説明

発光装置および照明装置

【課題】 発光効率を向上できる発光装置および照明装置を提供する。
【解決手段】 波長が370〜420nmの光を発する発光素子17と、該発光素子17が載置された基板15と、発光素子17が発光する光を波長変換する波長変換器19とを具備してなる発光装置であって、波長変換器19が、発光素子17側から、透明マトリクス中に緑色発光蛍光体が分散した緑蛍光体層19aと、透明マトリクス中に青色発光蛍光体が分散した青蛍光体層19bと、透明マトリクス中に赤色発光蛍光体が分散した赤蛍光体層19cとを順次積層してなるとともに、緑蛍光体層19a中の緑色発光蛍光体の平均粒径が30μm以上であり、該緑蛍光体層19a中の緑色発光蛍光体の平均粒径が、青蛍光体層19b中の青色発光蛍光体の平均粒径よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)などの光源から発せられる光の波長を変換して、波長が変換された光を含む出力光を出力する波長変換器を搭載した発光装置、ならびに該発光装置を複数具備した照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体材料からなる発光素子(以下「LEDチップ」とも言う)は、小型で電力効率が良く鮮やかに発色する。LEDチップは、製品寿命が長い、オン・オフ点灯の繰り返しに強い、消費電力が低い、という優れた特徴を有するため、液晶等のバックライト光源および蛍光ランプ等の照明用光源への応用が期待されている。
【0003】
LEDチップは、LEDチップの光の一部を蛍光体で波長変換し、当該波長変換された光と波長変換されないLEDの光とを混合して放出することにより、LEDの光とは異なる色を発光する発光装置に応用されている。
【0004】
このような発光装置としては、例えば、青色LEDチップ上に(Y,Gd)(Al,Ga)12の組成式で表されるYAG系蛍光体等の黄色に発光する蛍光体を配置したものが知られている。
【0005】
この発光装置では、LEDチップから発する光が黄色成分の蛍光体に照射されると、黄色に発光する蛍光体は励起されて可視光を発し、この可視光が出力として利用される。ところが、LEDチップの明るさを変えると、青色と黄色との光量比が変化するため、白色の色調が変化し、演色性に劣るといった課題があった。
【0006】
そこで、このような課題を解決するために、LEDチップとして400nm以下のピークを有する紫色LEDチップを用いるとともに、波長変換器には3種類の蛍光体を高分子樹脂中に混ぜ込んだ構造を採用し、紫色光を赤色、緑色、青色の各波長に変換して白色を発光することが提案されている(特許文献1参照)。これにより、演色性を向上することができる。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の発光装置では、励起光400nm付近の紫外域領域に対する赤色に発光する蛍光体の量子効率が低いため、白色光の発光効率を向上できないという問題があった。
【0008】
このような状況を鑑み、赤色に発光する蛍光体の開発が行われてきており、従来、Ba3−x−yEuMnMgSiの化学式で表される赤色に発光する珪酸塩系蛍光体が知られている(例えば、非特許文献1)。
【0009】
また、400nm以下にピーク波長を有するLEDチップと組み合わせて用いることができる黄色乃至緑色(以下、黄緑色という)に発光する蛍光体として、Euを含む蛍光体の開発が行なわれている(特許文献2参照)。
【0010】
この特許文献2には、Sr2−x−yBaEuSiO4で表される蛍光体が開示されており、Si 1モルに対するSrのモル比と、Baのモル比と、Euのモル比の合計(Sr+Ba+Eu)/Siが2の蛍光体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−314142号公報
【特許文献2】特開2004−115633号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・エレクトロケミカル・ソサイエティ(Journal of Electrochemical Society)、1968年、P773-778
