説明

発光素子と発光素子および半導体素子の製造方法

【課題】ケミカルリフトオフ時に化合物半導体層の内部応力による化合物半導体層の割れが生じない発光素子と発光素子および半導体素子の製造方法を提供する。
【解決手段】発光素子の製造方法は、成長基板上の一部に、リフトオフ層を介して、半導体層からなる素子領域を形成する素子領域形成工程と、ケミカルリフトオフ工程において除去されない材料で構成された犠牲部を、成長基板上の素子領域の周囲に形成する犠牲部形成工程と、成長基板及び半導体層を覆い、素子領域から離れた領域におけるその表面の高さが発光層表面よりも低くなるように、被覆層を形成する被覆工程と、半導体層上における被覆層と犠牲部表面における被覆層とを除去する窓形成工程と、被覆層表面及び半導体層表面に反射層を形成する反射層形成工程と、反射層上にめっきを施すことによって支持部を形成するめっき工程と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子と発光素子および半導体素子の製造方法に関し、特に、支持部上にp型半導体層とn型半導体層が積層された構成をもつ発光素子と発光素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物半導体は、そのバンドギャップが広いために、青色、緑色等のLED(発光ダイオード)、LD(レーザーダイオード)等の発光素子の材料として広く用いられている。こうした発光素子においては、p型の半導体層(p型層)とn型の半導体層(n型層)とがエピタキシャル成長によって積層されて構成される。
【0003】
良質かつ低コストでこの構造を製造するためには、III族窒化物半導体以外の材料からなる成長基板上にp型層とn型層をエピタキシャル成長することによって得ることが一般的に行われている。この場合、特に良質の半導体層を得るためには、使用できる成長基板の材料は限られる。例えば、III族窒化物半導体の代表である窒化ガリウム(GaN)は、MOCVD(有機金属気相成長)法やHVPE(ハイドライド気相成長)等によって、SiC、サファイア等からなる異種成長基板上に成長させることができる。
【0004】
しかしながら、サファイアは絶縁体であるため、その上に積層される半導体層の上面に2つの電気接触部を設ける必要があり、導電体基板に比べて同一基板面積における有効発光面積を狭めるとともに、同一面に両電極を有するため、電流密度が局部的に高くなり、発熱に起因して素子の劣化を招くという問題があった。
【0005】
そこで、特許文献1には、レーザーリフトオフ技術を利用した発光素子の製造方法が開示されており、特許文献2には、ケミカルリフトオフ技術を利用した発光素子の製造方法が開示されている。これらの製造方法においては、サファイア基板上にn型層、p型層、p側電極を順次形成した後で、p側電極側に導電性の支持部を新たに形成し、サファイア基板を剥離する。
【0006】
このようなリフトオフ技術を用いた垂直型の発光素子では、熱伝導率などが最適化された他の材料からなる支持部を用いることができるため、高い放熱性や信頼性も得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−53685号
【特許文献2】再公表2006―126330号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ケミカルリフトオフ技術はレーザーリフトオフ技術に比べて生産性や発光層へのダメージが少ない点で優れている。しかしながら、レーザーリフトオフ技術とは異なり、ケミカルリフトオフ技術によれば、成長基板から発光素子を形成する化合物半導体層を剥離するときに、リフトオフ層にエッチング液を供給し、エッチング液が接触するリフトオフ層の周辺からエッチングしていく必要がある。そのため、徐々にリフトオフ層と化合物半導体層が剥離していく際に、成長時に異種成長基板と化合物半導体層との間の格子定数や熱膨張係数の違いにより生じている内部応力が、未だ剥離していない部分に集中し、化合物半導体層に割れが生じてしまうという問題点があることが分かった。
【0009】
本発明の目的は、上記の課題に鑑み、ケミカルリフトオフ時に化合物半導体層の内部応力による化合物半導体層の割れが生じない発光素子と発光素子を含む半導体素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る発光素子と発光素子および半導体素子の製造方法は、上記の目的を達成するため、次のように構成される。
