説明

癌及び結腸直腸癌性障害の診断及び療法のためのTIF1−ベータペプチド及び核酸

多くの障害、特に癌及びポリープのような腫瘍性障害は、過剰増殖性細胞又は分化障害を有する細胞の結果である。これらのタイプの障害に対しては、早期の検出が極めて重要であり、結腸直腸癌のようなよく見られるタイプの癌のための信頼できる及び早期のバイオマーカーはまだ得られていない。それ故、新規マーカー及びこうした新規マーカーを同定するための方法が必要とされている。本発明は、癌のような障害、好ましくは、ポリープのような結腸直腸癌性又は関連する障害のためのマーカー及び療法剤として適した、転写中間因子−1ベータ(TIF1−ベータ)に由来するペプチド及びタンパク質及びそれらの誘導体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
技術分野
本発明は、増殖及び/又は分化が機能不全の細胞による疾患又は障害の診断及び療法の分野である。より詳細には、本発明は癌、好ましくは結腸直腸癌性及び前癌性障害の診断に関する。特に、本発明は、癌のような、過剰増殖障害を有する細胞から、分化障害を有する細胞から、又は腫瘍性障害を有する細胞から放出される、TIF1−ベータ及び他の分子に対応するペプチド及び核酸に向けられている。多くの種類のこれらの細胞は、腫瘍又はポリープ細胞を示す。本発明のペプチド及び核酸は、異種移植片を免疫低下動物内に移植し、及び移植された細胞から放出されるペプチドを探索することにより、中でも、前記動物の血漿を分析することにより、同定される。これらのペプチド及び核酸は、腫瘍細胞又はポリープの細胞のような細胞のモデルを示す、移植された細胞のための可能性のあるマーカーである。好ましくは、本発明に従ったマーカーは、結腸又は直腸に存在する腫瘍又はポリープ細胞のためのマーカーである。さらに、本発明は、単離する方法、生物学的又は診断的サンプル中で検出するための方法、マーカー又はバイオマーカーの検出のための試験キット、及び療法においてこれらのペプチド及びそれらの対応する核酸を使用する方法に向けられている。
【0002】
背景技術
多くの疾患及び障害、特に癌は、過剰増殖障害を有する細胞又は分化障害を有する細胞が原因である。これらの種類の障害に対しては、早期の検出が極めて重要である。しかしながら、乳房、前立腺、肺及び結腸直腸癌のような最もよく見られるタイプの癌のための信頼できる及び早期のバイオマーカーはまだ得られていない。それ故、新規マーカー及びこうした新規マーカーを同定するための方法が必要とされている。
【0003】
転写抑制は、発生及び分化の多くのプロセスにおいて、ならびに癌及び関連する障害において重要な役割を果たしている。配列特異的転写抑制因子をコードする調節遺伝子は、しばしば、DNA結合ドメイン及び一つまたはそれより多くの抑制ドメインを含んでいる。これらの抑制ドメインは、転写中間因子(TIF)との相互作用によりそれらの機能を発揮する。これらのTIFは、クロマチン構造をリモデリングすることにより、(プレ)開始複合体を阻害することにより、又は標的遺伝子を、転写抑制を与える特殊化された核コンパートメントと会合させることにより機能する(Development, 2000, 127:2955-2963) 。
【0004】
これらのTIFの一つはTIF1−ベータである。TIF1−ベータに対しては、転写中間因子1−ベータ、TIF1β、TF1B、Tif1B、三者間(Tripartite)モチーフプロテイン28、TRIM28、三者間モチーフ−含有28、核コリプレッサーKAP−1、KAP−1、KRIP−1又はKRAB−会合プロテイン1のような多様な他の名前が従来の技術で使用されている。約75アミノ酸長のタンパク質ドメインであるKRAB(クルッペル(Kruppel)−会合ボックス)ドメインは亜鉛フィンガータンパク質の共通の転写抑制ドメインである。TIF1−ベータはKRABドメインと相互作用し、KRAB仲介抑制を増強する。TIF1−ベータは、ヘテロクロマチンプロテイン1ファミリーのメンバーと会合されることも知られており、そのプロテインファミリーはショウジョウバエにおける遺伝子サイレンシングに機能することが知られている(Development, 2000, 127:2955-2963)。TIF1−ベータはTIF1プロテインファミリーに属しており、それは、加えてTIF1−アルファ(推定核レセプター補因子)及びTIF1−ガンマ(機能が未知のタンパク質)を含んでなる。TIF1−アルファもTIF1−ガンマも、KRAB−亜鉛フィンガープロテインファミリーのいくつかのメンバーとは相互作用せず、又はコリプレッサーとして働かない。TIF1−ベータは初期胚発生に必須であり、TIF1−ベータ欠損マウス胚の死を生じる(Development, 2000, 127 : 2955-2963) 。TIF1−ベータ又はTIF1−ベータ断片は、癌のマーカー又は療法剤として示された又は使用されたことがない。
【0005】
発明の要旨
本発明の第一の側面は、個体における癌細胞又はそれらの前駆細胞の存在又は不存在を検出するための方法を提供する。より詳細には、前記細胞は、過剰増殖障害を有する細胞、分化障害を有する細胞及び腫瘍性細胞から成る群より選択される。本発明に従った方法は、前記個体のサンプル中のTIF1−ベータ及び/又はTIF1−ベータ断片及び/又はそれらの誘導体の量を決定すること、第一の工程の結果と、陰性対照サンプルを使用して決定された結果又は既知の基準値を比較すること、及び行われた比較の結果に基づいて前記個体中の前記細胞の存在又は不存在を決定する工程を含んでなる。好ましくは、この比較のために選択されるTIF1−ベータ断片は、配列番号1〜5に従ったTIF1−ベータ断片及び/又は誘導体及び/又はそれらの多形形態から成る群より選択され、この方法を使用して検出される細胞は、好ましくは癌細胞、より好ましくは、細胞は結腸直腸癌性又は関連する障害(結腸直腸前癌性障害)を有する細胞であり、好ましくは、この方法に使用されるサンプルは、全血、血漿、血清、脳脊髄液、リンパ液、尿、大便及び組織サンプルからなる群より選択され、好ましくは、前記TIF1−ベータ及び/又は前記TIF1−ベータの断片及び/又は誘導体及び/又はそれらの多形形態を決定するために使用される測定法はELISA、RIA、ウェスタンブロット、タンパク質チップアッセイ、質量分析、免疫組織学、フローサイトメトリー又は分子生物学的方法から成る群より選択される。
【0006】
本発明の第二の側面はペプチドであり、そのペプチドはTIF1−ベータ断片及び/又は誘導体及び/又はそれらの多形形態を含んでなり、ここで前記ペプチドは個体中に存在しないか又は改変された量で存在し、及び前記個体は、過剰増殖障害を有する細胞、分化障害を有する細胞及び腫瘍性細胞から成る群より選択される細胞を含んでなり、及び結果は前記細胞を含んでいない個体中の前記ペプチドの量と比較され、但し、前記ペプチドは、配列番号6又は7から成る群からは選択されない。好ましくは、前記個体は癌細胞、より好ましくは、直腸結腸癌性又は関連障害を有する細胞を含んでなる。好ましくは、特許請求された前記TIF1−ベータの断片は、配列番号1〜5のいずれか一つに従った配列を有する。好ましくは、特許請求されたペプチドは、少なくとも一つの追加の非TIF1−ベータアミノ酸配列を含んでなることができる。
【0007】
本発明のさらなる側面は、TIF1−ベータ断片及び/又は誘導体及び/又はそれらの多形形態を同定する方法であり、そのTIF1−ベータ断片は異種移植片を含んでなる宿主生体のサンプル中に存在し、前記異種移植片は前記TIF1−ベータ断片を放出するか、又は前記異種移植片は前記TIF1−ベータ断片の前駆体を放出し、前記方法は続いて、非ヒト宿主の生体内へ異種移植片を移植すること、及び前記非ヒト宿主の前記生体内で特定の期間、前記異種移植片を増殖させること、非ヒト宿主の前記生体からサンプルを集めること、前記サンプル中に存在する複数のペプチドの存在、不存在又は量を決定すること、及び前記異種移植片が移植されていない非ヒト宿主のサンプル中では存在していない、又は改変された量で存在しているペプチドを同定すること、及びそのペプチドはTIF1−ベータ断片及び/又は誘導体及び/又はそれらの多形形態である、の工程を含んでなる。
【0008】
さらに本発明は、前の文章に記載された方法で同定されたTIF1−ベータ断片及び/又は誘導体及び/又はそれらの多形形態を含むが、但し、配列番号6及び7に従ったペプチドは含まれておらず、及び好ましくは、前記特許請求されたTIF1−ベータの断片は配列番号1〜5のいずれか一つに従った配列を有し、好ましくは、特許請求されたペプチドは、少なくとも一つの追加の非TIF1−ベータアミノ酸配列を含んでなることができる。
【0009】
本発明のさらなる側面は、配列番号1〜5に従ったペプチドのネオエピトープ(neo−Epitope)へ特異的に結合する結合剤であり、その結合剤は配列番号6又は7に従ったペプチド(N−末端メチオニンを欠くTIF1−ベータ)には結合しない。好ましくは、これらの結合剤は抗体、断片又はそれらの誘導体である。
【0010】
本発明のまださらなる側面は、
a)本発明のペプチドをコードする核酸配列;
b)本発明のペプチドをコードする核酸配列に相補的である核酸配列;
c)最大でも配列番号6又は7をコードする核酸配列より短い核酸配列長を有する、
ストリンジェント条件下でa)及び/又はb)の核酸にハイブリダイズする核酸配列;
d)a)〜c)のいずれか一つの前記核酸配列に関して縮重されている核酸配列;
e)a)〜d)のいずれか一つの核酸配列の誘導体及び/又は断片;
f)少なくとも一つの非TIF1−ベータ核酸配列をさらに含んでなるa)、b)、c)、d)又はe)に従った核酸配列;
g)前記少なくとも一つの非TIF1−ベータ核酸配列が核酸配列のラベル化のための配列である、f)に従った核酸配列;
から成る群より選択される核酸に関する。
【0011】
好ましくは、核酸配列のラベルは核酸配列ではない。
本発明のさらなる側面は、本発明の核酸を含んでなるベクター、及び本発明の核酸を含んでなる又は本発明のベクターを含んでなる宿主細胞である。
【0012】
本発明の別の態様は、本発明に従ったペプチド、及び/又は本発明に従った結合剤、及び/又は本発明に従った核酸、及び/又は本発明に従ったベクター、及び/又は本発明に従った宿主細胞、及び障害の存在、不存在、予後又は再発を決定するために本試験キットをどのように使用するのかの説明書を含んでなる試験キット又は医薬組成物である。
【0013】
本発明の別の態様は試験キットであって、本発明に従った方法のために前記試験キットをどのように使用するのかについての説明書、又は癌、直腸結腸癌性又は関連障害からなる群より選択される疾患の治療及び/又は予防及び/又は診断のための医薬組成物を伴っており、ここで試験キット又は医薬組成物は、
a)本発明に従ったペプチド;及び/又は
b)TIF1−ベータ又はTIF1−ベータ断片及び/又は誘導体及び/又はそれらの多形形態であるペプチド;及び/又は
c)少なくとも一つの非TIF1−ベータアミノ酸を追加で含んでなる、b)に従ったペプチド;及び/又は
d)本発明に従った結合剤;及び/又は
e)TIF1−ベータに特異的な、又は断片又は誘導体又はそれらの多形形態に特異的な結合剤;及び/又は
f)本発明に従った核酸;及び/又は
g)TIF1−ベータ及び/又はTIF1−ベータ断片及び/又は誘導体及び/又はそれらの多形形態をコードする核酸;及び/又は
h)本発明に従った核酸に相補的である、又はストリンジェント条件下でハイブリダイズする核酸配列;及び/又は
i)少なくとも一つの非TIF1−ベータヌクレオチドを追加で含んでなる、本発明に従った核酸;及び/又は
j)本発明に従ったベクター;及び/又は
k)本発明に従った宿主細胞;
を含んでなる。
【0014】
本発明の別の側面は、癌、直腸結腸癌性又は関連障害からなる群より選択される疾患の治療及び/又は予防及び/又は診断のための、試験キットの製造についての、及び/又は医薬組成物の製造についての上に記載したa)〜k)のいずれか一つに従った材料の使用である。
【0015】
本発明の別の態様は、試験キット又は医薬組成物の製造のための、本発明に従ったペプチド、及び/又は本発明に従った結合剤、及び/又は本発明に従った核酸、及び/又は本発明に従ったベクター、及び/又は本発明に従った宿主細胞、及び障害の存在、不存在、予後又は再発を決定するために本試験キットをどのように使用するのかの説明書の使用である。
【0016】
発明の詳細な説明
一つの態様において、本発明は、以下に記載する細胞の存在のためのマーカーとして適したペプチド及び/又はタンパク質のような分子を同定するための、過剰増殖障害又は分化障害を有する細胞又は腫瘍性細胞を含んでなる異種移植片、好ましくはヒト組織又は細胞の異種移植片、好ましくはヒト腫瘍性組織又は細胞、好ましくはヒト結腸直腸腫瘍性組織又は細胞、又は結腸癌細胞株HCT−116が移植されている実験動物、好ましくは免疫低下非ヒト宿主、好ましくは免疫低下非ヒト哺乳類、好ましくはラット又はマウスのような免疫低下齧歯類、好ましくはSCIDマウスに関する。質量分析法のようなプロテオミクス及びペプチドミクス(登録商標)法を使用し、ペプチド及び/又はタンパク質の組成物、例えば、実験動物の血漿サンプルを分析した。例えば、マーカー分子として適しているためには、同定されたペプチド及び/又はタンパク質は異種移植片に由来し、実験動物には由来しない。ペプチド及び/又はタンパク質組成物、例えば、腫瘍細胞を移植した実験動物の生体からの血漿サンプルと対照細胞を移植した別の実験動物のペプチド及び/又はタンパク質組成物(対照細胞は腫瘍細胞と異なっている)を比較することも可能である。
【0017】
こうしたマーカー探索戦略の一つの利点は、実験動物の種間で配列が異なっているため、異種移植片に由来するペプチド及び/又はタンパク質を、実験動物に由来するものから容易に区別できることである。
【0018】
本発明の別の利点は、宿主の免疫系の攻撃にさらされることなく実験動物の生体中で異種移植片が増殖するのを可能にする、免疫低下実験動物(宿主)の使用である。このことは、例えば、腫瘍性細胞のような、いかなる種類の細胞の分析も可能にする。加えて、免疫低下実験動物は、異種移植片の結果としての炎症反応を発生しない。結果的に、本発明のペプチド及び/又はタンパク質はそれ故、こうした炎症反応の結果ではない。炎症反応は、例えば、腫瘍性障害ばかりではなく多くの異なった障害で起こり、それ故炎症を反映しているマーカーは通常あまり特異的なマーカーではないので、このことは大きな利点である。
【0019】
例えば、腫瘍性障害の可能性のあるマーカーとして本発明で同定されたペプチド及び/又はタンパク質は、実験動物の生体内で多様な「環境因子」にさらされるが、そのことは本発明のペプチドのさらなる利点である。このことは、主として典型的な「環境因子」に生き残った、又はこれらの「環境因子」の結果として発生されたペプチド(マーカー、バイオマーカー)が同定されることを保証している。タンパク質分解に非常に感受性が高い、又はアルブミンのような大量の血漿タンパク質に非常によく固着する、又はタンパク質及び/又はレセプターに結合されて循環から効率的に除去される、又は腎臓により効率的に排泄されるマーカーは、高濃度で実験動物には存在していそうもない。それ故、これらのマーカーは本発明において同定される可能性は低く、そしてまさにこれらのマーカーは腫瘍性障害のような障害のためのマーカーとしてもあまり適していない。つまり、実験動物の使用は、インビボでうまく生き残る、そしてそれ故に診断マーカーとしてより適しているペプチド及び/又はタンパク質を選択的に富化する。実験動物の生体は、患者の生体中の可能性のあるマーカーの運命をシミュレートする。それ故、TIF1−ベータ断片のような同定されたマーカーは、例えば、ヒト癌患者においての使用に最も適しているマーカーを意味する。
【0020】
