説明

皮革インサート成形品とその製造方法

【課題】 金型への皮革のセットが容易で、皮革をインサート成形品の表面に部分的に組み込んだデザインでも隙間や端面露出の問題がない皮革インサート成形品とその製造方法を提供する。
【解決手段】 皮革インサート材が外面に積層された一次成形樹脂部をコア型に密着させたまま、二次成形型に移動させ、基体シート上に剥離層、隠蔽層及び接着層が順次積層された転写シートを二次成形用キャビティに吸着させた状態で型閉めし、前記二次成形用キャビティに二次成形樹脂を射出することにより、前記一次成形樹脂部及び前記皮革インサート材と一体に且つ前記皮革インサート材が周縁部を除いて露出するように、外面に隠蔽層を形成した二次成形樹脂部を成形し、前記二次成形型と前記コア型との型開き時または型開き後に、前記基体シートを剥離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車内装用部品、家電製品装飾用部品、表示パネル、操作パネル、アミューズメント機器用操作部品および筐体、通信機器用操作部品および筐体などの成形品表面への装飾に用いられ、とくに金型への皮革のセットが容易で、皮革をインサート成形品の表面に部分的に組み込んだデザインでも隙間や端面露出の問題がない皮革インサート成形品とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車内装用部品、家電製品装飾用部品、表示パネル、操作パネル、アミューズメント機器用操作部品および筐体、通信機器用操作部品および筐体などの成形品表面への天然皮革又は人造皮革をインサート成形する場合、天然皮革又は人造皮革を抜き型にて所望の形状にカットして金型内にセットしていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、天然皮革や人造皮革は柔軟性を有しており、金型へのセットが手間暇係る人手による手作業と成る上、位置ズレを起こして外観的に不具合で使用できないものも多くなっている。又、これら皮革をインサート成形品の表面に部分的に組み込んだデザインでは、やはり天然皮革や人造皮革は柔軟性を有しているため樹脂部と皮革部との間に隙間が生じたり、天然皮革や人造皮革の端面が露出したりして外観的に見映えが悪く成り商品としての価値の無くなるものが頻発しており苦慮している現状である。
【0004】
したがって、本発明が解決しようとする技術的課題は、前記問題を解決し、金型への皮革のセットが容易で、皮革をインサート成形品の表面に部分的に組み込んだデザインでも隙間や端面露出の問題がない皮革インサート成形品とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前記技術的課題を解決するために、以下の構成の皮革インサート成形品とその製造方法を提供する。
【0006】
本発明の第1態様によれば、一次成形樹脂部と、
皮革の裏面に接着層が形成されたものであって、前記一次成形樹脂部の外面に積層された皮革インサート材と
前記一次成形樹脂部及び前記皮革インサート材と一体に且つ前記皮革インサート材が周縁部を除いて露出するように成形された隠蔽性を有する二次成形樹脂部と、
を備えたことを特徴とする、皮革インサート成形品を提供する。
【0007】
本発明の第2態様によれば、前記隠蔽性を有する二次成形樹脂部が、二次成形樹脂部の外面に隠蔽層を形成したものであることを特徴とする、第1態様記載の皮革インサート成形品を提供する。
【0008】
本発明の第3態様によれば、前記隠蔽性を有する二次成形樹脂部が、二次成形樹脂部内に着色材を含有させたものであることを特徴とする、第1態様記載の皮革インサート成形品を提供する。
【0009】
本発明の第4態様によれば、一次成形樹脂射出路と一次成形用キャビティを有する一次成形型と、二次成形樹脂射出路と二次成形用キャビティを有する二次成形型と、前記一次成形型または前記二次成形型と型閉めされるコア型と、皮革の裏面に接着層が形成された皮革インサート材と、基体シート上に剥離層、隠蔽層及び接着層が順次積層された転写シートとを用い、
前記皮革インサート材を前記一次成形用キャビティに吸着させた状態で前記一次成形型と前記コア型とを型閉めし、前記一次成形用キャビティに一次成形樹脂を射出することによって前記皮革インサート材が外面に積層された一次成形樹脂部を成形し、
前記一次成形型と前記コア型とを型開きし、前記皮革インサート材が外面に積層された前記一次成形樹脂部を前記コア型に密着させたまま、前記二次成形型に移動させ、
前記転写シートを前記二次成形用キャビティに吸着させた状態で前記二次成形型と当該二次成形型に移動させた前記コア型とを型閉めし、前記二次成形用キャビティに二次成形樹脂を射出することにより、前記一次成形樹脂部及び前記皮革インサート材と一体に且つ前記皮革インサート材が周縁部を除いて露出するように、外面に隠蔽層を形成した二次成形樹脂部を成形し、前記二次成形型と前記コア型との型開き時または型開き後に、前記基体シートを剥離することを特徴とする、皮革インサート成形品の製造方法を提供する。
