説明

発光素子及びその製造方法

【課題】窒化物半導体層をクラックが生じる臨界膜厚よりも薄く形成しつつ、転位密度の低い窒化物半導体層を得ることのできる発光素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】基板102の成長面102aに窒化物半導体層がエピタキシャル成長される発光素子100において、基板102は窒化物半導体層と熱膨張係数が異なり、基板102の成長面102aは1μm以下の周期で形成された複数の凹部102cを有し、窒化物半導体層は横方向成長を利用して成長される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の表面に窒化物半導体層がエピタキシャル成長される発光素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化合物半導体のpn接合による発光素子として、LED(発光ダイオード)が広く実用化され、主に、光伝送、表示及び特殊照明用途に用いられている。近年、窒化物半導体と蛍光体を用いた白色LEDも実用化され、今後は一般照明用途への展開が大いに期待されている。しかし、白色LEDにおいては、エネルギー変換効率が既存の蛍光灯と比較して不十分のため、一般照明用途に対しては大幅な効率改善が必要である。さらに、高演色性、低コスト且つ大光束のLEDの実現のためには多くの課題が残されている。現在市販されている白色LEDとして、リードフレームに実装された青色LEDチップと、この青色LEDチップに被せられYAG:Ceからなる黄色蛍光体層と、これらを覆いエポキシ樹脂等の透明材料からなるモールドレンズと、を備えたものが知られている。この白色LEDでは、青色LEDチップから青色光が放出されると、黄色蛍光体を通り抜ける際に青色光の一部が黄色光に変換される。青色と黄色は互いに補色の関係にあることから、青色光と黄色光が交じり合うと白色光となる。この白色LEDでは、効率改善や演色性向上のため、青色LEDチップの性能向上等が求められている。
【0003】
青色LEDチップとして、n型のSiC基板上に、AlGaNからなるバッファ層、n−GaNからなるn型GaN層、GaInN/GaNからなる多重量子井戸活性層、p−AlGaNからなる電子ブロック層、p−GaNからなるp型コンタクト層が、SiC基板側からこの順で連続的に積層されたものが知られている。さらに、p型コンタクト層の表面にp側電極が形成されるとともに、SiC基板の裏面にn側電極が形成され、p側電極とn側電極との間に電圧を印加して電流を流すことにより、多重量子井戸活性層から青色光が放出される。この青色LEDチップでは、SiC基板に導電性があるため、サファイア基板を用いた青色LEDチップと異なり、上下に電極を配置することができ、製造工程の簡略化、電流の面内均一性、チップ面積に対する発光面積の有効利用等を図ることができる。
【0004】
さらに、蛍光体を利用することなく、単独で白色光を生成するLEDチップが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このLEDチップでは、前述の青色LEDチップのn型のSiC基板に代えて、B及びNをドープした第1SiC層と、Al及びNをドープした第2SiC層を有する蛍光SiC基板が用いられ、多重量子井戸活性層から近紫外光が放出される。近紫外光は、第1SiC層及び第2SiC層にて吸収され、第1SiC層にて緑色から赤色の可視光に、第2SiC層にて青色から赤色の可視光にそれぞれ変換される。この結果、蛍光SiC基板から演色性が高く太陽光に近い白色光が放出されるようになっている。
【0005】
ところで、特許文献1に記載された構成のLEDチップにおいて、高蛍光体SiC基板と窒化物半導体層との間に格子不整合が存在していることから、両者の界面から格子不整合に起因する応力を緩和するために多数の転位欠陥が発生する。この転位は、成長方向に伝播し、多重量子井戸活性層を通ってp型コンタクト層の表面に達する。転位欠陥は、多重量子井戸活性層内では、非発光の再結合中心となることから、チップの発光効率に悪影響を及ぼす。このときの転位密度は、一般に5×10cm−2から4×10cm−2であり、他の材料によって構成される半導体層の転位密度と比較して4桁から5桁程度高くなっている。
【0006】
