説明

発光素子

【課題】高い光取り出し効率を維持すると共に、外光反射率を低減することが可能となる発光素子を提供する。
【解決手段】励起源により発光層を励起して発光させ、該発光層から外部に光を取り出す発光素子であって、
発光層からの光の取り出し側と反対側に裏面層を備え、
裏面層は、発光層側から順に、発光層の有効屈折率よりも小さい有効屈折率を有する誘電体層と、入射する光との相互作用により該入射する光の波長に応じて反射率の大きさを変化させる金属微細構造と、が設けられて構成され、
裏面層は、発光層と誘電体層との界面の全反射条件により求まる臨界角以上の角度で誘電体層に入射した光に対する裏面層の反射率が、
臨界角よりも小さい角度で誘電体層に入射した光に対する裏面層の反射率よりも低い反射率となる構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子に関し、特に、プラズモン共鳴を用いて高い明所コントラストを有した発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、蛍光性物質などを用いた電子放出素子型ディスプレイ・有機ELディスプレイ・LEDディスプレイ、等の発光素子の開発が行われている。
これらにおける電子放出素子型ディスプレイに塔載の発光素子は、電子源から放出させた電子を励起源とし、蛍光体などから成る発光層を励起・発光させ、外部に光を取り出す構成である。
また、有機ELディスプレイ・LEDディスプレイに塔載の発光素子は、励起源として電流を発光層に注入し、発光させ、外部に光を取り出す構成である。
【0003】
これらの発光素子では、発光素子の輝度を高めるため、発光層から発光した光を効率良く外部に取り出す(光取り出し効率を高める)試みがなされている。
この光取り出し効率を高める手法として、特許文献1ではつぎのように構成した有機EL素子が提案されている。
この有機EL素子では、裏面層に金属膜(電極)を設けることで、光取り出し側の反対側(裏面層側)に発光した光を光取り出し側に反射させ、光取り出し効率を高める手法が採られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第02991183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、これらの発光素子を用いたディスプレイでは、明所下の視認性を良くするため、高い明所コントラストを有することが求められている。
この明所コントラストを高めるためには、発光素子の光取り出し効率が高く、かつ、外光反射率が低いことが必要である。
ただし、外光反射率は、蛍光灯や太陽光などの外部から発光素子に入射した光が、発光素子内で反射され、外部に再度放出される光の割合のことを言う。
しかしながら、特許文献1に記載の金属電極を裏面層に設けた構成では、光取り出し効率は向上するが、外光反射に関しては考慮されていない。
このため、特許文献1に記載の発光素子に入射した外光は、裏面層の金属膜の電極で強く反射するため、外光反射率が高く、明所コントラストが低いという課題を有している。
【0006】
本発明は、上記課題を鑑み、高い光取り出し効率を維持すると共に、外光反射率を低減することが可能となる発光素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による発光素子は、
励起源により発光層を励起して発光させ、該発光層から外部に光を取り出す発光素子であって、
前記発光層からの光の取り出し側と反対側に裏面層を備え、
前記裏面層は、前記発光層側から順に、前記発光層の有効屈折率よりも小さい有効屈折率を有する誘電体層と、
前記発光層から放射され前記誘電体層を介して入射する光との相互作用によって、該光の波長に応じて反射率の大きさを変化させる金属微細構造と、が設けられて構成され、
前記発光層と前記誘電体層との界面の全反射条件により求まる臨界角が、次の式(1)で表されるとき、
前記裏面層は、前記臨界角以上の角度で前記誘電体層に入射した光に対する前記裏面層の反射率が、
前記臨界角よりも小さい角度で前記誘電体層に入射した光に対する前記裏面層の反射率よりも低い反射率となる構造を有することを特徴とする。
