説明

異種材内蔵ヒートシンク

【課題】ヒートシンクの表面側にセラミックスがろう付けされると共に、そのヒートシンクの裏面側に異種材がろう付けされたものにおいて、異種材とヒートシンクとの間に電位差腐蝕が生じないものを提供する。
【解決手段】ヒートシンク2の表面側にセラミックス1がろう付けされると共に、そのヒートシンク2の裏面側に異種材3がろう付けされたものにおいて、異種材の外周にヒートシンクの金属材と同一の金属材よりなるカバープレート4をろう付けして、異種材の外周を完全に液密に被蔽する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種半導体素子等の電子部品を冷却するヒートシンクに関する。
【背景技術】
【0002】
集積回路や各種半導体等の電子部品を冷却するヒートシンクは、内部に冷却水が流通する偏平なヒートシンク本体の外面に、電子部品接合用の絶縁用セラミックスがろう付けされ、そのセラミックス上に電子部品がろう付け固定される。このセラミックスはアルミナやベリリア等が使用されている。ヒートシンク本体は、アルミニウム材等からなり、その線膨張率は絶縁用セラミックスのそれに比べて大きい。そのため、ろう付け後に両者の線膨張率差に基づき、バイメタルの作用でヒートシンク本体に反りが発生し、セラミックスに亀裂が生じる等の各種不都合が起こる。
【0003】
即ち、図11(A)に示す如く、セラミックス1とアルミニウム製のヒートシンク2との間を600℃程度でろう付けするとき、そのセラミックス1およびヒートシンク2は共に、その温度で熱膨張した状態にある。そして、それを常温に冷却固化すると(B)に示す如く、セラミックス1、ヒートシンク2は膨張した分だけ収縮する。このときセラミックス1の収縮しろbはヒートシンク2の収縮しろaよりも小さい。すると、(C)の如くセラミックス1とヒートシンク2の境界部分においてセラミックス1は引伸ばされるひずみが生じると共に、ヒートシンク2は収縮するひずみが生じる。その結果、(C)の如く両者の境界部が上側に凸湾曲する。
すると、図13の如くヒートシンク2の下面側にも電子部品6を取り付けるとき、それとヒートシンクとの間に隙間が生じ、伝熱性が著しく低下する不都合が起こる。それと共に、前記の如くセラミックス1に亀裂等が生じる。
そこで、ヒートシンクのセラミックスが固着される面と反対の面にヒートシンクの線膨張率より小さい金属板を設け、反りを補正するものが提案されている。
【0004】
即ち、図12の(A)の如く、アルミニウム製ヒートシンク2の一方の面にセラミックス1をろう付けすると共に、他方の面に鉄板(Fe)等の異種材3を同時にろう付けする。この鉄板等の線膨張率は、セラミックス1とアルミニウム製ヒートシンク2のそれとの中間にある。これは、同図(B)の如くヒートシンク2の線膨張率a、鉄板線膨張率c、セラミックスのそれをbとすれば、a>c>bに関係にある。すると、常温では同図(C)の如くヒートシンク2と鉄板等の異種材3の両者の境界部のひずみは、ヒートシンク2とセラミックス1の境界部とのひずみに対して、逆向きに現われ、結果として全体の反りが抑制される。なお、図12ではセラミックス1を1つのみ図示したが、複数のセラミックスが互いに離間し、ヒートシンク2にろう付け固定することが多い。
この場合、図14に示す如くヒートシンク2の一方の表面に取り付けた複数のセラミックス1が存在する場合、ヒートシンク2の他面側には各セラミックス1に整合する位置に異種材3がろう付けされる。そして、複数の異種材3間を架橋するように、電子部品6がワックス等の伝熱材を介して取り付けられることがある。この場合も、電子部品と異種材との間に隙間が生じ、伝熱性が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平3−25247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のヒートシンクは、ヒートシンク本体の裏面側に異種金属板がろう付け固定されているため、その異種金属板とヒートシンクの金属材料との間に電位差腐蝕が生じるおそれがあった。