本発明の別の利点は、例えば、過剰増殖障害を有する細胞から生じる、及び/又は分化障害を有する細胞から生じる、及び/又は腫瘍性細胞、即ち、増殖及び分化が機能不全である細胞から生じる障害の多くの追加の特徴を分析でき、及びその結果として特別に都合がよい特徴を有するマーカーを同定することができることである。例えば、腫瘍のサイズ、腫瘍の物理的位置、転移を起こす腫瘍の傾向、腫瘍のタイプ(例えば、特定のレセプターについて陽性である結腸腫瘍)などのような腫瘍(腫瘍性細胞)の特定の特性又は特徴と相関したマーカーを同定することが可能である。これらのタイプのマーカーはすべて、マーカー同定のためにインビトロ増殖腫瘍細胞を使用する他の方法を使用しては、ほとんどの場合同定することはできない。一方、ヒト患者を実験動物同様に操作する又は処置することは倫理的に正当と認められないので、定義された特定の特性又は特徴を有するヒト患者から腫瘍サンプルを得ることは困難である。加えて、標準化条件下で収容されている遺伝的にほとんど同一である純系実験動物よりも、ヒト患者はその表現型に関してはるかに多様である。それ故、ヒト患者サンプルで直接的に作業する実験研究は、はるかに多くの未特定の及び未知の変異物を含んでなり、もし本発明に記載した方法が使用されるならば検出可能であるマーカーを隠すことができる。
【0021】
本発明のマーカーのさらなる利点は、過剰増殖障害を有する細胞及び/又は分化障害を有する細胞及び/又は腫瘍性細胞の同定されたマーカーは、患者のような、生きている生体内の前記細胞を除去する、殺す、又は増殖又は生存能を抑制するための治療の成功を予期するためにも適することができるという可能性である。生存能とは、細胞はまだ生きているが、少しも増殖することがない、又は通常の速度よりも遅い速度で増殖することを意味する。それ故、本発明に記載した方法で、療法成功をモニタリングするための、又はさらに、治療が開始される前にもかかわらず療法成功を予測するためのマーカーを同定することが可能である。このことは一般に、過剰増殖障害を有する細胞の特定のタイプ、及び/又は分化障害を有する細胞の特定のタイプ、及び/又は腫瘍性細胞の特定のタイプで行うことができるが、しかし特定の個々の患者の純化された細胞又は組織で行うこともでき、それにより、個々の患者において、障害のための、又は療法成功を予測するための、又は治療された障害の潜在的再発をモニターするための、オーダーメードの、患者特異的マーカーを同定する。
【0022】
実験動物/免疫低下宿主
好ましくは、使用される実験動物は非ヒト宿主、非ヒト哺乳類、好ましくは齧歯類、好ましくはマウス又はラット、好ましくは損なわれた免疫システムを有する動物、例えば免疫システムの機能障害の理由に関わらず、免疫低下動物である。免疫低下動物とは、前記動物とは異なった種からの異種移植片、好ましくはヒト細胞、ヒト組織、ヒト器官、ヒト 腫瘍などに由来する異種移植片が、前記免疫低下動物の免疫システムにより破壊されることなく前記動物の生体内で、より長い期間生き残る程度まで抑制されている免疫システムを有するいずれの種類の動物も意味する。より長い期間とは、少なくとも1日、好ましくは2、3、4、5、6、7、14、21、28日、1、2、3、4、5又は6ヶ月又はさらにより長い期間を意味する。増殖速度及び細胞の数又は組織の量又は腫瘍のサイズ又は異種移植片を示している器官に依存して、異なった期間が可能である。速く増殖する異種移植片は、数日から数週間の範囲のほんのより短い期間のみで増殖することができ、一方、より遅く増殖する又は増殖していない異種移植片は、数ヶ月の範囲のより長い期間にわたって動物の生体内に存在することができる。動物はいずれの種でもあることができるが、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヤギ、ブタ、サル、イヌ、ネコなどのような実験室で通常使用される種が好ましい。
【0023】
損なわれた免疫システムの理由は、中でも、動物の天然の遺伝子欠失、動物の障害、又は動物の実験的処置であり得る。実験的処置は、中でも、動物の外科的改変、動物の物理的処置、動物の遺伝子操作、又は動物の免疫システムを抑制又は破壊する物質による動物の処置であり得る。免疫低下動物を生じる外科的改変の例は、胸腺の外科的除去である。低下した免疫システムを生じる動物の物理的処置の例は、照射又は全動物の亜致死的照射による骨髄の破壊である。実験動物の遺伝子欠陥は、天然に存在する突然変異により、又は、例えば遺伝子ノックアウト動物又はトランスジェニック動物を生じる、動物の実験的に誘導されたランダム又は特異的突然変異により起こすことができる。低下した免疫システムを生じる遺伝子欠陥の例は、SCIDマウス(重度複合免疫不全)、Prkdc(プロテインキナーゼDNA活性化触媒ポリペプチド遺伝子欠陥)、ヌードマウス及びラット(Foxn1(フォークヘッドボックスN1)欠陥)、Rag1マウス(Rag1=組換え活性化遺伝子1)、ベージュマウス(bg<J>変異)及びFoxn1、Prkdc、Rag1、bg<J>遺伝子、MHC II(主要組織適合性クラスターII)及びADA(アデノシンデアミナーゼ)を含んでなる群より選択される、少なくとも一つの遺伝子欠損を有する他の種の動物である。遺伝子欠陥を有するこれらの実験動物は、例えば、Jackson Laboratories, Bar Harbor, ME, USA から又はTaconic Farms, Germantown NY, USA から入手可能である。例えば、異なった遺伝的免疫低下マウス株の交雑により、又はその骨髄の完全な破壊を生じる正常ラットの照射、続いて、ある種のSCID様ラット(Transplantation, 1997, 64:1541-50)を生じる、例えばSCIDマウスの骨髄の照射ラットへの移植により、二つ又はそれより多くの免疫低下動物モデルを組み合わせることが可能である。さらに、例えばサル免疫不全ウイルス又はサル/ヒト免疫不全ウイルスのような特定のウイルスは免疫低下動物を生じ、その結果としてこうしたウイルスに感染した実験動物を、本発明に従って使用することができる。免疫システムを抑制する物質(免疫抑制剤)を、本発明に従った異種移植片の生存及び/又は増殖を可能にするために使用することができる。こうした薬剤の例は、中でも、シクロスポリン、コルチゾン、プレドニゾロン、アザチオプリン、シクロフォスファミド、タクロリムス(プレドニゾン)、ミコフェノレート及びシロリムスである。T−細胞機能を阻害する抗CD3抗体のような特定の抗体(ムロモナブ−CD3)も、免疫抑制剤として使用することができ、実験動物において異種移植片の生存及び/又は増殖を可能にする。
【0024】
免疫低下動物の代替物
免疫低下実験動物を使用する代わりに、実験動物の細胞、特に免疫細胞から物理的に分離されている実験動物内の一つのコンパートメントで異種移植片を増殖させることが可能である。このことは、例えば、宿主生体の免疫細胞とは接触を有しないが、同時に宿主により代謝物が供給され、そして逆にゲル又はマトリックスを介して宿主の生体中へ物質を拡散することができることを保証している、Discovery Labware, Bedford, MA, USA からのマトリゲル(登録商標)のようなゲル又はマトリックス中に固定された細胞を移植することにより達成することができる。宿主の生体に連結されているゲル又はマトリックスを使用することの代わりに、例えば、膜の孔サイズが細胞の通過を防止するには十分小さいが、ペプチド、タンパク質及び代謝物の拡散を許容するには十分に大きな膜を使用することができる。一般には、ペプチド及び/又はタンパク質及び代謝物が異種移植片に到達する及び異種移植片から離れることができ、その間同時に異種移植片の細胞と宿主の細胞間に物理的接触がないことを保証する、すべての種類のコンパートメント及び方法を使用することができる。これらのコンパートメントは実験動物の生体内に存在することができ、あるいは動物の生体の外側に存在することもできる。もしこれらのコンパートメントが実験動物の外側にあれば、これらは、例えば、動物の血液循環をコンパートメントに連結しているが、それでも異種移植片を含んでなるコンパートメント内のチャンバーに血液の細胞が入るのを防止している管材料の使用により、実験動物の生体に連結することができる。
【0025】
癌細胞及びそれらの前駆細胞
本発明に従った方法で、癌細胞又はそれらの前駆細胞の存在又は不存在を決定することが可能である。癌細胞はしばしば改変された増殖及び/又は分化可能性を有する。加えて、癌細胞は改変された分化状態を有する。癌細胞の前駆細胞には、最終的に癌細胞に発達することができる過形成性ならびに形成異常細胞が含まれる。癌細胞及びそれらの前駆細胞は、過剰増殖障害、分化障害及び/又は腫瘍性障害の一部である。
【0026】
過剰増殖障害、分化障害及び腫瘍性障害
それ故、本発明のペプチドを同定するために使用される方法は一般に、過剰増殖障害及び/又は分化障害及び/又は腫瘍性障害を有する癌細胞又はそれらの前駆細胞のマーカーを同定するために使用することができる。過剰増殖障害とは、細胞の増殖が正常な健康細胞におけるように厳重に調節されておらず、過剰増殖細胞の非制御増殖を生じることを意味する。このことは、しばしば健康な近隣の細胞及び組織の破壊及び抑制を生じる。正常な健康細胞は通常、接触阻止と称される他の細胞との接触により、組織内でのそれらの増殖速度及びそれらの増殖が制限されている。
【0027】
細胞は通常、分化の特定の状態を示す一つの状態の形態で生体中に存在する(例えば、特定の機能のための細胞の特殊化の結果として、特定の程度まで細胞の機能は限定されている、例えば、マクロファージ、白血球、間質細胞、脂肪細胞、筋肉細胞など)。他の機能的特性を伴う特定の他の種類の細胞へさらに分化する能力を有する、特定の種類の細胞も生体中に存在する。通常、分化はより特殊化されていないタイプの細胞からより特殊化されたタイプの細胞へ起こる。分化障害を有する細胞とは、他の機能又は特性を有する細胞へ分化する細胞を意味し、そしてその分化はこの種類の細胞では通常は生じない。分化障害を有するこれらの細胞の改変された分化は、より特殊化された細胞を生じることができるか、又はより特殊化されていない細胞を生じることができる。特に癌細胞は非常にしばしば改変された、正常ではない分化状態を有し、そしてしばしば、より特殊化されていない細胞に分化するか、又は胚性細胞又は幹細胞により典型的なタイプの細胞に分化する。過剰増殖障害及び分化障害には腫瘍性ならびに非腫瘍性障害が含まれる。過剰増殖障害及び分化障害又は細胞の機能不全は、前立腺癌、乳癌、肺癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、肛門癌、卵巣癌、子宮癌、体(corpus)癌、子宮頚部癌、甲状腺癌、膀胱癌、胃癌、肝臓癌、非ホジキンリンパ腫のような血液細胞の癌、又はポリープ、いぼ、胞、過誤腫、白斑、アトピー性皮膚炎、過剰増殖又はUV反応性皮膚疾患、乾癬、日光性角化症、頚部異形成症、紅色肥厚症、白斑症、リンパ腫様肉芽腫症、前白血病、色素性乾皮症、リンパ腫様丘疹症のような癌へ最終的には転換することができる他の障害又は前癌性又は前悪性障害を生じる。特定のウイルス感染も、トリ白血病、トリ肉腫、マレック病、肺腺腫症、ウイルス性疣贅、マウス後天性免疫不全、エプスタイン・バーウイルス感染症及びパピローマウイルス感染症のような過剰増殖障害又は分化障害を起こすことができる。
【0028】
障害
生体に関した又は個体に関した障害とは、生物学的、生理学的、精神的、心理的又は個体の生体の他の機能の変化の結果としての、損なわれた健康、減じられた余命、又は減じられた生活の質を生じるすべての種類の生物学的変化及び疾患を意味する。
【0029】
細胞に関した障害とは(過剰増殖障害を有する細胞、分化障害を有する細胞、腫瘍性細胞、癌細胞、結腸直腸癌及び関連する細胞、ポリープ細胞など)、増加した細胞増殖、増加した細胞の寿命、転移を形成する特性を有する細胞、胚性細胞の特徴を有する細胞のようなより特殊化していないタイプの細胞に導く改変された分化段階を有する細胞、を示す細胞の表現型を生じる、すべての種類の生物学的、生化学的又は他の変化を意味する。
【0030】
結腸直腸癌性又は関連する障害
以下で同義に使用される「結腸直腸癌性又は関連する障害」及び「結腸直腸癌性又は結腸直腸前癌性障害」とは、結腸又は直腸のすべての種類の癌又は前癌状態、ならびに結腸又は直腸癌に付随する、又は過剰増殖障害を有する細胞、分化障害を有する細胞、腫瘍性細胞に付随する結腸又は直腸の他の疾患を意味する。中でも、遺伝的条件又は素因、例えば、結腸又は直腸の癌に転換する見込みを有する前癌性障害を含むすべての種類の癌又は癌様障害が、「結腸直腸癌性又は関連する障害」及び「結腸直腸癌性又は結腸直腸前癌性障害」の定義に含まれている。癌に転換する見込みを有する障害の中で、結腸又は直腸にポリープの存在が主として重要である。ポリープ(病理学上は意味がない臨床的用語)とは、腸壁から生じ、そして内腔内に突き出しているなんらかの組織の塊である。ポリープは無茎性でも又は有茎性であることもでき、サイズはかなり変化する。こうした病変又はポリープは、管状腺腫、乳頭状腺腫(絨毛ポリープ)、絨毛(乳頭)腺腫(腺癌あり又はなし)、過形成性ポリープ、過誤腫、若年性ポリープ、癌腫性ポリープ、偽ポリープ、脂肪腫、平滑筋腫、又は他のよりまれな腫瘍として組織学的に分類される(The Merck Manual of Diagnosis and Therapy, 17th edition, 1999, page 326-330)。本発明に従ったすべてのこうした病変又はポリープは、「結腸直腸癌性又は関連する障害」及び「結腸直腸癌性又は結腸直腸前癌性障害」とみなされる。本発明に従ったさらなる「結腸直腸癌性又は関連する障害」及び「結腸直腸癌性又は結腸直腸前癌性障害」には、リンチ症候群、ガードナー症候群、ポイツ−ジェガース症候群及びクローン病、家族性ポリポージス、慢性潰瘍性大腸炎及び肉芽腫性大腸炎が含まれる。
【0031】
異種移植片
本発明に従った異種移植片は、異種移植片が移植された実験動物又は宿主とは異なった種に由来する、少なくとも一つの細胞を含んでなる。異種移植片は、一つまたは一つより多くの細胞、組織、腫瘍又は全器官を含んでなることができる。異種移植片は、均質な細胞の集団(例えば、細胞株の単一クローン)であることができ、又は多様なタイプの細胞の混合物であることができる。それは過剰増殖及び/又は分化及び/又は腫瘍性障害を有する細胞の混合物であることができ、及びそれは加えて、過剰増殖又は分化又は腫瘍性障害に冒されていない正常な健康細胞を含むことができる。特に、もし組織、器官又は腫瘍が異種移植片として使用されるならば、これらの異種移植片は通常、多様なタイプの細胞、例えば、多様な分化段階の腫瘍細胞をしばしば含んでなる腫瘍、及び加えて健康な正常細胞を含んでなる。過剰増殖障害を有する細胞、分化障害を有する細胞及び腫瘍性細胞間の明確な区分は、それらは一つのタイプの細胞から他の細胞へなめらかに移行することができ、又は細胞は同時に分化及び過剰増殖障害を有することができるため、しばしば容易ではない又は不可能である。二つ又はそれより多くの異なった異種移植片を単一の実験動物内へ移植することも可能である。好ましい組織及び細胞の種類は、マウス、ラット、サル、ハムスターなどのような多様な種、しかし好ましくは哺乳類、より好ましくはヒトからの腫瘍細胞株、原発性腫瘍細胞、腫瘍組織又は全腫瘍である。好ましくは、細胞、組織、器官又は腫瘍は、結腸直腸癌腫又は関連する障害のモデルとして適しているものである。多くのこのような腫瘍細胞株が、American Tissue Type Collection (ATCC, Manassas, IL, USA) のような供給元から、European Collection of Cell Cultures (ECACC), Salisbury, United Kingdom から、又は「Deutsche Stammsammlung fur Mikroorganismen und Zellkulturen」 (DSMZ) (German Collection of Microorganisms and Cell Cultures), Braunschweig, Germany から入手可能である。原発性腫瘍細胞、腫瘍組織又は全腫瘍は、腫瘍を自然に発生した動物又はヒトから手術的方法により得ることができ、又はそれらは、発癌性化学物質又は生物学的製剤で処理した、又は腫瘍細胞の出現を促進する照射、特定のウイルス感染などのような方法で処理した実験動物から得ることができる。
【0032】
