説明

発振回路、発振回路を備えた電子機器及び発振回路の制御方法

【課題】高精度発振器間の位相同期を間欠動作にすることにより低消費電力化する。
【解決手段】基準となる周波数の基準信号Frefを出力する周波数確度が高い高精度発振器100と、出力信号Foutの周波数を制御電圧Vcで制御する電圧制御発振器110と、基準信号Frefの位相と出力信号Foutの位相との位相差を検出し位相差信号Poを出力する位相比較部120と、位相差信号Poに基づき制御電圧Vcを生成する制御電圧生成部130と、位相比較部120への電源VDDの接続を接続状態または非接続状態に切り替えるスイッチ回路140と、位相差信号Poに基づき位相差が無くなった時点から所定の時間が経過するまでの期間はスイッチ回路140を接続状態にし、期間以外はスイッチ回路140を非接続状態にする制御信号Swを出力するタイマ回路150と、を含む発振回路1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高精度な信号を出力する発振回路、発振回路を備えた電子機器及び発振回路の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に位相同期制御は、高精度の基準発振器とその精度に依存させようとする比較的安定度の悪い発振器を位相同期させることにより、任意の周波数で用意した後者の発振器の出力を高精度の基準発振器並みの安定度で得るための技術である。前者には原子発振器や恒温槽入り発振器(OCXO:Oven Controlled Xtal Oscillator)或いは有線、無線により供給される基準信号を用い、後者には電圧制御方式の水晶発振器(VCXO:Voltage Controlled Xtal Oscillator)やLC発振器などが用いられている。
【0003】
一方、通信網などの広域インフラや放送システムなどで原子発振器同士を位相同期制御する場合があるが、位相同期制御は原子発振器同士の出力信号の位相差がずれていくのを検出して補正制御する方式であるため、両者の安定度が極めて高い場合、検出可能な位相差が生じるのに一定の時間経過が必要になる。
【0004】
この問題を解決するために、例えば特許文献1には、無線の間欠受信に対応した同期制御を行なうことにより、非動作時の周波数精度を確保する方法が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特表2007−528642号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の方法では、高速デジタル通信などにおいて機器間の信号同期を常に一定に確保するために有用であるが、基準発振器の周波数精度を一定に保ったり、高精度時計として月単位、年単位で一定の周波数精度を保つためには過剰な制御となり、低消費電力化が必要な小型機器には適さないという課題がある。つまり、従来の方法を用いれば瞬時の周波数や位相精度が維持でき、その延長として長期的にも変化の少ない周波数信号が得られるものの、例えば1年後の周波数に対しては、周波数ゆらぎに代表される短期的な変動があったとしてもプラス側のゆらぎとマイナス側のゆらぎは相殺されてしまうので、長期的に考えた場合には過剰制御と言える。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]
基準となる周波数の基準信号を出力する周波数確度が高い高精度発振器と、出力信号の周波数を制御電圧で制御する電圧制御発振器と、前記基準信号の位相と前記出力信号の位相との位相差を検出し位相差信号を出力する位相比較部と、前記位相差信号に基づき前記制御電圧を生成する制御電圧生成部と、前記位相比較部への電源の接続を接続状態または非接続状態に切り替えるスイッチ回路と、前記位相差信号に基づき前記位相差が無くなった時点から所定の時間が経過するまでの期間は前記スイッチ回路を前記接続状態にし、前記期間以外は前記スイッチ回路を前記非接続状態にする制御信号を出力するタイマ回路と、を含む、ことを特徴とする発振回路。
【0009】
この構成によれば、基準信号の位相と出力信号の位相とが同期した時点から所定の時間が経過するまでの期間は位相比較部への電源供給を非接続状態にすることができるので、低消費電力化を図ることができる。
【0010】
[適用例2]
上記に記載の発振回路において、前記所定の時間は、前記電圧制御発振器の半周期を前記電圧制御発振器の1周期毎に発生する位相差で割って得られる時間以下に設定されることを特徴とする発振回路。
【0011】
この構成によれば、位相比較部への電源供給を非接続状態にする所定の時間の間に電圧制御発振器に起こり得る位相差を半周期以内に設定することにより基準信号に対して出力信号が遅れていると判断することができるので、電圧制御発振器の制御を確実に行うことができる。