ここで、GaInN系の活性層は、InNモル分率の空間的な不均一性を持ち、注入されたキャリアがInNモル分率が高い場所に局在するために、結果として非発光の再結合中心へのキャリアの拡散を抑制する効果がある。このため、上記のように高い転位密度であっても、青色領域にピーク波長を持つ構成の窒化物半導体層では、InNモル分率の平均値が高くなるので外部量子効率が高くなる。しかしながら、近紫外領域にピーク波長を持つ構成の窒化物半導体層では、InNモル分率の平均値が低いので、上記のようなキャリア拡散を抑制する効果が得られず、外部量子効率が急激に低下する。従って、特許文献1に記載された構成のLEDチップでは、近紫外領域のピーク波長を有する窒化物半導体層を用いていることから、半導体層全体の転位密度を低減させることが望ましい。
【0007】
窒化物半導体層の転位密度低減に有効な方法として、図13に示すような選択横方向成長法が知られている。選択横方向成長法では、まず、サファイア基板901上に、AlGaNからなるバッファ層902、n−GaNからなるn型層903を第1の結晶成長により積層する。この後、幅3μm、周期6μmのSiOからなるストライプマスク904を形成する。次いで、第2の結晶成長を行って、例えば、950℃でGaNからなるシード結晶905、続いて1050℃でGaNからなる平坦化層906を成長させる。シード結晶905は、ストライプマスク904に覆われていない開口部907からのみ成長し、低温成長のために基板表面に対して約60度傾斜した結晶面908が現れる。ストライプマスク904を<1100>方向に形成した場合、結晶面908は(11−22)面、ストライプマスク904を<11−20>方向に形成した場合、結晶面は(1−101)面となる。この成長の過程で、シード結晶905内部におけるサファイア基板901との界面から生じた転位は、垂直方向から水平方向に曲げられて結晶面上に現れる。この転位は、引き続き行われる平坦化層906の成長時にも水平方向に伝播を続け、隣り合いシード結晶905から横方向に成長した結晶同士が合体するストライプマスク904の中央部上方にて、転位の多くは終端して消滅する。消滅しない転位は、再び上方に向きを変え、平坦化層906の表面に現れる。しかし、転位が合体した部位の上方を除けば、表面に貫通する転位の数は極めて少なく、転位密度を半導体層全体の平均で1×10cm−2程度まで低減できる。
【特許文献1】特許第4153455号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、横方向選択成長を蛍光SiC基板上に形成される窒化物半導体層に適用することは困難である。これは以下の理由による。
シード結晶905を形成した後、表面を平坦化するため平坦化層906を成長させなければならないが、そのためには窒化物半導体層の厚さを3μm程度とする必要がある。ここで、蛍光SiC基板と窒化物半導体層には熱膨張率の違いにより、窒化物半導体層に熱応力が発生する。具体的には、窒化物半導体層の結晶成長時に加熱した後、室温まで冷却すると、蛍光SiC基板よりも熱膨張係数の大きな窒化物半導体層の面内方向に引っ張り歪みが生じる。これにより、窒化物半導体層の膜厚が2.5μmを超えると、引っ張り歪による応力に窒化物半導体層が耐えられなくなってクラックが生じる。クラックとは、結晶層の割れた状態をいい、ひとたびクラックが生じると、その後のデバイス作製は不可能となる。尚、窒化物半導体層の厚さを2.5μmよりも薄くすれば、クラックの発生が抑制できるものの、半導体層の表面の平坦化は得られない。
【0009】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、窒化物半導体層をクラックが生じる臨界膜厚よりも薄く形成しつつ、転位密度の低い窒化物半導体層を得ることのできる発光素子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明では、
基板の成長面に窒化物半導体層がエピタキシャル成長される発光素子において、
前記基板は、前記窒化物半導体層と熱膨張係数が異なり、
前記基板の前記成長面は、1μm以下の周期で形成された複数の凹部又は凸部を有し、
前記窒化物半導体層は、横方向成長を利用して成長される発光素子が提供される。
【0011】
上記発光素子において、
前記基板は、BとAlの少なくとも一方とNとがドープされた6H型SiC単結晶蛍光材料からなり、
