説明

発振回路

【課題】 負性抵抗の減少を抑制することを目的とし、また、発振周波数付近で負性抵抗を選択的に増大させること。
【解決手段】 増幅器の出力から入力への帰還によって発振を行う発振回路において、発振回路が通常備える発振のための第1の帰還とは別に、振幅及び位相推移を行う第2の帰還の2重帰還を行うことによって、発振回路の負性抵抗を所望の周波数で増加させると共に、等価リアクタンス成分を調整する。発振回路は、コルピッツ発振回路が備える負性抵抗を生成する第1の帰還回路と、コルピッツ発振回路の発振段トランジスタのエミッタ端子からベース端子に電流帰還する第2の帰還回路とによって構成することができる。エミッタ端子からベース端子への電流帰還は帰還容量を介して行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振回路に関し、特にコルピッツ発振回路に関する。
【背景技術】
【0002】
ネットワークの高速化、大容量化に伴い、SONET/SDHなどの光デジタル通信ネットワークにおける基準周波数発生源の需要が高まっている。このような基準周波数発生源として、150MHz基本波水晶発振を逓倍する発振器やSAW発振器が製品化されている。逓倍を行う方法では、ジッタ特性の劣化が課題であり、SAW発振器では周波数温度特性が課題である。
【0003】
100MHz〜GHz帯において共振器を用いる発振器では、主にコルピッツ発振回路が用いられている。100MHz以上のコルピッツ発振回路では、十分な負性抵抗を得るために発振周波数を決定する容量の値を小さくしなければならず、設計が困難となったり、電圧制御発振器を構成する場合に周波数可変範囲が十分にとれないなどの問題が生じている。
【0004】
また、バイアス電流を増やして負性抵抗を増大させると、消費電力が増加し、発振時に共振子に流れる電流が大きくなり特性の劣化につながるという問題がある。
【0005】
このような問題に対して、コルピッツ発振回路のコレクタ端子からエミッタ端子に容量結合で帰還させることにより発振回路の負性抵抗を増加させる回路(非特許文献1)や、コルピッツ発振回路の出力をエミッタ・ホロワを介して帰還することにより負性抵抗を増加させる回路が提案されている(非特許文献2,3)。
【0006】
図27は非特許文献3の発振回路を示している。トランジスタQ1、容量CA,CB及び水晶振動子によりコルピッツ発振回路が構成される。図中の破線で囲まれる部分はエミッタ・ホロワであり、コルピッツ発振回路のエミッタ端子の信号電圧を検出し、それにほぼ等しい電圧がトランジスタQ1のコレクタ端子に加えられ負性抵抗の増大に寄与している。
【0007】
一般に、負性抵抗−Rと容量Ciの直列回路に容量Cpが並列接続された回路は、負性抵抗−R´と容量Ci´の直列回路で等価的に表すことができる。このとき、負性抵抗−R´の絶対値は負性抵抗−Rの絶対値よりも小さくなる。
【0008】
一方、コルピッツ発振回路は、インダクタンスLと能動回路とによって構成され。能動回路は、直列接続された2つの容量と、これらの容量に接続された電圧制御電流源(トランジスタ)とから構成され、負性抵抗−Rと容量Ciの直列回路からなる等価回路によって表すことができる。ここで、コルピッツ発振回路が備えるトランジスタのベース・コレクタ間には容量Cbc(トランジスタのベース・コレクタ間の容量)が存在するため、コルピッツ発振回路は、前記した負性抵抗−Rと容量Ciの直列回路に容量Cbcをトランジスタのベース端子から見た容量に換算した容量Cbc´が並列接続された回路として表すことができる。
【0009】
したがって、このコルピッツ発振回路の正味の負性抵抗−R´は、
−R´=−R/((1+Cbc´/Ci)2+(ωCbc´R)2
で表されるため、本来の負性抵抗−Rよりも減少する。この効果は、高周波の発振器になると、Cbc´がCiに近い値となるためより大きくなる。
【0010】
ここで、トランジスタのコレクタ端子と電源との間に負荷抵抗Rcを接続してコルピッツ発振回路を構成すると、トランジスタの入力端子(ベース端子)から見た容量Cbc´は、トランジスタの増幅作用によって、トランジスタと負荷抵抗Rcで構成される増幅器の利得をAとしたとき、Cbc´=(1+A)Cbcとなる。利得A=gmRcであって1より十分に大きいため、Cbc´はCbcより大きくなる。上記の現象はミラー効果と呼ばれている。したがって、負荷抵抗Rcのあるコルピッツ発振回路ではトランジスタのベース・コレクタ間の容量Cbcの影響が顕著に表れる。トランジスタのベース・コレクタ間の容量Cbcの影響は、負性抵抗の減少として現れ、発振特性を低下させることになる。
【0011】
非特許文献3の発振回路において、このCbcによる影響を除去するためには、Cbcに流れる電流を0とすればよい。これによってCbcは開放状態と同様となり、Cbcによる影響を除去することができる。
【0012】
Cbcに流れる電流を0とするには、Cbcの両端の電圧を等しくすればよく、非特許文献3の発振回路では、エミッタ・ホロワによって、発振器のコレクタ端子にベース端子と等しい電圧を返すことによって、Cbcの両端の電圧を等しくしている。
【0013】
【非特許文献1】松岡,佐藤,大島;“高負性抵抗・低ドライブ600MHz帯水晶発振回路”,第32回EMシンポジウム,pp.45-48,2003-05
【非特許文献2】周,野村,青柳,関根;“コルピッツ発振回路の高周波化に対する一検討”,平成15年電気学会電子・情報・システム部門大会,GS3-6,pp.728-730,2003-09
【非特許文献3】周,野村,青柳,関根;“エミッタ・ホロワ回路を付加した高周波数用コルピッツ発振回路に対する検討 ”,電気学会電子回路研究会資料,ECT-04-20,pp.17-21,2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
エミッタ・ホロワ回路を付加した高周波数用コルピッツ発振回路では、上記したように、発振器のコレクタ端子にベース端子と等しい電圧を返すことによって、トランジスタのベース・コレクタ間の容量Cbcの影響を除去し、負性抵抗の減少を抑えようとするものであるが、実際の回路においては、種々の要因によってCbcの影響が残るため、負性抵抗の減少の抑制は不十分なものであるという問題がある。
【0015】
上記のCbcの影響が除去されずに残る要因として、例えば、ベース端子の電圧とエミッタ・ホロワ回路の入力電圧との間には交流電圧の大きさ及び位相において差が生じることや、エミッタ・ホロワ回路の出力インピーダンスが0とならないため、負荷抵抗RcとRo(エミッタ・ホロワ回路の出力抵抗)との関係から、コレクタ端子電圧はエミッタ・ホロワ回路の出力電圧よりも小さくなるなどの要因がある。これらの要因の影響によって、トランジスタのベース・コレクタ間の容量Cbcの両端の電圧は等しくならず、Cbcの影響が残ることになる。
【0016】