【0011】
第1の半導体素子の製造方法(請求項1に対応)は、半導体素子の製造方法であって、成長基板上の一部に、リフトオフ層を介して、半導体層からなる素子領域を形成する素子領域形成工程と、後記ケミカルリフトオフ工程で除去されない犠牲部を前記成長基板上の前記素子領域の周囲に形成する犠牲部形成工程と、前記半導体層上および前記犠牲部上の一部を除いた前記成長基板上を覆う被覆層を形成する被覆工程と、前記半導体層上および前記犠牲部上の一部および被覆層表面を含む前記成長基板上の表面に下地層を形成する下地層形成工程と、前記下地層上にめっきを施すことによって支持部を形成するめっき工程と、前記被覆層を溶解除去する被覆層除去工程と、前記リフトオフ層を溶解除去することにより、前記半導体層と前記成長基板とを分離するケミカルリフトオフ工程と、前記ケミカルリフトオフ工程の後に、前記犠牲部において前記成長基板と前記下地層とを分離する犠牲部除去工程と、を具備することを特徴とする。
第1の発光素子の製造方法(請求項2に対応)は、発光層を有する半導体層を具備する発光素子の製造方法であって、成長基板上の一部に、リフトオフ層を介して、前記半導体層からなる素子領域を形成する素子領域形成工程と、後記ケミカルリフトオフ工程で除去されない犠牲部を前記成長基板上の前記素子領域の周囲に形成する犠牲部形成工程と、前記半導体層上および前記犠牲部上の一部を除いた前記成長基板上を覆う被覆層を形成する被覆工程と、前記半導体層上および前記犠牲部上の一部および被覆層表面を含む前記成長基板上の表面に下地層を形成する下地層形成工程と、前記下地層上にめっきを施すことによって支持部を形成するめっき工程と、前記被覆層を溶解除去する被覆層除去工程と、前記リフトオフ層を溶解除去することにより、前記半導体層と前記成長基板とを分離するケミカルリフトオフ工程と、前記ケミカルリフトオフ工程の後に、前記犠牲部において前記成長基板と前記下地層とを分離する犠牲部除去工程と、を具備することを特徴とする。
第2の発光素子の製造方法(請求項3に対応)は、上記の方法において、好ましくは、前記半導体層は、前記素子領域形成工程において、前記成長基板側から順にIII族窒化物半導体からなるn型層、発光層、p型層を具備することを特徴とする。
第3の発光素子の製造方法(請求項4に対応)は、上記の方法において、好ましくは、前記被覆工程は、フォトレジストを塗布することにより、少なくとも犠牲部上の前記被覆層表面の成長基板からの高さが前記発光層よりも低くなるように被覆され、前記被覆層の前記半導体層上および前記犠牲部上の一部をフォトリソグラフィによって除去されることを特徴とする。
第4の発光素子の製造方法(請求項5に対応)は、上記の方法において、好ましくは、前記下地層形成工程において、前記下地層は前記半導体層側に反射層を含むことを特徴とする。
第1の発光素子(請求項6に対応)は、上記第1〜第4の発光素子の製造方法によって製造されたことを特徴とする。
第2の発光素子(請求項7に対応)は、支持部の上に発光層を具備する半導体層を有する発光素子において、前記支持部は凹形状を有し、前記半導体層は凹形状の底部に下地層を介して接続され、前記支持部は凹形状の頂部に、下地層からなり不連続に独立した凸部を具えることを特徴とする。
第3の発光素子(請求項8に対応)は、上記の構成において、好ましくは、10ボルトの逆方向電圧を印加したときのリーク電流が10μA以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ケミカルリフトオフ時に成長基板と化合物半導体層との間の内部応力による化合物半導体層の割れが生じない発光素子と発光素子および半導体素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の本実施形態に係る発光素子の断面図である。
【図2】本発明の本実施形態に係る発光素子を製造する工程を示すフローチャートである。
【図3】本発明の本実施形態に係る発光素子の製造方法の各工程での基板の断面図である。
【図4】本発明の本実施形態に係る発光素子の製造方法の各工程での基板の断面図である。
