説明

発振装置および車載レーダ装置

【課題】温度変化に対して発振周波数が安定である発振装置を提供すること。
【解決手段】所定の周波数で発振する発振装置10において、増幅素子を有し、当該増幅素子の動作点によって発振周波数が変化する発振回路11と、温度に応じて発振回路の動作点を調整することにより、発振回路の温度による発振周波数のずれを調整する調整回路15と、を有することを特徴とする発振装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振装置および車載レーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来において、高周波帯域(例えば、準ミリ波またはミリ波帯域)の発振を行うための発振装置としては、例えば、特許文献1に示すような技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−110338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示された技術では、環境温度が変化した場合に、発振周波数が変化してしまう。このような環境温度の変化による発振周波数の変化は、温度変化が激しい車両に車載レーダ装置を搭載した場合、レーダ特性の安定性や、検出精度に影響が出るといった問題がある。
【0005】
そこで、本発明は温度変化に対して発振周波数が安定である発振装置および車載レーダ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、所定の周波数で発振する発振装置において、増幅素子を有し、当該増幅素子の動作点によって発振周波数が変化する発振回路と、温度に応じて前記発振回路の動作点を調整することにより、前記発振回路の温度による発振周波数のずれを調整する調整回路と、を有することを特徴とする。
このような構成によれば、温度変化に対して発振周波数が安定である発振装置を提供することができる。
【0007】
また、他の発明は、上記発明に加えて、前記発振回路は、トランジスタを前記増幅素子として有し、前記トランジスタの出力信号を前記トランジスタの入力側端子に帰還することで発振回路を構成し、前記調整回路は、前記トランジスタのバイアス電圧を調整することにより動作点を調整し、発振周波数を調整することを特徴とする。
このような構成によれば、温度に対する安定性が高い高周波帯域の発振装置を得ることができる。
【0008】
また、他の発明は、上記発明に加えて、前記調整回路は、温度により抵抗値が変化するサーミスタおよび抵抗素子によって構成されることを特徴とする。
このような構成によれば、簡単な回路構成によって、温度変化による発振周波数の変化を効率良く抑制することができる。
【0009】
また、他の発明は、上記発明に加えて、温度変化をΔT[℃]とし、前記発振回路の温度変化による発振周波数の変化の割合をA[Hz/℃]とし、前記調整回路による動作点の変化に基づく前記発振回路の発振周波数の変化の割合をB[Hz/V]とし、前記調整回路による動作点の調整量をΔVtuneとしたとき、以下の式が成立する、ΔT=(B/A)×ΔVtuneことを特徴とする発振装置。
このような構成によれば、調整回路のパラメータを簡単に求めることができる。
【0010】
また、他の発明は、前述の発振装置を有する車載レーダ装置である。
このような構成によれば、温度変化が激しい車両に搭載した場合であっても特性が安定し、かつ、検出精度が高い車載レーダ装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、温度変化に対して発振周波数が安定である発振装置および車載レーダ装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態に係る発振装置の構成例を示す図である。
【図2】(A)は図1に示す第1実施形態の温度と発振周波数の関係の一例を示し、(B)はバイアス電圧と発振周波数の関係の一例を示す図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る発振装置の構成例を示す図である。
【図4】図3に示す第2実施形態の温度と発振周波数の関係の一例を示す図である。
【図5】図3に示す第2実施形態のバイアス電圧と発振周波数の関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態について説明する。
【0014】
(A)第1実施形態の構成の説明
