説明

画素回路、電気光学装置及び電子機器

【課題】 フィードスルーを防止する。
【解決手段】画素回路(P1)は、第1電極(131)及び第2電極(132)からなる電気光学素子(13)と、第1期間においてデータ電位が供給される第1データ線及び第1電極間に設けられる第1スイッチング素子(SW101)と、第2期間においてデータ電位が供給される第2データ線及び第2電極間に設けられる第2スイッチング素子(SW102)と、第1・第2スイッチング素子のオン状態・オフ状態間の遷移を指令する制御信号を、これら第1・第2スイッチング素子に供給する走査線(3)と、第1・第2スイッチング素子がオン状態からオフ状態へと遷移する場合において、走査線の電位の変動によって、第1電極、及び、第2電極が受ける電位変動の影響の双方を等しくするフィードスルー防止手段とを備える。図中、当該手段は、第1・第2コンデンサー(C13,C23)からなり、これらの容量値は等しい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画素回路、液晶等を含む電気光学装置及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気光学物質として液晶等を含む電気光学装置が提供されている。この電気光学装置では、液晶等に、画像データに応じた電位差を与えることで、その光透過率等の電気光学特性の変更が可能である。これを、当該液晶等を含む電気光学素子の複数の各々に個別的に適用すれば、画像の表示が可能となる。なお、前記電位差の液晶等への付与にあたっては、例えば、適当な形状、配置をもつ電極が利用される。
【0003】
この電位差の液晶等への付与の仕方には様々な方法が提案されている。その中には、液晶等へ、一定の期間ごとに前とは逆極性の電位差を与える方法がある。これを実現するためには、例えば、2つの電極を用意するとともに、その双方の電極の各々に電気的に接続される2本のデータ線(それぞれ、前記画像データを供給する)を用意し、かつ、これら2組のデータ線及び電極間の導通・非導通を司る2つのスイッチング素子を設ける構成が知られている。これによると、ある期間において、一方のデータ線から一方の電極に対して画像データを供給するときは、他方の電極を接地電位等の基準電位に維持し、また、別の期間において、他方のデータ線から他方の電極に対して画像データを供給するときは、一方の電極を前記基準電位に維持する、等といった動作が行われる。これにより、液晶等へは交互に逆極性の電位差が与えられることになる。
このような電気光学装置としては、例えば特許文献1に開示されているようなものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−065308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したような電気光学装置においては、いわゆるフィードスルーの問題がある。
すなわち、上述のような電気光学装置においては、前記スイッチング素子の導通・非導通状態を司る走査信号が当該スイッチング素子に供給されるが、このスイッチング素子の導通状態から非導通状態への遷移、即ち走査信号のハイレベルからローレベル又はローレベルからハイレベルへの遷移に応じて、液晶等へ印加された電圧の大きさに変動が生じるおそれがある。これは、当該スイッチング素子が薄膜トランジスター(Thin Film Transistor;「TFT」)である場合におけるゲート・ソース間の容量等の存在を原因として発生するものと考えられる。本明細書では、このような現象をフィードスルーと呼ぶ。
【0006】
このような現象は、当然、画質に影響を与える。
特に、上述したような構成、即ち、それぞれ2つずつの電極、データ線及びスイッチング素子を備える電気光学装置においては、各データ線が時宜に応じていわば交互に利用されるようなかたちとなること(ここで「利用」とは、現に画像データ供給用の配線として機能することを意味する)から、問題をより複雑にするおそれがある。例えば、この場合、前述のゲート・ソース間容量は、2つあるスイッチング素子の別に応じて異なり得ることになり、したがって、一方のデータ線を利用する場合と他方のデータ線を利用する場合とで、液晶等への印加電圧の変動の大きさが異なることがあり得ることになる。
【0007】
本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決することの可能な電気光学装置及び電子機器を提供することを課題とする。