そこで本発明は、電位差腐蝕を生じることなく、且つヒートシンク本体に反りの生じないものを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の本発明は、電子部品接合用の絶縁用セラミックス(1) が、表面にろう付けされた偏平な金属製のヒートシンク(2) において、
そのヒートシンク(2) の裏面で、前記セラミックス(1) のろう付け位置の真裏に、平面形状を有し、その線膨張係数がヒートシンク(2) よりも小さい金属板からなる異種材(3) がろう付けされ、
その異種材(3) の外周に、前記ヒートシンク(2) の金属材と同一の金属材よりなるカバープレート(4)がろう付けされて、前記異種材(3) の外周が完全に液密に被蔽されたことを特徴とする異種材内蔵ヒートシンクである。
【0008】
請求項2に記載の本発明は、請求項1において、
複数の前記絶縁用セラミックス(1) が互いに離間して前記ヒートシンク(2) の表面にろう付けされ、その裏面に各セラミックス(1) に対応して複数の前記異種材(3) がろう付けされ、各異種材(3) に整合した位置で、その複数の異種材(3) がそれぞれ嵌着するように、複数の嵌着孔(5a)を有する中間プレート(5)が前記ヒートシンク(2) の裏面にろう付けされると共に、その中間プレート(5)の外面に前記カバープレート(4)がろう付けされた異種材内蔵ヒートシンクである。
請求項3に記載の本発明は、請求項1または請求項2において、
伝熱用のグリスを介して、平坦に形成された前記カバープレート(4)の外面に被冷却用の他の電子部品が接続される異種材内蔵ヒートシンクである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のヒートシンクは、ヒートシンク2の裏側で、セラミックス1のろう付け位置の真裏に、線膨張係数がヒートシンク2よりも小さい金属板からなる異種材3がろう付けされ、その異種材3の外周をヒートシンク2と同一の材料により完全に液密に被蔽されるようにしたから、セラミックス1とヒートシンク2との熱膨張差による反りを異種材3によって修正することができる。そして、異種材3の外周がカバープレート4により完全に液密に被蔽されているため、異種材3とカバープレート4、ヒートシンク2との間に水等の液体が浸入することを防止し、外界との遮断によって電位差腐蝕を防止できる。
【0010】
上記構成において請求項2に記載のように、中間プレート5に複数の嵌着孔5aを形成し、そこにそれぞれ異種材3を嵌着すると共に、その外面にカバープレート4をろう付けした場合には、各異種材3の位置決めを容易に行い、量産性の高いヒートシンクとなる。
上記構成において請求項3に記載のように、カバープレート4を平坦に形成し、その外面に伝熱用グリースを介して被冷却用の他の電子部品を接続した場合には、カバープレート4を利用して、より多くの電子部品の冷却を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の異種材内蔵ヒートシンクの要部分解斜視図。
【図2】同ヒートシンク2の分解略図。
【図3】同異種材内蔵ヒートシンクの横断面略図。
【図4】同異種材内蔵ヒートシンクに電子部品6を取り付けた状態を示す説明図。
【図5】同ヒートシンクとセラミックス1との間に介装される応力緩和プレート12の平面図。
【図6】同異種材内蔵ヒートシンクの他の例を示す説明図。
【図7】同異種材内蔵ヒートシンクのさらに他の例を示す説明図。
【図8】異種材3の面積がセラミックス1のそれに比べて十分大きい場合の断面形状を示す模式図である。
【図9】セラミックス面積に対する異種材としての鉄板面積の割合を横軸とし、縦軸に平面度をとった平面度曲線の説明図。
【図10】平面度の基準となる説明図。
【図11】従来型ヒートシンクとセラミックスとの関係を示す説明図。
【図12】従来型ヒートシンクに対してセラミックスの多面側に異種材をろう付けした場合の説明図。
【図13】図11に示すヒートシンクの裏面に電子部品を取り付けた説明図。
