説明

直動装置

【課題】負荷ボールやスペーサボールを廃却することなく、直動装置の予圧量や隙間量の再調整作業における作業効率を向上させる手段を提供する。
【解決手段】外周面に軸軌道溝3を有するボール軸2と、内周面に軸軌道溝3に対向するナット軌道溝6を有するボールナット5と、軸軌道溝3とナット軌道溝6とで形成される負荷路8と、負荷路8を連結する図示しないリターンチューブと、負荷路8とリターンチューブとで構成される循環路と、循環路を循環する複数のボール7とを備えたボールネジ装置1において、ボール7を負荷ボール7aとこの負荷ボール7aより小さい外径を有するスペーサボール7bとで構成し、循環路に装填するボール7の外径の分布が、負荷ボール7aとスペーサボール7bの2山のピークを有し、その2山の山間に、負荷ボール7aのピークのボール数とスペーサボール7bのピークのボール数の低い方のピークのボール数の1/3以上のボール数となるピークを持たないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ装置やリニアガイド装置等の工作機械や精密機械、半導体製造装置、射出成形機等の機械装置の送り機構等に用いられる直動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の直動装置としてのボールねじ装置は、ボールナットの内周面に形成したナット軌道溝と、ボール軸の外周面に螺旋状に形成した軸軌道溝とを対向させて形成された負荷路を連結路で連結した循環路に、負荷ボールと負荷ボールより小さい外径を有するスペーサボールを、負荷ボールとスペーサボールの個数の比率が1:1、2:1、3:1、4:1となるように負荷ボール1個毎、2個毎、3個毎、4個毎に1個のスペーサボールを規則的に配置し、最大荷重時にスペーサボールに負荷が生じるようにして最大荷重時の負荷容量を維持しながら軽負荷時等の損失トルクの低減を図っているものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、同様のボールねじ装置において、負荷ボールとスペーサボールの個数の比率を同様として負荷ボールとスペーサボールとを規則的に配置し、負荷ボールとスペーサボールとの外径差を10μm〜100μmに設定してボールねじ装置の円滑な作動を図っているものもある。(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−291770号公報(主に第3頁段落0021−第4頁段落0025、第3図)
【特許文献2】特開2003−188705号公報(主に第2頁段落0012−第3頁段落0014、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、機械装置の送り機構に用いられるボールねじ装置やリニアガイド装置等の直動装置は、高い位置決め精度が要求され、これを満足させるために直動装置は所定の予圧量に設定して使用される。
また、高速を要する半導体製造装置等の場合は、駆動トルクの軽減を図るために軸方向隙間を狭い所定の隙間量(例えば1〜3μm程度)に設定して使用している。
【0006】
このため、所定の予圧量に設定する場合は、負荷ボールを直動装置の負荷路の通路径より大きい外径を有するオーバサイズボールとし、予圧量に応じた外径を有する負荷ボールを循環路に装填して予圧量の調整を行っており、予圧量の設定の際には、予圧量に応じた負荷ボールとスペーサボールを循環路に装填して直動装置を組立て、出荷検査で駆動力や剛性値を検査して規格外となった場合には、循環路に装填した負荷ボールとスペーサボールを取出し、負荷ボールを所定の予圧量となる他の外径の負荷ボールと入替えて予圧量の再調整を行っている。
【0007】
また、所定の隙間量に設定する場合は、負荷ボールを直動装置の負荷路の通路径より小さい外径を有するボールとし、隙間量に応じた外径を有する負荷ボールを循環路に装填して隙間量の調整を行っており、隙間量の設定の際には、隙間量に応じた負荷ボールとスペーサボールを循環路に装填して直動装置を組立て、出荷検査で隙間量を検査して規格外となった場合には、循環路に装填した負荷ボールとスペーサボールを取出し、負荷ボールを所定の隙間量となる他の外径の負荷ボールと入替えて隙間量の再調整を行っている。