【図5】本実施例に係る犠牲層除去工程後の支持部側の化合物半導体層表面を観察した顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の好適な実施形態(実施例)を添付図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は、本発明の本実施形態に係る発光素子の断面図(a)と上面図(b)である。発光素子40は、発光層11bを具備する半導体層11が支持部12に支持された構成を具備している。発光素子40では、支持部12は、めっきで形成されている。支持部12は凹状であり、平坦な底面(平坦部)13aとテーパー形状の側面13bで構成された凹部13が形成され、かつ表面には反射層14bが形成されている。また、発光素子40の半導体層11は平坦部13aに載置され、平坦部13aから離れた領域における下地層14の表面の高さが発光層11bよりも高くなるように形成されている。それにより、発光層11bから側面13bに達した光は、反射層14bで反射されることによって平坦部13aの法線方向に発される成分をもつ。さらに、この発光素子40では、側面13bの一部であり、凹状の頂部となる位置に、下地層14で形成された凸部41を具備している。この凸部41は、ケミカルリフトオフ工程の際に犠牲部により接合を維持していた柱状の部分である。
【0016】
発光素子40の半導体層11は、n型GaN層(n型半導体層:n型層)11a、p型GaN層(p型半導体層:p型層)11cの間に発光層11bを備えている。p型GaN層11cにはp側電極23が形成されている。
【0017】
発光素子40の支持部12は、例えばNiめっきやCuめっきにより形成されている。また、図1には、支持部12を形成するときのシード層14aが示されている。下地層14のめっき側であるシード層14aは、Niめっきのときにはパラジウム(Pd)が用いられ、Cuめっきのときには白金(Pt)/銅(Cu)が用いられる。
【0018】
発光素子40の反射層14bは、ロジウム(Rh)やルテニウム(Ru)を用いることが好ましい。III族窒化物の波長領域に対して高い反射率を有し、ケミカルリフトオフのエッチング液に侵されにくいからである。
【0019】
発光素子40は、上記構成により、従来の平坦な支持部を用いた場合では発光層から横方向へ放出する光は、横方向へと漏れてしまい、光を十分効果的に取り出すことはできなかったものが、発光層11bから側面13bに達した光は、反射層14と凸部41で反射されることによって平坦部13aの法線方向に発される成分をもつことにより、光を十分効果的に取り出すことができる。
【0020】
また、本実施形態に係る発光素子40では、従来の支持部上の絶縁膜を介して半導体層の側面方向に反射部を設けた構造ではなく、支持部12上に絶縁膜を介した構造ではなく、支持部12上に直接反射層14を設けた構成となっている。それにより、発光素子10は、構造が単純で、以下に説明するように発光素子40は、簡単に製造することができる。
【0021】
以下、本発明の本実施形態に係る発光素子40の製造方法について説明する。この発光素子40において用いられるn型、p型の半導体層11は、成長基板上にエピタキシャル成長することによって得られる。ただし、実際に製造される発光素子40においては、この成長基板は除去され、成長基板があった側と反対側に成長基板とは異なる支持部12が接続される。
【0022】
図2は、本発明の本実施形態に係る発光素子を製造する工程を示すフローチャートである。図3と図4は、本発明の実施形態に係る発光素子の製造方法の各工程での基板の断面図である。ここでは、この発光素子として、窒化ガリウム(GaN)系材料を材料とする発光ダイオード(LED)を製造する場合につき説明する。このLEDはn型層と発光層、p型層の積層体であり。また、図1においてはLEDの1素子分だけの構成が示されているが、実際には、単一の支持部上に複数のLEDを形成することができ、素子形成後に個々に分離、または、これらを直列あるいは並列に接続して使用することができる。
【0023】
本実施形態に係る半導体素子の製造方法は、化合物半導体層形成工程(ステップS31)と、素子領域形成工程(ステップS32)と、犠牲部形成工程(ステップS33)と、被覆工程(ステップS34)と、窓形成工程(ステップS35)と、下地層形成工程(ステップS36)と、めっき工程(ステップS37)と、被覆層除去工程(ステップS38)と、ケミカルリフトオフ工程(ステップS39)と、犠牲部除去工程(ステップS40)と、n型電極形成工程(ステップS41)と、ワイヤボンディング工程(ステップS42)と、を有している。
