説明

画像形成装置

【課題】筐体の側面に設けられたカバーを開放して被記録媒体を排出することのできる画像形成装置において、当該カバーの開放に連動して被記録媒体の排出経路を水平に近づけることにより、剥離放電を抑制すること。
【解決手段】リアカバー1Hを閉じた状態(B)では、嵌合部72が切欠部53Bに嵌合する。この嵌合によって、ケース53は(A)の状態に比べて図2における反時計回りに揺動した位置に、引張コイルバネ59の付勢力に抗して保持される。その状態からリアカバー1Hを開放していくと、ある時点で嵌合部72と切欠部53Bとの嵌合が外れ、(A)に示すように、ケース53は突起1Kと当接するまで揺動する。この結果、転写搬送ベルト12Cの表面(搬送面)から定着器5を経て開口部1Lに至る用紙Pの排出経路が、リアカバー1Hの閉鎖時には斜め後上方に向いていたものが水平に近づけられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無端ベルトによって被記録媒体を搬送しながらその被記録媒体に電子写真方式で画像を形成する画像形成装置に関し、詳しくは、その画像形成装置の筐体側面に設けられたカバーを開放して被記録媒体を排出することのできる画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無端ベルトによって被記録媒体としての用紙を水平方向に搬送しながら電子写真方式でその用紙に画像を形成する画像形成装置では、画像形成後の用紙を前記無端ベルトから定着器に搬送することにより、その用紙に形成された画像を加熱定着している。また、この種の画像形成装置では、用紙を無端ベルトから定着器まで案内するガイドの後端部を揺動可能にすることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。その場合、用紙の排出経路に柔軟性を持たせることができ、腰の強い用紙が無端ベルトと定着器との間で撓んでもその撓みを許容することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−197652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、前述のような画像形成装置では、転写ベルトとして機能する用紙搬送ベルト(無端ベルト)に用紙を吸着させて搬送しながら、転写電流を利用して電子写真方式による画像形成がなされるので、画像形成後の用紙を無端ベルトから急に持ち上げると、いわゆる剥離放電が生じる。すなわち、例えば前記ガイドによって定着器に向けて持ち上げられた用紙と無端ベルトとの間で放電が起こり、当該用紙に形成されていた画像が乱れてしまうのである。特許文献1のように、用紙の排出経路に柔軟性を持たせることは、その態様によっては剥離放電の抑制に有効な場合があるが、特許文献1ではそのような考察はなされていない。
【0005】
また、前述のような剥離放電は、厚紙やハガキなどのように腰の強い用紙の方が生じやすい。筐体の側面(例えば後面)に設けられたカバーを開放して被記録媒体を排出することのできる画像形成装置では、このように腰の強い用紙は、少しでも湾曲が加えられるのを抑制するため、ユーザが当該カバーを開放して用紙を排出する場合が多い。しかしながら、この種の画像形成装置において、カバーの開閉に応じて剥離放電の対策を行うといった考察はなされていない。
【0006】
そこで、本発明は、筐体の側面に設けられたカバーを開放して被記録媒体を排出することのできる画像形成装置において、当該カバーの開放に連動して被記録媒体の排出経路を水平に近づけることにより、剥離放電を抑制することを目的としてなされた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達するためになされた本発明の画像形成装置は、複数のローラ間に架設されて回転駆動されることにより水平方向に被記録媒体を搬送する無端ベルトと、前記無端ベルトによって搬送される前記被記録媒体に転写電流を利用して電子写真方式で画像を形成する画像形成手段と、該画像形成手段によって前記被記録媒体に形成された画像を加熱定着する定着手段と、前記無端ベルト及び前記画像形成手段及び前記定着手段を収容した筐体と、前記定着手段によって前記画像を加熱定着された前記被記録媒体を、前記筐体の上面に設けられたトレイまで搬送する搬送手段と、前記筐体の側面に開口し、前記搬送手段による搬送経路の途中から前記筐体外へ前記被記録媒体を排出可能な開口部と、前記側面に開閉可能に設けられ、開放時には前記開口部を介した被記録媒体の排出を許可し、閉鎖時には前記開口部を介した被記録媒体の排出を禁止するカバーと、前記定着手段に前記カバーの動きを伝達して前記定着手段の少なくとも一部を移動させることにより、前記カバーの開放時には、前記無端ベルトの表面から前記定着手段を経て前記開口部に至る前記被記録媒体の排出経路を、前記カバーの閉鎖時に比べて水平に近づける移動手段と、を備えたことを特徴としている。
