説明

疼痛緩和装置

【課題】拍動性を有する疼痛に対し最も効果のあるタイミングで神経を刺激するとともに、必要なエネルギーの消費を少なくして、電池の寿命を長くする。
【解決手段】片頭痛もしくは群発頭痛等の拍動性を有する痛みを治療するために、心電、圧脈波、心音等の循環動態を計測して、この計測値に基づいて、神経を刺激する刺激信号の刺激強度を強くする。この状態で代謝要求や身体活動があった場合、刺激信号の刺激強度をさらに強くする。この刺激信号の刺激強度制御は、刺激のタイミングで刺激信号の周波数または振幅のレベルを変えることによってなされる。刺激信号のパラメータとしては、周波数、パルス幅、パルス電流、パルス電圧などが考えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経を刺激することによって疼痛を緩和する疼痛緩和装置に関し、特に、拍動性を有する疼痛に対して循環動態および代謝要求/身体活動に基づいて刺激を調節することが可能な疼痛緩和装置に関する。
【背景技術】
【0002】
痛み治療において、従来の薬物療法、神経ブロック療法、外科的療法に効果を示さなかったり、副作用などによりその治療が継続できない場合に、神経を電気刺激することにより痛みを緩和する電気刺激療法が効果を挙げている。電気刺激療法である脊髄電気刺激療法は、脊髄を覆う脊髄硬膜の外側に電極リードを留置して電気刺激を行う療法である。また、末梢神経電気刺激療法は、末梢神経に直接あるいは当該末梢神経の近くの皮下に電極リードを留置して電気刺激を行う療法である。これら脊髄電気刺激療法および末梢神経電気刺激療法では、脊髄や末梢神経を介した痛みの伝達に電気的刺激を利用して干渉することにより、痛みを緩和することができる。
【0003】
片頭痛は、頭の片側(時に両側)に起こる慢性の頭痛で、悪心や嘔吐、また、光過敏や音過敏を伴うことがあり、しばしば耐え難い痛みで社会生活に大きな支障を来たすことがある。一般に20代〜50代の女性に多く、その患者数は男性の約4倍と言われている。群発頭痛は、男性に多く、慢性頭痛のなかでも最も激しい痛みを伴う。頭の片側に起こり、年に1〜2回程度であるが、ある一定期間(多くの場合1〜2ヶ月)連続して毎日頭痛が起こる。片頭痛や群発頭痛の痛みの特徴は、心臓の拍動とともにズキンズキンと脈打つといった拍動性があると同時に、その痛みが歩行や階段昇降などの代謝要求や身体活動に伴う体動によって増強することである。近年、片頭痛や群発頭痛に対する末梢神経電気刺激療法の試みがなされている。これは、頚椎2番、3番から出て、後頭部の頭頂方向へ走行する末梢神経である後頭神経を電気刺激することによってその痛みを緩和しようとするものである。本試みでは、通常、後頭神経が走行している頚背部皮下に電極を留置して電気刺激が行われるが、この刺激の際の電圧や周波数などの刺激パラメータは、痛みの強度に応じて患者が手動で変更する必要があった。
【0004】
また、特許文献1に記載の技術は、後頭神経の近くに植え込んだリードレスの刺激装置によって頭痛を緩和しようとするものであり、この特許文献1には、特にセンサによって刺激パラメータを調節する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,735,475号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、痛みの拍動性に応じて刺激の強度を手動で変更することは困難であり、また、特許文献1に記載の技術においても、片頭痛や群発頭痛に特徴的な痛みの拍動性に特化した刺激方法ではないため、拍動性の不快感が残存したり、この不快感を取り除くためには、痛みの拍動のピークに合わせて刺激強度を設定しなければならず、常に刺激強度を高く保たなければならない。そのため、高い電圧が必要となり、電池寿命を短くするという問題があった。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、心電、圧脈波あるいは心音等の循環動態を計測し、心室収縮や血液拍出の検出に同期して、一定期間だけ通常時の刺激より刺激強度を強くし、代謝要求や身体活動が検出された際にはさらに刺激強度を強くすることにより、疼痛を和らげることができる疼痛緩和装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の疼痛緩和装置は、神経を電気的に刺激するための刺激信号を発生する刺激信号発生部と、心拍タイミングを検出する第一検出部と、代謝要求もしくは身体活動を検出する第二検出部と、拍動性を有する痛みを治療するために、前記第一検出部で検出した心拍タイミングの検出に応答して、所定期間の間、前記第二検出部で検出した代謝要求もしくは身体活動に基づいて、前記刺激信号発生部で発生する前記刺激信号の強度を調節するパラメータ調節部と、を備えるものである。
