説明

画像形成装置

【課題】 表面に凹凸加工がなされたエンボスシート上に、画像抜けのない良好な画像を形成する。
【解決手段】 トナー像が担持搬送される像担持体1と、この像担持体1との間で記録材3をニップ搬送し且つ像担持体1上のトナー像Tを記録材3上に転写する転写部材2とを備え、転写部材2のニップ域を挟む搬送経路にて記録材3を搬送する画像形成装置において、搬送経路は、通常シートである記録材3が通過する通常搬送経路4と、エンボスシートである記録材3が通過し且つ経路形状が通常搬送経路4より像担持体1側に向かって凸形状となる専用搬送経路5とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機やプリンタ等の画像形成装置に係り、特に、記録材としてシート表面に凹凸加工がなされた所謂エンボスシート上に画像を形成する画像形成装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カラー複写機やプリンタ等では、記録材として上質紙等の専用シートを用いる場合、最良の画質が得られるように現像条件や転写条件等各部の最適化が行われている。
従来において、記録材の表面に着目し、良好な画像形成を行わせるようにした例としては、記録シートの表面粗さ、地合い及び平滑度等によって、転写電流を上げたり、転写圧力を上げたり、更に、シート転移前のトナー量を多くするように露光条件や現像条件を制御する方法等が提示されている(例えば特許文献1〜3参照)。
ところで、最近のグラフィックアート市場で用いられる記録材として、型を用いて、表面に凹凸模様をつけたエンボスシートが多用される様になってきているが、従来、電子写真方式でエンボスシート上に良好な画像を形成する提示はなされていない。
【0003】
【特許文献1】特開2002−156839号公報(発明の実施の形態、図2)
【特許文献2】特開2002−202638号公報(発明の実施の形態)
【特許文献3】特開2001−337496号公報(発明の実施の形態、図1)
【特許文献4】特公昭46−41679号公報(発明の詳細な説明、第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1〜3のうち、特許文献1には、記録シートの表面粗さに応じて、転写時の押圧力や転写時間を変化させ、記録シート表面が粗い場合は、押圧力をより強くしたり、転写時間を長くすることで、良好な画像を得ようとした提案がなされている。しかし、このように転写条件を変更し、トナー量をアップさせるようにエンボスシート上で画像形成を行っても、表面の凹凸が深いため、特に凹部の画像抜けが解消できない。
また、特許文献2には、厚紙や封筒等の特殊紙への画像形成時に、転写電流を上げたり、定着温度を上げたりすることで、転写不良や定着不良を防止する提案がなされている。しかし、この方法で、エンボスシート上に画像形成を行っても、シート表面(凸部)のトナー厚が増加するのみで凹部の画像抜けは解消されない。
更に、特許文献3には、記録シートそのものの地合いの影響を低減するため画像形成条件を変更する提案がなされている。しかし、この方法は、地合いに対する効果はあっても、エンボスシートに対する解決手段とはならず、画像抜けが発生する。
【0005】
これらの問題に対し、別の観点から対応する方法として、中間転写体表面に十分軟らかい弾性層を設けることで、エンボスシートの凹部まで弾性層を押し当てる方法も考えられる(例えば特許文献4参照)。
しかしながら、この構成では感光体と中間転写体の間の摩擦が大きくなり、画素位置ずれ等の画質劣化が生じる。また、凹凸模様の周波数が高く振幅が大きい場合、すなわち、エンボスの凹凸が密に且つ深く配置されている場合には、中間転写体の弾性層を十分軟らかく、厚くしても、エンボスシートの凹凸面に追従できず、画像抜けは改善しない。
【0006】
このように、エンボスシートは、塗工紙や非塗工紙に凹凸加工を施したものであるため、その形状や紙質は様々で、表面粗さ、地合い及び平滑度だけでは正確な表面の凹凸を正しく判断することができない。
また、エンボスシートでは凹部深さが100μm以上のものもあり、例えば、転写電流を上昇させてもトナーとエンボスシート(特に凹部)間のギャップによる放電のため、画質劣化が生じ、画像抜けも十分に改善できない。
一方、転写圧力を上昇させても、ポリイミド樹脂等の通常使用される中間転写ベルトでは、エンボスシートの凹凸に追従できず、ギャップがなくならないため、画像抜けは改善されない。