ただし、ここでの有効屈折率とは、発光層および誘電体層のそれぞれの層内での平均化した屈折率を意味し、
θc:臨界角
N1:発光層の有効屈折率
N2:誘電体層の有効屈折率
である。

【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高い光取り出し効率を維持すると共に、外光反射率を低減することが可能となる発光素子を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態1の電子放出素子型ディスプレイにおける発光素子の構成を説明する断面概略図。
【図2】本発明の実施形態1の発光素子における発光層から裏面層へ入射した光の反射率(裏面層反射率)について説明する図。
【図3】本発明の実施形態1の発光素子における裏面層反射率の入射角依存性について説明する図。
【図4】本発明の実施形態2の電子放出素子型ディスプレイにおける発光素子の構成を説明する断面概略図。
【図5】本発明の実施形態2の発光素子における発光層から発光した光を4つに分類して説明する図。
【図6】本発明の実施形態2の発光素子における発光層から発光した光を4つに分類して説明する図。
【図7】本発明の実施形態3の有機ELディスプレイにおける発光素子の構成を説明する断面概略図。
【図8】本発明の実施形態4のLEDディスプレイにおける発光素子の構成を説明する断面概略図。
【図9】本発明の実施例1の発光素子における金属微細構造の構成例について説明する図。
【図10】本発明の実施例1の発光素子における裏面層反射率について説明する図。
【図11】本発明の実施例1の発光素子における裏面層反射率の状態を示す図。
【図12】本発明の実施例3の発光素子における金属微細構造の構成を説明する図。
【図13】本発明の実施例3の発光素子における発光層から光の取り出し側とは反対側へ放射した光が誘電体層と金属微細構造に入射したときの反射率を示す図。
【図14】本発明の実施例4における各数値実施例の製造プロセスを説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態及び実施例における発光素子について、以下に図を用いて説明する。
なお、本実施形態及び実施例を説明するために用いられる全図において、同一の機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
(実施形態1)
本発明の実施形態1として、電子放出素子型ディスプレイにおける発光素子の構成を、図1を用いて説明する。
本実施形態の発光素子101は、発光層102の光の取り出し側に前面板104を備える。
また、上記発光層102の光の取り出し側とは反対側に裏面層110を備え、この裏面層110は発光層102側から順に誘電体層105、金属微細構造106が設けられて構成されている。
そして、金属微細構造106に外部から電圧を印加することで、電子源107から放出させた励起源の電子108を発光層102へ効率よく導き、該発光層102に照射する。
照射された発光層102は、ディスプレイの各画素に対応した色の光を放射させる。放射した光は前面板104を介して外部に取り出される。
ここで、発光層102中を伝播する光が、一定の角度以上で発光層102と誘電体層105との界面で全反射するように、誘電体層105の有効屈折率を発光層102の有効屈折率より小さく構成する。
このとき、発光層と誘電体層との界面の全反射条件により求まる臨界角を次の式(1)で表すとき、臨界角以上の角度で誘電体層に入射した光が全反射する。
ただし、ここでの有効屈折率とは、発光層および誘電体層のそれぞれの層内での平均化した屈折率を意味し、
θc:臨界角
N1:発光層の有効屈折率
N2:誘電体層の有効屈折率
である。

【0011】
一方、発光層102中を伝播する光の内、臨界角θcより小さい角度で裏面層110に入射した光は、誘電体層105を透過し、金属微細構造106で相互作用をして反射するように構成される。
その際、金属微細構造106は、発光層から放射され前記誘電体層を介して入射する光との相互作用によって、該光の波長に応じて反射率の大きさを変化させる構造とする。
