説明

癌治療

本発明は、CDK4タンパク質のアミノ酸配列の一部を含むペプチド、またはCDK4タンパク質のアミノ酸配列の一部と相同のアミノ酸配列を含むペプチドであって、癌細胞に対して細胞毒性および/若しくは増殖抑制性を示し、並びに/または、非癌細胞および/若しくは対照細胞の増殖を促進するものを提供する。また、そのようなペプチドおよびその医薬的な使用も開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌細胞に対して細胞毒性および/若しくは増殖抑制作用を示し、並びに/または、非癌細胞および/若しくは対照細胞の増殖を促進する作用を有するペプチドとペプチドミメティックに関するものである。本発明は、このようなペプチドおよびペプチドミメティックの医療への使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
化学療法は多数の癌患者の治癒にその任を負ってきたが、治療にほとんど反応しない腫瘍や、初期にのみ反応しその後再発する腫瘍をかかえた患者が非常に多いのが現状である。これらの患者にとって、現在の治療法が適切でないのは明らかである。
【0003】
ある種の腫瘍が従来の化学療法に反応しないのは、これら腫瘍細胞が、化学療法剤に非感応性を与えるような遺伝子発現パターンを有するためと考えられている。同様に、初期には化学療法に反応するが、その後反応しなくなるのは、腫瘍細胞が腫瘍不均一性と遺伝的不安定性をもつためと考えられている。腫瘍不均一性とは、腫瘍の中の様々な細胞の遺伝子発現パターンが異なっていて、化学療法剤に抵抗性の細胞と感受性の細胞が共存する状況を表す。従って、そのような腫瘍を化学療法処理すると、感受性細胞が殺されて腫瘍は縮小するが、抵抗性細胞は殺されないので、抵抗性細胞が分裂し続けて、完全に薬剤抵抗性の癌が生じるのである。
【0004】
また、現在までに開発された化学療法剤の大半は、重要な正常細胞の増殖も抑制する。例を挙げると、a)化学療法による造血系前駆細胞の阻害は、赤血球、白血球、血小板を減少させて貧血を引き起こし、感染症や自然出血が発生しやすくなる、b)腸の正常細胞の交替を阻止して下痢を引き起こす、または、c)口、鼻、喉などを覆っている扁平上皮細胞の交替を阻止する。
【0005】
遺伝的不安定性は大多数の癌でみられ、その結果、腫瘍細胞は新たな突然変異を獲得する。これらの突然変異の中には細胞に薬剤抵抗性を付与するものがあり、薬剤抵抗性細胞は化学療法に耐え抜いて分裂を繰り返し、薬剤抵抗性の癌を生じる。
【0006】
そのため、あらゆる癌細胞に効果があり、腫瘍不均一性や遺伝的不安定性の影響を受けず、正常細胞(非癌細胞)の増殖を抑制しないか、正常な非癌細胞の増殖を促進さえするような抗癌剤が必要となる。
【0007】
WO03/081239(その全体は、参照のために本願に取り込まれる)では、癌細胞の生存と増殖に必要な「重要正常遺伝子産物」と名付けられた遺伝子産物が特定されている。重要正常遺伝子産物は、癌細胞の生存と増殖に必要であるので、各腫瘍細胞中に存在して機能するはずである。よって、腫瘍不均一性や遺伝的不安定性の影響を受けない安定な抗癌剤の標的となる。WO03/081239は、重要正常遺伝子産物を破壊する薬剤が有効な抗癌剤になることを示唆する。WO03/081239は、重要正常遺伝子産物を遺伝的に破壊する方法を開示しているが、癌治療に成功した薬剤を開示してはいない。
【0008】
定義によれば、重要正常遺伝子産物は正常細胞の機能を破壊しない。医療で使われている従来の化学療法は選択性がなく、正常な非癌細胞を壊し、抵抗性でない癌細胞にのみ効果がある。
【0009】
理想的な抗癌剤は、全てのタイプではないとしても、多くのタイプの癌細胞の増殖を抑制するが、正常な非癌細胞の増殖には影響しないか、むしろ増殖を促進する薬剤であろう。
【0010】
WO03/081239は、CDK4タンパク質を、(全部ではないとしても)大半の癌に存在する臨界的正常遺伝子産物として特定した。
【0011】
CDK4タンパク質は、細胞が細胞周期のS期に入るために必要な事象を開始することにより、S期に入るのを調節することが知られている。詳しく言えば、活性化されたCDK4は、pRbおよび関連タンパク質であるp107とp130をリン酸化する。これらのタンパク質は、低リン酸化状態でE2F転写因子に結合する。しかし、リン酸化されると、E2F転写因子は、タンパク質DP−1/DP−2とのヘテロ二量体として放出される。その後、このE2F/DPヘテロ二量体はDNAと結合して、DNA合成に必要な因子を活性化する(S期中に起こる活性)。さらに、遊離型E2Fタンパク質は、サイクリンE、サイクリンA、CDK1、E2Fなどの、細胞分裂を調節する遺伝子をアップレギュレーションし、それによって細胞周期を進行させる。
【0012】
CDK4タンパク質は、S期に入るための条件が適切な場合にのみ活性化され、Ras/Raf/Erk経路など、細胞表面受容体からのシグナルをつなぐ正のシグナル伝達経路がCDK4活性化に影響することが明らかにされている。CDK4タンパク質は、スレオニン164のリン酸化により活性化され、チロシン17のリン酸化により阻害される。
【0013】
CDK4タンパク質は、その役割を遂行するために、サイクリンD1への結合、pRbのリン酸化、p21、p27、p16などのCDK阻害剤への結合、サイクリン活性化キナーゼへの結合、チロシン17のリン酸化と脱リン酸化に関与する酵素との相互作用など多くの機能を有することが知られている。
【0014】
CDK4タンパク質は細胞分裂促進に関与することから、癌における役割を調べる研究がいくつかなされた。
【0015】
CDK4タンパク質を欠失したノックアウトマウスは、古典的イニシエーター系(DMBA)とそれに続くプロモーター(TBA、即ち、ホルボールエステル)により誘導しても、癌にならない(Roblesら(1998年)Genes Dev.12:2469;Rodriguez-Pueblaら(2002)Am.J.Path 161:405)。その他のノックアウトマウス(サイクリンD1ノックアウトマウスなど)は、癌発生にこのように顕著には影響しない。
【0016】
しかし、CDK4タンパク質は、癌細胞で過剰発現されるという特徴がある。さらに、CDK4タンパク質を過剰発現するトランスジェニックマウスは、上記の発癌誘発系を用いると、もっと発癌しやすくなる(Roblesら(1998)Genes Dev.12:2469;Rodriguez-Pueblaら(2002)Am.J.Path 161:405)。
【0017】
さらに、正常CDK4をトランスフェクトすると、正常なヒト線維芽細胞の増殖性寿命が延びることが示されている(Morrisら(2002)Oncogne 21,4277)。
【0018】
癌における明らかな重要性の観点から、CDK4タンパク質は、抗癌剤の標的として提案された。しかし、CDK4キナーゼ活性を阻害する薬剤(フラボピリドールなど)は、フェーズII試験では臨床効果がほとんどない。
【発明の開示】
【0019】
本発明は、CDK4タンパク質を標的とする有効な抗癌剤を提供することにより、従来技術を改善するものである。
【0020】
詳しくは、本発明は、CDK4タンパク質のアミノ酸配列の一部を構成するアミノ酸配列を含むペプチド、或いはCDK4タンパク質のアミノ酸配列の一部と相同のペプチドであり、癌細胞に対して細胞毒性および/もしくは細胞増殖抑制を示し、並びに/または非癌細胞および/もしくは対照細胞の増殖を促進するものである。本発明の1つの好適な態様において、このペプチドは、非癌細胞および/または対照細胞の増殖を抑制しない。好ましくは、CDK4タンパク質はヒトCDK4タンパク質である。
【0021】
「ペプチド」という用語は、当業界ではよく知られており、アミノ酸残基の直鎖状配列を含む分子のことである。CDK4タンパク質のようなタンパク質も、アミノ酸残基の直鎖状配列を有する。従って、本発明のペプチドは、CDK4タンパク質のアミノ酸配列の一部を含む。即ち、本発明のペプチドは、CDK4タンパク質の断片を含む。
【0022】
一つの態様では、本発明のペプチドは、CDK4分子のC末端部分(下記参照)に分布する部分的に疎水性の独特な配列内の短い直鎖状配列や、これらの同一アミノ酸配列に由来する環状ペプチドであって、ヒト癌細胞の増殖を抑制するものを含む。好ましくは、このペプチドは、非癌細胞および/または対照細胞の増殖を抑制しない。場合によっては、このペプチドは、非癌細胞および/または対照細胞の増殖を促進する。
【0023】
好ましい態様において、本発明のペプチドは、配列番号:1のアミノ酸配列を含む。特に好ましい態様では、本発明のペプチドは配列番号:1のアミノ酸から成る。
【0024】
或いは、本発明のペプチドは、CDK4タンパク質のアミノ酸配列の一部と相同のアミノ酸配列を含むものであってもよい。好ましい態様では、本発明のペプチドは、配列番号:2のアミノ酸配列を含む。特に好ましい態様では、本発明のペプチドは、配列番号:2のアミノ酸配列から成る。
【0025】
一つの態様では、本発明のペプチドは、一般式YRGXRYで表されるアミノ酸配列を含む。式中、Rはアルギニン、Gはグリシン、Yは存在するか或いは存在しなくてもよいが、少なくとも1個のYが存在し、XとYはプロリンまたはスレオニンで、XまたはYの少なくとも1個はプロリンである。好ましい態様では、XとYはプロリンである。好ましくは、本発明のペプチドは、PRGPRP(配列番号:5)、PRGPR(配列番号:6)、RGPRP(配列番号:7)、RGPR(配列番号:8)、TRGPRP(配列番号:9)、TRGTRP(配列番号:10)、TRGTRT(配列番号:11)、PRGTRP(配列番号:12)、PRGPRT(配列番号:13)、PRGTRT(配列番号:14)、TPPRGPRP(配列番号:15)、およびPPRGPRP(配列番号:16)から選択される一つのアミノ酸配列を含む。本発明のペプチドは、これらアミノ酸配列からなるものであってもよい。これらのペプチドが特に好ましいのは、試験した癌細胞に対して細胞毒性を示し、いくつかは癌細胞に選択的に細胞毒性であり、非癌細胞の増殖を抑制しないからである。