【図14】図12に示すヒートシンクの異種材の裏面に電子部品を取り付けた説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、図面に基づいて本発明の実施の形態につき説明する。
この異種材内蔵ヒートシンクは、そのヒートシンク2が一例として図2に示す如く、上下一対の上端板2a、下端板2b間に第1枠板2c、第2枠板2dを介装し、全体を一体的にろう付け固定したものである。上端板2aには対角位置に冷却水出入口9が形成され、一方の冷却水出入口9から冷却水が内部に流通し、他方の冷却水出入口9からそれが流出する。第1枠板2c、第2枠板2dは、この例では互いに逆向きの多数の骨部7が方形の枠部8から伸びると共に、その長手方向両端にはマニホールド10がその枠部と骨部との間に形成されたものである。そして、一方の冷却水出入口9からマニホールド10に流入した冷却水は上下一対の第1枠板2c、第2枠板2dの各骨部7間を上下左右に蛇行しながら他方のマニホールド10に流通して、その間に熱交換するものである
【0013】
次に、このようなヒートシンク2には、図1に示す如く多数の板状のセラミックス1がろう付け固定される。このセラミックスはアルミナやベリリアその他を使用する。さらに、このヒートシンク2の裏面側には、中間プレート5とカバープレート4が一体的にろう付け固定されると共に、各中間プレート5の嵌着孔5aに異種材3が嵌着した状態でその異種材3とヒートシンク2およびカバープレート4との間がろう付け固定される。中間プレート5に設けた嵌着孔5aは、ヒートシンク2上面側の各セラミックス1と同一の大きさまたは、それより若干大きく且つ、各セラミックス1の真裏に配置されている。
【0014】
そして、その嵌着孔5aに整合する異種材3は、一例としてヒートシンク2がアルミニウム材でなる場合には、鉄板等を用いることができる。この鉄板等の線膨張率はセラミックスのそれとアルミニウムのそれとの中間である。また、中間プレート5、カバープレート4はヒートシンク2と同一の材質、即ちアルミニウム材で形成することができる。
このように構成することにより、鉄板等である異種材3の外周は完全にアルミニウム材により被覆させる。そのため、異種材3とアルミニウムとの間に水等の液体が浸入することが防止される。それにより異種材3とアルミニウムとの間に生じる電位差腐食が防止できる。それと共に、各異種材3は中間プレート5の嵌着孔5aにより位置決めされ、量産性の高いものとなる。
【0015】
次に、このようなセラミックス1の上面には電子部品6がろう材11によって固定され、セラミックス1の下面には応力緩和プレート12を介し、ヒートシンク2がろう付けされている。なお、この例の応力緩和プレート12は、図5に示す如く、金属板に多数のスリット14を不連続に配置したものである。また、ヒートシンク裏面のカバープレート4の裏面側にはグリース13を介し電子部品6が配置される。
この応力緩和プレート12は、セラミックス1とヒートシンク2との間に生じる熱ひずみを可能な限り吸収するものである。その熱ひずみにより、各スリット間が変形しやすいようにしたものである。なお、図示の応力緩和プレートは、本出願人が開発したものであり、その他に特開2007−19203号、特開2006−294699号等が存在する。
【0016】
次に、図6は本発明の異種材内蔵ヒートシンクの他の例の説明図であって、これが図4のそれと異なる点は、カバープレート4の形状のみである。このカバープレート4は、プレス成形により異種材3に整合する凹嵌部を有する。その凹陥部内に異種材3が収納されてヒートシンクの裏面に一体にろう付けされる。
【0017】
次に、図7はさらに他の例であり、この例はカバープレート4の内部に凹嵌部を形成し、そこに異種材3を収納した例である。多数のセラミックスがヒートシンクの表面に接合される場合には、それに略整合する多数の凹陥部が形成され、各凹陥部に異種材が嵌着され、ヒートシンクの裏面に一体にろう付けされる。
【0018】