【0012】
[適用例3]
上記に記載の発振回路において、前記タイマ回路は、前記位相差信号に基づき前記位相差が無くなった時点から次に前記位相差が検出される時点までの経過時間を計測し、前記経過時間に基づき前記所定の時間を設定することを特徴とする発振回路。
【0013】
この構成によれば、位相差が無くなってから再び位相差が検出されるまでの経過時間を計測し所定の時間を決められるので、製造ばらつきや経年劣化などを吸収し、高精度な発振回路を実現できる。
【0014】
[適用例4]
上記に記載の発振回路において、前記発振回路は、高精度で動作させる場合は前記所定の時間を短く設定し、低精度で動作させる場合は前記所定の時間を長く設定することを特徴とする発振回路。
【0015】
この構成によれば、高精度で動作させる場合は所定の時間を短く設定することにより位相差の検出能力を高めることができ、低精度で動作させる場合は所定の時間を長く設定することにより低消費電力化を図ることができる。
【0016】
[適用例5]
上記に記載の発振回路を備えたことを特徴とする電子機器。
【0017】
この構成によれば、基準信号の位相と出力信号の位相とが同期した時点から所定の時間が経過するまでの期間は位相比較部への電源供給を非接続状態にすることができるので、低消費電力化を図ることができる電子機器を提供できる。
【0018】
[適用例6]
基準となる周波数の基準信号を出力する周波数確度が高い高精度発振器と、出力信号の周波数を制御電圧で制御する電圧制御発振器と、前記基準信号の位相と前記出力信号の位相との位相差を検出し位相差信号を出力する位相比較部と、前記位相差信号に基づき前記制御電圧を生成する制御電圧生成部と、を含む発振回路の制御方法であって、前記位相差信号に基づき前記位相差が無くなった時点から所定の時間が経過するまでの期間は前記位相比較部への電源の接続を接続状態にし、前記期間以外は前記位相比較部への電源の接続を非接続状態にするスイッチ工程を含む、ことを特徴とする発振回路の制御方法。
【0019】
この構成によれば、基準信号の位相と出力信号の位相とが同期した時点から所定の時間が経過するまでの期間は位相比較部への電源供給を非接続状態にすることができるので、低消費電力化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、発振回路の実施形態について図面に従って説明する。
【0021】
(第1実施形態)
<発振回路の構成>
先ず、第1実施形態に係る発振回路の構成について、図1を参照して説明する。図1は、第1実施形態に係る発振回路の構成を示す回路図である。
【0022】
図1に示すように、発振回路1は、高精度発振器である原子発振器100と、電圧制御発振器(VCO:Voltage Controlled Oscillator)110と、位相比較部120と、制御電圧生成部130と、スイッチ回路140と、タイマ回路150と、から構成されている。なお、VCO110は、高精度かつ電圧制御可能な原子発振器や水晶発振器(VCXO:Voltage Controlled Xtal Oscillator)などを含む。
【0023】
位相比較部120は、原子発振器100が出力する基準信号Frefの周波数を1/R(Rは任意の整数)分周した分周信号Frを出力する1/R分周器121と、VCO110が出力する出力信号Foutの周波数を1/N(Nは任意の整数)分周した分周信号Fnを出力する1/N分周器122と、分周信号Frと分周信号Fnとの位相差を比較し位相差信号Poを出力する位相比較器123と、から構成されている。例えば、基準信号Frefの周波数が10MHz、出力信号Foutの周波数が500MHzだとすると、1/N分周器122の分周をN=50に設定すれば、1/R分周器121は必要なくなる。
【0024】
制御電圧生成部130は、位相比較器123の出力する位相差信号Poがデジタルデータの場合にアナログデータPaに変換するためのデジタル−アナログ変換器(DAC:Digital Analog Converter)131と、アナログデータPaから低域周波数のみを通過させた制御電圧Vcを出力するローパスフィルタ(LPF:Low Pass Filter)132と、から構成されている。
【0025】
スイッチ回路140は、位相比較部120への電源VDDの接続を接続状態または非接続状態に切り替える。
【0026】
