説明

画像形成装置及び電源システム

【課題】所定の駆動周波数領域に対応する第1の電圧発生回路の保証下限電圧よりも絶対値が小さい電圧を安定して出力できる電源部を備えた画像形成装置及び電源システムを提供する。
【解決手段】画像形成装置100は、転写電圧を出力する電源部200と、制御部201とを有する。電源部は、所定の周波数の範囲内で可変設定される駆動周波数によって駆動される圧電トランス204aを備え、所定極性の電圧を出力する第1の電圧発生回路207aと、逆極性の電圧を出力する第2の電圧発生回路207bと、を有する。制御部は、第1の電圧発生回路の出力電圧範囲下限値よりも絶対値が小さい転写電圧を出力させる場合、上記所定の周波数の範囲内の駆動周波数で圧電トランスを駆動することで第1の電圧発生回路から出力される電圧と、第2の電圧発生回路から出力される電圧とを重畳した転写電圧を出力させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電トランスを用いた画像形成装置と、圧電トランスを用いた電源システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、転写部材に直流電圧を印加することで像担持体から記録媒体にトナー像を静電的に転写させる電子写真方式の画像形成装置がある。良好な転写を行うために、通常、高圧(商用電源電圧よりも高い数百V以上の電圧)を転写部材に印加して、10μA程度の電流が流れるようにする。このような高圧を印加するために、電源部は、従来、巻線式の電磁トランスを使用してきた。しかし、電磁トランスは、電源部の小型化・軽量化の妨げとなっていた。そこで、巻線式の電磁トランスに変わり、圧電トランス(圧電セラミックトランス)が用いられている。
【0003】
圧電トランスを用いた電源部は、所定の共振周波数で最大の電圧を出力する圧電トランスと、共振周波数を含む所定の周波数範囲にわたって圧電トランスを駆動する駆動信号を発生する駆動信号発生ユニットを備える。
【0004】
このような圧電トランス式の電源部は、特許文献1に開示されている。又、画像形成装置に圧電トランス式の電源部を適用した例が、特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−206113号公報
【特許文献2】特開2007−68384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、圧電トランス式の電源部を画像形成装置に用いる場合、次のような課題がある。圧電トランスを周波数制御する場合、駆動周波数が高周波領域に達すると圧電トランスに高周波成分の副振動が発生し、出力特性に不安定な領域(不要共振周波数領域)が発生する。この不要共振周波数が発生する領域を、スプリアス領域という。スプリアス領域の駆動周波数で圧電トランスを制御すると、出力電圧が不安定になる。このため、安定した出力電圧を保証する下限電圧(以下「保証下限電圧」という。)が、個々の電源部の回路構成上のバラツキなどを考慮した上で設定されている。言い換えれば、圧電トランスを駆動する周波数はスプリアス領域の周波数を含まない所定の駆動周波数領域内に収まる駆動周波数である。この所定の駆動周波数領域内の周波数で圧電トランスを駆動する電源部は、上記最大の電圧から保証下限電圧の間に収まる電圧が出力可能電圧として設定される。
【0007】
よって、従来の圧電トランスを用いた電源部を有する画像形成装置では、転写部材等の被給電部材に安定して電圧を出力する為に出力する電圧が、最大の電圧から保証下限電圧の間に収まる大きさの電圧に制限されるという課題があった。
【0008】
本発明の目的は、スプリアス領域の周波数を含まない所定の駆動周波数領域に対応する第1の電圧発生回路の保証下限電圧よりも絶対値が小さい電圧を安定して出力できる電源部を備えた画像形成装置を提供することである。また、本発明の他の目的は、スプリアス領域の周波数を含まない所定の駆動周波数領域に対応する第1の電圧発生回路の保証下限電圧よりも絶対値が小さい電圧を安定して出力できる電源部を備えた電源システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の代表的な構成は、トナー像を担持する像担持体と、前記像担持体上のトナー像を記録媒体に転写する転写部材と、前記転写部材に転写電圧を出力する電源部であって、所定の周波数の範囲内で可変設定される駆動周波数によって駆動される圧電トランスを備え、所定極性の電圧を出力する第1の電圧発生回路と、前記所定極性とは逆極性の電圧を出力する第2の電圧発生回路と、を有する電源部と、前記電源部を制御する制御部と、を有する画像形成装置において、前記制御部は、前記所定の周波数の範囲に対応する前記第1の電圧発生回路の出力電圧範囲下限値よりも絶対値が小さい転写電圧を前記電源部から出力させる場合、前記所定の周波数の範囲内の駆動周波数で前記圧電トランスを駆動することによって前記第1の電圧発生回路から出力される電圧と、前記第2の電圧発生回路から出力される電圧とを重畳した転写電圧を出力させることを特徴とする。
【0010】
上記目的を達成するために、本発明のその他の代表的な構成は、電子写真方式によって記録材に画像を形成する画像形成装置であって、所定の極性の電圧が出力される画像形成部材と、前記画像形成部材に画像形成する為の電圧を出力する電源部であって、所定の周波数の範囲内で可変設定される駆動周波数によって駆動される圧電トランスを備え、所定極性の電圧を出力する第1の電圧発生回路と、前記所定極性とは逆極性の電圧を出力する第2の電圧発生回路と、を有する電源部と、前記電源部を制御する制御部と、を有する画像形成装置において、前記制御部は、前記所定の周波数の範囲に対応する前記第1の電圧発生回路の出力電圧範囲下限値よりも絶対値が小さい画像を形成する為の電圧を前記電源部から出力させる場合、前記所定の周波数の範囲内の駆動周波数で前記圧電トランスを駆動することによって前記第1の電圧発生回路から出力される電圧と、前記第2の電圧発生回路から出力される電圧とを重畳した画像形成する為の電圧を出力させることを特徴とする。
【0011】