異種移植片は、限定されるわけではないが、腹腔、脳、皮膚、血液系、肝臓、腎臓、肺、心臓、筋肉、脂肪組織、皮膚、骨髄のような器官、脚、腕、手、足、耳、尾部内などを含む実験動物の生体のいずれの一部内へも移植することができる。移植は手術的に、又は例えば、静脈内、皮下、腹腔内などの注射による、一回又は繰り返しの細胞の注射により行うことができる。移植は、個々の実験動物の生体の一つより多くの部分内へ行うことができる。異種移植片のサイズ又は移植された異種移植片の細胞数は、少なくとも1細胞、好ましくは30以上、300以上、3000以上、30000以上、300000以上、3000000以上、30000000以上、300000000以上又は好ましくは、3000000000細胞以上である。一般に、実験動物が小さいほど、異種移植片として使用される細胞数は少なくなるべきである。実験動物内に移植された異種移植片は、好ましくは、実験動物の全細胞数の0.000000001%以下、好ましくは0.00000001%以下、好ましくは0.0000001%以下、好ましくは0.000001%以下、好ましくは0.00001%以下、好ましくは0.0001%以下、好ましくは0.001%以下、好ましくは0.01%以下、好ましくは0.1%以下、好ましくは実験動物の全細胞数の1%以下であるべきである。もし、異なったサイズへ増殖している異種移植片が比べられるならば、それらのサイズ(細胞の数、組織、器官又は腫瘍の容量、組織、器官又は腫瘍の湿潤重量として測定される)は、好ましくは少なくとも10%、好ましくは20%、30%、40%、50%、70%、100%、150%、200%、400%、600%、1000%、2000%又は好ましくは少なくとも5000%異なっている。もし非ヒト宿主内の異なった物理的位置で増殖している異種移植片が比較されるならば、これらの異種移植片は好ましくは、宿主の最大体長の少なくとも1%、好ましくは2%、好ましくは5%、好ましくは10%、好ましくは20%、好ましくは30%、好ましくは少なくとも50%の距離で増殖させるべきである。宿主がマウス又はラットのような非ヒト哺乳類である場合、実験動物の最大体長は、好ましくは鼻の先端から尾の末端までが測定することができる。もし異なった期間の間に増殖した異種移植片が比較されるならば、増殖時間差は好ましくは1日以上、好ましくは2日以上、3日以上、4日以上、5日以上、6日以上、7日以上、10日以上、14日以上、21日以上、28日以上、1ヶ月以上、2ヶ月以上、3ヶ月以上、4ヶ月以上、5ヶ月以上、好ましくは6ヶ月以上であるべきである。
【0033】
異種移植片の細胞は、異種移植片として使用する前に又は間に、多様な方法で操作することができる。インビトロ、又は免疫適格又は免疫低下実験動物中で異種移植片を増殖させることは、単に異種移植片の細胞を単に増殖させるように、又は異種移植片の細胞の分化段階を変化させるように行うことができる。もしくは、異種移植片の細胞を、特定の特徴の細胞について異種移植片の細胞を純化又は富化することを意図して、化学療法剤、増殖因子のような物質で処理すること、又はウイルスで感染させること、又は放射線照射にかけることができる。これらの特徴は、中でも、より速い又はより遅い細胞の増殖速度、遺伝子突然変異での又は増加した又は減少した突然変異率での細胞の選択、それらの分化グレードの変化での細胞の選択、転移を形成するより高い又はより低い傾向での細胞の選択、又は好ましくは転移で増殖する、又は好ましくは特定の器官又は組織中、転移で増殖する傾向での細胞の選択、癌放射線療法、癌手術、癌化学療法、癌ホルモン療法などのような特定の抗癌治療により抵抗性である又はより抵抗性が低い、より高い又はより低い生存率での細胞の選択であり得る。
【0034】
異種移植片の細胞は、例えば、繰り返し移植すること、別の実験動物内でそれらを増殖させること又は再移植することにより操作することができる。それらは、ガンマ照射、ニュートロン照射、電子照射又はプロトン照射のような放射活性照射により操作することができる。放射線照射は、外部ビーム放射線照射により、又は細胞又は実験動物に直接適用された放射活性物質の使用により行うことができる。異種移植片の細胞は、抗生物質、癌化学療法剤又は他の医薬、増殖因子、血管新生因子、細胞分割及び/又は分化を促進する又は阻害する因子、遺伝子突然変異を促進する又は阻害する物質、異種移植片の特定の下位集団、例えば、癌化学療法に耐性のある細胞を選択的に富化することを可能にする物質などで、インビトロ又はインビボで処理することができる。例えば、腫瘍細胞は実験動物内へ注射することができ、そしてその動物は抗癌剤で処理することができ、そして続いて、残っている今やより薬剤耐性の腫瘍細胞を実験動物から単離でき、そして、本発明に記載されている方法を使用して、薬剤耐性腫瘍細胞のマーカーを同定するために、別の実験動物で使用する。
【0035】
使用することができる、及び異種移植片の細胞に多様な効果を有する物質には、限定されるわけではないが、抗癌剤のような小さな有機又は無機分子、ペプチド、タンパク質及び核酸、例えば、薬剤耐性遺伝子をコードする、癌遺伝子をコードする、血管新生又は抗血管新生遺伝子をコードする、腫瘍抑制遺伝子をコードする核酸、例えば、突然変異率を増加させる、又は細胞の不死化を生じる、又は発癌などを誘導するベクター又はウイルス、又は癌遺伝子又は腫瘍抑制遺伝子の発現を修飾できるアンチセンス、リボザイム、RNAiなどのような核酸分子が含まれる。適した物質は、中でも、メクロレタミン、クロラムブシル、シクロホスファミド、メルファラン又はイフォスファミドのようなアルキル化薬剤、メトトレキセート、β−メルカプトプリン、5−フルオロウラシル、シタラビン、ゲムシタビン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン、パクリタキソール、ドセタキセル、エトポシド、イリノテカン又はトポテカンのような代謝拮抗薬、ドキソルビシン、ブレオマイシン又はマイトマイシンのような抗生物質、カルムスチン又はロムスチンのようなニトロソ尿素、シスプラチン又はカルボプラチンのような無機イオン、インターフェロン、インターロイキン、インターロイキン−2又は腫瘍壊死因子(TNF)のような生物応答修飾因子、アスパラギナーゼのような酵素、又はタモキシフェン、リュープロリド、フルタミド又は酢酸メゲストロールのようなホルモン、エプスタイン・バーウイルス、乳頭腫ウイルス又は他の腫瘍原性ウイルスのようなウイルス又はベクターである。
【0036】
サンプル、陰性対照サンプル、基準値及びサンプルの比較
本発明に従うと、ペプチド及び/又はタンパク質を含んでなるいずれのサンプルもサンプルとして適している。好ましくは、サンプルは全血、血液細胞(白血球、B細胞、T細胞、単球、マクロファージ、赤血球及び血小板のような)、血清、血漿、血液濾過物、脳脊髄液、尿、リンパ液、リンパ節組織、ポリープ又は他の組織及び器官のような腫瘍組織又は腫瘍関連組織、ならびにそれらの組み合わせである。好ましくは、宿主は哺乳類、霊長類、齧歯類、ヒト、マウス又はラットである。好ましくは、サンプルは少なくとも10、好ましくは少なくとも50、好ましくは少なくとも100、好ましくは少なくとも200、好ましくは少なくとも600及び好ましくは少なくとも1200の異なったペプチド及び/又はタンパク質を含んでなる。好ましくは複数のペプチド及び/又はタンパク質がサンプルから決定され、それは好ましくは少なくとも10、好ましくは少なくとも50、好ましくは少なくとも100、好ましくは少なくとも200、好ましくは少なくとも600、及び好ましくは少なくとも1200のペプチド及び/又はタンパク質が決定されることを意味する。決定されるとは、これらのペプチド及び/又はタンパク質が定性的及び/又は定量的に分析されることを意味する。引き続いて、陰性対照サンプル中に存在する、又は存在しない同一のペプチド及び/又はタンパク質との相違、又は基準値との相違を同定する(以下において、ペプチドの改変された量とも称される)。比較されるべきサンプルは、中でも、異種移植片を有さない、又は異なった異種移植片を有する宿主からのサンプルと比較された、異種移植片を含んでなる宿主に由来するサンプルである。別の態様において、異なった期間増殖した異種移植片を有する宿主からのサンプル、もしくは、宿主の生体内の異なった物理的位置で増殖したサンプル、又は異なったサイズに増殖した異種移植片を有する宿主からのサンプルが比較される。加えて、異種移植片を有する宿主からのサンプルが、異種移植片を除去するための、又は異種移植片の細胞を殺すための又は異種移植片の細胞の増殖又は生存率を抑制するための療法で治療された宿主からのサンプルと比較することができる。別の側面において、異なって治療された異種移植片を有する宿主からのサンプルがお互いに比較され、又は異種移植片を含んでなる宿主からの血漿サンプルが、同一の異種移植片を含んでなる同一の又は異なった宿主からの尿サンプルと比較することができる(又はサンプルの他の組み合わせの比較)。一つの時点からの/一つの物理的位置からの/一つの異種移植片サイズからの/一つの療法で治療した異種移植片からの/一つの種類のサンプル源、例えば血漿からの/などのサンプルは、試験されるべき個体からのサンプルであり、別の時点からの/別の物理的位置からの/別の異種移植片サイズからの/別の療法で治療した異種移植片からの又は療法で治療されていない異種移植片からの/別の種類のサンプル源、例えば尿からの/などのサンプルは、陰性対照サンプルである。異種移植片間に相違を生じる可能な因子は、異種移植片の細胞の異なった段階、特定の癌遺伝子、腫瘍抑制遺伝子、転写因子、成長ホルモンのレセプター、血管新生因子のレセプター、ケモカインのレセプター、サイトカインのレセプター細胞表面の接着分子、接着分子の結合パートナー、分泌されたケモカイン、サイトカイン、ホルモン、プロテアーゼ、血管新生又は抗血管新生因子などの存在又は不存在であり得る。すべてのこれらの比較の結果は、未知のアイデンティティーの異種移植片を有する宿主のサンプルの引き続いての分析を可能にし、未知の異種移植片が急速に又は徐々に増殖するであろうか、本来移植された局在位置から離れた体の局在位置で増殖する傾向を有しているであろうか(例えば、転移)、又はどの種類の癌遺伝子、腫瘍抑制遺伝子、レセプター及びリガンドを異種移植片が含んでなるかどうかが判断される。最後に、この知識は、例えば、未知の過剰増殖障害を有する細胞及び/又は分化障害を有する細胞及び/又は腫瘍性障害を有する細胞を有するヒト患者に拡大することができる。この情報は、個体又は患者又は宿主内の前記細胞の存在及び特性を診断するために、及び個体又は患者の生体中に存在する、細胞の特別のタイプ及び特性に療法を正確に調整するために使用することができる。このことは、どの治療を個体又は患者がとらなければならないかを予測することも可能にするであろうし、又は前記細胞により起こされる障害の再発可能性について、個体又は患者をモニターすることを可能にするであろう。
【0037】
本発明に従ったペプチド及び/又はタンパク質の量変化とは、サンプルと陰性対照サンプル間でペプチドの量が異なることを意味する。本発明に従った用語「量」とは、物質の存在又は不存在、又は物質の決定された定量的又は半定量的、相対的又は絶対的濃度又は量を意味する。好ましくは、改変されたサンプルと陰性対照又は基準値間の物質の量は、例えば、少なくとも5%、好ましくは10%、好ましくは20%、好ましくは40%、好ましくは60%、好ましくは100%異なっており、好ましくは少なくとも2倍、好ましくは少なくとも5倍、好ましくは10倍、好ましくは20倍異なっており、好ましくは少なくとも50倍異なっている。サンプルと陰性対照サンプル間の相違は、二つの値の低い値に対して常に計算する。サンプルにおいてあるいは陰性対照サンプルにおいて、ペプチド及び/又はタンパク質が検出不能であること、又は検出に使用した方法の検出限界以下であることもあり得る。
【0038】
本発明に従った基準値は、例えば、経験的に決定することができる。この目的のため、過剰増殖障害を有する細胞、分化障害を有する細胞及び腫瘍性細胞、から成る群の細胞の存在又は不存在に関して定義された状態を有する個体からの一連のサンプルにおける、ペプチド(単数又は複数)の濃度が測定される。
【0039】
過剰増殖障害及び/又は分化障害及び/又は腫瘍性障害を有する細胞の特性は、本発明の方法で同定されたマーカーの量変化と相関させることができる。一般に、マーカーと前記細胞の特性間の相関は負の又は正の相関であり得る。例えば、もし特定のマーカーが患者サンプル中で上昇すれば、このことは腫瘍性細胞が前記患者において転移として増殖していることを示すことができ(マーカーと転移活性の正の相関)、もし特定の他のマーカーが患者サンプル中で上昇すれば、このことは、前記患者に存在する腫瘍性細胞は転移として増殖していないことを示すことができる(マーカーと転移活性の負の相関)。一つ以上のマーカーの一団が前記細胞の特性を予測するために必要とされることも可能であり、例えば、もし一つのマーカーの量が上昇し、及び第二のマーカーの量が上昇し、そして第三のマーカーの量が減少するならば、前記患者に存在する腫瘍性細胞は転移として増殖していない。好ましくは、20以上、好ましくは20まで、好ましくは10まで、好ましくは7まで、好ましくは5まで、好ましくは4まで、好ましくは3まで、好ましくは2まで、好ましくは1つのみの異なったマーカーが、前記細胞の特定の特性を予測するために、又は前記細胞のいくつかの特定の特性を予測するために必要とされる。異なったマーカーとは、これらのペプチドが同一の又は異なったタンパク質又はペプチド配列の配列に由来しているかどうかに関わらず、それらの配列、又は翻訳後修飾のようなそれらの配列の修飾が異なっている、すべての種類のペプチドを意味する。
【0040】
ペプチド及びタンパク質
用語「ペプチド」とは、2又はそれ以上、好ましくは3又はそれ以上、4又はそれ以上、6又はそれ以上、8又はそれ以上、10又はそれ以上、13又はそれ以上、16又はそれ以上、好ましくは21又はそれ以上の、ペプチド結合により共有結合で連結されたアミノ酸を指す。大きなペプチドは通常タンパク質と称されるが、一般にペプチドとタンパク質は同義語である。天然に存在するタンパク質に対しては、用語「TIF1−ベータ」は本明細書において、語ペプチド又は断片の付加なく使用される(例えば、及びTIF1−ベータペプチドではなくTIF1−ベータ、又はTIF1−ベータ断片ではなくTIF1−ベータ)。そのことは、TIF1−ベータは、TIF1−ベータのプロセシングにより除去されるであろうN−末端メチオニンを有する又は有していないTIF1−ベータの完全アミノ酸配列を指すことを意味する。TIF1−ベータ断片はTIF1−ベータペプチドと同義語である。好ましくは、本発明のペプチド及び/又はタンパク質は、少なくとも30%、好ましくは40%、好ましくは50%、好ましくは60%、好ましくは70%、好ましくは75%、好ましくは80%、好ましくは85%、好ましくは90%、好ましくは95%、好ましくは97%、好ましくは99%、好ましくは99%以上の純度で精製されている。本発明のペプチド及び/又はタンパク質は、サンプルペプチド及び/又はタンパク質の誘導体及び/又は多形形態、例えば、特定のペプチド又はタンパク質の非グリコシル化形態、及び前記ペプチドの一つ又はいくつか異なってグリコシル化された形態のような類似のペプチド及び/又はタンパク質の混合物を含んでなることができる。グリコシル化、リン酸化などのような特定の修飾は、天然のように必ずしもすべての分子がこれらの修飾を受けず、又はいくつかの修飾が一部にのみ起こるように、又は可逆的であるか又は特定のペプチド又はタンパク質の異なった誘導体間に平衡が存在するように、さもなくば均質なペプチド又はタンパク質サンプルのすべての分子中には存在しないことが普通である。
【0041】
本発明に従った用語「ペプチド」及び「タンパク質」は、アミノ酸のみを含んでなる化合物、ならびに炭水化物、脂質、リン基などのような非アミノ酸構成物も含んでなる化合物を含み、及びペプチド結合のみを含んでなる化合物及び他の結合、例えば、エステル、チオエステル又はジスルフィド結合も含んでなる化合物を含む。
【0042】
さらに、用語TIF1−ベータ又はTIF1−ベータ断片は、本明細書開示された、配列のすべての天然に存在する突然変異を含む。特に含まれるのは、癌細胞又は癌細胞の前駆体、特に結腸直腸癌細胞又はポリープ細胞のような結腸直腸癌細胞の前駆体に付随しているTIF1−ベータ配列の突然変異である。
【0043】
ペプチドの修飾