また、本発明は、かかる態様の電気光学装置、あるいは電子機器に関連する課題を解決可能な、電気光学装置、あるいは電子機器を提供することをも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 本発明に係る画素回路は、上述した課題を解決するため、第1電極、第2電極、並びに前記第1及び第2電極間の印加電圧に応じて光学特性が変化する電気光学物質を有する電気光学素子と、第1データ線と前記第1電極との間に設けられる第1スイッチング素子と、第2データ線と前記第2電極との間に設けられる第2スイッチング素子と、前記第1及び第2スイッチング素子のオン状態・オフ状態間の遷移を指令する制御信号を、これら第1及び第2スイッチング素子に供給する走査線と、前記第1電極、前記走査線、及びこれら両者間の空間から構成される第1容量要素と、前記第1電極、前記走査線、及びこれら両者間の空間から構成される第2容量要素と、を備え、前記第1及び第2容量要素の容量値は略等しい。
【0009】
本発明によれば、例えば、第1期間においては、第1電極がデータ電位、第2電極が基準電位となり、第2期間においては、その逆に、第1電極が基準電位、第2電極がデータ電位となることが可能である。これを連続させれば、液晶等の電気光学物質に、交互に逆極性の電位差が与えられる。このような構成によると、電気光学素子に印加すべき電位差は原理的には1種だけ準備すればよいことによる消費電力低減効果等々の各種効果が享受される。
そして、本発明では特に、走査線からみて、第1及び第2電極双方に関する容量要素の容量値が揃えられることになるから、当該走査線の電位変動の影響は、原理的には、これら第1及び第2電極に等しく及ぶ。したがって、本発明によれば、走査線の電位(即ち、前記制御信号)がアクティブ状態から非アクティブ状態へと遷移する場合において、第1及び第2電極が意図しない挙動を示すことが未然に防止される。
なお、本発明においてはもともと、フィードスルーの影響は、スイッチング素子が2つ備えられていることから、第1及び第2電極に関してちょうど相殺されるかのようになることが期待できる状況にある(これは、前記各種効果のうちの1つといえる。)。しかし、既に述べたように、かかる効果は、当該スイッチング素子の特性差等を原因として、必ずしも、常に完全に享受可能であるというわけではない。この点に鑑みるとき、本発明に係るフィードスルー防止手段によって奏される作用効果の価値は一層高まる。
【0010】
なお、本態様において、「構成される」とあるのは、例えば、「第1容量要素」が、第1電極、走査線及びこれらに挟まれた空間からなる“寄生容量”である場合を含むほか、場合によっては、「第1容量要素」がいわば意図的に形成されるような場合をも含む。後者には、例えば、第1電極に電気的に接続された電極と、これに対向する、第1データ線に電気的に接続された電極とを設ける場合等が含まれる。同じことは、「第2容量要素」に関して使用される「構成される」という用語についても同様にいえる。
また、本態様において「略等し」いというのは、例えば、第1及び第2容量要素の容量値が厳密に一致している場合を含むほか、若干の差がある場合をも含む。この差は、例えば製造上許容される誤差範囲、あるいは、製造後の測定上の誤差範囲に起因して生じるものが含まれる。この場合、許容される差の限界を画するにあたって重要な事項の1つは、前述のように、“第1及び第2電極が受ける影響の双方”を等しくするという観点である。以上と同じことは、後に登場する「略等しく」あるいは「略等しい」という用語についても同様にいえる。
さらに、本発明にいう「電気光学素子」の具体的な構造や材料は基本的に自由に定められ得るが、例えば、既に言及した液晶素子のほか、場合によっては有機EL材料や無機EL材料からなる発光層を電極間に介在させた素子が本発明の「電気光学素子」として採用され得る。
【0011】
(2) 本発明の他の観点に係る画素回路は、上述した課題を解決するため、第1電極、第2電極、並びに前記第1及び第2電極間の印加電圧に応じて光学特性が変化する電気光学物質を有する電気光学素子と、第1期間において表示すべき階調に応じたデータ電位が供給される第1データ線と、前記第1電極との間に設けられる第1スイッチング素子と、第2期間において前記データ電位が供給される第2データ線と、前記第2電極との間に設けられる第2スイッチング素子と、前記第1及び第2スイッチング素子のオン状態・オフ状態間の遷移を指令する制御信号を、これら第1及び第2スイッチング素子に供給する走査線と、前記第1及び第2スイッチング素子がオン状態からオフ状態へと遷移する場合において、前記走査線の電位の変動によって、前記第1電極が受ける電位変動の影響、及び、前記第2電極が受ける電位変動の影響、の双方を略等しくするフィードスルー防止手段と、を備える。
【0012】
本発明によれば、前述したようなフィードスルー防止手段が備えられているので、上述したような不具合の発生は未然に回避される。すなわち、本発明によれば、走査線の電位(即ち、前記制御信号)がアクティブ状態から非アクティブ状態へと遷移する場合において、第1及び第2電極が意図しない挙動を示すことが未然に防止される。
【0013】
