説明

異方性導電膜の製造方法

【課題】異方性導電膜の膜面方向の絶縁性および/または膜厚方向の導通性を向上させることが可能な異方性導電膜の製造方法を提供すること。
【解決手段】膜厚方向に貫通した多数の孔部を有し、孔部はハニカム状に配列されるとともに孔部の内壁面は外側方向に湾曲されている、高分子よりなる多孔質膜を形成する工程と、膜を形成する高分子のガラス転移温度近傍まで多孔質膜を加熱する工程と、多孔質膜の孔部内に導電性物質を充填する工程と、多孔質膜の両面に接着層を被覆する工程とを含んだ異方性導電膜の製造方法とする。多孔質膜の形成には、水と混ざらず、揮発する有機溶媒中に高分子を溶かし、この高分子溶液をキャストした支持基板を、高湿度条件下に存在させる手法などを好適に用いる。また、多孔質膜を加熱する工程では、さらに、膜厚方向に多孔質膜を加圧すると良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方性導電膜の製造方法に関し、さらに詳しくは、狭い導体間隔を持つ電子部品および基板の接続などに好適に用いられる異方性導電膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高機能化、小型化などに伴い、狭ピッチに配列された複数の導体間を電気的に接続する必要性が増大している。このような必要性が生ずる場合としては、例えば、液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display:LCD)の分野において、TCP(Tape Carrier Package)に駆動用ICを搭載したTAB(Tape Automated Bonding)の電極と液晶パネルの電極とを接続する場合や、液晶パネルのガラス基板上に駆動用ICを直接接続する(Chip On Glass:COG)場合などが挙げられる。
【0003】
上記接続においては、一般に、膜厚方向に導電性を示し、かつ、膜面方向に絶縁性を示す異方性導電膜(Anisotropic Conductive Film:ACF)が多用されている。
【0004】
この種の異方性導電膜としては、例えば、膜状に形成された接着性樹脂中に、樹脂めっき粒子などの導電性粒子を分散させた異方性導電膜が広く知られている。他にも、例えば、特許文献1には、熱可塑性膜の両面に水溶性膜を設け、膜厚方向に貫通させた孔部内に導電性物質を充填させた異方性導電膜が開示されている。
【0005】
ところで最近、電子部品の小型化などにより、被接続物の導体ピッチは一層狭ピッチ化されてきている。そのため、これに合わせて、異方性導電膜も狭ピッチ化に対応することが求められている。
【0006】
しかしながら、前者のタイプの異方性導電膜の場合、被接続物が有する導体の高さばらつき以上に導電性粒子を小径化すると、膜厚方向の導通を確保することが難しくなる。また、膜厚方向の導通を確保するため、小径化した導電性粒子を樹脂中に高密度に分散させると、膜面方向の絶縁性を確保することが難しくなる。したがって、何れにしても異方性導電膜の信頼性が低下するといった問題があった。
【0007】
一方、後者のタイプの異方導電性膜の場合、膜厚方向に微小な貫通孔を多数設けるため、X線やSR(シンクロトロン放射光)などを用いる必要がある。そのため、製造コストが高くなり、長尺物の量産性も乏しいといった問題があった。
【0008】
そこで、本発明者らは、上記事情に鑑み、膜厚方向に貫通した多数の孔部を有し、孔部はハニカム状に配列されるとともに、孔部の内壁面は外側方向に湾曲されている、高分子よりなる多孔質膜を用い、この多孔質膜の孔部に導電性物質を充填した後、その膜の両面に接着層を被覆する異方性導電膜の製造方法を既に提案している(特許文献2参照)。
【0009】
この製造方法において、上記多孔質膜の形成には、例えば、水と混ざらず、揮発する有機溶媒中に高分子を溶かし、この高分子溶液をキャストした支持基板を、高湿度の大気条件下に存在させる手法などを好適に用いることができる。
【0010】
この手法を用いた場合、次の原理により、上記立体構造を有する多孔質膜が自発的に形成される。
【0011】
すなわち、図11に示すように、1)有機溶媒が蒸発する際の潜熱によって空気中の水分子が結露して微小な水滴26となり、高分子溶液28の表面上で細密にパッキングする。2)さらに潜熱によって高分子溶液28内に生じた対流やキャピラリーフォースにより、高分子溶液28と支持基板30との界面まで水滴26が輸送される。3)有機溶媒の後退により支持基板30上に水滴26が固定される。4)さらに水滴26が蒸発する。これにより、規則的にハニカム状に配列した水滴26を鋳型として、図1に示すような、ハニカム状に配列された多数の孔部18を有し、孔部18の内壁面22が外側方向に湾曲されている、高分子よりなる多孔質膜12が形成される。
【0012】
したがって、このような手法により形成した多孔質膜を用いて異方性導電膜を製造した場合には、被接続物のさらなる狭ピッチ化に対応可能な異方性導電膜を安価に製造することができるなどといった利点がある。
【0013】
【特許文献1】特開平8−273442号
【特許文献2】特願2004−097384
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上記異方性導電膜の製造方法は、以下の点において未だ改良の余地が残されていた。以下、図1および図11を参照して説明する。
【0015】
先ず、第1に、上記手法による多孔質膜12において、隣接する各孔部18同士の間に位置する隔壁20は、隣接する水滴26同士の隙間に入り込んだ高分子溶液28により形成される。
【0016】
そのため、水滴26と水滴26とが最も近接する膜厚中央付近では、特に、上記隔壁20が薄くなる傾向がある。場合によっては、隣接する孔部18同士が部分的に連通してしまうこともあり得る(以下、隔壁20のうち、膜厚中央付近の肉厚の薄い部分を、「くびれ部20a」と称する。)。
【0017】
したがって、上記手法により得られた多孔質膜をそのまま用い、その孔部に導電性物質を充填した場合には、くびれ部に存在する連通孔を介して、隣接する孔部内の導電性物質同士が導通し、異方性導電膜の膜面方向の絶縁性が低下する場合があった。
【0018】
また、第2に、上記手法による膜形成過程では、高分子溶液28の表面上に結露した水滴26は、浮島状に密集する。そして、この浮島状に密集した水滴26の群が、高分子溶液28と支持基板30との界面まで輸送されてくる。
【0019】
そのため、浮島状に密集した水滴26の群同士がぶつかり合った境界近辺に、膜厚方向の段差ないし凹凸が生じる傾向があった。
【0020】
したがって、このような膜表面に段差を有する多孔質膜をそのまま用いた場合には、孔部に導電性物質が均一に充填され難いことがあり、異方性導電膜の膜厚方向の導通性が低下する場合があった。