本発明に従ったペプチド又はタンパク質の修飾は、翻訳後修飾、化学修飾、酵素的修飾による修飾及び他の機能による修飾を含んでなることができる。可能な修飾の例には、限定されるわけではないが:グリコシル化、リン酸化、スルファチル化、ピログルタミン酸修飾、システイン−ジスルフィド架橋、チオエステル架橋、メチル化、アセチル化、アシル化、ファメシル化、ホルミル化、ゲラニルゲラニル化、ビオチン化、ステアロイル化、パルミチル化、リポ化、C−マンノシル化、ミリストイル化、アミド化、脱アミド化、メチル化、脱メチル化、カルボキシル化、ヒドロキシル化、ヨード化、酸化、ペグ化、プレニル化、ADP−リボシル化、脂質、ホスファチジルイノシトール、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)−アンカー、リン酸ピリドキサールの付加、カルボキシアミドメチルシステインを生じる、カルボキシメチルシステインを生じる、又はピリジルエチルシステインを生じるシステイン残基の修飾、リポン酸を生じるリジンの修飾、ピログルタミン酸を生じるグルタミン酸の修飾、が含まれる。
【0044】
本発明に従ったペプチド又はタンパク質の修飾は、通常ではないアミノ酸、化学的又は酵素的に修飾されたアミノ酸その他を含むことができ、限定されるわけではないが:アルファアミノ酪酸、ベータアミノ酪酸、ベータアミノイソ酪酸、ベータアラニン、ガンマ酪酸、アルファアミノアジピン酸、4−アミノ安息香酸、アミノエチルシステイン、アルファアミノペニシラン酸、アリシン、4―カルボキシグルタミン酸、シスタチオニン、カルボキシグルタミン酸、カルボキシアミドメチルシステイン、カルボキシメチルシステイン、システイン酸、シトルリン、デヒドロアラニン、ジ−アミノ酪酸、デヒドロアミノ−2−酪酸、エチオニン、グリシン−プロリンジペプチド、4−ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、ヒドロキシプロリン、ホモセリン、ホモシステイン、ヒスタミン、イソ−バリン、リジノアラニン、ランチオニン、ノルバリン、ノルロイシン、オルニチン、2−ピピリジン−カルボン酸、ピログルタミン酸、ピロリジン、プロリン−ヒドロキシプロリンジペプチド、サルコシン、4−セレノシステイン、シンデシン、チオプロリンなどが含まれる。さらなる例は、ABRFのウェブサイトで検索可能な「Delta Mass」データベース、「Association of Biomolecular Resource Facilities」:http://www.abrf.org/index.cfm/dm.home?AvgMass=all 、で見ることが可能である。
【0045】
誘導体、多形形態及びペプチドの断片
ペプチド及び/又はタンパク質の誘導体は一つまたはそれより多くのアミノ酸構造の修飾、又はペプチド結合の修飾により主として特徴付けられるが、一方、ペプチド又はタンパク質の多形形態は、アミノ酸配列の相違により特徴付けられる。ペプチド又はタンパク質が同時に別のペプチド又はタンパク質の誘導体及び多形形態であることが可能である。
【0046】
ペプチド及び/又はタンパク質の誘導体とは、すべての種類のペプチド及び/又はタンパク質及び/又はそれらの断片を意味し、翻訳後修飾、化学修飾、酵素的修飾及び他の機構による修飾を含んでなるペプチド及び/又はタンパク質を含む。ペプチドの誘導体は、20アミノ酸の標準セットとは異なったアミノ酸残基を含んでなることができ、及び/又はペプチド模倣体構造を含んでなることができる。
【0047】
ペプチド及び/又はタンパク質とは、分子生物学、遺伝学又は化学(核酸又はペプチド合成)のような技術を使用し、配列の実験的又はランダム操作により起こされた突然変異による、配列の変異を意味する。さらにペプチド及び/又はタンパク質の多形形態は、お互いに配列アラインメントにより決定された、好ましくは70%配列同一性、好ましくは75%、好ましくは80%、好ましくは85%、好ましくは90%、好ましくは95%、好ましくは97%、及び好ましくは99%配列同一性を有する。アミノ酸残基が、もし二つの配列の配列アラインメント内において、アミノ酸が同一位置に置かれていたら、このアミノ酸残基はこれら二つの配列内で同一と見なされる。例えば、もし第一の仮定配列「ACDEFGHIKL」及び欠失された「G」を有する第二の仮定配列「ACDEFHIKL」がアラインされたとすると、第二の配列の「F」と「H」の間にギャップが挿入され、「ACDEF−HIKL」を生じ、それにより第一の配列に対する第二の配列のより良いアラインメントを可能にする。結果的に、生じたアラインメントにおいて、10位の内の新しい9位が同一のアミノ酸残基で占められ、90%の第二の配列に対する第一の配列の配列同一性を生じる。どのようにして配列アラインメントを計算するかについての方法は以下に与えられている。
【0048】
好ましくは、TIF1−ベータの断片及び/又は誘導体及び/又は多形形態を示すペプチド又はタンパク質は、ペプチド又はタンパク質及びTIF1−ベータのアラインメント内の同一位置に存在する8アミノ酸残基、好ましくは10、好ましくは12、好ましくは15、好ましくは20、好ましくは50、好ましくは100、好ましくは200、好ましくは300、好ましくは400、好ましくは500、好ましくは600、好ましくは700、好ましくは少なくとも800アミノ酸残基を少なくとも含んでなる。
【0049】
TIF1−ベータ断片の前駆体
本発明に従った「TIF1−ベータ断片の前駆体」は、TIF1−ベータの完全配列(配列番号6及び7)又はTIF1−ベータの断片を含んでなることができる。加えて、本発明に従った「TIF1−ベータ断片の前駆体」は、TIF1−ベータ又はTIF1−ベータ断片の誘導体及び/又は多形形態でもあることができる。「TIF1−ベータ断片の前駆体」は、プロセシングされ又は修飾されてTIF1−ベータ断片を生じ、それ故、TIF1−ベータ断片は、TIF1−ベータ断片の前駆体とは構造的に異なったペプチドを示す。前駆体のプロセシング又は修飾は、酵素的、化学的、力学的又は他のタイプの反応のいずれかの種類の結果であることができる。TIF1−ベータ断片の前駆体からTIF1−ベータ断片へ変換する反応の例は、中でも、タンパク分解性消化、脱リン酸化、グリコシル化、脱グリコシル化、ジスルフィド結合の形成又は破壊、酸化、還元などである。一般に、前駆体のすべての種類のプロセシング又は修飾が可能であり、それは、例えば、個体においてインビボで、又は、例えば、貯蔵の間のサンプルにおいて又は陰性対照サンプルにおいてインビトロで起こることができる。
【0050】
配列アラインメントの調製及び配列相同性の計算
配列の相同性を計算するため、GAP(Nucleic Acids Res.12:387-95)、BLASTP、BLASTN、FASTA (J MoI Biol. 215:403-10) 又は公知の Smith Watermann-algorithm を含む、GCGソフトウェア一式(Genetics Computer Group, University of Wisconsin, Madison, Wl, USA) のようなコンピュータープログラムを使用することが可能である。アミノ酸比較又はアラインメントに使用される好ましいパラメータは、Needleman and Wunsch (J MoI Biol. 48:443-53)のアルゴリズム、BLOSUM 62 マトリックス (Proc Natl Acad Sci U S A. 89:10915-9)、12のギャップペナルティ、4のギャップ長ペナルティ及び0の同一性の閾値を含んでなる。GAPソフトウェアも、記載したパラメータで使用するのに適している。記述したパラメータはアミノ酸比較についてのデフォルトパラメータであり、配列末端のギャップは相同性値を減少させない。もし8〜20アミノ酸長配列のような非常に短い配列を比較するならば、期待値を100000まで増加させ、及びワード長を2まで減少させる必要がある。さらに適したアルゴリズムは、ギャップ開始パラメータ、ギャップ伸長パラメータの使用、及びプログラムハンドブックWisconsin Package, バージョン9、1997年9月から、に見られるマトリックスの使用である。最も適したアルゴリズムの選択は、実施する比較の種類に依存する。もし二つの配列データベースを比較するならば、FASTA及びBLASTアルゴリズムが好ましい。70%の配列同一性は70%の相同性とも称される。同一性とは、アラインメントの両方の配列内の同一位置に、同じアミノ酸が存在することを意味する。
【0051】
ペプチド模倣体
表1にリストしたペプチド、好ましくは本発明に従ったTIF1−ベータ及び/又はTIF1−ベータ断片は、部分的に又は完全にペプチド模倣体を表すように製造又は合成することができる。このことはより明確な特性を有するペプチド及び/又はタンパク質を設計することを可能にする。例えば、D−アミノ酸をペプチド結合のタンパク分解を防止するために使用することができる。本発明に従った「ペプチド模倣体」は、アミノ酸又はアミノ酸配列の機能を模倣する構造である。「ペプチド模倣体」又は「ペプチドの模倣体」はしばしば、タンパク分解に対する増強された耐性のような追加の特性を有する。ペプチド模倣体は、アミノ酸を連結する別の種類の共有結合でいくつか又はすべてのペプチド結合を置き換えることが可能である。ペプチド模倣体は、中でも、(i)アミノ酸修飾、(ii)ジ−ペプチド類似体、(iii)生物学的半減期を増加させるペプチド主鎖修飾、及び(iv)二次構造模倣体、を含んでなることが可能である。いくつかのペプチド模倣体は、例えば、ペプチドに対する自由度の程度を制限している。アミノ酸修飾の例は、アルファ−Cアルキル化、アルファ−Nアルキル化その他、共有結合によりお互いに連結された二つのアミノ酸側鎖を有するペプチドであるジ−ペプチド類似体、アミド結合アイソスターのようなペプチド主鎖の修飾、又はL−からD−アミノ酸へ及びインバースN−からC−配列へ変化させることにより得られるレトロ−インバーソ(retro−inverso)異性体、その他である。二次構造模倣体は、アルファ−へリックス(例えば、ベータ−アミノ酸による)、ベータ−シート、ベータ−ターン(例えば、輪止め(linchpin)構造による)及びガンマ−ターンのような構造の模倣体を含んでなる。ペプチド模倣体のさらなる例は、ペプチド及びタンパク質の溶解性又は免疫原性特性を修飾できる、スピーゲルマー(spiegelmers)(登録商標)(NOXXON Parma AG, Berlin, Germany)又はペグ化のような修飾である。
【0052】
核酸、相補性及び縮重核酸及び誘導体
本発明に従った核酸又は核酸配列は、これらの核酸が一本鎖又は二本鎖、線状、環状又は分枝であるかどうかに関わらず、すべての種類のデオキシリボ核酸(DNA)及びリボ核酸(RNA)又はそれらの組み合わせを意味する。好ましくは、核酸分子は精製された核酸分子であり、それは調製物が少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、好ましくは少なくとも99%、好ましくは99%以上の特定の核酸分子、又は一つ又はそれより多くの特定の核酸分子の特定の混合物を含有することを意味する。核酸分子の例は、ゲノムDNA、cDNA(相補DNA)、mRNA(メッセンジャーRNA)、組換えで生成された核酸分子、化学的に合成された核酸分子又は酵素的に発生させた核酸分子(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により)、又は当該技術分野で既知の方法を使用し、原核又は真核細胞、ウイルス、組織、器官、又は細菌、酵素、昆虫、虫(worm)その他の全生体のような天然源から精製された核酸である。さらに本発明に従った核酸分子は、部分的に又は完全に核酸の誘導体を意味することが可能であり、その誘導体は、ホスホロチオエート、ペプチド核酸(PNA)、N3’,P5’−ホスホロアミデート、モルホリノホスホロアミデート、2’−O−メトキシエチル核酸、2’−フルオロ−核酸、アラビノ−核酸、ロックト核酸(LNA、リボースの2’−酸素と4’−炭素を連結するメチレン架橋を含有するリボヌクレオチド)のような天然には観察することができないヌクレオチド又はヌクレオチド様分子を含んでなる。
【0053】
本発明に従った核酸はさらに、アンチセンス核酸、リボザイム、三重鎖形成核酸、RNAi−核酸、ポリメラーゼ連鎖反応のプライマーとして適した、インサイツハイブリダイゼーションに適した、ノーザン又はサザンブロットのようなハイブリダイゼーション実験に適した、又は核酸チップ実験に適した核酸、好ましくは表1にリストした分子、好ましくはTIF1−ベータ及び/又はTIF1−ベータ断片の発現のための、又はTIF1−ベータ及び/又はTIF1−ベータ断片に特異的なアンチセンス核酸の発現のためのベクター又はウイルスベクターとして適した核酸を含んでなる。核酸分子は、意図された使用に依存して、好ましくは、TIF1−ベータmRNAのような表1にリストした分子をコードするmRNAの完全長の長さ、好ましくは600、500、400、300、200、100、50、40、30、25、20、15未満のヌクレオチドを有する。もし核酸が発現ベクターを表すとすれば、例えば、バキュロウイルスのような多くのウイルスは大きなゲノムを有し、非常に大きなベクターを生じるので、核酸分子の長さはより長く、数千のヌクレオチドまでであることが可能である。アンチセンス及び三重鎖形成核酸分子は、好ましくは、6〜50、好ましくは10〜30、15〜30、20〜30ヌクレオチドの配列長を有する。リボザイムは、好ましくは、標的RNAにハイブリダイズする配列を有し、前記ハイブリダイズする配列は対応するアンチセンス核酸と同じ長さを有し、加えて、当該技術分野で公知の触媒リボザイム配列を含んでなる。ポリメラーゼ連鎖反応でプライマーとして使用するための核酸は、好ましくは、10〜60、好ましくは15〜60、15〜50、15〜40、15〜30ヌクレオチドの長さを有する。
【0054】
相補核酸配列とは、グアニンとシトシン及びアデニンとチミン/ウラシルの相互作用によりお互いに結合する核酸配列を意味する。お互いに相補的な核酸の結合はハイブリダイゼーションと称される。ハイブリダイゼーションは、好ましくは、ハイブリダイゼーションが配列特異的であり、ランダムではないことを確実にするストリンジェント実験条件下で起こる。核酸についてのストリンジェントハイブリダイゼーション条件は当該技術分野で既知であり、例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor, New York, 1998 、に公開されている。ハイブリダイゼーション条件についてのストリンジェント条件の例は、3.5xSSC、0.02%フィコール、0.02%ポリビニルピロリドン、0.02%ウシ血清アルブミン、2.5mM NaHPO(pH7)、0.5%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、2mM EDTA(エチレンジアミン四酢酸)を含有する緩衝液中、65℃でのハイブリダイゼーションである。SSCは、0.15M塩化ナトリウム及び0,15Mクエン酸ナトリウムをpH7で含有する緩衝液を表す。ハイブリダイゼーションに続いて、二重鎖核酸が付着している膜を、室温にて2xSSCで、及び68℃までの温度にて0.1%SDS含有0.1〜0.5xSSCで洗浄する。ストリンジェント実験条件下でハイブリダイズしている核酸構造が安定である限り、全核酸配列がお互いにハイブリダイズすることは必要ではない。少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、80%、90%、95%、99%の核酸配列の配列部分がお互いにハイブリダイズすることを必要とする特異的ハイブリダイゼーションは、お互いに相補的である。核酸は、mRNA又はcDNAの5’から開始コドンまでの又は3’から終始コドンまでの核酸配列のハイブリダイゼーションによっても、mRNA又はcDNAのこれらの部分が核酸配列に特異的である限り検出することができる。
【0055】
縮重核酸配列とは、ほとんどのアミノ酸は少なくとも二つの異なったコドンによりコードされているので、異なったアミノ酸配列が多種の核酸配列によりコードすることができることを意味している。このため、同一のアミノ酸配列を核酸配列の非常に異なった配列によりコードすることができる。
