説明

発振器

【課題】 温度変動による周波数ずれを補正容易とし、小型化を図ると共に高安定状態を実現する発振器を提供する。
【解決手段】 3次以上のオーバトーン水晶振動子11と、水晶振動子11に接続して発振周波数を出力する発振回路12と、発振周波数を分周してシステム機器処理部2に出力する分周器13と、水晶振動子11の周囲の温度を検出する温度センサ16と、水晶振動子の温度特性に基づいて発振周波数の周波数ずれを補正するための情報(温度に対応した周波数ずれの補正量又は周波数ずれを算出する式の係数)を記憶し、システム機器処理部2に周波数ずれを補正するための情報を提供するメモリ17とを有する発振器である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶を用いた発振器に係り、特に、温度補償発振器(TCXO:Temperature Compensated Crystal Oscillator)又は電圧制御温度補償発振器(VC−TCXO:Voltage Controlled - TCXO)において高安定で、安価かつ小型化を実現した発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
[従来の技術]
従来は、温度補償発振器(TCXO)又は電圧制御温度補償発振器(VC−TCXO)の内部にて温度補償を実施し、実装されたシステム機器(例えば、携帯電話機等)のベースバンド部等のデジタル信号処理部で検出された周波数ずれを信号処理部にフィードバックし、または、VC−TCXOの周波数制御電圧にフィードバックするよう制御されるようになっていた。
【0003】
[先行技術]
尚、関連する先行技術として、特開平09−321539号公報(特許文献1)、特開平11−065694号公報(特許文献2)、特開2003−324318号公報(特許文献3)がある。
【0004】
特許文献1には、AFC回路が発振回路から出力される周波数について、周波数誤差分より周波数ズレを演算してCPUに出力し、CPUが周波数ズレに対応する補正値をA/Dコンバータに加え、発振回路に出力した値を温度センサから出力される値に対応する値としてメモリに格納するデジタル制御型発振回路が示されている。
【0005】
特許文献2には、水晶発振回路の温度特性を予め測定しておき、各温度域における発振周波数の標準値からのすれ値を周波数変動テーブルとしてメモリに記憶保持しておき、測定された周囲温度から周波数変動テーブルを検索し、水晶発振回路からの出力周波数のずれ量を読み出し、標準値からのずれを計算し、時刻情報に加算又は減算して標準値からの時刻の進遅を補正するソフトウェア時計の補正方式が示されている。
【0006】
特許文献3には、温度センサが圧電振動子の近傍の温度を測定し、制御回路がメモリから圧電発振器の温度特性に基づく近似曲線係数とオフセットデータを出力する圧電発振器であり、圧電発振器に接続するCPUが周波数偏差を計算する近似式に測定温度、近似曲線係数等を代入して周波数偏差を演算し、周波数偏差の分だけ信号を探索する周波数範囲をオフセットする受信装置が示されている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係る発振器の構成ブロック図である。
【図2】基本波と3倍波の周波数温度特性図である。
【図3】発振器における発振回路及び水晶振動子の回路を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
[実施の形態の概要]
本発明の実施の形態に係る発振器は、システム機器処理部に基準信号を提供する水晶発振器であって、3次以上のオーバトーン水晶振動子と、水晶振動子に接続して発振周波数をシステム機器処理部に出力する発振回路と、水晶振動子の周囲の温度を検出する温度センサと、水晶振動子の温度特性に基づいて発振周波数の周波数ずれを補正するための情報を記憶し、システム機器処理部に周波数ずれを補正するための情報を提供するメモリとを有するものであり、温度変動による周波数ずれをシステム機器処理部において補正容易とし、小型化を図ると共に高安定状態を実現できるものである。
【0025】
[発振器の全体:図1]
本発明の実施の形態に係る発振器について図1を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る発振器の構成ブロック図である。
本発明の実施の形態に係る発振器(本発振器)1は、図1に示すように、システム機器処理部2に接続するもので、内部構成としては、水晶振動子11と、発振回路(OSC)12と、分周器(Div)13と、バッファ(Buffer)15と、温度センサ16と、PROM(Programmable Read Only Memory)のメモリ17とを基本的に有している。