次に図8は、アルミニウム製ヒートシンク2の表面側にセラミックス1をろう付けすると共に、裏面側に異種材3をろう付けする場合において、セラミックス1と異種材3とは略相似形で且つ、異種材3の平面をセラミックス1のそれより著しく大きくした場合における断面の変形状態を示した説明図である。このとき、異種材3の線膨張率はセラミックス1のそれとヒートシンク2のそれとの中間にある。この場合、セラミックス1の位置では図において上側に凸湾曲するが、その外側では上面側が凹湾曲する。これは、セラミックス1の位置では、その線膨張率が異種材3の線膨張率より小さいため、セラミックス1の影響をより大きく受けて凸湾曲し、それが存在しない位置では、異種材の影響により、ヒートシンク2の上面側が凹湾曲するものである。
【0019】
次に図9は、セラミックス1に対して、異種材3の大きさを変化させたとき、その平面度の変化を図示したものである。そして、その横軸にセラミックス面積に対する異種材(Fe,Cu,ステンレス等)面積をとり、縦軸に平面度をとったものである。
ここに平面度は図10において次のように定める。セラミックス1の平面度は、その中心Oに対して隅部Xが変移した垂直距離であり、全体の平面度はそのヒートシンク2の中心O’に対し、垂直方向にセラミックス2の端が沈み込んだ垂直距離を言う。そして、この平面度をセラミックス面積に対する異種材3の面積に対してどのような変化をするか図9に示す。
同図で、曲線Dはセラミックス1の平面度を示し、曲線Eは全体の平面度としてヒートシンクのそれを代用したものである。
この図9から明らかになったことは、異種材3が鉄板の場合、セラミックスの面積に対し1.2倍の位置でセラミックスの平面度および全体の平面度が最小になる。そして、この例では面積比が1.0〜1.5の範囲で実用上差し支えない平面度であった。
【符号の説明】
【0020】
1 セラミックス(ALN,SiN,アルミナ,ベリリア)
2 ヒートシンク
2a 上端板
2b 下端板
2c 第1枠板
2d 第2枠板
【0021】
3 異種材
4 カバープレート
5 中間プレート
5a 嵌着孔
6 電子部品
7 骨部
8 枠部
【0022】
9 冷却水出入口
10 マニホールド
11 ろう材
12 応力緩和プレート
13 グリース
14 スリット
15 ろう材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品接合用の絶縁用セラミックス(1) が、表面にろう付けされた偏平な金属製のヒートシンク(2) において、
そのヒートシンク(2) の裏面で、前記セラミックス(1) のろう付け位置の真裏に、平面形状を有し、その線膨張係数がヒートシンク(2) よりも小さい金属板からなる異種材(3) がろう付けされ、
その異種材(3) の外周に、前記ヒートシンク(2) の金属材と同一の金属材よりなるカバープレート(4)がろう付けされて、前記異種材(3) の外周が完全に液密に被蔽されたことを特徴とする異種材内蔵ヒートシンク。
【請求項2】
請求項1において、
複数の前記絶縁用セラミックス(1) が互いに離間して前記ヒートシンク(2) の表面にろう付けされ、その裏面に各セラミックス(1) に対応して複数の前記異種材(3) がろう付けされ、各異種材(3) に整合した位置で、その複数の異種材(3) がそれぞれ嵌着するように、複数の嵌着孔(5a)を有する中間プレート(5)が前記ヒートシンク(2) の裏面にろう付けされると共に、その中間プレート(5)の外面に前記カバープレート(4)がろう付けされた異種材内蔵ヒートシンク。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
伝熱用のグリスを介して、平坦に形成された前記カバープレート(4)の外面に被冷却用の他の電子部品が接続される異種材内蔵ヒートシンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−205981(P2010−205981A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50712(P2009−50712)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000222484)株式会社ティラド (289)
【Fターム(参考)】