【0024】
化合物半導体層形成工程(ステップS31)では、成長基板上に、リフトオフ層(金属バッファー層)と、リフトオフ層上の化合物半導体層を形成する。まず、図3(a)に示されるように、成長基板20上に、リフトオフ層21を形成する。成長基板20としては、AlNテンプレート基板(サファイアの表面にAlN層を有する基板)が特に好ましく用いられる。また、この上のリフトオフ層21としては、例えばスカンジウム(Sc)やクロム(Cr)を用いることができる。リフトオフ層21の成膜は、スパッタリング法、真空蒸着法等により行うことができる。
【0025】
次に、この状態で窒化処理、例えばアンモニア雰囲気で加熱することにより、リフトオフ層21は窒化され、例えば窒化スカンジウム層(金属窒化物層:ScN層)や窒化クロム層(金属窒化物層:CrN層)となる。なお、リフトオフ層21にSc(ScN層)を用いた場合を例に以下説明する。
【0026】
次に、リフトオフ層21上に、n型GaN層(n型半導体層:n型層)11a、発光層11b、p型GaN層(p型半導体層:p型層)11cを順次成膜する(エピタキシャル成長工程)。この成膜は、例えば有機金属気相成長法(MOCVD法)で行われ、n型層11aにはドナーとなる不純物が、p型層11cにはアクセプタとなる不純物がそれぞれドーピングされる。
【0027】
素子領域形成工程(ステップS32)では、少なくとも化合物半導体層(積層体)11の一部を、エッチングにより除去して素子領域11dと分離溝22を同時に形成する(図3(b))。図3(b)に示されるように、分離溝22は、図3中の上側(p型層11c側)から、成長基板20表面に達する深さをもつ。これにより、積層体11は基板20上で分断される。図3(b)においては、一方向における断面が示されているが、この分離溝22はこれと異なる方向にも形成され、分離溝22で囲まれた複数の領域の素子領域11dが形成される。これにより、ケミカルリフトオフのエッチング液を各素子領域のリフトオフ層に供給することができる。なお、素子領域11dは円形が好ましい。ケミカルリフトオフ工程でのエッチング時に未溶解領域が均等に縮小され、素子領域の外周部での応力集中によるクラック発生を抑制できるためである。なお、分離溝の素子分離予定ラインは多角形が好ましく、特に四角形が好ましい。ダイシング等での素子分離が容易であり、かつ、犠牲部の形成に用いるためである。
【0028】
分離溝22の形成は、例えば、次のようにして行われる。化合物半導体層11にCVDによりSiOを成膜して、レジストを用いてパターニングを行い、BHFでエッチングすることで、SiOのマスクを形成する。その後、SiOをマスクとして化合物半導体層のドライエッチングを行い、成長基板が露出するまで、エッチングを行う。その後、BHFを使用してSiOマスクを除去する。
【0029】
次に、最上面に存在するp型層11cの全面に、p側電極23として、p型層11cとオーミック性接触のとれる材料を成膜する。例えば、Ni/Au(50Å/200Å)をスパッタまたは蒸着により成膜し、アニールを行う。
【0030】
犠牲部形成工程(ステップS33)では、ケミカルリフトオフ工程において除去されない材料で構成され、その高さが半導体層11表面よりも低い犠牲部42を、成長基板20上の素子領域の周囲に形成する(図3(b))。犠牲部42の材料としては、成長基板20や後の下地層14との密着性を確保でき、ケミカルリフトオフ工程において除去されず、かつケミカルリフトオフ工程後に他に悪影響を与えず容易に除去できる材料であれば良く、例えば、クロム(Cr)または二酸化けい素(SiO)が使用できる。
成長基板20上の素子領域の周囲とは、分離溝22により露出した成長基板上で素子領域とは連続しない箇所であり、素子領域に対して対称な位置に不連続に独立して配置される必要がある。犠牲部42が外界からリフトオフ層21を塞いでしまうとケミカルリフトオフ工程でのエッチング液の浸入経路が遮られるためケミカルリフトオフに時間がかかり、生産性が悪化するためである。
【0031】
被覆工程(ステップS34)では、成長基板20と半導体層11と犠牲部42を覆い、素子領域から離れた領域におけるその表面の高さが発光層11b表面よりも低くなるように、被覆層24を形成する(図3(c))ことが好ましい。被覆層24は、塗布条件により上記の形状を得ることができ、溶解除去が容易なフォトレジストを用いることが好ましい。