【0008】
しかしながら、上述した従来の特許文献1および特許文献2の技術においては、直動装置としてのボールねじ装置の循環路に外径差を有する負荷ボールとスペーサボールとを規則的に配置しているため、出荷検査で規格外となった場合の予圧量や隙間量の再調整の際に、循環路に装填した負荷ボールとスペーサボールを取出し、負荷ボールとスペーサボールをゲージ等を用いて分別して負荷ボールを他の外径の負荷ボールと入替えなければならず、再調整作業に多くの時間を要し、再調整の際の作業の作業効率が低下するという問題がある。
【0009】
また、作業効率を改善するために、取出した負荷ボールとスペーサボールを分別せずに他の外径の負荷ボールと新たなスペーサボールを用いて予圧量や隙間量の再調整を行う場合は、取出した負荷ボールとスペーサボールを廃却しなければならず、無駄が生じてボールねじ装置の製造コストが増加するという問題がある。
このことは、レールとスライダとをボールを介して嵌合させ、レール上をスライダが直線的に移動する直動装置としてのリニアガイド装置の予圧量や隙間量の再調整作業の場合も同様である。
【0010】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、負荷ボールやスペーサボールを廃却することなく、直動装置の予圧量や隙間量の再調整作業における作業効率を向上させる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために、外形面に軌道溝を有する柱状ガイド体と、内形面に前記柱状ガイド体の軌道溝に対向する軌道溝を有するベアリングブロックと、前記柱状ガイド体の軌道溝と前記ベアリングブロックの軌道溝とで形成される負荷路と、該負荷路を連結する連結路と、前記負荷路と連結路とで構成される循環路と、該循環路を循環する複数のボールとを備えた直動装置において、前記ボールを、大径ボールと、該大径ボールより小さい外径を有する小径ボールとで構成し、前記循環路に装填するボールの外径の分布が、前記大径ボールと前記小径ボールの2山のピークを有し、該2山の山間に、前記大径ボールのピークのボール数と前記小径ボールのピークのボール数の低い方のピークのボール数の1/3以上のボール数となるピークを持たないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
これにより、本発明は、予圧量や隙間量の再調整の際に循環路から取出した大径ボールと小径ボールを予め他の外径を有する大径ボールを所定の比率で混合しておいたものと入替えて予圧量の再調整を行うことが可能になり、直動装置の循環路から取出した大径ボールや小径ボールを分別する必要がないので予圧量や隙間量の再調整作業における作業効率を向上させることができると共に、循環路から取出した大径ボールと小径ボールを元の収納箱に戻すことができ、これらを廃却することなく再利用することができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1のボールねじ装置を示す断面図
【図2】実施例1のボールねじ装置の負荷路を示す説明図
【図3】実施例1のボールの外径分布を示す説明図
【図4】実施例1のボールねじ装置の荷重変位特性を示すグラフ
【図5】実施例1のボールの他の外径分布を示す説明図
【図6】実施例2のリニアガイド装置を示す斜視図
【図7】実施例2のリニアガイド装置の負荷路を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、図面を参照して本発明による直動装置の実施例について説明する。
なお、以下の実施例においては設定量としての予圧量を設定する直動装置を例に説明するが、設定量としての隙間量を設定する直動装置の場合も同様である。
【実施例1】
【0015】