【0008】
このように構成された本発明の画像形成装置では、無端ベルトによって水平方向に搬送される際に転写電流を利用して電子写真方式で画像形成手段により画像が形成された被記録媒体は、その画像を定着手段によって加熱定着される。すると、搬送手段は、前記定着手段によって画像を加熱定着された被記録媒体を、筐体の上面に設けられたトレイまで搬送する。また、前記筐体の側面(例えば、前面,後面,右面,または左面)に設けられたカバーを開放すると、当該側面に設けられた開口部を介して、前記搬送手段による搬送経路の途中から前記筐体外へ前記被記録媒体を排出可能となる。
【0009】
ここで、前記カバーの開放時には、移動手段が定着手段に当該カバーの動きを伝達してその定着手段の少なくとも一部を移動させることにより、前記無端ベルトの表面から前記定着手段を経て前記開口部に至る前記被記録媒体の排出経路が、前記カバーの閉鎖時に比べて水平に近づけられる。従って、本発明では、ハガキ等の腰の強い被記録媒体に対する画像形成時には、前記カバーを開放することによってその開放に連動して被記録媒体の排出経路が水平に近づけられ、剥離放電が生じるのを抑制することができる。
【0010】
なお、前記定着手段が、前記画像形成後の被記録媒体を加熱する加熱ローラと、当該被記録媒体を前記加熱ローラとの間に挟んで押圧する加圧ローラと、を備えて、前記画像形成後の被記録媒体を搬送しながら加熱定着するものである場合、前記移動手段は、前記カバーの開放時には、前記加熱ローラと前記加圧ローラとのニップ部を、前記カバーの閉鎖時に比べて、前記無端ベルトにおける前記被記録媒体の搬送面の延長面上に近づけてもよい。この場合、前記ニップ部が前記無端ベルトにおける前記被記録媒体の搬送面の延長面上に近づくことで、前記排出経路が水平に近づき、剥離放電が生じるのを抑制することができる。
【0011】
そして、その場合、前記移動手段は、前記カバーの開放時には、前記加熱ローラの中心と前記加圧ローラの中心とを結ぶ直線も、前記カバーの閉鎖時に比べて鉛直に近づけてもよい。その場合、前記定着手段による被記録媒体の搬送方向も水平に近づき、剥離放電が生じるのを一層良好に抑制することができる。
【0012】
そして、更にその場合、前記移動手段は、前記加熱ローラ及び前記加圧ローラを、それらを支持するケースと一体に当該ケースの揺動軸を中心に揺動させることにより、前記カバーの開放時には、前記加熱ローラと加圧ローラとのニップ部を前記カバーの閉鎖時に比べて前記無端ベルトにおける前記被記録媒体の搬送面の延長面上に近づけ、かつ、前記加熱ローラの中心と前記加圧ローラの中心とを結ぶ直線を前記カバーの閉鎖時に比べて鉛直に近づけてもよい。この場合、加熱ローラと加圧ローラとをそれらを支持するケースと一体に揺動させることで、前記移動手段は、前記ニップ部を前記搬送面の延長面上に近づけ、かつ、前記ローラの中心同士を結ぶ直線を鉛直に近づけることが容易にできる。
【0013】
また、前記移動手段は、前記カバーの開放時にも、前記無端ベルトから前記定着手段に至る排出経路を完全に水平にはせず、上下何れかに湾曲した排出経路としてもよい。この種の画像形成装置では、搬送手段及び定着手段による被記録媒体の搬送速度を、無端ベルトによる被記録媒体の搬送速度よりも小さくすることがなされる場合がある。これは、画像形成手段による画像形成中の被記録媒体が搬送手段または定着手段に引っ張られて、その被記録媒体に正確な画像が形成できなくなるのを抑制するためである。このような場合、無端ベルトの表面から定着手段に至る途中で被記録媒体に撓みが生じる場合があるが、その排出経路が完全な水平ではなく上下何れかに湾曲していれば、被記録媒体が撓むべき方向が予め決められているので一層良好に被記録媒体を排出することができる。
【0014】