上記目的を達成するために、本発明のその他の代表的な構成は、所定の周波数の範囲内で可変設定される駆動周波数によって駆動される圧電トランスを備え、所定極性の電圧を出力する第1の電圧発生回路と、前記所定極性とは逆極性の電圧を出力する第2の電圧発生回路と、を有する電源部と、前記電源部を制御する制御部と、を有する電源システムにおいて、前記制御部は、前記所定の周波数の範囲に対応する前記第1の電圧発生回路の出力電圧範囲下限値よりも絶対値が小さい電圧を前記電源部から被給電部材に出力させる場合、前記所定の周波数の範囲内の駆動周波数で前記圧電トランスを駆動することによって前記第1の電圧発生回路から出力される電圧と、前記第2の電圧発生回路から出力される電圧とを重畳した電圧を被給電部材に出力させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、第1の電圧発生回路の保証下限電圧よりも絶対値が小さい電圧を被給電部材に安定して出力可能な画像形成装置を提供することが可能である。さらに、第1の電圧発生回路の保証下限電圧よりも絶対値が小さい電圧を被給電部材に安定して出力可能な電源システムを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例に係る画像形成装置の主要部の概略構成を示す模式図である。
【図2】圧電トランスを備える電圧発生回路の回路図である。
【図3】本発明の一実施例における制御部と電源部を説明するブロック図である。
【図4】圧電トランスの駆動周波数に対する出力特性の一例を示すグラフ図である。
【図5】本発明の一実施例における転写ローラに印加する電圧を制御する準備動作時制御の流れを示すフロー図である。
【図6】転写ローラの高圧負荷特性の一例を示すグラフ図である。
【図7】転写電圧を決定するためのテーブルの一例を示すグラフ図である。
【図8】本発明の一実施例における転写ローラに印加する電圧を制御するプリント時制御の流れを示すフロー図である。
【図9】本発明を適用し得る中間転写ベルトを有する画像形成装置の概略構成を示す模式図である。
【図10】本発明を適用し得る搬送ベルトを有する画像形成装置の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて本発明の実施例について説明する。なお、以下の実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものでなく、また実施例で説明されている特徴の組合せの全てが発明の解決手段に必須のものとは限らない。
【0015】
実施例1
本発明の一実施例に係る画像形成装置の全体構成及び動作について説明する。図1は、本実施例の画像形成装置100の主要部の構成を模式的に示す。本実施例の画像形成装置100は、電子写真方式を用いたレーザービームプリンタである。
【0016】
画像形成装置100は、像担持体としてのドラム型の感光体、即ち、感光ドラム1を有する。感光ドラム1は、駆動手段としての駆動モータ(図示せず)によって図示矢印R1方向(反時計回り)に駆動される。回転する感光ドラム1の表面は、帯電手段としての帯電ローラ2により一様に帯電処理される。この実施例では感光ドラム1の表面は負極性に帯電されるものとする。帯電した感光ドラム1の表面には、露光手段としてのレーザースキャナ3より、画像情報に従ったレーザ光Lが照射される。これにより、感光ドラム1上に、画像情報に従った静電潜像が形成される。感光ドラム1上に形成された静電潜像は、現像器4によって、現像剤としてのトナーを用いてトナー像として現像される。本実施例のトナーは、正規の帯電極性(静電潜像を現像可視化するための帯電極性)が負極性のトナーである。この実施例では帯電手段2による感光体の帯電極性と同極性に帯電したトナーにより静電潜像を反転現像しているが、本発明は、感光体の帯電極性とは逆極性に帯電したトナーにより静電潜像を正現像するようにした電子写真装置にも適用できる。
【0017】
感光ドラム1の回転方向において、現像器4による静電潜像の現像位置より下流側には、感光ドラム1から記録媒体としての記録材Pにトナー像を転写するための転写部材として転写ローラ8が配置されている。記録材Pとしては紙や樹脂シート等が使用される。転写ローラ8は感光ドラム1に対して押圧付勢され、感光ドラム1と共に記録材Pを挟持して搬送する転写ニップ部Nを形成している。記録材Pは、転写ニップ部Nに、記録材を収容する収容部(図示せず)から記録材供給ローラ(図示せず)などによって所定のタイミングで供給される。そのタイミングに合わせて、転写ローラ8にはトナーの正規の極性とは逆極性(本実施例では、正極性)の転写電圧が印加される。この転写電圧によって感光ドラム1と転写ローラ8との間に形成される電界の作用によって、転写ニップ部Nにて記録材Pへ、感光ドラム1からトナー像が転写される。
【0018】
その後、記録材Pは、定着手段としての定着器(図示せず)に搬送され、ここで加熱及び加圧されることで、その表面にトナー像が定着される。その後、記録材Pは、画像形成装置本体の外部に排出される。
【0019】
又、転写ニップ部Nにおいて記録材Pに転写されずに感光ドラム1上に残留したトナーは、クリーニング手段としてのクリーニングブレード7によって感光ドラム1上から除去されて回収される。
【0020】
本実施例では、転写ローラ8としては、発泡弾性体を有する発泡ローラを好適に用いることができる。発泡弾性体の材料としては、ゴム材料としてNBRゴムなどを用いることができる。又、転写ローラ8は、適当な導電性が付与される。導電性の付与方法としては、一般に、次のような方法がある。第1には、ポリマー中に金属酸化物の粉末やカーボンブラックなどの導電性充填剤を配合する方法(電子導電系)である。第2には、ウレタン、NBRゴム、エピクロルヒドリンゴムなどのイオン導電性ポリマー組成物を用いる方法(イオン導電系)である。
【0021】
本実施例では、金属製の芯金の周りにNBRゴムで形成された発泡弾性層を形成して成る、所謂、イオン導電系発泡ローラを用いた。本実施例の転写ローラ8は、体積抵抗率が107Ωcm程度に調整され、ゴム硬度が30°(アスカーC硬度計)である。又、転写ローラ8は、感光ドラム1に対し総圧約9.8Nで押圧され、感光ドラム1の回転に伴い従動して回転する。又、転写ローラ8には、詳しくは後述する電源部200から、電圧を印加することが可能となっている。転写ローラ8は、電源部200からの出力電圧が印加される被給電部材である。
【0022】
感光ドラム1から記録材Pへ負極性に帯電したトナー像を転写する時(以下「転写時」という。)は、転写ローラ8には電源部200から正極性の転写電圧が出力される。詳しくは後述するように、転写時には、制御部201(図3)は、第1の電圧発生回路207a(図3)、或いは第1の電圧発生回路207a及び第2の電圧発生回路207b(図3)の両方から電圧を出力させる。又、電源部200は、転写ローラ8に対して負極性の電圧を出力することが可能である。負極性の電圧は、転写ローラ8に付着したトナーを感光ドラム1へ移動(逆転写)させる際に用いられる。逆転写は、上記転写時以外のタイミングに電源部200から負極性の電圧を転写ローラ8に出力することで実行される。即ち、転写部材8から像担持体1に向かって付着トナーを移動させる場合、制御部201(図3)は、後述する第2の電圧発生回路207bから転写部材8に転写時の転写電圧とは逆極性の電圧を出力させる。