図1は実施例1のボールねじ装置を示す断面図、図2は実施例1のボールねじ装置の負荷路を示す説明図である。
図1、図2において、1は直動装置としてのボールねじ装置である。
2は直動装置の柱状ガイド体としてのボール軸であり、合金鋼等の鋼材で製作された柱状部材であって、その外形面としての外周面には略半円弧形状の軌道溝としての軸軌道溝3が所定のリードで螺旋状に形成されている。
【0016】
5は直動装置のベアリングブロックとしてのボールナットであり、合金鋼等の鋼材で製作された円筒状部材であって、その内形面としての内周面には軸軌道溝3と対向する略半円弧形状の軌道溝としてのナット軌道溝6が軸軌道溝3と同じリードで形成されている。
7は直動装置の転動体としてのボールであり、合金鋼等の鋼材やセラミック材料等で製作された球体である。
【0017】
上記のナット軌道溝6とこれに対向する軸軌道溝3とで図2に示す本実施例の負荷路8が形成され、負荷路8に複数のボール7が装填されてボール軸2とボールナット5を螺合させる。
本実施例のボール7は、負荷路8の通路の内接円の直径(通路径という。)より大きい外径を有する大径ボールとしての負荷ボール7aと、負荷路8の通路径より小さい外径を有する小径ボールとしてのスペーサボール7bとで構成され、負荷ボール7aの外径と負荷路8の通路径との差が設定量としての予圧量となり、ボールねじ装置1に適切な予圧が付与される。
【0018】
なお、設定量としての隙間量を設定する場合は、ボール7は、負荷路8の通路径より所定の隙間分小さい外径を有する大径ボールとしての負荷ボール7aと、負荷ボール7aより小さい外径を有する小径ボールとしてのスペーサボール7bとで構成され、負荷ボール7aの外径と負荷路8の通路径との差が隙間量となり、ボールねじ装置1は予圧が付与されない状態とされる。
【0019】
上記の負荷路8の両端部は、図示しないリターンチューブにより連結されて循環路が形成され、循環路に複数の負荷ボール7aとスペーサボール7bおよび所定の量のグリースが封入され、軸軌道溝3とナット軌道溝6とが負荷ボール7aにより螺合し、ボール軸2の回転に伴なって負荷ボール7aとスペーサボール7bが循環路を循環し、負荷路8を転動する負荷ボール7aがボールナット5に加えられた荷重を往復動自在に支持してボールナット5がボール軸2の長手方向に沿った直線往復移動可能に支持される。これによりボール軸2の回転運動がボールナット5の直線運動に変換され、ボールねじ装置1が直動装置として機能する。
【0020】
上記の構成の作用について説明する。
本実施例のボールねじ装置1の組立時における設定量としての予圧量の設定は、そのボールねじ装置1の予圧量に応じて設定された外径を有する負荷ボール7aと、負荷路8の通路径より外径の小さいスペーサボール7bとを負荷容量に応じて設定された所定の比率(例えば、負荷ボール7aが「1」に対してスペーサボール7bが「1」)で混合したものを収納箱に収納しておき、この収納箱から無作為に取出した所定の個数のボール7をボールねじ装置1の循環路に装填する。設定量としての隙間量の設定においても同様である。
【0021】
この場合に、負荷ボール7aとスペーサボール7bとを無作為に取出すので図2に示すように負荷路8を含む循環路に装填される負荷ボール7aとスペーサボール7bの並び方は不揃い、つまり順序不同に配列され、図3に示すようにそのボール7の外径分布も設定された割合に対して誤差があるが、スペーサボール7bを用いる目的である軽負荷時のボールねじ装置1の作動性の改善のためには、負荷ボール7aとスペーサボール7bとの規則的な配置はそれほど重要なものではなく、ボールねじ装置1の品質を確保する上ではむしろ出荷検査における特性確認が重要であることを出願人らは見出した。これはボールねじ装置1の作動性はボール7以外の要素、例えば軸軌道溝3やナット軌道溝6の製作精度等によっても変動するものであるからである。
【0022】
上記のように、負荷ボール7aとスペーサボール7bとを無作為に取出して負荷路8を含む循環路に装填しても、装填された負荷ボール7aとスペーサボール7bとの割合に極端な偏りがなければ、出荷試験における規格を満足するボールねじ装置1を得ることができる。要は負荷ボール7aとスペーサボール7bとがそれぞれ2個以上、常に負荷路8に存在するようにすれば足りる。