【0026】
一つの態様では、本発明のペプチドは、一般式PRXXRPで表されるアミノ酸配列を含む。式中、Pはプロリン、Rはアルギニン、Xはアミノ酸またはアミノ酸ミメティックである。アミノ酸ミメティックは、天然アミノ酸と同様の性質を示す有機分子である。特に好ましくは、本発明のペプチドは、PPRGPRP、PRGPRP(配列番号:5)、PPRXPRP、PRXPRP、PPRGXRP、PRGXPRP、PPRXXRP、およびPRXXRPから選択されるアミノ酸配列を含む。
【0027】
プロリンとアルギニンの密度が高いこれらペプチドは、改善された作用強度を示すが、それはおそらく細胞への取込みが改善され、標的特異性が狭くなっているためである。
【0028】
一つの態様では、本発明のペプチドは直鎖状または環状であり、次のものを含む:
一般式[(YRGXRY)V]を有するn個のアミノ酸配列。式中、Rはアルギニン、Gはグリシン、Yは存在するか或いは存在しなくてもよいが、少なくとも1個のYが存在し、XとYはプロリンまたはスレオニンで、Xおよび/またはYの少なくとも1個はプロリンであり、Vはバリンであり、また、存在するか或いは存在しなくてもよく、nは1〜10の整数である;
および、m個の追加アミノ酸配列であり、各追加配列はz個のアミノ酸を有する。ここで、mは1〜10の整数であり、zは1〜20の整数である。
【0029】
mが1以上である場合、追加配列は、一般式[(YRGXRY)V]を有するn個のアミノ酸配列により無作為に配置されてもよい。または、追加アミノ酸配列は、一般式[(YRGXRY)V]を有する各アミノ酸配列により交互に配置されてもよい。或いは、追加配列は、一般式[(YRGXRY)V]をもつn個のアミノ酸配列が連続して直接隣り合わせになり、z個のアミノ酸から成るm個の追加アミノ酸配列が連続して直接隣り合わせになるように配置されてもよい。
【0030】
好ましい態様では、XとYはプロリンである。
【0031】
追加アミノ酸配列では、z個のアミノ酸はいかなるアミノ酸でもよい。しかし、グリシン、アラニン、バリン、フェニルアラニン、プロリン、およびグルタミンから選択されることが好ましい。好ましくは、追加アミノ酸配列は、疎水性アミノ酸を含む。
【0032】
好ましい態様では、nは1、2、3、4または5である。より好ましい態様では、nは3である。
【0033】
mは1、2、3、4または5であることが好ましく、最も好ましくは、mは1または2である。
【0034】
好ましい態様では、zは2〜14であり、2〜11がより好ましく、2、3、4、6または12が最も好ましい。特に好ましい追加配列は、GG、GGG、GGGG、GGGGG、GGGGGG、AA、AAA、AAAA、AAAAA、AAAAAA、VV、VVV、VVVV、VVVVV、VVVVVVか、またはこれらの組み合わせを含む。
【0035】
本発明のペプチドは、環状であることが好ましい。
【0036】
本発明のペプチドが一般式[(YRGXRY)V]を有するn個のアミノ酸配列と、z個のアミノ酸の追加アミノ酸配列m個を含む好ましい態様では、ペプチドは次の配列から選択されるアミノ酸配列を含む:
配列番号:18[GGGGPRGPRPGGGGAAA]
配列番号:19[GGGGPRGPRPGGGGPRGPRPVPRGPRPV]
配列番号:20[FPPRGPRPVQFPPRGPRPVQFPPRGPRPVQ]
配列番号:21[AAAGGPRGPRPGGAAA]
配列番号:22[AAGGGPRGPRPGGGAA]
配列番号:23[AAAGGGPRGPRPGGGAAA]
配列番号:24[AVAGGGPRGPRPGGGAVA]
配列番号:25[GGGGGGPRGPRPGGGGGG]
配列番号:26[AAAAAAPRGPRPAAAAAA]
配列番号:27[AAAAPRGPRPAAAAVVVV]
配列番号:28[AAGPGPGPRGPRPGPGAA]
配列番号:29[AAGPGGPRGPRPGGPGAA]
配列番号:30[AAVPGGPRGPRPGGPGVAAV]
配列番号:31[GGPRGPRPGGPRGPRPGGPRGPRP]。
【0037】
アミノ酸配列番号:18〜31は、環状であることが特に好ましい。
【0038】
これらのペプチドが特に好ましいのは、試験した癌細胞に対して細胞毒性を示し、癌細胞に選択的に細胞毒性であって非癌細胞の増殖を抑制しないPRGPRPの配列を含むからである。さらに、これらペプチドが特に好ましいのは、疎水性基(−CH3)を含むことにより、細胞に浸透しやすいようにデザインされているからである。その上、これらペプチドが環状であれば、より細胞に浸透し易くなり得る。これらペプチドでは、PRGPRP配列の柔軟性と、構造配座による拘束のバランスが最も効率の良いものになっている。
【0039】
mが0の場合(即ち、追加アミノ酸配列がない場合)、本発明のペプチドは、PRGPRPVPRGPRPVPRGPRPV(配列番号:17)のアミノ酸配列を含むことが好ましい。本発明のペプチドは、PRGPRPVPRGPRPVPRGPRPVのアミノ酸配列から成るものであってもよい。より好ましい態様では、本発明のペプチドは、PRGPRPVPRGPRPVPRGPRPV(配列番号:17)のアミノ酸配列を含む環状ペプチドである。また、当該環状ペプチドは、PRGPRPVPRGPRPVPRGPRPVのアミノ酸配列から成るものであってもよい。
【0040】
本発明の内容において、「相同性」という用語は、配列同一性のパーセンテージを表す。換言すれば、CDK4タンパク質とペプチドのアミノ酸配列に並んだ同一のアミノ酸の比率(%)である。好ましくは、配列同一性の比率は少なくとも50%である。より好ましくは、配列同一性の比率は、少なくとも60%、70%、80%または90%である。
【0041】
一部という用語は、本発明のペプチドが、CDK4タンパク質の全アミノ酸配列を含んでいないことを意味している。一般的には、本発明のペプチドは、CDK4タンパク質に存在するアミノ酸配列と同一または相同のアミノ酸を最低5個含む。好ましくは、本発明のペプチドは、CDK4タンパク質に存在するアミノ酸配列と同一または相同のアミノ酸を最低10個含む。
【0042】
本発明のペプチドは、癌細胞に細胞毒性を示すか、または癌細胞の増殖を阻止し、並びに/または非癌細胞および/もしくは対照細胞の増殖を促進する。本発明において、癌細胞とは、被験者の原発性腫瘍、転移癌または癌が疑われる他の部位から採取した細胞、或いは癌由来の細胞系である。本発明のペプチドは、非癌細胞および/または対照細胞よりも癌細胞に対する細胞毒性が強く、増殖抑制活性が強いことが好ましい。本発明の好ましい態様では、本発明のペプチドは、非癌細胞および/または対照細胞の増殖を抑制しない。
【0043】
本発明の内容において、非癌細胞は正常(健常)な細胞、即ち、癌に侵されていない細胞をいい、患者におけるあらゆる組織の細胞であってもよい。対照細胞は、細胞毒性の測定のために使う正常な非癌細胞を含み、患者の当該正常組織または患者の他の正常組織または初代培養細胞に由来するものでもよい。従って、多くの場合、非癌細胞と対照細胞は同一であってもよく、何れも正常な健常細胞である。一般的には、ヒト線維芽細胞またはケラチノサイトの短期初代培養が非癌細胞であり、対照細胞として使われる。
【0044】
WO99/42821に開示されているように、癌細胞は、CDK1とCDK4の遺伝子産物の発現レベルを測定することにより特定できる。この2つのタンパク質の発現レベルの比が0.6〜1.6の範囲であれば、細胞検体は癌性である。
【0045】
任意選択として、本発明のペプチドは、細胞への取込みを促進するアミノ酸配列を含むことができる。そのようなアミノ酸配列は当業界ではよく知られている。それらには、ペネトラチン(商標)(RQIKIWFQNRRMKWKK;Derossiら.Trends Cell Biol.(1998)8:84-87)が含まれる。ペネトラチン(商標)アミノ酸配列の変種にも、細胞内部取込み促進効果があることが、Christiaensらにより報告されている(European J.Biochemistry(2004)271:1187)。その他の細胞内部取込みアミノ酸配列には、KKWKMRRNQFWVKVQRG(Kanovskyら.Proc.Natl.Acad.Sci.,USA(2001)98:12438-43)、ポリアルギニン(11残基;Wuら.(2003)Neurosci.Res.47:131-135)およびLTVSPWY(Shadidi M.およびSioud M.,Identification of novel carrier peptides for the specific delivery of therapeutics into cancer cells(癌細胞への治療薬の特異的輸送のための新規キャリアペプチドの特定)、FASEB J.(2003)17:256-258)が含まれる。
【0046】
一つの態様において、本発明のペプチドは、CDK4タンパク質のアミノ酸配列の一部、または、CDK4タンパク質のアミノ酸配列の一部と相同のアミノ酸配列から成り、任意選択では、細胞へのペプチド取込みを促進するアミノ酸配列から成る。
【0047】
本発明は、癌細胞に対して細胞毒性または増殖抑制作用を示すペプチドの機能を模倣できるペプチドミメティックも提供する。かかるペプチドミメティックは、正常な非癌細胞および/または対照細胞に比べて癌細胞に対する細胞毒性が強く、増殖抑制が著明であることが好ましい。好ましい態様においては、当該ペプチドミメティックは、正常な非癌細胞および/または対照細胞の増殖を抑制しない。場合によっては、当該ペプチドミメティックは、正常な非癌細胞および/または対照細胞の増殖を促進する。
【0048】