【0026】
また、システム機器処理部2は、マイクロプロセッサ又はゲートアレイ等で構成され、無線通信機器ではベースバンドIC等の演算処理部が相当する。
尚、システム機器処理部2は、発振器1を組み込むお客様が任意に設計するものであり、発振器1からは、周波数変動を補正するために必要な情報、信号を提供するようになっている。
【0027】
[発振器の各部]
次ぎに、本回路の各部について具体的に説明する。
[水晶振動子11]
水晶振動子11は、3次以上のオーバトーン水晶振動子である。3次以上のオーバトーン水晶振動子を用いたのは、高安定(高いQ)状態で発振器を動作させるためである。
【0028】
[基本波と3倍波の特性:図2]
ここで、基本波の水晶振動子と3倍波の水晶振動子(3次オーバトーン水晶振動子)の周波数温度特性曲線について図2を参照しながら説明する。図2は、基本波と3倍波の周波数温度特性図である。図2では、横軸が温度を示し、縦軸が周波数変化率を示している。
【0029】
水晶振動子では、その主振動と主振動以外の不要振動との結合により、図2に示すように、温度に対して不連続な周波数変化を示すことがある。しかしながら、基本波(Fundamental mode)に比べて、3倍波(3rd overtone mode)では、そのような不連続な周波数変化が現れることが希であり、良好な周波数温度特性を持つ水晶振動子を得ることが容易である。
【0030】
[発振回路(OSC)12]
発振回路(OSC)12は、水晶振動子11と接続して所望の周波数で発振させ、分周器13に出力する。
【0031】
[分周器(Div)13]
分周器(Div)13は、発振回路12から入力された周波数信号を分周してバッファ15に出力する。
尚、発振回路12と分周器13との間に、バッファを設けるようにしてもよい。
【0032】
[バッファ(Buffer)15]
バッファ(Buffer)15は、システム機器処理部2での負荷の影響を受けないようにすると共に、所望の出力振幅を得るために設けられた増幅器である。
バッファ15からの出力信号(Osc Out)は、システム機器処理部2に対するクロックとして利用されるものである。
【0033】
[温度センサ16]
温度センサ16は、水晶振動子11の周囲の温度を測定し、測定した温度の値(Temp Out)をデジタル値又はアナログ値でシステム機器処理部2に出力する。つまり、温度センサ16は、温度補償用の温度情報を提供する。
尚、温度の値がアナログ値であれば、システム機器処理部2に入力されてデジタル信号に変換される。
【0034】
ここで、発振器の周波数安定度を決定する主要因は、一般に水晶振動子11であって発振回路12よりも影響度は高いものである。これは、発振周波数が水晶振動子11から発振回路12側を見た時の負荷に左右されるが、発振回路12の負荷容量の変動による発振器1の周波数変動よりも水晶振動子11自体の周波数温度特性の方が大きいからである。
【0035】
[メモリ17]
PROMのメモリ17は、予め水晶振動子11の温度特性に関する情報を記憶しており、システム機器処理部2にその情報を出力する。メモリ17内の情報は、予め実測によって取得し、必要に応じて数値計算を加え、本発振器1の出荷前にその温度特性に応じて設定しておく。
メモリ17に記憶される温度特性に関する情報としては、温度に対応した周波数ずれの補正量をテーブル(補正量テーブル)で記憶するもの、温度特性に対応して周波数ずれを算出する式(補正式)の係数を記憶するものがある。
ここで、メモリ17は、EPROM(Electrically Programmable Read Only Memory)又はEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)であってもよい。
【0036】
[本発振器におけるその他の構成]
尚、上記本発振器1において、必要がなければ分周器13を取り除いた構成とすることもできる。
また、本発振器1において、水晶振動子11以外の構成部分を集積化して集積回路で構成するようにしてもよい。
【0037】
[実施の形態の動作]
本発振器1では、3次以上のオーバトーン水晶振動子11を接続した発振回路12から得られる発振周波数を出力し、分周器13で分周され、バッファ15を介してシステム機器処理部2に出力される。
【0038】
また、本発振器1では、温度センサ16が水晶振動子11の周囲の温度を検出し、当該検出した温度の数値をシステム機器処理部2に出力すると共に、メモリ17から補正量テーブルの内容若しくは補正式の係数を用いて補正式により得られた値をシステム機器処理部2に出力する。
【0039】