前記窒化物半導体層は、408nm以下のピーク波長で発光する発光層を有してもよい。
【0012】
上記発光素子において、
前記窒化物半導体層は、厚さが2.5μm以下であってもよい。
【0013】
上記発光素子において、
前記基板は、Siからなり、
前記窒化物半導体層は、厚さが1.5μm以下であってもよい。
【0014】
前記目的を達成するため、本発明では、上記発光素子を製造するにあたり、
電子線を用いたリソグラフィーを利用して、前記基板の前記成長面上に形成された電子線レジストに、所定周期のドット状のマスクパターンを形成する工程と、
前記電子線レジストの前記マスクパターンを、前記基板の前記成長面上に形成されるハードマスクに転写する工程と、
前記基板の前記成長面上における前記ハードマスク以外の領域をエッチングして、前記基板の前記成長面に周期的な前記各凹部又は前記各凸部を形成する工程と、
前記基板の前記成長面に前記窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる工程と、を含む発光素子の製造方法が提供される。
【0015】
前記所定周期は、1μm以下であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、窒化物半導体層をクラックが生じる臨界膜厚よりも薄く形成しつつ、転位密度の低い窒化物半導体層を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1から図6は本発明の一実施形態を示すものであり、図1はLEDチップの模式断面図である。
【0018】
図1に示すように、LEDチップ100は、B及びNがドープされた第1SiC層122と第1SiC層122上に形成されAl及びNがドープされた第2SiC層124を有するSiC基板102を備え、SiC基板102上に形成された窒化物半導体層と、を備えている。窒化物半導体層は、熱膨張係数が5.6×10−6/℃であり、バッファ層104、n型層106、多重量子井戸活性層108、電子ブロック層110、p型クラッド層112、p型コンタクト層114をSiC基板102側からこの順に有している。p型コンタクト層114上にはp側電極116が形成され、SiC基板102の裏面側にn側電極118が形成されている。
【0019】
SiC基板102は、6H型SiC単結晶蛍光材料からなり、熱膨張係数が4.2×10−6/℃である。SiC基板102は、窒化物半導体が成長される(0001)Si面が主面とされた成長面102aに、平坦部102bと、平坦部102bに周期的に形成された複数の錐状の凹部102cと、が形成されている。凹部102cの形状は、円錐、多角錘等の形状とすることができる。窒化物半導体層は、各凹部102cに沿って周期的に形成される複数の錘状の凸部を成長面102a側に有している。本実施形態においては、SiC基板102は、ピーク波長が408nm以下の紫外光により励起されると白色光を発する。
【0020】
第1SiC層122は、B及びNがドープされたSiCからなり、ピーク波長が408nm以下の紫外光により励起されると黄橙色の光を発する。第1SiC層122は、例えば、500nm〜650nmにピークを有する500nm〜750nmの波長の光を発する。第1SiC層122におけるB及びNのドーピング濃度は、それぞれ1015/cm〜1019/cmである。
【0021】
第2SiC層124は、Al及びNがドープされたSiCからなり、ピーク波長が408nm以下の紫外光により励起されると青緑色の光を発する。第2SiC層124は、例えば、400nm〜550nmにピークを有する400nm〜750nmの波長の光を発する。第2SiC層124におけるAl及びNのドーピング濃度は、それぞれ1015/cm〜1019/cmである。
【0022】
バッファ層104は、SiC基板102cの成長面102a上に形成され、AlGaNで構成されている。本実施形態においては、バッファ層104は、後述するn型層106等よりも低温にて成長されている。n型層106は、バッファ層104上に形成され、n−GaNで構成されている。
【0023】
多重量子井戸活性層108は、n型層106上に形成され、GalnN/GaNで構成され、電子及び正孔の注入により例えば紫外光を発する。本実施形態においては、多重量子井戸活性層108は、Ga0.95ln0.05N/GaNからなり、発光のピーク波長は385nmである。