【0021】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、異方性導電膜の膜面方向の絶縁性および/または膜厚方向の導通性を向上させることが可能な異方性導電膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するため、本発明に係る異方性導電膜の製造方法は、膜厚方向に貫通した多数の孔部を有し、孔部はハニカム状に配列されるとともに孔部の内壁面は外側方向に湾曲されている、高分子よりなる多孔質膜を形成する工程と、膜を形成する高分子のガラス転移温度近傍まで多孔質膜を加熱する工程と、多孔質膜の孔部内に導電性物質を充填する工程と、多孔質膜の両面に接着層を被覆する工程とを含むことを要旨とする。
【0023】
この際、上記多孔質膜を加熱する工程において、さらに、膜厚方向に多孔質膜を加圧することが好ましい。
【0024】
ここで、上記多孔質膜の形成は、疎水性および揮発性を有する有機溶媒と、この有機溶媒に可溶な高分子と、両親媒性物質とを少なくとも含む高分子溶液、あるいは、疎水性および揮発性を有する有機溶媒と、両親媒性高分子とを少なくとも含む高分子溶液をキャストした支持基板を相対湿度50%以上の大気下に存在させることによると良い。
【0025】
また、本発明に係る異方性導電膜の製造方法において、上記導電性物質は、導電性粒子の群よりなることが好ましい。導電性粒子としては、金属粒子などを好適に用いることができる。
【0026】
また、本発明に係る異方性導電膜の製造方法において、上記接着層は、熱硬化性樹脂を半硬化状態としたプリプレグであることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る異方性導電膜の製造方法では、その孔部の内壁面が外側方向に湾曲されている、高分子よりなる多孔質膜を形成した後、膜を形成する高分子のガラス転移温度近傍まで多孔質膜が加熱される。
【0028】
これにより、多孔質膜の隔壁のうち、肉厚の薄いくびれ部がいち早く軟化・溶融し、くびれ部に存在することがある膜面方向の連通孔が潰される。そのため、隣接する各孔部間の独立性が増大する。
【0029】
その後、この多孔質膜の孔部に導電性物質が充填されるので、膜面方向の絶縁性が従来よりも向上する。
【0030】
したがって、本発明に係る異方性導電膜の製造方法によれば、得られる異方性導電膜における膜面方向の絶縁性を向上させることができる。
【0031】
ここで、多孔質膜を加熱する工程において、さらに、膜厚方向に多孔質膜を加圧した場合には、くびれ部に存在することがある膜面方向の連通孔が潰され易くなるので、隣接する各孔部間を独立化させ易い。
【0032】
したがって、この場合には、得られる異方性導電膜における膜面方向の絶縁性を一層向上させることができる。
【0033】
さらに、上記に加えて、多孔質膜が加熱・加圧されることにより、膜形成過程において生じた、多孔質膜表面の段差ないし凹凸が均一化される。
【0034】
そのため、膜形成工程後の導電性物質の充填工程において、多孔質膜の孔部に導電性物質が均一に充填され易くなる。
【0035】
したがって、この場合には、得られる異方性導電膜における膜厚方向の導通性も向上させることができる。すなわち、膜形成後、多孔質膜を加熱・加圧した場合には、得られる異方性導電膜の膜面方向の絶縁性および膜厚方向の導通性の両者を向上させることができるので、異方導電性の信頼性に優れた異方性導電膜が得られる。
【0036】
この際、上記多孔質膜の形成を、疎水性および揮発性を有する有機溶媒と、この有機溶媒に可溶な高分子と、両親媒性物質とを少なくとも含む高分子溶液、あるいは、疎水性および揮発性を有する有機溶媒と、両親媒性高分子とを少なくとも含む高分子溶液をキャストした支持基板を相対湿度50%以上の大気下に存在させることによって行った場合には、膜厚方向に貫通した多数の孔部を有し、孔部はハニカム状に配列されるとともに孔部の内壁面は外側方向に湾曲されている、高分子よりなる多孔質膜を簡単に形成できる。そのため、被接続物の狭ピッチ化に対応し易い異方性導電膜を安価に製造することができる。
【0037】
また、本発明に係る異方性導電膜の製造方法において、導電性物質として導電性粒子の群を用いた場合には、孔部内に導電性粒子を均一に充填させ易いので、膜厚方向の導通に優れた異方性導電膜を得やすくなる。
【0038】
また、本発明に係る異方性導電膜の製造方法において、接着層が、熱硬化性樹脂を半硬化状態としたプリプレグである場合には、被接続物が有する導体間の隙間部分に接着層が流動排除され易く、また、被接続部との密着性も高まり、高い接続信頼性を確保することが可能な異方性導電膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
本実施形態に係る異方性導電膜の製造方法(以下、「本製造方法」ということがある。)は、膜形成工程と、膜加熱工程と、導電性物質充填工程と、接着層被覆工程とを少なくとも含んでいる。以下、本製造方法を、各工程毎に詳細に説明する。
【0040】
1.膜形成工程
本製造方法において、膜形成工程は、特定の立体構造を有する、高分子よりなる多孔質膜を形成する工程である。
【0041】
図1(a)(b)に示すように、上記膜形成工程にて形成される多孔質膜12は、膜厚方向に貫通した多数の孔部18を有している。これら孔部18は、ハニカム状に配列されており、隣接する各孔部18同士は、隔壁20により離間されている。また、これら孔部18の内壁面22は、外側方向に向かって略球面状に湾曲されている。そのため、隔壁20は、隣接する各孔部18の内壁面22が最も近接する膜厚中央付近に、膜表面付近よりも肉厚の薄いくびれ部20aを有している。
【0042】
上記多孔質膜を形成する高分子としては、具体的には、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリアミドイミド、シロキサン変性ポリイミド、シロキサン変性ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエステル、ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂などが挙げられ、これらは1種または2種以上混合されていても良い。
【0043】
この内、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリアミドイミド、シロキサン変性ポリイミド、シロキサン変性ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトンは、耐熱性に優れるため好適に用いることができる。