【0023】
電源部200は、圧電トランスを制御して所要の電圧を出力する電圧発生回路を備えている。図2を用いて、圧電トランスを用いた基本的な回路構成を説明する。図2では、正電圧を出力する回路である正電圧発生回路を説明する。図3をも参照して、正電圧発生回路207aは、少なくとも、周波数制御IC203a、圧電トランス204a、整流回路205a、検出回路206aを有する。圧電トランス204aの二次側電極から出力された交流電圧は、整流平滑回路205aによって正極性の直流電圧に整流平滑され、出力端子117から出力される。整流平滑回路205aは、図2では高圧ダイオード102、103及び高圧コンデンサ104によって構成されている。
【0024】
出力端子117からの出力電圧Voutは転写ローラ8等の被給電部材に供給される。なお、出力電圧は、抵抗105、106、107によって分圧され、コンデンサ115及び保護用抵抗108を介してオペアンプ109の非反転入力端子(+端子)に入力される。他方、オペアンプ109の反転入力端子(−端子)には、入力端子118から入力されたアナログ信号(制御信号(Vcont))が、抵抗114を介して入力される。オペアンプ109、抵抗114及びコンデンサ113は、積分回路として機能する。すなわち、抵抗114とコンデンサ113の部品定数によって決まる積分時定数に応じて平滑化された制御信号Vcontが、オペアンプ109に入力される。オペアンプ109の出力端は、電圧制御発振器(VCO)110に接続されている。電圧制御発振器110は、入力した制御信号に応じて圧電トランスを駆動する駆動周波数を可変設定する発振器の一例である。
【0025】
また、電圧制御発振器110の出力端は、電界効果トランジスタ111のゲートに接続される。電界効果トランジスタ111は、発振器の出力信号により駆動されるスイッチング素子の一例である。電界効果トランジスタ111のドレインは、インダクタ112を介して電源(+24V:Vcc)に接続されるとともに、コンデンサ116を介して接地されている。インダクタ112は、スイッチング素子と電源との間に接続された素子であって、スイッチング素子の駆動により断続的に電圧が印加されるインダクタンス成分を有する素子の一例である。さらに、ドレインは、圧電トランス204aの一次側電極の一方に接続される。圧電トランス204aの一次側電極の他方は接地される。また、電界効果トランジスタ111のソースも接地される。
【0026】
電圧制御発振器110は、オペアンプ109の出力電圧に応じた周波数で電界効果トランジスタ111をスイッチングする。インダクタ112及びコンデンサ116は、共振回路を形成している。この共振回路により増幅された電圧が駆動電圧として圧電トランス204aの一次側電極に供給される。ここで、オペアンプ109、抵抗114、コンデンサ113、電圧制御発振器(VCO)110は、制御信号Vcontを変換して圧電トランス204aを周波数制御する周波数制御IC203aを構成している。
【0027】
圧電トランス204aは一次側電極に印加される駆動電圧の周波数に対応した値を有する電圧を出力し、所定の共振周波数で振動する信号が加えられると最大の電圧を出力する。
【0028】
電圧制御発振器110は、入力電圧が上がると出力周波数を上げ、入力電圧が下がると出力周波数を下げるような動作を行う。この条件において、整流平滑回路205aからの出力電圧Voutが上がると、抵抗105を介してオペアンプ109の非反転入力端子(+端子)の入力電圧Vsnsも上がり、オペアンプ109の出力端子の電圧も上がる。つまり、電圧制御発振器110の入力電圧が上がるので、圧電トランス204aの駆動電圧の周波数も上がる。圧電トランス204aは、駆動電圧の周波数が上がると出力電圧を下げる。出力電圧が下がると、オペアンプ109の入力電圧Vsnsも下がり、オペアンプ109の出力端子電圧も下がる。よって、電圧制御発振器110の出力周波数も下がり、圧電トランス204aの出力電圧を上げる方向にフィードバック制御が実行される。
【0029】
このように、図2で示す正電圧発生回路では、フィードバック制御により、オペアンプ109の反転入力端子(−端子)に入力される制御信号(Vcont)の電圧(以下、出力制御値と記す。)で決定される電圧に等しくなるように出力電圧(Vout)が定電圧制御される。
【0030】
上述したように本実施例の電源部200は、負電圧を出力することが可能であり、具体的には、圧電トランスを備えた負電圧発生回路を備えている。負電圧発生回路は、図2の正電圧発生回路と基本的な構成は同様である。図3をも参照して、負電圧を出力する回路である負電圧発生回路207bは、周波数制御IC203b、圧電トランス204b、整流回路205b、検出回路206b等によって、構成される。
【0031】
周波数制御IC203b、圧電トランス204b、検出回路206bは、正電圧発生回路207aの周波数制御IC203a、圧電トランス204a、検出回路206aと同様の回路である。負電圧発生回路207bの整流平滑回路206bは、圧電トランス204bの二次側電極から出力された交流電圧を負極性の直流電圧に整流平滑するように、高圧ダイオードが接続されている。電源部200による転写ローラ8への正電圧、負電圧の印加タイミング、及びそれらの印加電圧値は、制御部としてのコントローラ201によって制御される。
【0032】
又、電源部200には、電源部200から転写ローラ8に電圧を印加することによって転写ローラ8に流れる電流を検知するための電流検知手段として、電流計208が接続されている。詳しくは後述するように、コントローラ201は、電流計208から入力された検知結果に係る信号に基づいて、電源部200の出力電圧値、即ち転写ローラ8への印加電圧値を制御する。
【0033】
本実施例では、コントローラ201は、電源部200の制御の他、画像形成装置200の各部を統括的に制御する。コントローラ201は、記憶部としてのROM209、RAM210に格納された制御プログラム、検出データに従って、電源部200を含む画像形成装置100の各部を制御する。
【0034】
次に、転写ローラ8に正電圧、負電圧を選択的に出力する電源部200の構成を図3のブロック図に基づいて説明する。電源部200は、第1の電圧発生回路である正電圧発生回路207aと第2の電圧発生回路である負電圧発生回路207bを少なくとも有する。電源部200は、コントローラ201によって以下のモードで動作可能である。先ず、正電圧発生回路207aの形成した正電圧のみを出力する第1制御モードである。次に、正電圧発生回路207aの形成した正電圧と、負電圧発生回路207bの形成した負電圧を重畳して形成された正電圧を出力する第2制御モードである。次に、負電圧発生回路207bの形成した負電圧のみを出力する第3制御モードである。