【0024】
電子ブロック層110は、多重量子井戸活性層108上に形成され、p―AIGaNで構成されている。p型クラッド層112は、電子ブロック層110上に形成され、p−AlGaNで構成されている。p型コンタクト層114は、p型クラッド層112上に形成され、p−GaNで構成されている。
【0025】
バッファ層104からp型コンタクト層114までは、III族窒化物半導体のエピタキシャル成長により形成され、SiC基板102の成長面102aには周期的に凹部102cが形成されているが、III族窒化物半導体の成長所期に横方向成長による平坦化が図られる。尚、第1導電型層、活性層及び第2導電型層を少なくとも含み、第1導電型層及び第2導電型層に電圧が印加されると、電子及び正孔の再結合により活性層にて光が発せられるものであれば、窒化物半導体層の層構成は任意である。
【0026】
p側電極116は、p型コンタクト層114上に形成され、例えばNi/Auからなり、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等により形成される。n側電極118は、SiC基板102に形成され、例えばTi/Al/Ti/Auからなり、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等により形成される。
【0027】
次いで、図2A及び図2Bを参照してSiC基板102について詳述する。図2AはSiC基板を示し、(a)が模式斜視図、(b)が模式縦断面図である。
【0028】
図2A(a)に示すように、SiC基板102の各凹部102cは、平面視にて、各凹部102cの中心が正三角形の頂点の位置となるように、所定の周期で三角格子状に整列して形成される。尚、ここでいう周期とは、隣接する凹部102cにおける深さのピーク位置の距離をいう。各凹部102cの周期は、任意であるが、1μm以下であることが好ましい。このように、1μm以下の周期構造を形成することにより、SiC基板102とIII族窒化物半導体との界面における反射が抑制される。
【0029】
図2Bは、三角格子及び正方格子の周期と光取り出し効率の関係を示すグラフである。このグラフでは、SiC基板102から空気への光取り出し効率を示しているが、SiC基板102から空気以外へ光が取り出される場合であっても同じ性質を示す。さらに、窒化物半導体からSiC基板102へ入射する場合の入射効率も同じ性質を示す。尚、図3は、周期について1μmを超える領域の光取り出し効率を示していないが、1μmを超えると少なくとも6μm程度までは一定となる。
図2Bに示すように、三角格子であっても、正方格子であっても、周期構造が形成されない平坦面よりも光取り出し効率が高くなり、1μm以下の周期で1μmを超える領域よりも光取り出し効率が高くなる領域があることがわかる。三角格子にあっては、周期が300nm以上であれば1μmを超える領域の光取り出し効率より高くなる。また、正方格子にあっては、周期が500nm以上であれば1μmを超える領域の光取り出し効率より高くなるし、周期が200nm以上300nm以下であっても1μmを超える領域の光取り出し効率ようりも高くなる。
【0030】
本実施形態においては、図2(b)に示すように、各凹部102cは、円錐状に形成される。具体的に、各凹部102cは、基端部の直径は150nmであり、深さは500nmとなっている。尚、SiC基板102の厚さは250μmであり、第1SiC層122の厚さが200μm、第2SiC層124の厚さが50μmとなっている。また、各凹部102cの周期は、300nmとなっている。SiC基板102の成長面102aは、各凹部102cの他は平坦部102bとなっており、窒化物半導体層の横方向成長が助長されるようになっている。
【0031】
次に、図3及び図4を参照してLEDチップ100用のSiC基板102の作製方法について説明する。図3は、SiC基板を加工する説明図であり、(a)は成長面にレジスト層が形成された状態を示し、(b)はレジスト層に選択的に電子線を照射する状態を示し、(c)はレジスト層を現像して除去した状態を示し、(d)はマスク層が形成された状態を示している。
【0032】