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1に記載された波長変換器の赤色に発光する蛍光体として、非特許文献1に記載されたBa3−x−yEuMnMgSiの化学式で表されるアルカリ土類金属珪酸塩系蛍光体と、緑色に発光する蛍光体として、特許文献2に記載されたSr2−x−yBaEuSiO4の化学式で表されるアルカリ土類金属珪酸塩系蛍光体と、青色に発光する蛍光体とを、高分子樹脂中に一緒に混合して波長変換器を作製したとしても、未だ発光装置の発光効率が低いという問題があった。
【0014】
本発明は、発光効率を向上できる発光装置および照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の発光装置は、波長が370〜420nmの光を発する発光素子と、該発光素子が載置された基体と、前記発光素子が発光する光を波長変換する波長変換器とを具備してなる発光装置であって、前記波長変換器が、前記発光素子側から、透明マトリクス中に緑色に発光する蛍光体が分散した緑蛍光体層、透明マトリクス中に青色に発光する蛍光体が分散した青蛍光体層および透明マトリクス中に赤色に発光する蛍光体が分散した赤蛍光体層を順次積層してなるとともに、前記緑蛍光体層中の緑色に発光する蛍光体の平均粒径が30μm以上であり、前記緑蛍光体層中の緑色に発光する蛍光体の平均粒径が、前記青蛍光体層中の青色に発光する蛍光体の平均粒径よりも大きいことを特徴とする。
【0016】
本発明の発光装置では、緑蛍光体層中の平均粒径30μm以上の粒径が大きな緑色に発光する蛍光体(以下、緑色発光蛍光体ということがある)に発光素子からの波長が370〜420nmの光(以下、紫色の光ということがある)が十分に当たり、この発光素子からの光を緑色発光蛍光体が十分に吸収し、緑色発光蛍光体から緑色が十分に発光するとともに、緑色発光蛍光体間を通過した紫色の光が青蛍光体層中の青色に発光する蛍光体(以下、青色発光蛍光体ということがある)に当たって青色に発光し、さらに、緑蛍光体層中の緑色発光蛍光体間および青蛍光体層中の青色発光蛍光体間を通過した紫色の光が、赤蛍光体層中の赤色に発光する蛍光体(以下、赤色発光蛍光体ということがある)に当たり、赤色発光蛍光体で吸収して赤色が発光し、波長変換器から外部に放出される紫色の光が抑制され、白色光の発光効率を向上できる。
【0017】
また、本発明の発光装置は、前記赤蛍光体層中の赤色に発光する蛍光体の平均粒径が20μm以上であり、該赤蛍光体層中の赤色に発光する蛍光体の平均粒径が、前記青蛍光体層中の青色に発光する蛍光体の平均粒径よりも大きいことを特徴とする。
【0018】
このような発光装置では、平均粒径が30μm以上の緑色発光蛍光体間を通過した紫色の光が、微粒の青色発光蛍光体に当たって青に発光し、この微粒の青色発光蛍光体間を通過した紫色の光が、平均粒径20μm以上の粒径が大きな(量子効率が高い)赤色発光蛍光体に当たり、赤色発光蛍光体から赤色を十分に発光でき、白色光の発光効率を向上できる。
【0019】
また、本発明の発光装置は、前記赤色に発光する蛍光体および前記緑色に発光する蛍光体がアルカリ土類金属珪酸塩からなり、前記青色に発光する蛍光体がハロりん酸塩からなることを特徴とする。
【0020】
本発明の照明装置は、上記の発光装置を複数具備してなることを特徴とする。このような照明装置では、上記発光装置を複数具備してなるため、演色性を向上できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の発光装置では、緑蛍光体層中の平均粒径30μm以上の粒径が大きな緑色発光蛍光体に発光素子からの波長が370〜420nmの光が十分に当たり、この発光素子からの光を緑色発光蛍光体が十分に吸収し、緑色発光蛍光体から緑色が十分に発光するとともに、緑色発光蛍光体間を通過した紫色の光が青蛍光体層中の青色発光蛍光体に当たって青色に発光し、さらに、緑蛍光体層中の緑色発光蛍光体間および青蛍光体層中の青色発光蛍光体間を通過した紫色の光が、赤蛍光体層中の赤色発光蛍光体に当たり、赤色発光蛍光体で吸収して赤色が発光し、波長変換器から外部に放出される紫色の光が抑制され、白色光の発光効率を向上できる。
【0022】
本発明の照明装置は、白色光の発光効率が高い発光装置を複数具備するため、演色性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】発光装置の構造を示す概略断面図である。
【図2】蛍光体の平均粒径、層構成を変化させた場合の蛍光スペクトルの結果を示すグラフである。
【図3】蛍光体の平均粒径、層構成を変化させた場合の蛍光スペクトルの結果を示すグラフである。