更に、露光や現像条件を変えてトナー量を多くしても、エンボスシートの凹部深さに比べトナー層厚の変化は小さいことから、トナーとエンボスシート間のギャップがなくならず、画像抜けは改善しない。また、トナー層厚が厚くなることで、却って転写効率が悪化し、画像抜けが悪くなることにもなる。
本発明は、以上の技術的課題を解決するためになされたものであって、表面に凹凸加工がなされたエンボスシート上に、画像抜けのない良好な画像を形成するための、画像形成装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一般的に、転写部材のニップ域を挟む搬送経路にて記録材を搬送するタイプの画像形成装置では、例えば略水平方向に記録材を搬送する場合、通常シートでは良好なトナー転写がなされても、エンボスシートのような表面に大きな凹凸面を有するシートではトナーの転写効率が低下し、画像抜けが問題となる。
また、例えば弧を描くような搬送経路で記録材を搬送する場合は、通常シートとエンボスシートの腰の違い等により、エンボスシートでは問題とならないしわが、通常シートでは問題となることがある。
このように、表面形状や腰が大きく異なる通常シートとエンボスシートを、同一の画像形成装置にて画像形成を行うことにはブレークスルーが必要であった。
【0008】
そこで、本件発明者は、エンボスシートの凹部深さが、表面を凸形状に反らせることにより、見かけ上浅くなることに着眼し、本発明を見出した。
すなわち、本発明は、図1に示すように、トナー像が担持搬送される像担持体1と、この像担持体1との間で記録材3をニップ搬送し且つ像担持体1上のトナー像Tを記録材3上に転写する転写部材2とを備え、転写部材2のニップ域を挟む搬送経路にて記録材3を搬送する画像形成装置において、搬送経路は、通常シートである記録材3が通過する通常搬送経路4と、エンボスシートである記録材3が通過し且つ経路形状が通常搬送経路4より像担持体1側に向かって凸形状となる専用搬送経路5とを備えることを特徴とするものである。
【0009】
このような技術的手段において、本件の画像形成装置は、トナー像Tを記録材3上に転写するものであればよく、電子写真方式及び静電記録方式のいずれであってもよい。
また、像担持体1は、トナー像Tを担持搬送するものであればよく、感光体等のトナー像Tが形成担持される像形成担持体の態様や一時的にトナー像Tが担持搬送される中間転写体の態様が挙げられる。
更に、転写部材2は、像担持体1との間で記録材3をニップ搬送できるものであればよく、代表的態様としては転写ロールが挙げられる。
【0010】
本発明では、通常シートが搬送される通常搬送経路4とエンボスシートが搬送される専用搬送経路5とを備え、記録材3がエンボスシートの場合には、転写部材2のニップ域を挟む搬送経路形状が通常搬送経路4より像担持体1側に向かって凸形状となる専用搬送経路5を選択し、エンボスシート上にトナー像Tを転写する際、エンボスシートの表面(転写面)を像担持体1側に凸形状になるように反らせることで、エンボスシートの見かけ上の凹部深さを浅くするようにしたものである。
また、このとき、転写ニップ域の形状は、特に限定されず、凸形状でなくても転写ニップ域端部ではエンボスシートが像担持体1側に凸形状となるため、見かけ上の凹部深さが浅くなるが、エンボスシートへのトナーの転写効率を十分確保する観点から、転写ニップ域でも像担持体1側に凸形状とすることが好ましい。
【0011】
図2(a)(b)は、本発明における作用を示すためのもので、表面に凹部7を備えたエンボスシート6が、その変形によって凹部7の見かけ上の深さが変化することを表したものである。ここで、(a)は例えばエンボスシート6を水平に保った状態を表し、(b)は本発明の転写時のようにエンボスシート6が反った状態を表している。
今、エンボスシート6のシート厚をt、エンボスの凹部7の深さをd、長さをlとすると、(a)のようにエンボスシート6が水平の状態で転写されることを想定すると、凹部7の深さdは変わらないため、像担持体(図示せず)とエンボスシート6の凹部7とはそのままdの距離だけ離れた状態となる。そのため、転写時の転写効率が悪く、画像抜けを生じ易くなる。
一方、エンボスシート6を(b)のように反らせて転写を行うようにすると、見かけ上の凹部深さはd’となり、像担持体(図示せず)とエンボスシート6の凹部7とのギャップは浅くなる。そのため、トナー像(図示せず)の転写効率が向上し、画像抜けが抑制されるようになる。
また、本発明においては、見かけ上の凹部深さd’をdの1/2以下にするようにすることが好ましく、このことで、転写効率が一層向上し、画像抜けがより有効に抑制されるようになる。見かけ上の凹部深さd’が1/2を超えると、(a)と同様に、転写効率が悪く、画像抜けを防ぐことができ難くなる。