本発明は前記した従来の問題点を解決し、負性抵抗の減少を抑制することを目的とし、また、発振周波数付近で負性抵抗を選択的に増大させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、出力から入力への帰還増幅によって発振を行う発振回路において、発振回路が通常備える発振のための第1の帰還とは別に、振幅及び位相推移を行う第2の帰還の2重帰還を行うことによって、発振回路の負性抵抗を所望の周波数で増加させると共に、等価リアクタンス成分を調整する。
【0018】
発振回路が通常備える帰還回路(上記した第1の帰還)では、直列接続された2つの容量とインダクタンスとの並列回路によって増幅器に対する正帰還を行う構成である。本発明はこの帰還回路に、もう一つの帰還回路(上記した第2の帰還)を設けて、第1の帰還回路のインダクタンスからの電流Ixと同相の電流を帰還させて、増幅器に入る電流を増やし、これによって負性抵抗を増加させるものである。このとき、第2の帰還では振幅及び位相推移を行うことで帰還する電流を調整する。
【0019】
なお、この電流帰還において、前記電流Ixと完全に同相とせずに積極的に位相差を付けることによって、発振回路の等価リアクタンス成分を調整することもできる。
【0020】
本発明の発振回路は、2重帰還の構成とすることにより、通常の発振回路が備える発振段と第1の帰還回路に加えて第2の帰還回路を回路設計要素として備えるため、全体のループ利得の振幅及び位相の周波数特性を調整でき、従来のコルピッツ発振回路に比べて大幅に回路設計の自由度を高めることができる。
【0021】
本発明の発振回路をコルピッツ発振回路で構成した場合には、発振回路は、コルピッツ発振回路が備える負性抵抗を生成する第1の帰還回路と、コルピッツ発振回路の発振段トランジスタのエミッタ端子からベース端子に電流帰還する第2の帰還回路とによって構成することができる。エミッタ端子からベース端子への電流帰還は帰還容量を介して行う。
【0022】
本発明の第2の帰還回路は、受動回路に限らず能動回路で構成することができ、能動回路が備える増幅特性及び位相推移特性により負性抵抗及び/又は等価リアクタンス成分を変更する。
【0023】
本発明の第2の帰還回路の電圧利得の振幅特性及び位相特性を変化させることにより、負性抵抗の周波数特性を変化させることができる。つまり、負性抵抗のピークとなる周波数とその大きさを変えることができる。
【0024】
また、第2の帰還回路の電圧利得の振幅特性及び位相特性を変化させることにより、発振回路の等価リアクタンス成分の容量値を変え、さらに誘導性に変化することもできる。
【0025】
第2の帰還回路による負性抵抗及び/又は等価リアクタンス成分の変更と、コルピッツ発振回路の周波数を決定する容量及びバイアス回路の抵抗や負荷抵抗とを独立とすることができるため、発振段の回路素子値を変えることなく、負性抵抗や等価リアクタンス成分を変更することができる。
【0026】
また、負性抵抗は発振段の容量と反比例するため、通常のコルピッツ発振回路では、発振段の容量を大きくすると、負性抵抗が減少し、発振が起動しにくくなったり、回路素子の変動による発振停止が起きやすくなったりするため、これらの容量値を大きく取ることができない。しかし、本発明の発振回路では、第2の帰還回路により発振段容量値とは独立に負性抵抗を増大できるので、発振段の容量を大きくとることができる。
【0027】
本発明の発振回路は、発振を行う能動素子にインバータを用いた構成に適用することもできる。
【0028】
また、発振要素としてインダクタンス又は共振子を備えることができ、共振子として、水晶振動子、セラミック振動子、弾性表面波振動子、端面反射振動子、バルク振動子の何れかの圧電振動子、又は誘電体共振器を用いることができる。
【0029】
本発明の発振回路は電圧制御発振回路に適用することができる。一般に、電圧制御発振回路では、発振段のインダクタンスと能動回路との間に可変容量Csを接続し、この可変容量Csを変えることによって周波数を変化させている。発振周波数は、インダクタンスのLと可変容量Csと能動回路の等価容量Ciの直列容量で決まり、可変容量Csと等価容量Ciとは直列接続であるため、小さい方の容量値で主に決まることになる。高周波の発振回路では、周波数を高めるために容量を小さくすると、等価容量Ciが小さくなるため、前記したように発振周波数は、この小さな等価容量Ciに主に依存し、可変容量Csを変化されても周波数を変えることが難しい。
【0030】
本発明の発振回路では、第2の帰還回路によって負性抵抗を高くすることができるため、発振器の容量を大きくとって等価容量Ciを大きくできるため、可変容量Csの変化による発振周波数の可変範囲が大きく取れる。さらに、この等価容量Ciを可変とすることで、可変容量Csを用いることなく発振周波数を変えることができる。可変容量Csは通常バリキャップを用いて構成するが、このバリキャップは容積や特性等の問題から集積化に不適であり、また、発振周波数制御の直線性の点からも周波数制御に不適である。これに対して、本発明の発振回路によれば、第2の帰還回路により等価容量Ciを変えることで、バリキャップ等の可変容量を用いることなく周波数を変えることができる。
【0031】
また、インダクタンスに代えて圧電振動子などの共振器を備えた電圧制御発振回路において、発振周波数の可変範囲を大きくとるためにはCiの影響を小さくする必要がある。通常、Ciの影響を小さくするため、伸張コイルを振動子に直列に挿入しているが、本発明の能動回路(第2の帰還回路)の等価リアクタンスを誘導性とすることで電圧制御発振回路の伸張用コイルの一部又は全部に代えることができるため、伸張用コイルを不要とする構成、あるいは、伸張用コイルを小さくすることができる。これによって、回路を小型とすることができる。
【0032】
電圧制御発振器のインダクタンスとしては、水晶振動子、セラミック振動子、弾性表面波振動子、端面反射振動子、バルク振動子などの圧電振動子や誘電体共振器を用いることができる。
【0033】
また、本発明の発振回路は温度補償発振回路に適用することができる。本発明の温度補償発振回路によれば、発振回路の能動回路の等価容量を、温度に応じて可変とすることにより、周波数温度特性の補償を行う。
【0034】
また、本発明の発振回路の発振段トランジスタは、バイポーラトランジスタ又はMOSトランジスタとすることができる。
【0035】
さらに、本発明の発振を行う発振段としてインバータ発振器を用いることもできる。発振段の発振要素としてインダクタンス又は共振子とすることができる。
【0036】
本発明の発振回路は、複数の形態で構成することができる。
【0037】
本発明の発振回路の第1の形態において、コルピッツ発振回路の発振段トランジスタのエミッタ端子からベース端子への電流帰還に用いる帰還容量として、第2の帰還回路の出力端子と発振段トランジスタのベース端子との間に容量要素を接続し、出力端子から容量要素を介してベース端子に電流帰還する。