【0056】
ラベル化核酸、ペプチド、タンパク質及び結合剤
本明細書において、用語「ラベル」とは:(i)検出可能なシグナルを提供し;(ii)第一又は第二のラベルにより提供される検出可能なシグナルを修飾するために第二のラベルと相互作用し、例えば、FRET;(iii)電荷、疎水性、形状又は他の物理学的パラメータにより、移動度、例えば、電気泳動移動度に影響し;又は(iv)捕捉部分を提供する、例えば、親和性、抗体/抗原、イオン複合体形成、縮重核酸配列を生じる;ように機能するいずれかの部分を指す。
【0057】
本発明は、核酸、ペプチド、結合剤、抗体、ならびに前記物質の断片及び誘導体を含んでなり、それらはラベル又は他の官能基を含んでなることができる。適しているのは、蛍光分子、放射性分子、発光分子、酵素、毒素、染料、金属粒子、磁性粒子、ポリマー粒子、ビオチン又は他の有機分子のようなすべての種類のラベル及び官能基である。特に、質量分析のためには同位元素ラベル又は等圧性(isobaric)ラベルが適している。同位元素ラベルは、酸素−18、窒素−15、重水素、トリチウム、炭素−14、硫黄−35又はリン−32などのような、それらの天然の分子量とは異なった分子量を有する同位元素の使用により得ることが可能である。等圧性ラベルは、これらのラベルがインタクトであり、そして質量分析計中でフラグメント化されていない限り、同一の分子量を有する。それ故、サンプルの分析に先立って限られた数の質量相違しか存在しないので、等圧ラベルは質量分析法を使用してより都合よく分析することが可能である。蛍光分子の例は、フルオレスセイン、テキサスレッド、ローダミン、BODIPY、サイバーグリーンなどのようなフルオロフォア、グリーン蛍光タンパク質、レッド蛍光タンパク質、ブルー蛍光タンパク質、ウミシイタケ蛍光タンパク質その他のような蛍光性タンパク質又はそれらの断片又は誘導体である。ラベル又は機能性基として適した放射性同位元素の例は、リン−32又は−33、硫黄−35、ヨウ素−125、トリチウム、炭素−14、カルシウム−45、クロム−51及び核酸及び/又はペプチド及び/又はタンパク質とカップリング可能であるすべての他の既知の放射性同位元素である。酵素の例は、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼ、ガラクトシダーゼなどである。適した毒素は、微生物毒素、毒性ペプチド、毒性小有機分子、合成毒素、又は医学目的に使用される毒素のようなすべての種類の毒素である。適した色素の例はジゴキシゲニンである。粒子の例は、種々の粒子直径、好ましくは0.1〜100μmの間のものである。金属粒子は、種々の物質、好ましくは金、銀、白金のような重元素又は他の適した金属又は合金、又はそれらの混合物である。磁性粒子の例は、鉄、好ましくはFeO、Fe、Fe、その他のような鉄酸化物を含む、すべての種類の磁性又は磁化可能な材料から作製される粒子である。ポリマー粒子の例は、ポリアクリルアミド、アガロース、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレンなどのようなポリマーから作製された粒子である。当該技術分野で知られているように、ビオチン、キチン、マルトース又はグルタチオンなどのような多様な他のラベルも使用することが可能である。
【0058】
さらに、以後ラベル配列と称される、特定の追加の核酸又はアミノ酸配列を含んでなるラベル又は機能性基を使用することが可能である。例えば、核酸配列を含んでなるラベル配列は、例えば、ラベル配列に特異的なプローブでのハイブリダイゼーションにより、ポリメラーゼ連鎖反応などによるラベル配列の検出により、例えば、ラベル化物質の検出に使用することが可能である。アミノ酸配列を含んでなるラベル配列の例は、his−タグ、flag−タグ、myc−タグ又は抗体、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、ストレプトアビジン、キチン結合タンパク質、マルトース結合タンパク質、種々のレクチンなどのような全タンパク質又はそれらの断片である。これらのラベルは、抗体の使用により、又はプロテインA、プロテインG、プロテインY、プロテインA/G、グルタチオン、ビオチン、キチン、マルトース又は他の糖のようなこれらのラベルに結合するリガンドの使用により検出することが可能であり、又はこれらのラベル配列は、もしラベル配列が、例えば、HIV−Tatペプチド、アンテネペディアペプチド、VP22ペプチドなどであれば、細胞内へのラベル化物質の輸送のような他の様式で機能することが可能である。ラベル配列は、特にラベル配列がアミノ酸配列を含んでなれば、前記ラベル配列に特異的な結合剤でラベル化物質を捕捉することにより、ラベル物質を精製するためにも一般に使用することが可能である。
【0059】
ベクター
核酸配列はベクターの一部であることが可能である。本発明に従ったベクターは、環状又は線状又は分枝状、一本鎖又は二本鎖であり得、リボ核酸、デオキシリボ核酸又はそれらの組み合わせで構成することができる。ベクターは裸の核酸、例えば、タンパク質、脂質、リポソーム、リン酸カルシウム沈降物又は他の物質、又はそれらの組み合わせが付随した核酸であり得る。ベクターは、前記核酸又はベクターを含んでなるウイルス又は細胞でもあり得る。ベクターは、例えば、TIF1−ベータ及び/又はTIF1−ベータ断片及び/又は誘導体又はそれらの多形形態、又は表1にリストした他の分子の量を増強又は減少するために適していることができる。前記ペプチド及び/又はタンパク質、断片又はそれらの誘導体の量を増加させるベクターは、例えば、過渡的又は安定発現ベクターである。前記ペプチド及び/又はタンパク質、断片又はそれらの誘導体の量を減少させるベクターは、例えば、例えばTIF1−ベータ配列特異的アンチセンス核酸、リボザイム、三重鎖形成核酸、RNAi分子などをコードする核酸配列を含んでなる。ベクターは、レトロウイルス、アデノウイルス、バキュロウイルス、ファージ又は当該技術分野で既知の他のウイルスのようなウイルスの形態で存在することができる。ウイルスは、生きているウイルス又は増殖及び/又は感染のためにヘルパーウイルスを必要とするウイルスであることができる。ベクターは、ヒト、マウス、ラットなどのような特定の種、哺乳類、齧歯類などのような特定の種の群、又は筋肉組織,膵臓、肝臓、脂肪組織などのような特定の器官又は組織、脂肪細胞、筋肉細胞、膵臓の細胞、神経細胞、胃腸管からの細胞などのような特定のタイプの細胞に非特異的又は特異的で、又は細菌、酵母、昆虫細胞、COS細胞又はCHO細胞のような細胞株に特異的であることができる。ベクターの特異性は、特異的細胞タイプ又は種でのみ活性である特異的プロモーター核酸配列のためであることが可能であり、又ベクターは、特異的細胞などへベクターを標的化する機構により特異的であり得、又はベクター中に存在するプロモーターを活性化することができ、又は前記ベクターを含んでなる個体又は細胞に与えられる物質により不活性することができる。
【0060】
宿主細胞
「宿主細胞」は異種移植片の宿主からの細胞を意味していない、しかし宿主細胞は、前の章に記載した核酸及び/又はベクターを含んでなる細胞を意味する。核酸又はベクターは、細胞中に過渡的に又は安定に存在することが可能であり、及び核酸又はベクターはサイトゾル、又は核又はミトコンドリアのような細胞の特定の小器官に存在することができる。ベクター配列又はそれらの断片は、例えば、プラスミドの形態でサイトゾルに存在することが可能であり、又はベクター配列は、部位(配列)特異的、又はランダム又は他の機構により、細胞のゲノム又はミトコンドリアのゲノム内に、又は細胞に存在するプラスミド内に部分的に又は完全に組み込まれていることが可能である。
【0061】
結合剤、抗体及び誘導体
本発明の別の態様は、TIF1−ベータ−、PTA−又はCK18−タンパク質に特異的な結合剤、又は表1に示されている、2315又は2916ダルトンの分子量を有するペプチド(両方とも分画35で同定された)が由来するタンパク質に特異的な結合剤である。加えて、本発明は、前記のペプチド又はタンパク質の断片又は多形形態又は誘導体に特異的な結合剤を含んでなる。特別には、本発明に従った結合剤は配列番号1〜5のいずれか一つに従ったペプチドのネオエピトープに特異的に結合し、但し、これらの結合剤は配列番号6又は7に従ったペプチドへは結合しない。好ましくは、これらの結合剤はヒトタンパク質又はペプチドに特異的である。好ましくは、結合剤は表1にリストしたペプチド又は断片又はそれらの多形形態に特異的である。本発明に従った結合剤は、中でも、レセプター、ファージ、小有機分子、スピーゲルマー(登録商標)のような、これらのペプチドに特異的なレセプター、これらのペプチドを特異的に結合するファージ、これらのペプチドを特異的に結合するスピーゲルマー(登録商標)、これらのペプチドを特異的に結合する小有機分子、これらのペプチドを特異的に結合する物質で表面被覆された粒子である。好ましくは、特異的結合剤は、前記ペプチド及び/又はタンパク質又は断片又は誘導体又はそれらの多形形態を結合する特異的抗体を含んでなる。また前記抗体の断片も、これらの断片が前記ペプチドに及び/又は前記タンパク質に、又は前記断片に、又は前記誘導体に、又は前記多形形態に特異的に結合する限りは含まれる。好ましくは、前記ペプチド及び/又はタンパク質又は断片又はそれらの誘導体に特異的な結合剤は、精製された形態の、又は例えば、細胞培養上清、抗血清、腹水液として、又は卵内に含有されている形態で存在する、いずれかの種に由来するIgG、IgA、IgE、IgD又はIgY抗体のような抗体である。抗体は、好ましくは、ヒト、マウス、ラット又は他の哺乳類、又は卵、好ましくは鶏卵に由来することができ、又は抗体を、当該技術分野で既知の組換え技術を使用して産生することができる。抗体はモノクローナル、オリゴクローナル又はポリクローナル抗体であり得る。抗体は、好ましくは、精製された特異的抗体、非特異的抗体又はアルブミンのような他のタンパク質をさらに含んでなる精製された特異的抗体、全抗血清から調製された、細胞培養上清から調製された、卵から調製された、又は腹水液から調製された抗体、又は精製されていない抗体、好ましくは精製されていない抗血清、精製されていない細胞培養上清、精製されていない腹水液、又は精製されていない組換え抗体であり得る。好ましくは、本発明に従って精製された抗体又は抗体断片又は誘導体は、少なくとも30%、好ましくは、少なくとも40%、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%含んでなり、又は、好ましくは、少なくとも98%の前記抗体及び/又は抗体断片及び/又はそれらの誘導体を含んでなる。
【0062】
特異的結合剤とは、例えば、TIF1−ベータ又はTIF1−ベータ断片のようなタンパク質又はペプチドリガンドに特異的に結合する抗体を意味し、又は、本発明の核酸に特異的に結合する核酸を意味する。抗体又は核酸のような結合剤の結合の特異性は、例えば、標準ウェスタンブロッティング、ノーザンブロッティング、逆転写酵素−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)、又は当該技術分野で既知の他の方法により試験することが可能である。サンプルとして、例えば、試験されるべき抗体が恐らく特異的であるTIF1−ベータ断片をコードする核酸でトランスフェクトされた細胞を使用することができる。陰性対照として、同一のしかしトランスフェクトされていない細胞株、又は非TIF1−ベータ断片でトランスフェクトされた細胞株を使用することができる。抗体の特異性を決定するため、両方の細胞株からの溶解液を、ウェスタンブロットで試験する。抗体のような特異的結合剤は、トランスフェクトされた細胞からの溶解物中でのみ正しい分子量のバンドを認識するが、陰性対照からの溶解物中では認識しない。核酸の特異性を決定するためには、RNAを両方の細胞株から精製し、例えば、ノーザンブロットにより試験することができる。特異的結合核酸は、トランスフェクトされた細胞株のRNAサンプル中にのみ正しい分子量のバンドを認識するが、陰性対照からのRNAは認識せず、ノーザンブロットで適切な分子量のシグナルを生じる。しかしながら、当該技術分野で知られているように、陰性対照のノーザンブロットでもシグナルがあり得るが、もし結合剤が細胞内にトランスフェクトされたリガンドに特異的であるならば、陰性対照中のシグナルは明らかにより低い。特異性はさらに、ノーザンブロットにおける洗浄工程のストリンジェンシーを増加させることにより試験することが可能であり、それは陰性対照中のシグナルを徐々に減少させ、一方、TIF1−ベータトランスフェクト細胞のシグナルは依然として存在する。
【0063】
本発明はさらに、異なった種に由来する抗体の一部を含んでなる抗体、例えば、マウス抗体の抗原結合ドメイン及びヒト抗体由来の抗体又は抗体断片の他の部分を含んでなる、例えば、ヒト化抗体のような抗体の誘導体を含んでなる。本発明は、TIF1−ベータ断片及び/又は誘導体又はそれらの多形形態に、又は表1にリストした他のペプチド又はタンパク質にいまだ特異的に結合する限り、これらの抗体の断片及び誘導体も含む。こうした抗体断片の例は、Fab2又はFab抗体断片である。本発明に従った抗体のさらなる誘導体は、有機化合物、無機化合物、ペプチド又はタンパク質のような他の物質に共有結合又は非共有結合で結合された抗体又は抗体の断片である。抗体のこうした誘導体の例は、放射性核種、毒素、酵素、フルオロフォア、発色団、ビオチン又は他の有機化合物、蛍光性タンパク質、染料又は前の章に記載したラベル配列のようなラベル配列でラベルされた抗体である。
【0064】
医薬組成物
本発明の別の態様は医薬組成物である。これらの医薬組成物は、表1にリストしたペプチド及び/又は前記ペプチド及び/又はタンパク質に対応する完全タンパク質配列又は断片又は誘導体又は多形形態、前記ペプチド及び/又はタンパク質をコードする核酸、又は前記核酸の断片又は誘導体、前記核酸を含んでなるベクター、前記核酸又は前記ベクターを含んでなる宿主細胞、前記ペプチド及び/又はタンパク質に特異的な結合剤又は抗体及び/又は前記結合剤又は抗体の断片又は誘導体の様な物質を含んでなる。
【0065】
本発明の医薬組成物は、障害、好ましくは過剰増殖障害及び/又は分化障害及び/又は腫瘍性障害の療法、予防、再発の治療、診断及び予後に使用することができる。好ましくは、医薬組成物は、前の章に記載した多様なタイプに由来する細胞、好ましくは、直腸結腸癌性又は関連する障害からの細胞の診断、予防又は治療に使用される。
【0066】
本発明に従った医薬組成物は、過剰増殖障害及び/又は分化障害及び/又は腫瘍性障害を有する細胞により起こされる障害の療法及び/又は防止及び/又は再発の治療及び/又は予防に使用するための医薬又は薬物であり得る。本医薬組成物は、癌を患っている、好ましくは直腸結腸癌性又は関連する障害を患っている個体のために使用することができ、及び、もし前記障害が試験された個体において存在する又は間もなく存在するであろうとすれば、決定するための診断道具として適しているに違いない。
【0067】
医薬組成物は、経口的、舌下的に投与され、静脈内に注射され、皮下に注射され、腫瘍内、筋肉、脂肪又は他の組織内へ注射され、皮膚上又は粘膜上へ局所投与され、肺内部へエアロゾールとして吸入され、直腸又は他の経路を介して投与されることが可能である。医薬組成物は、錠剤、ピル剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、軟膏剤、個体へ経皮的に物質を放出する絆創膏、チンキ剤、口蓋垂、懸濁剤、液剤(その溶液は、好ましくは、注射又は連続的注入液としての使用のために滅菌生理学的塩化ナトリウム溶液に溶解される)などとして供給することが可能である。医薬組成物は、充填添加剤、抗菌添加剤、保存添加剤、着色添加剤、フレーバー添加剤、芳香添加剤、保護又は安定化添加剤などのような添加剤を含んでなることが可能である。好ましい保護又は安定化添加剤は、ペプチド及びタンパク質の分解を抑制する物質であり、例えば、ペプチド及びタンパク質を分解、凝集から、又は活性の消失から保護するための、プロテアーゼ阻害剤又はアルブミン(好ましくはヒトアルブミン)のような担体タンパク質である。医薬組成物は、必要に応じて一度又は繰り返して個体に適用することが可能である。1日に1回又はそれ以上の回数、週1回、月1回、又はより長い時間間隔で適用することが可能である。医薬組成物は、単独で又は他の医薬組成物と併用して使用することが可能である。併用された医薬組成物は、治療されている又は試験されている個体に対して相加的未満、相加的及び相乗的効果を有することが可能である。医薬組成物は、3μgまで、10μgまで、30μgまで、100μgまで、300μgまで、1mgまで、30mgまで、300mgまで、1グラムまでのTIF1−ベータペプチド及び/又はタンパク質、前記ペプチド及び/又はタンパク質をコードする核酸、前記ペプチド及び/又はタンパク質に特異的に結合する結合剤、前記ペプチド及び/又はタンパク質又は前記の断片又は誘導体に特異的に結合する抗体、又はそれらの組み合わせを含んでなることができる。
