性係数E(0.01)が52MPaより大きければ、クリーニングブレード19のエッジ19a当接部での中間転写ベルト4の変形が十分い小さくて済む。このため、トナー粒子がクリーニングブレード19により弾性層4bに埋め込まれて通過するクリーニング不良が生じて、中間転写ベルト4にフィルミングが発生することが抑制される。これは、クリーニングブレード19の一般的な弾性係数(数MPa)よりも大きいことで、中間転写ベルト4は、あまり変形することなしに表面のトナーを除去されるからである。
【0101】
また、0.01秒後の圧縮緩和弾性係数E(0.01)が490MPaより小さいと、弾性層4bと基層4cとの弾性率の差が大きいことで生じる回転方向のずれが十分に少なくなる。このため、クリーニングブレード19当接部の中間転写ベルト4の変形が生じることなく、ビビリ音等が生じることがない。これは、クリーニングブレード19の一般的な面圧は50MPa程度であるが、大変形する中間転写ベルト4の弾性層4bの弾性率の10分の1以上よりも小さいことで、中間転写ベルト4はほとんど変形しなくなるからである。変形量が0.5%程度であるため、クリーニングブレード19との摺動負荷に対して、中間転写ベルト4の変形が追随して、安定した当接状態を維持できる。
【0102】
比較例1は、0.01秒後の圧縮緩和弾性係数E(0.01)が490MPaを超えているのにもかかわらず、クリーニング性能は良好である。これは、弾性層4bを持たない被クリーニング体のため、中間転写ベルト4の厚み方向の変形が無い場合であるからである。一方、良好な転写性能を得るために弾性層4bを形成して、中間転写ベルト4が厚み方向に変形し得る場合、圧縮緩和弾性係数E(0.01)が490MPaを超えると、比較例10のようにクリーニングブレード19のビビリ現象が発生する。
【0103】
<実験3>
図7はマスキングを用いたイソシアネート分子の浸透工程の説明図である。
【0104】
図7に示すように、実験3では、特開2005−156696号公報に示されるように、イソシアネート分子の浸透工程でスリット状のマスキングを行って、図4の(a)に示す弾性層4bの表層(4d)をスリットパターン状に硬化処理した。
【0105】
そして、特開2005−156696号公報に示されるように、スリットパターンのピッチを異ならせて、弾性層4bの表層(4d)の引張弾性率の最適範囲を調べた。画像形成装置100及び中間転写ベルト4の材料、硬化処理等は実験2と同じである。その結果、中間転写ベルト4の表層(4d)の進行方向に対する引張弾性率は、50MPa〜450MPaが望ましいことが判明した。弾性層4bの表層(4d)を厚さ50μmにスライスして測定した引張弾性率をE3とするとき、50MPa≦E3≦450MPaであることが望ましいことが判明した。
【0106】
表層(4d)の引張弾性率は、微小試料の引張試験が可能な粘弾性測定装置(RSA−II:レオメトリックス社製)を用いて測定した。中間転写ベルト4の表層(4d)表層のみを幅0.5mm、長さ3mm、厚さ50μmに切り取って、粘弾性測定装置により5%伸張時の弾性率を測定した。中間転写ベルト4は、ポリイミドの無端ベルト材を基層4cとし、導電性ポリウレタンゴムを弾性層4bとしたものである。
【0107】
中間転写ベルト4の材質に対する圧縮緩和弾性係数と表層の引張弾性率を表4に示す。圧縮緩和弾性係数と引張弾性率は、画像形成装置100の実使用温度である25℃で測定する。
【0108】
【表4】

実施例2S:実施例2+ピッチ2mm隙間0.5mmパターンによるマスキング浸透
実施例4S:実施例4+ピッチ2mm隙間1.5mmパターンによるマスキング浸透
比較例2S:実施例2+ピッチ2mm隙間1.5mmパターンによるマスキング浸透
比較例4S:実施例4+ピッチ2mm隙間0.5mmパターンによるマスキング浸透
【0109】
実施例2S、比較例2Sは、実験2で用いた実施例2の中間転写ベルト4でマスキングを行ってイソシアネート分子を含侵させ、表層硬化処理を施した。実施例4S、比較例4Sは、実験2で用いた実施例4の中間転写ベルト4でマスキングを行ってイソシアネート分子を含侵させ、硬化処理を施した。中間転写ベルト4の回転方向を横断する方向に配列したスリットパターンを形成するようにマスキングを行って断続的に硬化処理した。
【0110】
実施例4S、比較例2Sは、進行方向にスリットが配列するピッチが2mm、隙間が1.5mmのストライプ状のマスクパターンのマスキングを形成してからイソシアネート分子の含侵を施した。一方、実施例2S、比較例4Sは、進行方向にスリットが配列するピッチが2mm、隙間が0.5mmのストライプ状のマスクパターンのマスキングを形成してからイソシアネート分子の含侵を施した。このように構成することで、中間転写ベルト4の圧縮緩和弾性係数をほとんど変えずに、表層(4d)の引張弾性率を低下させることができる。
【0111】
表4に示すように、表層(4d)の引張弾性率が500MPaよりも大きいと、表層(4d)が回転方向に伸びにくくなる。このため、クリーニングブレード19当接部やその他の張架ローラで中間転写ベルト4を巻き付けるときに曲げが生じることで、中間転写ベルト4の表面に波打ちが発生する。中間転写ベルト4の表面に波打ちが発生すると、中間転写ベルト4の走行状態が乱されて色ずれが生じ易くなる。また、波打ちに倣ってクリーニングブレード19当接部に変形が生じることで、ブレードめくれやクリーニング不良等が生じる。
【0112】
また、表層の引張弾性率が50MPaよりも小さいと、クリーニングブレード19によって生じる中間転写ベルト4への摩擦力によって中間転写ベルト4が変形する。特に、中間転写ベルト4の起動時に中間転写ベルト4が変形して、クリーニングブレード19がめくれる現象が生じる。
【0113】
これに対して、表層(4d)の引張弾性率を50MPa〜500MPaとすることで、クリーニングブレード19にめくれ等が生じない。かつ、クリーニングブレード19当接部での中間転写ベルト4のミクロな伸びを低減することで、トナーの潜り込みを防止し、良好なクリーニング性能を得ることができる。