【図4】波長変換器の層構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の発光装置を図面を用いて説明する。図1は、本発明の発光装置11の一実施形態を示す概略断面図である。図1によれば、本発明の発光装置11は、下面に電極13が形成された基板(基体)15と、基板15上に設けられている発光素子17と、基板15上に発光素子17を覆うように形成された波長変換器19と、光を反射する反射部材21とを備えている。尚、符号22はワイヤ、符号16は接着剤、符号25は樹脂層である。
【0025】
本発明では、波長変換器19は、透明マトリクス中に緑色に発光する蛍光体(緑色発光蛍光体)が分散した緑蛍光体層19aと、透明マトリクス中に青色に発光する蛍光体(青色発光蛍光体)が分散した青蛍光体層19bと、透明マトリクス中に赤色に発光する蛍光体(赤色発光蛍光体)が分散した赤蛍光体層19cとを順次積層して構成されている。波長変換器19は、発光素子17側から、緑蛍光体層19a、青蛍光体層19b、赤蛍光体層19cとされている。
【0026】
また、本発明では、緑蛍光体層19a中の緑色発光蛍光体の平均粒径は30μm以上とされ、緑蛍光体層19a中の緑色発光蛍光体は、青蛍光体層19b中の青色発光蛍光体の平均粒径よりも大きくされている。
【0027】
また、赤蛍光体層19c中の赤色発光蛍光体の平均粒径が20μm以上であることが望ましい。
【0028】
青色発光蛍光体は、波長が430nmから490nmの蛍光(青色)を発する蛍光体(図示せず)であり、緑色発光蛍光体は波長が520nmから570nmの蛍光(緑色)を発する蛍光体(図示せず)であり、赤色発光蛍光体は、波長が600nmから650nmの蛍光(赤色)を発する蛍光体(図示せず)である。
【0029】
青色発光蛍光体は、例えば、波長が400nm前後の光で励起される量子効率が高い材料からなる。一方、緑色発光蛍光体は、例えば、波長が400nmから460nmまでの光で励起される材料からなる。また、赤色発光蛍光体は、例えば、波長が400nmから460nmだけでなく、550nm付近の光でも励起される材料からなる。
【0030】
波長変換器19を構成する各層19a、19b、19cは、蛍光体を均一に分散および担持し、かつ蛍光体の光劣化を抑制することができるため、高分子樹脂やガラス材料などの透明マトリクス中に蛍光体を分散して形成されている。高分子樹脂膜、ゾルゲルガラス薄膜などのガラス材料としては、透明性が高く、かつ加熱や光によって容易に変色しない耐久性を有するものが望ましい。
【0031】
高分子樹脂膜としては、材料は特に限定されるものではなく、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、酢酸セルロース、ポリアリレート、さらにこれら材料の誘導体が用いられる。特に、350nm以上の波長域において高い光透過性を有していることが好ましい。このような透明性に加え、耐熱性の観点から、シリコーン樹脂がより好適に用いられる。
【0032】
ガラス材料としては、シリカ、チタニア、ジルコニア、さらにそれらのコンポジット系を例示できる。高分子樹脂膜と比較して、光、特に紫外線に対する耐久性が高く、さらに熱に対する耐久性が高いことから、製品の長寿命化を実現できる。また、ガラス材料は、安定性を向上させることができることから、信頼性の高い発光装置を実現できる。
【0033】
波長変換器19は、ゾルゲルガラス膜などのガラス材料または高分子樹脂膜を用いて、塗布法により形成することができる。一般的な塗布法であれば限定されないが、ディスペンサーによる塗布が好ましい。例えば、液状で未硬化の樹脂、ガラス材料、または溶剤で可塑性を持たせた樹脂およびガラス材料に、蛍光体を混合することにより製造することができる。未硬化の樹脂としては、例えばシリコーン樹脂が使用できる。これらの樹脂は2液を混合して硬化させるタイプのものであっても1液で硬化するタイプのものであっても良く、2液を混合して硬化させるタイプの場合、両液にそれぞれ蛍光体を混練してもよく、あるいはどちらか一方の液に蛍光体を混練しても構わない。また、溶剤で可塑性を持たせた樹脂としては例えばアクリル樹脂を使用することができる。
【0034】