(3) 一方、本発明に係る電気光学装置は、上記課題を解決するために、第1データ線と、第2データ線と、これら第1及び第2データ線及び走査線の交差に対応して設けられた画素回路と、を具備する電気光学装置であって、前記画素回路は、第1電極、第2電極、並びに前記第1及び第2電極間の印加電圧に応じて光学特性が変化する電気光学物質を有する電気光学素子と、前記第1データ線と前記第1電極との間に設けられる第1スイッチング素子と、前記第2データ線と前記第2電極との間に設けられる第2スイッチング素子と、前記第1電極、前記走査線、及びこれら両者間の空間から構成される第1容量要素と、前記第1電極、前記走査線、及びこれら両者間の空間から構成される第2容量要素と、を備え、前記走査線は、前記第1及び第2スイッチング素子のオン状態・オフ状態間の遷移を指令する制御信号を、これら第1及び第2スイッチング素子に供給し、前記第1及び第2容量要素の容量値は略等しい。
【0014】
本発明に係る電気光学装置は、前述した、本発明に係る「画素回路」を実質的に含んでなるので、上述したのと同様、走査線の電位が変動する場合において、第1及び第2電極が意図しない挙動を示すことが未然に防止される。すなわち、フィードスルーあるいはそれに起因する不具合の発生が未然に防止される。
【0015】
(4) また、本発明の他の観点に係る電気光学装置は、上記課題を解決するために、複数の走査線と、各々が第1及び第2データ線の組からなる、複数のデータ線と、前記複数の走査線及び前記複数のデータ線の交差に対応して設けられた複数の画素回路と、第1期間において、前記第1データ線に表示すべき階調に応じたデータ電位を供給し、第2期間において、前記第2データ線に前記データ電位を供給するデータ線駆動回路と、を備え、前記複数の画素回路の各々は、第1電極、第2電極、並びに前記第1及び第2電極間の印加電圧に応じて光学特性が変化する電気光学物質を有する電気光学素子と、前記第1データ線と前記第1電極との間に設けられる第1スイッチング素子と、前記第2データ線と前記第2電極との間に設けられる第2スイッチング素子と、前記第1及び第2スイッチング素子がオン状態からオフ状態へと遷移する場合において、前記走査線の電位の変動によって、前記第1電極が受ける電位変動の影響、及び、前記第2電極が受ける電位変動の影響、の双方を略等しくするフィードスルー防止手段と、を備える。
【0016】
本発明に係る電気光学装置は、前述した、本発明の他の観点に係る「画素回路」を実質的に含んでなるので、上述したのと同様、走査線の電位が変動する場合において、第1及び第2電極が意図しない挙動を示すことが未然に防止される。すなわち、フィードスルーあるいはそれに起因する不具合の発生が未然に防止される。
【0017】
(5) 以上のような本発明に係る電気光学装置では、固定電位が供給される固定電位線と、前記第1電極及び前記固定電位線間に設けられる第1保持容量と、前記第2電極及び前記固定電位線間に設けられる第2保持容量と、を更に備える、ように構成してもよい。
この態様によれば、まず、第1及び第2保持容量が備えられているので、電気光学素子への電圧印加がより安定的に行われ得る。
また、このような構成の場合、前記フィードスルーの影響は、これら第1及び第2保持容量にも及ぶ(即ち、その蓄積電荷量が変動する)ことになるが、上述のように、本発明においては、かかる不具合について懸念する必要は殆どない。
【0018】
(6) また、本発明に係る電気光学装置では、当該画素回路は複数存在し、これら複数の画素回路の各々は、そのうちの1つの画素回路に含まれる前記第1及び第2電極のそれぞれと、当該画素回路とは別の画素回路に含まれる前記走査線との間に設けられる第1及び第2保持容量を、更に備える、ように構成してもよい。
この態様によれば、まず、第1及び第2保持容量が備えられているので、電気光学素子への電圧印加がより安定的に行われ得る。しかも、本態様では、これら第1及び第2保持容量を設けるために、前述した固定電位線等を特別に設けるのではなく、他の画素回路に含まれる走査線を、その固定電位線の代用として用いるようになっているので、回路要素の削減、回路規模の縮小化等が実現される。
また、このような構成の場合でも、前記フィードスルーの影響は、これら第1及び第2保持容量にも及ぶ(即ち、その蓄積電荷量が変動する)ことになるが、既に述べたように、本発明においては、かかる不具合について懸念する必要は殆どない。
【0019】
(7) 加えて、本発明の電子機器は、上記課題を解決するために、上述した各種の電気光学装置を備える。
本発明の電子機器は、上述した電気光学装置を備えてなるので、フィードスルーに起因する不具合の発生が未然に防止されること等によって、より高品質な画像を表示することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態に係る電気光学装置を示すブロック図である。
【図2】図1の電気光学装置を構成する画素回路の詳細を示す回路図である。