例えば、金属微細構造106は、発光層から放射された発光帯域の中心波長では高反射率、その中心波長以外の少なくとも1つの波長で金属膜より低い反射率を有するように、波長に応じて相互作用によって反射率の大きさを変化させる構成とする。
【0012】
ここで、一例として、発光層102から裏面層110へ入射した光の反射率(裏面層反射率)について、図2を用いて説明する。
図2(a)は発光層102の発光波長における反射率であり、図2(b)は発光帯域の中心波長と異なる波長、さらにより好ましくは、発光帯域と異なる波長における裏面層反射率である。
なお、発光帯域とは、発光層から放射した光の中心波長の強度比が、1/eの二乗より大きい波長領域のことを言う。
また、図2では参考として、裏面層に金属膜を用いた構成の裏面層反射率をそれぞれ破線で示している。
このような構成にすることで、つぎの2つの理由により外光反射率を低下させることができる。
その1つの理由としては、裏面層反射率の入射角依存性を利用することで、他の1つの理由としては、裏面層反射率の低入射角における波長選択性を利用することで、金属膜を用いた構成に比べ外光反射率を低下させることができる。
【0013】
ここで、まず、裏面層反射率の入射角依存性について、図3を用いて説明する。
外光は、図3で示すように、前面板104を介し、最大屈折角度θ1より小さい角度で発光層102中を伝播し、誘電体層105と金属微細構造106から成る裏面層110に入射する。
ただし、最大屈折角度θ1は屈折率が1.0の空気と発光層の有効屈折率N1とのスネルの法則で求まり、つぎの式(2)で表される。

【0014】
このとき、誘電体層105の屈折率は空気の屈折率より大きいため、最大屈折角度θ1は臨界角θcより小さくなる。
よって、発光層102を伝播する外光は、0度から最大屈折角度θ1の範囲の裏面層反射率に応じて裏面層110で反射する。このとき、この裏面層反射率が小さいと、外光が再び光の取り出し側へ反射する割合が小さくなるので、外光反射率は低くなる。
【0015】
次に、裏面層反射率の波長選択性ついて説明する。
外光は、特定の波長(色)だけではなく、複数の波長(色)の光が発光素子へ入射するため、外光反射率は複数波長に対して低いことが重要となる。
本実施形態では、図2(b)で示したように、光取り出し効率に寄与しない発光帯域と異なる波長において、低入射角度領域(0度から最大屈折角度θ1の範囲)の裏面層反射率を、金属膜の反射率より低く構成した。
このため、発光素子101の外光反射率を金属膜を用いた構成に比べ低下させることができる。
また、このような発光波長と異なる波長を、本実施形態では1波長のみを例示したが、複数波長において構成することができる。
光取り出し効率は、次の2つの理由によって高い光取り出し効率が得られる。
まず、立体角が大きく発光の放射量の多い高入射角度領域(臨界角θc以上の角度)で全反射し、裏面層反射率を高く(例えば、100%)なるように構成する。
続いて、臨界角θcより小さい角度で裏面層に入射した光に対しても、金属微細構造106で相互作用させ、発光波長に対して高反射率を有する構成にする。
これらの結果、金属膜を用いた構成と同程度の高い光取り出し効率が得られる。
【0016】
以上により本実施形態では、発光層に対して光の取り出し側とは反対側に誘電体層と金属微細構造を設け、発光層から放射され誘電体層を介して入射する光との相互作用によって、入射角・波長ごとに裏面層反射率を制御する。すなわち、発光帯域以外の低入射角では裏面層反射率を低く、発光帯域の高入射角では裏面層反射率を高くなるように制御する。
こうした構成により、高い光取り出し効率を維持しながら、外光反射率の低い発光素子を得ることができる
金属微細構造106は、誘電体層における光の取り出し側と反対側に、金属構造体を周期的に配して構成することができる。
この場合、金属微細構造と入射光とが相互作用し、入射光がプラズモン共鳴すると高反射率を有し、非共鳴であると低反射率を有する裏面層反射率が得られる。このため、発光帯域の中心波長をプラズモン共鳴が生じ、発光帯域の中心波長と異なる波長では非共鳴となるように金属微細構造を形成すると、所望の裏面層反射率を得ることができる。
また、金属微細構造106は、誘電体層における光の取り出し側と反対側に、金属膜に開口部を周期的に設けて構成することができる。