本発明のもう一つの側面においては、ペプチドおよびペプチドミメティックの医療的用途が提供される。例を挙げると、本発明は、上記のようなペプチドまたはペプチドミメティックと、当業界で知られているキャリア、希釈剤、賦形剤を含む医薬組成物を提供する。好ましい態様では、この医薬組成物はp53阻害剤も含む。別の好ましい態様では、幹細胞を含む。
【0049】
本発明の内容において、p53阻害剤とは、p53タンパク質の生成を阻害することができるか、または、p53タンパク質の活性を阻害できる因子である。p53阻害剤は、当業界でよく知られており、MDM2タンパク質、MDM2タンパク質の断片およびピフィスリンαなどである。
【0050】
医薬組成物の製造方法も提供される。この方法は、ペプチドまたはペプチドミメティックの供給と、当該ペプチド/ペプチドミメティックを含む医薬組成物の製造を含む。医薬組成物がp53阻害剤を含む場合は、製造中に医薬組成物にp53阻害剤を取り込ませる。医薬組成物が幹細胞を含む場合は、製造中に幹細胞を取り込ませる。
【0051】
本発明は癌患者の治療法も提供する。当該方法は、この医薬組成物により患者を治療することを含む。癌が野生型p53を発現する細胞を含む場合は、p53阻害剤を含む医薬組成物で患者を治療することが好ましい。
【0052】
本発明の医薬組成物は、乳癌、前立腺癌、結腸直腸癌、膀胱癌、卵巣癌、子宮内膜癌、子宮頚部癌、頭頚部癌、胃癌、膵臓癌、食道癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、悪性メラノーマ、神経芽細胞腫、白血病、リンパ腫、肉腫、神経膠腫など、様々な組織の癌の治療に効果がある。上述のように、癌細胞は、WO99/42821の方法により特定できる。例えば、癌細胞は、CDK1とCDK4タンパク質の発現レベル比が0.6〜1.6の範囲に入る細胞である。
【0053】
本発明は、医療で使用するためのペプチドまたはペプチドミメティックも提供する。さらに、当該ペプチドまたはペプチドミメティックとp53阻害剤を含み、これらを同時に、別々に、または逐次的に使用するための複合製剤も提供する。
【0054】
本発明は、癌治療薬の製造におけるペプチド/ペプチドミメティックの用途を提供し、また、上述の癌を含む癌の治療で、同時に、別々に、または逐次的に使用するための複合製剤の製造におけるペプチドまたはペプチドミメティックおよびp53阻害剤の用途を提供する。ここでも、癌が野生型p53を発現する細胞を含む場合は、p53阻害剤を含む複合製剤で治療することが好ましい。
【0055】
野生型p53、即ち、突然変異を含まないp53を発現する癌細胞は、当業界で既知の方法により特定できる。例えば、野生型p53は、DNA配列決定により、または、突然変異型と野生型のp53タンパク質を特異的に識別できる抗体を用いた免疫化学的方法により特定できる。
【0056】
変性性疾患においては、特定の組織細胞を含む細胞は、健常者の類似の細胞よりも早期に死滅する。Morrisら(Morrisら(2002)Oncogene 21:4277)によれば、正常なCDK4は非癌細胞を延命させることができ得る。本発明の発明者らは、本発明のペプチド、特に配列番号:17のアミノ酸配列を有するペプチドが、正常な非癌細胞を増殖させることを示している。従って、本発明のペプチドは、特定組織の細胞がその患者で死滅するはずの時点よりも早期に死滅する多くの変性性疾患の治療において利点を有する。
【0057】
従って、本発明は変性性疾患患者の治療方法も提供し、その治療方法は、本発明の医薬組成物で患者を治療することを含む。さらに幹細胞も含む医薬組成物で患者を治療することが好ましい。
【0058】
かかる変性性疾患の治療方法は、幹細胞療法と併用することができるし、幹細胞療法の有効性を高めるための補助療法としても使用できる。現時点では、幹細胞療法は、不当に早い細胞死が原因の疾患を改善すると広く信じられている。幹細胞は、十分に分化または老化してない正常細胞であり、細胞損傷が発生している組織に移植すると、増殖して死滅細胞と交替することができる。本発明のペプチド、特に配列番号:17のアミノ酸配列を有するペプチドおよび/または類似の分子は、幹細胞の増殖を促進して死滅を遅らせ、変性性疾患の損傷細胞と交替させる効果さえある。
【0059】
本発明の医薬組成物は、非癌細胞および/または対照細胞の増殖を促進できる本発明のペプチドまたはペプチドミメティックを含む場合、変性性疾患の治療に有効である。この医薬組成物は、アルツハイマー病、筋ジストロフィ、黄斑変性、膵臓β細胞欠失が原因の早期発症糖尿病、外傷性脊髄損傷、運動ニューロン疾患、嚢胞性線維症などの変性性疾患の治療に有効である。
【0060】
好ましい態様では、変性性疾患の治療に有効な本発明の医薬組成物は、一般式[(YRGXRY)V]のn個のアミノ酸配列を含む本発明のペプチドを含む(式中、Rはアルギニン、Gはグリシン、Yは存在するか或いは存在しなくてもよいが、少なくとも1個のYが存在し、XとYはプロリンまたはスレオニンで、Xおよび/またはYの少なくとも1個はプロリンであり、Vはバリンであり、存在するか或いは存在しなくてもよく、nは1〜10の整数である)。より好ましくは、本発明のペプチドは、PRGPRPVPRGPRPVPRGPRPV(配列番号:17)のアミノ酸配列を含む環状ペプチドであり、さらに好ましくは、本発明のペプチドは、PRGPRPVPRGPRPVPRGPRPV(配列番号:17)のアミノ酸配列から成る環状ペプチドである。
【0061】
本発明は、非癌細胞および/または対照細胞および幹細胞の増殖を促進することができ、本発明のペプチドまたはペプチドミメティックを含み、これらを同時に、別々に、または逐次的に使用する複合製剤を提供する。
【0062】
本発明は、また、変性性疾患の治療薬の製造において、非癌細胞および/または対照細胞の増殖を促進する本発明のペプチドまたはペプチドミメティックの用途を提供する。本発明は、また、変性性疾患の治療において、同時に、別々に、または逐次的に使用するための複合製剤の製造における、非癌細胞および/または対照細胞および幹細胞の増殖を促進する本発明のペプチドまたはペプチドミメティックの用途も提供する。
【0063】
当業者であれば、本発明のペプチドまたはペプチドミメティックの適切な投与処方を決定できるであろう。正確な投与処方は、ペプチドまたはペプチドミメティックの物理化学的性質に依拠する。例えば、癌細胞の生細胞率に及ぼす影響を観察するには、ペプチド存在下で1〜3週間インキュベートする必要があるという実験証拠が得られているので、配列番号:1と配列番号:2のアミノ酸配列を有するペプチドは長期投与が必要だろう。
【0064】
本発明のペプチドまたはペプチドミメティックは、あるスクリーニング法により特定することができる。そのスクリーニング法は、CDK4のアミノ酸配列の一部を含むペプチド、またはCDK4のアミノ酸配列の一部と相同のペプチドを提供すること、または、そのようなペプチドの機能を模倣できるペプチドミメティックを提供すること、そしてその後、ペプチドまたはペプチドミメティックで癌細胞検体を処理し、検体細胞に細胞毒性および/または増殖抑制を示すかを決定することを含む。この方法は、癌治療に有効なペプチドまたはペプチドミメティックが、癌細胞検体に対して細胞毒性および/または増殖抑制を示すかを特定するステップも含む。任意選択として、特定したペプチドまたはペプチドミメティックを製造するステップが続いてもよい。
【0065】
好ましい態様では、本発明方法は、さらに、ペプチドまたはペプチドミメティックで対照細胞検体を処理すること、および、この検体に対するこのペプチドまたはペプチドミメティックの細胞毒性および/または増殖抑制作用を決定することも含む。癌治療に有効なペプチドまたはペプチドミメティックは、対照細胞検体よりも癌細胞検体に対する細胞毒性と増殖抑制が強いペプチドまたはペプチドミメティックである。
【0066】
好ましい態様では、本発明方法は、ペプチドまたはペプチドミメティックで対照細胞を処理すること、および、特定されたペプチドまたはペプチドミメティックが対照細胞検体の増殖を抑制しないかを決定すること、および、任意選択として、特定されたペプチドまたはペプチドミメティックが対照細胞検体の増殖を促進するかを決定することも含む。癌治療に好都合なペプチドまたはペプチドミメティックとは、対照細胞検体の増殖を抑制せず、むしろ増殖を促進できるペプチドまたはペプチドミメティックである。変性性疾患の治療に好都合なペプチドまたはペプチドミメティックとは、対照細胞検体の増殖を促進するペプチドまたはペプチドミメティックである。
【0067】
癌細胞、対照細胞および非癌細胞の定義は、上述の通りである。これらの細胞の適切な培養条件は、当業者にとり公知である。通常、癌細胞検体と対照細胞検体をペプチドまたはペプチドミメティックで処理して、細胞毒性および/または増殖抑制を調べるステップは、培地に被験ペプチドまたはペプチドミメティックを添加するだけである。好ましくは対照を含める。対照として、細胞検体に被験ペプチド/ペプチドミメティックを加えないか、または生細胞率に影響することが知られているペプチド/ペプチドミメティックを添加する方法などを含めることができる。
【0068】
ペプチドまたはペプチドミメティックが細胞検体に対して細胞毒性または増殖抑制を示すかを決定する方法は、当業者にはよく知られている。その方法には、処理細胞と非処理細胞検体の位相差顕微鏡観察、MTT細胞毒性測定法(Roche Molecular Biochemicals,Indianapolis,IL,USA)、ヨウ化プロピジウム染色法(Doら.Oncogene(2003)22:1431-1444)、ELISAによる細胞死検出(Roche Molecular Biochemicals,Indianapolis,IL,USA)、カスパーゼ活性測定法(Clontech,Palo Alto,CA,USA)およびCytoTox96非放射性細胞毒性測定法(Promega,Madison,WI,USA)が含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0069】