図1は、本発明の第1実施形態に係る発振装置の構成例を示す図である。この図1に示すように、発振装置10は、発振回路11、抵抗素子12,13、および、サーミスタ14を有している。
【0015】
ここで、発振回路11は、出力端子とバイアス端子とを有しており、バイアス端子に印加される電圧に応じた周波数で発振し、発振信号を出力端子から出力する。一例として、発振回路11は、環境温度が上昇すると発振周波数が減少し、環境温度が下降すると発振周波数が増加する特性を有している。また、発振回路11は、バイアス端子に印加されるバイアス電圧が上昇すると発振周波数が増加し、バイアス電圧が下降すると発振周波数が減少する特性を有している。なお、発振回路11の温度による発振周波数の特性、バイアス電圧による発振周波数の特性は前記各特性の逆特性であってもよく、本案件の特許性を限定するものではない。
【0016】
一例として、抵抗素子13は、一方の端子がサーミスタ14の一方の端子と接続され、他方の端子が接地されている。サーミスタ14は、一方の端子が抵抗素子13の一方の端子と接続され、他方の端子が接地されている。抵抗素子12は、一方の端子がサーミスタ14および抵抗素子13の一方の端子にそれぞれ接続され、他方の端子が電源Vcに接続されている。なお、これら抵抗素子12,13およびサーミスタ14によって温度補償回路15が構成される。なお、サーミスタ14は、温度上昇に伴って抵抗値が増加するPTC(Positive Temperature Coefficient)特性を有している。このため、温度補償回路15から出力される電圧は、温度が上昇するとそれに応じて増加する。なお、発振回路11の温度による発振周波数の特性、バイアス電圧による発振周波数の特性によっては、サーミスタ14は温度上昇に伴って抵抗値が減少するNTC(Negative Temperature Coefficient)特性を有していてもよい。また、抵抗素子の配置も一例であり、本案件の特許性を限定するものではない。
【0017】
(B)第1実施形態の動作の説明
つぎに、以上の第1実施形態の動作について説明する。図2(A)は発振回路11の発振周波数の変動量と、装置温度の変化量との関係を示す図である。この図に示すように、発振回路11は、装置の温度が上昇すると、発振周波数が減少する特性を有している。また、図2(B)は、発振回路11のバイアス端子に印加される電圧と、発振周波数との関係を示す図である。この図に示すように、発振回路11は、バイアス端子に印加される電圧が上昇すると、発振周波数が増加し、バイアス端子に印加される電圧が下降すると、発振周波数が減少する。また、サーミスタ14は、温度が上昇すると抵抗値が増加するので、温度補償回路15から出力される電圧は、温度が上昇すると増加する。
【0018】
ここで、発振装置10の各パラメータは、温度変化をΔT[℃]とし、図2(A)に示す発振回路11の温度変化による発振周波数の変化の割合をA[Hz/℃]とし、図2(B)に示す発振回路11のバイアス端子に印加する電圧と発振周波数の変動化の割合をB[Hz/V]とし、バイアス端子に印加する電圧の変化量をΔVtuneとしたとき、これらの間には以下の式(1)が成立する。
ΔT=(B/A)×ΔVtune ・・・(1)
【0019】
温度補償回路15としては、以下の式(2)が成立するように、抵抗素子12,13およびサーミスタ14が設定されている。
ΔVtune/ΔT=A/B ・・・(2)
【0020】
このため、温度がΔT変化すると、発振回路11の発振周波数はA×ΔT変化する。温度補償回路15は、この温度変化によって電圧ΔVtune=A/B×ΔTを出力する。発振回路11はバイアス電圧がΔVtune変化すると、動作点の変化によって、発振周波数がB×ΔVtune変化する。このため、発振回路11の発振周波数はA×ΔT変化する。これにより、前述した温度がΔT変化したことによる発振周波数のA×ΔTの変化が相殺されるので、温度が変化しても発振周波数は変化しない。
【0021】
以上に説明したように、第1実施形態では、動作点の変化によって発振周波数が変化する発振回路11に対して、抵抗素子12,13およびサーミスタ14によって構成される温度補償回路15を付加し、これによって温度補償を行うようにしたので、簡単な回路構成により、発振周波数がずれることを防止できる。
【0022】
また、以上の第1実施形態では、抵抗素子12,13およびサーミスタ14によってハードウエア的に、温度補償を行うようにしたので、ソフトウエア的に温度補償を行う場合に比較して、例えば、中央制御装置および記憶装置等を省略することにより、装置の構成を簡略化し、製造コストを低減することができる。
【0023】
(C)第2実施形態の構成の説明
