異形断面コイルの製造方法
【課題】特別な工程を設けることなく、スプリングバックによるコイルの変形を防止することができる異形断面コイルの製造方法を提供する。
【解決手段】線材3を芯材31に略螺旋状に巻回して形成したコイル連接体21をプレス成形する際に生じる線材3の変形度合いを調節することにより、線材3を略螺旋状に巻回した際に生じる線材3のスプリングバックを低減する。線材3の各部のプレス成形による厚みの最大加工率が、所定の基準値以上になるように設定される。
【解決手段】線材3を芯材31に略螺旋状に巻回して形成したコイル連接体21をプレス成形する際に生じる線材3の変形度合いを調節することにより、線材3を略螺旋状に巻回した際に生じる線材3のスプリングバックを低減する。線材3の各部のプレス成形による厚みの最大加工率が、所定の基準値以上になるように設定される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド自動車や電気自動車のモータ等に適した異形断面コイルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車、電気自動車等の駆動用モータの高効率化、高出力化のためにモータ用コイルの占積率の向上が有効である。この占積率を向上させる方法として、従来の一定断面形状の線材を巻くのに対し、コイルの巻回経路上の位置に応じて線材の断面形状を変化させる方法が提案されている。
【0003】
図12は、本発明に係る異形断面コイルの製造方法が適用されるコイルの斜視図である。このコイル1は、図12に示すように、略切頭錐形の外観形態を有し、その線材3の断面形状が、小径側(図12の下側)の端部から大径側(図12の上側)の端部に向けて徐々に扁平に変化している。コイル1の両端部には、電気接続のための引出部5,7が設けられている。なお、図12に示すコイル1は、ほぼ四角錐の頭部を切除したような外観形態(略切頭四角錐形の形態)を有している。
【0004】
このようなコイル1の製造方法としては、図13に示すように、線材3を芯材9に略螺旋状に巻回して略柱形の中間コイル体11を形成し、その中間コイル体11を成形型13内にセットして軸方向にプレス成形して成形する方法が提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のように中間コイル体11を単純にプレス成形する方法では、芯材9からコイル1を取り外した際にコイル1の各曲げ部分に残存するスプリングバックにより、コイル1の形状が変形してしまい、コイル1の形状を修正するための余分な工程(例えば、ねじれを戻して焼鈍させる工程等)が必要となる等の問題がある。
【0006】
そこで、本発明の解決すべき課題は、特別な工程を設けることなく、スプリングバックによるコイルの変形を防止することができる異形断面コイルの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、請求項1の発明では、線材が略螺旋状に巻回されてなる中間コイル体をその軸方向にプレス成形することにより、異形断面のコイルを製造する異形断面コイルの製造方法であって、プレス成形により生じる前記線材の変形度合いを調節することにより、前記線材を略螺旋状に巻回した際に生じる前記線材のスプリングバックを低減する。
【0008】
また、請求項2の発明では、線材が略螺旋状に巻回されてなる中間コイル体をその軸方向にプレス成形することにより、異形断面のコイルを製造する異形断面コイルの製造方法であって、前記中間コイル体を構成する前記線材の延性を調節して前記中間コイル体に対するプレス成形を行うことにより、前記線材を略螺旋状に巻回した際に生じる前記線材のスプリングバックを低減する。
【0009】
また、請求項3の発明では、線材が略螺旋状に巻回されてなる中間コイル体をその軸方向にプレス成形することにより、異形断面のコイルを製造する異形断面コイルの製造方法であって、プレス成形により生じる前記線材の変形度合いと、前記中間コイル体を構成する前記線材の延性とを調節して前記中間コイル体に対するプレス成形を行うことにより、前記線材を略螺旋状に巻回した際に生じる前記線材のスプリングバックを低減する。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、プレス成形により生じる線材の変形度合いを調節することにより、線材を略螺旋状に巻回した際に生じる線材のスプリングバックを低減するため、特別な工程を設けることなく、スプリングバックによるコイルの変形を防止することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、中間コイル体を構成する線材の延性を調節してプレス成形することにより、線材を略螺旋状に巻回した際に生じる線材のスプリングバックを低減するために、特別な工程を設けることなく、スプリングバックによるコイルの変形を防止することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、プレス成形により生じる線材の変形度合いと、中間コイル体を構成する線材の延性との両方を調節することにより、線材を略螺旋状に巻回した際に生じる線材のスプリングバックを低減するために、特別な工程を設けることなく、スプリングバックによるコイルの変形をより的確に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
