説明

皮膚を保護するための組成物

皮膚を保護するための組成物とその用途が開示されている。 この組成物は、スフィンゴミエリンを活性成分として含有しており、また、皮膚の老化を阻害し、皮膚の外傷を治癒せしめ、そして、皮膚バリアを改善することによって、皮膚を保護する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、皮膚を保護するための組成物、特に、皮膚のバリア機能を改善し、皮膚の老化を阻害し、そして、皮膚に生じた外傷を治療するための組成物に関する。 具体的には、本願発明は、スフィンゴミエリンを含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
スフィンゴミエリンとは、スフィンゴ脂質の一種であって、以下の式で表される。
【0003】
【化1】

スフィンゴミエリンは、細胞膜を構成している脂質成分の内でも、リン脂質と共に最も豊富に存在する脂質であって、ある組織においては、細胞膜の約50%を占めることもある。 脳組織の場合、総脂質の約10%を占め、赤血球では、フォスファチジルコリンに代わって、最も多量に存在することが知られている。 スフィンゴミエリンは、植物や微生物には存在せず、専ら、動物にのみ存在する成分であって、スフィンゴミエリンを構成する主な長鎖塩基として、スフィンゴシンとスフィンガニンがある。 通常、脂肪酸としては、長鎖飽和脂肪酸や、一つの二重結合を有する不飽和脂肪酸がある。 以下の表1および表2からも明らかなように、スフィンゴミエリンの種類は、その基本構造(スフィンゴシン、スフィンガニン、フィトスフィンゴシンなど)の種類や、これらに結合する脂肪酸の種類によって多様に変化するものであって、多岐に亘っており、ヒトの細胞や組織内にも多様に分布している。 このことは、様々なスフィンゴミエリンの分解産物が存在し、また、様々な信号伝達を可能にすることを示唆している。 以下の表1は、スフィンゴミエリンを構成する脂肪酸を、重量%で示している(Ramstedt, B., Leppimaki, P., Axberg,M. and Slotte, J.P., 'Analysis of natural and synthetic sphingomyelins using high-performance thin-layer chromatography', Eur. J. Biochem., 266, pp. 997-1002 (1999))。
【0004】
【表1】

以下の表2は、スフィンゴミエリンを構成する長鎖塩基を、重量%で示している(Ramstedt, B. et al., Eur. J. Biochem., 266, pp.997-1002 (1999))。
【0005】
【表2】