つぎに、第2実施形態について説明する。図3は第2実施形態の構成例を示す図である。この図に示すように、第2実施形態の発振装置20は、増幅素子21、ループ回路22、サーミスタ23、抵抗素子24,25、および、バイアス回路26,27を有している。
【0024】
ここで、増幅素子21は、例えば、高電子移動度トランジスタ(HEMT(High Electron Mobility Transistor))または電界効果トランジスタ(FET(Field Effect Transistor))等によって構成されている。増幅素子21は、ソース端子が接地され、ドレイン端子がバイアス回路27を介して電源Vdに接続されている。また、ゲート端子は、ループ回路22の出力端に接続され、バイアス回路26を介して、抵抗素子25、サーミスタ23のそれぞれの一方の端子に接続されている。
【0025】
ループ回路22は、入力端がバイアス回路27の他端に接続され、出力端が増幅素子21のゲート端子に接続されている。ループ回路22は、バイアス回路27を介して出力される出力信号のうち発振周波数に該当する信号を増幅素子21のゲート端子に帰還する。
【0026】
サーミスタ23は、正の温度特性を有するPTC型の特性を有しており、温度変化に応じてその抵抗値が変化する。サーミスタ23の一方の端子は増幅素子21のゲート端子に接続され、他方の端子は接地されている。抵抗素子25はサーミスタ23と並列に接続されている。抵抗素子24は、一方の端子がバイアス回路26を介して増幅素子21のゲート端子に接続され、他方の端子が電源Vgに接続されている。なお、増幅素子21、及びループ回路22、バイアス回路26,27は発振回路34を構成し、サーミスタ23および抵抗素子24,25は温度補償回路35を構成する。
【0027】
バイアス回路26は例えば、マイクロストリップラインやチップ部品によって構成され、一方の端子が増幅素子21のゲート端子に接続され、他方の端子が抵抗素子24の一方の端子に接続されている。なお、バイアス回路26は直流成分を遮断し、発振周波数成分を増幅素子21のゲート端子に対して出力する機能や、増幅素子21のゲート端子から電源Vg側に流出する発振周波数の信号を防止する機能、および高周波信号をグランドに対して逃がす機能などを有している。
【0028】
バイアス回路27は、バイアス回路26と同様に、マイクロストリップラインまたはチップ部品によって構成され、増幅素子21のドレイン端子に接続されている。なお、バイアス回路27は直流成分を遮断し、発振周波数成分を図示しない後段の回路およびループ回路22に対して出力する機能や、増幅素子21のドレイン端子から電源Vd側に流出する発振周波数の信号を防止する機能、および、高周波信号をグランドに対して逃がす機能などを有している。
【0029】
(D)第2実施形態の動作の説明
つぎに、図4,5を参照して、図3に示す第2実施形態の動作について説明する。図4は、図2(A)に対応する図であり、第2実施形態の温度と発振周波数の変化を示す図である。図5は、図B(A)に対応する図であり、第2実施形態の電圧調整量と発振周波数の変動量との関係を示す図である。以下、具体的に説明する。
【0030】
図4から、第2実施形態の温度変化による発振周波数の変化の割合A[GHz/℃]は、−0.0024である。また、図5から、第2実施形態のバイアス電圧の変化による発振周波数の変化の割合B[GHz/V]は、0.29である。したがって、温度補償回路35は、ΔVtune/ΔT=A/B=−0.0082[V/℃]が成立するように素子値を設定する。
【0031】
このように設定することで、第1実施形態の場合と同様に、温度変化によって発振周波数が変化すると、これを打ち消すようにバイアス電圧が調整されて発振周波数の変化が相殺される。以下に具体的に説明する。
【0032】
図4に示すように、発振装置20の温度が変化すると、図4に示すように、温度の変化に応じて発振周波数が変化する。例えば、温度が20[℃]上昇すると、発振周波数が約0.05[GHz]減少する(図4参照)。ここで、温度補償回路35は、前述したように、ΔVtune/ΔT=0.0082[V/℃]に設定されている。このため、温度が20[℃]上昇すると、電圧ΔVtuneが約0.164[V]増加する。ΔVtuneが約0.164[V]増加すると、増幅素子21のゲート端子に印加される電圧(バイアス電圧)が上昇する。すると、増幅素子21の動作点が変化し、発振周波数が変化(上昇)する。なお、この周波数の上昇は、図5に示すように約0.05[GHz]であるので、温度上昇による発振周波数の減少を打ち消す分だけ、発振周波数が増加され、発振周波数は変化しない。
【0033】