<第1実施形態>
<コイルの製造工程>
本発明の第1実施形態に係る異形断面コイルの製造方法では、プレス成形により生じる線材3の変形度合いを調節することにより、線材3を略螺旋状に巻回した際に生じる線材3のスプリングバックを低減するようになっている。また、本実施形態では、大略的に、図1に示すような略樽形(ここでは、矩形形の断面形状を有する略矩形樽形)の外観形態を有するコイル連接体21を作製し、そのコイル連接体21を軸方向の中央部で2分割することにより、前述の図12に示す略切頭錐形の外観形態を有する2つの異形断面のコイル1を作製する。すなわち、コイル連接体21は、2つの中間コイル体23A,23Bを軸方向に連続的に連ねて構成されており、分割された各中間コイル体23A,23Bがそれぞれ異形断面のコイル1になる。
【0014】
この図1のコイル連接体21は、その中央部を境に上下の部分が上下反転に対して略対称な形態を有しており、上下の端部に電線接続のための引出部25,27が形成され、中央部に平面視略コ字状に外方に張り出して巻回された張り出し部29が形成されている。この張り出し部29を切断することにより、上下の部分を容易に分割することができるとともに、残った張り出し部29の部分によって電気接続用の引出部が形成できるようになっている。
【0015】
本実施形態に係るコイル1の製造工程の流れについて説明する。まず、コイル連接体21の作製が行われる。その作製は、図2に示すように、一定断面形状(例えば、略矩形断面形状)の線材3を所定の芯材31の周囲に略螺旋状に巻回することにより行われる。芯材31は一定の略矩形断面を有しているため、略柱形の形態のコイル連接体21が作製される。このコイル連接体21の上下端には引出部25,27が形成され、中央部には張り出し部29が形成されている。
【0016】
続いて、作製されたコイル連接体21は、図3に示すように、芯材31に巻回された状態で成形型33内にセットされ、プレス成形が行われる。成形型33は、セットされた芯材31の周囲に略樽形(ここでは、略矩形樽形)のキャビティ34を形成する上下に対向配置された一対の上型35と下型37とを備えて構成され、上型35を下型37側に図示しないプレス機構で駆動することにより、プレス成形を行う。なお、本実施形態では上下に対向配置された上型35及び下型37により成形型33を構成したが、水平方向等に対向配置された他の一対の型を用いて成形型33を構成してもよい。
【0017】
図3に示す状態から上型35が下降されてプレス成形が行われると、成形型33内では、上型35の下降に伴って図4(a)ないし図4(c)に模式的に示すように成形が進んでゆき、最終的に図4(c)及び図5に示す状態となる。すなわち、プレス成形が始まると、図4(a)に示すようにコイル連接体21の中央部が外方に略樽形に広がってゆき、図4(b)及び図4(c)に示すようにコイル連接体21の外周が成形型33のキャビティ34内周面に沿うようにしてプレス成形が行われる。
【0018】
ここで、芯材31については、線材3を芯材31に巻回してコイル連接体21を作製する際の芯材31と、コイル連接体21と共に成形型33内に設置する芯材31とは別のものであってもよい。
【0019】
そして、プレス成形が完了した図5に示す状態では、コイル連接体21が、芯材31の外周と成形型33の内周とによって形成されたキャビティ34の形状に応じた略樽形の形態に成形される。なお、図3及び図5に示す符号57bは張り出し部29に対応して下型37に設けられた逃げ部である。
【0020】
コイル連接体21の成形が終了すると、前述のようにコイル連接体21を中央部で2分割することにより、2つの異形断面のコイル1(図12参照)を作製する。
【0021】
<加工率の設定>
コイル連接体21を構成する線材3は、プレス成形に伴って図6に示す状態から図7に示す状態へと変形されるが、そのプレス成形による線材3の変形度合いと、プレス成形後の線材3に残存するスプリングバックの残存量との間に相関関係があることが試験等により分かった。なお、本明細書において線材3の変形度合いとは、線材3の加工率を含む概念である。
【0022】
具体的には、プレス成形による線材3の厚みについての加工率Prと、プレス成形後の線材3のスプリングバックによる戻り角度θ(図8参照)との関係について試験を行った。ここで、戻り角度θとは図8に示すように設定される。すなわち、線材3を芯材31に所定ターン数だけ巻回し、その上下の引出部25,27を同一方向に引き出してプレス成形を行った後、コイル連接体21から芯材31を抜き取ったときに、線材3に残存するスプリングバックにより上下の引出部25,27が外方に開くようになっており、この開いたときの引出部25,27が成す角を戻り角度θとしている。