また、前記画像形成後の被記録媒体を前記無端ベルトの表面から剥がして前記定着手段に案内するガイドを、更に備え、前記移動手段は、前記ガイドにも前記カバーの動きを伝達して前記ガイドを移動させることにより、前記カバーの開放時には、前記ガイド上の前記排出経路も、前記カバーの閉鎖時に比べて水平に近づけてもよい。その場合、前記ガイドが移動することによっても、前記無端ベルトの表面から前記定着手段を経て前記開口部に至る前記被記録媒体の排出経路が水平に近づくので、剥離放電が生じるのを一層良好に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係る画像形成装置の構成を概略的に表す中央断面図である。
【図2】その画像形成装置の定着器とリアカバーとの細部を表す断面図である。
【図3】他の形態の定着器とリアカバーとの細部を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[画像形成装置の概略構成]
次に、本発明の実施形態を図面と共に説明する。なお、本実施形態は、本発明に係る画像形成装置を電子写真方式の画像形成装置に適用したものである。図1は本実施形態に係る画像形成装置1の構成を概略的に表す中央断面図である。なお、以下の説明において、図1における左側を前方、右側を後方とする。
【0017】
図1に示すように、被記録媒体の一例としての用紙やOHPシート(以下、用紙Pという)に画像を形成する画像形成部2(画像形成手段の一例)は、4つのプロセスカートリッジ3K,3Y,3M,3C、及び、露光器4、等から構成されている。なお、本実施形態では、画像形成部2として、ブラック、イエロー、マゼンタ、シアンの4色のトナー(現像剤)に対応した4つのプロセスカートリッジ3K,3Y,3M,3Cによって形成された4種類のトナー像(現像剤像)を、用紙Pの上で重ね合わせることにより用紙Pにカラー画像を形成するダイレクトタンデム方式を採用している。また、画像形成部2の後部には、その画像形成部2によって用紙Pに形成されたトナー像を加熱定着する定着器5(定着手段の一例)が設けられている。
【0018】
給紙トレイ6に載置されている複数枚の用紙Pのうち、給紙機構(フィーダ部)7により拾い上げられた積層方向最上位に位置する用紙Pは、一対の搬送ローラ8を介して一対のレジストローラ9まで搬送され、この一対のレジストローラ9にて斜行が矯正された後、ベルトユニット10に搬送される。なお、ベルトユニット10の詳細は後述する。
【0019】
そして、4つのプロセスカートリッジ3K等は、ベルトユニット10の用紙搬送面側において、用紙Pの搬送方向に沿って上流からプロセスカートリッジ3K,3Y,3M,3Cの順に直列に配設されている。
【0020】
このため、ベルトユニット10上を搬送される用紙Pには、4種類のトナー像が順次、転写されていき、用紙Pへの転写が完了したトナー像は、定着器5にて加熱されて用紙Pに定着する。そして、定着器5から排出された用紙Pは、その搬送方向が上方側に転向された後、画像形成装置1の上端面側に設けられた排紙トレイ1Aに排出される。
【0021】
なお、各プロセスカートリッジ3K,3Y,3M,3Cには、トナー像が担持される感光体ドラム3A、及び、感光体ドラム3Aを帯電させる帯電器3E(図2参照)等が収納されている。そして、帯電した感光体ドラム3Aを露光器4にて露光して感光体ドラム3Aの外周面に静電潜像を形成した後、トナーを感光体ドラム3Aに供給すると、感光体ドラム3Aの外周面にトナー像が担持(形成)され、そのトナー像が用紙Pに転写される。
【0022】
また、定着器5は、トナーを加熱してトナー像を用紙Pに定着させる加熱ローラ51、搬送されてくる用紙Pを挟んで加熱ローラ51と反対側に配設されて用紙Pを加熱ローラ51側に押し付ける加圧ローラ52、及び、加熱ローラ51と加圧ローラ52との間を通過した用紙Pを定着器5のケース53(図2参照)から排出する一対の排出ローラ54等を備えている。なお、ケース53の詳細は後述する。
【0023】
ベルトユニット10は、前述したように、4つのプロセスカートリッジ3K,3Y,3M,3Cの各感光体ドラム3Aに対向する位置に配設されて用紙Pを搬送するものである。具体的には、ベルトユニット10は、感光体ドラム3Aの回転軸と平行な回転軸を有する駆動ローラ12A及び従動ローラ(テンションローラ)12B、並びに駆動ローラ12Aと従動ローラ12Bとの間に架設された転写搬送ベルト12C(無端ベルトの一例)等から構成されており、用紙Pは、転写搬送ベルト12C上に載置された状態(吸着された状態)で搬送されていく。なお、駆動ローラ12Aは、装置本体(図示省略した装置本体フレーム)側から動力の供給を受けて転写搬送ベルト12Cを回転駆動し、従動ローラ12Bは転写搬送ベルト12Cの回転と共に駆動ローラ12Aに従動して回転する。