近年になって、スフィンゴミエリンおよびコレステロールの双方が、ラフツ(rafts)と称されている特異的な下部ドメインに存在していることが明らかにされている。 いずれか一方の脂質が減少するに従って、他方の脂質も減少することから、スフィンゴミエリンは、細胞膜がコレステロールを吸収する能力を調節する重要な機能を果たしているものと考えられる。
【0006】
スフィンゴミエリンは、主として、長鎖の飽和アシル鎖を有しているので、細胞膜では、グリセロリン脂質よりも高い融点を示し、硬質の細胞膜を構成する。 このような硬質のアシル鎖は、ラフツ構成に欠かせない要素であり、また、スフィンゴ脂質とリン脂質との間で認められるパッキング機能の差異は、細胞膜の相分離を形成を促す上で重要な物理的な特性を付与する。 この現象によって、スフィンゴ脂質に富んだラフツ(「規則系液」相)と、これを包囲しているグリセロリン脂質に富んだドメイン(「不規則系液」相)がもたらされる。 スフィンゴ脂質に富んだラフツは、界面活性剤に対して相対的に大きな抵抗性を示し、相対的に小さな(50nmの直径を有し、かつ約3,000個のスフィンゴミエリン分子からなる)ラフツを形成する。 細胞内のいくつかのタンパク質が、このようなラフツと相互作用することは、細胞内の信号伝達メカニズムにおいて、極めて重要な意味を有する。
【0007】
一般的に、老化は、光老化と自然老化とに大別される。 自然老化とは、身体の衰えに伴う皮膚の構造的および機能的な代謝変化を指す。 一般的に、皮膚が乾燥して薄くなり、また、コラーゲンの生成量が減少すると、皺(シワ)ができやすくなり、皮膚の弾力もなくなってくる。 さらに、異常な血管形成が進行し、また、黒点(シミ)などを形成する色素沈着も増える。 光老化は、皮膚のコラーゲン、弾性繊維の損傷を引き起こす。 日光への露出の度合いに比例して、シワの量は増大し、また、コラーゲンと真皮の下方に位置する結合組織を分解するタンパク分解酵素の生成が活発化されるので、皮膚の損傷をも招くこととなる。
【発明の開示】
【0008】
本願発明は、日光から皮膚を保護しつつ、皮膚の物理的な損傷を迅速に回復させることを目的としている。 また、老化に伴って皮膚が乾燥および薄化し、しかも、コラーゲンの生成量が減少するに従って、シワが出現したり、皮膚の弾力性の喪失を予防および治療することを目的とする。 さらに、皮膚のバリア機能を改善することで、皮膚を保護することを目的とする。 加えて、皮膚の外傷を治癒せしめることも目的としている。
【0009】
前述した目的を達成するために、本願発明の皮膚を保護するための組成物は、スフィンゴミエリンを有効成分として含む。
【0010】
本願発明によれば、皮膚を保護するための組成物は、皮膚の老化を阻害して皮膚を保護するために使用される。
【0011】
本願発明によれば、皮膚を保護するための組成物は、皮膚の光老化を阻害して皮膚を保護するために使用される。
【0012】
本願発明によれば、皮膚を保護するための組成物は、外傷を治癒して皮膚を保護するために使用される。
【0013】
本願発明によれば、皮膚を保護するための組成物は、皮膚バリアを改善して皮膚を保護するために使用される。
【0014】
本願発明によれば、皮膚を保護するための組成物は、損傷した皮膚バリアを迅速に修復させるために使用される。
【0015】
本願発明によれば、皮膚を保護するための組成物は、アトピー性皮膚の治療のために使用される。
【0016】
本願発明によれば、皮膚を保護するための組成物は、シワ、皮膚の掻痒感および皮膚の柔軟性の改善、または角質の発生の予防のために使用される。
【0017】
本願発明によれば、スフィンゴミエリンは、生乳または生卵に由来する。
【0018】
本願発明によれば、皮膚を保護するための組成物は、経口投与用または局所塗布用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本願発明の前掲またはその他の目的、特徴部分、それに作用効果は、本願発明に関する以下の詳細な説明と、本願明細書に添付した図面を参照することで、明確に理解できるであろう。
【0020】
以下に、添付した図面を参照しつつ、本願発明を詳細に説明する。 以下の本願発明の説明において、本願発明の趣旨が不明確にならない限りにおいて、当該技術分野で周知の作用や態様にかかる記載を本願明細書では省略している。
【0021】
本願発明は、日光から皮膚を保護し、皮膚の物理的損傷を迅速に修復し、そして、皮膚の老化を阻害するためのスフィンゴミエリンの使用に関する。
【0022】
皮膚が紫外線に曝されて3〜4時間もすると、炎症反応が生じて、その結果、コラーゲンの合成が促される。 また、コラーゲン分解酵素やエラスチン分解酵素の活性も増えてしまうので、結果として、正常な皮膚に比べてコラーゲンやエラスチンの量が減少して、シワの形成に至ってしまう。
【0023】
光老化の進行に従って、表皮と真皮は薄くなってしまい、角質形成細胞および繊維芽細胞の減少を招く。 この現象は、表皮および真皮を構成する細胞の分裂頻度の減少に起因するものである。 スフィンゴ脂質は、この現象に関与している。 一方で、光老化に伴って、表皮と真皮とを結合する組織も影響を受けるので、表皮と真皮の支持機能も減退する。 また、スクリーニング透過機能も減退するので、有害物質が真皮まで伝わるといった悪影響も懸念される。 さらに、例えば、コラーゲンが糖と結合するなどして、変形されたコラーゲンおよびエラスチンが増えると、皮下機能の低下を招く。
【0024】
つまり、スフィンゴミエリンは、皮膚保護物質として機能するものであって、これにより、皮膚の代謝が活性化され、シワの形成も阻害されるのである。
【0025】
また、スフィンゴミエリンは、損傷した皮膚を迅速に修復して再生する上で有効である。