この場合、金属微細構造と入射光とが相互作用し、入射光がプラズモン共鳴すると低反射率を有し、非共鳴であると高反射率を有する裏面層反射率が得られる。このため、発光帯域の中心波長を非共鳴とし、発光帯域の中心波長と異なる波長ではプラズモン共鳴が生じるように金属微細構造を形成すると、所望の裏面層反射率を得ることができる。
ただし、金属微細構造を周期的に配した構造体の共鳴ではなく、局在的な共鳴を用いてもよい。
このような構成においても、所望の裏面層反射特性を持たせることが可能である。
ただし、構造体が面内で周期的に配置した構成とした方が、大面積においても後述する製造方法などにより、容易に製造できる。
【0017】
金属微細構造は、外部から電圧印加させることで、電極を兼ねた構成とすることができる。
新たに金属膜を電極として用いると、外光反射率が高くなるため、金属微細構造は反射機能と電極を兼ねた構成が望ましい。
誘電体層105の膜厚を、発光層から発光する光の波長を誘電体層の有効屈折率で除した値より大きい膜厚に構成することが望ましい。
発光層から臨界角θc以上で放射した光は、発光層と誘電体層の界面で全反射し、誘電体層中にエバネッセント波が発生する。
このエバネッセント波が金属微細構造と結合すれば、吸収や透過光へと変換されるため、裏面層への放射損失となる。
このため、エバネッセント波と金属微細構造が結合しにくくなるように誘電体層の膜厚は大きいことが望ましい。
【0018】
誘電体層の膜厚を上記の構成にすることで、誘電体層の膜厚がエバネッセント波の侵入長より大きくなるため、全反射する際に発生するエバネッセント波の大部分は金属微細構造と結合しない。
このため、臨界角以上の角度で入射する光は、100%に近い高い反射率を得ることができ、裏面層への放射損失を抑制することができ、高い光取り出し効率を得ることができる。
また、本実施の形態では励起源を電子とした電子励起型の発光素子とした。この場合、特に、発光層の励起効率を悪化させることがなく、高い光取り出し効率を得ることができる。
電子励起型の発光素子では、光取り出し効率を高くするため裏面層側に金属膜を電極として用いると、電子が金属電極で吸収される。このため、発光層の励起効率が悪化し、発光素子の輝度が低下する。
また、金属電極を用いない構成にすると、裏面層側の反射率が低いため、裏面層放射損失が大きくなり、光取り出し効率が低くなる。
一方、金属微細構造106を用いた構成では金属膜より金属の面積が小さく、また、プラズモン共鳴を用いているため、金属微細構造の膜厚を小さくできる。
本実施形態の構成によれば、以上のような金属微細構造を用いることで、励起効率を大幅に悪化させることなく、所望の裏面層反射率を得ることができる。
【0019】
(実施形態2)
実施形態2として、実施形態1と異なる形態の発光素子の構成例について、図4を用いて説明する。
本実施形態の発光素子は、図4に示すように、発光層102と前面板104との間に、屈折率分布回折素子103を備えている。
なお、上記屈折率分布回折素子103を備えている以外の構成は、実施形態1と同じであるから、その繰り返しの説明は省略する。
屈折率分布型回折素子は、発光層、前面板で全反射する光を回折させ、外部に光を取り出す働きをする。
尚、屈折率分布回折素子は、周期的な回折格子、対称性が高い準フォトニック結晶、非周期配列、等の屈折率分布回折素子であればいずれの構成でもよい。
【0020】
つぎに、本実施形態の発光素子における発光層から発光した光を4つに分類した例について、図5、図6を用いて説明する。
発光層102から発光した光は全方位に放射するため、放射方向によって、図5に示すように、4つに分類できる。
第一の光121は、光の取り出し側に、最大屈折角度θ1より小さい角度で放射した成分である(図5(a))。
第二の光122は、光の取り出し側に、最大屈折角度θ1より大きい角度で放射した成分である(図5(b))。
第三の光123は、光の取り出し側とは反対側に、臨界角θcより小さい角度で放射した成分である(図5(c))。
第四の光124は、光の取り出し側とは反対側に、臨界角θcより大きい角度で放射した成分である(図5(d))。
第一の光121は、大部分が前面板104を透過し、外部に光が取り出される(図6(a))。