【0024】
また、各プロセスカートリッジ3K,3Y,3M,3Cの各感光体ドラム3Aと対向する転写搬送ベルト12Cの張架面は、転写搬送ベルト12Cのうち用紙Pを搬送する平面状の搬送面とされている。この搬送面は、必ずしも水平である必要はなく、多少傾斜していてもよいが、本実施形態では、水平面とほぼ一致する。また、ベルトユニット10の、各感光体ドラム3Aと転写搬送ベルト12Cを挟んで対向する位置には、一定の転写電流を通電されることによって、感光体ドラム3Aに担持されたトナー像を用紙Pに転写させる転写ローラ3Bが、それぞれ設けられている。
【0025】
ところで、前述の4つのプロセスカートリッジ3K,3Y,3M,3C、及び、ベルトユニット10は、外観意匠面を構成する筐体1Cに覆われた装置本体フレーム(図示省略した本体フレーム)に着脱可能に装着され、定着器5もその筐体1Cに収容されている。そして、筐体1Cのうち排紙トレイ1Aが設けられたトップカバー1Fは、筐体1Cに揺動(開閉)可能に組み付けられており、このトップカバー1Fを上方側に開放することにより、4つのプロセスカートリッジ3K、3Y、3M、3Cが交換可能となる。
【0026】
また、筐体1Cの前方に設けられたフロントカバー1Gは、一部が手差しトレイ60(カバーの一例)として揺動(開閉)可能に組み付けられており、二点鎖線で示すようにこの手差しトレイ60を開放することにより、給紙トレイ6を介さずに装置の前方から用紙Pをレジストローラ9に供給することができる。更に、筐体1Cの後方にはリアカバー1H(カバーの一例)が揺動(開閉)可能に組み付けられており、二点鎖線で示すようにこのリアカバー1Hを開放することにより、定着器5を通過した用紙Pを装置の後方に排出することができる。ハガキ等、腰の強い用紙Pに対する画像形成がなされる場合は、用紙Pに大きな湾曲が加えられるのを抑制するため、ユーザはこの手差しトレイ60,リアカバー1Hを開放することにより、用紙Pの供給及び排出を行う場合が多い。
【0027】
[定着器とリアカバーとの詳細(第1実施形態)]
本実施形態では、次のように、リアカバー1Hの開放に連動して定着器5を移動させている。図2に示すように、前述の加熱ローラ51,加圧ローラ52,一対の排出ローラ54を回転可能に支持する定着器5のケース53は、用紙Pを加熱ローラ51と加圧ローラ52とのニップ部に案内するガイド55を備えている。なお、ガイド55は、転写搬送ベルト12Cから送られる用紙Pを、転写搬送ベルト12Cの搬送面から剥がして前記ニップ部に案内するものである。そして、ケース53は、ガイド55の前端に設けられた支点53A(揺動軸の一例)を中心に筐体1C及び装置本体(本体フレーム)に対して揺動可能に構成されている。なお、ケース53は、前述の加熱ローラ51,加圧ローラ52,排出ローラ54を駆動するためのモータ(図示省略)も備えており、ケース53の揺動時には、加熱ローラ51,加圧ローラ52,排出ローラ54と共に当該モータも一体に揺動する。また、各ローラ51,52,54を駆動するためのモータは、必ずしもケース53と一体的に揺動可能である必要はなく、例えば、装置本体(本体フレーム)にモータを固定して、当該モータの回転を自在継手等を利用して、各ローラ51,52,54に伝達するようにしてもよい。
【0028】
また、ケース53の後部下方には、筐体1C及び装置本体(本体フレーム)に対して相対的に固定された球面状の突起1Kが対向して設けられ、ケース53の後部下端は引張コイルバネ59によって下方に付勢されている。図2(A)に示すように、リアカバー1Hを支点1HAを中心に揺動させて開放すると、ケース53は引張コイルバネ59の付勢力によって支点53Aを中心に図2における時計回り方向に揺動し、この揺動はケース53の下端面と突起1Kとが当接する位置で止まる。また、リアカバー1Hの開放時には、筐体1Cの後部に開口部1Lが形成され、定着器5による定着が終了した用紙Pは、この開口部1Lを介して筐体1Cから排出され、リアカバー1Hの上に堆積される。
【0029】