【図3】第1・第2データ線に供給されるデータ電位の大きさが、フィードスルーの程度にどのような影響を与えるかを図示するものであって、〔A〕は第1データ線により大きなデータ電位が供給され、〔B〕は第2データ線により大きなデータ電位が供給される場合をそれぞれ示している。
【図4】図2と同趣旨の図であり、同図とは異なる態様の画素回路の詳細を示す回路図である。
【図5】本発明に係る電気光学装置を適用した電子機器を示す斜視図である。
【図6】本発明に係る電気光学装置を適用した他の電子機器を示す斜視図である。
【図7】本発明に係る電気光学装置を適用したさらに他の電子機器を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下では、本発明に係る実施の形態について図1及び図2を参照しながら説明する。なお、ここに言及した図1及び図2に加え、以下で参照する各図面においては、各部の寸法の比率が実際のものとは適宜に異ならせてある場合がある。
【0022】
本発明の実施形態に係る電気光学装置は、電気光学材料として液晶を用いる。電気光学装置1は、主要部として液晶パネルAA(電気光学パネルの一例)を備える。液晶パネルAAは、スイッチング素子として薄膜トランジスターを形成した素子基板と対向基板とを互いに対向させ、かつ一定の間隙を保って貼付し、この間隙に液晶を挟持している。
【0023】
図1は本実施形態に係る電気光学装置1の全体構成を示すブロック図である。この電気光学装置1は、液晶パネルAA、制御回路300、及び画像処理回路400を備える。この液晶パネルAAは透過型であるが、半透過型であってもよいしあるいは反射型であってもよい。
液晶パネルAAは、その素子基板上に画像表示領域A、走査線駆動回路100、及びデータ線駆動回路200を備える。制御回路300は、X転送開始パルスDX及びXクロック信号XCKを生成してデータ線駆動回路200に供給するとともに、Y転送開始パルスDY及びYクロック信号YCKを生成して走査線駆動回路100に供給する。
画像表示領域Aには、複数の画素回路P1がマトリクス状に形成されており、画素回路P1ごとに透過率を制御することができる。バックライト(図示略)からの光は、画素回路P1を介して射出される。これによって、光変調による階調表示が可能となる。また、画像処理回路400は入力画像データDinに画像処理を施して出力画像データDoutを生成し、これをデータ線駆動回路200に出力する。
【0024】
次に、画像表示領域Aについて説明する。画像表示領域Aには、m(mは2以上の自然数)本の走査線3が、X方向に沿って平行に配列して形成される一方、n(nは2以上の自然数)組の第1データ線6a及び第2データ線6bが、Y方向に沿って平行に配列して形成されている。くわえて、基準電位GNDを供給する電位線(図1において不図示。ただし、図2の符号30参照)がX方向に沿って平行に配列して形成される。そして、走査線3と第1データ線6a及び第2データ線6bとの交差に対応して、m(行)×n(列)個の画素回路P1が配置される。
【0025】
n本の第1データ線6aには第1電位X1a〜Xnaが各々供給され、n本の第2データ線6bには第2電位X1b〜Xnbが各々供給される。また、各走査線3には、走査信号Y1、Y2、…、Ymが、パルス的に線順次で印加される。i(iは1≦i≦mの自然数)行、j(jは1≦j≦nの自然数)列の画素回路P1(i,j)は、i行の走査線3の走査信号Yiがアクティブになると、第1データ線6aを介して供給される第1電位Xja及び第2データ線6bを介して供給される第2電位Xjbを取り込む。
【0026】
図2にi行j列の画素回路P1(i,j)の回路図を示す。なお、他の画素回路P1も同様に構成されている。この図に示すように画素回路P1(i,j)は、導電型がnチャネルの第1及び第2トランジスターSW101及びSW102、第1保持容量Cstg1、第2保持容量Cstg2、第3保持容量Cstg3、並びに電気光学素子13等を備える。
【0027】
電気光学素子13は、第1電極131と第2電極132の間に電気光学物質を挟持して構成される。電気光学物質は、印加電圧に応じて光学特性が変化するものであればいかなるものであってもよいが、この例では、液晶LCを用いる。
電気光学素子13の第1電極131は第1ノードZaに接続される一方、その第2電極132が第2ノードZbに接続される。また、第1ノードZaと電位線30との間には第1保持容量Cstg1が設けられ、第2ノードZbと電位線30との間には第2保持容量Cstg2が設けられる。
さらに、電気光学素子13と並列に第3保持容量Cstg3が設けられる。
ここで、第1乃至第3保持容量Cstg1、Cstg2、及びCstg3の一部又は全部は、容量素子として形成してもよいし、あるいは、第1電極131と第2電極132との間に付随する寄生容量や第1ノードZa又は第2ノードZbと電位線30との間に発生する寄生容量であってもよい。