【0023】
厚みについての加工率Prは、プレス成形前後の線材3の厚みをt1,t2(図6、図7参照)とすると、
Pr=(t1−t2)/t1[%]
の関係式で与えられる。プレス成形後のコイル連接体21は、その部分によって線材3の厚みが異なっている。すなわち、プレス成形後の線材3の厚みは、図7に示すように上下端部の最小値(t2max)から中央部の最大値(t2min)に向けて徐々に小さくなっており、その結果、加工率Prはコイル連接体21の中央部で最大値となっている。そこで、本実施形態では、コイル連接体21の各部分の加工率Prのうちの最大値(ここでは、中央部の加工率)を基準として、加工率Prと残存するスプリングバックとの関係を調べた。
【0024】
図9は、線材3の後述する延性を一定(40%)に保持した場合における加工率Prと、プレス成形後に残存するスプリングバックによる戻り角度θとの関係に関する試験結果を示すグラフである。試験の結果、図9に示すように、最大加工率Prが52.0%(t1=2.04mm,t2min=0.98mm)のときに、戻り角度θが21.5°という結果と、16.0°という結果とが得られた。また、最大加工率Prが55.7%(t1=2.21mm,t2min=0.98mm)のときに戻り角度θが13.2°という結果が得られた。これより、最大加工率Prが増大するほど、戻り角度θが減少することが分かった。なお、いずれの試験も線材3のターン数は36ターンに設定されている。
【0025】
そこで、本実施形態では、このプレス成形時の最大加工率Prが所定の基準値以上になるように設定することにより、スプリングバックの残存量を所定レベル以下に抑制するようにしている。その具体的な基準値としては、例えば、最大加工率Prが55%以上になるように設定される。
【0026】
以上のように、本実施形態によれば、コイル連接体21に対するプレス成形時に生じる線材3の変形度合いを調節することにより、線材3を略螺旋状に巻回した際に生じる線材3のスプリングバックを低減するために、特別な工程を設けることなく、スプリングバックによるコイル1の変形を防止することができる。
【0027】
また、コイル連接体21を構成する線材3の各部のプレス成形による厚みの最大加工率Prが、所定の基準値(例えば、55%)以上になるように設定するため、線材3のスプリングバックをプレス成形に伴って的確に抑制することができる。
【0028】
なお、本実施形態では、2つの中間コイル体23A,23Bを連ねたコイル連接体21を構成し、それをプレス成形して2つの異形断面のコイル1を製造する場合について説明したが、本実施形態に係るプレス成形時の線材3の変形度合いを調節してスプリングバックを抑制する方法を、前述の図13に示す単体の中間コイル体11をプレス成形してコイル1を製造する場合に適用してもよい。この場合、図13に示す中間コイル体11の加工度が最大となる上端部の加工率を基準として、加工率の条件設定が行われる。
【0029】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態に係る異形断面コイルの製造方法では、コイル連接体21を構成する線材3の延性を調節してプレス成形することにより、線材3を略螺旋状に巻回した際に生じる線材3のスプリングバックを低減するようになっている。ここでは、本実施形態に係る製造方法を、前述のコイル連接体21を構成してそれをプレス成形して2つの異形断面のコイル1を製造する場合に適用して説明を行うが、前述の図13に示す単体の中間コイル体11をプレス成形してコイル1を製造する場合に適用してもよい。
【0030】
試験等の結果、コイル連接体21を構成する線材3の延性と、プレス成形後の線材3に残存するスプリングバックの残存量との間に相関関係があることが分かった。
【0031】
具体的には、コイル連接体21を構成する線材3の延性と、プレス成形後の線材3のスプリングバックによる戻り角度θ(図8参照)との関係について試験を行った。ここで、線材3の延性とは、JISC3002に規定される試験によって取得されたものであり、大略的には、試料に対して引っ張り試験を行った際に引っ張り開始から剪断が生じるまでに試料が伸びた割合をパーセントで表現したものである。また、線材3の延性は、線材3を略螺旋状に巻回した際の加工硬化の影響により部分によって値が異なるが、各部分の延性の値を線材3の長手方向に対して平均した値を採用することとする。
【0032】