【0012】
更に、本発明では、図1に示すように、専用搬送経路5のうち、転写部材2の記録材3搬送方向上流側及び下流側のいずれかは通常搬送経路4を兼用させることも可能で、この場合、通常搬送経路4も含めた記録材3のシート搬送経路が簡略化されるようになる。
【0013】
更にまた、本発明では、記録材3の種類に応じてエンボスシートモード又は通常シートモードを選択するモード選択手段を具備し、このモード選択手段によって選択されたモードに基づいてシート搬送経路を通常搬送経路4又は専用搬送経路5に切り替える経路切替手段を備えるようにすることが好ましく、このようにシート搬送経路を経路切替手段によって切り替えることで、記録材3が通常シートの場合、転写時の不要な反りを加えることがなくなり、不要なしわの発生を抑えることができるようになり、一方、エンボスシートの場合、適切な反りを加えることができ、画像抜けを抑制することが容易にできるようになる。
【0014】
このとき、モード選択手段への入力は、例えば操作パネル等を使用して記録材3の情報を手動で入力する態様でもよいし、別途自動で記録材3の判別を行った結果を入力する態様であっても差し支えない。
更に、モード選択手段は、記録材3の厚みや表面の凹部7の深さd(図2参照)等の情報を下に、適用するシートモードを選択するが、例えば手動で行う場合は、記録材3の型番等の情報で坪量、厚み、表面の凹部7の深さd等を判断する態様であってもよいし、例えば自動で行う場合は、対向するロール間を移動する際のロール移動量やCCDカメラ等による表面観測で凹部7の深さdや厚みtの変化量等の情報からシートモードを選択する態様であっても差し支えない。尚、記録材3がエンボスシートかどうかのモード選択を行う情報は、一つの情報に基づく態様であってもよいし、複数の情報に基づく態様であっても差し支えない。
【0015】
また、記録材3がエンボスシートか否かを自動的に判別する判別手段をモード選択手段に備える態様であってもよく、記録材3の凹部7の深さd等により判別する態様が可能である。そして、記録材3の凹部7の深さdによって自動的に判別する態様では、例えば、CCDカメラ等からの画像を、周波数解析装置や画像解析装置等を使用して判断する態様が可能である。
【0016】
また、本発明では、エンボスシートモードは、1種類の態様であってもよいし、複数種備えた態様であっても差し支えない。後者の場合、通常、専用搬送経路5を複数備えるようにすることが好ましい。
尚、エンボスシートとは、型を用いて表面に凹凸模様を設けたシートを指すが、アート紙やコート紙等の用紙に型による凹凸加工がなされた用紙、所謂エンボス紙を含み、通常の洋紙販売会社等で扱うレザック66やボス等がこれに相当する。
更に、記録材3の凹部7の深さdが30μm未満の場合は、通常の転写条件等の処置を行うことで、本発明に関する反りを加えなくてもよいことから、好ましくは、凹部7の深さdが30μm以上のものをエンボスシートとして、エンボスシートモードでの作像を行うようにする方がよい。
【0017】
また、上述の画像形成装置において、少なくとも専用搬送経路5使用時には、転写部材2のニップ域形状が像担持体1側に凸形状となるニップ域形状調整手段を備えることが好ましく、このことにより、ニップ域でのシート形状が全体的に凸形状を保つことができ、エンボスシートの凹部7の見かけ上の深さd’(図2参照)を小さくすることができるようになり、転写効率の確保が一層可能になる。
このとき、ニップ域調整手段の具体的態様としては、転写部材2として表面硬度の異なる複数の部材を備え、これらをモード選択手段からの情報によって切り替えることが好ましい。そして、エンボスシートモードが選択されたときには、表面硬度が通常シートモード時より高い転写部材2に切り替えることが好ましい。
更に、転写部材2として複数の部材を備える好ましい態様としては、装置の簡略化の観点から2個の部材とする態様が挙げられるが、部材の数量は2個に限定されるものではなく、例えばエンボスシートモードを複数備える態様にあっては、より適した表面硬度の転写部材2を備えることも可能である。
このように、エンボスシートモード時に、転写部材2の表面硬度を高くすることで、記録材3がエンボスシートの場合、通常シートに比べ転写部位でのシート搬送経路形状が一層像担持体1側に凸形状になり、エンボスシートの見かけ上の凹部深さd’を小さくすることができるようになる。
【0018】