【0114】
以上説明したように、実施例1〜5によれば、0.1秒後の圧縮緩和弾性係数を0.15MPa〜0.95MPaとし、0.01秒後の圧縮緩和弾性係数が52MPa〜490MPaである。このため、柔らかく変形しやすい材質の弾性層4bを使用しても、中間転写ベルト4の早い時定数の圧縮に対して硬く、遅い時定数の圧縮に対して柔らかい中間転写ベルト4が得られ、良好なクリーニング性能と転写性能を両立できる。
【0115】
また、実施例2S、4Sによれば、表層のみを幅0.5mm、長さ3mm、厚さ50μmに切り取って、5%伸張時の弾性率を測定した際の表層の引張弾性率を50MPa〜450MPaとする。
【0116】
二次転写部T2では、ほぼ等速に加圧されることから圧縮方向にのみ力が印加されるが、クリーニングブレード19による変形は、圧縮方向に加えて摩擦力によって中間転写ベルト4の進行方向にも力が印加される。したがって、中間転写ベルト4の表層の引張弾性率が大きければ、中間転写ベルト4の弾性層4bによる転写性を維持しつつ、クリーニングブレード19当接部での中間転写ベルト4の変形を抑えることができる。このため、クリーニングブレード19のめくれやビビリ音発生等を抑えることができる。
【符号の説明】
【0117】
1 感光ドラム、2 コロナ帯電器、3 ドラムクリーニング装置
4 中間転写ベルト、4a 離型層、4b 弾性層、4c 基層
7 露光装置、8 現像装置
10 二次転写ローラ、10a 芯金、10b 弾性層
12 一次転写ローラ、17 ベルトクリーニング装置、18 定着装置
19 クリーニングブレード、19a エッジ、T2 二次転写部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間転写ベルトと、前記中間転写ベルトに当接して記録材に対するトナー像の転写部を形成する転写ローラと、前記転写部を通過した前記中間転写ベルトの表面にクリーニングブレードを摺擦させて転写残トナーを除去するクリーニング装置とを備えた画像形成装置において、
前記中間転写ベルトは、回転方向の強度を担う基層と、前記基層上に配置されて前記中間転写ベルトの表面に柔軟性を付与する弾性層と、前記弾性層上に配置されて前記弾性層よりも粘弾性の高い高粘弾性層とを有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記高粘弾性層は、前記弾性層の表面層を硬化処理した硬化層であって、前記高粘弾性層と前記弾性層の境界は組織が連続的であることを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記硬化層は、前記弾性層よりも密度が高く、深さ方向へ密度が連続的に低くなっていることを特徴とする請求項2記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記弾性層の表面は、前記中間転写ベルトの回転方向を横断する方向に配列したスリットパターンを形成するように断続的に硬化処理されていることを特徴とする請求項2又は3記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記中間転写ベルトの表面を厚み方向に圧縮変形させた直後から時間経過とともに低下する厚み方向の反力を、前記中間転写ベルトがクリーニングブレードを通過するために必要な時間に対応させた圧縮後経過時間で測定して求めた圧縮緩和弾性係数をE1とし、前記反力を前記中間転写ベルトが前記転写部を通過するために必要な時間に対応させた圧縮後経過時間で測定して求めた圧縮緩和弾性係数をE2とするとき、
E1/E2>50であることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記弾性層は、ウレタンゴム組織にイソシアネート分子を浸透させて加熱処理することにより硬化され、
前記クリーニングブレードは、ウレタンゴムで構成され、
52MPa≦E1≦490MPa、かつ、0.15MPa≦E2≦0.95MPa
であることを特徴とする請求項5記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記弾性層は、ウレタンゴム組織にイソシアネート分子を浸透させて加熱処理することにより硬化され、
前記クリーニングブレードは、ウレタンゴムで構成され、
前記弾性層の表層を厚さ50μmにスライスして測定した引張弾性率をE3とするとき、
50MPa≦E3≦450MPa
であることを特徴とする請求項5記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記弾性層の表面は、フッ素樹脂をコートされていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載の画像形成装置。
【請求項9】
樹脂材料で無端状に形成された基層の表面でイソシアネート分子とアルコールをウレタン反応させて弾性層を形成する第1の工程と、
前記弾性層の組織に表面からイソシアネート分子を含浸させる第2の工程と、
イソシアネート分子を含浸させた前記弾性層を加熱処理して表面層の組織に重合させる第3の工程とを有することを特徴とする中間転写ベルトの製造方法。
【請求項10】
前記第3の工程に先立たせて前記弾性層の表面に付着したイソシアネート分子を除去する第4の工程を有することを特徴とする請求項9記載の中間転写ベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−138031(P2011−138031A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−298429(P2009−298429)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】