図10は、プレス成形による線材3の厚みに対する加工率を一定に保持した場合における、線材3の延性とプレス成形後に残存するスプリングバックによる戻り角度θとの関係に関する試験結果を示すグラフである。試験の結果、図10に示すように、延性が40%のときに、戻り角度θが21.5°という結果と、16.0°という結果とが得られ、延性が38%のときに、戻り角度θが15.0°という結果が得られ、延性が35%のときに、戻り角度θが11.8°という結果と、12.7°という結果とが得られた。これより、延性が低下するほど、戻り角度θが減少することが分かった。なお、図10の各試験において、プレス成形による線材3の厚みに対する加工率Prは一定値(最大加工率が52.0%(t1=2.04mm,t2min=0.98mm))に設定されており、線材3のターン数は36ターンに設定されている。
【0033】
そこで、本実施形態では、このコイル連接体21を構成するプレス成形前の線材3の延性が所定の基準レベル以下になるように設定することにより、スプリングバックの残存量を所定レベル以下に抑制するようにしている。その具体的な基準値としては、例えば、延性が35%以下になるように設定される。
【0034】
以上のように、本実施形態によれば、コイル連接体21を構成する線材3の延性を調節してプレス成形することにより、線材3を略螺旋状に巻回した際に生じる線材3のスプリングバックを低減するために、特別な工程を設けることなく、スプリングバックによるコイルの変形を防止することができる。
【0035】
また、コイル連接体21を構成する線材の延性が、所定の基準レベル(例えば、35%)以下になるように設定するため、線材3のスプリングバックをプレス成形に伴って的確に抑制することができる。
【0036】
<変形例>
なお、上述の各実施形態の変形例として、プレス成形により生じる線材3の変形度合いと、コイル連接体21を構成する線材3の延性との両方を調節してコイル連接体21に対するプレス成形を行うことにより、線材3を略螺旋状に巻回した際に生じる線材3のスプリングバックを低減するようにしてもよい。例えば、プレス成形時の最大加工率Prが所定の基準値以上になり、かつ、このコイル連接体21を構成するプレス成形前の線材3の延性が所定の基準レベル以下になるように設定する方法が考えられる。このように、線材3の変形度合いと延性との両方を調節することにより、より的確に残存するスプリングバックを抑制することができる。
【0037】
<適用例>
次に、上記各実施形態に係る製造方法により製造された異形断面のコイル1の適用例について説明する。この適用例では、図11に示すように、コイル1がモータのステータ用コアに組み込まれており、複数のコイル1が、周方向に等間隔で離隔して配置された複数のコア71に挿入されて配設されている。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1実施形態に係る異形断面コイルの製造方法による製造過程で作製される略樽形に形成されたコイル連接体の斜視図である。
【図2】コイル連接体の形成工程の説明図である。
【図3】コイル連接体がプレス成形される際の説明図である。
【図4】図4(a)ないし図4(c)はプレス成形時の成形型内の途中経過を段階的に示す説明図である。
【図5】プレス成形終了時における成形型内の状態を示す説明図である。
【図6】プレス成形前の線材の状態を示す説明図である。
【図7】プレス成形後の線材の状態を示す説明図である。
【図8】スプリングバックによる戻り角度についての説明図である。
【図9】加工率Prとプレス成形後に残存するスプリングバックによる戻り角度θとの関係に関する試験結果を示すグラフである。
【図10】線材の延性とプレス成形後に残存するスプリングバックによる戻り角度θとの関係に関する試験結果を示すグラフである。
【図11】異形断面コイルの適用例を示す図である。
【図12】本発明に係る異形断面コイルの製造方法が適用されるコイルの斜視図である。
【図13】提案例に係る異形断面コイルの製造方法の説明図である。
【符号の説明】
【0039】
1 コイル
3 線材
21 コイル連接体
25,27 引出部
29 張り出し部
31 芯材
33 成形型
34 キャビティ
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド自動車や電気自動車のモータ等に適した異形断面コイルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車、電気自動車等の駆動用モータの高効率化、高出力化のためにモータ用コイルの占積率の向上が有効である。この占積率を向上させる方法として、従来の一定断面形状の線材を巻くのに対し、コイルの巻回経路上の位置に応じて線材の断面形状を変化させる方法が提案されている。
【0003】
図12は、本発明に係る異形断面コイルの製造方法が適用されるコイルの斜視図である。このコイル1は、図12に示すように、略切頭錐形の外観形態を有し、その線材3の断面形状が、小径側(図12の下側)の端部から大径側(図12の上側)の端部に向けて徐々に扁平に変化している。コイル1の両端部には、電気接続のための引出部5,7が設けられている。なお、図12に示すコイル1は、ほぼ四角錐の頭部を切除したような外観形態(略切頭四角錐形の形態)を有している。
【0004】