波長変換器19を構成する各層19a、19b、19cは、未硬化状態でディスペンサー等の塗布法を使用するなどして、フィルム状に成形したり、所定の型に流し込んで固めたりすることで得られる。樹脂およびガラス材料を硬化させる方法としては、熱エネルギーや光エネルギーを使う方法がある他、溶剤を揮発させる方法がある。このような方法で作製した緑蛍光体層19a、青蛍光体層19b、赤蛍光体層19cをこの順序で積層することにより、波長変換器19を作製することができる。尚、作製した波長変換器19を、発光素子17側から、緑蛍光体層19a、青蛍光体層19b、赤蛍光体層19cとなるように、樹脂層25上に積層することにより、発光装置を構成することができる。
【0035】
電極13を形成する導体は、発光素子17を電気的に接続するための導電路としての機能を有し、基体15の下面から上面に引き出され、ワイヤ22にて発光素子17と電気的に接続されている。導体としては、例えば、W、Mo、CuまたはAg等の金属粉末を含むメタライズ層を用いることができる。導体は、基板15がセラミックスからなる場合、その上面に配線導体がタングステン(W)またはモリブデン(Mo)−マンガン(Mn)等から成る金属ペーストを高温で熱処理して形成され、基板15が樹脂から成る場合、銅(Cu)または鉄(Fe)−ニッケル(Ni)合金等から成るリード端子がモールド成型されて基板15の内部に設置固定される。
【0036】
基板15は熱伝導性が高く、かつ全反射率の大きいことが求められるため、例えばアルミナ、窒化アルミニウム等のセラミック材料の他に、金属酸化物微粒子を分散させた高分子樹脂が好適に用いられる。
【0037】
発光素子17は、蛍光体の励起を効率的に行なうことができるため、中心波長が370〜420nmの光(紫色の光)を発する半導体材料を備えた発光素子を用いている。これにより、出力光の強度を高め、より発光効率の高い発光装置を得ることが可能となる。
【0038】
発光素子17は、上記中心波長を発するものが好ましいが、発光素子基板表面に、半導体材料からなる発光層を備える構造(図示せず)を有していることが、高い量子効率を有する点で好ましい。このような半導体材料として、ZnSeまたは窒化物半導体(GaN等)等種々の半導体を挙げることができるが、発光波長が上記波長範囲であれば、特に半導体材料の種類は限定されない。これらの半導体材料を有機金属気相成長法(MOCVD法)や分子線エピタシャル成長法等の結晶成長法により、発光素子基板上に半導体材料からなる発光層を有する積層構造を形成すれば良い。発光素子基板は、結晶性の良い窒化物半導体を量産性よく形成させるために、例えば窒化物半導体からなる発光層を表面に形成する場合、サファイア、スピネル、SiC、Si、ZnO、ZrB、GaNまたは石英等の材料が好適に用いられる。
【0039】
発光素子17と波長変換器19の側面には、必要に応じて、光を反射する反射部材21を設け、側面に逃げる光を前方に反射し、出力光の強度を高めることができる。反射部材21の材料としては、例えばアルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、銀(Ag)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、銅(Cu)、金(Au)、鉄(Fe)またはこれらの積層構造物や合金、さらにアルミナセラミックス等のセラミックス、またはエポキシ樹脂等の樹脂を用いることができる。
【0040】
本実施形態の発光装置は、図1に示すように、波長変換器19を発光素子17上に設置することにより得られる。波長変換器19を発光素子17上に設置する方法としては硬化したシート状の波長変換器19を発光素子17上に設置することが可能である。
【0041】
本発明の照明装置は、図1に示すような発光装置を、例えば、基板に複数配置し、これらの発光装置を電気的に接続して構成される。また、基板15の表面に複数の発光素子17、波長変換器19、反射部材21を形成し、複数の発光装置を形成し、これらの発光装置を電気的に接続して照明装置を形成しても良い。
(赤色発光蛍光体の説明)
赤色発光蛍光体は、平均粒径D50が20〜45μmの蛍光体からなるもので、平均粒径は、レーザー回折散乱法により測定することができる。また、赤色発光蛍光体の量子効率は35〜45%とされている。
【0042】
赤色発光蛍光体は、アルカリ土類金属珪酸塩からなるもので、例えば、M(MはBa、またはBaとSr、あるいはBaとCa)、Eu、Mg、MnおよびSiを必須成分として含有する蛍光体である。そして、Si 1モルに対するEuのモル比が0.14以下であり、Si 1モルに対するMnのモル比が0.07以下のものである。
【0043】