また、第二の光122は、発光層102、または、前面板104中に閉じ込められ、一部、屈折率分布回折素子103で回折され、外部に光が取り出される(図6(b))。
第三の光123は、図2(a)より、一部反射させ、光の取り出し側へ光線方向を変換し、第一の光121と同様に外部に取り出す(図6(c))。
また、第四の光124は全反射し、光の取り出し側へ光線方向を変換し、第二の光122と同様に外部に取り出される(図6(d))。
【0021】
発光層からの発光は、等方的な放射であるため、立体角の大きな臨界角θc以上の角度で入射した光の放射量が多い。
このため、裏面層への放射損失を低減し、高い光取り出し効率を得るため、発光層から入射角度の大きい領域での反射率を高くし、屈折率分布回折素子を用いて外部に光を効率良く取り出すことができる。
このため、屈折率分布回折素子を用いることで、より高い光の取り出し効率を得ることができる。
また、臨界角θcより小さい角度で入射した光に対しても、金属微細構造106で相互作用させ、発光層から放射した光に対して、波長選択性を利用し、高反射率を有する構成にしたことにより、高い光取り出し効率が得られる。
以上により、本実施形態において、さらに高い光取り出し効率を得ながら、外光反射率を低下させることができる。
【0022】
また、発光層102と誘電体層105との界面における上記臨界角θcを60度より小さい構成とすることが望ましい。
発光層から等方的に放射する光は、60度から90度の角度で全放射量の半分の放射量を有する。
このため、裏面層に放射した光を十分に外部へ取り出すためには、少なくとも60度以上の角度で入射する光を全反射させることで、高い光取り出し効率を得ることができる。
また、臨界角θcと最大屈折角度θ1の差を30度より小さい構成とすることが望ましい。
外光反射率は、0度から最大屈折角度θ1までの裏面層反射率が大きく寄与する。
逆に、θ1から90度までの反射率は外光反射率には寄与しないため、光取り出し効率を考慮すれば、裏面層の反射率は最大屈折角度θ1より大きい角度では高反射率を有することが望ましい。
臨界角θc以上の角度では全反射し、高反射率を有するので、臨界角θcと最大屈折角度θ1が少なくとも30度以内であれば、全反射の領域が広くなり、高い光取り出し効率を得ることができる。
【0023】
(実施形態3)
本発明の実施形態3として、有機ELディスプレイにおける発光素子の構成を、図7を用いて説明する。
本実施形態の発光素子201は、発光層202の光の取り出し側に、該発光層側から順に透明電極207、屈折率分布回折素子203、前面板204を備える。また、上記発光層202の光の取り出し側とは反対側に、該発光層側から順に誘電体層205、金属微細構造206、透明電極217を備える。
透明電極207、217に電位差を与え、励起源である電流を注入することで、発光層202を励起させ、各画素に対応した色の発光を放射させる。
放射した光は、透明電極207を介し、屈折率分布回折素子203で一部の光を回折させ、前面板204を透過し、外部に取り出される。
このとき、誘電体層205と金属微細構造206を用いて、0度から最大屈折角度θ1までの裏面層反射率を、金属膜を電極とした構成より低くし、さらに、波長選択性を持たせた構成とすることで外光反射率を低下させることができる。
また、立体角が大きく発光の放射量の多い高入射角度の領域での裏面層反射率を、全反射させることで高い反射率を有する構成としたことにより高い光取り出し効率を得ることができる。
本実施形態によれば、以上のような構成によって、高い光取り出し効率を維持しながら、外光反射率の低い発光素子を得ることができる。
【0024】
(実施形態4)
本発明の実施形態4として、LEDディスプレイにおける発光素子の構成を、図8を用いて説明する。
本実施形態の発光素子301は、発光層302の光の取り出し側に、屈折率分布回折素子303を備える。
また、上記発光層302の光の取り出し側とは反対側に、該発光層側から順に誘電体層305、金属微細構造306を備える。
また、電極307が発光層302の光の取り出し側に、屈折率分布回折素子303と並んで発光層302の上面の一端側に設けられており、電極317が上記発光層302の光の取り出し側とは反対側に上記電極307と対向させて配置されている。