このようなコイル1の製造方法としては、図13に示すように、線材3を芯材9に略螺旋状に巻回して略柱形の中間コイル体11を形成し、その中間コイル体11を成形型13内にセットして軸方向にプレス成形して成形する方法が提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のように中間コイル体11を単純にプレス成形する方法では、芯材9からコイル1を取り外した際にコイル1の各曲げ部分に残存するスプリングバックにより、コイル1の形状が変形してしまい、コイル1の形状を修正するための余分な工程(例えば、ねじれを戻して焼鈍させる工程等)が必要となる等の問題がある。
【0006】
そこで、本発明の解決すべき課題は、特別な工程を設けることなく、スプリングバックによるコイルの変形を防止することができる異形断面コイルの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、請求項1の発明では、線材が略螺旋状に巻回されてなる中間コイル体をその軸方向にプレス成形することにより、異形断面のコイルを製造する異形断面コイルの製造方法であって、プレス成形により生じる前記線材の変形度合いを調節することにより、前記線材を略螺旋状に巻回した際に生じる前記線材のスプリングバックを低減する。
【0008】
また、請求項2の発明では、線材が略螺旋状に巻回されてなる中間コイル体をその軸方向にプレス成形することにより、異形断面のコイルを製造する異形断面コイルの製造方法であって、前記中間コイル体を構成する前記線材の延性を調節して前記中間コイル体に対するプレス成形を行うことにより、前記線材を略螺旋状に巻回した際に生じる前記線材のスプリングバックを低減する。
【0009】
また、請求項3の発明では、線材が略螺旋状に巻回されてなる中間コイル体をその軸方向にプレス成形することにより、異形断面のコイルを製造する異形断面コイルの製造方法であって、プレス成形により生じる前記線材の変形度合いと、前記中間コイル体を構成する前記線材の延性とを調節して前記中間コイル体に対するプレス成形を行うことにより、前記線材を略螺旋状に巻回した際に生じる前記線材のスプリングバックを低減する。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、プレス成形により生じる線材の変形度合いを調節することにより、線材を略螺旋状に巻回した際に生じる線材のスプリングバックを低減するため、特別な工程を設けることなく、スプリングバックによるコイルの変形を防止することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、中間コイル体を構成する線材の延性を調節してプレス成形することにより、線材を略螺旋状に巻回した際に生じる線材のスプリングバックを低減するために、特別な工程を設けることなく、スプリングバックによるコイルの変形を防止することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、プレス成形により生じる線材の変形度合いと、中間コイル体を構成する線材の延性との両方を調節することにより、線材を略螺旋状に巻回した際に生じる線材のスプリングバックを低減するために、特別な工程を設けることなく、スプリングバックによるコイルの変形をより的確に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
<第1実施形態>
<コイルの製造工程>
本発明の第1実施形態に係る異形断面コイルの製造方法では、プレス成形により生じる線材3の変形度合いを調節することにより、線材3を略螺旋状に巻回した際に生じる線材3のスプリングバックを低減するようになっている。また、本実施形態では、大略的に、図1に示すような略樽形(ここでは、矩形形の断面形状を有する略矩形樽形)の外観形態を有するコイル連接体21を作製し、そのコイル連接体21を軸方向の中央部で2分割することにより、前述の図12に示す略切頭錐形の外観形態を有する2つの異形断面のコイル1を作製する。すなわち、コイル連接体21は、2つの中間コイル体23A,23Bを軸方向に連続的に連ねて構成されており、分割された各中間コイル体23A,23Bがそれぞれ異形断面のコイル1になる。
【0014】
この図1のコイル連接体21は、その中央部を境に上下の部分が上下反転に対して略対称な形態を有しており、上下の端部に電線接続のための引出部25,27が形成され、中央部に平面視略コ字状に外方に張り出して巻回された張り出し部29が形成されている。この張り出し部29を切断することにより、上下の部分を容易に分割することができるとともに、残った張り出し部29の部分によって電気接続用の引出部が形成できるようになっている。
【0015】
本実施形態に係るコイル1の製造工程の流れについて説明する。まず、コイル連接体21の作製が行われる。その作製は、図2に示すように、一定断面形状(例えば、略矩形断面形状)の線材3を所定の芯材31の周囲に略螺旋状に巻回することにより行われる。芯材31は一定の略矩形断面を有しているため、略柱形の形態のコイル連接体21が作製される。このコイル連接体21の上下端には引出部25,27が形成され、中央部には張り出し部29が形成されている。