【0044】
上記特定の立体構造を有する多孔質膜において、その孔部の径および間隔は、被接続物(例えば、ICチップ、フレキシブルプリント配線板:FPCなど)が有する複数の導体(例えば、突起電極、配線パターンなど)の幅や間隔などを考慮して決定すれば良く、特に限定されるものではない。
【0045】
もっとも、高い接続信頼性を得るなどの観点から、孔部の径は、被接続物が有する複数の導体の間隔のうち、最も狭いものよりも小さく、かつ、孔部の間隔は、被接続物が有する複数の導体の幅のうち、最も狭いものよりも小さいことが望ましい。
【0046】
好ましくは、孔部の径は、被接続物が有する複数の導体の間隔のうち、最も狭いものの1/2以下、かつ、孔部の間隔は、被接続物が有する複数の導体の幅のうち、最も狭いものの1/2以下とするのが良い。
【0047】
なお、図1(b)に示すように、孔部の径とは、膜表面または裏面に表れる孔部の開口部分の直径Rを測定して平均した値をいい、孔部の間隔とは、膜表面または裏面に表れる孔部の開口部分と隣接する孔部の開口部分との間の距離Lを測定して平均した値をいう。また、上記直径Rおよび距離Lは、多孔質膜表面の電子顕微鏡写真、光学顕微鏡写真などにより測定すれば良い。
【0048】
また、上記特定の立体構造を有する多孔質膜において、その厚さは、製造する異方性導電膜の機械的強度、耐電圧性などを考慮して決定すれば良い。好ましくは、1〜100μm、より好ましくは、5〜50μmの範囲内にあるのが良い。
【0049】
このような多孔質膜を形成する具体的な手法としては、例えば、疎水性および揮発性を有する有機溶媒と、この有機溶媒に可溶な高分子と、両親媒性物質とを少なくとも含む高分子溶液をキャストした支持基板を相対湿度50%以上の大気下に存在させる手法などを好適に用いることができる。この手法を用いた場合には、上記特定の立体構造を有する多孔質膜を簡単に形成することができるので、異方性導電膜を安価に製造できる利点がある。
【0050】
この手法を用いる場合、上記疎水性および揮発性を有する有機溶媒としては、クロロホルム、塩化メチレンなどのハロゲン化物、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、酸化エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、メチルエチルケトン(MEK)、アセトンなどのケトン類などが挙げられ、これらは1種または2種以上混合して用いても良い。
【0051】
また、上記有機溶媒に可溶な高分子としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、シロキサン変性ポリイミド、シロキサン変性ポリアミドイミドなどが挙げられ、これらは1種または2種以上混合して用いても良い。なお、ポリイミド、ポリアミドイミドを用いる場合、シロキサンにより変性するのは、上記有機溶媒への溶解性を向上させるためである。
【0052】
また、上記両親媒性物質とは、いわゆる、界面活性剤のことであり、疎水的な部位と親水的な部位とを合わせ持った化合物をいう。この両親媒性物質は、主に、高分子溶液の表面上に生じる水滴群を安定化させるなどの目的で添加される。なお、水滴群が安定化するのは、両親媒性物質の疎水部が疎水性有機溶媒となじみ、これにより生じた逆ミセルの空間部分に水が保持され易いためと推測される。
【0053】
このような両親媒性物質としては、具体的には、親水性のアクリルアミドポリマーを主鎖骨格とし、疎水性側鎖としてドデシル基、親水性側鎖としてラクトース基もしくはカルボキシル基を併せもつポリマー、または、ヘパリンやデキストラン硫酸などのアニオン性多糖と4級の長鎖アルキルアンモニウム塩とのポリイオン性錯体などが挙げられ、これらは1種または2種以上混合して用いても良い。
【0054】
この際、上記高分子溶液に含まれる高分子の濃度は、0.1〜50重量%、好ましくは、0.1〜10重量%の範囲内にあることが好ましい。
【0055】
高分子の濃度がこの範囲内にあれば、十分な機械的強度を有する多孔質膜が得られるし、また、十分なハニカム構造が得られるからである。
【0056】
また、上記高分子溶液に含まれる両親媒性物質は、上記高分子に対して、0.01〜20重量%、好ましくは、0.05〜10重量%の範囲内で添加されることが好ましい。
【0057】
両親媒性物質がこの範囲内で添加されておれば、ハニカム構造が安定して得られるからである。
【0058】
他にも、上記手法において、上述した高分子溶液に代えて、疎水性および揮発性を有する有機溶媒と、両親媒性高分子とを少なくとも含む高分子溶液を用いても、上記特定の立体構造を有する多孔質膜を簡単に形成することができる。
【0059】
ここで、両親媒性高分子とは、疎水的な部位と親水的な部位とを合わせ持った高分子をいう。
【0060】
このような両親媒性高分子としては、具体的には、主鎖および/または側鎖に−SOH基、−COOH基などの親水性基を導入したポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミドなどの高分子とカチオン性脂質とのポリイオン性錯体、ポリアミック酸とカチオン性脂質とのポリイオン性錯体などが挙げられ、これらは1種または2種以上混合して用いても良い。
【0061】
上記において、ポリアミック酸とは、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを極性溶媒中で重合させて得られる樹脂組成物である。
【0062】
上記ポリアミック酸としては、3,3’4、4’−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’4,4’−ビフェニルエ−テルテトラカルボン酸、3、3’4、4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸、3、3’4、4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2、2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、1、1、1、3、3、3−ヘキサフルオロ−2、2−ビス(3、4ジカルボキシフェニル)プロパン、ビス(3、4ジアルボキシフェニル)テトラメチルジシロキサなどのビフェニル構造を有するテトラカルボン酸およびこれらの二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸、1、2、3、4−シクロペンタンテトラカルボン酸、2、3、4、5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸、1、2、4、5−シクロヘキサンテトラカルボン酸、3、4−ジカルボキシ−1−シクロヘキシルコハク酸、3、4−ジカルボキシ−1、2、3、4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸などの脂環式テトラカルボン酸およびこれらの二無水物、ピロメリット酸、2、3、6、7−ナフタレンテトラカルボン酸、1、2、5、6−ナフタレンテトラカルボン酸、1、4、5、8−ナフタレンテトラカルボン酸、2、3、6、7−アントラセンテトラカルボン酸、1、2、5、6−アントラセンテトラカルボン酸、2、3、4、5、−ピリジンテトラカルボン酸、2、6−ビス(3、4−ジカルボキシフェニル)ピリジンなどの芳香族テトラカルボン酸およびこれらの二無水物、ピロメサート酸、トリメリート酸などが挙げられ、これらは1種または2種以上混合して使用しても良い。