まず、昇華再結晶等によりB及びNがドープされたSiC結晶を生成し、この上に例えば近接昇華法によりAl及びNがドープされたSiC結晶をエピタキシャル成長させて、第1SiC層122及び第2SiC層124が積層されたSiC基板102を作製する。そして、図4(a)に示すように、SiC基板102の表面に例えばスピンコーティング法を用いて電子線レジストとしてのレジスト層132を形成する。レジスト層132の厚さは、任意であるが、例えば200nmである。
【0033】
次に、図4(b)に示すように、レジスト層132と離隔してステンシルマスク134をセットする。レジスト層132とステンシルマスク134との間は、1.0μm〜100μmの隙間があけられる。ステンシルマスク134は、例えばダイヤモンド、SiC等の材料で形成されており、厚さは任意であるが、例えば、厚みが500nm〜100μmとされる。ステンシルマスク134は、電子線を選択的に透過するドット状の開口134aを有している。この開口134aの直径は、例えば、50nm〜500nmであり、周期は100nm〜1μmとなっている。この周期が1μm以下であれば、窒化物半導体層を臨界膜厚以下とすることができる。
【0034】
ここで、ステンシルマスク134は、厚みが一定の薄板状に形成されているが、例えば格子状、突条の肉厚部を設けるなどして部分的に厚みを大きくして強度を付与するようにしてもよい。尚、肉厚部は、SiC基板102側に突出しても、SiC基板102と反対側に突出しても、さらには両側に突出してもよい。SiC基板102側に突出する場合、肉厚部の先端をレジスト層132と当接させることにより、肉厚部にレジスト層132とのスペーサの機能を付与することができる。
【0035】
この後、図4(c)に示すように、ステンシルマスク134へ電子線を照射し、レジスト層132をステンシルマスク134の各開口134aを通過した電子線に曝す。レジスト層132は、ポジタイプであり、感光すると現像液に対して溶解度が増大する。尚、ネガタイプのレジスト層132を用いてもよい。ここで、レジスト層132が感光する際に、レジスト層132に含まれていた溶剤が揮発することとなるが、レジスト層132とステンシルマスク134との間に隙間があることによって揮発成分が拡散しやすくなり、揮発成分によってステンシルマスク134が汚染されることが防止できる。
【0036】
電子線の照射が完了した後、所定の現像液を用いてレジスト層132を現像する。これにより、図4(c)に示すように、電子線が照射された部位が現像液に溶出し、電子線が照射されてない部位が残留して、開口132aが形成される。このようにして、電子線を用いたリソグラフィーを利用して、SiC基板102の成長面102a上に形成されたレジスト層132に、所定周期のドット状のマスクパターンが形成される。この所定周期は、1μm以下であることが望ましい。
【0037】
次いで、図4(d)に示すように、レジスト層132がパターンニングされたSiC基板102上に、マスク層136を形成する。マスク層136は、例えばNiからなり、スパッタリング法、真空蒸着法、CVD法等により形成される。マスク層136の厚さは、任意であるが、例えば100nmである。
【0038】
図4はSiC基板を加工する説明図であり、(a)はレジスト層を完全に除去した状態を示し、(b)はマスク層をマスクとしてSiC基板をエッチングした状態を示し、(c)はマスク層を除去した状態を示している。
【0039】
図4(a)に示すように、レジスト層132を剥離液を用いて除去する。例えば、レジスト層132を剥離液中に浸し、所定時間だけ超音波を照射することにより除去することができる。具体的に、剥離液としては例えばジエチルケトンを用いることができる。これにより、SiC基板102上に、ステンシルマスク134の開口134aのパターンを反転させたハードマスクとしてのマスク層136のパターンが形成される。これにより、レジスト層132のマスクパターンが、SiC基板102の成長面102a上に形成されるマスク層136に転写される。
【0040】
そして、図4(b)に示すように、マスク層136をマスクとして、SiC基板102のドライエッチングを行う。そして、SiC基板102のエッチング深さが所期の深さとなるところでエッチングを終了させる。本実施形態においては、エッチング初期の段階ではマスク層136に転写された開口130aは、エッチングが深さ方向に進行するにつれてサイドエッチングが進行して拡大し、最終的には基端部の直径が150nmの円錐状の凹部102cが形成されるようになっている。ここで、エッチングガスとして、例えばSFを用いて反応性イオンエッチングを行うことができる。この後、図4(c)に示すように、所定の剥離液を用いてSiC基板102上に残ったマスク層136を除去する。このようにして、SiC基板102の成長面102a上におけるマスク層136以外の領域をエッチングして、基板102の成長面102aに周期的な各凹部102cが形成される。