成長基板側を下として、被膜表面の高さが発光層11b表面よりも低くなるようにすることにより、ケミカルリフトオフ工程後に上下逆転した後の反射層14の側面13bの高さが、支持部側を下として素子領域から離れた領域において発光層11bよりも高くなる。これにより、活性層から水平方向に向かう発光を側面13bで反射させて垂直方向に取り出すことが出来る。なお、図では犠牲部を有している箇所を用いて説明しているが、犠牲部を有さない場所においても同様に、素子領域から離れた領域における被覆層24の表面の高さが発光層11b表面よりも低くなるように、被覆層24を形成することが好ましい。つまり、素子領域を個々の素子に分離した後に、素子領域の活性層を取り囲む、反射層14の側面13bの高さが、活性層の水平方向の360度全体に対して支持部側を下として発光層11bよりも高くなることが好ましい。
【0032】
窓形成工程(ステップS35)では、半導体層11上と犠牲部42表面における被覆層24を除去し、窓25と窓43を形成する(図3(d))。この窓形成工程(ステップS35)は、被覆工程がフォトレジストならばフォトリソグラフィによって行われる。なお、半導体層上および犠牲部上の一部を除いて成長基板上を上記のように覆うことができればいかなる方法でもよく、本実施形態のように窓形成工程と被覆工程とを区別せずに被覆工程としても良い。
【0033】
下地層形成工程(ステップS36)では、被覆層24表面及び半導体層11表面(p側電極23表面を含む)と犠牲部42に下地層14を形成する。下地層は、半導体層11および犠牲部42との良好な密着性を持ち、かつ、めっき法でのシードの役目を果たすものである。下地層の半導体層側は、被覆層、リフトオフ層、犠牲部の各エッチング液に対し侵されないことが好ましい。さらに、下地層14に発光層からの光の反射機能を持たせる場合は、シード層14aと反射層14bとから構成することが可能であり、その場合の反射層14bは例えば半導体層側の表面をロジウム(Rh)またはルテニウム(Ru)等の白金族とすることができ、下地層形成工程(ステップS36)において、半導体層側から反射層14b、シード層14aの順に形成すればよい(図3(e))。
シード層14aは、次のめっき工程でNiめっきを用いる場合はめっき側の表面にパラジウム(Pd)を用い、Cuめっきを用いる場合はPt/Cuを用いることが好ましい。なお、犠牲部42との接合を形成した下地層14の一部が凸部41となる。
【0034】
めっき工程(ステップS37)では、反射層14上にめっきを施すことによって支持部12を形成する(図3(f))。めっきの種類はめっきが可能でリフトオフ層や犠牲部と異なる金属であればよく、例えば、Niめっき、またはCuめっきが好ましい。めっき方法は乾式めっきでも湿式めっきでもよい。
【0035】
被覆層除去工程(ステップS38)では、被覆層24を除去する(図4(g))。フォトレジストの溶解液に浸漬することで、被覆層24で塞いでいた半導体層11と成長基板20との間の隙間を復活させ、後のケミカルリフトオフ工程でのエッチング液の浸入経路を形成する。フォトレジストの溶解液は少なくとも犠牲部等に影響が無ければよく、フォトレジストの種類により選択し、例えばアセトンなどの有機溶媒などが利用できる。
【0036】
ケミカルリフトオフ工程(ステップS39)では、半導体層11と成長基板20とを分離する(図4(h))。ケミカルリフトオフ工程(ステップS39)は、例えば、めっきで支持した基板50を塩酸に浸漬してケミカルエッチングを行うことによりリフトオフ層21を溶解する(図4(h))。このケミカルリフトオフ工程(ステップS39)においては、側面の凸部41と犠牲部42が接合されて柱のようになっているため、リフトオフ層21のエッチングにより未溶解部分が縮小しても成長基板側と半導体層側の変形が抑制され、半導体層11にかかる応力が緩和され、割れが生じないようにして、成長基板20から半導体層11を剥離することができる。
【0037】
犠牲部除去工程(ステップS40)は、例えば、犠牲部がCrの場合はCr選択エッチング液(硝酸セリウムアンモニウム)、例えば、犠牲部が二酸化けい素(SiO)の場合はBHF(バッファードフッ酸)を用いて、ケミカルエッチングを行うことにより犠牲部42を溶解し、成長基板20を剥離する。既にケミカルリフトオフにより半導体層が分離しているため、接合を維持している犠牲部は機械的に剥離することも可能だが、エッチングを用いた方が余分な付着物が生じにくく好ましい。