【0068】
もし医薬組成物が診断組成物として使用されるならば、それは単独で又は他の診断組成物又は診断法と併用して使用することができる。二つ又はそれより多くの医薬組成物及び/又は診断法の併用による診断の結果は、診断の信頼性が相加的未満でもあり得るが、相加的に改良することが可能であり、又は診断を相乗的に改良することが可能である。医薬組成物は、好ましくは、過剰増殖障害及び/又は分化障害及び/又は腫瘍性障害、好ましくは、癌から、又は直腸結腸癌性又は関連する障害から選択される障害の存在を証明するための、又は不存在を証明するための診断に使用することができる。
【0069】
サンプルを分析するために適した方法
一般に、サンプル中に存在するペプチド及び/又はタンパク質を検出する、及び分析するために適したすべての方法を、本発明の方法において使用することが可能であり、ペプチド及び/又はタンパク質及び/又は核酸、好ましくは、TIF1−ベータ及び/又はTIF1−ベータ断片及び/又は前記のものをコードする核酸又は表1にリストした対応するペプチド、タンパク質及び核酸を決定するために使用することができる。好ましくは、質量分析、タンパク質チップアッセイ、免疫学及び分子生物学法を使用することができる。
【0070】
ペプチド、タンパク質、TIF1−ベータ、TIF1−ベータ断片又は誘導体又はそれらの多形形態を決定することとは、これらの物質の定性的又は定量的測定を意味する。使用された方法の感度に依存して、決定はサンプル中に物質が存在していないという結果を有してもよい(例えば、それは使用された方法の検出限界以下でしか存在しない)。もし量が決定されたら、使用された方法に依存して、結果は相対又は絶対値であることができる。
【0071】
適した質量分析法は、中でも、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)、連続的又はパルスエレクトロスプレーイオン化法(ESI)及びイオンスプレー又は熱スプレー又はマッシブクラスター衝撃(MCI)のような関連する方法である。イオン源は、リニア又はノンリニア反射飛行時間(TOF)、単一又は多四重極、単一又は多磁気セクター、フーリエ変換イオンサイクトロン共鳴(FTICR)、イオントラップ、及びそれらの組み合わせ(例えば、イオントラップ/飛行時間)を含む検出様式と一致させることが可能である。イオン化のためには、多数のマトリックス/波長組み合わせ(MALDI)又は溶媒組み合わせ(ESI)を使用することが可能である。適した他の質量分析法は、例えば、高速原子衝突(FAB)質量分析、表面増強レーザー脱離/イオン化(SELDI)質量分析、同位元素コード化アフィニティータグ(ICAT)質量分析、ITRAQ質量分析(Applied Biosystems, Foster City, CA, USA) 又はアフィニティー質量分析法である。
【0072】
さらに、適した免疫学的方法は、中でも、酵素結合免疫アッセイ(ELISA)、サンドイッチ、直接、間接又は競合ELlSAアッセイ、酵素結合免疫スポットアッセイ(ELISPOT)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、フローサイトメトリーアッセイ(FACS=蛍光標識細胞分取)、免疫組織化学、ウェスタンブロット、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)アッセイ、例えば、本発明のペプチド及び/又はタンパク質を結合する抗体、抗体断片、レセプター、リガンド又は他の剤、好ましくはTIF1−ベータ断片及び/又はTIF1−ベータタンパク質に特異的な結合剤を使用するタンパク質−チップアッセイである。
【0073】
中でも、ノーザン又はサザンブロットハイブリダイゼーション、核酸ドット−又はスロット−ブロットハイブリダイゼーション、インサイツハイブリダイゼーション、核酸チップアッセイ(例えば、問題とする核酸を特異的に捕捉するRNA、DNA又は他の核酸を使用する)、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写酵素PCR(RT−PCR)、中でも、リアルタイムPCR(taq−man PCR)を、本発明の核酸を検出するための分子生物学方法として使用することができる。
【0074】
核磁気共鳴(NMR)、蛍光光度分析、比色分析、放射分析、発光分析又は他の分光分析法、高速液体クロマトグラフィー、キャピラリークロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、プラズモン共鳴(BIACORE)、1次元又は2次元ゲル電気泳動などのようなさらなる方法を、ペプチド及び/又はタンパク質及び/又は核酸、好ましくは、表1にリストした配列に対応する、好ましくはTIF1−ベータ、好ましくはヒトTIF1−ベータに対応するものを検出するために使用することができる。
【0075】
以下に血漿サンプルの調製のためのプロトコールが例示される。前記プロトコールは、血漿サンプルを得るために実施例1に記載された方法の代替法を示している。
もしマウス又はラットではなく、より大きな実験動物又はヒト患者が血液を得るために使用されるならば、血液は、好ましくは、肘脈から血液採取チューブ内へ集めることができる。もしくは、適したサイズの他の血管を使用することができる。好ましくは、EDTA−又はクエン酸−血漿、最も好ましくはEDTA−血漿がサンプルとして使用される。EDTA−血漿は、例えば、およそ1.5mgのカリウム−EDTAを含有する9mlのS−Monovettesの使用により得ることができる。クエン酸−血漿は、例えば、1mlの0.106mol/lクエン酸溶液を含有する9mlのS−Monovettesの使用により得ることができる。一般に、クロマトグラフィーを妨害せず、好ましくは逆相クロマトグラフィーを妨害せず、及び質量分析による続いてのペプチド分析を妨害せず、及びサンプル調製、取り扱い又は分析の他の工程を妨害しない限り、「抗凝固−有効」濃度のすべての種類の抗凝固剤を使用することができる。多くの場合タンパク質又はペプチドであるプロテアーゼ阻害剤のような、ペプチド又はタンパク質含有サンプルを安定化させるために通常使用される追加の物質は、サンプルのペプチドをマスクすることができるので適していない。ヘパリンは通常種々の分子量(約6000〜40000Da)のヘパリン分子の混合物であり、及びヘパリン分子は複数の陰性電荷を有しているので、ヘパリンのような抗凝固剤は適していない。それ故、ヘパリンは、例えば、質量分析において多数の質量シグナルを生じ、限外濾過、サイズ排除又はイオン交換クロマトグラフィーのような他の方法でも困難を生じさせることができる。ペプチド又はタンパク質ではないプロテアーゼ阻害剤は、本明細書に記載したサンプル調製及び分析に適合することができる。好ましくは、抜き取り直後、室温にて2000xgで10分の血液の遠心分離により血漿を得ることができる。抜き取り後、血液は血液は室温で保存すべきであり、冷却すべきではない。好ましくは、抜き取り後の保存時間は1時間以下、好ましくは30分以下、好ましくは20分以下、好ましくは10分以下、最も好ましくは5分以下であるべきである。血液サンプル及び血漿又は血清の温度は37〜10℃の間に、好ましくは37〜12℃の間に、好ましくは26〜15℃の間に、最も好ましくは24〜18℃の間に保たなければならない。遠心分離は、室温で又は室温近辺の温度で行うべきであり、37℃以上又は10℃以下ではない。このことは血漿品質を改良し、なぜなら血液サンプルの冷却又は加熱は血小板の活性化を生じることができ、それは血漿内にプロテアーゼ及び他の酵素のようなペプチド又はタンパク質を放出することにより反応する。これらのタンパク質、ペプチド、プロテアーゼ及び他の酵素は、血漿サンプルに存在するマーカーペプチドをほかの方法でマスクする、覆う、消化する又は修飾する潜在的な危険性を有する。遠心分離後、例えば、好ましくは濾液から血小板を除去するために十分小さな孔サイズを有する酢酸セルロースフィルターユニット、好ましくは0.2〜0.01μm、好ましくは0.2〜0.05μm、好ましくは0.2〜0.1μm、最も好ましくは0.2μmの孔サイズ、及び濾過を都合よく実施するために十分大きな濾過面積、例えば、5cmの濾過面積を有するフィルター(Sartorius Minisart(登録商標), Sarstedt, Numbrecht, Germany) 、が取り付けられた10mlのシリンジを使用して血漿を濾過することにより、残余血小板を血漿サンプルから除去することができる。
【0076】
濾過工程を含まない、血漿サンプル質改良のための別の代替法は、二工程遠心分離スキームである。第一の工程において、赤血球溶解を避けるため800〜2500xgで5〜30分、好ましくは2000xgで10分、血液を穏やかに遠心分離する。第二の工程において、血漿を新しいチューブに移し、1000〜3000xgで5〜60分、好ましくは2500xgで15分の遠心分離により、血小板の溶解なしに可能な限り多くの血小板を除去するため、より厳しく遠心分離する。両方の遠心分離工程は、室温付近で実施せねばならず、37℃以上又は10℃以下の温度で実施すべきではない。
【0077】
実施例2に記載したプロトコールと異なっている、血漿サンプルの調製のためのプロトコールが以下に記載されている。このプロトコールは、本発明に従った引き続いての分析のためのサンプルを得るためにも適している。
【0078】
従って、マウス、ラット、ヒト及び他の種からの血漿のタンパク質負荷の減少のための代替プロトコールは、23℃での8M塩化グアニジニウム溶液による血漿サンプルの1:3希釈、及び続いての、例えば、150〜10kDaの分子量カットオフを有するAmicon Ultraフィルターデバイス(Millipore, Bedford, USA)(製造元の指示に従って遠心分離された)を使用する、好ましくは、スウィング型バケットローター中、4000xgで60分遠心分離された、50kDaの分子量カットオフを有するAmicon Ultraフィルターデバイスを使用する限外濾過である。
【0079】
インビトロ培養細胞からのサンプル調製のための以下のプロトコールは、インビトロ培養細胞からサンプルを調製するアプローチを示している。別のアプローチは実施例3に記載されている。
【0080】
サンプル調製は、細胞培養プレートから組織培養培地を除去すること、抽出緩衝液(6M塩化グアニジニウム、50mMグリシン、HClの使用によりpHは2.6に調整されている)を細胞層に加えること、ゴムポリスマンを使用して組織培養プレートから細胞を剥がすことにより行うことができる。この工程を一度繰り返し、生じた細胞培養溶解物を一つのサンプルに合わせる。7cmの直径の組織培養プレートについて、これらの二工程のそれぞれで1mlの抽出緩衝液を使用する。細胞抽出物を、1100rpmで振盪しながらサーモミキサー中、99℃で15分加熱する。18000xgで15分遠心分離した後、上清を採取し、クロマトグラフィーにかけるか又は−80℃で次ぎに使用するまで保存する。すべての抽出工程は遠心分離を含んでおり、室温で実施する。
【0081】
組織サンプルの調製のための以下のプロトコールは、実施例5に記載されたプロトコールの代替法を示している。
腫瘍組織からのサンプル調製は、1mlの抽出緩衝液(6M塩化グアニジニウム、50mMグリシン、HClの使用によりpHは2.6に調整されている)の存在下、20〜50mgの腫瘍組織をホモゲナイズすることにより実施することができる。続いて、使用抽出物を、1100rpmで振盪しながらサーモミキサー中、99℃で15分加熱する。18000xgで15分遠心分離した後、上清を採取し、クロマトグラフィーにかけるか又は−80℃で次ぎに使用するまで保存する。腫瘍組織の均質化は0℃以下の温度で行い、及びすべての抽出工程は遠心分離を含んでおり、室温で実施する。
【0082】
試験キット
本発明のさらなる側面は、ペプチド及び/又はタンパク質及び/又は核酸、好ましくは、TIF1−ベータ及び/又はタンパク質及び/又は核酸又は誘導体又はそれらの多形形態の絶対濃度又は相対濃度を決定するための、又は存在又は不存在を決定するための試験キットである。本試験キットは、過剰増殖障害及び/又は分化障害及び/又は腫瘍性障害を有する細胞、好ましくは癌細胞又は結腸直腸癌性細胞又は関連する障害を有する細胞により起こされる障害の不存在又は存在を診断するために使用することができる。本試験キットはさらに、前記障害の発生を予測するため又は段階を予測するため、及び/又は前記障害に対する療法の成功を予測する及び/又はモニターするため、及び/又は前記障害の再発を予測する及び/又はモニターするために使用することができる。好ましくは、当該技術分野で知られている他の診断試験により診断が可能になる前に、前記障害を早期に診断する及び/又は予測するため、好ましくは、本試験キットを使用することができる。本試験キットは、限定されるわけではないが、全血、血液細胞(白血球、B細胞、T細胞、単球、マクロファージ、赤血球及び血小板のような)、血清、血漿、血液濾過物、脳脊髄液、尿、リンパ液、リンパ節組織、大便、結腸又は直腸からの組織、癌組織、腫瘍、ポリープの組織又は他の前癌性組織、又は他の組織及び器官、ならびにそれらの組み合わせを含む個体からのいずれかのサンプルを分析するために使用することができる。試験は、一つ又は一つ以上の個体のプールされたサンプルで行うことが可能である。サンプルは、直接使用することができ、又は前処理されたサンプルであることが可能であり、サンプルは、例えば、クロマトグラフィー、濾過、沈殿、液体又は他の抽出法、免疫沈降などにより分画されていることができる。全サンプル又は個々の又は、一つ又は一つより多くのサンプルに由来する二つ又はそれより多くの合わされた分画を分析することができる。試験は、一回又は数回、好ましくは数回、ペプチド又はタンパク質又は核酸、好ましくはTIF1−ベータ、TIF1−ベータ断片又はTIF1−ベータ核酸の量変化についての時間経過を分析する期間にわたって行うことができる。試験は、限定されるわけではないが、本特許出願の別の所に記載されているサンプルの分析法を含む、当該技術分野で知られている多様なタイプの試験キットで行うことが可能である。試験キットは、標品として使用するための、及び/又は対照として使用するための、TIF1−ベータ、TIF1−ベータ断片又はTIF1−ベータ核酸及び/又は前記のものの断片及び/又は誘導体及び/又は多形形態のような物質を含んでなることができる。キットは、前記TIF1−ベータ及び/又はTIF1−ベータ断片に特異的に結合する、又は対応する核酸に特異的にハイブリダイズする剤を含んでなることができる。さらに、本発明の試験キットは、試験キットをどのように使用するか、サンプルをどのように調製するか、どのような種類のサンプルを使用するか、結果をどのように分析する及び説明するかなどについての説明書を含んでなることができる。特に、本試験キットは、過剰増殖障害を有する細胞及び/又は分化障害を有する細胞及び/又は腫瘍性障害を有する細胞の存在又は不存在又は予後を決定するためにどのようにキットを使用するのかについて、好ましくは、癌細胞又は前癌性細胞(好ましくは結腸直腸癌性又は関連する障害に由来する)の存在の診断又は予後のためにどのようにキットを使用するのかについての説明書を含んでなることができる。
【0083】
同定されたマーカー