また、ケース53の後部下端には、側面視カギ状に切り欠かれた切欠部53Bが形成され、リアカバー1Hのその切欠部53Bとの対向位置には、突起70が形成されている。突起70は、支点1HAに近い側の端部が側面視円弧状に膨らんだ膨出部71となっており、その膨出部71よりも支点1HAから遠い部分が切欠部53Bに嵌合する嵌合部72となっている。
【0030】
このため、リアカバー1Hを開放された状態から閉じていくと、膨出部71が切欠部53Bの上端に当接してその切欠部53Bを上方に押し上げ、続いて、リアカバー1Hが完全に閉じられると、図2(B)に示すように嵌合部72が切欠部53Bに嵌合する。この嵌合によって、ケース53は図2(A)の状態に比べて図2における反時計回りに揺動した位置に、引張コイルバネ59の付勢力に抗して保持される。逆に、リアカバー1Hを閉じた状態から開放していくと、ある時点で嵌合部72と切欠部53Bとの嵌合が外れ、ケース53は突起1Kと当接するまで揺動する。すなわち、引張コイルバネ59と突起70とが移動手段に相当する。
【0031】
また、リアカバー1Hが完全に閉じられると、開口部1Lも封鎖され、開口部1Lを介した用紙Pの排出も禁止される。更に、リアカバー1Hの内面には、排出ローラ54から排出された用紙Pをリアカバー1Hの閉鎖時に上方に案内するガイド1HBが形成され、リアカバー1Hの閉鎖時には、このガイド1HBが筐体1Cの上部内面に設けられたガイド1Mと連接する。排出ローラ54によって定着器5から排出された用紙Pは、このガイド1HB,1Mに案内されて、排紙ローラ81を介して前述の排紙トレイ1Aに排出される。すなわち、排出ローラ54と排紙ローラ81とが搬送手段に相当する。また、この用紙Pの排出経路を挟んだガイド1HB,1Mとの対向面には、筐体1C及び装置本体(本体フレーム)に対して相対的に固定されたガイド1Nと、ケース53の上部に一体に設けられたガイド53Cとが配設される。リアカバー1Hの閉鎖時には、ガイド53Cの上端とガイド1Nの下端とが当接し合うように、前述の切欠部53Bと突起70とが設計されている。
【0032】
このように、本実施形態では、リアカバー1Hの動きをケース53に伝達させることにより、ケース53を前述のように揺動させている。そして、この結果、転写搬送ベルト12Cの表面(搬送面)から定着器5を経て開口部1Lに至る用紙Pの排出経路が、リアカバー1Hの閉鎖時には斜め後上方に向いていたものが開放時には水平に近づけられる。
【0033】
より具体的には、加熱ローラ51と加圧ローラ52とのニップ部が転写搬送ベルト12Cの前記搬送面の延長面上に近づく。また、加熱ローラ51の中心と加圧ローラ52の中心とを結ぶ直線も鉛直(転写搬送ベルト12Cの搬送面に対して垂直)に近づき、当該加熱ローラ51,加圧ローラ52による用紙Pの搬送方向も水平に近づく。更に、ガイド55上の用紙Pの排出経路も水平に近づく。従って、ハガキ等の腰の強い用紙Pに画像を形成する際にユーザがリアカバー1Hを開放することで、用紙Pの前記排出経路が水平に近づけられ、その用紙Pに形成されたトナー像を乱すような剥離放電が生じるのを良好に抑制することができる。
【0034】
特に、手差しトレイ60を開放してハガキを2回挿入することにより、当該ハガキの両面に画像を形成する場合、2面目の画像形成時にはハガキが1面目の側を円弧の中心とするように反っているので、一層剥離放電が起こりやすい。これに対して、本実施形態では、前述のように排出経路を水平に近づけているので、そのような場合にも良好に剥離放電が生じるのを抑制することができる。
【0035】
また、本実施形態では、前記排出経路を完全に水平にするのではなく、ある程度斜め後上方に向かって湾曲させている。これは、次のような事情によるものである。すなわち、この種の画像形成装置1では、加熱ローラ51,加圧ローラ52による用紙Pの搬送速度を、転写搬送ベルト12Cによる用紙Pの搬送速度よりも小さくすることがなされる場合がある。これは、画像形成中の用紙Pが加熱ローラ51,加圧ローラ52に引っ張られて、いわゆる色ずれが生じるのを抑制するためである。このような場合、転写搬送ベルト12Cの表面から加熱ローラ51と加圧ローラ52とのニップ部に至る途中で用紙Pに撓みが生じる場合があるが、本実施形態では、その排出経路が予めある程度湾曲しているので、用紙Pは当該湾曲方向に安定して撓み、良好に用紙Pを排出することができる。なお、普通紙等の比較的腰の弱い用紙Pに画像を形成する際には、図2(B)に示すように、ガイド55によって後上方に案内される用紙Pは、図2(A)に示す場合よりも大きく湾曲しながら搬送される。