タイマ回路150は、位相差信号Poに基づき位相差が無くなった時点から所定の時間が経過するまでの期間はスイッチ回路140を接続状態にする制御信号Sw=Hレベルを出力し、それ以外の期間はスイッチ回路140を非接続状態にする制御信号Sw=Lレベルを出力する。所定の時間は、出力信号Foutの立ち上がりの回数をカウントし、立ち上がりの回数がn回(nは任意の整数)になるまでの時間で設定することができる。nの値は、タイマ回路150の図示しないレジスタに外部から書き換え可能で予め設定しておくことができる。例えば、出力信号Foutの立ち上がりから次の立ち上がりまでの周期をCkとすると、所定の時間はCk×nとなる。なお、nの値は、VCO110の半周期をVCO110の1周期毎に発生する位相差で割って得られる値以下に設定する。例えば、VCO110の半周期を0.05秒、VCO110の1周期毎に発生する位相差を1×10-6秒とすれば、n=0.05÷1×10-6=5000となる。
【0027】
<発振回路の動作>
次に、発振回路の動作について図2及び図3を参照して説明する。図2は、発振回路の動作を示すフローチャートである。図3は、発振回路の動作を示すタイミング図である。なお、図3のタイミング図は、説明を簡略化するために極端に分周信号Fnが変化する場合を例示しており、実際のVCO110では分周信号Fnが緩やかに単調に変化する。
【0028】
先ず、図2のステップS100では、タイマ回路150は、制御信号SwをHレベルに設定する。例えば、図3の時点t1で制御信号SwがHレベルに設定されたのでスイッチ回路140は接続状態となり、位相比較部120へ電源VDDが供給され、位相比較部120がON状態となる。位相比較部120がON状態となったので、位相比較器123により分周信号Frと分周信号Fnとの位相差を比較した位相差信号Poがタイマ回路150に出力される。
【0029】
次に、ステップS102では、次の時点の位相差信号Poを読み込み、ステップS104に移行する。
【0030】
次に、ステップS104では、読み込んだ位相差信号PoがHレベルであるか否かを判定し、Hレベルである場合はステップS106に移行し、Hレベルでない場合はステップS102に移行する。例えば、図3において、時点t2で読み込んだ位相差信号PoはLレベルなのでステップS102に移行し、時点t3で読み込んだ位相差信号PoはHレベルなのでステップS106に移行する。
【0031】
次に、ステップS106では、次の時点の位相差信号Poを読み込み、ステップS108に移行する。
【0032】
次に、ステップS108では、読み込んだ位相差信号PoがLレベルであるか否かを判定し、Lレベルである場合はステップS110に移行し、Lレベルでない場合はステップS106に移行する。例えば、図3において、時点t4で読み込んだ位相差信号PoはHレベルなのでステップS106に移行し、時点t5で読み込んだ位相差信号PoはLレベルなのでステップS110に移行する。
【0033】
次に、ステップS110では、タイマ回路150は、制御信号SwをLレベルに設定する。例えば、図3の時点t5で制御信号SwがLレベルに設定されたのでスイッチ回路140は非接続状態となり、位相比較部120への電源VDDの供給が遮断され、位相比較部120がOFF状態となる。位相比較部120がOFF状態となったので、位相差信号PoはLレベルを維持する。
【0034】
次に、ステップS112では、タイマ回路150は、内部カウンタの値Countを0に設定し、ステップS114に移行する。
【0035】
次に、ステップS114では、タイマ回路150は、次の時点で内部カウンタの値Countに1を加算し、ステップS116に移行する。
【0036】
次に、ステップS116では、タイマ回路150は、内部カウンタの値Countがn回以上か否かを判定し、n回以上の場合はステップS100に移行し、n回未満の場合はステップS114に移行する。例えば、図3において、時点t6では内部カウンタの値Count=1なのでステップS114に移行し、時点t7において内部カウンタの値Count=nとなったのでステップS100に移行する。
【0037】
以上に述べた本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
【0038】
本実施形態では、基準信号の位相と出力信号の位相とが同期した時点から所定の時間が経過するまでの期間は位相比較部への電源供給を非接続状態にすることができるので、低消費電力化を図ることができる。
【0039】
以上、発振回路の実施形態を説明したが、こうした実施の形態に何ら限定されるものではなく、趣旨を逸脱しない範囲内において様々な形態で実施し得ることができる。以下、変形例を挙げて説明する。
【0040】