【0063】
また、上記ジアミン化合物としては、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2、5−ジアミノトルエン、2、6−ジアミノトルエン、4、4−ジアミノビフェニル、3、3’−ジメチル−4、4’−ジアミノビフェニル、3、3’−ジメトキシ−4、4’−ジアミノビフェニル、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエ−テル、2、2’−ジアミノジフェニルプロパン、ビス(3、5−ジエチル4−アミノフェニル)メタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノベンゾフェノン、ジアミノナフタレン、1、4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1、4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、9、10−ビス(4−アミノフェニル)アントラセン、1、3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4、4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、2、2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2、2’−トリフルオロメチル−4、4’−ジアミノビフェニル、4、4’−ビス(4−ジアミノフェノキシ)オクタフルオロビフェニルなどの芳香族ジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタンなどの脂環式ジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン、ジアミノシロキサンなどが挙げられ、これらは1種または2種以上混合して使用しても良い。
【0064】
また、カチオン性脂質としては、炭素数4以上の脂肪族アンモニウム塩化合物、脂環式アンモニウム塩化合物などが挙げられる。
【0065】
具体的には、オクチルアミン、デシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、ドコシルアミン、シクロヘキシルアミンなどの第一アミン類の塩、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジデシルアミン、ジテトラデシルアミン、ジヘキサデシルアミン、ジステアリルアミン、ジドコシルアミン、N−メチルオクチルアミン、N−メチル−n−デシルアミン、N−メチル−n−テトラデシルアミン、N−メチル−n−ヘキサデシルアミン、N−メチル−n−オクタデシルアミン、N−メチル−n−エイコシルアミン、N−メチル−n−ドコシルアミン、N−メチル−n−シクロヘキシルアミンなどの第2アミン類の塩、N,N−ジメチルオクチルアミン、N,N−ジメチル−n−デシルアミン、N,N−ジメチル−n−テトラデシルアミン、N,N−ジメチル−n−ヘキサデシルアミン、N,N−ジメチル−n−オクタデシルアミン、N,N−ジメチル−n−エイコシルアミン、N,N−ジメチル−n−ドコシルアミン、N,N−ジメチル−n−シクロヘキシルアミンなどの第3アミン類の塩、ジメチルジオクチルアミン、ジメチルジデシルアミン、ジメチルジテトラデシルアミン、ジメチルジヘキサデシルアミン、ジメチルジオクタデシルアミン、ジメチルジエイコシルアミン、ジメチルジドコシルアミン、ジメチルジシクロヘキシルアミンなどの第4アミン類の塩などが挙げられ、これらは1種または2種以上混合して使用しても良い。
【0066】
上記ポリアミック酸とカチオン性脂質とのポリイオン性錯体は、ポリアミック酸を塩基により中和したものを含む溶液にカチオン性脂質、または、上記アミック酸の重合に用いることができる有機溶媒に溶解させたカチオン性脂質の溶液を配合することなどにより得れば良い。
【0067】
また、ポリアミック酸とカチオン性脂質とのポリイオン性錯体を用いた場合には、膜形成後、その形成された膜を、既知の手法によりイミド化するのが好ましい。ポリアミック酸を閉環してポリイミドからなる多孔質膜とするためである。
【0068】
この際、上記高分子溶液に含まれる両親媒性高分子の濃度は、0.1〜50重量%、好ましくは、0.1〜10重量%の範囲内にあることが好ましい。
【0069】
両親媒性高分子の濃度がこの範囲内にあれば、十分な機械的強度を有する多孔質膜が得られるし、また、十分なハニカム構造が得られるからである。
【0070】
なお、疎水性および揮発性を有する有機溶媒については、上述したものと同様であるので説明は省略する。
【0071】
これらの手法を用いる場合、上述した高分子溶液をキャストする支持基板の材料としては、ガラス、金属、シリコンウェハーなどの無機材料、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエーテルケトン、フッ素樹脂などの高分子材料、水、流動パラフィンなどを用いることができる。
【0072】
また、高分子溶液のキャスト量は、多孔質膜の孔部の径が、被接続物が有する複数の導体の間隔のうち、最も狭いものよりも小さく、かつ、孔部の間隔が、被接続物が有する複数の導体の幅のうち、最も狭いものよりも小さくなるようにするなど、適宜調節すれば良い。
【0073】
具体的には、高分子溶液のキャスト量は、塗布厚が50〜3500μm、好ましくは、150〜2000μmの範囲内にあることが好ましい。
【0074】
また、高分子溶液をキャストした支持基板は、相対湿度50%〜95%の大気下に存在させることが望ましい。相対湿度が50%未満では、結露が不十分となる傾向が見られ、95%を越えると、環境の制御が難しくなる傾向が見られるからである。
【0075】