ペプチドは、標準的な方法にしたがって合成できる。別法として、組換え体DNA法や遺伝子発現法によっても製造できる。
【0070】
本発明のペプチドがペネトラチン(商標)の配列を含む場合、ペプチドをコードするDNAをTransvector(商標)ベクター(Qbiogene Inc.,Carlsbad,CA,USA)にクローニングし、このベクターを用いてT7ポリメラーゼ遺伝子を有する大腸菌株を形質転換し、IPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトシド;Roche Molecular Biochemical,Indianapolis,IL,USA)で誘導することでペプチドを発現させることにより、ペプチドを製造できる。Transvector(商標)ベクターは、ペネトラチン(商標)配列を含む融合タンパク質を製造するために用いることができる。
【0071】
本発明のペプチドのペプチドミメティックは、標準的な方法にしたがってデザインし、合成できる。ペプチドミメティックを製造するためのペプチド修飾法は、Kieber-Emmonsら(Curr.Opin.Biotechnol.(1997)8:435-441)およびBeeley(Trends Biotechnol.(1994)12:213-216)が考察している。
【0072】
ペプチドミメティックは本発明のペプチドの類縁体を含み、種々のアミド結合(CONH)が、C−C(炭素−炭素一重結合)、C=C(炭素−炭素二重結合)、C≡C(炭素−炭素三重結合)、SO2NH(スルホンアミド)、NH.CO.NH(尿素)、CO.O(エステル)、C(R’R”)OまたはOC(R’R”)(エーテル)、CH(R)CONHまたはCONHCH(R)(βアミノ酸)、NHCO(逆ペプチド)などの別の結合パターンで置換されている。式中、Rは安定な置換基を示す。
【0073】
ペプチドミメティックは、また、1個以上のアミノ酸が「ペプトイド」断片であるN(R*)CH2CO(式中、R*はアミノ酸の側鎖を示す)で置換された「ペプトイド」を含む。さらに、ペプチドミメティックは、ペプチド配列の末端がスペーサー分子で連結されて柔軟性が劣る構造になったペプチドも含む。
【0074】
また、ペプチドミメティックは、例えば、芳香族、ポリ芳香族、ヘテロ芳香族、シクロアルキル環または環状アミドや、天然ペプチドにみられる類似の側鎖機能性を有する置換基(即ち、グアニジン、アミド、アルキル)で構成される堅固な骨組みから成り、その結果として、ペプチドの生理活性構造配座における側鎖機能性の相対的配置が、小さな薬剤分子で側鎖機能性を相対的に配置することにより効率よく模倣される分子であってもよい。
【0075】
ここで、発明者を本発明に導いた観察と理論を簡単に説明する。当該理論は、制限を意図するものではない。
【0076】
各正常(非癌)細胞タイプは、適切な生存と増殖を可能にする複雑な相互作用遺伝子発現パターンを有する。癌細胞は、正常(非癌)細胞とは異なった遺伝子発現パターンを示す。本発明者は、各癌細胞が正常(非癌)細胞の複雑な相互作用系に受けた損傷に由来する独自の新しいシステムをもつと考える。癌細胞発生システムは、遺伝的に不安定である。従って、癌細胞は、生き残るために、安定性を維持するための重要な正常遺伝子産物を再調整する必要がある。この安定化は「ネオスタシス」と呼ばれる。これは、図1と図2に見ることができる。図1は、正常ヒトケラチノサイトにおける細胞の分裂、分化、老化およびプログラム化された細胞死の制御、という正常な役割をもつ17個のタンパク質の発現レベルの相関性を示している。相関係数が0.5を超える発現レベルを示すタンパク質ペアが強調されている。図2は、20種のヒト癌細胞株における、これら17個のタンパク質の発現レベルの相関性を示している。この場合も、相関係数が0.5を超える発現レベルを示すタンパク質ペアを強調した。図3は、図1と図2を重ね合わせたものである。この図は、異なったタンパク質ペアの発現レベルが、正常ヒトケラチノサイトとヒト癌細胞で相関していることを示しており、正常ヒトケラチノサイトがヒト癌細胞とは異なる遺伝子発現パターンを示すことを表している。
【0077】
図4は、野生型p53タンパク質を含む20種のヒト癌細胞株におけるこれら17個のタンパク質の発現レベルの相関性を示しており、図5は、p53突然変異体タンパク質を含む20種のヒト癌細胞株におけるタンパク質の発現レベルの相関性を示している。この場合も、p53突然変異体と野生型p53をもつ癌における発現レベルが相関しているタンパク質ペアを比較すると、遺伝子発現パターンが異なることが分かる。このように、遺伝子発現パターンは、細胞が正常であるか、野生型p53を含む癌細胞か、突然変異体p53を含む癌細胞であるかによって異なる。
【0078】
細胞におけるタンパク質濃度間から観察された相関性を、グラフで示すことができる。図6は、p53突然変異体癌細胞における遺伝子発現パターンである。この図は、CDK4タンパク質濃度が、CDK1、p27、Bc12、CDK2およびサイクリンDタンパク質のレベルと相関していることを示している。
【0079】
図7は、p53野生型癌細胞における遺伝子発現パターンである。この図は、CDK4タンパク質レベルがCDK1タンパク質レベルと相関していることを示している。さらに、p27タンパク質レベルは、Ras、p21、Bc12タンパク質レベルと相関している。
【0080】
上述のように、異なる癌は、異なる遺伝子発現パターンを示す。本発明者は、どの癌も細胞の生存と増殖を可能にする独自の遺伝子発現パターンを有すると考える。
【0081】
本明者は、CDK4タンパク質が、細胞の生存と増殖を可能にする遺伝子発現パターンを維持することにより、癌細胞において極めて重要な役割を演じるとも考える。従って、理論に拘束されなければ、本発明者は、本発明のCDK4ペプチドおよびペプチドミメティックがこの過程を妨害して、細胞の生存と増殖を許さない遺伝子発現パターンに導き、最終的に癌細胞を死に導くと考える。
【0082】
実験1では、CDK2、CDK1、CDK6には存在しない領域を、ヒトCDK4タンパク質上に特定する。この領域は、CDK4のN末端2/3にあるキナーゼ領域、Rbおよびp16の結合部位とは異なっている。また、CDK4の外側にあるにもかかわらず、一部疎水性である。これらの性質から、この領域がタンパク質結合部位ではないかと推測される。この領域へのタンパク質結合は、直接または間接的に、他の遺伝子産物のレベルの制御に関わっていて、本発明のペプチドとペプチドミメティックは、この因子に結合することにより作用すると考えられる。その結果、この因子が活性化または不活性化されて、それ以外の遺伝子産物の制御が不適切になると考えられる。もうひとつの考え方は、因子のCDK4への結合が妨害されて、それ以外の遺伝子産物の制御が不適切になるというものである。何れの場合も、遺伝子発現パターンが破壊されて、癌細胞死に至る。
【0083】
また、実験1で特定したCDK4タンパク質の領域は、p27タンパク質の領域とも相同である。従って、本発明のペプチドは、p27タンパク質にも作用することができ得る。図7は、この領域がp53野生型ヒト癌細胞における重要なタンパク質であることを示している。このことが、p53野生型ヒト癌細胞の遺伝子発現パターンの破壊を助けるのかもしれない。
【0084】
図4と図5は、CDK1とCDK4のレベルの相関性が、p53突然変異体細胞で最も強いことを示している。このことは、他の遺伝子産物の制御におけるCDK4の役割の重要性が、p53突然変異体細胞の方が大きいことを示唆している。従って、p53突然変異体癌細胞では、本発明のペプチドがp53阻害剤(ピフィスリンαなど)と効果的に併用投与される。
【実施例】
【0085】
本発明のペプチドおよびペプチドミメティックの抗癌活性の特定に発明者を導いた実験を、下記に述べる。用いた実験プロトコールの詳細は、制限を意図するものではない。
【0086】
実験1
CDK4タンパク質が癌に重要な役割を演じることは知られている。しかし、ヒトCDK4のキナーゼ活性を阻害する薬剤に癌治療効果はない。発明者は、その理由として、CDK4タンパク質が関与するのはキナーゼ活性に依存しない癌細胞であるとの仮説を立てている。この仮説を検証するため、本発明者は、CDK4タンパク質のアミノ酸配列とCDK6およびCDK2タンパク質のアミノ酸配列の違いを探すことにより、癌細胞での役割を仲介するCDK4タンパク質領域の特定を試みた。なお、CDK6およびCDK2タンパク質は、CDK4タンパク質と高い相同性を持つが、癌細胞における重要な役割を仲介することはない。
【0087】
ヒトCDK4、CDK6、およびCDK2の配列は、Expasy分子生物学サーバー(http://ca.expasy.org/)が維持管理するSwiss−ProtデータベースおよびTrEMBLデータベースから入手した。PAM250マトリックス、ギャップ開始ペナルティ10、ギャップ延長ペナルティ0.2を用いるClustalX1.83アルゴリズムを用いて、これらの配列を整列させた。図8に、その整列結果を示す。ヒトCDK4配列のN末端ハーフは、ヒトCDK6配列およびCDK2配列とかなりの相同性を示す。従って、この領域が癌細胞におけるヒトCDK4タンパク質の機能を仲介するとは考えにくかった。
【0088】
CDK4のC末端側の3分の2は、ヒトCDK2タンパク質およびCDK6タンパク質と相同ではない。よって、この領域が癌細胞における役割を仲介する可能性があった。この領域の要素が重要かどうかを明らかにするため、本発明者は、CDK4タンパク質のC末端側3分の2において種間で保存されている配列を探した。
【0089】
Expasy分子生物学サーバー(http://ca.expasy.org/)が維持管理するSwiss−ProtデータベースおよびTrEMBLデータベースから、様々な種のCDK4タンパク質のアミノ酸配列を入手した。これらを表1に示す。表1には各配列のデータベースアクセス番号および各配列についてのヒトCDK4アミノ酸配列との相同率も示した。