【0016】
続いて、作製されたコイル連接体21は、図3に示すように、芯材31に巻回された状態で成形型33内にセットされ、プレス成形が行われる。成形型33は、セットされた芯材31の周囲に略樽形(ここでは、略矩形樽形)のキャビティ34を形成する上下に対向配置された一対の上型35と下型37とを備えて構成され、上型35を下型37側に図示しないプレス機構で駆動することにより、プレス成形を行う。なお、本実施形態では上下に対向配置された上型35及び下型37により成形型33を構成したが、水平方向等に対向配置された他の一対の型を用いて成形型33を構成してもよい。
【0017】
図3に示す状態から上型35が下降されてプレス成形が行われると、成形型33内では、上型35の下降に伴って図4(a)ないし図4(c)に模式的に示すように成形が進んでゆき、最終的に図4(c)及び図5に示す状態となる。すなわち、プレス成形が始まると、図4(a)に示すようにコイル連接体21の中央部が外方に略樽形に広がってゆき、図4(b)及び図4(c)に示すようにコイル連接体21の外周が成形型33のキャビティ34内周面に沿うようにしてプレス成形が行われる。
【0018】
ここで、芯材31については、線材3を芯材31に巻回してコイル連接体21を作製する際の芯材31と、コイル連接体21と共に成形型33内に設置する芯材31とは別のものであってもよい。
【0019】
そして、プレス成形が完了した図5に示す状態では、コイル連接体21が、芯材31の外周と成形型33の内周とによって形成されたキャビティ34の形状に応じた略樽形の形態に成形される。なお、図3及び図5に示す符号57bは張り出し部29に対応して下型37に設けられた逃げ部である。
【0020】
コイル連接体21の成形が終了すると、前述のようにコイル連接体21を中央部で2分割することにより、2つの異形断面のコイル1(図12参照)を作製する。
【0021】
<加工率の設定>
コイル連接体21を構成する線材3は、プレス成形に伴って図6に示す状態から図7に示す状態へと変形されるが、そのプレス成形による線材3の変形度合いと、プレス成形後の線材3に残存するスプリングバックの残存量との間に相関関係があることが試験等により分かった。なお、本明細書において線材3の変形度合いとは、線材3の加工率を含む概念である。
【0022】
具体的には、プレス成形による線材3の厚みについての加工率Prと、プレス成形後の線材3のスプリングバックによる戻り角度θ(図8参照)との関係について試験を行った。ここで、戻り角度θとは図8に示すように設定される。すなわち、線材3を芯材31に所定ターン数だけ巻回し、その上下の引出部25,27を同一方向に引き出してプレス成形を行った後、コイル連接体21から芯材31を抜き取ったときに、線材3に残存するスプリングバックにより上下の引出部25,27が外方に開くようになっており、この開いたときの引出部25,27が成す角を戻り角度θとしている。
【0023】
厚みについての加工率Prは、プレス成形前後の線材3の厚みをt1,t2(図6、図7参照)とすると、
Pr=(t1−t2)/t1[%]
の関係式で与えられる。プレス成形後のコイル連接体21は、その部分によって線材3の厚みが異なっている。すなわち、プレス成形後の線材3の厚みは、図7に示すように上下端部の最小値(t2max)から中央部の最大値(t2min)に向けて徐々に小さくなっており、その結果、加工率Prはコイル連接体21の中央部で最大値となっている。そこで、本実施形態では、コイル連接体21の各部分の加工率Prのうちの最大値(ここでは、中央部の加工率)を基準として、加工率Prと残存するスプリングバックとの関係を調べた。
【0024】
図9は、線材3の後述する延性を一定(40%)に保持した場合における加工率Prと、プレス成形後に残存するスプリングバックによる戻り角度θとの関係に関する試験結果を示すグラフである。試験の結果、図9に示すように、最大加工率Prが52.0%(t1=2.04mm,t2min=0.98mm)のときに、戻り角度θが21.5°という結果と、16.0°という結果とが得られた。また、最大加工率Prが55.7%(t1=2.21mm,t2min=0.98mm)のときに戻り角度θが13.2°という結果が得られた。これより、最大加工率Prが増大するほど、戻り角度θが減少することが分かった。なお、いずれの試験も線材3のターン数は36ターンに設定されている。
【0025】
そこで、本実施形態では、このプレス成形時の最大加工率Prが所定の基準値以上になるように設定することにより、スプリングバックの残存量を所定レベル以下に抑制するようにしている。その具体的な基準値としては、例えば、最大加工率Prが55%以上になるように設定される。
【0026】