【0010】
本発明の第5態様によれば、一次成形樹脂射出路と一次成形用キャビティを有する一次成形型と、二次成形樹脂射出路と二次成形用キャビティを有する二次成形型と、前記一次成形型または前記二次成形型と型閉めされるコア型と、皮革の裏面に接着層が形成された皮革インサート材とを用い、
前記皮革インサート材を前記一次成形用キャビティに吸着させた状態で前記一次成形型と前記コア型とを型閉めし、前記一次成形用キャビティに一次成形樹脂を射出することによって前記皮革インサート材が外面に積層された一次成形樹脂部を成形し、
前記一次成形型と前記コア型とを型開きし、前記皮革インサート材が外面に積層された前記一次成形樹脂部を前記コア型に密着させたまま、前記二次成形型に移動させ、
前記二次成形型と当該二次成形型に移動させた前記コア型とを型閉めして前記二次成形用キャビティに着色材を含有させた二次成形樹脂を射出することにより、前記一次成形樹脂部及び前記皮革インサート材と一体に且つ前記皮革インサート材が周縁部を除いて露出するように、二次成形樹脂部を成形することを特徴とする、皮革インサート成形品の製造方法を提供する。
【0011】
本発明の第6態様によれば、前記一次成形型が前記皮革インサート材の周縁部に対向して真空吸引孔を備えており、当該真空吸引孔にて真空吸引することにより前記皮革インサート材を前記一次成形用キャビティに吸着させていることを特徴とする、第4態様又は第5態様記載の皮革インサート成形品の製造方法を提供する。
【0012】
本発明の第7態様によれば、前記二次成形型が前記皮革インサート材の周縁部に対向して押圧部を備えており、当該押圧部にて押圧することにより前記皮革インサート材の表面シボを圧縮していることを特徴とする、第4〜第6態様のいずれかに記載の皮革インサート成形品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1態様によれば、皮革インサート成形品が、一次成形樹脂部と、皮革の裏面に接着層が形成されたものであって、前記一次成形樹脂部の外面に積層された皮革インサート材と前記一次成形樹脂部及び前記皮革インサート材と一体に且つ前記皮革インサート材が周縁部を除いて露出するように成形された隠蔽性を有する二次成形樹脂部と、を備えている。すなわち、前記皮革インサート材の周縁部が前記隠蔽性を有する二次成形樹脂部に埋もれているため、樹脂部と皮革部との間に隙間が生じたり、皮革の端面が露出したりすることがない。なお、前記隠蔽性を有する二次成形樹脂部は、二次成形樹脂部の外面に隠蔽層を形成したものでもよいし、二次成形樹脂部内に着色材を含有させたものでもよい。
【0014】
本発明の第4態様によれば、皮革インサート成形品の製造方法が、皮革インサート材が外面に積層された一次成形樹脂部をコア型に密着させたまま、二次成形型に移動させ、基体シート上に剥離層、隠蔽層及び接着層が順次積層された転写シートを二次成形用キャビティに吸着させた状態で型閉めし、前記二次成形用キャビティに二次成形樹脂を射出することにより、前記一次成形樹脂部及び前記皮革インサート材と一体に且つ前記皮革インサート材が周縁部を除いて露出するように、外面に隠蔽層を形成した二次成形樹脂部を成形し、前記二次成形型と前記コア型との型開き時または型開き後に、前記基体シートを剥離するため、樹脂部と皮革部との間に隙間が生じたり、皮革の端面が露出したりすることがない上に、さらに金型への皮革のセットも容易である。つまり、前記隠蔽性を有する二次成形樹脂部に埋もれる前記皮革インサート材の周縁部を利用して一次成形型に固定することができるからである。例えば、前記皮革インサート材の周縁部で真空吸引すれば、吸引孔の痕が残ることを気にせず、強く吸引することができる。
【0015】
本発明の第5態様によれば、皮革インサート成形品の製造方法が、皮革インサート材が外面に積層された一次成形樹脂部をコア型に密着させたまま、二次成形型に移動させ、型閉めして前記二次成形用キャビティに着色材を含有させた二次成形樹脂を射出することにより、前記一次成形樹脂部及び前記皮革インサート材と一体に且つ前記皮革インサート材が周縁部を除いて露出するように、二次成形樹脂部を成形するため、この場合も第4態様と同様に効果が得られる。
【0016】
本発明の第7態様によれば、前記二次成形型が前記皮革インサート材の周縁部に対向して押圧部を備えており、当該押圧部にて押圧することにより前記皮革インサート材の表面シボを圧縮しているため、前記皮革インサート材表面と前記隠蔽性を有する二次成形樹脂部表面との境界において、表面シボの間に前記二次成形樹脂が入り込みことがなく、前記境界線が奇麗である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の皮革インサート成形品の製造に使用する皮革インサート材の断面図である。