【0026】
本願発明で利用可能なスフィンゴミエリンとして、生乳(ミルク)または生卵から抽出されたものや、動物の脳組織や赤血球などから抽出されたものがある。
【0027】
本願発明の化合物は、経口、非経口、局所、経皮、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下などから投与できる。 活性化合物の投与量は、治療の対象、治療の対象となる特定の疾患または病理状態、疾患または病理状態の重篤度、投与経路、および処方者の判断によって決定される。 当業者であれば、これら要素に基づいて投与量を容易に決定することができる。 一般に、投与量は、0.01mg/kg/日〜2,000mg/kg/日の範囲とされる。 好ましい投与量は、0.5mg/kg/日〜2.5mg/kg/日である。
【0028】
本願発明の化合物は、薬学的に許容可能な担体と共に、薬学的組成物として調製することができる。 参照文献(Remington's Pharmaceutical Sciences, latest edition, by E.W. Martin (Merck Publ. Co., Easton, PA))には、典型的な担体と、本願発明の組成物を調製する上で使用可能な、周知の薬学的組成物の調製方法が示されている。 本願発明の組成物は、疾患の治療のために用いるその他の組成物と手順とを併用して投与することができる。 例えば、本願発明の組成物の投与と共に、放射線療法または化学療法を採用して治療することができる。
【0029】
目的とする投与態様に応じて、薬学的組成物を、固体、半固体または液体の形態とすることができる。 形態として、錠剤、丸剤、カプセル、座薬、小袋、顆粒、粉体、クリーム、ローション、軟膏、絆創膏、液剤、懸濁液、分散液、乳化剤、シロップなどがあるが、これらに限定されない。 活性成分を、リポソーム、微粒子、またはマイクロカプセルなどに封入することもできる。
【0030】
通常の無毒性担体として、マンニトール、ラクトース、澱粉、ステアリン酸マグネシウム、ナトリウムサッカリン、タルク、セルロース、グルコース、スクロース、デキストロース、グリセロール、炭酸マグネシウム、トリグルセリド、油脂、溶媒、滅菌水、および等張食塩水の薬学的等価物などがあるが、これらに限定されない。 錠剤、丸剤、顆粒などの固体組成物は、任意に、被覆加工することもできる。 通常は、静脈内投与のための組成物は、滅菌等張水性の緩衝液に溶解した溶液として調製されており、また、注射部位の痛みを緩和させるために局部麻酔剤を含んでいる。 必要に応じて、薬剤に、湿潤剤、乳化剤、pH緩衝剤などの少量の無毒性補助物質を加えることもできる。 このような補助物質として、酢酸ナトリウム、ソルビタンモノラウレート、トリエタノールアミン、およびトリエタノールアミンオレアートなどがあるが、これらに限定されない。 本願発明の組成物に、安定剤、抗酸化剤、結合剤、着色剤、香味剤、防腐剤および増粘剤などの賦形剤を加えることもできる。
【0031】
本願発明の組成物は、好ましくは、組成物全体の0.001重量%〜99重量%の量のスフィンゴミエリンを含む。 スフィンゴミエリンの含有量が0.001重量%未満であると、満足のゆく皮膚の保護効果が得られない。 また、その他の添加物や不純物の存在が故に、99重量%を超える量を含めることは困難である。
【実施例】
【0032】
本願発明の理解を促す目的で、本願発明の実施例を以下に示した。 これら実施例は、例示目的のものでしかなく、実施例の開示に基づいて、本願発明がいかなる限定も受けるものでもない。
【0033】
実施例1:スフィンゴミエリンの光老化の阻害効果(動物実験)
8〜9週齢の無毛マウスを、7日間にわたって馴養した。 体重増加が認められ、かつ健康上の異常が認められないマウスを選別した。 その後、紫外線照射器を用いて、選抜したマウスに、紫外線B(UV B)と紫外線A(UV A)を照射した。 紫外線照射は、約20J/cm3の照射量で、1週間に3回ずつ、3ヶ月間行った。 紫外線照射を行った後に、スフィンゴミエリン含有試料とスフィンゴミエリン不含試料を、背中の両側に満遍なく塗布した。
【0034】
試験物質として、1,3-ブチレングリコール:蒸留水:エタノールを、5:3:2の割合で混合して得た基材に0.5%の濃度に溶解して調製したものを用いた。
【0035】
実験が終了して3ヶ月が経過した時点で、皮膚のバリア機能を測定した。 その測定結果を、図1に示す。
【0036】
図1から明らかなように、紫外線照射とスフィンゴミエリン塗布を行った事例(UV照射+SM塗布)は、無塗布事例(紫外線照射区)や、基材のみを塗布した事例(UV照射+ビヒクル塗布)に比べて、経時的な皮膚バリアの損傷が少なく、実験初期の水分レベルを維持していた。 また、スフィンゴミエリンの紫外線に対する皮膚バリア保護効果は、塗布事例に加えて、経口投与の事例(UV照射+SM経口投与)においても認められた。
【0037】
実験に供したマウスの皮膚状態を検証するために、マウスの皮膚写真を撮影した。 その結果を、図2〜図4に示す。
【0038】
図2は、UV照射+SM塗布を施したマウスの皮膚状態を示す写真であり、図3は、UV照射+ビヒクル(基材)塗布を施したマウスの皮膚状態を示す写真であり、そして、図4は、紫外線照射のみを施したマウスの皮膚状態を示す写真である。
【0039】
図2〜図4から明らかなように、紫外線照射単独または紫外線照射+基材塗布を施した事例での皮膚状態は、SMを含む基材を塗布した事例と比較して、皮膚の損傷が激しい。
【0040】
さらに、実験に供したマウスの皮膚状態を検証するために、組織学的な検査を行った。その結果を、図5に示す。
【0041】