【0038】
本発明の発振回路の第2の形態では、前記の帰還容量として、発振段トランジスタのコレクタ・ベース間容量を用い、第2の帰還回路の出力端子を別の容量(十分大きい値の結合容量)を介して発振段トランジスタのコレクタ端子に接続し、コレクタ端子からコレクタ・ベース間容量を介してベース端子に電流帰還する。
【0039】
第1の形態においては、発振トランジスタのコレクタ端子と電源との間は、直接に接続する構成、あるいは負荷抵抗を接続する構成とすることができる。
【0040】
負荷抵抗はミラー効果によって負性抵抗を低減するため、コレクタ端子と電源との間を直接に接続して負荷抵抗をなくす構成とすることで、高い負性抵抗を得ることができる。
【0041】
第2の形態においては、発振トランジスタのコレクタ端子と電源との間には、負荷抵抗を接続する構成とする。
【0042】
また、第1の形態及び第2の形態において、第2の帰還回路は、2段のエミッタ接地増幅器により構成することができる。
【0043】
本発明の発振回路の第3の形態では、第2の帰還回路は共振特性を備える構成とすることができ、これにより狭帯域特性とすることができる。
【0044】
また、第2の帰還回路は複数の共振特性を切り換え自在に備えることができ、発振周波数を切り換えて多周波切り換えを行うことができる。
【0045】
本発明の発振回路の第4の形態では、第2の帰還回路は差動型帰還回路で構成する。これにより、差動出力を得ることができる他、同相雑音を除去することができる。また、エミッタ接地を2段接続した回路と比較して位相雑音を改善することができる。
【0046】
本発明の発振回路では、第2の帰還回路のパラメータを切り換えることによって、負性抵抗が生じる周波数帯を切り換えることができる。
【発明の効果】
【0047】
以上説明したように、本発明によれば、負性抵抗の減少を抑制することができる。
【0048】
また、発振周波数付近で負性抵抗を選択的に増大させることができる。
【0049】
また、発振段の回路容量を大きくとることができ、電圧制御発振器を構成した場合、発振周波数の可変範囲を大きくとることができる。
【0050】
また、高い周波数帯(例えば、100MHz〜数10GHz帯)の発振器を容易に構成することができる。
【0051】
また、従来の回路と同程度又は低消費電力で負性抵抗が大幅に大きくなり、発振の起動が容易となる。共振子、回路の変動による発振の停止、発振の不発などに対する余裕を大きくとることができ、信頼度のある発振器を構成することができる。
【0052】
また、電流帰還において、発振電流と完全に同相とせずに積極的に位相差を付加することによって、発振回路の等価リアクタンス分の大きさを変えたり、さらに、誘導性の等価リアクタンスとすることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照しながら詳細に説明する。
【0054】
はじめに、図1〜図6を用いて本発明の発振回路の基本構成について説明する。なお、以下では、発振回路としてコルピッツ発振回路について説明する。
【0055】
図1は本発明の発振回路の基本的な回路構成を示し、図2は図1の回路において交流信号のみについて着目した回路構成を示し、図3は図2の回路構成を2ポート型に書き換えた回路構成を示し、図4は本発明の発振回路の基本的な回路構成の簡略化した等価回路を示し、図5は本発明の発振回路の基本的な回路構成の2ポート型の簡略化した等価回路を示している。
【0056】
図1において、図1(a)は負荷抵抗Rcを接続しない構成例であり、図1(b)は負荷抵抗Rcを接続する構成例を示し、その他の構成は共通している。なお、発振回路において負性抵抗の発生には、負荷抵抗Rcを要さず、回路中の損失分も負荷抵抗Rcを備えていない回路構成の方が少なくなる。そこで、以下では主に図1(a)の構成例について説明する。
【0057】
図1(a)において、コルピッツ発振回路は、トランジスタQ1、容量CA,CB及びインダクタンスLにより構成され、トランジスタQ1のベース端子には、容量CA,CBの直列回路とインダクタンスLとを並列接続した回路が接続される。容量CA,CBとインダクタンスLは、トランジスタQ1のコレクタ端子の信号をベース端子に帰還する帰還回路(第1の帰還回路)を構成している。なお、ベース端子には抵抗RAと抵抗RBによって電源電圧VCCを分圧した電圧が印加されている。また、エミッタ端子には、バイアス電流を定めるための抵抗REが接続されている。第1の帰還回路は、発振段増幅器の出力から入力へ帰還して発振を行うための帰還回路を構成している。ここで、トランジスタQ1はコルピッツ発振回路の発振段トランジスタであって、発振回路の電流制御源を構成している。
【0058】
本発明の発振回路は、上記したコルピッツ発振回路に第2の帰還回路H2を備える。この第2の帰還回路H2は、トランジスタQ1のエミッタ端子の電圧に比例した電流をトランジスタQ1のベース端子に電流帰還させ、これによって、発振回路の負性抵抗を所定の周波数で増加させるとともに、等価リアクタンス成分を調整する。
【0059】
ここで、第2の帰還回路H2からベース端子への電流帰還は、帰還容量CFを介して行う。なお、この帰還容量CFは、第2の帰還回路H2が備える容量素子として、この容量素子の一端をトランジスタQ1のベース端子に接続する構成とする他、トランジスタQ1が備えるコレクタ・ベース間容量によって代用し、第2の帰還回路H2の出力端子から先の帰還容量とは異なる容量(十分大きい結合容量)を介してトランジスタQ1のコレクタ端子に接続する構成とすることもできる。トランジスタQ1のコレクタ端子に接続された電流は、コレクタ・ベース間容量を介してトランジスタQ1のベース端子に帰還される。
【0060】
この構成により、トランジスタQ1には、インダクタンスLからの電流Ixが入力すると共に、第2の帰還回路H2から同相の電流が帰還し、トランジスタQ1に入る電流が増加し、これによって負性抵抗が増加する。
【0061】
前記したように、図1(a)に示す回路は、トランジスタQ1のコレクタ端子を電源に直接接続する構成であるのに対して、図1(b)に示す回路はトランジスタQ1のコレクタ端子と電源との間に負荷抵抗Rcを接続した構成である。したがって、図1(a)の回路構成は、図1(b)の回路構成において負荷抵抗を0としたものと同じとすることができる。
【0062】
図2は図1の回路において交流信号のみについて着目した回路構成を示し、図3は図2の回路構成を2ポート型に書き換えた回路構成を示している。発振回路は、2ポート型と1ポート型に分類される。1ポート型は、1端子対回路(2端子回路)であって、共振器の振動を利用して、共振器の損失分を能動回路の負性抵抗で補うことで振動を持続させる発振方式であり、2ポート型は、2端子対回路(4端子回路)であって、出力から入力に帰還をかけて発振を起こす発振方式である。1ポート型の発振器は2ポート回路に書き換えることで、帰還の解析を適用することができる。