【0038】
犠牲部除去工程後には、n型電極形成工程(ステップS41)と素子分離予定ラインでのダイシング等による素子分離工程(図示せず)、ワイヤボンディング工程(ステップS42)を経て、光を効果的に取り出すことができる垂直型のLED(半導体素子)を製造することができる。なお、n型電極上を除き素子領域全体を覆う保護膜を形成することがより好ましい。支持部の側面13aと半導体層との間のリークを防ぐためである。
【0039】
なお、上記実施形態においては、成長基板20として、AlNテンプレート基板を用いて説明したが、成長基板20としては、AlNテンプレート基板以外にも、バッファ層21等を介して良質のGaNやAlN、AlGaN、BAlInGaNなどのIII族窒化物半導体(n型層11a、発光層11b、p型層11c)を成長させることができるものであれば、他の材料、例えばサファイアやSiC等を用いることも可能である。同種のIII族窒化物基板を用いても良いが内部応力の発生がすくなく、成長させる半導体層との間に内部応力を発生する成長基板、つまり異種成長基板を用いてリフトオフをする場合の内部応力を制御する方法として特に有効である。
【0040】
なお、上記の例では、積層体は、共にGaN系材料からなるn型層11a、発光層11b、p型層11cで構成されるものとして説明した。しかしながら、この他の場合であっても、同様の効果を奏することは明らかである。例えば、HEMTなどの半導体デバイスや、単純なpn接合を利用したダイオードや、n型層とp型層との間に発光層(活性層)を設けて発光ダイオード(LED)やレーザーダイオードを同様に製造できることも明らかである。また、n型層やp型層はGaNではなく、他のIII族窒化物半導体、例えばAlInGa1−a−bN(0≦a≦1、0≦b≦1、a+b≦1)としてもよい。発光素子の場合には、例えばエピタキシャル成長工程において、n型層11a、活性層、p型層11cの順に形成する。
【0041】
また、上記実施形態においては、化合物半導体層形成工程(ステップS31)におけるリフトオフ層21としてScを用いて説明したが、例えばリフトオフ層21としてCrを用いた場合には、ケミカルリフトオフ工程(ステップS39)で用いるリフトオフ層エッチング液として過マンガン酸ナトリウムまたは過マンガン酸カリウム等を用いればよい。そのときは、犠牲部形成工程(ステップS33)における犠牲層42としてCrではなくSiO2を用いればよい。そのときには、犠牲部除去工程(ステップS40)で用いる犠牲層エッチング液としてBHFを用いればよい。このように、リフトオフ層21の種類によって、ケミカルリフトオフ工程ではエッチングされずに接合を維持できる犠牲層とエッチング液の種類を選択する。
【0042】
(実施例)
サファイア上にMOCVD法を用いてAlN単結晶層(厚さ1μm)を成長させたAlN(0001)テンプレート基板面上にリフトオフ層として100Åの膜厚のスカンジウム(Sc)をスパッタリング法により成膜した。
次に、アンモニア雰囲気で1200℃で10分間の窒化処理を行い、リフトオフ層は窒化され、窒化スカンジウム層(ScN層)が形成された。
次に、ScN層上に、ノンドープAlGaNを2um、Siドープn型AlGaN層(1.5μm)、MQW活性層(0.1μm)、Mgドープp型AlGaN層(0.3μm)を順次MOCVD法で成膜した。
p型AlGaN層上にCVDによりSiOを成膜して、レジストを用いてパターニングを行い、BHFでエッチングすることでSiOマスクを形成し、化合物半導体層のドライエッチングを行い、AlNテンプレート基板が露出するまで、エッチングを行った。その後、BHFを使用してSiOマスクを除去し、直径850μmの円形の素子領域を形成した。
次に素子領域のp型層上にp側電極としてNi/Au(50Å/200Å)を成膜し、550℃で15分のアニールを行った。
犠牲層形成工程では、ドライエッチングにより露出したAlNテンプレート基板上の素子領域と間隔を空けて4隅に犠牲層として直径約95μmのCr(200Å)層を形成した。
被覆層形成工程では被覆層としてフォトレジストをスピンコートし、素子領域および犠牲層が露出するようにパターニングを行った。素子領域の露出部分は直径840μmであり、犠牲層の露出部分は直径90μmである。パターニング後に犠牲層外周上に残ったフォトレジストの厚さは約2μmであり、フォトレジスト表面の成長基板からの高さは活性層よりも低かった。