なお、これらの手法では、相対湿度50%〜95%の大気下中で高分子溶液を支持基板上にキャストしても良いし、予め高分子溶液をキャストした支持基板を相対湿度50%〜95%の大気下に置いても良い。また、相対湿度50%〜95%の大気は、高分子溶液に吹きかけても良い。
【0076】
また、有機溶媒の蒸発や、高分子溶液表面に配列された水滴群の蒸発を促進させるため、多孔質膜の形成に影響を及ぼさない程度で加熱、乾燥などを行っても良い。
【0077】
2.膜加熱工程
本製造方法において、膜加熱工程は、上記膜形成工程にて形成された多孔質膜を加熱する工程である。
【0078】
この膜加熱工程において、多孔質膜は、その膜を形成する高分子のガラス転移温度近傍まで加熱される。ここで、本願において「ガラス転移温度近傍」と規定しているのは、多孔質膜の隔壁のうち、くびれ部が軟化・溶融されることにより、くびれ部に存在することがある膜面方向の連通孔を潰すことができる温度範囲に多孔質膜が加熱されれば良いという趣旨である。
【0079】
したがって、上記趣旨が損なわれない範囲で、膜を形成する高分子のガラス転移温度を中心にして、その前後の温度範囲まで多孔質膜を加熱することが可能である。
【0080】
もっとも、多孔質膜を形成する高分子のガラス転移温度より過度に高温であると、多孔質膜自体が溶けてしまうなど、膜の立体構造がくずれてしまう場合があるので好ましくない。一方、多孔質膜を形成する高分子のガラス転移温度より過度に低温であると、くびれ部に存在することがある膜面方向の連通孔が十分に潰されない場合があるので好ましくない。
【0081】
また、多孔質膜を加熱する時間は、上記温度範囲などとの兼ね合いで、適宜調整することが可能である。多孔質膜を加熱する時間が過度に長すぎると、膜の立体構造がくずれてしまう場合があるので好ましくない。一方、多孔質膜を加熱する時間が過度に短すぎると、くびれ部に存在することがある膜面方向の連通孔が十分に潰されない場合があるので好ましくない。
【0082】
なお、上記連通孔は、可能な限り、閉塞状態となるまで潰されていることが、膜面方向の絶縁信頼性上好ましいが、孔部内に充填される導電性物質が連通孔に侵入できない程度まで潰されておれば、本膜加熱工程の目的は達せられる。
【0083】
多孔質膜を加熱する方法としては、接触式、非接触式の加熱方法の何れのものであっても良く、特に限定されるものではない。
【0084】
具体的な加熱方法としては、例えば、多孔質膜を形成する高分子が、そのガラス転移温度近傍の温度となるように調温された加熱源と、多孔質膜とを一定時間当接させる方法などが挙げられる。より具体的には、所定温度に調温されたホットプレートなどの加熱源上に、一定時間多孔質膜を載置する方法などが挙げられる。
【0085】
また例えば、当該加熱源と多孔質膜とを近接させる方法や、多孔質膜をマイクロ波により加熱する方法や、多孔質膜のくびれ部周辺をレーザなどで加熱する方法などが挙げられる。
【0086】
この際、加熱時の多孔質膜は、横向き(重力方向と膜厚方向とが略平行な方向)、縦向き、斜め向きなど何れの方向に向いていても良い。好ましくは、多孔質膜は、横向きの状態で加熱されると良い。くびれ部より上方に位置する膜部分の自重により、くびれ部に存在することがある連通孔が潰され易いからである。
【0087】
ここで、本製造方法では、膜加熱工程において、上記多孔質膜を加熱することに加えて、さらに、膜厚方向に多孔質膜を加圧しても良い。多孔質膜を加熱・加圧した場合には、くびれ部に存在することがある膜面方向の連通孔が潰され易くなる。そのため、隣接する各孔部間を独立化させ易く、得られる異方性導電膜の膜面方向の絶縁性を一層向上させることができる。
【0088】
さらに、これに加え、多孔質膜が加熱・加圧されると、膜形成過程において生じた、多孔質膜表面の段差ないし凹凸が均一化される。そのため、膜形成工程後の導電性物質の充填工程において、多孔質膜の孔部に導電性物質が均一に充填され易くなり、得られる異方性導電膜における膜厚方向の導通性も向上させることができる。
【0089】
多孔質膜を加圧する方法としては、平坦面を有する板状部材により多孔質膜を挟持し、この状態を保持したまま、公知の加圧装置により、直接あるいは介在物を介して間接的に加圧する方法などが挙げられる。
【0090】
この際、多孔質膜を加圧する圧力は、その膜を形成する高分子の硬さ、くびれ部の肉厚、膜の加熱時間などを考慮して種々調節すれば良い。すなわち、膜形成過程において生じた段差を平坦にすることができる圧力であれば良い。多孔質膜を過度に加圧すると、膜の立体構造がくずれてしまう場合があるので好ましくない。一方、多孔質膜に対する加圧力が過度に少ないと、段差を平坦にし難くなるので好ましくない。
【0091】
なお、多孔質膜を加圧する圧力は、非常に小さなものであることから、実際の加圧管理は、多孔質膜の膜厚に対して、平坦面を有する板状部材などを一定量押し込む方法などを採用すると良い。
【0092】
また、膜加熱工程において、多孔質膜を加圧する場合、この加圧は、多孔質膜の加熱とほぼ同時に行っても良い。また、加圧した多孔質膜を加熱しても、加熱した多孔質膜を加圧しても良い。すなわち、多孔質膜に対して少なくとも所望の熱および圧力が掛かった状態が得られれば、何れのタイミングで加圧しても良く、特に限定されるものではない。
【0093】
3.導電性物質充填工程
本製造方法において、導電性物質充填工程は、多孔質膜の孔部内に導電性物質を充填する工程である。
【0094】
ここで、導電性物質としては、微小な孔部内へ均一に充填され易く、膜厚方向の導通に優れるなどの観点から、導電性粒子の群を用いることが好ましい。この際、導電性粒子の平均径は、多孔質膜の孔径などに応じて決定すれば良い。好ましくは、1μm程度以下である。
【0095】
上記導電性粒子としては、具体的には、金属粒子、樹脂めっき粒子、カーボン粒子などが挙げられ、これらは、1種または2種以上混合して用いて良い。
【0096】
これら導電性粒子の内では、金属粒子を好適に用いることができる。電気抵抗が小さく、また、粒子の小径化により、金属の融点が下がるので、低温で熱融着され易いからである。
【0097】
この際、金属粒子としては、具体的には、Ag粒子、Au粒子、Pt粒子、Ni粒子、Cu粒子、Pd粒子などを好適に用いることができ、これらは1種または2種以上混合して用いても良い。これらの金属粒子は、電気導電性に優れるので、膜厚方向の導通を得やすい利点がある。これら金属粒子の内、好ましくはAg粒子を好適に用いることができる。
【0098】
このような導電性物質を孔部内に充填する手法は、用いる導電性物質の種類や性状などを考慮して適宜選択することができる。
【0099】
具体的な充填法としては、例えば、高分子が不溶な溶媒中に導電性物質を分散し、この分散溶液中に多孔質膜を浸漬することにより、孔部内や孔部内より僅か外側に導電性物質を吸着させる方法などが挙げられる。
【0100】