【0028】
第1トランジスターSW101は、第1ノードZaと第1データ線6aとの間に設けられており、第2トランジスターSW102は、第2ノードZbと第2データ線6bとの間に設けられている。
これら第1及び第2トランジスターSW101及びSW102のゲートは走査線3と接続される。走査信号Yiがハイレベル(アクティブ)になると、第1トランジスターSW101及びSW102は共にオン状態となる。すると、第1電位Xjaが電気光学素子13の第1電極131に印加されるとともに第1保持容量Cstg1によって保持される。また、第2電位Xjbが電気光学素子13の第2電極132に印加されるとともに第2保持容量Cstg2によって保持される。これによって、電気光学物質たる液晶LCに電圧が印加され、透過率が制御される。
【0029】
このような透過率制御を基本として、本実施形態に係る画素回路P1は特に、以下のように動作する(図2の下方参照)。
〔i〕最初の期間では、走査線駆動回路100は、走査線3にハイレベルの走査信号Yiを供給することによって、第1及び第2トランジスターSW101及びSW102をともにオン状態とする。この際、データ線駆動回路200は、第1データ線6aに前記第1電位X1a〜Xnaとしてデータ電位Vdataを供給するとともに、第2データ線6bに前記第2電位X1b〜Xnbとして基準電位GNDを供給する。これによって、電気光学素子13においては、その第1電極131がデータ電位Vdata、第2電極132が基準電位GNDとなり、液晶LCに所定の電位差が与えられる。
〔ii〕次の期間でも、走査線駆動回路100に起因する第1及び第2トランジスターSW101及びSW102のオン状態への遷移は同様に行われる。ただ、この場合、前記の〔i〕とは逆に、データ線駆動回路200は、第1データ線6aに前記第1電位X1a〜Xnaとして基準電位GNDを供給するとともに、第2データ線6bに前記第2電位X1b〜Xnbとしてデータ電位Vdataを供給する。これによって、電気光学素子13においては、その第1電極131が基準電位GND、第2電極132がデータ電位Vdataとなり、液晶LCに所定の電位差が与えられる。このように、仮に、データ電位Vdataと基準電位GNDとの差が前記〔i〕の場合と同じであったとしても、少なくともその極性は反転することになる(もちろん当該差が同じでなくても、その極性は同様に反転する。)。
〔iii〕以後は、以上の〔i〕〔ii〕の動作が繰り返し行われる(図2の下方参照)。
なお、以上の場合において、データ電位Vdataは、各画素回路P1(i,j)の別に応じて、それぞれ固有の具体的な値を持ちうることは言うまでもない。その具体的な値は、主に入力画像データDinの値如何による。
【0030】
このような画素回路P1は、上述した要素のほか、図2に示すように、第1電極131及び第2電極132に関して、第1及び第2コンデンサーC11,C12,C21,C22をもつ。
第1コンデンサーC13は、第1電極131と走査線3との間に構成される容量要素であり、第2コンデンサーC23は、第1電極131と第2データ線6bとの間に構成される容量要素である。
これら第1及び第2コンデンサーC13及びC23の一部又は全部は、容量素子として形成してもよいし、あるいは、第1電極131及び走査線3等の形成によって自ずと付随する寄生容量であってもよい。
なお、これら第1及び第2コンデンサーC13及びC23は、本発明にいう「フィードスルー防止手段」の一具体例に該当する。
【0031】
これら第1及び第2コンデンサーC13及びC23に関しては、そのそれぞれの容量値γ1,γ2について以下の条件が満たされる。
γ1=γ2 …… (1)
これは、走査線3との関係において、第1及び第2電極131及び132との間それぞれで形成される容量要素の容量値の一致を図ることを意味している。
【0032】
以上に述べたような電気光学装置1ないし画素回路P1によれば、フィードスルーの発生、あるいはそれによってもたらされる悪影響が実効的に抑制される。
すなわち、本実施形態の電気光学装置1を構成する全画素回路P1(図1参照)は、上述のように、走査線3が線順次に選択されていく過程を通じて駆動されるが、この場合、各走査線3に供給される走査信号Yiは、それぞれ、非アクティブ状態→アクティブ状態→非アクティブ状態の遷移を繰り返す。
しかしながら、この際特に、走査信号Yiがアクティブ状態から非アクティブ状態へと遷移する際においては、第1〜第3保持容量Cstg1〜Cstg3に蓄積されている電荷量に変動がもたらされる(フィードスルー)おそれがある。これは、第1・第2トランジスターSW101・SW102のゲート・ソース間容量や、図2に示したような、第1・第2コンデンサーC13・C23が、その走査線3の電位変動を、第1又は第2電極131又は132の電位変動にいわば中継してしまうおそれがあるからである。そして、この場合、前記第1・第2コンデンサーC13・C23の各容量値は一般にバラバラであることが考えられるから、第1電極131及び第2電極132の電位(さらには、液晶LCへの印加電圧)は、意図しない変動をこうむるおそれがある。特に、図2に示すような第1及び第2電極132を回路基板上に実際上配置する上では、これら双方と走査線3との物理的距離等について、相違がほぼ必然的に生じる可能性が高いから、上述した懸念はより一層強まる。