【0063】
図2は本発明の発振回路について交流信号のみについて1ポート型で示している。この図2の回路を2ポート型に書き換えると、本発明の発振回路は図3に示す2ポート型の回路構成で表すことができる。
【0064】
図3において、第1の帰還回路H1はインダクタンスLと容量CA,CBのLC回路で表され、第2の帰還回路H2は帰還容量CFを介して発振段Aに帰還されている。
【0065】
また、図4,5は等価回路であり、図4は図2の1ポート型の等価回路であり、図5は図3の2ポート型に書き換えたときの等価回路である。
【0066】
図4,5の等価回路において、トランジスタは電流制御源で表され、入力した端子電圧VAを相互コンダクタンスgm倍して電流VAgmを出力する。また、第2の帰還回路H2は、電流制御源と第1の帰還回路H1による発振段の端子電圧VBに基づいて電流を出力し、帰還容量CFを介して電流制御源Aに入力端に帰還する。
【0067】
図6は、本発明の第2の帰還回路H2の効果を説明するためのベクトル図である。
【0068】
図6において、コルピッツ発振回路の容量CAの端子電圧は、振動子電流Ixに対して90度遅れる。また、トランジスタのコレクタ電流は容量CAの端子電圧VAと同位相でgm倍となる。
【0069】
トランジスタのコレクタ電流gm・VAが容量CBに流れて生じる電圧はgm・VAにCBのインピーダンスをかけたものであるから、コレクタ電流よりさらに90度位相が遅れる。従って、振動子電流Ixからちょうど180度位相が遅れることになる。即ち、容量CBには負の電圧が発生し、負性抵抗−Rとなる。
【0070】
図6(a)は、本発明による電流帰還を行わずにインダクタンスに流れる電流Ixのみがコルピッツ発振回路に流れる場合の負性抵抗について示している。これに対して、図6(b)は、本発明による電流帰還を行ってインダクタンスに流れる電流Ixに加えて帰還電流IFがコルピッツ発振回路に流れる場合の負性抵抗について示している。
【0071】
第2の帰還回路によって、コルピッツ発振回路に振動子電流Ixと同相の帰還電流IFが帰還されると、トランジスタに流れる電流Ibは(Ix+IF)となって増加する。この電流Ibの増加により、前記したと同様に、容量CBには負の電圧が発生し、その負性抵抗は−R´(=gmVA´/jωCB)となる。この負性抵抗−R´はコレクタ電流gmVA´のVA´が電流Ibの増加によって増大するため、電流を帰還することで増加する。
帰還容量CFの役割は、第1の形態においては、第2の帰還回路から発振段増幅回路に帰還する電流の大きさと位相を調整する役割と、第2の帰還回路と発信段増幅回路を直流的に分離し交流電流のみを帰還する役割を兼ね備える。第2の形態においては、帰還容量CFの役割は、第2の帰還回路から発振段増幅回路に帰還する電流の大きさと位相を調整する役割を果たす。
【0072】
図6について以下に詳細に説明する。なお、ここでは図4に示した簡略化等価回路を用いて説明する。また、第2の帰還回路の出力インピーダンスR0が無限大で、帰還容量が十分大きい理想的な場合について説明する。
【0073】
コイル(インダクター)から発振回路の能動回路に流れ込む電流をIxとする。
【0074】
まず、第2の帰還回路H2が無く、通常のコルピッツ発振回路の場合について説明する。容量CAの端子には、大きさがIxの(1/ωCA)倍で、Ixより90度位相が遅れた電圧VAが発生する。トランジスタの相互コンダクタンスをgmとすると、トランジスタの制御電流源には、VAのgm倍の電流が流れる。gmは実数なので、相互コンダクタンスにより生じる電流はVAと同位相となる。従って、Ixより90度遅れた電流となる。またその大きさは、VAの大きさが(Ix/ωCA)となるので、gm(Ix/ωCA)となる。この電流が容量CBに流れると、その端子に大きさがgm(Ix/ωCA)(1/ωCB)で、位相が相互コンダクタンスの電流よりさらに90度遅れた電圧が発生する。
【0075】
相互コンダクタンスの電流は、コイルから流れ込む電流Ixより90度遅れていたので、相互コンダクタンスに流れる電流によって容量CBに発生する電圧は、Ixより180度位相が遅れていることになる。
【0076】
すなわち、Ixと丁度逆相の電圧が発生していることになり、Ixに対しては、負の電圧を発生していることになるため、抵抗としてみれば負性抵抗となる。
【0077】
一方、容量には、相互コンダクタンスによる電流だけでなく、本来トランジスタのベースから流れ込んだ電流Ixも流れる。この電流により容量CBの端子に発生する電圧は、容量CAの場合と同様、Ixより位相が90度遅れていて、大きさは(1/ωCB)となる。
【0078】
コイルから流れ込む電流Ixにより容量CA,CBに生じる電圧は足し合わされて、Ixより位相が90度遅れ、大きさが(Ix/ωCA)+(Ix/ωCB)の電圧となる。
【0079】
コイルの端子から見た能動回路側の電圧Vxは、この容量CA、CBによる電圧と、負性抵抗による電圧のベクトル合成となる。従って、VxはIxに対して位相が遅れ、その遅れは、0度から−180度の範囲となる。
【0080】
すなわち、コイルの端子から見た能動回路は容量性となり、負性抵抗とCA、CBの直列容量の直列回路として表すことができる。
【0081】
負性抵抗が十分大きい場合、VxのIxに対する位相は、−180度に近い値となる。また、容量CBの端子電圧は、トランジスタの制御電流によって生じる電圧とIxによる電圧のベクトル合成となる。したがって、容量CBの端子電圧VBとVxとはCAの容量性電圧分だけ異なることになる。
【0082】
ここで、帰還回路H2は、容量CBの端子電圧を検出、増幅・位相推移させてトランジスタのベース端子にIxと同じ向きに加える働きを有する。
【0083】
いま、H2の位相推移がV2のIxに対する位相遅れをキャンセルする場合を考える。この時、帰還電流IFは、もともと、トランジスタのベース端子に加えられる電流Ixと同位相になるので、トランジスタのベースに流れ込む電流は単純にこれらの和となり、Ix+IFとなる。
【0084】
IF の大きさは、Ixに負性抵抗の大きさ(gm/(ω2CA・CB))及びH2の増幅度A2をかけた値となり、1より大きな値となる。従って、Ibは、Ixと同じ位相で大きさが大きくなる。
【0085】
負性抵抗の発生メカニズムは上記の説明とまったく同様なので、Ixが大きくなったと考えればよく、従って、負性抵抗は増大する。
【0086】
言い換えれば、帰還回路H2を付加したことにより、コイルから流れ込む電流Ixが第2の帰還回路H2により増大・加算されて、トランジスタのベースに流れ込み、負性抵抗が増大される。
【0087】
このように、第2の帰還回路H2の位相推移がV2のIxに対する位相遅れをキャンセルする場合には、負性抵抗の増大だけが実現される。
【0088】