ここで、導電性物質を分散させる溶媒としては、エタノールなどのアルコール系溶媒、水、エステル系溶媒、アミド系溶媒、炭化水素系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒などを好適に用いることができる。この際、親水性の溶媒を用いる場合には、疎水性を示す多孔質膜に対して、予めUV照射、コロナ処理、プラズマ処理などの親水処理を施しておくことが好ましい。多孔質膜と溶媒との濡れ性が改善され、孔部内に分散溶液を浸透させ易くなるので、孔部内に導電性物質が均一に充填され易くなるからである。
【0101】
また、分散溶液中の導電性物質の含有量としては、1〜80重量%、好ましくは、1〜10重量%の範囲内にあることが好ましい。導電性物質としては、平均粒径が1μm程度以下の導電性粒子を用いるのが好ましい。なお、分散溶液に浸漬した多孔質膜を引き上げる際の引き上げ速度、浸漬時間などは、多孔質膜の孔径、分散溶液中の導電性物質の含有量などに応じて種々調整すれば良い。
【0102】
他の充填法としては、例えば、導電性粒子として金属粒子を用いる場合、金属粒子と同種の金属のアルコキシドにより表面修飾したガラス基板などの上に、多孔質膜を載置し、これを分散溶液中に浸漬することにより、孔部内や孔部内より僅か外側に選択的に導電性粒子を吸着させる方法などが挙げられる。
【0103】
この場合、用いる金属アルコキシドとしては、Cu、Ni、Ti、Feなどのアルコキシドなどが挙げられる。
【0104】
さらに他の充填法としては、例えば、導電性粒子として金属粒子を用いる場合、多孔質膜の一方の面に金属膜を張り付け、これを電極として電解めっきを施した後、エッチングにより金属膜を除去することにより、孔部内や孔部内より僅か外側に金属粒子を選択的に析出させる方法などが挙げられる。
【0105】
なお、この導電性物質充填工程では、上記多孔質膜が有する全ての孔部に導電性物質が充填されていても良いし、孔部の一部に導電性物質が充填されていない箇所が部分的に存在していても良い。すなわち、被接続物が有する導体と対向する孔部のうち、少なくとも1つ以上の孔部に導電性物質が充填されていれば、導電性物質充填工程における目的は達せられる。
【0106】
また、導電性粒子として、金属粒子や樹脂めっき粒子など、少なくとも粒子表面が金属からなる粒子を用いた場合には、これら粒子の群を孔部内に充填した後、熱融着してこれら粒子の群を一体化すると良い。粒子間の隙間が少なくなるとともに接触抵抗が小さくなり、膜厚方向の電気抵抗を小さくすることができるからである。また、熱融着により、粒子間に存在する有機物質などが取り除かれるので、これによっても膜厚方向の電気抵抗を小さくすることができるからである。
【0107】
4.接着層被覆工程
本製造方法において、接着層被覆工程は、孔部内に導電性物質が充填された多孔質膜の両面に接着層を被覆する工程である。
【0108】
ここで、接着層材料としては、被接続物との接着性、絶縁性を有するものであれば、何れのものでも使用することができる。具体的には、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアネート樹脂などの熱硬化性樹脂を半硬化状態としたプリプレグなどが好適な一例として挙げられる。接着層がプリプレグである場合には、被接続物が有する導体間の隙間部分に接着層が流動排除され易く、また、被接続部と密着性も高まり、高い接続信頼性を確保することができる。
【0109】
上記熱硬化性樹脂としては、被接続部との密着性に優れるなどの観点から、エポキシ系樹脂を好適に用いることができる。
【0110】
また、接着層の厚さは、被接続物が有する導体の高さ、導体の間隔などを考慮して決定すれば良い。好ましくは、0.1〜100μm、より好ましくは、1〜50μmの範囲内にあるのが良い。
【0111】
接着層を被覆する具体的な方法としては、コーターなど公知の塗布手段を用いて接着層材料を塗布する方法や、予め作製しておいた膜状の接着層をラミネートする方法などが挙げられる。
【0112】
以上説明した本製造方法より得られる異方性導電膜によれば、くびれ部に存在することがある膜面方向の連通孔が潰され、独立性が増大した孔部に導電性物質が充填されるので、膜面方向の絶縁性が向上する。
【0113】
さらに、膜加熱工程において、膜厚方向に多孔質膜を加圧した場合には、くびれ部に存在することがある膜面方向の連通孔がより潰され易くなるので、隣接する各孔部間の独立性がより増大し、膜面方向の絶縁性が一層向上する。加えて、膜形成過程において生じた、多孔質膜表面の段差ないし凹凸も均一化されるので、導電性物質充填工程において、孔部に導電性物質が均一に充填され、膜厚方向の導通性も向上する。
【0114】
次に、上記本製造方法により得られた異方性導電膜の使用方法を図2(a)(b)を用いて説明する。図2(a)(b)に示すように、本製造方法により得られた異方性導電膜10は、多孔質膜12と、導電性物質14と、接着層16とを基本的構成として備えている。
【0115】
この異方性導電膜10を、例えば、基板32と基板34の間に置き、接着層16が流動する温度で短時間熱プレスすると、接着層16が流動排除されるとともに、基板32の電極36と基板34の電極38との間に導電性物質14が挟み込まれる。そしてこの状態を保持したまま樹脂が硬化すると、導電性物質14を介して両電極36、38間は電気的に接続される。一方、隣接する電極36(38)同士は接着層16により電気的に絶縁される。また、接着層16の硬化により、基板32と基板34とは機械的に接続される。
【0116】
本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【実施例】
【0117】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0118】
1.実施例に係る異方性導電膜の作製
(実施例1)
クロロホルムにポリスルホン(アルドリッチ製、分子量Mw=56,000)を0.1[wt%]の濃度で溶解した液に、両親媒性物質として、ドデシルアクリルアミドとカプロン酸の共重合体をポリスルホンに対して10[wt%]添加し、高分子溶液を調製した。
【0119】
次いで、この高分子溶液を、相対湿度50%の空気を連続的に吹き付けているシャーレ(φ90[mm])に塗布膜厚780[μm]でキャストし、クロロホルムを揮発させた。その結果、図3に示すように、膜厚方向に貫通した多数の孔部を有し、孔部はハニカム状に配列されるとともに孔部の内壁面は外側方向に湾曲されている、ポリスルホンよりなる多孔質膜が得られた。なお、多孔質膜の孔部の孔径は、5μm程度であった。
【0120】
次に、図4に示すように、ガラス基板60a上に載置した多孔質膜12を、多孔質膜12が250℃の温度となるように調温されたホットプレート62上に2分間載置し、多孔質膜12を加熱した。