【0009】
ここで、電気的に刺激する神経は、脊髄であるか、後頭神経等の末梢神経であることが好ましい。また、刺激信号のパラメータとしては、周波数、パルス幅、パルス電流、パルス電圧の少なくとも1つ、もしくはこれらの中から選ばれる複数の組み合わせに依存させることが望ましい。
【0010】
本発明の好ましい形態としての疼痛緩和装置は、心臓の心室収縮あるいは心臓からの血液拍出および代謝要求あるいは身体活動の有無を検出し、これらのいずれも検出されていない場合、すなわち通常時には神経に対して第一刺激強度で電気的刺激を行う。そして、心室収縮あるいは血液拍出のいずれかのみが検出された場合、検出した心室収縮あるいは血液拍出と同期したタイミングで神経に対して第一刺激強度よりも強い第二刺激強度で電気的刺激を行っている。さらに、心室収縮あるいは血液拍出のいずれかに加え、代謝要求あるいは身体活動が検出された場合は、当該タイミングで神経に対して第二刺激強度よりも強い第三刺激強度で電気的刺激を行うようにする。
【0011】
本発明の上述した構成によれば、拍動性を有する疼痛の周期と同期する、心臓の心室の収縮あるいは心臓からの血液の拍出のタイミングで神経を刺激することができるとともに、代謝要求や身体活動があった場合にさらに強い強度で神経を当該タイミングで刺激することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、疼痛の拍動性と同期して所定の刺激期間だけ神経を刺激できるので、拍動姓を有する疼痛を的確に和らげることができ、患者に与える不快感を低減することができる。また、代謝要求や身体活動があった場合にはより強く神経を刺激できるので、代謝要求や身体活動に伴って強くなる疼痛をも和らげることもできる。さらに、神経を刺激するための刺激信号の強度を刺激期間だけ高くするので、電池の寿命を長くすることができるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る疼痛緩和装置の構成を示すブロック図である。
【図2】循環動態の電気信号を示す波形図である。
【図3】電気的刺激信号の一例を示す波形図である。
【図4】本発明の第一の実施形態に係る疼痛緩和装置の動作の流れを示すフローチャートである。
【図5】本発明の第二の実施形態に係る疼痛緩和装置の構成を示すブロック図である。
【図6】電気的刺激信号の例を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための「実施の形態例」について説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第一の実施の形態例の説明
2.第二の実施の形態例の説明
3.変形例の説明
【0015】
<1.第一の実施の形態例の説明>
本発明の第一の実施の形態の例を、図1〜図4を参照して説明する。
【0016】
[疼痛緩和装置の構成]
疼痛緩和装置は、一般的に、生体適合性を有する容器に密封され、体内に植え込まれる。この容器には外部と信号の授受を行うためのコネクタが設けられており、センサや電極リードが接続される。電極リードは、皮下トンネルを介して刺激を行う神経部位まで導かれ、電極リード上に設けられた刺激電極によって神経の刺激が行われる。疼痛緩和装置の体内への植え込み部位としては、胸部や腹部、あるいは頚部の皮下が一般的である。
【0017】
図1は、本発明の第一の実施の形態における疼痛緩和装置を示す機能ブロック図である。
図1に示すように、疼痛緩和装置101は、循環動態計測センサ102と、制御部103と、パラメータ調節部104と、図示しない電極リードを介して神経に電気的刺激信号を印可する刺激信号発生部105とよりなる。
【0018】
循環動態計測センサ102は、疼痛緩和装置101が植え込まれた患者の心拍タイミングを得るためのもので、主にセンサと増幅器とノイズ除去のためのフィルタから構成されており、計測した循環動態が電気信号として制御部103に出力できるように、制御部103と接続されている。循環動態の代表的な例としては、心電、圧脈波あるいは心音等がある。なお、循環動態計測センサ102のセンサ部分は、計測する循環動態の種類に応じた場所(生体内)に配置される。
制御部103は、循環動態計測センサ102から入力される循環動態を示す電気信号に基づいて、パラメータ調節部104を制御するものである。
【0019】
パラメータ調節部104は、制御部103からの指示に基づいて、刺激信号発生部105で発生する電気的刺激信号の刺激強度を変更するための刺激強度変更信号を出力する。
【0020】