図5は、左側から実験初期のマウスの皮膚組織、紫外線照射だけを施したマウスの皮膚組織、SM塗布を施したマウスの皮膚組織を示している。 図5から明らかなように、紫外線照射だけを施したマウスは、表皮が非常に薄くなっており、真皮層でのコラーゲン合成が促されているようにも見えるが、コラーゲンの配列が不規則であるので、コラーゲンが変形をきたしているものと思料される(中央)。 これに対して、スフィンゴミエリンを塗布した事例では、表皮および真皮の状態が実験の初期からほとんど変わっていなかった(右側)。
【0042】
実施例2:スフィンゴミエリンによる外傷治療の効果(動物実験)
体重200gの雄のSD(Sprague-Dawley)ラットを用いて、外傷の治療実験を行った。 SDラットを5%抱水クロラールで麻酔した後、背中の体毛を剃った。 除毛後、背中の皮膚に一定の大きさの切り込みを入れて、約1.5cmの外傷を設けた(図6)。 生乳および生卵由来のスフィンゴミエリン、それに、これらの水素化スフィンゴミエリンを、本願発明の試料として用いた。 試験物質は、1,3-ブチレングリコール:蒸留水:エタノールを5:3:2の割合とした基材に、0.5%の濃度で溶解したものを用いた。 毎日2回ずつ患部に塗布し、7日目と11日目に、その結果を判定した。 その結果を、図7および図8に示す。
【0043】
図6は、スフィンゴミエリンの外傷治療の効果を検証するための実験の初期状態を示す写真であり、図7は、各処置を開始してから7日が経過した状態を示す写真であり、そして、図8は、各処理を開始してから11日が経過した状態を示す写真である。
【0044】
図7および図8において、左上は基材(ビヒクル)塗布箇所、右上は生乳由来のスフィンゴミエリン塗布箇所、左下は生卵由来のスフィンゴミエリン塗布箇所、そして、右下は外傷治療製剤(商品名:フシジン)塗布箇所を示す。
【0045】
なお、図9および図10は、水素化スフィンゴミエリンの外傷治療の効果を検証するための実験結果を示すものである。 具体的には、図9は、処理を開始してから7日が経過した状態を示す写真であって、図10は、処理を開始してから11日が経過した後状態を示す写真である。
【0046】
図9および図10において、左上および右上は基材(ビヒクル)塗布箇所、左下は生乳由来のスフィンゴミエリン塗布箇所、そして、左下は生卵由来のスフィンゴミエリン塗布箇所を示す。
【0047】
各生検部位を、修復度を数値的に反映した等級に基づいてランク分けして、検証結果を判定した。
【0048】
5点:無傷
4点:軽微な傷(目視で識別しにくい程度)
3点:患部の治癒状態が目視で観察可能
2点:外傷の治癒が十分に認められない
1点:外傷の拡大とその他の浮腫の出現
この基準に基づいて算出された各実験グループの平均値は、以下の通りである。
【0049】
全体の基材塗布不ループ(ビヒクル)=1.7
生乳由来のスフィンゴミエリン塗布グループ(Milk SM)=2.4
生卵由来のスフィンゴミエリン塗布グループ(Egg SM)=2.8
外傷治療製剤塗布グループ(フシジン)=1.6
生乳由来の水素化スフィンゴミエリン塗布グループ(Milk HSM)=1.6
生卵由来の水素化スフィンゴミエリン塗布グループ(Egg HSM)=2.0
この結果からも明らかなように、生卵由来のスフィンゴミエリンおよび生乳由来のスフィンゴミエリンの双方が、共に優れた効果を示した。 水素化スフィンゴ脂質の効果は、非水素化スフィンゴ脂質による効果よりも、やや劣っていた。
【0050】
実施例3:スフィンゴミエリンによる皮膚バリアの改善効果
本実施例では、スフィンゴミエリンを服用して皮膚バリアを改善することで、アトピー性皮膚や掻痒性皮膚などの皮膚疾患を予防および治療する効果を検証した。
【0051】
本実施例では、皮脂膜を故意に損傷させて水分損失量の増大を図ったヒトモデルを用いて、スフィンゴミエリンを摂取する前の水分損失量の回復度と、スフィンゴミエリンを摂取した後の水分損失量の回復度との差異を確認した。 また、水分の損失に伴って出現する皮膚のシワが、スフィンゴミエリンを摂取することで、どの程度まで改善されるかについても検証する。
【0052】
試験物質としては、スフィンゴミエリン50mg、フォスファチジルセリン10mg、γ-リノレイン酸12.5mgを含むカプセルを、毎朝夕、2カプセル、1日に4カプセルを、3週間にわたって摂取させた。
【0053】
18名の男性と3名の女性の計21名を対象として、以下の試験方法に従った。 皮膚の水分損失量は、腕裏の部位の水分を、TEWLメーターTM210を用いて測定した。皮膚角質層に粘着テープを脱着する行為を繰り返して皮膚損傷を誘発して、(通常は、約6〜10の)TEWL数値を30以上にまで増大せしめた。
【0054】
すなわち、粘着テープを用いて皮膚バリアの損傷を引き起こした後、損傷箇所のTEWL数値の回復度を、スフィンゴミエリンの摂取前とスフィンゴミエリンの摂取後で比較して、スフィンゴミエリンによる皮膚バリアの復元効果を検証した。
【0055】
一方で、スフィンゴミエリンによる皮膚のシワに対して改善効果については、目元のシワを、スフィンゴミエリンの摂取前と摂取後でチャーム ビュー(Charm View)を用いて目視で比較することによって、シワの改善効果を確認した。
【0056】
合計21名の被験者の腕裏のTEWLを測定して、正常値のTEWL量を確認した。 そして、粘着テープを脱着してTEWL数値を30以上にした後に、2日置きにTEWLを測定した。 正常状態のTEWLは、温度、湿度、気候などの条件によって異なるため、その測定は、損傷箇所のTEWLの測定と同時に行った。 一方で、スフィンゴミエリンの摂取効果を検証するために、同じ実験を行って、2回/日の摂取頻度で皮膚のTEWLを測定した。 その結果を、以下の表3および図11に示す。
【0057】
【表3】

