説明

異方導電性フィルム及び接続構造体

【課題】 応力を緩和させた状態で、接着強度を高めることが可能な異方導電性フィルム及びこれを用いた接続構造体を提供することにある。
【解決手段】 熱硬化型アクリル樹脂組成物からなる異方導電性フィルムにおいて、当該組成物が、少なくとも(A)熱硬化剤、(B)熱硬化性成分、(C)水酸基を含有するアクリルゴム、(D)有機微粒子、及び(E)導電性粒子を含み、上記(B)熱硬化性成分には、(b1)リン含有アクリル酸エステルを含み、上記(C)水酸基を含有するアクリルゴムの重量平均分子量が100万以上であり、上記(D)有機微粒子には、(d1)ポリブタジエン系微粒子を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化型のアクリル樹脂組成物に導電性粒子を分散させてなる高い接着強度を有する異方導電性フィルム及びこれを用いた接続構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
実装技術の分野において、異方導電性フィルムが、接続工程の簡素化、及び鉛フリーの観点から急速に普及している。この異方導電性フィルムとして、接続信頼性、及び耐熱性の観点から熱硬化型のエポキシ樹脂組成物からなる異方導電性フィルムが使用されていたが、最近になって、接続時間の短縮化、及び低温化の要求から、熱硬化型のアクリル樹脂組成物からなる異方導電性フィルムが着目されている。
【0003】
このタイプの異方導電性フィルムは、硬化剤であるアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤のうち分解及び活性化温度が低い品種を選択して用いることができ、その結果「140〜160℃で10秒以内」程度の比較的低温で短時間の加熱加圧による実装作業を可能とする。
【0004】
ところで、アクリル樹脂組成物からなる異方導電性フィルムと、エポキシ樹脂組成物からなる異方導電性フィルムとを対比すると、前者には、接続自体の不良や、接続後の導通信頼性が低いという、接着強度に起因した問題があった。
【0005】
このような問題を解決するために、例えば特許第3587859号公報にも記載のように、アクリル樹脂組成物中に分子量が10000以上の水酸基含有樹脂を配合するとともに、アクリル成分(熱硬化性成分)としてリン含有アクリル酸エステルを選択した異方導電性フィルムが検討されている(特許文献1参照)。
【0006】
このように、特許文献1に記載された異方導電性フィルムは、水酸基の存在により電子基板等の被着体に対して接着強度を高めることが期待できるが、実際の実装作業においては、被着体にかかる応力を緩和させた状態で、すなわち、そりを発生させない状態で、接着強度を高めることが求められるため、応力を緩和させた状態で接着強度を高めるという相反する問題を解決できない。
【0007】
すなわち、この相反する問題を解決するためには、硬化収縮を発生させる成分(硬化性成分)以外の樹脂材料については、できるだけ高い分子量を有するポリマー成分を配合することが必要であると考えられるが、特許文献1に記載された異方導電性フィルムは、十分に高い分子量を有するものではなかった。すなわち、特許文献1には、重量平均分子量が100万以上を有するポリマーは、その混和性が低下して配合することが困難であると記載されていた。また、特許文献1には、アクリルゴムを配合させて応力を緩和させるとともに、接着剤の凝集力を高めることの記載もあるが、当該アクリルゴムの分子量は20万程度のものであった。
【0008】
このように、従来の熱硬化型アクリル樹脂組成物からなる異方導電性フィルムでは、応力を緩和させた状態で、接着強度を高めることが困難であった。
【0009】
【特許文献1】特許第3587859号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、応力を緩和させた状態で、接着強度を高めることが可能な異方導電性フィルム及びこれを用いた接続構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を達成するため、本発明に係る異方導電性フィルムは、熱硬化型アクリル樹脂組成物からなる異方導電性フィルムにおいて、当該組成物が、少なくとも(A)熱硬化剤、(B)熱硬化性成分、(C)水酸基を含有するアクリルゴム、(D)有機微粒子、及び(E)導電性粒子を含み、上記(B)熱硬化性成分には、(b1)リン含有アクリル酸エステルを含み、上記(C)水酸基を含有するアクリルゴムの重量平均分子量が100万以上であり、上記(D)有機微粒子には、(d1)ポリブタジエン系微粒子を含むものである。
【0012】