次に、第2の帰還回路H2の位相推移が0か正、すなわち位相推移が無いか位相が進んでいる場合を考える。
【0089】
この時、第2の帰還回路H2によって帰還される帰還電流IFは、コイルより流れ込む電流Ixより位相が進んだ電流となるため、トランジスタのベースに流れ込む電流Ibは、IxとIFのベクトル合成となり、位相角は小さくなるものの、Ixより位相の進んだ電流となる。Ibの大きさは、Ixより大きくなる。
【0090】
この場合も、負性抵抗の発生メカニズムはまったく同様なので、第2の帰還回路H2の無い場合のベクトル図において、Ixを大きくして位相を進める。即ち、ベクトル図上において、第2の帰還回路H2の無い場合のIxより上側に傾けたと考えればよい。
【0091】
したがって、ベクトル図は大きさが大きくなるだけでなく、反時計方向に回転した形となるため、最終的に能動回路の端子電圧Vxも、第2の帰還回路H2の無い場合より、大きくなり、反時計方向に回転したものとなるため、負性抵抗だけでなく等価リアクタンス分も大きくなって等価容量値も大きくなる。
【0092】
一方、第2の帰還回路H2の位相推移が負、すなわち位相遅れがある場合を考える。この時、第2の帰還回路H2によって帰還される電流IFは、コイルより流れ込む電流Ixより位相が遅れた電流となるため、トランジスタのベースに流れ込む電流Ibは、IxとIFのベクトル合成となり、Ixより位相が遅れた電流となる。Ibの大きさは、Ixより大きくなる。
【0093】
この場合も、負性抵抗の発生メカニズムはまったく同様なので、第2の帰還回路H2の無い場合のベクトル図において、Ixを大きくして位相を遅らせる。即ち、ベクトル図上において、第2の帰還回路H2の無い場合のIxより下側に傾けたと考えればよい。
【0094】
したがって、ベクトル図は大きさが大きくなるだけでなく、時計方向に回転した形となるため、最終的に能動回路の端子電圧Vxは、第2の帰還回路H2の無い場合より、大きくなり、時計方向に回転したものとなるため、Ixの線より上側となり、負性抵抗が大きくなるだけでなく、等価リアクタンス分は、誘導性となる。
【0095】
前記非特許文献3に示したエミッタ・ホロワを用いた帰還の場合には、エミッタ端子から発振段トランジスタのコレクタ端子に電圧を帰還することによって、ベース・コレクタ間容量Cbcの両端にかかる電圧を合わせることで、ベース・コレクタ間容量Cbcに流れる電流を抑制して、ベース・コレクタ間容量Cbcによる影響を低減している。
【0096】
これに対して、本発明の第2の帰還回路は、図6のベクトル図で説明したように、発振段トランジスタのベース端子に対して電流帰還を行うことによって、トランジスタQ1に入る電流を増加させて負性抵抗を増大させ、また、帰還電流に適切に位相推移を与えることによって、発振回路の等価リアクタンス分を変化させることができる。
【0097】
なお、第2の帰還回路の出力インピーダンスR0が有限の値である場合には、発振段トランジスタへの電流帰還の効果を高めるように帰還容量を設定する必要がある。
【0098】
具体的には、発振段トランジスタのベース・コレクタ容量(主にCbc)とR0の帰還回路のインピーダンスとのインピーダンス関係に基づいて帰還容量を定める。
【0099】
本発明の発振回路は、第2の帰還回路により負性抵抗を周波数軸上で選択的に増大させ、また、等価リアクタンスを改善する作用効果を奏する。そこで、以下、負性抵抗の周波数特性について図7〜図10を用いて説明し、等価リアクタンスについて図11を用いて説明する。
【0100】
はじめに、コルピッツ発振回路の負性抵抗の周波数特性について図7を用いて説明する。
【0101】
図7は通常のコルピッツ発振回路において、容量CAを変化させたときの負性抵抗の周波数特性を示している。図7において、容量CA,CBを小さくしていくと、コルピッツ発振回路の負性抵抗はピーク周波数は高周波側に移動するが、ピーク値は次第に低下する。また、1GHz付近では容量値も著しく低下する。
【0102】
これに対して、本発明の発振回路によれば、負性抵抗を増加させることができる。ここで、図8に示すベース帰還型の回路構成を用いて、通常のコルピッツ発振回路との周波数特性の比較を行う。
【0103】
図8は前記した図1(a)と同様の発振回路の構成例であり、負荷抵抗Rcが0の場合を示している。図9は、この発振回路の構成において、負性抵抗のピーク周波数が300MHzとなるように設計したシミュレーション結果を示している。図9のシミュレーション結果によれば、本発明の発振回路による負性抵抗の周波数特性(図中でproposedで示す)は、通常のコルピッツ発振回路による負性抵抗の周波数特性(図中でcolpittsで示す)と比較して、予定する300MHzにおける負性抵抗が大幅に増大することが確認される。
【0104】
本発明の発振回路において、負性抵抗と第2の帰還回路の相互コンダクタンスgm(図ではgm2で示す)との関係について図10を用いて説明する。なお、図10では、回路構成は前記した図8と同様にベース帰還型の回路構成を用い、負荷抵抗Rcを0として場合について説明する。図10は、第2の帰還回路H2の相互コンダクタンスgm(利得)を変化したときの、負性抵抗の周波数特性を示している。図10のシミュレーション結果によれば、相互コンダクタンスgmの増大に伴って負性抵抗が増大し、gmの特定の値で最大となることが確認される。
【0105】
また、本発明の発振回路において、等価リアクタンスと第2の帰還回路の相互コンダクタンスgm(図ではgm2で示す)との関係について図11を用いて説明する。なお、図11のシミュレーションに用いる回路構成は前記した図8に示したベース帰還型の回路構成と同様であり、負荷抵抗Rcを0とした場合である。図11は、第2の帰還回路H2の相互コンダクタンスgm(利得)を変化したときの、等価リアクタンスの周波数特性を示している。図11のシミュレーション結果によれば、相互インダクタンスgmによって等価リアクタンスが変化し、発振回路の等価リアクタンス成分を容量性(gm2=20m)から誘導性(gm2=60m)に変化できることが確認される。
【0106】
上記例では、負荷抵抗Rcを0とする構成例について説明したが、本発明の発振回路は、図1(b)に示すように負荷抵抗Rcを接続する構成例としてもよい。この負荷抵抗Rcによる影響について図12を用いて説明する。なお、図12のシミュレーションに用いる回路構成は前記した図8に示したベース帰還型の回路構成と同様であり、負荷抵抗Rc(図中ではRc1としている)を0,50,100Ωとした場合である。
【0107】
図12のシミュレーション結果によれば、負荷抵抗Rcが小さいほど負性抵抗は大きくなる。この負性抵抗の低下は、ミラー効果によるものと推定される。
【0108】
発振回路では、負荷抵抗Rcは負性抵抗の生成には不要であるため、大きな負性抵抗を得るにはRc=0が望ましい。
【0109】