【0035】
第1制御モード、第2制御モードにおける電源部200の正電圧発生回路207aの動作について説明する。制御部であるコントローラ201に搭載されたMPU(マイクロコンピュータ)202のD/Aポート202a(正電圧信号出力部)から、正電圧発生回路207aの出力電圧を可変設定する制御信号Vcont_+が出力され、周波数制御IC203aに入力される。MPU(マイクロコンピュータ)202は、正電圧発生回路207aが所望の電圧を出力するように制御信号Vcont_+を可変設定する。周波数制御IC203aにて、制御信号Vcont_+が駆動周波数に変換される。この周波数により圧電トランス204aは動作し、圧電トランス204aの周波数特性及び昇圧比に応じた電圧を出力する。その後、圧電トランス204aの出力は整流回路205aにより正電圧に整流平滑され、高圧出力Voutから被給電部材(ここでは、転写ローラ8)に供給される。一方、整流後の電圧は検出回路206aを介して周波数制御IC203aに帰還され、整流回路206aによる入力電圧Vsns_+が、制御信号Vcont_+によって設定される電圧と等電位になるように周波数制御IC203aの出力が制御される。周波数制御IC203a、圧電トランス204a、整流回路205a、検出回路206aなどによって、正電圧を出力する正電圧発生回路207aが構成される。
【0036】
第2制御モード、第3制御モードにおける電源部200の負電圧発生回路207bの動作について説明する。負電圧を出力する場合の動作も、上記正電圧の出力の場合の動作と同様である。コントローラ201に搭載されたMPU(マイクロコンピュータ)202のD/Aポート202b(負電圧信号出力部)から、負極性の制御信号Vcont_−が出力され、周波数制御IC203bに入力される。周波数制御IC203bにて、制御信号Vcont_−が周波数に変換される。この周波数により圧電トランス204bは動作し、該圧電トランス204bの周波数特性及び昇圧比に応じた電圧を出力する。その後、圧電トランス204bの出力は整流回路205bにより負電圧に整流平滑され、高圧出力Voutが被給電部材(本実施例では転写ローラ8)に供給される。一方、整流後の電圧は検出回路206bを介して周波数制御IC203bに帰還され、整流回路206bによる入力電圧Vsns_−が、制御信号Vcont_−によって設定される電圧と等電位になるように周波数制御IC203bの出力が制御される。周波数制御IC203b、圧電トランス204b、整流回路205b、検出回路206bなどによって、負電圧を出力する負電圧発生回路207bが構成される。
【0037】
図4は、本実施例の圧電トランスの駆動周波数に対する出力特性を示す。なお、図4は圧電トランスの交流出力電圧を整流平滑回路で直流電圧に変換したものとして示している。即ち、該特性は、図4のグラフのように、共振周波数f0において出力電圧が最大となるような裾広がり形状を示す。駆動周波数を変化させることにより、出力電圧の可変制御が可能である。ただし、前述のスプリアス領域は、図4に示すように、共振周波数f0よりも十分に高い高周波数領域に発生し易い。スプリアス領域の周波数で圧電トランスを制御すると、圧電トランスから出力される電圧が不安定になり、高画質な画像が得られなくなる。
【0038】
従って、前述のスプリアス領域外の適宜の周波数範囲内であれば、駆動周波数を共振周波数f0から共振周波数f0より順次高い周波数へと変化させて行くことで、圧電トランスの出力電圧を順次低減させて行くことが可能である。また、駆動周波数を共振周波数f0から共振周波数f0より順次低い周波数へと変化させて行くことで、圧電トランスの出力電圧を順次低減させて行くことも可能である。尚、共振周波数f0よりも十分に低い領域もスプリアス領域となる、駆動周波数を共振周波数f0から共振周波数f0より順次低い周波数へと変化させて行く場合でも、スプリアス領域外の適宜の周波数範囲内で変化させる必要がある。
【0039】
このような圧電トランスの周波数に対する出力特性と電圧発生回路の回路構成上のバラツキなどを考慮して、圧電トランスを、スプリアス領域の周波数を含まない所定の周波数の範囲内(図4のαの領域)で可変設定される駆動周波数で駆動する。即ち、正電圧発生回路207aは、所定の周波数の範囲内で可変設定される第1の駆動周波数で圧電トランスを駆動する回路である。又、正電圧発生回路207aの出力可能な電圧は、共振周波数f0によって設定される最大の出力電圧から保証下限電圧の間に収まる電圧が出力可能電圧として設定される。保障下限電圧が、第1の電圧発生回路の出力電圧範囲下限値である。具体的な周波数は、共振周波数f0から175KHzの間で駆動される。正電圧発生回路207aは、保証下限電圧Vminは700Vに設定されており、3600Vから700Vの間で電圧を安定して出力可能である。
【0040】
負電圧発生回路207bは、第2の駆動周波数170KHzで圧電トランスを駆動することによって、−1000Vを出力することが可能である。尚、負電圧発生回路207bの圧電トランスを駆動する第2の駆動周波数は、正電圧発生回路207aと同様に、所定の周波数の範囲内で可変設定してもよい。この場合は、共振周波数f0によって設定される最大の出力電圧から保証下限電圧の間に収まる負電圧が出力可能電圧として設定される。
【0041】
次に、転写ローラ8に印加する電圧の制御方法について説明する。
【0042】
先ず、準備動作時制御について説明する。準備動作時制御は、記録媒体にトナー像を転写する際の転写ローラ8に電源部200が出力する転写電圧を決定する為の制御である。画像形成が行われる前において、準備動作時制御は、感光ドラム1が回転駆動されると共に実行され、コントローラ201によって制御される。
【0043】
図5は準備動作時制御のフローチャートである。先ず、コントローラ201のMPU202は、電源部200の正電圧発生回路207aから転写ローラ8に初期電圧Vnを出力させる(S101)。初期電圧Vnは、ROM209に格納されている電圧であり、準備動作時制御時の転写に関する部材の抵抗を検出するために電源部が出力する電圧である。又、初期電圧Vnは固定であっても、装置の周囲環境やプリント枚数に応じて変更してもよい。MPU202は、初期電圧Vnに応じた制御信号Vcont_+を正電圧発生回路207aに出力する。
【0044】