以上のように、本実施形態によれば、コイル連接体21に対するプレス成形時に生じる線材3の変形度合いを調節することにより、線材3を略螺旋状に巻回した際に生じる線材3のスプリングバックを低減するために、特別な工程を設けることなく、スプリングバックによるコイル1の変形を防止することができる。
【0027】
また、コイル連接体21を構成する線材3の各部のプレス成形による厚みの最大加工率Prが、所定の基準値(例えば、55%)以上になるように設定するため、線材3のスプリングバックをプレス成形に伴って的確に抑制することができる。
【0028】
なお、本実施形態では、2つの中間コイル体23A,23Bを連ねたコイル連接体21を構成し、それをプレス成形して2つの異形断面のコイル1を製造する場合について説明したが、本実施形態に係るプレス成形時の線材3の変形度合いを調節してスプリングバックを抑制する方法を、前述の図13に示す単体の中間コイル体11をプレス成形してコイル1を製造する場合に適用してもよい。この場合、図13に示す中間コイル体11の加工度が最大となる上端部の加工率を基準として、加工率の条件設定が行われる。
【0029】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態に係る異形断面コイルの製造方法では、コイル連接体21を構成する線材3の延性を調節してプレス成形することにより、線材3を略螺旋状に巻回した際に生じる線材3のスプリングバックを低減するようになっている。ここでは、本実施形態に係る製造方法を、前述のコイル連接体21を構成してそれをプレス成形して2つの異形断面のコイル1を製造する場合に適用して説明を行うが、前述の図13に示す単体の中間コイル体11をプレス成形してコイル1を製造する場合に適用してもよい。
【0030】
試験等の結果、コイル連接体21を構成する線材3の延性と、プレス成形後の線材3に残存するスプリングバックの残存量との間に相関関係があることが分かった。
【0031】
具体的には、コイル連接体21を構成する線材3の延性と、プレス成形後の線材3のスプリングバックによる戻り角度θ(図8参照)との関係について試験を行った。ここで、線材3の延性とは、JISC3002に規定される試験によって取得されたものであり、大略的には、試料に対して引っ張り試験を行った際に引っ張り開始から剪断が生じるまでに試料が伸びた割合をパーセントで表現したものである。また、線材3の延性は、線材3を略螺旋状に巻回した際の加工硬化の影響により部分によって値が異なるが、各部分の延性の値を線材3の長手方向に対して平均した値を採用することとする。
【0032】
図10は、プレス成形による線材3の厚みに対する加工率を一定に保持した場合における、線材3の延性とプレス成形後に残存するスプリングバックによる戻り角度θとの関係に関する試験結果を示すグラフである。試験の結果、図10に示すように、延性が40%のときに、戻り角度θが21.5°という結果と、16.0°という結果とが得られ、延性が38%のときに、戻り角度θが15.0°という結果が得られ、延性が35%のときに、戻り角度θが11.8°という結果と、12.7°という結果とが得られた。これより、延性が低下するほど、戻り角度θが減少することが分かった。なお、図10の各試験において、プレス成形による線材3の厚みに対する加工率Prは一定値(最大加工率が52.0%(t1=2.04mm,t2min=0.98mm))に設定されており、線材3のターン数は36ターンに設定されている。
【0033】
そこで、本実施形態では、このコイル連接体21を構成するプレス成形前の線材3の延性が所定の基準レベル以下になるように設定することにより、スプリングバックの残存量を所定レベル以下に抑制するようにしている。その具体的な基準値としては、例えば、延性が35%以下になるように設定される。
【0034】
以上のように、本実施形態によれば、コイル連接体21を構成する線材3の延性を調節してプレス成形することにより、線材3を略螺旋状に巻回した際に生じる線材3のスプリングバックを低減するために、特別な工程を設けることなく、スプリングバックによるコイルの変形を防止することができる。
【0035】
また、コイル連接体21を構成する線材の延性が、所定の基準レベル(例えば、35%)以下になるように設定するため、線材3のスプリングバックをプレス成形に伴って的確に抑制することができる。
【0036】
<変形例>
なお、上述の各実施形態の変形例として、プレス成形により生じる線材3の変形度合いと、コイル連接体21を構成する線材3の延性との両方を調節してコイル連接体21に対するプレス成形を行うことにより、線材3を略螺旋状に巻回した際に生じる線材3のスプリングバックを低減するようにしてもよい。例えば、プレス成形時の最大加工率Prが所定の基準値以上になり、かつ、このコイル連接体21を構成するプレス成形前の線材3の延性が所定の基準レベル以下になるように設定する方法が考えられる。このように、線材3の変形度合いと延性との両方を調節することにより、より的確に残存するスプリングバックを抑制することができる。
【0037】
<適用例>