なお、第2帰還回路の相互コンダクタンスgmはバイアス条件で決めることができ、トランジスタのバイアス抵抗によって制御することができる。また、第2の帰還回路の振幅及び位相特性は、第2の帰還回路中の容量等のパラメータによっても制御することができる。
【0110】
本発明の発振回路は複数の形態で構成することができる。以下、発振段トランジスタのエミッタ端子からベース端子への電流帰還に用いる帰還容量の形態を異にする第1の形態と第2の形態、第2の帰還回路に共振特性を備える第3の形態、及び第2の帰還回路を差動型帰還回路で構成する第4の形態について説明する。
【0111】
はじめに、図13,図14を用いて第1の形態について説明する。第1の形態は、コルピッツ発振回路の発振段トランジスタのエミッタ端子の電圧を第2の帰還回路で増幅位相推移させて、第2帰還回路の出力端子から帰還容量を介してベース端子に電流帰還する形態であって、直接ベース帰還型の形態である。
【0112】
図13は第1の形態の回路構成例を示し、図14は第1の形態の回路構成例による負性抵抗の周波数特性を示している。なお、負荷抵抗Rcは0としている。
【0113】
図13に示す回路構成例では、第2の帰還回路を2段のエミッタ接地増幅器により構成している。1段目のエミッタ接地増幅器の入力端はトランジスタQ1のエミッタ端子に接続され、2段目のエミッタ接地増幅器の出力端は帰還容量CF(十分小さい容量)を介してトランジスタQ1のベース端子に接続され、2段のエミッタ接地増幅器の出力電流が発振段のトランジスタQ1のベース端子に帰還される。
【0114】
帰還容量CFは、CAとCBとの直列接続容量の1/10〜1/5程度の小さな値でよい。例えば、CA,CBが2〜3pFの場合には、帰還容量CFは0.2pF〜1pF程度であることが望ましい。
【0115】
負性抵抗の周波数特性は、この第2の帰還回路のパラメータを変更することで変えることができる。例えば、第2の帰還回路を2段のエミッタ接地増幅器により構成した場合には、エミッタ接地増幅器を構成するコレクタ端子に接続される抵抗RD2,RD3、エミッタ端子に接続される抵抗RE2,RE3や容量CE2,CE3等の回路定数を変更することによって負性抵抗の周波数特性を変更することができる。
【0116】
このパラメータの変更において、これら抵抗を並列接続した複数の抵抗をスイッチ手段を介して接続・切断自在に構成しておき、スイッチ手段の切り換えによって接続する抵抗値を選択することで、負性抵抗の周波数特性(負性抵抗のピークとなる周波数と大きさ)を選択することができる。
【0117】
例えば、無線LANにおいて使用される900MHzと1.2GHzの発振周波数を一つの発振回路で切り換えて出力することができる。
【0118】
図14に示す周波数特性は、300MHz,600MHz,900MHz,1.2GHzで設計した場合のシミュレーション結果である。
【0119】
回路定数の設定により、2.0GHzまで十分な負性抵抗を得る構成を設計することができる。
【0120】
次に、図15,図16を用いて第2の形態について説明する。第2の形態は、帰還容量として、発振段トランジスタのコレクタ・ベース間容量を帰還容量CF´として用い、第2の帰還回路の出力端子を上記帰還容量CF´とは異なる容量(十分大きい結合容量)C31を介して発振段トランジスタのコレクタ端子に接続し、コレクタ端子からコレクタ・ベース間容量を介してベース端子に電流帰還する形態であり、コレクタ経由のベース帰還型の形態である。
【0121】
図15は第2の形態の回路構成例を示し、図16は第2の形態の回路構成例による負性抵抗の周波数特性を示している。
【0122】
図15の回路構成例は前記した図13の回路構成例とほぼ同様であり、第2の帰還回路を2段のエミッタ接地増幅器により構成している。図13に示す第1の形態の回路構成との相違は、2段目のエミッタ接地増幅器の出力電流を容量C31を介して発振段トランジスタであるトランジスタQ1のコレクタ端子に帰還し、このコレクタ端子には負荷抵抗Rcとして抵抗RD1を接続している点である。ここで、容量C31は、直流を遮断する交流結合容量であり、例えば、100pF〜1000pF程度の大きい容量が望ましい。なお、この場合には、抵抗RD1は必須である。
【0123】
図15に示す回路構成例では、図13と同様に、第2の帰還回路を2段のエミッタ接地増幅器により構成している。1段目のエミッタ接地増幅器の入力端はトランジスタQ1のエミッタ端子に接続され、2段目のエミッタ接地増幅器の出力端は容量C31を介してトランジスタQ1のコレクタ端子に接続される。2段のエミッタ接地増幅器の出力電流は発振段のトランジスタQ1のコレクタ端子から、ベース・コレクタ間容量を介してベース端子に帰還される。
【0124】
また、負性抵抗の周波数特性は、前記回路構成例と同様に、第2の帰還回路のパラメータを変更することで変えることができ、例えば、第2の帰還回路を2段のエミッタ接地増幅器により構成した場合には、エミッタ接地増幅器を構成するコレクタ端子に接続される抵抗RD2,RD3、エミッタ端子に接続される抵抗RE2,RE3や容量CE2,CE3等の回路定数を変更することによって負性抵抗の周波数特性を変更することができる。
【0125】
また、パラメータの変更において、これら抵抗を並列接続した複数の抵抗をスイッチ手段を介して接続・切断自在に構成し、スイッチ手段の切り換えによって接続する抵抗値を選択することで、負性抵抗の周波数特性を選択することができる。
【0126】
図16に示す周波数特性は、300MHz,600MHz,900MHz,1.2GHzで設計した場合のシミュレーション結果である。
【0127】
回路定数の設定により、2.0GHzまで十分な負性抵抗を得る構成を設計することができる。
【0128】
次に、図17〜図19を用いて第3の形態について説明する。第3の形態は、第2の帰還回路は共振特性を備える形態である。
【0129】
図17は第3の形態の回路の概略図を示し、図18は第3の形態の回路構成例を示し、図19は第3の形態の回路構成例による負性抵抗の周波数特性を示している。
【0130】
図17の回路構成の概略は前記した図1の回路構成例において、第2の帰還回路に共振特性を持たせたものであり、図18はその一例としての回路構成例である。この回路構成において、インダクタンスと容量の並列回路Bを付加することによって共振特性を持たせることができる。この回路構成においても、2段のエミッタ接地増幅器からなる第2の帰還回路の出力は、発振段トランジスタのベース端子に帰還されている。
【0131】
この回路構成によれば、共振特性によって負性抵抗のピークが得られる周波数域を狭帯域とすることができる。
【0132】
図18の回路構成例は、第2の形態の図15で示した回路構成にも適用することができる。
【0133】
また、第2の帰還回路は複数の共振特性を切り換え自在に備えることができ、発振周波数を切り換えて多周波切り換えを行うことができる。
【0134】