本発明において、実験動物の血漿サンプルの分析により、免疫低下非ヒト宿主(即ち、SCIDマウス)中で増殖した、腫瘍性細胞(即ち、HCT−116細胞)を使用して、いくつかのマーカーが検出及び/又は同定された。これらのマーカーは、特定のタンパク質、即ち、TIF1−ベータ、プロチモシンアルファ(PTA)及びサイトケラチン18(CK18)の断片であった。正確な配列、対応する完全タンパク質配列内の配列位置及び配列プロトコールの対応する配列番号が表1に示されている。加えて、本明細書に記載した方法を使用して、いくつかのさらなるペプチドが、腫瘍性細胞のマーカーとして、及び/又は過剰増殖障害を有する細胞のマーカーとして、及び/又は分化障害を有する細胞のマーカーとして同定された。これらのペプチドの質量は2315Da及び2916Daであったが、これらのペプチドのアミノ酸配列は決定されていない。両方のペプチドは分画35で同定された。表1は、本発明のペプチドが異なった種類のサンプルで観察されたことを示している。
【0084】
これらのタンパク質の断片は従来の技術において知られておらず、過剰増殖障害を有する細胞及び/又は分化障害を有する細胞及び/又は腫瘍性細胞、好ましくは、癌細胞又は結腸直腸癌性細胞又は関連する障害を有する細胞のためのマーカーとして適していることは知られていない。特に、TIF1−ベータ又は断片又は誘導体又はそれらの多形形態が、宿主中で増殖する細胞から宿主の生体内に放出されることは従来の技術では知られておらず、ここで前記細胞は、過剰増殖障害を有する細胞及び/又は分化障害を有する細胞及び/又は腫瘍性細胞である。TIF1−ベータ(転写中間因子1−ベータ)は転写因子であり、そしてそれ故、細胞の核に存在することが期待される。それ故、前記細胞の宿主の生体における過剰増殖障害を有する細胞及び/又は分化障害を有する細胞及び/又は腫瘍性細胞の存在のためのマーカーとして細胞外TIF1−ベータ又は断片又はそれらの誘導体が発見されたことは驚くべきことであった。
【0085】
【表1】

【実施例】
【0086】

下記の実施例は、本発明を例示することを意図しているが、本発明の範囲をいかようにも限定することは意味していない。
実施例1:腫瘍細胞の増殖、マウス内への注射及びサンプル採取
ヒト結腸直腸癌細胞株HCT−116は、ATCC, Manassas, VA, USA, 注文番号CCL-247、から得た。腫瘍細胞を、10%ウシ胎児血清及び2mM L−グルタミンを補充したRPMI1640培地中、37℃、5%CO、で培養した。すべての組織培養培地及び補充物はGibco BRL, Gaithersburg, MD, USA から得た。付着腫瘍細胞の細胞継代は、1週間に2回、1:10の比で細胞培養物を分割することにより実施した。注射の日(0時点)、当該技術分野で知られているようにトリプシン/エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を使用して細胞を培養フラスコから採取し、培養培地に移し、一度洗浄し、リン酸緩衝液(PBS)に再懸濁した。PBSでの追加の洗浄工程の後、最終濃度をmL当たり15000000生存細胞に調節した。腫瘍細胞懸濁液を、細胞凝集を避けるように注意深く混合し、氷上に保ち、針を付けずに1.0mLシリンジ内に吸引した。200μLの細胞懸濁液(3,000,000細胞を含有)を、0.45x25mmのサイズの針を使用し、マウスの右横腹側面内の皮下に注射した。総計で60匹のマウスに腫瘍細胞を注射した。40匹の追加の動物は、陰性対照を得るために使用し、PBSのみを注射した。腫瘍を有する動物を、腫瘍細胞注射後、第7、13又は34日目に殺した。各々20匹の動物の対照群は7及び34日目に殺した。示された時点で、心臓穿刺によりEDTA−血液を得た。EDTA血漿は当該技術分野で知られているように調製し、個々の動物からのサンプルは、血液吸引30分以内に−80℃で保存した。移植された原発性HCT−116−腫瘍の重量及び容積を切開時に決定した。腫瘍容積は、センチメーターで測定された長さ及び平均幅の二乗を掛けることにより計算し、腫瘍容積はミリリットル(mL)として得られた。個々の腫瘍を秤量し、そして容積を決定したらすぐに液体窒素中で凍結し、さらに加工するまで−80℃で保存した。
【0087】
実施例2:マウス血漿を使用するサンプル調製
分析に先立って、当該技術分野で知られているように、トリクロロ酢酸(TCA)沈殿により、血漿サンプルのタンパク質ロードの減少を達成した。0.5mLの血漿サンプルを1mLの冷やした蒸留水に加えた。タンパク質沈澱のため、0.5mLのTCA(20%(v/v)TCA濃度)を加え、チューブを30秒激しく混合した。氷上で30分インキュベートした後、サンプルを18,000gで30分、4℃にて遠心分離した。上清を新しいチューブに移し、さらに加工するまで−80℃で保存した。375μL−等量の血漿を、クロマトグラフィー実施につき使用した。
【0088】
実施例3:インビトロで培養した細胞を使用するサンプル調製
トリプシン/EDTA及びゴムポリスマンの使用により組織培養プレートから細胞を除去し、600gで5分、室温で遠心分離し、PBSで2回洗浄した。ペプチド抽出のためには、50,000〜400,000細胞の湿潤塊標準化サンプルを使用した。200μLの200mM酢酸を加えた後、サンプルを10分煮沸した。続いて、HClの30%保存溶液を使用してサンプルのpHをpH2〜pH3に調整し、最後にTFAの0.1%保存溶液を使用して1.5mLにサンプルを希釈した。4℃にて、18,00Oxgで10分遠心分離後、上清を採取し、さらに加工するまで−80℃で保存した。50,000〜400,000細胞に相当する細胞抽出物を、クロマトグラフィー実施につき使用した。
【0089】
実施例4:細胞培養上清を使用するサンプル調製
10mlのシリンジを使用し、細胞培養上清は、0.2μm孔サイズ及び5cmの濾過面積を有する酢酸セルロースフィルター(Minisart(登録商標), Sartorius AG, Gottingen, Germany)を通過させた。濾過サンプルのpHは、HClの30%(v/v)保存溶液を使用してpH2〜pH3に調整し、さらに加工するまで−80℃で保存した。1.5mLの細胞培養上清をクロマトグラフィー実施につき使用した。
【0090】
実施例5:SCIDマウスから単離されたHCT−116腫瘍を使用するサンプル調製
サンプルの塊は秤量により決定した。4mgの腫瘍組織の湿潤塊に80μLの200mM酢酸を加えた後、サンプルを10分煮沸した。典型的には20〜50mgの腫瘍組織を出発物質として使用した。続いて、サンプルのpHを、HClの30%(v/v)保存溶液を使用してpH2〜pH3に調整し、そして最後にサンプルをTFAの0.1%保存溶液を使用して1.5mlまで希釈した。4℃、18000xgで10分遠心分離した後。上清を採取し、さらに加工するまで−80℃で保存した。4mgの腫瘍組織に相当する細胞抽出物をクロマトグラフィー実施につき使用した。
【0091】
実施例6:サンプルの液体クロマトグラフィー
実施された分離法は逆相クロマトグラフィーであった。種々のRPクロマトグラフィー樹脂及び緩衝液は等しく適していた。約4mmx250mmのサイズを有するC18逆相クロマトグラフィーカラムを使用したペプチド及び/又はタンパク質の分離は以下のように実施した。ここでは、Source RPC、4,6x150mm(Amersham Biosciences Europe GmbH, Freiburg, Germany) が使用された。緩衝液Aは、0.06%容量/容量(v/v)トリフルオロ酢酸(TFA)及び99,94%(v/v)蒸留水であり、及び緩衝液Bは、0.05%(v/v)TFA、80%(v/v)アセトニトリル 及び19.95%(v/v)蒸留水であった。クロマトグラフィーは、マイクロフローセルを備えたHP1100HPLC(両方ともAgilent Technologies, Boblingen , Germany から供給された)を使用して33℃で行った。サンプルのpHは、30%(v/v)HClの保存溶液を使用してpHをpH2からpH3に調整し、続いてサンプルをトリフルオロ酢酸の0.05%(v/v)保存溶液を使用して1.5mLに希釈した。クロマトグラフィーに先だって、サンプルを4℃及び18000gで10分遠心分離し、最後に、375μL血漿、50000〜400000インビトロ培養細胞、腫瘍組織の4mg湿潤重量又は1.5mLの細胞培養上清に相当する、1.5mLのサンプルをクロマトグラフィーカラムにロードした。緩衝液A及びBはクロマトグラフィーの間、種々の比で混合され、緩衝液Bのパーセンテージのみが述べられている。緩衝液Aのパーセンテージは100%引く%緩衝液B(v/v)である。クロマトグラフィー条件は以下のようである:
・最初の1分間は5%緩衝液B;
・次の44分間は5から50%緩衝液Bへの直線濃度勾配;
・次の4分間は50から100%緩衝液Bへの直線濃度勾配;
・次の4分間は100%緩衝液B。
流速は500μL/分であり、そして96分画(各々0.5mLを含有する)を、5から100%緩衝液Bへの濃度勾配の間に集めた。
【0092】
実施例7:ヒト血漿の収集及び調製
62歳の平均年齢を有し、種々の癌段階の19人の男性結腸癌患者からの血漿サンプルを、抗凝固剤としてEDTAを使用し、当該技術分野で知られている標準法により集めた。収集チューブを2000g及び4℃で10分遠心分離した。血漿サンプルは、さらに加工するまで−80℃で保存した。クロマトグラフィーに先だって、これら19血漿サンプルの4mLのプールを、当該技術分野で知られているトリクロロ酢酸(TCA)沈殿にかけた。簡単には、500μLの血漿を1mLの冷却した蒸留水に加えた。タンパク質沈澱は、500μLの氷冷20%TCA(v/v)を加え、チューブを30秒激しく混合することにより実施した。氷上で30分インキュベートした後、チューブを18,000gで30分、4℃にて遠心分離した。上清をさらなる分析に使用した。TCA沈澱は、高分子量タンパク質を除去するため、及びペプチド及び低分子量タンパク質を濃縮するために行った。続いて、TCA沈澱の上清を実施例6に記載したように96分画に分離した。第一の分画化(実施例6に従って)の分画42の3.6mL血漿等価物を使用した第二の分画化は、2x250mmのサイズのJupiter C18逆相カラム(Phenomenex, Aschaffenburg, Germany)を使用して行った。クロマトグラフィーは、マイクロフローセルを備えたHP1100HPLC(両方ともAgilent Technologies, Boblingen , Germany から供給された)を使用して33℃で行った。緩衝液Aは0.06%(v/v)トリフルオロ酢酸(TFA)及び99.94%(v/v)蒸留水であり及び緩衝液Bは0.05%(v/v)TFA、80%(v/v)アセトニトリル及び19.95%(v/v)蒸留水であった。クロマトグラフィー条件は以下のようである:
・最初の1分間は5%緩衝液B;
・次の2分間は5から15%緩衝液Bへの直線濃度勾配;
・次の42分間は15から40%緩衝液Bへの直線濃度勾配;
・次の4分間は40から100%緩衝液Bへの直線濃度勾配;
・次の4分間は100%緩衝液B;
・次の1.5分間は100から50%緩衝液Bへの直線濃度勾配;
・次の3分間は50から100%緩衝液Bへの直線濃度勾配;
・及び最後に、最後の2.5分は100から50%緩衝液Bへの直線濃度勾配。
流速は100μL/分であり、そして96分画(各々500μLを含有する)を、5から100%緩衝液Bへの間に集めた。
【0093】
実施例8:サンプルの質量分析
質量分析のため、ペプチドの典型的陽性イオンスペクトルをMALDI−TOF(マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間)質量分析計を使用して測定した。適したMALDI−TOF質量分析計は、中でも、PerSeptive Biosystems, Framingham, USA(Voyager-DE, Voyager- DE PRO 又はVoyager-DE STR)又はBruker Daltonik, Bremen, Germany (BIFLEX) により製造されているものである。ペプチドに適した典型的マトリックス物質は、3,5−ジメトキシ−4−ヒドロキシケイ皮酸、アルファ−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸及び2,5−ジヒドロキシ安息香酸のような有機酸を含んでなるマトリックス物質である。MALDIサンプル調製のため、0.1%TFA含有アセトニトリルに溶解された、マトリックスとしてアルファ−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸及びコマトリックスとして6−デスオキシ−l−ガラクトースを使用した。質量分析キャリアプレート上にスポットされた、7.5μL血漿又は1000〜5000のインビトロ培養細胞又は80μgの腫瘍組織又は30μLの細胞培養上清に相当する、逆相クロマトグラフィーにより得られた凍結乾燥等価物を、ペプチド及び/又はタンパク質を測定するために使用した。分画化され、凍結乾燥されたサンプルを15μLのマトリックス溶液に溶解した。例えば、10g/Lのα−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸及び10g/LのL(−)フコースを含有するこのマトリックス溶液を、容量(v/v)で49:49:1:1の比のアセトニトリル、水、トリフルオロ酢酸(TFA)及びアセトンから成る溶媒混合物に溶解した。0.3μLのこのサンプル溶液をMALDIキャリアプレートに移し、乾燥させたサンプルをPerSeptive Biosystems からのVoyager-DE STR MALDI質量分析計で分析した。測定は、遅延抽出(商標)を伴うリニアモードで行った。MALDI−TOF質量分析計は、ペプチドが質量分析計の動的測定範囲内である(それ故検出器飽和が避けられる)濃度で存在するとすれば、ペプチド、例えば、本発明のペプチドを定量することに用いることが可能である。個々のペプチド及び/又はタンパク質質量シグナルを定量するMALDI質量分析計の能力は、50〜800pmolの既知の濃度の、ニューロテンシンのようなペプチドを、血漿サンプルのような複雑な生物学的サンプルへ添加することにより確認した。続いてこれらのサンプルを逆相クロマトグラフィーにより分離し、添加したペプチドを含有する分画を、実施例に記載したように質量分析計で分析した。例えば、ニューロテンシンペプチドのMALDI質量分析質量シグナル強度と血漿サンプルに添加したニューロテンシンペプチドの量の間には直線的相関があり、MALDI質量分析は、血漿のような複雑なサンプル中のペプチドを定量的に決定するために適していることを示している(図2)
実施例9:ペプチド同定
異なって発現されたペプチドの検出は、減法ペプチドディスプレイマップ及び相関分析の計算により達成した。腫瘍を有するマウス、細胞培養物又は組織検体からの血漿のペプチドディスプレイマップでのみ現れ、対照マウス血漿では現れない選択されたペプチドをESI−qTOFシークエンシング(PE Applied Biosystems, Framingham, USA) により分析した。当業者には既知の様式で、特異的m/z(質量/電荷)値に基づいて、質量分析計中でペプチドイオンを選択した。これらの選択されたイオンは次ぎに衝突ガス(例えば、ヘリウム又は窒素)で衝突エネルギー(20−40eV)を供給することにより断片化し、生じたペプチド又はタンパク質の断片を質量分析計中の積分分析ユニットで検出し、そして相当するm/z値を決定した(タンデム質量分析計の原理)。ペプチドの断片化挙動は、ペプチドの明確な同定を可能にする。例えば、質量分析を四重極−TOF(飛行時間)シークエンシング(QStar−Pulsarモデル)により、又はESI−qTOFシークエンシング(両方とも、PE Applied Biosystems, Framingham,USA より)により行うことが可能である。生じたペプチド断片スペクトルは、生成物イオンスキャンモードのnanoSprayを使用して検出した(スプレー電圧950V、衝突エネルギー20から40eV)。サンプル当たり200までのスキャンを蓄積した。電荷状態デコンボリューションはBioAnalystプログラムパッケージ(PE Applied Biosystems)のBayesian再構築ツールを使用して実行し、デアイソトーピング(deisotoping)はVoyager 5.1ソフトウェア(PE Applied Biosystems)により達成した。質量スペクトルはMASCOTジェネリックファイルフォーマットで保存し、MASCOT19データベース検索エンジン(Matrix Science, London, UK)へ提出した。検索したデータベースはSwissProt(Version 39.6, www.expasy.ch)及びMSDB(Version 010721 , EBI, Europe)であった。加えて、このペプチドシークエンシング法は、タンパク質及びペプチドの生物学的活性の調節にしばしば関与するリン酸化又はアセチル化のようなアミノ酸修飾の同定も可能にする。