【図2】本発明の皮革インサート成形品の製造に使用する転写シートの断面図である。
【図3】本発明の皮革インサート成形装置の構成を示す一部断面を有する平面である。
【図4】本発明の皮革インサート成形品の一実施例を示す斜視図である。
【図5】図4のA−A矢視断面図である。
【図6】本発明の皮革インサート成形品の製造工程を示す説明図である。
【図7】本発明の皮革インサート成形品の製造工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態に係る皮革インサート成形品とその製造方法について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
まず、本発明の皮革インサート成形品の成形に使用できる皮革インサート材及1及び転写シート2について説明する。
【0020】
前記皮革インサート材1は、皮革1aの裏面に接着層1bが形成されたものである(図1参照)。
【0021】
前記皮革1aとしては、動物の皮をなめして製造した天然皮革のほか、天然の布地を基材とし合成樹脂を塗布した合成皮革や、マイクロファイバーの布地(通常不織布)に合成樹脂を含浸させたものをそのまま使うか、それを基材とし合成樹脂を塗布した人工皮革などの人造皮革を使用することができる。
【0022】
前記接着層1bは、前記皮革1aを成形品表面に接着するためにあり、後述する一次成形樹脂の素材と相性のよい感熱性あるいは感圧性の樹脂が使用される。例えば、一次成形樹脂の材質がポリアクリル系樹脂の場合はポリアクリル系樹脂を用いるとよい。また、一次成形樹脂の材質がポリフェニレンオキシド共重合体ポリスチレン系共重合体樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、ポリスチレン系ブレンド樹脂の場合は、これらの樹脂と親和性のあるポリアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂などを使用すればよい。さらに、一次成形樹脂の材質がポリプロピレン樹脂の場合は、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、環化ゴム、クマロンインデン樹脂が使用可能である。前記接着層1bの形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビアコート法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。なお、この接着層1bの厚みは0.5〜50μmが好ましい。
【0023】
前記転写シート2は、基体シート2a上に剥離層2b、絵柄層2c、接着層2dが積層されたものであり、成形樹脂に接着層2dを介して絵柄層2cを接着した後、基体シート2aは、型開き時、または型開き後に剥離層2bとの境界面2eから剥離除去するものである(図2参照)。
【0024】
前記基体シート2aの材質としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ナイロン樹脂、ビニロン樹脂、アセテート樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂等の樹脂を使用することができる。特に好ましくはアクリル系樹脂である。前記基体シート2aの厚さは5〜500μmのものを使用することができるが、ハンドリング性の良さを考慮すると25〜75μmのものを使用することが好ましく、成形安定性の良さを考慮すると38〜50μmのものを使用することが好ましい。
【0025】
前記基体シート2aからの転写層の剥離性を改善するためには、前記基体シート2aに転写層を設ける前に、離型層を全面的に形成してもよい(図示せず)。離型層は、転写後または成形同時転写後に前記基体シート2aを剥離した際に、前記基体シート2aとともに転写層から離型するが、場合によっては層間離型を起こし、一部が転写層の最外面に残存することもある。離型層の材質としては、メラミン樹脂系離型剤、シリコーン樹脂系離型剤、フッ素樹脂系離型剤、セルロース誘導体系離型剤、尿素樹脂系離型剤、ポリオレフィン樹脂系離型剤、パラフィン系離型剤およびこれらの複合型離型剤などを用いることができる。離型層の形成方法としては、ロールコート法、スプレーコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。
【0026】