しかしながら、本実施形態においては、これら第1及び第2コンデンサーC13及びC23の容量値γ1及びγ2に関して、前述した(1)式が成立することから、以上に述べたような懸念は殆ど払拭される。すなわち、仮に走査線3の電位変動が第1及び第2電極131及び132に影響を及ぼすとしても、γ1=γ2が成立することから、両者間に当該影響の差異は生じないのである。
このように、本実施形態によれば、フィードスルーの発生、あるいはそれによってもたらされる悪影響が実効的に抑止されるようになっているのである。
【0033】
ちなみに、図2に示すような回路構成において、本願出願人は、第1及び第2データ線6a及び6bに供給されるデータ電位Vdataの大きさ(あるいは、より一般的には、第1又は第2データ線6a又は6bに供給される第1電位X1a〜Xna又は第2電位X1b〜Xnbの大きさ)が、フィードスルーの程度、即ち第1〜第3保持容量Cstg1〜Cstg3に蓄積されている電荷量の変動の大小に大きく影響することを見出した。図3は、これに関する。
すなわち、図3において、その〔A〕では、第1データ線6aにデータ電位Vdataが供給され、第2データ線6bに基準電位GNDが供給される場合が示されているが(なお、ここではVdata>GNDとする。)、この場合、第1・第2スイッチング素子SW101・SW102がオン状態からオフ状態へと遷移する際における、前者に基づく第1保持容量Cstg1の電位低下の程度の方が、後者に基づく第2保持容量Cstg2のそれよりも大きくなることが示されている。つまり、より大きな電位をもつ第1保持容量Cstg1の電位変動の程度はより大きくなる。
他方、図3〔B〕では、図3〔A〕とは逆に、第1データ線6aに基準電位GNDが供給され、第2データ線6bにデータ電位Vdataが供給される場合が示されているが、この場合もやはり、より大きな電位をもつ第2保持容量Cstg2の電位変動の程度はより大きくなる。
【0034】
以上のような結果は、フィードスルーが、必ずしも、第1・第2トランジスターSW101・SW102のゲート・ソース間容量、あるいは、前記第1・第2コンデンサーC13・C23を支配的要因として生じるのでない場合がありうることを示唆する。つまり、これらの容量値が小さい場合でも、フィードスルーの程度が大きい場合がありえ、あるいはその逆に、当該容量値が大きい場合でも、フィードスルーの程度が小さい場合がありえるということになる。
もっとも、そのような場合でも、図3〔A〕又は図3〔B〕の各別に示した状態と、前記(1)式が満たされない場合(即ち、γ1≠γ2)とが重なると、第1電極131及び第2電極132間で異なった電位変動が生じる(いわば“極性差”が生じる)おそれがあることに変わりはない。したがって、かかる場合でも、上述した本実施形態の作用効果の意義が本質的に失われるわけでは勿論ない。むしろ、本実施形態は、フィードスルーがどのような支配的要因によって生じるにしても、そのフィードスルーによってもたらされる不具合(例えば、前記“極性差”)の発生を未然に回避するという効果を享受可能とするものということができる。
【0035】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明に係る電気光学装置ないし画素回路は、上述した形態に限定されることはなく、各種の変形が可能である。
(1) 上記実施形態においては、第1及び第2保持容量Cstg1及びCstg2を設けるために、電位線30が設けられる形態について説明しているが、本発明は、かかる形態に限定されない。
例えば、図4に示すように、図2に示す第1及び第2保持容量Cstg1及びCstg2相当の第1及び第2保持容量は、電位線30に電気的に接続されるのではなく、前行に位置する画素回路P1に対応する走査線3に電気的に接続されてもよい(図中符号Cstg1[i]及びCstg2[i]参照)。なお、図4においては、前行に位置する画素回路P1を表現するために記号[i−1]が、その直後の行に位置する画素回路P1を表現するために記号[i]が利用されている。
このような形態によれば、電位線30を設ける必要がなくなるから、その分のコスト低減が可能となり、あるいは、その設置スペース分の画素開口率の向上等を図ることも可能となる、など様々な利点が得られる。
【0036】
そして、このような場合においても、図4に示すように、図2に示す第1及び第2コンデンサーC13及びC23相当の、第1及び第2コンデンサーC13[i]及びC13[i]は備えられ得る(図4においては、前行に位置する画素回路に含まれる、第1及び第2コンデンサーC13[i−1]及びC23[i−1]も図示されている。)。