電極307、317に電位差を与え、励起源である電流を注入することで、発光層302を励起させ、各画素に対応した色の発光を放射させる。発光した光は、屈折率分布回折素子303を介し、外部に光が取り出される。
ただし、本実施形態の構成では、金属微細構造306は電極を兼ねておらず、外部電圧を印加しない。また、発光層302は、活性層を含む複数の層で形成する。
【0025】
このとき、誘電体層305と金属微細構造306を用いて、0度から最大屈折角度θ1までの裏面層反射率を金属膜を電極とした構成より低くし、さらに、波長選択性を持たせた構成とすることで外光反射率を低下させることができる。
また、立体角が大きく発光の放射量の多い高入射角度の領域での裏面層反射率を、全反射させることで高い反射率を有する構成としたことにより高い光取り出し効率を得ることができる。
本実施形態によれば、以上のような構成によって、高い光取り出し効率を維持しながら、外光反射率の低い発光素子を得ることができる。
【実施例】
【0026】
以下に、実施例について説明する。
[実施例1]
実施例1として、実施形態1の数値実施例について説明する。
発光層102は、電子を照射して波長550nmで発光する蛍光体から成り、有効屈折率が1.7となるように形成している。
誘電体層105は、MgF2(屈折率1.38)から成り、膜厚650nmで形成する。金属微細構造106は、図9に示すように、膜厚30nmのアルミニウムから成る金属膜116に一辺が170nmで空気から成る開口部126が周期350nmの周期で正方格子状に配列させた構造体で構成とする。
このとき、入射角に応じた裏面層反射率を図10(a)に、発光波長に応じた裏面層反射率を図10(b)に示す。
波長550nm、波長650nmにおける0度から最大屈折角度θ1(36度)までの平均反射率は、それぞれ70%、39%である。
また、臨界角θc(54度)以上の裏面層反射率は100%である。続いて、発光層102から等方的に放射した光が、光の取り出し側の外部に取り出される割合(光取り出し効率)を算出すると、光取り出し効率は17%であった。
また、発光素子の外光反射率は、発光層102から裏面層反射率が支配的であるため、波長550nm、650nmでそれぞれ、70%、39%程度となる。
ただし、一般的に、ディスプレイの外光反射率は、発光素子を占める割合(開口率)と発光素子の外光反射率との積で求まる。
【0027】
次に、発光層102の光の取り出し側とは反対側にアルミニウムから成る金属膜を形成した構成の光取り出し効率と外光反射率を算出する。
ただし、発光層から裏面層側の反射率は全入射角、波長において90%程度となる(図11)。
このとき、光取り出し効率は19%であるのに対し、外光反射率は波長550nm、650nmにおいて、それぞれ93%、89%となる。
誘電体層と金属微細構造を用いた構成では、金属膜を用いた構成と比べ、光取り出し効率の低下に比べ、外光反射率(波長550、650nm)を大幅に低下させることができる。
特に、発光層の発光帯域外の波長(650nm)での外光反射率を大幅に低下させることができる。
【0028】
このとき、光取り出し効率が一定となるように開口率を調整すると、外光反射率は波長550nm、650nmにおいてそれぞれ0.84倍、0.49倍低くなる。
また、金属膜や金属微細構造を設けず誘電体層105のみの構成とすると、光取り出し効率は10%となる。
このため、光取り出し効率が低下し、発光素子の輝度が小さくなる。
以上のように、本実施例の誘電体層と金属微細構造を設けた構成にすることで、高い光取り出し効率を維持しながら、外光反射率の低い発光素子を得ることができる。
【0029】
[実施例2]
実施例2として、実施形態2の数値実施例について説明する。
屈折率分布回折素子103は、膜厚1200nmのSiO2(屈折率1.46)から成るシリカ層に直径1200nmのTiO2(屈折率2.0)から成るチタニア部が周期1700nmの周期で三角格子状に配列した回折格子とする。
このとき、光取り出し効率は47%、波長550nm、650nmの外光反射率がそれぞれ70%、39%となる。