そして、本発明において像担持体1がベルト状部材である態様においては、図3(a)に示すように、ニップ域形状調整手段としては、像担持体1を挟んで転写部材2と対向する位置に回動可能な対向部材8を具備し、少なくとも記録材3としてエンボスシートが使用される際には、転写部材2はこの対向部材8より表面硬度を高くすることが好ましく、転写ニップ域での記録材3の形状を像担持体1側に凸形状に維持することが可能となり、画像抜けを抑制することが可能になる。
一方、このとき、(b)に示すように、転写部材2の表面硬度を対向部材8の表面硬度より低くすると、転写部材2の転写ニップ域では記録材3の形状が転写部材2側に凸形状となり、例えばエンボスシートの凹部の見かけ上深さd’(図2参照)を浅くすることができ難くなり、画像抜けが改善されなくなる懸念がある。
尚、上述の「少なくとも」とは、エンボスシートを使用する際には、転写部材2の表面硬度が対向部材8の表面硬度より高くなることを示すもので、通常シートを使用する際も同様の硬度関係であっても差し支えないことを意味する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、像担持体と転写部材とのニップ域を挟む搬送経路にて記録材を搬送する画像形成装置において、搬送経路として、通常シートである記録材が通過する通常搬送経路と、エンボスシートである記録材が通過し且つ経路形状が通常搬送経路より像担持体側に向かって凸形状となる専用搬送経路とを備えたので、記録材が通常シートの場合のしわ等の発生を抑え、記録材がエンボスシートの場合であっても、画像抜けが改善された良好な画像を形成することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図4は、本発明が適用された画像形成装置の実施の形態1を示す。
同図において、画像形成装置10は、内部にカラー画像を形成可能な作像エンジン20を備え、この作像エンジン20の下方に記録材としてのシートを供給するシート供給トレイ40を配設するほか、装置側部に作像エンジン20によって画像形成がなされたシートを収容する収容トレイ41を配設したものである。
【0021】
本実施の形態で用いられる作像エンジン20は、例えば電子写真方式を採用したものであって、各色成分トナー像を形成担持する感光体21を配置し、この感光体21上の各色成分トナー像を中間転写ベルト22に一次転写させ、これを4回繰り返した後、例えば二次転写ロールからなる二次転写装置23にて中間転写ベルト22上の多重色成分トナー像をシートに一括転写させた後、定着装置24に導くようにしたものである。
【0022】
ここで、感光体21の周囲には、感光体21を帯電するコロトロン等の帯電器25、感光体21上に静電潜像を書き込むレーザ走査装置からなる露光装置26、各色成分トナーが収容されて感光体21上の静電潜像を可視像化する現像装置27、感光体21上の各色成分トナー像を中間転写ベルト22上に転写せしめる例えば転写ロールからなる一次転写装置28及び感光体21上の残留トナーを清掃するクリーナ29等の電子写真用デバイスが順次配設されている。尚、符号26aは、露光装置26内のポリゴンミラーによって出射されたレーザビームが走査する反射ミラーであり、この反射ミラー26aによって反射されたレーザビームが感光体21表面を走査することで潜像が形成されるようになる。
【0023】
また、中間転写ベルト22は、複数の張架ロールに張架されて循環搬送されるものであり、二次転写装置23が一つの張架ロール30をバックアップロールとして対向配置されている。
本実施の形態における二次転写装置23は、図5(a)(b)に示すように、表面硬度の異なる2種類のロール部材231,232が回転板233に固定された2個のベアリング233a,233bに夫々軸支されており、回転板233を回転させることでロール部材の一方が中間転写ベルト22(図4参照)に接するようになっている。また、ロール部材の回転は、夫々のロール部材231,232の軸部231a,232aに装着されたギア234,235を介して、外部からの回転力が加わるようになっている。尚、本実施の形態では、ロール部材231は金属ロールを使用している。尚、図5(b)は、(a)のB−B断面図である。
【0024】
更に、本実施の形態におけるシートの搬送経路は、図4に示すように、シート供給トレイ40から搬送されたシートが二次転写装置23に至るまでの経路を2経路備えており、二次転写装置23とバックアップロール30との対向部位を略水平に搬送される上流側通常搬送路51a及び下流側通常搬送路51bを通る通常搬送経路51と、前記対向部位に対し斜方に設けられる上流側専用搬送路52a及び下流側専用搬送路52bを通る専用搬送経路52とが設けられ、専用搬送経路52は中間転写ベルト22に対して凸形状になるようになっている。