前記剥離層2bは転写後、前記基体シート2aが剥離されることにより最も外側に位置する層であり、保護層として機能するようになっている。この剥離層2bの材質としては、剥離層の材質としては、ポリアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、ゴム系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂などのほか、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂などのコポリマーを用いるとよい。剥離層に硬度が要求される場合には、紫外線硬化性樹脂などの光硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂などの放射線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂などを選定して用いるとよい。剥離層は、着色したものでも、未着色のものでもよい。剥離層の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビアコート法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。なお、前記剥離層2bの膜厚は0.5〜50μmが好ましい。
【0027】
前記隠蔽層2cは、二次成形樹脂部を隠蔽するものであり、前記剥離層2bの上に、通常は印刷層として形成する。印刷層の材質としては、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド樹脂などの樹脂をバインダーとし、適切な色の顔料または染料を着色剤として含有する着色インキを用いるとよい。印刷層の形成方法としては、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの通常の印刷法などを用いるとよい。特に、多色刷りや階調表現を行うには、オフセット印刷法やグラビア印刷法が適している。また、単色の場合には、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法を採用することもできる。印刷層は、表現したい図柄に応じて、全面的に設ける場合や部分的に設ける場合もある。
【0028】
また、前記隠蔽層2cは、金属薄膜層からなるもの、あるいは印刷層と金属薄膜層との組み合わせからなるものでもよい。金属薄膜層は、金属光沢を表現するためのものであり、真空蒸着法、スパッターリング法、イオンプレーティング法、鍍金法などで形成する。この場合、表現したい金属光沢色に応じて、アルミニウム、ニッケル、金、白金、クロム、鉄、銅、スズ、インジウム、銀、チタニウム、鉛、亜鉛などの金属、これらの合金又は化合物を使用する。なお、金属薄膜層を設ける際に、他の転写層と金属薄膜層との密着性を向上させるために、前アンカー層や後アンカー層を設けてもよい。前アンカー層および後アンカー層の材質としては、2液性硬化ウレタン樹脂、熱硬化ウレタン樹脂、メラミン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、塩素含有ゴム系樹脂、塩素含有ビニル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ビニル系共重合体樹脂などを使用するとよい。前アンカー層および後アンカー層の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビアコート法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。
【0029】
なお、前記隠蔽層2cの膜厚は十分な意匠性を得るために0.5μm〜50μmの範囲で設定することが好ましく、前記した金属膜層で構成する場合には、50Å〜1200Åが好ましい。
【0030】
前記接着層2dは、隠蔽層2cを二次成形樹脂の表面に接着するためにあり、後述する二次成形樹脂の素材と相性のよい感熱性あるいは感圧性の樹脂が使用される。前記接着層2dとしては、被転写物の素材に適した感熱性あるいは感圧性の樹脂を適宜使用する。たとえば、二次成形樹脂の材質がポリアクリル系樹脂の場合はポリアクリル系樹脂を用いるとよい。また、二次成形樹脂の材質がポリフェニレンオキシド共重合体ポリスチレン系共重合体樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、ポリスチレン系ブレンド樹脂の場合は、これらの樹脂と親和性のあるポリアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂などを使用すればよい。さらに、二次成形樹脂の材質がポリプロピレン樹脂の場合は、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、環化ゴム、クマロンインデン樹脂が使用可能である。前記接着層2dの形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビアコート法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。なお、この接着層2dの厚みは0.5〜50μmが好ましい。
【0031】
なお、前記接着層2dは、部分的に設けてもよいし、全面的に設けてもよい。全面的に設けても、皮革材料部には熱が伝わらないので、転写されない。