MPU202は、初期電圧Vnの出力によって転写ローラ8に流れる電流を、電流検知手段である電流計208により検知する(S102)。次に、MPU202は、電流計208の検知結果Inを、ROM209に格納された目標電流I0と比較する(S103)。本実施例では、目標電流I0は15μAである。MPU202は、電流計208の検知結果Inが目標電流I0に対し所定範囲内に達していないと判断した場合は、現在の初期電圧Vnに対し所定の量の電圧ΔVが加算された電圧Vn+1を電源部200から転写ローラ8に印加させる(S104)。MPU202は、現在の初期電圧Vnに対し所定の量の電圧ΔVが加算された電圧Vn+1を、新たな初期電圧Vnとして記憶部であるRAM210に記録する。MPU202は、電流計208の検知結果Inが目標電流I0に対し所定範囲内に達するまで、ステップ102〜104の動作を繰り返す。そして、MPU202は、電流計208の検知結果Inが目標電流I0に対し所定範囲内に達したと判断した場合は、そのときの初期電圧Vnを転写電圧用の基準電圧Vt0として決定して、記憶部であるRAM210に記録する(S105)。
【0045】
次に、プリント時制御について説明する。プリント時制御は、記録材Pにトナー像を転写して記録材に画像を形成する転写時に行われる。プリント時制御は、トナー像を感光ドラム1から記録材Pに転写するために電源部200から転写ローラ8に転写電圧を出力する制御であり、コントローラ201によって制御される。
【0046】
プリント時制御では、コントローラ201のMPU202は、準備動作時制御によって得られた基準電圧Vt0をROM209に格納された変換テーブルを用いて、記録材Pの抵抗やプロセススピードを考量した転写電圧Vt1に変換する。そして、この転写電圧Vt1を記録材Pの先端が転写ニップ部Nに到達するタイミングに合わせて電源部200から転写ローラ8に出力する。即ち、MPU202は、転写電圧Vt1を、転写ニップ部Nに記録材Pが入ってくるのと略同時に、電源部200から転写ローラ8に印加させ、感光ドラム1上のトナーを記録材Pに転写させる。このように、コントローラ201は、トナー像の転写を開始する前に電流検知手段が検知する電流値によって画像形成時に転写部材に出力する転写電圧を決定することが可能である。
【0047】
本実施例の転写ローラ8は、イオン導電系のものであることから、環境変化に対する電気抵抗の変動が比較的大きい。図6は、本実施例の転写ローラ8の各環境における高圧負荷特性(印加電圧値に対して検出される電流値の特性)を示すもので、横軸は転写ローラ8への印加電圧値、縦軸は電源200から転写ローラ8に流れる電流値である。図6には、高温高湿環境(HH環境)(30℃/80%Rh)、常温常湿環境(NN環境)(23℃/50%Rh)、低温低湿環境(LL環境)(15℃/10%Rh)の各環境についてのグラフを示す。
【0048】
ここで、HH環境(30℃/80%Rh)において画像形成動作を行う場合のプリント時制御について、更に詳しく説明する。
【0049】
図6で説明するように、HH環境(30℃/80%Rh)は、他の環境よりも、同一の印加電圧に対して検出電流が大きい。つまり、HH環境では転写ローラ8は、電気抵抗値が低くなる環境であり、最適な転写電流を流す為には、電源部200から低い電圧を出力する必要がある。
【0050】
プリント信号がDCコントローラ201のMPU202に送られると、MPU202は上述のような準備動作時制御を開始する。準備動作時制御では、MPU202は、電流計208の検知結果Inが目標電流I0に対して所定範囲内に収束したときの初期電圧Vnを、基準電圧Vt0として決定する。ここでは、目標電流I0が15μAであるので、HH環境ではVt0=710Vと算出される。
【0051】
そして、MPU202は、プリント時制御に入る。図8は、プリント時制御のフローチャートである。先ず、MPU202は、基準電圧Vt0を転写電圧Vt1に変換する(S201)。即ち、本実施例では、一例として図7に示すようなVt0とVt1との関係を示すグラフを数式とした変換テーブルがROM209に格納されている。MPU202は、この変換テーブルを用いて、基準電圧Vt0から転写電圧Vt1を算出する。ここでは、Vt1=300Vと算出される。しかしながら、この転写電圧Vt1=300Vは、電源部200の保証下限電圧Vmin=700Vを下回っている。
【0052】
ここで、図7のグラフから、転写電圧Vt1が保証下限電圧Vmin=700Vであるときの基準電圧Vt0の値は1350Vであることが分かる。即ち、準備動作時制御で得られた基準電圧Vt0の値が1350V以下となった場合は、転写電圧Vt1が保証下限電圧Vmin以下となる。
【0053】
そこで、図8に示すように、MPU202は、基準電圧Vt0が1350Vより大きいか否かを判断する(S202)。ここで、MPU202がVt0≦1350Vであると判断する場合は、次のような場合である。即ち、所定の周波数の範囲に対応する第1の駆動周波数で正電圧発生回路207aの圧電トランスを駆動しても、正電圧発生回路207aが出力できない大きさの電圧(相対的に絶対値が低い電圧)を、電源部200から転写ローラ8に出力する場合である。
【0054】
よって、MPU202がVt0≦1350Vであると判断する場合は、負電圧発生回路207bの出力を、正電圧発生回路207aの出力に重畳させて転写ローラ8に転写電圧Vt1を印加する(S203)。即ち、MPU202は、Vt0≦1350Vであると判断する場合は、電源部200を第2制御モードで動作させる。
【0055】
このようにMPU202は、プリント制御時に、基準電圧Vt0が1350Vより大きい場合は、正電圧制御信号Vcont_+のみを電源部200に出力する。そして、電圧Vt0が1350V以下の場合は、正電圧制御信号Vcont_+と負電圧制御信号Vcont_−とを電源部200に出力する。
【0056】
尚、検知電圧を転写電圧に変換して、ステップS202において転写電圧が保証下限電圧より大きいか否かを判断しても良い。
【0057】