【0090】
【表1】

【0091】
ClustalXプログラム(Jeanmouginら(1998)Trends Biochem.Sci.23:403-5)を用いて、全体的多重配列アラインメントを行った。図9にこれを示す。これによると、このタンパク質のN末端領域がよく保存されている。また、哺乳動物のCDK4配列のC末端領域も保存されている。例えば、ヒトCDK4に存在するFPPRGPRPVQ(配列番号:1)は、他の哺乳動物のCDK4タンパク質でもよく保存されている。
【0092】
配列番号:1の分布位置を決定するために、ヒトCDK4の三次元モデルを作成した。
【0093】
CDK4モデルに使える鋳型の入手では、ヒトCDK4に類似した配列を持つ構造のタンパク質データベース(PDB)について、パラメータのデフォルト値を用いてBlast検索を行った。この検索で、ヒトCDK6とヒトCDK2の構造数個が引き出された。ヒトCDK6タンパク質およびヒトCDK2タンパク質のヒトCDK4タンパク質との配列同一性は、それぞれ71%および45%である。CDK2のCDK4との配列同一性は低いが、CDK2とCDK4の配列類似性は64%であり、CDK2の構造がヒトCDK4の構造の良好なモデルである可能性を示している。検索で引き出された構造を、それぞれのPDB確認名および結晶学的解像度と共に表2に示す。
【0094】
【表2】

【0095】
これらの構造について、構造製造プロセスに影響を与える可能性のあるエラーや問題がないかをチェックした。構造はすべてWHAT−CHECKプログラムで処理した[Hooftら(1996) Nature 381:272]。全体の品質を表3に示す。
【0096】
【表3−1】

【0097】
【表3−2】

【0098】
初期構造の品質スコアは不良である。これは、大半の構造が、構造のゆがみを生じる結合タンパク質の存在下で推定された事実を反映しているようである。初期構造のこのような品質スコアと低い解像度を考えると、これらの構造を基盤としたモデルは、三次元構造、構造内のアミノ酸残基の位置、およびこれらの残基が埋もれているか或いは溶媒が接近可能か、についてのみ信頼できる情報を提供すると期待できる。しかし、内部水素結合の方向、側鎖の相互作用、アミノ酸残基の溶媒接近性などのより詳細な情報は正確ではない可能性がある。
【0099】
ヒトCDK4の5つの構造モデルを、プログラムJACKAL 1.5(Xiang J.Z. University of Columbia(2002);Xiangら(2001)J.Mol.Biol. 311:421-430およびXiang ら(2002)Proc.Nat.Acad.Sci.,USA 99:7432-7437)を用いて構築した。これらモデルの出発点として用いた既知の構造を、表4に示す。
【0100】
【表4】

【0101】
モデル作成過程は、下記の通りである:
1.初期構造とヒトCDK4との間で保存されていない残基は、モデルではヒトCDK4に存在する対応の残基と置換した。このステップは、JACKALと共に配布されたユーティリティープログラムProfixを用いて実施した。
【0102】
基本的に、Profixは本来の主骨格構造コンフォメーションを維持しつつ、ヒトCDK4に存在する残基とは異なる初期構造中の残基を変える。その後、原子衝突を避けるために、構造のエネルギー最小化を行う。これは、JACKALの迅速ねじれ角最小化関数を用いて実施する。この関数は、CHARMM22全原子模型力場を用いる(MacKerellら(1998)J.Phys.Chem.B.102:3586-3616)。次いで、挿入と欠失により、出発配列をヒトCDK4の配列に完全に変えた。その後、ランダム微調整法を用いて結合を閉じ、上述のように、原子衝突を避けるために構造を再びエネルギー最小化処理に付した。
【0103】
2.二次構造は、KabschとSander(Biopolymers(1983)22:2577-2637)が報告したDSSP様ルーチンを用いて決定した。
【0104】
3.ループ領域は、次のようにして予測した。本来の主骨格部分を削除し、非常に多数のランダム主骨格構造コンフォメーションを創出することにより作成した新しい断片で置換し、ランダム微調整法を用いて閉じた。次いで、上述のように、原子衝突を避けるために新しい主骨格のエネルギー最小化処理を行った。側鎖のモデルは、10°bin中に3222のロータマーを含む大規模ロータマーライブラリを用いて既知の方法に従って作成し、再びエネルギー最小化処理を行った。最小エネルギーを有する構造を確保し、新しい構造配座を用いて、もう1ラウンドの構造コンフォメーションサンプリングを実施した。得られた構造を、再びエネルギー最小化処理に付した。
【0105】
4.二次構造エレメントは、主骨格ロータマーライブラリを用いたサンプリングにより再び精密なものにしたが、サンプリングでは本来のロータマーを確保した。既存の二次構造の水素結合ネットワークを保持するために、既存の水素結合を破壊する構造コンフォメーションに大きなエネルギーペナルティを課す。最小エネルギーの構造コンフォメーションを確保した後、側鎖を同様の方法で構築する。
【0106】
5.最終構造のエネルギー最小化処理を、ねじれ角最小化法を用いて実施する。
【0107】
6.モデルを構築後、parm96力場(Caseら(1995)J.Am.Chem.Soc. 117:5179-5197)と共にAMBERを用いて、500ステップの鞍点法による完全エネルギー最小化処理を行った。水素結合ネットワークを最適化後、WHATIFにより極性水素を追加した(Vriend(1990)J.Mo.Graph. 8:52-56;Hooftら(1996)Proteins 26:363-376)。
【0108】
7.これ以上モデルの改良ができなくなるまで、ステップ1〜6を繰り返した。
【0109】
ところどころで、手作業でも構造を微調整しなければならなかった。その場合はSwiss−PDBビューアーを用いた。
【0110】
構築したモデルの品質は、プログラムWHAT−CHECKにより評価した。さらに、スレッディング(構造・配列比較)スコアと分子力学エネルギーを、Swiss−PDBビューアーを用いて算出し、配列がどの程度構造に適合しているかを評価した。スレッディングエネルギーは、Sipplら(J.Mol.Biol.(1990)213:859-883)が開発した平均力の電位に基づいており、分子力学エネルギーは、GROMOS96力場を用いて計算した(van Gunsterenら(1996)The GROMOS96 manual and user guide,Vdf Hochschulverlag ETHZ)。結果を表5に示す。この表は、最良の主骨格構造コンフォメーションを示すのはモデル2であるが、モデル1が最も信頼できることを示している。
【0111】
【表5】

【0112】
図10は、モデル1、CDK6およびCDK2のCαトレースである。この図は、CDK6の方がC末端とN末端が長いが、モデル1の構造がCDK6と非常に似ていることを示している。
【0113】
図10は、ヒトCDK4の構造が2つのドメインに分割されていることも示している。第一のドメイン(ドメイン1)は、αヘリックスとβ鎖構造エレメントを含む。CDK6とCDK2とは似ていることから、このドメインはキナーゼ活性を仲介する。第二のドメイン(ドメイン2)は、主にαヘリックスの性質を有する。
【0114】
図11は、モデル1、CDK6およびCDK2の静電ポテンシャルプロットである。当該図は、モデル1のドメイン1の電荷がCDK6とCDK2のいずれよりも少ないことを示す。また、モデル1のドメイン2は、溶媒が接近可能な248〜259からの配列を含む。当該配列は、CDK6またはCDK2に存在しない。この配列は、配列番号:1を含む。当該配列は、哺乳類CDK4タンパク質に保存されている配列として特定される。この配列はかなり疎水性の成分を含み、小さい残基の数が多いことから、表面が平坦になる。表面が平坦になると、タンパク質パートナーと十分に接触できるようになる。これらの特徴から、本発明者は、この配列がタンパク質結合部位を形成するのであろうと推測する。
【0115】
ProDomデータベースの検索では、この配列はいずれの識別ドメインとも合致しなかった。しかし、多重整列ツールTCoffeeで調べると、この配列は、p27タンパク質の一部の配列(FYYRPPRPPKGA)と相同であることが分かった。
【0116】
実験2
実験1で述べたように、発明者は、CDK4のキナーゼ活性を仲介しないCDK4タンパク質の領域が癌細胞におけるネオスタシスの維持に関与している、という仮説を立てた。実験1で調製したヒトCDK4のモデルから、248〜259位のアミノ酸配列が、未知タンパク質に対する結合部位であることがわかる。この結合部位が癌細胞の生存と増殖の維持に必要であるかを調べるために、この部位へのタンパク質結合を妨害した場合の影響を調べる実験を実施した。
【0117】
249〜258位のアミノ酸のペプチドを、標準的な方法により塩化物塩の形で合成した。このペプチドのアミノ酸配列を、配列番号:1として示す。
配列番号:1: FPPRGPRPVQ
【0118】
この配列番号:1と配列同一性が80%のペプチドも、塩化物塩として合成した。その配列を配列番号:2として示す。
配列番号:2: FTPRGTRPVQ
【0119】
これらのペプチドは、ヒトCDK4タンパク質の結合部位候補と類似しており、ヒトCDK4がそのタンパク質パートナーと結合するのを阻害できるであろう。ヒトCDK4タンパク質の結合部位が、細胞の生存と増殖を可能にする遺伝子発現パターンの維持に関与しているとすれば、これらペプチドはこの過程を妨害し、癌細胞を死に至らせると予測される。
【0120】