つまり、通常時には、神経に対して第一刺激強度で電気的刺激を行い、心室収縮あるいは血液拍出のみが検出された場合には、検出した心室収縮あるいは血液拍出と同期したタイミング(心拍タイミング)で神経に対して所定期間の間、第一刺激強度よりも強い第二刺激強度で電気的刺激を行うための刺激強度変更信号を生成する。また、心室収縮あるいは血液拍出に加え、代謝要求あるいは身体活動が検出された場合は、当該タイミングで神経に対して所定期間の間、第二刺激強度よりも強い第三刺激強度で電気的刺激を行うための刺激強度変更信号を、刺激信号発生部105に出力する。
【0021】
刺激信号発生部105は、パラメータ調節部104から入力される刺激強度変更信号に応じて電気的刺激信号を生成する。通常時には、第一刺激強度の電気的刺激信号を生成しているが、パラメータ調節部104から入力される刺激強度変更信号に基づいて、生成する電気的刺激信号の刺激強度を所定期間の間、第二刺激強度あるいは第三刺激強度に変更する。ここで、生成される電気的刺激信号は、図示しない電極リードを介して神経に印可される。なお、刺激信号発生部105での刺激強度の変更は、例えば、電気的刺激信号の周波数および電圧等を変更することにより行われる。
【0022】
制御部103は、より詳細には第一検出部106と、タイマ107と、刺激期間設定値記憶部108と、比較部109と、第二検出部110から構成されている。
【0023】
第一検出部106は、循環動態計測センサ102およびパラメータ調節部104と電気的に接続されている。第一検出部106は、循環動態計測センサ102から入力される循環動態を示す電気信号に基づいて、心室の収縮あるいは血液の拍出を検出する。そして、心室の収縮あるいは血液の拍出を検出したタイミング(すなわち、心拍タイミング)で当該検出を示す信号(以下、「血液拍出検出信号」という)をパラメータ調節部104に出力する。さらに、第一検出部106は、心室の収縮あるいは血液の拍出を検出したタイミングでタイマ107を動作させる。なお、心室の収縮あるいは血液の拍出の検出の詳細については、図2に基づいて後述する。
【0024】
タイマ107は、第一検出部106が検出した心室の収縮あるいは血液の拍出からの経過時間を計測して、その経過時間を比較部109に入力する。刺激期間設定値記憶部108は、予め設定した刺激期間設定値が所定期間として記憶されているが、この刺激期間設定値は、連続する心拍の間隔より短くする必要があり、約0.3秒程度が好ましい値となる。
【0025】
比較部109は、二つの入力を比較し、どちらが大きいかで出力が切り替わる、いわゆるコンパレータである。すなわち、比較部109は、タイマ107からの経過時間と、刺激期間設定値記憶部108に記憶してある刺激期間設定値とを比較し、経過時間が刺激期間設定値よりも大きくなった段階で、経過時間が刺激期間設定値よりも大きくなったことを示す信号を生成してパラメータ調節部104に出力する。当該信号をトリガーにして、比較部109は、刺激信号発生部105が生成する電気的刺激信号の刺激強度を第二刺激強度/第三刺激強度から第一刺激強度に変更する刺激強度変更信号をパラメータ調節部104に生成させる。
【0026】
第二検出部110は、身体活動、つまり身体が動いたことを検出する、加速度センサや振動センサ、あるいは代謝要求、つまり患者の代謝が増加したことを検出する温度センサや酸素飽和度センサ等を含んでおり、これらのセンサに対応して体内に配置される。第二検出部110は、代謝要求あるいは身体活動を検出すると、代謝要求あるいは身体活動を検出している間、この検出を示す信号(以下、「身体活動検出信号」という)をパラメータ調節部104に出力する。なお、第二検出部が検出する身体活動とは、ウォーキング等の能動的な活動や乗り物に乗る等によって受ける受動的な活動の両方を含む。
加速度センサと振動センサは、疼痛緩和装置容器内に取り付けられ、能動的あるいは受動的な活動によって起こる加速度や振動を検出する。温度センサと酸素飽和度センサは、一般的に、筋肉や臓器が産生した熱や二酸化炭素を運搬する末梢静脈血液が合流する中心静脈内に留置されて、それぞれ、リードを介して疼痛緩和装置と接続される。温度センサは、中心静脈血液温度の計測により発熱や運動などの代謝要求を検出する。酸素飽和度センサは、発光部と受光部を備え、発した光の血液中での透過や反射を捉えることにより酸素飽和度を計測して発熱や運動などの代謝要求を検出する。
【0027】
〔循環動態〕
図2は、循環動態計測センサ102が計測する、さまざまな循環動態の電気信号を示す図である。
図2(a)は、心電の電気信号の時系列変化を示す心電図である。縦軸は心電を示す電気信号の信号レベルを表している。横軸は時間軸である。