その結果、この図4に示すような形態においても、上記実施形態によって奏された作用効果と本質的に異ならない作用効果は奏される。
【0037】
(2) 上記実施形態においては、画素回路P1の動作について、〔i〕から〔iii〕までの段階に分けて説明を行ったが、これに関連して、データ電位Vdata及び基準電位GNDの切替えの態様ないしタイミングには、様々なものが想定される。
例えば、データ電位Vdataと基準電位GNDとの切替えはフレーム単位で行われてよい。この場合には、図1に示す全画素回路P1が一通り駆動されるまでは、当該全画素回路P1に関し、例えば第1データ線6aには常にデータ電位Vdata、第2データ線6bには常に基準電位GNDが供給されるなどということになる(V反転方式)。
あるいは、当該切替えはデータ線ごと(列ごと)に行われてもよい。この場合には、あるフレーム期間中において、ある画素回路P1(i,j)に対応する第1データ線6aにはデータ電位Vdata、第2データ線6bには基準電位GNDが供給されるが、その隣の画素回路P1(i,j+1)に対応する第1データ線6aには基準電位GND、第2データ線6bにはデータ電位Vdataが供給されるなどということになる(S反転方式)。
あるいは更に、当該切替えは走査線ごと(行ごと)に行われてもよい。この場合には、あるフレーム期間中において、ある行に位置する画素回路P1(i,1),…,P1(i,n)の複数を駆動する場合には第1データ線6aにはデータ電位Vdata、第2データ線6bには基準電位GNDが供給されるが、次の行に位置する画素回路P1(i+1,1),…,P1(i+1,n)の複数を駆動する場合には第1データ線6aには基準電位GND、第2データ線6bにはデータ電位Vdataが供給されるなどということになる(H反転方式)。
あるいは加えて、前記のS反転方式及びH反転方式を併用したドット反転方式が行われてもよい。
【0038】
いずれにしても、このようなデータ電位Vdata及び基準電位GNDの切替えの態様は、ある特定の1個の画素回路P1に着目するとき、それ自身に対応する第1及び第2データ線6a及び6b並びにそれ以外のデータ線6a及び6bの電位変動が、当該画素回路P1に含まれる第1及び第2電極131及び132に与える影響に相違をもたらす可能性がある(前記の図3及びその説明参照)。前述した各コンデンサー(C13,C23)の容量値及びその関係を決定するにあたっては、場合により、このような事情への配慮が加えられると好適である。
【0039】
<応用>
次に、上記実施形態に係る電気光学装置1を適用した電子機器について説明する。
図5は、上記実施形態に係る電気光学装置1を画像表示装置に利用したモバイル型のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。パーソナルコンピュータ2000は、表示装置としての電気光学装置1と本体部2010とを備える。本体部2010には、電源スイッチ2001およびキーボード2002が設けられている。
図6に、上記実施形態に係る電気光学装置1を適用した携帯電話機を示す。携帯電話機3000は、複数の操作ボタン3001およびスクロールボタン3002、ならびに表示装置としての電気光学装置1を備える。スクロールボタン3002を操作することによって、電気光学装置1に表示される画面がスクロールされる。
図7に、上記実施形態に係る電気光学装置1を適用した情報携帯端末(PDA:Personal Digital Assistant)を示す。情報携帯端末4000は、複数の操作ボタン4001および電源スイッチ4002、ならびに表示装置としての電気光学装置1を備える。電源スイッチ4002を操作すると、住所録やスケジュール帳といった各種の情報が電気光学装置1に表示される。
【0040】
本発明に係る電気光学装置が適用される電子機器としては、図5から図7に示したもののほか、デジタルスチルカメラ、テレビ、ビデオカメラ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電子ペーパー、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、ビデオプレーヤ、タッチパネルを備えた機器等が挙げられる。

【符号の説明】
【0041】
1……電気光学装置、100……走査線駆動回路、200……データ線駆動回路、P1……画素回路、13……電気光学素子、131……第1電極、132……第2電極、3……走査線、30……電位線、6a……第1データ線、6b……第2データ線、Cstg1,Cstg2,Cstg3……第1〜第3保持容量、SW101……第1トランジスター、SW102……第2トランジスター、C13,C23……第1,第2コンデンサー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極、第2電極、並びに前記第1及び第2電極間の印加電圧に応じて光学特性が変化する電気光学物質を有する電気光学素子と、