2つの対照ペプチドを、塩化物塩として合成した。これら配列は、配列番号:3および配列番号:4として下記に示す。配列番号:3は配列番号:1と30%の配列同一性を示し、配列番号:4は配列番号:1と同じアミノ酸を含む。しかし、配列は異なっており、配列番号:1との配列相同性は0%である。対照ペプチドは、結合部位候補とは類似しない。
配列番号:3: ATTEGTETVQ
配列番号:4: PGPFRVPQPR
【0121】
最初の実験では、MGHU−1細胞(ヒト膀胱癌細胞系)を、48ウェル組織培養プレート中の、10%ウシ胎仔血清を添加したHams F12完全組織培地0.2mlに接種した。SKMEL−2細胞(ヒト悪性メラノーマ細胞系)、HX34細胞(ヒト悪性メラノーマ細胞系)およびH441細胞(ヒト肺癌細胞系)も、同じ条件で接種した。これら細胞は、5%CO2通気下、37℃で培養した。
【0122】
24時間後、各ウェルの培地を捨て、ウシ胎仔血清非添加のHams F12完全組織培地に変えた。各ウェルに加える培地へ、各細胞系が各ペプチドに各濃度で曝露されるように、配列番号:1、配列番号:2または配列番号:3の配列を有するペプチドを、0.5、1.0または5.0mMの濃度で加えた。
【0123】
その後、細胞を2日間培養した。次いで、ウシ胎仔血清を終濃度10%で加えて、さらに5日間培養した。各ウェルの生細胞率を、位相差顕微鏡下の視覚的観察により算出した。
【0124】
配列番号:1および配列番号:3のアミノ酸配列を有するペプチドが、SK Mel−2、MGHU−1、HX34およびH441の4細胞系の生存に及ぼす影響を、図12に示す。図12は、5.0mMの配列番号:1の存在下で培養した各細胞系が、実験7日目までに完全に死滅したことを示している。配列番号:1の濃度が1.0mMの場合、MGHU−1細胞は100%死滅したが、他の細胞系の生存には影響がなかった。0.5mMの配列番号:1では、どの細胞系にも影響がないようであった。一方、配列番号:3の場合、いずれの濃度でも各細胞系の生細胞率に影響がなかった。
【0125】
その後の実験で、癌細胞と非癌細胞(線維芽細胞)系を調べた。それによると、デカペプチド配列番号:1の存在下では、7日以内の実験期間に癌細胞と非癌細胞の間で非特異的な死滅がある。癌細胞系と非癌細胞系(線維芽細胞)は共にその後回復し、最終的には20〜25日目に特異的な死滅が癌細胞系に見られ、非癌性線維芽細胞には見られなかった。
【0126】
配列番号:2のアミノ酸配列を有するペプチドも、癌細胞系に対して細胞毒性を示す。しかし、位相差顕微鏡下で視覚的に観察した細胞密度と細胞生存から明らかなように、このペプチドは、配列番号:1の配列を有するペプチドよりも細胞毒性が弱かった。この観察と、配列番号1および配列番号2の配列の比較から、配列番号:1の3位と8位のプロリンの細胞毒性への寄与が示唆される。これらは、配列番号:2ではスレオニンに置換されていない。細胞毒性は、この3位と8位の2つのプロリンとアルギニンとの関係にも依存する可能性がある。
【0127】
【化1】

【0128】
さらなる実験において、異なるバッチの合成ペプチドを用い、RT112細胞(ヒト膀胱癌細胞系)、HT29細胞(ヒト結腸癌細胞系)およびMGHU−1細胞(ヒト膀胱癌細胞系)を上述のように培地に接種した。同時に、短期初代培養ヒト線維芽細胞も、48ウェルプレートに接種した。24時間後、各ウェルの培地を捨て、2.5mMの配列番号:1または2.5mMの配列番号:4を添加したHams F12完全組織培地(ウシ胎仔血清非添加)と交換した。2日間培養後、ウシ胎仔血清を濃度10%で加えた。さらに7日間培養して、位相差顕微鏡で観察した。
【0129】
図13に、配列番号:1のアミノ酸配列を有するペプチドで処理した後のRT112細胞とHT29細胞を示す。比較のために、配列番号:4のペプチドで処理した細胞を示す。何れの場合も、対照細胞と処理細胞の違いは劇的である。対照細胞の外観は正常であるが、処理細胞は縮んで老化しているように見える。このことは、図13aに示すように、配列番号:1のアミノ酸配列を有するペプチドで処理した細胞が死滅することを示している。
【0130】
図14に、配列番号:1および4のアミノ酸配列を有するペプチドで処理したMGHU−1細胞を示す。配列番号:4で処理した細胞は正常に見えるが、配列番号:1で処理した細胞は死滅しているように見える。図14には、配列番号:1と4のアミノ酸配列を有するペプチドで処理した初代培養ヒト線維芽細胞の短期培養も示す。両ペプチドで処理した細胞は正常に見える。これらの実験は、配列番号:1または2のアミノ酸配列を有するペプチドが、培養ヒト癌細胞に対して細胞毒性であることを示す。これらのペプチドは、初代培養正常ヒト細胞には細胞毒性を示さない。
【0131】
実験3: 配列番号:1のその他の類縁体を調べる
上述の配列番号:1の場合と同じプロトコールを用いて、96マイクロウェルプレート中で、正常な非癌線維芽細胞と癌細胞を、直鎖状六量体PRGPRP(配列番号:5)に曝露させた。各ウェルの細胞の生細胞率(%)を、上述した位相差顕微鏡による視覚的観察により算出した。この六量体の場合、7日目に線維芽細胞の増殖の促進が現れた。腫瘍細胞では21日目までは変化が見られず、それ以降に当該六量体で処理したウェルにおける腫瘍細胞はほぼ全滅したが、正常な非癌線維芽細胞は健常なままであった。
【0132】
実験4
構造/機能関係を明らかにするために、配列番号:5〜16の様々なペプチドを調製した。前述の96ウェルプレート中で、正常な非癌線維芽細胞と癌細胞を、5mMのこれらペプチドに曝露させた。これらペプチドの配列は、下記の通りである。21日目に結果を判定した。
【0133】
配列番号:5: PRGPRP(ペプチドA)
配列番号:6: PRGPR(ペプチドB)
配列番号:7: RGPRP(ペプチドC)
配列番号:8: RGPR(ペプチドD)
これら短いペプチドにおいて、プロリンからスレオニンへの置換も調べた。即ち:
配列番号:9: TRGPRP(ペプチドE)
配列番号:10: TRGTRP(ペプチドF)
配列番号:11: TRGTRT(ペプチドG)
配列番号:12: PRGTRP(ペプチドH)
配列番号:13: PRGPRT(ペプチドI)
配列番号:14: PRGTRT(ペプチドJ)
配列番号:15: TPPRGPRP(ペプチドK)
配列番号:16: PPRGPRP(ペプチドL)
これら実験の結果を、図15に示す。
【0134】
図15a、b、c、d、e、fは、プロリンがスレオニンに置換された短い配列を含む短い配列のペプチドが、正常非癌線維芽細胞と癌細胞へ選択的に影響することを示している。これらの図は、新規なCDK4のC’末端の一部の疎水性領域に類似するペプチドと、試験した細胞系に対する影響の間に明確な関連性があることを示している。
【0135】
【化2】

【0136】
理論に拘束されることがなければ、1位および/または4位のアミノ酸であるプロリン(PRGPRP)の存在が、癌細胞に対するペプチドの選択性の改善および正常線維芽細胞の生細胞率上昇につながると考えられる。6位のアミノ酸であるプロリン(PRGPRP)の存在は、癌細胞系に対するペプチドの毒性を改善した。直鎖状六量体PRGPRP(配列番号:5)が、5.0mMの濃度での曝露から21日後に最大となる、癌細胞を殺しながら正常細胞を温存するという選択性を示すことがわかる。また、PRGPRPに曝露させた正常な非癌線維芽細胞の増殖は、何れのペプチドにも曝露させなかった対照線維芽細胞よりも良好であった。
【0137】
実験5
配列番号:5の直鎖状六量体PRGPRPによる殺癌細胞作用に関する定量的データを得るためのコロニー形成アッセイ。細胞生存コロニー形成は、すでに報告されている(Warenius HM,Jones M,Gorman T,McLeish R,Seabra L,Barraclough R and Rudland P.Br.J.Cancer(2000年)83(8),1084-1095)。RT112膀胱癌細胞100個の単一細胞懸濁液を、2mlの10%ウシ胎仔血清加Hams F12培地に接種した。Hams F12培地は、ペプチドを含まないか(対照)、或いは濃度1.0mM〜5.0mMの直鎖状六量体PRGPRP(配列番号5)を含むものであった。通常、各単一細胞が組織培養プレートに付着する部位で細胞が最低5〜7回の倍化を遂げる10〜14日目に、コロニー形成アッセイを行う。このペプチドを用いた96マイクロウェルプレート実験では、癌細胞の死滅は21日目までははっきりしなかったので、プレートのインキュベーションは15日、20日、25日間とした。インキュベーション期間終了時に培地を捨て、コロニーを70%エタノールで固定し、ギムザ染色した。100個超の細胞を含むコロニーを、陽性とした。図16の結果は、15日目では癌細胞死滅は明瞭でないが、20〜25日目の間に明確になることを示している。また、用量反応曲線が非常に急峻であることは、閾値効果が96ウェルプレートでも観察されたことを示している。
【0138】
図16は、1.0〜5.0mMの六量体PRGPRP(配列番号:5)に曝露させたRT112膀胱癌細胞についてのコロニー形成アッセイである。処理後、15、20、25日後に、コロニー形成アッセイにつき判定した。六量体PRGPRP(配列番号:5)による処理では、初期には癌細胞を殺さず、20〜25日目に癌細胞のみを特異的に殺した。図16によると、15日間のRT112膀胱癌細胞曝露では、殺癌細胞作用はほとんどなかった。この15日間の視覚的観察では、非癌線維芽細胞の増殖は良好であり、PRGPRP(配列番号:5)を与えない対照細胞よりも良好でさえあった。
【0139】
実験6
10%ウシ胎仔血清加Hams F12培地200μlを入れた96ウェルプレートに、癌細胞と非癌線維芽細胞を102〜104細胞ずつ別々に接種し、5.0μM〜100μMの配列番号:17のアミノ酸配列を有するペプチドに曝露させた。25日間にわたり、細胞増殖を位相差顕微鏡で毎日観察した。
【0140】
正常な非癌線維芽細胞の顕著な増殖促進が、配列番号:17曝露後から5〜10日目に観察された(濃度10μMの配列番号:17に曝露後10日目に撮影した写真である図18を参照)。