図19に示す周波数特性は、Q=20として設計した場合のシミュレーション結果である。
【0135】
前記第1の形態の図14及び第2の形態の図16に示すシミュレーション結果と比較すると、負性抵抗のピークの周波数帯域を狭帯域にできることがわかる。
【0136】
次に、図20を用いて第4の形態について説明する。第4の形態は、第2の帰還回路を差動型帰還回路で構成する形態である。図20(a)は第4の形態の回路の概略図を示し、図20(b)は第4の形態の回路構成例を示している。
【0137】
図20(a)の回路構成例は前記した図1の回路構成例において、第2の帰還回路を差動型帰還回路で構成したものであり、図20(b)その一例としての回路構成例である。
【0138】
差動型帰還回路によれば、差動出力を得ることができる他、同相雑音を除去することができる。また、エミッタ接地を2段接続した回路と比較して位相雑音を改善することができる。
【0139】
なお、図20(b)において、差動出力は、差動ぺアの2つのトランジスタのコレクタ端子あるいは、図中で四角で示した負荷から取り出すことができる。
【0140】
次に、本発明の第1の形態、第2の形態、通常のコルピッツ発振回路、及び非特許文献3で提案される回路例において負性抵抗を図21を用いて比較する。なお、第2帰還回路の効果を明確に比較するため、これらの回路において発振段(すなわち通常のコルピッッ発振回路部分)の回路素子値は等しくしてある。
【0141】
図21に示す各構成例によるシミュレーション結果を比較すると、負性抵抗の大きさは、本発明の第1の形態(図中Base FBで示す)、第2の形態(図中Collector FBで示す)、非特許文献3で提案されるエミッタ・ホロワによる回路例(図中Followerで示す)、通常のコルピッツ発振回路(図中でcolpittsで示す)の順であり、本発明の構成とすることで十分に大きな負性抵抗を得ることができる。
【0142】
次に、ベース・コレクタ間容量による影響のシミュレーション結果について図22〜図24を用いて説明する。
【0143】
図22は本発明の第1の形態でのベース・コレクタ間容量による影響のシミュレーション結果である。ここでは、ベース・コレクタ間容量による影響を調べるために、ベース・コレクタ間容量を取り除いた場合(図中のCjc=0の場合)と、存在する場合(図中のCjc=0.16pの場合)とを比較して示している。なお、ここではRc=0でありミラー効果はない。
【0144】
シミュレーション結果によれば、ベース・コレクタ間容量を介して帰還信号がベース端子に注入される効果により、ベース・コレクタ間容量が存在する場合の方が大きな負性抵抗が得られる。
【0145】
図23は本発明の第2の形態でのベース・コレクタ間容量による影響のシミュレーション結果である。ここでも、ベース・コレクタ間容量による影響を調べるために、ベース・コレクタ間容量を取り除いた場合(図中のCjc=0の場合)と、存在する場合(図中のCjc=0.16pの場合)とを比較して示している。なお、ここでは負荷抵抗Rが接続されているためミラー効果があり、これにより負性抵抗は図22で示した第1の形態と比較して小さい。また、シミュレーション結果によれば、ベース・コレクタ間容量を介して帰還信号がベース端子に注入される効果により、ベース・コレクタ間容量が存在する場合の方が大きな負性抵抗が得られる。
【0146】
図24は非特許文献3で提案されるエミッタ・ホロワによる回路例でのベース・コレクタ間容量による影響のシミュレーション結果である。
【0147】
このシミュレーション結果によれば、ベース・コレクタ間容量による変化は少ない。すなわち、エミッタ・ホロワ増幅器により、発振段トランジスタのエミッタ端子とコレクタ端子の電圧がほぼ等しい値に設定され、負性抵抗の大きさが容量CBの 容量性の電圧より十分大きいことから、インダクタンスの両端の電圧がほぼ負性抵抗の電圧と等しくなっており、従って、トランジスタQ1のベースの電圧とコレクタの電圧がほぼ等しくなり、ベース・コレクタ容量の影響による負性抵抗の減少を低減する回路となっていると考えられる。
【0148】
次に、本発明の発振回路の電圧制御発振回路への適用について図25を用いて説明する。電圧制御発振回路は、通常、インダクタンスLと能動回路との間に可変容量Csを挿入することにより周波数を変化させる。
【0149】
発振周波数は、可変容量Csと能動回路の等価容量Ciとの直列容量とインダクタンスLによって決まる。従って、等価容量Ciが小さい場合には、可変容量Csと等価容量Ciとの直列容量は主に等価容量Ciによって決まるため、可変容量Csを変えても発振周波数の変化は小さい。従って、本発明の発振回路により負性抵抗を大きくとることによって、CA,CBを大きくすることによる負性抵抗の減少分を補うことができる。
【0150】
これにより、発振のし難さや変動による発振停止といったこと無く、周波数の可変量をとることができる。
【0151】
可変容量Csは通常バリキャップを用いて構成するが、このバリキャップは容積や特性等の問題から集積化に不適であり、また、発振周波数制御の直線性の点からも周波数制御に不適である。これに対して、本発明の発振回路によれば、第2の帰還回路により等価容量Ciを直接変えることで、バリキャップ等の可変容量を用いることなく周波数を変えることができる。
【0152】
図26は圧電振動子などの共振子を用いた電圧制御発振回路の構成例であり、伸張用コイルを備える例である。なお、図26(b)は共振子の等価回路である。
【0153】
インダクタンスに代えて圧電振動子を備えた電圧制御発振回路において、発振周波数の可変範囲を大きくとるためにはCiの影響を小さくする必要がある。通常、Ciの影響を小さくするため、伸張コイルを振動子を直列に挿入しているが、本発明の能動回路(第2の帰還回路)の等価容量を誘導性とすることで電圧制御発振回路の伸張用コイルに代えることができる。伸張用コイルを不要とする構成、あるいは、伸張用コイルを小さくすることができる。これによって、回路構成を小型とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0154】
本発明は、無線システムの発振器、SONET/SDHなどの光伝送システムの発振器、ハイビジョンカメラなどの基準周波数源、無線LAN、UWBなどの発振器に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0155】
【図1】本発明の発振回路の基本的な回路構成を示す図である。
【図2】図1の回路において交流信号のみについて着目した回路構成を示す図である。
【図3】図2の回路構成を2ポート型に書き換えた回路構成を示す図である。
【図4】本発明の発振回路の基本的な回路構成の簡略化した等価回路を示す図である。
【図5】本発明の発振回路の基本的な回路構成の2ポート型の簡略化した等価回路を示す図である。
【図6】本発明の第2の帰還回路H2の効果を説明するためのベクトル図である。