【0032】
次に、本発明の皮革インサート成形に使用できる皮革インサート成形装置の具体例を説明する。
【0033】
図3は皮革インサート成形装置10の構成を、一部断面で示した平面図である。
【0034】
前記皮革インサート成形装置10は、型閉めされる金型において固定側となる固定盤11と、可動側となる回転盤12とを有している。
【0035】
前記固定盤11には、一次成形樹脂射出路13と一次成形用キャビティ14aを備えた一次成形型14と、二次成形樹脂射出路15と二次成形用キャビティ16aを備えた二次成形型16がそれぞれ配設されている。前記一次成形型14には皮革インサート材1が配置され、前記二次成形型16には転写シート2が配置される。前記一次成形型14の前記一次成形樹脂射出路13は、前記固定盤11内に設けられた、射出装置(図示しない)の一次成形樹脂射出ノズル18と連通している。一方、二次成形型16の二次成形樹脂射出路15は、射出成形装置の二次成形樹脂射出ノズル20と連通している。
【0036】
第1コア型17は一次成形型14と対向し得る状態で、また、第2コア型19は二次成形型16と対向し得る状態でそれぞれ回転盤12に固定されている。この回転盤12は駆動部21の出力軸22に接続されており、駆動部21は駆動ユニット23内に設けられている。
【0037】
駆動部21により出力軸22を介して回転盤12を矢印A方向に回転させると、第1コア型17を二次成形型16側に、第二コア型19を一次成形型14側に移動させることができる。すなわち、一次成形型14と二次成形型16の間で、第1コア型17および第2コア型19を交互に入れ替えることができる。
【0038】
さらに両コア型17,19を矢印B方向に押し出して一次成形型14および二次成形型16と型閉めすることにより、一次成形と二次成形とを同時に行なうことができるようになっている。
【0039】
なお、前記回転盤12、駆動部21および駆動ユニット23はコア型駆動機構として機能する。
【0040】
図4は前記皮革インサート成形装置10によって成形される皮革インサート成形品39一例を斜視図で示したものである。
【0041】
図4において、皮革インサート成形品39は、外面に前記皮革インサート材1が積層された一次成形樹脂板(一次成形樹脂部)40と、この一次成形樹脂板40の周りを囲うかたちで前記皮革インサート材1が周縁部を除いて露出するように成形される、外面に全面的に隠蔽層2cを形成した二次成形樹脂枠(二次成形樹脂部)41とが一体化されている。
【0042】
前記一次成形樹脂板40を成形する一次成形樹脂、前記二次成形樹脂枠41を成形する二次成形樹脂としては、それぞれ、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、AN樹脂などの汎用樹脂を挙げることができる。また、ポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリカーボネート変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、超高分子量ポリエチレン樹脂などの汎用エンジニアリング樹脂やポリスルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリフェニレンオキシド系樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリイミド樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリアリル系耐熱樹脂などのスーパーエンジニアリング樹脂を使用することもできる。さらに、ガラス繊維や無機フィラーなどの補強材を添加した複合樹脂も使用できる。前記一次成形樹脂と前記二次成形樹脂とは同じ材質であってもよいし、異なっていてもよい。
【0043】
また、図4のA−A矢視断面である図5に示されるように、前記隠蔽性を有する二次成形樹脂枠41は、皮革インサート材1が周縁部を除いて露出するように成形されている。
【0044】
このように前記隠蔽性を有する二次成形樹脂枠41を成形することにより、前記皮革インサート材1の周縁部は前記隠蔽性を有する二次成形樹脂枠41に埋もれてしまうため、樹脂部と皮革部との間に隙間が生じたり、皮革の端面が露出したりすることがない。
【0045】
なお、本実施形態では隠蔽層2cとして、二次成形樹脂枠41の表面に全体に着色パターンを形成したが、これに限らず、窓部を形成することもできる。
【0046】
また、本実施形態では前記隠蔽性を有する二次成形樹脂枠41として、外面に全面的に隠蔽層2cを形成した構成としたが、これに限らず、二次成形樹脂部内に着色材を含有させた構成とすることもできる。
【0047】
また、前記一次成形樹脂板40は開口部を設けることができ、その場合には当該開口部においても、前記皮革インサート材1の周縁部(内周縁部)が前記隠蔽性を有する二次成形樹脂枠41に埋もれるようにする。