一方、Alの金属膜とした構成では、光取り出し効率は41%、波長550nm、650nmの外光反射率がそれぞれ93%、89%となる。
このような実施形態2の数値実施例の構成によれば、立体角の大きな臨界角θc以上の裏面層反射率が金属膜より高いため、光取り出し効率が金属膜を用いた構成より高くなる。
以上のように、本実施例の誘電体層と金属微細構造を設けた構成にすることで、光取り出し効率を高く、外光反射率の低い発光素子を得ることができる。
【0030】
[実施例3]
実施例3として、実施形態3の数値実施例について説明する。
発光層202は、屈折率2.0の有機材料で形成され、波長550nmで発光する。
また、光の取り出し側とは反対側から順に、誘電体層205、金属微細構造206で構成する。
誘電体層205は、SiO2(屈折率1.46)から成り、膜厚450nmで形成する。
また、金属微細構造206は、図12で示すように、膜厚が90nmのSiO2で形成された膜216に一辺が90nmの銀から成る開口部226を周期320nmの2次元正方格子状に配した構造体で構成する。
このとき、発光層202から光の取り出し側とは反対側へ放射した光が誘電体層205と金属微細構造206に入射したときの反射率を図13(a)に示す。このとき、光取り出し効率は45%となる。また、波長450nm、550nm、650nmにおける外光反射率は、それぞれ8.4%、64%、14%となる。 また、銀を電極にした構成の場合、裏面層の反射率は図13(b)で示すようになり、光取り出し効率は51%、外光反射率は波長450nm、550nm、650nmでそれぞれ98%となる。
光取り出し効率の低下に比べ、外光反射率を低下させ、特に、発光層の発光帯域外の波長での外光反射率を大幅に低下させることができる。
以上のように、本実施例の誘電体と金属微細構造を設けた構成にすることで、高い光取り出し効率を維持しながら、外光反射率の低い発光素子を得ることができる。
なお、本実施例の構成では、SiO2を膜、金属である銀を開口部として形成したが、銀などの金属を膜とした金属膜に、SiO2などの非金属の開口部を用いた構成にしても良い。
【0031】
[実施例4]
実施例4として、実施例1、実施例2、実施例3の製造プロセスを、図14を用いて説明する。
基板404に屈折率分布回折素子403を形成するため、屈折率分布回折素子を形成する材料1を積層する(図14(a))。
続いて、レジスト膜を蒸着またはスパッタし、所定位置を感光してレジストマスク10を形成する(図14(b))。
その後、RIEなどのエッチング手法により、材料1を所定の深さまでエッチングし、アッシング等によりレジストマスク10を除去する(図14(c))。
次に、材料1に形成した空孔に、材料2を埋めこみ、屈折率分布回折素子403を形成する(図14(d))。また、必要に応じてITOなどの電極を蒸着またはスパッタにより形成する。
その後、発光層402を形成し、誘電体層405を形成する(図14(e))。
【0032】
次に、金属微細構造406を形成するため、金属3を蒸着またはスパッタする(図14(f))。
続いて、レジストマスクの成膜、所定位置の感光、エッチング、アッシング等を行い、金属微細構造406を形成する(図14(g))。その後、必要に応じて、誘電体、電極などを積層する。
ただし、本実施例では、基板404側が光取り出しとしたボトム・エミッション型の発光素子の説明を行った。
しかし、本実施例はボトム・エミッション型の発光素子に限るものではなく、同様の製造法により、トップ・エミッション型の発光素子を製造することができる。
【符号の説明】
【0033】
101:発光素子
102:発光層
103:屈折率分布回折素子
104:前面板
105:誘電体層
106:金属微細構造
107:電子源
108:電子
110:裏面層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起源により発光層を励起して発光させ、該発光層から外部に光を取り出す発光素子であって、
前記発光層からの光の取り出し側と反対側に裏面層を備え、
前記裏面層は、前記発光層側から順に、前記発光層の有効屈折率よりも小さい有効屈折率を有する誘電体層と、