表3から明らかなように、2日目および4日目では、スフィンゴミエリン摂取事例と不摂取事例との間では有意差は認められなかった。 しかしながら、6日目には、スフィンゴミエリン摂取事例の方が、不摂取事例に比べて、TEWLの数値が減少していることが確認された。
【0058】
一方、図11から明らかなように、皮膚の皮脂膜を損傷させた後、スフィンゴミエリンを摂取しなかった事例(摂取前)と摂取した事例(摂取後)での経時的なTEWL(経皮的水分損失)の平均値の変化を見出すことができた。 スフィンゴミエリンを摂取した場合、6日目で、TEWLの減少に有意差が認められた(t検定。 *p<0.055)。
【0059】
そして、TEWLの減少率が大きかった被験者を対象として、スフィンゴミエリンの摂取による水分損失量(TEWL)の減少効果を調べてみた。 TEWLの減少率が比較的に大きかった被験者6名の結果を見ると、その違いは一層有意的であることが分かる。 その結果を、表4および図12に示す。
【0060】
【表4】

また、正常時のTEWL数値が比較的に高い被験者、すなわち、もともと皮膚バリア機能が弱くて、皮膚が他人に比べて乾燥しており、アトピー性皮膚の方を選抜して結果をまとめた。 その結果を、表5および図13に示す。
【0061】
【表5】