赤色発光蛍光体は、例えば、M3−aEuMg1−bMnSiの化学組成(但し、aは0<a≦0.264、bは0<b≦0.132、cは1.905≦c≦2.025を満足する値である)を有する。この化学組成で表される蛍光体は、化学量論組成に近く、励起光を赤色に変換することのできる結晶が再現よく形成されるとともに、結晶相の制御を容易に行うことができ、さらに赤色以外の変換光の発生を抑制することができる。
【0044】
Euのモル比aは、M3−aEuMg1−bMnSi中で0<a≦0.264を満たせばよい。しかし、発光中心イオンEu2+のモル比aが小さすぎると、量子効率が小さくなる傾向がある。一方、多すぎても、濃度消光と呼ばれる現象によりやはり量子効率が小さくなる傾向がある。下限としては0.06≦aが好ましい。特には、aは、0.1≦a≦0.2の範囲にあることが望ましい。
【0045】
Mnのモル比は0<b≦0.132を満たせばよい。しかし蛍光体は励起光源の照射を受けて励起したEu2+のエネルギーがMn2+に移動し、Mn2+が赤発光しているものと考えられているため、Mnの組成によりエネルギー移動の程度が異なる。それゆえ高い赤色の量子効率を得るには、0.01≦b≦0.1であることが好ましい。さらに、bは、0.075≦b≦0.1を満足することが望ましい。
【0046】
また、cは、1.905≦c≦2.025を満足すればよい。
【0047】
尚、赤色発光蛍光体は、M3−x−yEuMgMnSiの化学組成(但し、xは0<x≦0.2、yは0<y≦0.1、zは1.905≦z≦2.025を満足する値である)で表される場合もある。
(緑色発光蛍光体の説明)
本発明の緑色発光蛍光体は、平均粒径D50が15〜45μmの蛍光体からなるもので、平均粒径は、レーザー回折散乱法により測定することができる。また、緑色発光蛍光体の量子効率は40〜50%とされている。
【0048】
本発明の緑色発光蛍光体は、アルカリ土類金属珪酸塩からなるもので、例えば、M(MはSr、BaおよびCaから選ばれる少なくとも1種)、EuおよびSiを含有する蛍光体である。この緑色発光蛍光体は(M,Eu)SiO4で表される結晶を主結晶とし、緑色発光蛍光体のX線吸収端近傍構造スペクトル(X-ray Absorption Near Edge Structure:XANES)による2価のEuイオンおよび3価のEuイオンの合量に対する2価のEuイオンの濃度が90%以上である。
【0049】
さらに、蛍光体は、Si 1モルに対するMのモル比と、Si 1モルに対するEuのモル比の合計((M+Eu)/Si)が2未満である。
【0050】
すなわち、特許文献2のSr2−x−yBaEuSiOで表される蛍光体においては、Si 1モルに対するSr、Ba、Euのモル比の合計(単にモル比の合計ということもある)(Sr+Ba+Eu)/Siが2であるが、2価のEuイオンおよび3価のEuイオンの合量に対する2価のEuイオンの濃度が90%以上、すなわち、Eu2+/(Eu2++Eu3+)≧0.9の領域においては、このモル比の合計(Sr+Ba+Eu)/Siを2よりも小さくし、さらには1.94以下とすることで、特許文献2に開示されている、モル比の合計(Sr+Ba+Eu)/Si=2の蛍光体よりも優れた発光効率を実現することができる。
【0051】
ここで言うモル比の合計(Sr+Ba+Eu)/Siの値は蛍光体中のSr2−x−yBaEuSiO結晶の構成元素組成から求められる値ではなく、緑色発光蛍光体全体の構成元素組成から求められる値を指す。
【0052】
蛍光を発する理想的な(M,Eu)SiO4結晶、例えば、Sr2−x−yBaEuSiO結晶では、化学量論比がモル比の合計(Sr+Ba+Eu)/Si=2となるため、蛍光体の組成もモル比の合計(Sr+Ba+Eu)/Si=2とすることが望ましいように思われるが、理由については現在のところ不明であるが、むしろモル比の合計(Sr+Ba+Eu)/Si=2ではなく、蛍光体のモル比の合計(Sr+Ba+Eu)/Siの値を化学量論比からはずれたモル比の合計(Sr+Ba+Eu)/Si<2、特には1.94以下、さらには1.78〜1.94の範囲とすることで量子効率の高い蛍光体が得られる。特には、1.89〜1.91であることが望ましい。
【0053】
また、xの値は0〜1の範囲で任意に選ぶことが可能であり、x=0の場合黄色、x=1の場合緑色の蛍光体とすることができ、黄色乃至緑色(以下、黄緑色ということもある)を発することができる。ここで、x≦1とすることにより、耐水性を向上できる。
(青色発光蛍光体の説明)