次に、上記各実施形態に係る製造方法により製造された異形断面のコイル1の適用例について説明する。この適用例では、図11に示すように、コイル1がモータのステータ用コアに組み込まれており、複数のコイル1が、周方向に等間隔で離隔して配置された複数のコア71に挿入されて配設されている。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1実施形態に係る異形断面コイルの製造方法による製造過程で作製される略樽形に形成されたコイル連接体の斜視図である。
【図2】コイル連接体の形成工程の説明図である。
【図3】コイル連接体がプレス成形される際の説明図である。
【図4】図4(a)ないし図4(c)はプレス成形時の成形型内の途中経過を段階的に示す説明図である。
【図5】プレス成形終了時における成形型内の状態を示す説明図である。
【図6】プレス成形前の線材の状態を示す説明図である。
【図7】プレス成形後の線材の状態を示す説明図である。
【図8】スプリングバックによる戻り角度についての説明図である。
【図9】加工率Prとプレス成形後に残存するスプリングバックによる戻り角度θとの関係に関する試験結果を示すグラフである。
【図10】線材の延性とプレス成形後に残存するスプリングバックによる戻り角度θとの関係に関する試験結果を示すグラフである。
【図11】異形断面コイルの適用例を示す図である。
【図12】本発明に係る異形断面コイルの製造方法が適用されるコイルの斜視図である。
【図13】提案例に係る異形断面コイルの製造方法の説明図である。
【符号の説明】
【0039】
1 コイル
3 線材
21 コイル連接体
25,27 引出部
29 張り出し部
31 芯材
33 成形型
34 キャビティ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線材が略螺旋状に巻回されてなる中間コイル体をその軸方向にプレス成形することにより、異形断面のコイルを製造する異形断面コイルの製造方法であって、
プレス成形により生じる前記線材の変形度合いを調節することにより、前記線材を略螺旋状に巻回した際に生じる前記線材のスプリングバックを低減することを特徴とする異形断面コイルの製造方法。
【請求項2】
線材が略螺旋状に巻回されてなる中間コイル体をその軸方向にプレス成形することにより、異形断面のコイルを製造する異形断面コイルの製造方法であって、
前記中間コイル体を構成する前記線材の延性を調節して前記中間コイル体に対するプレス成形を行うことにより、前記線材を略螺旋状に巻回した際に生じる前記線材のスプリングバックを低減することを特徴とする異形断面コイルの製造方法。
【請求項3】
線材が略螺旋状に巻回されてなる中間コイル体をその軸方向にプレス成形することにより、異形断面のコイルを製造する異形断面コイルの製造方法であって、
プレス成形により生じる前記線材の変形度合いと、前記中間コイル体を構成する前記線材の延性とを調節して前記中間コイル体に対するプレス成形を行うことにより、前記線材を略螺旋状に巻回した際に生じる前記線材のスプリングバックを低減することを特徴とする異形断面コイルの製造方法。
【請求項1】
線材が略螺旋状に巻回されてなる中間コイル体をその軸方向にプレス成形することにより、異形断面のコイルを製造する異形断面コイルの製造方法であって、
プレス成形により生じる前記線材の変形度合いを調節することにより、前記線材を略螺旋状に巻回した際に生じる前記線材のスプリングバックを低減することを特徴とする異形断面コイルの製造方法。
【請求項2】
線材が略螺旋状に巻回されてなる中間コイル体をその軸方向にプレス成形することにより、異形断面のコイルを製造する異形断面コイルの製造方法であって、
前記中間コイル体を構成する前記線材の延性を調節して前記中間コイル体に対するプレス成形を行うことにより、前記線材を略螺旋状に巻回した際に生じる前記線材のスプリングバックを低減することを特徴とする異形断面コイルの製造方法。
【請求項3】
線材が略螺旋状に巻回されてなる中間コイル体をその軸方向にプレス成形することにより、異形断面のコイルを製造する異形断面コイルの製造方法であって、
プレス成形により生じる前記線材の変形度合いと、前記中間コイル体を構成する前記線材の延性とを調節して前記中間コイル体に対するプレス成形を行うことにより、前記線材を略螺旋状に巻回した際に生じる前記線材のスプリングバックを低減することを特徴とする異形断面コイルの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−26681(P2006−26681A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−208290(P2004−208290)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
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