また、本発明に係る異方導電性フィルムを構成する上記(C)水酸基を含有するアクリルゴム、上記(b1)リン含有アクリル酸エステル、及び上記(d1)ポリブタジエン系微粒子は、それぞれの重量をX,Y,及びZとした場合に、それら3成分の重量比が、X:Y:Z=2:0.05:10〜8:0.05:16であるように構成してもよい。
【0013】
さらに、本発明に係る異方導電性フィルムは、さらに、(F)フェノキシ樹脂を含むように構成してもよい。
【0014】
本発明に係る接続構造体は、電極パターンが形成された基板と、電子部品とを上述の異方導電性フィルムにより接続してなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る異方導電性フィルムは、熱硬化型アクリル樹脂組成物からなる異方導電性フィルムにおいて、(B)熱硬化性成分として(b1)リン含有アクリル酸エステルを含むとともに、(D)有機微粒子として、(d1)ポリブタジエン系微粒子を含むことにより、アクリル樹脂組成物内において、高分子量のアクリルゴムを混和させることができ、すなわちこれにより、アクリル樹脂組成物内に重量平均分子量100万以上の(C)水酸基を含有するアクリルゴムを含有することを可能として、この重量平均分子量100万以上の(C)水酸基を含有するアクリルゴムを含有することで、応力を緩和させた状態で、高い接着強度を得ることを可能とする。
【0016】
また、本発明に係る異方導電性フィルムは、(b1)リン含有アクリル酸エステル、(C)水酸基を有するアクリルゴム、及び(d1)ポリブタジエン系微粒子の3成分の重量比を適切なものとすることにより、応力が緩和された状態で、6N/cm以上の高い接着強度を得ることを可能とする。
【0017】
また、本発明に係る異方導電性フィルムは、さらに(F)フェノキシ樹脂を含むようにすることにより、異方導電性フィルムの成膜性をさらに向上させることを可能とする。
【0018】
本発明に係る接続構造体は、電極パターンが形成された基板と、電子部品とが、応力を緩和させた状態で高い接着強度を得ることができる上述の異方導電性フィルムにより接続されていることにより、基板と電子部品との接続の信頼性を高めることができ、製品間のばらつきをなくすことを可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を適用した異方導電性フィルム及びこれを用いた接続構造体について詳細に説明する。本発明を適用した異方導電性フィルムは、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)からなる電極パターンが形成された基板及び電子部品等を接続するために用いられるものであり、具体的には応力を緩和させた状態で、接着強度を高めることが可能な、異方導電性フィルムである。
【0020】
以下に、本異方導電性フィルムを構成する各成分について詳細に記述する。尚、各成分については、これらの記載に限定されるものではない。
【0021】
この異方導電性フィルムは、これを構成する各成分として、(A)熱硬化剤、(B)熱硬化性成分、(C)水酸基を含有するアクリルゴム、(D)有機微粒子、(E)導電性粒子、及び(F)フェノキシ樹脂を含むものである。当該(B)熱硬化性成分には、(b1)リン含有アクリル酸エステルを含み、当該(C)水酸基を含有するアクリルゴムの重量平均分子量が100万以上であり、(D)有機微粒子には、(d1)ポリブタジエン系微粒子を含む。
【0022】
尚、ここで、(F)フェノキシ樹脂は、本発明の異方導電性フィルムの必須の構成要素ではないが、(F)フェノキシ樹脂を含むように構成することで、異方導電性フィルムの成膜性を改善することが可能となる。
【0023】
(A)熱硬化剤としては、アゾ系開始剤、過酸化物系開始剤のうち分解及び活性化温度が低い品種が例示される。低温短時間圧着を考慮すると過酸化物系開始剤が好ましい。過酸化物系開始剤としては、ジベンゾイルパーオキサイド、ジトルオイルパーオキサイド、ジ-(4-メチルベンゾイル)パーオキサイド、ジ(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、ジイソブチルパーオキサイド等のパーオキサイド類が例示される。これらは、単独又は2種以上使用してもよい。
【0024】
(B)熱硬化性成分は、液状(メタ)アクリル酸エステルを主原料として構成される。液状(メタ)アクリル酸エステルとしては、アルキル変性2または3官能(メタ)アクリル酸エステル、エチレングリコール変性2または3官能(メタ)アクリル酸エステル、ポリエステル変性2または3官能(メタ)アクリル酸エステル等に例示される多官能(メタ)アクリル酸エステル、メチル(メタ)アクリル酸エステル、エチル(メタ)アクリル酸エステル、アダマンチル(メタ)アクリル酸エステル、ヒドロキシエチル(メタ)アクリル酸エステル等の単官能(メタ)アクリル酸エステルが例示される。これらの中で、エチレングリコール変性2または3官能(メタ)アクリル酸エステルを用いることが特に好ましい。これら多官能(メタ)アクリル酸エステル、単官能(メタ)アクリル酸エステルは単独で用いても2種以上混合して用いても差し支えない。