本発明の青色発光蛍光体は、平均粒径D50が2〜10μmの蛍光体からなるもので、平均粒径は、レーザー回折散乱法により測定することができる。また、青色発光蛍光体の量子効率は35〜45%とされている。
【0054】
青色発光蛍光体は、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO46Cl2:Eu、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO46Cl17:Eu、Sr10(PO46Cl12:Eu、10(Sr,Ca,Ba,Eu)・6PO4・Cl2、(Sr,Ca,Ba,Mg)5(PO43(Cl,Br):Eu、等が用いられる。なお、青色蛍光体は、〔(M,Mg)10(PO46Cl2:Eu、〕(MはCa,SrおよびBaから選択される少なくとも1種)で表されるハロりん酸塩からなるものが好適に用いられる。
【0055】
このような発光装置では、光源である発光素子17から発せられる紫色の光の一部の波長を各蛍光体で他の波長に変換して、波長が変換された光を含む出力光を出力し、ある波長を有する発光素子17の光を他の波長を有する光に変換して、発光する。
【0056】
そして、本発明の発光装置では、発光素子17からの紫色の光が緑蛍光体層19a中の平均粒径が30μm以上の粒径が大きな緑色発光蛍光体に十分に当たり、発光素子17からの光を緑色発光蛍光体が十分に吸収し、緑色発光蛍光体から緑色が十分に発光するとともに、緑蛍光体層19a中の緑色発光蛍光体間を通過した紫色の光が青蛍光体層19b中の青色発光蛍光体に当たって青色に発光し、さらに、緑蛍光体層19a中の緑色発光蛍光体間および青蛍光体層19b中の青色発光蛍光体間を通過した紫色の光が、赤蛍光体層19c中の赤色発光蛍光体に当たり、赤色発光蛍光体で十分に吸収され赤色が発光し、波長変換器19から外部に放出される紫色の光が抑制され、白色光の発光効率を向上できる。
【0057】
特に、赤色発光蛍光体を平均粒径20μm以上とし、赤色発光蛍光体の平均粒径を青色発光蛍光体の平均粒径よりも大きくすることにより、平均粒径が30μm以上の緑色発光蛍光体間を通過した紫色の光が、微粒の青色発光蛍光体に当たって青に発光し、この微粒の青色発光蛍光体間を通過した紫色の光が、平均粒径20μm以上の粒径が大きな(量子効率が高い)赤色発光蛍光体に当たり、赤色発光蛍光体から赤色を十分に発光でき、白色光の発光効率を向上できる。
【実施例】
【0058】
先ず、図1の発光装置11を作製した。基板(基体)15としてアルミナ基板を用い、基板15上に設けられている発光素子17としてサファイア基板に窒化物半導体をエピ形成した発光素子を用い、反射部材21としてアルミニウム(Al)を用いた。
【0059】
先ず、波長変換器を作製した。この波長変換器は、発光素子側から、透明マトリクス中に緑色発光蛍光体が分散した緑色蛍光体層、透明マトリクス中に青色発光蛍光体が分散した青色蛍光体層、および透明マトリクス中に赤色発光蛍光体が分散した赤色蛍光体層を順次積層して構成した。
【0060】
赤色蛍光体層は、透明マトリクスを構成する材料(東芝シリコーン樹脂:信越化学CY52−205)1g中に、0.339g、平均粒径40μmの赤色発光蛍光体を添加し、攪拌脱泡器で混合して蛍光体ペーストを作製した。赤色発光蛍光体としては、M3−aEuMg1−bMnSiの化学組成(a=0.2、b=0.075、c=1.905)で表されるものを用いた。
【0061】
緑色蛍光体層は、透明マトリクスを構成する材料(シリコーン樹脂:信越化学CY52−205)1g中に、0.301g、平均粒径40μmの緑色発光蛍光体を添加し、攪拌脱泡器で混合して蛍光体ペーストを作製した。緑色発光蛍光体としては、Sr2−x−yBaEuSiO結晶の化学組成(x=0.536、y=0.05、(Sr+Ba+Eu)/Si=1.90)で表されるものを用いた。
【0062】
青色蛍光体層は、透明マトリクスを構成する材料(シリコーン樹脂:信越化学CY52−205)1g中に、0.278g、平均粒径3μmの青色発光蛍光体を添加し、攪拌脱泡器で混合して蛍光体ペーストを作製した。青色発光蛍光体としては、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO46Cl2:Euで表されるものを用いた。尚、各蛍光体の平均粒径は、作製した蛍光体粉末をメッシュパスするメッシュ径により制御した。
【0063】