【0121】
次に、導電性物質を充填する前処理として、上記多孔質膜に254nmのUV光を10分間照射し、多孔質膜の表面に親水処理を施した。
【0122】
次に、濃度3[wt%]のAg水分散溶液(日本ペイント製、「ファインスフィアSVW102」、平均粒径50nm)中に、上記多孔質膜を浸漬し、5[μm/sec]の速度で引き上げた。その結果、図5に示すように、孔部内にAg粒子が充填された多孔質膜が得られた。
【0123】
次に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製、「エピコート1001」)と、NBR(日本ゼオン製、「ニポール1072J」)と、イミダゾール硬化剤(四国化成製、「キュアゾールC11Z」)とを、ビスフェノールA型エポキシ樹脂:NBR:イミダゾール硬化剤=40:50:5の重量割合で、固形分が30[wt%]となるようにMEK/THF=50/50の混合溶媒に溶解し、この液を60℃で10分間乾燥させて接着層を作製した。
【0124】
次いで、この接着層を、孔部内にAg粒子が充填された多孔質膜の両面にラミネートし、実施例1に係る異方性導電膜を作製した。
【0125】
(実施例2)
実施例1において、膜形成工程後の膜加熱工程にて、形成した多孔質膜を加熱すると同時に、膜厚方向に加圧した点以外は、実施例1と同様にして実施例2に係る異方性導電膜を作製した。
【0126】
ここで、多孔質膜の加熱・加圧は次のように行った。すなわち、図6に示すように、一対のガラス基板60a、60bの間に挟持した多孔質膜12を、多孔質膜12が250℃の温度となるように調温されたホットプレート62上に載置するとともに、ゴムシート64を介してガラス基板60bを加圧装置66にて加圧した。この時の加熱条件は250℃×2分間、加圧条件は、約6Paとした。
【0127】
Ag粒子を充填する前における多孔質膜の電子顕微鏡像を図7に示す。また、Ag粒子を充填した後における多孔質膜の電子顕微鏡像を図8に示す。図7によれば、多孔質膜の加熱・加圧により、膜表面の段差ないし凹凸がなくなり、膜表面が均一化されていることが分かる。また、図8によれば、多孔質膜の孔部内にAg粒子が均一に充填されていることが分かる。
【0128】
(実施例3)
クロロホルムにシロキサン変性ポリイミド(宇部興産製、「R15」)を0.1[wt%]の濃度で溶解した液に、両親媒性物質として、ドデシルアクリルアミドとカプロン酸の共重合体をシロキサン変性ポリイミドに対して10[wt%]添加し、高分子溶液を調製した。
【0129】
次いで、この高分子溶液を、相対湿度50%の空気を連続的に吹き付けているシャーレ(φ90[mm])に塗布膜厚780[μm]でキャストし、クロロホルムを揮発させた。その結果、膜厚方向に貫通した多数の孔部を有し、孔部はハニカム状に配列されるとともに孔部の内壁面は外側方向に湾曲されている、シロキサン変性ポリイミドよりなる多孔質膜が得られた。なお、多孔質膜の孔部の孔径は、5μm程度であった。
【0130】
次に、実施例1と同様にして、ガラス基板上に載置した多孔質膜を、多孔質膜が200℃の温度となるように調温されたホットプレート上に2分間載置し、多孔質膜を加熱した。
【0131】
次に、濃度3[wt%]のAgエタノール分散溶液(日本ペイント製、「ファインスフィアSVE102」、平均粒径50nm)中に、上記多孔質膜を浸漬し、7[μm/sec]の速度で引き上げた。その結果、孔部内にAg粒子が充填された多孔質膜が得られた。
【0132】
以下、実施例1と同様にして、孔部内にAg粒子が充填された多孔質膜の両面に接着層をラミネートし、実施例3に係る異方性導電膜を作製した。
【0133】
(実施例4)
ビフェニルテトラカルボン酸無水物(BPDA)29.4g(0.1mol)とジアミノジフェニルエーテル(DDE)20.0g(0.1mol)とのポリアミック酸をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)278g中、23℃にて24時間反応させ、ポリアミック酸溶液を調製した。次いで、この溶液を酢酸エチル2Lにゆっくりと投入し、再沈殿させ、ろ過、乾燥させてポリアミック酸粉末35.0gを作製した。
【0134】
次いで、このポリアミック酸100mgを、pH8の水に熱をかけて溶解させた。一方、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド200mgを、200mLの水に超音波をかけて分散させた。次いで、上記2液を混合し、温度を室温に戻して一晩攪拌した。この後、クロロホルムを加え、分液漏斗でクロロホルム相を分取した。次いで、エバポレータでクロロホルムを濃縮し、アセトンで再沈した。次いで、遠心分離機で2600rpm,30分間遠心分離し、溶媒を乾燥させた(52.5mg)。次いで、このポリイオン性錯体溶液を希釈し、濃度0.1[wt%]の高分子溶液を調製した。
【0135】
次いで、この高分子溶液を、相対湿度50%の空気を連続的に吹き付けているシャーレ(φ90[mm])に塗布膜厚780[μm]でキャストし、クロロホルムを揮発させた。その結果、膜厚方向に貫通した多数の孔部を有し、孔部はハニカム状に配列されるとともに孔部の内壁面は外側方向に湾曲されているポリイミド前駆体よりなる前駆体膜が得られた。なお、前駆体膜の孔部の孔径は、2μm程度であった。
【0136】
次に、実施例1と同様にして、ガラス基板上に載置した上記前駆体膜を、前駆体膜が100℃の温度となるように調温されたホットプレート上に2分間載置し、前駆体膜を加熱した。
【0137】
次に、この前駆体膜を、ベンゼン:無水酢酸:ピリジン=3:1:1の溶液中に一晩浸漬し、ポリイオン性錯体をイミド化処理することにより、膜厚方向に貫通した多数の孔部を有し、孔部はハニカム状に配列されるとともに、孔部の内壁面は外側方向に湾曲されている、ポリイミドよりなる多孔質膜が得られた。この際、カチオン性脂質は、エタノールでリンスすることによって除去した。
【0138】
次に、濃度3[wt%]のAgエタノール分散溶液(日本ペイント製、「ファインスフィアSVE102」、平均粒径50nm)中に、上記多孔質膜を浸漬し、5[μm/sec]の速度で引き上げた。その結果、孔部内にAg粒子が充填された多孔質膜が得られた。
【0139】
以下、実施例1と同様にして、孔部内にAg粒子が充填された多孔質膜の両面に接着層をラミネートし、実施例4に係る異方性導電膜を作製した。
【0140】
2.異方導電性の評価
次に、上記作製した実施例に係る異方性導電膜につき、膜厚方向の導通性能および膜面方向の絶縁性能を評価することにより異方導電性の評価を行った。
【0141】
(1)膜厚方向の導通性能の評価