このように、本実施例の画像形成装置100は、トナー像を担持する像担持体1と、像担持体上のトナー像を記録媒体Pに転写する転写部材8と、転写部材8に転写電圧を出力する電源部200と、を有する。電源部200は、所定の周波数の範囲内で可変設定される駆動周波数によって駆動される圧電トランス204aを備え、所定極性の電圧を出力する第1の電圧発生回路207aと、上記所定極性とは逆極性の電圧を出力する第2の電圧発生回路207bと、を有する。又、本実施例の画像形成装置100は、電源部200を制御する制御部201を有する。そして、本実施例では、制御部201は、上記所定の周波数の範囲に対応する第1の電圧発生回路207aの出力電圧範囲下限値よりも絶対値が小さい転写電圧を電源部200から出力させる場合、次のような転写電圧を出力させる。即ち、上記所定の周波数の範囲内の駆動周波数で圧電トランス204aを駆動することによって第1の電圧発生回路207aから出力される電圧と、第2の電圧発生回路207bから出力される電圧とを重畳した転写電圧を出力させる。尚、第1の電圧発生回路207aの圧電トランス204aは、上記所定の周波数の範囲内で可変設定される第1の駆動周波数によって駆動される第1の圧電トランスである。又、一実施態様では、第2の電圧発生回路207bは、第2の駆動周波数によって駆動される第2の圧電トランスを備える。そして、一実施態様では、上記第2の駆動周波数は、固定の周波数である。
【0058】
具体的には、この実施例では300Vの転写電圧を出力する場合、MPU202は正電圧の制御信号Vcont_+を1300V、負電圧の出力設定信号Vcont_−を−1000Vと設定する。これにより、正電圧発生回路207aが+1300Vの電圧を発生し、負電圧発生回路207bが−1000Vの電圧を発生し、電源部200はこれらを重畳した+300Vの電圧を出力する。
【0059】
これにより、電源部200から転写電圧Vt1=300Vを出力するために、正電圧発生回路207aから出力する正電圧を1300V、即ち、保証下限電圧Vmin=700Vより大きな値とすることができる。従って、電源部200から、保証下限電圧を下回る電圧を転写電圧として、転写ローラ8に供給することが可能となる。
【0060】
このように、本実施例では、目的の転写電圧Vt1が圧電トランスの保証下限電圧Vmin以下になると判断される場合には、保証下限電圧Vminを上回る正電圧に、負電圧を重畳することで、電源部200の出力電圧を目的の転写電圧Vt1に制御する。本実施例では、負電圧発生回路207bから出力する電圧を−1000Vとし、正電圧発生回路
207aの保証下限電圧Vminよりも絶対値が大きい電圧とした。このように、所定の周波数の範囲に対応する第1の電圧発生回路207aの出力電圧範囲下限値よりも絶対値が小さい転写電圧を出力する場合、次のようにする。即ち、第2の電圧発生回路207bから出力される電圧の絶対値を、第1の電圧発生回路207aの出力電圧範囲下限値の絶対値よりも大きくする。この理由は、第2制御モードにおいて、正電圧発生回路207aの出力する電圧を確実に保証下限電圧Vminよりも大きくすることで、正電圧発生回路207aの出力をより安定させるためである。
【0061】
一方、HH環境以外の環境では、MPU202は、Vt0>1350Vであると判断することになる(S202)。HH環境以外の環境は、高圧負荷が小さく、換言すれば転写ローラ8の電気抵抗が大きく、電源部200から高い転写電圧を出力する必要がある環境である。HH環境以外の環境は、例えば、NN環境(Vt0=2100V、Vt1=1500V)、LL環境(Vt0=3600V、Vt1=2500V)である。この場合、MPU202は、電源部200を第1制御モードで動作させる(S204)。
【0062】
表1は、正電圧のみを印加する場合、重畳電圧(正電圧と負電圧)のみを印加する場合、正電圧と重畳電圧(正電圧と負電圧)とを切り替えて印加する場合のそれぞれにおける高圧出力範囲の違いを、重畳する負電圧が−1000Vであるものとして示す。正電圧は、最大4000V出力可能である。
【0063】
【表1】

【0064】
表1から、本実施例のように、正電圧と重畳電圧(正電圧と負電圧)とを切り替えて印加する場合の電源部200の高圧出力範囲が広いことが分かる。常に負電圧を重畳する構成では、電源部200としての正の電圧出力範囲が狭くなってしまう。
【0065】
以上、本実施例の画像形成装置100は、正電圧発生回路207aを所定の駆動周波数領域内で駆動させても出力できない正電圧を転写ローラ8に出力する場合に、コントローラ201により正電圧と負電圧を重畳するように制御する。これにより、本実施例の画像形成装置100では、転写に必要な電圧を電源部200から安定して出力することが可能となる。
【0066】
また、第2制御モードにおいて、正電圧発生回路207aが出力する電圧を固定にして、負電圧発生回路207bの出力電圧を可変にするように構成してもよい。この場合、正電圧発生回路207aが出力する電圧は保証下限電圧よりも十分に大きな固定電圧である。また、第2制御モードにおいて、所望の重畳電圧を出力するのに、正電圧発生回路207a、負電圧発生回路207bを共に可変制御しても良い。この場合も、どちらの回路も、下限保証電圧よりも大きい電圧を出力することで、安定して所望の電圧を出力することが可能である。
【0067】
本実施例では、転写電圧は正極性であるものとして説明したが、転写電圧が負極性である場合にも、本発明を同様に適用することができる。この場合、電源部200は、転写電圧としては、負電圧発生回路207bの負極性出力電圧のみと、負電圧発生回路207bの出力電圧と正電圧発生回路207aの出力電圧の重畳電圧(負極性電圧)とを切り替えて出力することになる。
【0068】
本実施例の電源部200の負電圧発生回路207bは、駆動周波数を可変設定する構成としたが、駆動周波数を固定として入力電圧を可変設定する構成でもよい。
【0069】
又、本実施例の電源部200の負電圧発生回路207bは、圧電トランスを用いた電圧発生回路として説明したが、圧電トランスの代わりに電磁トランスを用いてもよい。さらに、負電圧発生回路207bはトランスレスの構成であってもよい。
【0070】
又、本実施例では、画像形成装置100は単色画像形成装置であるものとして説明したが、図9で示すような中間転写体を用いたカラー画像形成装置にも適用することができる。図9のカラー画像形成装置において、図1を参照して説明した画像形成装置100のものと同一又はそれに相当する構成、機能を有する要素には同一の参照番号を付して詳しい説明は省略する。
【0071】
図9の画像形成装置は、4色(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)のトナーをそれぞれ有する現像器4a、4b、4c、4dを有し、各現像器が現像ユニット4であるロータリドラムに装着されている。現像ユニット4は、現像器4a、4b、4c、4dを装着した状態で回転自在に支持され、所望の現像装置(例えば現像装置4a)を感光ドラム1に対向接触する現像位置に回転移動することができる。
【0072】