【0023】
また、上記の負荷ボール7aとスペーサボール7bは、これらの外径を比較的接近させたものとするとよい。
具体的には、設定量としての予圧量を設定する場合は、負荷ボール7aとスペーサボール7bとの外径差を、予圧量を超え、予圧量に基本動定格荷重の8.5%(8.5%Caと記す。)以下の荷重を付加したときのボールねじ装置1の荷重方向の変位量である軸方向の変位量(負荷方向変位量という。)を加えた値にする。
【0024】
設定量としての隙間量を設定する場合は、負荷ボール7aとスペーサボール7bとの外径差を、隙間量に8.5%Ca以下の荷重を付加したときのボールねじ装置1の負荷方向変位量を加えた値にする。
つまり、無負荷および軽負荷においてはスペーサボール7bが軸軌道溝3およびナット軌道溝6で形成される負荷路8に挟持されることがなく、中負荷および高負荷となったときにスペーサボール7bが負荷路8に挟持される外径とする。
【0025】
このようにすれば、通常、ボールねじ装置1は20%Ca以内の荷重で使用される場合が多いので、ボールねじ装置1に大きな荷重が負荷されたときはスペーサボール7bによってその荷重を分担することができ、高荷重に対するボールねじ装置1の負荷容量を高めてその寿命を延ばすことができる。また無負荷または軽荷重時にはスペーサボール7bが負荷路8に挟持されていないので、スペーサボール7bの本来の機能により良好な作動性を得ることができる。
【0026】
例えば、ボール軸2の軸軽が40mm、軸軌道溝3のリードが10mm、負荷ボール7aの外径が6.35mm、有効巻数2.5巻×2列、負荷ボール7aとスペーサボール7bの比率が1:1、基本動定格荷重15500Nのボールねじ装置1の予圧量を2.4μmとして予圧荷重を465N(3.5%Ca)とした場合に、負荷ボール7aとスペーサボール7bとの外径差を予圧量(2.4μm)に8.5%Caの荷重を付加したときの予圧方向(軸方向)変位量2μmを加えた値としたボールねじ装置1の荷重変位特性は、図4に示すように8.5%Ca以上の軸方向荷重が付加されたときに軸方向変位量が2点鎖線で示す負荷ボール7aとスペーサボール7bとの外径を接近させない場合の軸方向変位量より減少してボールねじ装置1の負荷容量を増加させる。
【0027】
このように、負荷ボール7aとスペーサボール7bとの外径差を比較的小さいものとすれば、たとえ循環路に装填された負荷ボール7aとスペーサボール7bとの配置に規則性がなく、その比率が設定された比率(本実施例では1:1)とならなくても、中負荷および高負荷におけるボールねじ装置1の負荷容量を安定なものとすることができる。
なお、実際の負荷ボール7aやスペーサボール7bの製造においては、製造バラツキにより負荷ボール7aやスペーサボール7bをそれぞれ全て同一の外径とすることは困難であるので、製造された負荷ボール7aやスペーサボール7bは一定の許容範囲(許容値の上限と下限の幅をいう。)となるように選別されて使用される。このため循環路に装填された負荷ボール7aやスペーサボール7bの外径分布は図3に示すように釣鐘型になるので、上記した負荷ボール7aやスペーサボール7bの外径として用いる値は、選別後の負荷ボール7aやスペーサボール7bの外径のそれぞれの平均径を用いるようにする。
【0028】
また、上記の負荷ボール7aとスペーサボール7bとの外径差の予圧量に加える値は許容範囲以上とすることが望ましい。このようにすれば、ボールねじ装置1に予圧を付与したときに負荷路8に存在するスペーサボール7bは負荷路8に挟持されることはなく、常にスペーサボール7bとして機能させることができるからである。
上記のようなボールねじ装置1の組立後の出荷検査において、駆動力や剛性値が規格外となった場合には、循環路に装填した負荷ボール7aとスペーサボール7bを取出し、以下のようにして予圧量の再調整を行う。
【0029】