(変形例1)発振回路の変形例1について説明する。前記第1実施形態では、nの値をタイマ回路150のレジスタに外部から予め設定しておくように説明したが、製造プロセスのばらつきなどにより一律に決められない場合がある。そこで、実際に発振回路1毎に位相差信号Poの位相差が無くなった時点から次に位相差が検出される時点までの経過時間を計測することにより、nの値をレジスタに書き込むようにしてもよい。
【0041】
(変形例2)発振回路の変形例2について説明する。前記第1実施形態では、nの値を一種類に決めるように説明したが、例えば、発振回路1を高精度で動作させるモードと、低精度で動作させるモードとを切り替えて動作可能なように、それぞれのnの値を設定してもよい。
【0042】
(変形例3)発振回路の変形例3について説明する。前記第1実施形態では、図2に示すようにステップS108で位相差信号PoがHレベルからLレベルに変化した時点で判定するように説明したが、Lレベルに変化した時点の次の時点でHレベルに戻ることも想定し、ステップS108からステップS110に移行する前に、さらにステップS106とステップS108を挿入してもよい。このように構成すれば、同期判定精度を向上させることができる。
【0043】
(変形例4)発振回路の変形例4について説明する。発振回路1は、電子機器として腕時計、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータなどの基準時刻を発振するために搭載し、利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】第1実施形態に係る発振回路の構成を示す回路図。
【図2】発振回路の動作を示すフローチャート。
【図3】発振回路の動作を示すタイミング図。
【符号の説明】
【0045】
1…発振回路、100…原子発振器、110…VCO、120…位相比較部、121…1/R分周器、122…1/N分周器、123…位相比較器、130…制御電圧生成部、131…DAC、132…LPF、140…スイッチ回路、150…タイマ回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準となる周波数の基準信号を出力する周波数確度が高い高精度発振器と、
出力信号の周波数を制御電圧で制御する電圧制御発振器と、
前記基準信号の位相と前記出力信号の位相との位相差を検出し位相差信号を出力する位相比較部と、
前記位相差信号に基づき前記制御電圧を生成する制御電圧生成部と、
前記位相比較部への電源の接続を接続状態または非接続状態に切り替えるスイッチ回路と、
前記位相差信号に基づき前記位相差が無くなった時点から所定の時間が経過するまでの期間は前記スイッチ回路を前記接続状態にし、前記期間以外は前記スイッチ回路を前記非接続状態にする制御信号を出力するタイマ回路と、
を含む、
ことを特徴とする発振回路。
【請求項2】
請求項1に記載の発振回路において、前記所定の時間は、前記電圧制御発振器の半周期を前記電圧制御発振器の1周期毎に発生する位相差で割って得られる時間以下に設定されることを特徴とする発振回路。
【請求項3】
請求項1に記載の発振回路において、前記タイマ回路は、前記位相差信号に基づき前記位相差が無くなった時点から次に前記位相差が検出される時点までの経過時間を計測し、前記経過時間に基づき前記所定の時間を設定することを特徴とする発振回路。
【請求項4】
請求項1に記載の発振回路において、前記発振回路は、高精度で動作させる場合は前記所定の時間を短く設定し、低精度で動作させる場合は前記所定の時間を長く設定することを特徴とする発振回路。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の発振回路を備えたことを特徴とする電子機器。
【請求項6】
基準となる周波数の基準信号を出力する周波数確度が高い高精度発振器と、
出力信号の周波数を制御電圧で制御する電圧制御発振器と、
前記基準信号の位相と前記出力信号の位相との位相差を検出し位相差信号を出力する位相比較部と、
前記位相差信号に基づき前記制御電圧を生成する制御電圧生成部と、
を含む発振回路の制御方法であって、
前記位相差信号に基づき前記位相差が無くなった時点から所定の時間が経過するまでの期間は前記位相比較部への電源の接続を接続状態にし、前記期間以外は前記位相比較部への電源の接続を非接続状態にするスイッチ工程を含む、
ことを特徴とする発振回路の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−284196(P2009−284196A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−133948(P2008−133948)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】