このため、転写搬送ベルト12Cの表面から加熱ローラ51と加圧ローラ52とのニップ部に至る途中で発生する用紙Pの撓みをより確実に許容することができるので、画像形成中の用紙Pが加熱ローラ51,加圧ローラ52に引っ張られて、いわゆる色ずれが生じるのをより確実に抑制することができる。この場合、ガイド55は、例えば、先行技術文献として例示した特開2010−197652号公報に示されるように、常には、図2(B)に示す位置に弾性的に保持されているが、転写搬送ベルト12Cの表面から加熱ローラ51と加圧ローラ52とのニップ部に至る途中で発生した用紙Pの撓みにより、先端側を軸として後端側(定着器側)の部分が下方に退避できるように揺動自在に構成しておくことにより、用紙長(用紙搬送方向の長さ)が大きい用紙Pであっても、当該用紙Pの撓みを充分かつ確実に許容することができる。
【0036】
また、本実施形態では、前述の加熱ローラ51,加圧ローラ52,ガイド55をケース53と一体に揺動させているので、それらを個々に揺動させる場合に比べて、装置の構成も簡略化することができる。更に、本実施形態では、リアカバー1Hの閉鎖時には突起70の嵌合部72が切欠部73Bに嵌合するので、当該閉鎖時における定着器5の各部の位置を極めて良好に位置決めすることができる。
【0037】
なお、本発明の移動手段は、リアカバー1Hの開放時における前述の突起70のように、必ずしもカバーの動きを連続的に定着手段の少なくとも一部に伝達するものでなくてもよく、カバーの動きに応じて係合または嵌合を解除するものであってもよい。また、移動手段の形態としては、前記第1実施形態のもの以外にも種々考えられる。
【0038】
[定着器とリアカバーとの詳細(第2実施形態)]
図3は、第2実施形態の定着器5とリアカバー1Hとの詳細を表す断面図である。なお、本実施形態は、移動手段に相当する構成(後述の引張コイルバネ159及びリンク170)以外は第1実施形態と同様であるので、第1実施形態と同様に構成された箇所には図2で使用した符号を付して構成の詳細な説明を省略する。
【0039】
図3に示すように、本実施形態では、引張コイルバネ59は省略されており、代わりにケース53の後部上端に設けられた引張コイルバネ159によってケース53は上方(図3における反時計回り方向)に付勢されている。また、リアカバー1Hの突起70も省略されており、代わりに、リアカバー1Hとケース53とはリンク170を介して接続されている。リンク170には、一端側に長穴171が、他端側に丸穴172が、それぞれ穿設されており、丸穴172はリアカバー1Hに設けられた軸1HDに回転自在に嵌合している。長穴171は、ケース53の後部側面から突出した軸151に回転及び摺動自在に嵌合している。
【0040】
このため、リアカバー1Hが最大限に開放されると、軸151が長穴171の前記一端側端部に係合し、更に後方に引っ張られることによって、ケース53は図3における時計回り方向に揺動する。そして、図3(A)に示すように、この揺動はケース53の下端面と突起1Kとが当接する位置で止まる。一方、リアカバー1Hの閉鎖時には、リンク170を介してケース53に力が加わらなくなるため、引張コイルバネ159の付勢力によりケース53は図3における反時計回り方向に揺動する。なお、この揺動は、図3(B)に示すように、ガイド53Cの上端とガイド1Nの下端とが当接し合う位置で止まる。
【0041】
本実施形態でもリアカバー1Hの開閉に応じてケース53が第1実施形態と同様に揺動し、同様の作用・効果が生じる。また、本実施形態では、長穴171の前記一端側端部に軸151が当接しない程度にリアカバー1Hを開放した状態では、ケース53はリアカバー1Hの閉鎖時と同様の位置に配設される。このため、腰の強い用紙Pではないが装置後方に排出したい場合は、リアカバー1Hをそのような角度に開放すればよい。
【0042】
また、本発明は前記各実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の形態で実施することができる。例えば、前記各実施形態では、定着器5を構成する各部をケース53と一体に移動させているが、少なくとも一部の構成を移動させるだけで、前記排出経路を水平に近づけてもよい。また、加熱ローラ51と加圧ローラ52とのニップ圧を変えてもよい。
【符号の説明】
【0043】
1…画像形成装置 1C…筐体 1H…リアカバー