被膜層上および露出した素子領域および犠牲層上に、下地層として、スパッタリング法によりPt/Au/Pt/Pd(250Å/5500Å/250Å/150Å)を順に成膜した。その後、下地層上に市販のNi無電解めっき液を用いてNiめっきを行い、平坦な底部からの厚さが100μmのNi支持部を形成した。
被覆層除去工程ではアセトンに浸漬して被覆層のフォトレジストを除去した。
ケミカルリフトオフ工程では成長基板と半導体層を分離する。塩酸に24時間浸漬することでリフトオフ層のケミカルエッチングを行い、リフトオフ層を除去することでAlNテンプレート板と半導体層を分離した。このケミカルリフトオフ工程において、犠牲層はエッチング液で除去されないため、AlNテンプレート基板とNi支持部は犠牲層と下地層を介して接続が維持されていた。
ケミカルリフトオフ工程の後、犠牲層除去工程で硝酸セリウムアンモニウム溶液に浸漬して犠牲層をエッチングにより除去し、支持部(下地層)とAlNテンプレート基板とを分離した。
【0043】
(比較例)
犠牲層を形成せず、被覆層形成工程において素子領域のみが露出するようにフォトレジストのパターニングを行った以外は、実施例と同様とした。なお、ケミカルリフトオフ工程において支持部とAlNテンプレート基板は分離され、犠牲層除去工程は無い。
【0044】
実施例と比較例のAlNテンプレート基板剥離後の化合物半導体層の品質を、光学顕微鏡での表面観察により比較した。図5は基板剥離後に比較例では、10個中9個において、AlNテンプレート基板剥離後の化合物半導体層の中央部に割れが生じていることが金属顕微鏡および電子顕微鏡により観察された。化合物半導体層の外周部からエッチングされ、AlNテンプレート基板が剥離する直前に中央部に残る微小領域で、基板と化合物半導体層および支持部との間の応力の集中が生じた結果、剥離後に割れが観察されたと考えられる。しかしながら実施例では、図5に示すように、化合物半導体層に比較例のような割れやクラックは観察されなかった。ケミカルリフトオフ工程において成長基板と半導体層の間の柱としての役割を担う犠牲層部側が変形を抑えるため、柱で囲まれた素子領域側で半導体層にかかる応力は比較例に比べて大幅に緩和されており、素子領域側の化合物半導体層に割れが生じないと考えられる。従って、実施例ではAlNテンプレート基板剥離時に割れが生じず、リフトオフ層を周辺からエッチングしてリフトオフされる化合物半導体層のエッチングの進行により応力が集中する箇所の割れを抑制できることが分かった。
また、実施例および比較例において作成したサンプルについて、さらに剥離した化合物半導体層のノンドープのAlGaN層の一部を、n電極形成に必要な範囲でドライエッチングにより除去し、露出したn型AlGaN層にTi/Alを順に成膜することによりn型電極を形成して、定電流電圧測定装置によりI−V測定を行った。逆方向電圧Vr(−10uA)において、実施例が10V以上であったのに対して、比較例で割れが観察されたものは約6Vと低かった。比較例では応力集中が発生したことでリーク電流が増加したと考えられる。よって本発明により、リーク電流の少ない高品質の発光素子が得られることが分かった。
【0045】
以上の実施形態で説明された構成、形状、大きさおよび配置関係については本発明が理解・実施できる程度に概略的に示したものにすぎず、また数値および各構成の組成等については例示にすぎない。なお、ケミカルリフトオフ時に割れが発生しないことは、発光素子に限らず半導体素子全般に必要な技術である。従って本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
ただし、半導体素子に用いることが可能な限られた材料の中から本発明の各選択エッチング液とエッチング液に対する耐性の関係を全て満たす材料構成を得ることが、本発明の実施に必要である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係る発光素子と発光素子および半導体素子の製造方法は、LED光学系素子とLED光学系素子を製造する方法に利用される。
【符号の説明】
【0047】
11 半導体層
11a n型GaN層(n型半導体層:n型層)
11b 発光層
11c p型GaN層(p型半導体層:p型層)