表5から明らかなように、2日目および4日目には、スフィンゴミエリン摂取事例と未摂取事例との間では有意差は認められなかった。 しかしながら、6日目になると、スフィンゴミエリン摂取事例と未摂取事例との間で、TEWLの数値の減少差が顕著になることが判明した。 このことは、スフィンゴミエリンの摂取が、皮膚バリアの損傷の回復に有効であることを示すものである。
【0062】
また、皮膚に生じたシワをスフィンゴミエリンが改善する効果を検証すべく、スフィンゴミエリンの摂取前と摂取後の目元のシワをチャーム ビューを用いて目視にて確認および比較をした。 前出の21名の被験者の内、皮膚バリア機能が弱い4名を選抜して、彼らの摂取前と摂取後の皮膚状態を測定した。 その結果を、図14に示す。 図14から明らかなように、スフィンゴミエリンを摂取することで、シワの改善効果が出現することが確認できた。
【0063】
本願発明の皮膚を保護するための組成物は、以下の手順に従って調製することができる。
【0064】
調製例1:2%スフィンゴミエリン配合クリーム
【0065】
【表6】

ステアリルアルコール、セチルアルコール、ソルビタンモノステアレートおよびイソプロピルミリステートを二重壁の容器に移して、混合物が完全に溶解するまで加熱した。 70〜75℃で、液体用ホモジナイザーを用いて、この混合物を、別途に調製しておいた精製水、プロピレングリコールおよびポリソルベート60の混合物に加えた。 生成したエマルジョンの混合を継続して、25℃未満にまで冷却した。 次いで、スフィンゴミエリン、ポリソルベート80および精製水の溶液と、精製水を用いて調製した無水硫化ナトリウム溶液との混合を継続し、次いで、このエマルジョンに加えた。 クリームを均質化せしめて、適当なチューブに充填した。
【0066】
調製例2:2%スフィンゴミエリン配合局所用ジェル
【0067】
【表7】

溶液が形成されるまで、適量の塩酸を混合物に加えた。 溶液のpHが6.0になるまで、適量の水酸化ナトリウムを加えた。 適量の精製水を加えて、全量を100mgとした。
【0068】
精製水とヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリンとの溶液を攪拌しながら、スフィンゴミエリンを加えた。 溶液が形成されるまで、塩酸を混合物に加え、次いで、溶液のpHが6.0になるまで、水酸化ナトリウムを加えた。 混合しながら、この溶液を、プロピレングリコールとカラギナンPJの分散液に加えた。 ゆっくりと混合しながら、この混合物を50℃にまで加熱し、エチルアルコールを加えた後に、約35℃にまで冷却した。 残りの精製水を加えて、その混合物が均質になるまで混合を継続した。
【0069】
調製例3:2%スフィンゴミエリン配合局所用クリーム
【0070】
【表8】