心電は、疼痛緩和装置が胸部皮下に植え込まれる場合には、疼痛緩和装置を密封した容器上に心電電極を配して計測することができる。また、疼痛緩和装置が胸部から離れた場所に植え込まれる場合には、容器のコネクタに心電リードを接続し、心電リード先端にある心電電極を心電の信号レベルが大きくなる位置に植え込むことによって計測することも可能である。あるいは、経静脈的に心臓内に心電リードを挿入し、心臓内から心電を計測することも可能である。
【0028】
心電を示す電気信号は、所定の周期を持つ信号である。この心電を示す電気信号は、P波、Q波、R波、S波およびT波という5つの波で構成され、その中でも目立つQ波、R波およびS波は一括してQRS波と呼ばれる。このQRS波の発生するタイミングで心臓の心室収縮が起こる。これは心臓からの血液拍出のタイミングとほぼ一致することが知られている。
【0029】
すなわち、循環動態計測センサ102の計測対象が心電の場合、第一検出部106は、QRS波を検出することにより、心臓の心室収縮のタイミングを検出する。QRS波を検出するには、例えばQRS波が有する周波数範囲を通過させるフィルタと所定の閾値が設定されたコンパレータよりなる回路で行うことができる。
【0030】
図2(b)は、圧脈波の電気信号の時系列変化を示す図である。縦軸は圧脈波を示す電気信号の信号レベルを表している。横軸は、図2(a)の心電図と共通の時間軸である。
【0031】
圧脈波は、疼痛緩和装置が頚部皮下に植え込まれる場合には、疼痛緩和装置を密封した容器上に加速度センサを配して、頚動脈における圧脈波を計測することができる。また、疼痛緩和装置が頚部から離れた場所に植え込まれる場合には、頚動脈近くの皮下に加速度センサを留置し、加速度センサに接続されたリードを皮下トンネルを介して疼痛緩和装置の容器のコネクタに接続して計測することも可能である。
【0032】
圧脈波を示す電気信号は、血管内の血圧の変化を表す信号である。この圧脈波を示す電気信号の信号レベルの急激に増加する位置が、心臓から血液が拍出されるタイミングを示している。
【0033】
すなわち、循環動態計測センサ102の計測対象が圧脈波の場合、第一検出部106は、圧脈波を示す電気信号の信号レベルが急激に増加する位置を検出することにより、心臓からの血液拍出のタイミングを検出する。圧脈波を示す電気信号の信号レベルの急激に増加する位置も、心電図のときと同様に、フィルタと所定の閾値が設定されたコンパレータよりなる回路で検出可能である。
【0034】
図2(c)は、心音の電気信号を示す心音図である。縦軸は心音を示す電気信号の信号レベルを表し、横軸は、図2(a)の心電図と共通の時間軸を表わしている。
心音は、疼痛緩和装置が胸部皮下に植え込まれる場合には、疼痛緩和装置を密封した容器上に加速度センサを配して計測することができる。また、疼痛緩和装置が胸部から離れた場所に植え込まれる場合には、胸部皮下に加速度センサを留置し、加速度センサに接続されたリードを皮下トンネルを介して疼痛緩和装置の容器のコネクタに接続して計測することも可能である。
【0035】
心音を示す電気信号も、所定の周期を持つ信号である。この心音を示す電気信号は、心音I音、心音II音および心音III音という3つの波で構成される。
【0036】
心音I音は、心室収縮期の始まりに、右心房と右心室の間にある三尖弁と、左心房と左心室の間にある僧帽弁が閉鎖するときに発生する音で、心電図のQRS波に一致して聞こえるという特徴を持っている。すなわち、この心音I音の発生するタイミングで心臓の心室の収縮が起こり、これは心臓からの血液拍出のタイミングとほぼ一致する。
【0037】
心音II音は、心室拡張期の始まりに、肺動脈弁と大動脈弁が閉鎖するときに発生する音である。心音II音は心電図のT波よりも後に発生するという特徴を持っている。心音III音は、心室が拡張するときに心室に血液が充満する音である。この心音III音は、心音I音と心音II音に比較して微弱な信号である。
【0038】
循環動態計測センサ102の計測対象が心音の場合、第一検出部106は、心音I音を検出することにより、心臓の心室収縮のタイミングを検出する。心音III音は、心音I音と心音II音に比較して微弱なため、フィルタと所定の閾値が設定されたコンパレータにより心音I音と心音II音のみを抽出することができる。さらに、心拍周期に比較して心音I音から心音II音までの期間は短いため、心音I音を検出した後、心音I音から心音II音までの期間に相当する、予め定めた期間の間、循環動態計測センサ102からの信号を無視することで、心音II音を心音I音として誤検出することを防止できる。
【0039】
以下、循環動態計測センサ102が心電を計測するものであるとして説明を行う。
【0040】
[電気的刺激信号]
次に、刺激信号発生部105が生成する電気的刺激信号について説明する。