システム機器処理部2は、本発振器1のバッファ15から入力される信号(Osc Out)と、温度センサ16からの温度の値と、メモリ17からの補正量テーブル又は補正式の係数を用いて周波数ずれの補正量を取得し、システム機器処理部2内で演算及び信号処理することにより周波数ずれの補正処理を行う。
【0040】
[発振器の構成:図3]
上記発振器における発振回路及び水晶振動子の回路について図3を参照しながら説明する。図3は、発振器における発振回路及び水晶振動子の回路を示す図である。
図3に示すように、発振器における発振回路及び水晶振動子は、典型的なコルピッツ型の帰還増幅回路を示している。
【0041】
図3では、水晶振動子Xの両端の信号をC1 ,C2 のコンデンサで分圧し、一方を発振用トランジスタTrのベース端子に、他方をトランジスタTrのエミッタ端子に接続している。尚、RA ,RB はトランジスタTrのベース端子に固定バイアスを与えるためのブリーダ抵抗であり、RE はエミッタに接続された負帰還抵抗であり、RC はコレクタに接続された負帰還抵抗である。
【0042】
[実施の形態の効果]
本発振器によれば、回路内部で温度変動に応じた出力信号の周波数ずれを補正するのではなく、周波数ずれを含む出力信号を基準信号として出力し、発振器内部の温度の値と水晶振動子の温度特性に関する情報を同時に提供することにより、システム機器処理部2内で入力信号を基準信号により信号処理を行うと共に、温度の値と温度特性に関する情報により周波数ずれを容易に補正させることができる効果がある。
【0043】
また、本発振器によれば、基準信号の出力段にバッファ15を設け、また、発振回路12と分周器13との間にバッファを設けるようにすれば、出力される基準信号がシステム機器処理部2の負荷の影響を受けにくくすることができる効果がある。
【0044】
また、本発振器によれば、水晶振動子に3次以上のオーバトーンの水晶振動子11を用いるようにしているので、高安定(高いQ)状態で発振器を動作させることができる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、温度変動による周波数ずれを補正容易とし、小型化を図ると共に高安定状態を実現する発振器に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
システム機器処理部に基準信号を提供する発振器であって、
3次以上のオーバトーン水晶振動子と、
前記水晶振動子に接続し、発振周波数を前記システム機器処理部に出力する発振回路と、
前記水晶振動子の周囲の温度を検出する温度センサと、
前記水晶振動子の温度特性に基づいて前記発振周波数の周波数ずれを補正するための情報を記憶し、前記システム機器処理部に前記周波数ずれを補正するための情報を提供するメモリとを有することを特徴とする発振器。
【請求項2】
発振回路とシステム機器処理部との間に、前記発振回路からの発振周波数を入力し、前記システム機器処理部に前記発振周波数を出力すると共に、出力側の負荷の影響を抑えるバッファを設けたことを特徴とする請求項1記載の発振器。
【請求項3】
発振回路とバッファとの間に、前記発振回路からの発振周波数を分周する分周器を設けたことを特徴とする請求項2記載の発振器。
【請求項4】
発振回路と分周器との間に、前記分周器における負荷の影響を抑えるバッファを設けたことを特徴とする請求項3記載の発振器。
【請求項5】
メモリは、周波数ずれを補正するための情報として、温度の値に対応する周波数ずれ量をテーブルとして記憶し、当該テーブル内容をシステム機器処理部に出力することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか記載の発振器。
【請求項6】
メモリは、周波数ずれを補正するための情報として、温度の値に対応する周波数ずれ量を演算する演算式の係数を記憶し、当該演算式の係数をシステム機器処理部に出力することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか記載の発振器。
【請求項7】
水晶振動子以外の構成部分を集積化して集積回路に納めたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか記載の発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−303198(P2009−303198A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−49097(P2009−49097)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.EEPROM
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】