【0141】
この写真は、配列番号:17のアミノ酸配列を有するペプチドが、正常な非癌線維芽細胞の増殖を促進することを示している。癌細胞の場合、組織培養容器のプラスチック表面から死滅細胞が完全に剥離しているのは見えないが、明瞭な細胞形態が失われており、それは、癌細胞が細胞分裂能を失ったことを示している。
【0142】
正常CDK4が、CDK4の既知の正常なキナーゼ活性と関係のない機序でヒト非癌線維芽細胞の増殖性寿命を延長させることを明らかにしたMorrisらの観察(Oncogene (2002)21:4277)と併せ、理論に拘束されることなく考えると、本発明の新規CDK4領域に類似するペプチドは、正常細胞の増殖を促進することができ、その結果、創傷治癒やヒト変性性疾患における病的損傷細胞の再生を目的とする幹細胞使用において、正常細胞の増殖促進に一役買うと考えられる。また、そのような化合物は、ヒト変性性疾患において病態細胞の増殖性寿命を直接延長させることができ、それによって症状を改善し延命させることができ得る。
【0143】
図17に環状七量体の構造を示す。
【0144】
配列番号:17: 環状[PRGPRPVPRGPRPVPRGPRPV]
【0145】
図18は、配列番号:17(10μM)曝露から10日後に、非癌線維芽細胞の増殖が顕著に促進されることを示している。
【0146】
図19は、配列番号:17への曝露から20日後にMGHU−1膀胱癌細胞の正常な細胞形態が失われ、細胞境界が非常に不鮮明で、核がはっきりしないことを示している。これらの変化は、老化を反映しているのかもしれない。図19を見ると、対照MGHU−1膀胱癌細胞は、鮮明な細胞表面と核膜をもち、処理細胞の外観は「ゴースト」細胞のようで、核および細胞の境界が不鮮明である。
【0147】
培養細胞を用いた実験は、in vivoの状態を反映するものである。その理由は、多くのヒト癌では、細胞は栄養が枯渇し分裂できない休止状態にあることによる。これらin vitro実験での細胞は密集状態にあり、実験中にペプチドに長期間曝露されている間に発生した栄養枯渇のために、大多数の細胞は非分裂状態にあることから、上述の実験はこの状態を反映している。また、25日間の観察期間中に過密プラトー相に達するような96ウェルプレートの条件下で、実験を実施した。このような実験条件が有用であるのは、in vivoのヒト癌の状況を反映しているからである。
【図面の簡単な説明】
【0148】
単なる例証として、以下の図により、本発明をさらに説明する:
【図1】図1は、17個のタンパク質の発現レベルの相関性を示す。これらタンパク質の正常な役割は、正常ヒトケラチノサイトにおける細胞の分裂、分化、老化およびプログラム化された細胞死の制御である。
【図2】図2は、17個のタンパク質の発現レベルの相関性を示す。これらタンパク質の正常な役割は、20種のヒト癌細胞株における細胞の分裂、分化、老化およびプログラム化された細胞死の制御である。
【図3】図3は、図1と図2を重ね合わせたものであり、ヒト癌細胞における遺伝子発現パターンが、正常ヒトケラチノサイトと異なることを示している。
【図4】図4は、17個のタンパク質の発現レベルの相関性を示す。これらタンパク質の正常な役割は、野生型p53タンパク質を含む20種のヒト癌細胞株における細胞の分裂、分化、老化およびプログラム化された細胞死の制御である。
【図5】図5は、17個のタンパク質の発現レベルの相関性を示す。これらタンパク質の正常な役割は、突然変異型p53タンパク質を含む20種のヒト癌細胞株における細胞の分裂、分化、老化およびプログラム化された細胞死の制御である。
【図6】図6は、p53突然変異ヒト癌細胞における遺伝子発現パターンの模式図である。
【図7】図7は、p53野生型ヒト癌細胞における遺伝子発現パターンの模式図である。
【図8】図8は、ヒトCDK2、CDK4、CDK6の全アミノ酸配列を整列させて表示したものである。
【図9】図9は、種々の生物種のCDK4タンパク質の全アミノ酸配列を整列させて表示したものである。
【図10】図10は、ヒトCDK6とヒトCDK2のCαトレース(主骨格)である。ヒトCDK4モデル(モデル1)のCαトレースも示した。
【図11】図11は、ヒトCDK4(モデル1)、ヒトCDK6およびヒトCDK2の静電ポテンシャルプロットである。Iは前から見た図である。ドメインIは構造の右側、ドメインIIは左側である。IIは背面から見た図である。ドメインIは構造の左側、ドメインIIは右側である。IIIは12量体断片を直接見たものである。黒色矢印はCDK6とCDK2における断片の位置、または対応して並んだ断片の位置を示している。
【図12】図12は、濃度0.5、1.0、5.0mMの、配列番号:1および配列番号:3のアミノ酸配列を有するペプチドによる処理が、4種のヒト癌細胞株の生存に及ぼす影響を示す。
【図13A】図13Aは、配列番号:1のアミノ酸配列を有するペプチドで処理したRT112ヒト膀胱癌細胞、および配列番号:4のアミノ酸配列を有するペプチドで処理したRT112細胞を示している。
【図13B】図13Bは、配列番号:1のアミノ酸配列を有するペプチドで処理したHT29ヒト結腸癌細胞、および配列番号:4のアミノ酸配列を有するペプチドで処理したHT29細胞を示している。
【図14】図14は、配列番号:1および配列番号:4のアミノ酸配列を有するペプチドで処理した正常ヒト線維芽細胞とMGHU−1ヒト膀胱癌細胞を示している。
【図15】図15aは、配列番号:5のアミノ酸配列を有するペプチドA、配列番号:6のアミノ酸配列を有するペプチドB、配列番号:7のアミノ酸配列を有するペプチドC、および配列番号:8のアミノ酸配列を有するペプチドDによる処理が、RT112膀胱癌MGHU−1細胞株と、正常な非癌線維芽細胞の生存に及ぼす影響を示す。ペプチドBからDは、配列番号:5の様々なペプチド鎖長を有する。図15bおよび図15cは、配列番号:9のアミノ酸配列を有するペプチドE、配列番号:10のアミノ酸配列を有するペプチドF、配列番号:11のアミノ酸配列を有するペプチドG、配列番号:12のアミノ酸配列を有するペプチドH、配列番号:13のアミノ酸配列を有するペプチドI、配列番号:14のアミノ酸配列を有するペプチドJ、配列番号:15のアミノ酸配列を有するペプチドK、および配列番号:16のアミノ酸配列を有するペプチドLによる処理が、RT112膀胱癌MGHU−1細胞系と、正常な非癌線維芽細胞の生存に及ぼす影響を示す。ペプチドEからLは、配列番号:5に含まれる様々なプロリン置換基がスレオニンに置換されている。図15dは、配列番号:5のアミノ酸配列を有するペプチドA、配列番号:6のアミノ酸配列を有するペプチドB、配列番号:7のアミノ酸配列を有するペプチドC、および配列番号:8のアミノ酸配列を有するペプチドDによる処理が、大腸癌HT29細胞系(大腸癌A)、大腸癌COLO 320細胞系(大腸癌B)、および正常な非癌線維芽細胞の生存に及ぼす影響を示す。ペプチドBからDは、配列番号:5の様々なペプチド鎖長を有する。図15eおよび図15fは、配列番号:9のアミノ酸配列を有するペプチドE、配列番号:10のアミノ酸配列を有するペプチドF、配列番号:11のアミノ酸配列を有するペプチドG、配列番号:12のアミノ酸配列を有するペプチドH、配列番号:13のアミノ酸配列を有するペプチドI、配列番号:14のアミノ酸配列を有するペプチドJ、配列番号:15のアミノ酸配列を有するペプチドK、および配列番号:16のアミノ酸配列を有するペプチドLによる処理が、大腸癌HT29細胞系(大腸癌A)、大腸癌COLO 320細胞系(大腸癌B)、および正常な非癌線維芽細胞の生存に及ぼす影響を示す。ペプチドEからLは、配列番号:5に含まれる様々なプロリン置換基がスレオニンに置換されている。
【図16】図16は、1.0〜5.0mMの六量体PRGPRP(配列番号:5)の処理が、RT112膀胱癌細胞の生細胞率に及ぼす影響を、処理後15日、20日、および25日目に判定したものである。
【図17】図17は、配列番号:17の環状七量体の構造を示している。
【図18】図18は、対照(ペプチドなし)、および配列番号:17のアミノ酸配列を有するペプチドで処理した、処理後10日目における線維芽細胞である。
【図19】図19は、対照(ペプチドなし)、および配列番号:17のアミノ酸配列を有するペプチドで処理した、処理後20日目における線維芽細胞である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記アミノ酸配列を含有するペプチドであって:
a)CDK4タンパク質のアミノ酸配列の一部;または
b)CDK4タンパク質のアミノ酸配列の一部のホモローグ;
癌細胞に対して細胞毒性および/若しくは増殖抑制性を示し、並びに/または非癌細胞および/若しくは対照細胞の増殖を促進するペプチド。
【請求項2】
対照細胞および/または非癌細胞に対するよりも、癌細胞に対する細胞毒性または増殖抑制が強い請求項1のペプチド。
【請求項3】
非癌細胞および/または対照細胞に対して非阻害性である請求項1または2のペプチド。
【請求項4】
さらに、細胞へのペプチド取込みを促進するアミノ酸配列を含む前記いずれかの請求項のペプチド。
【請求項5】
一般式YRGXRYで表されるアミノ酸配列を含む、前記いずれかの請求項のペプチド。[式中、Rはアルギニンであり、Gはグリシンであり、Yは存在していても存在していなくともよいが少なくとも1個のYが存在し、XおよびYはプロリンまたはスレオニンであり、Xおよび/またはYの少なくとも1個はプロリンである]
【請求項6】
直鎖状または環状であり、
一般式[(YRGXRY)V]を有するn個のアミノ酸配列[Rはアルギニンであり、Gはグリシンであり、Yは存在していても存在していなくともよいが少なくとも1個のYが存在し、XおよびYは独立してプロリンまたはスレオニンであり、Xおよび/またはYの少なくとも1個はプロリンであり、Vはバリンで存在していても存在していなくともよく、nは1〜10の整数];