すなわち、本実施例のボールねじ装置1の設定量としての予圧量の再調整作業を行うラインのラインサイドには、予め負荷ボール7aの外径毎(例えば、1μm毎)に、負荷ボール7aとスペーサボール7bとが組立時に設定された所定の比率(本実施例では1:1)で混合された収納箱が複数設けられている。設定量としての隙間量の再調整作業の場合も同様である。
【0030】
予圧量の再調整作業の作業員は、循環路から取出した負荷ボール7aとスペーサボール7bをその負荷ボール7aと同じ外径を有する負荷ボール7aを混合した収納箱、つまり元の収納箱へ戻し、規格外となった状態を参照してそれに見合う他の外径の負荷ボール7aを混合した収納箱から無作為に取出した所定の個数のボール7をボールねじ装置1の循環路に装填し、負荷ボール7aを他の外径を有する負荷ボール7aと入替えて予圧量の再調整を行う。
【0031】
このようにすれば、組立てたボールねじ装置1の循環路から取出した負荷ボール7aやスペーサボール7bを分別する必要はなく、これらを廃却することなく再利用することができる。
なお、出荷検査において、ボール循環1サイクル内の駆動力が規格上限外と下限外とに変動する場合は、負荷ボール7aとスペーサボール7bとの配列の極端な偏りが原因であるため、一旦ボール7を取出し、そのボール7を混合して再度循環路に装填するようにしてもよい。
【0032】
以上説明したように、本実施例では、ボールねじ装置の負荷路の通路径より大きい外径を有する負荷ボールと負荷路の通路径より小さい外径を有する小径ボールとを予め所定の比率で混合しておき、これを循環路に装填するようにしたことによって、予圧量の再調整の際に循環路から取出した負荷ボールとスペーサボールを予め他の外径を有する負荷ボールを所定の比率で混合しておいたものと入替えて予圧量の再調整を行うことが可能になり、ボールねじ装置の循環路から取出した負荷ボールやスペーサボールを分別する必要がないので予圧量の再調整作業における作業効率を向上させることができると共に、循環路から取出した負荷ボールとスペーサボールを元の収納箱に戻すことができ、これらを廃却することなく再利用することができる。
【0033】
また、負荷ボールとスペーサボールとの平均径の差を、予圧量を超え、予圧量に8.5%Ca以下の荷重を付加したときの負荷方向変位量を加えた値としたことによって、ボールねじ装置の中負荷および高負荷における負荷容量を安定なものとすることができる。
なお、本実施例においては、負荷ボールとスペーサボールとの平均径の差を、予圧量を超え、予圧量に8.5%Ca以下のときの負荷方向変位量を加えた値として説明したが、負荷ボールとスペーサボールとの平均径の差を0を超え、予圧量未満、つまりスペーサボールの外径を予圧量の範囲で負荷ボールの外径より小さくした外径とするようにしてもよい。このようにすれば、総ボール仕様(ボールねじ装置に予圧を付与したときに、負荷路に存在する全てのボールが負荷された荷重を分担する仕様をいう。)の予圧量の再調整において、負荷ボール7aの外径のみ変更した他の所定の比率で混合したボール7と交換することにより微調整を行うことができ、総ボール仕様における再調整作業の効率化を図ることができると共に、全ての負荷における負荷容量を安定なものとすることができる。
【0034】
また、本実施例においては、図3に示すように負荷ボールとスペーサボールの外径分布をそれぞれ釣鐘型とし、それぞれを分離した状態で循環路に装填するとして説明したが、図5に示すように負荷ボールとスペーサボールの外径分布をそれぞれ裾野をひいた分布形とし、全体の分布形を負荷ボールとスペーサボールのそれぞれの平均径をピークとする2山の間に図5に記号Aを付して示した谷部が存在する分布形としてもよい。このようにしても上記と同様の効果を得ることができる。
【0035】
この場合において、谷部のボール数が、図5に記号Bを付して示した2山の低い方のピークのボール数の1/3以上のボール数となるピークを持たないようにするとよい。このようにすれば出荷検査において一定の合格率を確保できるからである。