【0025】
(b1)リン含有アクリル酸エステルとしては、モノ(2-アクリロイルオキシエチル)アッシドホスフェート、モノ(2-アクリロイルオキシプロピル)アッシドホスフェート、モノ(2-アクリロイルオキシエブチル)アッシドホスフェート等が例示される。リン含有アクリル酸エステルは、配合することにより、金属等の無機物表面での接着量が向上するという優れた面をもっている。配合量としては、膜成分を構成する樹脂及び液状(メタ)アクリル酸エステルの合計60重量部に対して0.01〜0.5重量部であることが好ましく、さらに好ましくは0.03〜0.1重量部である。0.01重量部より少ないと、水酸基を含有するアクリルゴムの溶解性が十分ではなくなり、0.5重量部より多いと接着強度が低下してしまう。
【0026】
(C)水酸基を含有するアクリルゴムは、アルコール水酸基含有アクリル酸エステル、カルボキシル基含有アクリル酸エステルを原料として構成される。分子量としては、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)による測定において、重量平均分子量が100万以上であり、更に好ましくは120万以上である。重量平均分子量が100万以下の場合、十分な接着強度が得られないことがある。配合量としては、膜成分を構成する樹脂及び液状(メタ)アクリル酸エステルの合計60重量部に対し1〜10重量部、さらに好ましくは2〜8重量部である。1重量部より少ないと接着強度が得られない場合があり、10重量部より多いと液状(メタ)アクリル酸エステルに不溶化することがある。
【0027】
(D)有機微粒子としては、ポリブタジエン系微粒子、ポリスチレン系微粒子、ポリアクリレート系微粒子、ポリオレフィン系微粒子等が例示される。その中で(d1)ポリブタジエン系微粒子が最も好ましい。
【0028】
(E)導電性粒子としては、従来より、異方導電性フィルムにおいて用いられている導電性粒子を使用することができる。例えば、ニッケル粒子、金粒子、半田粒子、これらの金属で被覆された樹脂粒子等が挙げられる。これらの表面を絶縁被覆してもよい。これらの導電性粒子の粒子径は、通常、2〜10μm、好ましくは3〜5μmである。また、導電性粒子の配合量としては、(この導電性粒子を含めた)異方導電性フィルムの全体の体積を100%としたときの、この導電性粒子の体積が1〜50%、好ましくは1〜30%である。1体積%よりも少ないと導電性が得られず、50体積%よりも多いと接続端子間の絶縁性を維持できないことがある。
【0029】
(F)フェノキシ樹脂としては、重量平均分子量10,000から120,000のものが使用できるが、その中で重量平均分子量40,000から60,000のものが最も好ましい。
【0030】
本発明を適用した異方導電性フィルムの熱硬化型アクリル樹脂組成物には、金属に対する密着性向上のために、シランカップリング剤を含有させることもできる。シランカップリング剤の含有量は、樹脂組成物中の(A)熱硬化剤、(B)熱硬化性成分及び(C)水酸基を含有するアクリルゴムを重合して硬化した全成分35重量部に対し、少なすぎると所定の効果が得られず、多すぎると塗布性が低下するので、好ましくは0.5〜5重量部、より好ましくは1〜3重量部である。
【0031】
(C)水酸基を含有するアクリルゴム、(b1)リン含有アクリル酸エステル、及び(d1)ポリブタジエン系微粒子の重量を、それぞれX,Y,およびZとした場合に、それら3成分の重量比を、X:Y:Z=2:0.05:10〜8:0.05:16とすることにより、高い接着強度(6N/cm以上)を得ることができ、上述のように構成され3成分の重量比を適切に調整された異方導電性フィルムは、応力が緩和された状態で、6N/cm以上の高い接着強度を得ることができる。
【0032】
以上のように構成された本発明を適用した異方導電性フィルムは、熱硬化型アクリル樹脂組成物からなる異方導電性フィルムであって、当該組成物が、少なくとも(A)熱硬化剤、(B)熱硬化性成分、(C)水酸基を含有するアクリルゴム、(D)有機微粒子、及び(E)導電性粒子を含み、(B)熱硬化性成分には、(b1)リン含有アクリル酸エステルを含み、(C)水酸基を含有するアクリルゴムの重量平均分子量が100万以上であり、(D)有機微粒子には、(d1)ポリブタジエン系微粒子を含むことにより、応力を緩和させた状態で、高い接着強度を得ることを可能とする。
【0033】