神経の刺激に用いる電気的刺激信号は、矩形パルス列によるバースト波が一般的である。図3は、電気的刺激信号としてバースト波を用いたときの、時系列変化を示す波形図である。縦軸は電気的刺激信号の信号レベル、すなわち電圧を表している。横軸は、図2(a)〜(c)と共通の時間軸である。図3に示す各電気的刺激信号は、縦線の1本1本が個々の矩形パルス(パルス幅は不図示)を表しており、その隣接する縦線の間隔の逆数がその周波数を示している。
【0041】
図3(a)は、第二検出部110が代謝要求あるいは身体活動を検出していない場合、すなわち第二検出部110からパラメータ調節部104に身体活動検出信号が出力されていない場合に、刺激信号発生部105が生成する電気的刺激信号を示した図である。
【0042】
図3(b)は、第二検出部110が代謝要求あるいは身体活動を検出した場合、すなわち第二検出部110からパラメータ調節部104に身体活動検出信号が出力されている場合に、刺激信号発生部105が生成する電気的刺激信号を示した図である。
【0043】
代謝要求あるいは身体活動の検出の有無にかかわらず、電気的刺激信号の周波数が変更されるタイミング、すなわちパラメータ調節部104から刺激信号発生部105に刺激強度変更信号が出力されるタイミングは、図2に示す心電図のQRS波の検出に一致する。また、刺激強度の高い所定期間が終了するタイミング、すなわち刺激信号発生部105が電気的刺激信号の周波数を変更前に戻すタイミングは、刺激強度の高い所定期間の開始から約0.3秒、つまり刺激期間設定値記憶部108に記憶されている刺激期間設定値に等しい。
【0044】
代謝要求あるいは身体活動の検出がない場合は、図3(a)に示すように、QRS波の検出をトリガーにして電気的刺激信号の周波数がf1からf2(f2>f1)に変更される。ここでの代謝要求あるいは身体活動の検出がない場合とは、パラメータ調節部104に血液拍出信号の入力があった場合のことを指す。なお、周波数f1の電気的刺激信号の刺激強度が前述の第一刺激強度に相当し、周波数f2の電気的刺激信号の刺激強度が前述の第二刺激強度に該当する。
【0045】
代謝要求あるいは身体活動の検出があった場合は、図3(b)に示すように、QRS波の検出をトリガーにして電気的刺激信号の周波数がf1からf3(f3>f2)に変更される。ここでの代謝要求あるいは身体活動の検出があった場合とは、パラメータ調節部104に血液拍出信号および身体活動検出信号の入力があった場合のことを指す。なお、周波数f3の電気的刺激信号の刺激強度が前述の第三刺激強度に相当する。
【0046】
ここで、電気的刺激信号の電圧、パルス幅、そして、第一刺激強度における周波数f1、第二刺激強度における周波数f2、第三刺激強度における周波数f3は、患者の痛みの性状に応じて、医師や患者が設定するものである。
【0047】
[疼痛緩和装置の動作]
次に、疼痛緩和装置101の動作について説明する。
図4は、本発明の第一の実施の形態における疼痛緩和装置101の動作の流れを示すフローチャートである。
【0048】
まず、循環動態計測センサ102のセンサ部分が生体内の所定の位置に植え込まれて、疼痛緩和装置101が利用可能な状態とされる(ステップS401)。このステップS401の状態になると、刺激信号発生部105で、パルス幅、パルス電流、パルス電圧等の電気的刺激パラメータが初期値に設定されるとともに、パラメータ調節部104から電気的刺激信号の周波数をf1にする刺激強度変更信号が刺激信号発生部105に与えられる。これにより、電気的刺激パラメータの周波数も初期化され、電気的刺激パラメータの初期化が完了する(ステップS402)。すると、刺激信号発生部105は、第一刺激強度、すなわち周波数f1の電気的刺激信号を生成し、この周波数f1の電気的刺激信号で神経を刺激する(ステップS403)。
【0049】
次に、循環動態計測センサ102は、生体の所定の場所に設置されたセンサを介して循環動態を示す電気信号を計測し(ステップS404)、当該循環動態を示す電気信号を制御部103の第一検出部106に出力する。このステップS404の処理と併行して、第二検出部110は代謝要求あるいは身体活動の計測を開始する。
【0050】
そして、第一検出部106は、循環動態計測センサ102から入力された、循環動態を示す電気信号に基づいて心室収縮あるいは血液拍出が検出されたか否かを確認する(ステップS405)。心室収縮あるいは血液拍出が検出されない場合は、第一検出部106は、心室収縮あるいは血液拍出が検出されるのを待つ(ステップS405のNO)。それまでは、刺激信号発生部105は、低い周波数f1の電気的刺激信号によって神経の刺激を継続する。
【0051】