更に、本実施例においては、リターンチューブを連結路としてボールを循環させるチューブ式の循環方式を用いたボールねじ装置に本発明を適用した場合を例に説明したが、連結路は上記に限らず、連結路をこま式やエンドキャップ式等とした循環方式のボールねじ装置に本発明を適用しても同様の効果を得ることができる。
【0036】
更に、本実施例においては、ボールねじ装置のボール軸を回転させてボールナットを軸方向に移動させるとして説明したが、ボールナットを回転させてボール軸を軸方向に移動させる形式のボールねじ装置に本発明を適用しても同様の効果を得ることができる。
【実施例2】
【0037】
図6は実施例2のリニアガイド装置を示す斜視図、図7は実施例2のリニアガイド装置の負荷路を示す説明図である。
なお、上記実施例1と同様の部分は、同一の符号を付してその説明を省略する。
図6において、11は直動装置としてのリニアガイド装置である。
12は直動装置の柱状ガイド体としてのレールであり、合金鋼等の鋼材で製作された長尺の柱状部材であって、そのレール上面12aには機械装置の基台等にレール12を固定するための段付ボルト孔であるレール設置孔13が所定のピッチで複数設けられている。
【0038】
14は柱状ガイド体の軌道溝としてのレール軌道溝であり、レール12の外形面としての両方のレール側面の長手方向に沿って形成された略円弧状断面の溝である。
15は直動装置のベアリングブロックとしてのスライダであり、合金鋼等の鋼材で製作された略コの字状の断面形状を有する鞍状部材であって、そのスライダ上面には取付ねじ穴15aが設けられており、この取付ねじ穴15aを用いて機械装置の移動台等がボルト等により締結される。
【0039】
スライダ15の両方の袖壁15bには、その内側である内形面にレール軌道溝14に対向する略円弧状断面の溝である軌道溝としてのスライダ軌道溝16が設けられ、その厚肉部にはスライダ15の移動方向(スライダ移動方向という。)にスライダ15を貫通する負荷ボール7aの直径より大きい貫通孔である戻り路18がそれぞれのスライダ軌道溝16に対応して設けられている。
【0040】
上記のスライダ軌道溝16とこれに対向するレール軌道溝14とで図7に示す本実施例の負荷路19が形成され、負荷路19に複数のボール7が装填されてレール12とスライダ15を嵌合させる。
本実施例のボール7は、実施例1と同様に負荷路19の通路径より大きい外径を有する大径ボールとしての負荷ボール7aと、負荷路19の通路径より小さい外径を有する小径ボールとしてのスペーサボール7bとで構成され、負荷ボール7aの外径と負荷路19の通路径との差が設定量としての予圧量となり、リニアガイド装置11に適切な予圧が付与される。設定量としての隙間量を設定する場合も上記実施例1と同様である。
【0041】
20はエンドキャップであり、金属材料や樹脂材料等で製作され、スライダ15のスライダ移動方向の前後端に配置される。
21はエンドキャップ20に設けられた方向転換路であり、対向配置されたレール軌道溝14とスライダ軌道溝16とで形成される負荷路と戻り路18とをそれぞれ接続するための円形断面形状を有する湾曲した通路であって、ボール7を案内してその循環方向を転向させる機能を有している。
【0042】
22はサイドシールであり、合金鋼等の板材で製作された芯金とこの芯金のレール12側に設けられた天然ゴムや合成ゴム等の弾性材料で製作されたシール部23とにより構成されてエンドキャップ20の外側の端面に配置され、ボルト等の締結手段によりエンドキャップ20と共にスライダ15に取付けられており、シール部23の先端のリップ部がレール12の外形面に摺接して接触式シールとして機能する。
【0043】
24はグリースニップルであり、エンドキャップ20のスライダ15側の端面に形成された図示しない潤滑剤供給溝に接続し、方向転換路21に潤滑剤としてのグリースを補充するときに用いられる。