【0048】
次に、皮革インサート成形品39に係る製造方法について、図6の工程図を参照しながら説明する。
【0049】
まず、図6(a)において、一次成形型14に皮革インサート材1を一次成形型14のキャビティ14aに対向させて配置する。
【0050】
次いで、図6(b)に示すように、一次成形型14と第1コア型17とを型閉めする前に、皮革インサート材1を真空吸引して、一次成形型14のキャビティ14a内壁に密着させる。なお、このとき、位置ズレしないように強く吸引した場合、吸引孔14bの痕が残るかもしれないが、この吸引孔14bの痕は、後に隠蔽性を有する二次成形樹脂枠に埋もれて見えなくなる。
【0051】
次いで、図6(c)に示すように、一次成形樹脂射出路13を通じてキャビティ14aに一次成形樹脂40aを射出し一次成形樹脂板40を成形する。
【0052】
このとき、成形と同時に皮革インサート材1が一次成形樹脂板40に接着される。
【0053】
なお、ここでいう接着とは、溶融状態の一次成形樹脂40aが皮革インサート材1の接着層2d(図2参照)に接触した状態で冷却固化し、一次成形樹脂板40が成形されるとともにその一次成形樹脂板40と接着層2dとが接合されて一体となることをいう。
【0054】
次いで、図6(d)に示すように、一次成形型14と第1コア型17とを型開きして、外面に皮革インサート材Saが積層された一次成形樹脂板40を一次成形型14から分離させる。
【0055】
次いで、成形された一次成形樹脂板40の周りを囲んで、前記一次成形樹脂板40及び前記皮革インサート材1と一体に且つ前記皮革インサート材1が周縁部を除いて露出するように、外面に隠蔽層を形成した二次成形樹脂枠41を成形する。
【0056】
詳しくは、図6(e)において、二次成形型16には、前記隠蔽層2cを転写層に含む転写シート2が配置されている。
【0057】
一次成形樹脂板40が付着している前記第1コア型17は、駆動部21(図3参照)の出力軸22を介し回転盤12を180°回転させることにより、二次成形型16と対向する位置に移動している。
【0058】
次いで、図6(f)に示すように、二次成形型16と第1コア型17とを型閉めする前に、転写シート2を真空吸引して、二次成形型16のキャビティ16a内壁に密着させる。なお、真空引き時には必要に応じて転写シート2を加熱することもできる。
【0059】
次いで、図6(g)に示すように、二次成形型16と第1コア型17を型閉めし、二次成形樹脂射出路15を通じてキャビティ16a内に二次成形樹脂41aを射出する。
【0060】
なお、二次成形樹脂41aの射出は、射出ユニットの射出機構により、二次成形樹脂射出ノズル20から二次成形樹脂射出路15に成形樹脂を流すことによって行われる。それにより、前記一次成形樹脂板40及び前記皮革インサート材1と一体に且つ前記皮革インサート材1が周縁部を除いて露出するように、外面に隠蔽層を形成した二次成形樹脂枠41が成形される。
【0061】
しかも、前記二次成形型16が前記皮革インサート材1の周縁部に対向して突出した押圧部16bを備えているため、当該押圧部16bにて押圧することにより前記皮革インサート材1の表面シボを圧縮し、前記皮革インサート材1表面と前記隠蔽性を有する二次成形樹脂枠41表面との境界において、表面シボの間に前記二次成形樹脂が入り込みことがなく、前記境界線がギザギザにならず奇麗である。
【0062】
次に、図6(h)に示すように、二次成形型16と第1コア型17を型開きし、一次成形樹脂板40と二次成形樹脂枠41が一体化された皮革インサート成形品39を取り出す。このとき、基体シート2aが二次成形樹脂枠41から剥離され隠蔽層2cを含む転写層はその二次成形樹脂枠41の表面に転写される。
【0063】
なお、二次成形を行なっているとき、第2コア型19は一次成形型14と型締めされ、一次成形樹脂板40が成形されるとともに、その一次成形樹脂板40の表面に皮革インサート材1が形成される。したがって、第1コア型17および第2コア型19を一次成形型14と二次成形型16の間で交互に移動させ、一次成形型14では一次成形樹脂40aを、二次成形型16では二次成形樹脂41aをそれぞれ射出することにより、皮革インサート成形品39が連続的に製造される。
【0064】
本発明は、添付図面を参照しながら好ましい実施形態に関連して充分に記載されているが、この技術の熟練した人々にとっては種々の変形や修正は明白である。そのような変形や修正は、添付した請求の範囲による本発明の範囲から外れない限りにおいて、その中に含まれると理解されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、自動車内装用部品、家電製品装飾用部品、表示パネル、操作パネル、アミューズメント機器用操作部品および筐体、通信機器用操作部品および筐体などの成形品表面への装飾用途に用いることができ、産業上有用なものである。
【符号の説明】
【0066】
1 皮革インサート材