心室収縮あるいは血液拍出が検出されたと判定された場合は(ステップS405のYES)、第二検出部110では代謝要求あるいは身体活動が検出されたか否かが確認される(ステップS406)。
【0052】
代謝要求あるいは身体活動が検出されない場合には(ステップS406のNO)、第一検出部106は、循環動態計測センサ102による循環動態の計測を停止させるとともに、第二検出部は、代謝要求あるいは身体活動の計測を停止する(ステップS407)。同時に、第一検出部106はパラメータ調節部104に血液拍出信号を出力する。すると、パラメータ調節部104は、刺激信号発生部105が生成する電気的刺激信号の周波数をf2に変更する刺激強度変更信号を生成する。そして、この刺激強度変更信号を刺激信号発生部105に与える。この結果、刺激信号発生部105は、周波数f1より高い周波数f2の電気的刺激信号(図3(a)を参照)を生成し、この周波数f2の電気的刺激信号による神経の刺激を開始し(ステップS408)、ステップS411の処理に移行する。
【0053】
一方、ステップS406で、代謝要求あるいは身体活動が検出された場合には(ステップS406のYES)、第二検出部110は、代謝要求あるいは身体活動の計測を停止する(ステップS409)とともに、身体活動検出信号をパラメータ調節部104に出力する。このとき、第一検出部106では、循環動態計測センサ102による循環動態の計測が停止されるとともに、血液拍出信号がパラメータ調節部104に出力される。
【0054】
血液拍出信号および身体活動検出信号を受け取ると、パラメータ調節部104は、刺激信号発生部105が生成する電気的刺激信号の周波数をf3に変更する刺激強度変更信号を生成する。そして、この刺激強度変更信号を刺激信号発生部105に与える。この結果、刺激信号発生部105は、周波数f2より高い周波数f3の電気的刺激信号(図3(b)を参照)を生成し、この周波数f3の電気的刺激信号による神経の刺激を開始して(ステップS410)、ステップS411の処理に移行する。
【0055】
続いて、第一検出部106は、心室収縮あるいは血液拍出の検出と同時にタイマ107をスタートさせ、心室の収縮あるいは血液の拍出からの時間のカウントを開始する(ステップS411)。そして、カウントした時間を比較部109に入力する。
【0056】
ここで、比較部109は、タイマ107から入力される、心室の収縮あるいは血液の拍出からの時間と、刺激期間設定値記憶部108に予め記憶された刺激期間設定値との比較を行い、どちらの値が大きいかを確認する(ステップS412)。心室の収縮あるいは血液の拍出からの時間が刺激期間設定値よりも小さい間は(ステップS412のNO)、ステップS408の処理で変更した周波数f2あるいはステップS410の処理で変更した周波数f3の電気的刺激信号による神経の刺激が継続的に行われる。
【0057】
また、ステップS412で、心室の収縮あるいは血液の拍出からの時間が刺激期間設定値に到達すると(ステップS412のYES)、比較部109は、パラメータ調節部104に信号を供給し、刺激信号発生部105が生成する電気的刺激信号の周波数をf1に変更する刺激強度変更信号を生成させるようにする。そして、パラメータ調節部104から、この刺激強度変更信号が刺激信号発生部105に与えられる。この結果、刺激信号発生部105は、周波数f1の電気的刺激信号を生成し、この周波数f1の電気的刺激信号によって神経の刺激を行う状態に戻す(ステップS413)。
以上の処理が完了した後、ステップS404の処理に戻り、ステップS404〜ステップS413の処理を繰り返す。
【0058】
以上説明したように、本発明の実施形態例では、心臓の心室の収縮あるいは心臓からの血液の拍出と同期して、電気的刺激信号により神経を刺激するようにしている。痛みは血液の拍出と同期して増強するので、痛みの拍動性と同期して神経を刺激することにより、拍動性を有する疼痛を的確に和らげることができ、患者に与える不快感を低減することが可能になる。
【0059】
また、本発明の実施形態例は、心臓の心室の収縮あるいは心臓からの血液の拍出があった時点から所定の刺激期間だけ強い電気的刺激信号を生成するようにした。すなわち、痛みが強くなる所定期間の間は、強い刺激強度の電気的刺激信号で神経を刺激し、痛みが弱くなる期間は弱い刺激強度の電気的刺激信号で神経を刺激するようにしている。これにより、電池の寿命を従来のものより長くしたり、副作用のリスクを小さくするという効果がある。
【0060】
さらに、本発明の実施形態例では、代謝要求あるいは身体活動が検出された際により強い刺激強度の電気的刺激信号で神経を刺激するようにしている。これにより、代謝要求あるいは身体活動に伴って強くなる疼痛をも和らげることもできる。
【0061】
<2.第二の実施の形態例の説明>