1HA,53A…支点 1HB,1M,1N,53C,55…ガイド
1HD,151…軸 1K,70…突起 1L…開口部
2…画像形成部 3A…感光体ドラム 3B…転写ローラ
3E…帯電器 3K…プロセスカートリッジ 4…露光器
5…定着器 12C…転写搬送ベルト 51…加熱ローラ
52…加圧ローラ 53…ケース 53B…切欠部
54…排出ローラ 59,159…引張コイルバネ 60…手差しトレイ
71…膨出部 72…嵌合部 81…排紙ローラ
170…リンク 171…長穴 172…丸穴
P…用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のローラ間に架設されて回転駆動されることにより水平方向に被記録媒体を搬送する無端ベルトと、
前記無端ベルトによって搬送される前記被記録媒体に転写電流を利用して電子写真方式で画像を形成する画像形成手段と、
該画像形成手段によって前記被記録媒体に形成された画像を加熱定着する定着手段と、
前記無端ベルト及び前記画像形成手段及び前記定着手段を収容した筐体と、
前記定着手段によって前記画像を加熱定着された前記被記録媒体を、前記筐体の上面に設けられたトレイまで搬送する搬送手段と、
前記筐体の側面に開口し、前記搬送手段による搬送経路の途中から前記筐体外へ前記被記録媒体を排出可能な開口部と、
前記側面に開閉可能に設けられ、開放時には前記開口部を介した被記録媒体の排出を許可し、閉鎖時には前記開口部を介した被記録媒体の排出を禁止するカバーと、
前記定着手段に前記カバーの動きを伝達して前記定着手段の少なくとも一部を移動させることにより、前記カバーの開放時には、前記無端ベルトの表面から前記定着手段を経て前記開口部に至る前記被記録媒体の排出経路を、前記カバーの閉鎖時に比べて水平に近づける移動手段と、
を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記定着手段は、
前記画像形成後の被記録媒体を加熱する加熱ローラと、
当該被記録媒体を前記加熱ローラとの間に挟んで押圧する加圧ローラと、
を備えて、前記画像形成後の被記録媒体を搬送しながら加熱定着するものであって、
前記移動手段は、前記カバーの開放時には、前記加熱ローラと前記加圧ローラとのニップ部を、前記カバーの閉鎖時に比べて、前記無端ベルトにおける前記被記録媒体の搬送面の延長面上に近づけることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記移動手段は、前記カバーの開放時には、前記加熱ローラの中心と前記加圧ローラの中心とを結ぶ直線も、前記カバーの閉鎖時に比べて鉛直に近づけることを特徴とする請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記移動手段は、前記加熱ローラ及び前記加圧ローラを、それらを支持するケースと一体に当該ケースの揺動軸を中心に揺動させることにより、前記カバーの開放時には、前記加熱ローラと加圧ローラとのニップ部を前記カバーの閉鎖時に比べて前記無端ベルトにおける前記被記録媒体の搬送面の延長面上に近づけ、かつ、前記加熱ローラの中心と前記加圧ローラの中心とを結ぶ直線を前記カバーの閉鎖時に比べて鉛直に近づけることを特徴とする請求項3に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記移動手段は、前記カバーの開放時にも、前記無端ベルトから前記定着手段に至る排出経路を完全に水平にはせず、上下何れかに湾曲した排出経路とすることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記画像形成後の被記録媒体を前記無端ベルトの表面から剥がして前記定着手段に案内するガイドを、
更に備え、
前記移動手段は、前記ガイドにも前記カバーの動きを伝達して前記ガイドを移動させることにより、前記カバーの開放時には、前記ガイド上の前記排出経路も、前記カバーの閉鎖時に比べて水平に近づけることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−76917(P2013−76917A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217618(P2011−217618)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】