【0041】
図5は、LEDチップの拡大説明断面図である。
図5に示すように、以上のように作製されたSiC基板102の成長面102aに、横方向成長を利用してIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長させる。本実施形態においては、例えば有機金属化合物気相成長法によって膜厚200nmのAlGaNからなるバッファ層104を成長させた後、n−GaNからなるn型層106、多重量子井戸活性層108、電子ブロック層110、p型クラッド層112及びp型コンタクト層114を成長させる。
【0042】
SiC基板102とGaN系窒化物半導体には通常、1%を超える格子不整合が存在するため、その応力を緩和するように密度5×10cm−2から1×10cm−2の転位欠陥107が生じ、結晶層上方に伝播していく。しかし、本実施形態のように凹凸加工が施されたSiC基板102上の成長では、横方向の成長が促進されるために転位も横方向へ曲げられ、転位は各凹部102cの中央付近に集まりながら一部は消滅し、その上方のみに伝播する。この結果、窒化物半導体層全体の平均で転位密度は1×10cm−2程度に減少する。
【0043】
ただし、SiC基板102の成長面102aには、(0001)面が含まれていなければならない。基板の(0001)面が上部に成長される窒化物半導体層のC軸配向性を決定するため、この面が存在しないと結晶品質の確保が困難となるためである。なお、凹凸基板上での成長において、エピタキシャル成長層の表面が平坦化するためには、凹凸の周期や高さの2倍程度の膜厚を成長しなければならないが、本実施例のように周期や高さが小さければ、1μm程度の膜厚で平坦化させることができる。この膜厚は、基板からエピタキシャル成長層に加わる引っ張り歪によるクラック発生の臨界膜厚2.5μmよりも十分に小さいため、クラックを生じることもない。
【0044】
窒化物半導体層を形成した後、各電極116,118を形成し、ダイシングにより複数のLEDチップ100に分割することにより、LEDチップ100が製造される。
【0045】
以上のように構成されたLEDチップ100は、p側電極116とn側電極118に対して電圧を印加すると、多重量子井戸活性層108から紫外光が放射状に発せられる。本実施形態においては、SiC基板102の成長面102aに凹部102cが形成されているものの、前述のように、窒化物半導体層にて転移の密度が比較的低い結晶が得られている。この結果、多重量子井戸活性層108において転移の密度が比較的低い結晶となっており、良好な発光効率を得ることができる。
【0046】
図6は、窒化物半導体層における転位密度と発光効率の関係を示すグラフである。
図6に示すように、多重量子井戸活性層108では、転位密度は1×10cm−2程度であることから、発光効率が極めて高くなっている。
【0047】
これにより、成長面102aに凹部102cが形成されることにより、発光効率が損なわれることはない。多重量子井戸活性層108から発せられる紫外光のうち、p側電極116へ向かうものについては、大部分がp側電極116にて反射してSiC基板102へ向かう。従って、多重量子井戸活性層108から発せられた光は、殆どがSiC基板102へ向かうこととなる。
【0048】
SiC基板102へ入射する紫外光は、バッファ層104とSiC基板102の界面に凹凸の周期構造が形成されていることから、大部分が当該界面にて反射せずにSiC基板102へ入射する。SiC基板102へ入射した紫外光は、一部が第2SiC層124にて青緑色の光に変換され、残りが第1SiC層122にて黄橙色の光に変換される。これらの光は、SiC基板102から外部へ放出され、太陽光に似た演色性の高い白色光を得ることができる。
【0049】