12 支持部
13 凹部
13a 平坦な底部(平坦部)
13b テーパー形状の側面
14 下地層
14a シード層
14b 反射層
20 成長基板
21 リフトオフ層
22 分離溝
23 p側電極
24 被覆層
40 発光素子
42 犠牲部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子の製造方法であって、
成長基板上の一部に、リフトオフ層を介して、半導体層からなる素子領域を形成する素子領域形成工程と、
後記ケミカルリフトオフ工程で除去されない犠牲部を前記成長基板上の前記素子領域の周囲に形成する犠牲部形成工程と、
前記半導体層上および前記犠牲部上の一部を除いた前記成長基板上を覆う被覆層を形成する被覆工程と、
前記半導体層上および前記犠牲部上の一部および被覆層表面を含む前記成長基板上の表面に下地層を形成する下地層形成工程と、
前記下地層上にめっきを施すことによって支持部を形成するめっき工程と、
前記被覆層を溶解除去する被覆層除去工程と、
前記リフトオフ層を溶解除去することにより、前記半導体層と前記成長基板とを分離するケミカルリフトオフ工程と、
前記ケミカルリフトオフ工程の後に、前記犠牲部において前記成長基板と前記下地層とを分離する犠牲部除去工程と、
を具備することを特徴とする半導体素子の製造方法。
【請求項2】
発光層を有する半導体層を具備する発光素子の製造方法であって、
成長基板上の一部に、リフトオフ層を介して、前記半導体層からなる素子領域を形成する素子領域形成工程と、
後記ケミカルリフトオフ工程で除去されない犠牲部を前記成長基板上の前記素子領域の周囲に形成する犠牲部形成工程と、
前記半導体層上および前記犠牲部上の一部を除いた前記成長基板上を覆う被覆層を形成する被覆工程と、
前記半導体層上および前記犠牲部上の一部および被覆層表面を含む前記成長基板上の表面に下地層を形成する下地層形成工程と、
前記下地層上にめっきを施すことによって支持部を形成するめっき工程と、
前記被覆層を溶解除去する被覆層除去工程と、
前記リフトオフ層を溶解除去することにより、前記半導体層と前記成長基板とを分離するケミカルリフトオフ工程と、
前記ケミカルリフトオフ工程の後に、前記犠牲部において前記成長基板と前記下地層とを分離する犠牲部除去工程と、
を具備することを特徴とする発光素子の製造方法。
【請求項3】
前記半導体層は、前記素子領域形成工程において、前記成長基板側から順にIII族窒化物半導体からなるn型層、発光層、p型層を具備することを特徴とする請求項2に記載の発光素子の製造方法。
【請求項4】
前記被覆工程は、フォトレジストを塗布することにより、少なくとも犠牲部上の前記被覆層表面の成長基板からの高さが前記発光層よりも低くなるように被覆され、前記被覆層の前記半導体層上および前記犠牲部上の一部をフォトリソグラフィによって除去されることを特徴とする請求項2または3に記載の発光素子の製造方法。
【請求項5】
前記下地層形成工程において、前記下地層は前記半導体層側に反射層を含むことを特徴とする請求項4に記載の発光素子の製造方法。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか1項に記載の発光素子の製造方法によって製造されたことを特徴とする発光素子。
【請求項7】
支持部の上に発光層を具備する半導体層を有する発光素子において、前記支持部は凹形状を有し、前記半導体層は凹形状の底部に下地層を介して接続され、前記支持部は凹形状の頂部に、下地層からなり不連続に独立した凸部を具えることを特徴とする発光素子。
【請求項8】
10ボルトの逆方向電圧を印加したときのリーク電流が10μA以下であることを特徴とする請求項7記載の発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−151178(P2012−151178A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7083(P2011−7083)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【特許番号】特許第4940359号(P4940359)
【特許公報発行日】平成24年5月30日(2012.5.30)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】