第1データ線と前記第1電極との間に設けられる第1スイッチング素子と、
第2データ線と前記第2電極との間に設けられる第2スイッチング素子と、
前記第1及び第2スイッチング素子のオン状態・オフ状態間の遷移を指令する制御信号を、これら第1及び第2スイッチング素子に供給する走査線と、
前記第1電極、前記走査線、及びこれら両者間の空間から構成される第1容量要素と、
前記第1電極、前記走査線、及びこれら両者間の空間から構成される第2容量要素と、
を備え、
前記第1及び第2容量要素の容量値は略等しい、
ことを特徴とする画素回路。
【請求項2】
第1電極、第2電極、並びに前記第1及び第2電極間の印加電圧に応じて光学特性が変化する電気光学物質を有する電気光学素子と、
第1期間において表示すべき階調に応じたデータ電位が供給される第1データ線と、前記第1電極との間に設けられる第1スイッチング素子と、
第2期間において前記データ電位が供給される第2データ線と、前記第2電極との間に設けられる第2スイッチング素子と、
前記第1及び第2スイッチング素子のオン状態・オフ状態間の遷移を指令する制御信号を、これら第1及び第2スイッチング素子に供給する走査線と、
前記第1及び第2スイッチング素子がオン状態からオフ状態へと遷移する場合において、前記走査線の電位の変動によって、前記第1電極が受ける電位変動の影響、及び、前記第2電極が受ける電位変動の影響、の双方を略等しくするフィードスルー防止手段と、
を備えることを特徴とする画素回路。
【請求項3】
第1データ線と、第2データ線と、これら第1及び第2データ線及び走査線の交差に対応して設けられた画素回路と、を具備する電気光学装置であって、
前記画素回路は、
第1電極、第2電極、並びに前記第1及び第2電極間の印加電圧に応じて光学特性が変化する電気光学物質を有する電気光学素子と、
前記第1データ線と前記第1電極との間に設けられる第1スイッチング素子と、
前記第2データ線と前記第2電極との間に設けられる第2スイッチング素子と、
前記第1電極、前記走査線、及びこれら両者間の空間から構成される第1容量要素と、
前記第1電極、前記走査線、及びこれら両者間の空間から構成される第2容量要素と、
を備え、
前記走査線は、前記第1及び第2スイッチング素子のオン状態・オフ状態間の遷移を指令する制御信号を、これら第1及び第2スイッチング素子に供給し、
前記第1及び第2容量要素の容量値は略等しい、
ことを特徴とする電気光学装置。
【請求項4】
複数の走査線と、
各々が第1及び第2データ線の組からなる、複数のデータ線と、
前記複数の走査線及び前記複数のデータ線の交差に対応して設けられた複数の画素回路と、
第1期間において、前記第1データ線に表示すべき階調に応じたデータ電位を供給し、第2期間において、前記第2データ線に前記データ電位を供給するデータ線駆動回路と、
を備え、
前記複数の画素回路の各々は、
第1電極、第2電極、並びに前記第1及び第2電極間の印加電圧に応じて光学特性が変化する電気光学物質を有する電気光学素子と、
前記第1データ線と前記第1電極との間に設けられる第1スイッチング素子と、
前記第2データ線と前記第2電極との間に設けられる第2スイッチング素子と、
前記第1及び第2スイッチング素子がオン状態からオフ状態へと遷移する場合において、前記走査線の電位の変動によって、前記第1電極が受ける電位変動の影響、及び、前記第2電極が受ける電位変動の影響、の双方を略等しくするフィードスルー防止手段と、
を備える、
ことを特徴とする電気光学装置。
【請求項5】
固定電位が供給される固定電位線と、
前記第1電極及び前記固定電位線間に設けられる第1保持容量と、
前記第2電極及び前記固定電位線間に設けられる第2保持容量と、
を更に備える、
ことを特徴とする請求項3又は4に記載の電気光学装置。
【請求項6】
前記複数の画素回路の各々は、
そのうちの1つの画素回路に含まれる前記第1及び第2電極のそれぞれと、当該画素回路とは別の画素回路に含まれる前記走査線との間に設けられる第1及び第2保持容量を、
更に備える、
ことを特徴とする請求項3又は4に記載の電気光学装置。
【請求項7】
請求項3乃至6のいずれか一項に記載の電気光学装置を備える、
ことを特徴とする電子機器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−217485(P2010−217485A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64010(P2009−64010)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】