および、m個の追加アミノ酸配列を有し、各追加配列は独立してz個のアミノ酸を含む[mは1〜10の整数であり、zは1〜20の整数である]
を含む前記いずれかの請求項のペプチド。
【請求項7】
nは2、3、4、または5から選択される整数である請求項6のペプチド。
【請求項8】
nは3である請求項7のペプチド。
【請求項9】
アミノ酸配列PRGPRPVPRGPRPVPRGPRPVを含む請求項8のペプチド。
【請求項10】
環状である前記いずれかの請求項のペプチド。
【請求項11】
CDK4タンパク質がヒトCDK4タンパク質である前記いずれかの請求項のペプチド。
【請求項12】
一般式PRXXRPを有するアミノ酸配列を含む前記いずれかの請求項のペプチド[式中、Pはプロリンであり、Rはアルギニンであり、Xはいずれかのアミノ酸またはアミノ酸ミメティックである]。
【請求項13】
PPRGPRP、PRGPRP、PPRXPRP、PRXPRP、PPRGXRP、PRGXPRP、PPRXXRP、PRXXRPから選択されるアミノ酸配列を含む請求項12のペプチド。
【請求項14】
配列番号:1または配列番号:2のアミノ酸配列を含む前記いずれかの請求項のペプチド。
【請求項15】
配列番号:1または配列番号:2のアミノ酸配列からなる前記いずれかの請求項のペプチド。
【請求項16】
前記の請求項のいずれかで規定したペプチドの機能を模倣できるペプチドミメティックであり、癌細胞に対して細胞毒性および/若しくは増殖抑制性を示し、並びに/または非癌細胞および/若しくは対照細胞の増殖を促進するペプチドミメティック。
【請求項17】
対照細胞および/または非癌細胞に対するよりも、癌細胞に対する細胞毒性または増殖抑制が強い請求項16のペプチドミメティック。
【請求項18】
非癌細胞および/または対照細胞に対して非阻害性である請求項15または16のペプチドミメティック。
【請求項19】
請求項1〜15のいずれか1項で規定されたペプチドまたは請求項16〜18のいずれか1項で規定されたペプチドミメティックを含有し、製薬担体、希釈剤または賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項20】
さらにp53阻害剤を含む請求項19の医薬組成物。
【請求項21】
p53阻害剤がピフィスリンαである請求項20の医薬組成物。
【請求項22】
請求項19〜21のいずれかで規定した医薬組成物の製造方法であって、
a)請求項1〜14のいずれかで規定したペプチドまたは請求項15〜18のいずれかで規定したペプチドミメティックを供する工程;
b)任意選択的に、p53阻害剤を供する工程;
c)上記ペプチドまたはペプチドミメティック、および任意選択的にp53阻害剤を含有する医薬組成物を製造する工程を含む方法。
【請求項23】
医療で使用するための、請求項1〜15のいずれかのペプチド、または請求項16〜18のいずれかのペプチドミメティック。
【請求項24】
医療で、同時に、別々に、または逐次的に使用するための複合製剤である、請求項1〜15のいずれかのペプチド、または請求項16〜18のいずれかのペプチドミメティック、およびp53阻害剤。
【請求項25】
癌治療のための医薬の製造における請求項1〜15のうちのいずれかのペプチド、または請求項16〜18のうちのいずれかのペプチドミメティックの使用。
【請求項26】
野生型p53を発現する細胞を含む癌の治療で、同時に、別々に、または逐次的に使用するための複合製剤の製造における請求項1〜15のいずれかのペプチド、または請求項16〜18のいずれか1つのペプチドミメティック、およびp53阻害剤の使用。
【請求項27】
癌が乳癌、前立腺癌、結腸直腸癌、膀胱癌、卵巣癌、子宮内膜癌、子宮頚部癌、頭頚部癌、胃癌、膵臓癌、食道癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、悪性メラノーマ、神経芽細胞腫、白血病、リンパ腫、肉腫または神経膠腫である請求項25または請求項26の使用。
【請求項28】
請求項19〜21のいずれかで規定した医薬組成物で治療することを含む癌患者の治療方法。
【請求項29】
癌が野生型p53を発現する細胞を含む場合に、その患者に請求項20または請求項21で規定した医薬組成物を投与することを含む請求項28の方法。
【請求項30】
癌が乳癌、前立腺癌、結腸直腸癌、膀胱癌、卵巣癌、子宮内膜癌、子宮頚部癌、頭頚部癌、胃癌、膵臓癌、食道癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、悪性メラノーマ、神経芽細胞腫、白血病、リンパ腫、肉腫または神経膠腫である請求項28または請求項29の方法。
【請求項31】
さらに幹細胞を含む請求項19の医薬組成物。
【請求項32】
医療で同時に、別々に、または逐次的に使用するための、請求項1〜15のいずれかのペプチド、または請求項16〜18のいずれかのペプチドミメティック、および幹細胞。
【請求項33】
変性性疾患の治療薬の製造における請求項1〜14のいずれかのペプチド、または請求項16〜18のうちのいずれかの請求項に従ったペプチドミメティックの使用。
【請求項34】
変性性疾患の治療で、同時に、別々に、または逐次的に使用するための複合製剤の製造における、請求項1〜14のいずれかのペプチド、または請求項16〜18のうちのいずれかの請求項に従ったペプチドミメティック、および幹細胞の使用。
【請求項35】
変性性疾患が、アルツハイマー病、筋ジストロフィ、黄斑変性、膵臓のβ細胞欠失に起因する早期発症糖尿病、外傷性脊髄損傷、運動ニューロン疾患および嚢胞性線維症から選択されるものである請求項33または請求項34の使用。
【請求項36】
請求項19または請求項31に規定の医薬組成物を投与することを含む、変性性疾患患者の治療方法。
【請求項37】
変性性疾患が、アルツハイマー病、筋ジストロフィ、黄斑変性、膵臓のβ細胞欠失に起因する早期発症糖尿病、外傷性脊髄損傷、運動ニューロン疾患および嚢胞性線維症から選択されるものである請求項36の方法。
【請求項38】
癌治療に有効なペプチドまたはペプチドミメティックを特定する方法であって、
a)CDK4タンパク質のアミノ酸配列の一部を含むペプチド、またはCDK4タンパク質のアミノ酸配列の一部と相同のアミノ酸配列を含むペプチド、または、そのようなペプチドと同様の機能を有するペプチドミメティックを供する工程;
b)癌細胞試料をペプチドまたはペプチドミメティックで処理して、当該ペプチドまたはペプチドミメティックの当該試料に対する細胞毒性作用および/または増殖抑制作用を測定する工程;
c)癌治療に有効で、癌細胞試料に対して細胞毒性作用および/または増殖抑制作用を示すペプチドまたはペプチドミメティックを特定する工程を含む方法。
【請求項39】
さらに、対照細胞試料をペプチドまたはペプチドミメティックで処理する工程、および、
細胞毒性作用および/または増殖抑制作用および/または増殖促進作用を測定する工程を含み、
癌治療に有効なペプチドまたはペプチドミメティックを特定する工程は、対照細胞試料と比べて癌細胞検体に対する細胞毒性作用および/若しくは増殖抑制作用が強い、および/若しくは対照細胞検体の増殖を抑制しない、並びに/または、対照細胞試料の増殖を阻害しない、および/若しくは対照細胞試料の増殖を促進するペプチドまたはペプチドミメティックを特定することを含む請求項38の方法。
【請求項40】
さらに、癌治療に有効な上記ペプチドまたはペプチドミメティックを調製する工程を含む請求項38または請求項39の方法。
【請求項41】
変性性疾患の治療に有効なペプチドまたはペプチドミメティックを特定する方法であって:
a)CDK4タンパク質のアミノ酸配列の一部を含むペプチド、またはCDK4タンパク質のアミノ酸配列の一部と相同のアミノ酸配列を含むペプチド、または、そのようなペプチドと同様の機能を有するペプチドミメティックを供する工程;
b)非癌細胞試料をペプチドまたはペプチドミメティックで処理する工程、および、当該ペプチドまたはペプチドミメティックの当該試料に対する増殖促進作用を測定する工程;および
c)変性性疾患の治療に有効で、非癌細胞試料の増殖を促進するペプチドまたはペプチドミメティックを特定する工程を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図11】
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【図11】
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【図16】
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【図17】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14】
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【図15】
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【図18】
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【図19】
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【公表番号】特表2008−509882(P2008−509882A)
【公表日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−516025(P2007−516025)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【国際出願番号】PCT/GB2005/002320
【国際公開番号】WO2005/123760
【国際公開日】平成17年12月29日(2005.12.29)
【出願人】(500389106)セライト リミテッド (1)
【Fターム(参考)】