上記の負荷路19の両端部は、エンドキャップ20の方向転換路21とスライダ15の戻り路18とで形成される連結路によりそれぞれ連結されて循環路が形成され、この循環路には複数の負荷ボール7aとスペーサボール7bおよび所定の量のグリースが封入され、レール軌道溝14とスライダ軌道溝16とが負荷ボール7aにより嵌合し、スライダ15の移動に伴って負荷ボール7aとスペーサボール7bが循環路を循環し、負荷路を転動する負荷ボール7aがスライダ15に加えられた荷重を往復動自在に支持し、スライダ15がレール12の長手方向に沿った直線往復移動可能に支持される。これによりリニアガイド装置11が直動装置として機能する。
【0044】
上記の構成の作用について説明する。
本実施例のリニアガイド装置11の組立時における予圧量の設定は、リニアガイド装置11の予圧量に応じて設定された外径を有する負荷ボール7aと、負荷路19の通路径より外径の小さいスペーサボール7bとを負荷容量に応じて設定された所定の比率(例えば、1:1)で混合したものを収納箱に収納しておき、この収納箱から無作為に取出した所定の個数のボール7をリニアガイド装置11の循環路に装填する。
【0045】
この場合に、負荷ボール7aとスペーサボール7bとを無作為に取出すので図7に示すように負荷路19を含む循環路に装填される負荷ボール7aとスペーサボール7bの並び方は不揃いになり、そのボール7の外径分布も設定された割合にはならないが、実施例1のボールねじ装置1と同様にリニアガイド装置11においても、負荷ボール7aとスペーサボール7bとの規則的な配置はそれほど重要なものではなく、リニアガイド装置11の品質を確保する上ではむしろ出荷検査における特性確認が重要である。
【0046】
このように、リニアガイド装置11においても、装填された負荷ボール7aとスペーサボール7bとの割合に極端な偏りがなければ、出荷試験における規格を満足するリニアガイド装置11を得ることができる。要は負荷ボール7aとスペーサボール7bとがそれぞれ2個以上、常に負荷路19に存在するようにすれば足りる。
また、上記の負荷ボール7aとスペーサボール7bは、これらの外径を比較的接近させたものとするとよい。
【0047】
具体的には、負荷ボール7aとスペーサボール7bとの外径差を、予圧量を超え、予圧量に8.5%Ca以下の荷重を付加したときのリニアガイド装置11の予圧方向であるレール12の高さ方向の負荷方向変位量を加えた値にする。つまり無負荷および軽負荷においてはスペーサボール7bがレール軌道溝14およびスライダ軌道溝16で形成される負荷路19に挟持されることがなく、中負荷および高負荷となったときにスペーサボール7bが負荷路19に挟持される外径とする。
【0048】
このようにすれば、リニアガイド装置11においても、実施例1のボールねじ装置1と同様の作用および効果を得ることができ、たとえ循環路に装填された負荷ボール7aとスペーサボール7bとの配置に規則性がなく、その比率が設定された比率とならなくても、中負荷および高負荷におけるリニアガイド装置11の負荷容量を安定なものとすることができる。
【0049】
上記のようなリニアガイド装置11の組立後の出荷検査において、駆動力や剛性値が規格外となった場合には、循環路に装填した負荷ボール7aとスペーサボール7bを取出し、以下のようにして予圧量の再調整を行う。
すなわち、本実施例のリニアガイド装置11の予圧量の再調整作業を行うラインのラインサイドには、実施例1のボールねじ装置1の場合と同様に予め負荷ボール7aの外径毎に、組立時に設定された所定の比率で混合された収納箱が複数設けられている。
【0050】
予圧量の再調整作業の作業員は、実施例1のボールねじ装置1の場合と同様に循環路から取出した負荷ボール7aとスペーサボール7bを元の収納箱へ戻し、他の外径の負荷ボール7aを混合した収納箱から無作為に取出した所定の個数のボール7をリニアガイド装置11の循環路に装填し、負荷ボール7aを他の外径を有する負荷ボール7aと入替えて予圧量の再調整を行う。
【0051】
このようにすれば、組立てたリニアガイド装置11の循環路から取出した負荷ボール7aやスペーサボール7bを分別する必要はなく、これらを廃却することなく再利用することができる。
以上の作用は、実施例1で説明したと同様に、設定量としての隙間量を設定する場合においても同様である。