次に、本発明の第二の実施の形態の例を、図5を参照して説明する。以下説明において、第一の実施の形態と同様の構成については、同一符号を付して、その説明を省略もしくは簡略する。
【0062】
[疼痛緩和装置の構成]
図5は、本発明の第二の実施の形態例における疼痛緩和装置を示す機能ブロック図である。
本発明の第二の実施形態例としての疼痛緩和装置501は、電気的刺激信号の刺激強度を第三刺激強度に変更するためのトリガーとなる代謝要求あるいは身体活動(例えば、心拍数増加)の検出を、循環動態計測センサ102における循環動態の計測を利用して行う。そのため、制御部502の第二検出部503は、循環動態計測センサ102と電気的に接続されており、循環動態計測センサ102が計測している循環動態に基づいて、例えば心拍数増加を検出する。すなわち、平常時の心拍数を予め第二検出部503内に設けたメモリに保存しておき、検出された循環動態から得られる心拍数と比較し、所定以上の増加が検出された場合には代謝要求が検出されたものとする。そして、この第二検出部503において、代謝要求(心拍数増加)が検出された場合、第二検出部503は身体活動検出信号を生成し、これをパラメータ調節部104に出力する。
【0063】
以上説明したように、第二の実施形態では、循環動態計測センサで計測している循環動態を利用して代謝要求あるいは身体活動(例えば、心拍数増加)の検出を第二検出部で行えるようにする。そのため、加速度センサ、温度センサ、振動センサあるいは酸素飽和度センサ等を第二検出部に設ける必要がなくなり、装置全体の構成を簡易なものにできるとともに、装置の製作に係るコストを低減することができるという効果がある。
【0064】
<3.変形例の説明>
上述したように、第一、第二の実施の形態の疼痛緩和装置は、刺激する周波数を変化させることにより電気的刺激信号の強度を変えるものであった。このように、通常は、電気的刺激信号を所定のパルス間隔(あるいは周波数)を変化させてその強度を調節するのが一般的であるが、他方、図6(a)に示すように、周波数を変化させる代わりに、刺激期間における電圧の強さを変更するようにしてもよい。すなわち、通常時には電圧V1で電気的刺激を行い、心室収縮あるいは血液拍出のいずれかのみが検出された場合には、検出した心室収縮あるいは血液拍出と同期したタイミングで電圧V2(>V1)で電気的刺激を行い、さらに、心室収縮あるいは血液拍出のいずれかに加え、代謝要求あるいは身体活動が検出された場合は、当該タイミングで電圧V3(>V2)で電気的刺激を行うことにより、周波数の高低を変えるのと同様に刺激強度の強弱を変化させる効果が得られる。また、電気的刺激信号の強度を調節するのに、その電気的刺激パラメータである、周波数、パルス幅、パルス電流、パルス電圧の中から選ばれる複数の組み合わせで調節することも可能である。
【0065】
さらに、図6(b)および図6(c)に示すように、刺激期間における電気的刺激信号の電圧あるいは周波数を徐々に変化させてもよい。これにより、患者に対して刺激を与えるときは徐々に刺激が強くなり、刺激を弱くするときは徐々に刺激の大きさを小さくしていくので、電気的刺激信号の急激な変化に起因する違和感を和らげることができる。なお、図6の縦軸および横軸は、図3と等しいので説明は省略する。
【0066】
ところで、上述した各実施の形態例では、代謝要求あるいは身体活動が検出された場合に、固定された値(f3、V3)を第三刺激強度として用いたが、検出された代謝要求あるいは身体活動の度合いに応じて、第三刺激強度を制御することも可能である。すなわち、検出された代謝要求や身体活動が小さい場合は第三刺激強度を弱く(ただし、f2やV2よりも強く)、検出された代謝要求や身体活動が大きい場合は第三刺激強度をより強くすることも可能である。
また、、上述した各実施の形態例では、電気的刺激信号での刺激対象を末梢神経とした。刺激を行う末梢神経としては後頭神経が一般的であるが、この後頭神経の分枝である、大後頭神経、小後頭神経、第三後頭神経の少なくとも1つを刺激することも可能である。また、脊髄硬膜外に電極を留置し、後頭神経が発する領域の脊髄を刺激することも可能である。この場合、第一頚椎から第三頚椎の領域にある脊髄が好適である。さらに、刺激を行うことで片頭痛や群発頭痛の痛みを和らげることが知られている迷走神経や、片頭痛や群発頭痛に関連した脳領域の刺激に対しても適応が可能である。
【0067】
さらに、上述した各実施の形態例では、疼痛緩和装置とセンサを体内に植え込むものとして説明してきた。一般的に、疼痛緩和装置は、数日から1週間程度は、電極リードのみを植え込み、これと体外の疼痛緩和装置を接続して、その刺激の効果が確認される。このような場合においても、センサを体表に置いて心電、圧脈波、心音等を計測し、体外の疼痛緩和装置によって電気的刺激信号の制御を行うことにより、同様の効果が得られることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0068】