溶液が形成されるまで、適量の塩酸を混合物に加えた。 溶液のpHが6.0になるまで、適量の水酸化ナトリウムを加えた。 適量の精製水を加えて、全量を100mgとした。
【0071】
精製水とヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリンとの溶液を攪拌しながら、スフィンゴミエリンを加えた。 溶液が形成されるまで、塩酸を混合物に加え、次いで、溶液のpHが6.0になるまで、水酸化ナトリウムを加えた。 混合しながら、この混合物に、グリセロールおよびポリソルベート60を加えて、得られた混合物を70℃にまで加熱した。 ゆっくりと混合しながら、得られた混合物を、70℃にて、鉱油、ステアリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルモノステアレートおよびソルベート60の混合物に加えた。 そして、この混合物を、25℃未満まで冷却した。 残りの精製水を加えて、その混合物が均質になるまで混合を継続した。
【0072】
調製例4:2%スフィンゴミエリン配合リポソーム製剤
【0073】
【表9】

精製水を加えて、100gの溶液とした。
【0074】
スフィンゴミエリン、フォスファチジルコリン、コレステロールおよびエチルアルコールの混合物を攪拌して、溶液を形成するまで、55〜60℃で加熱した。 得られた溶液を、均質化しながら、精製水を用いて調製したメチルパラフィン、プロピルパラフィン、エデト酸二ナトリウムおよび塩化ナトリウムの溶液に加えた。 精製水に溶解したヒドロキシプロピルメチルセルロースを加えて、膨潤するまで混合を継続した。
【0075】
調製例5:2%スフィンゴミエリン配合リポソーム製剤
【0076】
【表10】

水酸化ナトリウム(1N)を加えて、pHを5.0に調整した。
【0077】
精製水を加えて、100gの溶液とした。
【0078】
エチルアルコール内のフォスファチジルコリンおよびコレステロールの混合物を攪拌して、溶液を形成するまで、40℃で加熱した。 スフィンゴミエリンを、40℃で、加熱しながら混合して、精製水に溶解させた。 アルコール性溶液を、10分間かけて、均質化しながら、ゆっくりと、水性溶液に加えた。 精製水に溶解したヒドロキシプロピルメチルセルロースを加えて、膨潤するまで混合を継続した。 生成した溶液に、1N水酸化ナトリウムを加えて、pHを5.0に調整し、次いで、残りの精製水で希釈を行った。
【0079】
調製例6:スフィンゴミエリンナノ分散液
(1)スフィンゴミエリンナノ分散液の前駆相
【0080】
【表11】

ミグリオール812、スフィンゴミエリンおよびポリソルベート80を混合した。 エタノールに溶解したフォスファチジルコリンを、得られた混合物に加えて、均質な透明液体を得た。
(2)スフィンゴミエリンナノ分散液の水相
【0081】
【表12】

スフィンゴミエリンを含有する水相(例えば、94.54g)を、攪拌しながら、50℃で、容器内に置いた。 液体ナノ分散液の前駆相(例えば、5.46g)を攪拌しながら、水相に加えた。
【0082】
調製例7:医薬用軟膏基材
【0083】
【表13】