【0052】
以上説明したように、リニアガイド装置においても、上記実施例1と同様の効果を得ることができる。
なお、上記各実施例においては、予め混合しておく負荷ボールとスペーサボールの比率を1:1として説明したが、負荷ボールとスペーサボールの比率は前記に限らず、1:2や2:1、1.7:1、3.2:1、4:1等どのような比率であってもよい。要は必要とする負荷容量に応じて適宜設定すればよい。
【0053】
また、上記各実施例においては、直動装置の転動体はボールとして説明したが、転動体はボールに限らず、ころであってもよい。
【符号の説明】
【0054】
1 ボールねじ装置
2 ボール軸
3 軸軌道溝
5 ボールナット
6 ナット軌道溝
7 ボール
7a 負荷ボール
7b スペーサボール
8、19 負荷路
9 フランジ部
11 リニアガイド装置
12 レール
12a レール上面
13 レール設置孔
14 レール軌道溝
15 スライダ
15a 取付ねじ穴
15b 袖壁
16 スライダ軌道溝
18 戻り路
20 エンドキャップ
21 方向転換路
22 サイドシール
23 シール部
24 グリースニップル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外形面に軌道溝を有する柱状ガイド体と、内形面に前記柱状ガイド体の軌道溝に対向する軌道溝を有するベアリングブロックと、前記柱状ガイド体の軌道溝と前記ベアリングブロックの軌道溝とで形成される負荷路と、該負荷路を連結する連結路と、前記負荷路と連結路とで構成される循環路と、該循環路を循環する複数のボールとを備えた直動装置において、
前記ボールを、大径ボールと、該大径ボールより小さい外径を有する小径ボールとで構成し、
前記循環路に装填するボールの外径の分布が、前記大径ボールと前記小径ボールの2山のピークを有し、該2山の山間に、前記大径ボールのピークのボール数と前記小径ボールのピークのボール数の低い方のピークのボール数の1/3以上のボール数となるピークを持たないことを特徴とする直動装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記大径ボールと前記小径ボールとの平均径の差が、隙間量に基本動定格荷重の8.5%以下の荷重を付加したときの負荷方向変位量を加えた値であることを特徴とする直動装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記大径ボールと前記小径ボールとの平均径の差が、予圧量を超え、予圧量に基本動定格荷重の8.5%以下の荷重を付加したときの負荷方向変位量を加えた値であることを特徴とする直動装置。
【請求項4】
外形面に軌道溝を有する柱状ガイド体と、内形面に前記柱状ガイド体の軌道溝に対向する軌道溝を有するベアリングブロックと、前記柱状ガイド体の軌道溝と前記ベアリングブロックの軌道溝とで形成される負荷路と、該負荷路を連結する連結路と、前記負荷路と連結路とで構成される循環路と、該循環路を循環する複数のボールとを備えた直動装置において、
前記ボールを、大径ボールと、該大径ボールより小さい外径を有する小径ボールとで構成し、
前記大径ボールと小径ボールとを、前記循環路に順序不同に配列し、
前記大径ボールと前記小径ボールとの平均径の差を、隙間量に基本動定格荷重の8.5%以下の荷重を付加したときの負荷方向変位量を加えた値としたことを特徴とする直動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−43241(P2011−43241A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263392(P2010−263392)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【分割の表示】特願2005−179697(P2005−179697)の分割
【原出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】