以上に説明したように、第2実施形態では、温度変化によって発振装置20の発振周波数が変化した場合には、温度補償回路35によって増幅素子21のバイアス電圧を変化させることで動作点を調整し、温度変化による周波数の変化を打ち消すように発振周波数を変化させるようにした。これにより、簡単な回路構成によって、発振装置20の温度補償を行うことができる。
【0034】
また、第2実施形態では、サーミスタ23および抵抗素子24,25によってハードウエア的に温度補償を行うようにしたので、ソフトウエア的に温度補償を行う場合に比較して、例えば、中央処理装置や記憶装置のようなハードウエアを不要とすることができるので、回路構成を単純化することができる。
【0035】
(E)変形実施形態の説明
以上の実施形態は一例であって、本発明が上述したような場合のみに限定されるものでないことはいうまでもない。例えば、以上の各実施形態では、高電子移動度トランジスタまたは電界効果トランジスタを増幅素子として用いるようにしたが、これら以外の増幅素子(例えば、MMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)等)を用いることも可能である。
【0036】
また、以上の第2実施形態では、増幅素子21のゲート端子に印加する電圧を変化させて発振周波数を調整するようにしたが、例えば、ソース端子に印加される電圧を調整することで、動作点を変化させて発振周波数を調整するようにしてもよい。その場合、図3に示す回路において、サーミスタ23および抵抗素子24,25をゲート端子から除外してゲート端子に電源Vgを直接接続するとともに、増幅素子21のソース端子とグランドの間に並列接続した抵抗素子25とサーミスタ23を接続するようにすればよい。なお、素子値の設定方法については前述した場合と同様である。
【0037】
また、以上の実施形態では、発振装置単体の構成を示したが、これらの発振装置から出力される発振信号を電波として送信して対象から反射された電波を検出し、送信信号と受信信号の時間差および周波数差等に基づいて、対象の位置や速度を検出するレーダ装置に本発明の発振装置を適用することも可能である。その場合、例えば、車載レーダ装置の場合、環境温度などによって発振装置の温度が大幅に変化する場合があるが、そのような場合であっても、常に一定の周波数で発振することができるので、精度良く対象を検出することができる。
【符号の説明】
【0038】
10 発振装置
11 発振回路
12,13 抵抗素子
14 サーミスタ
15 温度補償回路
20 発振装置
21 増幅素子
22 ループ回路
23 サーミスタ
24,25 抵抗素子
26,27 バイアス回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の周波数で発振する発振装置において、
増幅素子を有し、当該増幅素子の動作点によって発振周波数が変化する発振回路と、
温度に応じて前記発振回路の動作点を調整することにより、前記発振回路の温度による発振周波数のずれを調整する調整回路と、
を有することを特徴とする発振装置。
【請求項2】
前記発振回路は、トランジスタを前記増幅素子として有し、前記トランジスタの出力信号を前記トランジスタの入力側端子に帰還することで発振回路を構成し、
前記調整回路は、前記トランジスタのバイアス電圧を調整することにより動作点を調整し、発振周波数を調整する、
ことを特徴とする請求項1記載の発振装置。
【請求項3】
前記調整回路は、温度により抵抗値が変化するサーミスタおよび抵抗素子により構成されることを特徴とする請求項1または2に記載の発振装置。
【請求項4】
温度変化をΔT[℃]とし、前記発振回路の温度変化による発振周波数の変化の割合をA[Hz/℃]とし、前記調整回路による動作点の変化に基づく前記発振回路の発振周波数の変化の割合をB[Hz/V]とし、前記調整回路による動作点の調整量をΔVtuneとしたとき、以下の式が成立する、
ΔT=(B/A)×ΔVtune
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の発振装置。
【請求項5】
請求項1乃至4の発振装置を有する車載レーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−211855(P2012−211855A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78140(P2011−78140)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】