先ず、緑色蛍光体層を形成する蛍光体ペーストをガラス板に塗布し、150℃で2分間加熱し、シリコーン樹脂を固化させ、厚み0.06mmの緑色蛍光体層を形成した。さらに、固化した緑色蛍光体層の上に青色蛍光体層を形成する蛍光体ペーストを塗布し、150℃で2分間加熱し、シリコーン樹脂を固化させ、厚み0.53mmの青色蛍光体層を形成した。さらに、固化した青色蛍光体層の上に赤色蛍光体層を形成する蛍光体ペーストを塗布し、150℃で2分間加熱し、シリコーン樹脂を固化させ、厚み0.18mmの赤色蛍光体層を形成し、波長変換器を作製した。
【0064】
この波長変換器を、図1のように、発光素子17を被覆する樹脂層25上に配置し、発光装置を作製した。
【0065】
得られた発光装置を蛍光分光光度計(島津社製)で測定し、図2(a)に蛍光スペクトル結果を記載した。比較例として、赤色発光蛍光体、緑色発光蛍光体、青色発光蛍光体の平均粒径を、表1に示すように変更して波長変換器を作製する以外は、上記と同様にして波長変換器を作製し、発光装置を作製し、評価した。また、実施例、比較例では、波長変換器の厚みは同じであり、使用する各蛍光体量も同一とした。これらの結果を図2(b)(c)、図3(d)、(e)に記載した。また、図4に、表1の層構成の欄に対応する波長変換器の層構造を記載した。図2、3において、400nm付近はLED素子、450nm付近は青色発光蛍光体、550nm付近は緑色発光蛍光体、600nm付近は赤色発光蛍光体から発光する光のピークである。
【0066】
【表1】

【0067】
図2、3から、波長変換器が、発光素子側から、緑蛍光体層、青蛍光体層および赤蛍光体層を順次積層してなり、緑色発光蛍光体の平均粒径が30μm以上であり、緑色発光蛍光体の平均粒径が青色発光蛍光体よりも小さい本発明の実施例1〜3では、従来技術(一層に青、緑、赤色蛍光体を混合;比較例2、4、6、9、12)の発光スペクトルに対し、青、緑、赤色全ての蛍光ピークの強度が上昇していることがわかる。このことから、実施例1〜3は、比較例よりも白色光の発光効率が向上することがわかる。
【0068】
一方、層構成が本発明と逆の比較例1、3、5、8、11の場合、青色発光は比較例2、4、6、9、12に比べ上昇しているが、緑、赤色発光は減少しているため、白色光の色合いが変化するため、白色光の発光効率は低下することがわかる。
【符号の説明】
【0069】
11・・・発光装置
13・・・電極
15・・・基板
17・・・発光素子
19・・・波長変換器
19a・・・緑蛍光体層
19b・・・青蛍光体層
19c・・・赤蛍光体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長が370〜420nmの光を発する発光素子と、該発光素子が載置された基体と、前記発光素子が発光する光を波長変換する波長変換器とを具備してなる発光装置であって、前記波長変換器が、前記発光素子側から、透明マトリクス中に緑色に発光する蛍光体が分散した緑蛍光体層、透明マトリクス中に青色に発光する蛍光体が分散した青蛍光体層および透明マトリクス中に赤色に発光する蛍光体が分散した赤蛍光体層を順次積層してなるとともに、前記緑蛍光体層中の緑色に発光する蛍光体の平均粒径が30μm以上であり、前記緑蛍光体層中の緑色に発光する蛍光体の平均粒径が、前記青蛍光体層中の青色に発光する蛍光体の平均粒径よりも大きいことを特徴とする発光装置。
【請求項2】
前記赤蛍光体層中の赤色に発光する蛍光体の平均粒径が20μm以上であり、該赤蛍光体層中の赤色に発光する蛍光体の平均粒径が、前記青蛍光体層中の青色に発光する蛍光体の平均粒径よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記赤色に発光する蛍光体および前記緑色に発光する蛍光体がアルカリ土類金属珪酸塩からなり、前記青色に発光する蛍光体がハロりん酸塩からなることを特徴とする請求項1または2に記載の発光装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のうちいずれかに記載の発光装置を複数具備してなることを特徴とする照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−225960(P2010−225960A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73178(P2009−73178)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】