各色のトナーは、図1の画像形成装置100と同様に、感光ドラム1上に形成された静電潜像をトナー像として現像するのに用いられる。感光ドラム1は図中矢印方向A方向に回転駆動される。現像されたトナー像は1次転写部材81によって中間転写体である中間転写ベルト5に転写される。中間転写ベルト5は、張架ローラ16、17に架け渡されており、図中矢印B方向に回転駆動される。転写されたトナー像上に次に形成したトナー像を順次重畳することで、フルカラートナー像を中間転写ベルト5上に形成する。
【0073】
中間転写ベルト上に重ねられたトナー像は、二次転写部材9によって記録材Pに転写される。この二次転写における記録媒体は記録材Pである。その後、記録材Pは、定着手段としての定着器(図示せず)に搬送され、ここで加熱及び加圧されることで、その表面にトナー像が定着される。その後、記録材Pは、画像形成装置の装置本体の外部に排出される。
【0074】
図9に示すように、二次転写部材9に電圧を供給する電源部200において、本実施例を適用することが可能である。電源部200から、トナーと逆極性の電圧を二次転写部材9に出力することでトナーを中間転写ベルト8に二次転写し、トナーと同極性の電圧を二次転写部材9に出力することでトナーを中間転写ベルト8から感光ドラム1に移動させることが可能である。
【0075】
この構成により、正電圧発生回路を所定の周波数の範囲内の駆動周波数で駆動させても出力できない正電圧を二次転写部材9に出力する場合に、正電圧と負電圧を重畳するように切り替えて制御する。これにより、転写電圧を電源部200から安定して出力することが可能となる。そのため、環境に拘わらず安定した良好な画像を形成することができる。又、図9の画像形成装置の1次転写部材81に電圧を供給する電源部20でも、本実施例は適用することが可能である。記録媒体は、1次転写の際は中間転写ベルト8であり、2次転写の際は記録材Pである。
【0076】
図10で説明するタンデム型の直接転写方式のカラー画像形成装置300にも適用可能である。このカラー画像形成装置300は、それぞれがイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色の画像を形成する複数の画像形成部10Y、10M、10C、10Kを有する。図10のカラー画像形成装置300において、図1を参照して説明した画像形成装置100のものと同一又はそれに相当する構成、機能を有する要素には同一の参照番号を付して詳しい説明は省略する。尚、図10において参照番号に与えた添え字Y、M、C、Kは、それぞれイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックのいずれかの色用に設けられた要素であることを表している。このカラー画像形成装置300は、記録材Pを担持して搬送する搬送部材としての搬送ベルト301を有する。記録材Pは、吸着部材としての吸着ローラ302と搬送ベルト301との接触部において、吸着ローラ302によって電圧が印加されて、搬送ベルト301上に静電的に吸着される。例えば、吸着ローラ302に正極性の直流電圧(吸着電圧)を印加することで、記録材Pを転写ベルト301に静電的に吸着させることができる。そして、各感光ドラム1Y、1M、1C、1Kに形成されたトナー像は、転写ベルト301に担持されて各転写ニップ部NY、NM、NC、NKを通過する記録媒体である記録材P上に、各転写ローラ8Y、8M、8C、8Kの作用により順次に転写される。
【0077】
このようなカラー画像形成装置300においても、各転写ローラ8Y、8M、8C、8Kに電圧を供給する電源部でも、本実施例を適用することで同様の効果を得ることができる。
【0078】
実施例2
本発明の他の実施例について説明する。本実施例の画像形成装置の基本的な構成及び動作は実施例1のものと同じである。従って、実施例1のものと同一又はそれに相当する機能、構成を有する要素には同一符号を付して、詳しい説明は省略する。
【0079】
本実施例では、画像形成装置100は、環境検知手段としての環境センサーを有する。そして、環境センサーの検知結果に基づいて制御部であるコントローラ201が電源部200を制御する。即ち、本実施例では、環境センサーの検知結果に基づいて、転写ローラ8の電気抵抗値(或いは転写ローラ8に流れる電流値)を予測し、その結果に基づいて電源部200を制御する。この構成によって、準備時制御を省力して転写電圧を決定することが可能になる。
【0080】
環境センサーは、画像形成装置100の周辺の温度及び湿度を検知する。実施例1にて説明した圧電トランスの特性や転写ローラ8の高圧負荷特性から、電源部200において正電圧と負電圧の重畳が必要な環境と不要な環境との境界について、環境センサーの出力電圧に閾値を設けることができる。これにより、環境センサーにより検知された画像形成装置100の周辺の環境に応じて、実施例1と同様に電源部200から、転写電圧として次のような電圧を選択的に出力することができる。即ち、電源負荷の小さい環境では正電圧発生回路207aの正極性出力電圧のみを、電源負荷の大きい環境では正電圧発生回路207aの出力電圧と負電圧発生回路207bの出力電圧の重畳電圧(正極性電圧)を選択的に出力することができる。これにより、実施例1と同様の効果が得られる。
【0081】
その他の実施例
本発明は、転写ローラ8以外の転写部材(パッド状部材、ブラシ状部材、コロナ放電部材等)に電源部から転写電圧を出力する場合にも適用できる。また、被給電部材として帯電部材2(ローラ状部材、ブラシ状部材、コロナ放電部材等)に帯電電圧を出力する場合に適用可能である。又、現像部材4に対しても現像電圧を出力する場合にも適用可能である。又、電源部によって電圧が印加される被給電部材は、転写部材に限定されるものではなく、図10の画像形成装置の吸着部材としての吸着ローラ302であってもよい。この場合も、例えば吸着ローラ302として電気抵抗値の環境変動が比較的大きいものを用いる場合などにおいて、目的の吸着電圧が電源部の保証下限電圧を下回り、正電圧又は負電圧のみの印加では安定した電圧を印加できないことがある。そこで、吸着ローラ302に関しても、上記実施例と同様にして本発明を適用することで、同様の効果を得ることができる。このように、画像形成に関わる画像形成部材を被給電部材として電源部から電力を出力する場合に、本発明は適用可能である。
【0082】