このように、本実施形態のLEDチップ100によれば、窒化物半導体層をクラックが生じる臨界膜厚よりも薄く形成しつつ、転位密度の低い窒化物半導体層を得ることができる。従って、転位密度を低減して多重量子井戸活性層108における発光効率を良好とし、高効率の白色LEDチップが実現される。また、この種のLEDチップ100の課題である、高電流密度における効率低下を抑制することができる。
【0050】
尚、前記実施形態においては、三角錐状の凹部102cが周期的に形成されたSiC基板102を示したが、例えば図7(a)に示すように、三角錐状の凸部102dが周期的に形成されたSiC基板102であってもよい。図7(b)に示すように、このSiC基板102は、平坦部102eを有しており、窒化物半導体層の横方向成長が助長されるようになっている。図8に示すように、このSiC基板102の成長面102aに窒化物半導体層をエピタキシャル成長させることにより、窒化物半導体層をクラックが生じる臨界膜厚よりも薄く形成しつつ、転位密度の低い窒化物半導体層のLEDチップ100を得ることができる。
【0051】
また、例えば図9(a)に示すように、三角錐台状の凸部102dが周期的に形成されたSiC基板102であってもよい。図9(b)に示すように、このSiC基板102は、凸部102dの台部をなす平坦部102bと、凸部102d間に形成される平坦部102eを有しており、窒化物半導体層の横方向成長が助長されるようになっている。図10に示すように、このSiC基板102の成長面102aに窒化物半導体層をエピタキシャル成長させることにより、窒化物半導体層をクラックが生じる臨界膜厚よりも薄く形成しつつ、転位密度の低い窒化物半導体層のLEDチップ100を得ることができる。
【0052】
さらに、例えば図11(a)に示すように、三角錐台状の凹部102cが周期的に形成されたSiC基板102であってもよい。図11(b)に示すように、このSiC基板102は、凹部102d周囲の平坦部102bと、凹部102dの台部をなす平坦部102eと、を有しており、窒化物半導体層の横方向成長が助長されるようになっている。図12に示すように、このSiC基板102の成長面102aに窒化物半導体層をエピタキシャル成長させることにより、窒化物半導体層をクラックが生じる臨界膜厚よりも薄く形成しつつ、転位密度の低い窒化物半導体層のLEDチップ100を得ることができる。
【0053】
また、前記実施形態においては、凹部102cの周期が300nmであるものを示したが、凹部102cの周期は、窒化物半導体がクラック発生の臨界膜厚である2.5μm以下で任意に設定することができる。そして、凹部102cの周期は、少なくとも1μm以下とすることにより、多重量子井戸活性層108から発せられる光を効率良くSiC基板102へ入射させることが可能となる。
【0054】
また、前記実施形態においては、凹部102cが平面視にて三角格子状に配置されるものを示したが、例えば四角格子状に配置されてもよいし、凹部102cの配置は任意に設定することができる。
【0055】
また、前記実施形態においては、B及びNがドープされた第1SiC層122と、Al及びNがドープされた第2SiC層124を有するSiC基板102を用いたLEDチップ100を示したが、SiC基板102はいずれか一方の層のみであってもよいし、B、Al及びNがドープされた層のみとしてもよい。さらに、多重量子井戸活性層108を青色光、緑色光等の可視領域にて発光するようにし、非蛍光の4H型或いは6H型のn型SiC基板102を用いても良い。さらには、基板としてSi(熱膨張係数:4.2×10−6/℃)、GaAs(熱膨張係数:5.7×10−6/℃)等のように窒化物半導体と熱膨張係数の異なるものを用いることができ、例えば基板としてSiを用いた場合、窒化物半導体層の臨界膜厚は1.5μmとなる。
【0056】
また、例えば、SiC基板102の成長面102aと反対側の面に凹凸の周期構造を形成して、SiC基板102から外部への光取り出し効率の向上を図ってもよい。さらには、凹部102cを三角錐状、四角錐状のような多角錘状としてもよく、具体的な細部構造等について適宜に変更可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】図1は、本発明の一実施形態を示すLEDチップの模式断面図である。
【図2A】図2Aは、SiC基板を示し、(a)が模式斜視図、(b)が模式縦断面図である。
【図2B】図2Bは、三角格子及び正方格子の周期と光取り出し効率の関係を示すグラフである。