【0025】
本実施の形態では、図6に示すように、シート搬送経路の切替機構が設けられ、シートが搬送される経路を通常搬送経路51又は専用搬送経路52に切り替えるようになっている。同図において、通常搬送経路51と専用搬送経路52の切り替えは、2個の切替ゲート71,72によって行われる。切替ゲート71は、シート供給トレイ40から搬送されたシートを上流側通常搬送路51a又は上流側専用搬送路52aのいずれかの経路を選択するように配置され、切替ゲート72は、二次転写装置23から排出されるシートを下流側通常搬送路51b又は下流側専用搬送路52bのいずれかにシートを搬送するように配置されている。尚、図6は、2個の切替ゲート71,72によって専用搬送経路52が選択された配置を示しており、切替ゲート71,72が破線で示す配置では、通常搬送経路51が選択されるようになる。
【0026】
そして、下流側通常搬送路51b及び下流側専用搬送路52bは、定着装置24の上流側で合流するようになっている。
そのため、本実施の形態では、シート供給トレイ40から搬送されたシートは、上述した通常搬送経路51又は専用搬送経路52を通って、二次転写装置23に至り、中間転写ベルト22上の多重転写トナー像が一括転写された後、定着装置24にて定着され、排出ロール31によって収容トレイ41に排出されるようになっている。
【0027】
また、本実施の形態では、シート供給トレイ40内のシートが通常シートかエンボスシートかを自動的に判別し、適用されるシートの種類に応じてエンボスシートモード又は通常シートモードを選択するモード選択機構と、このモード選択機構によって選択されたモードに基づいてシート搬送経路を切り替える経路切替機構を備えている。
本実施の形態におけるモード選択機構は、適用されるシートがエンボスシートかどうかを判別する判別機構を有し、この判別機構は、シート供給トレイ40から搬送されるシートの表面状態を観測しデジタル画像として取り込むCCDカメラ61と、このCCDカメラ61によって取り込まれた表面画像のデジタルデータを基に周波数解析を行う周波数解析装置62と、この周波数解析装置62にて解析された情報によって、通常シートかエンボスシートかの判別を行う判別装置63にて構成されている。
【0028】
そして、判別装置63によって判別された結果、モード選択機構は制御装置64によってエンボスシートモード又は通常シートモードを選択し、この選択されたモードに適合する各種制御を行うようになる。
図7は、本実施の形態における制御系の概要を示す説明図であり、判別装置63からの判別情報に基づいて、制御装置64にてモード選択(通常シートモード又はエンボスシートモードのいずれかを選択)を行い、二次転写装置23の切替機構を制御し適正なロール部材231,232を選択したり、2個の切替ゲート71,72を切り替えてシート搬送経路を切り替えたり、更には、露光装置26の露光条件を適正化したり、現像装置27の現像条件を適正化するようになっている。
【0029】
更に、本実施の形態では、図4にも示すように、画像形成装置10の外部に設けられたパーソナルコンピュータ(パソコン)100からの画像データは、画像処置装置65内に取り込まれ、例えばビットマップ展開されたデータとして制御装置64に導かれるようになっている。そのため、この制御装置64では、画像処理装置65からのデータと上述の判別装置63からの判別情報から、各種の制御を行うようになっている。
尚、上述したモード選択機構以外に、例えば判別装置63を使用しないで、画像形成装置10のUI(User Interface)110(図7参照)等から制御装置64に通常シートモード又はエンボスシートモードの選択を行う情報入力を送るようにすることも可能である。また、UI110の代わりに、パソコン100側から制御装置64側に通常シートモード又はエンボスシートモードの選択を行う情報入力を送るようにしてもよい。更には、制御装置64からは、二次転写装置23と切替ゲート71,72のみ制御するようにしてもよい。
【0030】
ここで、本実施の形態における特徴点である二次転写装置23及びその二次転写装置23前後のシートの搬送経路について詳述する。
図8は、本実施の形態におけるエンボスシートモード時の二次転写装置23及びシート搬送経路を示すもので、中間転写ベルト22を挟持する形で二次転写装置23とバックアップロール30が対向配置されている。