【図7】通常のコルピッツ発振回路において、容量CAを変化させたときの負性抵抗の周波数特性を示す図である。
【図8】本発明のベース帰還型の回路構成を説明するための図である。
【図9】本発明の発振回路の構成において、負性抵抗のピーク周波数が300MHzとなるように設計したシミュレーション結果を示す図である。
【図10】本発明の発振回路において、負性抵抗と第2の帰還回路の相互コンダクタンスgmとの関係を説明する図である。
【図11】第2の帰還回路H2の相互コンダクタンスgmを変化したときの、等価リアクタンスの周波数特性を示す図である。
【図12】負荷抵抗Rcによる影響を説明するための図である。
【図13】第1の形態の回路構成例を示す図である。
【図14】第1の形態の回路構成例による負性抵抗の周波数特性を示す図である。
【図15】第2の形態の回路構成例を示す図である。
【図16】第2の形態の回路構成例による負性抵抗の周波数特性を示す図である。
【図17】第3の形態の回路の基本的な回路構成を示す図である。
【図18】第3の形態の回路構成例を示す図である。
【図19】第3の形態の回路構成例による負性抵抗の周波数特性を示す図である。
【図20】第4の形態を説明するための図である。
【図21】第1の形態、第2の形態、通常のコルピッツ発振回路、及び非特許文献3で提案される回路例の負性抵抗を比較するための図である。
【図22】本発明の第1の形態でのベース・コレクタ間容量による影響のシミュレーション結果である。
【図23】本発明の第2の形態でのベース・コレクタ間容量による影響のシミュレーション結果である。
【図24】非特許文献3で提案されるエミッタ・ホロワによる回路例でのベース・コレクタ間容量による影響のシミュレーション結果である。
【図25】本発明の発振回路の電圧制御発振回路への適用を説明するための図である。
【図26】圧電振動子などの共振子を用いた電圧制御発振回路の構成例である。
【図27】非特許文献3の発振回路を示す図である。
【符号の説明】
【0156】
A…発振段
Q1…発振段トランジスタ
H1…第1の帰還回路
H2…第2の帰還回路
CF…帰還容量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力から入力への帰還増幅によって発振を行う発振回路において、
前記発振のための第1の帰還と、振幅及び位相推移を行う第2の帰還の二重帰還を行うことを特徴とする発振回路。
【請求項2】
コルピッツ発振回路が備える負性抵抗を生成する第1の帰還回路と、当該コルピッツ発振回路の発振段トランジスタのエミッタ端子からベース端子に電流帰還する第2の帰還回路とを備えたことを特徴とする発振回路。
【請求項3】
前記エミッタ端子から第2の帰還回路さらに帰還容量を介してベース端子に電流帰還することを特徴とする請求項2に記載の発振回路。
【請求項4】
前記第2の帰還回路は能動回路を備え、当該能動回路が備える増幅特性及び位相推移特性により負性抵抗及び/又は等価リアクタンス成分を変更することを特徴とする請求項2又は3に記載の発振回路。
【請求項5】
前記第2の帰還回路による負性抵抗及び/又は等価リアクタンス成分の変更と、コルピッツ発振回路の周波数を決定する容量とは独立であることを特徴とする請求項4に記載の発振回路。
【請求項6】
前記帰還容量は、第2の帰還回路が備える容量要素であり、当該容量要素を前記第2の帰還回路の出力端子と発振段トランジスタのベース端子との間に接続することを特徴とする請求項3乃至5の何れかに記載の発振回路。
【請求項7】
前記帰還容量は、発振段トランジスタのコレクタ・ベース間容量であり、前記エミッタ端子を第2の帰還回路を介して発振段トランジスタのコレクタ端子に接続することを特徴とする請求項3乃至6の何れかに記載の発振回路。
【請求項8】
前記発振トランジスタのコレクタ端子と電源とを直接に接続することを特徴とする請求項6に記載の発振回路。
【請求項9】
前記発振トランジスタのコレクタ端子と電源との間に負荷抵抗を接続することを特徴とする請求項6又は7に記載の発振回路。
【請求項10】
前記第2の帰還回路は、2段のエミッタ接地増幅器により構成することを特徴とする請求項6乃至9の何れかに記載の発振回路。
【請求項11】
前記第2の帰還回路は共振特性を備えることを特徴とする請求項2乃至5の何れかに記載の発振回路。
【請求項12】
前記第2の帰還回路は複数の共振特性を切り換え自在に備えることを特徴とする請求項11に記載の発振回路。
【請求項13】
前記第2の帰還回路は差動型帰還回路であることを特徴とする請求項2乃至5の何れかに記載の発振回路。
【請求項14】
前記発振段トランジスタは、バイポーラトランジスタ又はMOSトランジスタであることを特徴とする請求項2乃至13の何れかに記載の発振回路。
【請求項15】
前記発振を行う発振段にインバータ発振器を用いたことを特徴とする請求項1に記載の発振回路。
【請求項16】
発振段の発振要素としてインダクタンス又は共振子を備えることを特徴とする請求項1乃至15の何れかに記載の発振回路。
【請求項17】
前記共振子は、水晶振動子、セラミック振動子、弾性表面波振動子、端面反射振動子、バルク振動子の何れかの圧電振動子、又は誘電体共振器であることを特徴とする請求項16に記載の発振回路。
【請求項18】
インダクタンスと伸張用コイルと容量を備え、
前記容量を前記請求項1乃至17の何れかに記載の発振回路の能動回路の等価容量とし、当該等価容量を可変とすることにより、周波数を制御することを特徴とする電圧制御発振回路。
【請求項19】
インダクタンスに代えて共振子を備え、電圧制御発振回路の伸張用コイルの一部又は全部に代えて能動回路の等価リアクタンス分を誘導性とすることを特徴とする請求項18に記載の電圧制御発振回路。
【請求項20】
前記共振子は、水晶振動子、セラミック振動子、弾性表面波振動子、端面反射振動子、バルク振動子の何れかの圧電振動子、又は、誘電体共振器であることを特徴とする請求項19に記載の電圧制御発振回路。
【請求項21】
前記請求項1乃至17の何れかに記載の発振回路の能動回路の等価容量又はインダクタンスを、発振回路の周波数温度特性に応じて可変とすることにより、周波数温度特性の補償を行うことを特徴とする温度補償発振回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2006−60687(P2006−60687A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−242394(P2004−242394)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年6月24日 社団法人電気学会主催の「電気学会研究会」において文書をもって発表
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】