膜厚方向の導通性能の評価は、以下のように行った。すなわち、実施例1〜4に係る各異方性導電膜の一方面を、図9に示した所定のピッチPを有するくし型電極40(隣り合う電極42、42が、絶縁基材44により互いに絶縁されて配置されているくし状の電極)にそれぞれ仮圧着した。次いで、図10(a)に示すように、くし型電極40を仮圧着した各異方性導電膜10を、その他方面側が、ガラス板46上に積層した銅板48と接するようにそれぞれ載置し、170℃×20secで本圧着した。
【0142】
次いで、このようにして得られた試料A〜A(Aの添字は、各実施例の番号に対応する)につき、テスター50で導通性能を評価した。なお、本評価では、くし型電極40のピッチP=30μmとし、各実施例に係る異方性導電膜のサンプル数は、N=10[個]とした。
【0143】
本評価の結果、試料Aは、9/10[個]のサンプルにおいて、くし型電極間の抵抗値が0[Ω]となった。同様に、試料Aは10/10[個]、試料Aは9/10[個]、試料Aは9/10[個]のサンプルにおいて、くし型電極間の抵抗値が0[Ω]となった。この結果から、形成した多孔質膜を加熱・加圧した場合には、形成した多孔質膜を加熱のみする場合に比較して、再現性良く膜厚方向の導通性を向上させることができることが確認できた。
【0144】
(2)膜面方向の絶縁性能の評価
膜面方向の絶縁性能の評価は、以下のように行った。すなわち、実施例1〜4に係る各異方性導電膜の一方面を、上記と同様のくし型電極40にそれぞれ仮圧着した。次いで、図10(b)に示すように、くし型電極40を仮圧着した各異方性導電膜10を、その他方面側が、ガラス板46と接するようにそれぞれ載置し、170℃×20secで本圧着した。
【0145】
次いで、このようにして得られた試料B〜B(Bの添字は、各実施例の番号に対応する)につき、テスター50で絶縁性能を評価した。なお、本評価における、くし型電極のピッチPと各実施例に係る異方性導電膜のサンプル数は、上記と同様とした。
【0146】
本評価の結果、試料Bは、7/10[個]のサンプルにおいて、くし型電極間の抵抗値が10[Ω]以上となった。同様に、試料Bは10/10[個]、試料Bは8/10[個]、試料Bは8/10[個]のサンプルにおいて、くし型電極間の抵抗値が10[Ω]以上となった。この結果から、本製造方法によれば、再現性良く膜面方向の絶縁性を向上させることができることが確認できた。
【0147】
これら評価結果によれば、本実施例に係る異方性導電膜の製造方法によれば、得られる異方性導電膜の膜面方向の絶縁性および/または膜厚方向の導通性を向上させることができることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0148】
【図1】本製造方法の膜形成工程において形成する多孔質膜の構成を模式的に示した図であり、(a)が多孔質膜の断面図、(b)が多孔質膜の平面図である。
【図2】本製造方法により得られた異方性導電膜の使用方法を模式的に説明するための図である。
【図3】実施例1における膜形成工程にて得られた多孔質膜の電子顕微鏡像である。
【図4】本製造方法の膜加熱工程において、多孔質膜を加熱する一例を模式的に示した図である。
【図5】実施例1において、Ag粒子を充填した後における多孔質膜の電子顕微鏡像である。
【図6】本製造方法の膜加熱工程において、多孔質膜を加熱・加圧する一例を模式的に示した図である。
【図7】実施例2において、Ag粒子を充填する前における多孔質膜の電子顕微鏡像である。
【図8】実施例2において、Ag粒子を充填した後における多孔質膜の電子顕微鏡像である。
【図9】本製造方法により得られた異方性導電膜について、異方導電性の評価を行った際に用いた、くし型電極を模式的に示した図である。
【図10】(a)が膜厚方向の導通性能の評価を、(b)が膜面方向の絶縁性能の評価を模式的に説明するための図である。
【図11】規則的にハニカム状に配列した水滴を鋳型として、ハニカム状に配列された多数の孔部を有し、孔部の内壁面が外側方向に湾曲されている、高分子よりなる多孔質膜が自発的に形成される原理を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0149】
10 異方性導電膜
12 多孔質膜
14 導電性物質
16 接着層
18 孔部
20 隔壁
20a くびれ部
22 内壁面
26 水滴
28 高分子溶液
30 支持基板
60a ガラス基板
60b ガラス基板
62 ホットプレート
64 ゴムシート
66 加圧装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜厚方向に貫通した多数の孔部を有し、前記孔部はハニカム状に配列されるとともに前記孔部の内壁面は外側方向に湾曲されている、高分子よりなる多孔質膜を形成する工程と、
前記高分子のガラス転移温度近傍まで前記多孔質膜を加熱する工程と、
前記多孔質膜の孔部内に導電性物質を充填する工程と、
前記多孔質膜の両面に接着層を被覆する工程とを
含むことを特徴とする異方性導電膜の製造方法。
【請求項2】
前記多孔質膜を加熱する工程において、さらに、膜厚方向に前記多孔質膜を加圧することを特徴とする請求項1に記載の異方性導電膜の製造方法。
【請求項3】
前記多孔質膜の形成は、疎水性および揮発性を有する有機溶媒と、この有機溶媒に可溶な高分子と、両親媒性物質とを少なくとも含む高分子溶液をキャストした支持基板を相対湿度50%以上の大気下に存在させることによることを特徴とする請求項1または2に記載の異方性導電膜の製造方法。
【請求項4】
前記多孔質膜の形成は、疎水性および揮発性を有する有機溶媒と、両親媒性高分子とを少なくとも含む高分子溶液をキャストした支持基板を相対湿度50%以上の大気下に存在させることによることを特徴とする請求項1または2に記載の異方性導電膜の製造方法。
【請求項5】
前記導電性物質は、導電性粒子の群よりなることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の異方性導電膜の製造方法。
【請求項6】
前記導電性粒子は、金属粒子であることを特徴とする請求項5に記載の異方性導電膜の製造方法。
【請求項7】
前記接着層は、熱硬化性樹脂を半硬化状態としたプリプレグであることを特徴とする請求項1から6の何れかに記載の異方性導電膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−236786(P2006−236786A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−49833(P2005−49833)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】