すなわち、本発明は、熱硬化型のアクリル樹脂組成物からなる異方導電性フィルムにおいて、従来、熱硬化性成分の混和性(相溶性)を考慮して重量平均分子量100万以上の水酸基を含有するアクリルゴムを配合することを試みたが、他の成分との混和性が十分ではなかったことに鑑みて、鋭意研究の結果、熱硬化性成分としてリン含有アクリル酸エステルを配合させ、次いで、微粒子状態のポリブタジエンゴムを混合させることにより、アクリル樹脂組成物内において、高分子量のアクリルゴムを混和させることを可能とすることを見出し、これにより、上述のような応力を緩和させた状態で、高い接着強度を得ることができるという効果を有する異方導電性フィルムを提供することを可能とするものである。
【0034】
また、本発明を適用した異方導電性フィルムは、(C)水酸基を有するアクリルゴム、(b1)リン含有アクリル酸エステル、及び(d1)ポリブタジエン系微粒子の重量を、それぞれX,Y,及びZとした場合に、それら3成分の重量比が、X:Y:Z=2:0.05:10〜8:0.05:16であるように構成することにより、応力が緩和された状態で、高い接着強度(6N/cm以上)を得ることを可能とする。
【0035】
さらに、本発明を適用した異方導電性フィルムは、さらに、(F)フェノキシ樹脂を配合することにより、異方導電性フィルムの成膜性を改善することを可能とする。
【0036】
また、本発明を適用した接続構造体2は、図1に示すように、上述のように構成された異方導電性フィルム1により、電極パターンが形成された基板3と、電子部品4とを接続して構成されている。
【0037】
このように、本発明を適用した接続構造体は、上述したように、応力を緩和させた状態で、高い接着強度を得る異方導電性フィルムにより、ITOからなる電極パターンが形成された基板と、電子部品とを接続してなることにより、基板と電子部品との良好な接続性を確保でき、長期間にわたり接続の信頼性を高めることを可能とする。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の異方導電性フィルムを実施例により具体的に説明する。ここでは、表1に示すように、本発明の実施例とともに、これと比較するための比較例として比較例1〜5を用いて説明する。
【0039】
実施例では、溶剤としてメチルエチルケトン(MEK)を用い、この溶剤の100重量部に対して、表1に示す割合(重量部)でフェノキシ樹脂、液状アクリル酸エステル、過酸化物系開始剤、水酸基を含有するアクリルゴム、リン含有アクリル酸エステル、ポリブタジエン系微粒子、シランカップリング剤及び導電性粒子を加えて混合機を用いて混合し、その組成物を厚さ50μmの剥離処理済みポリエチレンテレフタレートフィルムにバーコーターを用いて塗布し、80℃5分乾燥し、20μm厚の異方導電性フィルムを作製した。また、比較例1〜5では、実施例に対して表1に示すように組成物を変更して用いたことを除いて、実施例と同様として作製した。実施例及び比較例1〜5において、配合物の相溶性、接着強度は以下のようにして測定した。
【0040】
【表1】

【0041】
(1)相溶性
表1により配合した組成物を目視で評価した。水酸基を含有するアクリルゴムが溶解し、完全に分散された状態を○、水酸基を含有するアクリルゴムが一部溶解しない場合を△、水酸基を含有するアクリルゴムが不溶の場合を×とした。
【0042】
実施例、比較例3及び4において明らかなように、重量平均分子量100万以上の水酸基を含有するアクリルゴムを相溶させるためには、リン含有アクリル酸エステル及び有機微粒子の存在が不可欠である。表1に記載のように、重量平均分子量100万以上の水酸基を含有するアクリルゴムを相溶させるためには、リン含有アクリル酸エステル、有機微粒子が所定量配合されていることが必要である。リン含有アクリル酸エステル、有機微粒子の一方が存在しない場合には、重量平均分子量100万以上の水酸基を含有するアクリルゴムを相溶させることはできなかった(比較例3,4)。
【0043】
比較例5では、有機微粒子を実施例の1/2としたが、水酸基を含有するアクリルゴムは完全には相溶しなかった。よって、有機微粒子は、水酸基を含有するアクリルゴム5重量部に対し10重量部以上必要であることが分かった。実施例では、水酸基を含有するアクリルゴム5重量部に対し有機微粒子を10重量部用いることにより、水酸基を含有するアクリルゴムが相溶することを確認できた。
【0044】
(2)接着強度
表1の配合比からなる異方導電性フィルムを各々0.7mm厚のガラスにITO膜を付けたITOガラスに仮設置した。続けて50μmピッチのFPC(フレキシブルプリント配線板)と上述のITOガラスを、異方導電性フィルムを介して接着させ、加熱・加圧圧着させた(ツール温度:160℃、圧力:4MPa、圧着時間:4秒)。圧着させたFPCを幅10mmに切断し、FPCの端部をITOガラス面に対して90°方向に引張り試験機(テンシオロン、オリエンテック社製)を用いて引き上げ、接着強度を測定した。接着強度については、表1に示す。