【図3】図3は、SiC基板を加工する説明図であり、(a)は成長面にレジスト層が形成された状態を示し、(b)はレジスト層に選択的に電子線を照射する状態を示し、(c)はレジスト層を現像して除去した状態を示し、(d)はマスク層が形成された状態を示している。
【図4】図4は、SiC基板を加工する説明図であり、(a)はレジスト層を完全に除去した状態を示し、(b)はマスク層をマスクとしてSiC基板をエッチングした状態を示し、(c)はマスク層を除去した状態を示している。
【図5】図5は、LEDチップの拡大説明断面図である。
【図6】図6は、窒化物半導体層における転位密度と発光効率の関係を示すグラフである。
【図7】図7は、変形例を示すSiC基板であり、(a)が模式斜視図、(b)が模式縦断面図である。
【図8】図8は、変形例を示すLEDチップの模式断面図である。
【図9】図9は、変形例を示すSiC基板であり、(a)が模式斜視図、(b)が模式縦断面図である。
【図10】図10は、変形例を示すLEDチップの模式断面図である。
【図11】図11は、変形例を示すSiC基板であり、(a)が模式斜視図、(b)が模式縦断面図である。
【図12】図12は、変形例を示すLEDチップの模式断面図である。
【図13】図13は、従来例を示すLEDチップの拡大説明断面図である。
【符号の説明】
【0058】
100 LEDチップ
102 SiC基板
102a 成長面
102b 平坦部
102c 凹部
102d 凸部
102e 平坦部
104 バッファ層
106 n型層
107 転位
108 多重量子井戸活性層
110 電子ブロック層
112 p型クラッド層
114 p型コンタクト層
116 p側電極
118 n側電極
132 レジスト層
134 ステンシルマスク
134a 開口
136 マスク層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の成長面に窒化物半導体層がエピタキシャル成長される発光素子において、
前記基板は、前記窒化物半導体層と熱膨張係数が異なり、
前記基板の前記成長面は、1μm以下の周期で形成された複数の凹部又は凸部を有し、
前記窒化物半導体層は、横方向成長を利用して成長される発光素子。
【請求項2】
前記基板は、BとAlの少なくとも一方とNとがドープされた6H型SiC単結晶蛍光材料からなり、
前記窒化物半導体層は、408nm以下のピーク波長で発光する発光層を有する請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記窒化物半導体層は、厚さが2.5μm以下である請求項2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記基板は、Siからなり、
前記窒化物半導体層は、厚さが1.5μm以下である請求項1に記載の発光素子。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の発光素子を製造するにあたり、
電子線を用いたリソグラフィーを利用して、前記基板の前記成長面上に形成された電子線レジストに、所定周期のドット状のマスクパターンを形成する工程と、
前記電子線レジストの前記マスクパターンを、前記基板の前記成長面上に形成されるハードマスクに転写する工程と、
前記基板の前記成長面上における前記ハードマスク以外の領域をエッチングして、前記基板の前記成長面に周期的な前記各凹部又は前記各凸部を形成する工程と、
前記基板の前記成長面に前記窒化物半導体層をエピタキシャル成長させる工程と、を含む発光素子の製造方法。
【請求項6】
前記所定周期は、1μm以下である請求項5に記載の発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−114159(P2010−114159A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283595(P2008−283595)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人 科学技術振興機構 委託開発採択課題「モスアイ構造製造技術の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(599002043)学校法人 名城大学 (142)
【Fターム(参考)】