【0094】
組織標本の単一HPLA分画のMALDI−PSD−MS測定も、Voyager ToF質量分析計(Applied Biosystems, Framingham, MA, USA) を使用して実施した。
実施例10:データ分析
実施例6又は7で記載したような分画化に続いて、各分画を実施例8に記載したようにMALDI質量分析により個々に分析し、各サンプルについて96の質量スペクトルを生じた。これら96の質量スペクトルをいわゆるペプチドディスプレイに電子的に合併した。これらペプチドディスプレイのx軸は分子量を示し、y軸は分画番号を示し、そして色強度(グレースケール)は質量分析シグナル強度を表す。ペプチドディスプレイのデータはバックグラウンドノイズについて調整することにより再加工することができ、異常値は分析から除くことができる。ペプチドディスプレイ間の相違を、電子的にお互いに差し引くことにより、及び/又は質量シグナル強度の相関分析により計算した。相関分析については、閾値質量シグナル強度より上のあらゆる質量シグナル強度を、同一の特定の質量シグナル強度の閾値より上のいずれかの他の質量シグナル強度に対する相関について試験した。異なった(相対的)濃度のペプチド及び/又はタンパク質の検出は、比較すべきサンプルからの質量分析データ(質量シグナル強度)との比較により行われた。インビトロ培養腫瘍細胞からの、又はインビボSCIDマウス増殖腫瘍細胞からの、又は組織培養上清からの、又はSCIDマウスの血清からの、又はヒト結腸癌患者の血清からのペプチドディスプレイは、約1000〜2300の非重複性ペプチド及び/又はタンパク質質量シグナルを与えた。
【0095】
異種移植片(移植されたヒトHCT−116結腸腫瘍細胞株)に明瞭に由来する多様なペプチド及び/又はタンパク質質量シグナルがSCIDマウスの血漿中で同定された。これらのペプチド及び/又はタンパク質は、異種移植片移植SCIDマウスの血漿に検出されたが、腫瘍細胞(異種移植片)の代わりにPBSを注射した対照マウスでは検出されなかった。加えて、これら多様なペプチドのいくつかは、インビトロ培養HCT−116結腸腫瘍細胞の細胞培養物上清中で、インビトロ培養HCT−116結腸腫瘍細胞の細胞抽出物中で及び/又はHCT−116細胞を含んでなる腫瘍(その腫瘍はSCIDマウスから単離された)の細胞抽出物中でも同定された。表1は、検出された及び/又は同定されたペプチド、及びそれらが検出されたサンプルの種類を要約している。その配列が同定されたペプチドは、それらが由来する親分子/タンパク質の完全配列内の各配列位置により示されている。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】図1はSCIDマウスにおける、HCT−116腫瘍細胞の増殖時間(x軸)の関数としての腫瘍重量(y軸)を示している。腫瘍重量はグラムで示されており、腫瘍の増殖時間は日数で与えられている。腫瘍細胞注射後、第14日目又は第34日目に測定された個々の腫瘍の測定値は、黒丸で示されている。時間に対する腫瘍重量の相関rは0.90であった。
【図2】50〜800pmolのニューロテンシンを血漿サンプル内に導入し、続いて逆相クロマトグラフィーにより分離し、ニューロテンシンを含有する分画を実施例に記載したように質量分析法により分析した。ニューロテンシンのMALDI質量分析シグナル強度(y−軸)と、血漿サンプルに加えられたニューロテンシンペプチドの量(x−軸)間に直線関係があり:MALDI質量分析は、血漿のような複雑なサンプル中のペプチドを定量的に決定するのに適していることを示している。
【図3】この図は、TIF1−ベータのアミノ酸残基2〜39(表1、配列番号1)に相当するTIF1−ベータ断片(血漿中で観察された)のピークのMALDI質量シグナル強度に対する、個々のマウスの腫瘍の湿潤重量を示している。x及びyは対数フォーマットであり、y軸は任意単位でのMALDI質量シグナル強度を表しており、一方、x軸は腫瘍重量を表している。MALDI質量シグナル強度対腫瘍重量の相関係数rは0.97であった。
【図4】パネルAはHCT−116結腸癌細胞を注射して34日後の、SCIDマウス血漿のRP−クロマトグラフィーにより得られた個々の分画の質量スペクトルを示している。y軸はMALDI質量シグナル強度を表し、x軸はダルトンでの分子量を表している。矢印は問題とするペプチドを表しているピーク(実験的に決定された質量は3171ダルトンであった:理論的モノアイソトピック質量は3169ダルトンである)を示しており、それは配列決定後、TIF1−ベータのアミノ酸残基2〜39に相当するヒトTIF1−ベータ(TIF1−b)の断片と同定された。パネルBは、異なったサンプルを使用して発生させた種々の質量スペクトルのパネルAと同一の質量ウィンドウを示している。これらの質量スペクトルは「ゲル様」ビューで示されており、サンプルのより容易な比較を可能にするため、質量シグナル強度は色強度(グレースケール)に変換された。以下のサンプルのMALDI質量シグナル強度が以下の順で示されている:HCT−116腫瘍を有しない14の個々のSCIDマウスの14の個々に測定された血漿サンプル、HCT−116腫瘍を有する9の個々のSCIDマウスの9の個々に測定された血漿サンプル、インビトロ培養HCT−116細胞から調製された細胞抽出物の1サンプル、インビトロ培養HCT−116細胞から集められた上清の1サンプル、19の結腸癌腫患者から集められたヒト血漿のプールの1サンプル。下部の矢印は、パネルAで示されたものと同一のTIF1−ベータ断片を示している。このTIF−ベータのMALDI質量シグナルは、HCT−116を有しないSCIDマウスの血漿サンプルを除いて、すべてのサンプル中に存在した。
【図5】図5は、図4と同じ種類の実験を示している。すべてのサンプルは「ゲル様」ビューで示されている。以下のサンプルのMALDI質量シグナル強度が以下の順で示されている:HCT−116腫瘍を有しないSCIDマウスの14の個々に測定された血漿サンプル、HCT−116腫瘍を有するSCIDマウスの8の個々に測定された血漿サンプル。図の下部の矢印は、未知の配列のペプチドに対応する、2315ダルトンの実験的に決定された質量シグナル(分画35で同定された)を示している。この質量シグナルは、HCT−116腫瘍を有するSCIDマウスの血漿サンプルに存在したが、HCT−116腫瘍を有しないSCIDマウスの血漿サンプル中には存在しないか又は非常に低かった。
【図6】この図は、図4と同じ種類の実験を示している。すべてのサンプルは「ゲル様」ビューで示されている。以下のサンプルのMALDI質量シグナル強度が以下の順で示されている:HCT−116腫瘍を有しないSCIDマウスの14の個々に測定された血漿サンプル、HCT−116腫瘍を有するSCIDマウスの9の個々に測定された血漿サンプル。図の下部の矢印は、未知の配列のペプチドに対応する、2916ダルトンの実験的に決定された質量シグナル(分画35で同定された)を示している。この質量シグナルは、HCT−116腫瘍を有するSCIDマウスの血漿サンプルに存在したが、HCT−116腫瘍を有しないSCIDマウスの血漿サンプル中には存在しないか又は非常に低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体中の癌細胞又はそれらの前駆体細胞の存在又は不存在を検出するための方法であって、
a)前記個体のサンプル中の少なくとも一つのTIF1−ベータ断片及び/又は少なくとも一つのTIF1−ベータ及び/又はそれらの誘導体の量を決定する工程;
b)a)の結果と、陰性対照サンプルを使用して決定された結果又は既知の基準値を比較する工程;及び
c)工程b)でなされた比較の結果に基づいて、前記個体中の前記細胞の存在又は不存在を決定する工程;
の工程を含んでなる、前記方法。
【請求項2】
少なくとも一つのTIF1−ベータ断片が、配列番号1〜5のペプチド及び/又はそれらの誘導体からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記個体において、結腸直腸癌性又は結腸直腸前癌性障害の癌細胞又は前駆体細胞の存在を決定するための、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記サンプルが、全血、血漿、血清、脳脊髄液、リンパ液、尿、大便及び組織サンプルからなる群より選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記TIF1−ベータ及び/又は前記TIF1−ベータの断片及び/又はそれらの誘導体が、ELISA、RIA、ウェスタンブロット、タンパク質チップアッセイ、質量分析、免疫組織学、フローサイトメトリー又は分子生物学的方法から成る群より選択される方法により決定される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
TIF1−ベータ断片及び/又はそれらの誘導体を同定するための方法であって、TIF1−ベータ断片及び/又はそれらの誘導体は、異種移植片を含んでなる宿主の生体のサンプル中に存在し、前記異種移植片が前記TIF1−ベータ断片及び/又はそれらの誘導体を放出するか、又は前記異種移植片が、引き続いて修飾される前記TIF1−ベータ断片及び/又はそれらの誘導体の前駆体を放出し、
a)異種移植片を非ヒト宿主の生体内に移植し、及び前記非ヒト宿主の前記生体内で特定の時間、前記異種移植片を増殖させる工程;
b)非ヒト宿主の前記生体からサンプルを集める工程;
c)前記サンプル中に存在する複数のペプチドの存在、不存在又は量を決定する工程;
d)存在しない、又は前記異種移植片が移植されていない非ヒト宿主の生体のサンプル中では改変された量で存在する、及びペプチドはTIF1−ベータ断片及び/又はそれらの誘導体である、工程c)で決定されたペプチドを同定する工程;
の工程を含んでなる、前記方法。
【請求項7】
配列番号1〜5のいずれか一つの配列を有するペプチド又はそれらの誘導体。
【請求項8】
ペプチドが追加として少なくとも一つの非TIF1−ベータアミノ酸配列を含んでなる、請求項7に記載のペプチド。
【請求項9】
配列番号1〜5のペプチドのネオエピトープに特異的に結合する結合剤であって、配列番号6又は7のペプチドを結合しない、前記結合剤。
【請求項10】
抗体、断片又はそれらの誘導体である、請求項9に記載の結合剤。
【請求項11】
核酸であって、
a)請求項7又は8のいずれか一項に記載のペプチドをコードする核酸配列;
b)a)に基づいた核酸配列に相補的である核酸配列;
c)ストリンジェント条件下、a)及び/又はb)に基づいた核酸にハイブリダイズし、及び最大でも配列番号6又は7をコードする核酸配列よりも短い核酸配列長を有する核酸配列;
d)a)〜c)のいずれか一つに基づいた前記核酸配列に関して縮重されている核酸配列;
e)a)〜d)のいずれか一つの核酸配列の誘導体及び/又は断片;
f)さらに、少なくとも一つの非TIF1−ベータ核酸配列を含んでなる、a)、b)、c)、d)又はe)に従った核酸配列;及び/又は
g)前記少なくとも一つの非TIF1−ベータ核酸配列が、核酸配列のラベル化のための配列である、f)に従った核酸配列;
から成る群より選択される、前記核酸。
【請求項12】
さらにラベルを含んでなり、そのラベルは核酸配列ではない、請求項11に記載の核酸。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の核酸を含んでなるベクター。
【請求項14】
請求項11又は12のいずれか一項に記載の核酸又は請求項13に記載のベクターを含んでなる宿主細胞。
【請求項15】
試験キットであって、
a)請求項7又は8に記載のペプチド;及び/又は
b)請求項9又は10に記載の結合剤;及び/又は
c)請求項11又は12に記載の核酸;及び/又は
d)請求項13に記載のベクター;及び/又は
e)請求項14に記載の宿主細胞;及び
障害の存在、不存在、予後又は再発を決定するために、試験キットをどのように使用するのかの説明書を含んでなる、前記試験キット。
【請求項16】
試験キットであって、
a)請求項7又は8に記載のペプチド;及び/又は
b)TIF1−ベータ又はその断片及び/又は誘導体であるペプチド;及び/又は
c)追加として少なくとも一つの非TIF1−ベータアミノ酸を含んでなる、b)に従ったペプチド;及び/又は
d)請求項9又は10に記載の結合剤;及び/又は
e)TIF1−ベータに特異的な、又はそれらの断片又は誘導体に特異的な結合剤;及び/又は
f)請求項11又は12に記載の核酸;及び/又は
g)TIF1−ベータ及び/又はその断片及び/又は誘導体をコードする核酸;及び/又は
h)f)又はg)に従った核酸に相補的である、又はストリンジェント条件下でハイブリダイズする核酸配列;及び/又は
i)追加として少なくとも一つの非TIF1−ベータヌクレオチドを含んでなる、f)、g)又はh)に従った核酸;及び/又は
j)請求項13に記載のベクター;及び/又は
k)請求項14に記載の宿主細胞;及び
請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法のために、前記試験キットをどのように使用するのかの説明書を含んでなる、前記試験キット。
【請求項17】
請求項15又は16に記載の試験キットの製造のための、
a)請求項7又は8に記載のペプチド;及び/又は
b)請求項9又は10に記載の結合剤;及び/又は
c)請求項11又は12に記載の核酸;及び/又は
d)請求項13に記載のベクター;及び/又は
e)請求項14に記載の宿主細胞;
の使用。
【請求項18】
癌、結腸直腸癌性又は結腸直腸前癌性障害からなる群より選択される疾患の診断のための試験キット製造のための、
a)請求項7又は8に記載のペプチド;及び/又は
b)TIF1−ベータ又はその断片及び/又は誘導体であるペプチド;及び/又は
c)追加として少なくとも一つの非TIF1−ベータアミノ酸を含んでなる、b)に従ったペプチド;及び/又は
d)請求項9又は10に記載の結合剤;及び/又は
e)TIF1−ベータに特異的な、又はその断片又は誘導体に特異的な結合剤;及び/又は
f)請求項11又は12に記載の核酸;及び/又は
g)TIF1−ベータ及び/又はその断片及び/又は誘導体をコードする核酸;及び/又は
h)f)又はg)に従った核酸に相補的である、又はストリンジェント条件下でハイブリダイズする核酸配列;及び/又は
i)追加として少なくとも一つの非TIF1−ベータヌクレオチドを含んでなる、f)、g)又はh)に従った核酸;及び/又は
j)請求項13に記載のベクター;及び/又は
k)請求項14に記載の宿主細胞;
の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−527984(P2008−527984A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−551632(P2007−551632)
【出願日】平成18年1月24日(2006.1.24)
【国際出願番号】PCT/EP2006/000607
【国際公開番号】WO2006/077160
【国際公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(507193102)ディギラブ・ビオヴィズィオーン・ゲーエムベーハー (2)
【Fターム(参考)】