【0045】
比較例1,2では、実施例に比べて水酸基を含有するアクリルゴムの分子量が低い例を示す。分子量が低いと、被着体界面と異方導電性フィルムとの分子間における凝集力が低下し接着強度が低下したものと考えられる。分子量が低い水酸基を含有するアクリルゴムを用いると異方導電性フィルム内における水酸基を含有するアクリルゴムのネットワークが短くなることも原因と考えられる。尚、水酸基を含有するアクリルゴムとして実施例等で用いられるテイサンレジンSG−600LBの分子量Mwは、120万であり、比較例1で用いられるテイサンレジンSG−280の分子量Mwは、90万であり、比較例2で用いられるテイサンレジンSG−790の分子量Mwは、52万である。
【0046】
一方、表1により水酸基を含有するアクリルゴムの分子量が増すに従って接着力が増加していることが分かる(実施例、比較例1、比較例2)。水酸基を含有するアクリルゴムの分子量が増加することにより、異方導電性フィルム内における水酸基を含有するアクリルゴムのネットワークが発達し、被着体と異方導電性フィルム間の凝集力が増加したと考えられる。結果として、水酸基を含有するアクリルゴムの重量平均分子量が100万以上になると高い接着力を示したと考えられる。異方導電性フィルムにおける接着力の実用的な値が6N/cm以上であることから、6N/cm以上を得るには水酸基を含有するアクリルゴムの分子量が100万以上必要であることがわかる。
【0047】
比較例3〜5については、水酸基を含有するアクリルゴムが完全には相溶せず異方導電性フィルムとならず、接着強度を測定するには至らなかった。
【0048】
以上のように、本発明の実施例の異方導電性フィルムは、熱硬化性成分としてリン含有アクリル酸エステルを含むとともに、微粒子状態のポリブタジエンゴムを含むことによりアクリル樹脂組成物内において、高分子量のアクリルゴムを混和させることを可能とし、これにより、重量平均分子量100万以上の水酸基を含有するアクリルゴムを含有させることを可能として、応力を緩和させた状態で、高い接着強度を得ることを可能とする。
【0049】
上述のように、本発明によれば、従来溶解困難であった分子量100万以上の水酸基を含有するアクリルゴムを溶解させる手法を見出し、異方導電性フィルムを製作するに至った。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係る異方導電性フィルムは、応力を緩和させた状態で、接着強度を高めることが可能であり、各種電気・電子用の回路接続材料として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明を適用した異方導電性フィルムを用いた接続構造体の断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 異方導電性フィルム、 2 接続構造体、 3基板、 4 電子部品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化型アクリル樹脂組成物からなる異方導電性フィルムにおいて、当該組成物が、少なくとも(A)熱硬化剤、(B)熱硬化性成分、(C)水酸基を含有するアクリルゴム、(D)有機微粒子、及び(E)導電性粒子を含み、
上記(B)熱硬化性成分には、(b1)リン含有アクリル酸エステルを含み、
上記(C)水酸基を含有するアクリルゴムの重量平均分子量が100万以上であり、
上記(D)有機微粒子には、(d1)ポリブタジエン系微粒子を含む異方導電性フィルム。
【請求項2】
上記(C)水酸基を含有するアクリルゴム、上記(b1)リン含有アクリル酸エステル、及び上記(d1)ポリブタジエン系微粒子の重量を、それぞれX,Y,及びZとした場合に、それら3成分の重量比が、X:Y:Z=2:0.05:10〜8:0.05:16である請求項1記載の異方導電性フィルム。
【請求項3】
さらに、(F)フェノキシ樹脂を含む請求項1に記載の異方導電性フィルム。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の異方導電性フィルムにより、電極パターンが形成された基板と、電子部品とを接続してなる接続構造体。

【図1】
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【公開番号】特開2008−274019(P2008−274019A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115929(P2007−115929)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】