前記発光層から放射され前記誘電体層を介して入射する光との相互作用によって、該光の波長に応じて反射率の大きさを変化させる金属微細構造と、が設けられて構成され、
前記発光層と前記誘電体層との界面の全反射条件により求まる臨界角が、次の式(1)で表されるとき、
前記裏面層は、前記臨界角以上の角度で前記誘電体層に入射した光に対する前記裏面層の反射率が、
前記臨界角よりも小さい角度で前記誘電体層に入射した光に対する前記裏面層の反射率よりも低い反射率となる構造を有することを特徴とする発光素子。

ただし、ここでの有効屈折率とは、発光層および誘電体層のそれぞれの層内での平均化した屈折率を意味し、
θc:臨界角
N1:発光層の有効屈折率
N2:誘電体層の有効屈折率
である。
【請求項2】
前記誘電体層は、前記発光層よりも小さい有効屈折率を有することにより、前記臨界角以上の角度で該誘電体層に入射した光を全反射させ、該臨界角よりも小さい角度で該誘電体層に入射した光を透過させる構成を備え、
前記金属微細構造は、前記臨界角よりも小さい角度で前記誘電体層に入射し該誘電体層を透過する光と前記相互作用をすることを特徴とする請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記金属微細構造での前記相互作用による反射率は、前記誘電体層を透過する前記発光層で放射された光における発光帯域の中心波長の光に対して高反射率であり、
前記中心波長と異なる波長の光に対して該中心波長の光よりも低反射率であることを特徴とする請求項2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記発光帯域の中心波長の光に対する反射率が、該発光帯域以外の波長の光に対する反射率よりも高いことを特徴とする請求項3に記載の発光素子。
【請求項5】
前記金属微細構造は、前記誘電体層における光の取り出し側と反対側に、金属構造体を周期的に配して構成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項6】
前記金属微細構造は、前記誘電体層における光の取り出し側と反対側に、金属膜に開口部を周期的に設けて構成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項7】
前記金属微細構造は、外部電圧が印加される電極を兼ねて構成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項8】
前記誘電体層の膜厚は、前記発光層から発光する光の波長を該誘電体層の有効屈折率で除した値より大きい膜厚とされていることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項9】
前記発光層の光取り出し側に屈折率分布回折素子を備えていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項10】
前記臨界角が、60度より小さい構成とされていることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項11】
前記臨界角と、次の式(2)で表される最大屈折角度θ1との差が、30度より小さい構成とされていることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の発光素子。

【請求項12】
前記励起源は電子を放出する励起源によって構成され、該励起源から放出される電子が前記光の取り出し側と反対側から前記発光層に照射されることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項13】
前記励起源は電流を注入する励起源によって構成され、前記発光層が有機材料によって形成されていることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−38542(P2012−38542A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177080(P2010−177080)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】