そして、二次転写装置23の二つのロール部材231,232のうち、表面硬度が高く、径の小さいロール部材231(本実施の形態では金属ロール)の方が、中間転写ベルト22と接触している。そのため、両者のニップ域では、ロール部材231がバックアップロール30側に凸状に食い込んだ状態となっている。
【0031】
また、二次転写装置23のシート搬送方向上流側には、上流側通常搬送路51aに設けられた上流側通常ガイド53と、上流側専用搬送路52aに対向配置された一対の上流側専用ガイド54とが配設される一方、シート搬送方向下流側には、下流側通常搬送路51bに設けられた下流側通常ガイド55と、下流側専用搬送路52bに対向配置された一対の下流側専用ガイド56とが配設されている。そして、上流側通常ガイド53と下流側通常ガイド55とは、二次転写装置23を挟んで略一直線上に設けられ、一方、上流側専用ガイド54と下流側専用ガイド56は夫々ニップ域に向かって、略30°(図中αで示すシート搬送角度)の角度で下方に傾斜するように設けられている。
このような二次転写装置23及びシートの搬送経路に対し、エンボスシートを搬送させる搬送経路は図の破線にて示すように、上流側専用ガイド54の間を通り、転写ニップ域を介して下流側専用ガイド56の間を搬送される。
【0032】
一方、通常シートの場合には、図9の破線で示すように、上流側通常ガイド53から転写ニップ域を通って下流側通常ガイド55へ搬送される。尚、図9のように、通常シートの場合には、二次転写装置23のロール部材が切り替わり、ロール部材232が中間転写ベルト22に接触するようになる。そして、このロール部材232ではその表面硬度がエンボスシートの場合より小さくなるため、本実施の形態におけるロール部材232とバックアップロール30とのニップ域では、ほぼ直線状の搬送経路が確保され、十分な転写ニップ域を確保できるようになっている。
【0033】
次に、本実施の形態における画像形成装置の作動について、図4〜図9を用いて説明する。
今、シート供給トレイ40にエンボスシートが搭載され、エンボスシートが搬送されると、周波数解析装置62の解析結果から判別装置63では搬送されるシートがエンボスシートであると判断し、制御装置64から二次転写装置23及び2個の切替ゲート71,72に対し、エンボスシートに適したロール部材231及び専用搬送経路52の選択が行われる。本実施の形態では、更に、露光装置26に対し、エンボスシートに適合した露光条件にするように信号が伝達されると共に、現像装置27での現像条件を変更するようになる。尚、露光条件及び現像条件は、トナー付着量を少なくする方向に作用させるように、露光量や現像バイアスを弱める方向に働くようになっている。
【0034】
ここで、周波数解析について説明する。本実施の形態では、CCDカメラ61にて搬送されるシートの画像を取り込むと、シート表面の凹凸の差に応じた濃淡画像が得られる。この場合、凹凸の差が小さいものほど白く、大きいものほど黒くなる画像が得られる。この濃淡の差を周波数解析装置62によって、シートの凹部深さに換算できるようになる。
通常、エンボスシートは、製法上、凹凸模様を施した型(ロール)の間を通過させる際にその模様(凹凸)を形成するため、上述の濃淡画像はある程度決まった周波数成分を持つこととなる。したがって、その周波数解析を行うことで、ある周波数でピークを持つようなシートはエンボスシートであると判断することが可能となる。
尚、凹凸が30μm以上であれば、この濃淡画像がより鮮明になるため、周波数解析による判別が一層容易になる。
【0035】
以上のように、本実施の形態では、適用されるシートがエンボスシートの場合には、専用搬送経路52が選択され、また、二次転写装置23として専用のロール部材231が選択されることから、二次転写時のエンボスシートの凹部深さが、実質的に浅くなり、転写効率を向上させることができ、画像抜けを防ぐことが可能になる。このとき、専用搬送経路52の曲率を大きく取り、シートが通常シート(例えば普通紙)の場合にはしわになるような経路であっても、エンボスシートではその厚みや腰によりしわの発生が問題となり難いことから問題とはならない。
【0036】
更に、本実施の形態では、露光条件や現像条件も変更することで、画像抜けを一層防ぐ効果がある。次に、この点について説明する。
二次転写過程における中間転写ベルト22上のトナー層厚とエンボスシートの凹部深さとの関係は、通常、次のようになる。すなわち、トナー層厚が厚い場合は、トナー層全体が保有する電荷量が大きくなり、中間転写ベルト22とトナーとの静電気的付着力が強くなるため、二次転写装置23によってエンボスシートの凹部側へトナーを吸引する静電吸引力が相対的に弱くなり、トナーの転写が不十分となる。一方、トナー層厚が薄い場合は、中間転写ベルト22とトナーとの静電気的付着力が弱くなり、エンボスシートの凹部へのトナー転写が十分行われるようになる。