調製例8:化粧用クリーム
【0084】
【表14】

水相と油相の各々を、75℃まで加熱した。
【0085】
水相と油相の完全溶解を確認した後、水相を耐熱炉に移した。
【0086】
ホモミキサー(3,500rpm)とパドルミキサー(30rpm)を用いて、3分間、攪拌しながら、耐熱炉に油相をゆっくり投入した後に、冷却した。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本願発明によれば、身体の老化、皮膚の薄化、コラーゲン生成量の減少、シワの形成、皮膚の弾力性の喪失、異常血管の形成、それに、黒点の形成を招く色素沈着などを予防および改善することができる。 また、皮膚を日光に露出した場合に、皮膚のコラーゲンや弾力繊維が損傷を受けて、皮膚の弾力性を喪失して、シワの形成に至る、という現象を予防または治療することもできる。 さらに、皮膚のバリア機能を改善することで、皮膚バリア機能が弱くなったアトピー性皮膚などを治療または改善することができ、また、紫外線などで損傷を受けた皮膚バリアを迅速に修復させることもできる。 加えて、皮膚の掻痒感を緩和し、皮膚を柔軟にし、そして、角質の発生を予防するという効果も奏する。 さらに、皮膚の外傷を治療することで、皮膚を保護するという効果も奏する。
【0088】
本願発明を、特定の好適な実施態様に沿って説明してきたが、当業者であれば、本願特許請求の範囲の欄に記載された発明の趣旨と範囲から逸脱せずとも、発明の実施態様および構成要素に修正を加えることは可能である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】スフィンゴミエリンの光老化の阻害効果を示すグラフである。
【図2】スフィンゴミエリンの光老化の阻害効果を示す写真、すなわち、紫外線照射+SM(スフィンゴミエリン)塗布時のマウスの皮膚状態を示す写真である。
【図3】スフィンゴミエリンの光老化の阻害効果を示す写真、すなわち、紫外線照射+ビヒクル塗布時のマウスの皮膚状態を示す写真である。
【図4】紫外線照射だけを施したマウスの皮膚状態を示す写真である。
【図5】スフィンゴミエリンの光老化阻害効果を示す写真、すなわち、紫外線照射後の皮膚組織学的検査結果を示す写真である。
【図6】スフィンゴミエリンが、外傷を治療する効果を検証するための実験の初期段階の状態を示す写真である。
【図7】処置を始めて7日後の状態を示す写真である。
【図8】処置を始めて11日後の状態を示す写真である。
【図9】水素化スフィンゴミエリンが、外傷を治療する効果を検証するための実験を示す写真、すなわち、処置を始めて7日後の状態を示す写真である。
【図10】水素化スフィンゴミエリンが、外傷を治療する効果を検証するための実験を示す写真、すなわち、処置を始めて11日後の状態を示す写真である。
【図11】スフィンゴミエリンが、皮膚バリア機能を改善する効果を検証するための実験結果、すなわち、皮膚の皮脂膜を損傷させた後に、スフィンゴミエリンの無摂取時または摂取時でのTEWL(経皮的水分損失)の平均値の変化を示すグラフである。
【図12】TEWLが特に顕著な被験者の数値を示すグラフである。
【図13】皮膚バリア機能が微弱な被験者の数値を示すグラフである。
【図14】スフィンゴミエリンが、皮膚のシワを改善する効果を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スフィンゴミエリンを有効成分として含む、皮膚を保護するための組成物。
【請求項2】
皮膚の老化を阻害するための請求項1に記載の組成物の使用。
【請求項3】
皮膚の光老化を阻害するための請求項1に記載の組成物の使用。
【請求項4】
外傷を治癒するための請求項1に記載の組成物の使用。
【請求項5】
皮膚バリア機能を改善するための請求項1に記載の組成物の使用。
【請求項6】
損傷した皮膚バリアを迅速に修復させるためのものである請求項5に記載の使用。
【請求項7】
アトピー性皮膚の治療のための請求項1に記載の組成物の使用。
【請求項8】
皮膚の掻痒感を改善するための請求項1に記載の組成物の使用。
【請求項9】
皮膚の柔軟性を改善するための請求項1に記載の組成物の使用。
【請求項10】
皮膚の角質の発生を予防するための請求項1に記載の組成物の使用。
【請求項11】
前記スフィンゴミエリンが、生乳または生卵に由来する請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記スフィンゴミエリンが、水素化スフィンゴミエリンである請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物が、経口投与用または局所塗布用である請求項1に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図14】
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【公表番号】特表2007−507492(P2007−507492A)
【公表日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−532084(P2006−532084)
【出願日】平成16年10月1日(2004.10.1)
【国際出願番号】PCT/KR2004/002517
【国際公開番号】WO2005/030161
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(305000507)ドゥサン コーポレーション (2)
【Fターム(参考)】