101…疼痛緩和装置、102…循環動態計測センサ、103…制御部、104…パラメータ調節部、105…刺激信号発生部、106…第一検出部、107…タイマ、108…刺激期間設定値記憶部、109…比較部、110…第二検出部、501…疼痛緩和装置、502…制御部、503…第二検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経を電気的に刺激するための刺激信号を発生する刺激信号発生部と、
心拍タイミングを検出する第一検出部と、
代謝要求もしくは身体活動を検出する第二検出部と、
拍動性を有する痛みを治療するために、前記第一検出部で検出した心拍タイミングの検出に応答して、所定期間の間、前記第二検出部で検出した代謝要求もしくは身体活動に基づいて、前記刺激信号発生部で発生する前記刺激信号の強度を調節するパラメータ調節部と、
を備えることを特徴とする疼痛緩和装置。
【請求項2】
前記パラメータ調節部は、刺激信号発生部から発生される前記刺激信号の強度を、前記代謝要求もしくは身体活動の大小の度合いに応じて調節することを特徴とする請求項1に記載の疼痛緩和装置。
【請求項3】
前記刺激信号発生部が発生する刺激信号は、第一の強度の刺激信号であり、
前記パラメータ調節部は、
前記第一検出部で検出した心拍のタイミングの検出に応答して、前記所定期間の間、前記刺激発生部で発生する前記刺激信号の強度を前記第一の強度よりも強い第二の強度に変更し、
前記第二検出部で代謝要求もしくは身体活動が検出された場合には、前記第一検出部で検出した心拍のタイミングの検出に応答して、前記所定の期間の間、前記刺激信号発生部で発生する前記刺激信号の強度を前記第二の強度よりも強い第三の強度に変更する
ことを特徴とする請求項2に記載の疼痛緩和装置。
【請求項4】
前記刺激信号の強度の調節は、該刺激信号のパラメータである周波数、パルス幅、パルス電流、パルス電圧の少なくとも1つ、もしくはこれらの中から選ばれる複数の組み合わせの調節によってなされる
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の疼痛緩和装置。
【請求項5】
さらに、心電図、圧脈波、心音のいずれか1つを計測するセンサ部を備え、
前記第一検出部は、前記センサ部が検出した前記心電図、圧脈波、心音のいずれか1つに基づいて前記心拍タイミングを検出する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の疼痛緩和装置。
【請求項6】
前記心拍タイミングの検出が、心室収縮もしくは血液拍出の開始の検出である
ことを特徴とする請求項5に記載の疼痛緩和装置。
【請求項7】
前記第二検出部は、前記第一検出部で検出した心拍のタイミングを利用して心拍を算出し、算出した該心拍の変動に基づいて前記代謝要求もしくは前記身体活動を検出する
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の疼痛緩和装置。
【請求項8】
前記第二検出部は、加速度センサまたは振動センサである
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の疼痛緩和装置。
【請求項9】
前記刺激信号発生部が刺激する神経は、第一頚椎から第三頚椎の間の領域の脊髄である
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の疼痛緩和装置。
【請求項10】
前記刺激信号発生部が刺激する神経は、末梢神経である
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の疼痛緩和装置。
【請求項11】
前記末梢神経は、後頭神経である
ことを特徴とする請求項10に記載の疼痛緩和装置。
【請求項12】
前記拍動性を有する痛みは、片頭痛もしくは群発頭痛である
ことを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の疼痛緩和装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−187775(P2010−187775A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33020(P2009−33020)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】