【0037】
このように、トナー層厚を薄くすることで、エンボスシート上に転写されるトナー量は少なくなり、通常、色再現性が低下するが、一般的に使用されるエンボスシートは、その色調がアイボリーやベージュ等の色付きが多いことから、どちらかというと色再現に対する市場での要求度は低く、実用上問題とならない。
したがって、本実施の形態のように、エンボスシートの場合にトナー層厚を薄くすることで、画像抜けが一層少なくなり、画質も滑らかな画像形成が可能となる。
このように、本実施の形態では、必要以上に転写電流を大きくしたり、中間転写ベルト22の押し付け力を上げる必要もなく、更に、中間転写ベルト22表面にゴム層等の特に軟らかい層を保有しなくてもよく、エンボスシートとトナーを必ずしも接触させなくても転写不足による画像抜けの発生を抑えることができるようになる。
【0038】
更に、上述のように、トナー層厚を薄くするために、下色除去(イエロ色(Y色)、マゼンタ色(M色)、シアン色(C色)の3色の混色による所謂プロセスブラックをブラック色(K色)に置換させる)を行うことも可能で、このような下色除去を制御装置64にて行うことで、トナー層厚が薄くなり、エンボスシートへの画像抜けを抑止する方向に役立たせることができる。
【0039】
更にまた、本実施の形態では、周波数解析装置62によるシート表面の凹凸状態の解析からエンボスシートかどうかの判別を行う構成を示したが、例えばパソコン100側から画像データと共に、適用されるシートがエンボスシートかどうかの情報を送るようにしてもよい。尚、パソコン100から画像データを送出せず、例えば画像形成装置10の上部に画像読取部を備え、この画像読取部によって原稿から読み取られた画像データを使用するようにしても差し支えない。
また、本実施の形態では、シート供給トレイ40を1段備える構成を示したが、例えばシート供給トレイ40として複数段のものを備える構成であっても差し支えない。
そして、本実施の形態では、エンボスシートの場合、エンボスシート用の専用搬送経路を搬送させると共に、露光条件及び現像条件を変更する方式としたが、エンボスシート用の専用搬送経路52を搬送させることだけでも、十分な転写効率の確保がなされ、画像抜けを抑止できることはいうまでもない。
【実施例1】
【0040】
本実施例は、二次転写時の中間転写ベルト上のトナーと記録材としてのシートとのギャプ(トナー/シート間ギャップ)に対する画像抜けの状況を評価したものである。
本実施例では、富士ゼロックス(株)製のDocuCentre Color 500の改造機を使用し、通常シート用ロール部材としては、直径30mm、表面にフッ素コートを施した発泡ウレタンを使用し、二次転写時の条件がバックアップロールに対する食い込み量約1mm、ニップ幅約10mmとなるように調整した。
一方、エンボスシート用ロール部材としては、通常シートと同様のニップ幅を得るため、直径20mmの金属製のロールを約1.3mm食い込ませるように調整した。また、シート搬送角度が約30°となるように、夫々の搬送ガイドを配置した。
【0041】
先ず、トナー/シート間のギャップが画像抜けにどう影響するかを確認した。このときのトナー層厚は、通常条件とし、単色(C,M,Y,K)の場合は10μm弱、二次色(R,G,B)の場合は15μm弱、三次色(PB)の場合は20μm弱となっている。
また、画像抜け評価は、画像抜けグレードとして次のように判定した。すなわち、G1は画像抜け発生なし、G2はG1と次のG3との間のレベル、G3は画像抜けがあるが気にならない、G4はG3と次のG5との間のレベル、G5は画像抜け発生がひどい、のように分類し、G1〜G3を合格レベルとした。
評価結果は、図10に示すように、トナー/シート間ギャップが小さくなると、画像抜けグレードが向上することが確認され、約100μmのギャップで画像抜けがG5だったものが、約60μmではG3になった。これにより、エンボスシートでの二次転写に際しては、エンボスシートの凹部の深さが60μm以下になるようにすれば、画像抜けが実用的には問題とならないことが判明した。
【0042】
次に、エンボスシートを使用し、改造機での評価を行った。
エンボスシートとしては、(株)竹尾などの洋紙販売会社で通常取り扱っているレザック66やボスを使用した。本実施例で使用したエンボスシートの厚さは0.3mm、凹部の深さは0.1mm、凹部の長さは2mmであった。