1a 皮革
1b 接着層
2 転写シート
2a 基体シート
2b 剥離層
2c 隠蔽層
2d 接着層
10 成形絵付け装置
11 固定盤
12 回転盤
13 一次成形樹脂射出路
14 一次成形型
14a キャビティ
14b 真空吸引孔
15 二次成形樹脂射出路
16 二次成形型
16a キャビティ
16b 押圧部
17 第1コア型
18 一次成形樹脂射出ノズル
19 第2コア型
20 二次成形樹脂射出ノズル
21 駆動部
22 出力軸
23 駆動ユニット
39 皮革インサート成形品
40 一次成形樹脂板
40a 一次成形樹脂
41 二次成形樹脂枠
41a 二次成形樹脂
50 転写層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次成形樹脂部と、
皮革の裏面に接着層が形成されたものであって、前記一次成形樹脂部の外面に積層された皮革インサート材と
前記一次成形樹脂部及び前記皮革インサート材と一体に且つ前記皮革インサート材が周縁部を除いて露出するように成形された隠蔽性を有する二次成形樹脂部と、
を備えたことを特徴とする、皮革インサート成形品。
【請求項2】
前記隠蔽性を有する二次成形樹脂部が、二次成形樹脂部の外面に隠蔽層を形成したものであることを特徴とする、請求項1記載の皮革インサート成形品。
【請求項3】
前記隠蔽性を有する二次成形樹脂部が、二次成形樹脂部内に着色材を含有させたものであることを特徴とする、請求項1記載の皮革インサート成形品。
【請求項4】
一次成形樹脂射出路と一次成形用キャビティを有する一次成形型と、二次成形樹脂射出路と二次成形用キャビティを有する二次成形型と、前記一次成形型または前記二次成形型と型閉めされるコア型と、皮革の裏面に接着層が形成された皮革インサート材と、基体シート上に剥離層、隠蔽層及び接着層が順次積層された転写シートとを用い、
前記皮革インサート材を前記一次成形用キャビティに吸着させた状態で前記一次成形型と前記コア型とを型閉めし、前記一次成形用キャビティに一次成形樹脂を射出することによって前記皮革インサート材が外面に積層された一次成形樹脂部を成形し、
前記一次成形型と前記コア型とを型開きし、前記皮革インサート材が外面に積層された前記一次成形樹脂部を前記コア型に密着させたまま、前記二次成形型に移動させ、
前記転写シートを前記二次成形用キャビティに吸着させた状態で前記二次成形型と当該二次成形型に移動させた前記コア型とを型閉めし、前記二次成形用キャビティに二次成形樹脂を射出することにより、前記一次成形樹脂部及び前記皮革インサート材と一体に且つ前記皮革インサート材が周縁部を除いて露出するように、外面に隠蔽層を形成した二次成形樹脂部を成形し、前記二次成形型と前記コア型との型開き時または型開き後に、前記基体シートを剥離することを特徴とする、皮革インサート成形品の製造方法。
【請求項5】
一次成形樹脂射出路と一次成形用キャビティを有する一次成形型と、二次成形樹脂射出路と二次成形用キャビティを有する二次成形型と、前記一次成形型または前記二次成形型と型閉めされるコア型と、皮革の裏面に接着層が形成された皮革インサート材とを用い、
前記皮革インサート材を前記一次成形用キャビティに吸着させた状態で前記一次成形型と前記コア型とを型閉めし、前記一次成形用キャビティに一次成形樹脂を射出することによって前記皮革インサート材が外面に積層された一次成形樹脂部を成形し、
前記一次成形型と前記コア型とを型開きし、前記皮革インサート材が外面に積層された前記一次成形樹脂部を前記コア型に密着させたまま、前記二次成形型に移動させ、
前記二次成形型と当該二次成形型に移動させた前記コア型とを型閉めして前記二次成形用キャビティに着色材を含有させた二次成形樹脂を射出することにより、前記一次成形樹脂部及び前記皮革インサート材と一体に且つ前記皮革インサート材が周縁部を除いて露出するように、二次成形樹脂部を成形することを特徴とする、皮革インサート成形品の製造方法。
【請求項6】
前記一次成形型が前記皮革インサート材の周縁部に対向して真空吸引孔を備えており、当該真空吸引孔にて真空吸引することにより前記皮革インサート材を前記一次成形用キャビティに吸着させていることを特徴とする、請求項4又は請求項5記載の皮革インサート成形品の製造方法。
【請求項7】
前記二次成形型が前記皮革インサート材の周縁部に対向して押圧部を備えており、当該押圧部にて押圧することにより前記皮革インサート材の表面シボを圧縮していることを特徴とする、請求項4〜6のいずれかに記載の皮革インサート成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−234787(P2010−234787A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88458(P2009−88458)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】