即ち、本発明は、電子写真方式によって記録材に画像を形成する、次のような画像形成装置に適用可能である。画像形成装置は、所定の極性の電圧が出力される画像形成部材と、画像形成部材に画像形成する為の電圧を出力する電源部と、を有する。この電源部は、所定の周波数の範囲内で可変設定される駆動周波数によって駆動される圧電トランスを備え、所定極性の電圧を出力する第1の電圧発生回路と、上記所定極性とは逆極性の電圧を出力する第2の電圧発生回路と、を有する。又、画像形成装置は、電源部を制御する制御部を有する。そして、制御部は、上記所定の周波数の範囲に対応する第1の電圧発生回路の出力電圧範囲下限値よりも絶対値が小さい画像を形成する為の電圧を電源部から出力させる場合、次のような画像を形成する為の電圧を出力させる。即ち、上記所定の周波数の範囲内の駆動周波数で圧電トランスを駆動することによって第1の電圧発生回路から出力される電圧と、第2の電圧発生回路から出力される電圧とを重畳した画像形成する為の電圧を出力させる。
【0083】
また、本発明は、画像形成装置以外であっても適用可能である。少なくとも、電源部と、電源部を制御する制御部を有する電源システムに適用可能である。電源システムとして、例えば、正電圧発生回路と負電圧発生回路を制御する制御部をIC回路として電源部内に設けた構成が考えられる。
【0084】
即ち、本発明は、次のような電源システムに適用可能である。電源システムは、所定の周波数の範囲内で可変設定される駆動周波数によって駆動される圧電トランスを備え、所定極性の電圧を出力する第1の電圧発生回路と、上記所定極性とは逆極性の電圧を出力する第2の電圧発生回路と、を備える電源部を有する。又、電源システムは、電源部を制御する制御部を有する。そして、制御部は、上記所定の周波数の範囲に対応する第1の電圧発生回路の出力電圧範囲下限値よりも絶対値が小さい電圧を電源部から被給電部材に出力させる場合、次のような電圧を被給電部材に出力させる。即ち、上記所定の周波数の範囲内の駆動周波数で圧電トランスを駆動することによって第1の電圧発生回路から出力される電圧と、第2の電圧発生回路から出力される電圧とを重畳した電圧を被給電部材に出力させる。
【符号の説明】
【0085】
1 感光ドラム
8 転写ローラ
200 電源部
207a 正電圧発生回路
207b 負電圧発生回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トナー像を担持する像担持体と、前記像担持体上のトナー像を記録媒体に転写する転写部材と、前記転写部材に転写電圧を出力する電源部であって、所定の周波数の範囲内で可変設定される駆動周波数によって駆動される圧電トランスを備え、所定極性の電圧を出力する第1の電圧発生回路と、前記所定極性とは逆極性の電圧を出力する第2の電圧発生回路と、を有する電源部と、前記電源部を制御する制御部と、を有する画像形成装置において、
前記制御部は、前記所定の周波数の範囲に対応する前記第1の電圧発生回路の出力電圧範囲下限値よりも絶対値が小さい転写電圧を前記電源部から出力させる場合、前記所定の周波数の範囲内の駆動周波数で前記圧電トランスを駆動することによって前記第1の電圧発生回路から出力される電圧と、前記第2の電圧発生回路から出力される電圧とを重畳した転写電圧を出力させることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記所定の周波数の範囲に対応する前記第1の電圧発生回路の出力電圧範囲下限値よりも絶対値が小さい転写電圧を出力する場合、前記第2の電圧発生回路から出力される電圧の絶対値は、前記第1の電圧発生回路の出力電圧範囲下限値の絶対値よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記第1の電圧発生回路の前記圧電トランスは、前記所定の周波数の範囲内で可変設定される第1の駆動周波数によって駆動される第1の圧電トランスであり、前記第2の電圧発生回路は、第2の駆動周波数によって駆動される第2の圧電トランスを備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記第2の駆動周波数は、固定の周波数であることを特徴とする請求項3に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記転写部材から前記像担持体に向かって付着トナーを移動させる場合、前記制御部は、前記第2の電圧発生回路から前記転写部材に転写電圧とは逆極性の電圧を出力させることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記記録媒体は、記録材であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記記録媒体は、中間転写ベルトであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の画像形成装置。
【請求項8】
電子写真方式によって記録材に画像を形成する画像形成装置であって、
所定の極性の電圧が出力される画像形成部材と、前記画像形成部材に画像形成する為の電圧を出力する電源部であって、所定の周波数の範囲内で可変設定される駆動周波数によって駆動される圧電トランスを備え、所定極性の電圧を出力する第1の電圧発生回路と、前記所定極性とは逆極性の電圧を出力する第2の電圧発生回路と、を有する電源部と、前記電源部を制御する制御部と、を有する画像形成装置において、
前記制御部は、前記所定の周波数の範囲に対応する前記第1の電圧発生回路の出力電圧範囲下限値よりも絶対値が小さい画像を形成する為の電圧を前記電源部から出力させる場合、前記所定の周波数の範囲内の駆動周波数で前記圧電トランスを駆動することによって前記第1の電圧発生回路から出力される電圧と、前記第2の電圧発生回路から出力される電圧とを重畳した画像形成する為の電圧を出力させることを特徴とする画像形成装置。
【請求項9】
所定の周波数の範囲内で可変設定される駆動周波数によって駆動される圧電トランスを備え、所定極性の電圧を出力する第1の電圧発生回路と、前記所定極性とは逆極性の電圧を出力する第2の電圧発生回路と、を有する電源部と、前記電源部を制御する制御部と、を有する電源システムにおいて、
前記制御部は、前記所定の周波数の範囲に対応する前記第1の電圧発生回路の出力電圧範囲下限値よりも絶対値が小さい電圧を前記電源部から被給電部材に出力させる場合、前記所定の周波数の範囲内の駆動周波数で前記圧電トランスを駆動することによって前記第1の電圧発生回路から出力される電圧と、前記第2の電圧発生回路から出力される電圧とを重畳した電圧を被給電部材に出力させることを特徴とする電源システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−8560(P2012−8560A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118169(P2011−118169)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】