そして、改造機での二次転写時にエンボスシートの専用搬送経路を搬送させることで、二次転写時の見かけ上の凹部の深さ(図2(b)のd’に相当)は当初のほぼ半分の0.049mmとなった。
すなわち、図8から判断すると、当初G5相当の画像抜けを示していたものが、本件のエンボスシート用の専用搬送経路を通すことで、G2程度に大幅に改善されることが判明した。
【0043】
以上の結果から、エンボスシート専用の搬送経路を設け、エンボスシートの場合、この専用搬送経路を通すようにすることで、画像抜けが改善されることが確認された。また、このとき、エンボスシートの凹部深さが見かけ上、当初の1/2以下になるようにすれば、画像抜けの改善効果が十分確保されることが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係る画像形成装置の概要を示す説明図である。
【図2】本発明によるエンボスシートの凹部深さの変化を示す説明図である。
【図3】(a)(b)は本発明による二次転写部位のニップ形状を示す説明図である。
【図4】本発明が適用された画像形成装置の実施の形態を示す説明図である。
【図5】(a)(b)は実施の形態の二次転写装置の要部を示す説明図である。
【図6】実施の形態のシート搬送経路の要部拡大図である。
【図7】実施の形態の制御系を示す説明図である。
【図8】実施の形態のエンボスシート時の二次転写装置周辺を示す説明図である。
【図9】実施の形態の通常シート時の二次転写装置周辺を示す説明図である。
【図10】実施例の評価結果を示す説明図である。
【符号の説明】
【0045】
1…像担持体,2…転写部材,3…記録材,4…通常搬送経路,5…専用搬送経路,T…トナー像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トナー像が担持搬送される像担持体と、この像担持体との間で記録材をニップ搬送し且つ像担持体上のトナー像を記録材上に転写する転写部材とを備え、転写部材のニップ域を挟む搬送経路にて記録材を搬送する画像形成装置において、
搬送経路は、通常シートである記録材が通過する通常搬送経路と、
エンボスシートである記録材が通過し且つ経路形状が通常搬送経路より像担持体側に向かって凸形状となる専用搬送経路とを備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
請求項1記載の画像形成装置において、
専用搬送経路のうち、転写部材の記録材搬送方向上流側及び下流側のいずれかは通常搬送経路を兼用するものであることを特徴とする画像形成装置。
【請求項3】
請求項1記載の画像形成装置において、
記録材の種類に応じてエンボスシートモード又は通常シートモードを選択するモード選択手段と、
このモード選択手段によって選択されたモードに基づいてシート搬送経路を通常搬送経路又は専用搬送経路に切り替える経路切替手段とを備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項4】
請求項1記載の画像形成装置において、
少なくとも専用搬送経路使用時には、転写部材のニップ域形状が像担持体側に凸形状となるニップ域形状調整手段を備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項5】
請求項3記載の画像形成装置のうち像担持体がベルト状部材である態様において、
ニップ域形状調整手段は、像担持体を挟んで転写部材と対向する位置に回動可能な対向部材を具備し、少なくとも記録材としてエンボスシートが使用される際には、転写部材はこの対向部材より表面硬度を高くすることを特徴とする画像形成装置。
【請求項6】
請求項3記載の画像形成装置において、
モード選択手段は、記録材の凹凸模様によって、エンボスシートか否かを判別する判別手段を備えていることを特徴とする画像形成装置。
【請求項7】
請求項1記載の画像形成装置において、
専用搬送経路は、エンボスシート表面の見かけ上凹部深さを当初の1/2以下にすることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−259576(P2006−259576A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−80107(P2005−80107)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】